機能性不織布製造方法、機能性不織布、および、立体マスク
【課題】通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得る機能性不織布製造方法および機能性不織布と、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた立体マスクの提供を課題としている。
【解決手段】リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法であって、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを作製して、該スラリー中に分散されたパルプを乾燥させて粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製し、該パルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成した後に加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させることを特徴としている。
【解決手段】リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法であって、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを作製して、該スラリー中に分散されたパルプを乾燥させて粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製し、該パルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成した後に加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布の製造方法と、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布、および、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布が用いられた立体マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布は、エアコン、空気清浄機などのフィルターやマスクの材料として広く用いられている。このような用途に用いられる不織布には、空気中の細菌、ウイルス、動植物細胞、有害ガス、悪臭成分、粉塵、ミスト、花粉等を捕捉し、その他の成分を透過させ得る機能が求められている。
このような要望に対して、従来、リン酸カルシウムなどのような吸着作用を有する物質を担持させた機能性不織布が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リン酸カルシウムを結合剤などと共に分散させた水性分散液に不織布を含浸させるか又はコーティングすることによりリン酸カルシウムが担持された機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法が記載されている。
しかしながら、不織布の含浸や不織布へのコーティングなどによってリン酸カルシウムを担持させる方法では、リン酸カルシウムを不織布の繊維に十分固定させるのが困難であり、たとえ、製造段階において大量にリン酸カルシウムを固着させたとしても使用時において脱落して吸着作用を持続させることが困難である。
このことに対し、結合剤を増量してリン酸カルシウムの脱落を防止することも考え得るが、その場合には、リン酸カルシウムの吸着性を結合剤が低下させてしまうばかりでなく、空気の流通性を低下させるおそれを有する。
【0004】
また、特許文献2には、吸着性能を有する粉末とフィブリル化セルロースとを含有するスラリーを抄紙して機能性不織布を製造する機能性不織布製造方法が記載されている。
しかしながら、抄紙する方法で得られた機能性不織布は、通常、通気性に乏しいため、マスクや空気清浄機のフィルターの様な通気性を必要とする用途にそのまま用いることは困難である。
すなわち、従来の機能性不織布製造方法は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造することが困難であるという問題を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平5−222693号公報
【特許文献2】特開平7−232060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得る機能性不織布製造方法の提供を課題としている。
また、本発明は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布の提供を課題としている。
さらに、本発明は、このような通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた立体マスクの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布を所定の工程で作製することにより通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得ることを見出し、本発明の完成に到ったのである。
【0008】
すなわち、前記課題を解決するための機能性不織布製造方法にかかる発明は、リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法であって、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを作製して、該スラリー中に分散されたパルプを乾燥させて粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製し、該パルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成した後に加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させることを特徴としている。
【0009】
また、前記課題を解決するための機能性不織布にかかる発明は、リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布であって、リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維は、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製され、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴としている。
【0010】
また、前記課題を解決するための立体マスクにかかる発明は、着用者の鼻及び口を覆うマスク本体が備えられており、前記マスク本体が立体形状に形成されている立体マスクであって、前記マスク本体には、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布が用いられており、前記機能性不織布は、リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維が、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製されて、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴としている
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機能性不織布を形成するパルプ繊維にリン酸カルシウムを強固に担持させ得る。また、その際に、結合剤を多量に用いる必要性もない。したがって、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得る。
また、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を着用者の鼻及び口を覆うマスク本体に用いることで、立体マスクを通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れたものとし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態の機能性不織布製造方法においては、(1)パルプとリン酸カルシウムとが水中に分散されたスラリーを作製するスラリー工程、(2)該スラリー工程後に、スラリーを脱水する脱水工程、(3)該脱水工程で脱水されたパルプを乾燥する乾燥工程、(4)該乾燥工程で乾燥されたパルプを粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製する粉砕工程、(5)該粉砕工程で作製されたパルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成させるウェブ工程、(6)該ウェブ工程にて形成されたウェブを加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させる接着工程とを実施する。
【0013】
(1)スラリー工程
このスラリー工程における、パルプとリン酸カルシウムとが水中に分散されたスラリーを作製する方法としては、特に限定されるものではなく一般的なスラリー作製方法を採用することができる。
例えば、特公平4−61807号報に記載されている方法により水中に非晶質リン酸カルシウムを析出させ、この非晶質リン酸カルシウムが析出された水中にさらにパルプを含有させてスラリーを作製する方法や、この析出させた非晶質リン酸カルシウムを一旦乾燥させた後に再びパルプと共に水中に分散させてスラリーを作製する方法を採用することができる。
【0014】
上記例示のスラリー作製方法の内、製造コストおよび工程の簡便さからは前者が好適である。
すなわち、水酸化カルシウム懸濁液(以下「石灰乳スラリー」ともいう)に攪拌下で約85%リン酸水溶液を加えてpH11近傍までpHを低下させた後に、約85%リン酸水溶液を2〜4倍に水で希釈したリン酸水溶液を加え、さらに、約85%リン酸水溶液を5倍以上に水で希釈したリン酸水溶液を加えてpHを10〜9に調整することにより水中に非晶質リン酸カルシウムを析出させて非晶質リン酸カルシウムスラリーを作製した後に、この非晶質リン酸カルシウムスラリーにパルプを加える方法は、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを簡便な工程で作製でき、スラリー工程に要するコストを低減させ得る。
【0015】
なお、このスラリー工程においては、パルプに対してより強固にリン酸カルシウムを担持させるべくパルプとリン酸カルシウムとを含有するスラリーに対して叩解処理を実施することが好ましい。
この叩解処理とは、繊維を叩き解す処理であり、より具体的には、パルプ繊維を水中で分散・膨潤させ、機械によって圧潰・せん断、更に繊維表面に毛羽立ちを与える処理である。
この叩解処理には、一般的な叩解処理方法を採用することができ、例えば、ビーターあるいはリファイナーと称する装置を用いて実施することができる。
この叩解処理によって、いわゆる「内部フィブリル化」と呼ばれるパルプの繊維の膨潤および柔軟性の付与、あるいは「外部フィブリル化」と呼ばれるパルプの繊維の2次壁中層の露出などの効果を奏するとともにパルプの繊維を切断することができる。
【0016】
この叩解処理の程度は、叩解されたパルプのろ水度(フリーネス)がカナダ標準形ろ水度(C.S.F.)で250〜650mlとなるよう実施することが好ましい。
このフリーネスが上記の範囲であることが好ましいのは、フリーネスが250ml(C.S.F.)未満の場合には、叩解が過剰になりパルプが短く切断されすぎたり、パルプの水切れが悪くなって脱水時間が長くなったりするおそれがあるためである。
また一方で、フリーネスが650mlを超えると、前述したように叩解の効果を十分発揮させることが困難となるためである。
【0017】
このスラリー工程において水中に分散させるパルプとしては、例えば、木材繊維パルプ、非木材繊維パルプが挙げられ、具体的には、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)、NBSP(針葉樹晒サルファイトパルプ)等の製紙用の木材パルプの1種類若しくは2種類以上を混合して用いることができる。
【0018】
前記リン酸カルシウムとしては、例えば、(Ca/P)のモル比が1.45〜2.0の範囲にあるリン酸カルシウムを用いることができる。
より具体的には、上記例示したような、非晶質リン酸カルシウムを使用することが好ましい。なお、リン酸カルシウムが非晶質リン酸カルシウムであることは、粉末X線回折により結晶相を同定した際に、Joint Committee on Powder Diffraction Standards(「JCPDS」ともいう)にて編集、刊行されているカードNo.18−0303に示されるCa3(PO4)2・xH2OのX線回折パターンと一致することで確認することができる。
なお、本発明において用いられるリン酸カルシウムは、本発明の効果を損ねない範囲において、抗体や酵素などのタンパク質を吸着させて用いることもできる。
【0019】
このパルプとリン酸カルシウムは、例えば、その合計量がスラリー中に数%の濃度となるように含有させることができ、パルプとリン酸カルシウムとの混合比率はパルプ100重量部に対してリン酸カルシウム(固形分)が2〜20重量部の比率とされることが好ましく、5〜10重量部の比率であることが更に好ましい。
パルプに対するリン酸カルシウムの添加量がこのような範囲であることが好ましいのは、パルプ100重量部に対してリン酸カルシウムの添加量が2重量部未満である場合には、最終的に機能性不織布に担持されるリン酸カルシウムの量が少なすぎて、機能性不織布にリン酸カルシウムの十分な吸着作用を付与させることが困難となるおそれがあるためである。
また一方で、パルプ100重量部に対するリン酸カルシウムの添加量を20重量部を超える割合としても、それ以上に機能性不織布に担持されるリン酸カルシウムの量を増大させることが困難であり、リン酸カルシウムの量の添加量に見合う吸着作用を機能性不織布に付与させることが困難となるおそれがあるためである。
【0020】
また、このスラリー工程においては、パルプとリン酸カルシウム以外に、本発明の効果を損ねない範囲において、他の無機材料をスラリーに含有させてこの無機材料を機能性不織布に担持させるようしてもよい。
この無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、アナターゼ型あるいはルチル型酸化チタン等が挙げられる。
【0021】
(2)脱水工程
この脱水工程における前記スラリーの脱水方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、遠心脱水装置、加圧脱水装置、フィルタープレス等の方法一般的なスラリーの脱水方法を採用することができる。
【0022】
(3)乾燥工程
前記脱水工程で脱水されたパルプを乾燥する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、棚式乾燥機を用いて80℃〜150℃の温度で乾燥させる方法など一般的な乾燥方法を採用することができる。
なお、要すれば、円網抄紙機や長網抄紙機を用いることによって前記脱水工程とこの乾燥工程とを連続的に実施させることも可能である。
【0023】
(4)粉砕工程
前記乾燥工程で乾燥されたパルプを粉砕する方法としては、特に限定されるものではなく、ハンマーミルや、ディスクリファイナーなど一般的な粉砕装置を用いて実施することができる。
このとき粉砕されて形成されるパルプ繊維の多くが長さ0.2〜5mmとなるように粉砕工程を実施することが好ましい。
この粉砕工程によって、パルプ繊維に余分に付着しているリン酸カルシウムをパルプ繊維から脱落させることができる。したがって、この粉砕工程後のパルプ繊維からさらにリン酸カルシウムが脱落することを抑制することができ、機能性不織布の使用中にリン酸カルシウムが脱落して吸着作用が低下することを抑制させ得る。
なお、この時のリン酸カルシウムの脱落量は、乾燥工程直後にパルプが担持しているリン酸カルシウムの量に対して、通常、10〜30%である。
したがって、粉砕工程後のパルプ繊維に対するリン酸カルシウム担持量を設計する際には、粉砕工程前に、パルプにリン酸カルシウムが10〜30%多い量で担持された状態となるように、スラリー工程において作製するスラリー中のパルプとリン酸カルシウムとの割合や、スラリーの固形分濃度を調整すればよい。
【0024】
(5)ウェブ工程
前記粉砕工程で形成されたパルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的なウェブ形成方法を採用することができる。
例えば、エアレイド法やカード法などを採用することができる。
特に、エアレイド法を用いてウェブ形成された短繊維不織布は、構成する短繊維がランダムに配列しているために、不織布の強度に異方性が生じにくいというメリットがある。
【0025】
このエアレイド法としては、高分子学会発行の雑誌(高分子17,No.99(1968))に掲載されている「本州製紙法」、特公昭54−6665号公報に記載されている「クロイヤー法」、米国特許(US4640810)に記載されている「ダンウエブ法」、「J&J法」、特公昭50−25045号公報に記載されている「キンバリー法」、雑誌(Pulp&Paper Week,4,No.6(1983))に掲載されている「スコットペーパー法」などが知られておりいずれの方法も採用可能である。
【0026】
より具体的には以下のようにしてウェブを形成させることができる。
すなわち、合成樹脂繊維と、リン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維とをハンマーミルや、ディスクリファイナーなどの一般的な装置を用いて解繊し、この解繊された合成樹脂繊維とパルプ繊維との混合物を空気流に均一分散させながら搬送し、細孔を有するスクリーンから吐出させて、該吐出部の下部に設置され、金属またはプラスチックのネットにより形成されている捕集コンベア上に落下させ且つ捕集コンベアの下部側で空気を吸引して吐出された繊維を捕集コンベア上に堆積させることでウェブを形成させることができる。
このように、エアレイド法でウェブ形成された不織布は、不織布の長さ方向、幅方向および厚み方向へ繊維をランダムに3次元配向させることが可能である。そして、この3次元配向された繊維が後段の接着工程で熱接着されるため層間剥離の発生が抑制され、しかも、均一性が良好で性能のバラツキを少なくすることができる。
【0027】
このウェブ工程において、リン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維とともに用いられる合成樹脂繊維(以下「熱接着性合成繊維」ともいう)は、加熱されてパルプ繊維に接着されるものであれば、特に限定されないが、例えばポリオレフィン類などが挙げられる。
このポリオレフィン系の熱接着性合成繊維としては、芯鞘型や偏芯サイドバイサイド型の複合繊維が好適である。この複合繊維の鞘部や繊維外周部を構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。芯部や繊維内層部を構成するポリマーとしては、鞘部に用いられたポリオレフィンより高融点であり、後段の接着工程における加熱温度で変化しないポリマーが好ましく、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられる。
【0028】
このような(鞘部や繊維外周部)/(芯部や繊維内層部)を構成するポリマーの組み合わせとしては、例えば、ポリエチレン/ポリプロピレン(市販品としては例えばチッソポリプロ繊維株式会社製、商品名「インタック」)、ポリエチレン/ポリエステル(市販品としては帝人ファイバー株式会社製、商品名「F6」)、ポリプロピレン/ポリエステルなどが挙げられる。
この鞘部や繊維外周部を構成する低融点ポリマーの融点は110〜160℃であることが好ましい。より好ましくは、120〜155℃である。
【0029】
また、熱接着性合成繊維は、細いと構成繊維の本数が多くなるので、脱落繊維が少なくなり、風合いも柔らかくなる。一方で、太い熱接着性合成繊維は、繊維間の空隙が大きくなり、機能性不織布を嵩高なものとし得る上に掻き取り効果も期待できる。
したがって、熱接着性合成繊維の太さは用途に応じて選択すればよいが、好ましい繊度は、0.5dt〜50dtであり、さらに、好ましくは、0.8dt〜30dtである。
このような繊度が好ましいのは、50dtを超えると機能性不織布からパルプ繊維が容易に脱落してしまうおそれがあり、0.5dt未満では機能性不織布の生産性が低下するおそれがある。
【0030】
また、熱接着性合成繊維の長さは、1〜15mmが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。
熱接着性合成繊維の長さがこのような範囲であることが好ましいのは、熱接着性合成繊維の長さが短いとパルプ繊維との混合性がよくなり、より均一な機能性不織布を得られやすくはなるものの、1mm未満になると粉末状に近づき、繊維間結合による網目構造が作りにくくなり機能性不織布からパルプ繊維が容易に脱落してしまうおそれがあり、一方で、15mmより長くなるとウェブ形成における繊維の空気輸送において繊維どうしが絡まりやすくなるためである。
【0031】
このウェブ形成に用いられる熱接着性合成繊維とパルプ繊維との混合比率は、熱接着性合成繊維が熱接着性合成繊維とパルプ繊維の合計に対して重量で20〜60%とされる。
ウェブ形成に用いられる熱接着性合成繊維とパルプ繊維との混合比率がこのような範囲とされるのは、熱接着性合成繊維が20%未満では、機能性不織布が十分な強度とならないおそれがあり、60%を超えて熱接着性合成繊維を用いると、結果、機能性不織布中に占めるリン酸カルシウムの量が少なくなって機能性不織布が十分な吸着作用を発揮できなくなるおそれがあるためである。
【0032】
(6)接着工程
ウェブ形成後にウェブを加熱してパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを接着させる方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な不織布のウェブ形成後の加熱接着方法を採用することができる。
例えば、エアレイドにより形成されたウェブを熱接着性繊維の低融点成分(鞘部や繊維外周部を形成する材料)の融点以上、高融点成分(芯部や繊維内層部を形成する材料)の融点以下の加熱気流の中に導入し熱融着させて熱接着性繊維とパルプ繊維とを接着させる方法(以下「熱風処理」ともいう)や、エアレイドにより形成されたウェブを熱カレンダーローラーまたは熱エンボスローラーなどで圧着することにより加熱して熱接着性繊維とパルプ繊維とを接着させる方法(以下「熱圧処理」ともいう)などが挙げられる。
【0033】
より具体的には、熱接着性繊維とパルプ繊維とを接着させて繊維間結合を形成するための熱風処理としては、熱接着性複合繊維の低融点成分の融点以上の温度の加熱気流を用いる。
しかしながら、低融点成分の融点よりも30℃以上高い場合、あるいは高融点成分の融点以上の場合は、熱接着性複合繊維の熱収縮が大きくなり易くいため、熱風処理温度は、例えば、低融点成分にポリエチレンが用いられ、高融点成分にポリプロピレンが用いられているような熱接着性複合繊維を用いる場合には、好ましくは110〜190℃、より好ましくは120〜175℃の温度に加熱された気流中にウェブを導入する熱風処理を実施することが好ましい。
【0034】
また、熱圧処理においては、熱風処理と同程度の温度に加熱されたローラーを用いることができ、カレンダーローラーとしては、全体に均一な熱圧を加えるため、平滑表面の一対の金属ローラーか、または金属ローラーと弾性ローラーの組み合わせかを用いることが好ましいが、多段ローラーであっても良い。また、エンボスローラーとしては、所定の凸凹表面を備えたものを用いることができる。
なお、上記熱風処理と熱圧処理とは、適宜、組み合わせて実施することも可能であり、例えば、熱風処理した後に、熱圧処理を加えても良い。
【0035】
なお、機能性不織布ならびにその製造方法は、上記のような場合に限定されるものではなく、例えば、多層化することなども可能である。
すなわち、熱接着性合成繊維を主体とする繊維を堆積させ、該堆積された繊維上にリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを混合して堆積させ、再び熱接着性合成繊維を主体とする繊維を堆積させたものに接着工程を実施することにより、パルプ繊維を含まない繊維でリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維がサンドイッチされた3層構造の機能性不織布を作製することができ、同様に2層構造の機能性不織布や、4層以上に積層された機能性不織布を作製することもできる。
【0036】
次いで、このような機能性不織布を用いた立体マスクについて説明する。
図25は、本実施形態にかかる立体マスク1の斜視図である。
図25に示すように、本実施形態にかかる立体マスク1は、着用者の鼻及び口を覆うマスク本体3と、該マスク本体3の両側部に取り付けられた装着紐5とから構成されている。
前記マスク本体3は、着用者の鼻や口を覆うように前方に膨出した立体形状、具体的には略円錐形状を成している。
【0037】
前記マスク本体3は、平面状シートから形成されている。さらに、該マスク本体3は、互いに接合可能な少なくとも一対の接合面を有する平面状シートで形成され、前記少なくとも一対の接合面を接合して重ね部4を形成することにより前方に膨出した立体形状とされている。
前記重ね部4は、立体マスク1の着用時に着用者の鼻に当たらない位置、詳しくは着用者の口の前方位置にくるように配されている。
該重ね部4は、マスク本体3の略中心部から下端部まで延在しており、下方に向いて幅が広がるようにテーパー状の形態を成している。
【0038】
前記マスク本体3は、フィルターとして機能するものであり、該マスク本体3を形成する平面状シートに、前記機能性不織布が用いられている。
この機能性不織布は、例えば、表面印刷を施してマスク本体3に用いたり、ガーゼなどの他の部材と組み合わせてマスク本体3に用いたりすることができる。
【0039】
この立体マスク1のマスク本体3に用いられる場合の機能性不織布の目付は、30〜200g/m2であることが好ましい。
また、機能性不織布には、リン酸カルシウムが非晶質リン酸カルシウムの状態で担持されていることが好ましく、その担持量は、機能性不織布全体に占める非晶質リン酸カルシウムの量が重量で1〜10%であることが好ましい。
【0040】
この機能性不織布が用いられている平面シートを用いてマスク本体を形成する方法としては、例えば、特開2005−102818に記載されているような方法を採用することができる。
【0041】
このようにマスク本体3に機能性不織布が用いられることにより、この立体マスクを、ハウスダスト、花粉や臭気などに対して優れた吸着作用を有するものとし得るとともに、良好な通気性を有するものとさせ得る。
しかも、この吸着作用の長期持続性も立体マスクに発揮させることができる。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(操作1)リン酸カルシウムの合成
工程A.水冷ジャケットおよび攪拌機を備えたタンク(容量300リットル)にイオン交換水180リットルおよび水酸化カルシウム(95%)20kgを投入し、30分間攪拌することによって石灰乳スラリーを調整した。
工程B.これとは別に20.06kgのオルトリン酸(純度75%)をイオン交換水60リットルで希釈し、良く混合した後20℃以下になるまで冷却し、リン酸水を調整した。
工程C.ダイヤフラムポンプを用いて、工程Aの石灰乳の中に0.5 l/minの速度でpHが12になるまで工程Bのリン酸水を加えた。
工程D.次に残ったリン酸水に3倍量のイオン交換水を加え、良く攪拌し全量を0.25 l/minの速度で加えた。
工程E.リン酸の添加終了後2時間攪拌を続けてリン酸カルシウムを析出させリン酸カルシウムスラリーを作製した。
【0043】
なおこの工程A〜Eにより得られたリン酸カルシウムスラリーを吸引ろ過後80℃に設定した乾燥機を用いて20時間乾燥した後粉末X線回折により結晶相を同定したところCa3(PO4)2・xH2O(JCPDS カードNo.18−0303)のX線回折パターンと一致した。
また、試料を硝酸で溶解しICP発光分光分析によりカルシウムおよびリンを定量し、Ca/Pモル比を求めたところCa/Pモル比は1.67であった。
さらに、乾燥粉体のBET多点法による比表面積を求めたところ75 m2/gであった。
【0044】
(操作2)リン酸カルシウム担持パルプ繊維の製造
操作1によりCa/P=1.67組成に調整されたリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2・xH2O)を含むリン酸カルシウムスラリー(固形分濃度10重量%)100kgにパルプ(Weyerhaeuser社製・NB416Kraft)100kgとイオン交換水とを加えて固形分(パルプおよびリン酸カルシウム)濃度を4%に調整した後、ダブルディスクリファイナー((株)芦沢鉄工所 製)を用いてろ水度が600 ml(C.S.F.)になるまで叩解してスラリー工程を実施した。
【0045】
次に、叩解後のスラリーを円網抄紙機用いて抄紙することにより、脱水工程ならびに乾燥工程を実施して、リン酸カルシウムを担持したパルプからなるパルプシートを得た。
さらに、このリン酸カルシウムを担持したパルプからなるパルプシートを、KAMAS社製のハンマーミルを用いて、パルプシートの送り速度8.5m/分、粉砕機ブレード回転数3,000RPM、メッシュ6mmの条件で粉砕する粉砕工程を実施し、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2・xH2O)を担持したパルプ繊維を得た。
【0046】
得られたパルプ繊維の灰分測定によりリン酸カルシウムの担持量を測定したところ8重量%で、繊維長は0.5〜3mmであった。
また、走査型電子顕微鏡(SEM)により繊維表面を観察したところその表面にはリン酸カルシウムが担持されていることを確認した(図1、2)。
また、パルプ繊維をエポキシ系樹脂に埋設しカミソリでカットした断面をSEMにより観察したところ繊維の断面の一部にリン酸カルシウムと思われる粒子状の物質が存在することを確認した(図9〜12)。
【0047】
(操作3)不織布の製造
ダンウエブ社(デンマーク)製の多層エアレイド装置を用いて下記の様に2層構造の機能性不織布を製造した。
第1層:帝人ファイバー株式会社製熱接着性合成繊維、商品名「F6」、繊度2.2dt、長さ5mm(ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート複合繊維)のみで、目付10g/m2となるよう形成。
第2層:操作2にて作製された、リン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維と、熱接着性合成繊維(チッソポリプロ繊維株式会社製、商品名「インタック」、繊度1.7dt、長さ5mm(芯部がポリプロピレンで鞘部が共重合ポリエチレンの複合繊維))との混合状態で目付40g/m2(混合割合=パルプ繊維:熱接着性合成繊維(「インタック」)=30g/m2:10g/m2)となるよう形成。
【0048】
第1層を形成させた上に、第2層を形成すべくパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを送風ブロアで大量の空気流と混合しつつ送綿し、多孔質ネットコンベアー上に位置する噴き出し部から、空気流と共に噴出しながら、ネットコンベアーの下面に配置した空気サクション部で吸引しながら、第1層上に第2層を堆積させて、合計50g/m2の複合繊維層の形成されたウェブを作製するウェブ工程を実施した。
【0049】
次に、このウェブを132℃の熱風で加熱することによってパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを接着させる接着工程を実施してリン酸カルシウムを担持した機能性不織布を得た。
【0050】
得られた不織布の目付量は、50g/m2で、リン酸カルシウムの担持量は4.7%(2.4g/m2)であった。
得られた不織布のSEM観察結果を図3、4に示す。
図3ではリン酸カルシウムを担持したパルプ繊維と、熱融着性繊維とが交絡していることが判る。
また図4は、パルプ繊維部を拡大したものであるが、パルプ繊維の表面にリン酸カルシウムが担持されていることが判る。
【0051】
(実施例2)
リン酸カルシウムスラリーとして、第3リン酸カルシウム(分子式:3Ca3(PO4)2・Ca(OH)2)が固形分濃度10%で含有されている太平化学産業製、商品名「TCP−10U」を用いたこと、ならびに、パルプ100重量部に対しリン酸カルシウムの固形分が15重量部になる様に調整したこと以外は実施例1と同様にスラリー工程を実施した。
なお、「TCP−10U」を吸引ろ過後80℃に設定した乾燥機を用いて20時間乾燥した後に粉末X線回折により結晶相を同定したところCa5(PO4)3(OH)を示すJCPDS カードNo.09−0432のX線回折パターンと一致した。
また、試料を硝酸で溶解しICP発光分光分析によりカルシウムおよびリンを定量し、Ca/Pモル比を求めたところCa/Pモル比は1.73であった。
さらに、乾燥粉体をBET多点法による比表面積を求めたところ、48m2/gであった。
【0052】
次いで、実施例1と同様に脱水工程、乾燥工程および粉砕工程を実施してリン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維を作製した。
そして、このパルプ繊維と熱接着性合成繊維(「インタック」)とを、(パルプ繊維:熱接着性合成繊維)=(30g/m2:15g/m2)となる混合割合で用いて、単層の機能性不織布(45g/m2)を作製したこと以外は、実施例1と同様にウェブ工程、接着工程を実施して機能性不織布を作製した。
【0053】
(実施例3)
スラリー工程を、リン酸カルシウムスラリー(固形分濃度10重量%)100kgを用いることに代えて、アナターゼ型二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名「ST−01」(平均粒子径7nm))1kgを9kgのイオン交換水に分散させた二酸化チタン分散液10kgとリン酸カルシウムスラリー90kgとの混合液を用いて実施した以外は実施例1と同様にして機能性不織布を得た。
【0054】
(実施例4)
叩解処理を実施せずにスラリー工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして機能性不織布を作製した。
なお、粉砕工程後のパルプ繊維のろ水度(フリーネス)は700mlであった。
【0055】
(比較例1)
リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維に代えて、市販のパルプ繊維(Weyerhaeuser社製、商品名「NB416Kraft」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
そして、この不織布をA4版サイズに切り出したものをリン酸カルシウムスラリー500mlが入ったステンレス製バットに30分間浸漬し、脱水後、100℃の恒温槽中で10時間乾燥することによって不織布にリン酸カルシウムを担持させて機能性不織布を作製した。
【0056】
リン酸カルシウムスラリー浸漬前の不織布の平面SEM像を図5、6に、エポキシ系樹脂に埋設しカミソリでカットした断面SEM像を図13、14に示す。
リン酸カルシウムスラリー浸漬後(乾燥後)の機能性不織布のリン酸カルシウム担持量は4.7%(2.45g/m2)であった。
得られた不織布をSEM観察したところ、図15、16に示す様にパルプ繊維および熱融着繊維共に繊維の表面にリン酸カルシウムが担持されていた。また、得られた不織布をエポキシ系樹脂に埋設しカミソリでカットした断面をSEMにより観察したところ繊維の内部には粒子状の物質は見られなかった(図17〜20)。
【0057】
(比較例2)
実施例1の操作1で作製されたリン酸カルシウムスラリーをスプレードライヤー(大川原加工機社製、商品名「L−8型」)を用いて、熱風入り口温度250℃ アトマイザー回転数35000rpmの条件で噴霧乾燥し、リン酸カルシウム顆粒を作製した。
このリン酸カルシウム顆粒のBET多点法による比表面積を求めたところ81m2/gであった。
また、試料を硝酸で溶解しICP発光分光分析によりカルシウムおよびリンを定量し、Ca/Pモル比を求めたところCa/Pモル比は1.67であった。
さらに、結晶相を粉末X線回折により同定したところCa3(PO4)2・xH2O(JCPDS カードNo.18−0303)のX線回折パターンと一致した。
【0058】
このリン酸カルシウム顆粒8部、ポリカルボン酸アンモニウム塩(分散剤、東亜合成株式会社製 商品名「A−6114」)0.08部及びポリビニルアルコール(結合剤、日本合成化学株式会社製、商品名「ゴーセノールGL−05」)0.8部を蒸留水91.12部に加え、攪拌して分散液を作製した。
この分散液に市販のポリエステル不織布(目付36g/m2)を含浸し、乾燥してリン酸カルシウムを不織布に担持させて機能性不織布を作製した。
得られた機能性不織布のリン酸カルシウム担持量は14.6重量%であった。
【0059】
(比較例3)
リン酸カルシウム顆粒が分散剤、結合剤とともに分散された分散液の使用量を比較例2で用いた量の1/3の量にした以外は比較例2と同様にして、機能性不織布を作製した。
得られた機能性不織布のSEM観察結果を図7、8に示す。
得られた機能性不織布のリン酸カルシウム担持量は5.5重量%であった。
【0060】
(評価)
リン酸カルシウム粒子や得られた機能性不織布に対しては、以下のような評価方法を採用した。
【0061】
(1)繊度の測定
JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」の“8.3繊度 8.3.1正量繊度 B法(簡便法)”に準拠し、繊度(tex)を算出し、デシテックス(dt)にて表示した。
すなわち、初荷重をかけて正確に長さ90cmの試料20本をとり、105℃で10時間乾燥後各試料の質量を量り、次式によって正量繊度(tex)を算出し、デシテックス(dt)にて表示した。
F0=1000×m/L×(100+R0)/100
ここにおいて、各記号は下記を表している。
F0:正量繊度(tex)
L:試料の長さ(m)
m:試料の質量(g)
R0:JIS L 0105の3.1に規定されている公定水分率
【0062】
(2)ろ水度の測定
JIS P 8121「パルプのろ水度試験方法」の“4.カナダ標準ろ水度試験方法”によりろ水度を測定した。
【0063】
(3)X線回折
メノウ乳鉢を用いて試料を粉砕した後、ガラスセルに詰め、リガク電機製X線回折装置、型名「RAD−2C」を用いてCuKα線を用いて管球電圧40kV、電流15mAの条件で2θが5〜70°となる範囲でX線回折を行った。
【0064】
(4)リン酸カルシウム担持量の測定
機能性不織布を150mm×150mmに切りだしたサンプルを、恒量した磁器製のルツボ(直径80mm、高さ60mm)に投入し、電気炉で550℃×5時間の加熱を実施し、冷却後秤量し、加熱前後の重量差から機能性不織布の灰分を求め、求められた灰分の重量を機能性不織布に担持させたリン酸カルシウム重量に換算し、このリン酸カルシウム重量を加熱前の機能性不織布重量で除してリン酸カルシウムの担持量(%)を求めた。
また、リン酸カルシウム重量を不織布の面積(150mm×150mm)で除して、単位面積あたりのリン酸カルシウム担持量(g/m2)を求めた。
【0065】
(5)消臭性能の評価1(酢酸吸着性)
(空試験)
気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器を用い、この蒸発皿に4μlの酢酸を注入後、30分経過した時点でこの密閉容器内の酢酸の濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.81」)で測定した。
(機能性不織布による吸着性能試験)
機能性不織布を15cm×15cmに切り取って試験片とし、気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器中に、この試験片を設置するとともに蒸発皿に4μlの酢酸を注入し、30分経過後の密閉容器内の酢酸の濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.81」)で測定した。
この空試験により観察された酢酸濃度をAc1、機能性不織布を用いた場合の酢酸濃度をAc2としたときに、下記式により酢酸消臭率を計算し、各試験片の酢酸消臭率が大きいものを消臭性能が優れていると判定した。
酢酸消臭率(%)={(Ac1−Ac2)/Ac1}×100(%)
結果を表1に示す。
【0066】
(6)消臭性能の評価2(アンモニア吸着性)
(空試験)
気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器を用い、この蒸発皿に2μlの濃度25%のアンモニア水を注入後、30分経過した時点でこの密閉容器内のアンモニア濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.3L」)で測定した。
(機能性不織布による吸着性能試験)
機能性不織布を15cm×15cmに切り取って試験片とし、気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器中に、この試験片を設置するとともに蒸発皿に2μlの濃度25%のアンモニア水を注入し、30分経過後の密閉容器内のアンモニアの濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.3L」)で測定した。
この空試験により観察された酢酸濃度をAn1、機能性不織布を用いた場合の酢酸濃度をAn2としたときに、下記式により酢酸消臭率を計算し、各試験片の酢酸消臭率が大きいものを消臭性能が優れていると判定した。
アンモニア消臭率(%)={(An1−An2)/An1}×100(%)
結果を表1に示す。
【0067】
(7)通気性能(圧力損失)の評価
図25に示す装置を用いて、空気流量を12 l/分に設定し、不織布を通過させ、機能性不織布を空気が通過する前後における圧力差を差圧計で測定することにより、圧力損失を測定した。
結果を、表1に示す。
なお、機能性不織布を立体マスクのマスク本体に用いる場合には、上記評価において圧力損失が5.0mmH2O(49.033Pa)を超えるとマスク装着者に息苦しさを感じさせ易いことから、上記評価による圧力損失が49Pa以下であることが好ましい。
【0068】
(8)リン酸カルシウムの脱落性評価
直径180mm×長さ195mmの円筒状の収容部が形成されたボールミルの内周面に沿って、長さ350mm×幅150mmに切り出した不織布を両面テープを用いて貼り付けた後に、直径16.5mmのYSZ製ボール(ニッカトー社製)を70個投入して蓋をし、44rpmの回転速度で1時間回転させた。
この後不織布を取り出し、両面テープが付着していない部位を採取して灰分を測定し、「(4)リン酸カルシウム担持量の測定」において説明した方法と同様の方法で灰分を測定した。
このボールミルによるリン酸カルシウムの脱落後の灰分と、初期(リン酸カルシウムの脱落前)の機能性不織布の灰分の重量の違いからリン酸カルシウムの脱落性を評価した。
結果を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
この表1からもわかるように、実施例の機能性不織布においては、リン酸カルシウムの脱落試験前後の灰分測定を行ったところ、試験前後で灰分の変化は殆んど見られなかった。
一方で、比較例1の機能性不織布においては、リン酸カルシウム脱落試験前後の灰分測定の結果、試験前後で16%の灰分の減少が見られた。
すなわち、本発明の機能性不織布製造方法においては、機能性不織布にリン酸カルシウムを強固に担持させ得ることがわかる。
また、その際に、結合剤を多量に用いる必要性もない。したがって、本発明の機能性不織布製造方法により形成された機能性不織布は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れていることがわかる。
なお、比較例2、3においては、表1の結果からは、実施例1と同等の通気性が得られると考えられるが、例えば、比較例2では、実施例の機能性不織布に対して、約2.5〜約4倍ものリン酸カルシウム担持量であるにもかかわらず、実施例の機能性不織布よりもアンモニアの吸着作用に劣るものである。
また、比較例3の機能性不織布では、実施例の機能性不織布と同等のリン酸カルシウム担持量であるにもかかわらず、酢酸吸着作用、アンモニア吸着作用のいずれにも劣るものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を観察したSEM写真。
【図2】図1拡大写真。
【図3】実施例1の機能性不織布表面を観察したSEM写真。
【図4】図3拡大写真。
【図5】リン酸カルシウムが担持されていないパルプ繊維を観察したSEM写真。
【図6】図5拡大写真。
【図7】比較例3の機能性不織布表面を観察したSEM写真。
【図8】図7拡大写真。
【図9】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の斜め断面を観察したSEM写真。
【図10】図9拡大写真。
【図11】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図12】図11拡大写真。
【図13】リン酸カルシウムが担持されていないパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図14】図13拡大写真。
【図15】比較例1の機能性不織布表面を観察したSEM写真。
【図16】図15拡大写真。
【図17】比較例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図18】図17拡大写真。
【図19】比較例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図20】図19拡大写真。
【図21】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムのX線回折パターン。
【図22】実施例2の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムのX線回折パターン。
【図23】実施例2の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムのX線回折パターン。
【図24】圧力損失評価方法を示す概略図。
【図25】立体マスクを示す概略図。
【符号の説明】
【0072】
1:立体マスク、3:マスク本体、4:重ね部、5:装着紐
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布の製造方法と、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布、および、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布が用いられた立体マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布は、エアコン、空気清浄機などのフィルターやマスクの材料として広く用いられている。このような用途に用いられる不織布には、空気中の細菌、ウイルス、動植物細胞、有害ガス、悪臭成分、粉塵、ミスト、花粉等を捕捉し、その他の成分を透過させ得る機能が求められている。
このような要望に対して、従来、リン酸カルシウムなどのような吸着作用を有する物質を担持させた機能性不織布が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リン酸カルシウムを結合剤などと共に分散させた水性分散液に不織布を含浸させるか又はコーティングすることによりリン酸カルシウムが担持された機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法が記載されている。
しかしながら、不織布の含浸や不織布へのコーティングなどによってリン酸カルシウムを担持させる方法では、リン酸カルシウムを不織布の繊維に十分固定させるのが困難であり、たとえ、製造段階において大量にリン酸カルシウムを固着させたとしても使用時において脱落して吸着作用を持続させることが困難である。
このことに対し、結合剤を増量してリン酸カルシウムの脱落を防止することも考え得るが、その場合には、リン酸カルシウムの吸着性を結合剤が低下させてしまうばかりでなく、空気の流通性を低下させるおそれを有する。
【0004】
また、特許文献2には、吸着性能を有する粉末とフィブリル化セルロースとを含有するスラリーを抄紙して機能性不織布を製造する機能性不織布製造方法が記載されている。
しかしながら、抄紙する方法で得られた機能性不織布は、通常、通気性に乏しいため、マスクや空気清浄機のフィルターの様な通気性を必要とする用途にそのまま用いることは困難である。
すなわち、従来の機能性不織布製造方法は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造することが困難であるという問題を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平5−222693号公報
【特許文献2】特開平7−232060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得る機能性不織布製造方法の提供を課題としている。
また、本発明は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布の提供を課題としている。
さらに、本発明は、このような通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた立体マスクの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布を所定の工程で作製することにより通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得ることを見出し、本発明の完成に到ったのである。
【0008】
すなわち、前記課題を解決するための機能性不織布製造方法にかかる発明は、リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法であって、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを作製して、該スラリー中に分散されたパルプを乾燥させて粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製し、該パルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成した後に加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させることを特徴としている。
【0009】
また、前記課題を解決するための機能性不織布にかかる発明は、リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布であって、リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維は、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製され、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴としている。
【0010】
また、前記課題を解決するための立体マスクにかかる発明は、着用者の鼻及び口を覆うマスク本体が備えられており、前記マスク本体が立体形状に形成されている立体マスクであって、前記マスク本体には、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布が用いられており、前記機能性不織布は、リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維が、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製されて、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴としている
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機能性不織布を形成するパルプ繊維にリン酸カルシウムを強固に担持させ得る。また、その際に、結合剤を多量に用いる必要性もない。したがって、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を製造し得る。
また、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れた機能性不織布を着用者の鼻及び口を覆うマスク本体に用いることで、立体マスクを通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れたものとし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態の機能性不織布製造方法においては、(1)パルプとリン酸カルシウムとが水中に分散されたスラリーを作製するスラリー工程、(2)該スラリー工程後に、スラリーを脱水する脱水工程、(3)該脱水工程で脱水されたパルプを乾燥する乾燥工程、(4)該乾燥工程で乾燥されたパルプを粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製する粉砕工程、(5)該粉砕工程で作製されたパルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成させるウェブ工程、(6)該ウェブ工程にて形成されたウェブを加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させる接着工程とを実施する。
【0013】
(1)スラリー工程
このスラリー工程における、パルプとリン酸カルシウムとが水中に分散されたスラリーを作製する方法としては、特に限定されるものではなく一般的なスラリー作製方法を採用することができる。
例えば、特公平4−61807号報に記載されている方法により水中に非晶質リン酸カルシウムを析出させ、この非晶質リン酸カルシウムが析出された水中にさらにパルプを含有させてスラリーを作製する方法や、この析出させた非晶質リン酸カルシウムを一旦乾燥させた後に再びパルプと共に水中に分散させてスラリーを作製する方法を採用することができる。
【0014】
上記例示のスラリー作製方法の内、製造コストおよび工程の簡便さからは前者が好適である。
すなわち、水酸化カルシウム懸濁液(以下「石灰乳スラリー」ともいう)に攪拌下で約85%リン酸水溶液を加えてpH11近傍までpHを低下させた後に、約85%リン酸水溶液を2〜4倍に水で希釈したリン酸水溶液を加え、さらに、約85%リン酸水溶液を5倍以上に水で希釈したリン酸水溶液を加えてpHを10〜9に調整することにより水中に非晶質リン酸カルシウムを析出させて非晶質リン酸カルシウムスラリーを作製した後に、この非晶質リン酸カルシウムスラリーにパルプを加える方法は、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを簡便な工程で作製でき、スラリー工程に要するコストを低減させ得る。
【0015】
なお、このスラリー工程においては、パルプに対してより強固にリン酸カルシウムを担持させるべくパルプとリン酸カルシウムとを含有するスラリーに対して叩解処理を実施することが好ましい。
この叩解処理とは、繊維を叩き解す処理であり、より具体的には、パルプ繊維を水中で分散・膨潤させ、機械によって圧潰・せん断、更に繊維表面に毛羽立ちを与える処理である。
この叩解処理には、一般的な叩解処理方法を採用することができ、例えば、ビーターあるいはリファイナーと称する装置を用いて実施することができる。
この叩解処理によって、いわゆる「内部フィブリル化」と呼ばれるパルプの繊維の膨潤および柔軟性の付与、あるいは「外部フィブリル化」と呼ばれるパルプの繊維の2次壁中層の露出などの効果を奏するとともにパルプの繊維を切断することができる。
【0016】
この叩解処理の程度は、叩解されたパルプのろ水度(フリーネス)がカナダ標準形ろ水度(C.S.F.)で250〜650mlとなるよう実施することが好ましい。
このフリーネスが上記の範囲であることが好ましいのは、フリーネスが250ml(C.S.F.)未満の場合には、叩解が過剰になりパルプが短く切断されすぎたり、パルプの水切れが悪くなって脱水時間が長くなったりするおそれがあるためである。
また一方で、フリーネスが650mlを超えると、前述したように叩解の効果を十分発揮させることが困難となるためである。
【0017】
このスラリー工程において水中に分散させるパルプとしては、例えば、木材繊維パルプ、非木材繊維パルプが挙げられ、具体的には、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)、NBSP(針葉樹晒サルファイトパルプ)等の製紙用の木材パルプの1種類若しくは2種類以上を混合して用いることができる。
【0018】
前記リン酸カルシウムとしては、例えば、(Ca/P)のモル比が1.45〜2.0の範囲にあるリン酸カルシウムを用いることができる。
より具体的には、上記例示したような、非晶質リン酸カルシウムを使用することが好ましい。なお、リン酸カルシウムが非晶質リン酸カルシウムであることは、粉末X線回折により結晶相を同定した際に、Joint Committee on Powder Diffraction Standards(「JCPDS」ともいう)にて編集、刊行されているカードNo.18−0303に示されるCa3(PO4)2・xH2OのX線回折パターンと一致することで確認することができる。
なお、本発明において用いられるリン酸カルシウムは、本発明の効果を損ねない範囲において、抗体や酵素などのタンパク質を吸着させて用いることもできる。
【0019】
このパルプとリン酸カルシウムは、例えば、その合計量がスラリー中に数%の濃度となるように含有させることができ、パルプとリン酸カルシウムとの混合比率はパルプ100重量部に対してリン酸カルシウム(固形分)が2〜20重量部の比率とされることが好ましく、5〜10重量部の比率であることが更に好ましい。
パルプに対するリン酸カルシウムの添加量がこのような範囲であることが好ましいのは、パルプ100重量部に対してリン酸カルシウムの添加量が2重量部未満である場合には、最終的に機能性不織布に担持されるリン酸カルシウムの量が少なすぎて、機能性不織布にリン酸カルシウムの十分な吸着作用を付与させることが困難となるおそれがあるためである。
また一方で、パルプ100重量部に対するリン酸カルシウムの添加量を20重量部を超える割合としても、それ以上に機能性不織布に担持されるリン酸カルシウムの量を増大させることが困難であり、リン酸カルシウムの量の添加量に見合う吸着作用を機能性不織布に付与させることが困難となるおそれがあるためである。
【0020】
また、このスラリー工程においては、パルプとリン酸カルシウム以外に、本発明の効果を損ねない範囲において、他の無機材料をスラリーに含有させてこの無機材料を機能性不織布に担持させるようしてもよい。
この無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、アナターゼ型あるいはルチル型酸化チタン等が挙げられる。
【0021】
(2)脱水工程
この脱水工程における前記スラリーの脱水方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、遠心脱水装置、加圧脱水装置、フィルタープレス等の方法一般的なスラリーの脱水方法を採用することができる。
【0022】
(3)乾燥工程
前記脱水工程で脱水されたパルプを乾燥する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、棚式乾燥機を用いて80℃〜150℃の温度で乾燥させる方法など一般的な乾燥方法を採用することができる。
なお、要すれば、円網抄紙機や長網抄紙機を用いることによって前記脱水工程とこの乾燥工程とを連続的に実施させることも可能である。
【0023】
(4)粉砕工程
前記乾燥工程で乾燥されたパルプを粉砕する方法としては、特に限定されるものではなく、ハンマーミルや、ディスクリファイナーなど一般的な粉砕装置を用いて実施することができる。
このとき粉砕されて形成されるパルプ繊維の多くが長さ0.2〜5mmとなるように粉砕工程を実施することが好ましい。
この粉砕工程によって、パルプ繊維に余分に付着しているリン酸カルシウムをパルプ繊維から脱落させることができる。したがって、この粉砕工程後のパルプ繊維からさらにリン酸カルシウムが脱落することを抑制することができ、機能性不織布の使用中にリン酸カルシウムが脱落して吸着作用が低下することを抑制させ得る。
なお、この時のリン酸カルシウムの脱落量は、乾燥工程直後にパルプが担持しているリン酸カルシウムの量に対して、通常、10〜30%である。
したがって、粉砕工程後のパルプ繊維に対するリン酸カルシウム担持量を設計する際には、粉砕工程前に、パルプにリン酸カルシウムが10〜30%多い量で担持された状態となるように、スラリー工程において作製するスラリー中のパルプとリン酸カルシウムとの割合や、スラリーの固形分濃度を調整すればよい。
【0024】
(5)ウェブ工程
前記粉砕工程で形成されたパルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的なウェブ形成方法を採用することができる。
例えば、エアレイド法やカード法などを採用することができる。
特に、エアレイド法を用いてウェブ形成された短繊維不織布は、構成する短繊維がランダムに配列しているために、不織布の強度に異方性が生じにくいというメリットがある。
【0025】
このエアレイド法としては、高分子学会発行の雑誌(高分子17,No.99(1968))に掲載されている「本州製紙法」、特公昭54−6665号公報に記載されている「クロイヤー法」、米国特許(US4640810)に記載されている「ダンウエブ法」、「J&J法」、特公昭50−25045号公報に記載されている「キンバリー法」、雑誌(Pulp&Paper Week,4,No.6(1983))に掲載されている「スコットペーパー法」などが知られておりいずれの方法も採用可能である。
【0026】
より具体的には以下のようにしてウェブを形成させることができる。
すなわち、合成樹脂繊維と、リン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維とをハンマーミルや、ディスクリファイナーなどの一般的な装置を用いて解繊し、この解繊された合成樹脂繊維とパルプ繊維との混合物を空気流に均一分散させながら搬送し、細孔を有するスクリーンから吐出させて、該吐出部の下部に設置され、金属またはプラスチックのネットにより形成されている捕集コンベア上に落下させ且つ捕集コンベアの下部側で空気を吸引して吐出された繊維を捕集コンベア上に堆積させることでウェブを形成させることができる。
このように、エアレイド法でウェブ形成された不織布は、不織布の長さ方向、幅方向および厚み方向へ繊維をランダムに3次元配向させることが可能である。そして、この3次元配向された繊維が後段の接着工程で熱接着されるため層間剥離の発生が抑制され、しかも、均一性が良好で性能のバラツキを少なくすることができる。
【0027】
このウェブ工程において、リン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維とともに用いられる合成樹脂繊維(以下「熱接着性合成繊維」ともいう)は、加熱されてパルプ繊維に接着されるものであれば、特に限定されないが、例えばポリオレフィン類などが挙げられる。
このポリオレフィン系の熱接着性合成繊維としては、芯鞘型や偏芯サイドバイサイド型の複合繊維が好適である。この複合繊維の鞘部や繊維外周部を構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。芯部や繊維内層部を構成するポリマーとしては、鞘部に用いられたポリオレフィンより高融点であり、後段の接着工程における加熱温度で変化しないポリマーが好ましく、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられる。
【0028】
このような(鞘部や繊維外周部)/(芯部や繊維内層部)を構成するポリマーの組み合わせとしては、例えば、ポリエチレン/ポリプロピレン(市販品としては例えばチッソポリプロ繊維株式会社製、商品名「インタック」)、ポリエチレン/ポリエステル(市販品としては帝人ファイバー株式会社製、商品名「F6」)、ポリプロピレン/ポリエステルなどが挙げられる。
この鞘部や繊維外周部を構成する低融点ポリマーの融点は110〜160℃であることが好ましい。より好ましくは、120〜155℃である。
【0029】
また、熱接着性合成繊維は、細いと構成繊維の本数が多くなるので、脱落繊維が少なくなり、風合いも柔らかくなる。一方で、太い熱接着性合成繊維は、繊維間の空隙が大きくなり、機能性不織布を嵩高なものとし得る上に掻き取り効果も期待できる。
したがって、熱接着性合成繊維の太さは用途に応じて選択すればよいが、好ましい繊度は、0.5dt〜50dtであり、さらに、好ましくは、0.8dt〜30dtである。
このような繊度が好ましいのは、50dtを超えると機能性不織布からパルプ繊維が容易に脱落してしまうおそれがあり、0.5dt未満では機能性不織布の生産性が低下するおそれがある。
【0030】
また、熱接着性合成繊維の長さは、1〜15mmが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。
熱接着性合成繊維の長さがこのような範囲であることが好ましいのは、熱接着性合成繊維の長さが短いとパルプ繊維との混合性がよくなり、より均一な機能性不織布を得られやすくはなるものの、1mm未満になると粉末状に近づき、繊維間結合による網目構造が作りにくくなり機能性不織布からパルプ繊維が容易に脱落してしまうおそれがあり、一方で、15mmより長くなるとウェブ形成における繊維の空気輸送において繊維どうしが絡まりやすくなるためである。
【0031】
このウェブ形成に用いられる熱接着性合成繊維とパルプ繊維との混合比率は、熱接着性合成繊維が熱接着性合成繊維とパルプ繊維の合計に対して重量で20〜60%とされる。
ウェブ形成に用いられる熱接着性合成繊維とパルプ繊維との混合比率がこのような範囲とされるのは、熱接着性合成繊維が20%未満では、機能性不織布が十分な強度とならないおそれがあり、60%を超えて熱接着性合成繊維を用いると、結果、機能性不織布中に占めるリン酸カルシウムの量が少なくなって機能性不織布が十分な吸着作用を発揮できなくなるおそれがあるためである。
【0032】
(6)接着工程
ウェブ形成後にウェブを加熱してパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを接着させる方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な不織布のウェブ形成後の加熱接着方法を採用することができる。
例えば、エアレイドにより形成されたウェブを熱接着性繊維の低融点成分(鞘部や繊維外周部を形成する材料)の融点以上、高融点成分(芯部や繊維内層部を形成する材料)の融点以下の加熱気流の中に導入し熱融着させて熱接着性繊維とパルプ繊維とを接着させる方法(以下「熱風処理」ともいう)や、エアレイドにより形成されたウェブを熱カレンダーローラーまたは熱エンボスローラーなどで圧着することにより加熱して熱接着性繊維とパルプ繊維とを接着させる方法(以下「熱圧処理」ともいう)などが挙げられる。
【0033】
より具体的には、熱接着性繊維とパルプ繊維とを接着させて繊維間結合を形成するための熱風処理としては、熱接着性複合繊維の低融点成分の融点以上の温度の加熱気流を用いる。
しかしながら、低融点成分の融点よりも30℃以上高い場合、あるいは高融点成分の融点以上の場合は、熱接着性複合繊維の熱収縮が大きくなり易くいため、熱風処理温度は、例えば、低融点成分にポリエチレンが用いられ、高融点成分にポリプロピレンが用いられているような熱接着性複合繊維を用いる場合には、好ましくは110〜190℃、より好ましくは120〜175℃の温度に加熱された気流中にウェブを導入する熱風処理を実施することが好ましい。
【0034】
また、熱圧処理においては、熱風処理と同程度の温度に加熱されたローラーを用いることができ、カレンダーローラーとしては、全体に均一な熱圧を加えるため、平滑表面の一対の金属ローラーか、または金属ローラーと弾性ローラーの組み合わせかを用いることが好ましいが、多段ローラーであっても良い。また、エンボスローラーとしては、所定の凸凹表面を備えたものを用いることができる。
なお、上記熱風処理と熱圧処理とは、適宜、組み合わせて実施することも可能であり、例えば、熱風処理した後に、熱圧処理を加えても良い。
【0035】
なお、機能性不織布ならびにその製造方法は、上記のような場合に限定されるものではなく、例えば、多層化することなども可能である。
すなわち、熱接着性合成繊維を主体とする繊維を堆積させ、該堆積された繊維上にリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを混合して堆積させ、再び熱接着性合成繊維を主体とする繊維を堆積させたものに接着工程を実施することにより、パルプ繊維を含まない繊維でリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維がサンドイッチされた3層構造の機能性不織布を作製することができ、同様に2層構造の機能性不織布や、4層以上に積層された機能性不織布を作製することもできる。
【0036】
次いで、このような機能性不織布を用いた立体マスクについて説明する。
図25は、本実施形態にかかる立体マスク1の斜視図である。
図25に示すように、本実施形態にかかる立体マスク1は、着用者の鼻及び口を覆うマスク本体3と、該マスク本体3の両側部に取り付けられた装着紐5とから構成されている。
前記マスク本体3は、着用者の鼻や口を覆うように前方に膨出した立体形状、具体的には略円錐形状を成している。
【0037】
前記マスク本体3は、平面状シートから形成されている。さらに、該マスク本体3は、互いに接合可能な少なくとも一対の接合面を有する平面状シートで形成され、前記少なくとも一対の接合面を接合して重ね部4を形成することにより前方に膨出した立体形状とされている。
前記重ね部4は、立体マスク1の着用時に着用者の鼻に当たらない位置、詳しくは着用者の口の前方位置にくるように配されている。
該重ね部4は、マスク本体3の略中心部から下端部まで延在しており、下方に向いて幅が広がるようにテーパー状の形態を成している。
【0038】
前記マスク本体3は、フィルターとして機能するものであり、該マスク本体3を形成する平面状シートに、前記機能性不織布が用いられている。
この機能性不織布は、例えば、表面印刷を施してマスク本体3に用いたり、ガーゼなどの他の部材と組み合わせてマスク本体3に用いたりすることができる。
【0039】
この立体マスク1のマスク本体3に用いられる場合の機能性不織布の目付は、30〜200g/m2であることが好ましい。
また、機能性不織布には、リン酸カルシウムが非晶質リン酸カルシウムの状態で担持されていることが好ましく、その担持量は、機能性不織布全体に占める非晶質リン酸カルシウムの量が重量で1〜10%であることが好ましい。
【0040】
この機能性不織布が用いられている平面シートを用いてマスク本体を形成する方法としては、例えば、特開2005−102818に記載されているような方法を採用することができる。
【0041】
このようにマスク本体3に機能性不織布が用いられることにより、この立体マスクを、ハウスダスト、花粉や臭気などに対して優れた吸着作用を有するものとし得るとともに、良好な通気性を有するものとさせ得る。
しかも、この吸着作用の長期持続性も立体マスクに発揮させることができる。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(操作1)リン酸カルシウムの合成
工程A.水冷ジャケットおよび攪拌機を備えたタンク(容量300リットル)にイオン交換水180リットルおよび水酸化カルシウム(95%)20kgを投入し、30分間攪拌することによって石灰乳スラリーを調整した。
工程B.これとは別に20.06kgのオルトリン酸(純度75%)をイオン交換水60リットルで希釈し、良く混合した後20℃以下になるまで冷却し、リン酸水を調整した。
工程C.ダイヤフラムポンプを用いて、工程Aの石灰乳の中に0.5 l/minの速度でpHが12になるまで工程Bのリン酸水を加えた。
工程D.次に残ったリン酸水に3倍量のイオン交換水を加え、良く攪拌し全量を0.25 l/minの速度で加えた。
工程E.リン酸の添加終了後2時間攪拌を続けてリン酸カルシウムを析出させリン酸カルシウムスラリーを作製した。
【0043】
なおこの工程A〜Eにより得られたリン酸カルシウムスラリーを吸引ろ過後80℃に設定した乾燥機を用いて20時間乾燥した後粉末X線回折により結晶相を同定したところCa3(PO4)2・xH2O(JCPDS カードNo.18−0303)のX線回折パターンと一致した。
また、試料を硝酸で溶解しICP発光分光分析によりカルシウムおよびリンを定量し、Ca/Pモル比を求めたところCa/Pモル比は1.67であった。
さらに、乾燥粉体のBET多点法による比表面積を求めたところ75 m2/gであった。
【0044】
(操作2)リン酸カルシウム担持パルプ繊維の製造
操作1によりCa/P=1.67組成に調整されたリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2・xH2O)を含むリン酸カルシウムスラリー(固形分濃度10重量%)100kgにパルプ(Weyerhaeuser社製・NB416Kraft)100kgとイオン交換水とを加えて固形分(パルプおよびリン酸カルシウム)濃度を4%に調整した後、ダブルディスクリファイナー((株)芦沢鉄工所 製)を用いてろ水度が600 ml(C.S.F.)になるまで叩解してスラリー工程を実施した。
【0045】
次に、叩解後のスラリーを円網抄紙機用いて抄紙することにより、脱水工程ならびに乾燥工程を実施して、リン酸カルシウムを担持したパルプからなるパルプシートを得た。
さらに、このリン酸カルシウムを担持したパルプからなるパルプシートを、KAMAS社製のハンマーミルを用いて、パルプシートの送り速度8.5m/分、粉砕機ブレード回転数3,000RPM、メッシュ6mmの条件で粉砕する粉砕工程を実施し、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2・xH2O)を担持したパルプ繊維を得た。
【0046】
得られたパルプ繊維の灰分測定によりリン酸カルシウムの担持量を測定したところ8重量%で、繊維長は0.5〜3mmであった。
また、走査型電子顕微鏡(SEM)により繊維表面を観察したところその表面にはリン酸カルシウムが担持されていることを確認した(図1、2)。
また、パルプ繊維をエポキシ系樹脂に埋設しカミソリでカットした断面をSEMにより観察したところ繊維の断面の一部にリン酸カルシウムと思われる粒子状の物質が存在することを確認した(図9〜12)。
【0047】
(操作3)不織布の製造
ダンウエブ社(デンマーク)製の多層エアレイド装置を用いて下記の様に2層構造の機能性不織布を製造した。
第1層:帝人ファイバー株式会社製熱接着性合成繊維、商品名「F6」、繊度2.2dt、長さ5mm(ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート複合繊維)のみで、目付10g/m2となるよう形成。
第2層:操作2にて作製された、リン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維と、熱接着性合成繊維(チッソポリプロ繊維株式会社製、商品名「インタック」、繊度1.7dt、長さ5mm(芯部がポリプロピレンで鞘部が共重合ポリエチレンの複合繊維))との混合状態で目付40g/m2(混合割合=パルプ繊維:熱接着性合成繊維(「インタック」)=30g/m2:10g/m2)となるよう形成。
【0048】
第1層を形成させた上に、第2層を形成すべくパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを送風ブロアで大量の空気流と混合しつつ送綿し、多孔質ネットコンベアー上に位置する噴き出し部から、空気流と共に噴出しながら、ネットコンベアーの下面に配置した空気サクション部で吸引しながら、第1層上に第2層を堆積させて、合計50g/m2の複合繊維層の形成されたウェブを作製するウェブ工程を実施した。
【0049】
次に、このウェブを132℃の熱風で加熱することによってパルプ繊維と熱接着性合成繊維とを接着させる接着工程を実施してリン酸カルシウムを担持した機能性不織布を得た。
【0050】
得られた不織布の目付量は、50g/m2で、リン酸カルシウムの担持量は4.7%(2.4g/m2)であった。
得られた不織布のSEM観察結果を図3、4に示す。
図3ではリン酸カルシウムを担持したパルプ繊維と、熱融着性繊維とが交絡していることが判る。
また図4は、パルプ繊維部を拡大したものであるが、パルプ繊維の表面にリン酸カルシウムが担持されていることが判る。
【0051】
(実施例2)
リン酸カルシウムスラリーとして、第3リン酸カルシウム(分子式:3Ca3(PO4)2・Ca(OH)2)が固形分濃度10%で含有されている太平化学産業製、商品名「TCP−10U」を用いたこと、ならびに、パルプ100重量部に対しリン酸カルシウムの固形分が15重量部になる様に調整したこと以外は実施例1と同様にスラリー工程を実施した。
なお、「TCP−10U」を吸引ろ過後80℃に設定した乾燥機を用いて20時間乾燥した後に粉末X線回折により結晶相を同定したところCa5(PO4)3(OH)を示すJCPDS カードNo.09−0432のX線回折パターンと一致した。
また、試料を硝酸で溶解しICP発光分光分析によりカルシウムおよびリンを定量し、Ca/Pモル比を求めたところCa/Pモル比は1.73であった。
さらに、乾燥粉体をBET多点法による比表面積を求めたところ、48m2/gであった。
【0052】
次いで、実施例1と同様に脱水工程、乾燥工程および粉砕工程を実施してリン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維を作製した。
そして、このパルプ繊維と熱接着性合成繊維(「インタック」)とを、(パルプ繊維:熱接着性合成繊維)=(30g/m2:15g/m2)となる混合割合で用いて、単層の機能性不織布(45g/m2)を作製したこと以外は、実施例1と同様にウェブ工程、接着工程を実施して機能性不織布を作製した。
【0053】
(実施例3)
スラリー工程を、リン酸カルシウムスラリー(固形分濃度10重量%)100kgを用いることに代えて、アナターゼ型二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名「ST−01」(平均粒子径7nm))1kgを9kgのイオン交換水に分散させた二酸化チタン分散液10kgとリン酸カルシウムスラリー90kgとの混合液を用いて実施した以外は実施例1と同様にして機能性不織布を得た。
【0054】
(実施例4)
叩解処理を実施せずにスラリー工程を実施したこと以外、実施例1と同様にして機能性不織布を作製した。
なお、粉砕工程後のパルプ繊維のろ水度(フリーネス)は700mlであった。
【0055】
(比較例1)
リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維に代えて、市販のパルプ繊維(Weyerhaeuser社製、商品名「NB416Kraft」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を作製した。
そして、この不織布をA4版サイズに切り出したものをリン酸カルシウムスラリー500mlが入ったステンレス製バットに30分間浸漬し、脱水後、100℃の恒温槽中で10時間乾燥することによって不織布にリン酸カルシウムを担持させて機能性不織布を作製した。
【0056】
リン酸カルシウムスラリー浸漬前の不織布の平面SEM像を図5、6に、エポキシ系樹脂に埋設しカミソリでカットした断面SEM像を図13、14に示す。
リン酸カルシウムスラリー浸漬後(乾燥後)の機能性不織布のリン酸カルシウム担持量は4.7%(2.45g/m2)であった。
得られた不織布をSEM観察したところ、図15、16に示す様にパルプ繊維および熱融着繊維共に繊維の表面にリン酸カルシウムが担持されていた。また、得られた不織布をエポキシ系樹脂に埋設しカミソリでカットした断面をSEMにより観察したところ繊維の内部には粒子状の物質は見られなかった(図17〜20)。
【0057】
(比較例2)
実施例1の操作1で作製されたリン酸カルシウムスラリーをスプレードライヤー(大川原加工機社製、商品名「L−8型」)を用いて、熱風入り口温度250℃ アトマイザー回転数35000rpmの条件で噴霧乾燥し、リン酸カルシウム顆粒を作製した。
このリン酸カルシウム顆粒のBET多点法による比表面積を求めたところ81m2/gであった。
また、試料を硝酸で溶解しICP発光分光分析によりカルシウムおよびリンを定量し、Ca/Pモル比を求めたところCa/Pモル比は1.67であった。
さらに、結晶相を粉末X線回折により同定したところCa3(PO4)2・xH2O(JCPDS カードNo.18−0303)のX線回折パターンと一致した。
【0058】
このリン酸カルシウム顆粒8部、ポリカルボン酸アンモニウム塩(分散剤、東亜合成株式会社製 商品名「A−6114」)0.08部及びポリビニルアルコール(結合剤、日本合成化学株式会社製、商品名「ゴーセノールGL−05」)0.8部を蒸留水91.12部に加え、攪拌して分散液を作製した。
この分散液に市販のポリエステル不織布(目付36g/m2)を含浸し、乾燥してリン酸カルシウムを不織布に担持させて機能性不織布を作製した。
得られた機能性不織布のリン酸カルシウム担持量は14.6重量%であった。
【0059】
(比較例3)
リン酸カルシウム顆粒が分散剤、結合剤とともに分散された分散液の使用量を比較例2で用いた量の1/3の量にした以外は比較例2と同様にして、機能性不織布を作製した。
得られた機能性不織布のSEM観察結果を図7、8に示す。
得られた機能性不織布のリン酸カルシウム担持量は5.5重量%であった。
【0060】
(評価)
リン酸カルシウム粒子や得られた機能性不織布に対しては、以下のような評価方法を採用した。
【0061】
(1)繊度の測定
JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」の“8.3繊度 8.3.1正量繊度 B法(簡便法)”に準拠し、繊度(tex)を算出し、デシテックス(dt)にて表示した。
すなわち、初荷重をかけて正確に長さ90cmの試料20本をとり、105℃で10時間乾燥後各試料の質量を量り、次式によって正量繊度(tex)を算出し、デシテックス(dt)にて表示した。
F0=1000×m/L×(100+R0)/100
ここにおいて、各記号は下記を表している。
F0:正量繊度(tex)
L:試料の長さ(m)
m:試料の質量(g)
R0:JIS L 0105の3.1に規定されている公定水分率
【0062】
(2)ろ水度の測定
JIS P 8121「パルプのろ水度試験方法」の“4.カナダ標準ろ水度試験方法”によりろ水度を測定した。
【0063】
(3)X線回折
メノウ乳鉢を用いて試料を粉砕した後、ガラスセルに詰め、リガク電機製X線回折装置、型名「RAD−2C」を用いてCuKα線を用いて管球電圧40kV、電流15mAの条件で2θが5〜70°となる範囲でX線回折を行った。
【0064】
(4)リン酸カルシウム担持量の測定
機能性不織布を150mm×150mmに切りだしたサンプルを、恒量した磁器製のルツボ(直径80mm、高さ60mm)に投入し、電気炉で550℃×5時間の加熱を実施し、冷却後秤量し、加熱前後の重量差から機能性不織布の灰分を求め、求められた灰分の重量を機能性不織布に担持させたリン酸カルシウム重量に換算し、このリン酸カルシウム重量を加熱前の機能性不織布重量で除してリン酸カルシウムの担持量(%)を求めた。
また、リン酸カルシウム重量を不織布の面積(150mm×150mm)で除して、単位面積あたりのリン酸カルシウム担持量(g/m2)を求めた。
【0065】
(5)消臭性能の評価1(酢酸吸着性)
(空試験)
気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器を用い、この蒸発皿に4μlの酢酸を注入後、30分経過した時点でこの密閉容器内の酢酸の濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.81」)で測定した。
(機能性不織布による吸着性能試験)
機能性不織布を15cm×15cmに切り取って試験片とし、気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器中に、この試験片を設置するとともに蒸発皿に4μlの酢酸を注入し、30分経過後の密閉容器内の酢酸の濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.81」)で測定した。
この空試験により観察された酢酸濃度をAc1、機能性不織布を用いた場合の酢酸濃度をAc2としたときに、下記式により酢酸消臭率を計算し、各試験片の酢酸消臭率が大きいものを消臭性能が優れていると判定した。
酢酸消臭率(%)={(Ac1−Ac2)/Ac1}×100(%)
結果を表1に示す。
【0066】
(6)消臭性能の評価2(アンモニア吸着性)
(空試験)
気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器を用い、この蒸発皿に2μlの濃度25%のアンモニア水を注入後、30分経過した時点でこの密閉容器内のアンモニア濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.3L」)で測定した。
(機能性不織布による吸着性能試験)
機能性不織布を15cm×15cmに切り取って試験片とし、気体攪拌用のファンと、表面温度70℃の蒸発皿を備えた約8リットルの密閉容器中に、この試験片を設置するとともに蒸発皿に2μlの濃度25%のアンモニア水を注入し、30分経過後の密閉容器内のアンモニアの濃度をガス検知菅(ガステック社製、「No.3L」)で測定した。
この空試験により観察された酢酸濃度をAn1、機能性不織布を用いた場合の酢酸濃度をAn2としたときに、下記式により酢酸消臭率を計算し、各試験片の酢酸消臭率が大きいものを消臭性能が優れていると判定した。
アンモニア消臭率(%)={(An1−An2)/An1}×100(%)
結果を表1に示す。
【0067】
(7)通気性能(圧力損失)の評価
図25に示す装置を用いて、空気流量を12 l/分に設定し、不織布を通過させ、機能性不織布を空気が通過する前後における圧力差を差圧計で測定することにより、圧力損失を測定した。
結果を、表1に示す。
なお、機能性不織布を立体マスクのマスク本体に用いる場合には、上記評価において圧力損失が5.0mmH2O(49.033Pa)を超えるとマスク装着者に息苦しさを感じさせ易いことから、上記評価による圧力損失が49Pa以下であることが好ましい。
【0068】
(8)リン酸カルシウムの脱落性評価
直径180mm×長さ195mmの円筒状の収容部が形成されたボールミルの内周面に沿って、長さ350mm×幅150mmに切り出した不織布を両面テープを用いて貼り付けた後に、直径16.5mmのYSZ製ボール(ニッカトー社製)を70個投入して蓋をし、44rpmの回転速度で1時間回転させた。
この後不織布を取り出し、両面テープが付着していない部位を採取して灰分を測定し、「(4)リン酸カルシウム担持量の測定」において説明した方法と同様の方法で灰分を測定した。
このボールミルによるリン酸カルシウムの脱落後の灰分と、初期(リン酸カルシウムの脱落前)の機能性不織布の灰分の重量の違いからリン酸カルシウムの脱落性を評価した。
結果を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
この表1からもわかるように、実施例の機能性不織布においては、リン酸カルシウムの脱落試験前後の灰分測定を行ったところ、試験前後で灰分の変化は殆んど見られなかった。
一方で、比較例1の機能性不織布においては、リン酸カルシウム脱落試験前後の灰分測定の結果、試験前後で16%の灰分の減少が見られた。
すなわち、本発明の機能性不織布製造方法においては、機能性不織布にリン酸カルシウムを強固に担持させ得ることがわかる。
また、その際に、結合剤を多量に用いる必要性もない。したがって、本発明の機能性不織布製造方法により形成された機能性不織布は、通気性に優れ、吸着作用の持続性に優れていることがわかる。
なお、比較例2、3においては、表1の結果からは、実施例1と同等の通気性が得られると考えられるが、例えば、比較例2では、実施例の機能性不織布に対して、約2.5〜約4倍ものリン酸カルシウム担持量であるにもかかわらず、実施例の機能性不織布よりもアンモニアの吸着作用に劣るものである。
また、比較例3の機能性不織布では、実施例の機能性不織布と同等のリン酸カルシウム担持量であるにもかかわらず、酢酸吸着作用、アンモニア吸着作用のいずれにも劣るものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を観察したSEM写真。
【図2】図1拡大写真。
【図3】実施例1の機能性不織布表面を観察したSEM写真。
【図4】図3拡大写真。
【図5】リン酸カルシウムが担持されていないパルプ繊維を観察したSEM写真。
【図6】図5拡大写真。
【図7】比較例3の機能性不織布表面を観察したSEM写真。
【図8】図7拡大写真。
【図9】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の斜め断面を観察したSEM写真。
【図10】図9拡大写真。
【図11】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図12】図11拡大写真。
【図13】リン酸カルシウムが担持されていないパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図14】図13拡大写真。
【図15】比較例1の機能性不織布表面を観察したSEM写真。
【図16】図15拡大写真。
【図17】比較例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図18】図17拡大写真。
【図19】比較例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維の略垂直方向断面を観察したSEM写真。
【図20】図19拡大写真。
【図21】実施例1の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムのX線回折パターン。
【図22】実施例2の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムのX線回折パターン。
【図23】実施例2の機能性不織布に用いられたリン酸カルシウムのX線回折パターン。
【図24】圧力損失評価方法を示す概略図。
【図25】立体マスクを示す概略図。
【符号の説明】
【0072】
1:立体マスク、3:マスク本体、4:重ね部、5:装着紐
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法であって、
パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを作製して、該スラリー中に分散されたパルプを乾燥させて粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製し、該パルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成した後に加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させることを特徴とする機能性不織布製造方法。
【請求項2】
リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布であって、
リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維は、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製され、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴とする機能性不織布。
【請求項3】
着用者の鼻及び口を覆うマスク本体が備えられており、前記マスク本体が立体形状に形成されている立体マスクであって、
前記マスク本体には、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布が用いられており、前記機能性不織布は、リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維が、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製されて、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴とする立体マスク。
【請求項1】
リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布を作製する機能性不織布製造方法であって、
パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーを作製して、該スラリー中に分散されたパルプを乾燥させて粉砕することによりリン酸カルシウムが担持されたパルプ繊維を作製し、該パルプ繊維と合成樹脂繊維とを用いてウェブ形成した後に加熱して、前記合成樹脂繊維と前記パルプ繊維とを接着させることを特徴とする機能性不織布製造方法。
【請求項2】
リン酸カルシウムが担持されている機能性不織布であって、
リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維は、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製され、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴とする機能性不織布。
【請求項3】
着用者の鼻及び口を覆うマスク本体が備えられており、前記マスク本体が立体形状に形成されている立体マスクであって、
前記マスク本体には、リン酸カルシウムが担持された機能性不織布が用いられており、前記機能性不織布は、リン酸カルシウムが担持されているパルプ繊維と合成樹脂繊維とが用いられてウェブ形成され、前記パルプ繊維が前記合成樹脂繊維と接着されて形成されており、前記パルプ繊維と前記合成樹脂繊維との合計量に占める前記合成樹脂繊維の割合が重量で20〜60%であり、しかも、前記パルプ繊維が、パルプとリン酸カルシウムとが分散されたスラリーが作製されて、該スラリー中に分散されたパルプが乾燥されて粉砕されることにより作製されたものであることを特徴とする立体マスク。
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2008−174850(P2008−174850A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7236(P2007−7236)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
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