説明

機能性フィルター

【課題】微細な孔構造と極めて大きな表面積を有し、高強度であるセルロース不織布からなり、耐熱性と寸法安定性に優れ、かつ焼却処理可能な機能性フィルターを提供する。
【解決手段】セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層構造体からなる機能性フィルターであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上2000s/100ml以下であることを特徴とする機能性フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性フィルターに関する。詳しくは半導体製造工業、医薬品製造工業、食品工業、病院などの分野で使用されるクリーンルーム用エアフィルター、オフィスの空調用、または家庭用エアコンなどのフィルター、エンジンオイル、燃料、水処理、放電加工機、薬品や食品製造工程での微生物除去などの液体濾過用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中の粒子や液体中の粒子を効率よく捕集するフィルターには、(1)通気性または通液性に優れていて、圧力損失が低いこと、(2)捕集効率が良いこと、(3)加工性に優れていること、(4)使用中の強度低下や繊維の脱落等が少ないこと、(5)廃棄物問題の点から、焼却または生分解が可能なことが要求されている(特許文献1参照)。
フィルター基材には、木材パルプを高度に叩解したものや、フィブリル化したパルプ繊維などが用いられている。たとえば、花粉や風邪のウイルスなどの進入を防ぐマスクには、細いポリオレフィン繊維からなるシートをエレクトレット化して捕集効率を高めたシートが使われている。また、フィルターではないが、スピーカーコーンには、一部で高密度シートや酢酸菌によって合成されるバクテリアセルロースが使われている。このバクテリアセルロースは、繊維径が極めて小さい繊維としてよく知られた材料である。
【0003】
一方、無機繊維含有フィルターは、無機繊維の剛直性、繊維径の細さに起因して、低い圧力損失で高い捕集効率が得られるという利点がある。しかし、無機繊維の剛直性が、加工性を低下させるという問題がある。また、エアフィルターとして使用した場合に微細な無機繊維が脱落すると、人体への影響が懸念される。機械のエンジンオイルフィルターなどの濾材から無機繊維が脱落した場合には、機械のしゅう動部を傷つけることが懸念される。さらに、無機繊維は焼却することができないという廃棄物問題も抱えている。従って、無機繊維含有濾材においては、加工性、使用中の脱落由来の問題、廃棄物問題などから、無機繊維の含有量を減らすことが要望されている。
【0004】
また、加工の容易さ、微細繊維製造において広く樹脂系のフィルターが利用され、例えばポリアクリロニトリル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の高分子化合物が、限外濾過膜や精密濾過膜等に用いられている。しかし、これらの素材は含有する溶剤溶出性、耐熱性及び耐薬品性という点で満足できるものではなかった(特許文献2参照)。
それに対し、セルロースは優れた構造安定性、耐熱性、耐有機溶媒性を有し、寸法安定要求の高いフィルター基材には好適である。また、天然由来の素材であるが故、廃棄時にも環境負荷が少ない。しかし強固な構造体であるため、従来の方法では高微細化したセルロースを有する不織布シートを製造することが困難で、高性能フィルター基材にするための高微細化したセルロースシートが望まれていた。
【特許文献1】特開2008−652号公報
【特許文献2】特開平8−257380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微細な孔構造と極めて大きな表面積を有し、高強度であるセルロース不織布からなり、耐熱性で寸法安定性に優れ、かつ焼却処理可能な機能性フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、微細なセルロース繊維からなるセルロース不織布を適切な目付の範囲下で特定の透気抵抗度の範囲内に収まるようコントロールすることにより、上記課題を解決できる機能性フィルターを提供できることを見出した。また、さらには、特に糖、多価アルコール、アルコール誘導体、水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物(以下、「特定の水溶性化合物」と記述する)を適量上記セルロース不織布に含有させることにより、強度をさらに向上できることを見い出し、より好ましい機能性フィルターを完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のセルロース不織布あるいは該不織布を含む多層化シートからなる機能性フィルターである。
[1]セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層構造体からなる機能性フィルターであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上2000s/100ml以下であることを特徴とする機能性フィルター。
[2]セルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径が300nm以下であることを特徴とする[1]に記載の機能性フィルター。
[3]セルロース不織布が、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を該セルロース不織布の重量を100%とした時に合計0.5重量%以上20重量%以下含有する不織布であることを特徴とする[1]または[2]のいずれかに記載の機能性フィルター。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、微細な孔構造と極めて大きな表面積を有し、強度の高いセルロース不織布を有する、耐熱性で寸法安定性に優れ、かつ焼却処理可能な機能性フィルターを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、機能性フィルターに関する。フィルター機能には、(1)微細孔によるサイズ分離機能、(2)きわめて大きい比表面積による吸着機能の大きく2種類がある。
(1)微細孔によるサイズ分離機能を利用した機能性フィルターとしては、気体系では家庭用や業務用の掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、脱臭フィルター、エアコン用フィルター、各種の空気清浄器用フィルター等、水系ではコーヒーフィルターやティーバッグ用フィルター等に、油系では家庭用・業務用の油こし紙、自動車用オイルフィルター、自動車用フュエルフィルター、その他各種の濾紙等の各種機能性フィルターが例示される。また、生産工程において液体中に含まれている微粒子を除去することを目的とした工業用の液体フィルターにも好適に使用できる。また、例えば飲料(ビール、清酒、ワイン、清涼飲料)、食品(食用油、酢、醤油、蜂蜜)、化粧品(液体整髪料、オーデコロン、香水)、医薬品(注射薬、目薬、その他の液状医薬品)、水(原料水、仕込水、洗浄水、半導体用純水)、化学薬品(樹脂、塗料、ワニス)等の各種液体の最終濾過(清澄、除菌)としても利用可能である。
【0010】
(2)きわめて大きい比表面積による吸着機能を利用した機能性フィルターとしては、電荷修飾による花粉吸着フィルターや空気中浮遊ウイルス等微生物の捕捉フィルター、抗体固定化修飾による血液成分の特定物質捕捉フィルターやウイルス等微生物の除去フィルター、コラーゲン等細胞接着物質固定化修飾による細胞や微生物の培養フィルター、抗菌処理をした被覆創傷用フィルター等にも利用できる。
【0011】
本発明の機能性フィルターについてより具体的に説明する。
本発明は、セルロースミクロフィブリルからなる微細な網目構造を有するセルロース不織布、または該セルロース不織布を一層として含む多層構造体からなる機能性フィルターに関する。より具体的には、該セルロース不織布からなるシート状構造体、もしくは該セルロース不織布を一層として含む多層構造体からなるシート状構造体そのものか、またはこれらのシート状構造体を基材とした機能性フィルターに関する。
【0012】
本発明者らは、本発明に際し、まずセルロースのもつ水にも油にも親和性をもつ両親媒的な表面特性に着眼した。加えて、機能性フィルターとして、微細な繊維からなる不織布に効果があることは、既にHEPAフィルターのような機能性フィルターで知られている事実であるため、セルロースの繊維を極限近くにまで微細化することにより、従来の微細繊維からなる機能性フィルターの性能を大幅に向上させるべく試行を行った。セルロースは条件を選べば、微細化等により、ミクロフィブリルと呼ばれる数nmから200nmの繊維径の微細繊維、あるいはミクロフィブリルが集束した状態の数10nmから数100nmの繊維径の微細繊維となり得ることが分かっている(本発明では、これらを総称して、「セルロースミクロフィブリル」と呼ぶ。)ので、セルロースミクロフィブリルをシート化したセルロース不織布において、セルロースの表面特性も手伝い、機能性フィルターとしての著しい性能の向上が期待できると考え、本発明の完成に到った。
【0013】
本発明では、「繊維を織ったり編んだりすることなく、繊維どうしを化学的方法、機械的方法、またはそれらの組み合わせにより、結合や組み合わせを行った構造物」という不織布の一般的定義に従い、本発明で使用されるセルロースからなるシート状構造体を湿式不織布の範疇と見なしてセルロース不織布と呼ぶ。敢えて紙と呼ばないのは、該不織布を構成する主要なセルロース繊維が、従来の紙の原料としてのセルロース繊維よりも約2桁のオーダー細いセルロース繊維である点で大きく異なる材料であり、用途としてもいわゆる紙の用途ではなく、不織布が使われている用途分野で、より好適にその機能を発現するためである。
【0014】
ここで、セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布が本発明の機能性フィルターとして好適に機能するためには、セルロースミクロフィブリルが互いに融着して表面積が小さくなることを防ぐ必要がある。言い換えれば、セルロース不織布が微細な網目構造を有し、一定の通気性を有することが重要である。すなわち、本発明の機能性フィルターは、セルロースミクロフィブリルから成るセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層化構造体からなる機能性フィルターであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上2000s/100ml以下であることが好ましい。
【0015】
目付はより好ましくは、5g/m以上100g/m以下、更に好ましくは、8g/m以上80g/m以下である。目付が3g/mよりも小さなシートは薄過ぎて操作性が著しく悪くなるため好ましくなく、また目付が150g/mよりも大きくなると、シートの柔軟性に欠け、加工操作性が悪くなるため好ましくない。なお、本発明において目付(坪量)測定は、JIS P 8124に従うものとする。
【0016】
また、本発明の機能性フィルターは、上述した理由から適度な透気抵抗度の範囲にあることが必要である。透気抵抗度は、10s/100ml以上2000s/100ml以下、好ましくは、20s/100ml以上1000s/100ml以下の範囲であると、本発明の主張する機能性フィルターとしての種々の機能を好適に発現させることが可能となる。ここで、本発明の機能性フィルターでは、ネットワークの微細性から該透気抵抗度が10s/100mlよりも小さなものは作り難く、また、該透気抵抗度が2000s/100mlを超えるものは、容易に作製することはできるものの、空孔率が低くなり、透気抵抗が増大し機能性フィルターとしての本来の機能に乏しい材料となるため、やはり好ましくない。
【0017】
ここで、透気抵抗度とは、ガーレー式デンソメータ((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて100mlの空気の透過時間(単位;s/100ml)の測定を室温で行った結果を意味する。測定は、一つのシートサンプルに対して種々の異なる位置について5点の測定を行い、その平均値とする。
本発明で使用されるセルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径は2nm以上300nm以下、好ましくは10nm以上150nm以下の範囲にあると、微細かつ均一なネットワーク構造を有する不織布あるいは不織布層を作製することができるので有効である。数平均繊維径が2nmよりも小さいセルロースミクロフィブリルの報告は文献上存在せず、現実的に作ることは困難と考えられる。また、数平均繊維径が300nmよりも大きな場合には、微細なネットワーク構造に基づく微小かつ均一な孔径の不織布となり難くなるため、本発明の機能性フィルターで期待できる効果が現れ難くなるため、好ましくない。
【0018】
ここで、セルロースミクロフィブリルの数平均繊維径は以下のようにして定義される。すなわち、本発明の機能性フィルターの表面に関して、無作為に少なくとも2箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を10000倍相当以上30000倍以下の範囲で、繊維径がはっきりと認識できる倍率で行う。得られたSEM画像に対し、画面に対し水平方向と垂直方向にラインを引き、ラインに交差する繊維の繊維径を拡大画像から実測し、交差する繊維の個数と各繊維の繊維径を数える。こうして2つのラインに交差するすべての繊維について繊維径の測定結果を用いて数平均繊維径を算出する。さらに同じサンプルについて観察した別の場所を撮影した同じ倍率のSEM画像についても同じように数平均繊維径を算出し、合計2画像分の結果の平均値を対象とする試料の数平均繊維径とする。
【0019】
本発明の機能性フィルターにおけるセルロース不織布あるいはセルロース不織布層においては、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を合計0.5重量%以上20重量%以下、好ましくは0.8重量%以上15重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上10重量%以下含有していると、該水溶性化合物が微細なセルロースミクロフィブリル間の接触点強度を補強するバインダーとして機能するため、さらに好ましい。
【0020】
ここで、糖としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、トレハロース、セロビオース、及びマルトース、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、及びグリセリン、アルコール誘導体としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテル、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、水溶性多糖、および水溶性多糖誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
ここで、水溶性多糖は、水溶性の多糖を意味し、天然物としても多種の化合物が存在する。例えば、でんぷんや可溶化でんぷん、アミロース、プルランに代表されるα−1,4−グルカン、デキストランに代表されるα−1,6−グルカン、カードラン、レンチナンに代表されるβ−1,3−グルカン、アミロペクチン、グリコーゲンに代表される分岐糖、キシラン、ガラクタン、マンナン、グルコマンナン、グルコマンノグリカン、ガラクトグルコマンノグリカン、グアランに代表されるヘテログリカンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
また、水溶性多糖誘導体は、上述した水溶性多糖の誘導体、例えばアルキル化物、ヒドロキシアルキル化物、アセチル化物であって、水溶性のものが含まれる。あるいは、誘導体化する前の多糖がセルロース、スターチなどの様に水に不溶性であっても、誘導体化、例えばヒドロキシアルキル化やアルキル化、カルボキシアルキル化によって、水溶性化されたものも該水溶性多糖誘導体に含まれる。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチなどのヒドロキシアルキルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、さらには、ヒドロキシエチルメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースのように、2種類以上の官能基で誘導体化された水溶性多糖誘導体も含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
上述した水溶性化合物のうち、水溶性高分子である水溶性多糖および水溶性多糖誘導体は耐熱性の高いものが多く、セルロース不織布の強度を向上させる効果も大きいので、そのような性質の水溶性多糖および水溶性多糖誘導体を使用すれば、得られるセルロース不織布は、セルロースが元来有する耐熱性を損なわない高強度のものとなるので、特に好ましい。
さらに、本発明の機能性フィルターは、上述したセルロース不織布を、一層として含む多層構造体からなるシート(以下「多層化シート」ともいう。)、あるいは該多層化シートを基材とした機能性フィルターである。
【0024】
該多層化シートは、通気性のある別種の不織布や紙(一般に使用される繊維径の繊維からなる不織布や紙)等の支持体上に上述したセルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布が積層化された2層構造でも、表裏の両側から該セルロース不織布によって通気性のある別種の不織布等が挟まれた3層構造をもつものでも、あるいはさらに異種の層をもつものでも、多層化シートとして上述した目付と透気抵抗度の範囲が保たれていれば、好適に本発明のセルロース不織布の主張する機能を発現することができる。しかし、最表面に存在するセルロースミクロフィブリルからなる微細な網目構造を有する不織布層によって、濾過の効率が著しく向上するという本発明の作用性を考慮すると、該セルロース不織布層は最表面のいずれか一方または両方にに位置していることが好ましい。
また、本発明の機能性フィルターは、上述したセルロース不織布、あるいは該セルロース不織布を一層として含む多層化シートのいずれかを基材とした機能性フィルターであっても構わない。
【0025】
上述した本発明の機能性フィルターは、気体系では家庭用や業務用の掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、脱臭フィルター、エアコン用フィルター、各種の空気清浄器用フィルター等、水系ではコーヒーフィルターやティーバッグ用フィルター等に、油系では家庭用・業務用の油こし紙、自動車用オイルフィルター、自動車用フュエルフィルター、その他各種の濾紙等の各種機能性フィルター、各種機能紙、また生産工程において液体中に含まれている微粒子を除去することを目的とした工業用の液体フィルターにも好適に使用できる。さらに、例えば飲料(ビール、清酒、ワイン、清涼飲料)、食品(食用油、酢、醤油、蜂蜜)、化粧品(液体整髪料、オーデコロン、香水)、医薬品(注射薬、目薬、その他の液状医薬品)、水(原料水、仕込水、洗浄水、半導体用純水)、化学薬品(樹脂、塗料、ワニス)等の各種液体の最終濾過(清澄、除菌)においても、極めて高い効率の濾過を可能とするばかりでなく、セルロースのもつ耐熱性や対溶剤性により、幅広い環境下で使用することが可能となる。本発明の機能性フィルターの少なくとも最表面に存在するセルロースミクロフィブリルの微細な網目構造が、水、油性化合物の双方に親和性をもつ表面特性と微小な分別対象物をも捕捉する微細な構造を併せもつことにより、高い濾過性能を発現していると考えられる。さらに、本発明の機能性フィルターは、セルロース不織布またはセルロース不織布層が基材の主体をなすため、環境負荷が少なく、焼却処理可能な材料として提供することが可能となる。
【0026】
次に、本発明の機能性フィルターの製造方法の例について説明する。セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、あるいは該不織布を一層として含む多層化シートのシート状構造体が機能性フィルターの主体をなすものであるので、以下に、セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布あるいは該不織布を一層として含む多層化シートの好ましい製造方法の例を記載する。
本発明で使用するセルロース不織布は、まず、セルロースミクロフィブリルの水分散液を調製し、該分散液を用いて以下に記載する方法により製膜して得る。
【0027】
セルロースミクロフィブリルは、ミクロフィブリルと呼ばれる2nm〜200nmの繊維径のセルロース繊維ないしはその集束体を意味する。より具体的には、バクテリアセルロースと呼ばれる、酢酸菌やバクテリア類の産生するセルロースか、あるいはミクロフィブリル化セルロースと呼ばれる、パルプ等の植物由来あるいはホヤセルロースのような動物由来のセルロースを高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、グラインダー等の高度にせん断力の加わる装置で微細化処理することにより得られる、繊維表面から引き剥がれた独立したミクロフィブリルあるいはそれらが収束した微細繊維(非特許文献1;A.F.Turbak, F.W.Snyder and K.R.Sandberg, ” Microfibrilated Cellulose, A New Cellulose Product: Properties, Uses, and Commercial Potential” J.Appl.Polym.Sci.: Appl. Polym. Symp., 37, 815 (1983))を意味する。このうち、本発明では、コストや品質管理の面からミクロフィブリル化セルロースを原料として使用することがより好ましい。
【0028】
ここで、セルロースミクロフィブリルの表面を構成するセルロースは、化学修飾されていても構わない。例えば、微細セルロース繊維の表面に存在する一部あるいは大部分の水酸基が酢酸エステル化を含むエステル化されたもの、メチルエーテル、カルボキシエチルエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたもの、6位の水酸基が酸化され、カルボキシル基(酸型、塩型を含む)となったもの等を挙げることができる。このような表面を化学修飾したミクロフィブリルの例として例えば、TEMPO酸化触媒によってパルプを処理して得られる、表面がカルボキシル化したミクロフィブリル(非特許文献2;T.Saito, Y.Nishiyama, J-L. Putaux, M. Vignon and A. Isogai, “Homogeneous Suspensions of Individualized Microfibrils from TEMPO-Catalyzed Oxidation of Natural Cellulose” Biomacromolecules, 7, 1687 (2006))を挙げることができるが、これに限定されない。
【0029】
ミクロフィブリル化セルロースを使用する際の原料としては、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等のいわゆる木材パルプと非木材パルプを使用することができる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプ,バガス由来パルプ,ケナフ由来パルプ,竹由来パルプ,ワラ由来パルプを挙げることができる。コットン由来パルプ,麻由来パルプ,バガス由来パルプ,ケナフ由来パルプ,竹由来パルプ、ワラ由来パルプは、各々、コットンリントやコットンリンター、麻系のアバカ(例えばエクアドル産またはフィリピン産のものが多い)、ザイサルや、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料を蒸解処理による脱リグニン等の精製工程や漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。この他、海藻由来のセルロースやホヤセルロースの精製物もミクロフィブリル化セルロースの原料として使用することができる。
【0030】
次にセルロース繊維のフィブリル化の方法について記載する。
原料パルプからミクロフィブリル化セルロースへの微細化においては、100〜150℃の温度での水中含浸下でのオートクレーブ処理、叩解処理、酵素処理等、またはこれらの組み合わせによって、原料パルプを微細化し易い状態に前処理しておくことは有効である。これらの前処理は、微細化処理の負荷を軽減するだけでなく、セルロース繊維を構成するミクロフィブリルの表面や間隙に存在するリグニンやヘミセルロースなどの不純物成分を水相へ排出し、その結果、微細化された繊維のα−セルロース純度を高める効果もあるため、セルロース不織布の耐熱性の向上に大変有効であることもある。
【0031】
例えば、叩解処理工程においては、原料パルプを0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上3重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上2.5重量%以下の固形分濃度となるように水に分散させ、まずビーターやディスクレファイナー(ダブルディスクレファイナー)のような叩解装置でフィブリル化を高度に促進させる。ディスクレファイナーを用いる場合には、ディスク間のクリアランスを極力狭く(例えば0.1mm以下)設定して、処理を行うと、極めて高度な叩解(フィブリル化)が進行するので、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件を緩和でき、有効な場合がある。
好ましい叩解処理の程度は以下のように定められる。水中に分散させたセルロースをJIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値で評価したところ、叩解処理を行うにつれCSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると増大していく傾向が確認された。
【0032】
水系分散液を調整するに当たって使用するミクロフィブリル化セルロースは、CSF値が一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けCSF値が増加している状態まで叩解することが好ましい。本発明では、未叩解からCSF値が減少する過程でのCSF値を***↓、ゼロとなった後に増大する傾向におけるCSF値を***↑と表現する。該叩解処理においては、CSF値は少なくともゼロあるいはその後増大する***↑の値をもつことが好ましい。このような叩解度に調製した水分散体(以下「スラリー」ともいう。)ではフィブリル化が高度に進行していると同時にスラリーの均一性が増大し、その後の高圧ホモジナイザー等による微細化処理での詰まりを軽減でき、またその処理条件を負担の少ない条件(例えばパス回数の軽減)につなげられるので好ましい。
【0033】
ミクロフィブリル化セルロースの製造には、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダー等を用いることができる。この際の水分散体中の固形分濃度は、上述した叩解処理に準じ、0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上3重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以上2.5重量%以下の固形分濃度とすると詰まりが発生せず、しかも効率的な微細化処理が達成できる。
【0034】
使用する高圧ホモジナイザーとしては、例えば、ニロ・ソアビ社(伊)のNS型高圧ホモジナイザー、(株)エスエムテーのラニエタイプ(Rモデル)圧力式ホモジナイザー、三和機械(株)の高圧式ホモゲナイザーなどを挙げることができ、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。超高圧ホモジナイザーとしては、みづほ工業(株)のマイクロフルイダイザー、吉田機械興業(株)ナノマイザー、(株)スギノマシーンのアルティマイザーなどの高圧衝突型の微細化処理機を意味し、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。グラインダー型微細化装置としては、(株)栗田機械製作所のピュアファインミル、増幸産業(株)のスーパーマスコロイダーに代表される石臼式摩砕型を挙げることができるが、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。
【0035】
ミクロフィブリル化セルロースの繊維径は、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件(装置の選定や操作圧力およびパス回数)あるいは該微細化処理前の前処理の条件(例えば、オートクレーブ処理、酵素処理、叩解処理等)によって制御することができる。
【0036】
次に、本発明で使用するセルロース不織布の製造方法について記載する。製膜方法としては、大きく分けて塗布法と抄紙法により製造することが可能である。
このうち、塗布法においては、ミクロフィブリルを水に分散させた水系分散液からは、所定の透気抵抗度範囲の不織布は得られないため、少なくとも水よりも表面張力の低い有機溶媒(例えば、イソプロパノールやエチルセロソルブ等のアルコール)と水の混合溶液中にミクロフィブリルを分散させた有機溶媒系分散液を使用する必要がある。そこで、該有機溶媒系分散液に、所定の上記特定の水溶性高分子を溶解させ、キャスト後、乾燥させて製膜する。なお、分散媒体中の有機溶媒の組成を大きく設定することにより、所定の透気抵抗度にコントロールすることが可能となる。しかしながら、セルロースミクロフィブリルの分散液においては、セルロースミクロフィブリルの濃度を2重量%以上に高めることはレオロジー的な制約上(著しく増粘してしまう)難しく、該分散液から分散媒体を乾燥させて得るシート(不織布)は極めて低い目付のものに限定されてしまう。加えて、上記の高粘度の分散液を均一に製膜するのは意外と難しく、一定面積のシートを作製するのに大量の有機溶媒を必要とする点でコスト面でも不利である。この点で、塗布法は条件によっては(極めて低目付での製膜)有効であるものの、本発明のセルロース不織布の製造方法としては、以下に記載する抄紙法によるのがより好ましい。
【0037】
セルロースミクロフィブリルからなる通気性を有するセルロース不織布の抄紙法による製造方法について、さらに2通りの方法がある。
第一の方法は、セルロースミクロフィブリルを水に適当な分散状態にコントロールしつつ分散させ、目の細かい濾布上で抄紙を行い、得られた湿紙中の水を有機溶媒への置換工程において有機溶媒に置換させ、乾燥させるという方法である。この方法の詳細については、本発明者らによる文献(特許文献3;国際公開2006/004012号パンフレット)に従う。
【0038】
この方法で上述した特定の水溶性化合物をセルロース不織布に含有させる場合には、抄紙用分散液かあるいは有機溶媒置換浴に溶解させて、セルロース不織布中へ含有させることが好ましい。このうち、予め、抄紙用分散液中に溶解させておく方法では、分散液中でのセルロースミクロフィブリル表面への上記特定の水溶性化合物の定着率がそれ程高くない可能性があり、しかも、次工程である有機溶媒置換の工程において、一旦定着した上記特定の水溶性化合物が脱離してしまう可能性があるため、効率的に本発明で使用するセルロース不織布を製造する方法としては好ましくない。これに対し、置換工程で、置換浴中に上記特定の水溶性化合物を溶解させておき、溶剤置換と同時に、該特定の水溶性化合物をミクロフィブリルのネットワーク補強のバインダー等として導入することは、溶剤置換後の湿紙に残存している該特定の水溶性化合物は確実に不織布中に残存するため、条件によっては有効である。しかし、置換工程での導入においては、該特定の水溶性化合物が完全に溶解するような溶媒構成とする必要があり、条件設定に制約があること、置換溶媒中に一定量の該特定の水溶性化合物を溶解させておく必要があり、効率的な導入方法とは言えないという短所もある。
【0039】
これに対し、抄紙法における第2の方法、すなわち、以下に記載する製造方法によって、本発明で使用するセルロース不織布を製造することが好ましい。
すなわち、(1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を合計0.003重量%以上0.3重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調整する調製工程、(2)水系分散液を構成する水の一部を抄紙機で脱水することによって、セルロースミクロフィブリルの濃度および油性化合物の濃度を該水系分散液より増加させた濃縮組成物を得る抄紙工程、(3)濃縮組成物を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物および水の一部を蒸発させて除去する乾燥工程、の3つの工程を含むセルロース不織布の製造方法である。
【0040】
以下では、上記のエマルジョン系の水系分散液を用いた抄紙法によるセルロース不織布の製造方法を、簡単のために「エマルジョン抄紙法」と表現する。
まず、上述した3つの工程の詳細について説明する。エマルジョン抄紙法は、所定のセルロースミクロフィブリルの水系分散液から抄紙法により湿紙を製膜し、該湿紙を乾燥させるシンプルなものである。
調製工程で使用する水系分散液は、セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性高分子を合計0.003重量%以上0.3重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であることが必要である。
【0041】
エマルジョン抄紙法用の水系分散液中のセルロースミクロフィブリルの濃度は、0.05重量%以上0.5重量%以下、好ましくは、0.08重量%以上0.35重量%以下であると好適に安定な抄紙を実施することができる。該水系分散液中のセルロースミクロフィブリル濃度が0.05重量%よりも低いと濾水時間が非常に長くなり生産性が著しく低くなると同時に膜質均一性(地合い)も著しく悪くなるため好ましくない。また、セルロースミクロフィブリル濃度が0.5重量%よりも高いと、分散液の粘度が上がり過ぎてしまうため、均一に製膜することが困難になり、やはり好ましくない。次に、調製工程で調製する水系分散液中には、0.15重量%以上10重量%以下の、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下である油性化合物がエマルジョンとして、85重量%以上99.5重量%以下の水から成る水相に分散していることが好ましい。エマルジョン抄紙法においては、上述した条件下で形成されるエマルジョンにおいて、水と比較して油性化合物が、抄紙機における濾過を意味する抄紙工程により濾液側に移動せずに、水不溶性の親水性高分子であるセルロースの近傍に効率的に残存し、実質的に油性化合物の濃縮化が進行することを特徴とする。すなわち、乾燥工程に到る際に、水不溶性の親水性高分子が水に比べ、表面張力の低い油性化合物に取り囲まれることは、乾燥時に高分子間の融着を防御し、通気性を有するセルロース不織布を形成する原動力となる(先述した有機溶剤による置換法と原理的には同じ)。
【0042】
乾燥時に上記油性化合物が除去されないと通気性を有する不織布となり得ないため、用いる油性化合物は、乾燥工程で除去可能なことが必要である。したがって、本発明において、水系分散液にエマルジョンとして含まれる油性化合物は、一定の沸点範囲にあることが必要であり、具体的には、大気圧下での沸点が50℃以上200℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは、60℃以上190℃以下であれば、工業的生産プロセスとして水系分散液を操作し易く、また、比較的効率的に加熱除去することが可能となる。油性化合物の大気圧下での沸点が50℃未満であると水系分散液を安定に扱うために低温制御下で扱うことが必要となり、効率上好ましくなく、さらに油性化合物の大気圧下での沸点が200℃を超えると、乾燥工程で油性化合物を加熱除去するのに多大なエネルギーが必要となるため、やはり好ましくない。
【0043】
さらに、上記油性化合物の25℃での水への溶解度は5重量%以下、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下であることが油性化合物の必要な構造の形成への効率的な寄与という観点で望ましい。以下に油性化合物の具体例を示す。
【0044】
例えば、炭素数6〜炭素数14の範囲の炭化水素、具体的には、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、n−ウンデカンやそれらの異性体(例えば、イソヘキサン、イソオクタン、イソデカン)に代表される鎖状飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘキセンのような環状炭化水素類、ジイソブチレンやシクロヘキセンのような鎖状または環状の不飽和炭化水素類、及びベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、次に、炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコール、具体的には、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、(Z)−3−ヘキセン−1−オール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、4−メチル−1−ペンタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、(2E,4E)−2,4−ヘキサジエン−1−オール、2−メチル−2−ヘキサノール、イソヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソオクタノール、1,3−ベンゾジオキソール−5−メタノール等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。一級のアルコールではないが、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、シクロヘプタノール、4−ヘプタノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−エチニルシクロペンタノール、2−オクタノール、(S)−2−オクタノール、シクロオクタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、1−オクチン−3−オール等の炭素数5〜炭素数9の範囲である一価のアルコールも油性化合物として好適に使用できる。
【0045】
上述した油性化合物のうち、特に、油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物、さらに好ましくは、該アルコールの中の、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いると特に好適に本発明のセルロース不織布を製造することができる。これは、エマルジョンの油滴サイズが極めて微小(通常の乳化条件で、1μm以下)となるため、高空孔率かつ微細な多孔質構造を有する不織布の製造に適していると考えられる。
これらの油性化合物は単体として配合してもよいし、複数の混合物を配合してもよい。さらには、エマルジョン特性を適当な状態に制御するために、これら油性化合物中に本発明で使用するセルロース不織布に含有する特定の水溶性化合物を溶解させてもよい。ただし、この際の特定の水溶性化合物の混合量は、油性化合物に対し25重量%以下であることが好ましい。これ以上の添加量とすると油性化合物のエマルジョンの形成能が低下するため、好ましくない。
【0046】
次に、該油性化合物の抄紙用水系分散液中の濃度は0.15重量%以上10重量%以下、好ましくは0.3重量%以上5重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。油性化合物の濃度が10重量%を超えても本発明のセルロース不織布を得ることはできるが、製造プロセスとして使用する油性化合物の量が多くなり、それに伴う、安全上の対策の必要性やコスト上の制約が発生するため好ましくない。また、油性化合物の濃度が0.15重量%よりも小さくなると所定の透気抵抗度範囲よりも高い透気抵抗度のシートしか得られなくなるため、やはり好ましくない。
【0047】
上述した油性化合物は、調製工程における水系分散液中にエマルジョンとして分散していることが重要である。この場合、油滴が水相に分散しているO/W型のエマルジョンである。油滴サイズに該当した網目構造が乾燥後の構造体に反映されるため、油滴サイズは小さく、安定に分散していることが好ましい。
【0048】
ここで、エマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性化合物が水相中に溶解していても構わない。これらの水溶性高分子のO/W型エマルジョンにおける作用としては、コロイド科学の分野で保護コロイドとして知られている(非特許文献3;川口正美著,「高分子の界面・コロイド科学」1999年,コロナ社,p170)。すなわち、水溶性高分子が水相に分散した油滴粒子の表面近傍(水と油滴の界面)に局在する傾向が強く、エマルジョンの安定化に寄与しているとされる。水溶性高分子の中で特に乳化性能の高いものでは、油滴表面への局在率が高いと考えられる。こうして油滴表面に局在した特定の水溶性化合物は、上述したエマルジョン抄紙の機構、すなわち、セルロースミクロフィブリルの作る緩やかな会合対中に油滴ごと取り込まれ、抄紙の過程で湿紙中に残存するため、高い残存率で湿紙中に残存することになる。
【0049】
エマルジョン抄紙法では、特定の水溶性化合物を使用することにより、湿紙中、すなわち乾燥後のセルロース不織布中にも該特定の水溶性化合物が高い効率で残存する。その点において、エマルジョン抄紙法は、本発明で使用するセルロース不織布の製造方法としてより好ましい方法である。
上述したように、エマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性化合物が水相中に溶解していることが必要であるが、該特定の水溶性高分子の濃度は、0.003重量%以上0.3重量%以下、より好ましくは、0.005重量%以上0.08重量%以下、さらに好ましくは、0.006重量%以上0.07重量%以下の量であると、本発明で使用するセルロース不織布が得られ易いと同時に、水系分散液の状態が安定化することが多いので好ましい。該濃度が0.003重量%よりも小さいと、上記特定の水溶性化合物の添加効果が現れ難いので好ましくなく、また、該濃度が0.3重量%を超えると泡立ち等の添加量増大に伴う負の効果が現れ易くなるため好ましくない。エマルジョンを安定化させる目的で、水系分散液中に上記特定の水溶性化合物以外に界面活性剤が、上記特定の水溶性高分子との合計量が上記濃度範囲で含まれていても構わない。
【0050】
この場合の界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタインなどの両性界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテルや脂肪酸グリセロールエステル等のノニオン性界面活性剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
この他、水系分散液中には、目的に応じて種々の添加物が添加されていても構わない。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、炭酸カルシウム粒子のような無機系粒子状化合物、樹脂微粒子、各種塩類、エマルジョンの安定性を阻害しない程度の有機溶剤等、本発明の高空孔率構造体の製造に悪影響を及ぼさない範囲(種類の選択や組成の選択)で添加することができる。
【0052】
調製工程で調製する水系分散液は、上述した化合物群から成るエマルジョン組成物であるが、エマルジョンの形成においては、乳化方法のあらゆる方法を採用することができる。すなわち、機械的乳化、転相乳化、液晶乳化、転相温度乳化、D相乳化、可溶化領域を利用した超微細乳化(マイクロエマルジョン乳化)等の方法によりO/W型エマルジョンを調製する。
【0053】
ここで、最終的な水系分散液中では水以外の成分は、85重量%以上99.5重量%以下、好ましくは90重量%以上99.4重量%以下、さらに好ましくは92重量%以上99.2%以下の組成の水中に分散または溶解していることが好ましい。水系分散液中の水の組成が85重量%より低くなると、粘度が増大するケースが多く、エマルジョンを分散液中に均一に分散し難くなり、均一な構造の通気性を有するセルロース不織布が得られ難くなるため好ましくない。また、水系分散液中の水の組成が99.5重量%を超えると、配合組成としてエマルジョンの含有量が低減され、濃縮組成物中の油性化合物濃度が低くなってしまい、通気性の構造体が得られ難くなるため、やはり好ましくない。
【0054】
水系分散液の調製は、一切の添加物を水中へ混入し、適当な乳化方法により水系エマルジョン分散液とするか、あるいは予め油性化合物と乳化剤からなる水系エマルジョンを上述したような適当な乳化方法で調製しておき、別途調製したセルロースミクロフィブリルおよびその他の添加物からなる水系分散液と混合して水系分散液とすればよい。
【0055】
次に、エマルジョン抄紙法の第二の工程は、第一の工程で調製した水系分散液を抄紙機で脱水することにより、セルロースミクロフィブリルを濾過し、エマルジョン濃度を濃縮化する抄紙工程である。該抄紙工程は、基本的に、水を含む分散液から水を脱水し、水不溶性の親水性高分子が留まるようなフィルターや濾布(製紙の技術領域ではワイヤーとも呼ばれる)を使用する操作であればどのような装置を用いて行ってもよい。上述したようにエマルジョン中の油滴は、セルロースミクロフィブリルのその近傍に局在する性質を有するため、脱水操作により液相が系外に排出されてもフィルターや濾布上に留まり、実質的にエマルジョン成分の濃縮化が進行することになる。
【0056】
抄紙機としては、傾斜ワイヤー式抄紙機、長網式抄紙機、円網式抄紙機のような装置を用いると好適に欠陥の少ないシート状のセルロース不織布を得ることができる。抄紙機は連続式であってもバッチ式であっても目的に応じて使い分ければよい。
ミクロフィブリル化セルロース等を使用して調製した水系分散液を抄紙する方法は、基本的には、本発明者らによる文献(特許文献3;国際公開2006/004012号パンフレット)に記載されている技術に準じる。特許文献3とエマルジョン抄紙法との差異は、抄紙用の水系分散液中に油性化合物と水から成るエマルジョンが含まれている点であるが、特許文献3で開示されている抄紙の条件により良好に抄紙を実施できる。その理由は、調製工程で調製する水系分散液中でエマルジョン成分がミクロフィブリル化セルロースから成る会合体中(軟凝集体)に取り込まれて存在している点にあると考えられる。
【0057】
すなわち、調製工程により得られる水系分散液(抄紙用の水系分散液)を用いて抄紙工程により脱水を行うが、抄紙はワイヤーまたは濾布を用いて水系分散液中に分散している微細セルロース等の軟凝集体を濾過する工程であるため、ワイヤーあるいは濾布の目のサイズが重要である。本発明においては、本質的には、上述した条件により調製した抄紙用の水系分散液を、該分散液中に含まれるセルロース等を含む水不溶性成分の歩留まり割合が70重量%以上、好ましくは、95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上で抄紙することのできるようなワイヤーあるいは濾布であればどんなものでも使用できる。
【0058】
ただし、セルロース等の歩留まり割合が70重量%以上であっても濾水性が高くないと抄紙に時間がかかり、著しく生産効率が悪くなるため、大気圧下25℃でのワイヤーまたは濾布の水透過量が、好ましくは0.005ml/cm・s以上、さらに好ましくは0.01ml/cm・s以上であると、生産性の観点からも好適な抄紙が可能となる。 上記水不溶成分の歩留まり割合が70重量%よりも低くなると、生産性が著しく低減するばかりか、用いるワイヤーや濾布内にセルロース等の水不溶性成分が目詰まりしていることになり、製膜後のセルロース不織布の剥離性も著しく悪くなる。
【0059】
ここで、大気圧下25℃でのワイヤーまたは濾布の水透過量は次のようにして評価するものとする。バッチ式抄紙機(例えば、熊谷理機工業社製の自動角型シートマシーン)に評価対象となるワイヤーまたは濾布を設置するにおいて、ワイヤーの場合はそのまま、濾布の場合は、80〜120メッシュの金属メッシュ(濾水抵抗がほとんど無いものとして)上に濾布を設置し、抄紙面積がxcmの抄紙機内に十分な量(ymlとする)の水を注入し、大気圧下で濾水時間を測定する。濾水時間がzs(秒)であった場合の水透過量を、 y/(xz) (ml/cm・s) と定義する。
ミクロフィブリル化セルロースの抄紙に使用できる、上記の条件を満たすワイヤーや濾布は限定される。極めて微細なミクロフィブリル化セルロース繊維に対しても使用できるフィルターまたは濾布の例として、SEFAR社(スイス)製のTETEXMONODLW07−8435−SK010(PET製)、敷島カンバス社製NT20(PET/ナイロン混紡)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0060】
抄紙工程による脱水では、エマルジョンの濃縮化と同時に高固形分化が進行し、セルロースミクロフィブリルの濃度と油性化合物の濃度を水系分散液より増加させた濃縮組成物である湿紙を得る。湿紙の固形分率は、抄紙のサクション圧(ウェットサクションやドライサクション)やプレス工程によって脱水の程度を制御し、好ましくは固形分濃度が6重量%以上25重量%以下、さらに好ましくは固形分濃度が8重量%以上20重量%以下の範囲に調整する。湿紙の固形分率が6重量%よりも低いと湿紙としての自立性がなく、工程上問題が生じ易くなる。また、湿紙の固形分率が25重量%を超える濃度まで脱水すると水相だけでなく、濃縮したエマルジョンが系外に排出されてしまい、セルロースミクロフィブリル近傍の水層の存在によって、却って油性化合物の濃度が低下してしまうため、有効に通気性のあるセルロース不織布を形成できなくなり、相応しくない。上述したようにエマルジョン抄紙法では、抄紙工程によってエマルジョンが濃縮化され、脱水前の水系分散液中の油性化合物濃度に対し、脱水工程後の湿紙では該油性化合物濃度が約5倍以上、好適な場合には10倍以上に濃縮化される。
【0061】
抄紙工程で得た湿紙は、加熱による乾燥工程で油性化合物及び水の一部を蒸発させることによって、セルロース不織布となる。乾燥工程は、ドラムドライヤーのような幅を定長とした状態で、水と油性化合物(以下、水と油性化合物を合わせて「分散媒」という。)を乾燥し得るタイプの定長乾燥型の乾燥機を使用すると、より透気抵抗度の低いセルロース不織布を安定に得ることができるため、好ましい。乾燥温度は、条件に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは、45℃以上180℃以下、さらに好ましくは、60℃以上150℃以下の範囲とすれば、好適に通気性のあるセルロース不織布を製造することができる。乾燥温度が45℃未満では、多くの場合に分散媒の揮発速度が遅いため、生産性が確保できないため好ましくなく、180℃より高い乾燥温度とすると、構造体を構成する親水性高分子が熱変性を起こしてしまうケースがあり、また、コストに影響するエネルギー効率も低減するため、やはり好ましくない。場合によっては、100℃以下の低温乾燥で組成調製を行い、次段で100℃以上の温度で乾燥する多段乾燥を実施することも、均一性の高いセルロース不織布を得るうえでは有効であることもある。
【0062】
次に、上述した乾燥工程で得られたセルロース不織布にカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を設けても良い。該平滑化工程を経ることにより表面が平滑化され、薄膜化された本発明のセルロース不織布を得ることもできる。以下に、その概要を説明する。
すなわち、乾燥後のセルロース不織布に対し、さらにカレンダー装置による平滑化処理を施す工程を含むことにより、薄膜化が可能となり、広範囲の、膜厚/通気度/強度の組み合わせの本発明のセルロース不織布を提供することが可能となる。例えば、10g/m以下の目付の設定下で20μm以下(下限は3μm程度)の膜厚のセルロース不織布を容易に製造することが可能である。カレンダー装置としては単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、およびカレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を目的に応じて選定することにより多種の物性バランスをもつセルロース不織布を得ることができる。
【0063】
乾燥後のセルロース不織布に対するカレンダー処理の作用原理には2通りが考えられる。まず、セルロース不織布の製造工程では、抄紙用原料として使用するセルロースミクロフィブリルの繊維長に対し、製造時に使用するワイヤーメッシュや濾布の表面凹凸のピッチが大幅に長いため、得られる不織布の表面はワイヤーメッシュや濾布の凹凸が転写され易い。第一点としては、カレンダー処理は、この凹凸を平坦化させる効果を有する。第二点目として、一定空孔率を有する不織布のネットワーク構造そのものを押し潰す効果である。二番目の効果により不織布の空孔率は低減し、平均孔径も小さくなることになり、結果的に、通気抵抗度は増大し、引張り強度や突刺し強度が増大することもある。実際には、設定したカレンダー処理条件に応じて、上記一番目の効果と二番目の効果が混在し(種々の貢献率となって)、得られるセルロース不織布の構造や物性が決まる。また、エンボス加工を表面に施したカレンダー処理用金属ロールを使用して、任意の表面パターンにより凹凸を加えたセルロース不織布も本発明で使用するセルロース不織布として好適に使用することができる。極めて精密な濾過が要求される場合には、機能性フィルターの表面がぴったりと微細な網目構造に接触している方が効果的で、このような場合にカレンダー処理による平滑化が有効であることがある。表面の凹凸性制御に関する処理は、機能性フィルターの目的に応じて選定すればよい。
【0064】
特に本発明で使用するセルロース不織布を連続的に製膜するためには、調製工程を除き、上述した抄紙工程、乾燥工程、場合によってはカレンダー処理による平滑化工程を連続的に実施する必要がある。この際、使用するワイヤーメッシュ(以下、単に「ワイヤー」ともいう。)はエンドレス仕様のものを用いて全工程を一つのワイヤーで行うかあるいは途中で次工程のエンドレスワイヤーまたはエンドレスのフェルト布にピックアップして渡すあるいは転写させて渡すかあるいは、連続製膜の全工程または一部の工程を濾布を使用するロールtoロールの工程とするかいずれかをとり得る。
さらに、抄紙機による抄紙工程において、抄紙機に通水性を有するシート状の支持体をのせて、水系分散液を構成する水の一部を該支持体上で脱水(抄紙)を行い、該支持体上にセルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布の湿紙を積層化させ、一体化させることにより、少なくとも2層以上の多層構造体からなる多層化シートを製造することができる。
【0065】
こうした多層化シートの製造に使用する支持体は、高空孔率かつ通水性のある不織布、あるいは多孔質膜であることが好ましい。具体的には、セルロース製、ポリエチレンテレフタレート製、6,6−ナイロン製、6−ナイロン製、ポリビニルアルコール製、各種ポリウレタン製の不織布、あるいはセルロース製、ポリエチレンテレフタレート製、6,6−ナイロン製、6−ナイロン製、ポリビニルアルコール製、各種ポリウレタン製の多孔質膜を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。不織布を構成する繊維の数平均繊維径が2μm以下であるマイクロウェッブと呼ばれる不織布や微多孔膜を用いると、それ自体が本発明における、ミクロフィブリル化セルロースの水系分散液から抄紙機で製膜する際の濾布の機能を有するため、抄紙の際に上述したようなワイヤーや濾布を使用することなく、一体化した多層構造を有する高空孔率構造体を製造することができる。3層以上の多層化シートを製造するためには2層以上の多層構造をもつ支持体を使用すればよい。また、支持体上で2層以上の本発明の多段抄紙を行って3層以上の多層化シートとしてもよい。
【0066】
以上の条件を満たすことにより、耐熱性、耐候性、耐溶剤性等に優れ、微細なネットワーク構造を有し、通気性かつ高強度の微多孔性のセルロース不織布を提供することができる。例えば、上述したセルロース不織布は、好適な場合には目付10g/m相当の引張り強度が、6N/15mm以上、さらに好適な場合には、8N/15mm以上の強度を有するものとして提供することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1,2および比較例1)
セルロース原料としてコットンリンターパルプ(日本紙パルプ商事(株))を使用し、該パルプを固形分10重量%となるように水中に浸漬させて130℃、4時間のオートクレーブ処理をした後、得られた膨潤パルプを何度も水洗し、水を含浸した状態の膨潤パルプを得た。該膨潤パルプの乾燥体について、α−セルロース含有率を測定したところ98.0重量%(全セルロース含有率は100重量%)であった。
【0068】
該膨潤パルプを固形分1.5重量%となるように水中に分散させて水分散体(400L)とし、ディスクレファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして400Lの該水分散体に対して、20分間叩解処理を進めた後、引き続いてクリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で叩解処理を続けた。経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値を評価したところ、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると、増大していく傾向が確認された。クリアランスをゼロ近くとしてから10分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値で73ml↑の叩解スラリー(該叩解スラリーを水分散体M0とする)を得た。得られた叩解スラリーを、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NS3015H)を用いて操作圧力100MPa下で5回の微細化処理を実施し、ミクロフィブリル化セルロースの水分散体(固形分濃度:1.5重量%)、M1を得た。
【0069】
次にこのM1を用いて、各種成分を加え、表1に示した実施例1、2の目付となるように抄紙機へのスラリー添加量を調製し、家庭用ミキサーで4分間、乳化、分散を行い、抄紙用の水系分散液を得た。実施例1〜2では、特定の水溶性化合物として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製ヒプロメロース60SH−4000)の5重量%水溶液を予め調製し、最終濃度0.012重量%になるように配合した。
【0070】
該水系分散液に対しミクロフィブリル化セルロースを大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力を有するPET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20、大気下25℃での水透過量:0.03ml/cm・s)を、以下で使用する角型金属製ワイヤーのサイズ(25cm×25cm)に揃えて裁断したものを濾布として、バッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン)を用いて抄紙(脱水)を行った。同抄紙機に組み込まれている角形金属製ワイヤー(25cm×25cm,80メッシュ)上に上述したPET製織物を設置し、その上から所定量の抄紙用分散液を抄紙機へ注入し、サクション(減圧装置)大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙を実施した。
【0071】
得られた濾布上に乗った湿潤状態の濃縮組成物からなる湿紙を、ワイヤー上から剥がし、湿紙面をドラム面に接触させるようにして、湿紙/濾布の2層の状態で表面温度が60℃に設定された熊谷理機工業社製ドラムドライヤーに貼り付けて約120秒間乾燥させた。こうして粗乾燥させた湿紙/濾布の2層を、今度は表面温度が130℃に設定されたドラムドライヤーにやはり湿紙がドラム面に接触するようにして約120秒間乾燥させ、得られた乾燥した2層体からセルロースのシート状構造物から濾布を剥離させて、白色の均一なセルロースからなるセルロース不織布S1(目付け:11.3g/m)、S2(目付け:23.1g/m)、(それぞれ実施例1、実施例2に対応)を得た。いずれの場合も、セルロースミクロフィブリルの収率はほぼ100%であった。
【0072】
いずれのサンプルも空孔率は80%近傍の白色で通気性のあるシートであった。S1の表面を10000倍の倍率でSEM画像解析を行ったところ、S1の表面におけるミクロフィブリル化セルロースの数平均繊維径は108nmであった。またS2の画像解析を行ったが、同様の結果であった。
【0073】
以上のことからS1、S2はいずれも本発明のフィルターに使用できるセルロース不織布であった。
なお、抄紙用の水系分散液の散乱式粒度分布測定による結果から、実施例1、実施例2における抄紙用の水系分散液中のエマルジョンの油滴径はおよそ0.2μmであり、極めて小さな油滴がセルロースミクロフィブリルからなる湿紙に取り込まれ、これを乾燥させることにより、微細なネットワーク構造が形成されているものと推定された。抄紙後の濾液中残存水溶性多糖類をガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、GC-2014)で測定したところ、セルロース不織布には4.2重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有していた。
【0074】
実施例1で得られた叩解処理のみ行った水分散体M0を用い、抄紙用分散液を実施例1と同じ乳化、分散方法で調製した。得られた水系分散液を用い、実施例1と同様のバッチ式抄紙の条件にて抄紙を行った。抄紙後、得られた湿紙を直ちに、実施例1の要領で乾燥させ、均一性に乏しい白色のシート状サンプルH1を得た(比較例1)。
【0075】
H1の表面のSEM画像から、H1の表面には、数μm〜10μm程度の繊維がかなりの量含まれており(数平均繊維径は859nm)、膜の均一性も乏しく、強度も低く、高度に叩解したフィブリル化セルロースを用いても本発明のフィルターに使用できるセルロース不織布は作製できないことが判明した。実施例と同様に抄紙後の濾液中残存水溶性多糖類を測定したところ、セルロース不織布には0.3重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースしか含有していなかった。不織布中の特定の水溶性化合物の含有量が少なかったのは、セルロース繊維の表面積が低いため、エマルジョンの油滴を有効に湿紙中に捕捉できなかったことによると推定される。
【0076】
膜厚(d(μm))測定は、一つの不織布サンプルについて膜厚計により測定された5点以上の測定値の平均値とした。特に、膜厚計は、空孔率の高い本発明の不織布サンプルを潰さずに評価できる観点から、面接触型のタイプ(Mitutoyo(株)製面接触型膜厚計(Code No.547−401))を使用した。
透気抵抗度測定は、ガーレー式デンソメータ((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて100mlの空気の透過時間(単位;s/100ml)の測定を室温で行った。結果は、zs/100mlであったとすると、次式
10×z/w (s/100ml) (1)
で定義されるものである。ここでzは、一つの不織布サンプルに対して種々の異なる位置について5点の測定を行い、その平均値である。
【0077】
集塵性能である捕集効率(%)は、平均粒径0.3μmのジオクチルフタレート粒子を含有する空気を流速5.3cm/秒で濾材を通気(濾過)させ、濾材の前後で空気をサンプリングし、それぞれの粒子数をパーティクルカウンター(リオン(株)製、形式KM-27)で測定し、次式より算出した。
捕集効率={(濾過前の粒子数−濾過後の粒子数)/濾過前の粒子数}×100 (2)
【0078】
ここで、個々の試料の引張り強度の評価は、JIS P 8113にて定義される方法に従い、熊谷理機工業(株)の卓上型横型引張試験機(No.2000)を用い、幅15mmのサンプル10点について測定し、その平均値を引張り強度とした。目付けの違いを考慮して、評価は10g目付け相当の値で評価した。
上記したセルロース不織布あるいは該不織布を1層とする多層化シートを基材とすることにより、各種機能性フィルター、詳しくは先述した(1)微細孔によるサイズ分離機能、(2)きわめて大きい比表面積による吸着機能による用途に有効な特性を示す。
実施例1〜2、比較例1で得られたシートについての結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例1および実施例2はミクロフィブリル化セルロースを有する本発明の不織布であり、捕集効率は98%以上という高濾過能力を示した。比較例1は繊維がミクロフィブリル化しておらず、微細構造を取れないために濾過能が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のセルロース不織布および該不織布を1層とする多層化シートを有する機能性フィルターは、気体系では家庭用や業務用の掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、脱臭フィルター、エアコン用フィルター、各種の空気清浄器用フィルター等、水系ではコーヒーフィルターやティーバッグ用フィルター等に、油系では家庭用・業務用の油こし紙、自動車用オイルフィルター、自動車用フュエルフィルター、その他各種の濾紙等の各種機能性フィルター、各種機能紙に利用でき、また、生産工程において液体中に含まれている微粒子を除去することを目的とした工業用の液体フィルターにも好適に使用できる。
【0082】
また、例えば飲料(ビール、清酒、ワイン、清涼飲料)、食品(食用油、酢、醤油、蜂蜜)、化粧品(液体整髪料、オーデコロン、香水)、医薬品(注射薬、目薬、その他の液状医薬品)、水(原料水、仕込水、洗浄水、半導体用純水)、化学薬品(樹脂、塗料、ワニス)等の各種液体の最終濾過(清澄、除菌)としても利用可能である。さらに、電荷修飾による花粉吸着フィルターや空気中浮遊ウイルス等微生物の補足フィルター、抗体固定化修飾による血液成分の特定物質補足フィルターやウイルス等微生物の除去フィルター、コラーゲン等細胞接着物質固定化修飾による細胞や微生物の培養フィルター、抗菌処理をした被覆創傷用フィルター等にも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースミクロフィブリルからなるセルロース不織布、または該不織布を一層として含む多層構造体からなる機能性フィルターであって、目付が3g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上2000s/100ml以下であることを特徴とする機能性フィルター。
【請求項2】
セルロース不織布を構成する繊維の数平均繊維径が300nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の機能性フィルター。
【請求項3】
セルロース不織布が、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される単数または複数の水溶性化合物を該セルロース不織布の重量を100%とした時に合計0.5重量%以上20重量%以下含有する不織布であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の機能性フィルター。

【公開番号】特開2010−115574(P2010−115574A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289231(P2008−289231)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】