説明

機能性シート材料

【課題】金属粒子に基づく除菌・抗菌性が長期間に亘って持続し、洗濯堅牢性にも優れ、更に有害な紫外線などの遮蔽機能を備えた汎用性の高い機能性シート材料を得る。
【解決手段】シート状の基材1と、基材1の少なくとも一側面に形成された、厚さが1〜1000nmのチタンからなる第1金属膜2と、第1金属膜2の外面に形成された、銀(A)70〜99.9重量%、パラジウム(B)0.1〜30重量%の銀−パラジウム合金((A)+(B)=100重量%)、又はチタン(C)20〜80重量%、銀(D)5〜70重量%、パラジウム(E)0.1〜10重量%のチタン−銀−パラジウム合金((C)+(D)+(E)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜3とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に金属膜を形成することで除菌・抗菌性・防臭性などの機能を付与した機能性シート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、院内感染が大きな問題となっており、これを防止するため、病院内で使用する白衣、タオルなどの各種繊維製品に対しては、銀コロイドや銀イオンを用いた抗菌処理が一般に行われている。例えば特許文献1には、銀粒子もしくはそのイオン、塩などを担体に担持させた無機系抗菌剤を用いて、繊維製品、衛生用布を抗菌処理する方法が開示されている。特許文献2には、酸化チタン粒子表面に銀粒子を付着させ、更に白金もしくはパラジウムを含有させてなる抗菌光触媒剤を、バインダーに配合して得られたコーティング液を塗布した繊維製品が開示されている。特許文献3には、繊維基材の表面から100nmの深さまでの部分に、銀、金、白金、パラジウム、銅、ガドリウム、鉛、チタン、シリカ、鉄の少なくとも1種の微粒子を注入、分散させた繊維製品が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−212562号公報
【特許文献2】特開2003−213565号公報
【特許文献3】特許2005−298993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、銀粒子には、空気中の硫黄分と反応して表面に硫化銀の皮膜を作る性質があり、これにより銀粒子に基づく抗菌性は低下してしまう。つまり、特許文献1および2に係る繊維製品は、その抗菌性が短期間に低下するおそれがある。これに対して特許文献3の形態では、銀粒子を表面から一定の深さに位置させており、銀粒子が空気と接触する機会を少なくできるので、長期に亘って良好な抗菌性が得られる利点がある。しかし、空気に触れにくい分だけ除菌性が低下してしまう不利があり、また、繊維基材の可塑化工程において繊維が弱くなって洗濯堅牢性が低下しやすく、これらの点に改良すべき余地があった。
【0005】
本発明は、上記のような従来の繊維製品が抱える問題を解決するためになされたものであり、金属粒子に基づく除菌・抗菌性が長期間に亘って持続し、洗濯堅牢性にも優れ、更に有害な紫外線などの遮蔽機能を備えた、汎用性の高い機能性シート材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る機能性シート材料は、シート状の基材と、基材の少なくとも一側面に形成された、厚さが1〜1000nmのチタンからなる第1金属膜と、第1金属膜の外面に形成された、銀(A)70〜99.9重量%、パラジウム(B)0.1〜30重量%の銀−パラジウム合金((A)+(B)=100重量%)、又はチタン(C)20〜80重量%、銀(D)5〜70重量%、パラジウム(E)0.1〜10重量%のチタン−銀−パラジウム合金((C)+(D)+(E)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜とで構成されていることを特徴とする。本発明に係る第1および第2の金属膜は、スパッタ法もしくはイオンプレーティング法などの真空成膜法により形成することができる。
なお、本願明細書および特許請求の範囲において「数値a〜数値b」とは、「数値a以上、数値b以下の範囲」を示しており、特に断りがない限り以下も同様とする。
【0007】
本発明に係る他の機能性シート材料は、シート状の基材と、基材の少なくとも一側面に形成された、チタン(F)20〜80重量%、銀(G)5〜70重量%、パラジウム(H)0.1〜10重量%のチタン−銀−パラジウム合金((F)+(G)+(H)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第1金属膜とで構成されていることを特徴とする。本発明に係る第1金属膜は、スパッタ法もしくはイオンプレーティング法などの真空成膜法により形成することができる。
【0008】
第1金属膜の外面には、銀(I)70〜99.9重量%、パラジウム(J)0.1〜30重量%の銀−パラジウム合金((I)+(J)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜を設けることができる。
【0009】
第2金属膜の外面には、厚さが1〜50nmのチタンからなる第3金属膜を設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る機能性シート材料においては、基材の少なくとも片面に、チタンからなる第1金属膜を設け、第1金属膜の外面に、銀−パラジウム合金、もしくは、チタン−銀−パラジウム合金からなる第2金属膜を設けた。かかる構成においては、主として第2金属膜が除菌・抗菌・防臭効果を発揮し、第1金属膜が第2金属膜と基材との密着性を確保する。
【0011】
すなわち、銀−パラジウム合金からなる第2金属膜は、銀およびパラジウムに由来する良好な除菌・抗菌・防臭効果を発揮する。パラジウムには、上記の除菌・抗菌・防臭効果に加えて、銀の除菌・抗菌・防臭効果を高める働きと、特に、銀が空気中の硫黄分と反応するのを防止する働きがある。当該働きは、パラジウムを0.1重量%以上含めることで良好に発揮される。
【0012】
チタン−銀−パラジウム合金からなる第2金属膜は、銀−パラジウム合金膜と同様に、銀およびパラジウムに由来する良好な除菌・抗菌・防臭効果を発揮する。パラジウムの働きにより銀の硫黄分との反応が抑制され、除菌・抗菌・防臭効果が長期間に亘って持続される。チタンを加えることにより、銀やパラジウムの添加量を抑えて、製造コストの低減化を図ることができる。紫外線および赤外線の遮蔽効果が高まる利点もある。銀やパラジウムの添加量を抑えて、シート材料の製造コストの低減化を図ることができる点でも優れている。さらに、第1金属膜との密着力が向上する点でも優れている。
【0013】
以上のような第2金属膜は、厚さを1nm以上、1000nm以下とすることが好ましい。1nmを下回ると、上記各効能が良好に発揮されない。1000nmを超えると、シート材料の柔軟性を損なうおそれがある。
【0014】
第1金属膜は、主に基材と第2金属膜との密着力を高めることを目的とするものであり、チタン製の第1金属膜を基材と第2金属膜との間に介在させることで、該第2金属膜の脱落を抑えて、洗濯堅牢性の向上効果が期待できる。また、チタン製の第1金属膜は紫外線および赤外線の遮蔽にも効果があり、基材の退色を防止することもできる。第1金属膜の厚さは1nm〜1000nmの範囲にあることが好ましく、1nmを下回ると、上記各効能が良好に発揮されず、1000nmを超えると、シート材料の柔軟性を損なうおそれがある。
【0015】
以上のように、本発明によれば、最外層に銀−パラジウム合金製、或いはチタン−銀−パラジウム合金製の第2金属膜を設けたので、優れた除菌・抗菌・防臭効果が長期に亘って発揮される機能性シート材料を得ることができる。また、第2金属膜と基材との間に、チタン製の第1金属膜を設けたので、第2金属膜の脱落を効果的に抑えて、洗濯堅牢性に優れた機能性シート材料を得ることができる。また、チタン製の第1金属膜を設けることで、紫外線および赤外線の遮蔽機能を備え、基材の脱色防止効果を与えることもできる。これら複数の有用な特性を備えた機能性シート材料は極めて汎用性が高く、病院などで使用する各種繊維製品に限らず様々な分野に適用することができる。
【0016】
他の本発明においては、基材の少なくとも片面に、チタン−銀−パラジウム合金からなる第1金属膜を設けた。かかる第1金属膜は、前述の発明の第2金属膜と同様に除菌・抗菌・防臭効果に優れ、パラジウムの働きにより銀の硫黄分との反応が抑制されることから当該効果が長期間に亘って持続するほか、紫外線および赤外線の遮蔽機能を備える。したがって、本発明によっても、先と同様に、複数の有用な特性を備えた汎用性の高い機能性シート材料を得ることができる。また、金属膜を1つのみ設ける構成によれば、金属膜を2つ設ける場合と比べて製造工程を一部削減できることから、製造コストを削減できる。
【0017】
かかる第1金属膜の外面に、銀−パラジウム合金からなる第2金属膜を設けると、除菌・抗菌・防臭効果および洗濯堅牢性が更に向上するので、機能性シート材料の汎用性を更に高めることができる。
【0018】
第2金属膜の外面にチタンからなる第3金属膜を設けると、第2金属膜の耐摩耗性、耐食性が向上し、第2金属膜の除菌・抗菌・防臭などの効果を、更に長期間に亘って維持することができる。また、紫外線および赤外線の遮蔽機能が更に向上する。かかる第3金属膜は、厚さを1〜50nmとすることで、第2金属膜の機能を損なうことなく当該機能を良好に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
本実施形態に係る機能性シート材料は、図1に示すように、シート状の基材1と、基材1の少なくとも一側面に形成された、厚さが1〜1000nmのチタンからなる第1金属膜2と、第1金属膜2の外面に形成された、銀(A)70〜99.9%、パラジウム(B)0.1〜30%の銀−パラジウム合金((A)+(B)=100%)、又はチタン(C)20〜80%、銀(D)5〜70%、パラジウム(E)0.1〜10%のチタン−銀−パラジウム合金((C)+(D)+(E)=100%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜3とで構成される。かかる構成においては、主として第2金属膜3が除菌・抗菌・防臭効果を発揮し、第1金属膜2が第2金属膜3と基材1との密着性を確保する。なお、合金の組成を示す“%”は“重量%”であり、特に断りがない限り以下も同様とする。
【0020】
基材1の具体例としては、織布又は不織布である繊維製品をまず挙げることができ、その素材には、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなどの合成繊維、綿、羊毛、絹などの天然繊維のいずれも使用できる。2以上の繊維の混紡繊維であってもよい。その他、基材1は、フィルムなどシート状の形態を有するものであればどのようなものであってもよい。
【0021】
銀−パラジウム合金からなる第2金属膜3は、銀およびパラジウムに由来する良好な抗菌・防臭効果を発揮する。パラジウムには、上記の除菌・抗菌・防臭効果に加えて、銀の除菌・抗菌・防臭効果を高める働きと、特に、銀が空気中の硫黄分と反応するのを防止する働きがある。当該働きは、パラジウムを0.1%以上含めることで良好に発揮される。なお、銀−パラジウム合金には銅を10%以下で添加してもよく、その場合には、紫外線および赤外線の遮蔽機能が高まる。
【0022】
チタン−銀−パラジウム合金からなる第2金属膜3は、銀−パラジウム合金膜と同様に、銀およびパラジウムに由来する良好な除菌・抗菌・防臭効果を発揮する。パラジウムの働きにより銀の硫黄分との反応が抑制され、除菌・抗菌・防臭効果が長期間に亘って持続される。チタンを加えることにより、銀やパラジウムの添加量を抑えて、製造コストの低減化を図ることができる。紫外線および赤外線の遮蔽機能が高まる利点もある。銀やパラジウムの添加量を抑えて、シート材料の製造コストの低減化を図ることができる点でも優れている。さらに、第1金属膜2との密着力が向上する点でも優れている。
【0023】
以上のような第2金属膜3は、厚さを1〜1000nm、特に5〜1000nmとすることが好ましい。1nmを下回ると、上記各効能が良好に発揮されない。1000nmを超えると、シート材料の柔軟性を損なうおそれがある。
【0024】
第1金属膜2は、主に基材1と第2金属膜3との密着力を高めることを目的とするものであり、チタン製の第1金属膜2を基材1と第2金属膜3との間に介在させることで、該第2金属膜3の脱落を抑えて、洗濯堅牢性の向上効果が期待できる。また、チタン製の第1金属膜2は紫外線および赤外線の遮蔽にも効果があり、基材1の退色を防止することもできる。第1金属膜2の厚さは1〜1000nmの範囲にあることが好ましく、1nmを下回ると、上記各効能が良好に発揮されず、1000nmを超えると、シート材料の柔軟性を損なうおそれがある。
【0025】
第2金属膜3の外面には、図2に示すように、チタンからなる第3金属膜4を設けることができる。これにより、第2金属膜3の耐摩耗性、耐食性が向上し、第2金属膜3の除菌・抗菌・防臭などの効果を、更に長期間に亘って維持することができる。また、紫外線および赤外線の遮蔽機能が更に向上する。かかる第3金属膜4は、厚さを1〜50nmとすることで、第2金属膜3の機能を損なうことなく当該機能を良好に維持できる。
【0026】
以上の各金属膜2〜4は、スパッタ法、イオンプレーティング法などの真空成膜法により形成することができるが、特にスパッタ法による場合は、基材1との密着力に優れた金属膜を得ることができる。スパッタ法による成膜装置は、例えば図5に示すような構成とすることができる。このスパッタ装置10では、巻出ロール21より巻き出された長尺状の基材1が、プラズマ処理室23を通過して表面改質処理を施され、次いでキャンロール(冷却ロール)31上において成膜処理を施されてから、巻取ロール22に巻き取られる。
【0027】
詳しく説明すると、スパッタ装置10の真空容器11は、水平な隔壁12で上室20と下室30に区画されており、上室20に、基材1の巻出ロール21および巻取ロール22と、プラズマ処理室23とが配され、下室30にキャンロール31が配されている。真空容器11とプラズマ処理室23にはそれぞれ排気ポンプ19・29が設けてあり、これを用いて内部の気圧を独立に制御できる。
【0028】
プラズマ処理室23では、プラズマにより基材1の表面に官能基を生成して、次の成膜処理における金属粒子の密着性を高める。具体的には、処理室23内にアルゴン等の雰囲気ガスを封入し、処理室23内の電極に直流、交流あるいは高周波電圧を印加することでプラズマが発生するので、そこに基材1を通過させて表面の改質を行う。プラズマ処理用の雰囲気ガスはアルゴン100%でもよいが、雰囲気ガスの10〜60%を酸素、窒素、または両者の混合ガスとすることで、先の表面改質効果が更に向上する。なお、第1金属膜2がチタンからなる場合には、プラズマ処理を施さなくても、基材1に対し十分な接着力が得られることから、プラズマ処理を省略することもできる。また、プラズマ処理に替わり紫外線を照射しても、表面改質効果がある。なお、雰囲気ガスの組成を示す“%”は“容量%”であり、特に断りがない限り以下も同様とする。
【0029】
下室30には、キャンロール31の回転方向に沿って、スパッタ処理用の電極32〜34が設けてあり、各電極32〜34上には、成膜対象の金属からなるターゲット35〜37をそれぞれ設置することができる。例えば、チタンからなる第1金属膜2と、銀−パラジウム合金からなる第2金属膜3と、チタンからなる第3金属膜4とを設ける場合は、チタン(第1金属膜2)からなるターゲット35をキャンロール31の回転方向上流側の電極32上に設置し、銀−パラジウム合金(第2金属膜3)からなるターゲット36を電極33上に設置し、チタン(第3金属膜4)からなるターゲット37を回転方向下流側の電極34上に設置する。各ターゲット35〜37の設置後、アルゴンガス雰囲気下で、各電極32〜34に直流あるいは高周波電圧を印加することで、各ターゲット35〜37の基材表面へのスパッタ処理を行うことができる。スパッタ処理時の真空容器11内の気圧は1.3Pa以下に設定するのが好ましい。
【0030】
(第2実施形態)
本実施形態に係る機能性シート材料は、図3に示すように、基材1と、該基材1の少なくとも一側面に形成された、チタン(F)20〜80%、銀(G)5〜70%、パラジウム(H)0.1〜10%のチタン−銀−パラジウム合金((F)+(G)+(H)=100%)からなり、厚さが1〜1000nmの第1金属膜2とで構成される。かかる第1金属膜2は、前述の第1実施形態の第2金属膜3と同様に除菌・抗菌・防臭効果に優れ、パラジウムの働きにより銀の硫黄分との反応が抑制されることから当該効果が長期間に亘って持続するほか、紫外線および赤外線の遮蔽機能を備える。
【0031】
かかる第1金属膜2の外面には、銀(I)70〜99.9%、パラジウム(J)0.1〜30%の銀−パラジウム合金((I)+(J)=100%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜3を設けることができる。これによれば、除菌・抗菌・防臭効果および洗濯堅牢性が更に向上するので、シート材料の汎用性を更に高めることができる。
【0032】
第2金属膜3の外面には、先の第1実施形態と同様に、チタンからなり厚さが1〜50nmの第3金属膜4を設けることができる。基材1の構成、成膜法などその他の点も、第1実施形態と同様である。
【0033】
その他、各合金膜は、図4に示すような合金の微粒子状膜(ナノ複合体)5にすることができる。これにより膜の表面積が増加して、除菌・抗菌・防臭効果が更に向上する。かかる微粒子状膜5は、先のスパッタ処理時の真空容器11内の気圧を、先よりも高く設定することなどにより形成できる。具体的には、6.7〜133Paに設定するとよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0035】
(実施例1) 基材1として帝人ファイバー株式会社製の商品名“エムール”(ポリエステル−綿混紡短繊維)を使用し、当該基材1の片面に、チタンからなる厚さ50nmの第1金属膜2と、銀99%、パラジウム1%の銀−パラジウム合金からなる厚さ50nmの第2金属膜3とを備えた繊維製品を作製した。基材1の厚さは100μmである。成膜には図5に示すスパッタ装置10を使用し、チタンからなるターゲット35を電極32に設置し、上記銀−パラジウム合金からなるターゲット37を電極34に設置した。電極33にはターゲットを設置しなかった。スパッタ装置10のその他の稼動条件は以下の通りである。
・基材1の搬送速度 1m/分
・基材1の幅寸法 100cm
・プラズマ処理室23の雰囲気ガス アルゴン70%、酸素10%、窒素20%
・プラズマ処理室23内の気圧 0.5Pa
・プラズマ処理室23の電極に対する印加電圧 380V(交流)
・真空容器11内の気圧 0.67Pa
・電極32に対する印加電圧 440V(直流)
・電極34に対する印加電圧 460V(直流)
【0036】
(実施例2) 第2金属膜3の厚さを1000nmとした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0037】
(実施例3) 第2金属膜3の厚さを1nmとした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0038】
(実施例4) 第2金属膜3の銀−パラジウム合金の組成を銀99.9%、パラジウム0.1%とした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0039】
(実施例5) 第2金属膜3の銀−パラジウム合金の組成を銀90%、パラジウム10%とした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0040】
(実施例6) 第1金属膜2の厚さを2nmとした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0041】
(実施例7) 第1金属膜2の厚さを1000nmとした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0042】
(実施例8) 第2金属膜3の外面に、チタンからなる厚さ10nmの第3金属膜を設けた以外は、実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0043】
(実施例9) 第2金属膜3をチタン60%、銀39%、パラジウム1%のチタン−銀−パラジウム合金で構成した以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0044】
(実施例10) 第2金属膜3の厚さを1000nmとした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0045】
(実施例11) 第2金属膜3の厚さを1nmとした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0046】
(実施例12) 第2金属膜3のチタン−銀−パラジウム合金の組成をチタン20%、銀70%、パラジウム10%とした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0047】
(実施例13) 第2金属膜3のチタン−銀−パラジウム合金の組成をチタン80%、銀19%、パラジウム1%とした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0048】
(実施例14) 第1金属膜2の厚さを2nmとした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0049】
(実施例15) 第1金属膜2の厚さを1000nmとした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0050】
(実施例16) 第2金属膜3の外面に、チタンからなる厚さ10nmの第3金属膜を設けた以外は、実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0051】
(実施例17) 基材1の片面に、チタン60%、銀39%、パラジウム1%のチタン−銀−パラジウム合金からなる厚さ50nmの第1金属膜2のみを設けた。基材1および成膜法は実施例1と同様である。
【0052】
(実施例18) 第1金属膜2の外面に、銀99%、パラジウム1%の銀−パラジウム合金からなる厚さ50nmの第2金属膜3を設けた以外は、実施例17と同様の繊維製品を作製した。
【0053】
(実施例19) 基材1の素材をテトロンに替えた以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0054】
(比較例1) 第2金属膜3の厚さを0.5nmとした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0055】
(比較例2) 第2金属膜3のチタン−銀−パラジウム合金の組成をチタン96%、銀3.95%、パラジウム0.05%とした以外は実施例9と同様の繊維製品を作製した。
【0056】
(比較例3) 第1金属膜2の厚さを0.5nmとした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0057】
(比較例4) 第2金属膜3の銀−パラジウム合金の組成を銀99.95%、パラジウム0.05%とした以外は実施例1と同様の繊維製品を作製した。
【0058】
(評価)
以下、上記各実施例および各比較例に係る繊維製品を、除菌・抗菌・防臭効果、洗濯堅牢度、光学透過率および効果持続性の4点で評価する。
【0059】
〈除菌・抗菌・防臭効果〉
黄色ブドウ球菌の生菌数で除菌・抗菌効果を評価し、大腸菌の生菌数で防臭効果を評価する。具体的には先ず、JIS Z 2801:2000(抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果)に準じ、黄色ブドウ球菌および大腸菌を前培養して、そこから1エーゼを採取した。次にこれを、JIS L 1902:2002(繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)に準じ、1/20ニュートリエントブロスに分散希釈し試験菌液を調整した。そして、この試験菌液0.2mlを、ストマッカー80袋の中に入れた、各実施例に係る繊維製品の50mm角検体面に滴下し、35℃で24時間培養後、減菌生理食塩水20mlを注入、洗い出しを行い、1検体あたりの生菌数(cfu:colony forming unit)を標準寒天混釈法にて測定した。
【0060】
〈洗濯堅牢性〉
JIS L 0844(洗濯に対する染色堅ろう度試験方法)に準じた試験を行った。具体的には、A−2の方法を用いて洗濯、脱水、乾燥した後の各繊維製品を、変退色用グレースケール、汚染用グレースケールを用いて、基準色票に照らし合わせて目視評価した。
【0061】
〈光学透過率〉
300nm(UVB)、350nm(UVA)、550nm(可視光)および2000nm(近赤外)の各波長の電磁波の透過率を測定した。
【0062】
〈効果持続性〉
実施例1、8および比較例3に係る各繊維製品を屋外に6ヶ月間暴露し、上記と同様の評価を行った。
【0063】
以下、各評価法による評価の結果を、次の表1を用いて説明する。
【0064】
【表1】

【0065】
〈除菌・抗菌・防臭効果〉
殆どの実施例に係る繊維製品で生菌数(cfu)が10オーダーを示し、多いものでも102 オーダーを示すに過ぎなかった。一般に、1×104 〜5×104 cfuを示せば、その繊維製品は抗菌・防臭効果を有すると評価されていることを考えると、各実施例に係る繊維製品が、除菌・抗菌・防臭効果に極めて優れていることがわかる。なお、表1の最下行に示すように、金属膜を一切設けなかった場合は、菌が増殖を繰り返して、107 〜108 オーダーを示すに至った。
【0066】
第2金属膜3の厚さのみが異なる実施例1(膜厚50nm)、実施例2(同1000nm)、実施例3(同1nm)および比較例1(同0.5nm)を対比すると、膜厚の大きいものほど生菌数は少なくなっており、膜厚が最も小さい比較例1では、生菌数が唯一102 〜103 オーダーを示した。つまり、実施例3(膜厚1nm)と比較例1(同0.5nm)の間で、生菌数に大きな差が生じており、このことから、第2金属膜3の厚さは1nm以上が好ましいことが分かる。
【0067】
また、チタン−銀−パラジウム合金の組成に着目して生菌数を比較すると、実施例9(チタン60%、銀39%、パラジウム1%)では生菌数が10オーダーを示したのに対し、銀の比率を実施例9の約半分とした実施例13では、生菌数がやや悪化して102 オーダーを示した。なお、銀とパラジウムの比率が極端に少ない比較例2では、生菌数が103 〜104 オーダーを示し、除菌・抗菌・防臭効果の点で好ましいものではなかった。
【0068】
〈洗濯堅牢性〉
殆どの実施例に係る繊維製品が最高の洗濯堅牢度「5」を示し、残りのものも、それに次ぐ「4」を示した。この洗濯堅牢度は、各金属膜の厚さに因るところが大きく、第1金属膜2の厚さのみが異なる実施例1(膜厚50nm)、実施例6(同2nm)および比較例3(同0.5nm)を見ると、実施例1で「5」、実施例6で「4」、比較例3で「3」となっている。
【0069】
また、第2金属膜3の厚さが1nmの実施例3では、洗濯堅牢度が「4」となっているのに対し、第2金属膜3の厚さが同様に1nmの実施例11では、洗濯堅牢度が最高の「5」となっている。これは、実施例11に係る第2金属膜3がチタンを含んでいることにより、同じくチタンからなる第1金属膜2との密着力が高くなっていることに因るものと考えられる。
【0070】
〈光学透過率〉
肌への有害性が高い300nm(UVB)の欄を見ると、全ての実施例に係る繊維製品で透過率が25%以下となっており、金属膜を一切設けなかった場合(30%)と比較してUVB透過率が低下した。これにより、金属膜を設けることでUVBの遮蔽機能が向上することが分かる。350nm(UVA)、550nm(可視光)および2000nm(近赤外)についても、金属膜を設けることで、透過率の低下が認められた。
【0071】
実施例別に詳しく見ると、第1金属膜2と第2金属膜3の厚さがともに50nmである実施例1、4、5などでは、透過率が10%強であるのに対し、第1金属膜2の厚さが2nmである実施例6と、第2金属膜3の厚さが1nmである実施例3では、透過率が約20〜30%となっている。これらの結果から、光学透過率は、各金属膜の厚さに因るところが大きいことが分かる。なお、第1金属膜2の厚さが更に小さい(0.5nm)比較例3では、透過率が、350nm(UVA)で30%、2000nm(近赤外)では50%となっており、紫外線および赤外線の遮蔽機能に乏しい。
【0072】
また、第3金属膜4を設けた場合(実施例8、16)は、これを設けない場合(実施例1、9)と比べて遮蔽機能が高くなっていることから、第3金属膜4がUVBなどの遮蔽に効果があることが分かる。更に、第2金属膜3にチタンを含まない実施例1〜8と、チタンを含む実施例9〜16では、後者の方が遮蔽機能にやや優れている。したがって、光学透過率の点で見た場合には、第2金属膜3にチタンを含める方が好ましい。
【0073】
〈効果持続性〉
第2金属膜3にパラジウムを1%含む実施例1では、6ヶ月経過後においても、生菌数が10〜102 オーダーという良好な値を示した。これに対し、パラジウムが0.05%と少ない比較例4では、当初は除菌・抗菌・防臭効果が認められたが、6ヶ月経過後には、生菌数は103 〜104 オーダーと大きく増加し、除菌・抗菌・防臭効果の低下が認められた。また、6ヶ月経過後の比較例4に係る繊維製品は、表面が黒く変色していた。これは、第2金属膜3に含まれる銀が空気中の硫黄分と反応して硫化銀が生成したことに因るものと考えられる。
【0074】
また、実施例1と実施例8を除菌・抗菌・防臭効果の点で比較すると、実施例8が実施例1に対して劣っている。これは、実施例8に係る繊維製品が第3金属膜4を有し、第2金属膜3の銀粒子が空気に触れにくくなることに因るものである。しかし、作製当初と6ヶ月経過後の繊維製品で、生菌数の増加率を比較すると、実施例1では6倍程度となっているのに対し、実施例8では3倍を下回っている。これにより、チタン製の第3金属膜4が、第2金属膜3の除菌・抗菌・防臭性を維持するのに効果があることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】2つの金属膜を備える繊維製品の断面図である。
【図2】3つの金属膜を備える繊維製品の断面図である。
【図3】1つの金属膜を備える繊維製品の断面図である。
【図4】微粒子状膜の態様を模式的に説明する図である。
【図5】スパッタ装置の全体構成図である。
【符号の説明】
【0076】
1 基材
2 第1金属膜
3 第2金属膜
4 第3金属膜
5 微粒子状膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材と、
前記基材の少なくとも一側面に形成された、厚さが1〜1000nmのチタンからなる第1金属膜と、
前記第1金属膜の外面に形成された、銀(A)70〜99.9重量%、パラジウム(B)0.1〜30重量%の銀−パラジウム合金((A)+(B)=100重量%)、又はチタン(C)20〜80重量%、銀(D)5〜70重量%、パラジウム(E)0.1〜10重量%のチタン−銀−パラジウム合金((C)+(D)+(E)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜とで構成されていることを特徴とする機能性シート材料。
【請求項2】
シート状の基材と、
前記基材の少なくとも一側面に形成された、チタン(F)20〜80重量%、銀(G)5〜70重量%、パラジウム(H)0.1〜10重量%のチタン−銀−パラジウム合金((F)+(G)+(H)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第1金属膜とで構成されていることを特徴とする機能性シート材料。
【請求項3】
前記第1金属膜の外面に、銀(I)70〜99.9重量%、パラジウム(J)0.1〜30重量%の銀−パラジウム合金((I)+(J)=100重量%)からなり、厚さが1〜1000nmの第2金属膜が設けられている請求項2記載の機能性シート材料。
【請求項4】
前記第2金属膜の外面に、厚さが1〜50nmのチタンからなる第3金属膜が設けられている請求項1または3記載の機能性シート材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−197342(P2009−197342A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37070(P2008−37070)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(508051942)株式会社ホーピット (2)
【出願人】(502452369)
【Fターム(参考)】