説明

機能性多層フィルムの製造方法、ガスバリア性フィルム、及び有機素子デバイス

【課題】極めて高い耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性とともに、耐曲げ性にも優れる機能性多層フィルムの製造法を提供すること、及びその製造方法で製造された機能性多層フィルムを用いたガスバリア性フィルム、及び有機素子デバイスを提供すること。
【解決手段】基材上に無機系UV吸収剤とUV硬化樹脂とを含有するUVカット性層、ポリシラザン含有の塗布膜に改質処理を施して形成されるシリカ層がこの順で積層されて形成しており、かつUVカット性層はUV硬化処理、シリカ層は波長200nm以下の真空紫外光を照射する改質処理によって形成されたことを特徴とする機能性多層フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性多層フィルムの製造方法、その製造方法で製造された機能性多層フィルムを用いたガスバリア性フィルム、及び有機素子デバイスに関する。より詳しくは、屋外用途でも十分使用可能な耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性とともに、耐曲げ性にも優れる機能性多層フィルムの製造方法、その製造方法で製造された機能性多層フィルムを用いたガスバリア性フィルム、及び有機素子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス(以下有機ELともいう)基板等の各種デバイスに使用される基板は、ガスバリア性等、物性の良いものが求められる。これまでは、各種デバイスの基板用にガラス基板など無機材料の硬い基板が使用されていたが、近年、軽量化、大型化という要求に加え、ロール・トゥ・ロールでの生産が可能であること、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、透明プラスチック等のフィルム基板が採用され始めている。
【0003】
しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基板は、太陽光の紫外線による光劣化の問題や、水蒸気や酸素を透過してデバイス内に浸透、拡散しやすく、デバイスを劣化させてしまうなどの問題がある。
【0004】
特に太陽電池用の材料等、屋外で使用される場合は、太陽光の紫外線による光劣化を防ぐための紫外線カット機能、ガスバリア性、耐擦傷性等も必要である。
【0005】
基材上にUVカット性層にポリシラザン系溶液からなる層を被覆し、耐候性、耐擦傷性等を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2,3)。しかしながら、これらの方法ではポリシラザン系溶液からなる層の形成方法は加熱乾燥やUV硬化を用いており、耐擦傷性、ガスバリア性が十分でない。また特許文献2は、UVカット性層に有機系のUV吸収剤を使用しており、UVカット機能として十分でなく、経時で表面にブリードアウトしたりして、耐候性が十分でない。
【0006】
一方、ガスバリア性を付与する技術としては、ポリシラザンからなる層に真空紫外エキシマランプを照射させてシリカ層を形成し、シリカ層を積層する技術が特許文献4で開示されている。しかしUVカット機能はないため、紫外線による基材の光劣化を防ぐことができず、耐候性が十分でない。また、この技術では高密度シリカ膜を形成することは可能であるが、一様に高密度化されたシリカ膜は屈曲性に対して非常に脆く、ヒビ割れが多発してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−143331号公報
【特許文献2】特開平11−309805号公報
【特許文献3】特開2002−52640号公報
【特許文献4】特開2009−255040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、極めて高い耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性とともに、耐曲げ性にも優れる機能性多層フィルムの製造法を提供すること、及びその製造方法で製造された機能性多層フィルムを用いたガスバリア性フィルム、及び有機素子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.基材上に無機系UV吸収剤とUV硬化樹脂とを含有するUVカット性層、ポリシラザン含有の塗布膜に改質処理を施して形成されるシリカ層がこの順で積層されて形成しており、かつUVカット性層はUV硬化処理、シリカ層は波長200nm以下の真空紫外光を照射する改質処理によって形成されたことを特徴とする機能性多層フィルムの製造方法。
【0011】
2.前記UVカット性層中の無機系UV吸収剤の粒子表面が無機物で表面処理されたことを特徴とする前記1に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【0012】
3.前記UVカット性層中の無機系UV吸収剤が酸化チタン、または酸化亜鉛であることを特徴とする前記1または2に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【0013】
4.前記シリカ層中の改質処理により改質された層の膜厚が、改質処理前の前記ポリシラザン含有の塗布膜の30〜80%であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【0014】
5.前記UVカット性層と前記シリカ層を形成したのち、更にUV硬化処理を行うことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【0015】
6.前記1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造された機能性多層フィルムの、前記UVカット性層およびシリカ層とは反対側の前記基材上に、ガスバリア層を有していることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【0016】
7.前記6に記載のガスバリア性フィルムを用いたことを特徴とする有機素子デバイス。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、極めて高い耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性とともに、耐曲げ性にも優れる機能性多層フィルムの製造方法を提供すること、及びその製造方法で製造された機能性多層フィルムを用いたガスバリア性フィルム、及び有機素子デバイスを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなる太陽電池の一例を示す断面図である。
【図2】発電層が3層構成となった有機光電変換素子からなる太陽電池の一例を示す断面図である。
【図3】タンデム型のバルクヘテロジャンクション層を備える有機光電変換素子からなる太陽電池一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上に無機系UV吸収剤とUV硬化樹脂とを含有するUVカット性層、ポリシラザン含有の塗布膜に改質処理を施して形成されるシリカ層がこの順で積層されて形成しており、かつUVカット性層はUV硬化処理、シリカ層は波長200nm以下の真空紫外光を照射する改質処理によって形成されたことを特徴とする機能性多層フィルムの製造方法により、極めて高い耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性とともに、耐曲げ性にも優れる機能性多層フィルムの製造方法を実現することができることを見出し、本発明に至った次第である。
【0021】
〔基材〕
本発明の機能性多層フィルムの基材(「支持体」ともいう)としては、後述のUVカット性層とシリカ層を保持することができる有機材料で形成されたものであることが好ましい。
【0022】
上記有機材料としては、例えばメタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリスチレン(PS)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の各樹脂フィルム、更には前記樹脂を2層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく用いられる。
【0023】
支持体の厚さは5〜500μm程度が好ましく、更に好ましくは25〜250μmである。
【0024】
また、本発明に係る支持体は透明であることが好ましい。支持体が透明であり、支持体上に形成する層も透明であることにより、透明な機能性多層フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0025】
また、上記に挙げた樹脂等を用いた支持体は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる支持体は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の支持体を製造することができる。また、未延伸の支持体を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、支持体の流れ(縦軸)方向、又は支持体の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸支持体を製造することができる。この場合の延伸倍率は、支持体の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0027】
また本発明に用いられる支持体は、寸法安定性の点で弛緩処理、オフライン熱処理を行ってもよい。弛緩処理は前記ポリエステルフィルムの延伸製膜工程中の熱固定した後、横延伸のテンター内、またはテンターを出た後の巻き取りまでの工程で行われるのが好ましい。弛緩処理は処理温度が80〜200℃で行われることが好ましく、より好ましくは処理温度が100〜180℃である。また長手方向、幅手方向ともに、弛緩率が0.1〜10%の範囲で行われることが好ましく、より好ましくは弛緩率が2〜6%で処理されることである。弛緩処理された支持体は、下記のオフライン熱処理を施すことにより耐熱性が向上し、更に寸法安定性が良好になる。オフライン熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、複数のロール群によるロール搬送方法、空気をフィルムに吹き付けて浮揚させるエアー搬送などにより搬送させる方法(複数のスリットから加熱空気をフィルム面の片面あるいは両面に吹き付ける方法)、赤外線ヒーターなどによる輻射熱を利用する方法、フィルムを自重で垂れ下がらせ、下方で巻き等搬送方法等を挙げることが出来る。熱処理の搬送張力は、出来るだけ低くして熱収縮を促進することで、良好な寸法安定性の支持体となる。処理温度としては支持体のガラス転移温度+50℃〜+150℃の温度範囲が好ましい。
【0028】
本発明の支持体は、製膜過程で片面または両面にインラインで下引層塗布液を塗布することが好ましい。本発明において、製膜工程中での下引塗布をインライン下引という。本発明に有用な下引層塗布液に使用する樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンイミンビニリデン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂及びゼラチン等を挙げることが出来、何れも好ましく用いることが出来る。これらの下引層には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記の下引層は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法によりコーティングすることができる。上記の下引層の塗布量としては、0.01〜2g/m(乾燥状態)程度が好ましい。
【0029】
また本発明の支持体は、屋外で使用することから、耐加水分解性を有するフィルムを使用することができる。例えば、特開2007−70430号公報のフィルムの固有粘度を上げる技術や、特開2007−204538号公報のフィルム中のポリエステルの末端カルボン酸を抑える技術等を使用して、耐加水分解性を向上することができる。
【0030】
〔UVカット性層〕
本発明に係る機能性多層フィルムの少なくとも片面にはUVカット性層を有している。本発明において、UVカット性層はシリカ層と基材の間に位置する。UVカット性層がシリカ層と基材の間にあることで、UVカット機能とガスバリア性、防汚性を効率的に機能することができるため、基材のUV吸収による黄変や、加水分解による強度の低下等を効率良く抑制でき、機能性多層フィルムとして有効である。
【0031】
本発明におけるUVカット性層は、UV硬化樹脂と無機系UV吸収剤との組み合わせで基本的に構成される。
【0032】
(UV硬化樹脂)
本発明におけるUV硬化樹脂としては、硬化によって透明な樹脂組成物を形成する物であれば特に制限なく使用でき、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル系樹脂、アリルエステル系樹脂等が挙げられる。特に好ましくは、硬度、平滑性、透明性の観点からアクリル系樹脂を用いることができる。
【0033】
アクリル系樹脂組成物としては、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させたもの等が挙げられる。また、上記のような樹脂組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している感光性樹脂であれば特に制限はない。
【0034】
光重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、1種又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0035】
アクリル系樹脂は、硬度、平滑性、透明性の観点から、国際公開第2008/035669号に記載されているような表面に光重合反応性を有する感光性基が導入された反応性シリカ粒子(以下、単に「反応性シリカ粒子」ともいう)を含むことが好ましい。ここで、光重合性を有する感光性基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基などを挙げることができる。また感光性樹脂は、この反応性シリカ粒子の表面に導入された光重合反応性を有する感光性基と光重合反応可能な化合物、例えば、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物を含むものであってもよい。また重合性不飽和基修飾加水分解性シランが、加水分解性シリル基の加水分解反応によって、シリカ粒子との間に、シリルオキシ基を生成して化学的に結合しているようなものを、反応性シリカ粒子として用いることができる。ここで、反応性シリカ粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、透明性、平滑性、硬度をバランスよく満たすことができる。
【0036】
またアクリル系樹脂には、屈折率を調整するできる点で、含フッ素ビニルモノマーを用いることもできる。含フッ素ビニルモノマーとしてはフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(商品名、大阪有機化学製)やR−2020(商品名、ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0037】
(無機系UV吸収剤)
本発明における無機系UV吸収剤は粒子状で用いることが好ましい。無機系UV吸収剤粒子としては、公知の無機系UV吸収剤を添加することができる。二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムや、二酸化チタン微粒子を酸化鉄で複合化処理してなるハイブリッド無機粉体、酸化セリウム微粒子の表面を非結晶性シリカでコーティングしてなるハイブリッド無機粉体などが挙げられるが、UVカット機能の観点から二酸化チタン、酸化亜鉛が好ましい。
【0038】
UV吸収剤粒子の粒径は、透明性、平滑性の観点から、0.1μm以下が好ましい。
【0039】
また、前記無機系UV吸収剤粒子は、光触媒抑制、分散安定性向上の点から、無機物で表面処理されていることが好ましい。一般的な無機物として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛などを含有する酸化物及び水酸化物が知られており、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素によって表面処理を行うことが耐候性の観点より特に望ましい。
【0040】
前記無機系UV吸収剤粒子の表面処理方法としては、特に限定されないが、上記化合物などの含水酸化物等によって被覆する方法などが挙げられる。表面処理後の無機系UV吸収剤の粒径は5〜200nmが好ましい。表面処理剤の量は、質量比率で40%以下の範囲で表面処理を施されるが、20%以下が好ましい。表面処理剤量が40%を超えると、無機系UV吸収剤の配合量が減少することになり、UV吸収効果が減少してしまう。
【0041】
前記UV吸収剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。UVカット性層における含有量としては特に制限はないが、透明性、平滑性の点から、0.1〜80質量%、好ましくは30〜70質量%の範囲が好ましい。
【0042】
また、無機UV吸収剤を後述する有機UV吸収剤と併用して用いる場合、UV吸収層の全質量に対し、無機UV吸収剤の使用量は3〜20質量%、好ましくは5〜10質量%であり、有機UV吸収剤の使用量は0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%である。前記の使用量の範囲で無機UV吸収剤と有機UV吸収剤とを併用すると、UV吸収層の透明度は高く、耐侯性も良好となる。
【0043】
本発明におけるUVカット性層の厚さとしては、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが望ましい。1μmより大きいと、硬度が十分で好ましい。一方、10μより小さいと平滑層や透明性等が向上し好ましい。
【0044】
UVカット性層の膜形成方法は特に制限はないが、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
【0045】
紫外線で硬化する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射することにより行うことができる。
【0046】
UVカット性層の形成では、上述の樹脂に、必要に応じて、酸化防止剤、可塑剤、マット剤、熱可塑性樹脂等の添加剤を加えることができる。また樹脂を溶媒に溶解又は分散させた塗布液を用いて平滑層を形成する際に使用する溶媒としては、公知のものを使用することができる。
【0047】
〔シリカ層〕
本発明に係る機能性多層フィルムはUVカット性層の上にシリカ層を有している。本発明に係るシリカ層に関しては、ポリシラザン含有膜を基材上に形成したUVカット性層の上に塗布した後、真空紫外光を照射する方法で改質処理を施して形成される。前記シリカ層は、汚れや傷がつきにくく、ガスバリア性の高い層である。
【0048】
本発明のシリカ層は、単層でも複数の同様な膜を積層してもよく、複数の層で、さらに耐擦傷性、ガスバリア性を向上させることもできる。
【0049】
本発明において、ガスバリア性とは、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(60±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下であり、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3ml/m・24h・atm以下(1atmとは、1.01325×10Paである)であることをいう。
【0050】
(ポリシラザン含有の塗布膜)
ポリシラザン含有の膜は、基材上に形成したUVカット性層の上にポリシラザン化合物を含有する塗布液を塗布により形成することが好ましい。
【0051】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが好ましくは1nm〜100μm程度、さらに好ましくは10nm〜10μm程度、最も好ましくは10nm〜1μm程度となるように設定され得る。
【0052】
本発明で用いられる「ポリシラザン」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO、Si及び両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体ポリマーである。
【0053】
フィルム基材を損なわないように塗布するためには、特開平8−112879号公報に記載されているように比較的低温でセラミック化してシリカに変性する下記一般式1で示される部分構造をもつものが好ましい。
【0054】
【化1】

【0055】
式中、R、R、及びRのそれぞれは、独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基などを表す。
【0056】
得られるシリカ膜としての緻密性の観点からは、R、R、及びRのすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0057】
一方、そのSiと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下層との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
【0058】
パーヒドロポリシラザンは直鎖構造と6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)であり、液体又は固体の物質であり、分子量により異なる。これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
【0059】
低温でセラミック化するポリシラザンの別の例としては、上記一般式1のポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
【0060】
ポリシラザンを含有する液体を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応してしまうようなアルコール系や水分を含有するものを用いることは好ましくない。具体的には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリコロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。これらの溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度、等目的にあわせて選択し、複数の溶剤を混合しても良い。
【0061】
ポリシラザン含有塗布液中のポリシラザン濃度は目的とするシリカ膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度である。
【0062】
酸化珪素化合物への転化を促進するために、アミンや金属の触媒を添加することもできる。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 アクアミカ NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140などが挙げられる。
【0063】
(ポリシラザン膜形成工程)
ポリシラザン含有の塗布膜は、改質処理前または処理中に水分が除去されていることが好ましい。そのために、ポリシラザン膜中の溶媒を取り除く目的の第一工程と、それに続くポリシラザン膜中の水分を取り除く目的の第二工程に分かれていることが好ましい。
【0064】
第一工程においては、主に溶媒を取り除くための乾燥条件を、熱処理などの方法で適宜決めることができるがこのときに水分が除去される条件にあってもよい。熱処理温度は迅速処理の観点から高い温度が好ましいが、樹脂基材への熱ダメージを考慮し温度と処理時間を決めることができる。たとえば樹脂基材にガラス転位温度(Tg)が70℃のPET基材を用いる場合には熱処理温度は200℃以下を設定することができる。処理時間は溶媒が除去され、かつ基材への熱ダメージがすくなくなるように短時間に設定することが好ましく、熱処理温度が200℃以下であれば30分以内に設定することができる。
【0065】
第二工程は、ポリシラザン膜中の水分を取り除くための工程で、水分を除去する方法としては低湿度環境に維持される形態が好ましい。低湿度環境における湿度は、温度により変化するので温度と湿度の関係は露点温度の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−8℃(温度25℃/湿度10%)以下、さらに好ましい露点温度は(温度25℃/湿度1%)−31℃以下であり、維持される時間はポリシラザン膜の膜厚によって適宜変わる。ポリシラザン膜厚1μ以下の条件においては、好ましい露点温度は−8℃以下で、維持される時間は5分以上である。また、水分を取り除きやすくするために減圧乾燥してもよい。減圧乾燥における圧力は常圧〜0.1MPaを選ぶことができる。
【0066】
第一工程の条件に対する第二工程の好ましい条件としては、例えば第一工程で温度60〜150℃、処理時間1分〜30分間で溶媒を除去したときには、第二工程の露点は4℃以下で処理時間は5分〜120分により水分を除去する条件を選ぶことができる。第一工程と第二工程の区分は露点の変化で区別することができ、工程環境の露点の差が10度以上変わることで区分ができる。
【0067】
ポリシラザン膜は第二工程により水分が取り除かれた後も、その状態を維持されて改質処理されることが好ましい。
【0068】
(ポリシラザン膜の含水量)
ポリシラザン膜の含水率は以下の分析方法で検出できる。
【0069】
ヘッドスペース−ガスクロマトグラフ/質量分析法
装置:HP6890GC/HP5973MSD
オーブン:40℃(2min)、その後、10℃/minの速度で150℃まで昇温
カラム:DB−624(0.25mmid×30m)
注入口:230℃
検出器:SIM m/z=18
HS条件:190℃・30min
本発明におけるポリシラザン膜中の含水率は、上記の分析方法により得られる含水量からポリシラザン膜の体積で除した値であり、第二工程により水分が取り除かれた状態において、好ましくは0.1%以下である。さらに好ましい含水率は0.01%以下(検出限界以下)である。
【0070】
本発明のように改質処理前、または改質中に水分が除去されることでシラノールに転化したポリシラザン膜の脱水反応を促進するために好ましい形態である。
【0071】
(改質処理)
本発明において改質処理とは、ポリシラザン含有の塗布膜に真空紫外光を照射して、二酸化珪素等の珪素酸化物または酸化窒化珪素化合物に転化する処理をいう。この真空紫外光照射により、ポリシラザンの分子結合を切断し、また膜内もしくは雰囲気内に微量に存在する酸素でも効率的にオゾンもしくは活性酸素に変換することが可能であり、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。真空紫外光照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
【0072】
本発明において真空紫外光とは、10〜200nmの波長の電磁波をいうが、100〜200nmの真空紫外光が実用面から好ましく用いられる。
【0073】
真空紫外光の照射は、照射される塗膜を担持している基材がダメージを受けない範囲で照射強度及び/又は照射時間を設定する。基材としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、基材表面の強度が10mW/cm〜300mW/cm、好ましくは50〜200mW/cmになるように基材−ランプ間距離を設定し、0.1秒〜10分間、好ましくは0.5秒から3分の照射を行うことが好ましい。
【0074】
真空紫外光照射装置は、市販のランプ(例えば、ウシオ電機株式会社製)、を使用することが可能である。
【0075】
真空紫外光照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、被塗布基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材(例、シリコンウェハー)を、真空紫外光発生源を具備した真空紫外光焼成炉で処理することができる。真空紫外光焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製を使用することができる。また、ポリシラザン塗膜を表面に有する基材が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような真空紫外光発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に真空紫外光を照射することによりセラミックス化することができる。
【0076】
前記真空紫外光はほとんどの物質の原子間結合力より大きいため、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみによる作用により、直接切断することが可能であるため好ましく用いる事ができる。この作用を用いる事により、加水分解を必要とせず低温でかつ効率的に改質処理が可能となる。
【0077】
これに必要な真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
【0078】
エキシマ光とは希ガスエキシマまたはヘテロエキシマを動作媒質とするレーザー光である。Xe,Kr,Ar,Neなどの希ガスの原子は化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。しかし、放電などによりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には
e+Xe→e+Xe
Xe+Xe+Xe→Xe+Xe
Xe→Xe+Xe+hν(172nm)
となり、励起されたエキシマ分子であるXeが基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光を発光する。エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。
【0079】
また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
【0080】
エキシマ光を得るには誘電体バリア放電を用いる方法が知られている。誘電体バリア放電とは両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる、雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電で、micro dischargeのストリーマが管壁(誘電体)に達すると誘電体表面に電荷が溜まるため、micro dischargeは消滅する。このmicro dischargeが管壁全体に広がり、生成・消滅を繰り返している放電である。このため肉眼でも分る光のチラツキを生じる。また、非常に温度の高いストリーマが局所的に直接管壁に達するため、管壁の劣化を早める可能性もある。
【0081】
効率よくエキシマ光を得る方法としては、誘電体バリア放電以外に無電極電界放電でも可能である。
【0082】
容量性結合による無電極電界放電で、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極およびその配置は基本的には誘電体バリア放電と同じで良いが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られるため、チラツキが無い長寿命のランプが得られる。
【0083】
誘電体バリア放電の場合はmicro dischargeが電極間のみで生じるため、放電空間全体で放電を行わせるには外側の電極は外表面全体を覆い、かつ外部に光を取り出すために光を透過するものでなければならない。このため細い金属線を網状にした電極が用いられる。この電極は光を遮らないようにできるだけ細い線が用いられるため、酸素雰囲気中では真空紫外光により発生するオゾンなどにより損傷しやすい。
【0084】
これを防ぐためにはランプの周囲、すなわち照射装置内を窒素などの不活性ガスの雰囲気にし、合成石英の窓を設けて照射光を取り出す必要が生じる。合成石英の窓は高価な消耗品であるばかりでなく、光の損失も生じる。
【0085】
二重円筒型ランプは外径が25mm程度であるため、ランプ軸の直下とランプ側面では照射面までの距離の差が無視できず、照度に大きな差を生じる。したがって仮にランプを密着して並べても、一様な照度分布が得られない。合成石英の窓を設けた照射装置にすれば酸素雰囲気中の距離を一様に出来、一様な照度分布が得られる。
【0086】
無電極電界放電を用いた場合には外部電極を網状にする必要は無い。ランプ外面の一部に外部電極を設けるだけでグロー放電は放電空間全体に広がる。外部電極には通常アルミのブロックで作られた光の反射板を兼ねた電極がランプ背面に使用される。しかし、ランプの外径は誘電体バリア放電の場合と同様に大きいため一様な照度分布にするためには合成石英が必要となる。
【0087】
細管エキシマランプの最大の特徴は構造がシンプルなことである。石英管の両端を閉じ、内部にエキシマ光を行うためのガスを封入しているだけである。したがって、非常に安価な光源を提供できる。
【0088】
二重円筒型ランプは内外管の両端を接続して閉じる加工をしているため、細管ランプに比べ取り扱いや輸送で破損しやすい。
【0089】
細管ランプの管の外径は6〜12mm程度で、あまり太いと始動に高い電圧が必要になる。
【0090】
放電の形態は誘電体バリア放電でも無電極電界放電のいずれでも使用できる。電極の形状はランプに接する面が平面であっても良いが、ランプの曲面に合わせた形状にすればランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することにより放電がより安定する。また、アルミで曲面を鏡面にすれば光の反射板にもなる。
【0091】
Xeエキシマランプは波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラディカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン膜の改質を実現できる。したがって、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板などへの照射を可能としている。
【0092】
エキシマランプは光の発生効率が高いため低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で単一波長でエネルギーを照射するため、解射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
【0093】
(真空紫外光照射時の酸素濃度)
本発明に係る真空紫外光照射時の酸素濃度は500ppm〜10000ppm(1%)とすることが好ましく、更に好ましくは、1000ppm〜5000ppmである。
【0094】
前記の酸素濃度の範囲に調整することにより、後述するように酸素過多のガスバリア膜の生成を防止してガスバリア性の劣化を防止することができる。
【0095】
(改質の厚さ)
本発明に係るシリカ層は、改質処理により改質された層、即ち、二酸化珪素等の珪素酸化物または酸化窒化珪素化合物に転化した層だけから形成されていても良く、また改質された層(改質層)と未改質の層(未改質層)から形成されていても良い。前記シリカ層が改質層と未改質層からなる場合は、耐擦傷性、ガスバリア性とフレキシビリティの両立の観点から、改質された層の膜厚が、改質処理前のポリシラザン含有の塗布膜の30〜80%であることが好ましい。この改質膜厚(%)をこの範囲に調整することにより、高い耐擦傷性、ガスバリア性を発揮する緻密な改質層とUVカット性層の間に、改質層とUVカット性層の中間の物性を持つ未改質層が配置されることで、界面への応力集中を防ぎ、シリカ層の密着性を向上することが可能となり、ガスバリア性に加えて、耐曲げ性も向上し好ましい。
【0096】
シリカ層の改質膜厚は、その断面の超高解像透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による転位線観察において、測定する事が可能である。明確な界面が観察されないが、改質膜と未改質膜間でグラデーションがかかった様態で観測され改質層と未改質層を区別する事は可能である。本発明ではグラデーション部分の丁度中間を改質層と未改質層の界面として膜厚を見積もることができ、改質膜厚(%)を算出できる。
【0097】
一方、性質の異なる領域を蒸着法により積層しようとすると、その性質上必ず界面が存在する。そして界面でおきる微小な不均一が原因で、積層方向における気相分子の堆積時にらせん転位、刃状転位、などの転位線が発生し、超高解像TEMにより観察される。本発明に係るシリカ層は塗布膜を改質処理するので、気相分子の堆積時に発生しやすい明確な転位線を発生させることなく、無界面で性質の異なる領域を形成できると推察される。
【0098】
〔UVカット性層とシリカ層形成後のUV硬化処理〕
本発明の機能性多層フィルムは、基材の表面にUVカット性層とシリカ層を形成した後、さらにUV硬化処理を行っても良い。このUV硬化処理によってシリカ層の表面を更に緻密にすることができ、高い耐擦傷性、ガスバリア性が得られる。紫外線で硬化する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射することにより行うことができる。
【0099】
〔ガスバリア性フィルムおよびガスバリア層〕
本発明の機能性多層フィルムは、基材上に積層させたUVカット性層とシリカ層の反対側にガスバリア層を形成してより透過性の低いガスバリア性フィルムとして使用することができる。
【0100】
ガスバリア層は、特に高湿度による基材及び前記基材で保護される各種機能素子等の劣化を防止するためのものである。ガスバリア層は、単層でも複数の同様な膜を積層してもよく、複数の層で、さらにガスバリア性を向上させることもできる。
【0101】
ガスバリア層に関しては、その形成方法において特に制約は無いが、無機酸化物膜のセラミック前駆体を塗布した後に、塗布膜を加熱及び/または紫外線照射により、無機酸化物膜を形成する方法が好ましく用いられ、当該セラミック前駆体としては、ゾル状の有機金属化合物またはポリシラザンが好ましい。有機金属化合物としては、加水分解が可能なものであればよく、特に限定されるものではないが、好ましい有機金属化合物としては、金属アルコキシドが挙げられる。
【0102】
珪素酸化物または酸化窒化珪素化合物のガスバリア層を形成するための珪素酸化物または酸化窒化珪素化合物の供給は、CVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)のようにガスとして供給されるよりも、バリアフィルム基材表面に塗布したほうがより均一で、平滑なガスバリア層を形成することができる。CVD法などの場合は気相で反応性が増した原料物質が基材表面に堆積する工程と同時に、気相中で不必要なパーティクルよばれる異物が生成することは、よく知られているが、原料を気相反応空間に存在させないことで、これらパーティクルの発生を抑制することが可能になる。
【0103】
〈ポリシラザン含有の塗布膜〉
ポリシラザン含有の塗布膜は、シリカ層とは反対側の基材上に、少なくともポリシラザン化合物を含有する塗布液の塗布により形成することが好ましい。
【0104】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが好ましくは1nm〜100μm程度、さらに好ましくは10nm〜10μm程度、最も好ましくは10nm〜1μm程度となるように設定され得る。
【0105】
本発明で用いられる「ポリシラザン」は、前述したように珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO、Si及び両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体ポリマーである。
【0106】
シリカ層とは反対側の面にポリシラザンを有するガスバリア層も、改質処理することがこの好ましい。改質処理はシリカ層で述べた方法を用いることができる。
【0107】
改質処理されたポリシラザンを両方の面に有することで、ガスバリア性等を更に向上させることができる。
【0108】
フィルム基材を損なわないように塗布するためには、特開平8−112879号公報に記載されているように比較的低温でセラミック化してシリカに変性する前記一般式1で示される部分構造をもつものが好ましい。
【0109】
〔機能性多層フィルム〕
本発明に係るフィルムは、基材上に、無機系UV吸収剤と活性光線硬化樹脂とを含有するUVカット性層とポリシラザン含有の塗布膜に改質処理を施して形成されるシリカ層を有し、屋外用途でも十分使用可能な耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性と共に耐曲げ性を有する機能性多層フィルムである。このフィルムの基材上のUVカット性層とシリカ層とは反対側の面をラミネート剤、接着剤による貼り合わせ工法等により、表面加工することによって、高透明性を与えると共に耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性等の機能を被着体表面に付与し、有機素子デバイス等広範囲な用途に利用することができる。
【0110】
〔その他の層〕
本発明における機能性多層フィルムを構成する層として、前述した基材上のUVカット性層、シリカ層基材の他に、平滑層、あるいはブリードアウト防止層などを設けることができる。
【0111】
平滑層は、突起等が存在する透明樹脂フィルム基材の粗面を平坦化し、あるいは、透明樹脂フィルム基材に存在する突起により透明無機化合物層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、基本的には感光性樹脂を硬化させて形成される。
【0112】
平滑層の感光性樹脂としては、例えば、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた樹脂組成物等が挙げられる。また、上記のような樹脂組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している感光性樹脂であれば特に制限はない。
【0113】
ブリードアウト防止層は、平滑層を有するフィルムを加熱した際に、フィルム基材中から未反応のオリゴマーなどが表面へ移行して、接触する面を汚染してしまう現象を抑制する目的で、平滑層を有する基材の反対面に設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば、基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
【0114】
〔有機素子デバイス〕
本発明のガスバリア性フィルムは、有機素子デバイス用フィルムとして使用することができる。有機素子デバイスとしては、有機EL素子、有機光電変換素子等が挙げられる。下記に本発明のガスバリア性フィルムを有機EL素子、有機光電変換素子に使用する際の構成、詳細について説明する。
【0115】
(有機EL素子)
次いで、本発明の有機ELの一例である有機EL素子の実施形態を詳細に説明するが、以下に記載する内容は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0116】
(有機EL素子)
有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示す。
【0117】
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
ここで、発光層で発生した光が外部へ出射されるためには、陽極または陰極の少なくとも一方が透明であることが必要であるが、本発明においては、透明導電層を主に陽極として使用することが好ましい。
【0118】
発光層は、少なくとも発光色の異なる2種以上の発光材料を含有していることが好ましく、単層でも複数の発光層からなる発光層ユニットを形成していてもよい。また、正孔輸送層には正孔注入層、電子阻止層も含まれる。
【0119】
(透明導電層)
本発明の有機EL素子における透明導電層としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物が、透明導電層を形成する電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性光透過性材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で光透過性の導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。本発明においては、透明導電層は陽極として用いられることが好ましい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式製膜法を用いることもできる。陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0120】
また、この透明導電層に金属ナノワイヤを用いることもできる。金属ナノワイヤを用いる場合、1つの金属ナノワイヤで長い導電パスを形成するために、また、適度な光散乱性を発現するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に、3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。本発明においては、金属ナノワイヤの平均直径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0121】
金属ナノワイヤの金属組成としては特に制限はなく、貴金属元素や卑金属元素の1種または複数の金属から構成することができるが、貴金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等)及び鉄、コバルト、銅、錫からなる群に属する少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、導電性の観点から少なくとも銀を含むことがより好ましい。
【0122】
また、導電性と安定性(金属ナノワイヤの硫化や酸化耐性、及びマイグレーション耐性)を両立するために、銀と、銀を除く貴金属に属する少なくとも1種の金属を含むことも好ましい。金属ナノワイヤが二種類以上の金属元素を含む場合には、例えば、金属ナノワイヤの表面と内部で金属組成が異なっていてもよいし、金属ナノワイヤ全体が同一の金属組成を有していてもよい。
【0123】
Agナノワイヤの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837;Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745等、Auナノワイヤの製造方法としては特開2006−233252号公報等、Cuナノワイヤの製造方法としては特開2002−266007号公報等、Coナノワイヤの製造方法としては特開2004−149871号公報等を参考にすることができる。特に、上述した、Adv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、金属ナノワイヤの製造方法として好ましく適用することができる。
【0124】
(発光層)
発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0125】
発光層としては、含まれる発光材料が前記要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。また、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。また、各発光層間には非発光性の中間層を有していることが好ましい。
【0126】
発光層の膜厚の総和は1〜100nmの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、より低い駆動電圧を得ることができることから30nm以下である。なお、発光層の膜厚の総和とは、発光層間に非発光性の中間層が存在する場合には、当該中間層も含む膜厚である。
【0127】
個々の発光層の膜厚としては、1〜50nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは1〜20nmの範囲に調整することである。青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はない。
【0128】
発光層の作製には、後述する発光材料やホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。
【0129】
各発光層には複数の発光材料を混合してもよく、また燐光発光材料と蛍光発光材料を同一発光層中に混合して用いてもよい。
【0130】
発光層の構成として、ホスト化合物、発光材料(発光ドーパント化合物ともいう)を含有し、発光材料より発光させることが好ましい。
【0131】
有機EL素子の発光層に含有されるホスト化合物としては、室温(25℃)における燐光発光の燐光量子収率が0.1未満の化合物が好ましい。更に好ましくは燐光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での体積比が50%以上であることが好ましい。
【0132】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光材料を複数種用いることで異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0133】
用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもいい。
【0134】
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ発光の長波長化を防ぎ、なお且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0135】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
【0136】
次に、発光材料について説明する。
【0137】
発光材料としては、蛍光性化合物、燐光発光材料(燐光性化合物、燐光発光性化合物等ともいう)を用いることができる。
【0138】
燐光発光材料とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にて燐光発光する化合物であり、燐光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましい燐光量子収率は0.1以上である。
【0139】
上記燐光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中での燐光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明において燐光発光材料を用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて上記燐光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0140】
燐光発光材料の発光の原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーを燐光発光材料に移動させることで燐光発光材料からの発光を得るというエネルギー移動型であり、もう一つは燐光発光材料がキャリアトラップとなり、燐光発光材料上でキャリアの再結合が起こり燐光発光材料からの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても、燐光発光材料の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0141】
燐光発光材料は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0142】
有機EL素子には、蛍光発光体を用いることもできる。蛍光発光体(蛍光性ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0143】
また、従来公知のドーパントも本発明に用いることができ、例えば、国際公開第00/70655号明細書、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号明細書、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号明細書、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等が挙げられる。
【0144】
本発明においては、少なくとも一つの発光層に2種以上の発光材料を含有していてもよく、発光層における発光材料の濃度比が発光層の厚さ方向で変化していてもよい。
【0145】
(中間層)
各発光層間に非発光性の中間層(非ドープ領域等ともいう)を設ける場合について説明する。
【0146】
非発光性の中間層とは、複数の発光層を有する場合、その発光層間に設けられる層である。非発光性の中間層の膜厚としては1〜20nmの範囲にあるのが好ましく、更には3〜10nmの範囲にあることが隣接発光層間のエネルギー移動等相互作用を抑制し、且つ素子の電流電圧特性に大きな負荷を与えないということから好ましい。
【0147】
この非発光性の中間層に用いられる材料としては、発光層のホスト化合物と同一でも異なっていてもよいが、隣接する2つの発光層の少なくとも一方の発光層のホスト材料と同一であることが好ましい。
【0148】
非発光性の中間層は非発光層、各発光層と共通の化合物(例えば、ホスト化合物等)を含有していてもよく、各々共通ホスト材料(ここで、共通ホスト材料が用いられるとは、燐光発光エネルギー、ガラス転移点等の物理化学的特性が同一である場合やホスト化合物の分子構造が同一である場合等を示す。)を含有することにより、発光層−非発光層間の層間の注入障壁が低減され、電圧(電流)を変化させても正孔と電子の注入バランスが保ちやすいという効果を得ることができる。更に、非ドープ発光層に各発光層に含まれるホスト化合物と同一の物理的特性または同一の分子構造を有するホスト材料を用いることにより、従来の有機EL素子作製の大きな問題点である素子作製の煩雑さをも併せて解消することができる。
【0149】
ホスト材料はキャリアの輸送を担うため、キャリア輸送能を有する材料が好ましい。キャリア輸送能を表す物性としてキャリア移動度が用いられるが、有機材料のキャリア移動度は一般的に電界強度に依存性が見られる。電界強度依存性の高い材料は正孔と電子注入・輸送バランスを崩しやすいため、中間層材料、ホスト材料は移動度の電界強度依存性の少ない材料を用いることが好ましい。
【0150】
また、一方では、正孔や電子の注入バランスを最適に調整するためには、非発光性の中間層は後述する阻止層、即ち正孔阻止層、電子阻止層として機能することも好ましい態様として挙げられる。
【0151】
(注入層:電子注入層、正孔注入層)
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0152】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0153】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0154】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0155】
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0156】
正孔阻止層とは、広い意味では、電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0157】
一方、電子阻止層とは、広い意味では、正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては好ましくは3〜100nmであり、更に好ましくは5〜30nmである。
【0158】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0159】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0160】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0161】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0162】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0163】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような所謂、p型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることから、これらの材料を用いることが好ましい。
【0164】
正孔輸送層は、上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0165】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0166】
このようなp性の高い正孔輸送層を用いることが、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0167】
(電子輸送層)
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0168】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0169】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0170】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0171】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0172】
本発明においては、このようなn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0173】
(対向電極)
対向電極としては、前記透明導電層に対向する電極をいう。本発明においては、透明導電層を主に陽極として使用するため、対向電極としては以下に示す陰極を用いることができる。陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50nm〜200nmの範囲で選ばれる。尚、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0174】
また、陰極に上記金属を1nm〜20nmの膜厚で作製した後に、導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0175】
〔有機ELの作製方法〕
本発明の有機ELは、透明基材上に、光取り出し層と、透明導電層、有機エレクトロルミネッセンス層、及び対向電極を順次形成することにより作製できる。
【0176】
(透明導電層の形成)
透明基材上に、所望の電極物質を用いて透明導電層を形成することができる。例えば、電極物質としてITO(すずを添加した酸化インジウム)を用いる場合には、蒸着やスパッタリング等の方法により透明導電層を形成することができる。また、金属ナノワイヤや導電性ポリマーあるいは透明導電性金属酸化物を含む材料を、塗布法や印刷法などの液相成膜法を用いて透明導電層を形成することもできる。
【0177】
生産性の改善、平滑性や均一性などの電極品質の向上、環境負荷軽減の観点から、金属ナノワイヤを含有する透明導電層を塗布法や印刷法などの液相成膜法により形成することが好ましい。塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などを用いることができる。印刷法としては、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。なお、必要に応じて、密着性・塗工性を向上させるための予備処理として、離型性基材表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理を施すことができる。
【0178】
(有機エレクトロルミネッセンス層の形成)
陽極バッファー層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層の全部または一部からなる、透明導電層と陰極の間に形成された層を有機エレクトロルミネッセンス層という。この有機エレクトロルミネッセンス層の作製方法の一例として、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層からなる有機エレクトロルミネッセンス層の作製法について説明する。
【0179】
透明導電層を形成した透明基材上に、有機EL層の構成材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層の有機化合物薄膜を形成させる。
【0180】
この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましい。更に層毎に異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0181】
(陰極の形成)
上記の有機エレクトロルミネッセンス層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設ける。
【0182】
以上の工程により、有機エレクトロルミネッセンス層が得られる。有機エレクトロルミネッセンス層の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0183】
また作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の液晶表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0184】
(有機光変換素子)
本発明に係る有機光電変換素子の好ましい態様を説明するが、これに限定されるものではない。有機光電変換素子としては特に制限がなく、陽極と陰極と、両者に挟まれた発電層(p型半導体とn型半導体が混合された層、バルクヘテロジャンクション層、i層ともいう。)が少なくとも1層以上あり、光を照射すると電流を発生する素子であればよい。
【0185】
有機光電変換素子の層構成の好ましい具体例を以下に示す。
(i)陽極/発電層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発電層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発電層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/p型半導体層/発電層/n型半導体層/電子輸送層/陰極
(v)陽極/正孔輸送層/第1発光層/電子輸送層/中間電極/正孔輸送層/第2発光層/電子輸送層/陰極
ここで、発電層は、正孔を輸送できるp型半導体材料と電子を輸送できるn型半導体材料を含有していることが必要であり、これらは実質2層でヘテロジャンクションを形成していても良いし、1層の内部で混合された状態となっているバルクヘテロジャンクションを形成しても良いが、バルクヘテロジャンクション構成のほうが光電変換効率が高いため、好ましい。発電層に用いられるp型半導体材料、n型半導体材料については後述する。
【0186】
有機EL素子同様、発電層を正孔輸送層、電子輸送層で挟み込むことで、正孔及び電子の陽極・陰極への取り出し効率を高めることができるため、それらを有する構成((ii)、(iii))の方が好ましい。また、発電層自体も正孔と電子の整流性(キャリア取り出しの選択性)を高めるため、(iv)のようにp型半導体材料とn型半導体材料単体からなる層で発電層を挟み込むような構成(p−i−n構成ともいう)であっても良い。また、太陽光の利用効率を高めるため、異なる波長の太陽光をそれぞれの発電層で吸収するような、タンデム構成((v)の構成)であっても良い。
【0187】
太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、図1に示す有機光電変換素子10におけるサンドイッチ構造に替わって、一対の櫛歯状電極上にそれぞれ正孔輸送層14、電子輸送層16を形成し、その上に光電変換部15を配置するといった、バックコンタクト型の有機光電変換素子が構成とすることもできる。
【0188】
さらに、詳細な本発明に係る有機光電変換素子の好ましい態様を下記に説明する。
【0189】
図1は、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなる太陽電池の一例を示す断面図である。図1において、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子10は、基板11の一方面上に、陽極12、正孔輸送層17、バルクヘテロジャンクション層の発電層14、電子輸送層18及び陰極13が順次積層されている。
【0190】
基板11は、順次積層された陽極12、発電層14及び陰極13を保持する部材である。本実施形態では、基板11側から光電変換される光が入射するので、基板11は、この光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材である。基板11は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が用いられる。この基板11は、必須ではなく、例えば、発電層14の両面に陽極12及び陰極13を形成することでバルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子10が構成されてもよい。
【0191】
発電層14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。
【0192】
図1において、基板11を介して陽極12から入射された光は、発電層14のバルクヘテロジャンクション層における電子受容体あるいは電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。発生した電荷は、内部電界、例えば、陽極12と陰極13の仕事関数が異なる場合では陽極12と陰極13との電位差によって、電子は、電子受容体間を通り、また正孔は、電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流が検出される。例えば、陽極12の仕事関数が陰極13の仕事関数よりも大きい場合では、電子は、陽極12へ、正孔は、陰極13へ輸送される。なお、仕事関数の大小が逆転すれば電子と正孔は、これとは逆方向に輸送される。また、陽極12と陰極13との間に電位をかけることにより、電子と正孔の輸送方向を制御することもできる。
【0193】
なお、図1には記載していないが、正孔ブロック層、電子ブロック層、電子注入層、正孔注入層、あるいは平滑化層等の他の層を有していてもよい。
【0194】
さらに好ましい構成としては、前記発電層14が、いわゆるp−i−nの三層構成となっている構成(図2)である。通常のバルクヘテロジャンクション層は、p型半導体材料とn型半導体層が混合した、i層14i単体であるが、p型半導体材料単体からなるp層14p、及びn型半導体材料単体からなるn層14nで挟むことにより、正孔及び電子の整流性がより高くなり、電荷分離した正孔・電子の再結合等によるロスが低減され、一層高い光電変換効率を得ることができる。
【0195】
さらに、太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、このような光電変換素子を積層した、タンデム型の構成としてもよい。
【0196】
図3は、タンデム型のバルクヘテロジャンクション層を備える有機光電変換素子からなる太陽電池の一例を示す断面図である。タンデム型構成の場合、基板11上に、順次陽極(透明電極)12、第1の発電層14′を積層した後、電荷再結合層15を積層した後、第2の発電層16、次いで陰極(対電極)13を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。第2の発電層16は、第1の発電層14′の吸収スペクトルと同じスペクトルを吸収する層でもよいし、異なるスペクトルを吸収する層でもよいが、好ましくは異なるスペクトルを吸収する層である。また第1の発電層14′、第2の発電層16がともに前述のp−i−nの三層構成であってもよい。
【0197】
以下に、これらの層を構成する材料について述べる。
【0198】
(有機光電変換素子材料)
〈p型半導体材料〉
発電層(バルクヘテロジャンクション層)に用いられるp型半導体材料としては、種々の縮合多環芳香族低分子化合物や共役系ポリマー・オリゴマーが挙げられる。
【0199】
縮合多環芳香族低分子化合物としては、例えば、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、クリセン、ピセン、フルミネン、ピレン、ペロピレン、ペリレン、テリレン、クオテリレン、コロネン、オバレン、サーカムアントラセン、ビスアンテン、ゼスレン、ヘプタゼスレン、ピランスレン、ビオランテン、イソビオランテン、サーコビフェニル、アントラジチオフェン等の化合物、ポルフィリンや銅フタロシアニン、テトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体、ビス(エチレンジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT−TTF)−過塩素酸錯体、及びこれらの誘導体や前駆体が挙げられる。
【0200】
また、上記の縮合多環を有する誘導体の例としては、国際公開第03/16599号パンフレット、国際公開第03/28125号パンフレット、米国特許第6,690,029号明細書、特開2004−107216号公報等に記載の置換基をもったペンタセン誘導体、米国特許出願公開第2003/136964号明細書等に記載のペンタセンプレカーサ、J.Amer.Chem.Soc.,vol127.No14.4986、J.Amer.Chem.Soc.,vol.123、p9482、J.Amer.Chem.Soc.,vol.130(2008)、No.9、2706等に記載のトリアルキルシリルエチニル基で置換されたアセン系化合物等が挙げられる。
【0201】
共役系ポリマーとしては、例えば、ポリ3−ヘキシルチオフェン(P3HT)等のポリチオフェン及びそのオリゴマー、又はTechnical Digest of the International PVSEC−17,Fukuoka,Japan,2007,P1225に記載の重合性基を有するようなポリチオフェン、Nature Material,(2006)vol.5,p328に記載のポリチオフェン−チエノチオフェン共重合体、国際公開2008/000664号に記載のポリチオフェン−ジケトピロロピロール共重合体、Adv Mater,2007p4160に記載のポリチオフェン−チアゾロチアゾール共重合体,Nature Mat.vol.6(2007),p497に記載のPCPDTBT等のようなポリチオフェン共重合体、ポリピロール及びそのオリゴマー、ポリアニリン、ポリフェニレン及びそのオリゴマー、ポリフェニレンビニレン及びそのオリゴマー、ポリチエニレンビニレン及びそのオリゴマー、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリシラン、ポリゲルマン等のσ共役系ポリマー、等のポリマー材料が挙げられる。
【0202】
また、ポリマー材料ではなくオリゴマー材料としては、チオフェン6量体であるα−セクシチオフェンα,ω−ジヘキシル−α−セクシチオフェン、α,ω−ジヘキシル−α−キンケチオフェン、α,ω−ビス(3−ブトキシプロピル)−α−セクシチオフェン、等のオリゴマーが好適に用いることができる。
【0203】
これらの化合物の中でも、溶液プロセスが可能な程度に有機溶剤への溶解性が高く、かつ乾燥後は結晶性薄膜を形成し、高い移動度を達成することが可能な化合物が好ましい。
【0204】
また、発電層上に電子輸送層を塗布で製膜する場合、電子輸送層溶液が発電層を溶かしてしまうという課題があるため、溶液プロセスで塗布した後に不溶化できるような材料を用いても良い。
【0205】
このような材料としては、Technical Digest of the International PVSEC−17,Fukuoka,Japan,2007,P1225に記載の重合性基を有するようなポリチオフェンのような、塗布後に塗布膜を重合架橋して不溶化できる材料、又は米国特許出願公開第2003/136964号、及び特開2008−16834号公報等に記載されているような、熱等のエネルギーを加えることによって可溶性置換基が反応して不溶化する(顔料化する)材料などを挙げることができる。
【0206】
〈n型半導体材料〉
バルクヘテロジャンクション層に用いられるn型半導体材料としては、特に限定されないが、例えば、フラーレン、オクタアザポルフィリン等、p型半導体の水素原子をフッ素原子に置換したパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む高分子化合物等を挙げることができる。
【0207】
しかし、各種のp型半導体材料と高速(〜50fs)かつ効率的に電荷分離を行うことができる、フラーレン誘導体が好ましい。フラーレン誘導体としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン(円錐型)等、及びこれらの一部が水素原子、ハロゲン原子、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、シリル基等によって置換されたフラーレン誘導体を挙げることができる。
【0208】
中でも[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッドメチルエステル(略称PCBM)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nブチルエステル(PCBnB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−イソブチルエステル(PCBiB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nヘキシルエステル(PCBH)、Adv.Mater.,vol.20(2008),p2116等に記載のbis−PCBM、特開2006−199674号公報等のアミノ化フラーレン、特開2008−130889号公報等のメタロセン化フラーレン、米国特許第7329709号明細書等の環状エーテル基を有するフラーレン等のような、置換基を有してより溶解性が向上したフラーレン誘導体を用いることが好ましい。
【0209】
〈正孔輸送層・電子ブロック層〉
本発明に係る有機光電変換素子10は、バルクヘテロジャンクション層と陽極との中間には正孔輸送層17を、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0210】
これらの層を構成する材料としては、例えば、正孔輸送層17としては、スタルクヴイテック社製、商品名BaytronP等のPEDOT、ポリアニリン及びそのドープ材料、WO2006019270号等に記載のシアン化合物、などを用いることができる。なお、バルクヘテロジャンクション層に用いられるn型半導体材料のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有する正孔輸送層には、バルクヘテロジャンクション層で生成した電子を陽極側には流さないような整流効果を有する、電子ブロック機能が付与される。このような正孔輸送層は、電子ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する正孔輸送層を使用するほうが好ましい。このような材料としては、特開平5−271166号公報等に記載のトリアリールアミン系化合物、また酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化タングステン等の金属酸化物等を用いることができる。また、バルクヘテロジャンクション層に用いたp型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。バルクヘテロジャンクション層を形成する前に、下層に塗布膜を形成すると塗布面をレベリングする効果があり、リーク等の影響が低減するため好ましい。
【0211】
〈電子輸送層・正孔ブロック層〉
本発明に係る有機光電変換素子10は、バルクヘテロジャンクション層と陰極との中間には電子輸送層18を形成することで、バルクヘテロジャンクション層で発生した電荷をより効率的に取り出すことが可能となるため、これらの層を有していることが好ましい。
【0212】
また電子輸送層18としては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)を用いることができるが、同様に、バルクヘテロジャンクション層に用いられるp型半導体材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する電子輸送層には、バルクヘテロジャンクション層で生成した正孔を陰極側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与される。このような電子輸送層は、正孔ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する電子輸送層を使用するほうが好ましい。このような材料としては、バソキュプロイン等のフェナントレン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、及び酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物及びフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属化合物等を用いることができる。また、バルクヘテロジャンクション層に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0213】
〈その他の層〉
エネルギー変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層などを挙げることができる。
【0214】
〈透明電極(第1電極)〉
透明電極は、陰極、陽極は特に限定せず、素子構成により選択することができるが、好ましくは透明電極を陽極として用いることである。例えば、陽極として用いる場合、好ましくは380〜800nmの光を透過する電極である。材料としては、例えば、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の透明導電性金属酸化物、金、銀、白金等の金属薄膜、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブ用いることができる。
【0215】
またポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる導電性高分子等も用いることができる。また、これらの導電性化合物を複数組み合わせて透明電極とすることもできる。
【0216】
〈対電極(第2電極)〉
対電極は導電材単独層であっても良いが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用しても良い。対電極の導電材としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子の取り出し性能及び酸化等に対する耐久性の点から、これら金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。対電極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、(平均)膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0217】
対電極の導電材として金属材料を用いれば対電極側に来た光は反射されて第1電極側に反射され、この光が再利用可能となり、光電変換層で再度吸収され、より光電変換効率が向上し好ましい。
【0218】
また、対電極13は、金属(例えば金、銀、銅、白金、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)、炭素からなるナノ粒子、ナノワイヤー、ナノ構造体であってもよく、ナノワイヤーの分散物であれば、透明で導電性の高い対電極を塗布法により形成でき好ましい。
【0219】
また、対電極側を光透過性とする場合は、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、銀及び銀化合物等の対電極に適した導電性材料を薄く1〜20nm程度の(平均)膜厚で作製した後、上記透明電極の説明で挙げた導電性光透過性材料の膜を設けることで、光透過性対電極とすることができる。
【0220】
〈中間電極〉
また、前記(v)(又は図3)のようなタンデム構成の場合に必要となる中間電極の材料としては、透明性と導電性を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましく、前記透明電極で用いたような材料(ITO、AZO、FTO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au等の非常に薄い金属層又はナノ粒子・ナノワイヤーを含有する層、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等)を用いることができる。
【0221】
なお前述した正孔輸送層と電子輸送層の中には、適切に組み合わせて積層することで中間電極(電荷再結合層)として働く組み合わせもあり、このような構成とすると一層形成する工程を省くことができ好ましい。
【0222】
〈金属ナノワイヤ〉
導電性繊維としては、金属でコーティングした有機繊維や無機繊維、導電性金属酸化物繊維、金属ナノワイヤ、炭素繊維、カーボンナノチューブ等を用いることができるが、金属ナノワイヤが好ましい。
【0223】
一般に、金属ナノワイヤとは、金属元素を主要な構成要素とする線状構造体のことをいう。特に、本発明における金属ナノワイヤとはnmサイズの直径を有する線状構造体を意味する。
【0224】
金属ナノワイヤとしては、1つの金属ナノワイヤで長い導電パスを形成するために、また、適度な光散乱性を発現するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均直径は、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。本発明においては、金属ナノワイヤの平均直径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、直径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
【0225】
金属ナノワイヤの金属組成としては特に制限はなく、貴金属元素や卑金属元素の1種又は複数の金属から構成することができるが、貴金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等)及び鉄、コバルト、銅、錫からなる群に属する少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、導電性の観点から少なくとも銀を含むことがより好ましい。また、導電性と安定性(金属ナノワイヤの硫化や酸化耐性、及びマイグレーション耐性)を両立するために、銀と、銀を除く貴金属に属する少なくとも1種の金属を含むことも好ましい。金属ナノワイヤが2種類以上の金属元素を含む場合には、例えば、金属ナノワイヤの表面と内部で金属組成が異なっていてもよいし、金属ナノワイヤ全体が同一の金属組成を有していてもよい。
【0226】
本発明において金属ナノワイヤの製造手段には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837;Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745等、Auナノワイヤの製造方法としては特開2006−233252号公報等、Cuナノワイヤの製造方法としては特開2002−266007号公報等、Coナノワイヤの製造方法としては特開2004−149871号公報等を参考にすることができる。特に、上述した、Adv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、金属ナノワイヤの製造方法として好ましく適用することができる。
【0227】
本発明においては、金属ナノワイヤが互いに接触し合うことにより3次元的な導電ネットワークを形成し、高い導電性を発現するとともに、金属ナノワイヤが存在しない導電ネットワークの窓部を光が透過することが可能となり、さらに、金属ナノワイヤの散乱効果によって、有機発電層部からの発電を効率的に行うことが可能となる。第1電極において金属ナノワイヤを有機発電層部に近い側に設置すれば、この散乱効果がより有効に利用できるのでより好ましい実施形態である。
【0228】
〈光学機能層〉
本発明に係る有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していて良い。光学機能層としては、たとえば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、陰極で反射した光を散乱させて再度発電層に入射させることができるような光拡散層などを設けても良い。
【0229】
反射防止層としては、各種公知の反射防止層を設けることができるが、例えば、透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基板と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化スズゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0230】
集光層としては、例えば、支持基板の太陽光受光側にマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせたりすることにより特定方向からの受光量を高めたり、逆に太陽光の入射角度依存性を低減することができる。
【0231】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付き、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
【0232】
また、光散乱層としては、各種のアンチグレア層、金属又は各種無機酸化物などのナノ粒子・ナノワイヤー等を無色透明なポリマーに分散した層などを挙げることができる。
【0233】
〈製膜方法・表面処理方法〉
〈各種の層の形成方法〉
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層、及び輸送層・電極の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。このうち、バルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。このうち、前述の正孔と電子が電荷分離する界面の面積を増大させ、高い光電変換効率を有する素子を作製するためには、塗布法が好ましい。また塗布法は、製造速度にも優れている。
【0234】
この際に使用する塗布方法に制限は無いが、例えば、スピンコート法、溶液からのキャスト法、ディップコート法、ブレードコート法、ワイヤバーコート法、グラビアコート法、スプレーコート法等が挙げられる。さらには、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法等の印刷法でパターニングすることもできる。
【0235】
塗布後は残留溶媒及び水分、ガスの除去、及び半導体材料の結晶化による移動度向上・吸収長波化を引き起こすために加熱を行うことが好ましい。製造工程中において所定の温度でアニール処理されると、微視的に一部が凝集又は結晶化が促進され、バルクヘテロジャンクション層を適切な相分離構造とすることができる。その結果、バルクヘテロジャンクション層のキャリア移動度が向上し、高い効率を得ることができるようになる。
【0236】
発電層(バルクヘテロジャンクション層)14は、電子受容体と電子供与体とが均一に混在された単一層で構成してもよいが、電子受容体と電子供与体との混合比を変えた複数層で構成してもよい。この場合、前述したような塗布後に不溶化できるような材料を用いることで形成することが可能となる。
【0237】
〈パターニング〉
電極、発電層、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。
【0238】
バルクヘテロジャンクション層、輸送層等の可溶性の材料であれば、ダイコート、ディップコート等の全面塗布後に不要部だけ拭き取っても良いし、インクジェット法やスクリーン印刷等の方法を使用して塗布時に直接パターニングしても良い。
【0239】
電極材料などの不溶性の材料の場合は、電極を真空堆積時にマスク蒸着を行ったり、エッチング又はリフトオフ等の公知の方法によってパターニングすることができる。また、別の基板上に形成したパターンを転写することによってパターンを形成しても良い。
【実施例】
【0240】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0241】
(実施例1)
(支持体)
両面に易接着加工された50μmの厚さのポリエステルフィルム、帝人デュポンフィルム株式会社製、KDL86W−50μm(PET1)を支持体として用いた。
【0242】
(機能性多層フィルムの作製)
機能性多層フィルムは、上記支持体を30m/分の速度で搬送しながら、表1に示す層構成になるようにして機能性多層フィルム1〜12を形成した。形成順序としては、ブリードアウト防止層の形成後、UVカット性層側の1層目、2層目の順で形成した。各層の構成と形成方法は下記に示す。
【0243】
(ブリードアウト防止層1(BA防止)の形成)
BA防止層:上記支持体の片面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7535を塗布、乾燥後の(平均)膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、硬化条件;1.0J/cm空気下、高圧水銀ランプ使用、乾燥条件;80℃、3分で硬化を行い、ブリードアウト防止層1を形成した。
【0244】
(UVカット性層の形成)
UVカット性層1:本発明に係る無機系UV吸収剤を含む、東洋インキ株式会社製 UV硬化型ハードコート剤 TYN65(UV硬化型有機/酸化亜鉛粒子含有、屈折率を1.65に調整)をUVカット性層塗布液1とした。これを塗布、乾燥後の(平均)膜厚が4μmになるように上記支持体にワイヤーバーで塗布した後、空気雰囲気下で、乾燥条件;80℃、1分で乾燥後、高圧水銀ランプ使用、空気雰囲気下、硬化条件;400mJ/cmでUV硬化処理を行い、UVカット性層1(UV1)を、表1に示されるように、上記支持体の片面に形成した。
【0245】
UVカット性層2:本発明に係る無機系UV吸収剤を含む、昭和電工株式会社製 シリカコート微粒子酸化亜鉛 マックスライト ZS64を50%、中国塗料株式会社製 UV硬化型樹脂 オーレックス349に分散させたものUVカット性塗布液2とし、UVカット性層1と同様にして、塗布、乾燥、UV硬化処理を行い、表1に示される位置にUVカット性層2(UV2)を形成した。
【0246】
UVカット性層3:有機系のUV吸収剤である、BASFジャパン株式会社製 Tinuvin477を10%、中国塗料株式会社製 UV硬化型樹脂 オーレックス349に分散させたものUVカット性塗布液3とし、UVカット性層1と同様にして、塗布、乾燥、UV硬化処理を行い、表1に示される位置にUVカット性層3(UV3)を形成した。
【0247】
(シリカ層の形成)
表1に示されるような構成になるように、以下の条件でシリカ層を形成した。比較例4は、1層目を以下の条件でシリカ層を形成し、その後2層目も同様にシリカ層を形成した。
【0248】
・シリカ層A:
(シリカ層塗布液)
パーヒドロポリシラザン(PHPS)の20質量%ジブチルエーテル溶液
AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 アクアミカ NN320
ワイヤレスバーにて、乾燥後の(平均)膜厚が、0.30μmとなるように塗布し、塗布試料を得た。
【0249】
(第一工程;乾燥処理)
得られた塗布試料を温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分処理し、乾燥試料を得た。
【0250】
(第二工程;除湿処理)
乾燥試料をさらに温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行った。
【0251】
(改質処理)
除湿処理を行った試料を、下記改質処理条件A及びBの条件で改質処理を行い、それぞれシリカ層A(シリカA)、シリカ層B(シリカB)を形成した。改質処理時の露点温度は−8℃で実施した。
【0252】
(改質処理装置)
株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200、波長 172nm、ランプ封入ガス Xe
稼動ステージ上に固定した試料を以下の条件で改質処理を行った。
【0253】
(改質処理条件A)
エキシマ光強度 130mW/cm(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 0.5%
エキシマ照射時間 3秒
(改質処理条件B)
エキシマ光強度 80mW/cm(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 0.5%
エキシマ照射時間 20秒
・シリカ層C:
シリカ層Aと同様にして除湿処理まで行った試料を、300℃、1時間、乾燥機中で乾燥して充分硬化させ、シリカ層C(シリカC)を形成した。
【0254】
・シリカ層D:
シリカ層Aと同様にして除湿処理まで行った試料を、空気雰囲気下、高圧水銀ランプを使用して300mJ/cmでUV硬化処理を行って充分硬化させ、シリカ層D(シリカD)を形成した。
【0255】
(UV硬化処理)
機能性多層フィルム4,6,7,8は、1層目、2層目形成後、高圧水銀ランプ使用、空気雰囲気下、硬化条件;400mJ/cmで更にUV硬化処理を行った。(表中、追加のUV硬化と記した。)
〔機能性多層フィルムの評価〕
下記のような測定方法で、耐候性、防汚性、ガスバリア性、耐擦傷性を評価した。
【0256】
<耐候性>
メタルハライドランプ方式の耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス社製)を使用し、試料面放射強度:2.16MJ/m以下、ブラックパネル温度63℃、相対湿度:50%、照射時間500時間の条件で試験を行い、照射後のサンプルについて下記の引張試験機を用いて破断伸度を測定することにより、耐候性を評価した。破断に至るまでの伸び率の大きな方が、耐候性が優れている事を示す。
【0257】
温度可変式引張試験機(「島津オートグラフAGS−100D」;島津製作所製)を用い、幅10mmに切り取ったガスバリア性フィルム試験片を、23℃、チャック間距離50mm、引張速度50mm/分の条件で引っ張って、破断に至るまでの伸び率を以下の式により求めた。
【0258】
伸び率(%)=〔(破断時の長さ−元の長さ)/元の長さ〕×100
<防汚性>
機能性多層フィルム1〜12を1年間屋外で南向き30°と90°(垂直)に曝露し、垂直面における汚れの発生の有無と、30°面の汚れ度合いを初期(ブランク)とのΔE値(JIS規格Z−8729)で評価した。色差計測はJUKI(株)製の光学色差計(JP7200F)を用いた。ΔE値が3.0を超えるものは防汚性に劣るものと判定する。
【0259】
<ガスバリア性(水蒸気透過度の評価)>
以下の測定方法により評価した。
【0260】
(装置)
蒸着装置:日本電子株式会社製 真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
(原材料)
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
(水蒸気バリア性評価用セルの作製)
表1で示される機能性多層フィルム試料1〜12のシリカ層側に、真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、透明導電膜を付ける前の機能性多層フィルム試料の蒸着させたい部分(12mm×12mmを9箇所)以外をマスクし、金属カルシウムを蒸着させた。その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚さ0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。
【0261】
得られた両面を封止した試料を60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号公報に記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。
【0262】
なお、機能性多層フィルム面以外からの水蒸気の透過が無いことを確認するために、比較試料として機能性多層フィルム試料の代わりに、厚さ0.2mmの石英ガラス板を用いて金属カルシウムを蒸着した試料を、同様な60℃、90%RHの高温高湿下保存を行い、1000時間経過後でも金属カルシウム腐食が発生しないことを確認した。
【0263】
得られた水分量から以下の5段階に分類した。
【0264】
A:1×10−5g/m/day未満
B:1×10−5g/m/day以上、1×10−4g/m/day未満
C:1×10−4g/m/day以上、1×10−3g/m/day未満
D:1×10−3g/m/day以上、1×10−2g/m/day未満
E:1×10−2g/m/day以上
<シリカ層の改質層膜厚>
本発明に係るシリカ層の改質層膜厚は、その断面の超高解像透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による転位線観察により測定した。明確な界面が観察されないが、改質膜と未改質膜間でグラデーションがかかった様態で観測され改質層と未改質層を区別することは可能である。グラデーション部分の丁度中間を改質層と未改質層の界面と仮定して膜厚を見積もった。表1では改質膜厚%として記した。改質膜厚%は改質層膜厚を全膜厚(改質層膜厚+未改質層膜厚)で除した値のパーセント表示である。
【0265】
<耐擦傷性>
膜表面をスチールウール#0000を用いて、200gの荷重下で10回擦った後に、傷のつくレベルを確認した。判定は次の基準に従った。3以上が実用上問題ないレベル。
【0266】
5 :全くつかない。
【0267】
4 :1〜2本かすかに傷が見られる。
【0268】
3 :1〜2本、僅かに傷が見られる。
【0269】
2 :3本以上の傷が見られる。
【0270】
1 :10本以上の傷がみられる。
【0271】
(耐曲げ性)
耐曲げ性の評価は下記のように屈曲処理行った後に密着性を測定することにより行った。
【0272】
得られた各機能性多層フィルムのガスバリア層面を外側にして、φ50mmの金属ロールに抱かせ、25℃50%RH環境下で10g/cm(98mN/cm)の張力をかけて100往復、フィルムを搬送させた。
【0273】
密着性評価は、JIS K5400にあるクロスカット(碁盤の目)法により、下記基準で評価した。
【0274】
5:剥離マス数0〜5/100
4:剥離マス数6〜10/100
3:剥離マス数11〜30/100
2:剥離マス数31〜50/100
1:剥離マス数51以上/100
なお、実用上に耐えうるのはランク3以上である。
【0275】
上記試料の内容と評価結果を表1に示す。
【0276】
なお、表1では以下のように略記した。
PET1:帝人デュポンフィルム株式会社製、ポリエステルフィルム、KDL86W−50μm
BA1:ブリードアウト防止層1
UV1:UVカット性層1
UV2:UVカット性層2
UV3:UVカット性層3
シリカA:シリカ層A
シリカB:シリカ層B
シリカC:シリカ層C
シリカD:シリカ層D
【0277】
【表1】

【0278】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の試料は有機UV吸収剤を使用した機能性多層フィルム10や、ポリシラザンを加熱乾燥、またはUV硬化処理した機能性多層フィルム9,11及び、UVカット性層を用いない機能性多層フィルム12に比べ、明らかに防汚性や水蒸気バリア性、耐候性、耐擦傷性に加え、耐曲げ性が優れている。更に、改質膜厚%が50〜80%内のシリカ層B、および無機系UV吸収剤の酸化亜鉛がシリカで表面処理されたUVカット性層2を使った試料が効果の大きいことがわかる。
【0279】
実施例2
[ガスバリア性フィルムの形成]
実施例1で作成した機能性多層フィルム1〜12に対し、BA防止層の上に下記の条件でさらにガスバリア層を形成し、それぞれ対応するガスバリア性フィルム1〜12を作製した。
【0280】
(ガスバリア層塗布液)
パーヒドロポリシラザン(PHPS)の20質量%ジブチルエーテル溶液
AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN120−20
ロールコーターにて、乾燥後の(平均)膜厚が、0.17μmとなるように塗布し、塗布試料を得た。
【0281】
得られた塗布試料を露点−5℃の乾燥空気で80℃3分で乾燥した。
【0282】
(パーヒドロポリシラザン層の改質(酸化)処理条件)
MDエキシマ社製のステージ可動型キセノンエキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200(波長172nm)を用い、ランプと上記試料の照射距離を1mmとなるように試料を固定し、試料温度が85℃となるように保ちながら、ステージの移動速度を10mm/秒の速さで試料を往復搬送させて、合計7往復照射したのち、試料を取り出した。
【0283】
(酸素濃度の調整)
真空紫外光(VUV)照射時の酸素濃度は、真空紫外光(VUV)照射庫内に導入する窒素ガス、及び酸素ガスの流量をフローメーターにより測定し、照射庫内に導入するガスの窒素ガス/酸素ガス流量比により酸素濃度が0.2体積%〜から0.4体積%の範囲になるように調整した。
【0284】
〔有機光電変換素子の作製〕
上記で作成したガスバリア性フィルム1〜12のガスバリア層側に、それぞれ、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(シート抵抗10Ω/□)を、通常のフォトリソグラフィ技術と湿式エッチングとを用いて2mm幅にパターニングし第1の電極を形成した。パターン形成した第1の電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0285】
この透明基板上に、導電性高分子であるBaytron P4083(スタルクヴィテック社製)を(平均)膜厚が30nmになるように塗布乾燥した後、150℃で30分間熱処理させ正孔輸送層を製膜した。
【0286】
これ以降は、基板を窒素チャンバー中に持ち込み、窒素雰囲気下で作製した。
【0287】
まず、窒素雰囲気下で上記基板を150℃で10分間加熱処理した。次に、クロロベンゼンにP3HT(プレクトロニクス社製:レジオレギュラーポリ−3−ヘキシルチオフェン)とPCBM(フロンティアカーボン社製:6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル)を3.0質量%になるように1:0.8で混合した液を調製し、フィルタでろ過しながら(平均)膜厚が100nmになるように塗布を行い、室温で放置して乾燥させた。続けて、150℃で15分間加熱処理を行い、光電変換層を製膜した。
【0288】
次に、上記一連の機能層を製膜した基板を真空蒸着装置チャンバー内に移動し、1×10−4Pa以下まで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.01nm/秒でフッ化リチウムを0.6nm積層し、更に続けて、2mm幅のシャドウマスクを通して(受光部が2×2mmに成るように直行させて蒸着)、蒸着速度0.2nm/秒でAlメタルを100nm積層することで第2の電極を形成した。得られた有機光電変換素子を窒素チャンバーに移動し、封止用キャップとUV硬化樹脂を用いて封止を行って、受光部が2×2mmサイズの有機光電変換素子を作製した。以下にガスバリア性フィルムを用いた封止の工程を記す。
【0289】
(有機光電変換素子の封止)
窒素ガス(不活性ガス)によりパージされた環境下で、ガスバリア性フィルム試料1〜12の二枚を用い、ガスバリア層を設けた面に、シール材としてエポキシ系光硬化型接着剤を塗布した。上述した方法によって得られた試料1〜12に対応する有機光電変換素子を、上記接着剤を塗布した二枚のガスバリア性フィルム試料1〜21の接着剤塗布面の間に挟み込んで密着させた後、片側の基板側からUV光を照射して硬化させ、有機光電変換素子1〜12を作成した。
【0290】
<有機光電変換素子の耐候性の評価>
(《エネルギー変換効率の評価》)
実施例1で作製した機能性多層フィルム1〜12に、更にガスバリア層を設けたガスバリア性フィルム1〜12に対応して上記作製した有機光電変換素子1〜12のそれぞれについて、ソーラーシミュレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cmの強度の光を照射し、有効面積を4.0mmにしたマスクを受光部に重ね、IV特性を評価することで、短絡電流密度Jsc(mA/cm)、開放電圧Voc(V)及びフィルファクターFF(%)を、同素子上に形成した4箇所の受光部をそれぞれ測定し、下記式1に従って求めたエネルギー変換効率PCE(%)の4点平均値を見積もった。
(式1)PCE(%)=〔Jsc(mA/cm)×Voc(V)×FF(%)〕/100mW/cm
初期電池特性としての変換効率を測定し、性能の経時的低下の度合いを、メタルハライドランプ方式の耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス社製)を使用し、試料面放射強度:2.16MJ/m以下、ブラックパネル温度63℃、相対湿度:50%、照射時間500時間の条件で耐候性試験を行い、加速試験後の変換効率残存率を以下のようにランク分けすることにより光、熱、湿度に対する耐候性を評価した。この値の高い方が耐候性に優れていることを表す。加速試験後の変換効率/初期変換効率の比
5:90%以上
4:70%以上、90%未満
3:40%以上、70%未満
2:20%以上、40%未満
1:20%未満
それぞれの評価結果を表2に示す。
【0291】
【表2】

【0292】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のガスバリア性フィルムを用いて作製した有機光電変換素子は、過酷な環境下でも性能劣化が発生し難いことが分かる。
【符号の説明】
【0293】
10 バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子
11 基板
12 陽極
13 陰極
14 発電層
14p p層
14i i層
14n n層
14’ 第1の発電層
15 電荷再結合層
16 第2の発電層
17 正孔輸送層
18 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に無機系UV吸収剤とUV硬化樹脂とを含有するUVカット性層、ポリシラザン含有の塗布膜に改質処理を施して形成されるシリカ層がこの順で積層されて形成しており、かつUVカット性層はUV硬化処理、シリカ層は波長200nm以下の真空紫外光を照射する改質処理によって形成されたことを特徴とする機能性多層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記UVカット性層中の無機系UV吸収剤の粒子表面が無機物で表面処理されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記UVカット性層中の無機系UV吸収剤が酸化チタン、または酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1または2に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記シリカ層中の改質処理により改質された層の膜厚が、改質処理前の前記ポリシラザン含有の塗布膜の30〜80%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記UVカット性層と前記シリカ層を形成したのち、更にUV硬化処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の機能性多層フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造された機能性多層フィルムの、前記UVカット性層およびシリカ層とは反対側の前記基材上に、ガスバリア層を有していることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のガスバリア性フィルムを用いたことを特徴とする有機素子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−86393(P2012−86393A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233157(P2010−233157)
【出願日】平成22年10月16日(2010.10.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】