説明

機能性膜

【課題】変形による機能の低下や消失が生じにくい導電膜を提供する。
【解決手段】導電性微粒子を含有する導電性微粒子含有層を含み、10%延伸されたときに前記導電性微粒子含有層にクラックが発生しない導電膜であって、
前記導電性微粒子含有層は、支持体上に形成された導電性微粒子含有塗膜を圧縮することにより得られる導電性微粒子の圧縮層であり、
前記導電性微粒子の圧縮層は圧縮時において、樹脂を含まないか、あるいは、前記導電性微粒子の体積を100としたとき、25未満の体積の樹脂を含んで得られるものである導電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性膜に関する。本発明において機能性膜は、以下のように定義される。すなわち、機能性膜とは機能を有する膜であり、機能とは物理的及び/又は化学的現象を通じて果たす働きのことを意味する。機能性膜には、導電膜、磁性膜、強磁性膜、誘電体膜、強誘電体膜、エレクトロクロミック膜、エレクトロルミネッセンス膜、絶縁膜、光吸収膜、光選択吸収膜、反射膜、反射防止膜、触媒膜、光触媒膜等の各種の機能を有する膜が含まれる。
【0002】
とりわけ本発明は、透明導電膜に関する。透明導電膜は、エレクトロルミネッセンスパネル電極、エレクトロクロミック素子電極、液晶電極、透明面発熱体、タッチパネルのような透明電極として用いることができるほか、透明な電磁波遮蔽膜として用いることができる。
【背景技術】
【0003】
従来より、各種の機能性材料からなる機能性膜は、真空蒸着、レーザアブレーション、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理的気相成長法(PVD)や、熱CVD、光CVD、プラズマCVD等の化学的気相成長法(CVD)によって製造されている。これらは、一般に大掛かりな装置が必要であり、中には大面積の膜の形成には不向きなものもある。
【0004】
また、ゾル−ゲル法を用いた塗布による膜の形成も知られている。ゾル−ゲル法では、大面積の膜の形成にも適するが、多くの場合、塗布後に高温で無機材料を焼結させる必要がある。
【0005】
例えば、透明導電膜について見れば以下の通りである。現在、透明導電膜は主にスパッタリング法によって製造されている。スパタッリング法は種々の方式があるが、例えば、真空中で直流または高周波放電で発生した不活性ガスイオンをターゲット表面に加速衝突させ、ターゲットを構成する原子を表面から叩き出し、基板表面に沈着させ膜を形成する方法である。
【0006】
スパッタリング法は、ある程度大きな面積のものでも、表面電気抵抗の低い導電膜を形成できる点で優れている。しかし、装置が大掛かりで成膜速度が遅いという欠点がある。今後さらに導電膜の大面積化が進められると、さらに装置が大きくなる。このことは、技術的には制御の精度を高めなくてはならないなどの問題が発生し、別の観点では製造コストが大きくなるという問題が発生する。また、成膜速度の遅さを補うためにターゲット数を増やして速度を上げているが、これも装置を大きくする要因となっており問題である。
【0007】
塗布法による透明導電膜の製造も試みられている。従来の塗布法では、導電性微粒子がバインダー溶液中に分散された導電性塗料を基板上に塗布して、乾燥し、硬化させ、導電膜を形成する。塗布法では、大面積の導電膜を容易に形成しやすく、装置が簡便で生産性が高く、スパッタリング法よりも低コストで導電膜を製造できるという長所がある。塗布法では、導電性微粒子同士が接触することにより電気経路を形成し導電性が発現される。しかしながら、従来の塗布法で作製された導電膜では導電性微粒子同士の接触が不十分であり、そのため、得られる導電膜の電気抵抗値が高い(導電性に劣る)という欠点があり、その用途が限られてしまう。
【0008】
従来の塗布法による透明導電膜の製造として、例えば、特開平9−109259号公報には、導電性粉末とバインダー樹脂とからなる塗料を転写用プラスチックフィルム上に塗布、乾燥し、導電層を形成する第1工程、導電層表面を平滑面に加圧(5〜100kg/cm2 )、加熱(70〜180℃)処理する第2工程、この導電層をプラスチックフィルムもしくはシート上に積層し、熱圧着させる第3工程からなる製造方法が開示されている。
【0009】
この方法では、バインダー樹脂を大量に用いている(無機質導電性粉末の場合には、バインダー100重量部に対して、導電性粉末100〜500重量部、有機質導電性粉末の場合には、バインダー100重量部に対して、導電性粉末0.1〜30重量部)ため、電気抵抗値の低い透明導電膜は得られない。
【0010】
例えば、特開平8−199096号公報には、錫ドープ酸化インジウム(ITO)粉末、溶媒、カップリング剤、金属の有機酸塩もしくは無機酸塩からなる、バインダーを含まない導電膜形成用塗料をガラス板に塗布し、300℃以上の温度で焼成する方法が開示されている。この方法では、バインダーを用いていないので、導電膜の電気抵抗値は低くなる。しかし、300℃以上の温度での焼成工程を行う必要があるため、樹脂フィルムのような支持体上に導電膜を形成することは困難である。すなわち、樹脂フィルムは高温によって、溶融したり、炭化したり、燃焼してしまう。樹脂フィルムの種類によるが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムでは130℃の温度が限界であろう。
【0011】
塗布法以外のものとしては、特開平6−13785号公報に、導電性物質(金属又は合金)粉体より構成された骨格構造の空隙の少なくとも一部、好ましくは空隙の全部に樹脂が充填された粉体圧縮層と、その下側の樹脂層とからなる導電性皮膜が開示されている。その製法について、板材に皮膜を形成する場合を例にとり説明する。同号公報によれば、まず、樹脂、粉体物質(金属又は合金)及び被処理部材である板材を皮膜形成媒体(直径数mmのスチールボール)とともに容器内で振動又は攪拌すると、被処理部材表面に樹脂層が形成される。続いて、粉体物質がこの樹脂層の粘着力により樹脂層に捕捉・固定される。更に振動又は攪拌を受けている皮膜形成媒体が、振動又は攪拌を受けている粉体物質に打撃力を与え、粉体圧縮層が作られる。粉体圧縮層の固定効果を得るために、かなりの量の樹脂が必要とされる。また、製法は塗布法に比べ、煩雑である。
【0012】
塗布法以外のものとしては、特開平9−107195号公報に、導電性短繊維をPVCなどのフィルム上にふりかけて堆積させ、これを加圧処理して、導電性繊維−樹脂一体化層を形成する方法が開示されている。導電性短繊維とは、ポリエチレンテレフタレートなどの短繊維にニッケルメッキなどを被着処理したものである。加圧操作は、樹脂マトリックス層が熱可塑性を示す温度条件下で行うことが好ましく、175℃、20kg/cm2 という高温・低圧条件が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−199096号公報
【特許文献2】特開平6−13785号公報
【特許文献3】特開平9−107195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、導電膜をはじめとする機能性膜は、最近、フレキシブルな状態で使われる用途が多くなってきた。例えば透明導電膜の場合、フレキシブルタイプのタッチパネルやEL電極等に使用されている。しかし、フレキシブルタイプの機能性膜は、外力によって屈曲、折れ曲がり、伸長などの変形が生じやすい。そのため、例えば導電膜であれば、電気抵抗値の増大や電気的断線が生じるなど、機能の低下や消失が生じやすい。また、変形による機能の低下や消失は、機能性膜の使用時に限らず、機能性膜を製造する際に加わる外力によっても生じるため、生産歩留まりが低下しやすい。
【0015】
機能性膜の変形による機能の低下や消失は、塗布法により形成され、バインダー樹脂を多量に含有する機能性膜、スパッタ法等の気相成長法により形成された機能性膜のいずれにおいても認められる。
【0016】
また、塗布法では、大面積の機能性膜を容易に形成しやすく、装置が簡便で生産性が高く、低コストで機能性膜を製造できるという利点がある反面、高機能を得にくいという問題がある。例えば導電膜を塗布法により形成した場合、電気抵抗値を低くしにくいという問題がある。一方、塗布法以外の方法、例えばPVD法やCVD法等の気相成長法では、装置コストが高い、生産性が低いなどの問題がある。また、ゾル−ゲル法や焼結法では、比較的高温で熱処理する工程を設ける必要があるため、機能性膜が形成される支持体として樹脂を利用することが困難である。
【0017】
本発明はこのような事情からなされたものであり、変形による機能の低下や消失が生じにくい機能性膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的は以下の構成により達成される。
(1) 機能性微粒子を含有する微粒子含有層を含み、10%延伸されたときに前記微粒子含有層にクラックが発生しない機能性膜。
(2) 前記微粒子含有層が、導電膜、磁性膜、強磁性膜、誘電体膜、強誘電体膜、エレクトロクロミック膜、エレクトロルミネッセンス膜、絶縁膜、光吸収膜、光選択吸収膜、反射膜、反射防止膜、触媒膜及び光触媒膜から選ばれる少なくとも1種である上記(1)の機能性膜。
(3) 導電性微粒子を含有する微粒子含有層を含み、10%延伸後の前記微粒子含有層の表面電気抵抗が、延伸前の表面電気抵抗の10倍以下である機能性膜。
(4) 前記導電性微粒子が、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化カドミウム、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)及びアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)から選択される少なくとも1種である上記(3)の機能性膜。
(5) 支持体上に設けられた上記(1)〜(4)のいずれかの機能性膜。
(6) 前記支持体が樹脂から構成される上記(5)の機能性膜。
【0019】
従来、塗布法において、バインダー樹脂を大量に用いなければ機能性膜を成膜できず、あるいは、バインダー樹脂を用いない場合には、機能性物質を高温で焼結させなければ機能性膜が得られないと考えられていた。
【0020】
ところが、本発明者は鋭意検討した結果、驚くべきことに、大量のバインダー樹脂を用いることなく、かつ高温で焼成することもなく、機能性微粒子を含有する塗膜を圧縮するだけで機能性膜が形成できることを見いだした。
【0021】
しかも、圧縮により得られる機能性膜は、十分に高い機械的強度を有し、かつ、電気抵抗が低いなどの高い機能を有する。さらに、10%延伸されたときにもクラックが発生せず、また、その膜が導電膜である場合には、延伸後の表面電気抵抗が延伸前のそれの10倍以下に収まる、すなわち機能の低下が小さい。したがって本発明では、高機能、高信頼性および高耐久性を示す機能性膜が実現する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の機能性膜は、10%延伸してもクラックが発生せず、また、延伸による機能の低下も小さいので、屈曲、折り曲げ、伸長等の変形が生じた場合でも、機能の消失や低下が生じにくい。また、機能性膜製造時の変形による生産歩留まり低下も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の機能性膜の構成例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の機能性膜の構成例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の機能性膜を転写型複合膜に適用した場合の構成例を示す概略断面図である。
【図4】図3に示した転写型複合膜の転写工程を示す概略断面図である。
【図5】実施例における90度ピール試験を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述したように、本発明では、十分に高い機械的強度を有し、かつ、高機能を有する機能性膜が、大量のバインダー樹脂を用いることなく、かつ高温で焼成することもなく得られる。
【0025】
本発明の機能性膜は、機能性微粒子を含有する微粒子含有層を有する。本発明における微粒子含有層の特徴として、10%延伸したときにクラックが発生しないことが挙げられる。これに対しスパッタ膜では、より小さな延伸によりクラックが生じてしまう。
【0026】
本発明の微粒子含有層は、少なくとも圧縮時に、バインダーとしての樹脂を全く含有しないか、または、バインダーとして機能しない程度の量の樹脂しか含有しない。そのため、本発明を例えば導電膜に適用すれば、スパッタ法により形成される導電膜と同様に導電材料の充填密度を高くできるため、抵抗値を極めて低くすることができる。しかも、延伸したときにクラックが発生しにくいということは、外力によって導電膜に曲げや折れが生じた場合でも、面内方向において電気的な断線が生じないことを意味する。
【0027】
また、本発明において微粒子含有層が導電膜である場合、微粒子含有層を10%延伸した後の表面電気抵抗は、延伸前の表面電気抵抗の10倍以下に収まる。これに対し、バインダーとして機能する程度の十分な量の樹脂を含有する導電膜では、10%延伸したときに表面電気抵抗が無限大になってしまう。
【0028】
したがって本発明では、性能が極めて高く、しかも信頼性の極めて高い導電膜が実現する。なお、延伸によりクラックが発生しにくいこと、および、膜中における機能性微粒子の接触状態が延伸により変化しにくいことは、導電性微粒子以外の機能性微粒子を用いた場合でも同様に実現する。したがって、本発明を導電膜以外の機能性膜に適用した場合でも、高性能かつ高信頼性が得られる。
【0029】
本発明において、機能性膜が有する機能は特に限定されない。本発明の機能性膜には、例えば、導電膜、磁性膜、強磁性膜、誘電体膜、強誘電体膜、エレクトロクロミック膜、エレクトロルミネッセンス膜、絶縁膜、光吸収膜、光選択吸収膜、反射膜、反射防止膜、触媒膜、光触媒膜等の各種の機能を有する膜が包含される。
【0030】
微粒子含有層が含有する機能性微粒子は、目的とする機能に応じて、無機粒子および/または有機粒子から適宜選択すればよく、特に限定されないが、凝集力を有する無機の微粒子が好ましい。本発明ではいずれの機能性微粒子を用いた場合でも、十分な機械的強度を有する機能性膜が得られると共に、バインダー樹脂を大量に用いていた従来の塗布法におけるバインダー樹脂による弊害を解消することができる。その結果、目的とする機能がより向上する。
【0031】
透明導電膜の製造に用いる導電性微粒子としては、導電膜の透明性を大きく損なうものでなければ特に限定されることなく、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化カドミウム、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等の導電性無機微粒子が用いられる。また、ATO、ITO等の無機材料を硫酸バリウム等の透明性を有する微粒子の表面にコーティングしたものを用いることもできる。これらのうちでは、より優れた導電性が得られる点でITOが好ましい。これらのほか、有機質の導電性微粒子を用いてもよい。有機質の導電性微粒子としては、例えば、金属材料を樹脂微粒子表面にコーティングしたもの等が挙げられる。本発明の適用によって、優れた導電性が得られる。
【0032】
なお、本発明において、透明とは可視光を透過することを意味する。光の散乱度合いについては、導電膜の用途により要求されるレベルが異なる。本発明では、一般に半透明といわれるような散乱のあるものも含まれる。
【0033】
強磁性膜の製造においては、γ−Fe2 3 、Fe3 4 、Co−FeOX 、Baフェライト等の酸化鉄系磁性粉末や、α−Fe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Co−Ni、Co、Co−Ni等の強磁性金属元素を主成分とする強磁性合金粉末等が用いられる。本発明の適用によって、磁性塗膜の飽和磁束密度が向上する。
【0034】
誘電体膜や強誘電体膜の製造においては、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系(PZT)、ジルコン酸鉛系、ランタン添加チタン酸ジルコン酸鉛系(PLZT)、ケイ酸マグネシウム系、鉛含有ペロブスカイト化合物等の誘電体ないしは強誘電体の微粒子が用いられる。本発明の適用によって、誘電体特性ないしは強誘電体特性の向上が得られる。
【0035】
各種機能を発現する金属酸化物膜の製造においては、酸化鉄(Fe2 3 )、酸化ケイ素(SiO2 )、酸化アルミニウム(Al2 3 )、二酸化チタン(TiO2 )、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2 )、酸化タングステン(WO3 )等の金属酸化物の微粒子が用いられる。本製造方法の適用によって、膜における金属酸化物の充填度が上がるため、各機能が向上する。例えば、触媒を担持させたSiO2 、Al2 3 を用いた場合には、実用強度を有する多孔質触媒膜が得られる。TiO2 を用いた場合には、光触媒機能の向上が得られる。また、WO3 を用いた場合には、エレクトロクロミック表示素子での発色作用の向上が得られる。
【0036】
また、エレクトロルミネッセンス膜の製造においては、硫化亜鉛(ZnS)微粒子が用いられる。本発明の適用によって、塗布法による安価なエレクトロルミネッセンス膜の製造を行うことができる。
【0037】
これら機能性微粒子の粒子径rは、機能性膜の用途に応じて、例えば必要とされる散乱の度合い等により異なり、また、粒子の形状により一概には言えないが、一般に平均一次粒径r=10μm以下であり、1.0μm以下が好ましく、5nm〜100nmがより好ましい。
【0038】
微粒子含有層は、少なくとも圧縮時には樹脂を含まないことが好ましい。すなわち、樹脂量=0であることが好ましい。例えば導電膜においては、樹脂を用いなければ、樹脂によって導電性微粒子同士の接触が阻害されることがない。したがって、導電性微粒子相互間の導電性が確保され、得られる導電膜の電気抵抗値は低くなる。また、WO3 微粒子やTiO2 微粒子などを用いた微粒子含有層においても、樹脂を用いなければ、樹脂によって各微粒子同士の接触が阻害されることがないため、各機能の向上が図られる。また、Al2 3 微粒子などを用いた触媒膜においては、樹脂を用いなければ、樹脂によって触媒機能を有する微粒子の表面が覆われることがない。このため、触媒としての機能の向上が図られる。触媒膜においては、膜の内部に空隙が多い方が、触媒としての活性点が多くなるので、この観点からもなるべく樹脂を用いないことが好ましい。
【0039】
ただし、本発明の機能性膜は、導電性等の機能を大きく損なわない程度の量であれば、樹脂を含むことも可能である。その量は、従来技術におけるバインダー樹脂としての使用量に比べると少ない。例えば、機能性膜中における樹脂の含有量の上限は、バインダーとして機能しない程度の量であり、具体的には、前記導電性微粒子の体積を100としたとき、好ましくは25未満、より好ましくは20未満、さらに好ましくは3.7未満の体積である。
【0040】
なお、電気抵抗などの機能の点からは、機能性膜は樹脂を含有しないことが好ましいが、樹脂には、機能性膜の光散乱を少なくするという効果もある。したがって、ヘイズの向上と機能向上との双方を考慮し、必要に応じて前記体積比の範囲内で樹脂を適宜添加すればよい。
【0041】
機能性膜が含有し得る樹脂の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂またはゴム弾性を有するポリマーを、1種または2種以上を混合して用いることができる。樹脂の例としては、フッ素系ポリマー、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、SBR、ポリブタジエン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0042】
フッ素系ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン−三フッ化エチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。また主鎖の水素をアルキル基で置換した含フッ素系ポリマーも用いることができる。樹脂の密度が大きいものほど、大きな重量を用いても、体積がより小さくなるため好ましい。
【0043】
本発明において、機能性膜を得るには、機能性膜の目的に応じて、上記各種の機能性微粒子から選ばれる機能性微粒子を分散した液を機能性塗料として用いる。この機能性塗料を支持体上に塗布して乾燥することにより、微粒子含有塗膜を形成する。次いで、この微粒子含有塗膜を圧縮し、機能性微粒子の圧縮層、すなわち微粒子含有層を得る。
【0044】
機能性微粒子を分散する液体としては、特に限定されることなく、既知の各種液体を使用することができる。例えば、液体として、ヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらのなかでも、極性を有する液体が好ましく、特にメタノール、エタノール等のアルコール類、NMP等のアミド類のような水と親和性のあるものは、分散剤を使用しなくても分散性が良好であり好適である。これら液体は、単独でも2種以上の混合したものでも使用することができる。また、液体の種類により、分散剤を使用することもできる。
【0045】
また、液体として、水も使用可能である。水を用いる場合には、支持体が親水性のものである必要がある。樹脂フィルムは通常疎水性であるため水をはじきやすく、均一な膜が得られにくい。支持体が樹脂フィルムの場合には、水にアルコールを混合するか、あるいは支持体の表面を親水性にする必要がある。
【0046】
用いる液体の量は、特に制限されず、前記微粒子の分散液が塗布に適した粘度を有するようにすればよい。例えば、前記微粒子100重量部に対して、液体100〜100,000重量部程度である。前記微粒子と液体の種類に応じて適宜選択するとよい。
【0047】
前記微粒子の液体中への分散は、公知の分散手法により行うとよい。例えば、サンドグラインダーミル法等により分散することができる。分散に際しては、微粒子の凝集をほぐすために、ジルコニアビーズ等のメディアを用いることも好ましい。また、分散の際に、ゴミ等の不純物の混入が起こらないように注意する。
【0048】
前記微粒子の分散液には、導電性や触媒作用などの各機能に要求される性能を満たす範囲内で、各種の添加剤を配合してもよい。例えば、紫外線吸収剤、界面活性剤、分散剤等の添加剤である。
【0049】
支持体としては、特に限定されることなく、樹脂フィルム、ガラス、セラミックス、金属、布、紙等の各種のものを用いることができる。しかしながら、ガラス、セラミックス等では、後工程の圧縮の際に割れる可能性が高いので、その点を考慮する必要がある。また、支持体の形状は、フィルム状の他、箔状、メッシュ状、織物等が使用可能である。
【0050】
支持体としては、圧縮工程の圧縮力を大きくしても割れることがない樹脂フィルムが好適である。樹脂フィルムは、次に述べるように、微粒子含有層の該フィルムへの密着性が良い点でも好ましく、また軽量化を求められている用途にも好適である。本発明では、微粒子含有層を形成するに際し、高温での加圧工程や、焼成工程が不要なので、樹脂フィルムを支持体として用いることができる。
【0051】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、ノルボルネンフィルム(JSR(株)製、アートンなど)等が挙げられる。
【0052】
PETフィルムのような樹脂フィルムでは、乾燥後の圧縮工程の際に、PETフィルムに接している機能性微粒子がPETフィルムに埋め込まれるような感じとなるので、微粒子含有層がPETフィルムに良く密着される。ガラスなどの硬いものや、樹脂フィルムであってもフィルム表面が硬いものでは、微粒子が埋め込まれないため微粒子含有層と支持体の密着性がとれない。その場合は、ガラス面や、硬いフィルム表面上に柔らかい樹脂層を予め形成しておき、微粒子を塗布、乾燥、圧縮することが好ましい。圧縮後に、柔らかい樹脂層を熱や紫外線などで硬化させてもよい。
【0053】
柔らかい樹脂層は、微粒子を分散した液に溶解しないものの方がよい。導電膜においては、前記樹脂層が溶解すると毛管現象で、前記樹脂を含む溶液が導電性微粒子の周りにきてしまい、結果として、得られる導電膜の電気抵抗値が上昇する。触媒膜においても、毛管現象で、前記樹脂を含む溶液が触媒機能を有する微粒子の周りにきてしまい、触媒機能が低下する。
【0054】
また、支持体として硬い金属を用いた場合、微粒子含有層と支持体との密着性が悪いので、支持体金属の表面を樹脂で処理するか、柔らかい金属(合金でもよい)とすればよい。
【0055】
前記機能性微粒子の分散液を前記支持体上に塗布して乾燥し、微粒子含有層を形成する。前記支持体上への前記微粒子分散液の塗布は、特に限定されることなく、公知の方法により行うことができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョンノズル法、カーテン法、グラビアロール法、バーコート法、ディップ法、キスコート法、スクイズ法などの塗布法によって行うことができる。また、噴霧、吹き付けなどにより、支持体上へ分散液を付着させることも可能である。
【0056】
乾燥温度は分散に用いた液体の種類によるが、10〜150℃程度が好ましい。10℃未満では空気中の水分の結露が起こりやすく、150℃を越えると樹脂フィルム支持体が変形する。また、乾燥の際に、不純物が前記微粒子の表面に付着しないように注意する。
【0057】
乾燥後の微粒子含有塗膜の厚さは、次工程での圧縮条件や機能性膜の用途に応じて適宜決定すればよいが、0.1〜10μm程度とすればよい。
【0058】
このように、機能性微粒子を液に分散させて塗布し、乾燥すると、均一な膜を作製しやすい。前記微粒子の分散液を塗布して乾燥させると、分散液中にバインダーが存在しなくても微粒子は膜を形成できる。バインダーが存在しなくても膜となる理由は必ずしも明確ではないが、乾燥させて液が少なくなってくると毛管力のため、微粒子が互いに集まってくる。さらに微粒子であるということは比表面積が大きく凝集力も強いので、膜となるのではないかと考えている。しかし、この段階での膜の強度は弱い。また、導電膜においては電気抵抗値が高く、そのばらつきも大きい。
【0059】
次に、微粒子含有塗膜を圧縮し、圧縮膜を得る。微粒子は元々凝集しやすい性質があるので、圧縮することで強固な膜となる。すなわち、圧縮することにより機能性微粒子相互間の接触点が増え接触面が増加し、膜強度が上がる。
【0060】
導電膜においては、塗膜強度が上がると共に、電気抵抗が低下する。触媒膜においては、塗膜強度が上がると共に、樹脂を用いないか又は樹脂量が少ないので多孔質膜となる。そのため、より高い触媒機能が得られる。他の機能性膜においても、微粒子同士がつながった高い強度の膜とすることができると共に、樹脂を含有しないか又は樹脂含有量が少ないので、単位体積における微粒子の充填量が多くなる。そのため、より高いそれぞれの機能が得られる。
【0061】
圧縮は44N/mm2 以上の圧縮力で行うことが好ましい。44N/mm2 未満の低圧であれば、微粒子含有層を十分に圧縮することができず、導電性に優れた導電膜など、高性能な機能性膜が得られにくい。135N/mm2 以上の圧縮力がより好ましく、180N/mm2 以上の圧縮力が更に好ましい。圧縮力が高いほど、塗膜強度が向上し、支持体との密着性が向上し、導電膜においては、より導電性に優れた膜が得られる。圧縮力を高くするほど装置の耐圧を上げなくてはならないので、一般には1000N/mm2 までの圧縮力が適当である。また、圧縮を常温(15〜40℃)付近の温度で行うことが好ましい。常温付近の温度において圧縮を行えることは、本発明の利点の一つである。
【0062】
圧縮は、特に限定されることなく、シートプレス、ロールプレス等により行うことができるが、ロールプレス機を用いて行うことが好ましい。ロールプレスは、ロールとロールの間に圧縮すべきフィルムを挟んで圧縮し、ロールを回転させる方法である。ロールプレスは均一に高圧がかけられ、また、ロールトゥーロールで生産できることから生産性が上がり好適である。
【0063】
ロールプレス機のロール温度は常温が好ましい。加温した雰囲気やロールを加温した圧縮(ホットプレス)では、圧縮圧力を強くすると樹脂フィルムが伸びてしまうなどの不具合が生じる。加温下で支持体の樹脂フィルムが伸びないようにするため、圧縮圧力を弱くすると、塗膜の機械的強度が低下し、導電膜においては電気抵抗が上昇する。微粒子表面の水分の付着をできるだけ少なくしたいというような理由がある場合に、雰囲気の相対湿度を下げるために、加温した雰囲気としてもよいが、温度範囲はフィルムが容易に伸びてしまわない範囲内である。一般にはガラス転移温度(二次転移温度)以下の温度範囲となる。湿度の変動を考慮して、要求される湿度になる温度より少し高めの温度にすればよい。ロールプレス機で連続圧縮した場合に、発熱によりロール温度が上昇しないように温度調節することも好ましい。
【0064】
なお、樹脂フィルムのガラス転移温度は、動的粘弾性を測定することにより求められ、主分散の力学的損失がピークとなる温度をさす。例えばPETフィルムでは、そのガラス転移温度はおよそ110℃前後である。
【0065】
支持体が金属製であれば、この金属が溶融しない温度範囲まで、加温した雰囲気にすることも可能である。また、金属やセラミックなどある程度の耐熱性を有する支持体であれば高温処理を行ってもよい。
【0066】
ロールプレス機のロールは、強い圧力がかけられることから金属ロールが好適である。また、ロール表面が柔らいと、圧縮時に微粒子がロールに転写されることがあるので、ロール表面を硬質膜で処理することが好ましい。
【0067】
このようにして、機能性微粒子を含有する圧縮層が形成される。この圧縮層の膜厚は、用途にもよるが、0.1〜10μm程度とすればよい。また、10μm程度の厚い圧縮層を得るために、微粒子の分散液の塗布、乾燥、圧縮の一連の操作を繰り返し行っても良い。さらに、本発明において、支持体の両面に機能性膜を形成することも勿論可能である。このようにして得られる機能性膜は、優れた導電性や触媒作用などの各機能性を示し、バインダー樹脂を用いないか又はバインダーとしては機能しない程の少量の樹脂を用いて作製したにもかかわらず、実用上十分な膜強度を有し、支持体との密着性にも優れる。
【0068】
本発明の機能性膜は、1層または2層以上の微粒子含有層だけから構成されてもよく、微粒子含有層と他の層とが積層されたものであってもよい。図1に示す構成例は、支持体1上に微粒子含有層2を形成したものである。また、図2に示す構成例は、微粒子含有層2a,2bを2層積層したものである。
【0069】
本発明の機能性膜は、支持体上に形成した後に、他の支持体に転写されたものであってもよい。図3に、転写可能な機能性膜の構成例を示す。この機能性膜は、樹脂フィルムなどからなる支持体1上に、ハードコート層3、微粒子含有層2、接着層4、セパレータ5を順次積層した積層体である。この機能性膜を転写するに際しては、図4に示すように、前記積層体を反転させた状態で(a)、セパレータ5を取り除いて接着層を露出させ(b)、前記他の支持体としての被着物6上に接着する(c)。最後に支持体1を取り除くことにより、被着物6上にハードコート層3に保護された微粒子含有層2を配置することができる(d)。被着物6は、支持体1と異なり圧縮工程を経る必要がないため、その形状、寸法等に特に制限はない。また、前記積層体の転写が可能であれば被着物6の構成材料は特に限定されず、ガラス、樹脂、セラミックス等のいずれであってもよい。
【0070】
なお、微粒子含有層2とハードコート層3との間には必要により密着層を設けてもよい。
【0071】
ハードコート層3は、特に微粒子含有層の耐スクラッチ性を向上させる上で有効である。このようなハードコート層としては、微粒子含有層上に形成可能で、所定の強度を有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、シリコーン系、アクリル系、メラミン系等の熱硬化型ハードコート剤を用いることができる。これらのなかでもシリコーン系ハードコート剤は、高い硬度が得られる点で優れている。
【0072】
また、不飽和ポリエステル樹脂系、アクリル系などのラジカル重合性ハードコート剤、エポキシ系、ビニルエーテル系等のカチオン重合性ハードコート剤等の紫外線硬化型ハードコート剤を用いてもよい。紫外線硬化型ハードコート剤は、硬化反応性などの製造性の点から好ましい。これらのなかでも、硬化反応性、表面硬度を考慮すると、アクリル系のラジカル重合性ハードコート剤が望ましい。
【0073】
ハードコート層3は、支持体1の上にハードコート剤を必要に応じて溶剤に溶解した液を塗布、乾燥して硬化させることにより形成することができる。
【0074】
ハードコート剤の塗布は、グラビアシリンダー、リバース、メイヤーバー等のロールコーター、スリットダイコーター等の公知の方法で行うとよい。
【0075】
塗布後、適切な温度範囲で乾燥し、その後硬化させる。熱硬化型ハードコート剤の場合には、適切な熱を与えて、例えばシリコーン系ハードコート剤の場合には60〜120℃程度に、1分間〜48時間加熱して硬化させる。紫外線照射は、キセノンランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の紫外線照射源を用いて、紫外線を200〜2000mJ/cm2 程度照射するとよい。
【0076】
接着層は、微粒子含有層と被着物とを接着することが可能な公知の接着性を有する材料の中から選択して用いることができる。これらの材料のなかでも光硬化性を有する材料が特に好ましい。具体的には、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤やビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤やポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤やセルロース系粘着剤などの粘着剤を用いることができる。接着層の厚さは、使用目的による必要な固着力などに応じて適宜に決定することができる。
【0077】
必要により設けられる密着層は、微粒子含有層とハードコート層との密着性、接着性を向上させる。通常、ハードコート層は微粒子含有層との接着性が悪いため、密着層を介することにより、強固に微粒子含有層に接着させることができる。密着層として、微粒子含有層、ハードコート層と接着性の良好な樹脂を使用することができる。樹脂としては、アクリル、シリコーン、ウレタン、塩化ビニル等がある。また、密着層に紫外線吸収剤や赤外線吸収剤を入れてもよい。さらには、密着性に影響を与えない範囲でシリカなどの微粒子を入れることも可能である。
【0078】
このような構成の機能性膜は、特に図1のような構成のものでは、タッチパネル、面状発熱体等の導電材料や、PDP用電磁波遮蔽等の電磁波遮蔽材料に応用することができ、図2の積層構成のものでは、無機EL用電極、太陽電池用電極等の導電材料などに応用することができ、図3に示した積層構成のものでは、ガラス、樹脂板材帯電防止用(特に半導体クリンルーム、建材窓等)等の導電材料や、CRT用電磁波遮蔽、PDP用電磁波遮蔽等の電磁波遮蔽材料、高断熱複層ガラス(Low-E )用等の赤外線遮蔽材料に応用することができる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
サンプルNo. 1
平均一次粒径が20nmのITO微粒子(同和工業社製)100重量部にエタノール300重量部を加え、メディアをジルコニアビーズとして分散機にて分散した。得られた塗液を50μm厚のPETフィルム上に、バーコーターを用いて塗布し、50℃の温風を送って乾燥することにより塗膜を形成した。この塗膜の厚さは1.6μmであった。このようにして塗膜を形成したフィルムを、以降において圧縮前フィルムと称する。
【0081】
まず、圧縮圧力の確認のための予備実験を行った。
一対の直径140mmの金属ロール(ロール表面にハードクロムめっき処理が施されたもの)を備えるロールプレス機を用いて、ロールを回転させず且つ前記ロールの加熱を行わないで、室温(23℃)にて前記圧縮前フィルムを挟み圧縮した。この時、フィルム幅方向の単位長さ当たりの圧力は660N/mmであった。次に、圧力を解放し、圧縮された部分のフィルム長手方向の長さを調べたら2mmであった。この結果から、単位面積当たりに347N/mm2 の圧力で圧縮したことになる。
【0082】
次に、予備実験に使用したものと同様の前記圧縮前フィルムを金属ロール間に挟み、前記条件で圧縮しながら4m/分の送り速度となるようにロールを回転させることにより、圧縮されたITO含有塗膜を機能性膜として有するサンプルNo. 1を得た。
【0083】
サンプルNo. 1の機能性膜について、厚さ、表面電気抵抗および膜強度を測定した。また、サンプルNo. 1を10%延伸する引っ張り試験を行い、延伸後における機能性膜のクラックの有無、クラック発生時の延伸率および延伸後の表面電気抵抗を調べた。また、延伸前に対する延伸後の表面電気抵抗の比率を求めた。これらの結果を表1に示す。なお、膜強度は90度ピール試験の結果から求めた。引っ張り試験、表面電気抵抗の測定および90度ピール試験は、以下に説明する手順で行った。
【0084】
(引っ張り試験)
サンプルから10mm×100mmの大きさに切り出した試験片を、チャック間距離を50mmに設定した引っ張り試験機にセットした。次いで、機能性膜のクラック発生の有無を拡大鏡で確認しながら20mm/minの引っ張り速度で延伸率が10%となるまで延伸した。
【0085】
(表面電気抵抗)
サンプルから幅10mm、長さ100mmの大きさに切り出した試験片の機能性膜に、テスターの両端子を接触させて電気抵抗を測定し、これを延伸前の表面電気抵抗とした。なお、測定に際し、両端子は、試験片の長さ方向に並び、かつ、端子間の中央が試験片の長さ方向中央と一致し、かつ、端子間距離が50mmとなるように配置した。また、試験片を上記のようにして長さ方向に延伸した後、同様にして機能性膜の電気抵抗を測定し、これを延伸後の表面電気抵抗とした。
【0086】
(90度ピール試験)
図5を参照して説明する。
試験サンプル11における支持体フィルム11bの機能性膜11aが形成された面とは反対側の面に、両面テープ12を貼った。これを大きさ25mm×100mmに切り出した。次に、両面テープ12により、試験サンプル11をステンレス板13に貼った。そして、試験サンプル11が剥がれないように、サンプル11の両端部(25mm辺)に固定用セロハンテープ14を貼った。(図5(a))。
【0087】
試験サンプル11の機能性膜11a面にセロハンテープ(幅12mm、日東電工製、No. 29)15をサンプル11の長辺と平行になるように貼った。セロハンテープ15とサンプル11との貼付の長さは50mmであった。セロハンテープ15の貼付されていない端を張力計16に取り付け、セロハンテープ15の貼付面と非貼付面15aとの成す角が90度になるようにセットした。セロハンテープ15を、100mm/分の速度で引っ張って剥がした。このとき、セロハンテープ15を剥がす速度と試験サンプル11を貼り付けたステンレス板13の移動速度とが同じとなるように制御することにより、セロハンテープ15の非貼付面15aと試験サンプル11面とが常に90度となるようにした。張力計16にて剥がすときに要した力Fを計測した。(図5(b))。
【0088】
試験後、セロハンテープが剥がされた機能性膜の表面と、剥がしたセロハンテープの表面とを調べた。両方の表面に粘着剤がある場合は、機能性膜が破壊されたのではなく、セロハンテープの粘着剤層が破壊されたこと、すなわち、粘着剤の強度が剥がすときに要した力Fの値であったということになり、機能性膜の強度はその値F以上となる。
【0089】
本試験においては、粘着剤の強度上限が6N/12mmであるため、表1に膜強度6N/12mmと表示したものは、上記のように両方の表面に粘着剤がある場合であって、機能性膜の強度が6N/12mm以上であることを表す。これより小さい値の場合は、機能性膜表面に粘着剤がなくセロハンテープ表面に機能性膜が一部付着しており、その値において、機能性膜中で破壊が生じたことを表す。
【0090】
サンプルNo. 2
バーコーターの番手を替えることにより塗膜厚さを変更したほかはサンプルNo. 1と同様にして、サンプルNo. 2を得た。
【0091】
このサンプルおよびそれを10%延伸したものについて、サンプルNo. 1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
サンプルNo. 3
ITO微粒子に替えて、平均一次粒径が20nmのATO微粒子(石原産業(株)製SN-100P )を用いたほかはサンプルNo. 2と同様にして、サンプルNo. 3を得た。
【0093】
このサンプルおよびそれを10%延伸したものについて、サンプルNo. 1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0094】
サンプルNo. 4(比較)
サンプルNo. 3で用いたATO微粒子100重量部、アクリル樹脂(大成化工社製MT408-42、固形分濃度50%)100重量部、混合溶媒(MEK:トルエン:シクロヘキサノン=1:1:1)400重量部とを混合し、メディアをジルコニアビーズとして分散機にて分散した。得られた塗液を50μm厚のPETフィルム上に塗布した後、乾燥して、圧縮前フィルムを得た。次いで、この圧縮前フィルムをサンプルNo. 1と同条件で圧縮し、サンプルNo. 4を得た。
【0095】
このサンプルおよびそれを10%延伸したものについて、サンプルNo. 1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0096】
サンプルNo. 5(比較)
アクリル樹脂量を50重量部とし、混合溶媒量を350重量部としたほかはサンプルNo. 4と同様にして、サンプルNo. 5を得た。
【0097】
このサンプルおよびそれを10%延伸したものについて、サンプルNo. 1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0098】
サンプルNo. 6(比較)
サンプルNo. 1で用いたPETフィルムを基板上に配置し、ITOターゲットを用いたRFマグネトロンスパックリング法によりITO膜を形成した。このITO膜を有するPETフィルムをサンプルNo. 6とした。
【0099】
このサンプルおよびそれを10%延伸したものについて、サンプルNo. 1と同様な測定を行った。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1から、本発明の効果が明らかである。すなわち、バインダー樹脂を含有せず、かつ、圧縮された微粒子含有層からなる機能性膜は、膜強度が十分に高い。また、10%延伸によりクラックが発生せず、延伸による表面電気抵抗の増加も少ない。
【0102】
これに対しバインダー樹脂を多量に含有する塗膜では、延伸前の表面電気抵抗が高い上に、数パーセントの延伸でクラックが発生し、10%延伸後の抵抗率は無限大となってしまっている。また、スパッタ膜では、延伸前の表面電気抵抗は低いものの、やはり数パーセントの延伸によりクラックが発生してしまっている。
【符号の説明】
【0103】
1 支持体
2、2a、2b 微粒子含有層
3 ハードコート層
4 接着層
5 セパレータ
6 被着物
11 機能性膜が形成された試験サンプル
11a 機能性膜
11b 支持体フィルム
12 両面テープ
13 ステンレス板
14 固定用セロハンテープ
15 セロハンテープ
15a セロハンテープ非貼付面
16 張力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を含有する導電性微粒子含有層を含み、10%延伸されたときに前記導電性微粒子含有層にクラックが発生しない導電膜であって、
前記導電性微粒子含有層は、支持体上に形成された導電性微粒子含有塗膜を圧縮することにより得られる導電性微粒子の圧縮層であり、
前記導電性微粒子の圧縮層は圧縮時において、樹脂を含まないか、あるいは、前記導電性微粒子の体積を100としたとき、25未満の体積の樹脂を含んで得られるものである導電膜。
【請求項2】
前記導電性微粒子含有層は、10%延伸後の前記導電性微粒子含有層の表面電気抵抗が、延伸前の表面電気抵抗の10倍以下である、請求項1に記載の導電膜。
【請求項3】
前記導電性微粒子が、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化カドミウム、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)及びアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の導電膜。
【請求項4】
前記支持体が樹脂から構成される、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の導電膜。
【請求項5】
請求項1に記載の導電膜を製造する方法であって、
導電性微粒子が分散された導電性塗料であって、樹脂を含まないか、あるいは、前記導電性微粒子の体積を100としたとき、25未満の体積の樹脂を含む導電性塗料を支持体上に塗布、乾燥し、導電性微粒子含有塗膜を形成し、その後、前記導電性微粒子含有塗膜を圧縮し、導電性微粒子の圧縮層を形成することを含む、導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記導電性微粒子含有塗膜を44N/mm2 以上の圧縮力で圧縮する、請求項5に記載の導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記導電性微粒子含有塗膜をロールプレス機を用いて圧縮する、請求項5又は6に記載の導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−248539(P2012−248539A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153863(P2012−153863)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2000−148816(P2000−148816)の分割
【原出願日】平成12年5月19日(2000.5.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】