説明

機能性分離材、ガス吸着材及びタバコ消臭用フィルター

【課題】 繊維表面に固着された機能性フィラーの脱落を防止し、かつ機能性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるとともに、例えば、タバコのヤニ成分など臭気以外の成分の付着による機能の低下を防止する機能性分離材、ガス吸着材及びタバコ消臭用フィルターを提供する。
【解決手段】 本発明の機能性分離材(1)は、繊維と、その表面の湿熱ゲル化樹脂と、前記湿熱ゲル化樹脂に固着された機能性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有しており、前記機能性フィラーが前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている機能層(3)と、前記機能層(3)の両面に、繊維径が10μm以下の極細繊維を含む目付0.5〜20g/m2の極細繊維層を含む表面繊維層(2)が積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性フィラーを繊維表面に固着したフィラー固着繊維を有する機能性分離材、及びタバコの煙成分に含まれる臭気成分を消臭できるタバコ消臭用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有害化学物質による室内環境汚染が問題となっている。有害化学物質のうちタバコの煙成分には、有害ガス成分や臭気成分を含んでいるため、家庭やビルの室内、車内など室内環境を汚染する原因の一つとして挙げられている。そのため、タバコ臭を除去する機能性分離材が要望されている。前記機能性分離材としては、活性炭などの吸着剤、あるいは光触媒などを担持した繊維シートが提供されている。
【0003】
また、特許文献1には、2枚のシートの間に活性炭粒子を混合したホットメルト剤で接合一体化した積層構造体であって、シートが透気度20秒以下及び平均繊維間距離1〜100μmの不織布であり、活性炭粉末の粒径が100〜1000μm、ホットメルト剤粉末の粒径が100〜1000μmである面状消臭体が提案されている。さらに、特許文献2には、通気性汚染防止フィルターにより光触媒を挟み込んだ通気性汚染防止光触媒脱臭フィルターが提案されている。
【特許文献1】特開平10−99421号公報
【特許文献2】特開2001−516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タバコの煙成分には、有害ガス成分や臭気成分以外にもヤニ成分(ニコチン、タール等)が含まれており、単に吸着剤や光触媒を担持したシートでは、ヤニ成分の汚れが吸着剤や光触媒の表面に付着していまい、消臭機能が著しく低下するという問題があった。また、特許文献1の面状消臭体では、活性炭粒子がホットメルト剤によって樹脂内部に埋没してしまい、充分な消臭効果が得られない場合があった。さらに、このような固定化方法では、ホットメルト剤と活性炭粒子との接触面積が少ないため、活性炭粒子が脱落するおそれがあった。加えて、前記2枚のシートの間に活性炭粒子を挟持させる際、活性炭粒子が脱落しないように活性炭粒子の粒径を100〜1000μmといった粒径の大きなものを使用する必要があった。そのため、活性炭粒子の比表面積が小さく、充分な消臭効果が得られないという問題があった。
【0005】
さらに、特許文献2の脱臭フィルターは、通気性汚染防止フィルター層を積層してヤニ成分からの消臭機能低下を防止しようと試みているが、光触媒粒子は単に通気性汚染防止フィルター層に挟み込まれただけだと、フィルター層を通して脱落する恐れがあった。そのため、光触媒粒子と脱臭剤粒子を凝集させて凝集複合体を形成させることにより、粒子の脱落の防止を試みている。しかし、凝集複合体は、個々の機能性粒子の表面積が低下するため、所望の機能性が発揮できないだけでなく、エマルジョン系のバインダー樹脂で接着するため、さらに粒子の機能性が低下する恐れがあった。
【0006】
このように、従来の機能性分離材は、タバコの煙のように様々な臭気成分や粒子成分、粘着成分等を吸着、分解、除去する機能を求められているが、十分に対応できる機能性分離材が未だ実用化されていないのが実情であった。本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維表面に固着された機能性フィラーの脱落を防止し、かつ機能性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるとともに、例えば、タバコのヤニ成分など臭気以外の成分の付着による機能の低下を防止する機能性分離材及びタバコ消臭用フィルターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の機能性分離材は、繊維と、その表面の湿熱ゲル化樹脂と、前記湿熱ゲル化樹脂に固着された機能性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有しており、前記機能性フィラーが前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている機能層と、前記機能層の少なくとも片面に、繊維径が10μm以下の極細繊維を含む目付0.5〜20g/m2の極細繊維層を含む表面繊維層が積層されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のガス吸着材は前記機能性フィラーがガス吸着性フィラーであって、ガス吸着性フィラーの平均粒子径が10〜100μmの範囲内にある多孔質フィラーであることを特徴とする。
本発明のタバコ消臭用フィルターは、前記ガス吸着材を組み込んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の機能性分離材は、機能性フィラーが繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、機能性フィラーを表面に露出させた状態で固着することができる。これにより、繊維表面に固着された機能性フィラーの脱落を防止し、かつ機能性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるので、従来の機能性分離材に比べて、例えばタバコの煙に含まれる有害ガス成分、臭気成分の吸着・消臭性能を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の機能性分離材は、機能層の少なくとも片面に極細繊維を含む目付0.5〜20g/m2の極細繊維層を含む表面繊維層を積層することにより、必要以上に通気性を低下させることなく、例えばタバコの煙に含まれるヤニ成分のように粒子成分や粘着成分を含む成分を除去することができるので、機能層の吸着・分解・消臭機能の低下を抑え、機能性分離材の寿命を延ばすことができる。
【0011】
本発明のタバコ消臭用フィルターは、前記機能性分離材を組み込むことにより、タバコの煙に含まれる有害ガス成分、臭気成分、ヤニ成分等のあらゆる成分を吸着・分解・消臭し、除去することができるので、空気清浄器、分煙器、及び車両用キャビンフィルターなどの用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の機能性分離材とは、機能性フィラーの持つ機能を付与したことによって、気体または液体から原因物質を分離する物を言う。
付与される機能としては吸着・分解・消臭・芳香・抗菌・防かび・防だに・抗ウィルス・
酸化・還元・親水・撥水・添加などが挙げられる。
【0013】
本発明の機能性分離材に用いられる湿熱ゲル化樹脂とは、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る樹脂のことをいう。「ゲル化し得る樹脂」とは、50℃以上の温度でゲル化することによって膨潤し、この膨潤したゲル化物により、機能層の構成繊維を固定することができる樹脂のことをいう。湿熱ゲル化樹脂の形態は、パウダー状、チップ状、繊維状等が挙げられる。特に、湿熱ゲル化樹脂は、繊維状であることが好ましい。繊維状の湿熱ゲル化樹脂(以下、「湿熱ゲル化繊維」という)としては、湿熱ゲル化樹脂を含む繊維か、又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維(以下、「湿熱ゲル化複合繊維」という。)を用いられる。これにより、他の繊維又は少なくとも他の熱可塑性合成繊維成分は、繊維の形態を保ち、かつ湿熱ゲル化樹脂がゲル化されて機能性フィラーを繊維表面に固着させるバインダーとしての作用機能を発揮する。そして、機能性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に接着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。好ましくは、機能性フィラーは、露出して固着されている。また、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に接着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって、湿熱ゲル化繊維同士、及び/又は湿熱ゲル化繊維と他の繊維とは、接着されている。
【0014】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であることが好ましい。湿熱によってゲル化でき、他の繊維及び/又は他の熱可塑性合成繊維成分を変質させないからである。
【0015】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、好ましいエチレン含有率は、20モル%以上である。好ましいエチレン含有率は、50モル%以下である。より好ましいエチレン含有率は、25モル%以上である。より好ましいエチレン含有率は、45モル%以下である。鹸化度が95%未満ではゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維構造物の生産が難しくなる場合がある。また、エチレン含有率が20モル%未満の場合も同様に、ゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維構造物の生産が難しくなる場合がある。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果、繊維構造物の寸法安定性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0016】
前記湿熱ゲル化樹脂の好ましいゲル化温度は、50℃以上である。より好ましいゲル化温度は、80℃以上である。50℃未満でゲル化し得る樹脂を用いると、ゲル加工の際、ロール等への粘着が激しくなって繊維構造物の生産が難しくなるか、夏場や高温環境下での使用ができなくなる場合がある。なお、「ゲル加工」とは、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させる加工のことをいう。
【0017】
前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂の好ましい組み合わせとしては、
(I)湿熱ゲル化樹脂繊維成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つが挙げられる(以下、「形態(I)〜(IV)」という。)。前記形態(I)は、「湿熱ゲル化樹脂」を湿熱ゲル化樹脂繊維成分とし、「繊維」を他の熱可塑性合成繊維成分とした湿熱ゲル化複合繊維である。前記形態(II)は、「湿熱ゲル化樹脂」を湿熱ゲル化複合繊維とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。前記形態(III)は、「繊維」を湿熱ゲル化複合繊維とし、さらに湿熱ゲル化樹脂を混合したものである。前記形態(IV)は、前記湿熱ゲル化複合繊維以外の形態を採る湿熱ゲル化樹脂(例えば、湿熱ゲル化樹脂単独の繊維、パウダー状、チップ状)と、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。
【0018】
前記形態(I)〜(III)に用いられる湿熱ゲル化複合繊維は、湿熱ゲル化樹脂繊維成分が露出しているか、または部分的に区分されている複合繊維であることが好ましい。その複合形状は、同心円芯鞘型、偏心芯鞘型、並列型、分割型、海島型等を指す。特に同心円芯鞘型は機能性フィラーが繊維表面に固着しやすいので好ましい。また、その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等いずれであってもよいが、繊維製造の容易さから円形であることが好ましい。分割型複合繊維はあらかじめ高圧水流等を噴射して部分的に分割しておくのが好ましい。このようにすると、分割された湿熱ゲル化樹脂繊維成分は、湿熱処理によりゲル化し、ゲル化物を形成して他の繊維の表面に付着し、機能性フィラーを固着する。すなわち、バインダーとして機能する。
【0019】
前記湿熱ゲル化複合繊維の繊度は、0.9〜11dtexであることが好ましく、2〜9dtexであることがより好ましい。湿熱ゲル化複合繊維の繊度が0.9dtex未満であると、機能性分離材に用いたときに充分な通気性を確保できないことがあり、繊度が11dtexを超えると、機能性フィラーがゲル化物に埋没する場合があるか、機能性フィラーの固着量が少なくなる場合がある。
【0020】
前記湿熱ゲル化複合繊維に占める湿熱ゲル化樹脂繊維成分の割合は、10〜90質量%の範囲内にあることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、30〜70質量%である。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が10質量%未満であると、機能性フィラーが固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が90質量%を超えると、複合繊維の繊維形成性が低下する傾向にある。
【0021】
前記湿熱ゲル化複合繊維における他の熱可塑性合成繊維成分は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等いかなるものであってもよいが、好ましくはポリオレフィンである。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン等が挙げられる。湿熱ゲル化樹脂繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を使用した場合、溶融紡糸による複合繊維(コンジュゲート繊維)を形成しやすい。
【0022】
また、他の熱可塑性合成繊維成分として、湿熱ゲル化樹脂繊維成分をゲル化させる温度よりも高い融点を有する熱可塑性合成繊維成分を用いることが好ましい。他の熱可塑性合成繊維成分がゲル化物を形成させる温度よりも低い融点を有する熱可塑性合成繊維成分であると、他の熱可塑性合成繊維成分自体が溶融して硬くなる傾向にあり、例えば不織布にしたときに収縮を伴って不均一になることがある。
【0023】
前記湿熱ゲル化複合繊維が機能層に占める割合は、機能性フィラーを固着することのできる量であれば特に限定されないが、ゲル化物によって繊維を固着する及び/又は機能性フィラーを有効に固着するのに要する複合繊維の割合は、10質量%以上であることが好ましい。より好ましい複合繊維の割合は、30質量%以上である。さらに好ましい複合繊維の割合は、50質量%以上である。
【0024】
前記形態(III)では、前記湿熱ゲル化複合繊維に、さらに湿熱ゲル化樹脂を含有させて複合繊維の表面にゲル化物を形成させることも可能である。これにより、機能性フィラーの固着効果をより向上させることができる。
【0025】
前記形態(II)または前記形態(IV)に用いられる他の繊維としては、レーヨン等の化学繊維、コットン、麻、ウール等の天然繊維等、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単独成分又は複数成分とする合成繊維等、任意なものを選択して使用できる。
【0026】
前記形態(IV)において、湿熱ゲル化樹脂は、機能層に対して1〜90質量%の範囲内で含有させるのが好ましい。より好ましい含有量は、3〜70質量%である。湿熱ゲル化樹脂の含有量が1質量%未満であると、ゲル化物によって他の繊維を固着することが困難となるか、あるいは機能性フィラーを固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂の含有量が90質量%を超えると、繊維形状が消失してフィルム状になるか、あるいは機能性フィラーがゲル化物に埋没することがある。
【0027】
前記機能層は、繊維構造物であることが好ましい。繊維構造物とは、例えば、不織布、織物、編物、網状物、繊維集束物などを指す。繊維構造物を構成する繊維の表面に機能性フィラーを固着している。
【0028】
前記機能性フィラーは、例えば、タバコの煙に含まれる有害ガス成分や臭気成分などの気体物質やVOC(揮発性有機化合物)ガス、または排煙・排ガスに含まれるジクロロエチレン等を吸着・消臭する機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、活性炭粒子、ゼオライト、シリカゲル、活性白土、層状リン酸塩等の多孔質粒子、酸化チタン等を多孔質の無機化合物で被覆した光触媒粒子、及びこれらの多孔質粒子に酸性物質やホルムアルデヒド吸着剤等の機能性化合物を含ませた多孔質粒子等が好ましい。多孔質粒子の中では、活性炭粒子が特に好ましい。
【0029】
前記活性炭の種類は特に限定されないが、例えば、原材料としてヤシガラや木質などを用いたものが挙げられ、その賦活方法は、水蒸気による方法や薬品による方法などが挙げられる。
【0030】
前記機能性フィラーは、例えば粒子状のものをいう。前記機能性フィラーが粒子状の場合、前記機能性フィラーの平均粒子径は、10〜100μmの範囲であることが好ましい。より好ましい平均粒子径は、15〜80μmであり、さらにより好ましい平均粒子径は、20〜50μmである。平均粒子径が10μm未満では、機能性フィラーがゲル化物に埋没することがある。一方、平均粒子径が100μmを超える場合は、機能性フィラーの比表面積が小さくなり、機能性フィラーの効果(例えば、タバコ消臭効果)が充分に得られなくなる場合がある。本発明の機能性分離材は、機能性フィラーの粒子径が小さくても、繊維表面に露出した状態で固着するので、少量の機能性フィラーで優れた効果を発揮する。特に、機能性フィラーの平均粒子径が100μm以下の場合は、比表面積が大きくなるので、少量の機能性フィラーでも優れた効果を発揮する。なお、前記平均粒子径とは、JIS標準ふるい(JIS Z 8801)による値である。
【0031】
前記機能層は、機能性フィラーの機能を効率良く発揮させるために、前記機能性フィラーの固着量がタバコ消臭層1m2あたり2〜200gであることが好ましく、10〜100gであることがより好ましく、20〜80gであることがとくに好ましい。フィラーの固着量が2g未満であると、タバコの煙に含まれる有害ガス成分、臭気成分等を充分に吸着・消臭することができない。フィラーの固着量が200gを超えると、タバコ消臭層の繊維間の空隙が小さくなり、フィルターとして用いたときの通気性が低下する。
【0032】
本発明の機能性分離材は、機能性化合物を更に含んでいてもよい。前記機能性化合物としては、リン酸、スルファニル酸、アクリル酸、ポリフェノールなどの酸性物質、ヒドラジド化合物、あるいは芳香族ポリアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン化合物などが挙げられる。なお、ここでいう機能性化合物とは、液状のものをいい、例えば水などの溶媒に溶解あるいは分散し易いものをいう。機能性化合物として液状のものを使用することにより、前記機能性化合物が繊維構造物中に均一に分散されるので都合がよい。機能性分離材が酸性物質を含んでいるとアンモニアガスなどの吸着に優れた効果を発揮し、ヒドラジド化合物、ポリアミン化合物などを含んでいるとホルムアルデヒドなどの吸着に優れた性能を発揮する。
【0033】
前記機能層は、繊維と、その表面の湿熱ゲル化樹脂と、前記湿熱ゲル化樹脂に固着された機能性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有する繊維構造物である。前記機能層の具体的な構成は、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂が、湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維を50質量%以上含有する機能不織布であることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化複合繊維の含有量は、70質量%以上であり、80質量%以上がさらにより好ましい。このような構成であると、フィラーを有効に固着することができるからである。また、前記機能不織布の目付は、30〜200g/m2であり、機能性フィラーの固着量が機能不織布1m2あたり2〜200gであることが好ましい。このような構成であると、通気性を確保しつつ、効率よく吸着・分解・消臭等の機能を発揮することができる。
【0034】
前記機能層の通気度は、20〜200cm3/cm2・secであることが好ましく、30〜150cm3/cm2・secであることがより好ましい。通気度が20cm3/cm2・sec未満であると、例えば、空気清浄機用フィルター、分煙フィルター等のフィルターに用いたときに、空気の循環効率が低下し、通気度が200cm3/cm2・secを超えると、機能層の空隙を大きすぎて有害ガス成分や臭気成分が充分にフィラーに接触せず、吸着・消臭効率が低下することがある。
【0035】
前記機能層の少なくとも片面には、繊維径が10μm以下の極細繊維を含む目付0.5〜20g/m2の極細繊維層を含む表面繊維層が積層されている。このような表面繊維層を用いることにより、必要以上に通気性を低下させることなく、タバコの煙に含まれるヤニ成分などを除去することができるので、機能層の吸着・消臭機能の低下を抑え、寿命を延ばすことができる。なお、上記繊維径は、極細繊維層の断面を拡大して単繊維の直径を測定するか、表面繊維層から透過して視認可能な極細繊維層を拡大して単繊維の直径を測定することにより求めることができる。また、平均繊維径は、極細繊維層の断面を拡大し、単繊維50本の繊維径をそれぞれ求め、平均するか、不織布表面を700倍に拡大して写真を撮影し、写真の9cm四方の範囲内で視認できる単繊維の長さ方向の中央値を繊維径とし、単繊維それぞれの繊維径を求め、それを平均したものをいう。
【0036】
前記極細繊維層に用いられる極細繊維の繊維径は、10μm以下であり、好ましくは6μm以下であり、より好ましくは4μm以下である。極細繊維の繊維径が10μmを超えると、通気性は確保される反面、主としてタバコの煙に含まれるヤニ成分等を充分に除去することができない。また、極細繊維層の平均繊維径は、8μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜6μmであり、さらにより好ましくは1〜5μmである。極細繊維層の平均繊維径が8μmを超えると、通気性は確保される反面、主としてタバコの煙に含まれるヤニ成分等を充分に除去することができない。極細繊維の繊維径または極細繊維層の平均繊維径が小さすぎると、極細繊維層の空隙の大きさが小さくなる傾向にあり、ヤニ成分等で空隙が閉塞されて、機能性が低下しやすくなる。
【0037】
前記極細繊維層の目付は、0.5〜20g/m2であることが好ましく、より好ましくは1〜15g/m2であり、さらにより好ましくは1〜10g/m2である。極細繊維層の目付が0.5g/m2未満であると、主としてタバコの煙に含まれるヤニ成分等を充分に除去することができない。極細繊維層の目付が20g/m2を超えると、通気性が低下する場合がある。
【0038】
前記表面繊維層は、前記極細繊維層を含む。極細繊維層を積層することにより、通気性を確保しながら例えばタバコの煙に含まれるヤニ成分等を充分に除去する(除去効果)ことができ、仮にタバコ消臭層のフィラーが脱落したとしても、フィラーがタバコ消臭材の外へ流出するのを防止する(バリアー効果)ことができる。表面繊維層は、極細繊維層の少なくとも片面に極細繊維層よりも平均繊維径が大きい繊維層(以下、太繊維層という)が積層していることが好ましい。より好ましくは、極細繊維層の両面に太繊維層を積層している。極細繊維層の両面に太繊維層を積層すると、機能層に固着されたフィラーと極細繊維層とが直接接触しないので、フィラーにより極細繊維層が傷つけられてヤニ成分等の除去効果が低下することがない。また、太繊維層がヤニ成分の前除去層の役割を果たす。
【0039】
太繊維層を構成する繊維の繊維径は、10μmより大きく、40μm以下であることが好ましい。太繊維層を構成する繊維の繊維径が10μm以下であると、通気性が低下する場合があり、40μmを超えると、目付が低い場合、不織布の強力の保持が困難となる場合がある。
【0040】
前記表面繊維層の目付(機能層の両面に積層される場合は、両面の合計)は、10〜60g/m2であり、好ましくは12〜40g/m2である。表面繊維層の目付が10g/m2未満であると、通気性は確保される反面、主としてタバコの煙に含まれるヤニ成分等を充分に除去することができない。目付が60g/m2を超えると、通気性が低下する場合がある。
【0041】
前記表面繊維層の具体的な構成としては、極細繊維層はメルトブローン繊維層であり、太繊維層はスパンボンド繊維層であることが好ましい。メルトブローン繊維層であると、0.5〜20g/m2の低目付でありながら、除去効果とバリアー効果を両立することができる。また、スパンボンド繊維層であると、通気性を確保し、機能層におけるフィラーによる層表面の凹凸を吸収しながら積層することができる。
【0042】
前記表面繊維層は、極細繊維層と太繊維層の層間が単に重ね合わせるだけでもよいが、取り扱い性を考慮すると熱接着等により一体していることが好ましい。一体化の方法としては、例えば部分的圧着による一体化が挙げられる。
【0043】
前記表面繊維層は、通気度が50〜250cm3/cm2・secであることが好ましく、70〜220cm3/cm2・secであることがより好ましい。通気度が50cm3/cm2・sec未満であると、例えば、空気清浄機用フィルター、分煙フィルター等のフィルターに用いたときに、空気の循環効率が低下し、通気度が250cm3/cm2・secを超えると、例えばタバコの煙に含まれるヤニ成分等を充分に除去することができない。
【0044】
本発明の機能性分離材は、前記機能層の少なくとも片面に、前記表面繊維層が積層されている。その層間は単に重ね合わせるだけでもよいが、取り扱い性を考慮すると熱接着等により一体化していることが好ましい。一体化の方法としては、部分的圧着による一体化であることが好ましい。
【0045】
さらに、表面繊維層が積層された機能層を部分的圧着することにより、機能性分離材が嵩高となり表面積が増し、機能層の吸着・分解・消臭機能の促進を促すことができることからも好ましい。
【0046】
部分的圧着による一体化の方法は、エンボスロールを使用することによる圧着法が好ましい。エンボスロールを使用して機能性分離材にエンボス柄を付与することにより、繊維に機能性フィラーが埋没することなく、機能性フィラーの効果を失わず機能性フィラーを固定することができ、さらに、エンボス柄からなる凹凸が機能性分離材の表面積を増加させるため、より効果的にタバコの煙に含まれるヤニ成分等を除去することが出来る。また、機能性分離材をプリーツ構造やハニカム構造に成形するときの成形性が良くなる。
エンボスロールの中でも立体的な形状の柄のエンボスロール及び/または、エンボスロールの対のフラットロールがゴム製であることがより好ましい。機能性分離材の嵩高性がより増すからである。
【0047】
次に、本発明の機能性分離材の製造方法について説明する。以下の説明における湿熱処理は、湿熱雰囲気で施される。ここでいう「湿熱雰囲気」とは、水分を含み、かつ加熱された雰囲気のことをいう。前記湿熱処理とは、湿熱ゲル化樹脂を付与した繊維、湿熱ゲル化繊維成分を含む繊維、又はこれらの繊維を含む処理前の繊維構造物(以下、「被処理繊維構造物」ともいう)に、例えば機能性フィラーを含む機能性フィラー分散溶液(以下、フィラー分散溶液という)を付与した後に加熱する処理や、前記機能性フィラー分散溶液を付与しながら加熱する処理のことをいう。加熱の方法は、加熱雰囲気中へ晒す方法、加熱空気中を貫通させる方法、及び加熱体へ接触させる方法等が挙げられる。また、別の方法としては、被処理繊維構造物上に機能性フィラーを散布した後、水分を付与し、加熱処理する方法や、予め水分を付与した被処理繊維構造物上に機能性フィラーを散布した後、加熱処理する方法もある。前記散布の方法については特に限定されず、例えば篩による方法や噴射による方法や、電気的に行う方法などがある。
【0048】
前記被処理繊維構造物の製法は、特に限定されるものではないが、不織布の場合、ニードルパンチ法、水流交絡法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法などの方法から選ばれる少なくとも1種類の方法を使用するのが好ましい。なかでも、平均粒子径が10〜100μmの範囲であるフィラーを機能層に効率よく含有させて固着させるには、水流交絡法により得られた不織布であることが好ましい。
【0049】
前記水流交絡法により被処理繊維構造物を作製する場合、その水流交絡処理条件は、繊維構造物の目付および得られる不織布のフィラーの固着量や通気度等に応じて適宜設定される。例えば、目付が30〜80g/m2であるカードウェブの水流交絡処理は、80〜100メッシュの平織の支持体の上にウェブを載せて、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧2MPa以上10MPa以下の水流をカードウェブの表裏面に1〜5回ずつ噴射することにより実施してよい。また、必要に応じて、上記条件での水流交絡処理の後、開孔形成用の支持体の上にウェブを載せて、上記ノズルから水圧2MPa以上10MPa以下の水流をウェブに噴射して、開孔部を形成してもよい。ここでいう開孔部とは、繊維が集積していない0.05〜50mm2の大きさを有する箇所のことをいう。そして、上記水流交絡処理後のウェブは、水分を除去するために乾燥されて、被処理繊維構造物(被処理不織布)が作製される。
【0050】
前記被処理繊維構造物には、親水処理を施してもよい。親水処理を施すと、被処理繊維構造物が疎水性繊維を含む場合に、被処理繊維構造物に略均一に水分を付与することができる。その結果、複合繊維が略均一に湿熱ゲル化され、機能性フィラーが固着しやすくなるため好ましい。親水処理としては、界面活性剤処理、コロナ放電法、グロー放電法、プラズマ処理法、電子線照射法、紫外線照射法、γ線照射法、フォトン法、フレーム法、フッ素処理法、グラフト処理法、スルホン化処理法等が挙げられる。
【0051】
前記被処理繊維構造物の好ましい目付の範囲は、30〜200g/m2であり、より好ましい目付の範囲は、35〜100g/m2である。目付が30g/m2よりも低いと、湿熱処理後に固着する機能性フィラーの量が少なくなり、機能を充分に発揮できない場合がある。目付が200g/m2よりも高いと、機能性フィラーを付与する際に、機能性フィラーが被処理繊維構造物の内部に入り込みにくくなる恐れがある。
【0052】
前記フィラー分散溶液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または被処理繊維構造物に付与する水分の割合が(以下、「水分率」という)、20〜1500質量%であることが好ましい。より好ましい水分率は、30〜1000質量%である。さらにより好ましい水分率は、40〜900質量%である。水分率が20質量%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、水分率が1500質量%を超えると、湿熱処理が被処理繊維構造物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー法、水槽への浸漬法等公知の方法で行うことができる。特に、機能性フィラー分散溶液を被処理繊維構造物に含浸させる方法は、被処理繊維構造物内に機能性フィラーを多く取り込みやすいため、好ましい。水分が付与された繊維又は被処理繊維構造物は、絞りロール等で圧搾する等の方法で所定の水分率に調整することができる。
【0053】
前記フィラー分散溶液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または被処理繊維構造物に付与するフィラー分散溶液の割合(以下、「ピックアップ率」という)が、20〜1500質量%であることが好ましい。より好ましいピックアップ率は、30〜1000質量%である。さらにより好ましいピックアップ率は、40〜900質量%である。ピックアップ率が20質量%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、ピックアップ率が1500質量%を超えると、湿熱処理が被処理繊維構造物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー、水槽への浸漬等公知の方法で行うことができる。
【0054】
前記フィラー分散溶液中の機能性フィラーの濃度は、使用する被処理繊維構造物の目付や固着量、あるいは、フィラー分散溶液の温度や粘度などにより、適宜設定すればよいが、好ましい範囲は0.1〜75質量%であり、より好ましい範囲は、1〜50質量%である。機能性フィラーの濃度が0.1質量%よりも低いと、機能性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。機能性フィラーの濃度が75質量%よりも高いと、加工性が悪くなるため、機能性フィラーが均一に付着されない場合がある。
【0055】
前記フィラー分散溶液は、ガス吸着性化合物を更に含んでいることが好ましい。ガス吸着性化合物の濃度については、特に限定されるものではなく、被処理繊維構造物の目付や固着量により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は、0.1〜10質量%である。ガス吸着性化合物の濃度が0.1質量%よりも低いと、ガス吸着フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。ガス吸着性化合物の濃度が10質量%よりも高いと、加工性が悪くなる場合がある。また、ガス吸着性化合物の濃度が10質量%よりも高い場合は、濃度の増加に見合う効果が得られなくなる場合もある。
【0056】
前記湿熱処理における湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい湿熱処理温度は、50℃以上である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、80℃以上である。一方、より好ましい湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂の融点−30℃以下である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂の融点−40℃以下である。湿熱処理温度が湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度未満であると、機能性フィラーを有効に固着することができない場合がある。湿熱処理温度が湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃を超えると、湿熱ゲル化樹脂の融点に近くなるため、機能性フィラーを固着した繊維構造物にしたときに収縮を引き起こすことがある。
【0057】
前記湿熱処理を施した繊維構造物は、1)そのまま乾燥処理を行ってもよいし、2)一旦水洗を行った後、乾燥処理を行ってもよいし、3)一旦乾燥させた後、水洗を行いその後で乾燥処理を行ってもよい。水洗を行う場合は、上記3)の方法が、機能性フィラーの固着量が多くなるので都合がよい。
【0058】
前記乾燥処理温度は、機能性フィラー固着繊維構造物が乾燥する温度であれば、特に限定されない。また、この乾燥処理時においては、場合により機能性フィラー固着繊維構造物を、幅方向(機台に垂直な方向)に拡幅しながら乾燥処理を行ってもよい。幅方向に拡幅することにより、目付の調整や、長さ方向と幅方向の寸法安定性が図れる。
【0059】
湿熱処理の方法としては例えば以下の方法があり、それぞれの製造方法について説明する。
(1)被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後、スチーム処理する方法(以下、スチーム処理法という)
(2)被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後、加熱体に接触させる方法(以下、加熱体接触法という)
(3)被処理繊維構造物を、加熱したフィラー分散溶液に接触させる方法(以下、加熱液接触法という)
前記スチーム処理法は、得られる繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与える場合に適しており、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整後、スチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成して機能性フィラーを固着する。
【0060】
前記スチーム処理の方法としては、例えば、所定の水分率に調整した被処理繊維構造物の上及び/又は下からスチームを吹き付ける方法、スチームを充満させたチャンバー内で被処理繊維構造物にスチームを接触させる方法(パッドスチーマー法)、オートクレーブ等を用いて被処理繊維構造物をスチームに晒す方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル加工時において必要以上に被処理繊維構造物に圧力が加わらない。その結果、被処理繊維構造物の繊維形態を維持しながら、機能性フィラーを被処理繊維構造物の繊維表面に露出させた状態で固着することができる。更に、スチーム処理の条件を調整することにより、被処理繊維構造物が繊維間の交絡部において膜状に拡がったゲル化物(以下、膜状ゲル化物という)で覆うこともできるため、機能性フィラーを固着する有効面積が増大し、機能性能をより向上させることができる。
【0061】
前記パッドスチーマー法は、蒸気吹き出し口より吐出された蒸気が直接被処理繊維構造物に接触することなく、均一な蒸気雰囲気中でスチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化され、均一なゲル化物を形成することができるので、特に好ましい。また、連続運転をする上でも都合がよい。更に、パッドスチーマー法によれば、温度のコントロールが容易なので、機能性フィラーの機能を維持したまま、目的に応じて繊維構造物の強度や通気度などをコントロールすることができ、様々な形の膜状に拡がったゲル化物も形成できるので、特に好ましい。例えば、繊維形状を維持したゲル化樹脂上の機能性フィラーの固着が不充分な場合は、パッドスチーマーの温度を上げることにより、ゲル化樹脂の流動性が向上し、機能性フィラーを強固に固着させることができる。また、パッドスチーマー法は、ゲル加工と同時に、乾燥工程の予備処理的な役割も果たすため、乾燥工程の効率化も図れる。
【0062】
前記フィラー分散溶液の温度は、湿熱ゲル化樹脂がゲル化しない温度であっても、ゲル化を開始する温度であってもよく、機能性フィラーや機能性化合物の種類、粒子径、短繊維長さ、あるいはフィラー分散溶液の濃度や粘度などにより、適宜設定すればよい。例えば被処理繊維構造物の水分率が多い場合には、湿熱処理時に湿熱ゲル化樹脂がゲル化し易いように、被処理繊維構造物がゲル化しない温度範囲で加熱しても良い。なお、湿熱ゲル化樹脂がゲル化を開始する温度以上であれば、後述する加熱液接触法と組み合わせた方法となり、機能性フィラーをより強固に固着させる場合に有効である。
【0063】
前記スチーム処理温度は、被処理繊維構造物付近の温度が、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、80〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜110℃である。
【0064】
スチーム処理により、機能性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面に露出した状態で固着されるので、少量の機能性フィラーで優れた効果を発揮する。また、フィラー分散溶液が機能性化合物を更に含んでいる場合は、前記機能性化合物が機能性フィラーの表面だけではなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。
【0065】
前記乾燥処理後の繊維構造物は、その乾燥処理後の出口部において、一対のプレスロールに通してプレス加工を行っても良い。乾燥処理後の出口部においてプレス加工を行うことで、機能性フィラーが柔軟性を維持したまま、強固に固着される。
【0066】
次に、前記加熱体接触法について説明する。前記加熱体接触法は、機能性フィラーをより強固に固着させる場合、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる被処理繊維構造物にフィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整し、これを加熱体に接触させることによって、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成して機能性フィラーを固着する。被処理繊維構造物を加熱体に接触させる方法としては、例えば熱ロールに接触させる方法、熱プレス板に接触させる方法などが挙げられる。かかる方法によれば、瞬時に湿熱ゲル化樹脂繊維成分を湿熱ゲル化することができると同時にゲル化物を押し拡げることができるので、広い面積にわたり機能性フィラーを固着することができる。また、かかる方法によれば、湿熱ゲル化したときに、機能性フィラーがゲル化物に押し込まれて、繊維表面に機能性フィラーを更に強固に固着させることができる。
【0067】
前記加熱体が熱プレス板のような面状のものである場合、被処理繊維構造物を接触させる際の面圧が0.01〜3MPaであることが好ましい。より好ましい面圧の下限は、0.02MPaである。より好ましい面圧の上限は、2.5MPaである。面厚が0.01Mpa未満の場合、機能性フィラーの固着が充分でない場合があり、面圧が3Mpaを超えると、風合いが硬くなる場合がある。
【0068】
また、前記加熱体接触法が熱ロールによって圧縮成形処理する方法である場合、熱ロールの線圧は、10〜400N/cmであることが好ましい。より好ましい熱ロールの線圧の下限は、50N/cmである。より好ましい熱ロールの線圧の上限は、200N/cmである。線圧が10N/cm未満の場合、機能性フィラーの固着が充分でない場合があり、線圧が400N/cmを超えると、風合いが硬くなる場合がある。
【0069】
前記加熱体の設定温度(例えば湿熱処理機の設定温度)は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、50〜160℃であり、より好ましい温度範囲は80〜150℃である。なお、水分を含んだ被処理繊維構造物をゲル加工するために前記設定温度を100℃以上にすると、まず被処理繊維構造物内の水分が蒸発する。そのとき、湿熱ゲル化樹脂のゲル化が進行するので、ゲル加工の実温度は前記設定温度よりも低くなる傾向にある。従って、他の繊維の融点が前記設定温度よりも低い場合でも、実質的に溶融しないか、あるいは実質的に収縮しないことがあり、ゲル加工温度は、他の繊維が実質的に収縮しない温度で処理することが好ましい。
【0070】
加熱体を用いて処理することにより、機能性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面に露出した状態で、強固に固着されるので、機能性フィラーを少量使用する場合は、確実に固着でき、機能性フィラーを多量に使用する場合でも、その大半の機能性フィラーを強固に固着できるので、機能性フィラーの脱落量が少なくて済み、その効果も優れている。また、フィラー分散溶液が機能性化合物を更に含んでいる場合は、前記機能性化合物が機能性フィラーの表面だけでなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来の機能性分離材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0071】
次に、前記加熱液接触法について説明する。前記加熱液接触法は、被処理繊維構造物を加熱したフィラー分散溶液に接触させることにより、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成して、機能性フィラーを固着する。被処理繊維構造物を加熱液に接触させる方法としては、例えば、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法、加熱したフィラー分散溶液を被処理繊維構造物に噴霧する方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル化工時に被処理繊維構造物に対して、必要以上に面圧が加わらないため、ゲル化した湿熱ゲル化繊維の流動性が少なくなり、被処理繊維構造物の繊維形態を維持しつつ繊維同士の交絡部においてゲル化物が膜状に拡げられることなく接着し、かつ機能性フィラーを繊維表面に露出させた状態で固着することができる上、得られる機能性フィラー固着繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与えることができる。また、湿熱ゲル化樹脂がゲル化する際は、水分の付与と同時に湿熱ゲル化繊維のゲル化が進行するので、前記フィラー分散溶液中の機能性フィラーの濃度と、前記フィラー分散溶液の温度を調整して、機能性フィラーの固着量を調整すればよい。具体的には、機能性フィラーを含む熱水中(85℃以上)に繊維又は被処理繊維構造物を含浸することにより、機能性フィラーを繊維表面に固着することができる。特に加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法は、湿熱ゲル化繊維を均一にゲル化することができ、好ましい。
【0072】
前記加熱液接触法のゲル加工温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、85〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜100℃である。温度が85℃よりも低いと、フィラーの固着が充分になされない場合があり、120℃よりも高いと、風合いが硬くなり、フィルム状になる場合がある。
【0073】
前記加熱液接触法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度は、使用する被処理繊維構造物の目付や固着量、フィラー分散溶液の温度や粘度により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は0.1〜75質量%であり、より好ましい範囲は、1〜50質量%である。
【0074】
前記加熱液接触法では、加熱したフィラー分散溶液中に被処理繊維構造物を浸漬することにより、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維のゲル化と、機能性フィラーの固着が同時に液中で行われる。これにより、機能性フィラーを付与した後にゲル化する場合に比べ、機能性フィラーをより均一に、繊維表面に露出した状態で固着することができるため、少量の機能性フィラーで優れた効果を発揮する。また、フィラー分散溶液が機能性化合物を更に含んでいる場合は、機能性化合物が機能性フィラーの表面だけではなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。
【0075】
なお、前記被処理繊維構造物の湿熱処理方法は、前述したようにスチーム処理法、加熱体接触法、加熱液接触法等があるが、同じ処理を繰り返し行ってもよいし、他の処理方法と組み合わせて行ってもよい。
【0076】
このようにして得られた機能性フィラーを固着した繊維構造物(機能層)の少なくとも片面に、前記表面繊維層が積層される。積層の仕方は単に重ね合わせるだけでも良いが、加工性の向上やフィラーの脱落防止などのため、以下に説明する方法で機能層と表面繊維層を貼り合わせることが好ましい。機能層と表面繊維層を貼り合わせる方法として、接着剤で貼り合わせる、縫製する等いろいろあるが、機能性フィラーの吸着性能を阻害しないよう、該フィラーの効果をより有効に発揮させるため、部分的圧着により一体化することが好ましい。例えばエンボスロールを使用した場合110〜135℃程度に加熱されたエンボスロール、またはエンボスロールの相方として金属製フラットロール(彫刻されていないロール)を使用した場合、金属製フラットロールを加熱、若しくは両方のロールを加熱し、圧着加工するとよい。
【0077】
エンボスロールを用いて圧着加工する際、エンボスロールとエンボスロール、エンボスロールと金属製フラットロール、エンボスロールとゴム製フラットロール、またはエンボスロールとコットンロール等いずれの組み合わせで圧着加工してもかまわない。
なかでも、エンボスロールとゴム製フラットロールを使用したものが嵩高になり表面積が増加するため好ましい。
【0078】
エンボスロールとエンボスロール同士の場合、柄同士が互いに咬みこむように圧着されると材がジグザグ形状やつづら折り状になり嵩高性が非常に高くなりより好ましい。
そして、その際にはどちらか一方のエンボスロールを加熱する方が、圧着による材のフィルム化が起こりにくいため好ましい。
【0079】
さらには、エンボスロールの彫刻について彫刻の柄模様が平面的な形状では、ダイヤ柄、円形柄、三角形柄、四角柄、長方形柄、楕円柄、星形柄、スペード柄、クローバー柄、ハート柄等、立体的な形状では半円球柄、三角錐柄、四角錐柄、五画錐柄等から選ばれる少なくとも1つの柄であることが好ましい。なかでも立体的な形状の柄(以下これを立体エンボス柄という)は、機能性分離材が嵩高になるためより好ましい。特に、半円球柄は表面積増加、嵩高性にも優れもっとも好ましい。
【0080】
なかでも、立体エンボス柄である半円球柄からなるエンボスロールと、ゴム製フラットロールからなる部分的圧着加工が、機能性分離材の嵩高性、表面積の増加、フィラーの持つ機能の効果的な利用からも最も好ましい。
【0081】
エンボスロールのエンボス比とは、不織布等のエンボス加工を行い、ロールの凹の部分とロールの凸の部分の面積比を表したものである。エンボス比の測定は簡易的にはエンボスロールの上に模造紙をあてがい、鉛筆等でエンボスパターンを転写して測定する。好ましい測定方法はエンボスロールに向かって、デジタルカメラでエンボス柄の撮影を行う。次にその画像データを画像処理にかけパターン部分(ロールの凸部)を白色に、ロールの凹部を黒色にするよう2値化を行う。画像処理装置はPIASS社製画像処理装置555型を使用した。しきい値は露出、光量、エンボスロールの汚れ具合などによって異なるため一概には決めることができないが100〜150の間に設定すると良い。但し立体エンボスを撮影した場合のしきい値は柄の根本部分が完全にロールの凸部として認識されるようしきい値を調整しなければならない。もしこのときにしきい値がどうしても100〜150の間で調整できない場合はその限りにおいて、50〜200の範囲までは許される。このときに肝要なのはエンボスロールに対して垂直部分以外は撮影の角度の関係から柄のひずみが起こるため、垂直部分以外は約10cm程度の撮影部分となるようトリミングする必要がある。そして水平部分は少なくとも30cm以上の撮影部分があるようにする。
【0082】
前記で得られたエンボス柄の面積をロールの凸部の面積を基準として比で表す。すなわち
エンボス比=ロールの凸部の面積/ロールの凹部の面積である。
【0083】
エンボス比は0.02〜0.67であることが好ましい。0.05〜0.42で有ることがより好ましい。さらに好ましくは0.1〜0.3である。エンボス比が0.02未満または0.67を超えるようであると、表面積の増加が見込めないからである。
【0084】
シートのエンボス比とは、エンボスロールのエンボス比が測定できない場合に使用される。エンボス加工されたシートの凸凹の面積比を表すものであって、シートのエンボス比の測定は以下のようにして行う。基本的には平らである部分(ここでいう平らとは、エンボス加工で表面が凸凹しているものは含まず、10cm角以上折り目やそり等のない平面上もの)を地面に水平に安置しその上部に無反射ガラスを置く、但しエンボス柄がつぶれないように気をつけなければならない。つぎに入射角45度並びに光源との間隔が30cmになるよう光源を調整し(このときの光源は昼光色蛍光灯1本で、傘とう反射するものがない方がよいが、傘の内部をてかりのない黒色に塗装することで一般の電気スタンドを使用することができる。)デジタルカメラのストロボをオフにした状態でカメラと被写体が30cmの距離を置いて撮影を行う。その後の面積比の測定方法はエンボスロールの測定法と同様であるが、エンボスロールの凸部はシート上では凹となるためエンボス比は算出された比の逆数である必要がある。すなわち
シートのエンボス比=1/(シートの凸部の面積/シートの凹部の面積)または
シートのエンボス比=シートの凹部の面積/シートの凸部の面積となる。
【0085】
シートのエンボス比は0.02〜0.67であることが好ましい。0.05〜0.42で有ることがより好ましい。さらに好ましくは0.1〜0.3である。シートのエンボス比が0.02未満または0.67を超えるようであると、表面積の増加が見込めないからである。
【0086】
機能性分離材の見掛け厚みとエンボス加工されて圧着された部分の厚みの比が大きいと表面積が増加するため都合がよい。
見掛け厚み(Aとする)の測定法は、厚み測定機(商品名:THICKNESS GAUGE モデルCR-60A(株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cm2あたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定した。エンボス加工されて圧着された部分の厚み(Bとする)は、機能性分離材を任意の点でカミソリまたはミクロトームを用い切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(たとえば日立製作所製走査型電子顕微鏡N−5200)倍率60倍で観察し、電子顕微鏡の写真より厚み方向において表面と裏面が最も接近したところを測定し、その厚みを以下の式に代入し計算により厚み比を求めた。
すなわち、厚み比=A/Bと表される。
これをBにおいては任意の切断点10点、すなわちn=10で測定しその平均をとった。
なお、電子顕微鏡の測定倍率60倍ではあまりにも倍率が高すぎて、または低すぎて厚みの測定がしがたい場合は切断面が約70%の視野になるよう適宜倍率を設定することができる。
一例を挙げると、本発明の一実施形態である図6の写真に置いて、Aの図示される部分が厚み測定機を使用し測定した見掛け厚み相当の部分であり、Bの図示される部分がエンボス加工されて圧着された部分の厚み相当である。
【0087】
機能性分離材の厚み比は1.1〜50が好ましい。2〜40がさらに好ましい。3〜30がより好ましい。4〜20が最も好ましい。厚み比が1.1未満であると表面積の増加が期待できない。50を超えると凸部が外部応力によってつぶれやすくなり、せっかく表面積が上がるよう加工されたものが、再びつぶれた凸部によって凹部をふさぐ場合がある。
立体エンボスは立体的な形状の柄をもつエンボス加工機で立体的な柄を付与され、嵩高性が増し好ましいが、そのときの厚み比は、3〜30の範囲である場合が多い。
【0088】
本発明の機能性分離材は、例えば、プリーツ折り構造またはハニカム構造に成形して、空気清浄器用フィルター、エアコン用フィルター、車両用のキャビンフィルター、タバコ分煙器用フィルター、工場用排煙フィルター等に用いることができる。ハニカム構造にはこの場合、他のフィルター材料、例えばエレクトレットフィルター、HEPAフィルター、ULPAフィルター等と併用して用いることもできる。
【0089】
本発明の機能性分離材をハニカム構造に成形した場合、正6角形が整然と並んだ、蜂の巣状ハニカム構造や、段ボールなどに見られるコルゲート構造になった、ハニカム構造などがあるが、特にコルゲート構造に成形したものが分離材としての通気性の向上や分離材加工の容易性から好ましい。さらに本発明の機能性分離材が部分的圧着されたエンボス柄からなる凹凸のついたものをコルゲート構造に成型した物は表面積がさらに増加するためより好ましい。
【0090】
さらに、蜂の巣状ハニカム構造やコルゲート状ハニカム構造の機能材からなる分離材を、フィラー脱落を防止したり、プレフィルターの役割のため、分離材全体を覆うように極細繊維層を含む、表面繊維層またはそれに変わる繊維層でカバーしてもよい。
【0091】
本発明の機能性分離材は、前記表面繊維層または表面繊維層に含まれる極細繊維層をエレクトレット加工するか、前記機能層と表面繊維層を積層した後エレクトレット加工して、塵や花粉などの捕集性を高めることができる。
【0092】
本発明のタバコ消臭用フィルターは、前記機能層やガス吸着材をそのままフィルターとするか、機能性分離材と他の分離材と組み合わされて、組み込まれている。本発明のタバコ消臭フィルターは、前記機能層やガス吸着材がタバコ消臭層の機能を果たし、前記表面繊維層がヤニ成分等の前除去層の機能を果たす。
【0093】
次に、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る3層構造のタバコ消臭材1の断面図で、外側にスパンボンド繊維層/メルトブローン繊維層/スパンボンド繊維層の積層不織布(SMS)からなる表面繊維層2,2を配置し、内側に機能性フィラーを湿熱ゲル化物で固着した機能層3を配置させた例である。
【0094】
図2は、本発明の一実施形態に係る機能層(機能不織布)の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。繊維11(又は被処理繊維構造物11)を、槽12内の機能性フィラーを含むフィラー分散溶液13(又は機能性フィラーと機能性化合物とを含むフィラー分散溶液13)に含浸し、絞りロール14で絞り、下から蒸気が吹き出してチャンバー内に蒸気が均一に充満しているパッドスチーマー15でスチーム処理し、必要により乾燥、水洗、脱水処理(図示せず)したものを、乾燥機16で乾燥させて巻き取り機17で巻き取る。なお、パッドスチーマー15でスチーム処理する際、繊維11(又は被処理繊維構造物11)には、吹き出した蒸気は直接当たらない。
【0095】
図3〜4は、上記スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係る機能性分離材(不織布)と、その構成繊維に機能性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。このうち、図3は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率200)、図4は同不織布表面の繊維表面拡大写真(倍率2000)である。
【0096】
図5は本発明の一実施形態に係る部分的圧着により立体エンボスとなった機能性分離材をコルゲート構造にした断面図である。
【0097】
図6は本発明の一実施形態に係る部分的圧着により立体エンボスとなった機能性分離材の断面写真である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の具体的な実施例を示す。なお、本発明の機能性分離材は、以下のようにして評価した。
【0099】
[繊維径、平均繊維径]
不織布表面を700倍に拡大して写真を撮影し、写真の9cm四方の範囲内に存在する単繊維それぞれの繊維径を求めた。また、それを平均して平均繊維径を求めた。
【0100】
[通気度]
JIS L 1096 6.27.1 A法(フラジール法)に準じて測定した。
【0101】
[タバコ消臭試験方法]
まず、1m3容量のアクリル製密閉容器に、マイルドセブン(日本たばこ産業(株)製)の主流煙1本分と副流煙1本分を入れ、1時間で安定化してタバコの煙を用意した。次に、試料を、それぞれ縦10cm×横10cmの大きさに切断し、容量が5リットルの公害分析用バッグ(商品名「テドラーバッグ」)に入れ、タバコの煙1リットルと無臭空気4リットルに調合した臭気ガスを注入した。そして、注入時点を開始時間とし、悪臭防止法で規定される6段階臭気強度表示法に基づいて、経時毎に嗅覚測定を行った。
【0102】
[ガス吸着試験方法]
試料を、それぞれ縦28cm×横17.6cmの大きさ(B5サイズ)に切断し、容量が5リットルの公害分析用バッグ(商品名「テドラーバッグ」)に入れ、初期濃度20ppmとなるように空気と調合された各有害ガスを注入した。そして、注入時点を開始時間とし、経時毎にガス検知管でバッグ内の各有害ガスの濃度を測定した。
【0103】
[試料1]
機能性分離材として、以下のものを準備した。
(原反の作製)
鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH、エチレン含有量38モル%、融点176℃)であり、芯成分がポリプロピレン(PP、融点161℃)であり、EVOH:PPが50:50の割合(容積比)である芯鞘型複合繊維(繊度2.8dtex、繊維長51mm)を準備した。
【0104】
前記芯鞘型複合繊維をセミランダムカード機で開繊し、目付50g/m2を有するカードウェブを作製した。次いで、前記カードウェブを90メッシュの平織り支持体に載置し、前記カードウェブの幅方向に一列にオリフィス(径:0.12mm、ピッチ:0.6mm)が配置されたノズルから前記カードウェブに向けて水流を水圧3MPaで噴射した後、更に水圧4MPaで噴射した。続いて、前記カードウェブを裏返して、前記ノズルから水圧4MPaで水流を噴射して、水流交絡不織布原反を作製した。
【0105】
(機能性フィラーの準備)
機能性フィラーとしては、活性炭粒子:「クラレコール PL−D」(クラレケミカル製、ヤシガラ炭、平均粒子径40〜50μm)を使用した。
【0106】
(機能性フィラー固着繊維を含有する不織布(機能層)の作製)
上記水流交絡不織布原反を、16質量%の前記活性炭粒子を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、前記活性炭粒子の固着量を表1に示す数値となるように調整した。次いで、不織布原反付近の温度が100℃になるように調整したスチームを充満させたパッドスチーマー内で湿熱処理を行った。滞留時間は20秒であった。次に、熱風循環式の乾燥機内に湿熱処理後の不織布を通して乾燥させ、更に水洗槽で水洗を行った後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、機能性フィラーを固着した不織布(機能層)を得た。得られた機能層は、フィラーがゲル化物により繊維表面に固着していた。
【0107】
(表面繊維層の準備)
表面繊維層として、目付が約6.5g/m2のスパンボンド繊維層の間に目付が約2g/m2のメルトブローン繊維層(極細繊維層)が積層され、部分的圧着により一体化された、目付15g/m2の積層不織布(三井化学(株)製、商品名シンテックスPQ−1153)を用意した。スパンボンド繊維層を構成する繊維は、繊維径が25μmのポリプロピレン繊維であり、メルトブローン繊維層を構成する繊維は、平均繊維径が2.5μmのポリプロピレン繊維であった。この積層不織布を走査電子顕微鏡で700倍に拡大し、スパンボンド繊維層を構成する繊維間から視認できるメルトブローン繊維層の繊維径は全て10μm以下であった。また、この積層不織布の通気度は、100cm3/cm2・secであった。
【0108】
(機能性分離材の作製)
表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせ、プリーツ折り加工機で、山の高さ20mmのプリーツ折り機能性分離材を作製した。表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせたときの通気度は、25cm3/cm2・secであった。なお、タバコ消臭試験では、上記三層を重ね合わせた積層体で測定した。
【0109】
[試料2]
下記に示す機能性化合物を以下の方法で付着させた以外は、試料1と同様の方法で、本発明の機能性分離材を得た。表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせたときの通気度は、28cm3/cm2・secであった。
【0110】
(機能性化合物の準備)
機能性化合物としては、ポリアリルアミン10質量%水溶液を使用した。
【0111】
(機能性フィラー固着繊維を含有する不織布(機能層)の作製)
上記水流交絡不織布原反を、16質量%の前記活性炭粒子と1質量%になるように調整した前記機能性化合物を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、前記活性炭粒子の固着量を表1に示す数値となるように調整した。次いで、不織布原反付近の温度が100℃になるように調整したスチームを充満させたパッドスチーマー内で湿熱処理を行った。滞留時間は20秒であった。次に、熱風循環式の乾燥機内に湿熱処理後の不織布を通して乾燥させ、更に水洗槽で水洗を行った後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、機能性フィラーを固着した不織布(機能層)を得た。
【0112】
[試料3]
前記水流交絡不織布原反として、以下の方法で作製した不織布を用いた以外は、試料2と同様の方法で、本発明の機能性分離材を得た。表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせたときの通気度は、52cm3/cm2・secであった。
【0113】
(原反の作製)
前記芯鞘型複合繊維をセミランダムカード機で開繊し、目付60g/m2を有するカードウェブを作製した。次いで、前記カードウェブを90メッシュの平織り支持体に載置し、前記カードウェブの幅方向に一列にオリフィス(径:0.12mm、ピッチ:0.6mm)が配置されたノズルから前記カードウェブに向けて水流を水圧3MPaで噴射した後、更に水圧4MPaで噴射した。続いて、前記カードウェブを裏返して、25メッシュの開孔形成用平織り支持体に載置し、前記ノズルから水圧4MPaで水流を噴射して、水流交絡開孔不織布原反を作製した。
【0114】
[試料4]
試料3で用いた機能層を2枚重ねにした以外は、試料3と同様の方法で、本発明の機能性分離材を得た。表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせたときの通気度は、21cm3/cm2・secであった。
【0115】
表1に、試料1〜3の機能層について、不織布原反の目付、機能成分の固着量、機能成分の固着率及び機能層の目付を示した。
【0116】
【表1】

【0117】
[試料5]
表面に消臭剤が固着された2枚のスパンボンド不織布間に、活性炭粒子がホットメルト剤で固着されたVOC機能シート(旭化成せんい製、商品名「セミアV」、目付134g/m2、活性炭粒子の固着量約40g/m2)を用意した。
【0118】
表2に、試料1〜5について機能試験を行った結果を示した。
【0119】
【表2】

【0120】
表2に示すとおり、試料1〜4は、試料5に比べて各有害ガス濃度の減少速度が速く、機能性が高いことを示し、タバコの煙に含まれる有害ガス成分であるホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドを充分に除去できた。これは、試料1の機能層中の機能性フィラーが、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、機能性フィラーが表面に露出した状態で固着され、機能性フィラーの比表面積の減少が抑制されたことによるものと考えられる。
【0121】
[試料6]
脱臭フィルターとして、日産自動車(株)製、商品名新脱臭フィルター、スカイライン用(ハニカム構造)を用意した。
【0122】
[試料7]
脱臭フィルターとして、日産自動車(株)製、商品名新脱臭フィルター、X−TRAIL用(プリーツ構造)を用意した。
【0123】
[試料8]
脱臭フィルターとして、マツダ(株)製、商品名脱臭アルデヒドフィルター、MPV用(プリーツ構造)を用意した。
【0124】
[試料9]
脱臭フィルターとして、ボッシュ社製、商品名脱臭抗菌フィルター、ACG−T1(プリーツ構造)を用意した。
【0125】
[ブランク]
機能性フィラーが固着されていない、試料1で作製した水流交絡不織布原反をブランクとして用意した。
【0126】
表3に、試料2、試料6〜9、及びブランクについて、タバコ消臭試験を行った結果を示した。
【0127】
【表3】

【0128】
表3に示すとおり、試料2は機能性フィラーの固着量が少ないにもかかわらず、臭気成分をほとんど除去していた。フィラーが埋没することなく繊維表面のゲル化物によって固着しているためと考えられる。一方、試料6は臭気成分の除去は試料2とほぼ同程度であったが、試料2に比べ約25倍もの機能性フィラーを使用しており、経済的ではなかった。試料7〜9は、試料2に比べ臭気成分の除去性がいずれも劣っていた。
【0129】
[試料10]
表面繊維層として、目付が20g/m2のスパンボンド不織布(出光ユニテック(株)製、商品名ストラテック)を用意した以外は、試料1と同様の方法で機能性分離材を得た。スパンボンド繊維層を構成する繊維は、繊維径が25μmのポリプロピレン繊維であった。スパンボンド不織布の通気度は、369cm3/cm2・secであった。表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせたときの通気度は、34cm3/cm2・secであった。
【0130】
[試料11]
表面繊維層として、目付が25g/m2のメルトブローン不織布((株)クラレ製、商品名ミクロフレックス)を用意した以外は、試料1と同様の方法で機能性分離材を得た。メルトブローン繊維層を構成する繊維は、平均繊維径が2.5μmのポリプロピレン繊維であった。メルトブローン不織布の通気度は、27cm3/cm2・secであった。表面繊維層/機能層/表面繊維層の三層を重ね合わせたときの通気度は、15cm3/cm2・secであった。
【0131】
次に、山の高さが20mmとなるようにプリーツ折りした試料1〜4及び試料10〜11を空気清浄器に装着して1か月間喫煙室内で使用した。試料1〜4は、1か月使用してもタバコの臭いを除去しており、空気の循環も問題なかった。試料10はタバコの臭いが少し残っていた。試料11は表面繊維層がタバコのヤニ成分で茶色に変色しており、空気の流出量が少なくなっていることが判った。
【0132】
[試料12]
試料2で得られた積層体(プリーツ前の状況である積層体)を、上側ロールはエンボス柄が半円球であるエンボスロールであって(旭ロール社製エンボス柄型番7781)120℃に加熱したもの、下部ロールはゴム製ロールであるエンボス加工機にて積層体表面に凹凸をつけた機能性分離材を得た。
表面に凹凸のついた機能材の通気度は10cm3/cm2・secであった。
厚み比は5であった。このときの見掛け厚み(A)は0.86mmであり、圧着された部分の厚み(B)は0.172mmであった。
シートのエンボス比は0.2であった。
【0133】
次に、試料12を空気清浄器に装着して1か月間喫煙室内で使用した。試料12は、1か月使用してもタバコの臭いを除去しており、空気の循環も問題なかった。
厚み比やシートのエンボス比が最適化されているため、プリーツ折りした試料と同等のタバコの臭いを除去する能力がある事が判った。
【0134】
次に、試料12をコルゲート成形し、同様に空気清浄器に装着して1か月間喫煙室内で使用したが、タバコの臭いを除去しており、空気の循環も問題なかった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の機能性分離材は、車輌用内装材、建材の養生シート、壁紙、マスク、マット、カーペット、フィルター等に使用することができ、特にガス吸着材及びタバコ消臭用フィルターとして、空気清浄器用のフィルター、車輌用のキャビンフィルター、分煙器用のフィルター、洋服カバー等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の一実施形態に係る三層構造の機能性分離材の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る機能層(機能不織布)の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。
【図3】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係る機能層と、その構成繊維に機能性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係る機能層と、その構成繊維に機能性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の一実施形態に係る部分的圧着された機能性分離材をコルゲート構造にした断面図である。
【図6】は本発明の一実施形態に係る部分的圧着された機能性分離材の断面写真である。
【符号の説明】
【0137】
1 機能性分離材
2 表面繊維層
3 機能層
11 繊維(又は被処理繊維構造物)
12 槽
13 フィラー分散溶液
14 絞りロール
15 パッドスチーマー
16 乾燥機
17 巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、その表面の湿熱ゲル化樹脂と、前記湿熱ゲル化樹脂に固着された機能性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有しており、前記機能性フィラーが前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている機能層と、
前記機能層の少なくとも片面に、繊維径が10μm以下の極細繊維を含む目付0.5〜20g/m2の極細繊維層を含む表面繊維層が積層されている機能性分離材。
【請求項2】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である、請求項1に記載の機能性分離材。
【請求項3】
前記機能層は、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂が、湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む湿熱ゲル化複合繊維を50質量%以上含有する機能性不織布であり、
前記機能性不織布の目付が30〜200g/m2であり、機能性フィラーの固着量が不織布1m2あたり2〜200gである、請求項1または2記載の機能性分離材。
【請求項4】
前記表面繊維層は、前記極細繊維層がメルトブローン繊維層であり、前記メルトブローン繊維層の両面にスパンボンド繊維層が積層されてなる、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性分離材。
【請求項5】
前記表面繊維層は、通気度が50〜250cm3/cm2・secである、請求項1〜4のいずれかに記載の機能性分離材。
【請求項6】
前記機能層と前記表面繊維層とは、部分的圧着により一体化されている、請求項1〜5のいずれかに記載の機能性分離材。
【請求項7】
前記機能性分離材は、機能性分離材の見掛け厚みをA(mm)とし、部分的圧着された部分の厚みをB(mm)としたとき、厚み比(A/B)が3〜30の範囲内に立体エンボスされている、請求項6記載の機能性分離材。
【請求項8】
前記機能性分離材は、プリーツ構造またはハニカム構造に成形されている、請求項1〜7いずれかに記載の機能性分離材。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の機能性フィラーはガス吸着性フィラーであって、前記ガス吸着性フィラーの平均粒子径が10〜100μmの多孔質フィラーである、ガス吸着材。
【請求項10】
請求項9に記載のガス吸着材を組み込んだタバコ消臭用フィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−111692(P2007−111692A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256145(P2006−256145)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】