説明

機能性紋様形成方法及び機能性デバイス

【課題】基体表面上に選択的な機能性紋様を直接に形成する方法を提供する。
【解決手段】下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程などを経て、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該基体と反応する反応液2を保持し、当該機能性紋様を有した凹版5を当該基体表面に当てて当該機能性紋様を転写する押圧過程、B.反応液をそのまま一定時間保持して当該基体表面の活性度を調整する活性化調整過程の2過程を経ることで、全面に表面修飾層を形成して直接に機能性紋様9を得る。基本的には鍍金後に紋様を蝕刻などしない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昨今盛んに研究が進められている基体表面上に選択的な機能性紋様を直接に形成する方法に関し、特に樹脂基体のデザイン性に優れた修飾や、鍍金によって形成される実装基板などに応用される電子電気デバイス、プリンテッドエレクトロニクス、化学デバイスやマイクロコンタクトプリンティング技術に関しており、益々微細化し高度化する機能性紋様の形成や、電子電気デバイスやバイオデバイスなどの製造に新たな手段を提供し、併せてその品質や信頼性を向上し、更にコスト低減を実現する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基体上に金属を鍍金して機能を形成する製品は多く、種々の鍍金法や下地処理法が提案され、また、使用されている。特に、樹脂基体表面上に選択的な導電性金属紋様を形成してデザイン性に優れた修飾した製品や電子電気デバイスの実装基板には、実に様々な鍍金技術が使われている。一般的な鍍金製品では溶液中での鍍金が多い。直接に樹脂基体上に鍍金出来ないので、先ず、下地処理を行い樹脂全表面を軽く粗面化して、次いでその粗面にPdなどの金属触媒を析出させてから無電解鍍金で銅などの金属を薄く鍍金して、さらに電気メッキなどで厚く金属を成長させる。粗面化することで金属パターンの接着強度も向上する。まお、無電解鍍金で厚くする場合も有る。次いで、パターン形成を行う。先端的な実装基板では、一般的に真空蒸着や金属膜を接合するなどで、先ず樹脂基体表面全面に強固な金属薄膜を付け、次に感光性レジストなどを使ってパターンを形成し、最後に金属を浸蝕除去して所望の導電性金属パターンを形成する。いずれも基体全面の金属層を蝕刻し、パターンを形成している。
以下本発明では、先端的な実装基板を代表例として詳細な説明を行う。
【0003】
近年、応用が拡がる実装基板などの製造に関しては、新しい色々な技術が報告されている。例えば特許公報平2−18399に開示され、また、該公報に引用されているような腐蝕浴槽中の界面処理液に浸漬する水平処理法や垂直処理法などがある。また、様々な界面処理液や処理剤が広く一般に汎用されている。新たな表面修飾剤として、金属錯体を活用した国際公開番号WO 2007/066460のような提案も為されている。いずれも全面に鍍金して、パターンを蝕刻により形成しているので、金属腐蝕の際に界面沿ってアンダーエッチが生じて、信頼性の低下などの深刻な課題が微細化に伴って浮上してきているだけで無く、鍍金した銅などの金属の大部分を除去する為にエネルギーや資源の無駄遣いになっている。
【0004】
このような課題もあって、最近ではダイレクトライティング技術が注目され、ナノ銀ペーストを印刷後、焼成して導電性パターンを画く技術、インクジェットプリンターで直接パターンを描画形成する技術などが広く研究されている。しかし、電気抵抗が高く、接着強度やパターン形状に課題が多く残っており、非常に高コストである。未だに研究開発段階から脱していない。
【0005】
バイオデバイスへ向けて、マイクロプリンティング技術がA. Kumarらの報告を機に発展し、幅広く研究されている。特開2009−90673や特開2009−28947に記されているように種々の工夫がなされてきているが、元来単分子膜のような薄膜を対象としており、応用展開には大きな制約が伴い、非常にコストも掛かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公報平2−18399
【特許文献2】国際公開番号WO 2007/066460
【特許文献3】特開2009−90673
【特許文献4】特開2009−28947
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. Kumar, G.M. Whiteside et al. Langmuir 10 (1994) 1498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
樹脂基体表面上への紋様形成では、背景技術に示されるように、全面に金属層を形成した後に、フォトリソ過程などで作成した開口部を腐食して所望の紋様を得ている。この時、腐食液によって金属と樹脂の接合界面が浸蝕されることが知られている。紋様の幅が数十ミクロンと精緻になってくると、このサブ〜数ミクロンの界面浸蝕は無視できない大きさとなり、接合強度の低下を招き剥離の原因になっているだけで無く、種々の不良の原因となっている。更に、この浸蝕部は使用と共に伝播し成長してくるので長期信頼性に無視し得ない影響を及ぼす。特に電気電子素子では、線幅20―30ミクロン以下を目指しており、このような界面浸蝕による初期劣化や経年劣化、特性変化は大きな課題となっている。昨今のダイレクトライティング研究開発に力が入っている一大要因である。
【0009】
真空蒸着やスパッタ−法等の物理的な鍍金法では基体との密着強度は非常に強いとされているが、線幅が狭くなってくるとやはり上述の界面浸蝕が問題となっている。数百ミクロン台のパターン蒸着は可能であるが、微細な紋様や細線は全く期待出来ない。
【0010】
一方、低廉で大量生産向きの液中での銅鍍金法では、鍍金下地処理の仕方によって大幅に密着強度が異なる。一般的には、強度の表面腐蝕処理などに依って界面を粗面化して密着強度を上げているが、一般的には強度不足である。また、基体の全面が荒れるという別の課題や紋様形成時での腐蝕と重畳して界面劣化が大きく生じ、特に実装基板などでは銅細線などの初期剥離、強度の低下や長期信頼性の悪化を招いており、微細化への大きな障害となっている。また、パターン形成において、上述の説明のように界面浸蝕を生じ、これまた初期剥離強度の低下や長期信頼性のさらなる悪化を招いている。
【0011】
さらに、これらの方法では残す紋様部分である回路パターンなどの全面積は小さく、鍍金した金属の殆どを除去しているのが現実である。省資源省エネの観点からも大きな課題となっている。
【0012】
また、多くの処理工程を経るために、各種設備、各種機器の維持管理や調整コストが嵩み、その上処理工程の度に表面を汚したり傷つけたりする欠点があり、歩留まり低下や信頼性への不安を招いている。この為に工程の簡素化、短縮が強く要望されている。
【0013】
以上の課題に対して、最近盛んに研究開発が為されているダイレクトライティング技術では、上記の界面浸蝕の課題や廃液処理などの環境問題が低減され理想的な工法と大きな期待が持たれている。特に最近注目を集めているバイオデバイスなどへ向けてのマイクロコンタクトプリンティング技術は、未だに研究開発段階から脱しておらず、一般的には非常に高コストである。元来、同技術は、単分子膜のような超薄膜に特に有効な技術だけに厚膜紋様を形成しようとすると、図1に示すように、紋様の幅が一定にならないなどの致命的な欠陥が潜在している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は、大量生産に向く湿式工法であり、また、スタンプ方式に類似した直接的な紋様形成方法であり、従来のスクリーン印刷版やフォトリソ技術を全く使用しない画期的な斬新で新しい手法である。
【0015】
本発明の要旨は、下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程を少なくとも含み、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該基体と反応する反応液を保持し、当該機能性紋様を有した凹版を当該基体表面に当てて当該機能性紋様を転写する押圧過程、B.反応液をそのまま一定時間保持して当該基体表面の活性度を調整する活性化調整過程の2過程を含むことを特徴としている。以下、電子デバイスなどで広く使われ、良く知られている実装基板を例にとって具体的な説明を行なう。バイオデバイスや化学センサーなどにおいても、一見異なる様に見えるが類似の工程を経ている。
【0016】
実装基板などへの応用に関しては、導電性金属紋様形成方法は大量生産に向く液中での鍍金法が有望である。鍍金下地調整工程、紋様形成工程、無電解鍍金工程を少なくとも含み、絶縁性樹脂基体表面上に選択的な導電性金属紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該樹脂腐蝕性を持つ腐蝕液を含有する反応液を保持し、当該機能性紋様を有した凹版を当該基体表面に当てて当該導電性金属機能性紋様を転写する押圧過程、B.反応液をそのまま一定時間保持して当該樹脂表面を僅かに当該紋様状に腐蝕する腐蝕過程の2過程を含む紋様腐蝕工程を経ることを特徴としている。
【0017】
図1に基づいて、本発明の骨子を説明する。清浄な樹脂基体1上に水溶液2を滴下するとはじいて、接触角3が生じて水玉4を形成したり、端部がワカメ状の形状になって、上手く正確な紋様を画くことが出来ないことは一般に広く知られている。この為に、基体を粗面化する下地処理は必須と考えられており、その一方で、粗面化すると溶液2が速やかに広がり細かな紋様が出来ないことも一般に広く知られている。この為に全面を粗面化して鍍金後に紋様をフォトリソなどで形成するのが従来法である。しかし、本発明者は基体と反応する腐食性の溶液を刷り込むと全くはじくことが無く、むしろはじき易さや滲み難さを逆用した形で微細な紋様が形成されることを見出して、従来の限界を破る金属紋様形成方法の本発明に至った。
【0018】
この界面現象を解析考察した処、以下の所見を得た。基体上の溶液の形状は、化学的物理的な結合力と表面張力で決まる。テフロン(登録商標です。)上に水球ができる所以である。しかし、この現象は無反応の平衡状態での話である。溶液は、一時的に表面に張り付き、次いで、平衡状態に為るように盛り上がり(即ちはじいて)平衡状態に移行する。一方、反応性の溶液では一時的に溶液が張り付いた非平衡な界面での反応により基体の表面状態が変化して結合力が増し、はじかないようになる。すると反応がさらに進み、安定した新たな平衡状態に至る。
【0019】
図2は、この観測された現象や考察に基づいた本発明の基本的概念を示している。表面を清浄化した樹脂基体1に基体樹脂を腐蝕する反応液2を湿潤した版5を当てると、基体1が疎水性で有れ親水性で有れ基体1と反応液2は密着する。この状態のままで反応液2に含まれる腐蝕剤が基体1表面を浸潤して表面に変性層や粗面化層6が形成され始めて、一定時間経てば、さらに腐蝕剤が界面に拡散してきて、版5の形状を正確に反映した紋様7を有した安定な変性層6が形成される。この変性層6は図からも明らかなように版5の形状を写し取っている。
原理的には、版5に乗せられた反応液2はその紋様で形状が限定されている為に、若干の滲み出しが有っても、正確に版5の形状を正確に写し取った表面変性層や表面粗化が達成される。
【0020】
基体1が撥水性であれ親水性であれ、強制的に反応液と基体1が接するので確実に版5の形状を正確に写し取った表面変性層や表面粗化が得られる。しかし、凸版(図2イ)の場合には、反応液2の量が多すぎると滲み出しが非常に大きくなる。この時、基板が超親水性の場合にはさらに滲み出しが大きくなる。一方、凹版(図2ロ)の場合には、反応液2が溜め5aに所定量あるので余計な滲みだしは生じ難い。従って、凹版の方が遥かに制御し易い。なお、いずれの場合にも、表面の汚れなどは、反応液との反応を阻害するので、当然清浄な表面が必要であり、例えば、プラズマ処理やオゾン処理などの表面清浄化は望ましいことである。
【0021】
次に、この反応液を洗浄除去した後に、ほぼ通常の鍍金処理法に従って、Pdなどの触媒粒子を腐蝕した粗化面へ析出させ、さらに、無電解鍍金処理で導電性金属層を形成し厚くして、必要に応じて電解鍍金などで一段と厚く形成することもできる。この結果、押印した紋様を正確に反映した金属鍍金が実現された。なお、極く希に所望の紋様以外にPdなどが僅かに析出し、金属斑点が成長することが認められた。この時は、軽くエッチバックすることや、やや強い洗浄をする事で以上の微小な金属斑点状の析出物を簡単に除去できた。
【0022】
また、反応液中にPd化合物などの触媒金属塩などを予め添加しておき、活性化層へ沈着させておいて、洗浄後に直ぐに無電解鍍金処理をすることもできる。
【0023】
なお、電解鍍金をする場合には、紋様が繋がっていなければならない。連続せずに浮島になった部分があると無電解鍍金はできても、電解鍍金を行えない。このような時には、一旦連続した紋様を作成しておいて電解鍍金で仮の紋様を一旦完成してから、不要となる紋様部分に腐蝕性の粘性液を選択的に印刷してその部分を除去することで、最終的に望まれた回路パターンを形成でき、所望の厚膜の電子電気デバイスを提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、大量生産に向く低コストの印刷法で微細な紋様を有する機能性商品や微細な回路パターンを有する電子電気デバイスを提供できる。さらに、電子電気デバイスに使われる微細な回路パターンにおいては、従来、スパッタ−法などによる優れた接着強度を与える工程を用いても、微細線の形成のために生じる図3に示すような銅配線9のアンダーカット8や界面の劣化で剥離強度の低下や信頼性の低下が問題となっていたが、本発明によって、このような弊害が解消する。
【0025】
また、従来工程では多くの処理工程を経て、各種設備、各種機器の維持管理や調整コストが嵩み、その上処理工程の度に表面を汚したり傷つけたりする欠点や、歩留まりや信頼性低下が有ったのが、本発明では全工程が大幅に簡略化された為に、これらの課題が一挙に解消された。更にプロセス操業度が向上したのみならず、歩留まりの向上など生産性の大幅な向上が図られるなどの副次的な効果も認められた。
さらに本発明では、面積の非常に小さい回路パターンなどの紋様部分だけに鍍金する為に省資源であり、全面鍍金した金属を除去する余計な腐食液なども不要であることから、一層の省資源省エネとなっている。これらによるコスト低減効果も大きい。
なお、同様の手法をバイオデバイスや化学センサーなどにも適用でき、上記と同様な優れた特徴が得られることは云うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】疎水性基体表面
【図2】本発明の概念図
【図3】界面のアンダーカット
【図4】反応液腐蝕剤濃度の効果
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の基本的な界面処理法を、代表的な応用例である先端的な実装基板を例にとって、以下に安定した紋様が得られる図2ロに示す凹版を使用して詳細な説明を行う。なお、基体や反応液の様々な組み合わせで多用な応用が展開出来ることは云うまでも無い。
【0028】
絶縁性樹脂基体として38ミクロンのポリイミド膜を用いて、先ず、下地調整工程でその表面を脱脂、清浄化する。次いで、ポリイミド膜表面を加水分解し腐蝕するアルカリ性の腐蝕液を、所望の紋様を有した版で転写する押印過程、数秒から数十秒放置してポリイミド膜表面を適度に粗化した後に腐蝕液を除去し洗浄する腐蝕過程(活性化調整過程)からなる紋様腐食工程(紋様形成工程)を経てポリイミド膜表面に潜在的な紋様を形成した。
【0029】
次に、腐蝕液で活性化された潜在的な紋様を有する表面に一般的なパラジウム付与処理を行い、続けて一般的な無電解ニッケル鍍金液や無電解銅鍍金液で処理して薄い電導性の金属紋様を顕在化した。この結果、印刷の紋様にほぼ一致する無電解銅の紋様が得られた。このまま厚く無電解銅鍍金を施し、また、純水で洗浄をした後、必要な場合には電解銅鍍金を施して厚い高電導性の銅の紋様を形成し、洗浄して完成品とした。
【0030】
また、薄い無電解の導電性金属紋様を顕在化した際に、所定外の部分に触媒のPdが付着してこれが核となって形成された微小な金属付着物が生ずることがあった。このような付着物は電解鍍金で成長することは無く、軽いエッチバックで効果的に除去できた。
【0031】
なお、不連続の浮島状の紋様を電解鍍金で厚くするためには、一旦ダミーの紋様で連続させ電解鍍金を施して後に、鍍金された金属を腐食する粘着性の腐蝕液を印刷ないしはスタンプして、ダミー部を腐蝕除去した。これにより、全て印刷法で一貫して、独立した種々の紋様が形成された。
【実施例1】
【0032】
基体として、50cm幅、38ミクロン厚を有するポリイミド膜を適切な大きさに切断、その表面の脱脂を行った。脱脂液としては標準的なモノエタトルアミン44%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1.7%に若干のキレート剤を含む水溶液を用いた。さらに蒸留水で洗浄した後、ポリイミド表面を加水分解し腐蝕するKOH4mol/L液に界面活性剤や増粘剤を少量加えた腐蝕液を、幅70〜100ミクロン長さ3mmの線状紋様や、100ミクロン角の市松模様、10mmX30mmの矩形模様を有するスタンパーに塗布してこれを基体に押印するように押し当てて、暫く保持した。
【0033】
60秒保持して変性層を形成した後、純水で洗浄して腐蝕液を除去して得られた活性界面へ触媒となるパラジウム付与処理を行った。塩化パラジウム、有機酸、アルカリ等からなる通常の薬液を用いて、基体粗化面への析出処理を施し、次いで、還元処理でパラジウムを析出させた。
【0034】
この時点で、一連の処理を施したポリイミド膜から試料を切り取り、ESCAにてパラジウムの分布状況を測定した。その結果、所定の幅70―100ミクロンの線状紋様と市松紋様が確認され、それ以外の部分に特異なパラジウムの痕跡は殆ど認められなかった。
【0035】
引き続き一般市販の薬液を用いて厚さ約1ミクロンの無電解銅鍍金処理を行った。形成された銅の紋様は、ほぼ幅75〜110ミクロン長さ3mmの線状の紋様と105ミクロン角の市松模様である事が顕微鏡で認められた。全体として幅が約3−10%太めに紋様が形成されたが、ほぼ同じ大きさの紋様と確認された。
【0036】
次いで、10x30mm角の紋様を切り取り150度で熱処理した後に、金属層とポリイミド膜との間の剥離強度試験(JIS C 6471 8.1)を行った。引っ張り強度試験器(TEST STAND MODEL-1310DW及びFORCE ANALYZER EXPLORER2)を用いて、引張速度50mm/分、引張角度90°で金属層を引き剥がしその強度を測定した。剥離強度約0.4N/mm前後と直接の銅メッキ膜としては高い値を得た。
【実施例2】
【0037】
腐蝕液の粘度を変化させただけで、他の条件は実施例1とほぼ同様の実験を行った。
ポリイミド表面を加水分解する腐蝕液の増粘剤の量や種類を変えて、粘度を水のような1cpsからゆるい粘土の様な数万cpsまで作成して実験を行った。幅70〜100ミクロン長さ3mmの線状の巾を計測した結果を表1に示す。なお、粘土状のように固い場合は、現実には印刷できなかったので除外している。
なお、紋様の剥離強度は、実施例1と同じように約0.4N/mmであり高い値を示した。
【0038】
【表1】

【実施例3】
【0039】
実施例2において、基体のポリイミド表面のプラズマ処理を行い、親水性に変化させた。他の条件は実施例2と全く同じである。その結果を表2に示す。表から判るように親水化処理により、腐蝕液が湿潤して腐食反応が優先的に進んだ結果、低粘度域では紋様が太めになったことが示されている。なお、剥離強度は約0.35〜0.45N/mmと、実施例2と同じように十分高い値を示した。
【0040】
【表2】

【実施例4】
【0041】
上記の実施例1をおいて、先ず、無電解鍍金を硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜燐酸塩等からなる一般市販の無電解ニッケル液で0.1ミクロン厚と薄いニッケル無電解鍍金で行ない、続けて純水で洗浄を行なった。以降は、実施例1と同様に無電解銅鍍金を行なった。その結果、ほぼ幅75〜110ミクロン長さ3mmの線状紋様と約110ミクロン角の市松模様が観測された。全体として幅が約5−10%太めに紋様が形成された。
同時に得られた10x30mm角の紋様を150度で熱処理した後に剥離強度を測定したところ、約0.6〜0,8N/mmと非常に高い値を示した。一般に報告されているスパッタ−法での剥離強度に遜色無く、非常に高強度であることが判明した。これは界面のニッケルの接着強度が高いことに因ると推定される。
また、ニッケルは耐酸化性があり、酸素や水分の効果的なバリアーにもなるために、銅界面の安定性が増すので、長期信頼性の向上が期待される。
事実、150℃200時間の高温処理後も0.55N/mm以上の高い値を保持しており、長期信頼性が確認された。
(比較例1)
【0042】
実施例1と同様にして、従来の銅鍍金処理を行った。この時、腐食液の粘度はほぼ水の様な1CPで、印刷の変わりに全面を腐食液に浸漬して表面処理を行った。その後、無電解鍍金を1ミクロン厚に形成した。その後、通常のフォトリソ、エッチングを行って、実施例1と同様の幅50〜100ミクロン長さ3mmの線状紋様を作成した。
銅鍍金された50ミクロン線状の試料をTEMで断面観察を行ったところ、サイドエッチの為に、銅と基体のポリイミド界面に腐蝕による食い込み、アンダーエッチが全般に見られ、一部には深く入っているのが見られた。フォトリソ後に強いエッチングを施したところ数ミクロンの食い込みが見られた。概念図を図3に示す。
一方、実施例1の試料では、基体のポリイミドとの界面は、端部から端部まで全く異常が無く整合していることが判明した。製造工程を考えれば当然といえる。
さらに細い線になれば、比較例の試料では、線が浮き上がり剥がれると思われる。
実施例2−3についても、同じ様にTEM観察したところ、いずれも界面の整合性は良好であることが確認された。これも製造工程からして当然といえる結果である。
【実施例5】
【0043】
実施例1と同様に、種々の濃度の苛性カリ腐蝕液を使い、Pd付着量を調べた。図4に示すように約0.5Nの苛性カリ腐蝕液でポリイミド膜の粗面化が有る程度進行して、Pdの付着が目立ち始め、概略1N以上のでは十分のPd析出が認められた。濃度が高くなるに従い安定な紋様形成が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、昨今盛んに研究が進められている基体表面上に選択的な機能性紋様を直接に形成する方法に関し、特に樹脂基体のデザイン性に優れた修飾や、鍍金によって形成される実装基板などに応用される電子電気デバイスやマイクロコンタクトプリンティング技術に関しており、益々微細化し高度化する機能性紋様の形成や電子電気デバイスやバイオデバイスなどの製造に新たな手段を提供し、併せてその品質や信頼性を大幅に向上すると共に、更なる省資源省エネルギーと特段のコスト低減を実現する。
【符号の説明】
【0045】
1 基体
2 腐食液
3 接触角
4 水玉
5 版(スタンパー)
6 変性層
7 紋様
8 アンダーカット
9 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程を少なくとも含み、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該基体と反応する反応液を保持し、当該機能性紋様を有した凹版を当該基体表面に当てて当該機能性紋様を転写する押圧過程、B.反応液をそのまま一定時間保持して当該基体表面の活性度を調整する活性化調整過程の2過程を含むことを特徴とした機能性紋様形成方法及び機能性デバイス
【請求項2】
鍍金下地調整工程、紋様形成工程、無電解鍍金工程を少なくとも含み、絶縁性樹脂基体表面上に選択的な導電性金属紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該樹脂腐蝕性を持つ腐蝕液を含有する反応液を保持し、当該機能性紋様を有した凹版を当該基体表面に当てて当該導電性金属機能性紋様を転写する押圧過程、B.反応液をそのまま一定時間保持して当該樹脂表面を僅かに当該紋様状に腐蝕する腐蝕過程の2過程を含む紋様腐蝕工程を少なくとも経ることを特徴とした導電性金属紋様形成方法及び電子電気デバイス
【請求項3】
下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程を少なくとも含み、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、一旦形成した表面修飾積層からなる機能性紋様上に、さらに重ねて当該表面修飾積層の腐蝕液を選択的紋様に印刷して一部の表面修飾積層からなる機能性紋様を腐蝕除去して基体表面上に選択的な機能性紋様を形成することを特徴とした電子電気デバイス

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102365(P2012−102365A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251885(P2010−251885)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(710012704)
【Fターム(参考)】