機能性磁気超ナノ微粒子及びその用途
【課題】磁気超ナノ微粒子表面にアミノ基などの官能基を共有結合的に修飾した機能性磁気超ナノ微粒子開発し、核酸、ペプチド(タンパク質)、薬剤などを修飾することができる磁気超ナノ微粒子及びそれを用いた機能性材料を提供する。
【解決手段】
アミノ基等の官能基をシリカコートされた微粒子表面にシラン化などによって修飾させることにより得られる機能性磁気超ナノ微粒子及びそれを用いたDNA、タンパク(ペプチド)、薬剤等の結合複合体、及び、新規薬剤輸送剤及びその輸送システム。
【解決手段】
アミノ基等の官能基をシリカコートされた微粒子表面にシラン化などによって修飾させることにより得られる機能性磁気超ナノ微粒子及びそれを用いたDNA、タンパク(ペプチド)、薬剤等の結合複合体、及び、新規薬剤輸送剤及びその輸送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェルの表面に官能基が導入された機能性磁気超ナノ微粒子、その製造方法、それを含む複合体ならびにそれら微粒子および複合体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では微粒子製造技術の向上により、単分散に非常に小さいサイズ(平均粒子径が1nm位から数百nm位までのナノメートルオーダーの微粒子が簡便に調製できるようになった(非特許文献1)。一方、微粒子に磁性を持たせた磁気微粒子も開発された(非特許文献2〜5)。これは、微粒子を回収する際に遠心分離などの作業が不要であり、磁気をかけた場所に微粒子が集中するため分離操作が非常に簡便になり、また、遠心の際の過度の遠心速度、つまり重力加速度(g)により微粒子をつぶしてしまう恐れも回避できる。しかし、従来の磁気微粒子の多くは、その調製方法から粒径もマイクロメートルオーダーと大きく、また、微粒子の外側に非特異的に酸化鉄などの磁性をもった物質が吸着するという課題が残っていた。以下、平均粒子径がナノメートルオーダーの微粒子を「ナノ微粒子」と称し、特に平均粒子径が3nm以下のナノ微粒子を「超ナノ微粒子」と称することがある。また、磁性を持たせたナノ微粒子や超ナノ微粒子を、「磁気ナノ微粒子」「磁気超ナノ微粒子」と称することがある。
ナノメートルオーダーの磁気微粒子を調製しようとした場合、スパッタリング法、真空蒸着法、ガス反応法などの乾式法、あるいは共沈法、熱分解コロイド法などの湿式法がある。一般に当該微粒子は凝集してバルク化する傾向を持つため、その分離法や、任意の媒質への均一分散技術に問題点を有していた。当該微粒子の調製においては、湿式沈殿法を用いることにより上記の問題を解決した。例えば、IchiyanagiらはFeCl2・4H2O, Na2SiO3・9H2Oの混合溶液から表面がシリカコートされた磁気超ナノ微粒子の調製に成功しており、X線解析結果から、磁気超ナノ微粒子は安定に存在し、その平均粒子径は、10nm以下であった。(特許文献1〜3ならびに非特許文献3および5)。
【0003】
ナノ微粒子の使用方法に関しては、微粒子を用いて生体物質である核酸、タンパクの中から目的の物質のみを分離する方法が開発されている(特許文献4ならびに非特許文献6および7)。例えば、特許文献4および非特許文献7には、W/Oミニエマルション法により、2個のアミノ基と1個のカルボキシル基を有するモノマーとジグリシジルエーテルを反応させることにより得られるくり返し単位中に、2個のアミノ基と1個のカルボキシル基、及び2個の水酸基を有するpH応答性両性イオン微粒子を調製し、それを用いて、核酸の取り込み、放出をpH変化のみで行えるシステムが記載されている。また、ナノ微粒子と薬物などの所望の物質との複合体を作製することもできる。しかし、ナノ微粒子やナノ微粒子の複合体を細胞内へ導入するためにはナノ微粒子をカチオンで被覆してカチオン性にする処理が必要であり、これらはカチオンに起因する毒性を有することに加え、代謝分解されずに細胞内に留まり、細胞が死滅してしまう欠点があった。さらに、ガン細胞表面に多く発現している膜タンパク質(葉酸受容体(非特許文献8)、アミノ酸トランスポーター(非特許文献9、10)等)を介して薬剤等を細胞内に導入することは既に報告されている(特許文献6、7、非特許文献11)。これを応用して微粒子表面に葉酸を修飾すると、ガン細胞特異的な送達方法が確立でき、遺伝子送達法(非特許文献12)、イメージング法(非特許文献13)に用いられている。しかし、この場合、ナノ微粒子の調製が多段階であるために煩雑であること、ナノ微粒子でもその粒径が大きいことから効率的な導入方法ではないことが挙げられる。つまり、ナノ微粒子やナノ微粒子の複合体を所定の組織または細胞に集積させることは困難であった。
【0004】
ナノ微粒子の複合体の使用方法に関しては、上記に加えて、微粒子表面にペプチド、
核酸などのリガンドを修飾して、これと相互作用する細胞内のタンパク質を同定する方法も既知であるが、これは細胞破砕した後(in vitro)に微粒子複合体を添加する方法である(非特許文献6)。
また、J. Wonらはカチオンコートされたナノ微粒子に細胞内タンパク質と相互作用する物質を修飾し、生きた細胞に取り込みを行い、標的タンパク質の同定を行っている(非特許文献14)。しかし、この場合でも、ナノ微粒子の粒径が大きく、ナノ微粒子を細胞内へ導入するためには微粒子をカチオン性にする処理が必要(非特許文献14および15)であり、完全に無毒ではない。無毒化することへの解決法は確立されていない。また、生体外で培養できないような細胞から標的物質を補足することは既存の技術では難しく、生物固体へ無毒の物質を局所的に導入する必要がある。
さらに、磁気ナノ微粒子表面に細胞膜タンパクと相互作用する抗体を修飾し磁力により細胞を回収する物質、方法も報告されているが、この場合は微粒子−抗体複合体は細胞内に取り込ませていない(特許文献5)。
なお、上述のように、ナノ微粒子または磁気ナノ微粒子の表面を修飾する方法、および表面が修飾されたナノ微粒子または磁気ナノ微粒子は公知であったが、表面が修飾された磁気超ナノ微粒子は知られていなかった。
【特許文献1】特開2003−252618号公報
【特許文献2】特開2001−261334号公報
【特許文献3】特開2005−200437号公報
【特許文献4】特開2006−077037号
【特許文献5】特表2003−533363号公報
【特許文献6】特表2004−529642号公報
【特許文献7】国際公開第2004/032966号パンフレット
【非特許文献1】Du YZ, Tomohiro T, Zhang G, Nakamura K, Kodaka M. Chem Commun 2004. 5, 616-617.
【非特許文献2】Yamazaki N.; Du Y.-Z.; Nagai M.; Omi S. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2003. 29, 159-169
【非特許文献3】Y. Ichiyanagi, T.Uozumi, Y Kimisima. Ttansactions of the Materials Research Society of Japan. 2001, 279, 1097-1100
【非特許文献4】Nakayama H., Arakaki A., Maruyama K., Takeyama H., MatsunagaT. Biotech. and Bioeng.,2003, 84, 96-102
【非特許文献5】Y. Ichiyanagi, Y Kimisima. J. Thermal Analysis and Colorimetry. 2002, 69, 919-923
【非特許文献6】Tomohiro, T. et al., Bioconjugate Chem.; 2002; 13 163-166
【非特許文献7】S. Taira, Y. Z. Dong, M. Kodaka, Biotechnology and Bioengineering, 2006 93, 396-400
【非特許文献8】S.D. Weitman, R.H. Lark, L.R. Coney, D.W. Fort, V. Frasca, V.R. Zurawski Jr and B.A. Kamen, Cancer Res. 1992, 52, 3396-3401
【非特許文献9】N. Gupta, PD.Prasad, S. Ghamande, P. Moore-Martin, AV. Herdman, RG. Martindale, R. Podolsky, S. Mager, ME. Ganapathy, V. Ganapathy, Gynecol Oncol. 2006, 100, 8-13.
【非特許文献10】N. Gupta, S. Miyauchi, RG. Martindale, AV. Herdman, R. Podolsky, K. Miyake, S. Mager, PD. Prasad, ME. Ganapathy, V. Ganapathy, Biochim. Biophys. Acta. 2005, 30, 215-23.
【非特許文献11】T. Hatanaka, M. Haramura, Y.J. Fei, S. Miyauchi, C.C. Bridges, P.S. Ganapathy, S.B. Smith, V. Ganapathy, M.E. Ganapathy. J. Pharmacol. Exp. Ther. 2004, 308, 1138-1147 (2004).
【非特許文献12】G. Zuber, L. Zammut-Italiano, E. Dauty and J. P. Behr, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 42, 2666-2669
【非特許文献13】C. Sun, R. Sze, M. Zhang, J. Biomed Mater. Res. A, 2006, 78, 550-557
【非特許文献14】J Won, M Kim, Yong-Weon Yi, Y. H. Kim, N. Jung, T. K. Kim, Science 2005, 309, 121-125
【非特許文献15】Y. Jun, Y. Huh, J. Choi, J. Lee, H. Song, S. Kim, S. Yoon, K. Kim, J. Shin, J. Suh, J. Cheon JACS, 5732-5733
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シェルの表面に官能基が導入された機能性磁気超ナノ微粒子、およびその製造方法を提供することを課題とする。また、該機能性磁気超ナノ微粒子を含む複合体ならびにそれら微粒子および複合体の使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、湿式沈殿法を用いて1.3〜3nmオーダーで単分散に調製した磁気超ナノ微粒子に、シラン化によりアミノ基などの官能基を共有結合的に導入し、機能性磁気超ナノ微粒子を調製できることを見出した。そして、該機能性磁気超ナノ微粒子と薬物の複合体を用い、磁気を集中させることにより、被検体内の所定の組織または細胞に薬物を送達できることや、その送達をモニタリングできることを見出した。また、該機能性磁気超ナノ微粒子と所望の物質に対するリガンドの複合体を用い、所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングできることを見出した。さらに、磁気をかけることにより、前記の複合体をそのまま被検体内の生きた細胞や組織に導入でき、これらの細胞や組織を生存させることや、培養細胞に対しては磁気をかけることなく、またカチオンを用いることなく細胞内に導入できることを見出した。また、表面に膜タンパクと結合する基質を修飾し機能性磁気超ナノ微粒子をさらに機能化することで細胞選択的な送達も見出した。これらの発見により、前記複合体を用い、生きた細胞や組織から薬剤の標的物質を選択する方法やリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法を確立した。
本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(a)金属酸化物からなるコア、
(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェル、
(c)シェルの表面に共有結合的に導入された官能基、を有する、平均粒子径が1.3〜3nmの機能性磁気超ナノ微粒子。
(2)前記官能基が、シランカップリング剤を介して導入されたものである、(1)の機能性磁気超ナノ微粒子。
(3)前記官能基がアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、スルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、(1)または(2)の機能性磁気超ナノ微粒子。
(4)(a)金属酸化物からなるコア、および(b)該コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェルであって、その表面に水酸基を有するシェル、を有する微粒子の表面に、シランカップリング剤を用いて、該水酸基を介して官能基を共有結合的に導入することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの機能性磁気超ナノ微粒子の製造方法。
(5)(1)〜(3)のいずれかの機能性磁気超ナノ微粒子と薬物を有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記薬物が結合されていることを特徴とする、薬物結合複合体。
(6)機能性磁気超ナノ微粒子または薬物が標識物質で標識されていることを特徴とする、(5)の薬物結合複合体。
(7)(1)〜(3)のいずれかの機能性磁気超ナノ微粒子と、所望の物質と特異的に相
互作用するリガンドを有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記リガンドが機能性磁気超ナノ微粒子に結合されていることを特徴とする、リガンド結合複合体。
(8)機能性磁気超ナノ微粒子またはリガンドが標識物質で標識されていることを特徴とする、(7)のリガンド結合複合体。
(9)(a)(5)または(6)の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞に薬物を送達する方法。
(10)(a)(6)の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、
(c)前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞への薬物の送達をモニタリングする方法。(11)(a)(8)のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記リガンド結合複合体を送達する工程、
(c)磁気を解除して前記部位に集積もしくは滞留した、または前記組織もしくは細胞に送達された前記薬物結合複合体を、分散または代謝させ、前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングする方法。
(12)(a)(5)または(6)の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から、前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
(13)(a)(5)または(6)の薬物結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
(14)(a)(7)または(8)のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記リガンド結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
(15)(a)(7)または(8)のリガンド結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
(16)(5)または(6)の薬物複合体を含む医薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、表面にアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基などの官能基を示すので、共有結合的に他の物質を修飾するのに非常に適している。また、該機能性磁気超ナノ微粒子は磁性を有しているために溶液に均一に拡散した状態から磁気をかけることで1点に集中することが容易であり、目的物質の回収に非常に適している。また、当該磁気超ナノ微粒子は、生きた細胞内に取り込めることから、当該磁気超ナノ微粒子表面にリガンドを修飾することで、in vivoで、これらリガンドと相互作用するタンパク質などの物質を同定できる。また、培養細胞に対しては、磁気をかけることなく、カチオンを用いることなく導入することができるので、培養細胞中のリガンドと相互作用するタンパク質などの物質を簡便に同定することもできる。さらにまた、磁気超ナノ微粒子表面に薬剤を修飾することで、薬剤含有磁気超ナノ微粒子になり、経口投与後、患部に磁気を局所的にかけることで集中的に患部へ薬剤を濃縮することが可能であるため、選択的に即効性を高めた薬剤の開発が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明するが、これらの記載は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本判明の範囲を限定するものではない。
【0010】
(1)磁気超ナノ微粒子
まず、本発明の機能性磁気超ナノ微粒子を製造するに際して材料として用いる磁気超ナノ微粒子について説明する。
この磁気超ナノ微粒子は、(a)金属酸化物からなるコア、(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワーク(網状膜)からなるシェル、を有する形態を有するものである。平均粒子径は、3nm以下であればよいが、好ましくは1.3〜3nmである。平均粒子径は、例えば、X線回折測定や透過型電子顕微鏡(TEM)測定により決定することができる(特開2003−252618号公報)。
【0011】
磁気超ナノ微粒子は、湿式沈殿法を用いて調製するのが好ましい(特開2003−252618号公報)。例えば、以下の式(I)で与えられる磁気超ナノ微粒子 [xM(OH)2・ySiO2]が挙げられる。ここで、xM(OH)2はコアを、ySiO2はシェルを表す。
【数1】
上記式中、Mは遷移金属または稀土類金属を示し、好ましくはNiまたはFeであり、より好ましくはFeである。XはF, Cl, Br, Iから選ばれるハロゲン元素を示す。pは2または3、nは0から9までの整数、mは9または0である。xおよびyはともに1未満の正数である。磁性を発揮するコアおよびその表面修飾層としてのシェルの役割分担の観点から、x>y、かつ、x/yとしては、通常1〜100、好ましくは2〜20程度の範囲から選定される。
より具体的には、磁気超ナノ微粒子 [xM(OH)2・ySiO2]の構造は、図1のように模式的に表すことができる。
【0012】
(2)機能性磁気超ナノ微粒子の調製方法
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、(1)で調製した磁気超ナノ微粒子のシェルの表面に共有結合的に導入された官能基を有するものであればよい。すなわち、本発明の磁気超ナノ微粒子は、(a)金属酸化物からなるコア、(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェル、(c)シェルの表面に共有結合的に導入された官能基
、を有する形態を有するものである。平均粒子径は、3nm以下であればよいが、好ましくは1.3〜3nmである。
導入される官能基は、シェルの表面に導入された後、さらに薬物やリガンドと複合体を形成できるように反応性または親和性を有するものであればいかなるものでもよいが、具体的には、アミノ基、イソシアネート基またはメルカプト基などが挙げられる。
これらの官能基は、例えばシランカップリング剤を介して共有結合的に導入できる。より具体的には、例えばアミノ基が導入された機能性磁気超ナノ微粒子のシェル表面の構造は、図2のように表すことができる。
シランカップリング剤は、上記するように、薬物やリガンドと複合体を形成できるような反応性または親和性を有する官能基を有しているのが好ましい。例えば、アミノ基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(γ−APTES)、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン, N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン, N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン, 3−アミノプロピルトリメトキシシラン, 3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン, N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。特に、γ−APTESが好ましく用いられる。
イソシアネート基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。
メルカプト基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン, 3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
また、ビニル基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、ビニルトリクロルシラン, ビニルトリメトキシシラン, ビニルトリエトキシシランを挙げることができる。
さらに、エポキシ基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン, 3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン, 3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン, 3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン, スチリルp−スチリルトリメトキシシランを挙げることができる。
その他、メタクリロキシ基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン, 3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン, 3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン, 3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン, アクリロキシ3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
ウレイド基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。
クロロプロピル基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−クロロプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
スルフィド基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドを挙げることができる。
以下、上記のようなシランカップリング剤を介した官能基の導入を、「シラン化」または「シラン化処理」と称することがある。
シラン化処理を施す前に、磁気超ナノ微粒子の表面を洗浄することにより、有機物を除去し、シランカップリング剤と反応しうる水酸基を微粒子表面に多数露出しておくことが好ましい。具体的には、エタノールなどの有機溶媒による洗浄、UV洗浄(特開平1−146330号公報)、プラズマ処理等が挙げられる。
【0013】
(3)機能性磁気超ナノ微粒子と薬物の複合体
上記(2)で得られた機能性磁気超ナノ微粒子は、その表面に官能基を有するので、これらの官能基を介して所望の薬物と結合し、複合体を形成することができる。ここで、機能性磁気超ナノ微粒子と所望の薬物の結合は、機能性磁気超ナノ微粒子表面に導入された官能基を介している限り、共有結合、イオン結合、水素結合等のいかなる結合であってもよい。
所望の薬物とは、例えば、診断および/または治療の目的に応じて薬学的に許容し得る薬理活性物質、生理活性物質および/または診断用物質等である。
治療のための薬物の種類としては、複合体の形成および安定性を損ねない限り特に制限されないが、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖、多糖およびそれらの誘導体、ビタミンおよびその誘導体、タンパク質およびペプチドなどの生理活性物質や薬理活性を有する低分子化合物等が挙げられ、より具体的には、抗癌剤、抗生物質、酵素剤、抗酸化剤、脂質取り組み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウィルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、NOS阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤およびラジカルスカベンジャー等の薬物が挙げられる。
また診断の薬剤としては、複合体の形成を損ねないかぎり特に限定されないが、たとえばX線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬等の体内診断薬挙げられる。X線造影剤の例としては、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、ガストログラフィン、ヨーダミドメグルミン、リピオドールウルトラフルイド、アジピオドンメグルミン、イオキサグル酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオヘキソール、イオベルソール、イオポダートナトリウム、イオメプロール、イソペーク、ヨードキサム酸等が挙げられる。
【0014】
(4)機能性磁気超ナノ微粒子とリガンドの複合体
また、上記(2)で得られた機能性磁気超ナノ微粒子は、その表面に官能基を有するので、これらの官能基を介して所望のリガンドと結合し、複合体を形成することができる。ここで、機能性磁気超ナノ微粒子と所望のリガンドの結合は、機能性磁気超ナノ微粒子表面に導入された官能基を介している限り、いかなる結合であってもよいが、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合等が挙げられる。
リガンドとしては、所望の物質と特異的な相互作用を有するものであれば、その種類は特に限定されないが、例えば、トランスフェリン、CEA,EGF、AFP等の蛋白質;インシュリン等のペプチド;モノクロナール抗体等の抗体;腫瘍抗原などの抗原;ホルモン;伝達物質;ルイスX、ガングリオシド等の糖質;アミノ酸やその誘導体;葉酸などのビタミンやその誘導体のような低分子化合物を用いることができる。上記に例示したリガンドはその全体を用いてもよいが、酵素処理等によって得られるそのフラグメントを用いてもよい。また、人工的に合成されたペプチドやペプチド誘導体であってもよい。リガンドとしては抗体が好ましく、ヒトに用いる場合は、マウス−ヒトのキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体などがより好ましい。
【0015】
(5)複合体の標識
上記(3)または(4)の複合体は、標識物質で標識することができる。複合体の、機能性磁気超ナノ微粒子、薬物、リガンドのいずれが標識されてもよい。標識物質として、蛍光物質、放射能物質、非放射性標識物質等が挙げられるが、蛍光物質が好ましい。
蛍光物質で標識する場合、用いる蛍光物質は何でも良いが、例えば、FITC、BODIPI、Dansyl chloride(DNS)、クマリン、Alexaシリーズ(Alexa-353、Alexa-488等:Invitrogen社)、Rhodamine red、Tetramethyrhodamine, Cye dye シリーズ(Cye3、Cye 5等:Amersham社)、Oregon green 514(Invitrogen社)、Q-dotシリーズ(Quantam dot社)、DAPI、Dio等が挙げられる。特に末端にカルボキシル基が存在し、そのカルボキシル基がN-ヒドロキシコハク酸イミド等で活性化されている物がよい。特に、5(6)-Carboxy-rhodamine N-succinimidylesterが好ましい。
【0016】
(6)本発明の薬物結合複合体を用いた薬物の送達方法、薬物の標的物質の選択方法および薬物送達のモニタリング方法
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子と薬物の薬物結合複合体を用いて、非ヒト検体の所定の組織または細胞に薬物を送達することができる。該薬物結合複合体は、標識物質により標識されていてもよい。すなわち、該薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与後、所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させる。前記薬物結合複合体の平均粒子径は1.3〜3nmであり、また磁気を集中しているので、集積または滞留した部位の組織または細胞へ特異的に効率よく取り込まれる。その後、磁気を解除すれば、前記部位に集積した前記薬物結合複合体は分散し、また組織または細胞に取り込まれた前記薬物結合複合体は代謝され、組織外または細胞外へ、すなわち被検体外へ排出することができる。なお、磁気を集中する手段としては磁石を用いる方法や磁気発生装置を用いる方法などが挙げられる。非ヒト被検体としては、マウス、ラット、ウサギ、イヌなどの実験動物が挙げられるが、これらには限定されない。
上記方法は、医薬候補物質の治療効果や薬物動態などの評価などに用いることができる。
また、上記薬物結合複合体は、ヒトを治療または診断するための医薬とすることもできる。すなわち、上記薬物結合複合体を単独または薬学的に許容しうる担体と組合わせてヒトに投与し、標的組織に磁気を集中させて標的組織特異的に薬物複合体を送達することができる。本発明の薬物複合体を利用した医薬は有効成分とする薬物の種類を問わずに適用することができるため、様々な疾患の治療や診断に応用することができる。また、診断用の医薬としてはX線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬等の体内診断薬などが挙げられる。
なお、本発明の薬物結合複合体の投与方法、投与量は、結合された薬物の種類、機能性磁気超ナノ微粒子の性質、及び投与目的に応じて適宜選択することができるが、一般的には、血管内投与、膀胱内投与、腹腔内投与、局所投与法などの投与経路で用いることが望ましい。
【0017】
また、前記と同様に磁気を集中して集積または滞留した部位の組織または細胞へ該薬物結合複合体を特異的に効率よく取り込ませて、さらに該薬物結合複合体と、組織または細胞に存在する薬物の標的物質をin vivoで結合させた後、該組織または該細胞から該薬物結合複合体と標的物質の結合物を磁気的に吸着して回収することにより、細胞や組織に損傷を与えることなく、薬剤の標的物質を選択することができる。ここでin vivoとは、細胞や組織が生存している状態であることを意味する。
また、培養細胞を用いて薬物の標的物質を選択する場合、本発明の磁気超ナノ微粒子は磁気をかけることなく、また、カチオン等の導入剤を用いることなく培養細胞内に移行することができるため、より簡便に薬物標的物質の選択を行うことができる。
薬物の標的物質は、生体内に存在し、磁気超ナノ微粒子に結合させた薬物と特異的に相
互作用するものであれば特に制限されないが、タンパク質、ペプチド、糖鎖などが挙げられる。
結合物を回収する際は、標的組織や標的細胞破砕するなどの処理を行った後に、磁気的に吸着して回収することが好ましい。
結合物を回収した後の標的物質の解析方法としては、例えば、標的物質がタンパク質の場合、電気泳動、各種クロマトグラフィー、質量分析、アミノ酸配列解析などが挙げられる。
【0018】
さらに、本発明の標識された薬物結合複合体を用いれば、前記と同様に磁気を集中して集積または滞留した部位の組織または細胞へ該標識薬物結合複合体を特異的に効率よく取り込ませた後に標識物質の存在を検出することにより、所定の組織または細胞への薬物の送達をモニタリングすることができる。
【0019】
(7)本発明のリガンド結合複合体を用いたリガンドと相互作用する物質の選択方法および物質の分布のイメージング方法
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子とリガンドのリガンド結合複合体を用いて、所定の組織または細胞からリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択することができる。該リガンド結合複合体は、標識物質により標識されていてもよい。すなわち、該リガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与後、所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させる。前記リガンド結合複合体の平均粒子径は1.3〜3nmであり、また磁気を集中しているので、集積または滞留した部位の組織または細胞へ特異的に効率よく取り込まれる。
さらに該リガンド結合複合体とリガンドと特異的に相互作用する所望の物質をin vivoで結合させた後、該組織または該細胞から該リガンド結合複合体を磁気的に吸着して回収することにより、細胞や組織に損傷を与えることなく、リガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択することができる。
また、培養細胞を用いてリガンドと特異的に相互作用する物質を選択する場合、本発明の磁気超ナノ微粒子は磁気をかけることなく、また、カチオン等の導入剤を用いることなく培養細胞内に移行することができるため、より簡便にリガンドと特異的に相互作用する物質の選択を行うことができる。
リガンドと特異的に相互作用する物質は、生体内に存在し、リガンドと特異的に相互作用するものであれば特に制限されないが、受容体、抗体などのタンパク質、ペプチド、抗原、糖鎖、その他の生理活性物質などが挙げられる。
結合物を回収する際は、標的組織や標的細胞破砕するなどの処理を行った後に、磁気的に吸着して回収することが好ましい。
結合物を回収した後の標的物質の解析方法としては、例えば、電気泳動、アミノ酸配列解析、各種クロマトグラフィー、質量分析などが挙げられる。
上記のリガンドと特異的に相互作用する物質を選択する方法は、リガンドに対して相互作用する未知の物質を探索する場合や、リガンドに親和性を有する物質を精製する場合などに好適に使用することができる。
また、本発明の標識されたリガンド結合複合体を用いれば、前記と同様に磁気を集中して集積または滞留した部位の組織または細胞へ該標識リガンド結合複合体を特異的に効率よく取り込ませた後に、磁気を解除して前記部位に集積もしくは滞留したまたは前記組織もしくは細胞に送達された前記薬物結合複合体を、分散または代謝させ、標識物質の存在を検出することにより、所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングすることができる。
【実施例】
【0020】
次に本発明の具体的な実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1:機能性磁気超ナノ微粒子の調製
(1)磁気超ナノ微粒子の調製
微粒子は単分散に微粒子が得られる湿式沈殿法を用いた。調製に際して、FeCl2・4H2OとNa2SiO3・9H2Oを材料として採用し磁気超ナノ微粒子を調製した。
19.9gのFeCl2・4H2O(0.1モル)と28.4gのNa2SiO3・9H2O(0.1モル)を秤量しそれぞれ500mLの蒸留水に溶解させて、二つの水溶液を得た。室温で約5時間、充分攪拌しながら両者を混合させ反応を完結させた後、20分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨て、蒸留水を注いで再分散させてから遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を数回繰り返し、沈殿物を洗浄した。ついで、約350Kに保持した恒温槽で乾燥後、乳鉢で微粉砕してからアルミナ製ボートに載置し、空気雰囲気中の電気炉にて、373〜873Kの温度範囲で4〜10時間焼成して磁気超ナノ微粒子を得た。平均粒子径は、X線回折測定と、透過型電子顕微鏡(TEM)測定のいずれにおいても、1.3〜3nmと決定できた。
得られた磁気超ナノ微粒子の化学予想図を図1に示す。
【0022】
(2)磁気超ナノ微粒子表面への水酸基の導入
この微粒子の表面洗浄法としては、微粒子表面がシリカコートされているため、エタノール洗浄、もしくは、プラズマ処理のどれを用いてもよいが、特にエタノール洗浄が簡便であるため好ましい。
具体的には、エタノールを500μL用い、室温で1分穏やかに攪拌し、5,000rpmで3分間遠心分離を行い、上澄みを除去し、500μLの超純水で同様に3回洗浄を行った。その後、100℃で30分乾燥させ、完全に水分を除去した。
【0023】
(3)磁気超ナノ微粒子表面へのアミノ基の導入
上記(2)で得られた水酸基導入磁気超ナノ微粒子に、γ−APTES(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)をシラン化により導入した。すなわち、洗浄した磁気超ナノ微粒子20mgに大過剰(4M)γ−APTESを加え130℃で20時間反応させた。反応後、未反応γ−APTESをエタノール3mLで3回、超純水3mLを用いて3回洗浄した。
HORIBA社製のIR測定装置(HORIBA機種)を用いて、得られた微粒子の観察を行った。用いた測定方法はAttenuated Total Refraction法(ATR法)である。IRの結果を図3Aに示す。Si-O (800〜1100cm-1)、O-H (3500〜3900cm-1)のピークが観察された。
図3Bにアミノシラン化後の磁気超ナノ微粒子のIRを示す。γ-APTES由来のC-H (2982〜2822cm-1)のピークが観察されたことから、磁気超ナノ微粒子表面にアミノ基をシラン化により修飾することができた。
その他の官能基についても同様の特徴ある伸縮ピークが得られた。
官能基で修飾して機能化した磁気超ナノ微粒子の平均粒子径は、X線回折測定、透過型電子顕微鏡(TEM)測定のいずれにおいても、3nmと決定でき、修飾したことで微粒子の形状になんら影響の無いことが示唆された。
得られたアミノ化磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真を図4に示す。
その直径は3nmであり、単分散に微粒子が調製されていることを確認した。
【0024】
(4)蛍光物質修飾
アミノ化磁気超ナノ微粒子に蛍光物質である5(6)-Carboxy-rhodamine N-succinimidylester修飾した。蛍光物質を5mM用い、アミノ化磁気超ナノ微粒子5mgに混合して室温で10分間反応させた。未反応のアミノ基の影響をなくすために、ローダミン修飾後、0.1Mパラホルムアルデヒドを加え、60分間反応させ残アミノ基をつぶし、アルデヒド
化合物とアミノ基との反応によってできるシッフ塩基は還元剤(0.1M NaBH4)により還元した。
得られた蛍光修飾磁気超ナノ微粒子は、蛍光スキャナにてその修飾を確認した。用いたスキャナはBiorad社製のTyphoon9400である。アミノ化した磁気超ナノ微粒子からは洗浄後もローダミンの蛍光が観察された。非アミノ化磁気超ナノ微粒子からは洗浄後ローダミンの蛍光は観察されなかった。これらのことからローダミンがアミノ基を介して共有結合的に修飾されていることが確認された(図5)。
【0025】
実施例2:機能性磁気超ナノ微粒子の細胞内への導入
細胞内への機能性磁気超ナノ微粒子の導入を行った。用いた細胞はラットカンガルー腎臓由来のPtK2細胞である。
10cmシャーレ上にPtK2細胞を24時間培養させた後、機能性磁気超ナノ微粒子(上記蛍光物質修飾磁気超ナノ微粒子)または、コントロールとして蛍光ビーズ(平均粒子径200nm;Invitrogen社)を上記の溶液より5万倍に希釈したものをそれぞれ培養液に導入した。24時間後にシャーレ内を培養液により3回洗浄し、非特異的に細胞、または培養シャーレ上に吸着した微粒子(蛍光ビーズ)を取り除いた。結果として、機能性磁気超ナノ微粒子を導入した細胞からは細胞内から蛍光が観察された(図6A)。対照的に蛍光ビーズを導入した物は、細胞内から蛍光が観察されなかった(基板への非特異的吸着により細胞が存在しない場所に蛍光ビーズの存在を確認した図6B矢印)。また、機能性磁気超ナノ微粒子を導入した細胞をそのまま飼育し5日間後に観察した結果、細胞は消滅することなく増殖し機能性磁気超ナノ微粒子の蛍光も観察された(図6A)。24時間後のサンプル図6Aと図6Bに関して、蛍光強度を測定すると、細胞の同面積あたりの強度の比は、8:1と機能性磁気超ナノ微粒子が導入された細胞の方が強かった。これらのことから、機能性磁気超ナノ微粒子は細胞内へ容易に入り込むことが確認された。これと、相関する実施例として、機能性磁気超ナノ微粒子(図6C)、またはコントロール微粒子(蛍光ビーズ:平均粒径200nm)(図6D)を導入後の細胞の電子顕微鏡像を示す。図6Cからは、機能性磁気超ナノ微粒子の凝集体(図6C:波線丸印)が観察されるのに対し、図6Dからはコントロール微粒子(平均粒径200nm)は観察されない。また、リボソーム(図6C矢印)、微小管(図6C:波線四角)が観察される。これは機能性磁気超ナノ微粒子が細胞内に導入後も正常な細胞活動が行われていることを示す。両実施例から、機能性磁気超ナノ微粒子には細胞毒性がないことが示される。
【0026】
実施例3:磁気による局所的な機能性磁気超ナノ微粒子濃度増大効果
生体内への機能性磁気超ナノ微粒子の導入及び、磁気により微粒子を組織の1点に集中させた。マウスの外耳部分に機能性磁気超ナノ微粒子(ローダミン修飾物質)と、ワセリンを1:1で混合した溶液を塗布した。塗布した側を表面とした。外耳の裏面中心部分に直径7mmの円形磁石をテープにより固定した。外耳表面に機能性磁気超ナノ微粒子(ローダミン修飾物質)とワセリンを上述の比で塗布し、裏面にアルミ箔をテープにより固定した物と、平均粒子径200nmの蛍光微粒子(Invitrogen社)を塗布したものの2種類をそれぞれコントロールとした。24時間後にマウス耳殻組織切片を作製し、機能性磁気超ナノ微粒子の持つローダミンの蛍光を観察した。結果より、機能性磁気超ナノ微粒子を塗布し、磁石を固定した物(図7A)の耳殻切片からローダミンの蛍光が観察された。磁石を固定した耳殻切片は磁石を固定した部分に微粒子が集中していた(図7A)。しかし、磁石を用いなかった切片からは、ほとんど蛍光が観察されなかった(図7B)。200nmの蛍光微粒子を塗布した切片からも微粒子の蛍光は観察されなかった(図7C)。これらの結果を蛍光強度に定量したものを図8に示す。磁石を固定した物(図7A)と、磁石を用いなかった物(図7B)または200nmの蛍光微粒子を塗布したもの(図7C)をそれぞれ検定した結果、有意に差があることが示された。これらのことから、磁力を用いることで局所的にその濃度を向上させることができた。
【0027】
実施例4:アミノ化磁気超ナノ微粒子表面へ架橋剤の修飾
実施例1(3)で得られたアミノ化磁気超ナノ微粒子に架橋剤を介してアミノ酸(L−システイン)を修飾するために、まずアミノ化磁気超ナノ微粒子に架橋剤を修飾した。すなわち、洗浄したアミノ化磁気超ナノ微粒子5mgを100μLのDMF(ジメチルホルムアミド)に分散させたものと、架橋剤Sulfo-EMCS(N-[ε-マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル)7.2mgを100μLのDMFに溶かしたものを4℃で30分、室温で1時間反応させた。反応後、未反応のSulfo-EMCSを3mLのDMFで3回洗浄した後、IR測定装置を用いて、得られた微粒子の観察を行った。用いた測定方法はATR法である。IRの結果を図9に示す。架橋剤修飾前は図9-A、修飾後は図9-Bである。架橋試薬修飾後のグラフからのみC=O(1604〜1688cm-1)のピークが観察されたことから、アミノ化磁気超ナノ微粒子のアミノ基に架橋試薬を修飾することができた。
【0028】
実施例5:架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子表面へのL−システインの修飾
次に、実施例4で得られた架橋試薬が修飾された磁気超ナノ微粒子にL−システインの修飾を試みた。架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子5mgを100μLの緩衝液(0.1M K-PIPES; pH 6.8)に分散させたものと、2.2mgのL−システインを100μLの緩衝液(0.1M K-PIPES)に溶かしたものを4℃で30分、室温で1時間反応させた。反応後、未反応のL−システインを上記と同様の緩衝液3mLで3回洗浄した。得られたアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の化学構造予想図を図10に、TEM写真を図11に示す。その直径は約3nmであり、アミノ酸修飾が、磁気超ナノ微粒子の形態に影響を及ぼさず、単分散にアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子が存在していることを確認した。
【0029】
蛍光物質修飾
架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子へのアミノ酸(L−システイン)の導入を確認するために、上記アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子に蛍光物質であるDansyl chloride(DNS)を修飾した。
まず、DNSを反応させる前に、架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子表面上の残アミノ基の影響をなくすために、1mLのDMFに分散させた架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子に0.175M パラホルムアルデヒドを加え、室温で15分間反応させ残アミノ基をメチル化した。アルデヒド化合物とアミノ基との反応によってできるシッフ塩基は還元剤(0.175M NaBH4)により還元した架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子を用いた。その後、DMF(3mL)で3回洗浄した。
次いで、上記の「架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子表面へのL−システインの修飾」と同様の手順でアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子を調製した。5mgのアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子を、100μLの20mMクエン酸緩衝液(pH8)と80μLのアセトンを混合した溶媒に分散させた。そこにアセトンに溶かした0.175MのDNSを20μL入れて、50℃で15分間反応させた。未反応のDNSを上記と同様の溶媒3mLで3回洗浄し、これを蛍光物質標識アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子とした。
DMF(1mL)中に蛍光物質標識アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子、アミノ化磁気超ナノ微粒子の二種類をそれぞれ懸濁させたものを、共焦点顕微鏡(カールツァイス社製:LSM-5)により観察した。結果、アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子からのみDNSの蛍光が確認された(図12A)。なお、観察した微粒子は凝集しているものであり、微粒子単体を観察したものではない。一方、アミノ化磁気超ナノ微粒子の微粒子から蛍光は得られない(図12B)。このことは、微粒子自体に蛍光は無いことを示している。つまり、DNSがアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子に存在するアミノ酸のアミノ基を介して共有結合的に修飾されたことを示し、架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子にアミノ酸が導入されたことも示す。
【0030】
実施例6:葉酸修飾磁気超ナノ微粒子の調製
実施例1(3)で得られたアミノ化磁気超ナノ微粒子に葉酸と蛍光物質(クマリン)を修飾した。すなわち、25mgのアミノ化磁気超ナノ微粒子を秤量し10mLのDMFに
氷で冷やしながらスターラーを用いて懸濁させ、12.7mgの葉酸(2.3mM)、0.57mgのクマリン(0.23mM)、149.5mgのPyBop(ナカライテスク:23mM)、38.3mgのHoBT(1-Hydroxy-1H-benzotriazole:23mM)、1.48μLのDIEA(N,N-diisopropylethylamine:2.3mM)を磁気超ナノ微粒子懸濁液に加えた。遮光しながら室温で約21時間ゆっくりと攪拌しながら反応を完結させた後、9000rpm、4℃で20分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨て、DMFを注いで再分散させてから9000rpm、4℃で15分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を3回繰り返し、沈殿物を洗浄した。次いで、微粒子上の未反応のアミノ基をメチル化する為に、洗浄した沈殿物を2mLのメタノールで懸濁させた溶液にホルムアルデヒド(0.1M)を加えてよく攪拌し、更にシッフ塩基をNaBH4(0.1M)を4℃で反応させて還元した。最後にメタノールを用いて15000rpmで5分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を3回繰り返して洗浄することで葉酸を修飾した磁気超ナノ微粒子を得た。得られた葉酸修飾磁気超ナノ微粒子のTEM写真を図13に示す。その直径は約3nmであり、葉酸修飾が、微粒子の形態に影響を及ぼさず、単分散に微粒子が存在していることを確認した。
同様の方法で葉酸を混ぜずに蛍光(クマリン)のみを修飾させた微粒子も得た。
【0031】
葉酸の修飾の確認
IRにより、葉酸修飾前のアミノ化磁気超ナノ微粒子(図14A)と葉酸修飾後のアミノ化磁気超ナノ微粒子(図14B)を測定した。葉酸修飾後のアミノ化磁気超ナノ微粒子のみから葉酸特異的なピーク(p−アミノ安息香酸)1419cm-1が得られたことから葉酸の修飾を確認できた。
【0032】
実施例7:葉酸を修飾した機能性(アミノ化)磁気超ナノ微粒子の細胞内への導入
細胞内への上記葉酸修飾磁気超ナノ微粒子の導入を行った。用いた細胞はヒト咽頭癌由来のKB細胞である。
シャーレ上にKB細胞を48時間培養した後、上記葉酸修飾磁気超ナノ微粒子または、コントロールとして蛍光物質(クマリン)のみを修飾した微粒子を2mLのDMFに懸濁させたものを6000rpmで20秒遠心分離器に掛け、上澄み10μLそれぞれ培養液(2mL)に導入した。2時間後に細胞染色用の試薬カルボシアニン色素(DiI)をメディウムで希釈した溶液(0.2μg/L)に培地を置換し、約1時間染色した。その後、共焦点顕微鏡を用いて細胞内に微粒子が取り込まれたかを確認した。葉酸修飾磁気超ナノ微粒子に関しては、これと同様の操作をPtK2細胞(Potorous tridactylis由来上皮細胞)を用いて行った。また、葉酸修飾磁気超ナノ微粒子に関しては、KB細胞に導入する際に大過剰量の葉酸(1.1mM)同時に加えた操作も行った。
【0033】
結果を図15に示した。
葉酸修飾磁気超ナノ微粒子を導入した細胞からは、細胞内部から磁気超ナノ微粒子に同様に修飾したクマリンの蛍光が観察された(図15A)。一方、葉酸が修飾されていないクマリン修飾磁気超ナノ微粒子を導入した細胞からは細胞内部から蛍光は観察されなかった。細胞表面からわずかに蛍光が観察された(図15B)。なお、図15Cは未操作の細胞でありクマリンの蛍光は観察されない。このことから、細胞の自家蛍光がないことを示す。また、細胞表面上に葉酸受容体の発現していない細胞(PtK2細胞)に葉酸修飾磁気超ナノ微粒子を導入したところ、細胞表層及び内部から蛍光は観察されなかった。葉酸未修飾磁気超ナノ微粒子は、PtK2の細胞表面への存在は観察された。この葉酸のないクマリン修飾磁気超ナノ微粒子が細胞表面から観察されることは、KB細胞の場合でも一致している。つまり、葉酸修飾磁気超ナノ微粒子は葉酸のα-カルボキシル基の影響で表面がアニオン性である(電気泳動で確認済み)。一般に細胞表面はアニオン性であることから、静電的反発により葉酸修飾磁気超ナノ微粒子は細胞表面に近づけないことを裏付けるものである。さらにまた、大過剰量の葉酸と葉酸修飾磁気超ナノ微粒子を同時にKB細
胞に導入したものからも細胞表層及び内部から蛍光は観察されなかった。これらの結果より、葉酸修飾磁気超ナノ微粒子が細胞膜上の葉酸受容体を介して選択的に細胞内部へ導入することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、アミノ基、イソシアネート基、またはメルカプト基などの官能基が微粒子表面に共有結合的に修飾されている。また、本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、ペプチドのみならず、一般薬剤等の修飾も可能である。細胞、組織内へ容易に取り込まれ、磁力を用いることで局所濃度を制御できることから新規薬剤輸送システムに用いることができる。さらにまた、薬剤、特定タンパク質相互作用物質を修飾した検体内や細胞内で目的細胞内物質を補足できることから本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は新規タンパク精製システムの構築も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の機能性磁気超ナノ微粒子を模式的に示す。●はSi、○は酸素、中心は金属酸化物を表す。
【図2】磁気超ナノ微粒子の機能化概念図。
【図3】A:磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。B:アミノ化磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。
【図4】アミノ化磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真(スケールバーは5nm)。
【図5】蛍光物質修飾または未修飾磁気超ナノ微粒子の蛍光写真。
【図6】A:機能性磁気超ナノ微粒子の細胞内導入図(写真)。B:コントロール微粒子の細胞内導入図(写真)。C:機能性磁気超ナノ微粒子の細胞内電子顕微鏡写真。D:コントロール微粒子の細胞内電子顕微鏡写真。波線丸印は本該当微粒子、矢印はリボソーム、波線四角は微小管を示す。
【図7】A:機能性磁気超ナノ微粒子のマウス外耳への磁気を用いた導入図(写真)。B:機能性磁気超ナノ微粒子のマウス外耳への磁気を用いない導入図(写真)。C:平均粒子径200nmの蛍光微粒子のマウス外耳切片への磁気を用いない導入図(コントロール)(写真)。
【図8】外耳切片におけるローダミンの蛍光強度を示す図。t-検定法を用いて検定した。縦軸は蛍光強度の相対蛍光強度を示す。
【図9】A:アミノ化磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。B:架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。
【図10】アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の機能化概念図。
【図11】アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真(スケールバーは5nm)。
【図12】A:蛍光物質標識アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の蛍光像(写真)。B:アミノ化磁気超ナノ微粒子の蛍光像(写真)。
【図13】葉酸修飾磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真(スケールバーは5nm)。
【図14】A:アミノ化磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。B:葉酸修飾磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。
【図15】A:葉酸修飾磁気超ナノ微粒子導入KB細胞写真。B:クマリン修飾磁気超ナノ微粒子導入KB細胞写真。C:KB細胞写真。それぞれ上面から撮影した、(1)KB細胞、(2)蛍光像。真横からみた(3)KB細胞、(4)蛍光像を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェルの表面に官能基が導入された機能性磁気超ナノ微粒子、その製造方法、それを含む複合体ならびにそれら微粒子および複合体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では微粒子製造技術の向上により、単分散に非常に小さいサイズ(平均粒子径が1nm位から数百nm位までのナノメートルオーダーの微粒子が簡便に調製できるようになった(非特許文献1)。一方、微粒子に磁性を持たせた磁気微粒子も開発された(非特許文献2〜5)。これは、微粒子を回収する際に遠心分離などの作業が不要であり、磁気をかけた場所に微粒子が集中するため分離操作が非常に簡便になり、また、遠心の際の過度の遠心速度、つまり重力加速度(g)により微粒子をつぶしてしまう恐れも回避できる。しかし、従来の磁気微粒子の多くは、その調製方法から粒径もマイクロメートルオーダーと大きく、また、微粒子の外側に非特異的に酸化鉄などの磁性をもった物質が吸着するという課題が残っていた。以下、平均粒子径がナノメートルオーダーの微粒子を「ナノ微粒子」と称し、特に平均粒子径が3nm以下のナノ微粒子を「超ナノ微粒子」と称することがある。また、磁性を持たせたナノ微粒子や超ナノ微粒子を、「磁気ナノ微粒子」「磁気超ナノ微粒子」と称することがある。
ナノメートルオーダーの磁気微粒子を調製しようとした場合、スパッタリング法、真空蒸着法、ガス反応法などの乾式法、あるいは共沈法、熱分解コロイド法などの湿式法がある。一般に当該微粒子は凝集してバルク化する傾向を持つため、その分離法や、任意の媒質への均一分散技術に問題点を有していた。当該微粒子の調製においては、湿式沈殿法を用いることにより上記の問題を解決した。例えば、IchiyanagiらはFeCl2・4H2O, Na2SiO3・9H2Oの混合溶液から表面がシリカコートされた磁気超ナノ微粒子の調製に成功しており、X線解析結果から、磁気超ナノ微粒子は安定に存在し、その平均粒子径は、10nm以下であった。(特許文献1〜3ならびに非特許文献3および5)。
【0003】
ナノ微粒子の使用方法に関しては、微粒子を用いて生体物質である核酸、タンパクの中から目的の物質のみを分離する方法が開発されている(特許文献4ならびに非特許文献6および7)。例えば、特許文献4および非特許文献7には、W/Oミニエマルション法により、2個のアミノ基と1個のカルボキシル基を有するモノマーとジグリシジルエーテルを反応させることにより得られるくり返し単位中に、2個のアミノ基と1個のカルボキシル基、及び2個の水酸基を有するpH応答性両性イオン微粒子を調製し、それを用いて、核酸の取り込み、放出をpH変化のみで行えるシステムが記載されている。また、ナノ微粒子と薬物などの所望の物質との複合体を作製することもできる。しかし、ナノ微粒子やナノ微粒子の複合体を細胞内へ導入するためにはナノ微粒子をカチオンで被覆してカチオン性にする処理が必要であり、これらはカチオンに起因する毒性を有することに加え、代謝分解されずに細胞内に留まり、細胞が死滅してしまう欠点があった。さらに、ガン細胞表面に多く発現している膜タンパク質(葉酸受容体(非特許文献8)、アミノ酸トランスポーター(非特許文献9、10)等)を介して薬剤等を細胞内に導入することは既に報告されている(特許文献6、7、非特許文献11)。これを応用して微粒子表面に葉酸を修飾すると、ガン細胞特異的な送達方法が確立でき、遺伝子送達法(非特許文献12)、イメージング法(非特許文献13)に用いられている。しかし、この場合、ナノ微粒子の調製が多段階であるために煩雑であること、ナノ微粒子でもその粒径が大きいことから効率的な導入方法ではないことが挙げられる。つまり、ナノ微粒子やナノ微粒子の複合体を所定の組織または細胞に集積させることは困難であった。
【0004】
ナノ微粒子の複合体の使用方法に関しては、上記に加えて、微粒子表面にペプチド、
核酸などのリガンドを修飾して、これと相互作用する細胞内のタンパク質を同定する方法も既知であるが、これは細胞破砕した後(in vitro)に微粒子複合体を添加する方法である(非特許文献6)。
また、J. Wonらはカチオンコートされたナノ微粒子に細胞内タンパク質と相互作用する物質を修飾し、生きた細胞に取り込みを行い、標的タンパク質の同定を行っている(非特許文献14)。しかし、この場合でも、ナノ微粒子の粒径が大きく、ナノ微粒子を細胞内へ導入するためには微粒子をカチオン性にする処理が必要(非特許文献14および15)であり、完全に無毒ではない。無毒化することへの解決法は確立されていない。また、生体外で培養できないような細胞から標的物質を補足することは既存の技術では難しく、生物固体へ無毒の物質を局所的に導入する必要がある。
さらに、磁気ナノ微粒子表面に細胞膜タンパクと相互作用する抗体を修飾し磁力により細胞を回収する物質、方法も報告されているが、この場合は微粒子−抗体複合体は細胞内に取り込ませていない(特許文献5)。
なお、上述のように、ナノ微粒子または磁気ナノ微粒子の表面を修飾する方法、および表面が修飾されたナノ微粒子または磁気ナノ微粒子は公知であったが、表面が修飾された磁気超ナノ微粒子は知られていなかった。
【特許文献1】特開2003−252618号公報
【特許文献2】特開2001−261334号公報
【特許文献3】特開2005−200437号公報
【特許文献4】特開2006−077037号
【特許文献5】特表2003−533363号公報
【特許文献6】特表2004−529642号公報
【特許文献7】国際公開第2004/032966号パンフレット
【非特許文献1】Du YZ, Tomohiro T, Zhang G, Nakamura K, Kodaka M. Chem Commun 2004. 5, 616-617.
【非特許文献2】Yamazaki N.; Du Y.-Z.; Nagai M.; Omi S. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2003. 29, 159-169
【非特許文献3】Y. Ichiyanagi, T.Uozumi, Y Kimisima. Ttansactions of the Materials Research Society of Japan. 2001, 279, 1097-1100
【非特許文献4】Nakayama H., Arakaki A., Maruyama K., Takeyama H., MatsunagaT. Biotech. and Bioeng.,2003, 84, 96-102
【非特許文献5】Y. Ichiyanagi, Y Kimisima. J. Thermal Analysis and Colorimetry. 2002, 69, 919-923
【非特許文献6】Tomohiro, T. et al., Bioconjugate Chem.; 2002; 13 163-166
【非特許文献7】S. Taira, Y. Z. Dong, M. Kodaka, Biotechnology and Bioengineering, 2006 93, 396-400
【非特許文献8】S.D. Weitman, R.H. Lark, L.R. Coney, D.W. Fort, V. Frasca, V.R. Zurawski Jr and B.A. Kamen, Cancer Res. 1992, 52, 3396-3401
【非特許文献9】N. Gupta, PD.Prasad, S. Ghamande, P. Moore-Martin, AV. Herdman, RG. Martindale, R. Podolsky, S. Mager, ME. Ganapathy, V. Ganapathy, Gynecol Oncol. 2006, 100, 8-13.
【非特許文献10】N. Gupta, S. Miyauchi, RG. Martindale, AV. Herdman, R. Podolsky, K. Miyake, S. Mager, PD. Prasad, ME. Ganapathy, V. Ganapathy, Biochim. Biophys. Acta. 2005, 30, 215-23.
【非特許文献11】T. Hatanaka, M. Haramura, Y.J. Fei, S. Miyauchi, C.C. Bridges, P.S. Ganapathy, S.B. Smith, V. Ganapathy, M.E. Ganapathy. J. Pharmacol. Exp. Ther. 2004, 308, 1138-1147 (2004).
【非特許文献12】G. Zuber, L. Zammut-Italiano, E. Dauty and J. P. Behr, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 42, 2666-2669
【非特許文献13】C. Sun, R. Sze, M. Zhang, J. Biomed Mater. Res. A, 2006, 78, 550-557
【非特許文献14】J Won, M Kim, Yong-Weon Yi, Y. H. Kim, N. Jung, T. K. Kim, Science 2005, 309, 121-125
【非特許文献15】Y. Jun, Y. Huh, J. Choi, J. Lee, H. Song, S. Kim, S. Yoon, K. Kim, J. Shin, J. Suh, J. Cheon JACS, 5732-5733
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シェルの表面に官能基が導入された機能性磁気超ナノ微粒子、およびその製造方法を提供することを課題とする。また、該機能性磁気超ナノ微粒子を含む複合体ならびにそれら微粒子および複合体の使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、湿式沈殿法を用いて1.3〜3nmオーダーで単分散に調製した磁気超ナノ微粒子に、シラン化によりアミノ基などの官能基を共有結合的に導入し、機能性磁気超ナノ微粒子を調製できることを見出した。そして、該機能性磁気超ナノ微粒子と薬物の複合体を用い、磁気を集中させることにより、被検体内の所定の組織または細胞に薬物を送達できることや、その送達をモニタリングできることを見出した。また、該機能性磁気超ナノ微粒子と所望の物質に対するリガンドの複合体を用い、所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングできることを見出した。さらに、磁気をかけることにより、前記の複合体をそのまま被検体内の生きた細胞や組織に導入でき、これらの細胞や組織を生存させることや、培養細胞に対しては磁気をかけることなく、またカチオンを用いることなく細胞内に導入できることを見出した。また、表面に膜タンパクと結合する基質を修飾し機能性磁気超ナノ微粒子をさらに機能化することで細胞選択的な送達も見出した。これらの発見により、前記複合体を用い、生きた細胞や組織から薬剤の標的物質を選択する方法やリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法を確立した。
本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(a)金属酸化物からなるコア、
(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェル、
(c)シェルの表面に共有結合的に導入された官能基、を有する、平均粒子径が1.3〜3nmの機能性磁気超ナノ微粒子。
(2)前記官能基が、シランカップリング剤を介して導入されたものである、(1)の機能性磁気超ナノ微粒子。
(3)前記官能基がアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、スルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、(1)または(2)の機能性磁気超ナノ微粒子。
(4)(a)金属酸化物からなるコア、および(b)該コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェルであって、その表面に水酸基を有するシェル、を有する微粒子の表面に、シランカップリング剤を用いて、該水酸基を介して官能基を共有結合的に導入することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの機能性磁気超ナノ微粒子の製造方法。
(5)(1)〜(3)のいずれかの機能性磁気超ナノ微粒子と薬物を有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記薬物が結合されていることを特徴とする、薬物結合複合体。
(6)機能性磁気超ナノ微粒子または薬物が標識物質で標識されていることを特徴とする、(5)の薬物結合複合体。
(7)(1)〜(3)のいずれかの機能性磁気超ナノ微粒子と、所望の物質と特異的に相
互作用するリガンドを有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記リガンドが機能性磁気超ナノ微粒子に結合されていることを特徴とする、リガンド結合複合体。
(8)機能性磁気超ナノ微粒子またはリガンドが標識物質で標識されていることを特徴とする、(7)のリガンド結合複合体。
(9)(a)(5)または(6)の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞に薬物を送達する方法。
(10)(a)(6)の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、
(c)前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞への薬物の送達をモニタリングする方法。(11)(a)(8)のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記リガンド結合複合体を送達する工程、
(c)磁気を解除して前記部位に集積もしくは滞留した、または前記組織もしくは細胞に送達された前記薬物結合複合体を、分散または代謝させ、前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングする方法。
(12)(a)(5)または(6)の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から、前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
(13)(a)(5)または(6)の薬物結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
(14)(a)(7)または(8)のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記リガンド結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
(15)(a)(7)または(8)のリガンド結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
(16)(5)または(6)の薬物複合体を含む医薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、表面にアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基などの官能基を示すので、共有結合的に他の物質を修飾するのに非常に適している。また、該機能性磁気超ナノ微粒子は磁性を有しているために溶液に均一に拡散した状態から磁気をかけることで1点に集中することが容易であり、目的物質の回収に非常に適している。また、当該磁気超ナノ微粒子は、生きた細胞内に取り込めることから、当該磁気超ナノ微粒子表面にリガンドを修飾することで、in vivoで、これらリガンドと相互作用するタンパク質などの物質を同定できる。また、培養細胞に対しては、磁気をかけることなく、カチオンを用いることなく導入することができるので、培養細胞中のリガンドと相互作用するタンパク質などの物質を簡便に同定することもできる。さらにまた、磁気超ナノ微粒子表面に薬剤を修飾することで、薬剤含有磁気超ナノ微粒子になり、経口投与後、患部に磁気を局所的にかけることで集中的に患部へ薬剤を濃縮することが可能であるため、選択的に即効性を高めた薬剤の開発が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明するが、これらの記載は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本判明の範囲を限定するものではない。
【0010】
(1)磁気超ナノ微粒子
まず、本発明の機能性磁気超ナノ微粒子を製造するに際して材料として用いる磁気超ナノ微粒子について説明する。
この磁気超ナノ微粒子は、(a)金属酸化物からなるコア、(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワーク(網状膜)からなるシェル、を有する形態を有するものである。平均粒子径は、3nm以下であればよいが、好ましくは1.3〜3nmである。平均粒子径は、例えば、X線回折測定や透過型電子顕微鏡(TEM)測定により決定することができる(特開2003−252618号公報)。
【0011】
磁気超ナノ微粒子は、湿式沈殿法を用いて調製するのが好ましい(特開2003−252618号公報)。例えば、以下の式(I)で与えられる磁気超ナノ微粒子 [xM(OH)2・ySiO2]が挙げられる。ここで、xM(OH)2はコアを、ySiO2はシェルを表す。
【数1】
上記式中、Mは遷移金属または稀土類金属を示し、好ましくはNiまたはFeであり、より好ましくはFeである。XはF, Cl, Br, Iから選ばれるハロゲン元素を示す。pは2または3、nは0から9までの整数、mは9または0である。xおよびyはともに1未満の正数である。磁性を発揮するコアおよびその表面修飾層としてのシェルの役割分担の観点から、x>y、かつ、x/yとしては、通常1〜100、好ましくは2〜20程度の範囲から選定される。
より具体的には、磁気超ナノ微粒子 [xM(OH)2・ySiO2]の構造は、図1のように模式的に表すことができる。
【0012】
(2)機能性磁気超ナノ微粒子の調製方法
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、(1)で調製した磁気超ナノ微粒子のシェルの表面に共有結合的に導入された官能基を有するものであればよい。すなわち、本発明の磁気超ナノ微粒子は、(a)金属酸化物からなるコア、(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェル、(c)シェルの表面に共有結合的に導入された官能基
、を有する形態を有するものである。平均粒子径は、3nm以下であればよいが、好ましくは1.3〜3nmである。
導入される官能基は、シェルの表面に導入された後、さらに薬物やリガンドと複合体を形成できるように反応性または親和性を有するものであればいかなるものでもよいが、具体的には、アミノ基、イソシアネート基またはメルカプト基などが挙げられる。
これらの官能基は、例えばシランカップリング剤を介して共有結合的に導入できる。より具体的には、例えばアミノ基が導入された機能性磁気超ナノ微粒子のシェル表面の構造は、図2のように表すことができる。
シランカップリング剤は、上記するように、薬物やリガンドと複合体を形成できるような反応性または親和性を有する官能基を有しているのが好ましい。例えば、アミノ基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(γ−APTES)、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン, N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン, N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン, 3−アミノプロピルトリメトキシシラン, 3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン, N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。特に、γ−APTESが好ましく用いられる。
イソシアネート基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。
メルカプト基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン, 3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
また、ビニル基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、ビニルトリクロルシラン, ビニルトリメトキシシラン, ビニルトリエトキシシランを挙げることができる。
さらに、エポキシ基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン, 3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン, 3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン, 3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン, スチリルp−スチリルトリメトキシシランを挙げることができる。
その他、メタクリロキシ基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン, 3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン, 3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン, 3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン, アクリロキシ3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
ウレイド基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。
クロロプロピル基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、3−クロロプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
スルフィド基を導入するために用いるシランカップリング剤としては、この官能基を有する化合物であればいかなるものでも良いが、具体的には、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドを挙げることができる。
以下、上記のようなシランカップリング剤を介した官能基の導入を、「シラン化」または「シラン化処理」と称することがある。
シラン化処理を施す前に、磁気超ナノ微粒子の表面を洗浄することにより、有機物を除去し、シランカップリング剤と反応しうる水酸基を微粒子表面に多数露出しておくことが好ましい。具体的には、エタノールなどの有機溶媒による洗浄、UV洗浄(特開平1−146330号公報)、プラズマ処理等が挙げられる。
【0013】
(3)機能性磁気超ナノ微粒子と薬物の複合体
上記(2)で得られた機能性磁気超ナノ微粒子は、その表面に官能基を有するので、これらの官能基を介して所望の薬物と結合し、複合体を形成することができる。ここで、機能性磁気超ナノ微粒子と所望の薬物の結合は、機能性磁気超ナノ微粒子表面に導入された官能基を介している限り、共有結合、イオン結合、水素結合等のいかなる結合であってもよい。
所望の薬物とは、例えば、診断および/または治療の目的に応じて薬学的に許容し得る薬理活性物質、生理活性物質および/または診断用物質等である。
治療のための薬物の種類としては、複合体の形成および安定性を損ねない限り特に制限されないが、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖、多糖およびそれらの誘導体、ビタミンおよびその誘導体、タンパク質およびペプチドなどの生理活性物質や薬理活性を有する低分子化合物等が挙げられ、より具体的には、抗癌剤、抗生物質、酵素剤、抗酸化剤、脂質取り組み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウィルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、NOS阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤およびラジカルスカベンジャー等の薬物が挙げられる。
また診断の薬剤としては、複合体の形成を損ねないかぎり特に限定されないが、たとえばX線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬等の体内診断薬挙げられる。X線造影剤の例としては、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、ガストログラフィン、ヨーダミドメグルミン、リピオドールウルトラフルイド、アジピオドンメグルミン、イオキサグル酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオヘキソール、イオベルソール、イオポダートナトリウム、イオメプロール、イソペーク、ヨードキサム酸等が挙げられる。
【0014】
(4)機能性磁気超ナノ微粒子とリガンドの複合体
また、上記(2)で得られた機能性磁気超ナノ微粒子は、その表面に官能基を有するので、これらの官能基を介して所望のリガンドと結合し、複合体を形成することができる。ここで、機能性磁気超ナノ微粒子と所望のリガンドの結合は、機能性磁気超ナノ微粒子表面に導入された官能基を介している限り、いかなる結合であってもよいが、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合等が挙げられる。
リガンドとしては、所望の物質と特異的な相互作用を有するものであれば、その種類は特に限定されないが、例えば、トランスフェリン、CEA,EGF、AFP等の蛋白質;インシュリン等のペプチド;モノクロナール抗体等の抗体;腫瘍抗原などの抗原;ホルモン;伝達物質;ルイスX、ガングリオシド等の糖質;アミノ酸やその誘導体;葉酸などのビタミンやその誘導体のような低分子化合物を用いることができる。上記に例示したリガンドはその全体を用いてもよいが、酵素処理等によって得られるそのフラグメントを用いてもよい。また、人工的に合成されたペプチドやペプチド誘導体であってもよい。リガンドとしては抗体が好ましく、ヒトに用いる場合は、マウス−ヒトのキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体などがより好ましい。
【0015】
(5)複合体の標識
上記(3)または(4)の複合体は、標識物質で標識することができる。複合体の、機能性磁気超ナノ微粒子、薬物、リガンドのいずれが標識されてもよい。標識物質として、蛍光物質、放射能物質、非放射性標識物質等が挙げられるが、蛍光物質が好ましい。
蛍光物質で標識する場合、用いる蛍光物質は何でも良いが、例えば、FITC、BODIPI、Dansyl chloride(DNS)、クマリン、Alexaシリーズ(Alexa-353、Alexa-488等:Invitrogen社)、Rhodamine red、Tetramethyrhodamine, Cye dye シリーズ(Cye3、Cye 5等:Amersham社)、Oregon green 514(Invitrogen社)、Q-dotシリーズ(Quantam dot社)、DAPI、Dio等が挙げられる。特に末端にカルボキシル基が存在し、そのカルボキシル基がN-ヒドロキシコハク酸イミド等で活性化されている物がよい。特に、5(6)-Carboxy-rhodamine N-succinimidylesterが好ましい。
【0016】
(6)本発明の薬物結合複合体を用いた薬物の送達方法、薬物の標的物質の選択方法および薬物送達のモニタリング方法
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子と薬物の薬物結合複合体を用いて、非ヒト検体の所定の組織または細胞に薬物を送達することができる。該薬物結合複合体は、標識物質により標識されていてもよい。すなわち、該薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与後、所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させる。前記薬物結合複合体の平均粒子径は1.3〜3nmであり、また磁気を集中しているので、集積または滞留した部位の組織または細胞へ特異的に効率よく取り込まれる。その後、磁気を解除すれば、前記部位に集積した前記薬物結合複合体は分散し、また組織または細胞に取り込まれた前記薬物結合複合体は代謝され、組織外または細胞外へ、すなわち被検体外へ排出することができる。なお、磁気を集中する手段としては磁石を用いる方法や磁気発生装置を用いる方法などが挙げられる。非ヒト被検体としては、マウス、ラット、ウサギ、イヌなどの実験動物が挙げられるが、これらには限定されない。
上記方法は、医薬候補物質の治療効果や薬物動態などの評価などに用いることができる。
また、上記薬物結合複合体は、ヒトを治療または診断するための医薬とすることもできる。すなわち、上記薬物結合複合体を単独または薬学的に許容しうる担体と組合わせてヒトに投与し、標的組織に磁気を集中させて標的組織特異的に薬物複合体を送達することができる。本発明の薬物複合体を利用した医薬は有効成分とする薬物の種類を問わずに適用することができるため、様々な疾患の治療や診断に応用することができる。また、診断用の医薬としてはX線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬等の体内診断薬などが挙げられる。
なお、本発明の薬物結合複合体の投与方法、投与量は、結合された薬物の種類、機能性磁気超ナノ微粒子の性質、及び投与目的に応じて適宜選択することができるが、一般的には、血管内投与、膀胱内投与、腹腔内投与、局所投与法などの投与経路で用いることが望ましい。
【0017】
また、前記と同様に磁気を集中して集積または滞留した部位の組織または細胞へ該薬物結合複合体を特異的に効率よく取り込ませて、さらに該薬物結合複合体と、組織または細胞に存在する薬物の標的物質をin vivoで結合させた後、該組織または該細胞から該薬物結合複合体と標的物質の結合物を磁気的に吸着して回収することにより、細胞や組織に損傷を与えることなく、薬剤の標的物質を選択することができる。ここでin vivoとは、細胞や組織が生存している状態であることを意味する。
また、培養細胞を用いて薬物の標的物質を選択する場合、本発明の磁気超ナノ微粒子は磁気をかけることなく、また、カチオン等の導入剤を用いることなく培養細胞内に移行することができるため、より簡便に薬物標的物質の選択を行うことができる。
薬物の標的物質は、生体内に存在し、磁気超ナノ微粒子に結合させた薬物と特異的に相
互作用するものであれば特に制限されないが、タンパク質、ペプチド、糖鎖などが挙げられる。
結合物を回収する際は、標的組織や標的細胞破砕するなどの処理を行った後に、磁気的に吸着して回収することが好ましい。
結合物を回収した後の標的物質の解析方法としては、例えば、標的物質がタンパク質の場合、電気泳動、各種クロマトグラフィー、質量分析、アミノ酸配列解析などが挙げられる。
【0018】
さらに、本発明の標識された薬物結合複合体を用いれば、前記と同様に磁気を集中して集積または滞留した部位の組織または細胞へ該標識薬物結合複合体を特異的に効率よく取り込ませた後に標識物質の存在を検出することにより、所定の組織または細胞への薬物の送達をモニタリングすることができる。
【0019】
(7)本発明のリガンド結合複合体を用いたリガンドと相互作用する物質の選択方法および物質の分布のイメージング方法
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子とリガンドのリガンド結合複合体を用いて、所定の組織または細胞からリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択することができる。該リガンド結合複合体は、標識物質により標識されていてもよい。すなわち、該リガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与後、所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させる。前記リガンド結合複合体の平均粒子径は1.3〜3nmであり、また磁気を集中しているので、集積または滞留した部位の組織または細胞へ特異的に効率よく取り込まれる。
さらに該リガンド結合複合体とリガンドと特異的に相互作用する所望の物質をin vivoで結合させた後、該組織または該細胞から該リガンド結合複合体を磁気的に吸着して回収することにより、細胞や組織に損傷を与えることなく、リガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択することができる。
また、培養細胞を用いてリガンドと特異的に相互作用する物質を選択する場合、本発明の磁気超ナノ微粒子は磁気をかけることなく、また、カチオン等の導入剤を用いることなく培養細胞内に移行することができるため、より簡便にリガンドと特異的に相互作用する物質の選択を行うことができる。
リガンドと特異的に相互作用する物質は、生体内に存在し、リガンドと特異的に相互作用するものであれば特に制限されないが、受容体、抗体などのタンパク質、ペプチド、抗原、糖鎖、その他の生理活性物質などが挙げられる。
結合物を回収する際は、標的組織や標的細胞破砕するなどの処理を行った後に、磁気的に吸着して回収することが好ましい。
結合物を回収した後の標的物質の解析方法としては、例えば、電気泳動、アミノ酸配列解析、各種クロマトグラフィー、質量分析などが挙げられる。
上記のリガンドと特異的に相互作用する物質を選択する方法は、リガンドに対して相互作用する未知の物質を探索する場合や、リガンドに親和性を有する物質を精製する場合などに好適に使用することができる。
また、本発明の標識されたリガンド結合複合体を用いれば、前記と同様に磁気を集中して集積または滞留した部位の組織または細胞へ該標識リガンド結合複合体を特異的に効率よく取り込ませた後に、磁気を解除して前記部位に集積もしくは滞留したまたは前記組織もしくは細胞に送達された前記薬物結合複合体を、分散または代謝させ、標識物質の存在を検出することにより、所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングすることができる。
【実施例】
【0020】
次に本発明の具体的な実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1:機能性磁気超ナノ微粒子の調製
(1)磁気超ナノ微粒子の調製
微粒子は単分散に微粒子が得られる湿式沈殿法を用いた。調製に際して、FeCl2・4H2OとNa2SiO3・9H2Oを材料として採用し磁気超ナノ微粒子を調製した。
19.9gのFeCl2・4H2O(0.1モル)と28.4gのNa2SiO3・9H2O(0.1モル)を秤量しそれぞれ500mLの蒸留水に溶解させて、二つの水溶液を得た。室温で約5時間、充分攪拌しながら両者を混合させ反応を完結させた後、20分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨て、蒸留水を注いで再分散させてから遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を数回繰り返し、沈殿物を洗浄した。ついで、約350Kに保持した恒温槽で乾燥後、乳鉢で微粉砕してからアルミナ製ボートに載置し、空気雰囲気中の電気炉にて、373〜873Kの温度範囲で4〜10時間焼成して磁気超ナノ微粒子を得た。平均粒子径は、X線回折測定と、透過型電子顕微鏡(TEM)測定のいずれにおいても、1.3〜3nmと決定できた。
得られた磁気超ナノ微粒子の化学予想図を図1に示す。
【0022】
(2)磁気超ナノ微粒子表面への水酸基の導入
この微粒子の表面洗浄法としては、微粒子表面がシリカコートされているため、エタノール洗浄、もしくは、プラズマ処理のどれを用いてもよいが、特にエタノール洗浄が簡便であるため好ましい。
具体的には、エタノールを500μL用い、室温で1分穏やかに攪拌し、5,000rpmで3分間遠心分離を行い、上澄みを除去し、500μLの超純水で同様に3回洗浄を行った。その後、100℃で30分乾燥させ、完全に水分を除去した。
【0023】
(3)磁気超ナノ微粒子表面へのアミノ基の導入
上記(2)で得られた水酸基導入磁気超ナノ微粒子に、γ−APTES(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)をシラン化により導入した。すなわち、洗浄した磁気超ナノ微粒子20mgに大過剰(4M)γ−APTESを加え130℃で20時間反応させた。反応後、未反応γ−APTESをエタノール3mLで3回、超純水3mLを用いて3回洗浄した。
HORIBA社製のIR測定装置(HORIBA機種)を用いて、得られた微粒子の観察を行った。用いた測定方法はAttenuated Total Refraction法(ATR法)である。IRの結果を図3Aに示す。Si-O (800〜1100cm-1)、O-H (3500〜3900cm-1)のピークが観察された。
図3Bにアミノシラン化後の磁気超ナノ微粒子のIRを示す。γ-APTES由来のC-H (2982〜2822cm-1)のピークが観察されたことから、磁気超ナノ微粒子表面にアミノ基をシラン化により修飾することができた。
その他の官能基についても同様の特徴ある伸縮ピークが得られた。
官能基で修飾して機能化した磁気超ナノ微粒子の平均粒子径は、X線回折測定、透過型電子顕微鏡(TEM)測定のいずれにおいても、3nmと決定でき、修飾したことで微粒子の形状になんら影響の無いことが示唆された。
得られたアミノ化磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真を図4に示す。
その直径は3nmであり、単分散に微粒子が調製されていることを確認した。
【0024】
(4)蛍光物質修飾
アミノ化磁気超ナノ微粒子に蛍光物質である5(6)-Carboxy-rhodamine N-succinimidylester修飾した。蛍光物質を5mM用い、アミノ化磁気超ナノ微粒子5mgに混合して室温で10分間反応させた。未反応のアミノ基の影響をなくすために、ローダミン修飾後、0.1Mパラホルムアルデヒドを加え、60分間反応させ残アミノ基をつぶし、アルデヒド
化合物とアミノ基との反応によってできるシッフ塩基は還元剤(0.1M NaBH4)により還元した。
得られた蛍光修飾磁気超ナノ微粒子は、蛍光スキャナにてその修飾を確認した。用いたスキャナはBiorad社製のTyphoon9400である。アミノ化した磁気超ナノ微粒子からは洗浄後もローダミンの蛍光が観察された。非アミノ化磁気超ナノ微粒子からは洗浄後ローダミンの蛍光は観察されなかった。これらのことからローダミンがアミノ基を介して共有結合的に修飾されていることが確認された(図5)。
【0025】
実施例2:機能性磁気超ナノ微粒子の細胞内への導入
細胞内への機能性磁気超ナノ微粒子の導入を行った。用いた細胞はラットカンガルー腎臓由来のPtK2細胞である。
10cmシャーレ上にPtK2細胞を24時間培養させた後、機能性磁気超ナノ微粒子(上記蛍光物質修飾磁気超ナノ微粒子)または、コントロールとして蛍光ビーズ(平均粒子径200nm;Invitrogen社)を上記の溶液より5万倍に希釈したものをそれぞれ培養液に導入した。24時間後にシャーレ内を培養液により3回洗浄し、非特異的に細胞、または培養シャーレ上に吸着した微粒子(蛍光ビーズ)を取り除いた。結果として、機能性磁気超ナノ微粒子を導入した細胞からは細胞内から蛍光が観察された(図6A)。対照的に蛍光ビーズを導入した物は、細胞内から蛍光が観察されなかった(基板への非特異的吸着により細胞が存在しない場所に蛍光ビーズの存在を確認した図6B矢印)。また、機能性磁気超ナノ微粒子を導入した細胞をそのまま飼育し5日間後に観察した結果、細胞は消滅することなく増殖し機能性磁気超ナノ微粒子の蛍光も観察された(図6A)。24時間後のサンプル図6Aと図6Bに関して、蛍光強度を測定すると、細胞の同面積あたりの強度の比は、8:1と機能性磁気超ナノ微粒子が導入された細胞の方が強かった。これらのことから、機能性磁気超ナノ微粒子は細胞内へ容易に入り込むことが確認された。これと、相関する実施例として、機能性磁気超ナノ微粒子(図6C)、またはコントロール微粒子(蛍光ビーズ:平均粒径200nm)(図6D)を導入後の細胞の電子顕微鏡像を示す。図6Cからは、機能性磁気超ナノ微粒子の凝集体(図6C:波線丸印)が観察されるのに対し、図6Dからはコントロール微粒子(平均粒径200nm)は観察されない。また、リボソーム(図6C矢印)、微小管(図6C:波線四角)が観察される。これは機能性磁気超ナノ微粒子が細胞内に導入後も正常な細胞活動が行われていることを示す。両実施例から、機能性磁気超ナノ微粒子には細胞毒性がないことが示される。
【0026】
実施例3:磁気による局所的な機能性磁気超ナノ微粒子濃度増大効果
生体内への機能性磁気超ナノ微粒子の導入及び、磁気により微粒子を組織の1点に集中させた。マウスの外耳部分に機能性磁気超ナノ微粒子(ローダミン修飾物質)と、ワセリンを1:1で混合した溶液を塗布した。塗布した側を表面とした。外耳の裏面中心部分に直径7mmの円形磁石をテープにより固定した。外耳表面に機能性磁気超ナノ微粒子(ローダミン修飾物質)とワセリンを上述の比で塗布し、裏面にアルミ箔をテープにより固定した物と、平均粒子径200nmの蛍光微粒子(Invitrogen社)を塗布したものの2種類をそれぞれコントロールとした。24時間後にマウス耳殻組織切片を作製し、機能性磁気超ナノ微粒子の持つローダミンの蛍光を観察した。結果より、機能性磁気超ナノ微粒子を塗布し、磁石を固定した物(図7A)の耳殻切片からローダミンの蛍光が観察された。磁石を固定した耳殻切片は磁石を固定した部分に微粒子が集中していた(図7A)。しかし、磁石を用いなかった切片からは、ほとんど蛍光が観察されなかった(図7B)。200nmの蛍光微粒子を塗布した切片からも微粒子の蛍光は観察されなかった(図7C)。これらの結果を蛍光強度に定量したものを図8に示す。磁石を固定した物(図7A)と、磁石を用いなかった物(図7B)または200nmの蛍光微粒子を塗布したもの(図7C)をそれぞれ検定した結果、有意に差があることが示された。これらのことから、磁力を用いることで局所的にその濃度を向上させることができた。
【0027】
実施例4:アミノ化磁気超ナノ微粒子表面へ架橋剤の修飾
実施例1(3)で得られたアミノ化磁気超ナノ微粒子に架橋剤を介してアミノ酸(L−システイン)を修飾するために、まずアミノ化磁気超ナノ微粒子に架橋剤を修飾した。すなわち、洗浄したアミノ化磁気超ナノ微粒子5mgを100μLのDMF(ジメチルホルムアミド)に分散させたものと、架橋剤Sulfo-EMCS(N-[ε-マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル)7.2mgを100μLのDMFに溶かしたものを4℃で30分、室温で1時間反応させた。反応後、未反応のSulfo-EMCSを3mLのDMFで3回洗浄した後、IR測定装置を用いて、得られた微粒子の観察を行った。用いた測定方法はATR法である。IRの結果を図9に示す。架橋剤修飾前は図9-A、修飾後は図9-Bである。架橋試薬修飾後のグラフからのみC=O(1604〜1688cm-1)のピークが観察されたことから、アミノ化磁気超ナノ微粒子のアミノ基に架橋試薬を修飾することができた。
【0028】
実施例5:架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子表面へのL−システインの修飾
次に、実施例4で得られた架橋試薬が修飾された磁気超ナノ微粒子にL−システインの修飾を試みた。架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子5mgを100μLの緩衝液(0.1M K-PIPES; pH 6.8)に分散させたものと、2.2mgのL−システインを100μLの緩衝液(0.1M K-PIPES)に溶かしたものを4℃で30分、室温で1時間反応させた。反応後、未反応のL−システインを上記と同様の緩衝液3mLで3回洗浄した。得られたアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の化学構造予想図を図10に、TEM写真を図11に示す。その直径は約3nmであり、アミノ酸修飾が、磁気超ナノ微粒子の形態に影響を及ぼさず、単分散にアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子が存在していることを確認した。
【0029】
蛍光物質修飾
架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子へのアミノ酸(L−システイン)の導入を確認するために、上記アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子に蛍光物質であるDansyl chloride(DNS)を修飾した。
まず、DNSを反応させる前に、架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子表面上の残アミノ基の影響をなくすために、1mLのDMFに分散させた架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子に0.175M パラホルムアルデヒドを加え、室温で15分間反応させ残アミノ基をメチル化した。アルデヒド化合物とアミノ基との反応によってできるシッフ塩基は還元剤(0.175M NaBH4)により還元した架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子を用いた。その後、DMF(3mL)で3回洗浄した。
次いで、上記の「架橋試薬修飾磁気超ナノ微粒子表面へのL−システインの修飾」と同様の手順でアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子を調製した。5mgのアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子を、100μLの20mMクエン酸緩衝液(pH8)と80μLのアセトンを混合した溶媒に分散させた。そこにアセトンに溶かした0.175MのDNSを20μL入れて、50℃で15分間反応させた。未反応のDNSを上記と同様の溶媒3mLで3回洗浄し、これを蛍光物質標識アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子とした。
DMF(1mL)中に蛍光物質標識アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子、アミノ化磁気超ナノ微粒子の二種類をそれぞれ懸濁させたものを、共焦点顕微鏡(カールツァイス社製:LSM-5)により観察した。結果、アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子からのみDNSの蛍光が確認された(図12A)。なお、観察した微粒子は凝集しているものであり、微粒子単体を観察したものではない。一方、アミノ化磁気超ナノ微粒子の微粒子から蛍光は得られない(図12B)。このことは、微粒子自体に蛍光は無いことを示している。つまり、DNSがアミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子に存在するアミノ酸のアミノ基を介して共有結合的に修飾されたことを示し、架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子にアミノ酸が導入されたことも示す。
【0030】
実施例6:葉酸修飾磁気超ナノ微粒子の調製
実施例1(3)で得られたアミノ化磁気超ナノ微粒子に葉酸と蛍光物質(クマリン)を修飾した。すなわち、25mgのアミノ化磁気超ナノ微粒子を秤量し10mLのDMFに
氷で冷やしながらスターラーを用いて懸濁させ、12.7mgの葉酸(2.3mM)、0.57mgのクマリン(0.23mM)、149.5mgのPyBop(ナカライテスク:23mM)、38.3mgのHoBT(1-Hydroxy-1H-benzotriazole:23mM)、1.48μLのDIEA(N,N-diisopropylethylamine:2.3mM)を磁気超ナノ微粒子懸濁液に加えた。遮光しながら室温で約21時間ゆっくりと攪拌しながら反応を完結させた後、9000rpm、4℃で20分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨て、DMFを注いで再分散させてから9000rpm、4℃で15分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を3回繰り返し、沈殿物を洗浄した。次いで、微粒子上の未反応のアミノ基をメチル化する為に、洗浄した沈殿物を2mLのメタノールで懸濁させた溶液にホルムアルデヒド(0.1M)を加えてよく攪拌し、更にシッフ塩基をNaBH4(0.1M)を4℃で反応させて還元した。最後にメタノールを用いて15000rpmで5分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を3回繰り返して洗浄することで葉酸を修飾した磁気超ナノ微粒子を得た。得られた葉酸修飾磁気超ナノ微粒子のTEM写真を図13に示す。その直径は約3nmであり、葉酸修飾が、微粒子の形態に影響を及ぼさず、単分散に微粒子が存在していることを確認した。
同様の方法で葉酸を混ぜずに蛍光(クマリン)のみを修飾させた微粒子も得た。
【0031】
葉酸の修飾の確認
IRにより、葉酸修飾前のアミノ化磁気超ナノ微粒子(図14A)と葉酸修飾後のアミノ化磁気超ナノ微粒子(図14B)を測定した。葉酸修飾後のアミノ化磁気超ナノ微粒子のみから葉酸特異的なピーク(p−アミノ安息香酸)1419cm-1が得られたことから葉酸の修飾を確認できた。
【0032】
実施例7:葉酸を修飾した機能性(アミノ化)磁気超ナノ微粒子の細胞内への導入
細胞内への上記葉酸修飾磁気超ナノ微粒子の導入を行った。用いた細胞はヒト咽頭癌由来のKB細胞である。
シャーレ上にKB細胞を48時間培養した後、上記葉酸修飾磁気超ナノ微粒子または、コントロールとして蛍光物質(クマリン)のみを修飾した微粒子を2mLのDMFに懸濁させたものを6000rpmで20秒遠心分離器に掛け、上澄み10μLそれぞれ培養液(2mL)に導入した。2時間後に細胞染色用の試薬カルボシアニン色素(DiI)をメディウムで希釈した溶液(0.2μg/L)に培地を置換し、約1時間染色した。その後、共焦点顕微鏡を用いて細胞内に微粒子が取り込まれたかを確認した。葉酸修飾磁気超ナノ微粒子に関しては、これと同様の操作をPtK2細胞(Potorous tridactylis由来上皮細胞)を用いて行った。また、葉酸修飾磁気超ナノ微粒子に関しては、KB細胞に導入する際に大過剰量の葉酸(1.1mM)同時に加えた操作も行った。
【0033】
結果を図15に示した。
葉酸修飾磁気超ナノ微粒子を導入した細胞からは、細胞内部から磁気超ナノ微粒子に同様に修飾したクマリンの蛍光が観察された(図15A)。一方、葉酸が修飾されていないクマリン修飾磁気超ナノ微粒子を導入した細胞からは細胞内部から蛍光は観察されなかった。細胞表面からわずかに蛍光が観察された(図15B)。なお、図15Cは未操作の細胞でありクマリンの蛍光は観察されない。このことから、細胞の自家蛍光がないことを示す。また、細胞表面上に葉酸受容体の発現していない細胞(PtK2細胞)に葉酸修飾磁気超ナノ微粒子を導入したところ、細胞表層及び内部から蛍光は観察されなかった。葉酸未修飾磁気超ナノ微粒子は、PtK2の細胞表面への存在は観察された。この葉酸のないクマリン修飾磁気超ナノ微粒子が細胞表面から観察されることは、KB細胞の場合でも一致している。つまり、葉酸修飾磁気超ナノ微粒子は葉酸のα-カルボキシル基の影響で表面がアニオン性である(電気泳動で確認済み)。一般に細胞表面はアニオン性であることから、静電的反発により葉酸修飾磁気超ナノ微粒子は細胞表面に近づけないことを裏付けるものである。さらにまた、大過剰量の葉酸と葉酸修飾磁気超ナノ微粒子を同時にKB細
胞に導入したものからも細胞表層及び内部から蛍光は観察されなかった。これらの結果より、葉酸修飾磁気超ナノ微粒子が細胞膜上の葉酸受容体を介して選択的に細胞内部へ導入することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、アミノ基、イソシアネート基、またはメルカプト基などの官能基が微粒子表面に共有結合的に修飾されている。また、本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は、ペプチドのみならず、一般薬剤等の修飾も可能である。細胞、組織内へ容易に取り込まれ、磁力を用いることで局所濃度を制御できることから新規薬剤輸送システムに用いることができる。さらにまた、薬剤、特定タンパク質相互作用物質を修飾した検体内や細胞内で目的細胞内物質を補足できることから本発明の機能性磁気超ナノ微粒子は新規タンパク精製システムの構築も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の機能性磁気超ナノ微粒子を模式的に示す。●はSi、○は酸素、中心は金属酸化物を表す。
【図2】磁気超ナノ微粒子の機能化概念図。
【図3】A:磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。B:アミノ化磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。
【図4】アミノ化磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真(スケールバーは5nm)。
【図5】蛍光物質修飾または未修飾磁気超ナノ微粒子の蛍光写真。
【図6】A:機能性磁気超ナノ微粒子の細胞内導入図(写真)。B:コントロール微粒子の細胞内導入図(写真)。C:機能性磁気超ナノ微粒子の細胞内電子顕微鏡写真。D:コントロール微粒子の細胞内電子顕微鏡写真。波線丸印は本該当微粒子、矢印はリボソーム、波線四角は微小管を示す。
【図7】A:機能性磁気超ナノ微粒子のマウス外耳への磁気を用いた導入図(写真)。B:機能性磁気超ナノ微粒子のマウス外耳への磁気を用いない導入図(写真)。C:平均粒子径200nmの蛍光微粒子のマウス外耳切片への磁気を用いない導入図(コントロール)(写真)。
【図8】外耳切片におけるローダミンの蛍光強度を示す図。t-検定法を用いて検定した。縦軸は蛍光強度の相対蛍光強度を示す。
【図9】A:アミノ化磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。B:架橋剤修飾磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。
【図10】アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の機能化概念図。
【図11】アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真(スケールバーは5nm)。
【図12】A:蛍光物質標識アミノ酸修飾磁気超ナノ微粒子の蛍光像(写真)。B:アミノ化磁気超ナノ微粒子の蛍光像(写真)。
【図13】葉酸修飾磁気超ナノ微粒子の電子顕微鏡写真(スケールバーは5nm)。
【図14】A:アミノ化磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。B:葉酸修飾磁気超ナノ微粒子のIRスペクトル。
【図15】A:葉酸修飾磁気超ナノ微粒子導入KB細胞写真。B:クマリン修飾磁気超ナノ微粒子導入KB細胞写真。C:KB細胞写真。それぞれ上面から撮影した、(1)KB細胞、(2)蛍光像。真横からみた(3)KB細胞、(4)蛍光像を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)金属酸化物からなるコア、
(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェル、
(c)シェルの表面に共有結合的に導入された官能基、を有する、平均粒子径が1.3〜3nmの機能性磁気超ナノ微粒子。
【請求項2】
前記官能基が、シランカップリング剤を介して導入されたものである、請求項1に記載の機能性磁気超ナノ微粒子。
【請求項3】
前記官能基がアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、スルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1または2に記載の機能性磁気超ナノ微粒子。
【請求項4】
(a)金属酸化物からなるコア、および(b)該コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェルであって、その表面に水酸基を有するシェル、を有する微粒子の表面に、シランカップリング剤を用いて、該水酸基を介して官能基を共有結合的に導入することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性磁気超ナノ微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性磁気超ナノ微粒子と薬物を有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記薬物が結合されていることを特徴とする、薬物結合複合体。
【請求項6】
機能性磁気超ナノ微粒子または薬物が標識物質で標識されていることを特徴とする、請求項5に記載の薬物結合複合体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性磁気超ナノ微粒子と、所望の物質と特異的に相互作用するリガンドを有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記リガンドが機能性磁気超ナノ微粒子に結合されていることを特徴とする、リガンド結合複合体。
【請求項8】
機能性磁気超ナノ微粒子またはリガンドが標識物質で標識されていることを特徴とする、請求項7に記載のリガンド結合複合体。
【請求項9】
(a)請求項5または6に記載の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞に薬物を送達する方法。
【請求項10】
(a)請求項6に記載の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、
(c)前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞への薬物の送達をモニタリングする方法。
【請求項11】
(a)請求項8に記載のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織また
は細胞に前記リガンド結合複合体を送達する工程、(c)磁気を解除して前記部位に集積もしくは滞留した、または前記組織もしくは細胞に送達された前記薬物結合複合体を、分散または代謝させ、前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングする方法。
【請求項12】
(a)請求項5または6に記載の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から、前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
【請求項13】
(a)請求項5または6に記載の薬物結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
【請求項14】
(a)請求項7または8に記載のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記リガンド結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
【請求項15】
(a)請求項7または8に記載のリガンド結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
【請求項16】
請求項5または6に記載の薬物複合体を含む医薬。
【請求項1】
(a)金属酸化物からなるコア、
(b)前記コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェル、
(c)シェルの表面に共有結合的に導入された官能基、を有する、平均粒子径が1.3〜3nmの機能性磁気超ナノ微粒子。
【請求項2】
前記官能基が、シランカップリング剤を介して導入されたものである、請求項1に記載の機能性磁気超ナノ微粒子。
【請求項3】
前記官能基がアミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、スルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1または2に記載の機能性磁気超ナノ微粒子。
【請求項4】
(a)金属酸化物からなるコア、および(b)該コアを覆うアモルファスシリカネットワークからなるシェルであって、その表面に水酸基を有するシェル、を有する微粒子の表面に、シランカップリング剤を用いて、該水酸基を介して官能基を共有結合的に導入することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性磁気超ナノ微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性磁気超ナノ微粒子と薬物を有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記薬物が結合されていることを特徴とする、薬物結合複合体。
【請求項6】
機能性磁気超ナノ微粒子または薬物が標識物質で標識されていることを特徴とする、請求項5に記載の薬物結合複合体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性磁気超ナノ微粒子と、所望の物質と特異的に相互作用するリガンドを有し、前記微粒子の表面の官能基を介して前記リガンドが機能性磁気超ナノ微粒子に結合されていることを特徴とする、リガンド結合複合体。
【請求項8】
機能性磁気超ナノ微粒子またはリガンドが標識物質で標識されていることを特徴とする、請求項7に記載のリガンド結合複合体。
【請求項9】
(a)請求項5または6に記載の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞に薬物を送達する方法。
【請求項10】
(a)請求項6に記載の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達する工程、
(c)前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞への薬物の送達をモニタリングする方法。
【請求項11】
(a)請求項8に記載のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織また
は細胞に前記リガンド結合複合体を送達する工程、(c)磁気を解除して前記部位に集積もしくは滞留した、または前記組織もしくは細胞に送達された前記薬物結合複合体を、分散または代謝させ、前記組織または細胞に局在化した標識物質の存在を検出する工程、を含むことを特徴とする所定の組織または細胞における所望の物質の分布をイメージングする方法。
【請求項12】
(a)請求項5または6に記載の薬物結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記薬物結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記薬物結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から、前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
【請求項13】
(a)請求項5または6に記載の薬物結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する薬剤の標的物質と前記薬物結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記標的物質と前記薬物結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とする薬剤の標的物質を選択する方法。
【請求項14】
(a)請求項7または8に記載のリガンド結合複合体を非ヒト被検体に投与する工程、
(b)所定の組織または細胞が存在する前記非ヒト被検体の部位に非ヒト被検体外から磁気を集中し、前記部位に前記リガンド結合複合体を集積または滞留させて前記組織または細胞に前記リガンド結合複合体を送達し、前記組織または細胞に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体をin vivoで結合させる工程、
(c)前記組織または細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
【請求項15】
(a)請求項7または8に記載のリガンド結合複合体を培養細胞に添加して、培養細胞中に存在する所望の物質と前記リガンド結合複合体を結合させる工程、
(b)前記培養細胞から前記物質と前記リガンド結合複合体との結合物を磁気的に吸着することにより回収する工程、を含むことを特徴とするリガンドと特異的に相互作用する所望の物質を選択する方法。
【請求項16】
請求項5または6に記載の薬物複合体を含む医薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−269770(P2007−269770A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311611(P2006−311611)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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