説明

機能性フィルムの移し替え装置と細胞培養容器の製造方法

【課題】機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させることを可能とした移し替え装置の提供。また、その移し替え装置を用いて機能性フィルムを細胞培養容器の底面に配置する細胞培養容器の提供。
【解決手段】剥離フィルム14により支持された機能性フィルム10を剥離フィルム14から剥離して負圧吸着孔を備えた負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着させるときに、機能性フィルム10を吸着面の適正な位置に負圧吸着させ、機能性フィルム10を細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させることのできる移し替え装置、及び、当該移し替え装置を用いて機能性フィルムを細胞培養容器の底面に配置する細胞培養容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドに負圧吸着させるための移し替え装置とそれを用いた細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に細胞培養される親水性ポリマー(温度応答性ポリマー)の層を被覆した細胞培養支持体(シャーレなどの細胞培養容器)が特許文献1に記載されている。この細胞培養支持体を用いることにより、温度を変化させるだけで培養・増殖後の細胞を破壊することなく細胞支持体から容易に剥離して回収することができる。しかし、特許文献1に記載のように、シャーレなどの細胞培養容器に、別個にバッチ処理により表面処理をして機能性化合物層を設けることは、多くの手間を必要としており、作業性の観点からはなお改善する余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−211865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのための改善された手法として、機能性化合物層の多数個を帯状の剥離フィルム上に配列した原反を予め作っておき、ラベリングの手法を使って、原反から機能性化合物層を連続的に剥離させるとともに、各剥離した機能性化合物層を、従来からシート材などの搬送手段として用いられている負圧吸着ヘッドを用いて、細胞培養容器まで移送した後、負圧の解消と負圧吸着ヘッドからの排気を行い、機能性化合物層を細胞培養容器の底部に配置する手法が考えられる。
【0005】
細胞培養容器の底面に機能性フィルムを配置して細胞の培養・増殖を行う場合、細胞培養容器の底面と機能性フィルムの裏面との間に気泡が存在しない状態で、両者が密着していることが求められる。このため、原反から剥離した機能性化合物層を負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置し、負圧吸着ヘッドの吸着面に機能性フィルムを吸着した状態で細胞培養容器の上まで移送し、そこで負圧の解消と排気を行って機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させる処理を行う必要がある。
【0006】
しかしながら、従来から用いられている機能性フィルムの移し替え装置では、負圧吸着ヘッドの吸引力を用いて機能性フィルムを負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着させるため、機能性フィルムが負圧吸着ヘッドに対して適切な位置からずれて送出された場合には、その位置ずれを十分に修正することができず、機能性フィルムが負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置されない可能性がある。このように機能性フィルムが負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置されないと、負圧吸着ヘッドの負圧の解消と負圧吸着ヘッドからの排気を行い、機能性フィルムを細胞培養容器の底部に配置する際、機能性フィルムを細胞培養容器の底部の適正な位置に配置することができず、たとえば細胞培養容器の底面と機能性フィルムの裏面との間に気泡が存在して、細胞の培養や増殖を精緻に行うことができない恐れがある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、剥離フィルムから剥離した機能性フィルムを移し替え装置を用いて負圧吸着ヘッドに負圧吸着させ、該機能性フィルムを負圧吸着ヘッドを用いて初期位置から細胞培養容器へ移送するときに、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置し、機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させることを可能とした移し替え装置を提供することを第1の課題とする。また、その移し替え装置を用いて機能性フィルムを細胞培養容器の底面に配置する細胞培養容器の製造方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく多くの実験を行うことにより、従来知られた移し替え装置では、図11(a)に示すように、同じ孔径である複数の負圧吸着孔2を有する負圧吸着ヘッド7の吸着面1に機能性フィルム3がずれた位置で配置される場合があり、負圧の解除後にそこから排気したときに、機能性フィルム3の全面に亘って各負圧吸着孔2からほぼ等しい排気圧および等しい量の空気が作用し、結果として、機能性フィルム3は、図11(b)に示すように、細胞培養容器4の底面5とほぼ平行な姿勢を保った状態で細胞培養容器4の底面5に向けて落下し、図11(c)に示すように、機能性フィルム3の一端が細胞培養容器4の側壁部8と衝接した状態で細胞培養容器4の底面5に配置され、両者の間に気泡6が存在してしまうことを知見した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、本発明による移し替え装置は、剥離フィルムにより支持された機能性フィルムを該剥離フィルムから剥離して負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着させる移し替え装置であって、前記移し替え装置は、前記剥離フィルムから剥離された前記機能性フィルムの下面に対して気体を噴出するエアノズルを備え、該エアノズルから噴出される気体を受けた前記機能性フィルムを前記吸着面に負圧吸着させることを特徴とする。
【0010】
本発明による移し替え装置を用いて剥離フィルムから剥離した機能性フィルムを負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着させる際には、負圧吸着孔における吸引力とエアノズルから噴出される気体の圧力を利用して機能性フィルムを吸着面に負圧吸着させることができるため、剥離フィルムから剥離して吸着面に負圧吸着させるまでの機能性フィルムの姿勢を適正に維持することができると共に、剥離フィルムから剥離した機能性フィルムを迅速に吸着面の適切な位置へ配置することができる。また、機能性フィルムが吸着面に対してずれた位置に送出される場合であっても、負圧吸着孔における吸引力やエアノズルから噴出される気体の圧力を調整することで、吸着面に対する機能性フィルムの位置ずれを修正することができ、機能性フィルムを吸着面の適正な位置に配置することができる。
【0011】
結果として、負圧吸着ヘッドを用いて機能性フィルムを吸着面に負圧吸着した状態で初期位置から細胞培養容器へ移送し、負圧を解消すると同時に負圧吸着ヘッドの各負圧吸着孔から排気を行い、細胞培養容器上で機能性フィルムを負圧吸着ヘッドから分離する際には、細胞培養容器や負圧吸着ヘッドの位置の調整を行う必要がなく、機能性フィルムが吸着面から細胞培養容器の適正な位置へ向けて落下する。したがって、機能性フィルムの下面と細胞培養容器の底面が面一に配置されるので、間に気泡がない状態で機能性フィルムの全体が細胞培養容器の底面に配置されるようになる。
【0012】
なお、機能性フィルムの姿勢を維持するために機能性フィルムの下面に対して噴出する気体としては、例えば空気や窒素を用いることができる。
【0013】
本発明による移し替え装置の好ましい形態では、前記移し替え装置は、前記エアノズルを複数備える。このように移し替え装置がエアノズルを複数備えることにより、剥離フィルムから剥離して吸着面に負圧吸着させるまでの機能性フィルムに対して多方向から気体を噴出することができ、機能性フィルムの姿勢をより適正に維持することができるようになる。また、個々のエアノズルから噴出される気体の流量を抑制することができるため、エアノズルの構成を簡素化することができる。さらに、機能性フィルムが吸着面に対してずれた位置に送出される場合であっても、吸着面に対する機能性フィルムの位置ずれを多方向で修正することができるため、機能性フィルムを吸着面の適正な位置に精度良く配置することができる。
【0014】
また、本発明による移し替え装置の好ましい形態では、前記移し替え装置は、前記機能性フィルムを前記吸着面に負圧吸着させる際の該機能性フィルムの送り方向に少なくとも2つのエアノズルを備えてもよいし、前記機能性フィルムを前記吸着面に負圧吸着させる際の該機能性フィルムの送り方向と直交する方向に少なくとも2つのエアノズルを備えてもよい。
【0015】
移し替え装置が機能性フィルムを吸着面に負圧吸着させる際の機能性フィルムの送り方向に少なくとも2つのエアノズルを備えていれば、前記エアノズルから噴出される気体の圧力を適切に設定することで、機能性フィルムの送り方向における該機能性フィルムの位置を調整することができる。また、移し替え装置が機能性フィルムを吸着面に負圧吸着させる際の機能性フィルムの送り方向と直交する方向に少なくとも2つのエアノズルを備えていれば、前記エアノズルから噴出される気体の圧力を適切に設定することで、機能性フィルムの送り方向と直交する方向における該機能性フィルムの位置を調整することができる。
【0016】
また、本発明による移し替え装置の好ましい形態では、前記移し替え装置は、前記エアノズルから噴出される気体の流量及び/又は圧力を調整する調整手段を備える。このようにエアノズルから噴出される気体の流量及び/又は圧力を調整する調整手段を備えることにより、例えば適宜の検知手段によって剥離フィルムから剥離して吸着面に負圧吸着されるまでの機能性フィルムの位置を検知し、機能性フィルムが適正な位置から逸脱している場合には、その検知した位置情報に基づいてエアノズルから噴出される気体の流量や圧力を調整し、機能性フィルムの位置ずれを修正して機能性フィルムを吸着面の適切な位置へ誘導することができる。これにより、機能性フィルムを吸着面の適切な位置に精度良く配置することができるとともに、使用するエアノズルの基数を抑制して移し替え装置の製造コストの高騰を抑制することができる。
【0017】
本発明において、機能性フィルムを負圧吸着させる負圧吸着ヘッドの吸着面の平面視での形状は、特に限定されないが、好ましくは、移送する機能性フィルムを収容する細胞培養容器の底面形状と一致した形状である。また、エアノズルから噴出される気体の流量や圧力も特に制限はなく、実際の機能性フィルムが持つ物理的な物性値と細胞培養容器の底面形状とを考慮して実験的に最適値に設定すればよい。
【0018】
本発明は、さらに、その一方面に機能性有機化合物層が積層され、他方面に粘着剤層が積層された機能性フィルムと、該機能性フィルムの前記粘着剤層側を支持する剥離フィルムと、を備える原反を用意する工程と、前記機能性フィルムの前記機能性有機化合物層を上面側とした姿勢で前記原反を移送する工程と、前記剥離フィルムから前記機能性フィルムを剥離して前記原反から前記機能性フィルムを分離する工程と、前記原反から分離された前記機能性フィルムの下面に対して気体を噴出し、気体噴出を受けた前記機能性フィルムを負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着させる工程と、前記機能性フィルムの下方に細胞培養容器を配置し、負圧を解消して前記機能性フィルムを前記細胞培養容器に落下させ、前記粘着剤層を介して前記機能性フィルムを前記細胞培養容器に配置する工程と、からなることを特徴とする細胞培養容器の製造方法を開示している。
【発明の効果】
【0019】
本発明による移し替え装置を用いることにより、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に負圧吸着させることができ、その機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による移し替え装置によって負圧吸着ヘッドに負圧吸着される機能性フィルムの一例を説明する模式図。
【図2】多数個の機能性フィルムを帯状の剥離フィルムに仮接着した原反を説明する模式図。
【図3】本発明による移し替え装置を備えた細胞培養容器の製造装置の一例を説明する模式図。
【図4】図3に示す製造装置に用いる負圧吸着ヘッドの一例を説明する図であって、(a)はその縦断面図、(b)はその下面図。
【図5】本発明による移し替え装置を用いた場合での機能性フィルムの移し替え状態を説明する図であって、(a)は図3のA部拡大図、(b)は図5(a)のa−a線に沿う断面図。
【図6】本発明による移し替え装置を用いた場合での機能性フィルムの落下後の状態を説明する図。
【図7】機能性フィルムを配置した細胞培養容器の例であるフラスコ型細胞培養容器を示す図。
【図8】図7に示すフラスコ型細胞培養容器の製造手順を示す図。
【図9】図7に示すフラスコ型細胞培養容器の他の製造手順を示す図。
【図10】本発明による移し替え装置を用いた場合での機能性フィルムの落下状態を説明する図。
【図11】従来の移し替え装置を用いた場合での培養シートの落下状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は、本発明による負圧吸着ヘッドによって移送される機能性フィルムの一例を説明する模式的に示す断面図である。なお、本発明において、対象となる機能性フィルムは、可撓性を有しており、かつ表面に細胞培養に適した所望の機能が付与された、粘着剤層を備えたフィルムであれば特に限定されない。好ましい実施形態では、図1に示す機能性フィルム10のように、フィルム基材層11の一方の面に機能性化合物層12が積層され、他方の面に粘着剤層13が積層されている。なお、図1において、14は後記する帯状をなす剥離フィルムである。
【0022】
<フィルム基材層11>
限定されないが、フィルム基材層11は、一方の表面に前記機能性化合物層12を形成することが可能な材料を含むものであればよく、材料の種類は特に限定されない。典型的には、フィルム基材層11の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル等が挙げられる。
【0023】
フィルム基材層11の、機能性化合物層12が形成される側の表面は、易接着処理された表面であることができる。「易接着処理」とは、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の易接着剤による処理を指す。
【0024】
フィルム基材層11の厚さ(フィルム基材層11が基材の層に加えて易接着層を備える場合は、易接着層を含むフィルム基材層の全体の厚さを指す)は、特に制限は無いが可撓性を付与する厚さであることが好ましく、例えば5μm〜400μm、好ましくは50μm〜250μmである。
【0025】
<機能性化合物層12>
機能性化合物層12を構成する機能性化合物としては、有機化合物または無機化合物が挙げられ、より好ましくは、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマーや、1つ以上のエチレングリコール単位(CH−CH−O)からなるエチレングリコール鎖等の親水性化合物が挙げられる。
【0026】
機能性化合物層の膜厚は、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内とするのがよく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
以下「刺激応答性ポリマー層」および「親水性化合物層」の好適な実施形態について説明する。
【0028】
<刺激応答性ポリマー層>
機能性有機化合物層は、刺激応答性ポリマー層であることが特に好ましい。刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどを挙げることができる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易であることから好ましい。
【0029】
温度応答性ポリマーとして、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートの剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着し難くする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものを用いるとよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度Tと呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いるとよい。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃であると、細胞を安定的に培養できるからである。
【0030】
好適な温度応答性ポリマーとしては、アクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーが挙げられる。具体的に好適な温度応答性ポリマーとしては、例えばポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、およびポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0031】
pH応答性ポリマーおよびイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0032】
刺激応答性ポリマー層は、重合して目的の刺激応答性ポリマーを形成するモノマーと、該モノマーを溶解しうる有機溶媒とを含む塗布用組成物を調製し、これを慣用の塗布方法に従って、フィルム基材の表面に塗布して塗膜を形成し、次に、該塗膜に放射線照射等の適当な手段により塗膜中のモノマーを重合してポリマーを形成するとともに、フィルム基材の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより形成することができる。
【0033】
<親水性化合物層>
機能性有機化合物層の他の実施形態として、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(複数のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖は、「ポリエチレングリコール鎖」ということができる)等の親水性化合物の層が挙げられる。
【0034】
エチレングリコール鎖の末端は水酸基により封鎖された形態であってもよいし、エチレングリコール鎖の末端に生体関連物質等の他の物質が共有結合により連結された形態であってもよい。
【0035】
末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層は、細胞が接着し難い親水性の表面を提供することができる。
【0036】
エチレングリコール鎖の末端に共有結合されうる生体関連物質としては、抗原、抗体、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。更に、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、および高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。
【0037】
エチレングリコール鎖等の親水性化合物の層を、樹脂製のフィルム基材層の表面に固定化するためには、予め、フィルム基材層の表面に、物理的に吸着可能であって、エチレングリコール鎖の末端の水酸基と反応して共有結合を形成可能な官能基を側鎖に含むポリシロキサンを含むプライマー層を設ける。ポリシロキサンの側鎖上の官能基としては、グリシジル基またはエポキシ基が好ましい。プライマー層は、フィルム基材層の表面に、所望の側鎖を有するシラノール化合物を適用し、該表面上で縮合重合してポリシロキサンに変換することにより形成することができる。
【0038】
次いで、プライマー層の官能基と、エチレングリコールまたはエチレングリコール単位が2以上繰り返されたポリエチレングリコールの水酸基とを反応させて共有結合を形成し、エチレングリコール鎖を固定化する。このとき、触媒量の濃硫酸を含むエチレングリコールまたはポリエチレングリコールをプライマー層に接触させる。
【0039】
末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層はこのようにして形成される。
【0040】
更に、必要に応じて、エチレングリコール鎖の一端に、他の物質との共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基を直接的または間接的に連結させる。官能基の導入方法は特に限定されない。
【0041】
<粘着剤層13>
粘着剤層13を構成する粘着剤としてはポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を好ましく用いることができる。
【0042】
粘着剤層の厚さは特に限定されないが、10μm〜300μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましい。
【0043】
図1に示す層構造の機能性フィルム10は、任意の方法で作ることができるが、本実施の形態では、次のようにして作られる。すなわち、帯状をなす剥離フィルム14の全面に前記粘着剤層13を塗布し、その上に、同じ幅であるやはり帯状のフィルム基材層11と機能性化合物層12を積層する。それにより、図示するように、剥離フィルム14と粘着剤層13とフィルム基材層11と機能性化合物層12の層の4層構造からなる、長尺物20(図2参照)が形成される。なお、剥離フィルム14には、必要な強度や柔軟性を有する限り特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムに、シリコーン系剥離剤等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。
【0044】
長尺物20の前記剥離フィルム14とは反対の面から、得ようとする機能性フィルム10の外郭形状を持つ型枠(不図示)を、剥離フィルム14の表面にまで達するように押下する。それにより、機能性化合物層12とフィルム基材層11と粘着剤層13には、機能性フィルム10の外郭形状をなす切り込み線21が形成される。その型押し作業を所定の間隔をおいて連続的に長尺物20に対して行うことにより、図2に示すような、複数個の切り込み線21の入った長尺物20が得られる。
【0045】
機能性フィルム10の平面視での形状には制限はなく任意の形状を取ることができ、それに応じた型枠が用いられる。図2に示した例では、図7に示すような先狭まり状とされた細胞培養容器50Aの底面51Aに配置することを予定する機能性フィルム10を得ようとするものであり、切り込み線21は、細胞培養容器50Aの底面51Aの内周輪郭の形状とほぼ同じ形状とされている。
【0046】
前記長尺物20は、機能性フィルム10側が内側となるようにしてロール状に巻き込まれて原反22(図3参照)とされ、保管される。
【0047】
図3は、前記原反22から機能性フィルム10を分離し、分離後の機能性フィルム10を細胞培養容器50の底面51に移し替える装置の一例を示している。図示の移し替え装置30は、従来知られた3次元ロボットアーム(不図示)に取り付けられたエアーシリンダ31を備え、該エアーシリンダ31の下方先端に、図4に一例を示すような負圧吸着ヘッド40が着脱自在に装着されている。エアーシリンダ31は、3次元ロボットアームの制御装置(不図示)により、吸着面41の面方向であるX−Y軸方向および垂直方向であるZ軸方向に移動自在とされている。
【0048】
図3に示すように、エアーシリンダ31の近傍には、水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に延在する案内台32が位置しており、前記原反22から巻き出される長尺物20は、ガイドロール33によって案内されることで、前記案内台32の上面に沿って移動し、案内台32の先端でUターンした後、巻き取りロール34によって巻き取られる。長尺物20が案内台32の先端でUターンするときに、前記切り込み線21によって区画された内側の領域は機能性フィルム10の粘着材層13側を支持する剥離フィルム14から剥離し、案内台32の上面の延長線方向に送り出される。すなわち、機能性化合物層12とフィルム基材層11と粘着剤層13の3層構造からなる機能性フィルム10が、機能性化合物層12を上面側とし、粘着剤層13側を下面側とした姿勢で連続的に剥離フィルム14から剥離して分離され、水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に送り出される。
【0049】
移し替え装置30は、さらに、細胞培養容器50を水平姿勢に載置した状態で間欠的に移動と停止を繰り返すことのできる搬送コンベア35を備えている。
【0050】
また、移し替え装置30は、前記案内台32から送り出される機能性フィルム10の下方位置に、機能性フィルム10の横幅にほぼ等しい横幅を持つエアノズル37が空気噴出方向を斜め上方に向けた姿勢で複数取り付けられる。具体的には、前記案内台32の先端近傍の第1の位置と、機能性フィルム10の送り方向で第1の位置よりも遠方の第2の位置と、機能性フィルム10の送り方向と直交する方向で送り出された機能性フィルム10の両側方の第3及び第4の位置にエアノズル37a〜37dが取り付けられる。これらのエアノズル37からの空気噴出を下方から受けることにより、剥離フィルム14から剥離して送り出される機能性フィルム10は、吸着面41に負圧吸着されるまでほぼ水平な姿勢を維持することができる。
【0051】
前記負圧吸着ヘッド40は、図4(a)の縦断面図に示すように、実質的に平坦面である吸着面41と該吸着面41の裏面側の空気室42とを有し、前記空気室42は前記エアーシリンダ31の空気路36と接続している。そして、前記空気路36は適宜の図示しない空気吸引および排気手段に接続している。また、図4(b)に示すように、この例において、前記吸着面41の形状は平面視で円形であり、該吸着面41には多数の負圧吸着孔44が形成されている。すなわち、この移し替え装置30で用いる前記原反22には、図2に記したものと異なり、前記吸着面41とほぼ同じ大きさである円形の切り込み線21が一定間隔で形成されており、円形の機能性フィルム10が、前記したように、粘着剤層13側を下面側とした姿勢で連続的に剥離フィルム14から剥離して水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に送り出される。
【0052】
以下、機能性フィルム10を剥離フィルム14から剥離して負圧吸着ヘッド40の吸着面41に負圧吸着させる状態を具体的に説明する。不図示のロボットアームの制御装置は、図5(a)に示すように、送り出されてくる機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40によって負圧吸着することのできる位置に、前記エアーシリンダ31を位置させる。そして、吸着面41に負圧吸着させるまでの機能性フィルム10の姿勢を略水平に維持するために、エアノズル37から機能性フィルム10に空気を噴出しながら、吸引手段によって空気室42内の空気を吸引し、吸着面41に負圧を発生させ、それにより、機能性フィルム10は吸着面41に負圧吸引される。ここで、剥離フィルム14から剥離した機能性フィルム10は送り方向(図中、左方向)へ送り出されるので、送り出されてくる機能性フィルム10の位置を適宜の検知手段(不図示)によって検知し、その検知手段によって検知された位置情報を制御部39(図3参照)に送信し、制御部39から制御線39aを介してエアノズル37a〜37dに順次ON信号を送信することで、案内台32に近い順に順次エアノズル37a〜37dから空気が噴出されることとなる。なお、制御部39からエアノズル37a〜37dに同時にON信号を送信し、エアノズル37a〜37dの全てから一時に空気が噴出されてもよい。
【0053】
また、図5(b)に示すように、エアノズル37aとエアノズル37bとは、機能性フィルム10の送り方向に直交する平面であって負圧吸着ヘッド40の吸着面41の中心を通る平面P1の反対側に配置されている。また、エアノズル37cとエアノズル37dとは、前記平面P1に直交する平面であって負圧吸着ヘッド40の吸着面41の中心を通る平面P2の反対側に配置されている。このように、エアノズル37aとエアノズル37bとが機能性フィルム10の送り方向に配置されていることにより、たとえば物性値の異なる機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40の吸着面41に負圧吸着させる場合に、エアノズル37aとエアノズル37bの空気量や空気圧を予め適正に設定することで、負圧吸着ヘッド40の吸着面41に負圧吸着されるまでの機能性フィルム10の送り方向の位置を調整することができる。また、エアノズル37cとエアノズル37dとが機能性フィルム10の送り方向と直交する方向に配置されていることにより、たとえば物性値の異なる機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40の吸着面41に負圧吸着させる場合に、エアノズル37cとエアノズル37dの空気量や空気圧を予め適正に設定することで、負圧吸着ヘッド40の吸着面41に負圧吸着されるまでの機能性フィルム10の送り方向と直交する方向の位置を調整することができる。
【0054】
さらに、エアノズル37a〜37dにはエアノズル先端から噴出される空気の空気量や空気圧を調整する調整手段38a〜38dが設けられているので、検知手段によって検知された位置情報から機能性フィルム10が所定の位置に対してずれた位置で送り出されていることが検出された場合には、制御部39がエアノズル37a〜37dの調整手段38a〜38dに対して制御信号を送信し、前記調整手段38a〜38dを制御して各エアノズル37a〜37dから噴出される空気の空気量や空気圧を調整し、機能性フィルム10の送り方向や該送り方向と直交する方向の機能性フィルム10の位置ずれを修正して、機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40の吸着面41の適正な位置へ誘導する。例えば、原反22から剥離した機能性フィルム10が送り方向(図中、左方向)へずれた位置で送り出される場合には、エアノズル37bから噴出される空気の空気量や空気圧を大きくし、エアノズル37aから噴出される空気の空気量や空気圧を小さくし、送り方向と逆方向(図中、右方向)へ機能性フィルム10を誘導して、機能性フィルム10を吸着面41の適切な位置へ配置する。
【0055】
なお、送り出されてくる機能性フィルム10の吸着面41に対する位置を検知する検知手段としては、例えば赤外線センサや画像処理装置などを挙げることができる。例えば、前記案内台32の先端近傍に赤外線センサを配置して送り出されてくる機能性フィルム10の位置を検知し、その検知信号を制御部39に送信してエアノズル37から噴出される空気の空気量や空気圧を制御することができる。また、送り出されてくる機能性フィルム10の位置を画像処理装置によって検知し、その検知画像を制御部39に送信してエアノズル37から噴出される空気の空気量や空気圧を制御してもよい。
【0056】
また、前記調整手段38は、たとえばモータなどを使用し、検知手段によって検知した位置情報に基づいて制御部39からモータに対して駆動信号をし、モータを電気的に駆動してエアノズル37から噴出される空気の空気量や空気圧を制御してもよいし、検知手段によって検知した位置情報に基づいて使用者等が手動でバルブなどの調整手段を調整して、エアノズル37から噴出される空気の空気量や空気圧を制御してもよい。さらに、エアノズル37に位置調整手段や角度調整手段を設けておき、検知手段によって検知した位置情報に基づいてエアノズル37の位置や機能性フィルム10に対する空気の噴出角度を調整してもよい。
【0057】
なお、機能性フィルム10の下面に対して噴出する気体としては、空気の他、例えば窒素などの不活性ガスを適用することもできる。
【0058】
そして、上記するようにエアノズル37によって機能性フィルム10の位置や姿勢が制御され、機能性フィルム10が吸着面41に負圧吸引された状態で、制御装置はロボットアームを操作して、エアーシリンダ31を前記搬送コンベア35で搬送されてくる細胞培養容器50の直上位置に移動させる。すなわち、機能性フィルム10の下方に細胞培養容器50が配置される。移動後、細胞培養容器50の底面と機能性フィルム10との距離が0.1mm〜10mm程度となるまでエアーシリンダ31を下降させ、下降位置で、負圧を解消すると同時に、排気手段を操作して空気室42内に所定圧の空気を送り込む。この空気は吸着面41に形成した各負圧吸着孔44から吐出(排気)され、自重に加えて空気の吐出圧によって、機能性フィルム10は細胞培養容器50の底面に向けて落下する。なお、各負圧吸着孔44から空気を排気することなく、負圧を解消し、重力のみによって機能性フィルム10を細胞培養容器50の底面に向けて落下させてもよい。
【0059】
その際、本実施形態では、機能性フィルム10が吸着面41の適正な位置に配置されているので、たとえば細胞培養容器50の側壁部52に衝接することなく、吸着面41から細胞培養容器50の適正な位置へ向けて落下することとなる。図6は機能性フィルム10の裏面、すなわち粘着剤層13側の全面が細胞培養容器50の底面51に接触した落下後の状態を示しており、気泡が存在しない状態で、機能性フィルム10は粘着剤層13を介して細胞培養容器50の底面51に固定される。
【0060】
なお、図4(b)に示す負圧吸着孔44の孔径や基数、その形状は適宜選択することができる。図示しないが、例えば吸着面41の中央付近の領域の孔径を大きくしたり、孔の基数を多く設けることができ、さらに他の例として、負圧吸着孔44を平行な複数個のスリットによって形成することもできる。
【0061】
前記したように、負圧吸着ヘッド40における吸着面41の形状は、上記した円形に限らず、吸着した機能性フィルム10を移送する細胞培養容器50の底面51の形状に依存して定められる。細胞培養容器50は、図6に示したような、上方が開放した皿状または碗状の形状の容器に加えて、図7に示すようなフラスコ型の容器50Aも例として挙げられる。
【0062】
フラスコ型細胞培養容器50Aは、図7(a)に示すように、容器部100と蓋110を備える。容器部100は、底面51Aと、底面51Aの周縁に立設された側壁部102と、側壁部102の上端部に接合された、底面51Aに対向配置される天面部103とを少なくとも備える。底面51Aは矩形状の平板の一方端側が狭くなった形状であり、該狭くされた先端に対応する前記側壁部102の部分には通孔104が穿設されている。そして、通孔104の周縁から容器部100の外側に延びる首部105を備え、そこに蓋110が着脱可能に装着される。容器部100と蓋110とを組み合わせることによりフラスコ型の細胞培養容器50Aが形成される。
【0063】
図7(b)は、図7(a)のb−b線に沿う断面を示し、図7(c)はc−c線に沿う断面を示す。容器部100の、底面51A、側壁部102および天面部103に包囲される内部空間には、細胞および培地を収容するための内室130が形成されている。内室130に面する底面51Aの一部分には、前記した機能性フィルム10が固定されている。
【0064】
フラスコ型細胞培養容器50Aのように、機能性フィルム10が固定される面が開放されておらず閉鎖された容器内に位置している場合には、機能性フィルム10を固定することが可能な形状の部材に機能性フィルム10を固定し、フィルム固定後の部材を他の部材と組み合わせて目的とする細胞培養容器を完成させればよい。
【0065】
例えば、図8に示すように、底面51Aと側壁部102を備え、底面51Aの機能性フィルム10の固定面と反対の側が開放された第1部材201と、該開放した面に前記天面部103に対応する第2部材202を接合することにより容器部100を形成する。このとき、第2部材202を接合の前に、第1部材201の底面51Aの内側面に、前記した手法により機能性フィルム10が固定される。第1部材201と第2部材202の接合は、細胞培養の目的に応じて、必要な場合は培養液が漏出しないように、適宜の手法により液密に接合される。
【0066】
図9に示す実施形態では、底面51Aに対応する第1部材301と、首部105を備えた側壁部102に対応する第2部材302と、天面部103に対応する第3部材303とを接合することにより容器部100を形成する。この態様では、前記第1部材301の、底面51Aの内側面に対応する部分に、前記した手法により機能性フィルム10が固定される。
【0067】
なお、図7〜図9に示した底面51Aの形状を持つフラスコ型の細胞培養容器50Aに対して、機能性フィルム10を移送する場合には、図2に示したような、一方端側が狭くなった形状をなす切り込み線21の入った長尺物20を用いるとともに、負圧吸着ヘッド40における吸着面41の形状もそれに応じた形状とされる。
【0068】
このような形状の場合に、底面50Aの一方端側、図7〜図9に示す細胞培養容器50Aの場合には、底面51Aの前記首部105とは反対側の端部側の領域54に、落下する機能性フィルム10の一端側が最も速く接触できるようにすることが望ましい場合がある。図示しないが、図2に示した切り込み線21の形状に沿った吸着面41の形状を持つ負圧吸着ヘッド40の場合には、図2に斜線で示した領域15に空気の排気量が多い領域が形成されるように、負圧吸着孔44の孔径や基数を設定することで、機能性フィルム10が前記首部105とは反対側の端部側の領域54で最も速く底面51Aと接触できるとなる。
【0069】
それにより、図10(a)に示すように、機能性フィルム10は細胞培養容器50Aの底面51Aの一端側から、順次、容器底面に接触していくようになり、機能性フィルム10の下面と底面51Aとの間に気泡が入り込むのを確実に回避することが可能となる。また、図10(b)に示すように、細胞培養容器50Aの底面51Aが、水平部55と上方への傾斜部56を持つような場合にも、水平部55の傾斜部56とは反対側の端部領域に、落下する機能性フィルム10の一端側が最も速く接触できるようになる位置に空気の排気量が多くなるように、負圧吸着孔44の孔径や基数を設定することにより、機能性フィルム10を気泡のない状態での細胞培養容器50Aの底面51Aの適正な位置に配置することが可能となる。
【0070】
本発明において、各細胞培養容器を構成する材料は特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料、およびガラスや石英等の無機材料であることができるが、好ましくは樹脂材料である。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【符号の説明】
【0071】
10…機能性フィルム、
11…フィルム基材層、
12…機能性化合物層、
13…粘着剤層、
14…帯状をなす剥離フィルム、
20…4層構造からなる長尺物、
21…機能性フィルムの外郭形状をなす切り込み線、
22…ロール状の原反、
30…移し替え装置、
31…エアーシリンダ、
32…案内台、
33…ガイドロール、
34…巻き取りロール、
35…細胞培養容器の搬送コンベア、
36…エアーシリンダの空気路、
37(37a〜37d)…エアノズル、
38(38a〜38d)…調整手段、
39…制御部、
39a…制御線、
40…負圧吸着ヘッド、
41…吸着面、
42…空気室、
44…負圧吸着孔、
50、50A…細胞培養容器、
51、51A…細胞培養容器の底面、
52…細胞培養容器の側壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離フィルムにより支持された機能性フィルムを該剥離フィルムから剥離して負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着させる移し替え装置であって、
前記移し替え装置は、前記剥離フィルムから剥離された前記機能性フィルムの下面に対して気体を噴出するエアノズルを備え、該エアノズルから噴出される気体を受けた前記機能性フィルムを前記吸着面に負圧吸着させることを特徴とする移し替え装置。
【請求項2】
前記移し替え装置は、前記エアノズルを複数備えることを特徴とする請求項1に記載の移し替え装置。
【請求項3】
前記移し替え装置は、前記機能性フィルムを前記吸着面に負圧吸着させる際の該機能性フィルムの送り方向に少なくとも2つのエアノズルを備えることを特徴とする請求項2に記載の移し替え装置。
【請求項4】
前記移し替え装置は、前記機能性フィルムを前記吸着面に負圧吸着させる際の該機能性フィルムの送り方向と直交する方向に少なくとも2つのエアノズルを備えることを特徴とする請求項2または3に記載の移し替え装置。
【請求項5】
前記移し替え装置は、前記エアノズルから噴出される気体の流量及び/又は圧力を調整する調整手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の移し替え装置。
【請求項6】
その一方面に機能性有機化合物層が積層され、他方面に粘着剤層が積層された機能性フィルムと、該機能性フィルムの前記粘着剤層側を支持する剥離フィルムと、を備える原反を用意する工程と、
前記機能性フィルムの前記機能性有機化合物層を上面側とした姿勢で前記原反を移送する工程と、
前記剥離フィルムから前記機能性フィルムを剥離して前記原反から前記機能性フィルムを分離する工程と、
前記原反から分離された前記機能性フィルムの下面に対して気体を噴出し、気体噴出を受けた前記機能性フィルムを負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着させる工程と、
前記機能性フィルムの下方に細胞培養容器を配置し、負圧を解消して前記機能性フィルムを前記細胞培養容器に落下させ、前記粘着剤層を介して前記機能性フィルムを前記細胞培養容器に配置する工程と、からなることを特徴とする細胞培養容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−106525(P2013−106525A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251756(P2011−251756)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】