説明

機能性布帛およびその製造方法

【課題】 酸化チタン光触媒粉末をバインダーで固定した上で、高い光触媒初期活性を有しうる機能性繊維布帛およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 平均粒子径が1μm以下の酸化チタン光触媒粉末を、アクリル系バインダー樹脂で繊維布帛に固定する際に、酸化チタン粉末の付着量をとアクリル系バインダー樹脂の量を繊維布帛100重量部に対し0.1〜1.0重量%とし、かつ該アクリル系バインダー樹脂の付着量を、該酸化チタン光触媒粉末の付着量100重量部に対し10〜100重量%とすることで、消臭および抗菌機能を有する繊維布帛を提供する。さらにその光触媒加工繊維布帛を、ミネラル分や有機物を取り除く処理を施した水に浸漬し乾燥する処理、または蒸気を吹きつけた後乾燥する処理を施すことで、光触媒の活性化を促進することができ、高い消臭および抗菌機能を有する繊維布帛の製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料やカーテン、カーペット、壁紙等のインテリア用品、自動車等のシート材などに広く応用でき、消臭および抗菌機能を有する繊維布帛に関する技術である。
【従来技術】
【0002】
従来、繊維に光触媒を担持する方法として、スパッタリングで繊維上に酸化チタン皮膜を形成する方法や、光触媒をコロイド溶液として浸漬させる方法、ディップニップ方式で付着させる等の方法が用いられている。しかしこれらは繊維に光触媒を直接担持させたものであるため、剥離や粉落ち等が生じてしまい、長期にわたって繊維に担持することが困難になっている。
【0003】
また、繊維に酸化チタン光触媒粉末を練り込む方法を用いた場合、光触媒が繊維に固定されて長期間にわたり光触媒の脱落を防止することが可能になるが、光触媒が繊維中に埋没してしまい触媒性能を効率良く発揮できないという問題や、繊維中に練り込まれた光触媒を繊維表面に露出させるための特別な処理が必要になるなどの問題があった。
【0004】
さらに光触媒をバインダー樹脂成分と混合して塗布する方法では、酸化チタン光触媒粉末がバインダー樹脂に埋没してしまい充分な光触媒活性が得られなかったり、加工工程で他の薬剤や不純物の影響により、光触媒の初期活性が低いといった問題点があった。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決し、高い光触媒活性を維持しつつ酸化チタン光触媒粉末と繊維の密着性を維持することで耐久性に優れた、消臭および抗菌機能を有する繊維布帛を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一は、編織物や不織布などの繊維布帛に、活性成分として酸化チタン光触媒粉末をアクリル系バインダー樹脂によって固定する際の、最適な酸化チタン光触媒粉末とアクリル系バインダー樹脂の付着量を内容とする。平均粒子径が1μm以下の酸化チタン光触媒粉末がアクリル系バインダー樹脂により固定されてなる、消臭および抗菌機能を有する繊維布帛において、該酸化チタン光触媒粉末の繊維布帛への付着量を繊維布帛100重量部に対し0.1〜1.0重量%とし、かつ該アクリル系バインダー樹脂の付着量を、該酸化チタン光触媒粉末の付着量100重量部に対し10〜100重量%とすることで、優れた消臭および抗菌機能を有する繊維布帛を提供する。
【0007】
本発明の第二は、繊維布帛に酸化チタン光触媒粉末を付着させた後、光触媒を活性化する方法を内容とする。繊維布帛に酸化チタン光触媒を付着させた直後は酸化チタン光触媒の表面に加工上の様々な不純物が付着しており、これを水に浸漬あるいは蒸気を吹きかけることで除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は衣料やカーテン、カーペット、壁紙等のインテリア用品、自動車等のシート材などに広く有用な繊維布帛として使用することができる。また、繊維布帛の繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリルなどの合成繊維、アセテート、レーヨンなどの半合成繊維、羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維などから選ばれる1種または複数の繊維、あるいは有機質繊維以外の無機質繊維と組み合わせてなる繊維を使用することができる。
【0009】
酸化チタン光触媒粉末の粒子径はnmオーダーの大きさのものが開発されているが、この大きさは通常結晶粒子の大きさであり、実際に使用されるときはこの結晶が集まった粒子状態になっている。粒子の大きさはレーザー回折散乱方式などの方法で測定でき、酸化チタン光触媒粉末としては平均粒子径が10μ前後の大きさから1μm以下のものまで多くの種類が供給されているが、粒子径が大きくなると繊維表面の手触りが変化する可能性が生じてくる。さらに効率よく消臭および抗菌機能を発揮するためには、なるべく小さな粒子径の酸化チタン光触媒粉末が分散していた方がよく、1μm以下の粒子径の酸化チタン光触媒粉末を用いるべきである。このとき酸化チタン光触媒粉末がアクリル系バインダー樹脂に埋没しないように、酸化チタン光触媒粉末とアクリル系バインダー樹脂の付着量を適正に選択する必要がある。
【0010】
一般的に酸化チタン光触媒粉末の付着量は多いほど消臭および抗菌機能は高くなるが、酸化チタン光触媒粉末は白色をしているため、あまり付着量を多くすると、加工対象の色合いや風合いを著しく損なうことがある。また付着量を過度に上げるとコスト面の問題が大きくなるため、製品の使用目的に合せて酸化チタン粉末の付着量を決定する必要がある。これらのことから酸化チタン光触媒粉末の付着量は繊維布帛100重量部に対し0.1〜1.0重量%の範囲にすべきであり、より好ましくは繊維布帛100重量部に対し0.1〜0.4重量%の範囲にすべきである。
【0011】
また酸化チタン光触媒粉末として、酸化チタン粒子の表面の一部にアパタイトやシリカなどの光不活性な無機化合物を設けたものを使用することもできる。この光不活性な無機化合物によって、アクリル系バインダー樹脂や布地が酸化チタン光触媒と直接接触することを減らすことができ、より耐久性が高くなる。
【0012】
酸化チタン光触媒粉末を繊維布帛に付着させるには、光触媒粉末を水に分散した液を使用するが一般的であり、繊維布帛への影響や取扱いの容易さから、なるべく中性に近い液を使用するのが好ましい。このようなものとしては、昭和電工製F6−APSや、可視光型光触媒粉末を分散した液を挙げることができる。
【0013】
前記酸化チタン光触媒粉末の付着量に対して、それを固定するために使用するアクリル系バインダー樹脂の付着量も一定の範囲内にするべきである。アクリル系バインダー樹脂の付着量は多いほど酸化チタン光触媒粉末をより強く固定することになるが、アクリル系バインダー樹脂の付着量が増えすぎると、酸化チタン光触媒粉末がバインダー樹脂に埋没してしまい、光触媒の分解対象となるニオイ成分や細菌などが光触媒に接触できなくなるため、充分な消臭および抗菌機能が得られなくなってしまう。さらに繊維布帛の風合いを損ねる原因ともなる。そのためにアクリル系バインダー樹脂の付着量は該酸化チタン光触媒粉末の付着量100重量部に対し10〜100重量%の範囲にすべきであり、より好ましくは該酸化チタン光触媒粉末の付着量100重量部に対し20〜50重量%の範囲にすべきである。
【0014】
前記アクリル系バインダー樹脂は、光触媒粉末の水分散液と混合するため、アクリル系バインダー樹脂を水に乳化分散した液を使うのが一般できである。
【0015】
繊維布帛に光触媒を塗布する際に酸化チタン光触媒粉末とアクリル系バインダー樹脂を含む水分散液を使用し、この水分散液に繊維布帛を浸漬あるいは水分散液を繊維布帛に噴霧することで、酸化チタン光触媒粉末を繊維布帛に付着させている。このとき酸化チタン光触媒粉末やアクリル系バインダー樹脂を水に分散するために、界面活性剤などを加えることで分散安定性を維持している。この界面活性剤が塗布、乾燥後にも酸化チタン光触媒粉末表面に残ってしまい、光触媒反応を阻害することになる。また、光触媒加工以外にも繊維布帛には様々な薬剤が使われており、これらが水分散剤に溶出して塗布、乾燥後に酸化チタン光触媒粉末表面に残ってしまい、これらの薬剤も光触媒反応を阻害する原因になることがある。これら酸化チタン光触媒粉末表面に付着した界面活性剤や薬剤は、光触媒反応により酸化チタン表面から徐々に分解除去されてゆくが、分解が進むまでは抗菌および消臭機能が充分発揮されないことになる。
【0016】
そこで酸化チタン光触媒粉末とアクリル系バインダー樹脂を含む水分散液を繊維布帛に噴霧し、または該水分散液に繊維布帛を浸漬し乾燥した後、該繊維布帛を、ミネラル分や有機物を取り除く処理を施した水に浸漬し乾燥する処理を施すことで、前記界面活性剤や薬剤を予め除去でき、直ちに抗菌および消臭機能を発揮できる繊維布帛を得ることができる。
【0017】
前記処理に使用する水はなるべく不純物を取り除いたものを使用する。なぜなら、処理に使用する水の中に存在するミネラル分や有機物は、乾燥後酸化チタン光触媒表面に残り、これが光触媒反応を阻害する可能性があるからである。よって蒸留水やイオン交換水など不純物を取り除く処理をした水を使用するべきであり、不純物の存在量が少ないほど効果的である。
【0018】
また前記の水に浸漬する処理の代わりに、蒸気を吹きかけることにより同様の効果を得ることができる。蒸気を利用することで、その後の繊維布帛の乾燥をより容易にできるという利点がある。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
<実施例1>
市販の酸化チタン光触媒水分散剤(昭和電工製F6−APS)およびアクリル系バインダー樹脂として市販されているアクリルエマルジョン(共栄社化学製ライトエポックAX−45)を混合し、水で希釈して酸化チタン粉末濃度0.18重量%、アクリル樹脂固形分濃度0.08重量%の混合液を得た。この混合液にポリエステル布地(目付け140g/m)を浸漬し、ポリエステル布地重量と同じ重量の混合液が布地に残るように絞り、110℃で乾燥して実施例1となる光触媒加工繊維Aを得た。
【0021】
<実施例2>
実施例1で得た光触媒加工繊維Aを、純水に10分間浸漬し、脱水後110℃で乾燥することで実施例2となる光触媒加工繊維Bを得た。
【0022】
<実施例3>
実施例1で得た光触媒加工繊維Aを、ビーカーに水を入れて過熱することで蒸気を発生させ、実施例1で得た光触媒加工繊維Aをこの蒸気の中に置くことで蒸気を3分間吹きかけた後110℃で乾燥し、実施例3となる光触媒加工繊維Cを得た。
【0023】
<比較例1>
販の酸化チタン光触媒水分散剤(昭和電工製F6−APS)およびアクリル系バインダー樹脂として市販されているアクリルエマルジョン(共栄社化学製ライトエポックAX−45)を混合し、水で希釈して酸化チタン粉末濃度0.18重量%、アクリル樹脂固形分濃度0.27重量%の混合液を得た。この混合液にポリエステル布地(目付け140g/m)を浸漬し、ポリエステル布地重量と同じ重量の混合液が布地に残るように絞り、110℃で乾燥して比較例1となる光触媒加工繊維Dを得た。
【0024】
<光触媒加工繊維の評価>
前記光触媒加工繊維A〜Dから5cm四方の大きさの試料a〜dを、それぞれテドラーバッグ(容量1L)内に置き、20ppmに調製したアセトアルデヒドを1L入れる。このテドラーバッグの上部から1mW/cmの紫外線強度になるように高さを調整したブラックライトで紫外線を照射して、4時間後と16時間後のアセトアルデヒド濃度を検知管(ガステック製92L)で測定した。
【0025】
試料aでは4時間後に4ppmとなり、16時間後には検出限界以下になっていた。試料bおよびcでは4時間後には検出限界以下となっていた。比較例である試料dでは4時間後に19ppmとなり16時間後でも6ppmのアセトアルデヒドが検出された。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明からわかるように、本発明のように酸化チタン光触媒の繊維布帛への付着量と、それを固定するためのバインダー樹脂の付着量を選択することで、高い消臭および抗菌機能を有する繊維布帛を提供することができる。
【0027】
さらに本発明によれば、その光触媒加工繊維をミネラル分や有機物を取り除く処理を施した水に浸漬し乾燥する処理、または蒸気を吹きつけた後乾燥する処理を施すことで、光触媒の活性化を促進することができ、高い消臭および抗菌機能を有する繊維布帛の製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以下の酸化チタン光触媒粉末がアクリル系バインダー樹脂により固定されてなる、消臭および抗菌機能を有する繊維布帛において、該酸化チタン光触媒粉末の繊維布帛への付着量が繊維布帛100重量部に対し0.1〜1.0重量%であり、かつ該アクリル系バインダー樹脂の付着量が、該酸化チタン光触媒粉末の付着量100重量部に対し10〜100重量%であることを特徴とする消臭および抗菌機能を有する繊維布帛。
【請求項2】
酸化チタン光触媒粉末とアクリル系バインダー樹脂を含む水分散液を繊維布帛に噴霧し、または該水分散液に繊維布帛を浸漬し乾燥した後、該繊維布帛を、ミネラル分や有機物を取り除く処理を施した水に浸漬し乾燥する処理を施すことを特徴とする請求項1記載の消臭および抗菌機能を有する繊維布帛の製造方法。
【請求項3】
酸化チタン光触媒粉末とアクリル系バインダー樹脂を含む水分散液を繊維布帛に噴霧し、または該水分散液に繊維布帛を浸漬し乾燥した後、該繊維布帛に蒸気を吹きかける処理を施すことを特徴とする請求項1記載の消臭および抗菌機能を有する繊維布帛。