説明

機能性フィルムの製造装置

【課題】所定の有機膜と無機膜とを有する機能性フィルムの製造において、目的とする性能を有する機能性フィルムを安定して製造することを可能にする。
【解決手段】基板の表面に有機膜を成膜する有機成膜装置と、真空成膜法によって無機膜を成膜する無機成膜装置とを有し、かつ、無機成膜装置は、成膜位置の上流に有機膜を押圧して平坦化する平坦化ローラを有し、その後、有機膜に接触することなく無機膜を成膜する構成を有することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムの製造装置に関し、詳しくは、特定のポリマーからなる有機膜と、無機膜とを有する機能性フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。
また、これらの機能性フィルムの製造に、スパッタリングやプラズマCVD等の真空成膜法による成膜(薄膜形成)が利用されている。
【0003】
真空成膜法によって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な基板に連続的に成膜を行なうのが好ましい。
このような成膜方法を実施する設備として、長尺な基板(ウェブ状の基板)をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基板をロール状に巻回する巻取りロールとを用いる、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られている。このロール・ツー・ロールの成膜装置は、プラズマCVDによって基板に成膜を行なう成膜室を通過する所定の経路で、供給ロールから巻取りロールまで長尺な基板を挿通し、供給ロールからの基板の送り出しと、巻取りロールによる成膜済基板の巻取りとを同期して行いつつ、成膜室において、搬送される基板に連続的に成膜を行なう。
【0004】
このような、ロール・ツー・ロールの成膜装置において、適正な品質の製品を製造するためには、成膜する基板の表面に異物が存在するのは、好ましくない。
そのため、基板表面に付着した異物を除去する方法が、各種、提案されている。例えば、特許文献1には、成膜の前工程として基板に付着している粉塵を除去する超音波洗浄装置を有する真空蒸着装置が開示されている。また、特許文献2には、基板の搬送ローラ対に、ローラ面の異物を除去する転写ローラを当接し、さらに、この転写ローラに粘着ローラを当接することにより、基板やローラに付着した異物の除去を行なう異物除去装置開示されている。
【0005】
ところで、ガスバリアフィルムや保護フィルム等の機能性フィルムは、単層であるとは限らず、例えば、プラスチックフィルム等の基板上に、ポリマーを主成分とする有機膜を成膜し、その上に無機物からなる無機膜を成膜してなる機能性フィルムも知られている。
一例として、特許文献3には、6官能のアクリレ−トもしくはメタクリレ−トのモノマーもしくはオリゴマーを含む組成物を硬化させた有機膜と、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、インジウムとスズの複合酸化物、インジウムとセリウムの複合酸化物等の中から選ばれた酸化物からなる無機膜を積層したガスバリアフィルムが開示されている。
さらに、特許文献4には、基板の表面に、表面粗さRaが6nm以下で最大高低差P−Vが60nm以下の平坦化層を設け、この上に、ガスバリア性を発現する無機化合物層を設けてなるガスバリア性基材が開示されている。また、このガスバリア性基材の平坦化層としては、ラジカル反応性不飽和結合を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物や、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物とを含有する樹脂組成物等が例示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−144041号公報
【特許文献2】特開2003−264274号公報
【特許文献3】特開2002−264274号公報
【特許文献4】特開2005−111702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のようなロール・ツー・ロールの成膜装置においては、通常、基板を所定の経路で適正に搬送するために、搬送ローラ対(ニップローラ)の搬送手段が配置される。
ところが、有機膜を成膜した後に、真空成膜法によって無機膜を成膜する機能性フィルムの製造においては、有機膜の種類によっては、真空中での基板の搬送に搬送ローラ対などの通常の搬送手段を利用すると、有機膜の平坦性が低下してしまい、例えば十分なガスバリア性など、目的とする性能を有する機能性フィルムを製造することができない場合もある。
【0008】
この現象は、有機膜自身の表面性状が劣化するので、例えば、特許文献1や2に開示される方法のように、成膜前に異物の除去を行なっても、効果を得ることはできない。
また、有機膜自身の表面性状が劣化するので、前記特許文献4に開示されるように、平坦化層を有しても、平坦化層が有機膜である場合には、その効果を十分に得られない。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、ポリマーを主成分とする有機膜を成膜し、その後、無機膜を成膜する機能性フィルムの製造において、有機膜の表面平坦性の劣化を防止して、所定の性能を発揮する高品位な機能性フィルムを安定して製造することを可能にする機能性フィルムの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、長尺な基板の表面に有機膜を成膜する有機膜成膜装置と、前記有機膜を成膜した基板を長手方向に搬送しつつ、真空成膜法によって前記有機膜の上に無機膜を成膜する無機膜成膜装置とを有し、かつ、前記無機膜成膜装置は、真空チャンバ内に、前記有機膜を押圧することで平坦化する平坦化ロールと、前記平坦化ロールの下流に配置される無機成膜手段とを有し、さらに、前記平坦化ロールと前記無機成膜手段との間に、前記有機膜に接触する部材を有さないことを特徴とする機能性フィルムの製造装置を提供する。
【0011】
このような本発明の製造装置において、前記平坦化ロールは、前記有機膜に当接する面の表面粗さRaが0.1μm以下であるのが好ましく、また、前記有機膜を加熱しつつ、前記記平坦化ロールによる有機膜の押圧を行なうのが好ましく、また、前記無機成膜手段は、ドラムに基板を巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、前記無機膜の成膜を行なうものであり、前記平坦化ロールは、前記ドラムと共に基板を挟持搬送することにより、前記無機膜の平坦化を行なうのが好ましく、さらに、前記無機成膜手段の上流に基板を挟持搬送する搬送ローラ対を有し、この搬送ローラ対の前記有機膜に当接する側のローラが、前記平坦化ロールであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明の製造装置は、基板の上に、ポリマーを主成分とする有機膜、例えば、アクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを重合してなるポリマーを主成分とする有機膜を成膜し、その後、無機膜を成膜することにより、機能性フィルムを製造するものであり、かつ、無機膜を成膜する成膜装置においては、真空チャンバ内に平坦化ローラを設け、無機膜の成膜に先立って、加圧することで有機膜を平坦化して、その後、有機膜に触れることなく、真空成膜法による無機膜の成膜を行なう。
このような構成を有する本発明の製造装置によれば、有機膜を形成した基板の搬送(ハンドリング)等によって、有機膜の表面性状が劣化しても、平坦化ローラによって良好な表面性状とした後に、無機膜の成膜を行なうので、目的とする性能や特性を適正に発現する、高機能な機能性フィルムを安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の機能性フィルムの製造装置について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明の機能性フィルムの製造装置によって製造される機能性フィルムの一例を概念的に示す。
図1に示すように、本発明の機能性フィルムの製造装置は、基板Bの表面に、ポリマーを主成分とする有機膜12を成膜(形成)し、この有機膜12の上に真空成膜法によって無機膜14を成膜して、機能性フィルム10を製造するものである。
【0015】
このような有機膜12と無機膜14とを有する機能性フィルム10を製造する本発明の機能性フィルム製造装置18(以下、製造装置18とする)は、図2に模式的に示すように、基板Bの表面に有機膜12を成膜する有機成膜装置20と、有機膜12を成膜した基板Bo(以下、単に「基板Bo」ともいう)の表面に無機膜14を成膜する無機成膜装置22とから構成される。
【0016】
有機成膜装置20は、一例として、有機膜12となるモノマー(モノマー混合物)を含む塗料を基板Bに塗布/乾燥して、モノマーを重合させることにより、基板Bの表面に有機膜12を成膜する装置である。図示例において、有機成膜装置20は、塗布手段26と、乾燥手段28と、UV照射装置30と、回転軸32と、巻取り軸34と、搬送ローラ対36および38とを有する。
【0017】
有機成膜装置20は、長尺な基板B(フィルム原反)をロール状に巻回してなる基板ロール40から基板Bを送り出し、長手方向に搬送しつつ有機膜12を成膜して、有機膜12を成膜した基板Boをロール状に巻き取る、前述のいわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0018】
有機成膜装置20において、長尺な基板Bは、前述のように基板ロール40として、回転軸32に装填される。
回転軸32に基板ロール40が装填されると、基板Bは、基板ロール40から、搬送ローラ対36を経て、塗布手段26、乾燥手段28およびUV照射装置30の下部を通過して、搬送ローラ対38を経て、巻取り軸34に至る、所定の搬送経路を通される(送通される)。有機成膜装置20においては、基板ロール40からの基板Bの送り出しと、巻取り軸34における基板Boの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Bを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、基板Bに有機膜12の成膜を連続的に行う。
【0019】
本発明において、有機膜12を成膜される基板B(機能性フィルムの基板)には、特に限定はなく、PETフィルム等の各種の樹脂フィルム、アルミニウムシートなどの各種の金属シートなど、後述する有機膜12および真空成膜による無機膜14の成膜が可能なものであれば、ガスバリアフィルム、光学フィルム、保護フィルムなどの各種の機能性フィルムに利用されている各種の基板(ベースフィルム)が、全て利用可能である。
また、基板Bは、表面に、保護膜や接着膜など、各種の膜が形成されているものであってもよい。
【0020】
前述のように、有機成膜装置20は、基板Bの表面に、ポリマーを主成分とする有機膜(有機層)12を成膜するものである。
有機膜12は、具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂(以下、アクリル樹脂およびメタクリル樹脂を併せてアクリレート重合物ともいう)、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他有機珪素化合物の層である。
有機膜12は単独の材料からなっていても混合物からなっていてもよい。2層以上の有機膜を積層してもよい。この場合、各層は同じ組成でも異なる組成であってもよい。また、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように無機膜との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0021】
本発明において、有機膜12の成膜に用いることができる好ましいモノマーとしては、アクリレートおよびメタクリレート、市販の接着剤が挙げられる。すなわち、本発明において、有機膜12は、エチレン性不飽和結合を有するアクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを重合してなるポリマーを主成分とするのが好ましい。特に、後述する真空中での不都合を回避できる等の理由で、有機膜12の成膜にアクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを用いる場合には、分子量が700以下、中でも特に150〜600の物を用いるのが好ましい。
市販の接着剤としては、ダイゾーニチモリ製エポテックシリーズ、ナガセケムテックス製XNR−5000シリーズ、スリーボンド製3000シリーズ等が挙げられる。
アクリレートおよびメタクリレートの好ましい例としては、例えば、米国特許6083628号、同6214422号の各明細書に記載の化合物が挙げられる。これらの一部を以下に例示する。
【0022】
【化1】

【0023】
この他の例としては、下記の化合物が挙げられる。
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
本発明の機能性フィルム10の製造方法において、中でも特に好ましい有機膜12は、下記の一般式(I)で示される構造単位であって、mが2である構成単位と、mが3以上である構成単位とを有するポリマー(重合体)を主成分とする膜である。
一般式(I)
(Z−COO)m−L
[一般式(I)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、前記構造中のRおよびRは各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(I)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはm価の連結基を表す。また、m個のZは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【化4】

【0026】
有機膜12は、特に、mが2である構成単位と、mが3である構成単位とを有するポリマー、mが2である構成単位と、mが4以上である構成単位とを有するポリマー、mが2である構成単位と、mが3である構成単位と、mが4以上である構成単位とを有するポリマーの、いずれか1種のポリマーを主成分とする膜であることが好ましい。
あるいは、これらのポリマーの複数を有して、総合して有機膜12の主成分となってもよい。
【0027】
Lは、m価の連結基である。本発明において、Lの炭素数には、特に限定は無いが、好ましくは3〜18、より好ましくは4〜17、さらに好ましくは5〜16、特に好ましくは6〜15である。
mが2の場合、Lは2価の連結基である。このような2価の連結基の例として、アルキレン基(例えば1,3−プロピレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロピレン基、1,6−ヘキシレン基、1,9−ノニレン基、1,12−ドデシレン基、1,16−ヘキサデシレン基等)、エーテル基、イミノ基、カルボニル基、およびこれらの2価基が複数個直列に結合した2価残基(例えばポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、プロピオニルオキシエチレン基、ブチロイルオキシプロピレン基、カプロイルオキシエチレン基、カプロイルオキシブチレン基等)等が例示される。
これらの中ではアルキレン基が好ましい。
【0028】
Lは置換基を有してもよい。
Lを置換することのできる置換基の例としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、ブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基等)、アミノ基(例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、2−エチルヘキシロキシ基等)、アシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基などが挙げられる。置換基として好ましくは、含酸素官能基を持たない基が後述の理由から好ましく、特にアルキル基である。
すなわち、mが2の場合、Lは含酸素官能基を持たないアルキレン基が最も好ましい。このような基を採用することにより、本発明をガスバリアフィルムの製造に利用した際に、得られるガスバリアフィルムの水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0029】
mが3の場合、Lは3価の連結基を表す。そのような3価の連結基の例として、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除いて得られる3価残基、または、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除き、ここにアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、およびこれらを直列に結合した2価基を置換した3価残基を挙げることができる。このうち、アルキレン基から任意の水素原子を1個除いて得られる、含酸素官能基を含まない3価残基が好ましい。本発明をガスバリアフィルムの製造に利用した際に、得られるガスバリアフィルムの水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
mが4以上の場合、Lは4価以上の連結基を表す。そのような4価以上の連結基の例も、同様に挙げられる。好ましい例も同様に挙げられる。特に、アルキレン基から任意の水素原子を2個除いて得られる、含酸素官能基を含まない4価残基が好ましい。このような基を採用することにより、本発明をガスバリアフィルムの製造に利用した際に、得られるガスバリアフィルムの水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0030】
本発明の製造方法において、有機膜12を形成するポリマーが、一般式(I)においてmが2の構造単位とmが3以上の構造単位を含むポリマーである場合、このポリマーは、mが2および/または3の構造単位は75〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
有機膜12を形成するポリマーが、一般式(I)においてmが2の構造単位とmが3の構造単位を含むポリマーである場合、このポリマーは、mが2の構造単位は60〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。他方、mが3の構造単位は10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
このような範囲とすることにより、膜硬度と重合率の両立がより効果的に発揮され好ましい。
【0032】
また、有機膜12を形成するポリマーが、一般式(I)において、mが2である構成単位と、mが4以上である構成単位とを有するポリマーである場合、このポリマーは、mが4以上の構造単位は、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。また、mは4が好ましい。
【0033】
さらに、有機膜12を形成するポリマーが、一般式(I)において、mが2の構造単位と、mが3の構造単位と、mが4以上の構造単位とを含むポリマーである場合、このポリマーは、mが2の構造単位と、mが3の構造単位の合計で75〜95質量%含むことが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。mが4以上の構造単位は5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
有機膜12の主成分となる前記ポリマーは、一般式(I)で表されない構造単位を有していてもよい。
例えば、アクリレートモノマーやメタクリレートモノマーを共重合したときに形成される構造単位を有していてもよい。前記ポリマーにおいて、一般式(I)で表されない構造単位は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
前述のように、有機膜12は、一般式(I)で表される構造単位を有するポリマーを主成分とする膜であるが、ここでいう「主成分」とは、一般式(I)で表される構造単位を有するポリマーが有機膜全体の重量の80質量%以上であることを意味する。特に、有機膜12中において、前記ポリマーは90質量%以上であることが好ましい。
有機膜12に含有させることができる一般式(I)で表される構造単位を有さないポリマーには、特に限定は無いが、一例として、ポリエステル、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等が例示される。
【0036】
有機膜12の主成分となる、このようなポリマーは、下記一般式(II)のnが2であるモノマーとnが3以上であるモノマーとを含有する混合物(モノマー混合物)を重合させることで、重合することができる。
一般式(II)
【化5】

一般式(II)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Lはn価の連結基を表す。nが2以上の場合、それぞれのRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
すなわち、言い換えれば、特に好ましい本発明の機能性フィルム10の製造方法は、基板Bに、上記一般式(II)のnが2であるモノマーとnが3以上であるモノマーとを含有する、モノマー混合物を重合させることによって有機膜12を成膜し、その後、真空成膜法によって無機膜14を成膜すると共に、真空中で有機膜12に接触する搬送手段すなわち無機膜12の形成前に真空中に配置される搬送手段の有機膜12側の物は、基板Boの端部のみに接触する構成の物を用いる、機能性フィルムの製造方法である。
【0038】
Lの具体例と好ましい範囲は、前述の一般式(I)におけるLの具体例および好ましい範囲と同じである。
また、モノマー混合物中における、nが2であるモノマーと、nが3以上であるモノマー(nが3であるモノマー、nが4以上であるモノマー)との含有量の好ましい範囲も、前述の一般式(I)において、nが2の構造単位とnが3以上の構造単位(nが3の構造単位とnが4以上の構造単位)の含有量の好ましい範囲と同じである。
【0039】
本発明においては、特に、nが2であるモノマーとnが3であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させることにより、あるいは、nが2であるモノマーとnが4以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させることにより、あるいは、nが2であるモノマーとnが3であるモノマーとnが4以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させることにより、有機膜12を成膜するのが好ましい。
あるいは、これらのモノマー混合物を、複数用いて重合を行なって、有機膜12を成膜してもよい。
【0040】
以下に、一般式(II)のnが2または3であるモノマーの具体例を示すが、本発明で用いることができるnが2または3のモノマーは,これらに限定されるものではない。
【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
一般式(II)のnが4以上であるモノマーとしては、nが4〜6であるモノマーを用いるのが好ましく、特に、nが4であるモノマーが好ましい。具体的にはペンタエリスリトール骨格、ジペンタエリスリトール骨格を有するモノマーを挙げることができる。
以下に、一般式(II)のnが4以上であるモノマーの具体例を示すが、本発明で用いることができる4以上のモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
一般式(II)のnが2であるモノマーと、nが3以上であるモノマー(nが3であるモノマーと、nが4以上であるモノマーは)、それぞれモノマー混合物中に一種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
【0047】
前述のように、本発明においては、有機膜12が硬い方が、良好な特性を有する機能性フィルムを製造することができる。
有機膜12の硬度を高めるには、下記の方法が例示される。
(1)モノマーの重合率を高める
(2)多官能モノマーを用いる
(3)モノマーの連結基として柔軟性の高い含酸素官能基を用いない。
重合率と官能基数はトレードオフの関係にあり、官能基数が増えるほど重合度が低くなるという関係にある。本発明者らの検討によれば、モノマーの官能基数を上げ、かつ、重合度を上げるための処方を検討した結果、前述のようなモノマー混合比率が好ましい。
【0048】
良好な硬度を有する有機膜12を成膜するには、モノマー成分の混合比を以下に示す範囲とするのが好ましい。
例えば、モノマー混合物中に、一般式(II)で表されるモノマー成分として、nが2であるモノマーと、nが3であるモノマーのみを用いる場合、nが2であるモノマーの混合比は60〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。nが3であるモノマーは20〜40質量%であることが好ましく、25〜35質量%であることがより好ましい。
また、モノマー混合物中に、一般式(II)で表されるモノマー成分として、nが2であるモノマーと、nが4以上であるモノマーのみを用いる場合は、nが2であるモノマーの混合比は75〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。nが4以上であるモノマーの混合比は5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
さらに、モノマー混合物中に、一般式(II)で表されるモノマー成分として、nが2であるモノマーと、nが3であるモノマーと、nが4以上であるモノマーのみを含む混合物を用いる場合は、nが2または3であるモノマーの混合比の合計で75〜95質量%含むことが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。nが4以上であるモノマーの混合比は、5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
有機膜12となるモノマー混合物中には、一般式(II)で表されないモノマーが含まれていてもよい。ただし、これらのモノマーは、前述の有機膜12の硬度を高めることに対して障害となるので、モノマー混合物中に20質量%以下の量であるのが好ましい。
一般式(II)で表されないモノマーは、例えば単官能モノマーであり、好ましくは、単官能のアクリレートモノマーや単官能のメタクリレートモノマーである。単官能のアクリレートモノマーや単官能のメタクリレートモノマーの分子量は特に制限されないが、通常は150〜600であるものを用いる。これらのモノマーは、モノマー混合物中に一種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。単官能モノマーは重合率を高める作用があるが、含有量が多すぎると成膜される有機膜の硬さを損なうため、前述の通り、含有率を20質量%以下にすることが好ましい。より好ましい範囲は、上記の一般式(I)で表されない構造単位の好ましい含有量の範囲と同じである。
【0050】
以下に単官能モノマーの好ましい具体例を示すが、本発明で用いることができる単官能モノマーはこれらに限定されるものではない。
【0051】
【化10】

【化11】

【0052】
有機膜12を形成するモノマー混合物は、密着性改良のために、リン酸系の(メタ)アクリレートモノマーやシランカップリング基を含有する(メタ)アクリレートモノマーを含んでいてもよい。これらのモノマーの添加量は、その官能基数により、前述の添加量の範囲に合致するように添加される。
以下にリン酸系モノマーもしくはシランカップリング基含有モノマーの好ましい具体例を示すが、本発明で用いることができるものはこれらに限定されるものではない。
【0053】
【化12】

【0054】
前述のように、有機成膜装置20は、塗布法(溶液塗布法)によって有機膜12を成膜するものであり、塗布手段26と、乾燥手段28と、UV照射装置30とを有する。
このような有機成膜装置20においては、塗布手段26によって、予め調製した前記モノマー混合物を含む塗料を基板Bに塗布し、乾燥して、重合することにより、有機膜12を成膜する。
【0055】
基板ロール40から送り出された基板Bは、搬送ローラ対36によって挟持搬送されて、最初に塗布手段26に搬送される。塗布手段26は、基板Bの表面に、予め調製した有機膜12となるモノマーを含む塗料を塗布するものである。
塗料の塗布方法には、特に限定はなく、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法等の公知の方法は、全て利用可能である。
【0056】
ここで、後述するが、図示例の有機成膜装置20においては、UV光を照射することによって、モノマーを重合させて有機膜12を成膜する。
このように、光重合を行う場合は、塗布手段26によって塗布する塗料が、光重合開始剤を含有するのが好ましい(光重合開始剤を併用するのが好ましい。)
光重合開始剤としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZTなど)、同じくオリゴマー型のエザキュアKIPシリーズ等が挙げられる。
【0057】
基板Bは、次いで、乾燥手段28に搬送される。乾燥手段28は、塗布手段26が塗布した塗料を乾燥するものである。
塗料の乾燥方法には、特に限定はなく、ヒータによる加熱乾燥、温風による加熱乾燥等、基板Bの搬送速度等に応じて、UV照射装置30に至る前に、塗料を乾燥可能なものであれば、公知の乾燥手段が全て利用可能である。
【0058】
基板Bは、次いで、UV照射装置30に搬送される。UV照射装置30は、塗布手段26が塗布し乾燥手段28が乾燥した塗料に紫外線(UV光)を照射することにより、モノマーを重合させて、有機膜12を成膜するものである。
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm以上が好ましく、2J/cm以上がより好ましい。
【0059】
モノマーの重合法は、図示例の紫外線照射には限定されず、加熱重合、光(可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれら(紫外線照射を含む)の組み合わせも、好ましく用いられる。
加熱重合を行う場合、基板Bは相応の耐熱性を有する必要がある。この場合、少なくとも、加熱温度よりも基板Bのガラス転移温度(Tg)が高いことが必要である。
【0060】
ここで、アクリレートやメタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受ける。
従って、本発明において、有機膜12としてこれらを利用する場合には、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。
窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0061】
本発明において、モノマーの重合率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(例えばアクリレートやメタクリレートであれば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。
【0062】
なお、本発明の製造装置において、有機膜12の成膜方法は、図示例のような塗布法に限定はされず、真空成膜法も好適に利用可能である。
真空成膜法としては、特に制限はないが、蒸着、プラズマCVD等の成膜方法が好ましい。中でも特に、米国特許4842893号、同4954371号、同5032461号の各明細書に記載のフラッシュ蒸着法が好ましい。フラッシュ蒸着法はモノマー中の溶存酸素を低下させる効果を有し、重合率を高めることができるため特に有用である。
本発明においてはポリマーを溶液塗布しても良いし、特開2000−323273号、同2004−25732号の各公報に開示されているような無機物を含有するハイブリッドコーティング法を用いてもよい。また、ポリマーの前駆体(例えば、モノマー)を成膜後、重合することによりポリマー層を形成させても良い。さらに、有機膜12は、市販の重合性接着剤を塗布、硬化させて形成することもできる。
【0063】
本発明の製造装置18において、このようにして成膜される有機膜12は、平滑で、膜硬度が高いことが好ましい。有機膜12の平滑性は10μm角の平均粗さ(Ra値)として10nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。
有機膜12の膜硬度はある程度以上の硬さを有することが好ましい。好ましい硬さとしては、ナノインデンテーション法で測定したときの押し込み硬度として100N/mm2以上が好ましく、200N/mm2以上がより好ましい。また、鉛筆硬度としてはHB以上の硬さを有することが好ましく、H以上の硬さを有することがより好ましい。
有機膜12の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難となるし、厚すぎると外力によりクラックを発生し、バリア性能が低下する。かかる観点から、有機膜12の厚みは、10nm〜2μmが好ましく、100nm〜1μmがさらに好ましい。
【0064】
なお、本発明の機能性フィルム10の製造方法において、有機膜は、図示例のような単層に限定はされず、2層以上成膜してもよい。
この場合、各有機膜が、同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、有機膜を2層以上成膜する場合は、各々の有機膜が前述の好ましい範囲内となるようにするのが好ましい。
【0065】
このようにして有機膜12を成膜された基板Boは、搬送ローラ対38に挟持搬送されて巻取り軸34に至り、巻取り軸34によってロール状に巻き取られて基板ロール42とされ、次いで、無機成膜装置22(その供給室50)に供給される。
【0066】
無機成膜装置22は、基板Boの表面(すなわち有機膜12の表面)に、真空成膜法によって無機膜14を成膜(形成)するもので、供給室50と、成膜室52と、巻取り室54とを有する。
無機成膜装置22も、有機成膜装置20と同様に、ロール・ツー・ロールによる成膜を行なう装置で、基板ロール42から基板Boを送り出し、長手方向に搬送しつつ無機膜14を成膜して、有機膜12と無機膜14とを成膜した機能性フィルム10を巻取り軸58によってロール状に巻き取る。
【0067】
供給室50は、回転軸56と、ガイドローラ60と、真空排気手段61とを有する。
無機成膜装置22において、基板Bに有機膜12を成膜してなる基板Boを巻回した基板ロール42は、供給室50の回転軸56に装填される。
回転軸56に基板ロール42が装填されると、基板Boは、供給室50から、成膜室52を通り、巻取り室54の巻取り軸58に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。無機成膜装置22においても、基板ロール42からの基板Boの送り出しと、巻取り軸56における機能性フィルム10の巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Boを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室52において、基板Boに無機膜14の成膜を連続的に行なう。
【0068】
供給室50においては、図示しない駆動源によって回転軸56を図中時計方向に回転して、基板ロール42から基板Boを送り出し、ガイドローラ60によって所定の経路を案内して、基板Boを成膜室52に送る。
また、供給室50には、真空排気手段61が配置され、供給室50内を、成膜室52における成膜圧力に応じた所定の真空度(圧力)に減圧する。これにより、供給室50の圧力が、成膜室52の圧力(成膜)に悪影響を与えることを防止する。なお、真空排気手段61は、後述する成膜室52の真空排気手段74と同様、公知の物を用いればよい。
【0069】
なお、供給室50には、図示した部材以外にも、搬送ローラ対や、基板Boの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基板Boを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)を有してもよい。
【0070】
基板Boは、ガイドローラ60によって案内され、成膜室52に搬送される。
成膜室52は、基板Boの表面(すなわち有機膜12の表面)に、真空成膜法によって無機膜14を成膜(形成)するものである。図示例において、成膜室52は、ドラム62と、成膜手段64a,64b、64c、および64dと、ガイドローラ68と、平坦化ローラ70と、ガイドローラ72と、真空排気手段74とを有する。
なお、成膜室52が、スパッタリングやプラズマCVD等による成膜をおこなうものである場合には、成膜室52には、さらに、高周波電源やガス導入手段等も設置される。
【0071】
基板Boは、供給室50と成膜室52とを分離する隔壁76に形成されるスリット76aから、成膜室52に搬送される。
なお、図示例の無機成膜装置22は、好ましい態様として、供給室50および巻取り室54にも真空排気手段を設け、成膜室52における成膜圧力に応じて、供給室50および巻取り室54も真空とするが、本発明を実施する装置は、これに限定はされない。
例えば、供給室50および巻取り室54には、真空排気手段を設けずに、基板Boが通過するスリットを、基板Bに接触することなく、かつ、基板Bが通過可能な最小限のサイズとすることにより、成膜室52を略気密に構成してもよい。あるいは、供給室50および巻取り室54には、真空排気手段を設けずに、供給室50および巻取り室54と、成膜室52との間に、基板Bが通過するサブチャンバを設け、このサブチャンバ内を真空ポンプによって真空にしてもよい。
【0072】
成膜質52に搬送された基板Boは、ガイドローラ68によって所定の経路に案内され、平坦化ローラ70によって、ドラム62の所定位置に巻き掛けられる。基板Boは、ドラム62によって所定位置に位置されつつ長手方向に搬送され、成膜手段64a〜64dによって無機成膜法によって無機膜14を成膜される。
ここで、平坦化ローラ70は、基板Boの有機膜12に当接して、ドラム62と共に基板Boを挟持搬送することで、有機膜12を押圧することにより、下流の成膜手段64a〜64dによって無機膜14を行なう前に、有機膜12を平坦化するものである。また、本発明においては、平坦化ローラ70と成膜手段64aとの間には、有機膜12に接触する部材を設けない。
【0073】
本発明においては、有機膜12を成膜した後に無機膜14の成膜を行なう、機能性フィルムの製造装置において、このような構成、すなわち、無機膜14を成膜する成膜室52内(真空チャンバ内)において、成膜位置よりも上流に平坦化ローラ70を設け、無機膜14の成膜に先立って、平坦化ローラによって有機膜12を押圧して平坦化を行い、その後、有機膜12に接触することなく真空成膜法で無機膜14を成膜することにより、有機膜12の表面平坦性や表面性状の劣化に起因する機能性フィルムの性能劣化を防止して、目的とする性能を発揮する高品質な機能性フィルムを安定して製造することを可能にしたものである。
【0074】
本発明者らは、高性能なガスバリアフィルムなどの機能性フィルムを実現するために、鋭意、検討を重ねた。その結果、前記特許文献3や4にも開示されるように、目的とする機能を発揮する無機膜の下層に、有機膜を有することにより、機能性フィルムの性能が向上できることを見出した。
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、有機膜12として、アクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを重合してなるポリマーを主成分とする有機膜、その中でも特に、先に詳述した一般式(1)で示される、mが2である構成単位と、mが3以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とする有機膜12を用いることにより、機能性フィルムの性能を、より良好に向上できることを見出した。
【0075】
有機膜12を有することにより、機能性フィルムの性能を向上できる理由は、明らかでは無い。しかしながら、本発明者らは、検討の結果、以下のように推測している。
これらの有機膜12は、非常に表面平滑性および表面性状に優れている。そのため、有機膜12の上に、真空成膜法で無機膜14を成膜することにより、無機膜14の結晶性および結晶の成長方向が良好になり、非常に緻密で結晶性に優れ、かつ平滑な無機膜14を成膜できる。
そのため、無機膜14が、目的とする機能を非常に好適に発現する結果となり、目的とする性能を有する高品位な機能性フィルムを得ることができる。
【0076】
ところが、検討を進めるうちに、有機膜12の上に、真空成膜法によって無機膜14を形成すると、往々にして、目的とする性能が得られない機能性フィルムが作製されてしまうという問題が生じた。
本発明者らは、その原因を突き止めるべく鋭意検討を重ねた結果、真空チャンバ等の真空中に配置されるガイドローラや搬送ローラ対などの搬送手段に原因が有ることを見出した。また、本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、有機膜12は、大気圧中(常圧下)や減圧度の低い真空(高圧の真空)では何の問題も生じないが、真空成膜を行なうような真空中(例えば、1000Pa以下)では、表面に何らかの物体が接触すると、表面の平滑性および性状が著しく低下することを見出した。
この現象は、特に、エチレン性不飽和結合を有するアクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを重合してなるポリマーを主成分とする有機膜12、その中でも特に、前記一般式(I)で示される、mが2である構成単位と、mが3以上である構成単位とを有するポリマーを主成分とする有機膜12では、顕著に生じる。また、アクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーの分子量が700以下であると、この現象が生じやすくなる。
【0077】
有機膜12において、このような現象を生じる理由は、明らかではない。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、以下のように推測している。
有機膜12は、大気圧中では、何の変化も生じることはなく、搬送ローラ対による搬送(ハンドリング)や、表面に何らかの部材を接触させつつ表面処理等を行なっても、何の問題も無い。
ところが、真空中では、有機膜12は、未反応のモノマーが表面に析出して凹凸が生じ、また、搬送ローラ対などの何らかの部材が接触/押圧すると、この部材に未反応モノマーが転写され、この部材から、再度、有機膜12の表面に未反応モノマーが転写されてしまう。その結果、有機膜12の表面平滑性および表面性状が、著しく低下してしまう。
そのため、この上に無機膜14を成膜すると、無機膜14の結晶性や結晶の成長方向が大幅に低下し、また、膜に割れや抜け等を生じてしまい、無機膜14の機能が大幅に低下して、目的とする性能を発揮する機能性フィルムが製造できなくなってしまう。
【0078】
本発明は、上記知見を得ることによって成されたものであり、無機膜14を成膜する成膜室52内において、成膜位置よりも上流に平坦化ロールを配置し、有機膜12を平坦化ローラ70で押圧(あるいはさらに加熱)することで、有機層12の凹凸や、真空中で析出した未反応モノマー等を埋め込んで平坦化を行い、その後、有機膜12に接触することなく無機膜14の成膜を行なう。
そのため、本発明によれば、真空中に配置される搬送手段(図示例においては、ガイドローラ60および68)によって、有機膜12の表面平滑性が低下しても、平坦化ローラ70によって平坦化して、平坦な有機膜12の上に無機膜14を成膜できる。また、平坦化ローラ70の押圧力や加熱量を調整することで、様々な有機膜12の種類や平滑性劣化の程度に対応することが可能である。しかも、本発明によれば、搬送中に付着したパーティクルや、搬送ローラ等との擦れによって発生した擦り傷等も平坦化できる。
従って、本発明によれば、有機膜12の上に成膜される無機膜14の欠陥発生を抑制して、無機膜14の性能を非常に好適に発現させることができるという有機膜12の性能および特性を、確実に発現させることができ、目的とする性能を有する機能性フィルムを、安定して製造することが可能になる。しかも、このような優れた効果を、成膜位置の直上流に平坦化ローラ70を配置するという、簡易な構成で達成できる。
【0079】
本発明の製造装置18において、平坦化ローラ70の表面粗さには、特に限定はないが、表面粗さRaで0.1μm以下、特に、表面粗さRaで0.05μm以下であるのが好ましい。
平坦化ローラ70の表面粗さRaを0.1μmとすることにより、より好適に有機膜12の平坦化を図ることができ、本発明の効果を、さらに好適に発現して、目的とする性能を有する機能性フィルム10を、より安定して製造することが可能になる。
【0080】
また、平坦化ローラ70は、十分な表面の硬度を有するものであれば、アルミニウムやステンレス等の金属ローラ、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックローラ、これらのローラの表面にメッキ処理等の表面処理を施したローラ等の各種の公知のローラが全て利用可能である。
【0081】
本発明においては、有機膜12を加熱した状態で、平坦化ローラ70による平坦化を行なうのが好ましい。なお、有機膜12の加熱は、平坦化ローラ70による加熱が好ましく例示され、あるいは、平坦化に先立って、有機膜12を加熱しておいてもよい。
なお、成膜中に、基板Boや有機膜12等が加熱されるのが好ましく無い場合には、ドラム62は室温に制御、あるいは、冷却するのが好ましい。
この際において、有機膜12の加熱温度(平坦化ローラ70等の加熱手段の温度)には、特に限定は無く、有機膜12に応じて、有機膜12が分解しない温度範囲を、適宜、設定すればよいが、有機膜12のガラス転移温度(Tg)±5〜100℃の範囲とするのが好ましい。
有機膜12を加熱し、かつ加熱温度を、上記範囲とすることにより、有機膜12の分解や熱による損傷/劣化を確実に防止しつつ、より好適に有機膜12の平坦化を図ることができ、先と同様に、本発明の効果を、さらに好適に発現して、目的とする性能を有する機能性フィルム10を、より安定して製造することが可能になる。
【0082】
さらに、平坦化ローラ70による有機膜12の押圧力にも、特に限定はなく、有機膜12の種類や成膜室52の真空度、真空中における有機膜12の表面平坦性の劣化状態等に応じて、適宜、設定すればよいが、線圧力で100〜1000kgf/cmとするのが好ましい。
平坦化ローラ70による押圧力を、この範囲とすることにより、先と同様に、本発明の効果を、さらに好適に発現して、目的とする性能を有する機能性フィルム10を、より安定して製造することが可能になる。
【0083】
なお、本発明の製造装置18においては。平坦化ローラ70による有機膜12の押圧力、および/または、平坦化ローラ70による有機膜12の加熱温度は、調整可能にするのが好ましい。
【0084】
本発明の製造装置18においては、無機成膜装置22には、平坦化ローラ70のクリーニング機構を設けるのも、好ましい。平坦化ローラ70のクリーニング機構を設けることにより、平坦化ローラ70による有機膜12の平坦化や表面性状の向上を、より安定かつ適正に行なうことが可能となる。
平坦化ローラ70のクリーニング機構には、特に限定はなく、平坦化ローラ70に当接する粘着ローラ等、真空中で使用可能であれば、公知のローラのクリーニング手段が、全て利用可能である。
【0085】
平坦化ローラ70とドラム62による挟持搬送により、平坦化ローラ70で有機膜12を平坦化された基板Boは、ドラム62に巻き掛けられて、長手方向に搬送されつつ、成膜手段64a〜64dによって、真空成膜法で無機膜14を成膜される。
成膜室52のドラム62は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
供給室50から供給され、ガイドローラ68によって所定の経路に案内され、前記平坦化ローラによって有機膜12を平坦化され、かつドラム62の所定位置に巻き掛けられた基板Boは、ドラム62の周面の所定領域に掛け回されて、ドラム62に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送され、成膜手段64a〜64d等によって、表面(有機膜12の上)に、無機膜14を形成される。また、成膜室52が、スパッタリングやプラズマCVD等による成膜をおこなうものである場合には、ドラム62は、対向電極としても作用するように、接地(アース)されてもよく、あるいは高周波電源に接続されてもよい。さらに、ドラム62は、冷却手段等の温度調節手段を内蔵してもよい。
【0086】
成膜手段64a〜64dは、真空成膜法によって、有機膜12を成膜された基板Boの表面に無機膜14を成膜するためのものである。
ここで、本発明の製造方法においては、無機膜14の成膜方法には、特に限定は無く、CVD、プラズマCVD、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング等、公知の真空成膜法(気相堆積法)が、全て、利用可能である。
【0087】
従って、無機成膜装置22の成膜室52において、成膜手段64a〜64dは、実施する真空成膜法に応じた、各種の部材で構成される。
例えば、成膜室52がICP−CVD法(誘導結合型プラズマCVD)によって無機膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、誘導磁場を形成するための誘導コイルや、成膜領域に反応ガスを供給するためのガス供給手段等を有して構成される。
成膜室52が、CCP−CVD法(容量結合型プラズマCVD)によって無機膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、中空状でドラム62に対向する面に多数の小孔を有し反応ガスの供給源に連結される、高周波電極および反応ガス供給手段として作用するシャワー電極等を有して構成される。
成膜室52が、CVD法によって無機膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、ガスの供給手段等を有して構成される。
さらに、成膜室52が、スパッタリングによって無機膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、ターゲットの保持手段や高周波電極、ガスの供給手段等を有して構成される。
【0088】
真空排気手段74は、成膜室52内を真空排気して、真空成膜法による無機膜14の成膜に応じた真空度とするものである。
真空排気手段74にも、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。
【0089】
ドラム62に支持/搬送されつつ、成膜手段64a〜64dによって無機膜14を成膜された基板Boすなわち機能性フィルム10は、ガイドローラ70によって所定経路に案内されて、巻取り室54に搬送されて、巻取り軸58によってロール状に巻き取られる。
【0090】
本発明の製造方法において、成膜する無機膜14には、特に限定はなく、真空成膜法によって成膜可能なものであれば、製造する機能性フィルム10に応じた、各種の無機物の膜が利用可能である。
また、無機膜14の厚さにも、特に限定はなく、成膜する無機膜14および機能性フィルム10に要求される性能に応じて、必要な膜厚を、適宜、決定すればよい。
【0091】
例えば、機能性フィルム10として、ガスバリアフィルム(水蒸気バリアフィルム)を製造する際には、無機膜14として、窒化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化ケイ素膜等を成膜すればよい。
また、機能性フィルムとして、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイのような表示装置など、各種のデバイスや装置の保護フィルムを製造する際には、無機膜14として、酸化ケイ素膜等を成膜すればよい。
さらに、機能性フィルムとして、光反射防止フィルム、光反射フィルム、各種のフィルタ等の光学フィルムを製造する際には、無機膜14として、目的とする光学特性を有する、あるいは発現する材料からなる膜を成膜すればよい。
中でも特に、有機膜12の優れた表面平滑性および表面性状によって、緻密で、かつ、割れや抜け極めて少なく、さらに平滑性に優れ、ガスバリア性の優れた膜を無機膜14を成膜できる等の点で、本発明は、ガスバリアフィルムの製造には、最適である。
【0092】
なお、本発明においては、無機膜14の成膜が終了した後であれば、基板Boの表面すなわち無機膜14(機能性フィルム10)の表面に部材を接触してもよい。
すなわち、図示例の成膜室52であれば、成膜手段64dの直下流以降であれば、基板Bの表面に接触する部材を配置しても問題はなく、ガイドローラ70および後述する巻取り室54のガイドローラ80は、通常のガイドローラでよい。
また、本発明においては、基板Boの裏面(有機膜12等を形成される面の逆面)であれば、大気中および真空中を問わず、部材を接触させてもよい。さらに、大気中であれば、搬送ローラ対など、有機膜12の表面に接触する各種の部材を用いてもよい。
【0093】
本発明の製造装置においては、成膜室52に配置される無機膜14の成膜手段は4つに限定はされず、3以下、あるいは5以上の成膜手段を有するものであってもよい。また、複数の成膜手段を有する場合には、必ずしも、全て成膜手段を用いて無機膜を成膜する必要はなく、例えば、図示例であれば、3つ以下の成膜手段のみを駆動して無機膜14を成膜してもよい。
さらに、無機膜14は、単層に限定はされず、複数層であってもよい。無機膜を複数層形成する場合には、各層は、同じものであっても、互いに異なるものであってもよい。
【0094】
製造装置10において、成膜室52で成膜手段64a〜64dによって無機膜14を成膜された基板Boすなわち機能性フィルム10は、ガイドローラ70によって案内されて、成膜室52と巻取り室54とを分離する隔壁78に形成されたスリット78aから、巻取り室54に搬送される。
【0095】
図示例において、巻取り室54は、ガイドローラ80と、巻取り軸58と、真空排気手段82とを有する。
巻取り室54に搬送された機能性フィルム10は、ガイドローラ80に案内されて巻取り軸58に搬送され、巻取り軸58によってロール状に巻回され機能性フィルムロールとして、次の工程に供される。また、先の供給室50と同様、巻取り室54にも真空排気手段82が配置され、成膜中は、巻取り室54も、成膜室52における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。なお、真空排気手段82も、成膜室52の真空排気手段74と同様、公知の物を用いればよい。
【0096】
図2に示す無機成膜装置22において、平坦化ローラ70は、無機膜14を成膜される基板Boを成膜位置に位置しつつ搬送するドラム62と共に、基板Boを挟持搬送することにより、有機膜12を押圧(あるいはさらに加熱)して、有機膜12を平坦化するものである。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、無機膜14の成膜位置より上流で、かつ、無機成膜室52(無機膜を成膜する真空チャンバ)内で、さらに、成膜位置と平坦化ローラとの間に、有機膜12に接触する部材がなければ、各種の構成が利用可能である。
【0097】
例えば、図3に示すように、無機成膜室52において、基板Boをドラム62に案内するガイドローラを、ローラ84aおよびローラ84bからなる搬送ローラ対とし、有機膜12に接触する側のローラ84aを平坦化ローラとする構成が例示される。この構成においては、無機膜14の成膜に先立って、ローラ84aおよびローラ84bによって、基板Boを挟持搬送してドラム62に案内することにより、平坦化ローラであるローラ84aによって有機膜12を押圧して平坦化し、その後、有機膜12に接触することなく、無機膜14を成膜する。
また、図3に示す、基板Boを挟持搬送するローラ84aおよびローラ84にbの有機膜12との当接側を平坦化ローラとする構成と、図2に示す、ドラム62と共に基板Boを挟持搬送する平坦化ローラ70を用いる構成とを、併用してもよい。
【0098】
以上、本発明の機能性フィルムの製造装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0100】
[実施例]
共栄社化学製の重合性モノマー、BEPGA 15g、大阪有機化学工業株式会社製の重合性モノマーV−3PA 5gの混合物、紫外線重合開始剤(Lamberti社製、商品名:Esacure KTO−46)1.5g、2−ブタノン190gの割合で混合した混合溶液を、有機膜12を成膜するための塗料として調製した。
【0101】
基板Bとして、幅が300mmで厚さが100μmの、長尺なPENフィルム(ポリエチレンナフタレートフィルム)を用意した。
この基板Bの表面に、図2(A)に示す有機成膜装置20を用いて、調製した塗料を塗布/乾燥し、紫外線照射によってモノマー混合物を重合して、有機膜12を成膜した。
塗布手段26は、ワイヤーバーを用い、塗料の液厚が5μmとなるように塗布を制御した。乾燥手段28は、対流伝熱乾燥による乾燥手段を用いて塗料を乾燥した。さらに、UV照射装置30は、高圧水銀ランプを使用する紫外線照射装置を用いた。高圧水銀ランプは、紫外線の照射量が積算照射量で約2J/cm2となるように、光量を制御した。なお、高圧水銀ランプを含む基板Bへの紫外線照射領域は、チャンバで囲んで、窒素置換法によりチャンバ内の酸素濃度を0.1%とした。
得られた有機膜12の膜厚は、500nm±50nmであった。
【0102】
次いで、基板ロール42を図2(B)に示す無機成膜装置22に装填して、有機膜12を成膜した基板Boの表面に、無機膜14として膜厚50nmの酸化アルミウム膜を成膜して、ガスバリアフィルムを制作した。
成膜室52は、反応性スパッタリングによる成膜装置とした。ターゲットとして金属アルミニウムを、プロセスガスとして酸素ガスおよびアルゴンガスを用いた。
平坦化ローラ70は、表面粗さRaが0.1μm以下のステンレス表面にハードクロムメッキ処理を施したローラを用いた。平坦化ローラ70とドラム62のニップ圧(平坦化ローラ70による有機膜12の押圧力)は、線圧力で250kgf/cmとした。
【0103】
基板ロール42を供給室50の回転軸56に装填した後、ガイドローラ60を経て成膜室52に搬入し、成膜室52において、ガイドローラ68、平坦化ローラ70およびドラム62、およびガイドローラ72を経て巻取り室54に搬入し、巻取り室54において、ガイドローラ80を経て巻取り軸58に至る所定の搬送経路で、基板Boを挿通した。なお、ドラム62の温度は、20℃に制御した。
次いで、真空排気手段74を駆動して、成膜室52の排気を開始し、圧力が3.0×10-5Paとなった時点で、成膜室52へのプロセスガスの導入を開始し、さらに真空排気手段74による排気を制御して、成膜室52内の圧力を0.2Paとした。また、成膜室52の排気開始と同じに、供給室50および巻取り室54も、真空排気手段61および82を駆動して排気を行い、内部の圧力を0.2Paに制御した。
成膜室52へのガス導入開始と同時に、基板Boの搬送を開始し、各室の圧力が0.2Paで安定した時点で、成膜手段64a〜64bのカソードへの電力供給を開始して、基板Bo(有機膜12の表面)に、反応性スパッタリングによる無機膜14(酸化アルミニウム膜)の成膜を行なった(成膜圧力0.2Pa)。
【0104】
[比較例]
平坦化ローラ70に代えて、表面粗さRaが1.0μm以下のステンレスローラを用いた以外は、前記実施例と全く同様にして、基板Bo(有機膜12)の表面に反応性スパッタリングによって、厚さ50nmの無機膜14(酸化アルミニウム膜)を成膜して、ガスバリアフィルムを作製した。
【0105】
作製した実施例および比較例のガスバリアフィルムについて、Ca法によって、40℃/相対湿度90%における水蒸気透過率を測定した。
その結果、実施例の水蒸気透過率は、1.5×10-3g/m2/day、
比較例の水蒸気透過率は、2.7×10-2g/m2/day、
であった。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の機能性フィルムの製造装置によって製造する機能性フィルムの一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の機能性フィルムの製造装置の一例を概念的に示す図である。
【図3】本発明の機能性フィルムの製造装置の成膜室の別の例を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0107】
10 機能性フィルム
12 有機膜
14 無機膜
20 有機成膜装置
22 無機成膜装置
26 塗布手段
28 乾燥手段
30 UV照射装置
32,56 回転軸
34,58 巻取り軸
40,42 基板ロール
50 供給室
52 成膜室
54 巻取り室
60,68,72,80 ガイドローラ
61,74,82 真空排気手段
62 ドラム
64a,64b,64c,64d 成膜手段
70 平坦化ローラ
76,78 隔壁
84a,84b ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な基板の表面に有機膜を成膜する有機膜成膜装置と、前記有機膜を成膜した基板を長手方向に搬送しつつ、真空成膜法によって前記有機膜の上に無機膜を成膜する無機膜成膜装置とを有し、
かつ、前記無機膜成膜装置は、真空チャンバ内に、前記有機膜を押圧することで平坦化する平坦化ロールと、前記平坦化ロールの下流に配置される無機成膜手段とを有し、さらに、前記平坦化ロールと前記無機成膜手段との間に、前記有機膜に接触する部材を有さないことを特徴とする機能性フィルムの製造装置。
【請求項2】
前記平坦化ロールは、前記有機膜に当接する面の表面粗さRaが0.1μm以下である請求項1に記載の機能性フィルムの製造装置。
【請求項3】
前記有機膜を加熱しつつ、前記記平坦化ロールによる有機膜の押圧を行なう請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造装置。
【請求項4】
前記無機成膜手段は、ドラムに基板を巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、前記無機膜の成膜を行なうものであり、前記平坦化ロールは、前記ドラムと共に基板を挟持搬送することにより、前記無機膜の平坦化を行なう請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルムの製造装置。
【請求項5】
前記無機成膜手段の上流に基板を挟持搬送する搬送ローラ対を有し、この搬送ローラ対の前記有機膜に当接する側のローラが、前記平坦化ロールである請求項1〜4のいずれかに記載の機能性フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−241255(P2009−241255A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87040(P2008−87040)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】