機能性多孔質体
【課題】湖沼等における富栄養化や、重金属などによる汚染の水質改善が可能な機能性多孔質体を提供する。
【解決手段】粗骨材が水質改善機能を有するヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウムなどの機能性材料を含有するバインダーで結合され、該粗骨材の間に多数の気孔が形成されている。機能性材料と外部との接触面積が広くなり、効率よく水質改善ができる。流れのある湖沼等でも粉末の機能性材料が流出することがないため、水質改善の効果が持続する。ヒドロキシアパタイトは重金属を吸着するので、湖沼等の底泥に蓄積された重金属を吸着し、底質を改善することができる。水酸化マグネシウムはプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着し、アオコを減少させ、水質を改善することができる。
【解決手段】粗骨材が水質改善機能を有するヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウムなどの機能性材料を含有するバインダーで結合され、該粗骨材の間に多数の気孔が形成されている。機能性材料と外部との接触面積が広くなり、効率よく水質改善ができる。流れのある湖沼等でも粉末の機能性材料が流出することがないため、水質改善の効果が持続する。ヒドロキシアパタイトは重金属を吸着するので、湖沼等の底泥に蓄積された重金属を吸着し、底質を改善することができる。水酸化マグネシウムはプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着し、アオコを減少させ、水質を改善することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性多孔質体に関する。さらに詳しくは、湖沼等における富栄養化や、重金属などによる汚染の水質改善を行う機能性多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
湖沼、内海、湾等では、外部からの流入負荷の増加により富栄養化状態が長年続き、水質の悪化が深刻な問題となっている場所が多い。富栄養化状態となると、湖沼では藍藻類が異常繁殖し、アオコと呼ばれるマット状の層が水面を覆う。内海や湾では珪藻類の異常繁殖により赤潮が発生し、水質悪化による利水障害、景観やレクリエーション障害(観光資源としての価値の低下)、漁業被害や浄水場でのろ過障害や異臭味などを引き起こす。
また、湖沼等の底泥には、各種工場、事業所、廃棄物処理場等から流出した重金属(銅、鉛、カドミウム等)が蓄積されている場合があり、貧酸素化が進行すれば、これらの重金属が水域へ溶出することが危惧され、湖沼自体のみならず人体への悪影響も懸念される。
【0003】
多孔質体でできたボード等を湖沼等に沈めることにより水質改善ができることが知られている(例えば特許文献1)。しかし、従来の多孔質体ではアオコや重金属の吸着までは対応できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−64083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、湖沼等における富栄養化や、重金属などによる汚染の水質改善が可能な機能性多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の機能性多孔質体は、粗骨材が水質改善機能を有する機能性材料を含有するバインダーで結合され、該粗骨材の間に多数の気孔が形成されていることを特徴とする。
第2発明の機能性多孔質体は、第1発明において、前記機能性材料にはヒドロキシアパタイトが含まれることを特徴とする。
第3発明の機能性多孔質体は、第1または第2発明において、前記機能性材料には水酸化マグネシウムが含まれることを特徴とする。
第4発明の機能性多孔質体は、第1,第2または第3発明において、前記粗骨材が鉄鋼スラグであることを特徴とする。
第5発明の機能性多孔質体は、第1,第2,第3または第4発明において、前記気孔の気孔径が10〜15mmであることを特徴とする。
第6発明の機能性多孔質体は、第1,第2,第3,第4または第5発明において、前記気孔の気孔径が15〜20mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、機能性材料は多孔質体を形成する粗骨材の表面に付着しているので、機能性材料と外部との接触面積が広くなり、効率よく水質改善ができる。また、流れのある湖沼等でも粉末の機能性材料が流出することがないため、水質改善の効果が持続する。
第2発明によれば、ヒドロキシアパタイトは重金属を吸着するので、湖沼等の底泥に蓄積された重金属を吸着し、底質を改善することができる。また、ヒドロキシアパタイトは重金属を安定不溶化させるので、水域への溶出を防ぐことができる。さらに、ヒドロキシアパタイトは産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。
第3発明によれば、水酸化マグネシウムはプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着し、アオコを減少させ、水質を改善することができる。また、水酸化マグネシウムは底質を弱アルカリ環境にすることができるので、好気性微生物による分解を活性化することができる。さらに、水酸化マグネシウムは産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。
第4発明によれば、有機物を分解するバクテリア等の増殖に適した気孔を有しており、鉄鋼スラグから珪藻類の主成分である珪酸が溶出するので、湖沼等の優先藻類種を珪藻へと変化させ、富栄養化を改善できる。また、鉄鋼スラグは産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。
第5発明によれば、気孔径が10〜15mmと大きいので、気孔が目詰まりしにくくなり、機能性材料の効果が持続する。
第6発明によれば、気孔径が15〜20mmとさらに大きいので、生物が着生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る機能性多孔質体を用いた護岸用ブロックの(A)正面図、(B)平面図、(C)側面図である。
【図2】同機能性多孔質体を用いた護岸用ブロックを湖沼等の法面に設置した説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る機能性多孔質体の製造方法の説明図である。
【図4】水質浄化試験の室内試験の説明図である。
【図5】水質浄化試験の現地試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る機能性多孔質体は、粗骨材である鉄鋼スラグがバインダーで結合され、鉄鋼スラグの間に多数の気孔が形成され、ポーラスコンクリートの様に形成されたものである。バインダーにはセメントと水の他に、水質改善機能を有する機能性材料としてヒドロキシアパタイトが含有されている。また、バインダーに使用するセメントには魚類の焼成骨粉が混入されていてもよい。
機能性多孔質体は、湖沼、内海、湾等に設置され水質改善のために用いられる。そのため、護岸用ブロック、川床用敷きブロック、魚礁用ブロック等、設置条件に応じた形状に製造される。
【0010】
機能性多孔質体は、有機物を分解するバクテリア等の増殖に適した気孔を有している。さらに、鉄鋼スラグから珪藻類の主成分である珪酸が溶出するので、珪藻類が増加し、有害種を多く含む藍藻類、緑藻類が減少する。したがって、湖沼等の優先藻類種を珪藻へと変化させ、富栄養化を改善できる。
【0011】
各種工場、事業所、廃棄物処理場等から流出して湖沼等の底泥に蓄積した重金属(銅、鉛、カドミウム等)は、ヒドロキシアパタイトに吸着しやすいという特性を有する。機能性多孔質体のバインダーにはヒドロキシアパタイトを含有するから、重金属を吸着することができ、湖沼等の底質を改善することができる。また、ヒドロキシアパタイトは重金属を安定不溶化させるので、水域への溶出を防ぐことができる。
【0012】
ヒドロキシアパタイトは多孔質体を形成する鉄鋼スラグの表面に付着しているので、ヒドロキシアパタイトと外部との接触面積が広くなり、効率よく水質改善ができる。
また、一般にヒドロキシアパタイトは粉末であるが、鉄鋼スラグの表面に付着しているので、流れのある湖沼等でも流出することがなく、水質改善の効果が持続する。
【0013】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る機能性多孔質体は、第1実施形態において、機能性材料としてヒドロキシアパタイトに代えて水酸化マグネシウムを含有するものである。その余の構成は第1実施形態と同様である。
【0014】
水酸化マグネシウムは、湖沼等の水中ではプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着することができる。したがって、植物プランクトンからなるアオコを減少させ、水質を改善することができる。また、水酸化マグネシウムは底質を弱アルカリ環境にすることができるので、好気性微生物による分解を活性化することができる。
【0015】
水酸化マグネシウムは多孔質体を形成する鉄鋼スラグの表面に付着しているので、水酸化マグネシウムと外部との接触面積が大きくなり、効率よく水質改善ができる。
また、一般に水酸化マグネシウムは粉末であるが、鉄鋼スラグの表面に付着しているので、流れのある湖沼等でも流出することがなく、水質改善の効果が持続する。
【0016】
(他の実施形態)
上記実施形態では、機能性材料として、ヒドロキシアパタイトまたは水酸化マグネシウムのいずれかを含む構成としたが、その両方を含む実施形態としてもよい。この場合、ヒドロキシアパタイトによる重金属の吸着と、水酸化マグネシウムによるアオコの吸着の両方の効果を得ることができる。また、ヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウム以外の水質改善機能を有する機能性材料を含有する実施形態としてもよい。
さらに、上記実施形態では、粗骨材として鉄鋼スラグを用いたが、これに代えて、一般的なポーラスコンクリートと同様に、砂利等を用いる実施形態としてもよい。ただし、この場合、鉄鋼スラグによる富栄養化の改善の効果は得られない。
【0017】
上記の鉄鋼スラグ、ヒドロキシアパタイト、水酸化マグネシウムはいずれも産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。また、バインダーに使用するセメントに魚類の焼成骨粉を混入した場合には、適正な処理と再利用が求められている魚類の骨を利用できるのであるから、廃棄物の再資源化を促進し、新たな有価物として活用することができる。
【0018】
上記の機能性多孔質体は、例えば護岸用ブロックとして使用される。図1において、1は護岸用ブロック、11は矩形のボード状に成形された機能性多孔質体、12は金網、13は岩である。護岸用ブロック1は金網12の中に多数の岩13が詰め込まれることで立方体に形作られており、その正面に3枚の機能性多孔質体11が納められている。
図2に示すように、このような護岸用ブロック1を湖沼等の法面に設置し、機能性多孔質体11を水面に向かうようにすれば、設置した湖沼等の水質を改善することができる。また、機能性多孔質体11は重金属やアオコを吸着するといずれ飽和し、それらを吸着する効果を発揮できなくなるが、この場合でも、機能性多孔質体11のみを入れ替えることで、水質改善機能を回復することができる。
【0019】
(製造方法)
つぎに、本発明に係る機能性多孔質体の製造方法の一例について説明する。
図3に示すように、機能性多孔質体は以下の手順で製造される。
(1)まず、粗骨材である鉄鋼スラグの径を選定して、ミキサーに投入する。
(2)ミキサーで、鉄鋼スラグとセメントと水を練り混ぜ、機能性材料を混入する。
(3)練り混ぜたものを型枠に流し込んで締め固めを行う。図3では機能性多孔質体をボード状に形成する型枠を示す。
(4)型枠に蓋をセットする。
(5)型枠にシートをかぶせて蒸気養生する。
(6)蒸気養生完了後、型枠から取り出すとボード状の機能性多孔質体が完成する。
【0020】
上記の手順(1)では、表1を基準に使用する鉄鋼スラグの径を選定する。ここで、製造する機能性多孔質体の使用場所が淡水域の場合は気孔径を10〜15mmとすることが好ましい。気孔径が10〜15mmと大きければ、気孔が目詰まりしにくくなり、重金属やアオコを吸着しても機能性材料の効果が持続するからである。また、使用場所が海域の場合は気孔径を15〜20mmとすることが好ましい。気孔径が15〜20mmとさらに大きいので、生物が着生できるからである。表1より、水セメント比を27%とし、径が30〜40mmの鉄鋼スラグを選定すれば、上記条件を満たすことができる。
【表1】
【0021】
機能性多孔質体は、重金属やアオコを吸着するといずれ飽和し、それらを吸着する効果を発揮できなくなる。そこで、機能性多孔質体をボード状に形成する等して、任意の資材に装着できるように構成すれば、取り換え可能とできるので好ましい。
【0022】
(試験)
つぎに、本発明に係る機能性多孔質体の試験について説明する。
試験は、香川県坂出市に位置する湖沼で行った。この湖沼の主な流入河川は、上流の河川と池である。ただし、池からの流入は堰からオーバーフローした水のみである。この湖沼は周辺を薄い竹林や森林、田畑、果樹園、住宅地などに囲まれており、県道や国道が横断しているため交通量も多い。湖沼に流入する河川の流域は、近隣都市部のベッドタウンとしての都市化が進行し、近年人口が増加している。この住宅地からの流入負荷の増大が、湖沼の水質環境悪化の原因の一つとして挙げられる。この他の原因としては、工場、養豚場、牧場、淡水魚養殖場も挙げられる。
【0023】
(1)底質改善機能試験
機能性多孔質体の底質改善機能を検証するため、底泥に含まれる重金属の含有試験を行った。
試験には、機能性材料としてヒドロキシアパタイトのみを含有(含有率1%)する機能性多孔質体を、100×100×60mmの立方体に形成した試料を用いた。この試料を湖沼の底層部に設置し、設置から1ヵ月後、および1年後に重金属の含有量の測定を行った。含有量の測定は、試料の設置前は底層部の泥を、設置後は底層部に沈めた試料の上に覆っていた泥を使用し、その泥に含まれる重金属の含有量を測定した。この測定結果を表2に示す。
【表2】
【0024】
表2より、試料の設置前に比べて設置後の方が、評価した全ての重金属(鉛、カドミウム、銅)の含有量が減少していることが確認された。これにより、ヒドロキシアパタイトを含有する機能性多孔質体は重金属の吸着能力が高いことが分かり、底質改善の機能を有していることが分かる。
【0025】
(2)重金属吸着試験
機能性多孔質体の重金属吸着機能を検証するため、機能性多孔質体の単位面積当りにどれだけの量の重金属を吸着することができるのかを検証した。
試験には、機能性材料としてヒドロキシアパタイトのみを含有(含有率1%)する機能性多孔質体を、100×100×60mmの立方体に形成した試料を用いた。この試料を湖沼の底層部に設置し、設置から1ヵ月後、および6ヵ月後に、その試料に付着したものを削ぎ落とし、重金属吸着量を測定した。この測定結果を表3に示す。
表3より、ヒドロキシアパタイトを含有する機能性多孔質体は重金属の吸着能力が高いことが分かる。
【表3】
【0026】
(3)水質浄化試験
機能性多孔質体のアオコ吸着による水質改善機能を検証するため、室内実験および現地実験を行った。
まず、室内実験においては、機能性材料として水酸化マグネシウムのみを含有(含有率5%)する機能性多孔質体を、100×100×60mmの立方体に形成した試料を用いた。図4に示すように、湖沼においてアオコが発生した表層水を採水し、容器Aには表層水のみを、容器Bには表層水に加えて試料を入れた。試料を入れてから24時間後に容器A,B中の植物プランクトン細胞数を測定した。この測定結果を表4に示す。
【表4】
【0027】
表4より、水酸化マグネシウムを含有する機能性多孔質体を入れた容器B中の植物プランクトン細胞数は、容器Aに比べて約80%減少していることが分かる。試料を入れる前の容器Bは、容器Aとほぼ同じ総細胞数であるから、その減少量が試料の吸着した量と考えられる。
【0028】
つぎに、現地実験においては、機能性材料として水酸化マグネシウムのみを含有(含有率5%)する機能性多孔質体を、図5に示す護岸用ブロックに形成したものを用いた。図5に示すように、湖沼の法面護岸に、水酸化マグネシウムを含有する機能性多孔質体で形成された護岸用ブロックと、単なる多孔質体で形成された護岸用ブロックとを設置した。これは、機能性多孔質体と単なる多孔質体とのアオコの吸着能力の違いを検証するためである。
試験は、これら2つの護岸用ブロックを湖沼の法面護岸に設置し、設置から24時間後に、それぞれの護岸用ブロックの直前の水を採水し、それぞれの水中の植物プランクトン細胞数を測定した。この測定結果を表5に示す。
【表5】
【0029】
表5より、水酸化マグネシウム無しの護岸用ブロック直前の水に対し、水酸化マグネシウム含有の護岸用ブロック直前の水は、細胞数が約33%減少している。これにより、水酸化マグネシウムを含有する機能性多孔質体はアオコの吸着能力が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る機能性多孔質体は、護岸用ブロック、川床用敷きブロック、魚礁用ブロック等、用途に応じた形状に製造され、湖沼、内海、湾等の水質改善のために用いられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性多孔質体に関する。さらに詳しくは、湖沼等における富栄養化や、重金属などによる汚染の水質改善を行う機能性多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
湖沼、内海、湾等では、外部からの流入負荷の増加により富栄養化状態が長年続き、水質の悪化が深刻な問題となっている場所が多い。富栄養化状態となると、湖沼では藍藻類が異常繁殖し、アオコと呼ばれるマット状の層が水面を覆う。内海や湾では珪藻類の異常繁殖により赤潮が発生し、水質悪化による利水障害、景観やレクリエーション障害(観光資源としての価値の低下)、漁業被害や浄水場でのろ過障害や異臭味などを引き起こす。
また、湖沼等の底泥には、各種工場、事業所、廃棄物処理場等から流出した重金属(銅、鉛、カドミウム等)が蓄積されている場合があり、貧酸素化が進行すれば、これらの重金属が水域へ溶出することが危惧され、湖沼自体のみならず人体への悪影響も懸念される。
【0003】
多孔質体でできたボード等を湖沼等に沈めることにより水質改善ができることが知られている(例えば特許文献1)。しかし、従来の多孔質体ではアオコや重金属の吸着までは対応できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−64083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、湖沼等における富栄養化や、重金属などによる汚染の水質改善が可能な機能性多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の機能性多孔質体は、粗骨材が水質改善機能を有する機能性材料を含有するバインダーで結合され、該粗骨材の間に多数の気孔が形成されていることを特徴とする。
第2発明の機能性多孔質体は、第1発明において、前記機能性材料にはヒドロキシアパタイトが含まれることを特徴とする。
第3発明の機能性多孔質体は、第1または第2発明において、前記機能性材料には水酸化マグネシウムが含まれることを特徴とする。
第4発明の機能性多孔質体は、第1,第2または第3発明において、前記粗骨材が鉄鋼スラグであることを特徴とする。
第5発明の機能性多孔質体は、第1,第2,第3または第4発明において、前記気孔の気孔径が10〜15mmであることを特徴とする。
第6発明の機能性多孔質体は、第1,第2,第3,第4または第5発明において、前記気孔の気孔径が15〜20mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、機能性材料は多孔質体を形成する粗骨材の表面に付着しているので、機能性材料と外部との接触面積が広くなり、効率よく水質改善ができる。また、流れのある湖沼等でも粉末の機能性材料が流出することがないため、水質改善の効果が持続する。
第2発明によれば、ヒドロキシアパタイトは重金属を吸着するので、湖沼等の底泥に蓄積された重金属を吸着し、底質を改善することができる。また、ヒドロキシアパタイトは重金属を安定不溶化させるので、水域への溶出を防ぐことができる。さらに、ヒドロキシアパタイトは産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。
第3発明によれば、水酸化マグネシウムはプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着し、アオコを減少させ、水質を改善することができる。また、水酸化マグネシウムは底質を弱アルカリ環境にすることができるので、好気性微生物による分解を活性化することができる。さらに、水酸化マグネシウムは産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。
第4発明によれば、有機物を分解するバクテリア等の増殖に適した気孔を有しており、鉄鋼スラグから珪藻類の主成分である珪酸が溶出するので、湖沼等の優先藻類種を珪藻へと変化させ、富栄養化を改善できる。また、鉄鋼スラグは産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。
第5発明によれば、気孔径が10〜15mmと大きいので、気孔が目詰まりしにくくなり、機能性材料の効果が持続する。
第6発明によれば、気孔径が15〜20mmとさらに大きいので、生物が着生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る機能性多孔質体を用いた護岸用ブロックの(A)正面図、(B)平面図、(C)側面図である。
【図2】同機能性多孔質体を用いた護岸用ブロックを湖沼等の法面に設置した説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る機能性多孔質体の製造方法の説明図である。
【図4】水質浄化試験の室内試験の説明図である。
【図5】水質浄化試験の現地試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る機能性多孔質体は、粗骨材である鉄鋼スラグがバインダーで結合され、鉄鋼スラグの間に多数の気孔が形成され、ポーラスコンクリートの様に形成されたものである。バインダーにはセメントと水の他に、水質改善機能を有する機能性材料としてヒドロキシアパタイトが含有されている。また、バインダーに使用するセメントには魚類の焼成骨粉が混入されていてもよい。
機能性多孔質体は、湖沼、内海、湾等に設置され水質改善のために用いられる。そのため、護岸用ブロック、川床用敷きブロック、魚礁用ブロック等、設置条件に応じた形状に製造される。
【0010】
機能性多孔質体は、有機物を分解するバクテリア等の増殖に適した気孔を有している。さらに、鉄鋼スラグから珪藻類の主成分である珪酸が溶出するので、珪藻類が増加し、有害種を多く含む藍藻類、緑藻類が減少する。したがって、湖沼等の優先藻類種を珪藻へと変化させ、富栄養化を改善できる。
【0011】
各種工場、事業所、廃棄物処理場等から流出して湖沼等の底泥に蓄積した重金属(銅、鉛、カドミウム等)は、ヒドロキシアパタイトに吸着しやすいという特性を有する。機能性多孔質体のバインダーにはヒドロキシアパタイトを含有するから、重金属を吸着することができ、湖沼等の底質を改善することができる。また、ヒドロキシアパタイトは重金属を安定不溶化させるので、水域への溶出を防ぐことができる。
【0012】
ヒドロキシアパタイトは多孔質体を形成する鉄鋼スラグの表面に付着しているので、ヒドロキシアパタイトと外部との接触面積が広くなり、効率よく水質改善ができる。
また、一般にヒドロキシアパタイトは粉末であるが、鉄鋼スラグの表面に付着しているので、流れのある湖沼等でも流出することがなく、水質改善の効果が持続する。
【0013】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る機能性多孔質体は、第1実施形態において、機能性材料としてヒドロキシアパタイトに代えて水酸化マグネシウムを含有するものである。その余の構成は第1実施形態と同様である。
【0014】
水酸化マグネシウムは、湖沼等の水中ではプラスに帯電するので、マイナスに帯電する植物プランクトンを吸着することができる。したがって、植物プランクトンからなるアオコを減少させ、水質を改善することができる。また、水酸化マグネシウムは底質を弱アルカリ環境にすることができるので、好気性微生物による分解を活性化することができる。
【0015】
水酸化マグネシウムは多孔質体を形成する鉄鋼スラグの表面に付着しているので、水酸化マグネシウムと外部との接触面積が大きくなり、効率よく水質改善ができる。
また、一般に水酸化マグネシウムは粉末であるが、鉄鋼スラグの表面に付着しているので、流れのある湖沼等でも流出することがなく、水質改善の効果が持続する。
【0016】
(他の実施形態)
上記実施形態では、機能性材料として、ヒドロキシアパタイトまたは水酸化マグネシウムのいずれかを含む構成としたが、その両方を含む実施形態としてもよい。この場合、ヒドロキシアパタイトによる重金属の吸着と、水酸化マグネシウムによるアオコの吸着の両方の効果を得ることができる。また、ヒドロキシアパタイトや水酸化マグネシウム以外の水質改善機能を有する機能性材料を含有する実施形態としてもよい。
さらに、上記実施形態では、粗骨材として鉄鋼スラグを用いたが、これに代えて、一般的なポーラスコンクリートと同様に、砂利等を用いる実施形態としてもよい。ただし、この場合、鉄鋼スラグによる富栄養化の改善の効果は得られない。
【0017】
上記の鉄鋼スラグ、ヒドロキシアパタイト、水酸化マグネシウムはいずれも産業副産物であるので、機能性多孔質体の製造による環境負荷が少ない。また、バインダーに使用するセメントに魚類の焼成骨粉を混入した場合には、適正な処理と再利用が求められている魚類の骨を利用できるのであるから、廃棄物の再資源化を促進し、新たな有価物として活用することができる。
【0018】
上記の機能性多孔質体は、例えば護岸用ブロックとして使用される。図1において、1は護岸用ブロック、11は矩形のボード状に成形された機能性多孔質体、12は金網、13は岩である。護岸用ブロック1は金網12の中に多数の岩13が詰め込まれることで立方体に形作られており、その正面に3枚の機能性多孔質体11が納められている。
図2に示すように、このような護岸用ブロック1を湖沼等の法面に設置し、機能性多孔質体11を水面に向かうようにすれば、設置した湖沼等の水質を改善することができる。また、機能性多孔質体11は重金属やアオコを吸着するといずれ飽和し、それらを吸着する効果を発揮できなくなるが、この場合でも、機能性多孔質体11のみを入れ替えることで、水質改善機能を回復することができる。
【0019】
(製造方法)
つぎに、本発明に係る機能性多孔質体の製造方法の一例について説明する。
図3に示すように、機能性多孔質体は以下の手順で製造される。
(1)まず、粗骨材である鉄鋼スラグの径を選定して、ミキサーに投入する。
(2)ミキサーで、鉄鋼スラグとセメントと水を練り混ぜ、機能性材料を混入する。
(3)練り混ぜたものを型枠に流し込んで締め固めを行う。図3では機能性多孔質体をボード状に形成する型枠を示す。
(4)型枠に蓋をセットする。
(5)型枠にシートをかぶせて蒸気養生する。
(6)蒸気養生完了後、型枠から取り出すとボード状の機能性多孔質体が完成する。
【0020】
上記の手順(1)では、表1を基準に使用する鉄鋼スラグの径を選定する。ここで、製造する機能性多孔質体の使用場所が淡水域の場合は気孔径を10〜15mmとすることが好ましい。気孔径が10〜15mmと大きければ、気孔が目詰まりしにくくなり、重金属やアオコを吸着しても機能性材料の効果が持続するからである。また、使用場所が海域の場合は気孔径を15〜20mmとすることが好ましい。気孔径が15〜20mmとさらに大きいので、生物が着生できるからである。表1より、水セメント比を27%とし、径が30〜40mmの鉄鋼スラグを選定すれば、上記条件を満たすことができる。
【表1】
【0021】
機能性多孔質体は、重金属やアオコを吸着するといずれ飽和し、それらを吸着する効果を発揮できなくなる。そこで、機能性多孔質体をボード状に形成する等して、任意の資材に装着できるように構成すれば、取り換え可能とできるので好ましい。
【0022】
(試験)
つぎに、本発明に係る機能性多孔質体の試験について説明する。
試験は、香川県坂出市に位置する湖沼で行った。この湖沼の主な流入河川は、上流の河川と池である。ただし、池からの流入は堰からオーバーフローした水のみである。この湖沼は周辺を薄い竹林や森林、田畑、果樹園、住宅地などに囲まれており、県道や国道が横断しているため交通量も多い。湖沼に流入する河川の流域は、近隣都市部のベッドタウンとしての都市化が進行し、近年人口が増加している。この住宅地からの流入負荷の増大が、湖沼の水質環境悪化の原因の一つとして挙げられる。この他の原因としては、工場、養豚場、牧場、淡水魚養殖場も挙げられる。
【0023】
(1)底質改善機能試験
機能性多孔質体の底質改善機能を検証するため、底泥に含まれる重金属の含有試験を行った。
試験には、機能性材料としてヒドロキシアパタイトのみを含有(含有率1%)する機能性多孔質体を、100×100×60mmの立方体に形成した試料を用いた。この試料を湖沼の底層部に設置し、設置から1ヵ月後、および1年後に重金属の含有量の測定を行った。含有量の測定は、試料の設置前は底層部の泥を、設置後は底層部に沈めた試料の上に覆っていた泥を使用し、その泥に含まれる重金属の含有量を測定した。この測定結果を表2に示す。
【表2】
【0024】
表2より、試料の設置前に比べて設置後の方が、評価した全ての重金属(鉛、カドミウム、銅)の含有量が減少していることが確認された。これにより、ヒドロキシアパタイトを含有する機能性多孔質体は重金属の吸着能力が高いことが分かり、底質改善の機能を有していることが分かる。
【0025】
(2)重金属吸着試験
機能性多孔質体の重金属吸着機能を検証するため、機能性多孔質体の単位面積当りにどれだけの量の重金属を吸着することができるのかを検証した。
試験には、機能性材料としてヒドロキシアパタイトのみを含有(含有率1%)する機能性多孔質体を、100×100×60mmの立方体に形成した試料を用いた。この試料を湖沼の底層部に設置し、設置から1ヵ月後、および6ヵ月後に、その試料に付着したものを削ぎ落とし、重金属吸着量を測定した。この測定結果を表3に示す。
表3より、ヒドロキシアパタイトを含有する機能性多孔質体は重金属の吸着能力が高いことが分かる。
【表3】
【0026】
(3)水質浄化試験
機能性多孔質体のアオコ吸着による水質改善機能を検証するため、室内実験および現地実験を行った。
まず、室内実験においては、機能性材料として水酸化マグネシウムのみを含有(含有率5%)する機能性多孔質体を、100×100×60mmの立方体に形成した試料を用いた。図4に示すように、湖沼においてアオコが発生した表層水を採水し、容器Aには表層水のみを、容器Bには表層水に加えて試料を入れた。試料を入れてから24時間後に容器A,B中の植物プランクトン細胞数を測定した。この測定結果を表4に示す。
【表4】
【0027】
表4より、水酸化マグネシウムを含有する機能性多孔質体を入れた容器B中の植物プランクトン細胞数は、容器Aに比べて約80%減少していることが分かる。試料を入れる前の容器Bは、容器Aとほぼ同じ総細胞数であるから、その減少量が試料の吸着した量と考えられる。
【0028】
つぎに、現地実験においては、機能性材料として水酸化マグネシウムのみを含有(含有率5%)する機能性多孔質体を、図5に示す護岸用ブロックに形成したものを用いた。図5に示すように、湖沼の法面護岸に、水酸化マグネシウムを含有する機能性多孔質体で形成された護岸用ブロックと、単なる多孔質体で形成された護岸用ブロックとを設置した。これは、機能性多孔質体と単なる多孔質体とのアオコの吸着能力の違いを検証するためである。
試験は、これら2つの護岸用ブロックを湖沼の法面護岸に設置し、設置から24時間後に、それぞれの護岸用ブロックの直前の水を採水し、それぞれの水中の植物プランクトン細胞数を測定した。この測定結果を表5に示す。
【表5】
【0029】
表5より、水酸化マグネシウム無しの護岸用ブロック直前の水に対し、水酸化マグネシウム含有の護岸用ブロック直前の水は、細胞数が約33%減少している。これにより、水酸化マグネシウムを含有する機能性多孔質体はアオコの吸着能力が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る機能性多孔質体は、護岸用ブロック、川床用敷きブロック、魚礁用ブロック等、用途に応じた形状に製造され、湖沼、内海、湾等の水質改善のために用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗骨材が水質改善機能を有する機能性材料を含有するバインダーで結合され、該粗骨材の間に多数の気孔が形成されている
ことを特徴とする機能性多孔質体。
【請求項2】
前記機能性材料にはヒドロキシアパタイトが含まれる
ことを特徴とする請求項1記載の機能性多孔質体。
【請求項3】
前記機能性材料には水酸化マグネシウムが含まれる
ことを特徴とする請求項1または2記載の機能性多孔質体。
【請求項4】
前記粗骨材が鉄鋼スラグである
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の機能性多孔質体。
【請求項5】
前記気孔の気孔径が10〜15mmである
ことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の機能性多孔質体。
【請求項6】
前記気孔の気孔径が15〜20mmである
ことを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の機能性多孔質体。
【請求項1】
粗骨材が水質改善機能を有する機能性材料を含有するバインダーで結合され、該粗骨材の間に多数の気孔が形成されている
ことを特徴とする機能性多孔質体。
【請求項2】
前記機能性材料にはヒドロキシアパタイトが含まれる
ことを特徴とする請求項1記載の機能性多孔質体。
【請求項3】
前記機能性材料には水酸化マグネシウムが含まれる
ことを特徴とする請求項1または2記載の機能性多孔質体。
【請求項4】
前記粗骨材が鉄鋼スラグである
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の機能性多孔質体。
【請求項5】
前記気孔の気孔径が10〜15mmである
ことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の機能性多孔質体。
【請求項6】
前記気孔の気孔径が15〜20mmである
ことを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の機能性多孔質体。
【図1】
【図2】
【図4】
【図3】
【図5】
【図2】
【図4】
【図3】
【図5】
【公開番号】特開2012−91076(P2012−91076A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238230(P2010−238230)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000230836)日本興業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000230836)日本興業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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