説明

機能性マイクロチップおよびその製造方法

【課題】低価格化、大量供給が可能で、流路表面に酵素、抗体等の機能性タンパク質を固定でき、高度な機能が付与されたマイクロチップ及びその製造する方法の提供を目的とする。
【解決手段】重合体AとエラストマーBとを主たる組成成分とする樹脂製のマイクロチップであって、重合体Aはポリプロピレン又はプロピレンが主たる成分である共重合体で結晶融解ピーク温度が140℃以上であり、エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合又は/及びグラフト共重合体であり、当該マイクロチップは表面又は/及び内部に、流路又は液だめとして機能する構造を少なくとも1コ以上含む微細構造部を有し、当該微細構造部はその表面の少なくとも一部が、タンパク質を固定できる性質を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な流路、液だめ等を有する微細構造部に生化学的機能性を付与したマイクロチップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路チップなどのマイクロチップは、従来、試験管や反応器具などで行われていた混合、反応、分離などを小さなチップ上で可能にし、分析、検査、合成などにおいて携帯性の実現、操作の単純化、試薬量の低減、時間短縮化などが可能と考えられ、様々な分野で検討されている。
【0003】
従来、このようなマイクロチップは、その素材としてシリコンやガラスが用いられ、エッチングなどの公知の方法で加工して製造されてきた。このようにして提供されるマイクロチップは、構造精度や化学的安定性に優れるなどの利点を有するものの、素材コストや製造コストなどから非常に高価となり、使い捨て用途を含む広範な用途に使用するには至っていない。
【0004】
低コスト化などのために、マイクロチップを樹脂により作製することも検討されている。硬化性のシリコーンゴムと鋳型を使用して製造するマイクロチップが考案されており、実験室レベルで容易に製造できることから、研究用途などに使用されている。
しかし、シリコーンゴム製のマイクロチップは、素材価格が汎用の樹脂と比較し高価なことや、熱硬化を用いるため成形時間が長く大量生産に向かないことなどから、広範囲に使用されるには至っていない。
【0005】
汎用樹脂を使用し大量にマイクロチップを生産する方法も提案されている。
射出成形によれば短時間で大量にマイクロチップを生産することは可能だが、この方法ではマイクロチップの微細な凹凸構造を鋳型から正確に転写して形成させることが困難なため、素材や金型などの面から様々な工夫がなされている。本発明者らもポリプロピレン系樹脂を使用し、射出成形により低コストで大量にマイクロチップを製造する方法を考案している。
【0006】
近年、汎用の熱可塑性樹脂を使用して大量にマイクロチップを製造することは可能となりつつあるが、このように提供されるマクロチップはその用途である分析、検査、合成などの面から考えると、未だ十分ではない場合がある。すなわち、熱可塑性樹脂により形成されている流路や液だめは、通常のプラントや装置における配管やタンクに相当するものとなり得るが、現状ではそれ以上の高度な機能はない。
【0007】
マイクロチップに高度な機能を付与するための1つの方法としては、流路等に酵素、抗体などの機能物質を固定化し、それ自体が反応や吸着を行うことができるようにすることが考えられる。これによりマクロチップに基質や抗原を流し、それらを選択的に反応させたり吸着させたりすることが可能となり、分析や合成に効果的に利用できるマイクロチップとなる。
特許文献1には、微細流路チャンネル内の一部に、光硬化性高分子を用いて多孔質構造部を形成し、この多孔質構造部に酵素、抗体等を固定する技術を開示する。
しかし、この多孔質構造部は流体の流れを制限するものであり汎用性に劣る。
【0008】
また、現状の汎用的な熱可塑性樹脂からなるマイクロチップについては、流路等に酵素、抗体などを固定する技術は見当たらない。このことは、酵素、抗体の固定に利用できるような官能基が熱成形において着色や分解などのため好ましくなく、汎用の熱可塑性樹脂では含有していないことによると推測される。
よって現状では、熱可塑性樹脂からなる低価格で大量供給が可能なマイクロチップでは、酵素、抗体を固定することにより得られる高度な機能を利用することはできず、改良が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−317128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、低価格化、大量供給が可能で、流路表面に酵素、抗体等の機能性タンパク質を固定でき、高度な機能が付与されたマイクロチップ及びその製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタンパク質の固定が可能なマイクロチップは、重合体AとエラストマーBとを主たる組成成分とする樹脂製のマイクロチップであって、重合体Aはポリプロピレン又はプロピレンが主たる成分である共重合体で結晶融解ピーク温度が140℃以上であり、エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合又は/及びグラフト共重合体であり、当該マイクロチップは表面又は/及び内部に、流路又は液だめとして機能する構造を少なくとも1コ以上含む微細構造部を有し、当該微細構造部はその表面の少なくとも一部が、タンパク質を固定できる性質を有していることを特徴とする。
ここで微細構造部は、生化学的な分析、検査、合成等を目的にした流路や液だめ部を有し、この表面の少なくとも一部に、タンパク質を固定することができる趣旨である。
【0012】
この場合に、タンパク質を固定しやすいように前記微細構造部の表面の少なくとも一部にポリマーをグラフトしてあり、当該グラフトしたポリマーにタンパク質を固定するようにしてもよい。
ここで、グラフトするポリマーは、炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体を1種類以上含むポリマーが好ましい。
単量体が炭素数、4以上のアルキル基を有するものである場合には、疎水的な表面吸着によりタンパク質を固定することになり、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基等の化学構造を有する単量体を用いた場合にはその官能基を利用してタンパク質を固定する。
ここで、微細構造部の表面に固定するタンパク質は用途に応じて選択され、例えば、各種酵素、抗体、抗原等が例として挙げられる。
タンパク質を固定する場合に、タンパク質に有するフリーのアミノ基、あるいは酵素、抗体等に特異なチオール基等の官能基を用いて縮合固定させることもできる。
【0013】
本発明に係るマイクロチップの製造方法は、重合体AとエラストマーBとを主たる組成成分とする樹脂製のマイクロチップであって、重合体Aはポリプロピレン又はプロピレンが主たる成分である共重合体で結晶融解ピーク温度が140℃以上であり、エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合又は/及びグラフト共重合体であり、当該マイクロチップは表面又は/及び内部に、流路又は液だめとして機能する構造を少なくとも1コ以上含む微細構造部を有し、微細構造の表面の少なくとも一部にポリマーをグラフトし、当該ポリマーにタンパク質を固定させることを特徴とする。
前記微細構造の表面の少なくとも一部に炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体を1種類以上含むポリマーをグラフトし、当該ポリマーにタンパク質を固定させても良い。
当該ポリマーの官能基にタンパク質のアミノ基又はチオール基等の官能基を縮合結合させることもできる。
ここで、前記微細構造の表面の少なくとも一部に液状の光重合開始剤または光重合開始剤溶液を接触させたのち、該表面に単量体を接触させながら光照射することによりポリマーをグラフトするようにしてもよい。
単量体を接触させる方法は、単量体の気体または単量体および不活性ガスからなる気体を用いても良い。
また、機能性タンパク質にはフリーのアミノ基を初めとして、チオール基、カルボキシル基等の官能基を有し、これらの官能基をグラフトしたポリマーの官能基と結合架橋剤を用いて固定してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、熱可塑性樹脂にて微細構造部を有するマイクロチップを製作し、その微細構造の表面の少なくとも一部に機能性タンパク質を固定できるポリマーをグラフトして形成したことにより、酵素、抗体、抗原等を固定することができ、低価格で大量供給が可能な高機能マイクロチップを製造し、提供することができるようになり、分析、検査、合成などの用途に置いて有効に活用できる。
【0015】
本発明に係る機能性マイクロチップを構成する成分は、ポリプロピレンおよび/またはプロピレンが主たる成分であるプロピレン共重合体で結晶融解ピーク温度が140℃以上である重合体A、および共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合体および/またはグラフト共重合体からなるエラストマーBである。
【0016】
重合体Aの結晶融解ピーク温度は、本発明に係る機能性マイクロチップがポリプロピレン樹脂の耐熱性を保持し、加圧水中での熱湯殺菌などに耐えられるよう140℃以上であるのが好ましい。結晶融解ピーク温度は示差走査熱量計などにより測定される。
【0017】
エラストマーBは、ポリプロピレンおよび/またはプロピレンが主たる成分であるプロピレン共重合体に添加することにより射出成形の微細構造転写性を改良しマイクロチップ成形を可能とするため、およびその非晶性または低結晶性を利用して成形したマイクロチップの表面に重合開始剤を導入しやすくしグラフト反応を起こりやすくするために添加する。
【0018】
エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合体および/またはグラフト共重合体であることが好ましい。
【0019】
重合体Xは、重合体AとエラストマーBの間の相溶性がより良好となるように選ばれた、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体である。重合体Xに使用される共役ジエンはブタジエン、イソプレンが好ましく、重合体Xにシス−1,4結合以外の1,2結合など(イソプレンでは3,4結合を含む)を水素添加した構造が含まれると、重合体AとエラストマーBの相溶性の点からはより好ましい。重合体AとエラストマーBの相溶性が良好であることは、重合体AとエラストマーBとを混合して得られる組成物の透明性が、重合体A単体の透明性よりも優れることなどから判断できる。
【0020】
重合体Yは、エラストマーBの溶融粘度を調整して重合体AとエラストマーBの溶融混練を容易にしたり、エラストマーBのハンドリング性を良くしたりするために、重合体Xとブロック共重合、グラフト共重合されている。
【0021】
また重合体Yは、重合体Aと重合体Xの相溶性に関与しないよう、重合体Aおよび重合体Xとは相溶しないことが好ましい。このような重合体Yの性質により、重合体Yはマイクロチップ中においてミクロドメインを形成する。このようなミクロドメイン構造は透過型電子顕微鏡などにより観察できる。
【0022】
重合体Yの種類は特に限定されないが、重合や入手のしやすさからはポリスチレンなどのビニル芳香族ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリオレフィンなどが好ましい。
【0023】
エラストマーBにおいて、重合体Xと重合体Yの結合構造は特に限定されず、ジブロック共重合体では重合体X−重合体Y、トリブロック共重合体では重合体Y−重合体X−重合体Y、重合体X−重合体Y−重合体X、マルチブロック共重合体では重合体Xおよび/または重合体Yを末端として重合体Xと重合体Yとが交互に連結した構造などが挙げられ、グラフト共重合体では重合体Xが幹で重合体Yが枝の構造や重合体Yが幹で重合体Xが枝の構造などが挙げられる。
【0024】
エラストマーBにおいて、重合体Aとの相溶性の点からは重合体Xが多いほうが好ましいが、重合体Xが多すぎると重合体AとエラストマーBの溶融混練が困難になったり、エラストマーBに粘着性が発現したりするので、エラストマーBの重合体Xの割合は40〜95重量%の範囲にあるのが好ましい。
【0025】
本発明に係る機能性マイクロチップを構成する樹脂において、エラストマーBの含有量はグラフト反応性向上の点からは多いほうが好ましいが、エラストマーBが多すぎると射出成形性、耐熱性、剛性が低下したりして好ましくない。従ってエラストマーBの含有量は、10〜70重量%の範囲にあることが好ましく、15〜60重量%の範囲にあるのがより好ましい。
【0026】
本発明に係る機能性マイクロチップを構成する樹脂を調製する方法は特に限定されないが、生産性や樹脂の分散性などの点からは2軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。
【0027】
本発明に係る機能性マイクロチップの構造は、表面および/または内部に流路、液だめとして機能する構造を1つ以上含む微細構造を有する。
【0028】
該微細構造の寸法は、マイクロチップのプレート面に垂直な方向から観察したときの該微細構造の最小内接円直径が0.1μm〜500μmの範囲にあり、マイクロチップのプレート面に平行な方向から観察したときの最小深さが0.1μm〜500μmの範囲にある。これにより本発明の機能性マイクロチップは、マイクロ流体チップなどとして好適に使用できる。
【0029】
該微細構造の表面の少なくとも一部には、酵素、抗体、抗原等の機能性タンパク質を固定化できる。
これにより本発明に係る機能性マイクロチップは、バイオチップとして分析、検査、合成などに有利に使用することができる。
【0030】
本発明に係る機能性マイクロチップの製造は、本発明の樹脂、構造からなるマイクロチップの流路、液だめ、ウェルとして機能する構造を1つ以上含む微細構造の表面の少なくとも一部に炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体を1種類以上含むポリマーをグラフトし、該ポリマーに酵素、抗体、抗原等を固定化することにより行う。
【0031】
本発明に係る樹脂、構造からなるマイクロチップを用意する方法は射出成形による。射出成形の方法は特に限定されず、射出成形機、金型などを使用し自由に成形することができる。また金型については、微細構造に対応した鋳型を予め用意し、金型に固定することにより成形に用いても良い。鋳型は、エッチングして作製したシリコン製型や電鋳により作製した金属製型などを使用することができる。
【0032】
内部に流路などがあるマイクロチップについては、表面に微細な溝などを有する成形品と平板状成形品とを用意し、それら公知の方法で接着することにより作製することができる。
【0033】
微細構造にポリマーをグラフトする方法としては、微細構造の表面に液状の光重合開始剤または光重合開始剤溶液を一定時間接触させたのち、該表面に単量体の気体または単量体および不活性ガスからなる気体を接触させながら光照射する方法が挙げられる。
【0034】
グラフトする際に用いる単量体は、炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体から選ばれる1種類または2種離類以上の単量体、またはこのような単量体とその他の単量体を混合した単量体を用いる。
【0035】
炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸、ケイ皮酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、マレインアミド、2−アミノエチルビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ヒドロキシエチル化ダイアセトンアクリルアミド、メトキシメチル化アクリルアミド、メトキシメチル化メタクリルアミド、ブトキシメチル化アクリルアミド、ブトキシメチル化メタクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ビニルシクロヘキサンモノエポキサイド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノアリルエーテル、アクロレイン、クロトンアルデヒド、ダイアセトンアクリルアミド、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリスメトキシエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルオキサゾリン、2−プロペニル2−オキサゾリン、アクリルアミドグリコール酸、メタクリルアミドグリコール酸、アリルカルバメートのN−メチロール誘導体、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ノニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ノニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0036】
本発明においては、グラフトポリマーに酵素、抗体、抗原等を固定する際にはそれらのアミノ基が利用しやすいことを考慮すると、カルボキシル基を有する単量体が好ましい。また重合時には気体状の単量体を使用することから気化しやすい単量体が好ましいので、1気圧における沸点が200℃以下の単量体が好ましい。よって上記の単量体の中では、アクリル酸、メタクリル酸をより好ましく用いることができる。
【0037】
光重合開始剤は、ベンゾインエーテル系、ケタール系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系などの光重合開始剤から自由に選択して用いることができる。
【0038】
グラフトポリマーに酵素、抗体、抗原等を固定化する方法としては、これらを構成するタンパク質の官能基を利用することができる。
【0039】
官能基としてアミノ基を利用する場合は、上記のとおりグラフトポリマーのカルボキシル基と反応させるのが好ましい。このような縮合反応の際には、酵素や抗体が変質しない室温以下で反応が十分に進行するように、カルボジイミド類のような結合架橋剤を共存させて水中で反応させるのが好ましい。水溶性のカルボジイミド類としては、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド メト-p-トルエンスルホナートが好ましく使用される。
【0040】
またアミノ基と反応させるために、グラフトポリマーのカルボキシル基を他の官能基に変換してもよい。カルボキシル基とN-ヒドロキシこはく酸イミドとを、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを共存させ水中で反応させることにより、グラフトポリマーのカルボキシル基がN-サクシミジル基に変換される。N−サクシミジル基は室温でアミノ基と反応するので、グラフトポリマーへの酵素、抗体の固定が可能となる。
なお、タンパク質に有する官能基としてはアミノ基の他にチオール基やカルボキシル基を用いてもよく、その場合には、これに対応した縮合反応性の官能基をグラフトポリマー側に形成するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るマイクロチップの例を示す。
【図2】微細構造部の表面にポリマーをグラフトする模式図を示す。
【図3】抗体が表面に固定されたことを確認した蛍光観察像を示す。
【図4】酵素が表面に固定されたことを確認したルミノール反応の発光チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1に本発明に係るマイクロチップの例を示す。
図1に示した例では、プレート状のマイクロチップ10に、微細構造部としてクランク型流路部11の先にクロス型流路部12を形成し、さらにY字型流路部13を形成した例になっている。
なお、クロス型流路の接続しない部分(図1にて上方に向けた流路)の先にはメクラ栓をしてある。
これらの流路部は、図1にて流路部と区別して分かりやすくするために点線で示した第1チューブ〜第5チューブを用いて連結してある。
マイクロチップの材料はポリプロピレン(J−3021GR、出光石油化学株式会社)とエラストマー(ハイブラー7311S、株式会社クラレ)とを5:5の割合で配合した樹脂を用いて射出成形した。
なお、ハイブラー7311Sは、水添ポリスチレン・ビニールポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体でスチレン含有率12質量%である。
微細構造部の大きさは流路深さ50μm、クランク型流路部11aの幅100μm、クロス型流路部の内、符号12aの部分の幅100μm、同様に12b:40μm、12c:30μm、Y字型流路部13は同様に13a:20μm、13b:50μm、13c:70μmの幅に設定した例となっている。
【0043】
微細構造部の表面には、図2に模式的に示した気相重合でポリマーをグラフトした。
グラフトしたい微細構造部の表面に光重合開始剤を所定時間接触させ、次にアクリル酸、メタクリ酸等の気体状の官能基含有モノマーを表面部に接触するように反応容器内に充填し、光(紫外線)を照射する。
本実施例では、重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ製の光重合開始剤 Ciba DAROCUR 1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン)を用いた。 また、単量体はアクリル酸(和光純薬工業製)を使用し、紫外線照射は紫外線ランプ(アズワン株式会社製 LUV−16)を用いた。
このようにポリマーをグラフトしたマイクロチップは、その後に各種酵素、抗体、抗原を固定できる。
【0044】
(抗体の固定例)
図1に示したY字型流路部13に液状の光重合開始剤を約10時間接触させ、次に30℃のアクリル酸を窒素でバブリングして発生させたアクリル酸と窒素の混合気体を流しながら紫外線を1時間照射し、ポリアクリル酸をグラフトした。
次に、Cy3で蛍光標識した抗体、Cy3 Goat F(ab’)2 Anti−Mouse IgG(H+L)2μg/ml水溶液と、結合架橋剤、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド メト−p−トルエンスルホナート(和光純薬工業製)20mg/ml水溶液とを1:1で混合した溶液に室温(26℃)、5時間接触させた。 その後は、蒸留水で洗浄し、乾燥した。
その蛍光観察像を図3に示す。
蛍光顕微鏡観察は、高級システム顕微鏡BX50にユニバーサル落射蛍光装置BX−FLA(何れもOLYMPUS製)を取付けて実施した。
図3(a)は明視野観察像であり(b),(c)は蛍光観察像である。
これにより、ポリアクリル酸をグラフトすることで抗体の固体化ができることが分かる。
【0045】
(酵素の固定例)
図1に示したクランク型流路部12に、光重合開始剤を4時間接触させ、次にアクリル酸と窒素の混合流体を流しながら紫外線を1.5時間照射し、ポリアクリル酸をグラフトした。
次に、酵素、グルコースオキダーゼ10mgと、結合架橋剤、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド メト−p−トルエンスルホナート24mgを1mlの蒸留水に溶解した溶液を4℃にて20時間接触させた。
酵素が固定化されたことの確認を次のように実施した。
図1に示した外径1mm、内径0.5mmのシリコン製の第1チューブ21から10%グルコース水溶液(D(+)−グルコース、和光純薬工業製)、流量0.5μl/min(流速100mm/min)で流した。
第2チューブ21から1%フェリシアン化カリウム水溶液(和光純薬工業製)、流量0.8μl/minで流し、第4チューブ24から0.1%ルミノール(和光純薬工業製)in1%水酸化ナトリウム水溶液、0.8μl/minで流した。
ここで、送液はマイクロシリンジおよびマイクロシリンジポンプを用いた。
図4にルミノール反応による発光強度の測定結果を示す。
ルミノール発光は、グルコースオキシダーゼにより分解され生成する過酸化水素とルミノールの反応により起こり、発光強度は、Y字型流路部13の合流点にて、上記BX50と顕微鏡デジタルカメラDP70(OLYMPUS製)により測定した。
図4(a)は、ポリアクリル酸をグラフトしたもので(b)は、ポリアクリル酸をグラフトしないもの、(c)は、参考のために蒸留水を流路に流したものである。
この結果、図4の縦軸のスケールを考慮すると、ポリアクリル酸をグラフトしたものの発光度が高く、酵素を表面に固定できたことが確認できた。
【符号の説明】
【0046】
10 マイクロチップ
11 クランク型流路部
12 クロス型流路部
13 Y字型流路部
21 第1チューブ
22 第2チューブ
23 第3チューブ
24 第4チューブ
25 第5チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体AとエラストマーBとを主たる組成成分とする樹脂製のマイクロチップであって、
重合体Aはポリプロピレン又はプロピレンが主たる成分である共重合体で結晶融解ピーク温度が140℃以上であり、
エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合又は/及びグラフト共重合体であり、
当該マイクロチップは表面又は/及び内部に、流路又は液だめとして機能する構造を少なくとも1コ以上含む微細構造部を有し、当該微細構造部はその表面の少なくとも一部が、タンパク質を固定できる性質を有していることを特徴とするタンパク質の固定が可能なマイクロチップ。
【請求項2】
前記微細構造部の表面の少なくとも一部にポリマーをグラフトしてあり、当該グラフトしたポリマーがタンパク質を固定できる性質を有していることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の固定が可能なマイクロチップ。
【請求項3】
炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体を1種類以上含むポリマーをグラフトしたことを特徴とする請求項2記載のタンパク質の固定が可能なマイクロチップ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質の固定が可能なマイクロチップに、酵素、抗体、抗原のいずれかを固定したことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項5】
重合体AとエラストマーBとを主たる組成成分とする樹脂製のマイクロチップであって、
重合体Aはポリプロピレン又はプロピレンが主たる成分である共重合体で結晶融解ピーク温度が140℃以上であり、
エラストマーBは、共役ジエンの重合体を水素添加した重合体Xと重合体Xおよび重合体Aに相溶しない重合体Yとからなるブロック共重合又は/及びグラフト共重合体であり、
当該マイクロチップは表面又は/及び内部に、流路又は液だめとして機能する構造を少なくとも1コ以上含む微細構造部を有し、微細構造の表面の少なくとも一部にポリマーをグラフトし、当該ポリマーにタンパク質を固定させることを特徴とするマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
前記微細構造の表面の少なくとも一部に炭素数が4以上のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アルデヒド基、メチロール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基から選ばれる1つまたは2つ以上の化学構造を有する単量体を1種類以上含むポリマーをグラフトし、
当該ポリマーにタンパク質を固定させることを特徴とする請求項5記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項7】
前記微細構造の表面の少なくとも一部に液状の光重合開始剤または光重合開始剤溶液を接触させたのち、該表面に単量体を接触させながら光照射することによりポリマーをグラフトすることを特徴とする、請求項6記載のマイクロチップ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216964(P2010−216964A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63486(P2009−63486)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】