説明

機能性フィルムの製造方法

【課題】目的とする機能を好適に発現すると共に、優れた光学特性を有する機能性フィルムを、安定して製造できる機能性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】交互に形成された有機層と無機層とを有し、かつ、最上層が有機層である機能性フィルムを製造するに際し、有機層となった際の含有量が0.01〜10質量%となる界面活性剤とを含有する塗料を用いて、厚さが30〜300nmの最上層の有機層を形成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の上に有機層と無機層とを交互に形成してなる、ガスバリアフィルムなどの機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、各種の半導体装置、太陽電池等の各種装置において防湿性が必要な部位や部品、食品や電子部品等を包装する包装材料などに、ガスバリアフィルムが利用されている。
ガスバリアフィルムは、一般的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のプラスチックフィルムを基板(支持体)として、その上に、ガスバリア性を発現する膜(以下、ガスバリア膜とも言う)を成膜してなる構成を有する。また、ガスバリアフィルムに用いられるガスバリア膜としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム等の各種の無機化合物からなる膜が知られている。
【0003】
このようなガスバリアフィルムにおいて、より高いガスバリア性が得られるガスバリア膜として、有機化合物からなる膜(有機層(有機化合物層))と、無機化合物からなる膜(無機層(無機化合物層))との積層構造を有するガスバリア膜など、複数の膜を積層してなる積層型のガスバリア膜も知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材上にモノマーまたはオリゴマーを含有する塗布液を塗布して塗布膜を設け、この塗布膜を硬化させて有機層を成膜する工程を繰り返し、2層以上の有機層を含む下地層を形成し、この下地層の上に真空成膜法により無機層を形成する積層体の製造方法が記載されている。
この特許文献1に記載されるガスバリア膜のように、下地層として有機層を形成した後に、ガスバリア性を有する無機層を形成することにより、有機層の表面が有する平滑性を利用して、割れや剥離等の欠陥が無い、均一な無機層を形成することができる。そのため、このような積層型のガスバリア膜によれば、無機層が有するガスバリア性を十分に発揮して、高いガスバリア性を有するガスバリアフィルムを得ることができる。
【0005】
このような有機層と無機層とを積層したガスバリア膜(ガスバリアフィルム)においては、有機層と無機層との積層体を、2以上、繰り返し形成することにより、より高いガスバリア性を得られることも知られている。
また、ガスバリア膜として利用される窒化珪素膜や酸化珪素膜などの無機膜は、一般的に、脆く、かつ、薄膜である。そのため、有機層と無機層との積層体をガスバリア膜として利用する場合には、最上層(基板と逆側の最表層)に有機層を形成し、保護層としての機能を持たせることも、知られている。このように、最上層に保護膜としての有機層を形成することにより、壊れ易い無機膜を有するガスバリアフィルムに対して、後述するロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による処理や、裁断等の加工を安定して行なうことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−269193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、有機層と無機層との積層構造を有するガスバリア膜では、有機層は、重合性の有機化合物を含有する塗料を用いる塗布膜であり、無機層は、プラズマCVD等の気相堆積法(真空成膜法)による膜である。
【0008】
ここで、ガスバリアフィルム、特に、各種の光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の表示装置など、光学用途に利用されるガスバリアフィルムでは、高いガスバリア性のみならず、優れた光学特性(特に光透過性)も重要な機能の1つである。
【0009】
従って、ガスバリア膜は、層構成として、光の反射を抑制できる構成であるのが好ましい。ここで、最上層に保護膜として機能する有機層を有するガスバリアフィルムでは、空気との界面が有機層であり、この有機層の特性が、光学特性に大きな影響を与える。
すなわち、最上層の有機層が厚いと、透過率を低下させる結果になる。そのため、最上層の有機層には、保護膜として十分な機能を有すると共に、薄いことが望まれる。
【0010】
ところが、周知のように、無機層と有機層(無機化合物の膜と有機化合物の膜)とでは、全く異なる特性を有する。また、両者の形成方法(成膜方法)も、一方が塗布法で、他方が気相堆積法と、全く異なる。
そのため、下層(すなわち成膜面)が無機層であることを考慮して、適正な有機層の形成条件を設定しないと、薄く、かつ、均一な有機層を安定して形成することが、出来ない場合も多い。
【0011】
本発明の目的は、基板(支持体)の上に、有機層と無機層とを積層してなり、かつ、最上層が有機層であるガスバリアフィルム等の機能性フィルムの製造において、塗布法によって、薄く、かつ、抜け等の無い、優れた光学特性および保護性能を有する最上層の有機層を形成することができ、これにより、ガスバリア性等の所定の機能のみならず、光学特性にも優れた機能性フィルムを、安定して製造することを可能にする機能性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上に、有機層と無機層とを交互に形成して、最上層として、無機層の表面に有機層を形成すると共に、最上層の有機層は、有機溶剤と、有機層となる有機化合物と、有機層となった際の含有量が0.01〜10質量%となる界面活性剤とを含有する塗料を用いて、厚さが30〜300nmの有機層を形成することを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供する。
【0013】
このような本発明の機能性フィルムの製造方法において、塗料の有機化合物が、光重合反応によって架橋する(メタ)アクリレート系の有機化合物であるのが好ましい。
また、表面に最上層の有機層を形成される無機層が、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、および、酸化アルミニウムのいずれかで形成されるのが好ましい。
また、表面に最上層の有機層を形成される無機層が珪素化合物で形成され、かつ、塗料の界面活性剤が、珪素化合物以外の界面活性剤であるのが好ましい。
【0014】
また、塗料の有機溶剤を除去した状態での粘度が10cP以上であるのが好ましい。
また、塗料の塗布前の粘度が10cP以下であるのが好ましい。
また、塗料を、ダイコータによって塗布するのが好ましい。
【0015】
また、表面に最上層の有機層を形成される無機層を成膜した後、この無機層の表面に保護フィルムを貼り付け、この保護フィルムを剥離して、最上層の有機層を形成するのが好ましい。
また、表面に最上層の有機層を形成される無機層を、所定圧力の減圧下で成膜し、かつ、この減圧下での無機層の成膜空間内において、無機層の表面への保護フィルムの貼り付を行なうのが好ましい。
【0016】
また、表面に最上層の有機層を形成される無機層の表面エネルギが、30mN/m以上であるのが好ましい。
さらに、表面に最上層の有機層を形成される無機層を、プラズマCVDもしくは真空蒸着によって形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成を有する本発明の機能性フィルムの製造方法によれば、基板上に、有機層と無機層とを交互に積層してなり、かつ、最上層が有機層である機能性フィルムの製造において、最上層に、塗布法によって、薄く、しかも、薄くても抜け等が無く無機層の保護膜として適正に機能する有機層を、安定して形成(成膜)できる。
そのため、本発明によれば、好適に保護された無機層が適正に目的とする機能を発現し、かつ、優れた光学特性を有する機能性フィルムを、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)〜(C)は、本発明の製造方法で製造する機能性フィルムの一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の機能性フィルムの製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す図で、(A)は有機層の形成装置、(B)は無機層の形成装置である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の機能性フィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0020】
図1に、本発明の機能性フィルムの製造方法で製造される機能性フィルムの一例を概念的に示す。
本発明の機能性フィルムの製造方法は、基板の上に、有機層と無機層とを交互に形成してなり、かつ、2層以上の有機層を有し、さらに、最上層(基板と逆側の最表層/基板から最も遠い層)が有機層である、機能性フィルムを製造するものである。
【0021】
図1(A)に示す機能性フィルム10aは、基板Bの上(表面)に有機層12を有し、この有機層12の上に無機層14を有し、この無機層14の上に、最上層の有機層である保護有機層16を有するものである。
【0022】
なお、本発明の製造方法で製造する機能性フィルムは、図示例のような、2層の有機層で、無機層を挟んだ、基板Bの上に有機層と無機層とを交互に合計で3層、有する物に限定はされない。
すなわち、本発明の製造方法は、基板Bの表面に有機層が形成され、また、最上層が有機層であれば、有機層/無機層の組み合わせを、2以上有する機能性フィルムの製造にも、好適に利用可能である。このように、有機層/無機層の組み合わせを複数組有することにより、より優れたガスバリア性など、より高い機能を発現する機能性フィルムを製造することができる。
【0023】
例えば、本発明の製造方法は、図1(B)に示すような、基板Bの表面の有機層12、その上の無機層14、その上の有機層12、その上の無機層14、および、最上層の有機層である保護有機層16を有する、基板Bの上に、有機層と無機層とを交互に合計で5層有する、機能性フィルム10bの製造にも利用可能である。
あるいは、本発明の製造方法は、図1(C)に示すように、基板Bの表面の有機層12、その上の無機層14、その上の有機層12、その上の無機層14、その上の有機層12、その上の無機層14、および、最上層の有機層である保護有機層16を有する、基板Bの上に、有機層と無機層とを交互に合計で7層有する、機能性フィルム10cの製造にも利用可能である。
さらに、有機層と無機層とを交互に合計で9層以上有する、機能性フィルムの製造にも利用可能である。
【0024】
本発明の製造方法において、基板(基材/支持体)Bには、特に限定はなく、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムの基板として利用されている、公知のシート状物が、各種、利用可能である。
好ましくは、後述するロール・ツー・ロールでの有機層および無機層の形成が可能なように、長尺なシート状の基板B(ウエブ状の基板B)が利用される。
【0025】
基板Bとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの、各種のプラスチック(高分子材料)からなるプラスチックフィルムが、好適に例示される。
また、基板Bは、このようなプラスチックフィルムの表面に、保護層、接着層、光反射層、反射防止層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されているものであってもよい。
【0026】
有機層12は、有機化合物からなる膜(有機化合物を主成分とする膜)であって、有機化合物のモノマーやオリゴマーを、架橋(重合)して硬化(硬膜)したものである。
本発明の製造方法(本発明の製造方法による機能性フィルム)において、有機層12は、基本的に、ガスバリア性等の目的とする機能を発現する無機層14の形成面(成膜面)を平坦にする、下地層として機能する。このような有機層12を有することにより、ヒビ、割れ、剥離等の無い均一な無機層14を形成することができ、目的とする機能を適正に発現する機能性フィルムを製造することができる。
【0027】
本発明の製造方法において、有機層12の形成材料には、特に、限定はなく、公知の有機化合物(樹脂/高分子材料)が、各種、利用可能である。
具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他の有機珪素化合物が好適に例示される。
【0028】
中でも、無機層14の形成面を平坦にして、その機能を十分に発現できる、耐熱性に優れる等の点で、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された有機層12は、好適である。
中でも、上記平坦性や耐熱性に加え、強度や光学特性にも優れる等の点で、アクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂などは、有機層12として好適に例示される。
【0029】
なお、有機層12は、全てが同じ材料からなるものでも、互いに異なる材料を含むものでも、全てが異なる材料からなるものでもよい。また、後述する保護有機層16と同じ材料からなるものでもよい。
【0030】
前述のように、本発明の製造方法において、有機層12は、基本的に、無機層14の形成面を平坦にする下地層として機能する。
従って、有機層12の厚さは、この目的を達成できる厚さを、適宜、設定すればよい。特に、本発明者の検討によれば、有機層12の厚さは、500〜3000nmとするのが好ましい。有機層12の厚さを500nm以上とすることにより、無機層14の下地層として十分な表面の平坦性を得ることができる。また、有機層12は、厚すぎると、割れが生じたり、透過率が低下するおそれがあるので、3000nm以下とするのが好ましい。また、同様の理由で、有機層12の厚さは、500〜2500nmとするのが、より好ましい。
【0031】
無機層14は、無機化合物からなる膜(無機化合物を主成分とする膜)である。本発明で製造される機能性フィルムにおいて、無機層14は、ガスバリア性、所定帯域波長の透過や遮蔽などの光学的なフィルタ特性など、目的とする機能を主に発現するものである。
中でも、本発明による製造方法では、平坦化のための下地層としての有機層を有するので、この平坦化による効果が大きい等の点で、ガスバリア性を有する無機層14は、好適に例示される。すなわち、本発明の製造方法は、ガスバリアフィルムの製造には、特に好適に利用される。
【0032】
無機層14としては、前述のようなガスバリア性や光学的なフィルタ特性など、機能性フィルムが目的とする機能を発現する無機化合物からなる膜が、各種、利用可能である。
例えば、機能性フィルムとして、ガスバリアフィルムを製造する場合であれば、ガスバリア性を発現する、各種の無機化合物からなる膜を形成すればよい。
具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物; 窒化アルミニウムなどの金属窒化物; 炭化アルミニウムなどの金属炭化物; 酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸炭化ケイ素、酸化窒化炭化ケイ素などのケイ素酸化物; 窒化ケイ素、窒化炭化ケイ素などのケイ素窒化物; 炭化ケイ素等のケイ素炭化物; これらの水素化物; これら2種以上の混合物; および、これらの水素含有物等の、無機化合物からなる膜が、好適に例示される。
特に、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、酸化アルミニウムは、優れたガスバリア性を発現できる点で、ガスバリアフィルムには、好適に利用される。
【0033】
なお、無機層14は、全てが同じ材料からなるものでも、互いに異なる材料を含むものでも、全てが異なる材料からなるものでもよい。
【0034】
本発明において、無機層14の厚さには、特に限定はない。すなわち、無機層14の膜厚は、形成材料に応じて、目的とする機能を発現できる厚さを、適宜、決定すればよいが、15〜200nmとするのが好ましい。
無機層14の厚さを15nm以上とすることにより、十分な機能を安定して発現する無機層14が形成できる。また、無機層14は、一般的に脆く、厚過ぎると、割れやヒビ、剥がれ等を生じる可能性が有るが、無機層14の厚さを200nm以下とすることにより、割れが発生することを防止できる。
また、このような点を考慮すると、無機層14の厚さは、15〜100nmにするのが好ましく、特に、20〜75nmとするのが好ましい。
【0035】
本発明の機能性フィルムの製造方法では、最上層(基板と逆側の最表層/基板から最も遠い層)に、主に最も上に形成される無機層14を保護するための、保護有機層16を形成する。
前述のように、無機層14は、一般的に脆く、かつ、薄膜である。そのため、有機層12と無機層14とを交互に積層してなる機能性フィルム10a等では、最上層に保護層としての機能を有する保護有機層16を形成することで、壊れ易い無機層14に対して、後述するロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による処理や、裁断等の加工を安定して行なうことが可能となる。
【0036】
本発明の製造方法において、保護有機層16としては、前述の有機層12と同様の有機化合物からなる膜が、各種、利用可能である。
特に、膜厚が薄くても、保護膜として十分な機能を発現できる等の点で、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された保護有機層16は、好適である。
【0037】
中でも特に、上記強度に加え、屈折率が低い、光学特性に優れる等の点で、アクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂は、保護有機層16として好適に例示される。
その中でも特に、後述する架橋(硬化)前の粘度等の点で、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(DPGDA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、(変性)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)など、アクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体、中でも特に、モノマーやオリゴマーの状態で粘度が10cP以上のアクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体は、特に好適に例示される。
【0038】
ここで、本発明の製造方法において、保護有機層16は、0.01〜10質量%の界面活性剤を含有する。すなわち、本発明の製造方法においては、保護有機層16となった際に含有量が0.01〜10質量%となる分量の界面活性剤を含有する塗料を用いて、保護有機層16を形成する。
この点に関しては、後に詳述する。
【0039】
また、本発明の製造方法では、厚さが30〜300nmの保護有機層16を形成する。
保護有機層16は、厚い程、保護膜としての機能を発現する。しかしながら、機能性フィルムの光学特性は、主に、空気との界面となる最上層(最表面)である保護有機層16の影響が大きい。そのため、製造する機能性フィルムの光学特性、特に、光透過率を考慮すると、保護有機層16は、出来るだけ薄くするのが好ましい。
【0040】
保護有機層16の厚さが30nm未満では、保護有機層16の強度が不十分であり、保護有機層16が十分な保護性能を発現できない。また、保護有機層16の厚さが30nm未満では、後述する塗料のハジキによって、無機層14の表面に保護有機層16が形成されない部分が生じてしまう。そのため、下層の無機層14にヒビや割れ等を生じてしまい、例えば、ガスバリアフィルムであれば、所定のガスバリア性能を得ることができなくなってしまう。
逆に、保護有機層16の厚さが300nmを超えると、光透過率が低くなってしまい、十分な光学特性を有する機能性フィルムを得ることができない。そのため、例えば、ガスバリアフィルムであれば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の光学用途に利用されるガスバリアフィルムとして利用できなくなってしまう。
以上の点を考慮すると、保護有機層16の厚さは50〜200nm、特に、80〜120nmとするのが好ましい。
【0041】
図2に、本発明の機能性フィルムの製造方法を実施する製造装置の一例を、概念的に示す。
この製造装置は、有機層12や保護有機層16を形成(成膜)する有機成膜装置20と、無機層を形成する無機成膜装置24とを有する。なお、図2において、(A)は、有機成膜装置20であり、(B)は、無機成膜装置24である。
【0042】
図2に示す有機成膜装置20および無機成膜装置24は、共に、長尺な被成膜材料(ウエブ状の被成膜材料)をロール状に巻回してなる材料ロールから、被成膜材料を送り出し、被成膜材料を長手方向に搬送しつつ成膜を行い、成膜済の被成膜材料を、再度、ロール状に巻回する、いわゆる、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRとも言う)によって、成膜を行なう装置である。
本発明の製造方法においては、好ましい態様として、このようなRtoRを利用することにより、効率のよい機能性フィルムの製造が可能になる。
【0043】
なお、本発明の製造方法は、長尺な基板Bを用いてRtoRによってガスバリアフィルム等の機能性フィルムを製造するのに限定はされず、カットシート状の基板Bを用いて、いわゆる枚葉式(バッチ式)の成膜方法を用いて、機能性フィルムを製造するものであってもよい。
カットシート状の基板Bを用いた場合でも、有機層12および無機層14、ならびに、最上層の有機層である保護有機層16の形成方法は、以下に説明するRtoRによる製造方法と、同様である。
また、本発明の製造方法において、有機層12および/または無機層14を、複数、形成する場合には、形成方法(成膜方法)は、各層で同じでも異なってもよい。
【0044】
ここで、図2に示す装置は、図1(A)〜(C)に示すような、基板Bの上に、有機層12と無機層14とが交互に形成され、かつ、基板Bの表面に有機層12が形成され、さらに、最上層の有機層が保護有機層16である機能性フィルムを製造するものである。
従って、有機層12や保護有機層16を形成する図2(A)の有機成膜装置20において、被成膜材料Zaとなるのは、長尺な基板B、もしくは、長尺な基板Bに有機層12と無機層14とが形成されてなる、表面が無機層14の材料である。
他方、無機層14を形成する図2(B)の無機成膜装置24において、被成膜材料Zbとなるのは、長尺な基板Bに有機層12が形成された材料、もしくは、長尺な基板Bに有機層12および無機層16が形成されてなる、表面が有機層12の材料である。
【0045】
図2(A)に示す有機成膜装置20は、被成膜材料Zaを長手方向に搬送しつつ、有機層12もしくは保護有機層16となる塗料を塗布、乾燥した後、光照射によって塗膜に含まれる有機化合物を架橋して硬化し、有機層12や保護有機層16を成膜する装置である。
このような有機成膜装置20は、一例として、塗布手段26と、乾燥手段28と、光照射手段30と、回転軸32と、巻取り軸34と、搬送ローラ対36および38とを有する。また、有機成膜装置20は、無機層14を成膜する無機成膜装置24で貼着された保護フィルムFを剥離して巻き取る、巻取り軸40も有する。
なお、有機成膜装置20は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対、被成膜材料Zbのガイド部材、各種のセンサなど、長尺な被成膜材料を搬送しつつ塗布による成膜を行なう公知の装置に設けられる各種の部材を有してもよい。
【0046】
有機成膜装置20において、被成膜材料Zaを巻回してなる材料ロール42は、回転軸32に装填される。
回転軸32に材料ロール42が装填されると、被成膜材料Zaは、材料ロール42から引き出され、搬送ローラ対36を経て、塗布手段26、乾燥手段28および光照射手段30の下部を通過して、搬送ローラ対38を経て、巻取り軸34に至る、所定の搬送経路を通される(通紙される)。
有機成膜装置20では、材料ロール42からの基板Bの送り出しと、巻取り軸34における基板Bの巻き取りとを同期して行なって、長尺な被成膜材料Zaを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、被成膜材料Zaに、連続的に、有機層12などの成膜を行なう。
【0047】
材料ロール42から送り出された被成膜材料Zaは、搬送ローラ対36によって挟持搬送されて、最初に塗布手段26に搬送される。
なお、被成膜材料Zaが、無機層14を成膜された後の材料である場合には、無機層14の表面に保護フィルムFが貼着されているので、搬送ローラ対36による搬送、および、この搬送と同期して回転する巻取り軸40による巻取りによって、被成膜材料Zaから保護フィルムFを剥離する。すなわち、有機成膜装置20において、剥離ローラ対36は、保護フィルムFの剥離ローラとしても作用する。
【0048】
塗布手段26は、被成膜材料Zaの表面に、予め調製した、有機層12となる塗料もしくは保護有機層16となる塗料を塗布するものである。
ここで、本発明の製造方法において、有機膜12は、前記特許文献1に記載される形成方法等、公知の有機化合物からなる膜の形成方法(成膜方法)で形成すればよい。従って、有機層12を形成するための塗料は、有機溶剤に、有機層12となる有機化合物(モノマーやオリゴマー)を溶解し、さらに、必要に応じてシランカップリング剤や光重合開始剤等の添加剤を添加してなる、有機化合物からなる膜を成膜するための、公知の塗料を用いればよい。
これに対し、本発明の製造方法において、保護有機層16を形成するための塗料は、有機溶剤および保護有機層16となる有機化合物のみならず、界面活性剤を含有し、かつ、塗布前および架橋前の粘度が、所定の粘度となるように調整された塗料である。この点に関しては、後に詳述する。
【0049】
塗布手段26において、被成膜材料Zaへの塗料の塗布方法には、特に限定は無い。
従って、塗料の塗布は、ダイコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法等の公知の塗料の塗布方法が、全て利用可能である。
ここで、塗布手段26は、無機層14の上に塗料を塗布する場合が有るので、ダイコート法(ダイコータ)によって、塗料の塗布を行なうのが好ましい。前述のように、無機層14は、脆く、ヒビ等が入り易いが、ダイコータによれば、塗料以外が無機層14に接触することが無いので、無機層14の損傷を好適に防止できる。特に、本発明の製造方法で形成する保護有機層16は、前述のように、非常に薄いので、その塗料を塗布する場合には、ダイコータを利用するのが好ましい。
【0050】
被成膜材料Zaは、次いで、乾燥手段28に搬送される。乾燥手段28は、塗布手段26が塗布した塗料を乾燥するものである。
塗料の乾燥方法には、特に限定はなく、ヒータによる加熱乾燥、温風による加熱乾燥等、被成膜材料Zaの搬送速度等に応じて、被成膜材料Zaが光照射手段30に至る前に、塗料を乾燥(有機溶剤を除去)して、架橋が可能な状態にできるものであれば、公知の乾燥手段が全て利用可能である。
【0051】
被成膜材料Zaは、次いで、光照射手段30に搬送される。光照射手段30は、塗布手段26が塗布し乾燥手段28が乾燥した塗料に紫外線(UV光)や可視光などを照射して、塗料に含まれる有機化合物(有機化合物のモノマーやオリゴマー)を架橋(重合)して硬化し、有機層12あるいは保護有機層16とするものである。
なお、本発明において、有機化合物の架橋は、光重合に限定はされず、加熱重合、電子ビーム重合、プラズマ重合等、有機層となる有機化合物に応じた、各種の方法が利用可能である。ここで、本発明の製造方法においては、前述のように、有機層12および保護有機層16として、特に、保護有機層16としてアクリル樹脂やメタクリル樹脂などのアクリル系樹脂が好適に利用されるので、光重合が好適に利用される。
【0052】
このようにして有機層12あるいは保護有機層16を形成された被成膜材料Zaは、搬送ローラ対38に挟持搬送されて巻取り軸34に至り、巻取り軸34によって、再度、ロール状に巻き取られる。
ここで、有機層12を形成された被成膜材料Zaは、無機層14を形成する無機成膜装置24に対応する被成膜材料Zbを巻回してなる材料ロール46として、図2(B)に示す無機成膜装置24(その供給室50)に供給される。
他方、保護有機層16を形成された被成膜材料Zaは、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムを巻回してなる機能性フィルムロール48として、次の工程等に供される。
【0053】
無機成膜装置24は、被成膜材料Zb(有機層12)の表面に、気相堆積法(真空成膜法)によって無機層14を成膜(形成)するもので、供給室50と、成膜室52と、巻取り室54とを有する。
なお、無機成膜装置24は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対や、被成膜材料Zbの幅方向の位置を規制するガイド部材、各種のセンサなど、長尺な被成膜材料を搬送しつつ気相堆積法による成膜を行なう公知の装置に設けられる各種の部材を有してもよい。
【0054】
供給室50は、回転軸56と、ガイドローラ60と、真空排気手段61とを有する。
無機成膜装置24において、被成膜材料Zbを巻回した材料ロール46は、供給室50の回転軸56に装填される。
回転軸56に材料ロール46が装填されると、被成膜材料Zbは、供給室50から、成膜室52を通り、巻取り室54の巻取り軸58に至る所定の搬送経路を通される(通紙される)。無機成膜装置24においても、材料ロール46からの被成膜材料Zbの送り出しと、巻取り軸58での成膜済の被成膜材料Zbの巻き取りとを同期して行なって、被成膜材料Zbを長手方向に搬送しつつ、成膜室52において、被成膜材料Zbに連続的に無機層14の成膜を行なう。
【0055】
供給室50においては、図示しない駆動源によって回転軸56を図中時計方向に回転して、材料ロール46から被成膜材料Zbを送り出し、ガイドローラ60によって所定の経路を案内して、隔壁76に形成されたスリット76aから、成膜室52に送る。
【0056】
なお、図示例の無機成膜装置24には、好ましい態様として、供給室50に真空排気手段61を、巻取り室54に真空排気手段82を、それぞれ設けている。無機成膜装置24においては、成膜中は、それぞれの真空排気手段によって、供給室50および巻取り室54の圧力を、後述する成膜室52の圧力(成膜圧力)に応じた、所定の圧力に保つ。これにより、隣接する室の圧力が、成膜室52の圧力(成膜室52での成膜)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段61には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ドライポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ等、真空での成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段74および82も同様である。
【0057】
成膜室52は、被成膜材料Zbの表面(すなわち有機層12の表面)に、真空成膜法によって無機層14を形成(成膜)するものである。図示例において、成膜室52は、ドラム62と、成膜手段64と、ガイドローラ68と、ガイドローラ72と、真空排気手段74とを有する。
また、成膜室52には、成膜した無機層14を保護するための保護フィルムFを供給するための、フィルムロール75も配置される。
【0058】
成膜室52に搬送された被成膜材料Zbは、ガイドローラ68によって所定の経路に案内され、ドラム62の所定位置に巻き掛けられる。被成膜材料Zbは、ドラム62によって所定位置に位置されつつ長手方向に搬送され、成膜手段64によって無機成膜法によって無機層14を成膜される。
【0059】
真空排気手段74は、成膜室52内を真空排気して、気相堆積法による無機層14の形成に応じた真空度とするものである。
【0060】
ドラム62は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
供給室50から供給され、ガイドローラ68によって所定の経路に案内され、ドラム62の所定位置に巻き掛けられた被成膜材料Zbは、ドラム62の周面の所定領域に掛け回されて、ドラム62に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送され、成膜手段64によって表面に無機層14を形成される。
【0061】
成膜手段64は、真空成膜法によって、被成膜材料Zb(有機層12)の表面に無機層14を成膜するものである。
本発明の製造方法において、無機層14は、前記特許文献1に記載される形成方法等、公知の気相堆積法(真空成膜法)で形成すればよい。従って、成膜手段64での成膜方法にも、特に限定は無く、CVD、プラズマCVD、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング等、公知の成膜方法が、全て、利用可能である。
また、成膜条件にも、特に限定はなく、利用する成膜方法、形成する無機層14、無機層14の層厚、被成膜材料Zbの搬送速度等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0062】
従って、成膜手段64は、実施する真空成膜法に応じた、各種の部材で構成される。
例えば、成膜室52がICP−CVD法(誘導結合型プラズマCVD)によって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64は、誘導磁場を形成するための誘導コイルや、成膜領域に反応ガスを供給するためのガス供給手段等を有して構成される。
成膜室52が、CCP−CVD法(容量結合型プラズマCVD)によって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64は、中空状でドラム62に対向する面に多数の小孔を有し反応ガスの供給源に連結される、高周波電極および反応ガス供給手段として作用するシャワー電極等を有して構成される。
成膜室52が真空蒸着によって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64は、成膜材料を充填するルツボ(蒸発源)、ルツボを遮蔽するシャッタ、ルツボ内の成膜材料を加熱する加熱手段等を有して構成される。
さらに、成膜室52が、スパッタリングによって無機層14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64は、ターゲットの保持手段や高周波電極、ガスの供給手段等を有して構成される。
【0063】
ここで、後述する本発明の効果が好適に得られる等の点で、無機層14の形成方法としては、プラズマCVDおよび真空蒸着が、好適に利用される。
【0064】
ドラム62に支持/搬送されつつ、成膜手段64によって無機層14を成膜された被成膜材料Zbは、ガイドローラ72によって所定経路に案内されて、隔壁78に形成されたスリット78aから、巻取り室54に搬送される。
【0065】
ここで、無機成膜装置24の成膜室52には、好ましい態様として、成膜した無機層14を保護するための保護フィルムF(ラミネートフィルム)を供給するフィルムロール70を有する。
フィルムロール70は、保護フィルムFをロール状に巻回してなるものである。このフィルムロール70は、図示しない駆動源によって回転する回転軸70aに軸支され、被成膜材料Zbの搬送に同期して回転して、保護フィルムFを送り出す。保護フィルムFは、ガイドローラ72によって、無機層14の表面に当接して、被成膜材料Zbに積層/貼着される。すなわち、成膜室52において、ガイドローラ72は、被成膜材料Zbへの保護フィルムFの貼着ローラとしても作用する。
【0066】
前述のように、無機層14は、薄く、脆いため、ヒビや割れ、剥離等を生じ易い。
そのため、無機層14を形成した後、その表面に保護フィルムFを貼着して保護することにより、無機層14を成膜した被成膜材料Zbの巻回、有機成膜装置20までのハンドリング、有機成膜装置20での搬送等の際に、無機層14が損傷することを防止できる。また、無機層14を成膜した被成膜材料Zbの巻回した材料ロール42の取り扱いも容易になり、すなわち、作業性も向上できる。
【0067】
本発明の製造方法において、保護フィルムFには、特に限定はなく、低密度ポリエチレンフィルム等、気相堆積法で形成された無機層14の保護に用いられる公知のプラスチックフィルムが、各種、利用可能である(再公表2007−138837号公報等参照)。
なお、図示例の装置においては、保護フィルムFの積層/貼着を無機層14の成膜系内すなわち真空中で行なうので、保護フィルムF自身が有する貼着力(接着力)は、極めて弱くても良い。
【0068】
図示例において、巻取り室54は、ガイドローラ80と、巻取り軸58と、真空排気手段82とを有する。
巻取り室54に搬送された成膜済の被成膜材料Zbは、巻取り軸58によってロール状に巻回され、材料ロール42とされる。無機層14が形成された被成膜材料Zbを巻回してなる材料ロール42として、有機成膜装置20に供給(回転軸32に装填)される。
【0069】
図2に示す製造装置において、図1(A)に示す有機/無機の3層を有する機能性フィルム10aを製造する際には、まず、有機成膜装置20によって、基板Bの表面に有機層12を形成し、次いで、無機成膜装置24によって有機層12の表面に無機層14を成膜して保護フィルムFを貼着し、最後に、有機成膜装置20によって、保護フィルムFを剥離した後に無機層14の表面に保護有機層16を形成する。
また、図1(B)に示す有機/無機の5層を有する機能性フィルム10bを製造する際には、まず、有機成膜装置20によって、基板Bの表面に有機層12を形成し、次いで、無機成膜装置24によって有機層12の表面に無機層14を成膜して保護フィルムFを貼着し、次いで、再度、有機成膜装置20によって、保護フィルムFを剥離した後に無機層14の表面に有機層12を形成し、次いで、再度、無機成膜装置24によって有機層12の表面に無機層14を成膜して保護フィルムFを貼着し、最後に、有機成膜装置20によって、保護フィルムFを剥離した後に無機層14の表面に保護有機層16を形成する。
【0070】
また、これ以上の有機/無機の層数を有する機能性フィルムを製造する際には、同様の有機層12と無機層14との形成を繰り返して、所定数(有機/無機の形成総数−1)の有機層12および無機層14を形成した後、最後に、無機層14の上に保護有機層16を形成すればよい。
【0071】
前述のように、本発明の機能性フィルムの製造方法は、図1に示す機能性フィルム10a〜10cなどのように、基板Bの表面に有機層12および無機層14を交互に有し、かつ、最上層が有機層である機能性フィルムを製造するものである。
ここで、本発明の製造方法において、有機層12および無機層14の形成は、前述のように、公知の方法によって行なえばよい。また、層厚にも、特に限定は無い。
【0072】
これに対し、最上層の有機層である保護有機層16は、有機溶剤と、有機層となる有機化合物と、保護有機層16となった際の含有量が0.01〜10質量%となる界面活性剤とを含有し、かつ、好ましくは有機溶剤を除去した架橋前の粘度が10cP以上である塗料を用い、厚さが30〜300nmの有機層を形成する。
本発明は、このような構成を有することにより、光透過性等の光学特性に優れ、しかも、保護有機層16によって無機層14の全面を保護した機能性フィルムを、安定して製造することができる。
【0073】
前述のように、基板(支持体)の表面に、有機層12と無機層14とを交互に積層して、最上層を保護有機層16として、無機層14を保護する機能を持たせる機能性フィルムでは、最上層の保護有機層16が、光学特性に大きく影響し、この有機層が薄い程、優れた光透過率を実現できる。そのため、本発明の製造方法においては、最上層の有機層である保護有機層16は、300nm以下という薄い膜厚とする。
また、保護有機層16は、前述のように、有機層となる有機化合物を含有する塗料を用いる塗布法(塗布膜)によって形成される。
【0074】
ところが、本発明者の検討によれば、光学特性を向上するために、最上層の有機層を300nm以下のように薄くすると、テフロン(登録商標)シートや油膜が水を弾く(表面ではね返して寄せつけない)ように、無機層の表面で有機層となる塗膜が弾かれたようになって、部分的(島状に)に塗膜が形成されない現象が生じてしまう(以下、この現象を便宜的に『ハジキ』とも言う)。
このような塗膜のハジキが生じると、無機層(最上層の有機層の下層の無機層)の表面全面を、有機層によって覆うことができない。その結果、最も上の無機層に、ヒビ、割れ、さらには剥離などを生じてしまい、機能性フィルムが目的とする性能を発揮しなくなってしまう。
【0075】
本発明者は、この無機層の上(表面)に形成する有機層を薄くした際に生じるハジキの原因について、鋭意検討を重ねた結果、有機層を形成する無機層の表面に残存する異物によって、このハジキが生じることを見いだした。
【0076】
前述のように、無機層は、通常、プラズマCVD等の気相堆積法によって形成される。気相堆積法によって形成された無機層の表面には、成膜系内に付着/堆積して、剥離してしまった膜(パーティクル)等の異物が付着することが、避けられない。特に、プラズマCVDや真空蒸着のように、成膜の指向性が低い方法によって無機層を形成した場合には、この異物の付着量が多くなってしまう。
周知のように、無機層(無機化合物の膜)と有機層(有機化合物の膜)とでは、全く、特性や性状が異なる。そのため、無機層の表面に、異物が存在すると、この異物が起点となって有機層の塗膜のハジキが生じてしまう。
【0077】
また、図2に示す製造装置のように、無機層を形成した後、保護フィルムを貼着し、この保護フィルムFを剥離した後に、有機層を形成することも行なわれている。このように、成膜系内で無機層の表面に保護フィルムを貼着すると、真空中であるが故に同伴エアが存在せず、また、成膜直後で表面状態が活性であるために、接着性が極弱い保護フィルムFであっても、非常に強固に無機層の表面に貼着されてしまう。
そのため、有機層や保護有機層を形成するために、保護フィルムを剥離すると、無機層の表面に、保護フィルムFから剥離された粘着材料等が、残存してしまい、この残存物質が原因で、同様の有機層の塗膜のハジキが生じてしまう。
なお、真空中で保護フィルムを貼着しなくても、保護フィルムの接着層の貼着力が強い場合や、接着層の離型性が悪い場合には、同様の問題が生じる。
【0078】
このような問題は、無機層の上の有機層が1μm以上のように、有機層が十分に厚い場合には、全く生じない。
しかしながら、無機層の上に、300nm以下のような薄い有機層を形成すると、有機層となる塗膜のハジキが生じ、適正な有機層を形成することができない。
【0079】
本発明者は、この有機層を薄くした場合における塗膜のハジキの問題を解決するために、さらに、検討を重ねた。その結果、ハジキを防止するためには、保護有機層16となる塗料の表面張力、架橋前の塗膜の粘度、および、保護有機層16の厚さを適正にすることが重要であることを見い出した。さらに、保護有機層16となった際の含有量が0.01〜10質量%となる界面活性剤とを含有し、かつ、好ましくは有機溶剤を除去した架橋前の粘度が10cP以上である塗料を用い、保護有機層16の厚さを30nm以上とすることにより、保護有機層16を薄くした際のハジキの問題を解決して、最も上の無機層14(保護有機層16の形成面)の全面を覆った、均一な保護有機層16を安定して形成することを可能にした。
従って、本発明によれば、優れた光透過性を有し、かつ、無機層14が保護されて目的とする性能を発揮する機能性フィルムを、安定して製造することができる。
【0080】
なお、このハジキの問題は、有機層が薄い場合には、どの位置の有機層でも生じる問題であり、保護有機層16以外の有機層12も、薄くすれば、同様の問題が生じる。しかしながら、本発明の製造方法による機能性フィルムにおいて、最上層の有機層である保護有機層16以外の有機層12は、機能性フィルムの光透過性に大きな影響を与えない。そのため、有機層12は、ハジキを生じない十分な厚さにできるので、問題は無い。
ただし、何らかの理由によって有機層12を薄くする必要が有り、有機層12でも同様のハジキを生じる場合には、有機層12を保護有機層16と同様に形成することにより、問題を解決できる。
【0081】
本発明の製造方法において、保護有機層16を形成する塗料は、有機溶剤および保護有機層16となる有機化合物に加え、保護有機層16となった際における、保護有機層16中での含有量が0.01〜10質量%となる、界面活性剤を含有する。
界面活性剤の含有量が0.01質量%未満では、界面活性剤の添加効果が十分に得られず、ハジキが生じてしまう。逆に、界面活性剤の含有量が10質量%を超えると、保護有機層16内における界面活性剤の量が多すぎ、膜の強度等の点で、保護有機層16が形成材料に応じた所定の性能を発揮できなくなってしまう。例えば、機能性フィルムの用途に応じて、保護有機層16の上に、気相堆積法によって何らかの成膜を行なう場合に、成膜に対する保護有機膜16の耐性が不十分で、表面の荒れ等を生じてしまう。
以上の点を考慮すると、界面活性剤の量は0.05〜5質量%が好ましく、特に、0.1〜3質量%が好ましい。
【0082】
なお、保護有機層16を形成する塗料に使用する界面活性剤には、特に限定はない。
しかしながら、本発明者の検討によれば、保護有機層16の形成面となる最も上の無機層14が、珪素化合物である場合には、界面活性剤として珪素化合物(珪素化合物が主成分である界面活性剤)を使用すると、添加量が上記適正範囲であっても、界面活性剤を添加した効果を十分に得られず、ハジキを生じてしまう場合が有る。
そのため、最も上の無機層14が珪素化合物である場合には、界面活性剤は、珪素化合物を含まない界面活性剤、または、珪素化合物の含有量が5質量%(好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下)の界面活性剤を用いるのが好ましく、珪素化合物以外の、フッ素化合物(フッ素化合物が主成分である界面活性剤)などを用いるのが、より好ましい。
言い換えれば、本発明の製造方法においては、保護有機層16の形成面となる無機層14を珪素化合物で形成し(珪素化合物を主成分とし)、かつ、保護有機層16を形成する塗料は、珪素化合物以外の界面活性剤を含有するのが好ましい。このような構成とすることにより、無機層14の上の保護有機層16を薄くしても、保護有機層16の塗膜のハジキを防止できるという本発明の効果が、特異に発現できる等の点で、好ましい結果を得ることができる。
【0083】
ところで、塗布による有機層の成膜には、密着力の向上等を目的として、シランカップリング剤が塗料に添加される場合が多い。
ここで、本発明者の検討によれば、保護有機層16の形成面となる最も上の無機層14が、珪素化合物である場合には、保護有機層16を形成する塗料にシランカップリング剤を添加すると、ハジキが生じ易くなってしまう。その反面、シランカップリング剤を用いないと、十分な保護有機層16の密着性が得られない場合も有る。
なお、十分な厚さを有する他の有機層12では、下層が珪素化合物である場合であっても、シランカップリング剤を用いても、何ら問題は生じない。
【0084】
従って、保護有機層16の形成面となる最も上の無機層14が珪素化合物である場合に、保護有機層16を形成する塗料へのシランカップリング剤の添加の有無は、密着性とハジキとの兼ね合いに応じて、適宜、選択すればよい。すなわち、無機層14の状態等に応じて、塗膜のハジキが非常に生じ易い場合には、シランカップリング剤を用いなければよい。また、高い保護有機層16の密着性を要求される用途では、シランカップリング剤を用いればよい。
なお、本発明においては、保護有機層16の形成面となる最も上の無機層14が珪素化合物である場合に、保護有機層16を形成する塗料にシランカップリング剤を添加しても、界面活性剤の添加量、あるいはさらに保護有機層16の層厚を調整することで、十分に塗料のハジキを抑制できる。
【0085】
本発明の製造方法において、保護有機層16の厚さは30nm以上である。
ここで、形成される保護有機層16の厚さは、乾燥状態の塗膜の膜厚より、若干、薄くなる。すなわち、本発明における保護有機層16の形成において、乾燥状態の塗膜の膜厚は、30nm未満になることは無い。
【0086】
また、本発明の製造方法において、保護有機層16を形成する塗料は、好ましくは、塗膜から有機溶剤を除去した状態(塗膜を乾燥した状態)で、粘度が10cP以上(25℃下)である。
なお、塗膜から有機溶剤を除去した状態とは、光照射等による塗膜(有機化合物)の架橋が可能な状態であり、より具体的には、塗膜中に残存する有機溶剤が10質量%以下となった状態である。
【0087】
前述のように、本発明の製造方法においては、保護有機層16となる塗料を塗布し、塗膜を乾燥した後に、塗膜を架橋して硬化し、保護有機層16を形成する。
ここで、塗膜の乾燥が進むに応じて、膜厚の点では、次第にハジキが生じ易くなるが、その反面、塗膜の粘度の点では、次第にハジキが生じ難くなる。すなわち、保護有機層16となる塗膜のハジキを防止するためには、界面活性剤を添加することによる表面張力の低下に加え、乾燥状態における塗膜の厚さが、重要である。
【0088】
ここで、本発明者らの検討によれば、有機保護層16となる塗料に界面活性剤を含有すると共に、有機保護層16の厚さを30nm以上(すなわち、乾燥状態における塗料の厚さを30nm超)とすることにより、塗料の乾燥(膜厚減)に起因してハジキが生じ易くなっても、界面活性剤の効果と塗膜の粘度上昇との相乗効果によって、塗膜のハジキを防止することができる。なお、保護有機層16の厚さが300nm以上であると、十分な光学特性が得られないのは、前述のとおりである。
以上の点を考慮すると、保護有機層16の厚さは50nm以上、特に、80nm以上であるのが好ましい。
また、より確実にハジキを防止するためには、乾燥状態における塗膜の粘度は高い方が好ましい。本発明者の検討によれば、乾燥状態における塗膜の粘度を10cP以上、特に20cP以上とすることにより、より確実に、ハジキを防止できる。
【0089】
ここで、保護有機層16となる塗膜の乾燥状態における粘度は、塗膜(塗料)が含有する有機化合物の物性に大きく影響されるので、上記乾燥塗膜の粘度が得られる有機化合物を、適宜、選択するのが好ましい。
また、必要に応じて、塗料に増粘剤を添加して、乾燥塗膜の粘度を調整してもよい。
【0090】
保護有機層16となる塗料の塗布前の粘度(すなわち塗布時の粘度)には、特に限定はないが、300nm以下の保護有機層16を安定して製造可能である、ダイコータでの薄膜の塗布に好適である等の点で、10cP以下であるのが好ましい。
また、塗料の塗布量にも、特に限定はないが、3cc/m2以上であるのが好ましく、特に、3〜15cc/m2とするのが好ましい。塗料の塗布量を3cc/m2以上とすることにより、薄膜であっても良好な均一塗布性が確保できる。また、有機化合物等の含有量が少ない場合には、塗布量を多くする必要が有るが、この場合には、塗料の流動性が高くなり、濡れ広がりが大きくなる。すなわち、30〜300nmという膜厚に応じた塗布量が、15cc/m2がとなる塗料であれば、濡れ広がりを適正に抑制して、好適な塗料の塗布を行なうことが可能となる。
【0091】
さらに、保護有機層16の形成面となる最も上の無機層14の表面エネルギにも、特に限定は無い。
しかしながら、最も上の無機層14の表面エネルギが高い方が、保護有機層16となる塗膜のハジキを防止し易く、保護有機層16の塗布時において、30mN/m以上、特に、35mN/mとするのが好ましい。
【0092】
本発明の製造方法において、保護有機層16を形成する塗料は、上記必須の条件を満たすものであれば、それ以外には、特に限定はない。
従って、有機層となる有機化合物は、形成する有機層に応じた化合物を用いればよく、有機溶剤も、用いる有機化合物等に応じた有機溶剤を、適宜、選択すればよい。なお、有機化合物としては、アクリレートおよびメタクリレートのモノマーやオリゴマーが好適であるのは、前述の通りである。
また、保護有機層16を形成する塗料には、必要に応じて、光重合開始剤などの公知の添加剤等を添加してもよい。
加えて、各成分の含有量も、上記条件を満たすように、適宜、設定すればよい。
【0093】
以上、本発明の機能性フィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0094】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0095】
[実施例1]
図1(A)に示すような、有機/無機の3層を有する機能性フィルム10aとして、ガスバリアフィルムを作成した。
【0096】
基板Bとして、幅が1000mmで厚さが100μmの長尺なPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート)を用いた。
他方、200gのアクリレート系モノマー(ダイセル・サイテック社製 TMPTA)と、20gの光重合開始剤(長瀬産業社製、Irg907)とを、1700gの有機溶剤(メチルエチルケトン)に投入し、混合して、有機層12を成膜するための塗料を調製した。
【0097】
基板Bを巻回してなる材料ロール42を、図2(A)に示す有機成膜装置20の回転軸32に装填して、基板Bの表面に、調製した塗料を塗布して乾燥し、紫外線照射によって架橋して、有機層12を形成した被成膜材料Zaを巻回してなる材料ロール46を得た。
塗布手段26は、ダイコータを用い、塗料の液厚が10μmとなるように塗布を制御した。乾燥手段28は、100℃の温風による乾燥手段を用いて塗料を乾燥した。さらに、光照射手段30は、紫外線照射装置を用いた。光照射手段30は、紫外線の照射量が積算照射量で約500mJ/cm2となるように、光量を制御した。
形成した有機層12の膜厚は、1000nmであった。
【0098】
次いで、材料ロール46を図2(B)に示す無機成膜装置24に装填して、有機層12を成膜した被成膜材料Zbの表面に、CCP−CVDによって、無機層14として膜厚50nmの窒化珪素膜を形成し、無機層14を形成した被成膜材料Zbを巻回してなる、材料ロール42を作製した。
成膜手段64は、ドラム62に対面して配置されるシャワー電極と、シャワー電極にプラズマ励起電力を供給する高周波電源と、ドラム62にバイアス電力を供給するバイアス電源と、シャワー電極に原料ガスを供給する供給手段とで構成した。さらに、ドラム62はステンレス製として、シャワー電極の対向電極として作用させた。
【0099】
成膜ガスは、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、窒素ガス(N2)および水素ガス(H2)を用いた。供給量は、シランガスが100sccm、アンモニアガスが200sccm、窒素ガスが500sccm、水素ガスが500sccmとした。また、成膜圧力は50Paとした。
シャワー電極には、高周波電源から、周波数13.5MHzで3000Wのプラズマ励起電力を供給した。さらに、ドラム62には、バイアス電源から、500Wのバイアス電力を供給した。また、成膜中は、ドラム62の温度を−20℃に調整した。
また、フィルムロール70とガイドローラ72とで、成膜した無機層14の表面に保護フィルムFを積層/貼着して、無機層14を成膜した被成膜材料Zbを巻回した材料ロール42を得た。保護フィルムFは、ポリオレフィン系の接着層を有する低密度ポリエチレンシートを用いた。
【0100】
さらに、フッ素系樹脂の界面活性剤(3M社製 FC4432)と、200gのアクリレート系モノマー(ダイセル・サイテック社製 TMPTA)と、20gの光重合開始剤(長瀬産業社製 Irg907)とを、1700gの有機溶剤(メチルエチルケトン)に投入、混合して、保護有機層16を成膜するための塗料を調製した。なお、この塗料への界面活性剤の添加量は、保護有機層16になった際に、保護有機層16中の界面活性剤の含有量が0.01質量%(発明例1−1)となるように調整した。
次いで、材料ロール42を、図2(A)に示す有機成膜装置20に装填して、無機層14の表面に、保護有機膜16となる塗料を塗布して乾燥し、紫外線照射によってアクリレート系モノマーを重合して、保護有機層16を形成した被成膜材料Za(ガスバリアフィルム)を巻回してなる機能性(ガスバリア)フィルムロール48を得た。
塗布手段26は、ダイコータを用い、塗料の液厚が4μmとなるように塗布を制御した。乾燥手段28は、100℃の温風による乾燥手段を用いて塗料を乾燥した。光照射手段30は、紫外線の照射量が積算照射量で約500J/cmとなるように、光量を制御した。得られた最上層の有機層12の膜厚は100nmであった。
【0101】
さらに、保護有機層16になった際の界面活性剤の含有量が0質量%(比較例1−1); 同界面活性剤の含有量が0.001質量%(比較例1−2); 同界面活性剤の含有量が0.1質量%(発明例1−2); 同界面活性剤の含有量が1質量%(発明例1−3); 同界面活性剤の含有量が10質量%(発明例1−4); 同界面活性剤の含有量が15質量%(比較例1−3); 同界面活性剤の含有量が30質量%(比較例1−4); となるように、保護有機層16を形成する塗料に添加する界面活性剤の添加量を変更した、7種の塗料も調製した。
これらの塗料を用いて、全く同様にして基板Bの上に有機層12および無機層14を形成した被成膜材料Zaに、図2(A)に示す有機成膜装置20を用いて、同様の成膜条件で保護有機層16を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。
【0102】
すなわち、本例においては、発明例1−1〜1−4、および、比較例1−1〜1−4の、計8種のガスバリアフィルムを作製した。
【0103】
[評価]
作製したガスバリアフィルムの全光線透過率[%]を、分光光度計によって測定した。
全光線透過率が、85%以上の場合を『優良』;
全光線透過率が、85%未満、80%以上の場合を『良好』;
全光線透過率が、80%未満の場合を『不可』; とした。
【0104】
また、作製したガスバリアフィルムの水蒸気透過率[g/(m2・day)]を、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、測定した。
水蒸気透過率が、1.0×10-4[g/(m2・day)]未満の場合を『超優良』;
1.0×10-4[g/(m2・day)]以上、2.0×10-4[g/(m2・day)]未満の場合を『優良』;
2.0×10-4[g/(m2・day)]以上、1.0×10-3[g/(m2・day)]未満の場合を『良好』;
1.0×10-3[g/(m2・day)]以上の場合を『不可』; とした。
なお、全光線透過率および水蒸気透過率共に、評価『良好』以上であれば、実用上、十分に高性能である。
【0105】
以上の結果を、下記表1に示す。
【表1】

【0106】
上記表1に示されるように、保護有機層16を形成する塗料に添加した界面活性剤が適正範囲である、本発明によるガスバリアフィルム(発明例1−1〜1−4)は、いずれも、塗膜のハジキが認められず、これにより、無機層14の保護性が増し、十分な全光線透過率およびガスバリア性を有している。
これに対し、界面活性剤の添加量が少ない比較例1−1および比較例1−2では、塗膜にハジキが生じてしまい、その結果、無機層14を十分に保護できず、ロール状に巻回した際などに、無機層14が損傷し、ガスバリア性が低下したと考えられる。加えて、比較例1−1および比較例1−2では、塗膜のハジキに起因して、保護有機層16が形成されない部分が点在してしまい、その結果、部分的に高屈折率の無機層14が表面に露出して界面反射が増幅し、全光透過率が低下したものと考えられる。
また、界面活性剤の添加量が多すぎる比較例1−3および比較例1−4では、保護有機膜16の強度が低く、ロール状に巻回した際などに、無機層14が損傷し、ガスバリア性が低下したと考えられる。
【0107】
[実施例2]
界面活性剤の量を、保護有機層16中において0.1質量%となる量に固定し、かつ、保護有機層16となる有機化合物を、種々、変更(5種)して、保護有機層16を成膜するための塗料を調製した以外は、実施例1と全く同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
保護有機層16となる有機化合物は、オクチルジアクリレート(ダイセル・サイテック社製 乾燥時の粘度3cP 発明例2−1); DPGDA(ダイセル・サイテック社製 乾燥時の粘度10cP 発明例2−2); TMPTA(日本化薬社製 乾燥時の粘度100cP 発明例2−3); ビスフェノールAジアクリレート(ダイセル・サイテック社製 乾燥時の粘度1400cP 発明例2−4); DPHA(ダイセル・サイテック社製 乾燥時の粘度5250cP 発明例2−5); を用いた。粘度は、カタログ値である。カタログ値が無いものは、B型粘度計による測定値である。
従って、本例においては、発明例2−1〜発明例2−5の、計5種のガスバリアフィルムを作製した。
【0108】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と全く同様に全光線透過率[%]および水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定、また、同様に評価した。
結果を下記表2に示す。
【表2】

【0109】
上記表2に示されるように、保護有機層16を形成する塗膜を乾燥した際における粘度が高い程、好適にハジキを防止することができ、特に、乾燥時における粘度が10cP以上である場合には、塗膜のハジキを抑制して、良好なガスバリア性を発揮している。なお、保護有機層16を形成する塗膜の乾燥時の粘度が低い発明例2−1であっても、界面活性剤の量を増量することで、十分に、ハジキを抑制することができる。
【0110】
[実施例3]
保護有機層16を成膜するための塗料に添加する界面活性剤の量を、保護有機層16中において0.01質量%に変更した以外は、実施例2と全く同様にして、5種のガスバリアフィルムを作製した。
本例において、発明例3−1は、前記実施例2における実施例2−1に; 発明例3−2は、同発明例2−2に; 発明例3−3は、同発明例2−3に; 発明例3−4は、同発明例2−4に; 発明例3−5は、同発明例2−5に; それぞれ、対応する。
【0111】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と全く同様に全光線透過率[%]および水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定、また、同様に評価した。
結果を下記表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
実施例2と同様、保護有機層16を形成する塗膜を乾燥した際における粘度が高い程、好適にハジキを防止することができる。また、保護有機層16を形成する塗膜の乾燥時の粘度が低い発明例1−1であっても、界面活性剤の量を増量することで、十分に、ハジキを抑制することができる。
また、実施例2(界面活性剤0.1質量%)と実施例3(界面活性剤0.01質量%)とを比較すると、界面活性剤の含有量が少ない程、保護有機層16となる塗膜の乾燥粘度の高さが、ハジキの好適に作用している。言い換えれば、保護有機層16となる塗膜の乾燥粘度が低い場合には、界面活性剤の量を増加することで、ハジキを好適に抑制できる。
【0114】
[実施例4]
界面活性剤の量を、保護有機層16中において0.01質量%となる量に固定し、かつ、保護有機層16の厚さを変更するために、有機化合物(TMPTA)の添加量を、種々、変更(5種)して、保護有機層16を成膜するための塗料を調製した以外は、実施例1と全く同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
保護有機層16の厚さは、10nm(比較例4−1); 30nm(発明例4−1); 100nm(発明例4−2); 300nm(発明例4−3); 500nm(比較例4−2); とした。
従って、本例においては、比較例4−1および比較例4−2、ならびに、発明例4−1〜発明例4−3の、計5種のガスバリアフィルムを作製した。
【0115】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と全く同様に全光線透過率[%]および水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定、また、同様に評価した。
結果を下記表4に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
上記表4に示されるように、保護有機層16の膜厚が薄すぎる比較例4−1は、ハジキが頻発して、他の例に比してガスバリア性が低い。また、保護有機層16の膜厚が厚すぎる比較例4−2は、他の例に比して光学特性が低い。これに対し、保護有機層16の厚さが適正である本発明によるガスバリアフィルムは、透過率およびガスバリア性共に優れている。
【0118】
[実施例5]
保護有機層16を成膜するための塗料に添加する界面活性剤の量を、保護有機層16中において0.1質量%に変更した以外は、実施例4と全く同様にして、4種のガスバリアフィルムを作製した。
本例において、比較例5−1は、前記実施例4における比較例4−1に; 発明例5−1は、同発明例4−1に; 発明例5−2は、同発明例4−2に; 発明例5−3は、同発明例4−3に; それぞれ、対応する(比較例4−2に対応する例は無し)。
【0119】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と全く同様に全光線透過率[%]および水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定、また、同様に評価した。
結果を下記表5に示す。
【0120】
【表5】

【0121】
実施例4と同様に、上記表4に示されるように、保護有機層16の膜厚が薄すぎる比較例5−1は、ハジキが頻発して、他の例に比してなガスバリア性が低い。これに対し、保護有機層16の厚さが適正である本発明によるガスバリアフィルムは、透過率およびガスバリア性共に優れている。
また、実施例4(界面活性剤0.01質量%)と実施例5(界面活性剤0.1質量%)とを比較すると、有機保護層16の厚さが薄いほど、界面活性剤の添加効果が好適に得られる。
【0122】
[実施例6]
保護有機層16を成膜するための塗料に添加する界面活性剤の量を、保護有機層16中において0.1質量%となる量に固定し、かつ、保護有機層16の形成面となる無機層14の表面の表面エネルギを、種々、調整(3種)して、保護有機層16を成膜するための塗料を塗布した以外は、実施例1と全く同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
なお、無機層14の表面エネルギの調整は、保護有機層16を形成する塗料の塗布前に、コロナ処理を行い、このコロナ処理の強度を調整することで行なった。
無機層14の表面エネルギは、40mN/m(発明例6−1); 35mN/m(発明例6−2); 30mN/m(発明例6−3); とした。表面エネルギは、協和界面科学社製の自動接触角計DM−300を用いて測定した。
従って、本例においては、発明例6−1〜発明例6−3の、計3種のガスバリアフィルムを作製した。
【0123】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と全く同様に全光線透過率[%]および水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定、また、同様に評価した。
結果を下記表6に示す。
【0124】
【表6】

【0125】
[実施例7]
保護有機層16を成膜するための塗料に添加する界面活性剤の量を、保護有機層16中において0.01質量%に変更した以外は、実施例6と全く同様にして、3種のガスバリアフィルムを作製した。
本例において、発明例7−1は、実施例6における発明例6−1に; 発明例7−2は、同発明例6−2に; 発明例7−3は、同発明例6−3に; それぞれ、対応する。
【0126】
作製した各ガスバリアフィルムについて、実施例1と全く同様に全光線透過率[%]および水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定、また、同様に評価した。
結果を下記表7に示す。
【0127】
【表7】

【0128】
表6および表7に示されるように、本発明の製造方法においては、保護有機層16を形成する無機層14の表面エネルギが高いほど、ハジキを好適に抑制して、高いガスバリア性が得られる。また、保護有機層16を形成する無機層14の表面エネルギが低いほど、界面活性剤の添加効果が、好適に得られる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0129】
10a、10b、10c 機能性フィルム
12 有機層
14 無機層
16 保護有機層
20 有機成膜装置
24 無機成膜装置
26 塗布手段
28 乾燥手段
30 光照射手段
32,40,56 回転軸
34,58 巻取り軸
36,38 搬送ローラ対
42,46 材料ロール
48 機能性フィルムロール
50 供給室
52 成膜室
54 巻取り室
60,68,72,80 ガイドローラ
61,74,82 真空排気手段
62 ドラム
64 成膜手段
70 フィルムロール
76,78 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、有機層と無機層とを交互に形成して、最上層として、無機層の表面に有機層を形成すると共に、
前記最上層の有機層は、有機溶剤と、有機層となる有機化合物と、有機層となった際の含有量が0.01〜10質量%となる界面活性剤とを含有する塗料を用いて、厚さが30〜300nmの有機層を形成することを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記塗料の有機化合物が、光重合反応によって架橋する(メタ)アクリレート系の有機化合物である請求項1に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項3】
表面に前記最上層の有機層を形成される無機層が、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素、および、酸化アルミニウムのいずれかで形成される請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項4】
表面に前記最上層の有機層を形成される無機層が珪素化合物で形成され、かつ、前記塗料の界面活性剤が、珪素化合物以外の界面活性剤である請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記塗料の有機溶剤を除去した状態での粘度が10cP以上である請求項1〜4のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記塗料の塗布前の粘度が10cP以下である請求項1〜5のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記塗料を、ダイコータによって塗布する請求項1〜6のいずれか記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項8】
表面に前記最上層の有機層を形成される無機層を成膜した後、この無機層の表面に保護フィルムを貼り付け、
この保護フィルムを剥離して、前記最上層の有機層を形成する請求項1〜7のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項9】
表面に前記最上層の有機層を形成される無機層を、所定圧力の減圧下で成膜し、かつ、この減圧下での無機層の成膜空間内において、前記無機層の表面への保護フィルムの貼り付を行なう請求項8に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項10】
表面に前記最上層の有機層を形成される無機層の表面エネルギが、30mN/m以上である請求項1〜9のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項11】
表面に前記最上層の有機層を形成される無機層を、プラズマCVDもしくは真空蒸着によって形成する請求項1〜10のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−192738(P2012−192738A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45217(P2012−45217)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】