機能性有機りん化合物およびその製造方法
【課題】分子内に複数個の不飽和基を持っている非加水分解性の有機りん化合物であり、電子線またはγ線などの放射線の処理を施す事によって有機高分子化合物との間に架橋結合が形成されるゆえに、有機高分子化合物に対する難燃剤としての機能と架橋剤としての機能とを合わせ持っていて、しかも、それが有機合成の原料としても有用であるような機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法を提供する事。
【解決手段】一般式1で表され、分子内に複数個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物。
【化8】
(式1中、R1 およびR2 は4−アリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R3 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示す。)
【解決手段】一般式1で表され、分子内に複数個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物。
【化8】
(式1中、R1 およびR2 は4−アリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R3 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性有機りん化合物に関する。さらに詳細には、分子内に複数個の不飽和基を持っている非加水分解性の有機りん化合物であり、電子線またはγ線などの放射線の処理を施す事によって有機高分子化合物との間に架橋結合が形成されるゆえに、有機高分子化合物の難燃剤としての機能と架橋剤としての機能とを合わせ持っていて、しかもそれが有機合成の原料としても有用であるような機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機りん化合物は有機高分子化合物の安定剤、可塑剤または難燃剤として有用であり、また特殊な界面活性剤、極圧添加剤または農薬などとしても幅広い用途を持っている。中でも、高分子化合物の難燃剤としては、同じ用途に使用されていた有機ハロゲン化合物が火災における燃焼時に有毒ガスを発生したり、その焼却処分時に焼却炉を腐食したり、環境汚染性の有害物質を排出したりする事などが忌避されて、難燃剤を使用する業界においてはハロゲン系の難燃剤を他の難燃剤に置き換えようとする動きが活発であり、この目的には有機りん化合物が特に注目されている。
【0003】
しかし従来、難燃剤として使用されて来た有機りん化合物の多くはりん酸エステル系のものであり、有機ハロゲン化合物に比較すれば加水分解しやすく、特に電気部品または電子機器部品などの用途には電気絶縁性の保持などの目的から、有機りん化合物に対しても非加水分解性の要求は強いものである。従来、広く使用されて来たりん酸エステル系の有機りん化合物は高分子材料の中で高温の水分またはアルカリの存在下で加水分解されて、その生成物が高分子材料の電気絶縁性を低下させたり、極端な場合には高分子材料の基板上に設けられた微細な電気配線を腐食したりする傾向があった。ゆえに、それらの難燃剤を電気部品または電子機器部品などの用途に使用する場合には問題であり、非加水分解性の有機りん化合物の開発は切実な要求であり、それが待たれているのが現状である。
【0004】
一方では、複数個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や紫外線、電子線またはγ線などの放射線の処理によって、重合または有機高分子化合物との間に架橋結合の形成可能な機能を持った有機りん化合物の開発も同様に望まれている。従来、高度な耐熱性が要求される機械部品、電気部品または電子機器部品などの製造にはフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂などのように耐熱性の優れた熱硬化性の樹脂が使用されてきたが、これらの熱硬化性樹脂を使用する時の欠点としては、熱可塑性樹脂の成形に比べて、1.硬化に時間が掛かり生産性が悪い事、2.部品の小型化または精密化に限度がある事または3.製品の均一性が充分でない事などがあった。そこで、これらの熱硬化性の樹脂に代わって、架橋剤を添加した熱可塑性樹脂の成形品に電子線やγ線などの放射線の処理を施す事によって、樹脂に架橋構造を形成させて熱硬化性樹脂並みの耐熱性を与えようとする技術が発展していて、既に実用化もされている。そして最近では、この架橋剤にさらに難燃剤としての機能を持っているものが要求されており、この理由で有機りん化合物にも架橋剤としての機能を持ったものの開発が求められているところである。この技術によれば、たとえば、ポリエチレンまたは若干のゴム類のように放射線処理による自己架橋性の熱可塑性樹脂には単なる放射線などの処理だけで架橋されて、架橋剤の存在なしで耐熱性が得られるものも幾つか知られてはいるが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂またはポリアミド樹脂などのように自己架橋性のない多くの熱可塑性樹脂には通常、放射線処理前に架橋剤としてPFM(ポリファンクショナルモノマー:多官能性単量体)と称されている有機化合物が添加されてから部品類が成形され、その後で電子線またはγ線などの放射線の処理がなされ、部品類の外形を全く変化させないで所望の耐熱性が与えられる。PFM(以下、本明細書においては放射線処理を目的とした架橋剤を単にPFMと称する。)は複数個の不飽和基を持った有機化合物であって、対象となる熱可塑性樹脂と相溶性のある事が必要である。もしも有機りん化合物に複数個の不飽和基があれば、これには難燃剤としての機能とPFMとしての機能とを合わせ持つ事が期待出来る。そのような有機りん化合物としては、現在トリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)が良く知られてはいるが、これは分子量が小さく揮発性がある事と容易に加水分解される事からこの技術には限定された用途にしか使用されていない。そして、この技術に適合する非加水分解性の有機りん化合物からなる難燃性PFMは目下その開発が待たれているところである。
【0005】
また、複数個のフェノール性ヒドロキシ基を持っている非加水分解性の有機りん化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として、電気部品または電子機器部品への用途に貴重であり(例えば、特許文献1参照。)、同様にその開発が待たれるところである。
【特許文献1】特開2000−186186公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に説明したように、特に電気部品または電子機器部品に使用される難燃剤としての有機りん化合物には非加水分解性が求められている。非加水分解性の有機りん化合物を提供する事が本発明の第一の課題である。一方で、有機りん化合物が複数個の不飽和基を持っているような難燃性PFMはその開発が望まれている。そのような機能性有機りん化合物を提供する事が第二の課題である。さらに、機能性有機りん化合物が持っている不飽和基またはヒドロキシ基の反応性を利用して、これから種々の用途や他の有用な有機りん化合物が誘導される事はまた望ましい事であり、これが第三の課題である。そして、このような機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事が第四の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって、一般式1で表される新規な機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法が提供される。
【0008】
【化4】
(式1中、R1 およびR2 は4−アリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R3 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示す。)
一般式1で表される機能性有機りん化合物ではりん原子と三個の炭素原子がすべて直接に結合している。この構造から理解されるように、これは非加水分解性であり、本発明の第一の課題が解決される。また、一般式1で表される有機りん化合物はすべてが複数個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や放射線などの処理によって重合反応ないし有機高分子化合物に対しての架橋形成反応などの機能があり、難燃性PFMとしての第二の課題が解決される。さらに、この不飽和基は反応性に富んでいて酸化剤による酸化反応ではエポキシ化合物が、そのハロゲン化反応ではハロゲン化合物が誘導される。そして、一般式1で表される有機りん化合物の一部が持っているヒドロキシ基もまた反応性に富んでいて、有機ハロゲン化物とアルカリの存在下にエーテル化反応が容易に実施出来る。エーテル化反応の中で重要なのはグリシジルエーテル化反応である。ヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物の内、ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどは二個の、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどは三個のヒドロキシ基を持っていて、エポキシ樹脂の難燃性硬化剤としての機能を持つとともに、アルカリの存在下でエピハロヒドリンと縮合反応してグリシジルエーテルを形成して、ジ−(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドまたはトリス−(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどが得られる。これらには非加水分解性である特性が保持されていて、電気部品または電子機器部品の用途への難燃性エポキシ樹脂組成物として有用である。さらに、ヒドロキシ基のオルソ位置も反応性であって、ホルムアルデヒドなどと反応して難燃性のフェノール樹脂が誘導される。これらの一部の実例からも理解される通り、これらはさらに多くの誘導体への可能性を持っていて、第三の課題に答える事が出来る。
【0009】
第四の課題は本発明の機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事であり、以下に説明する方法で解決される。
【0010】
一般式1で表される有機りん化合物の内、ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどの分子中にヒドロキシ基を持っていないものは一般式2で表される有機りん化合物と一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させ、必要ならば酸化反応を行なう事によって製造する事が出来る。
【0011】
【化5】
(式2中、R4 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基を示し、nは0または1を示す。)
【0012】
【化6】
(式3中、R5 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子または臭素原子を示す。)
一般式1で表される有機りん化合物の内、分子内に二個のヒドロキシ基を持っているジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどは上記の製造方法で得られた分子中にヒドロキシ基を持っていない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。
【0013】
また、一般式1で表される有機りん化合物の内、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドおよびトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドは一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応を行なわせ、必要ならば酸化反応を行なって得られるトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドに分子内転移反応を行なわせて製造する事が出来る。
【発明の効果】
【0014】
各実施例で明らかなように、本発明の機能性有機りん化合物はいずれも工業的な規模で製造し得る事が確認され、また、各実施例、比較例および参考例の結果から明らかなように、これは非加水分解性であり、難燃剤として有機高分子化合物中に添加されても極めて安定な事が実証された。そして、ヒドロキシ基を持たない機能性有機りん化合物はポリスチレンとポリフェニレンオキサイド混合物に対する難燃性PFMの機能を持っている事が、また、複数個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はエポキシ樹脂に対して硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が確認された。さらに複数個のヒドロキシ基と複数個の不飽和基を持っている機能性有機りん化合物はエポキシ樹脂に対して熱による反応性とγ線による架橋反応性を持っている事が確認された。これらの結果は本発明の産業上の有用性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に従って、一般式1で表され、分子内に複数個の不飽和基を有する事を特徴とする非加水分解性の機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法が提供される。
【0016】
以下、本発明の機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法のより好ましい実施形態を例示しつつ本発明を説明するが、これは発明を限定するものではない。
【0017】
一般式2で表される有機りん化合物と一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドとの縮合反応させる事によって、一般式4で表される有機りん化合物が製造される。
【0018】
【化7】
(式4中、R4 は一般式2の定義と同じであり、R5 は一般式3の定義と同じであり、nは0または1を示す。)
一般式4で表される有機りん化合物はすべてが分子中にヒドロキシ基を持っていないものであり、必要ならば酸化反応を行なわせる事によって一般式4のnが1である有機りん化合物に変換される。一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持っていないものは一般式4に含まれている。
【0019】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内に二個のヒドロキシ基を持っているものは、一般式4のnが1で表される有機りん化合物に分子内転移反応を行なわせる事によって製造する事が出来る。
【0020】
一般式2で表される有機りん化合物としてはメチルジクロロホスフィン、メチルジクロロホスフィンオキサイド、エチルジクロロホスフィンオキサイド、n−ブチルジクロロホスフィン、n−ブチルジクロロホスフィンオキサイド、ターシャリブチルジクロロホスフィンオキサイド、アリルジクロロホスフィン、アリルジクロロホスフィンオキサイド、フェニルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィンオキサイド、ベンジルジクロロホスフィンまたはベンジルジクロロホスフィンオキサイドなどが知られている。これらの有機りん化合物の一部は市販品を使用する事も出来るが、他は既に知られた合成方法によって製造する事が出来る。
【0021】
これらの縮合反応はグリニア反応(Gregnard reaction)と称される人名反応であって、良く知られている。また4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドなどの置換マグネシウムハロゲナイド類はグリニア試薬(Gregnard reagent)と称されていて、有機ハロゲン化合物と金属マグネシウムとの反応によって調製される。通常、グリニア試薬の調製は無水のエチルエーテルまたはテトラハイドロフラン(以下、本明細書ではTHFと称する。)の存在下で行なわれる。しかし、現在ではエチルエーテルが使用される事は稀であり、殆どTHFが使用されている。本発明においてもTHFを使用してグリニア試薬の調製およびグリニア反応を行なう事が好ましい。
【0022】
本発明に関係するグリニア試薬の調製は対応する置換ハロゲナイドと金属マグネシウムとをTHFの存在下で反応させる事で達せられる。この時はじめに微量の沃素が存在すれば反応は円滑である。4−アリロキシフェニルハロゲナイドおよび4−メタリロキシフェニルハロゲナイドの内、4−アリロキシフェニルクロライドおよび4−メタリロキシフェニルクロライドは金属マグネシウムとの反応が極めて緩慢であって、加圧下でTHFのより高い温度でようやく進行するに過ぎない。従って、実験室でのグリニア試薬の調製ではそれらのブロマイドを使用する事が簡便であって推奨される。
【0023】
4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドは4−ヒドロキシフェニルクロライド(パラクロロフェノール)または4−ヒドロキシフェニルブロマイド(パラブロモフェノール)とアリルクロライドまたはメタリルクロライドとをアルカリの存在下に縮合反応を行なう事によって調製される。アルカリとしては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが使用されるが、水酸化ナトリウムが経済的であり好ましい。さらに、パラクロロフェノールはフェノールの塩素または塩化スルフリルによる塩素化によって製造されるが、塩素による塩素化では多くのオルソクロロフェノールが副生して収率が乏しく、塩化スルフリルによる塩素化が実施される。パラブロモフェノールはフェノールの臭素による臭素化によって製造されるが、低温での臭素化ではオルソブロモフェノールなどの副生はより少なく好ましい。
【0024】
一般式1で表される有機りん化合物の内、分子内に三個のヒドロキシ基を持っているものは4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応させ、必要ならば酸化反応を行なってから、分子内転移反応を行なわせる事によって製造する事が出来る。
【0025】
通常、グリニア反応は無水の不活性な有機溶媒の存在化で行なわれる。不活性な有機溶媒としては、エチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ピラン、n−ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンまたはエチルベンゼンなどが挙げられる。
【0026】
縮合反応後の不活性有機溶媒中には目的化合物の他に縮合反応によって生成したマグネシウムハロゲナイドなどを含有している。これに水または希酸を加えて水洗すれば無機塩類が除去され、生成した有機りん化合物が分離される。含有されている有機溶媒などを蒸留して除去すれば、ホスフィン類またはホスフィンオキサイド類は濃縮される。
【0027】
分子内転移反応はクライゼン転移(Claisen rearrangement)と称されていて、また人名反応として有名である。この転移反応は単に150ないし250℃に加熱するだけでも達成されるが塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第二鉄などのルイス酸あるいは硫酸またはスルホン酸類などの酸性触媒の添加によって促進される。また、転移反応は発熱反応であって、反応を温和且つ円滑にする目的で不活性溶媒中で反応を行なう事が好ましい。不活性溶媒としては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ナフタリンまたはビフェニルなどの炭化水素類、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素類あるいはニトロベンゼン、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。分子内転移反応を無触媒で実施する時には比較的に高沸点の不活性溶媒を選択する事が好ましく、ジエチレングリコール、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。得られたヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は結晶性であり、再結晶法または真空蒸留法によって精製する事が出来る。
【0028】
次に、本発明の産業上の有用性について説明する。本発明の機能性有機りん化合物はしばしば説明したように、非加水分解性であってその分子中に複数個の不飽和基を持っているのが特徴である。この特徴を活かして産業上有用な用途が多く見出される。一般式1で表される機能性有機りん化合物はその分子中にヒドロキシ基を持っていないものとヒドロキシ基を持っているものとに分けられる。そしてこれらは用途面でまたはっきりと差別される。その重要な用途の一つは難燃性PFMすなわち難燃性架橋剤である。
【0029】
分子中にヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物はジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどであり、これはポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンスルフィッド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂などの広範囲な熱可塑性樹脂類と相溶性があって、それらのPFMとして機能する。すなわち、これらの樹脂類に添加、成形して放射線処理をすれば、樹脂類に架橋構造が形成されて、より高い耐熱性を付与する事が出来る。放射線としては電子線またはγ線が用いられるが、現在、コバルト60によるγ線の利用は既に一般化されていて、しかも透過力が大きいので本発明では電子線よりも使用し易い。この用途の特徴は架橋構造の形成と難燃性の付与とを一つの有機りん化合物によって達成させる事であり、これらの樹脂類に対してヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物を1ないし25重量%、さらに好ましくは2ないし15重量%が添加せられる。上記の熱可塑性樹脂類の中で、有機りん化合物による難燃効果が特に優れたものはポリカーボネート樹脂とポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂である。これらの樹脂類にはヒドロキシ基を持たない化合物の添加が適している。これらの樹脂にヒドロキシ基を持たない有機りん化合物を3ないし25重量%、さらには5ないし15重量%添加する事が好ましい。もしもポリカーボネート樹脂にヒドロキシ基を持った化合物を添加して高温で成形すれば成形中にエステル交換反応が起きてポリカーボネート樹脂の機械的な強度は低下する。また、ヒドロキシ基を持った化合物はポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂との相溶性が良くない。これらの樹脂類には本発明の機能性有機りん化合物の他にもそれぞれの樹脂類に適した添加剤を添加する事が出来る。添加剤としては安定剤、潤滑剤、他の難燃剤、染料、顔料などの着色剤または無機充填剤などが挙げられる。
【0030】
次に、本発明の機能性有機りん化合物に特有の非加水分解性の特徴を最も有効に利用しうる応用分野は電子機器に使用されるプリント配線基板である。プリント配線基板は主としてエポキシ樹脂またはフェノール樹脂などで製造されるが、その用途には難燃性が要求されるものが多い。
【0031】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、分子内にヒドロキシ基を持たないものは複数個の不飽和基を持っており、酸化剤によるエポキシ化でポリエポキシ化合物が得られる。酸化剤としては過酸化水素、過酸またはハイポクロライドなどが挙げられる。これらのポリエポキシ化合物は非加水分解性が維持されていて、エポキシ樹脂組成物の一員として利用される。しかし、このようなエポキシ化反応は分子内にヒドロキシ基を持った化合物には適用し難い。
【0032】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、分子中に複数個のヒドロキシ基を持っているものはエポキシ樹脂用の難燃性硬化剤としての用途に適している。しかし、これらのヒドロキシ基はエポキシ化合物に対しての反応性が他の硬化剤に比べれば比較的に緩慢であり、充分に過剰量のエポキシ化合物と予備反応を行なってから、さらに、所望の硬化剤を加えて最終的に硬化させる事が好ましい。なお、プリント配線基板に使用されるエポキシ樹脂は通常、ガラス繊維の織物で強化されており、基板の製法上これらの硬化剤あるいは予備反応物がメチルエチルケトン、ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に溶解する事が求められるが、本発明のエポキシ樹脂硬化剤はいずれも充分な溶解度を持っていてこの用途にも好適に使用する事が出来る。なお、この硬化剤による硬化エポキシ樹脂は高いガラス転移温度を示し、この特性もプリント配線基板の用途に適している。本発明の硬化剤を硬化エポキシ樹脂に対して10ないし40重量%、さらに好ましくは20ないし35重量%添加使用する事によってUL−94の難燃性試験方法でV−0に位置付けされる難燃性が得られる。最近のプリント配線基板では配線の微細化とその重層化が著しく進んでいるが、本発明の機能性有機りん化合物は非加水分解性のために苛酷な条件下でもこれを使用した基板の電気特性を劣化させない。
【0033】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、複数個のヒドロキシ基を持っているものは複数個の不飽和基を持っている。前述のエポキシ樹脂硬化剤としての応用は単にヒドロキシ基のエポキシ基との反応性を利用した硬化反応に過ぎないが、さらにその硬化反応後に電子線またはγ線などの放射線処理を施す事によって、不飽和基の架橋形成反応による高度の架橋密度と高いガラス転移温度を持ったエポキシ樹脂が形成される。この架橋形成反応によれば、通常のエポキシ樹脂の架橋形成反応で見られるアルコール性ヒドロキシ基の生成が避けられるので高い架橋密度を持っていてしかもより高度の電気的な特性が維持される。この技術は本発明者等によって新しく開発されたものであり、将来、極めて高い利用価値が期待される高度の発明であると言えよう。
【0034】
また、分子中に複数個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はアルカリの存在下にエピクロルヒドリンと縮合反応して、ポリエポキシ化合物が得られ、これらも前述と同じ用途に使用する事が出来る。
【0035】
エポキシ樹脂は通常、複数個のエポキシ基を持っているエポキシ化合物とエポキシ基と反応性のある硬化剤との組合せからなっていて、その反応の結果、不融不溶の樹脂を形成するものである。本発明による機能性有機りん化合物は硬化剤としての機能を持っていて、またこれから誘導されるグリシジルエーテル類はエポキシ化合物としての機能を持っている。これらは他のエポキシ化合物ないしは他の硬化剤と組合せて利用される事が好ましい。
【0036】
他のエポキシ化合物としては、ビスフェノール−A・エピクロルヒドリン縮合物{2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン}、臭素化ビスフェノール−A・エピクロルヒドリン縮合物、ビスフェノール−F・エピクロルヒドリン縮合物(4,4’−ジグリシジルオキシフェニルメタン)、ビスフェノール−A・エピクロルヒドリン縮合物、臭素化1,1−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−グリシジルオキシビフェニル、トリス−(4−グリシジルオキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン、フェノールノボラツクグリシジルエーテル、クレゾールノボラツクグリシジルエーテル、4,4’−(N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニル)メタン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグルシジルトルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、水素添加ビスフェノール−・エピクロルヒドリン縮合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルまたはトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどが挙げられる。他の硬化剤としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンなどの脂肪族アミン類、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、トルイレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンまたは1,1−ビス−(4−アミノフェニル)シクロヘキサンなどの芳香族アミン類、ポリアミド類、酸無水物類、ポリフェノール類またはジシアンジアミドなどの極めて多種類が知られているが、いずれも本発明の目的には好適に使用する事が出来る。
【0037】
分子内に複数個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は多価フェノールであり、過剰量のホルムアルデヒドとレゾール型のフェノール樹脂中間体を形成する。これをフェノール樹脂組成物製造中に5ないし30重量%より好ましくは10ないし25重量%添加してから硬化させればUL−94の試験方法でV−0に位置付けられる難燃性が得られる。この難燃性フェノール樹脂はプリント配線基板のほか種々の電気部品または電子機器部品の用途にも適している。なお、このフェノール樹脂も加水分解による電気絶縁性の低下は見られない。
【実施例】
【0038】
次に、本発明をさらに明確にするために具体的な実施例、比較例および参考例を挙げて説明する。なお、例中、「%」は重量%を「部」は重量部を表すものとする。
【0039】
(実施例1){ジ−(4一アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドの合成}
(実施例1−1)(4一アリロキシフェニルブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製の四つロフラスコに4−ブロモフェノール1,211g(7モル)および30%水酸化ナトリウム水溶液1,000g(7.5モル)を仕込んで、かきまぜながら内容物の温度を80℃に保ち、滴下ロートからアリルクロライド551g(7.2モル)をゆっくりと滴下した。還流冷却器からアリルクロライドが少しずつ還流する程度の速度に滴下を調節して、約6時間を要した。滴下終了後、内容物を時々サンプリングしてガスクロマトグラフィー(GC)分析により反応の進行を追跡した。さらに4時間後に原料の4−ブロモフェノールがほぼ消失したので、これに水1,200gおよびトルエン800gを加えてよくかきまぜ、静置してから下の水層を除去した。続いて、1%水酸化ナトリウム水溶液1,000gを加えて30分間かきまぜ、静置してから油層だけを採取した。油層の中のトルエンを蒸留除去してから約0.6キロパスカルの減圧下で真空蒸留して4−アリロキシフェニルブロマイド約1,400gが得られた。
【0040】
(実施例1−2)(4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積3,000mlのガラス製五つロフラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにTHF500g、金属マグネシウム87.6g(3.6モル)および沃素0.1gを仕込み、かきまぜながら窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。滴下ロートから4−アリロキシフェニルブロマィドの32%THF溶液200gを加えた。室温でかきまぜながら2時間経過してから、フラスコを加熱して内容物が沸騰する温度に保って、滴下ロートからさらに4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液1,800gを2時間で滴下した。沸騰状態をさらに1時間保つた。この時の温度は65〜70℃であった。これを冷却してから、過剰の金属マグネシウムを除去して、3モル相当の4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液が得られた。
【0041】
(実施例1−3){ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、下部に液抜き取り口のある還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製の五つロフラスコに窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにメチルジクロロホスフィンオキサイド(アルドリッチ試薬)199.4g(1.5モル)およびトルエン1,000gを仕込んだ。かきまぜながらフラスコ内容物の温度を40℃に保った。滴下ロートから実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モル相当を2時間で滴下した。滴下終了後フラスコ内の温度を100℃まで3時間で上昇させた。この間沸騰したTHFは還流冷却器下部から排出した。この温度に2時間保ち、GC分析によって目的物の生成が確認された。これにトルエン1,000gおよび5%硫酸水溶液500gを加えて30分間かきまぜ、30分間静置した。下層の水層を除去してから精製水1,000gを加えて30分間かきまぜ、30分間静置した。下層の水層を除去してさらにもう一度同じ操作を繰り返した。内容積3,000mlの蒸留器にトルエン層を移してトルエンを蒸留除去した。最後には蒸留器内を2.6kパスカルで120℃にして蒸留を完了した。蒸留器内には淡褐色の粘度の高い液体490gが残り、GC分析の結果主成分を96%含有していた。この一部を取りカラムクロマトグラム法によって99%以上の純度まで精製して、化合物確認のための分析資料とした。精製物の赤外吸収スペクトル(IR)は図1、31PNMRは図2、1 HNMRは図3そして元素分析の結果は炭素が69.3%(理論値:69.50%)、水素が6.48%(理論値:6.444%)、りんが9.42%(理論値:9.433%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、IRは臭化カリ錠剤法、NMRはCDC13を溶媒とし、31PNMRはりん酸を1 HNMRはテトラメチルシラン(TMS)をそれぞれ基準とした。
【0042】
(実施例2){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器およびガス吹き込み口の付いた内容積2、000mlの四つロフラスコに実施例1−3で得られたジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド450gおよびジエチレングリコール300gを仕込んだ。フラスコをかきまぜながら、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。フラスコを加熱して内容物の温度を上昇させた。特に、内容物の温度が160℃になってからは、加熱速度を調節して200℃に達するまでに5時間を要した。液体クロマトグラフィー(LC)分析によって、分子内転移反応が完結した事を確認してから、フラスコを80℃まで冷却した。これにイソプロパノール800gを加えて0℃までゆっくり冷却して結晶を析出させた。結晶を濾過して、冷却したイソプロパノール400gで洗浄した。これを乾燥して純度約98%の白色の結晶390gが得られた。結晶の融点は178.4℃、IRは図4、31PNMRは図5、1 HNMRは図6、元素分析の結果は異性体であるジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドと同じであった。これらの結果から、これがジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、NMRの溶剤は重水素化ジメチルスルホキサイドを用い他は実施例1−3と同様に行なった。
【0043】
(実施例3){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイドの合成}
実施例1−3で使用したメチルジクロロホスフィンオキサイド199.4gに代えてn−ブチルジクロロホスフィンオキサイド(CAS No.2302−80−9、Chemical abstract から引き出された製造文献の方法で製造した。)262.5g(1.5モル)を使用した以外は実施例1−3に引き続いて実施例2と同様にして、白色の結晶約480gが得られた。結晶の融点は154℃、IRは図7、31PNMRは図8、1 HNMRは図9、元素分析の結果は炭素が70.9%(理論値:71.33%)、水素が8.83%(理論値:8.853%)、りんが8.39%(理論値:8.362%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0044】
(実施例4){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイドの合成}
実施例1−3で使用したメチルジクロロホスフィンオキサイド199.4gに代えてフェニルジクロロホスフィンオキサイド(アルドリッチ試薬)294.5g(1.5モル)を使用した以外は実施例1−3に引き続いて実施例2と同様にして、白色の結晶520gが得られた。結晶の融点は195℃、IRは図10、31PNMRは図11、1 HNMRは図12、元素分析の結果は炭素が73.9%(理論値:73.834%)、水素が5.95%(理論値:5.938%)、りんが7.90%(理論値:7.934%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0045】
(実施例5){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフィンオキサイドの合成}
実施例1−3で使用したメチルジクロロホスフィンオキサイド199.4gに代えてベンジルジクロロホスフィンオキサイド(CASNo.1499−19−0)313.5g(1.5モル)を使用した以外は実施例1−3に引き続いて実施例2と同様にして、白色の結晶530gが得られた。結晶の融点は195.8℃、IRは図13、31PNMRは図14、1 HNMRは図15、元素分析の結果は炭素が74.1%(理論値:74.243%)、水素が6.25%(理論値:6.231%)、りんが7.70%(理論値:7.685%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0046】
(実施例6){トリス−(3−アリル−4ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
(実施例6−1){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、下部に液抜き取り口のある還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlの五つロフラスコに窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにオキシ塩化りん153.3g(1.0モル)およびトルエン1,000gを仕込んだ。かきまぜながら内容物の温度を80〜110℃に保った。これに実施例1−2と同じ方法で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モル相当を滴下ロートから6時間で滴下した。その間、沸騰したTHFは還流冷却器下部から排出し、さらに5時間熟成した。目的物の生成はGC分析で確認された。これに、トルエン500gおよび5%硫酸水溶液500gを加え、80℃で30分かきまぜてから、30分間静置した。下の水層を除去してから、さらに1,000gの精製水を加え、30分間かきまぜ、30分間静置した。有機物層を内容積3,000mlの蒸留器に移し、減圧下に揮発性成分を除去して、淡褐色の粘度の高い液体430gがえられた。これは31PNMRなどの分析でトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0047】
(実施例6−2){トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機へ温度計、還流冷却器およびガス吹き込み口の付いた内容積2,000mlの四つロフラスコに実施例7−1で得られたトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド420gおよびジエチレングリコール500gを仕込んだ。窒素ガスをふきこみながらかきまぜて、フラスコを加熱し内容物の温度を徐々に上昇させた。190℃に達してからこの温度に4時間保って、液体クロマトグラフィー(LC)分析で分子内転移反応の完結が知られた。これにイソプロパノール800gを加え、徐々に冷却して結晶を析出させた。0℃まで冷却してから、結晶を濾別した。これを冷却したイソプロパノール400gで洗浄してから乾燥した。融点が260℃の白色の結晶390gがえられた。このIRは図16、31PNMRは図17そして1 HNMRは図18、元素分析の結果は炭素が72.71%(理論値:72.633%)、水素が6.12%(理論値:6.096%)およびりんが6.94%(理論値:6.937%)であり、これらの結果からこれがトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0048】
(実施例7){トリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
(実施例7−1)(4−メタリロキシフェニルブロマイドの合成)
実施例1−1で使用したアリルクロライド551g(7.2モル)をメタリルクロライド652g(7.2モル)に代えた以外は実施例1−1と全く同様にして4−メタリロキシフェニルブロマイド約1,500gが得られた。
【0049】
(実施例7−2)(4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
実施例1−2で使用した4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液を同量の4−メタリロキシフェニルブロマイドの34.1%THF溶液に代えた以外は実施例1−2と同様にして4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モル相当が得られた。
【0050】
(実施例7−3){トリス−(3−メタリルー4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
実施例6−1で使用した4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の合計3モル相当を実施例7−2で得られた4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モルに代えた以外は実施例6−1と同様にして得られた生成物を引き続き実施例6−2と同様に処理して、融点が220℃の白色結晶約400gが得られた。このIRは図22、31PNMRは図23、1 HNMRは図24、元素分析の結果は炭素が73.81%(理論値:73.752%)、水素が6.81%(理論値:6.808%)およびりんが6.35%(理論値:6.340%)であり、これらの分析結果から、これがトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0051】
(実施例8)
日本国、旭化成製のXylon(ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドの混合物)に実施例1で得られたジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドを10%添加、混合して日本国、東芝機械製のModel TEN−37BS試験用押し出し成形機でペレットを作成した。このペレットをさらに押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に20秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−0に位置付けられる難燃性を示した。
【0052】
(比較例1)
実施例8で使用したXylonをそのまま押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この一部にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬したが、両者とも同様に変形して、γ線照射処理の効果は見られなかった。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では両者ともV−2に位置付けられる難燃性を示した。この結果と実施例8の結果とから、ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドがXylonに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0053】
(実施例9)
韓国、国都化学製の2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを主成分とするエポキシ樹脂100部に実施例2で得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド40部を添加、良く混合して100℃で5時間反応させて、予備反応物が得られた。これと同じ方法で、実施例3で得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイドは45部を、実施例4得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフイオキサイドは48部をそして実施例5で得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフイオキサイドは49部をそれぞれ添加して4種類の予備反応物を得た。これらの予備反応物にそれぞれ4,4’−ジアミノジフェニルメタン17部を混合して110℃で3時間硬化反応させてから、UL−94の燃焼試験の規格に合致する厚さ1/8インチの4種類の試験片を切り出した。試験片の燃焼試験ではV−0に位置付けされる難燃性を示し々.これらの結果から実施例2ないし5で得られた機能性有機りん化合物がすべてエポキシ樹脂の硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が証明された。
【0054】
(実施例10)
韓国、国都化学製の2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを主成分とするエポキシ樹脂100部に実施例6で得られたトリス−(3−アリル−4ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド45部をまたエポキシ樹脂100部に実施例7で得られたトリス−(3−メタリル−4ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド49部をそれぞれ添加混合して100℃で5時間予備反応を行なった。これらにそれぞれビスフェノール−Aを33部添加して110℃で3時間硬化反応させてから、UL−94の燃焼試験の規格に合致する厚さ1/8インチの2種類の試験片を切り出した。試験片の燃焼試験ではV−0に位置付けされる難燃性を示した。これらの結果から実施例6および7で得られた機能性有機りん化合物がすべてエポキシ樹脂の硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が証明された。
【0055】
(実施例11)
実施例9および実施例10で作成した試験片6種類にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。熱分析法で測定したガラス転移温度は実施例gで得られた試験片はγ線の照射によってそれぞれ約20℃の上昇が認められた。また実施例10で得られた試験片はγ線の照射によってそれぞれ約15℃の上昇が認められた。
【0056】
(参考例1)
本発明の機能性有機りん化合物の非加水分解性を実証する目的で次の実験を行なった。30%水酸化カリウムのメタノール溶液100gに実施例1ないし実施例7で得られた機能性有機りん化合物と比較のために市販のトリフェニルホスフェート(りん酸トリフェニル)および市販のトリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)各10gを加えて、それぞれメタノールの沸騰状態で24時間加熱した。これをLC分析によって変化を調べたところ、本発明の機能性有機りん化合物には全く変化が見られなかったが、トリフェニルホスフェートはジフェニルホスフェートとフェノールとに、トリアリルホスフ土一トはジアリルホスフェートとアリルアルコールとに完全に加水分解されていた。ただし、水酸化カリウムと造塩可能なものは塩を形成していると考えられるが、LC分析ではそれを識別する事が出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1−3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1−3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図3】実施例1−3で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図4】実施例2で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図5】実施例2で得られた化合物の31PNMR図である。
【図6】実施例2で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図7】実施例3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図8】実施例3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図9】実施例3で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図10】実施例4で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図11】実施例4で得られた化合物の31PNMR図である。
【図12】実施例4で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図13】実施例5で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図14】実施例5で得られた化合物の31PNMR図である。
【図15】実施例5で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図16】実施例6−2で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図17】実施例6−2で得られた化合物の31PNMR図である。
【図18】実施例6−2で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図19】実施例7−3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図20】実施例7−3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図21】実施例7−3で得られた化合物の1 HNMR図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性有機りん化合物に関する。さらに詳細には、分子内に複数個の不飽和基を持っている非加水分解性の有機りん化合物であり、電子線またはγ線などの放射線の処理を施す事によって有機高分子化合物との間に架橋結合が形成されるゆえに、有機高分子化合物の難燃剤としての機能と架橋剤としての機能とを合わせ持っていて、しかもそれが有機合成の原料としても有用であるような機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機りん化合物は有機高分子化合物の安定剤、可塑剤または難燃剤として有用であり、また特殊な界面活性剤、極圧添加剤または農薬などとしても幅広い用途を持っている。中でも、高分子化合物の難燃剤としては、同じ用途に使用されていた有機ハロゲン化合物が火災における燃焼時に有毒ガスを発生したり、その焼却処分時に焼却炉を腐食したり、環境汚染性の有害物質を排出したりする事などが忌避されて、難燃剤を使用する業界においてはハロゲン系の難燃剤を他の難燃剤に置き換えようとする動きが活発であり、この目的には有機りん化合物が特に注目されている。
【0003】
しかし従来、難燃剤として使用されて来た有機りん化合物の多くはりん酸エステル系のものであり、有機ハロゲン化合物に比較すれば加水分解しやすく、特に電気部品または電子機器部品などの用途には電気絶縁性の保持などの目的から、有機りん化合物に対しても非加水分解性の要求は強いものである。従来、広く使用されて来たりん酸エステル系の有機りん化合物は高分子材料の中で高温の水分またはアルカリの存在下で加水分解されて、その生成物が高分子材料の電気絶縁性を低下させたり、極端な場合には高分子材料の基板上に設けられた微細な電気配線を腐食したりする傾向があった。ゆえに、それらの難燃剤を電気部品または電子機器部品などの用途に使用する場合には問題であり、非加水分解性の有機りん化合物の開発は切実な要求であり、それが待たれているのが現状である。
【0004】
一方では、複数個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や紫外線、電子線またはγ線などの放射線の処理によって、重合または有機高分子化合物との間に架橋結合の形成可能な機能を持った有機りん化合物の開発も同様に望まれている。従来、高度な耐熱性が要求される機械部品、電気部品または電子機器部品などの製造にはフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂などのように耐熱性の優れた熱硬化性の樹脂が使用されてきたが、これらの熱硬化性樹脂を使用する時の欠点としては、熱可塑性樹脂の成形に比べて、1.硬化に時間が掛かり生産性が悪い事、2.部品の小型化または精密化に限度がある事または3.製品の均一性が充分でない事などがあった。そこで、これらの熱硬化性の樹脂に代わって、架橋剤を添加した熱可塑性樹脂の成形品に電子線やγ線などの放射線の処理を施す事によって、樹脂に架橋構造を形成させて熱硬化性樹脂並みの耐熱性を与えようとする技術が発展していて、既に実用化もされている。そして最近では、この架橋剤にさらに難燃剤としての機能を持っているものが要求されており、この理由で有機りん化合物にも架橋剤としての機能を持ったものの開発が求められているところである。この技術によれば、たとえば、ポリエチレンまたは若干のゴム類のように放射線処理による自己架橋性の熱可塑性樹脂には単なる放射線などの処理だけで架橋されて、架橋剤の存在なしで耐熱性が得られるものも幾つか知られてはいるが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂またはポリアミド樹脂などのように自己架橋性のない多くの熱可塑性樹脂には通常、放射線処理前に架橋剤としてPFM(ポリファンクショナルモノマー:多官能性単量体)と称されている有機化合物が添加されてから部品類が成形され、その後で電子線またはγ線などの放射線の処理がなされ、部品類の外形を全く変化させないで所望の耐熱性が与えられる。PFM(以下、本明細書においては放射線処理を目的とした架橋剤を単にPFMと称する。)は複数個の不飽和基を持った有機化合物であって、対象となる熱可塑性樹脂と相溶性のある事が必要である。もしも有機りん化合物に複数個の不飽和基があれば、これには難燃剤としての機能とPFMとしての機能とを合わせ持つ事が期待出来る。そのような有機りん化合物としては、現在トリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)が良く知られてはいるが、これは分子量が小さく揮発性がある事と容易に加水分解される事からこの技術には限定された用途にしか使用されていない。そして、この技術に適合する非加水分解性の有機りん化合物からなる難燃性PFMは目下その開発が待たれているところである。
【0005】
また、複数個のフェノール性ヒドロキシ基を持っている非加水分解性の有機りん化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として、電気部品または電子機器部品への用途に貴重であり(例えば、特許文献1参照。)、同様にその開発が待たれるところである。
【特許文献1】特開2000−186186公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に説明したように、特に電気部品または電子機器部品に使用される難燃剤としての有機りん化合物には非加水分解性が求められている。非加水分解性の有機りん化合物を提供する事が本発明の第一の課題である。一方で、有機りん化合物が複数個の不飽和基を持っているような難燃性PFMはその開発が望まれている。そのような機能性有機りん化合物を提供する事が第二の課題である。さらに、機能性有機りん化合物が持っている不飽和基またはヒドロキシ基の反応性を利用して、これから種々の用途や他の有用な有機りん化合物が誘導される事はまた望ましい事であり、これが第三の課題である。そして、このような機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事が第四の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって、一般式1で表される新規な機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法が提供される。
【0008】
【化4】
(式1中、R1 およびR2 は4−アリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R3 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示す。)
一般式1で表される機能性有機りん化合物ではりん原子と三個の炭素原子がすべて直接に結合している。この構造から理解されるように、これは非加水分解性であり、本発明の第一の課題が解決される。また、一般式1で表される有機りん化合物はすべてが複数個の不飽和基を持っていて、重合開始剤や放射線などの処理によって重合反応ないし有機高分子化合物に対しての架橋形成反応などの機能があり、難燃性PFMとしての第二の課題が解決される。さらに、この不飽和基は反応性に富んでいて酸化剤による酸化反応ではエポキシ化合物が、そのハロゲン化反応ではハロゲン化合物が誘導される。そして、一般式1で表される有機りん化合物の一部が持っているヒドロキシ基もまた反応性に富んでいて、有機ハロゲン化物とアルカリの存在下にエーテル化反応が容易に実施出来る。エーテル化反応の中で重要なのはグリシジルエーテル化反応である。ヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物の内、ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどは二個の、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどは三個のヒドロキシ基を持っていて、エポキシ樹脂の難燃性硬化剤としての機能を持つとともに、アルカリの存在下でエピハロヒドリンと縮合反応してグリシジルエーテルを形成して、ジ−(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドまたはトリス−(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)ホスフィンオキサイドなどが得られる。これらには非加水分解性である特性が保持されていて、電気部品または電子機器部品の用途への難燃性エポキシ樹脂組成物として有用である。さらに、ヒドロキシ基のオルソ位置も反応性であって、ホルムアルデヒドなどと反応して難燃性のフェノール樹脂が誘導される。これらの一部の実例からも理解される通り、これらはさらに多くの誘導体への可能性を持っていて、第三の課題に答える事が出来る。
【0009】
第四の課題は本発明の機能性有機りん化合物の工業的な製造方法を提供する事であり、以下に説明する方法で解決される。
【0010】
一般式1で表される有機りん化合物の内、ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどの分子中にヒドロキシ基を持っていないものは一般式2で表される有機りん化合物と一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させ、必要ならば酸化反応を行なう事によって製造する事が出来る。
【0011】
【化5】
(式2中、R4 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基を示し、nは0または1を示す。)
【0012】
【化6】
(式3中、R5 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子または臭素原子を示す。)
一般式1で表される有機りん化合物の内、分子内に二個のヒドロキシ基を持っているジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどは上記の製造方法で得られた分子中にヒドロキシ基を持っていない有機りん化合物の分子内転移反応によって製造する事が出来る。
【0013】
また、一般式1で表される有機りん化合物の内、トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドおよびトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドは一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応を行なわせ、必要ならば酸化反応を行なって得られるトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドまたはトリス−(4−メタリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドに分子内転移反応を行なわせて製造する事が出来る。
【発明の効果】
【0014】
各実施例で明らかなように、本発明の機能性有機りん化合物はいずれも工業的な規模で製造し得る事が確認され、また、各実施例、比較例および参考例の結果から明らかなように、これは非加水分解性であり、難燃剤として有機高分子化合物中に添加されても極めて安定な事が実証された。そして、ヒドロキシ基を持たない機能性有機りん化合物はポリスチレンとポリフェニレンオキサイド混合物に対する難燃性PFMの機能を持っている事が、また、複数個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はエポキシ樹脂に対して硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が確認された。さらに複数個のヒドロキシ基と複数個の不飽和基を持っている機能性有機りん化合物はエポキシ樹脂に対して熱による反応性とγ線による架橋反応性を持っている事が確認された。これらの結果は本発明の産業上の有用性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に従って、一般式1で表され、分子内に複数個の不飽和基を有する事を特徴とする非加水分解性の機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法が提供される。
【0016】
以下、本発明の機能性有機りん化合物、その用途およびその製造方法のより好ましい実施形態を例示しつつ本発明を説明するが、これは発明を限定するものではない。
【0017】
一般式2で表される有機りん化合物と一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドとの縮合反応させる事によって、一般式4で表される有機りん化合物が製造される。
【0018】
【化7】
(式4中、R4 は一般式2の定義と同じであり、R5 は一般式3の定義と同じであり、nは0または1を示す。)
一般式4で表される有機りん化合物はすべてが分子中にヒドロキシ基を持っていないものであり、必要ならば酸化反応を行なわせる事によって一般式4のnが1である有機りん化合物に変換される。一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内にヒドロキシ基を持っていないものは一般式4に含まれている。
【0019】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、分子内に二個のヒドロキシ基を持っているものは、一般式4のnが1で表される有機りん化合物に分子内転移反応を行なわせる事によって製造する事が出来る。
【0020】
一般式2で表される有機りん化合物としてはメチルジクロロホスフィン、メチルジクロロホスフィンオキサイド、エチルジクロロホスフィンオキサイド、n−ブチルジクロロホスフィン、n−ブチルジクロロホスフィンオキサイド、ターシャリブチルジクロロホスフィンオキサイド、アリルジクロロホスフィン、アリルジクロロホスフィンオキサイド、フェニルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィンオキサイド、ベンジルジクロロホスフィンまたはベンジルジクロロホスフィンオキサイドなどが知られている。これらの有機りん化合物の一部は市販品を使用する事も出来るが、他は既に知られた合成方法によって製造する事が出来る。
【0021】
これらの縮合反応はグリニア反応(Gregnard reaction)と称される人名反応であって、良く知られている。また4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドなどの置換マグネシウムハロゲナイド類はグリニア試薬(Gregnard reagent)と称されていて、有機ハロゲン化合物と金属マグネシウムとの反応によって調製される。通常、グリニア試薬の調製は無水のエチルエーテルまたはテトラハイドロフラン(以下、本明細書ではTHFと称する。)の存在下で行なわれる。しかし、現在ではエチルエーテルが使用される事は稀であり、殆どTHFが使用されている。本発明においてもTHFを使用してグリニア試薬の調製およびグリニア反応を行なう事が好ましい。
【0022】
本発明に関係するグリニア試薬の調製は対応する置換ハロゲナイドと金属マグネシウムとをTHFの存在下で反応させる事で達せられる。この時はじめに微量の沃素が存在すれば反応は円滑である。4−アリロキシフェニルハロゲナイドおよび4−メタリロキシフェニルハロゲナイドの内、4−アリロキシフェニルクロライドおよび4−メタリロキシフェニルクロライドは金属マグネシウムとの反応が極めて緩慢であって、加圧下でTHFのより高い温度でようやく進行するに過ぎない。従って、実験室でのグリニア試薬の調製ではそれらのブロマイドを使用する事が簡便であって推奨される。
【0023】
4−アリロキシフェニルハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルハロゲナイドは4−ヒドロキシフェニルクロライド(パラクロロフェノール)または4−ヒドロキシフェニルブロマイド(パラブロモフェノール)とアリルクロライドまたはメタリルクロライドとをアルカリの存在下に縮合反応を行なう事によって調製される。アルカリとしては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが使用されるが、水酸化ナトリウムが経済的であり好ましい。さらに、パラクロロフェノールはフェノールの塩素または塩化スルフリルによる塩素化によって製造されるが、塩素による塩素化では多くのオルソクロロフェノールが副生して収率が乏しく、塩化スルフリルによる塩素化が実施される。パラブロモフェノールはフェノールの臭素による臭素化によって製造されるが、低温での臭素化ではオルソブロモフェノールなどの副生はより少なく好ましい。
【0024】
一般式1で表される有機りん化合物の内、分子内に三個のヒドロキシ基を持っているものは4−アリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドまたは4−メタリロキシフェニルマグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応させ、必要ならば酸化反応を行なってから、分子内転移反応を行なわせる事によって製造する事が出来る。
【0025】
通常、グリニア反応は無水の不活性な有機溶媒の存在化で行なわれる。不活性な有機溶媒としては、エチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ピラン、n−ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンまたはエチルベンゼンなどが挙げられる。
【0026】
縮合反応後の不活性有機溶媒中には目的化合物の他に縮合反応によって生成したマグネシウムハロゲナイドなどを含有している。これに水または希酸を加えて水洗すれば無機塩類が除去され、生成した有機りん化合物が分離される。含有されている有機溶媒などを蒸留して除去すれば、ホスフィン類またはホスフィンオキサイド類は濃縮される。
【0027】
分子内転移反応はクライゼン転移(Claisen rearrangement)と称されていて、また人名反応として有名である。この転移反応は単に150ないし250℃に加熱するだけでも達成されるが塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第二鉄などのルイス酸あるいは硫酸またはスルホン酸類などの酸性触媒の添加によって促進される。また、転移反応は発熱反応であって、反応を温和且つ円滑にする目的で不活性溶媒中で反応を行なう事が好ましい。不活性溶媒としては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ナフタリンまたはビフェニルなどの炭化水素類、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素類あるいはニトロベンゼン、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。分子内転移反応を無触媒で実施する時には比較的に高沸点の不活性溶媒を選択する事が好ましく、ジエチレングリコール、スルホラン、γ−ブチロラクトン、1−メチル−2−ピロリドンまたはN,N−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。得られたヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は結晶性であり、再結晶法または真空蒸留法によって精製する事が出来る。
【0028】
次に、本発明の産業上の有用性について説明する。本発明の機能性有機りん化合物はしばしば説明したように、非加水分解性であってその分子中に複数個の不飽和基を持っているのが特徴である。この特徴を活かして産業上有用な用途が多く見出される。一般式1で表される機能性有機りん化合物はその分子中にヒドロキシ基を持っていないものとヒドロキシ基を持っているものとに分けられる。そしてこれらは用途面でまたはっきりと差別される。その重要な用途の一つは難燃性PFMすなわち難燃性架橋剤である。
【0029】
分子中にヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物はジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドなどであり、これはポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンスルフィッド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂などの広範囲な熱可塑性樹脂類と相溶性があって、それらのPFMとして機能する。すなわち、これらの樹脂類に添加、成形して放射線処理をすれば、樹脂類に架橋構造が形成されて、より高い耐熱性を付与する事が出来る。放射線としては電子線またはγ線が用いられるが、現在、コバルト60によるγ線の利用は既に一般化されていて、しかも透過力が大きいので本発明では電子線よりも使用し易い。この用途の特徴は架橋構造の形成と難燃性の付与とを一つの有機りん化合物によって達成させる事であり、これらの樹脂類に対してヒドロキシ基を持っていない機能性有機りん化合物を1ないし25重量%、さらに好ましくは2ないし15重量%が添加せられる。上記の熱可塑性樹脂類の中で、有機りん化合物による難燃効果が特に優れたものはポリカーボネート樹脂とポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂である。これらの樹脂類にはヒドロキシ基を持たない化合物の添加が適している。これらの樹脂にヒドロキシ基を持たない有機りん化合物を3ないし25重量%、さらには5ないし15重量%添加する事が好ましい。もしもポリカーボネート樹脂にヒドロキシ基を持った化合物を添加して高温で成形すれば成形中にエステル交換反応が起きてポリカーボネート樹脂の機械的な強度は低下する。また、ヒドロキシ基を持った化合物はポリスチレンが混合されたポリフェニレンオキサイド樹脂との相溶性が良くない。これらの樹脂類には本発明の機能性有機りん化合物の他にもそれぞれの樹脂類に適した添加剤を添加する事が出来る。添加剤としては安定剤、潤滑剤、他の難燃剤、染料、顔料などの着色剤または無機充填剤などが挙げられる。
【0030】
次に、本発明の機能性有機りん化合物に特有の非加水分解性の特徴を最も有効に利用しうる応用分野は電子機器に使用されるプリント配線基板である。プリント配線基板は主としてエポキシ樹脂またはフェノール樹脂などで製造されるが、その用途には難燃性が要求されるものが多い。
【0031】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、分子内にヒドロキシ基を持たないものは複数個の不飽和基を持っており、酸化剤によるエポキシ化でポリエポキシ化合物が得られる。酸化剤としては過酸化水素、過酸またはハイポクロライドなどが挙げられる。これらのポリエポキシ化合物は非加水分解性が維持されていて、エポキシ樹脂組成物の一員として利用される。しかし、このようなエポキシ化反応は分子内にヒドロキシ基を持った化合物には適用し難い。
【0032】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内で、分子中に複数個のヒドロキシ基を持っているものはエポキシ樹脂用の難燃性硬化剤としての用途に適している。しかし、これらのヒドロキシ基はエポキシ化合物に対しての反応性が他の硬化剤に比べれば比較的に緩慢であり、充分に過剰量のエポキシ化合物と予備反応を行なってから、さらに、所望の硬化剤を加えて最終的に硬化させる事が好ましい。なお、プリント配線基板に使用されるエポキシ樹脂は通常、ガラス繊維の織物で強化されており、基板の製法上これらの硬化剤あるいは予備反応物がメチルエチルケトン、ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に溶解する事が求められるが、本発明のエポキシ樹脂硬化剤はいずれも充分な溶解度を持っていてこの用途にも好適に使用する事が出来る。なお、この硬化剤による硬化エポキシ樹脂は高いガラス転移温度を示し、この特性もプリント配線基板の用途に適している。本発明の硬化剤を硬化エポキシ樹脂に対して10ないし40重量%、さらに好ましくは20ないし35重量%添加使用する事によってUL−94の難燃性試験方法でV−0に位置付けされる難燃性が得られる。最近のプリント配線基板では配線の微細化とその重層化が著しく進んでいるが、本発明の機能性有機りん化合物は非加水分解性のために苛酷な条件下でもこれを使用した基板の電気特性を劣化させない。
【0033】
一般式1で表される機能性有機りん化合物の内、複数個のヒドロキシ基を持っているものは複数個の不飽和基を持っている。前述のエポキシ樹脂硬化剤としての応用は単にヒドロキシ基のエポキシ基との反応性を利用した硬化反応に過ぎないが、さらにその硬化反応後に電子線またはγ線などの放射線処理を施す事によって、不飽和基の架橋形成反応による高度の架橋密度と高いガラス転移温度を持ったエポキシ樹脂が形成される。この架橋形成反応によれば、通常のエポキシ樹脂の架橋形成反応で見られるアルコール性ヒドロキシ基の生成が避けられるので高い架橋密度を持っていてしかもより高度の電気的な特性が維持される。この技術は本発明者等によって新しく開発されたものであり、将来、極めて高い利用価値が期待される高度の発明であると言えよう。
【0034】
また、分子中に複数個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物はアルカリの存在下にエピクロルヒドリンと縮合反応して、ポリエポキシ化合物が得られ、これらも前述と同じ用途に使用する事が出来る。
【0035】
エポキシ樹脂は通常、複数個のエポキシ基を持っているエポキシ化合物とエポキシ基と反応性のある硬化剤との組合せからなっていて、その反応の結果、不融不溶の樹脂を形成するものである。本発明による機能性有機りん化合物は硬化剤としての機能を持っていて、またこれから誘導されるグリシジルエーテル類はエポキシ化合物としての機能を持っている。これらは他のエポキシ化合物ないしは他の硬化剤と組合せて利用される事が好ましい。
【0036】
他のエポキシ化合物としては、ビスフェノール−A・エピクロルヒドリン縮合物{2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン}、臭素化ビスフェノール−A・エピクロルヒドリン縮合物、ビスフェノール−F・エピクロルヒドリン縮合物(4,4’−ジグリシジルオキシフェニルメタン)、ビスフェノール−A・エピクロルヒドリン縮合物、臭素化1,1−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−グリシジルオキシビフェニル、トリス−(4−グリシジルオキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン、フェノールノボラツクグリシジルエーテル、クレゾールノボラツクグリシジルエーテル、4,4’−(N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニル)メタン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグルシジルトルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、水素添加ビスフェノール−・エピクロルヒドリン縮合物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルまたはトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどが挙げられる。他の硬化剤としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンなどの脂肪族アミン類、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、トルイレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンまたは1,1−ビス−(4−アミノフェニル)シクロヘキサンなどの芳香族アミン類、ポリアミド類、酸無水物類、ポリフェノール類またはジシアンジアミドなどの極めて多種類が知られているが、いずれも本発明の目的には好適に使用する事が出来る。
【0037】
分子内に複数個のヒドロキシ基を持っている機能性有機りん化合物は多価フェノールであり、過剰量のホルムアルデヒドとレゾール型のフェノール樹脂中間体を形成する。これをフェノール樹脂組成物製造中に5ないし30重量%より好ましくは10ないし25重量%添加してから硬化させればUL−94の試験方法でV−0に位置付けられる難燃性が得られる。この難燃性フェノール樹脂はプリント配線基板のほか種々の電気部品または電子機器部品の用途にも適している。なお、このフェノール樹脂も加水分解による電気絶縁性の低下は見られない。
【実施例】
【0038】
次に、本発明をさらに明確にするために具体的な実施例、比較例および参考例を挙げて説明する。なお、例中、「%」は重量%を「部」は重量部を表すものとする。
【0039】
(実施例1){ジ−(4一アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドの合成}
(実施例1−1)(4一アリロキシフェニルブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製の四つロフラスコに4−ブロモフェノール1,211g(7モル)および30%水酸化ナトリウム水溶液1,000g(7.5モル)を仕込んで、かきまぜながら内容物の温度を80℃に保ち、滴下ロートからアリルクロライド551g(7.2モル)をゆっくりと滴下した。還流冷却器からアリルクロライドが少しずつ還流する程度の速度に滴下を調節して、約6時間を要した。滴下終了後、内容物を時々サンプリングしてガスクロマトグラフィー(GC)分析により反応の進行を追跡した。さらに4時間後に原料の4−ブロモフェノールがほぼ消失したので、これに水1,200gおよびトルエン800gを加えてよくかきまぜ、静置してから下の水層を除去した。続いて、1%水酸化ナトリウム水溶液1,000gを加えて30分間かきまぜ、静置してから油層だけを採取した。油層の中のトルエンを蒸留除去してから約0.6キロパスカルの減圧下で真空蒸留して4−アリロキシフェニルブロマイド約1,400gが得られた。
【0040】
(実施例1−2)(4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
かきまぜ機、温度計、還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積3,000mlのガラス製五つロフラスコにガス吹き込み口から窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにTHF500g、金属マグネシウム87.6g(3.6モル)および沃素0.1gを仕込み、かきまぜながら窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。滴下ロートから4−アリロキシフェニルブロマィドの32%THF溶液200gを加えた。室温でかきまぜながら2時間経過してから、フラスコを加熱して内容物が沸騰する温度に保って、滴下ロートからさらに4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液1,800gを2時間で滴下した。沸騰状態をさらに1時間保つた。この時の温度は65〜70℃であった。これを冷却してから、過剰の金属マグネシウムを除去して、3モル相当の4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液が得られた。
【0041】
(実施例1−3){ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、下部に液抜き取り口のある還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlのガラス製の五つロフラスコに窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにメチルジクロロホスフィンオキサイド(アルドリッチ試薬)199.4g(1.5モル)およびトルエン1,000gを仕込んだ。かきまぜながらフラスコ内容物の温度を40℃に保った。滴下ロートから実施例1−2で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モル相当を2時間で滴下した。滴下終了後フラスコ内の温度を100℃まで3時間で上昇させた。この間沸騰したTHFは還流冷却器下部から排出した。この温度に2時間保ち、GC分析によって目的物の生成が確認された。これにトルエン1,000gおよび5%硫酸水溶液500gを加えて30分間かきまぜ、30分間静置した。下層の水層を除去してから精製水1,000gを加えて30分間かきまぜ、30分間静置した。下層の水層を除去してさらにもう一度同じ操作を繰り返した。内容積3,000mlの蒸留器にトルエン層を移してトルエンを蒸留除去した。最後には蒸留器内を2.6kパスカルで120℃にして蒸留を完了した。蒸留器内には淡褐色の粘度の高い液体490gが残り、GC分析の結果主成分を96%含有していた。この一部を取りカラムクロマトグラム法によって99%以上の純度まで精製して、化合物確認のための分析資料とした。精製物の赤外吸収スペクトル(IR)は図1、31PNMRは図2、1 HNMRは図3そして元素分析の結果は炭素が69.3%(理論値:69.50%)、水素が6.48%(理論値:6.444%)、りんが9.42%(理論値:9.433%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、IRは臭化カリ錠剤法、NMRはCDC13を溶媒とし、31PNMRはりん酸を1 HNMRはテトラメチルシラン(TMS)をそれぞれ基準とした。
【0042】
(実施例2){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、還流冷却器およびガス吹き込み口の付いた内容積2、000mlの四つロフラスコに実施例1−3で得られたジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド450gおよびジエチレングリコール300gを仕込んだ。フラスコをかきまぜながら、ガス吹き込み口から窒素ガスをゆっくり吹き込んだ。フラスコを加熱して内容物の温度を上昇させた。特に、内容物の温度が160℃になってからは、加熱速度を調節して200℃に達するまでに5時間を要した。液体クロマトグラフィー(LC)分析によって、分子内転移反応が完結した事を確認してから、フラスコを80℃まで冷却した。これにイソプロパノール800gを加えて0℃までゆっくり冷却して結晶を析出させた。結晶を濾過して、冷却したイソプロパノール400gで洗浄した。これを乾燥して純度約98%の白色の結晶390gが得られた。結晶の融点は178.4℃、IRは図4、31PNMRは図5、1 HNMRは図6、元素分析の結果は異性体であるジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドと同じであった。これらの結果から、これがジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドである事が確認された。なお、NMRの溶剤は重水素化ジメチルスルホキサイドを用い他は実施例1−3と同様に行なった。
【0043】
(実施例3){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイドの合成}
実施例1−3で使用したメチルジクロロホスフィンオキサイド199.4gに代えてn−ブチルジクロロホスフィンオキサイド(CAS No.2302−80−9、Chemical abstract から引き出された製造文献の方法で製造した。)262.5g(1.5モル)を使用した以外は実施例1−3に引き続いて実施例2と同様にして、白色の結晶約480gが得られた。結晶の融点は154℃、IRは図7、31PNMRは図8、1 HNMRは図9、元素分析の結果は炭素が70.9%(理論値:71.33%)、水素が8.83%(理論値:8.853%)、りんが8.39%(理論値:8.362%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0044】
(実施例4){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイドの合成}
実施例1−3で使用したメチルジクロロホスフィンオキサイド199.4gに代えてフェニルジクロロホスフィンオキサイド(アルドリッチ試薬)294.5g(1.5モル)を使用した以外は実施例1−3に引き続いて実施例2と同様にして、白色の結晶520gが得られた。結晶の融点は195℃、IRは図10、31PNMRは図11、1 HNMRは図12、元素分析の結果は炭素が73.9%(理論値:73.834%)、水素が5.95%(理論値:5.938%)、りんが7.90%(理論値:7.934%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0045】
(実施例5){ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフィンオキサイドの合成}
実施例1−3で使用したメチルジクロロホスフィンオキサイド199.4gに代えてベンジルジクロロホスフィンオキサイド(CASNo.1499−19−0)313.5g(1.5モル)を使用した以外は実施例1−3に引き続いて実施例2と同様にして、白色の結晶530gが得られた。結晶の融点は195.8℃、IRは図13、31PNMRは図14、1 HNMRは図15、元素分析の結果は炭素が74.1%(理論値:74.243%)、水素が6.25%(理論値:6.231%)、りんが7.70%(理論値:7.685%)であった。これらの分析結果から、この生成物がジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0046】
(実施例6){トリス−(3−アリル−4ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
(実施例6−1){トリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機、温度計、下部に液抜き取り口のある還流冷却器、ガス吹き込み口および滴下ロートの付いた内容積5,000mlの五つロフラスコに窒素ガスを吹き込んでフラスコ内の空気を置換した。これにオキシ塩化りん153.3g(1.0モル)およびトルエン1,000gを仕込んだ。かきまぜながら内容物の温度を80〜110℃に保った。これに実施例1−2と同じ方法で得られた4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モル相当を滴下ロートから6時間で滴下した。その間、沸騰したTHFは還流冷却器下部から排出し、さらに5時間熟成した。目的物の生成はGC分析で確認された。これに、トルエン500gおよび5%硫酸水溶液500gを加え、80℃で30分かきまぜてから、30分間静置した。下の水層を除去してから、さらに1,000gの精製水を加え、30分間かきまぜ、30分間静置した。有機物層を内容積3,000mlの蒸留器に移し、減圧下に揮発性成分を除去して、淡褐色の粘度の高い液体430gがえられた。これは31PNMRなどの分析でトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0047】
(実施例6−2){トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
かきまぜ機へ温度計、還流冷却器およびガス吹き込み口の付いた内容積2,000mlの四つロフラスコに実施例7−1で得られたトリス−(4−アリロキシフェニル)ホスフィンオキサイド420gおよびジエチレングリコール500gを仕込んだ。窒素ガスをふきこみながらかきまぜて、フラスコを加熱し内容物の温度を徐々に上昇させた。190℃に達してからこの温度に4時間保って、液体クロマトグラフィー(LC)分析で分子内転移反応の完結が知られた。これにイソプロパノール800gを加え、徐々に冷却して結晶を析出させた。0℃まで冷却してから、結晶を濾別した。これを冷却したイソプロパノール400gで洗浄してから乾燥した。融点が260℃の白色の結晶390gがえられた。このIRは図16、31PNMRは図17そして1 HNMRは図18、元素分析の結果は炭素が72.71%(理論値:72.633%)、水素が6.12%(理論値:6.096%)およびりんが6.94%(理論値:6.937%)であり、これらの結果からこれがトリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0048】
(実施例7){トリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
(実施例7−1)(4−メタリロキシフェニルブロマイドの合成)
実施例1−1で使用したアリルクロライド551g(7.2モル)をメタリルクロライド652g(7.2モル)に代えた以外は実施例1−1と全く同様にして4−メタリロキシフェニルブロマイド約1,500gが得られた。
【0049】
(実施例7−2)(4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドの合成)
実施例1−2で使用した4−アリロキシフェニルブロマイドの32%THF溶液を同量の4−メタリロキシフェニルブロマイドの34.1%THF溶液に代えた以外は実施例1−2と同様にして4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モル相当が得られた。
【0050】
(実施例7−3){トリス−(3−メタリルー4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドの合成}
実施例6−1で使用した4−アリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液の合計3モル相当を実施例7−2で得られた4−メタリロキシフェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液3モルに代えた以外は実施例6−1と同様にして得られた生成物を引き続き実施例6−2と同様に処理して、融点が220℃の白色結晶約400gが得られた。このIRは図22、31PNMRは図23、1 HNMRは図24、元素分析の結果は炭素が73.81%(理論値:73.752%)、水素が6.81%(理論値:6.808%)およびりんが6.35%(理論値:6.340%)であり、これらの分析結果から、これがトリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイドである事が確認された。
【0051】
(実施例8)
日本国、旭化成製のXylon(ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドの混合物)に実施例1で得られたジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドを10%添加、混合して日本国、東芝機械製のModel TEN−37BS試験用押し出し成形機でペレットを作成した。このペレットをさらに押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この内の一部の試験片にコバルト60からのγ線を20秒間照射処理した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に20秒間浸漬した。前者は殆ど変化がなかったが、後者は著しく変形した。これによって、γ線照射による効果が確認された。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では前者はV−0に位置付けられる難燃性を示した。
【0052】
(比較例1)
実施例8で使用したXylonをそのまま押し出し成形機でUL−94の規格に合致する厚さ1/8インチの試験片を作成した。この一部にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。γ線照射処理の試験片と未処理の試験片とを320℃に加熱したハンダ浴に10秒間浸漬したが、両者とも同様に変形して、γ線照射処理の効果は見られなかった。また、UL−94の難燃性試験方法に従った試験では両者ともV−2に位置付けられる難燃性を示した。この結果と実施例8の結果とから、ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイドがXylonに対してPFMとしての機能と難燃剤としての機能とを合わせ持っている事が実証された。
【0053】
(実施例9)
韓国、国都化学製の2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを主成分とするエポキシ樹脂100部に実施例2で得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド40部を添加、良く混合して100℃で5時間反応させて、予備反応物が得られた。これと同じ方法で、実施例3で得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイドは45部を、実施例4得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフイオキサイドは48部をそして実施例5で得られたジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフイオキサイドは49部をそれぞれ添加して4種類の予備反応物を得た。これらの予備反応物にそれぞれ4,4’−ジアミノジフェニルメタン17部を混合して110℃で3時間硬化反応させてから、UL−94の燃焼試験の規格に合致する厚さ1/8インチの4種類の試験片を切り出した。試験片の燃焼試験ではV−0に位置付けされる難燃性を示し々.これらの結果から実施例2ないし5で得られた機能性有機りん化合物がすべてエポキシ樹脂の硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が証明された。
【0054】
(実施例10)
韓国、国都化学製の2,2−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンを主成分とするエポキシ樹脂100部に実施例6で得られたトリス−(3−アリル−4ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド45部をまたエポキシ樹脂100部に実施例7で得られたトリス−(3−メタリル−4ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド49部をそれぞれ添加混合して100℃で5時間予備反応を行なった。これらにそれぞれビスフェノール−Aを33部添加して110℃で3時間硬化反応させてから、UL−94の燃焼試験の規格に合致する厚さ1/8インチの2種類の試験片を切り出した。試験片の燃焼試験ではV−0に位置付けされる難燃性を示した。これらの結果から実施例6および7で得られた機能性有機りん化合物がすべてエポキシ樹脂の硬化剤としての機能と難燃剤としての機能を合わせ持っている事が証明された。
【0055】
(実施例11)
実施例9および実施例10で作成した試験片6種類にコバルト60からのγ線を20秒間照射した。熱分析法で測定したガラス転移温度は実施例gで得られた試験片はγ線の照射によってそれぞれ約20℃の上昇が認められた。また実施例10で得られた試験片はγ線の照射によってそれぞれ約15℃の上昇が認められた。
【0056】
(参考例1)
本発明の機能性有機りん化合物の非加水分解性を実証する目的で次の実験を行なった。30%水酸化カリウムのメタノール溶液100gに実施例1ないし実施例7で得られた機能性有機りん化合物と比較のために市販のトリフェニルホスフェート(りん酸トリフェニル)および市販のトリアリルホスフェート(りん酸トリアリル)各10gを加えて、それぞれメタノールの沸騰状態で24時間加熱した。これをLC分析によって変化を調べたところ、本発明の機能性有機りん化合物には全く変化が見られなかったが、トリフェニルホスフェートはジフェニルホスフェートとフェノールとに、トリアリルホスフ土一トはジアリルホスフェートとアリルアルコールとに完全に加水分解されていた。ただし、水酸化カリウムと造塩可能なものは塩を形成していると考えられるが、LC分析ではそれを識別する事が出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1−3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1−3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図3】実施例1−3で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図4】実施例2で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図5】実施例2で得られた化合物の31PNMR図である。
【図6】実施例2で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図7】実施例3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図8】実施例3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図9】実施例3で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図10】実施例4で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図11】実施例4で得られた化合物の31PNMR図である。
【図12】実施例4で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図13】実施例5で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図14】実施例5で得られた化合物の31PNMR図である。
【図15】実施例5で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図16】実施例6−2で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図17】実施例6−2で得られた化合物の31PNMR図である。
【図18】実施例6−2で得られた化合物の1 HNMR図である。
【図19】実施例7−3で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図20】実施例7−3で得られた化合物の31PNMR図である。
【図21】実施例7−3で得られた化合物の1 HNMR図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1で表され、分子内に複数個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物。
【化1】
(式1中、R1 およびR2 は4−アリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R3 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示す。)
【請求項2】
一般式1でR1 およびR2 が4−アリロキシフェニル基であり、R3 がメチル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド}
【請求項3】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がメチル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド}
【請求項4】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がブチル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイド}
【請求項5】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がフェニル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイド}
【請求項6】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がベンジル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフィンオキサイド}
【請求項7】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項8】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項9】
一般式2で表される有機りん化合物と一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させ、続いて必要ならば酸化反応または(および)分子内転移反応を行なわせる事を特徴とする請求項2ないし6に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【化2】
(式2中、R4 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基を示し、nは0または1を示す。)
【化3】
(式3中、R5 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子または臭素原子を示す。)
【請求項10】
一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応させ、必要ならばさらに酸化反応を行いその後で分子内転移反応を行なわせる事を特徴とする請求項7または8に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項2に記載の機能性有機りん化合物を3ないし25重量%含有するポリスチレン−ポリフェニレンオキサイド樹脂成形品に電子線またはγ線などの放射線の照射処理を施す事を特徴とする難燃性、耐熱性樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を含有する事を特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を10ないし40重量%含有する事を特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を含有した難燃性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させた後に電子線またはγ線などの放射線の照射処理を施す事を特徴とする高ガラス転移温度を持ったエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項15】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を10ないし40重量%含有した難燃性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させた後に電子線またはγ線などの放射線の照射処理を施す事を特徴とする高ガラス転移温度を持ったエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項1】
一般式1で表され、分子内に複数個の不飽和基を持っている事を特徴とする機能性有機りん化合物。
【化1】
(式1中、R1 およびR2 は4−アリロキシフェニル基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示し、R3 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基、3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基または3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基を示す。)
【請求項2】
一般式1でR1 およびR2 が4−アリロキシフェニル基であり、R3 がメチル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(4−アリロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド}
【請求項3】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がメチル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メチルホスフィンオキサイド}
【請求項4】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がブチル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ブチルホスフィンオキサイド}
【請求項5】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がフェニル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルホスフィンオキサイド}
【請求項6】
一般式1でR1 およびR2 が3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基であり、R3 がベンジル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{ジ−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ベンジルホスフィンオキサイド}
【請求項7】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに3−アリル−4−ヒドロキシフェニル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項8】
一般式1でR1 、R2 およびR3 がともに3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル基である事を特徴とする機能性有機りん化合物。{トリス−(3−メタリル−4−ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキサイド}
【請求項9】
一般式2で表される有機りん化合物と一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドとを縮合反応させ、続いて必要ならば酸化反応または(および)分子内転移反応を行なわせる事を特徴とする請求項2ないし6に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【化2】
(式2中、R4 は1ないし7の炭素数を持っている炭化水素基を示し、nは0または1を示す。)
【化3】
(式3中、R5 は4−アリロキシフェニル基または4−メタリロキシフェニル基を示し、Xは塩素原子または臭素原子を示す。)
【請求項10】
一般式3で表される置換マグネシウムハロゲナイドと三塩化りん、トリフェニルホスファイトまたはオキシ塩化りんとを縮合反応させ、必要ならばさらに酸化反応を行いその後で分子内転移反応を行なわせる事を特徴とする請求項7または8に記載の機能性有機りん化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項2に記載の機能性有機りん化合物を3ないし25重量%含有するポリスチレン−ポリフェニレンオキサイド樹脂成形品に電子線またはγ線などの放射線の照射処理を施す事を特徴とする難燃性、耐熱性樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を含有する事を特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を10ないし40重量%含有する事を特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を含有した難燃性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させた後に電子線またはγ線などの放射線の照射処理を施す事を特徴とする高ガラス転移温度を持ったエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項15】
請求項3ないし8に記載の機能性有機りん化合物を10ないし40重量%含有した難燃性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させた後に電子線またはγ線などの放射線の照射処理を施す事を特徴とする高ガラス転移温度を持ったエポキシ樹脂の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−69980(P2006−69980A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256964(P2004−256964)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(504233720)松原産業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(504233720)松原産業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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