説明

機能性紋様形成方法及び機能性素子

【課題】樹脂基体のデザイン性に優れた修飾や、鍍金によって形成される実装基板などの基体表面上に選択的な機能性紋様を直接に形成する方法に関し、特に実装基板において、文様が精緻になると数ミクロンの劣化でも信頼性に影響するアンダーカットの防止を図り、また、鍍金した金属の殆どを除去する方法でなく微少面積の回路パターンのみ形成することによるコスト低減、省資源を図った機能性文様の形成方法を提供する。
【解決手段】下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程などを経て、基体1表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該基体1表面に当該基体と反応する高粘性反応液2を用いて当該機能性紋様を付与する界面活性付与過程、B.一定時間保持して当該基体表面の活性度を調整する活性化調整過程の2過程を経ることで、全面に表面修飾層を形成した後鍍金を行い、機能性紋様を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昨今盛んに研究が進められている基体表面上に選択的な機能性紋様を直接に形成する方法に関し、特に樹脂基体のデザイン性に優れた修飾や、鍍金によって形成される実装基板などに応用される電子電気素子、化学素子やダイレクトプリンティング技術に関しており、益々微細化し高度化する機能性紋様の形成や、電子電気素子、プリンテッドエレクトロニクスやバイオ素子などの製造に新たな手段を提供し、併せてその品質や信頼性を向上し、更にコスト低減を実現する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基体上に金属を鍍金して機能を形成する製品は多く、種々の鍍金法や下地処理法が提案され、また、使用されている。特に、樹脂基体表面上に選択的な導電性金属紋様を形成してデザイン性に優れた修飾した製品や電子電気デバイスの実装基板には、実に様々な鍍金技術が使われている。一般的な鍍金製品では溶液中での鍍金が多い。直接に樹脂基体上に鍍金出来ないので、先ず、下地処理を行い樹脂全表面を軽く粗面化して、次いでその粗面にPdなどの金属触媒を析出させてから無電解鍍金で銅などの金属を薄く鍍金して、さらに電気メッキなどで厚く金属を成長させる。粗面化することで金属パターンの接着強度も向上する。まお、無電解鍍金で厚くする場合も有る。次いで、パターン形成を行う。先端的な実装基板では、一般的に真空蒸着や金属膜を接合するなどで、先ず樹脂基体表面全面に強固な金属薄膜を付け、次に感光性レジストなどを使ってパターンを形成し、最後に金属を浸蝕除去して所望の導電性金属パターンを形成する。いずれも基体全面の金属層を蝕刻し、パターンを形成している。
以下本発明では、先端的な実装基板を代表例として詳細な説明を行う。
【0003】
近年、応用が拡がる実装基板などの製造に関しては、新しい色々な技術が報告されている。例えば特許公報平2−18399に開示され、また、該公報に引用されているような腐蝕浴槽中の界面処理液に浸漬する水平処理法や垂直処理法などがある。また、様々な界面処理液や処理剤が広く一般に汎用されている。新たな表面修飾剤として、金属錯体を活用した国際公開番号WO 2007/066460のような提案も為されている。いずれも全面に鍍金して、パターンを蝕刻により形成しているので、金属腐蝕の際に界面沿ってアンダーエッチが生じて、信頼性の低下などの深刻な課題が微細化に伴って浮上してきているだけで無く、鍍金した銅などの金属の大部分を除去する為にエネルギーや資源の無駄遣いになっている。
【0004】
このような課題もあって、最近ではダイレクトライティング技術が注目され、ナノ銀ペーストを印刷後、焼成して導電性パターンを画く技術、インクジェットプリンターで直接パターンを描画形成する技術などが広く研究されている。しかし、電気抵抗が高く、接着強度やパターン形状に課題が多く残っており、非常に高コストである。未だに研究開発段階から脱していない。
【0005】
バイオ素子へ向けて、マイクロプリンティング技術がA. Kumarらの報告を機に発展し、幅広く研究されている。特開2009−90673や特開2009−28947に記されているように種々の工夫がなされてきているが、元来単分子膜のような薄膜を対象としており、応用展開には大きな制約が伴い、非常にコストも掛かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公報平2−18399
【特許文献2】国際公開番号WO 2007/066460
【特許文献3】特開2009−90673
【特許文献4】特開2009−28947
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. Kumar, G.M. Whiteside et al. Langmuir 10 (1994) 1498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
樹脂基体表面上への紋様形成では、背景技術に示されるように、全面に金属層を形成した後に、フォトリソ過程などで作成した開口部を腐食して所望の紋様を得ている。この時、腐食液によって金属と樹脂の接合界面が浸蝕されることが知られている。紋様の幅が数十ミクロンと精緻になってくると、このサブ〜数ミクロンの界面浸蝕は無視できない大きさとなり、接合強度の低下を招き剥離の原因になっているだけで無く、種々の不良の原因となっている。更に、この浸蝕部は使用と共に伝播し成長してくるので長期信頼性に無視し得ない影響を及ぼす。特に電気電子素子では、線幅20―30ミクロン以下を目指しており、このような界面浸蝕による初期劣化や経年劣化、特性変化は大きな課題となっている。昨今のダイレクトライティング研究開発に力が入っている一大要因である。
【0009】
真空蒸着やスパッタ−法等の物理的な鍍金法では基体との密着強度は非常に強いとされているが、線幅が狭くなってくるとやはり上述の界面浸蝕が問題となっている。数百ミクロン台のパターン蒸着は可能であるが、微細な紋様や細線は全く期待出来ない。
【0010】
一方、低廉で大量生産向きの液中での銅鍍金法では、鍍金下地処理の仕方によって大幅に密着強度が異なる。一般的には、強度の表面腐蝕処理などに依って界面を粗面化して密着強度を上げているが、一般的には強度不足である。また、基体の全面が荒れるという別の課題や紋様形成時での腐蝕と重畳して界面劣化が大きく生じ、特に実装基板などでは銅細線などの初期剥離、強度の低下や長期信頼性の悪化を招いており、微細化への大きな障害となっている。また、パターン形成において、上述の説明のように界面浸蝕を生じ、これまた初期剥離強度の低下や長期信頼性のさらなる悪化を招いている。
【0011】
この他に、実際の工程では、多くの処理工程を経る度に進む浸蝕界面劣化を防ぐために、また、処理工程の度に表面を汚したり傷つけたりする恐れが有り、歩留まりや信頼性低下を防ぐために、各種設備、各種機器の維持管理を非常に精緻に行なうなどの維持管理や調整コストが嵩んでいる。この為に工程の簡素化、短縮が強く要望されている。
また、上記のいずれの方法においても、残す紋様部分、回路パターンなどの全面積は小さく、鍍金した金属の殆どを除去しているのが現実である。さらに、大量の腐蝕液などの廃液処理に伴う環境コストや、省資源省エネの観点からも大きな課題となっている。
【0012】
最近盛んに研究開発が為されている、ダイレクトライティング技術では、上記の界面浸蝕の課題や廃液処理などの環境問題が低減され理想的な工法と大きな期待が持たれているが、一般的に非常に高コストであり、接着強度やパターン形状に課題が多く残っており未だに研究開発段階から脱していない。また、バイオ素子などへ向けてのマイクロプリンティング技術は、元来単分子膜のような薄膜を対象としており、厚膜を伴うような応用展開には大きな制約が伴う。さらに、微細繊細な調整が必要で安定性に欠け、非常に大きなコストが掛かる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、大量生産に向く機能性紋様形成方法及び機能性素子に関する。
その要旨は、下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程を少なくとも含み、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該基体表面に当該基体と反応する高粘性反応液を用いて当該機能性紋様を付与する界面活性付与過程、B.一定時間保持して当該基体表面の活性度を調整する活性化調整過程の2過程を含むことを特徴としている。以下、電子素子などで広く使われ、良く知られている実装基板を例にとって具体的な説明を行なう。バイオ素子や化学センサーなどにおいても、一見複雑には見えるが類似の工程を経ている。
【0014】
実装基板などへの応用に関しては、導電性金属紋様形成方法は大量生産に向く液中での鍍金法が特に有望である。鍍金下地調整工程、無電解鍍金工程の表面処理工程を少なくとも経て絶縁性樹脂基体表面上に選択的な導電性金属紋様を形成する方法において、当該樹脂基体表面に当該樹脂腐蝕性を有する高粘性腐蝕液を当該紋様状に印刷する過程、一定時間保持して当該樹脂表面を僅かに当該紋様状に腐蝕する過程を特徴としている。
【0015】
図1に基づいて、本発明の骨子を説明する。図1―イに示すように、清浄な樹脂基体1上に水溶液2を滴下するとはじいて、接触角3が生じて水玉4になったり、端部がワカメ状の形状になって、上手く正確な紋様を画くことが出来ないことは一般に広く知られている。この為に、基体を粗面化する下地処理は必須とされている。一方で、粗面化すると溶液2が速やかに広がり細かな紋様が出来ないことも一般に広く知られている。この為に全面を粗面化して鍍金後に紋様をフォトリソなどで形成するのが従来法である。しかし、本発明者は基体と反応する腐食性の溶液を刷り込むと全くはじくことが無く、むしろはじき易さや滲み難さを逆用した形で微細な紋様が直接簡便に形成されることを見出して、従来の限界を破る金属紋様形成方法の本発明に至った。
【0016】
この界面現象を解析考察した処、以下の所見を得た。基体上の溶液の形状は、化学的物理的な結合力と表面張力で決まる。テフロン(登録商標です。)上に水球ができる所以である。しかし、この現象は無反応の平衡状態での話である。溶液は、一時的に表面に張り付き、次いで、平衡状態に為るように盛り上がり(即ちはじいて)平衡状態に移行する。一方、反応性の溶液では一時的に溶液が張り付いた非平衡な界面での反応により基体の表面状態が変化して結合力が増し、はじかないようになる。すると反応がさらに進み、安定した新たな平衡状態に至る。
【0017】
図1−ロは、この観測された現象や考察に基づいた本発明の基本的な概念の一例を示している。樹脂基体1に基体樹脂を腐蝕する反応液2を刷り込むと、基体との結合力は弱いために当然表面張力で丸くなろうとするが、一時的に印刷形状を保つ。この間に反応液2に含まれる腐蝕剤が基体を浸潤して表面を変性し活性化層を形成し始めて、段々と結合力が強まって形状を保持するようになる。一定時間経てば、腐蝕剤が界面に拡散してきて十分な腐蝕面が形成され、安定した紋様6が形成されて印刷版の形状を安定に保つように為る。従って、印刷された反応液2は基体1の表面で殆どはじかれることは無く、印刷版の形状を保った紋様6を形成することができる。
原理的には、印刷された紋様溶液の形状とその変化は、主に表面張力、親和性、粘度、時間で決まる。印刷直後は、表面親和性が低くて紋様溶液の拡がりを防ぎ、次の瞬間には腐蝕が始まり界面の親和性を増してはじきを防いで、印刷された紋様6の形状を保ち、更に腐蝕が進行することで、適切な表面活性化層5が形成される。
【0018】
なお、超微細な紋様ではこのような印刷時に幾分ハジキが認められる場合が有る。この時には、上記の原理に従い、基体の軽い表面処理や腐蝕溶液の増粘が効果的で有ることも見出した。なお、一般の工程におけるように、基体の表面洗浄、プラズマ処理やオゾン処理などによって事前に清浄な樹脂基体表面を得ておくことは云うまでも無い。
【0019】
印刷法には、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷や直描などの一般的な手法を使える。
【0020】
次に、この反応液を洗浄除去した後に、ほぼ通常の鍍金処理法に従って、Pdなどの触媒粒子を腐蝕した粗化面へ析出させ、さらに、無電解処理で導電性金属層を形成し厚くして、必要に応じて電解鍍金処理などで一段と厚く形成することもできる。この結果、印刷した紋様を正確に反映した金属鍍金が実現された。なお、上述のように事前に僅か粗化した場合には、極く希に所望の紋様以外にPdなどが僅かに析出し、金属斑点が成長することが認められた。この時は、軽くエッチバックすることで以上の微小な金属斑点状の析出物を簡単に除去できた。
また、反応液中にPd化合物などの触媒金属塩などを予め添加しておき、活性化層へ沈着させておいて、洗浄後に直ぐに無電解鍍金をすることもできる。
【0021】
なお、電解鍍金をする場合には、紋様が繋がっていなければならない。連続せずに浮島になった部分があると無電解鍍金はできても、電解鍍金を行なえないことになる。このような時には、一旦連続したダミーの紋様を作成して、電解鍍金で仮の紋様を一旦完成してから、不要となる紋様部分に腐蝕性の高粘性液を選択的に印刷してその部分を除去することで、最終的に望まれた紋様を形成でき、所望の厚膜の電子電気素子などを得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、大量生産に向く低コストの印刷法で微細な紋様を有する機能性商品や微細な回路パターンを有する電子電気素子を提供できる。さらに、電子電気素子に使われる微細な回路パターンにおいては、従来、スパッタ−法などによる優れた接着強度を与える工程を用いても、微細線の形成のために生じる図2に示すようなアンダーカット7や界面の劣化で剥離強度の低下や信頼性の低下が問題となっていたが、本発明によって、このような弊害が解消する。
【0023】
また、従来工程では多くの処理工程を経て、各種設備、各種機器の維持管理や調整コストが嵩み、その上処理工程の度に表面を汚したり傷つけたりする欠点や、歩留まりや信頼性低下が有ったが、本発明では全工程が大幅に簡略化された為に、これらの課題が一挙に解消された。更にプロセス操業度が向上したのみならず、歩留まりの向上など生産性の大幅な向上が図られるなどの副次的な効果も認められた。
さらに本発明では、面積の非常に小さい回路パターンなどの紋様部分だけに鍍金する為に省資源であり、全面鍍金した金属を除去する余計な腐食液なども不要であることから、一層の省資源省エネとなっている。これらによるコスト低減効果も大きい。
なお、同様の手法をバイオ素子や化学センサーなどにも適用でき、上記と同様な優れた特徴が得られることは云うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】原理図
【図2】界面のアンダーカット
【図3】反応液腐蝕剤濃度の効果
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の基本的な界面処理法を、代表的な応用例である先端的な実装基板を例にとって以下に詳細な説明を行う。なお、基体や反応液の様々な組み合わせで多用な応用が展開出来ることは云うまでも無い。
絶縁性樹脂基体として38ミクロンのポリイミド膜を用いて、先ず、下地調整工程でその表面を脱脂、清浄化した。次いで、ポリイミド膜表面を加水分解し腐蝕するアルカリ性の腐蝕液をグラビア印刷で所望の紋様を印刷した。数秒から数十秒放置してポリイミド膜表面を適度に粗化した後に腐蝕液を除去し洗浄する界面活性付与過程からなる紋様形成工程を経てポリイミド膜表面に潜在的な紋様を転写作成した。
【0026】
さらに、腐蝕液で活性化された潜在的な紋様を有する表面に一般的なパラジウム付与処理を行い、続けて一般的な無電解ニッケル鍍金液や無電解銅鍍金液で処理して薄い電導性の金属紋様を顕在化した。この結果、印刷の紋様にほぼ一致する無電解銅の紋様が得られた。このまま厚く無電解銅鍍金を施し、また、純水で洗浄をした後、必要な場合には電解銅鍍金を施して厚い高電導性の銅の紋様を形成し、洗浄して完成品とした。
【0027】
なお、腐蝕液の濃度が薄いときには、腐蝕よりはじく速度が速く紋様が細くなるので、この時には、腐蝕液の粘性を上げる事によりはじく速度を遅くすることで紋様の形状を保つことが出来た。逆に、濃度が濃いときには紋様が太くなる傾向(図3参照)が認められた。この際には腐蝕液の除去を早めることにより紋様の大きさを保つことが出来た。
【0028】
また、薄い無電解の導電性金属紋様を顕在化した際に、所定外の部分に触媒のPdが付着してこれが核となって形成された微小な金属付着物が生ずることがあった。このような付着物は電解鍍金で成長することは無く、軽いエッチバックで効果的に除去できた。
【0029】
なお、不連続の浮島状の紋様を電解鍍金で厚くするためには、一旦ダミーの紋様で連続させ電解鍍金を施して後に、鍍金された金属を腐食する粘着性の腐蝕液を印刷ないしはスタンプして、ダミー部を腐蝕除去した。これにより、全て印刷法で一貫して、独立した種々の紋様が形成された。
【実施例1】
【0030】
基体として、幅50cm、38ミクロン厚を有するポリイミド膜を適切な大きさに切断、その表面の脱脂を行なった。脱脂液としては標準的なモノエタトルアミン44%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1.7%に若干のキレート剤を含む水溶液を用いた。さらに蒸留水で洗浄した後、ポリイミド表面を加水分解し腐蝕するKOH4mol/L液に界面活性剤や増粘剤、チクソ剤を加えた腐蝕液を、スクリーン印刷にて50〜100ミクロン幅3mm長の線状紋様、100ミクロン角の市松模様、10mmX30mmの矩形を印刷した。
【0031】
印刷後35秒放置、直ちに純水で洗浄して浸潤液を除去して得られた活性界面へ触媒となるパラジウム付与処理を行なった。市販の薬剤を用い通常の手法でポリイミド界面にパラジウム付与を行なった。ほぼ幅55〜105ミクロン長さ3mmの線状紋様と105ミクロン角の市松模様の痕跡が顕微鏡で認められた。全体として幅が約5−10%太めに紋様が形成された。
【0032】
この時点で、一連の処理を施したポリイミド膜から試料を切り取り、ESCAにてパラジウムの分布状況を測定した。その結果、所定の幅55―105ミクロンの線状紋様と市松紋様が確認された。また、それ以外の部分には、特異なパラジウムの痕跡は認められなかった。引き続き無電解銅鍍金処理を行なった処、厚さ約1ミクロンでほぼ同じ大きさの紋様が確認された。
形成された銅の紋様は、ほぼ幅55―110ミクロン長さ3mmの線状の紋様と110ミクロン角の市松模様である事が顕微鏡で認められた。全体として幅が約5−10%太めに紋様が形成されたが、ほぼ同じ大きさの紋様と確認された。
【0033】
次いで、10mmX30mmの矩形の紋様から所定の大きさを切り取り150度で熱処理した後に、金属層とポリイミド膜との間の剥離強度試験(JIS C 6471 8.1)を行った。引っ張り強度試験器(TEST STAND MODEL-1310DW及びFORCE ANALYZER EXPLORER2)を用いて、引張速度50mm/分、引張角度90°で金属層の引き剥がし強度を測定した。熱処理後の剥離強度は約0.4N/mm前後と直接鍍金膜としてはかなり高い値を示した。
【実施例2】
【0034】
実施例1と同様に、脱脂液としては標準的なモノエタトルアミン44%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1.7%に若干のキレート剤を含む水溶液を用いた。さらに蒸留水で洗浄した後、ポリイミド表面を加水分解し浸潤するKOH4mol/L液に、アラビアゴム1%、PVA5%アルギン酸ソーダ3%を含む水溶液を等量合せた水飴状の高粘性浸潤液をスクリーン印刷にて幅50〜100ミクロン長さ3mmの線状紋様と100ミクロン角の市松模様、10mmX30mmの矩形を印刷した。実施例1と同様に処理を行なった処、無電解銅鍍金厚3ミクロンで、幅55〜105ミクロン長さ3mmの線状紋様と105ミクロン角の市松模様が顕微鏡で認められた。全体として幅が約3−10%太めに紋様が形成された。
剥離強度は約0.45N/mm前後と実用に耐える値を得た。
【実施例3】
【0035】
ポリイミド表面を加水分解する腐蝕液の増粘剤やチクソ剤の量や種類を変えて、粘度を水のような1cpsから粘土の様な数万cpsまで作成し、印刷後の放置時間を5秒から50秒と変えた。粘性の低い腐食液では5秒と短く、高い腐食液では50秒と長くした。他の条件は実施例1とほぼ同様の実験を行った。幅50〜100ミクロン長さ3mmの線状の巾を計測した結果を表1に示す。なお、固い粘土のような場合は、現実には印刷できなかったので除外している。
なお、良品の紋様の剥離強度は、実施例1と同じように概略0.4〜0.45N/mmと変わらなかった。
【表1】

【実施例4】
【0036】
実施例2において、基体のポリイミド表面を軽くプラズマ処理を行い、親水性に変化さ
せた。他の条件は実施例2と全く同じである。その結果を表2に示す。表から判るように親水化処理により、腐蝕液が湿潤して腐食反応が優先的に進んだ結果、低粘度域では紋様が太めになったことが示されており、良好な範囲が広がったことが認められた。
なお、良品の剥離強度は約0.4〜0.5N/mmと、やや改善された。
【表2】

【実施例5】
【0037】
上記の実施例1をおいて、先ず、無電解鍍金を硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜燐酸塩等からなる一般市販の無電解ニッケル液で0.1ミクロン厚のニッケル無電解鍍金で行ない、続けて純水で洗浄を行なった。以降は、実施例1と同様に無電解銅鍍金を行なった。その結果、ほぼ幅55〜110ミクロン長さ3mmの線状紋様と105ミクロン角の市松模様が顕微鏡で認められた。全体として幅が約5−10%太めに紋様が形成された。
同時に紋様を150度で熱処理した後に剥離強度を測定したところ、約0.6〜0,8N/mmと非常に高い値を示した。一般に報告されているスパッタ−法での剥離強度に遜色無く、非常に高強度であることが判明した。これは界面のニッケルの接着強度が高いことに因ると推定される。
また、ニッケルは耐酸化性が有ると共に、酸素や水分の効果的なバリアーにもなる為に、銅界面の安定性が増して長期信頼性の向上が図れる特徴がある。150℃200時間の高温処理後も0.55N/m以上の高い値を保持しており、長期信頼性が確認された。
(比較例1)
【0038】
実施例1と同様にして、従来の銅鍍金処理を行った。この時、腐食液の粘度はほぼ水の様な1CPで、印刷の変わりに全面を腐食液に浸漬して表面処理を行った。その後、無電解鍍金を1ミクロン厚に形成した。その後、通常のフォトリソ、エッチングを行って、実施例1と同様の幅50〜100ミクロン長さ3mmの線状紋様を作成した。
銅鍍金された50ミクロン線状の試料をTEMで断面観察を行ったところ、サイドエッチの為に、銅と基体のポリイミド界面に腐蝕の食い込み、アンダーエッチが全般に見られ、一部には深く入っているのが見られた。フォトリソ後に強いエッチングを施したところ数ミクロンの食い込み(図2)が見られた。
一方、実施例1の試料では、基体のポリイミドとの界面は、端部から端部まで全く異常が無く整合していることが判明した。製造工程を考えれば当然といえる。
さらに細い線になれば、比較例の試料では、線が浮き上がり剥がれると思われる。
実施例2−3についても、同じ様にTEM観察したところ、いずれも界面の整合性は良好であることが判明した。これも製造工程からして当然といえる結果である。
【実施例6】
【0039】
実施例3と同様に、種々の濃度の苛性カリ腐蝕液を使い、Pd付着量を調べた。図3に示すように約0.5Nの苛性カリ腐蝕液でポリイミド膜の粗面化が有る程度進行し、Pdの付着が目立ち始め、概略1N以上のでは十分のPd析出が認められた。濃度が高くなるに従い安定な紋様形成が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、昨今盛んに研究が進められている基体表面上に選択的な機能性紋様を直接に形成する方法に関し、特に樹脂基体のデザイン性に優れた修飾や、鍍金によって形成される実装基板などに応用される電子電気素子やマイクロコンタクトプリンティング技術に関しており、益々微細化し高度化する機能性紋様の形成や電子電気素子やバイオ素子などの製造に新たな手段を提供し、併せてその品質や信頼性を大幅に向上すると共に、更なる省資源省エネルギーと特段のコスト低減を実現する。
【符号の説明】
【0041】
1 基体
2 反応液
3 接触角
4 水玉
5 界面層が変性した活性化層
6 紋様
7 アンダーカット
8 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程を少なくとも含み、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、当該紋様形成工程がA.当該基体表面に当該基体と反応する高粘性反応液を用いて当該機能性紋様を付与する界面活性付与過程、B.一定時間保持して当該基体表面の活性度を調整する活性化調整過程の2過程を含むことを特徴とした機能性紋様形成方法及び機能性素子
【請求項2】
鍍金下地調整工程、紋様形成工程、無電解鍍金工程を少なくとも含み、絶縁性樹脂基体表面上に選択的な導電性金属紋様を形成する方法において、A.当該樹脂基体表面に当該樹脂腐蝕性を有する高粘性腐蝕液を当該導電性金属紋様状に形成する印刷過程、B.一定時間保持して当該樹脂表面を僅かに当該導電性金属紋様状に腐蝕する腐蝕過程の2過程を含む紋様腐蝕工程を少なくとも経ることを特徴とした導電性金属紋様形成方法及び電子電気素子
【請求項3】
下地調整工程、紋様形成工程、修飾表面積層工程を少なくとも含み、基体表面上に選択的な機能性紋様を形成する方法において、一旦形成した表面修飾積層からなる機能性紋様上に、さらに重ねて当該表面修飾積層の腐蝕液を選択的紋様に印刷して一部の表面修飾積層からなる機能性紋様を腐蝕除去して基体表面上に選択的な機能性紋様を形成することを特徴とした電子電気素子

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102366(P2012−102366A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251886(P2010−251886)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(710012704)
【Fターム(参考)】