説明

機能性材料の製造方法

【課題】バインダーを使用せずに、防虫成分とシート状素材に代表される担体とを複合化して機能性材料を製造する新規な製造方法であって、防虫効果が長期間に亘って徐々に発揮される機能性材料の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る機能性材料の製造方法は、水相と油相の界面を利用した界面重合反応により、テルペノイド(特に柑橘類からのリモネン抽出残渣成分)が担体に担持された機能性材料を製造する方法であって、界面活性剤を含む水溶性モノマーにテルペノイドを添加してO/Wエマルションを形成する工程と、前記O/Wエマルションに担体を接触させた後、界面重合反応が生じる油溶性モノマーの有機溶媒溶液に接触させる工程、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫剤として有用なテルペノイド(特に柑橘類からのリモネン抽出残渣成分)が担体に担持された機能性材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙などのシート状素材に種々の機能を付与した材料は、機能紙と呼ばれている。機能紙には、抗菌紙、絶縁紙および脱臭紙が例として挙げられる。
【0003】
紙と機能成分の複合化法としては、定着剤を用いた内添法と、バインダーを用いる塗工法の二つが代表的に挙げられる。しかし、前者の方法では機能性材料の歩留まりが低下するという問題があり、後者の方法では、バインダーによる機能発現の阻害という問題がある。
【0004】
そこで本発明者らは、バインダーを用いずにパラフィンなどの油溶性物質をシート状素材に定着する方法として、特許文献1を開示している。特許文献1には、パラフィンなどの油溶性機能物質をO/Wエマルション中でマイクロカプセル化した後、水溶性モノマーと油溶性モノマーとの界面重合反応を、シート状素材の表面上で行う方法が記載されている。詳細には、まず、アゾ化合物などのラジカル重合体を溶解させたパラフィンを含む有機溶媒に、ラジカル重合反応が生じるメタクリル酸メチルなどのモノマーを添加した後、これを、界面活性剤を含有し界面重合反応が生じるエチレンジアミンなどの水溶性モノマー中に添加してエマルションを形成する。エマルション中でのラジカル重合反応によって生成した高分子膜により、油溶性機能物質はマイクロカプセル化される。次に、このエマルションにシート状素材を含浸した後、酸ハロゲン化物などの油溶性モノマーを溶解させた有機溶媒中に浸漬し、シート状素材の表面上で水溶性モノマーと油溶性モノマーとの界面重合反応を行う。その結果、マイクロカプセル化したパラフィンがシート状素材の表面上に定着される。この方法によれば、マイクロカプセル化したパラフィンを内包させることが可能となり、シート状素材の表面に定着させることが難しかったパラフィンを高い歩留まりで定着させることができる。
【0005】
近年、貯穀害虫や繊維害虫による被害が深刻になっており、様々な防虫法が検討されている。代表的な防虫法としては、例えばピレスロイドなどの合成化合物による防虫手段、燻蒸剤による燻蒸手段、低温処理や高圧炭酸ガス処理などの物理的手段などが挙げられる。このうち、現在主流となっているピレスロイドなどの合成化合物を用いる方法は、消費者の安全志向や環境意識の高まりに伴い、使用を忌避する傾向にある。また、燻蒸方法としては臭化メチルが汎用されてきたが、臭化メチルはオゾン層破壊物質であり、2005年に使用が禁止された。その後、臭化メチルに代わる燻蒸剤も開発されているが、価格や防虫効果の面から充分でない。また、低温処理や高圧炭酸ガス処理による物理的方法は、安全で防虫効果に優れる反面、初期投資やランニングコストが高い。
【0006】
そこで、従来とは異なる新たな防虫法として、天然成分を利用した防虫法が注目を集めている。例えば非特許文献1には、柑橘精油からリモネンを抽出した油状の抽出残渣(高沸点分画)は、代表的な繊維害虫であるヒメマルカツオブシムシに対し、顕著な摂食阻害性を示すことが報告されている。この抽出残渣は、リモネン以外のモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペンなどの種々のテルペノイドを主に含有する多成分の混合物であり、複数物質の共存により繊維害虫に対する摂食阻害性が増加することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−615号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「柑橘抽出物を利用した衣料用防虫シートの開発」、愛媛県工業系研究報告、p59〜63、No.45、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
天然成分を利用した防虫法の開発が活発になるにつれ、防虫機能を付与した機能性材料の提供が望まれている。特に、害虫による農作物被害などを解消するためには、防虫剤による効果が一過性ではなく、長期間に亘って徐々に発揮されるような持続性に優れた徐放作用を有する機能性材料の提供が切望されている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バインダーを使用せずに、防虫成分とシート状素材に代表される担体とを複合化して機能性材料を製造する新規な製造方法であって、防虫効果が長期間に亘って徐々に発揮される徐放性の機能性材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し得た本発明に係る機能性材料の製造方法は、水相と油相の界面を利用した界面重合反応により、テルペノイドが担体に担持された機能性材料を製造する方法であって、界面活性剤を含む水溶性モノマーにテルペノイドを添加してO/Wエマルションを形成する工程と、前記O/Wエマルションに担体を接触させた後、界面重合反応が生じる油溶性モノマーの有機溶媒溶液に接触させる工程、を含むところに要旨を有するものである。
【0012】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る機能性材料の他の製造方法は、水相と油相の界面を利用した界面重合反応により、柑橘類からのリモネン抽出残渣成分が担体に担持された機能性材料を製造する方法であって、界面活性剤を含む水溶性モノマーに上記リモネン抽出残渣成分を添加してO/Wエマルションを形成する工程と、前記O/Wエマルションに担体を接触させた後、界面重合反応が生じる油溶性モノマーの有機溶媒溶液に接触させる工程と、を含むところに要旨を有するものである。
【0013】
好ましい実施形態において、上記担体はシート状素材である。
【0014】
好ましい実施形態において、上記担体は、紙、布、不織布、または繊維シートである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法は上記のように構成されているため、バインダーを使用しなくても、テルペノイド(特に柑橘類からのリモネン抽出残渣成分)の防虫成分と紙や不織布などの担体が複合化した機能性材料であって、防虫成分による徐放効果が長期間に亘って持続的に発揮される徐放性の機能性材料を提供することができる。
【0016】
本発明の製造方法によって得られる機能性材料は、害虫忌避シートとして極めて有用であり、防虫作用が要求される様々な用途に適用可能である。例えば米びつ、米袋などの穀物袋、衣料などの保存袋、食品保存用の段ボール、衣類収納ケースなどの防虫ケース、スーツカバー、文庫紙、美術品等の収納袋などに好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例2において、忌避性の指標に用いたEPIの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、防虫成分として有用なテルペノイド(特に、柑橘類からのリモネン抽出残渣成分)が紙などの担体に担持された機能性材料であって、防虫効果が長期間に亘って徐々に発揮される徐放性の機能性材料を製造することのできる新規な方法を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、特許文献1に記載の界面重合反応を改変した方法を利用すれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明も前述した特許文献1の方法も、界面重合反応が生じる水溶性モノマーと油相モノマーを用い、水と有機溶媒との界面でこれらを重合させる界面重合反応により、油溶性の機能成分が担体表面に定着させる点では一致している。
【0020】
しかしながら、両者は、対象とする機能成分が相違しており、そのため、O/Wエマルションの形成方法が相違している。まず、特許文献1では、実質的にパラフィンなどの蓄熱材料を対象としており、パラフィンの有機溶媒溶液にアゾ化合物などのラジカル重合開始剤とメタクリル酸メチルなどのラジカル重合反応が生じるモノマーを添加した「前処理剤」を用意し、これを水溶性モノマーに添加してO/Wエマルションを形成している。上記「前処理剤」を含むエマルション中でラジカル重合反応が進行し、生成した高分子膜によりパラフィンがマイクロカプセル化される。
【0021】
これに対し、本発明は、柑橘類からのリモネン抽出残渣成分(リモネンを除くテルペノイドを主体とする防虫成分)を対象としており、水溶性モノマーに、当該抽出残渣成分を添加してO/Wエマルションを形成している。本発明では、特許文献1とは異なって、ラジカル重合反応は不要であり、ラジカル重合開始剤およびラジカル重合反応が生じるモノマーは添加しない。すなわち、本発明では、特許文献1に記載の「前処理剤」の調製は不要であり、防虫成分である抽出残渣成分を、特許文献1のようにマイクロカプセル化する必要はない。
【0022】
本発明のように柑橘類からのリモネン抽出残渣成分を対象とする場合、マイクロカプセル化の調製が不要になる理由は詳細には不明であるが、使用する有機溶媒相溶性が低く、柑橘類からのリモネン抽出残渣成分の流出が抑えられたことが推察される。
【0023】
しかも、本発明の方法によれば、上記抽出残渣成分による優れた防虫作用が、長期間に亘って徐々に発揮される徐放性の防虫成分含有機能性材料を提供することができ、特許文献1では得られなかった顕著な作用効果を奏するものである。
【0024】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明で対象とする防虫成分について説明する。
【0026】
本発明では、テルペノイド(特に、柑橘類からのリモネン抽出残渣成分)を防虫成分として用いる。柑橘類からのリモネン抽出残渣成分が優れた害虫忌避作用を有することは、例えば非特許文献1に記載されており、テルペノイドはその主成分である。上記リモネン抽出残渣成分には、そのほか、フラボノイドも含まれる。
【0027】
上記テルペノイドとしては、モノテルペン、セスキテルペン、テルペンアルコール、ジテルペン、トリテルペンなどが挙げられ、これらの少なくとも一種を含むものを防虫成分として用いることができる。
【0028】
柑橘類からのリモネン抽出残渣成分は、柑橘果皮からのリモネン抽出後の残渣成分を蒸留することによって得られる。柑橘類の種類は特に限定されず、例えば、オレンジ、温州みかん、八朔、伊予柑、夏みかん、グレープフルーツ、冬橙、ユズ、レモン、ライム、マンダリン、シークワーシャーなどの柑橘類が挙げられる。具体的には、まず、上記柑橘類の果皮から、コールドプレス法や水蒸気蒸留法などによって精油を得る。得られた精油を蒸留することによってリモネンが得られるが、その際、テルペノイドやフラボノイドなどの防虫成分を含む油状の抽出残渣が得られるので、本発明では、この抽出残渣を利用する。蒸留に用いられる蒸留器は特に限定されず、例えば、真空単蒸留やラシヒリングを充填した真空充填塔式蒸留などが挙げられる。柑橘類からのリモネン抽出残渣成分を得る方法は、例えば、香料の実際知識(印藤、1985年)などの文献に記載されており、これらの文献を参照しても良い。
【0029】
次に、界面活性剤を含む水溶性モノマーに上記防虫成分を添加してO/Wエマルションを形成する。
【0030】
ここで、上記界面活性剤は、O/Wエマルションを形成させるために添加される。本発明に用いられる界面活性剤は、例えば、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノレートなどが挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは市販品を用いても良く、和光純薬製のTween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノレート)などが挙げられる。
【0031】
防虫成分を溶解する有機溶媒としては、防虫成分を溶解でき、水と混和しないものであれば特に限定されず、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘプタン、四塩化炭素、ジクロロメタン、キシレン、ニトロベンゼン、n−ヘキサン、トルエン、エチルエーテル、酢酸エチルなどが挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
界面重合反応が生じる上記水溶性モノマーとしては、分子中に2個以上のアミノ基またはカルボキシル基を有するものであれば良く、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、メンタンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシルノメタン、イソフォロンジアミン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシベンゾフェノン、o−ヒドロキシフェノール、m−ヒドロキシフェノール、p−ヒドロキシフェノール、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、エチリデンビスフェノール、メチルエチリデンビス(メチルフェノール)、α−メチルベンジリデンビスフェノール、シクロヘキシリデンビスフェノール、アリル化ビスフェノールなどが挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記工程では、界面活性剤を含む水溶性モノマーに防虫成分を添加してO/Wエマルションを形成する。界面活性剤、防虫成分、水溶性モノマーの添加比率は、これらの種類や油相モノマーの種類、適用する用途などによっても相違し、所望の作用効果が発揮されるように適宜調製すれば良いが、好ましい質量比率は、おおむね、界面活性剤:防虫成分:水溶性モノマー=1〜6部:0.375〜3.75部:1〜10部であり、より好ましくは、1〜2部:1.5〜3部:7.25〜10部である。
【0034】
また、上記エマルション形成時の好ましい反応温度は、20〜30℃であり、好ましい反応時間は、1分〜10分である。
【0035】
次に、上記のようにして得られたO/Wエマルションに担体を接触させた後、界面重合反応が生じる油溶性モノマーの有機溶媒溶液に接触させる。
【0036】
本発明に用いられる担体は、防虫成分を担持することのできるものであれば特に限定されず、例えば紙、不織布、布、カーボン繊維などに代表される無機繊維などの繊維、フィルムなどが挙げられる。担持のし易さを考慮すると、これらは、シート状に形成されていることが好ましい。
【0037】
本発明に用いられる油溶性モノマーは、上述した水溶性モノマー中のアミノ基またはカルボキシル基と界面重合反応が生じるものであれば特に限定されず、例えば酸無水物(無水マレイン酸、無水o−フタル酸、無水コハク酸など)、酸ハロゲン化物(二塩化テレフタロイル、二塩化アジポイル、二塩化γ−ベンゾイルピメリン酸、二塩化γ−アセチルピメリン酸など)、イソシアネート類(ヘキサメチレンジイソシアネート、メタフェニレンイソシアネート、トルイレンイソシアネート、トリフェニルメタン−トリイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート)が挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
上記油溶性モノマーの添加量は、使用する界面活性剤、防虫成分、水溶性モノマー、油相モノマーなどの種類や、適用する用途などによっても相違し、所望の作用効果が発揮されるように適宜調製すれば良いが、有機溶媒100質量部に対し、おおむね、1〜5質量部の範囲とすることが好ましく、1〜2質量部の範囲とすることがより好ましい。
【0039】
なお、上記酸ハロゲン化物のうち酸塩化物を用いる場合は、界面重合反応の際に副生成物の塩酸が生じて防虫成分の内包化を阻害する恐れがあるため、中和の目的で水溶性モノマーと共にアルカリ溶液を添加することが好ましい。上記アルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0040】
油溶性モノマーの有機溶媒としては、前述したものと同じ有機溶媒を用いることができる。
【0041】
上記工程において、O/Wエマルションに担体を接触する態様としては、含浸や浸漬などが挙げられる。好ましい接触温度は、おおむね、20〜30℃であり、好ましい接触時間は、おおむね、1分〜60分である。
【0042】
これにより、担体表面上で、上記水溶性モノマーと油溶性モノマーとの界面重合反応が進行し、高分子膜が生成すると同時に防虫成分が担体上に定着されるようになる。例えば後記する実施例では、水溶性モノマーとしてエチレンジアミンを用い、油溶性モノマーとして二酸化テレフタロイルを用いて界面重合反応を行なったが、これにより、担体として用いたろ紙上にナイロン膜を定着することができた。
【0043】
次に、必要に応じて、過剰の油相モノマーを有機樹脂溶媒で除去した後、室温で乾燥する。これにより、担体に防虫成分が複合化された機能性材料が得られる。
【0044】
本発明によれば、例えば コクゾウムシ、ココクゾウムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキ、ノコギリヒラタムシ、カクムネヒラタムシ、ヒラタチャタテなどの害虫に対し、優れた忌避作用を発揮する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
以下の実施例1および2では、防虫成分として、オレンジの果皮のリモネン抽出残渣成分を用いて実験を行なった。このリモネン抽出残渣成分は、リモネン以外のモノテルペン、セスキテルペン、ジテルペンなどの種々のテルペノイドを含有する多成分の混合物で構成されている。
【0047】
実施例1
本実施例では、水溶性モノマーの濃度を種々変化させたときの防虫成分の定着率を調べた。
【0048】
詳細には、水溶性モノマーとしてエチレンジアミンを用い、2.5〜25質量%のエチレンジアミン水溶液15mLに、界面活性剤(和光純薬製のTween 20)を0.15gおよび上記のリモネン抽出残渣成分を7.25mL添加した後、室温にてマグネチックスターラーを用い、500rpmの撹拌速度で10分間時間強く撹拌し、O/Wエマルションを得た。
【0049】
このようにして得られたO/Wエマルションに、ろ紙(ADVANTEC製のNo.2、3cm×2.5cm、厚さ:270μm)を室温で5秒間浸漬した後、1質量%二塩化テレフタロイル(油溶性モノマー)のシクロヘキサン溶液10mLに含浸させた後、室温で1時間静置した。
【0050】
次いで、反応液からろ紙を取り出し、室温で乾燥して調製シートを得た。
【0051】
このようにして得られた調製シート中に定着した防虫成分の量を算出した。まず、上記の調製シートをジクロロメタン5mLに60分間含浸し、定着した防虫成分を抽出した。得られた抽出液について、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製のGC−2014)を用いて、以下の条件で分析した。
カラム:SUPELCO SLB(登録商標)−5ms
(L.D.0.32×Length30m、df0.25μm)
カラム温度:
50℃(保持時間5分)〜134℃(保持時間0分)、3℃/min
134℃(保持時間0分)〜250℃(保持時間10分)、15℃/min
注入温度:280℃
検出温度:280℃
キャリアガス:N2
流量:1.5ml/min
検出器:FID
スプリット:1:50
【0052】
これらの結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、エチレンジアミン濃度が増加するにつれ、防虫成分の定着量も増加する傾向が見られ、特にエチレンジアミン濃度が10〜25質量%では約7%以上の高い定着率が得られた。これは、エチレンジアミン濃度の増加に伴い、界面重合反応によって得られるナイロン膜の厚さも厚くなるため、防虫成分の定着量も向上したと推察される。
【0055】
実施例2
本実施例では、前述した実施例1の方法によって得られた調製シートの試料(試験群)を用い、以下の忌避性試験を行って徐放性効果を調べた。
【0056】
比較のため、界面重合反応を行なっていない原紙のろ紙(対照群)を用い、同様に以下の忌避性試験を行った。
【0057】
(忌避性試験)
本実施例では、コクゾウムシ(Sitophilus zeamais)に対する忌避性試験を行なった。試験に用いるコクゾウムシは、実験群ごとに10匹ずつ用意し、予め3日間絶食させておいた。このコクゾウムシを、温度23℃、湿度約50%、暗条件の試験環境下に90分間放置した後、上記の各試料(試験群および対照群)のそれぞれに集まったコクゾウムシの数を数え、下式に基づいてEPI(Excess Proportion Index)を算出して忌避性の指標とした。
EPI=(nb−ns)/(nb+ns)
式中、ns:試験群に集まったコクゾウムシの数
nb:対照群に集まったコクゾウムシの数
【0058】
上記のEPIにおいて、「EPI=1」とは、試験に用いたコクゾウムシ(合計N匹)の全数を試験群の試料(本発明例)により忌避できたことを意味する。詳細には、コクゾウムシは対照群の試料に全て集まり(nb=N)、試験群の試料に全く集まらなかった(ns=0)ため、EPIは、
EPI=(N−0)/(0+N)
=1
と算出される。
【0059】
一方、上記のEPIにおいて、「EPI=−1」とは、試験に用いたコクゾウムシ(合計N匹)が全て誘引されたことを意味する。詳細には、コクゾウムシは対照群の試料には全く集まらず(nb=0)試験群に全ての虫が集まったことになり(ns=N)、EPIは、
EPI=(0−N)/(N+0)
=−1
と算出される。
【0060】
同様に「EPI=0」とは、試験群の試料による忌避効果と対照群の試料による忌避効果が同等であったことを意味する。EPIが1に近づく程、本発明例は対照群の試料に比べて高い忌避性を有することを意味する。
【0061】
本実施例では、製造直後の試験群の各試料を用い、忌避性試験を行った。忌避性試験は、各試料ごとに合計5回行い、EPIの平均値を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2より、製造直後の各試料は、エチレンジアミンの濃度にかかわらず、EPIが0.85以上と非常に高く、コクゾウムシに対する非常に強い忌避効果が確認された。
【0064】
実施例3
本実施例では、実施例2に用いた各試験群の試料(エチレンジアミン濃度:10%)による忌避効果の経時的変化について調べた。
【0065】
比較のため、実施例1で用いた防虫成分を50mg/m2含むようにろ紙(ADVANTEC製のNo.2、3cm×2.5cm、厚さ:270μm)に滴下させた試料(対照群)を作製した。
【0066】
上記の試験群および対照群の試料のそれぞれについて、図1に示すように、製造直後〜90日経過後の忌避性試験を行った。忌避性試験は、合計5回行い、EPIの平均とその標準偏差を調べ、その結果を図1に示す。
【0067】
図1より、本発明例の試験群の試料を用いた場合、製造直後とほぼ同程度の忌避効果を、約100日間もの長時間持続できることが分かる。これに対し、防虫成分を単にろ紙に滴下しただけの対照群の試料は、製造直後に忌避効果が若干見られたものの、忌避効果は速やかに低下し、製造後2日程度で、忌避効果は殆ど見られなかったため、実験を中止した。
【0068】
このように対照群による忌避効果は、一過性で持続効果が認められなかったのに対し、本発明の方法で製造した試験群の試料を用いた場合は、製造後約100日を経過しても、防虫成分による徐放効果が持続的に発揮されることが判明した。よって、本発明の製造方法によって得られる機能性材料は、特に長時間に亘って防虫効果が発揮されることが期待される技術分野に、好ましく用いられることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相と油相の界面を利用した界面重合反応により、有効成分としてテルペノイドを含む防虫成分が担体に担持された機能性材料を製造する方法であって、
界面活性剤を含む水溶性モノマーにテルペノイドを添加してO/Wエマルションを形成する工程と、
前記O/Wエマルションに担体を接触させた後、界面重合反応が生じる油溶性モノマーの有機溶媒溶液に接触させる工程と
を含むことを特徴とする機能性材料の製造方法。
【請求項2】
水相と油相の界面を利用した界面重合反応により、柑橘類からのリモネン抽出残渣成分が担体に担持された機能性材料を製造する方法であって、
界面活性剤を含む水溶性モノマーに前記リモネン抽出残渣成分を添加してO/Wエマルションを形成する工程と、
前記O/Wエマルションに担体を接触させた後、界面重合反応が生じる油溶性モノマーの有機溶媒溶液に接触させる工程と
を含むことを特徴とする機能性材料の製造方法。
【請求項3】
前記担体は、シート状素材である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記担体は、紙、布、不織布、または繊維シートである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−127232(P2011−127232A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284123(P2009−284123)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「第76回紙パルプ研究発表会講演要旨集」 発行日:2009年 6月15日 発行所:紙パルプ技術協会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(591108248)カミ商事株式会社 (19)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】