説明

機能性粒子を担持した多孔質成形体

【課題】成形体の表面と内部とにマクロボイドを有し、必要十分な強度を併せ持つ、機能粒子含有成形体を提供すること。
【解決手段】機能性粒子を担持するマトリックスポリマーにより形成された多孔質の成形体であって、下記要件(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とする、機能性粒子担持多孔質成形体。
(1)該成形体表面は、マトリックスポリマーにより形成されたネットワーク構造を有した多孔形状であること。
(2)該ネットワーク構造に機能性粒子が担持されていること。
(3)表面を被覆しているマトリックスポリマーが、成形体内部のマトリックスポリマーと連結していること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能粒子が担持された成形体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、成形体の内部と表面にマクロボイドを含有し、かつマクロボイドを形成するマトリックスポリマーはネットワーク構造を形成し、ネットワーク構造を形成しているマトリックスポリマーには機能性物質が担持されてなる多孔質成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種触媒等の機能性物質を担体する形状として、種々な形状の成形体が提案されている。
例えば、機能性粒子を担持したポリエステル繊維をアルカリ減量処理して繊維表面に孔を開ける方式により得られる繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリオレフィン樹脂からなる繊維本体と、前記ポリオレフィン樹脂にパラフィンワックスを混合し、溶融紡糸した後に前記パラフィンワックスを除去することにより形成される多孔質繊維が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、溶融の樹脂などを押し出して樹脂成形体を成形し、その後に抽出剤を抽出することにより多孔質形状を成形する場合、抽出する液の割合、分散性により非常に大きなボイドを形成することが可能であるが、押し出し成形時に成形体の界面付近に抽出液を配することが困難であるため、表面に大きなボイドを有する形状とすることは困難であり、表面はボイドが少ない平滑な形状となる。
【0004】
また、樹脂成形体を成形した後に、アルカリや有機溶剤などを用いて樹脂の減量処理を行うことで、表面にボイドを形成することは可能であるが、内部についても大きなボイドを形成し、また表面についてもその大部分に大きなボイドを形成しようとすると成形体全体が減肉してしまい、所用の強度が維持できなくなるばかりか、ボイドが逆に閉塞してしまうという問題が生じる。
また、これらの多孔質成形体は、機能性粒子を担持保持するために付着する樹脂は緻密構造であるため、付着部分は完全にマスキングされて機能性粒子が目的とする機能を低下させてしまう。
【0005】
【特許文献1】特開平07−316924号公報
【特許文献2】特開平07−042017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、成形体の表面と内層の大きなボイドを有し、かつ機能性粒子が表面のボイドと内層のボイドを形成するポリマーに担持され、該ポリマーは微細な連通孔を有するマトリックスポリマーであり、尚且つ成形体が充分な強度を有する、機能性粒子が担持されたポリマー成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、成形体の表面と内部に大きなボイドを形成し、表面の大きなボイドはネットワーク構造によりなるマトリックスポリマーで形成され、該マトリックスポリマーは連通する細孔を形成し、さらに成形体の表面と内部に形成される大きなボイドと、マトリックスポリマー内の細孔とは明らかに区別できる程度の大きさの孔を形成でき、該マトリックスポリマーには、大量の機能性粒子を担持できると共に、機能性粒子と成形体外の物質とが容易にかつ均一に接触できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の目的は、機能性粒子を担持するマトリックスポリマーにより形成された多孔質の成形体であって、
(1)該成形体表面は、マトリックスポリマーにより形成されたネットワーク構造を有した多孔形状であること。
(2)該ネットワーク構造に機能性粒子が担持されていること。
(3)表面を被覆しているマトリックスポリマーが、成形体内部のマトリックスポリマーと連結していることを特徴とする、機能性粒子担持多孔質成形体によって達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリマー成形体は、成形体の表面と内部にマクロボイド部を有し、大量の機能性物質が担持させることができるので、成形体外の物質が成形体表面から容易に内部に浸透し、成形体に担持した機能性粒子と容易にかつ均一に接触できる。
【0010】
また、複数の機能性粒子を同一の成形体内部に担持することによって、それらを組み合わせた機能を発現させたり、目的とする機能を向上させたりすることもできる。たとえば、機能性粒子の持つ吸着等の機能を阻害する成分が流体中に存在する場合には、阻害成分を吸着等で無効化する機能を有する新たな機能性粒子を、目的とする機能性粒子に混合して成形することで、目的とする機能性粒子の機能を向上させることが可能である。
【0011】
また、成形体の表面及び内部にある機能性物質の表面の少なくとも一部が、マトリックスポリマーで覆われ成形体に強固に担持されると共に、該マトリックスポリマーは連通する細孔を有するので、成形体外の分子が該細孔を通って容易に機能物質表面に到達することができる。
【0012】
一方、本発明の成形体における、表面に担持された機能性粒子は、表面のネットワーク構造を構成するマトリックスポリマーで被覆担持されているため、機能性粒子が脱落することはない。よって、機能性粒子は、外部からの摩擦力などから保護され、成形体に強固に固定されている。また、被覆するマトリックスポリマーは、細孔を有するので、外部の分子は細孔を通って容易に機能粒子表面に到達することができる。従って、機能性粒子が、微細粒子であったり生理活性が極めて強かったりして、直接人体に接触したり吸引されるのを防ぐ必要がある場合には、人体との直接の接触や人体への吸引等を防止することができると共に、機能性粒子を有効に機能させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
(表面形状)
本発明の成形体表面形状は、マトリックスポリマーにより形成されたネットワーク構造を有した多孔形状であり、マトリックスポリマーには機能性粒子を担持している。ネットワーク構造により形成される形状は、網目状、ハニカム形状、パンチング形状、蜘蛛の巣状などが挙げられるが、ここでは表面に多孔形状を形成することが重要であり表面に形成された形状を限定するものではない。
【0014】
(マクロボイド部)
マクロボイド部は、マトリックスポリマーにより隔てられたマクロボイドを含有し、隣接するマクロボイドは、マトリックスポリマー中の細孔や別のマクロボイドにより連通している。
ネットワーク構造により形成されるマクロボイドの形状には、円や楕円形状が含まれ、そのマクロボイドの孔径の最大径が5μm〜1mm、好ましくは20μm〜100μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
(マトリックスポリマー)
マトリックスポリマーには内部に微細や孔を有しており、微細孔は連続した孔径を有しており、その微細孔の大きさは0.1nm〜1μm程度の網目構造を形成している。
【0016】
(機能性粒子)
機能性粒子は、金属酸化物、金属、無機物、鉱物および合成樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、シリカなどが挙げられる。金属としては、金、白金、銀、鉄、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。無機物としては、活性炭、ハイドロタルサイト、石膏、セメントなどが挙げられる。鉱物としては雲母などが挙げられる。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフェニレンスルサイドなどが挙げられる。
【0017】
また、シリカ、活性炭などを担体として用い、銀などの金属を担持した複合機能性粒子も好ましい。この場合、銀の粒径は、好ましくは1nm〜100μm、より好ましくは1nm〜100nmである。さらには、同一の成形体中に2種以上の機能性粒子を担持させることも好ましい。
【0018】
機能性粒子の粒径は、好ましくは0.1nm〜500μm、より好ましくは1nm〜100μm、さらにより好ましくは1nm〜50μmである。
機能性粒子は、成形体のマトリックスポリマーに担持される。従って、機能性粒子は、成形体の表面、内部の任意の位置に担持される。
【0019】
本発明の成形体において、表面に現れるネットワーク構造を有するマトリックスポリマー及び内部のマトリックスポリマーに担持された機能性粒子の外表面の全体もしくは一部にはマトリックスポリマーにより被覆され成形体に固定化されている。本発明の成形体の内部のマクロボイド部に担持された機能性粒子表面を被覆しているマトリックスポリマーの厚みは、好ましくは1nm〜10μm、さらに好ましくは100nm〜1μmの範囲である。
【0020】
(成形体の形状)
本発明の成形体は、球状、楕円状のような塊状のもの、紐状、パイプ状、中空糸状のような繊維状のもの、また膜状や膜状のものを切断して鱗状のもの、棒状のものや棒状のものを切断した円柱状のものが好ましい。
【0021】
(ポリマー)
マトリックスポリマーとしては、アラミドポリマー、アクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、セルロースポリマーなどが挙げられる。その中でも、アミド結合の85モル%以上が芳香族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸成分よりなるポリマーが好ましい。その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミドが挙げることができる。
またマトリックスポリマーの50wt%以上はポリメタフェニレンテレフタルアミドまたはポリパラフェニレンテレフタルアミドであることが好ましい。
【0022】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
I.実施例に用いた材料は以下の通りである。
(1)メタ系アラミドポリマー:ポリメタフェニレンテレフタルアミド、製品名コーネックス(登録商標)、帝人テクノプロダクツ(株)製、NMP:三菱化成(株)製Nメチル−2ピロリドン
(2)金属水酸化物:Mg2+0.683Al3+0.317OH2.033Cl0.238(CO2−0.023、平均粒径10μm、製品名TPEX(登録商標)、富田製薬(株)製
【0024】
[実施例1]
メタ系アラミドポリマー100重量部をNMP830重量部に溶解し、更に1000重量部の金属水酸化物を混合したポリマー溶液を水中で凝固させ、金属水酸化物を担持した多孔質の成形体を得た。
多孔質成形体は円柱形状をしており、直径は0.7mmである。
【0025】
図1に本実施例で得られた円柱状の多孔質成形体側面の電子顕微鏡を、図2に側面の拡大図を示す。側面にはマトリックスポリマーでネットワーク構造を形成した多孔質形状が確認でき、そのネットワーク構造を結節点には金属水酸化物が担持されている。
また図3には成形体を軸方向と垂直にカットした成形体断面の電子顕微鏡写真を示す。成形体内部にもマクロボイドが確認され、かつ金属水酸化物が担持されている。
【0026】
[比較例1]
メタ系アラミドポリマー100重量部をNMP1170重量部に溶解し、更に1000重量部の金属水酸化物を混合したポリマー溶液を水中で凝固させ、金属水酸化物を担持した多孔質の成形体を得た。
【0027】
多孔質成形体は円柱形状をしており、直径は0.5mmであった。円柱形状側面には孔は空いておらず、有機溶剤5wt%の水溶液にて表面を減量処理した。処理後の表面を図4に示す。表面には僅かながらに孔が開いているが、その範囲はごく一部に留まり、全体としては減肉された形状となって著しく脆くなり、実用上の強度保持ができなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の機能性物質を担持させた成形体は、大気や水処理などの環境浄化、化学品製造などの種々の分野で応用が期待される。例えば、VOCなどを吸着する吸着剤を内部に担持させることにより、VOCの吸着処理を速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の円柱状成形体の外表面部の電子顕微鏡写真図(撮影倍率100倍)である。
【図2】実施例1の円柱状成形体の図1の拡大を示す電子顕微鏡写真図(撮影倍率1000倍)である。
【図3】実施例1の円柱状成形体を軸方向と垂直にカットした成形体断面の電子顕微鏡写真図(撮影倍率100倍)である。
【図4】比較例1の円柱状成形体の外表面部の電子顕微鏡写真図(撮影倍率200倍)である。
【符号の説明】
【0030】
1 成形体表面
2 成形体表面のマクロボイド
3 ネットワーク構造を形成するマトリックスポリマー
4 表面のマトリックスポリマーに担持された金属水酸化物
5 成形体内部のマクロボイド
6 成形体内部に担持された金属水酸化物
7 比較例に示す成形体表面のマクロボイド
8 比較例で表面に浮き出た金属水酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性粒子を担持するマトリックスポリマーにより形成された多孔質の成形体であって、下記要件(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とする、機能性粒子担持多孔質成形体。
(1)該成形体表面は、マトリックスポリマーにより形成されたネットワーク構造を有した多孔形状であること。
(2)該ネットワーク構造に機能性粒子が担持されていること。
(3)表面を被覆しているマトリックスポリマーが、成形体内部のマトリックスポリマーと連結していること。
【請求項2】
マトリックスポリマーには0.1nm〜1μmの範囲にある細孔が存在する、請求項1記載の成形体。
【請求項3】
成形体の形状が、塊状、繊維状または膜状である、請求項1記載の成形体。
【請求項4】
マトリックスポリマーの50wt%以上が、ポリメタフェニレンテレフタルアミドまたはポリパラフェニレンテレフタルアミドである請求項1記載成形体。
【請求項5】
機能性粒子が、金属酸化物、金属、無機物、鉱物および合成樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の成形体。
【請求項6】
ネットワークの結節点に担持された機能性粒子の表面の少なくとも一部が、マトリックスポリマーによって被覆されている請求項1記載の成形体。
【請求項7】
2種以上の機能性粒子が坦持された請求項1記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−332176(P2007−332176A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162227(P2006−162227)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(592091596)帝人エンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】