説明

機能性の向上された茶抽出処理物の製造方法

【課題】ツバキ科カメリア属に属する茶の抽出物を含有する液から、エピカテキンガレートを高含有する茶抽出処理物を得る。
【解決手段】ツバキ科カメリア属に属する茶の抽出物を含有する液に、pHを7.0以上に調整して酸素を含む気体を通気する処理を施す。これにより、エピカテキンガレートとエピガロカテキンガレートとを含有し、エピカテキンガレートの含有重量Aと、エピガロカテキンガレートの含有重量Bとの比A/Bが3.0以上であり、かつ、pHが7.0以上である茶抽出処理物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピカテキンガレートを高含有する茶抽出処理物の製造方法に関するものである。エピカテキンガレートはツバキ科カメリア属に属する茶(チャ)から得られるLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニストである。
【背景技術】
【0002】
ツバキ科カメリア属(Camellia属)に属する植物である茶の葉(以下「茶葉」とする)には、他の植物に比べカテキン類が比較的多量に含有されている。
【0003】
また、茶葉の加工品に含まれるカテキン類については、その含有量が報告されている。具体的には、緑茶に関しては玉露、煎茶、釜炒り茶、番茶、ほうじ茶についての分析値の報告があり、報告によっては多少のバラつきがあるが、主要なカテキン類は、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)およびエピカテキン(EC)の4種である。中でも最も多く含有されるのはEGCgであり、カテキン類全体の50〜60重量%を占める。
【0004】
一方、その他のカテキン類の含有量は微量である。たとえば、ECgは主要カテキン成分の一つとされているものの、その含有量は茶葉の加工品の種類の間で差はあるものの、EGCg含有量に対して約1/4〜1/5前後である。紅茶は、緑茶と比較するとECgの含有量が多く、EGCgと等量程度含まれる種類もあるものの、最も多く含有される成分はEGCgである。飲用茶は、茶葉の加工品を湯や水で抽出したものであるから、飲用茶中のカテキン類の構成も茶葉と類似した比率になる。
【0005】
カテキン類中で最も含有量の多いEGCgは近年大きく注目され、さまざまな有効性が証明されている。また、その単離方法についても報告がなされている(特許文献1)。これに対し、EGCgと同様に主要なカテキン類中でガレート型カテキンとして知られるECgは、EGCgと比較して含有量が少ないため、活性や単離方法についてあまり検討されていない。茶抽出物中にはECgと分子構造の類似するEGCgが多量に含まれるため、たとえば、ECgのカラムなどによる単離は困難となっている。
【0006】
そこで、必要量のECgを単離せずに茶で摂取しようとすると、EGCgの含有量が相対的に多くなり、苦味が強くなりすぎるため、摂取は困難である。カテキン類はポリフェノールに属し、苦味や渋味が強いことが知られており、ガレート型カテキン類であるEGCg、ECg、カテキンガレート(Cg)およびガロカテキンガレート(GCg)は、これらの間での苦味や渋味に大差はないものの、EGCやECなどの非ガレート型カテキン類よりも苦味や渋味が強いことが示されている。中でもEGCgとECgの苦味・渋味閾値濃度は3倍程度低いとされている(非特許文献1)。
【0007】
近年、喫煙、食生活などの生活習慣から動脈硬化の患者は増加傾向にある。したがって、より少量で、より苦味が少なく摂取しやすいECg高含有製品が求められている。
【0008】
一方、カテキン類のアルカリ領域での挙動について報告がなされている。非特許文献2、3では、アルカリ領域におけるEGCg、EGC、ECgおよびECの量について研究されており、EGCgとEGCがアルカリ領域において比較的減少しやすいことが報告されている。しかし、茶抽出物では通常、EGCgが多く含まれているため、ECgを高含有することは難しい。夾雑物の多い茶抽出物でのアルカリ領域における挙動は検討されているが、EGCgに対するECgの含有比率を高めることを目的としておらず、これに関する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−97968号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「食品の変色の化学」、p124−p125(光琳)
【非特許文献2】J.Agric.Food Chem.,45,4624−4628(1997)
【非特許文献3】Food Chemistry,83,189−195(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、以前に、酸化LDLによる血管内皮細胞への作用を媒介する受容体であるレクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体(LOX−1)に着目し、強力なLOX−1アンタゴニストを同定するに至り、既に発明をなし、その作用・効果について詳細に報告している(特願2011−236448号)。同時に、LOX−1アンタゴニストとして実用性の高い化合物が茶に存在することも明らかにしており、これらがECgとCgの2種のカテキンであることを初めて明らかにした。たとえば、ECgは、カテキン類の主要成分であるEGCgに比べて、5倍程度のアンタゴニスト活性を有していることが明らかになっている。そこで、強いアンタゴニスト活性を有するECgを高含有する製品が求められている。しかし、現在、ECgを産業用に精製した工業製品は知られていない。
【0012】
そこで、本発明者らは、より健康機能性が期待される茶抽出処理物の開発を目的として、すでに本発明者らが発見した強力なLOX−1アンタゴニスト剤であるECgに着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、従来の茶抽出物においてカテキン類として含有量の少ないECgの、カテキン類の主成分であるEGCgに対する含有比率を顕著に高めることで、苦味や渋味の増加を極力抑えながらECgに由来する生理活性を付与した製品を得ることに成功し、その製造方法を確立するに至った。
【0013】
したがって、本発明は、ECgを高含有する茶抽出処理物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の要旨は、
(1)ツバキ科カメリア属に属する茶の抽出物を含有する液に、pHを7.0以上に調整して酸素を含む気体を通気する処理を施し、エピカテキンガレートの含有重量Aと、エピガロカテキンガレートの含有重量Bとの比A/Bを3.0以上に高めることを特徴とする茶抽出処理物の製造方法、
(2)茶の抽出物の処理を、10mM以上の塩の存在下で行なうことを特徴とする上記(1)に記載の茶抽出処理物の製造方法、および
(3)上記(1)または(2)に記載の製造方法により得られる茶抽出処理物を含有する食品、に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、優れた健康機能性が期待されるエピカテキンガレート(ECg)を高含有する茶抽出処理物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用するカテキン類は全て「非重合型カテキン類」のことを指し、さらに「非重合型カテキン類」とは、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキン(EC)およびエピガロカテキン(EGC)のエピ体カテキン類、ならびに、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、カテキン(C)およびガロカテキン(GC)の非エピ体カテキン類をあわせた総称である。
【0017】
本発明において、茶抽出処理物の原料としては、ツバキ科カメリア属に属する植物である茶(チャ)を抽出することにより得られる茶抽出物を含有する液を用いる。茶は、カメリア・シネンシス(学名)または茶の木(和名)などとも呼ばれ、中国種とアッサム種の2種類がある。茶の中でも、茶葉を用いるのが好ましい。本発明では、茶には、茶の加工品が含まれる。茶の加工品としては種々のものが知られているが、なかでも、日常的に飲用されている、不発酵茶である各種緑茶、半発酵茶である烏龍茶、強発酵茶である紅茶、後発酵茶である黒茶、プーアル茶などが、安全性が高く、安心感もあり、また原材料が入手しやすい観点から好ましい。また、一般に、ECg含有率が比較的高い紅茶は、更に好ましい。
【0018】
茶抽出物を含有する液としては、茶由来のECgを含有する液状物であれば特に限定されないが、たとえば、茶抽出液が挙げられる。茶抽出液は、茶葉を濾過することなくそのまま用いてもよく、または濾過により茶葉を除去して用いてもよく、さらに濃縮して用いても良い。また、茶抽出液から得られる乾燥物または精製物を含有する液、一般的な各種飲用茶などを茶抽出物として用いてもよい。茶抽出液から得られる乾燥物または精製物は市販されており、たとえば、ポリフェノン(登録商標、三井農林(株)製)、サンフェノン(登録商標、太陽化学(株)製)などが挙げられる。
【0019】
茶抽出液は、たとえば、茶に含まれる各成分を溶媒に抽出することにより得られる。溶媒としては、水や有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒などを使用できる。水としては特に限定されず、工業用水、上水、蒸留水、脱イオン水などを使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム等が挙げられる。好ましくは、親水性のメタノール、エタノール、アセトンが挙げられ、より好ましくはエタノールが食品用途としては適している。
【0020】
抽出方法としては、茶と溶媒とを接触させた状態での、静置抽出、攪拌抽出、加温抽出、加温加圧抽出、還流抽出、超臨界抽出などが挙げられる。あるいは、茶を充填したカラムに溶媒を繰り返し流して抽出を行なってもよい。これらの抽出方法の中でも、短時間で効率的に抽出する観点からは、加温抽出や加温加圧抽出が望ましい。抽出操作は必要に応じて繰返し実施してもよい。また、2種以上の異なる抽出操作を組み合わせて実施してもよい。
【0021】
本発明において、茶の抽出に用いる溶媒の量は特に限定されないが、茶の全使用量に対して重量基準で好ましくは5〜100倍量、さらに好ましくは5〜80倍量である。抽出温度は、茶や溶媒の量、茶や溶媒の種類、抽出装置、抽出スケールなどにより適宜選択すればよいが、好ましくは0℃〜100℃、より好ましくは20℃〜100℃、さらに好ましくは40〜100℃である。抽出時間は、抽出方法、抽出装置の種類、抽出装置の大きさや処理量といったスケールの大きさなどに応じて適宜設定すればよいが、抽出時の時間的なコストなどを考えると、好ましくは1〜100分、さらに好ましくは1〜80分である。このようにして、茶抽出物を得ることができる。
【0022】
なお、茶の抽出を40℃〜100℃程度の加熱下に実施している場合、得られた茶抽出物をそのまま後述する特定の処理に供してもよいが、室温程度に冷却した後に後述する特定の処理に供することが好ましい。
【0023】
本発明では、茶抽出物に特定の処理を施すことにより、本発明の茶抽出処理物を得ることができる。特定の処理とは、茶抽出物のpHを7.0以上、好ましくは7.0〜9.0に調整する第1工程と、pH7.0以上に調整された茶抽出物に、酸素を含有する気体を通気する第2工程とを含んでいる。
【0024】
第1工程において、茶抽出物のpHを7.0以上に調整することにより、最終的に得られる茶抽出処理物中のEGCg含有量を顕著に減少させることができる。茶抽出物のpHが7.0未満では、最終的に得られる茶抽出処理物におけるECgの含有重量AとEGCgの含有重量Bとの比A/Bが3.0未満になり、EGCgの含有重量BがECgの含有重量Aよりも相対的に多くなって、同量のECgを摂取しようとした際に苦みや渋みの強い茶抽出処理物が得られる。また、茶抽出物のpHが9.0を大幅に超えると、ECgの加水分解反応が起こる懸念がある。
【0025】
第1工程において、pH調整方法は特に限定されないが、pH調整剤を用いる方法が好ましい。pH調整剤とは、食品のpHを適切に調整して、食品の変質や変色を防止し、他の食品添加物の効果を向上させるために用いられる食品添加物をいう。現在、食品のpH調整には、主にリン酸やリン酸の金属塩、有機酸や有機酸の金属塩、食品添加物グレードの塩酸や硫酸、水酸化ナトリウム、重曹などが用いられている。本発明におけるpH調整剤には食品添加物として使用可能な製品であれば特に制限はない。
【0026】
第2工程において、第1工程でpHを7.0以上に調整した茶抽出物中に、酸素を含む気体を強制的に吹き込み、前記茶抽出物に酸素を含む気体を積極的に接触させる。酸素を含む気体としては、酸素、空気、酸素と炭酸ガスとの混合気体、酸素と不活性ガス(窒素、アルゴンなど)との混合気体などが挙げられる。これらの中でも、コスト、産業上の安全性などの観点から、酸素や空気が好ましく、空気がより好ましい。通気方法としては特に限定されず、たとえば、圧縮気体を細かい気泡として茶抽出物中に分散させる散気法、攪拌も同時に行うタービン法などが挙げられる。
【0027】
通気における気体の通気量および通気時間は特に限定されず、気体の種類、気体中の酸素含有量、茶抽出物の量など種々の条件に応じて広い範囲から適宜選択されるが、たとえば、1リットルの茶抽出物を含有する液に対して、通気量は3〜6SLPM(standard L/分)程度である。通気時間は1〜200分程度である。
【0028】
本発明においては、塩の存在下で、第1工程と第2工程とを含む前記処理を実施することが好ましい。より具体的には、茶抽出物および塩を含有する液を用いて、第1工程と第2工程とを実施することが好ましい。これにより、最終的に得られる茶抽出処理物中のEGCg含有量を顕著に低減化できる。本発明での塩とは、酸と塩基の中和反応によって生じる化合物であり、酸の陰性成分と塩基の陽性成分からなるものをいう。塩としては、食品に使用可能である食塩、リン酸塩、有機酸塩などが好ましく、中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのリン酸塩がより好ましい。塩は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
茶抽出物を含有する液に添加される塩の濃度は、好ましくは10mM以上、さらに好ましくは10mM〜1000mMである。塩の量が10mM以上であることにより、最終的に得られる茶抽出処理物中でのEGCg含有量をより一層少なくし、ECgを高含有し、EGCgの含有量が少なくなり、苦みや渋みが相対的に少ない茶抽出処理物が得られるといった利点が得られる。また、塩濃度が1000mMを大幅に超えても塩を添加する効果は変わらないが、塩の溶解度やコストなどの面から、この程度を上限としてもよい。
【0030】
こうして、ECgとEGCgとを含有し、ECgの含有重量Aと、EGCgの含有重量Bとの比A/Bが3.0以上であり、かつ、pHが7.0以上である本発明の茶抽出処理物が得られる。比A/Bが3.0以上であることにより、ECgを高含有し、かつ、EGCgに由来する苦みの少ない、摂食し易い茶抽出処理物になる。なお、上記のpH調整、通気および塩濃度から選ばれる少なくとも1種の条件を変更することにより、ECgを含有しかつEGCgを含有しない茶抽出処理物(比A/B>99と示す)が得られることがある。このような場合も、比A/Bが3.0以上である場合に含まれる。
【0031】
また、本発明の茶抽出処理物において、ECgの含有重量Aは、原料である茶抽出物におけるECgの含有重量の1/5以上にすることが好ましい。これは、茶抽出物のpH、塩の添加量、通気時間や通気量などを適宜変更することにより、調整可能である。
【0032】
本発明の茶抽出処理物を食品などに使用する場合、脱塩や重合物の除去を既知の方法で行ったほうが風味の面で好ましい。たとえば、合成吸着剤を充填したカラムでの精製や、限外濾過膜などを利用して、脱塩や重合物の除去を行なう。
【0033】
本発明に用いる合成吸着剤としては、たとえば、ダイヤイオンHP20、セパビーズSP70、SP850、SP825、SP700(いずれも商品名、三菱化学(株)製)、アンバーライトXAD4、XAD16HP、XAD2000、(いずれも商品名、オルガノ(株)製)などのスチレン系合成吸着剤、セパビーズSP205(商品名、三菱化学(株)製)などの修飾スチレン系合成吸着剤、ダイヤイオンHP1 MG(商品名、三菱化学(株)製)などのメタクリル系合成吸着剤、アンバーライトXAD7HP(商品名、オルガノ(株)製)などのアクリル系合成吸着剤、アンバーライトXAD761(商品名、オルガノ(株)製)などのフェノール系合成吸着剤などが挙げられる。なかでも、スチレン系合成吸着剤が非重合型カテキン類の分離に実績が多く、コストの点や製造スケールアップしやすい点から好ましい。特に汎用されているダイヤイオンHP20が望ましい。
【0034】
カラムでの精製において、目的成分、より具体的にはECgが溶出された画分を合一した後、濃縮を行ってもよい。濃縮方法は公知の方法に準じて行えばよい。たとえば、常圧加熱乾燥法、減圧加熱乾燥法、凍結乾燥法、スプレードライ法などが挙げられる。加熱による成分変化を最小限に抑えるためとコスト面とを考え、産業的には凍結乾燥法、スプレードライ法が好ましい。
【0035】
また、本発明の茶抽出処理物中のECgの総量は、LOX−1アンタゴニスト活性を期待する上から、全非重合型カテキン類中で、50〜100重量%であることが好ましい。ECgの総量の調整は、たとえば、上記カラム精製におけるECgの溶出画分の合一やさらなる濃縮により行なうことができる。
【0036】
本発明の茶抽出処理物は、そのまま、または水などの液体に溶解させて摂食してもよく、さらに食品などに添加して摂食してもよい。本発明の茶抽出処理物を含む食品において、本発明の茶抽出処理物の含有量は特に限定されないが、固形分として0.1〜100重量%であることが好ましい。食品としてはどのような形態でもよく、たとえば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子類、麺類、練り製品、食肉加工品、大豆加工品、乳製品、調味料、ドレッシングなどが挙げられる。菓子類の中でも、その容量等から保存や携帯に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレットなどが挙げられるが、特に限定はない。また、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品なども含まれる。さらに、本発明の茶抽出処理物を、医薬品や医薬部外品などに使用してもよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
(製造例1)紅茶抽出液の作製
紅茶茶葉(茶加工品、商品名:ダージリンBOP、京都グレインシステム(株)製)15gに対し、水450mLを添加し、100℃にて10分加熱した。抽出液を綿布にて濾過し、室温まで放冷し、pH5.1の紅茶抽出液を得た。
【0039】
(比較例1)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLを、pH調整および通気することなく3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0040】
(比較例2)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLを、pH調整することなく、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0041】
(比較例3)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLを、pH調整することなく、酸素を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0042】
(実施例1)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)37.8gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを8.4に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0043】
(比較例4)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)37.8gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを8.4に調製し、3時間撹拌して茶抽出処理物を得た。
【0044】
(比較例5)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)37.8gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを6.8に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間撹拌し、茶抽出処理物を得た。
【0045】
(実施例2)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLのpHを、水酸化ナトリウムを用いて、7.0に調製した。その後、酸素を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0046】
(実施例3)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)5.4gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを7.0に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0047】
(実施例4)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLのpHを、水酸化ナトリウムを用いて、7.5に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0048】
(実施例5)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)0.54gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを7.5に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0049】
(実施例6)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)5.4gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを7.5に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0050】
(実施例7)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、塩化ナトリウム(財団法人塩事業センター製)2.6gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを7.5に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0051】
(実施例8)
製造例1と同様にして得られた紅茶抽出液450mLに、クエン酸8.6gを添加した後、水酸化ナトリウムで紅茶抽出液のpHを7.5に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0052】
(製造例2)緑茶抽出液の作製
緑茶茶葉(商品名:かりがね、(株)宇治森徳製)15gに対し、水450mLを添加し、100℃にて10分加熱した。得られた抽出液を綿布にて濾過し、緑茶抽出液を得た。
【0053】
(実施例9)
製造例2と同様にして得られた緑茶抽出液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)18.9gを添加した後、水酸化ナトリウムで緑茶抽出液のpHを8.4に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間攪拌し、茶抽出処理物を得た。
【0054】
(製造例3)カテキン含有液の作製
カテキン粉末(商品名:サンフェノン90s、太陽化学(株)製)0.9gを水450mlに溶解させ、茶抽出液に相当するカテキン含有液を得た。
【0055】
(実施例10)
製造例3と同様にして得られたカテキン含有液450mLに、リン酸二水素ナトリウム(太平化学産業(株)製)5.4gを添加した後、水酸化ナトリウムでカテキン含有液のpHを8.0に調製した。その後、空気を2SLPM通気しながら3時間撹拌し、茶抽出処理物を得た。
【0056】
製造例1で得られた紅茶抽出液、製造例2で得られた緑茶抽出液、製造例3で得られたカテキン含有液ならびに実施例1〜10および比較例1〜5で得られた各茶抽出処理物から、試料0.5mLをサンプリングした。これらの試料を2Mの酢酸緩衝液0.5mLを用いて2倍希釈し、HPLC測定を行った。表1〜3の結果については、HPLCにおける測定値を2倍し、希釈前の数値を示した。表1に茶抽出液(製造例1〜3)の結果、表2に最終的に得られた茶抽出処理物の結果、表3に通気および撹拌開始から1時間後にサンプリングした茶抽出処理物の結果をそれぞれ示す。
【0057】
HPLC分析条件を下記に示す。
カラム:逆相用カラム(商品名:COSMOSIL Cholester、ナカライテスク(株)製、4.6mmi.d.×250mm)
移動相:C;H2O(0.1%トリフルオロ酢酸),D;アセトニトリル(0.1%トリフルオロ酢酸)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:280nm
勾配(容量%):95%C/5%Dから70%C/30%Dまで25分間、70%C/30%Dから100%Dまで2分間、100%Dで8分間(全て直線)
【0058】
検量線は、各種標準品、ECg、EGCg(全て和光純薬工業(株)製)を用いて作成した。また、他のカテキン類であるEC、EGC、C、GC、Cg、GCg、および没食子酸、カフェインのリテンションタイムとECg、EGCgのリテンションタイムには重なりがないことを確認した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表1、2の結果より、pH調整を行なっていない比較例1〜3および通気を行っていない比較例4では、ECgの含有重量AとEGCgの含有重量Bとの比A/Bが3.0よりも低値であるのに対し、通気およびpHを7.0以上にするpH調整を行った実施例1では、EGCgのピークが消失し、A/B>99となった。また、通気およびpHを6.8にするpH調整を行なった比較例5ではA/Bが低値となったが、pHを7.0に調整し、通気を行った実施例2、3ではA/Bが3.0以上となった。さらに、実施例4、5から塩を10mM以上含有することで、EGCgのピークが消失した。表3の実施例6、7、8の結果から、リン酸塩の添加により短時間においてもA/Bが3.0以上となり、リン酸塩の添加がより好ましいことが分かった。
【0063】
(実施例11)
実施例1で得られた茶抽出処理物450mLを、スチレン系合成吸着剤(商品名:ダイヤイオンHP−20、三菱化学(株)製)を充填したカラムに流して脱塩し、限外濾過膜(商品名:Centriprep、ミリポア社製)を用いて重合物を除去後、凍結乾燥し、ECg含有組成物を60mg得た。
【0064】
(実施例12)
流動層造粒機にて造粒した砂糖100重量部に対して、ショ糖脂肪酸エステル2重量部、メントール香料1重量部および実施例11で得られた茶抽出処理物を凍結乾燥した粉末5重量部を添加混合した。得られた混合粉末を、直径10mmの丸型平型に圧縮打錠し、単重0.5gのタブレットを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の茶抽出処理物を継続的に摂取することで、血管内皮細胞やマクロファージなどで発現しているLOX−1への酸化LDLの結合を、エピカテキンガレート(ECg)が効率的に阻害して、心血管病の予防効果や治療効果が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ科カメリア属に属する茶の抽出物を含有する液に、pHを7.0以上に調整して酸素を含む気体を通気する処理を施し、エピカテキンガレートの含有重量Aと、エピガロカテキンガレートの含有重量Bとの比A/Bを3.0以上に高めることを特徴とする茶抽出処理物の製造方法。
【請求項2】
前記処理を、10mM以上の塩の存在下で行なうことを特徴とする請求項1に記載の茶抽出処理物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られる茶抽出処理物を含有する食品。

【公開番号】特開2013−111051(P2013−111051A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262257(P2011−262257)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】