説明

機能性色材分散体

【課題】 粘度変化が小さく、成分安定で、顔料凝集など分散劣化の問題が少なく、特に、オンデマンドプリント用インクジェットインクに好適に用いられる機能性色材分散体を提供する。
【解決手段】 分散媒と、平均粒子径300nm以下のバリウムまたはチタンを含む金属酸化物の機能性色材と、第一の樹脂分散剤および第二の樹脂分散剤を含む高分子分散剤と、イオン性化合物とを含有する機能性色材分散体である。前記機能性色材の量は、前記分散媒の重量の2%以上60%以下であり、前記第一の樹脂分散剤の量は、前記機能性色材重量に対して1%以上30%以下であり、前記第二の樹脂分散剤は塩基性末端を有する樹脂であり、その量が、前記機能性色材の重量に対して2%以上30%以下であり、前記イオン性化合物の量は全分散媒量の重量の0.01%以上40%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性色材分散体に係り、特に、インクジェットの吐出安定性に優れるインクジェットインクが得られる機能性色材分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地域広告や企業内配布資料、大型ポスターのように或る程度の部数を必要とする印刷物の製造には、版を利用した印刷機が用いられてきた。近年、こうした従来の印刷機に代わり、多様化するニーズに迅速に対応でき、しかも、在庫を圧縮することが可能なオンデマンド印刷機が利用されつつある。そのようなオンデマンド印刷機としては、トナーや液体トナーを用いた電子写真印刷機や、高速で高画質の印刷が可能なインクジェットプリンタが期待されている。
【0003】
オンデマンド印刷機は、版を利用した印刷機と同様に、顔料と有機溶剤とを含んだ溶剤系インクや溶剤系液体トナーを使用することが知られている。この技術では、ある程度の部数を印刷した場合に、無視できない量の有機溶剤が揮発することとなる。そのため、揮発した有機溶剤による雰囲気汚染の問題があり、厳重な排気設備や溶剤回収機構を設けなければならない。
【0004】
一方、インクジェットプリンタでは、溶剤系インクは、被印刷面に吐出するまで閉鎖系で取り扱うことができる。しかも、インクに無駄が少ないため、比較的安全な溶剤を選択したり、適切な排気対策を施すことにより、雰囲気汚染の問題を軽減することができる。
【0005】
さらに、感光性インクジェットインクおよびそれを用いたインクジェットプリンタシステムが注目され始めている。感光性インクとしては、例えば、ラジカル重合性モノマーと光重合開始剤と顔料とを含有したものが代表的であり(例えば、特許文献1および特許文献2参照)、被印刷面に吐出した感光性インクを速やかに光硬化させる。また、カチオン重合性モノマーと光カチオン発生剤と顔料とを含有した光重合性の感光性インクも提案されている(例えば、特許文献3、4、5、6、7参照)。光照射によって、インク層を瞬時に非流動化することができるので、安全でかつ高品質の印刷物を得ることができる。
【0006】
こうした速乾印刷用途に用いられるインクジェット記録装置は、通常、高速化のために、印字ヘッドを線状に配列し、印字面に対して1パスで印刷されることから、吐出上のエラーは、印刷面の線状の印刷不良(抜け)となってしまう。したがって、このようなエラーを極力ゼロにすることが不可欠である。すなわち、このような使途のインクには、非常に高い印字精度や吐出安定性を達成するための材料の安定性が要求されている。
【0007】
上述したカチオン重合型のインクは、ラジカル重合型インクの密着性を高めるため、および酸素に起因した硬化阻害の理由による低感度化などを改良するために提案されてきており、今後、需要が増大すると考えられる。しかしながら、これらのインクは、反応性が高いため本質的にその粘度等の物性変化が大きく不安定である。これは、何らかの要因(例えば熱など)で活性種がいったん発生するとなかなか失活しにくく、インクの暗反応が多いことに起因している。
【0008】
また、さらに近年の研究では、これらのインクを安定化するためには、インクの状態をマクロだけでなく、ミクロにも安定化させる必要があることがわかってきている。例えば一般にインクは、粒子径が小さいほど、また分散安定性が高いほど、印字エラーは少なくなる。カチオン重合型のようなインクをはじめ、イオン性物質(重合開始剤や界面活性剤など)が含まれるインクは、コロイド分散系における塩析と類似した作用により、一般に経時的に凝集を引き起こしやすい。このため、保存安定性に劣るという問題があった。成分が反応して粘性、表面張力、弾性力等が変化すると、インクの飛翔形状の乱れ、印字再現性の減少、最悪の場合には吐出不良、インクつまりといった致命的状態に陥りやすいため、この問題は極めて深刻であった。
【特許文献1】特開平8−62841号公報
【特許文献2】特開2001−272529号公報
【特許文献3】特公平2−47510号公報(EUP−0071345−A2)
【特許文献4】特開平9−183928号公報
【特許文献5】特開2001−220526号公報
【特許文献6】特開2000−44857号公報
【特許文献7】特開平10−250052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、粘度変化が小さく、成分安定で、顔料凝集など分散劣化の問題が少なく、特に、オンデマンドプリント用インクジェットインクに好適に用いられる機能性色材分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様にかかる機能性色材分散体は、分散媒と、
平均粒子径300nm以下のバリウムまたはチタンを含む金属酸化物の機能性色材と、
第一の樹脂分散剤および第二の樹脂分散剤を含む高分子分散剤と、
イオン性化合物とを含有し、
前記機能性色材の量は、前記分散媒の重量の2%以上60%以下であり、
前記第一の樹脂分散剤の量は、前記機能性色材重量に対して1%以上30%以下であり、
前記第二の樹脂分散剤は塩基性末端を有する樹脂であり、その量が、前記機能性色材の重量に対して2%以上30%以下であり、
前記イオン性化合物の量は全分散媒量の重量の0.01%以上40%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘度変化が小さく、成分安定で、顔料凝集など分散劣化の問題が少なく、特に、オンデマンドプリント用インクジェットインクに好適に用いられる機能性色材分散体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本発明の実施形態にかかる機能性色材分散体は、粉体が、特定の高分子分散剤によって、イオン性化合物を含む分散媒に分散されてなるものである。本発明の実施形態にかかる顔料分散体もまた、特定の高分子分散剤によって、顔料が同様の分散媒に分散されている。
【0014】
本発明の実施形態にかかる機能性色材分散体に含有される粉体としては、要求される光学的な発色・着色機能を有するものであれば特に限定されず、任意のものを用いることができる。また、顔料は、発色・着色性に加えて、磁性、蛍光性、導電性、あるいは誘電性等のような他の性質をさらに示すものであってもよい。この場合には、画像に様々な機能を付与することができる。さらに、耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体を加えることもできる。
【0015】
蛍光性を示す粉体としては、無機蛍光体および有機蛍光体の何れを使用してもよい。無機蛍光体の材料としては、例えば、MgWO4、CaWO4、(Ca,Zn)(PO42:Ti+、Ba227:Ti、BaSi25:Pb2+、Sr227:Sn2+、SrFB23.5:Eu2+、MgAl1627:Eu2+、タングステン酸塩、イオウ酸塩のような無機酸塩類を挙げることができる。また、有機蛍光体の材料としては、例えば、アクリジンオレンジ、アミノアクリジン、キナクリン、アニリノナフタレンスルホン酸誘導体、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、クロロテトラサイクリン、メロシアニン、1,1’−ジヘキシル−2,2’−オキサカルボシアニンのようなシアニン系色素、ダンシルスルホアミド、ダンシルコリン、ダンシルガラクシド、ダンシルトリジン、ダンシルクロリドのようなダンシルクロライド誘導体、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロミド、フルオレセイン、フォーマイシン、4−ベンゾイルアミド−4’−アミノスチルベン−2,2’−スルホン酸、β−ナフチル3リン酸、オキソノール色素、パリナリン酸誘導体、ペリレン、N−フェニルナフチルアミン、ピレン、サフラニンO、フルオレスカミン、フルオレセインイソシアネート、7−クロロニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾル、ダンシルアジリジン、5−(ヨードアセトアミドエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン、N−(1−アニリノナフチル4)マレイミド、N−(7−ジメチル−4−メチルクマニル)マレイミド、N−(3−ピレン)マレイミド、エオシン−5−ヨードアセトアミド、フルオレセインマーキュリーアセテート、2−(4’−(2”−ヨードアセトアミド))アミノナフタレン−6−スルホン酸、エオシン、ローダミン誘導体、有機EL色素、有機ELポリマーや結晶、およびデンドリマー等を挙げることができる。
【0016】
インク層の耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体としては、例えば、アルミニウムやシリコンの酸化物もしくは窒化物、フィラー、およびシリコンカーバイドなどを挙げることができる。また、インク層に導電性を付与するために、導電性炭素顔料、カーボン繊維、銅、銀、アンチモン、貴金属類などの粉体やナノ微粒子を添加してもよい。酸化鉄や強磁性粉は磁性の付与に適しており、高誘電率なタンタル、チタン等の金属酸化粉なども配合することができる。
【0017】
さらに、天然クレイ、鉛白や亜鉛華や炭酸マグネシウムなどの金属炭酸化物、バリウムやチタンなどの金属酸化物のような粉体も機能性色材として有用である。
粉体の全分散媒に対する含有量は、2重量%以上60重量%以下である。粉体の含有量が2重量%未満の場合には、機能性付与効果が不十分となり、60重量%を越えると分散体の安定性が極端に低下する。
【0018】
上述した粉体の平均粒径は、インクジェット吐出可能で、機能発現可能な限り小さいことが望ましい。こうした粉体の粒径は、少なくともインクジェットインクを吐出するノズルの開口径の1/3以下であり、より好ましくは1/10程度である。なお、このサイズは典型的には10μm以下であり、好ましくは5μm以下である。印刷用インクジェットインクとして好適な粉体の平均粒子径は、0.3μm以下の大きさであり、通常は数nm〜0.2μmの間の平均粒子径を有する。
【0019】
一方、本発明の実施形態にかかる顔料分散体は、基本的には、あらゆる顔料を用いて効果を得ることができるが、なかでも青色系顔料、ブラック系顔料、および黄色系顔料において好適である。こうした顔料粒子の平均粒子径は、一般的に200nm以下である。
【0020】
青色系顔料としては、例えばコバルトブルーのような金属酸化物顔料、フタロシアニン系顔料、ブロンズ粉末、および亜鉛粉末のような金属粉末からなる顔料を例示することができる。また、フタロシアニンブルーのようなフタロシアニン顔料、インダトロンブルーのようなスレン顔料や有機系顔料を使用することもできる。
【0021】
より詳細には、シアンインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 15、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 15−15:2、C.I.Pigment Blue 15:3−15:4、Pigment Blue 15:5、C.I.Pigment Blue 15:34、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 17、C.I.Pigment Blue 20、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Pigment Blue 25、C.I.Pigment Blue 45、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Acid Blue 45、C.I.Vat Blue 4、およびC.I.Vat Blue 60等が挙げられる。特にこれらのシアン顔料の中でも、酸に対する色劣化が少ないフタロシアニン系顔料が望ましい。さらに、分散安定性や着色性の観点からは、Pigment Blue 15:3が最も望ましい。
【0022】
また、色彩を調整するために、顔料の補助成分として染料を添加することもできる。例えば、アゾイック染料、硫化(建材)染料、分散染料、蛍光増白剤、油溶染料のような、酸性、塩基性が低く、溶媒に対して溶解性の高い染料が通常用いられる。なかでもアゾ系、トリアリールメタン系、アントラキノン系、アジン系などの油溶染料が好適に用いられる。例えば、C.I.Solvent Blue−2、11、12、25、35など、Diresin Blue−J、A、K、Nなど、Orient Oil Blue−IIN、#603など、およびSumiplast Blue BGなどを挙げることができる。
【0023】
上述した顔料(および染料)は吸光性、彩度、色感などを高めるために、単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0024】
青色系顔料は、分散媒の重量の2%以上30%以下の量で配合される。2重量%未満の場合には、その後の加工で、色材とした際に充分な色濃度を確保することができず、一方、30重量%を越えると安定性が低下する。好ましくは、青色系顔料の含有量は、分散媒の重量の3%以上27%以下の範囲である。
【0025】
ブラック系顔料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンリファインド、およびカーボンナノチューブのような炭素系顔料、鉄黒、チタンブラック、および酸化鉄のような金属酸化物顔料が挙げられる。具体的には、黒インクとして好適に使用できるのは、カーボンブラック系顔料であって、例えば、コロンビア社製のRaven 5750、Raven 5250、Raven 5000、raven 3500、Raven 1255、Raven 700、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch900、Monarch1000、Monarch 1100、Monarch1300、Monarch1400、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4、およびSpecial Black 250などのような顔料を挙げることができる。
【0026】
ブラック系顔料は、分散媒の重量の2%以上30%以下の量で配合される。2重量%未満の場合には、その後の加工で、色材とした際に充分な色濃度を確保することができず、一方、30重量%を越えると安定性が低下する。好ましくは、黒色系顔料の含有量は、分散媒の重量の3%以上27%以下の範囲である。また、色彩を調整するために、シアン系顔料の場合と同様に補助成分として染料を添加してもよい。
【0027】
黄色系顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、ベンズイミダゾロン系モノアゾ顔料などを含む。)、多環式顔料(ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料など)、および金属錯体顔料などのような有機系顔料を使用することもできる。
【0028】
イエローインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Yellow 128、C.I.Pigment Yellow 129、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 154、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 12、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 14C、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 73、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Yellow 75、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.Pigment Yellow 93、C.I.Pigment Yellow95、C.I.Pigment Yellow97、C.I.Pigment Yellow 98、C.I.Pigment Yellow 114、C.I.Pigment Yellow 139、C.I.Pigment Yellow 180、およびC.I.Pigment Yellow 150等が挙げられる。特にこれらの黄色系顔料の中でも、ニッケルアゾ系顔料あるいはイソインドリン顔料が望ましく、なかでも分散安定性の優れたPigment Yellow 150やPigment Yellow 139が望ましい。
【0029】
色彩を調整するために、シアン系顔料の場合と同様に補助成分として染料を添加してもよい。例えば、C.I.Slovent Yellow−2、6、14、15、16、19、21、33,56,61,80など、Diaresin Yellow−A、F、GRNなどを挙げることができる。また、マゼンタインクでは、上述した顔料ほど効果は大きくないものの、ゲル状凝集物の生成が押さえられる効果があり、キナクリドン系顔料等が好適に使用できる。
【0030】
上述した顔料(および染料)は吸光性、彩度、色感などを高めるために、単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0031】
黄色系顔料は、分散媒の重量の2%以上30%以下の量で配合される。2重量%未満の場合には、その後の加工で、色材とした際に充分な色濃度を確保することができず、一方、30重量%を越えると安定性が低下する。好ましくは、黄色系顔料の含有量は、分散媒の重量の3%以上27%以下の範囲である。
【0032】
上述したような粉体または顔料を、所定の量で分散媒中に均一に分散させるために、本発明の実施形態にかかる分散体においては、第1および第2の樹脂分散剤を含む高分子分散剤が配合される。
第1の樹脂分散剤は、例えば顔料粒子の表面に吸着または結合し、凝集の障壁となって顔料粒子同士の凝集を妨げる。こうした顔料は、第1の樹脂分散剤に被覆された被覆顔料ということができる。さらに、第1の樹脂分散剤は、分散媒への親和力を高めて、顔料粒子が沈降するのを抑制するといった作用も有する。基本的には、分散媒に対する親和性が良好で、顔料同士の凝集を阻止する立体的分離性を有する任意の樹脂を、第1の樹脂分散剤として使用することができる。例えば、ビニル系ポリマーおよびコポリマー、アクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、およびエポキシ樹脂等から選択される一種以上を主成分とするものが挙げられる。
【0033】
分散剤として作用するために、こうしたポリマーにおいては、ポリマー末端は、顔料に対する結合性や親和力を有することが好ましい。すなわち、一方のポリマー主鎖は、溶剤への親和性、さらには、他の顔料粒子との再凝縮を阻害する物理的斥力または静電的斥力を備えていることが望まれる。例えば、分散媒と同等の(±5MPa1/2程度)溶解度パラメ−ターを有し、分子量数百〜数万、重合度10〜200程度であって、摂氏10℃以上200℃以下のTgを有するポリマーが好ましい。さらに、比較的強い化学結合(共有結合、静電力等)を他の末端に有することによって、顔料に対する親和力が大きなポリマーが望ましい。通常、2種ないし数種のモノマーの共重合体とすることによって、このような複合機能を付与することができる。かかるポリマーとしては、ブロック共重合体も好適に用いることができる。
【0034】
上述したようなポリマーの末端は、必ずしも単一である必要はないが、一般にグラフト共重合した先端部や、櫛形ポリマーの先端部などに導入されうる。こうしたポリマーは、結合が強固であるうえに、顔料同士の再凝集を抑制する立体障害を形成しやすい。
【0035】
このようなポリマーを合成するためのモノマーとしては、例えば、スチレンおよび置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アミド類、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、イタコン酸およびそのエステル化合物、ヒドロキシスチレンおよびその水素原子置換誘導体などが挙げられる。また、長鎖のアルキルや、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエステル鎖などをエステル側鎖に有するモノマーは、前述の櫛型ポリマーを形成するうえで有利である。
【0036】
また、ポリマーとしては、次のものを用いることもできる。例えば、poly(oxyphthaloyloxymethylene-1,4-phenylenemethylene)、poly(1,4-cyclohexylenedimethylene succinate)のようなジヒドロキシ化合物とジカルボン酸との脱水縮合によるポリエステル化合物;アジピン酸とヘキサメチレンジアミンのようなジアミンとジカルボン酸との縮合によって得られるポリアミド類;ε−カプロラクタムのような環状ラクトンの開環によって得られるポリアミド類;ピロメリット酸などのテトラカルボン酸と脂肪族ジアミンとが縮合してなるポリアミド類のうち比較的Tgの低いポリマー;イソフォロンジシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートとジヒドロキシ化合物とが反応したポリウレタン系樹脂;ポリビニルピリジン系化合物;ポリジメチルシロキサンおよびそのラダー形ポリマー;ポリビニルアルコールやビニルエーテル化合物;および比較的リジッドな骨格を有するオキシラン化合物が重合したポリエーテル系重合体などである。
【0037】
これらのポリマーの末端は、アミノ基やリン酸基などの顔料に対して親和力のある官能基を有する化合物でキャップされていることが好ましい。この場合には、顔料粒子表面への吸着性がよりいっそう向上する。
【0038】
さらに、重合性基および両親媒性を有する重合性界面活性剤と、架橋性モノマーおよび/または単官能モノマーとを重合させて得られる高分子化合物もまた、第1の樹脂分散剤として好ましく用いられる。重合性界面活性剤における重合性基としては、不飽和炭化水素基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、およびビニレン基などが挙げられる。これらは、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合性界面活性剤における親水性基は、分散媒に応じて選択することができる。分散媒が水系の場合には、スルホン基、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基およびこれらの塩等の一種以上が好ましく用いられる。一方、分散媒が油性の場合には、カルボキシル基やそのエステル、ラクトン系化合物、カルボニル基、およびヒドロキシル基などが挙げられる。
【0039】
顔料の分散安定性を高めるために、顔料の表面修飾を行なっても構わない。これは、第1の樹脂分散剤と顔料粒子との結合性を高める目的で行なわれる。例えば、代表的な分散剤末端であるアミノ基との結合が強いカルボキシル基や、スルホン酸基を顔料粒子の表面に部分的に形成した場合には、顔料の分散安定性を飛躍的に高めることが可能となる。例えば、適切な酸化剤で顔料粒子の表面を酸化することによって、こうした官能基で顔料表面を修飾することができる。あるいは、顔料粒子にスルホン化剤などを作用させるといった手法を採用してもよい。使用し得るスルホン化剤としては、例えば、硫酸、発煙硫酸、SO2、SO3単独もしくはおよびハロゲン化スルフォン酸などの誘導体が挙げられる。さらには、希土類との触媒の組み合わせ、スルフォン酸基を有するオルガノメタリックあるいはビニル化合物などの反応性に富む化合物などをスルホン化剤として用いてもよい。またさらに、ハロゲン化処理が施された顔料粒子に、ソジウムサルファイドのような塩を作用させるStrecker's Reactionなども、顔料粒子の表面修飾に好適に用いることができる。
【0040】
一方、顔料に対して物理的吸着力の高いスルホン修飾顔料(シナジスト)を、その顔料表面に吸着させた場合も、同様の表面修飾効果が得られることがある。通常、スルホン化剤で表面が直接修飾された表面修飾顔料は、シナジストよりも顔料とスルホン酸基との結合力に優れ、分散安定性が良好であり好適である。しかしながら、合成の容易さやコストの面からシナジストを用いても、その安定性が維持できていれば問題がない。
【0041】
さらに強力な表面修飾を達成するには、上述した樹脂分散剤と顔料との共有結合形成に加えて、マイクロカプセル化処理などを施すことがより好ましい。マイクロカプセル化顔料は、公知の手法により製造することができる。例えば、相分離法(コアセルベーション)、液中乾燥法(界面沈殿法)、スプレードライング法、パンコーティング法、液中硬化被覆法、界面重合法、in situ法、および超音波法等を、特に制限されずに用いることができる。より具体的には、特開平9−151342号公報に記載されているアニオン性マイクロカプセル化顔料の製法や、特開平10−316909号公報に記載されている方法を採用することができる。
【0042】
なお、官能基による修飾率は、例えば修飾元素が硫黄原子やリンなどを含む場合、EDXなどの表面分光分析法などによって直接的に測定可能であり、対象となる元素含有量が顔料の表面組成の0.1%程度以上であることが望まれる。ただし、修飾率が大きすぎる場合には、顔料の酸性度が強くなりすぎて分散媒と反応し、凝集や増粘が加速されるおそれがあるため、最大でも30%程度にとどめておくことが好ましい。EDXなどにより求めにくいカルボン酸や、樹脂による被覆率などの修飾率は、吸着法などにより定量した表面積と、滴定法などから見積もった修飾基の数、あるいは顔料が分解しない程度までの熱重量分析(TG)等から概算することが可能である。
【0043】
第1の樹脂分散剤の添加量は、粉体重量に対して1%以上30%以下である。顔料分散体の場合、第1の樹脂分散剤の添加量は顔料の種類に応じて異なる。例えば、黄色系顔料分散体であれば、顔料重量に対して10%以上60%以下の割合で添加し、青色系顔料分散体およびブラック系顔料分散体の場合には、第1の樹脂分散剤の添加量は、顔料重量に対して10%以上30%以下である。機能性色材分散体および顔料分散体のいずれの場合も、第1の樹脂分散剤の添加量が少なすぎる場合には、十分な効果を得るのが困難となる。一方、第1の樹脂分散剤の添加量が多すぎる場合には、インクジェット用分散体としての粘度が著しく上昇したり、分散体の安定性が低下して再凝集を生じやすくなる。
【0044】
適切な範囲の添加量で第1の樹脂分散剤を用いることによって、樹脂被覆された顔料が製造される。
こうして得られた樹脂被覆顔料を、第2の樹脂分散剤を用いて分散媒に分散させ、さらにイオン性化合物を添加することによって、本発明の実施形態にかかる安定な分散体を得ることができる。
【0045】
第2の樹脂分散剤は、アミノ基などの塩基性基を末端に有する樹脂であり、上述した第1の樹脂分散剤に対してある程度の親和力を有することが好ましい。第2の樹脂分散剤としては、後述するイオン性化合物の吸着あるいは相互作用によって、顔料粒子とそれをとりまく第1の樹脂分散剤との全体にわたって、斥力などの分散安定性を発生できるものがより望ましい。
【0046】
こうした条件を備えた第2の樹脂分散剤としては、前述の第1の樹脂分散剤との組み合わせにより一概に規定できないが、通常、アミノ末端を有するポリオレフィン、アミノ末端を有するポリエステル、およびアミノ末端を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。より詳細には、数平均分子量が500〜50,000の片末端にカルボキシル基を有する線状ポリマーと、二級アミノ基を1個有する有機アミノ化合物とを反応させて得られるアミン価が5〜200mgKOH/gで数平均分子量が1,000〜100,000の範囲にあるポリエポキシ化合物が挙げられる。また、遊離のカルボキシル基を有するポリエステルとアミドとの共縮合物、遊離のカルボキシル基を有するポリアミドとアミドとの共縮合物(ポリエステルアミド)、およびエステルとアミドとの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物を、ポリアリルアミンと反応させて得られるポリアリルアミン誘導体を用いることもできる。
【0047】
さらに、次のような化合物も挙げられる。数平均分子量が500〜50000の片末端にカルボキシル基を有する化合物と、2級アミノ基を1個有する化合物とを反応させて得られるアミン価が5〜200mgKOH/g、数平均分子量が1000〜100000の範囲にあるアミノ基を有するポリエステル系高分子;3級アミノ基および/または塩基性を示す含窒素複素環を有するアクリルポリマーとポリエステルとを反応させて得られるアミン価が10〜200mgKOH/g、数平均分子量1000〜100000の範囲であるアミノ基を有するポリエステル系高分子などである。
【0048】
ポリエポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどのポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。さらに、グリシジル(メタ)アクリレートとそれ以外の重合性ビニル単量体との共重合により得られるグリシジルエステル基含有アクリルポリマー等が挙げられる。この場合、重合性ビニル単量体としては、メチルメタクリレート、およびスチレン等を用いることができる。
【0049】
第2の樹脂分散剤の添加量は、粉体重量の2%以上30%以下に規定される。この範囲を逸脱した場合には、安定した分散状態で適切な粘度の機能性色材分散体を得ることができない。具体的には、第2の樹脂分散剤の含有量が少ない場合には分散安定性が著しく損なわれ、一方、第2の樹脂分散剤が多すぎる場合には、分散体が粘稠になって、特にインクジェット用途では吐出安定性が損なわれる。樹脂重量のより好ましい範囲は、顔料や粉体の種類によって若干の違いが生じることがある。例えば、青色系顔料およびブラック系顔料の場合には、顔料重量に対して5%以上30%以下、より好ましくは10%以上20%以下である。黄色系顔料の場合には、顔料重量に対して1%以上30%以下である。顔料分散体の場合も、機能性色材分散体の場合と同様、第2の樹脂分散剤が少なすぎると分散安定性が著しく損なわれる。一方、第2の樹脂分散剤が多すぎる場合には、分散体が粘稠になって吐出安定性が損なわれる。
【0050】
本発明の実施形態にかかる分散体には、さらに、イオン性化合物が含有される。例えば、多価の塩を含むイオン性化合物は、コロイド分散系を不安定化させる(塩析や凝集)作用を有する。こうした多価の塩を含むイオン性化合物を、上述した第1の樹脂分散剤で被覆された顔料に直接添加した場合には、顔料粒子の分散安定性が著しく低下する。これに対して、本発明の実施形態にかかる顔料分散体においては、第1の樹脂分散剤に加えて第2の樹脂分散剤が含有されているので、イオン性化合物は、この第2の樹脂分散剤と作用する。その結果、顔料表面に安定な電荷を発生せしめて、安定な分散体となることができる。
【0051】
かかるイオン性化合物としては、インクの安定化や、増粘剤、液だれ防止剤、消泡剤などに用いることのできる次のような化合物が挙げられる。具体的には、金属塩、炭酸塩などの有機溶剤可溶性塩や有機塩類、界面活性剤や分散助剤としての金属石鹸など有機−無機塩類、有機電解質等に代表されるアルキルアンモニウムなどのアンモニウム化合物と、フルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロヒ素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、パラトルエンスルホネートアニオン、過塩素酸アニオン、ハロゲンアニオン、スルフォン酸アニオン含有化合物、カルボン酸アニオン含有化合物等からなる有機溶剤可溶性アンモニウム塩等のなかから選択された塩類などである。
【0052】
機能性色材分散体を製造する場合には、イオン性化合物は、分散媒の全重量の0.01%以上40%以下の割合で含有され、顔料分散体の場合には、イオン性化合物は、分散媒の全重量の0.01%以上20%以下の割合で含有される。より好ましくは1%以上20%以下である。いずれの場合も、イオン性化合物の含有量が少なすぎる場合には、その効果を十分に発揮することができない。一方、イオン性化合物の含有量が多すぎる場合には、分散体の安定性が悪化して再凝集を生じやすくなる。
【0053】
本発明の実施形態にかかる分散体は、光硬化型液体インクに適用され、このインクにおいては、光照射により酸を発生する光酸発生剤として、オニウム塩化合物が好適に用いられる。オニウム塩化合物は代表的な有機塩のため、分散体におけるイオン性化合物として好適に用いることができる。
【0054】
使用し得るオニウム塩としては、例えば、フルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロヒ素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、パラトルエンスルホネートアニオン、およびパラニトロトルエンスルホネートアニオン、ハロゲン系アニオン、スルフォン酸系アニオン、カルボン酸系アニオン、硫酸アニオンを対イオンとするジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、およびイオドニウム塩などを挙げることができる。なかでも、色材の安定性と環境配慮の観点から、アニオン種はボロン、アンチモン、ヒ素などを含まないものが望ましく、なかでもフルオロホウ酸アニオンが最も望ましい。
【0055】
かかるオニウム塩化合物のより具体的な例としては、例えば、下記化学式で表わされる化合物が挙げられる。
【化1】

【0056】
【化2】

【0057】
【化3】

【0058】
【化4】

【0059】
市販のオニウム塩化合物としては、例えば、みどり化学社製MPI−103(CAS.NO.(87709−41−9))、みどり化学社製BDS−105(CAS.NO.(145612−66−4))、みどり化学社製NDS−103(CAS.NO.(110098−97−0))、みどり化学社製MDS−203(CAS.NO.(127855−15−5))、みどり化学社製DTS−102(CAS.NO.(75482−18−7))、みどり化学社製DTS−103(CAS.NO.(71449−78−0))、みどり化学社製MDS−103(CAS.NO.(127279−74−7))、みどり化学社製MDS−105(CAS.NO.(116808−67−4))、みどり化学社製MDS−205(CAS.NO.(81416−37−7))、みどり化学社製BMS−105(CAS.NO.(149934−68−9))、みどり化学社製TMS−105(CAS.NO.(127820−38−6))、ダイセルUCB社製UVACURE1591、1590、ダウケミカル社製UVI-6992や6976、ランバーティ社ESACURE−1064、およびチバガイギー社のIRGACURE250などを挙げることができる。
【0060】
上述したオニウム塩のなかでも、スルフォニウム塩やイオドニウム塩は、安定性に優れている。しかしながら、その製造過程に起因して、通常、不可避に1価の塩(1価のカチオンと1個のアニオンとの塩)と、75%程度まで2価以上の塩(例えば2価のカチオンと2個のアニオンとの塩)との混合物が含まれることが知られている。一般的には、市販品もこうした混合物の状態であり、特にスルフォニウム塩では、この傾向が顕著である。多価の塩がインク中に含有されると、感光波長が長波長側にシフトして、一般に高感度となることが知られている。こうした利点を確保するために、2価以上の塩が意図的に混入される場合もある。例えば、ダイセルUCB社製UVACURE1591、1590、ダウケミカル社製UVI−6992や6976、ランバーティ社ESACURE−1064等などの市販品がそれらに該当する。しかしながら多価の塩は、特に微小粒子を必要とするインクジェット顔料分散体の凝集安定性に大きく影響を及ぼす。具体的には、多価の塩は、顔料粒子と分散剤との間に弱い結合を生じさせて、ゲルまたは凝集体を引き起こすといった欠点も有する。このため、通常、これら多価の塩の存在を極力抑えることが、顔料粒子の分散安定性およびインクジェットの吐出性能の向上に繋がる。
【0061】
多価のオニウム塩の含有率は、通常、全オニウム塩総量の20重量部以下であることが望ましい。多価のオニウム塩の含有率は、より好ましくは5重量部以下であり、含まれないことが最も好ましい。
【0062】
上述したオニウム塩化合物の中でも、カラー顔料の凝集安定性に格段に優れることから、アリールスルフォニウムのフルオロフォスフェート塩、あるいはアリールイオドニウムのフルオロフォスフェート塩が望ましい。また、1価のオニウム塩であっても、分散剤が不足した場合には、分散剤である末端アミン樹脂を経時的に徐々に置換する作用を有する。そのため、オニウム塩は、顔料表面と分散剤末端との結合部分に極力近づきにくい構造をとることが望ましい。比較的大きな置換基を構造内に有するオニウム塩化合物を用いることによって、これが可能となる。さらに、顔料表面へのイオン吸着が立体障害により低減されるために、オニウム塩中のベンゼン環は、炭素数1以上20以下の有機基を有することが好ましい。ベンゼン環の50モル%以上が、炭素数4以上20以下の有機基を有することがより好ましい。この場合には、分散安定性に加えて、光反応時の空気中への分解物の飛散が抑制されるために安全性が高められる。かかる化合物は、溶媒に対する溶解性が高くなるため、インク中での塩の析出といった現象も抑えることができる。ひいては、吐出不良の原因となりやすい数ミクロンサイズの粒子生成も低減され、大変望ましいものとなる。
【0063】
1価のオニウム塩が用いられると、その感光波長が短波長側にシフトするため、感度が低下する傾向がある。VI元素である硫黄や酸素を複素環内や連結基として有する芳香族置換基が構造内に含まれると、こうした不都合を回避することができるため望ましいものとなる。
【0064】
さらに、下記一般式(1)または(2)に示されるように、比較的大きな有機基を構造内に含むオニウム塩の場合には、溶解安定性が高く、分散安定性も良好であるという利点を有する。
【化5】

【0065】
ここで、A-はフルオロフォスフェートアニオンである。R1、R2、およびR3の少なくとも1つは炭素数4乃至20の有機基であり、残りは水素原子を含む炭素数1乃至20の有機基である。R4は、2価の芳香族置換基あるいはVI原子を構造内に含む2価の芳香族置換基を示す。
【0066】
1ないしR3として導入され得る有機基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基などの炭素数4乃至20のアルキル基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デカニルオキシ基などの炭素数4乃至20のアルキルオキシ基、およびエチレングリコールが脱水縮合したポリエチレンオキシド骨格を有する炭素数4乃至20の置換基)等が挙げられる。
【0067】
また、R4として導入され得る2価の芳香族置換基としては、例えば、フェニレンやビフェニレンなどのフェニレンを有する基;フェニレンサルファイド、フェニレンジサルファイドなどのフェニレンサルファイド骨格を有する基;ベンゾチオフェニレン、チオフェニレン、ビチオフェニレン基などのチオフェン骨格を有する基;およびフラニレン、ベンゾフラニレンなどのフラン骨格を有する基等が挙げられる。
【0068】
上述したオニウム塩は、光反応の過程で、有害なベンゼンなどの副生成物の生成が抑制されることも知られている。こうしたオニウム塩を含有する分散体を、インクジェットインクとして用いることで、環境面・安全面の効果が高く望ましいものとなりうる。
【0069】
上述したような粉体または顔料、第1および第2の樹脂分散剤を含む高分子分散剤、およびイオン性化合物が、分散媒中に含有されて、本発明の実施形態にかかる分散体が得られる。こうした分散体をインクジェットインク溶媒で希釈し、添加剤等を添加して、インクジェットインクを調製することができる。分散体を調製するための分散媒は、インクジェットインクを調製するための溶媒と同一であることが望ましい。場合によっては、分散体の分散媒として低沸点溶剤等を用い、インクジェットインクを調整するための溶媒を加えた後、低沸点分散媒を除去してもよい。インクジェットインク溶媒は、一般の油性インク溶媒や、ラジカル重合系インク溶媒であっても構わないが、カチオン重合系(化学増幅型)溶媒であるとき、光酸発生剤とイオン性化合物とが兼用されるので望ましいものとなる。
【0070】
なお、ここでいう「インクジェットインク」とは常温で流動性を有するインクを意味する。具体的には、25℃における粘度が50cp(=mPa・s)、より好ましくは30mPa・sec以下であるインクであり、インクジェット用途に用いられる。また、インクジェットのヘッドが温調可能な場合、ヘッドの温調温度におけるインクの粘度が5乃至20mPa・secの範囲にあるインクがより望ましい。
【0071】
以下においては、基本的には分散体の分散媒について説明するが、インクジェットインク用の溶媒としての説明も記載する。本発明の実施形態における分散媒としては、光硬化型カチオンインクジェットインクで用いられる酸の存在下で重合する化合物が最も好適であるが、他の光硬化型インクジェットインクや、一般の油性インクジェットインクとして用いられる溶剤、ソリッドインクジェットインクや、インク加工の中間工程で用いられる多くの有機溶剤(中間溶剤)を用いても、顔料粒子が安定に分散した好適な分散体が得られる。こうした分散体を用いて調製された油性インクは、吐出エラーが少ないため望ましいものとなる。中間溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、およびキシレンのような低沸点有機溶剤が挙げられる。油性インク用溶剤としては、ある程度の有機塩化合物に対する溶解性を有し、ヘッドの温調温度(通常は35〜60℃)におけるインクの粘度が5〜20mPa・secの範囲にあるインクが望ましい。ソリッドインクジェットインクにおいては、ある程度の有機塩化合物に対する溶解性を有し、50℃以下で100mPa・s以下程度の流動性を有していることが望ましい。
【0072】
そのような化合物としては、比較的大きな炭素数を有する1価または多価アルコールやそのエステル/エーテル化化合物、ポリ(エチレングリコール)のようなエチレングリコールやプロピレングリコールの付加体のような末端アルコールを有するポリエーテル化合物、比較的大きな炭素数を有する脂肪族化合物や、乳酸エステルなどのエステル類が挙げられる。
【0073】
より具体的には、デカノール、ドデカノール、オレイルアルコール、ステアロイルアルコール、ヘキサデカノール、エイコサノール)、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、アルコール、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(EHMP)、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、およびチオグリコール)、アルキレングリコールから誘導される低級アルキルのモノエーテルまたはジエーテル(例えば、エチレングリコールのモノメチルエーテルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールのモノメチルエーテルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールのモノメチルエーテルまたはモノエチルエーテル、トリエチレングリコールのモノメチルエーテルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールのジメチルエーテルまたはジエチルエーテル、ポリエチレングリコールのモノブチルエーテル(PEGMBE)、およびジエチレングリコールのモノブチルエーテル(DEGMBE))、窒素含有化合物(例えば、尿素、2−ピロリジノン、N−メチル−2−ピロリジノン、および1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン)、および硫黄含有化合物(例えば、ジメチルスルホキシドおよびテトラメチレンスルホン)などが挙げられる。
【0074】
パラィン系炭化水素溶媒としては、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等のノルマルパラフィン系炭化水素;イソオクタン、イソデカン、イソドデカン等のイソパラフィン系炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリン等のシクロパラフィン系炭化水素などが挙げられる。市販製品としては、例えば、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD130、エクソールD140(以上、いずれもエクソン化学社製)、シェルゾール(シェルオイル社製)、ソルトロール(フィリップス石油社製)、ベガゾール(モービル石油社製)、IPソルベンド2835(出光石油化学社製)、モレスコホワイトP−40、モレスコホワイトP−55(以上、いずれも松村石油研究所社製)、流動パラフィンNo.40−S、および流動パラフィンNo.55−S(以上、いずれも中央化成社製)等を挙げることができる。
【0075】
溶剤系インクには、上述のうち比較的沸点の低いものが用いられ、油性インクには揮発性の低い沸点が200℃以上のものが好適に用いられる。ソリッドインクジェットインクにおいては、上述した化合物のうち、常温での流動性が極端に小さなものを使用することができる。
【0076】
インクが適用される印字媒体によっては、以下のような浸透系溶剤や、高い揮発性を有する溶剤をさらに添加してもよい。例えば、低分子アルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、フルフリルアルコール、およびテトラヒドロフルフリルアルコール)、ケトンまたはケトアルコール(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、およびジアセトンアルコール)、エーテル(例えば、テトラヒドロフランおよびジオキサン)、およびエステル(例えば、乳酸エチル、炭酸エチレン、および炭酸プロピレン)などである。こうした溶剤は、溶剤系インクの場合にも、添加することができる。
【0077】
上述したように、構成成分のうち光酸発生剤とイオン性化合物とが兼用できるため、本発明の実施形態における分散媒としては、酸の存在下で重合する化合物が最も好ましい。かかる化合物を用いた場合には、高い感光性や高い密着性を付与した印字物を製造することができる。そのため分散媒は、こうした特性を有する重合性化合物から実質的になるものであってもよい。「分散媒は重合性化合物から実質的になる」ことは、「分散媒が重合性化合物のみからなる」ことと、「重合性化合物と不可避的に混入した微量の不純物とからなる」こととを包含する。また、「不可避的に混入した微量の不純物」は、全分散媒中に最大で10重量%以下の濃度で存在することができる。好ましくは、通常5重量%以下である。不純物の濃度が10重量%を越えると、実質的に残りの分散媒が空気中に飛散して、安全性が低下するおそれがある。また、硬化物の内部に残存して、硬化性能が低下するおそれがある。
【0078】
酸の存在下で重合する重合性化合物は、単独で50℃以下で100mPa・s以下程度の流動性を有していることが望ましい。そのような化合物としては、エポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量1000以下の化合物、上述した置換基を側鎖に有するアクリルまたはビニル化合物、カーボネート系化合物、低分子量のメラミン化合物、ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファ−メチルスチレン誘導体、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類など、カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマー類を併せて使用することが挙げられる。
【0079】
本発明の実施形態にかかる機能性色材分散体および顔料分散体は、いかなる粘度であってもかまわない。特にインクジェット用途へ適用するためには、ヘッドの温調温度におけるインクの粘度が5乃至20mPa・secの範囲になるまで希釈して使用可能な現実的な粘度として、25℃における粘度が数百mPa・s以下であることが望まれる。
【0080】
本発明の実施形態においては、分散媒はいかなる粘度であってもかまわない。特に低粘度であることが重要なインクジェット用途へ適用するために、混合物であっても、25℃における粘度が300mPa・s以下であり、1気圧で150℃以上の沸点を有する化合物が望ましい。分散媒の粘度の上限を規定したことによって、顔料粒子の分散性が向上するとともに十分な流動性を付与することができる。また、沸点の下限を規定したことによって、分散体に含有される有害な揮発性分を極力低減することが可能となる。分散媒の粘度が300mPa・secを越えると、分散体の安定性が劣化するとともに特にインクジェットインクとして加工する場合、正常なインク吐出が困難になる。
【0081】
酸の存在下で重合する重合性化合物が脂肪族骨格や脂環式骨格を有する場合には、上述した他の成分とともに用いると、露光時のインクジェットインクの透明度が高められて、硬化後のインク層に適切な熱可塑性や再溶解性を付与することができる。そのため、感度、定着性、転写性、およびメンテナンス性といった性能が向上する。特に、重合性化合物が脂環式骨格を有するエポキシ化合物である場合には、反応性に加えて、ある程度の高沸点と低粘度とを両立させることができる。
【0082】
酸重合性化合物がエポキシ化合物の場合には、例えば、炭素数1ないし15程度の2価の脂肪族骨格または脂環式骨格を有する炭化水素基の少なくとも一方の末端に、エポキシ基あるいは脂環式エポキシ基を有する化合物を挙げることができる。また、脂肪族鎖または脂環式骨格を一部に有する2価の基の少なくとも一方の末端に、エポキシ基あるいは脂環式エポキシ基を有する化合物も用いることができる。
【0083】
こうした条件を備えたエポキシ化合物は、溶媒中に少なくとも40重量%の濃度で含有されていれば、その効果を発揮することができる。なお、エポキシ化合物のみで溶媒を構成する場合には、その含有量は液体インク全体に対して30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。30重量%未満の場合には、ノズルつまりが生じたるおそれがある。
【0084】
上述したような分子骨格に導入されるエポキシ基の数に特に制限はないが、硬化後のインク層に可撓性や再溶解性を付与するには、多くとも2乃至3程度の価数とすることが望ましい。そのようなエポキシ化合物としては、例えば、以下の一般式(3)または(4)で表わされる化合物を挙げることができる。
【化6】

【0085】
上記一般式(3)、(4)において、R21、R22およびR23は、それぞれエポキシ基または脂環式骨格を有するエポキシ基を示し、A21およびA22は官能基を示している。
【0086】
一般式(3)または(4)で表わされる化合物の粘度は、通常、1mPa・sec乃至300mPa・sec程度である。
前記一般式(3)または(4)で表わされるエポキシ化合物は、下記一般式(5)で表わされるエポキシ化合物とともに用いてもよい。下記一般式(5)に示すエポキシ化合物は、通常、粘度が20mPa・sec乃至1000mPa・sec程度の高粘度化合物である。したがって、この化合物の使用は、硬化後のインク層に可撓性、あるいは到達硬度などを付与するのに有効である。
【化7】

【0087】
上記一般式(5)において、R24およびR25は、それぞれエポキシ基または脂環式骨格を有するエポキシ基を示し、A23はアルキレン基および/または脂環式骨格を少なくとも有するk+1価の官能基(kは自然数)を示している。
【0088】
例えば、液体インク100重量部に対して、低粘度(15mPa・sec以下)のエポキシ化合物を40重量部乃至90重量部、高粘度エポキシ(15mPa・sec以上)の化合物を10重量部乃至50重量部の割合で配合した場合、吐出に必要な最低限の流動性(50℃で20mPa・sec以下の粘度)を実現するうえで有利である。特に、低粘度エポキシ化合物と高粘度化合物との重量比を、ほぼ1:1乃至10:1とすることが好ましい。これによって、吐出に適切な粘度、光硬化性、熱可塑性、および再溶解性という特性を全て備えた液体インクが得られる。
【0089】
少量であれば、比較的分子量が高く、例えば常温で固体のような粘性が高い化合物が、分散媒中に含有されて分散媒の一部を構成してもよい。こうした成分を含有することによって、硬化後のインク層の可撓性や顔料の分散性を高めることが可能となる。さらに価数の大きな反応性の高い化合物を用いた場合には、硬化物の硬度や溶媒耐性が高められる。そのような化合物としては、例えば、長鎖アルキレン基などによって結合されたエポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量5000以下の化合物;上述した置換基を側鎖に有するアクリルまたはビニル化合物;カーボネート系化合物;低分子量のメラニン化合物;ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファ−メチルスチレン誘導体、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどとのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類など;カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマーおよびそのモノマー1種以上が重合したオリゴマーが挙げられる。
【0090】
また、分散媒には、上述した化合物に加えて、ビニルアルコールの単独もしくは共重合体;カゼイン、セルロースのように酸反応性・脱水縮合性のOH基、COOH基、アセタール基等を有する分子量5000以下の樹脂;同じく分子量5000以下のポリカーボネート樹脂;ポリアミック酸、ポリアミノ酸もしくはアクリル酸と側鎖に酸重合性二重結合を有するビニル化合物との共重合体;ビニルアルコールと側鎖に酸重合性二重結合を有するビニル化合物との共重合体;およびメチロール化されたメラミン化合物、末端ヒドロキシル基を有するポリマー(エステルオリゴマ−)などからなる群から選択される化合物が、さらに含有されていてもよい。
【0091】
特に、次のような特定の組成のインクジェットインクを調製する場合には、溶媒の少なくとも50重量部は、常温常圧で20mPa・s以下の粘度、摂氏150℃以上の沸点を有する脂環式骨格および/または脂肪族骨格を有する酸重合性化合物であることが好ましい。具体的には、インク中の光酸発生剤の含有量が、酸の存在下で重合する溶媒100重量部に対して1重量部以上10重量部以下であり、色成分として顔料が用いられる場合である。この場合、脂肪族骨格および/または脂環式骨格の炭素原子の一部は、酸化されたり、酸素に置換されていてもよい。
【0092】
すでに説明したように、脂環式骨格および/または脂肪族骨格を有する酸重合性化合物の分子骨格に導入されるエポキシ基の数は特に制限されないが、硬化後のインク層に可撓性や再溶解性を付与するには、2乃至3程度の価数とすることが望ましい。通常、これらは、粘度が1mPa・sないし30mPa・s程度である低粘度の化合物と同等かそれ以上の粘度を有する化合物の混合体である。ただし、低粘度化合物が過剰に含有されると、インクジェットの吐出が乱れたり、揮発性が増大するおそれがあるので、その含有量の上限は90重量%にとどめることが望まれる。
【0093】
一方、安全性の観点からは、脂肪族エポキシ化合物の場合、炭素数が多く、分子量が高い方が変異原性が低いため望ましく、変異原性の比較的低い脂環式骨格を有するエポキシ化合物を中心に用いることが望ましい。
【0094】
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、リモネン(ジ)オキサイド、オキサビシクロヘプタン、αピネンオキサイド、(3,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、4−ビニルシクロヘキセン−1,2エポキサイドなどおよびその置換化合物が挙げられる。脂肪族骨格を有するエポキシ化合物としては、炭素数2以上の脂肪族骨格に、1以上のグリシジルエーテル基を有する化合物などが挙げられる。例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジジルエーテル、グリセロールジ(トリ)グリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、およびデカングリシジルエーテルなどである。また、水添ビスフェノールAや、ノボラック、およびビフェノールのグリシジルエーテル化化合物なども挙げられる。こうした化合物は一般に粘度が高いため、より低粘度のエポキシ化合物と併用することが望まれる。
【0095】
より具体的には、商品名として、ダイセル化学社製のセロキサイド2021、セロキサイド2021A、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2000、セロキサイド3000に例示される脂環式エポキシ、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物であるサイクロマーA200、サイクロマーM100、MGMAのようなメチルグリシジル基を有するメタクリレート、低分子エポキシ化合物であるグリシドール、β−メチルエピコロルヒドリン、α−ピネンオキサイド、C12〜C14のα−オレフィンモノエポキシド、C16〜C18のα−オレフィンモノエポキシド、ダイマックS−300Kのようなエポキシ化大豆油、ダイマックL−500のようなエポキシ化亜麻仁油、エポリードGT301、およびエポリードGT401のような多官能エポキシなどを挙げることができる。
【0096】
さらに、サイラキュア(米国ダウケミカル社製、脂環式エポキシ化合物)や、水素添加し且つ脂肪族化した低分子フェノール化合物の水酸基末端をエポキシを有する基で置換した化合物、エチレングリコールやグリセリン、ネオペンチルアルコールやヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどの多価脂肪族アルコール/脂環アルコールなどのグリシジルエーテル化合物、ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステル、および水添芳香族の多価カルボン酸のグリシジルエステルなどを使用することができる。
【0097】
また、画像の耐薬品性などを向上させるために、高耐候性および高Tgを有する透明液状エポキシ樹脂等を添加してもよい。こうした樹脂としては、例えば、ダイセル化学社製エポリードPB3600、PB3600Mなどのエポキシ化ポリブタジエン、EHPE3150、EHPE3150CEなどが挙げられる。あるいは、これらに加え、ラクトン変性脂環エポキシ樹脂を併用しても構わない。例えば、ダイセル社製プラクセルGL61、GL62、G101、G102、G105、G401、G402、およびG403Xなどである。
【0098】
なかでも、セロキサイド2000、セロキサイド3000、α−ピネンオキサイド、エチレングリコールやグリセリン、ネオペンチルアルコールやヘキサンジオールのアルコールをグリシジルエーテルに変性した化合物は、粘度および揮発性の観点から望ましい。特に、天然物を出発原料としたリモネンジオキサイド(製品名:セロキサイド3000)やα−ピネンオキサイド、は、粘度や反応性の観点で望ましいものとなる。
【0099】
なお、印刷物に要求される特性は、その用途に応じて異なる。例えば、印刷物を缶やペットボトルの外装や油性材料からなる容器の外装などに使用する場合には、印字画像は溶剤耐性や高い密着性を有することが要求される。そのような場合には、脂環式エポキシ化合物および脂肪族エポキシ化合物に加えて、前述のようにフェノール性水酸基を有する化合物、例えばビスフェノールAのグリシジルエーテル化合物や、フェノールノボラックやポリヒドロキシスチレンをはじめとするフェノール系オリゴマーのグリシジルエーテル化合物や、スチレンオキサイドのような一般の芳香族エポキシ化合物を適量添加することができる。
【0100】
さらに、例えば数十m毎分という高速な印字と同時に、溶剤への耐性も要求される場合には、酸で重合する溶媒として、オキセタン化合物を使用することによりこれを達成することができる。しかしながら、芳香族オキセタン化合物が溶媒の主成分として用いられると、インクジェットインクの粘度が著しく上昇してしまう。これを避けるために、脂肪族または脂環式のオキセタン化合物を添加することが望ましい。かかるオキセタンは、その脂肪族鎖または脂環構造内の一部にエーテル結合を含有した(ポリ)アルキレンオキシドやオキソラン構造であっても構わない。粘度適性を考慮すると、芳香族オキセタン化合物の含有量は、0〜40重量部の範囲であることが好ましい。
【0101】
ただし、印刷物にさらに溶解性の高い溶剤への耐性を要求される場合は、上述した範囲を越えて、芳香族オキセタン化合物の含有量を増加することができる。その場合には、粘度の上昇が引き起こされるため、低粘度エポキシ化合物や、アクリル側鎖にオキセタンを有する化合物、ビニルエーテル化合物のような低粘度化合物を組み合わせて用いることが望ましい。
【0102】
2価以上の脂肪族または脂環式オキセタン化合物としては、例えば、(ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサンや、ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ノルボルナンなどの脂環に1以上のオキセタン含有基が導入された化合物が挙げられる。また、エチレングリコールやプロピレンゴリコール、ネオペンチルアルコールなどの脂肪族多価アルコールに、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのようなオキセタン含有アルコールを脱水縮合させたエーテル化合物なども用いることができる。
【0103】
芳香族骨格を含むオキセタン化合物としては、例えば、1,4−ビス((1−エチル−3オキセタニル)メトキシ)ベンゼン、1,3−ビス((1−エチル−3オキセタニル)メトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス((3−エチル−3オキセタニル)メトキシ)ビフェニル、およびフェノールノボラックオキセタン類が挙げられる。
【0104】
これらの化合物のなかでも、粘度が低いため[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテルが好適に用いられる。オキセタン基を側鎖に有するアクリル化合物またはメタクリル化合物などを用いた場合も、粘度の上昇を抑えられるのに加えて、オキセタン化合物と同様の硬化加速効果を得ることができる。
【0105】
硬化速度の向上や印字画像の溶剤耐性に加えて、さらなる粘度の低下と硬化硬度の向上が要求される場合には、同様に下記一般式(6)で表わされるビニルエーテル化合物をインクジェットインク中に配合することが好ましい。かかるビニルエーテル化合物は、単独または組み合わせて用いることができる。
【化8】

【0106】
上記一般式(6)中、R13は少なくともひとつはビニルエーテル骨格を有する基であり、ビニルエーテル基、水酸基から選択される置換基を示す。R14は脂環式骨格あるいは環状エーテル化合物、テルペノイド骨格または芳香族骨格から選択されるp+1価の基であり、pは0を含む正の整数である。
【0107】
一般に、脂肪族グリコール誘導体やシクロヘキサンジメタノールなどのメチレン基に結合したビニルエーテル化合物は、通常よく知られている。このようなビニルエーテル化合物の重合反応は、顔料によって顕著に阻害され、かつ、比較的粘度も高いため、これまでインク成分として配合することが難しかった。前記一般式(6)で表わされるビニルエーテル化合物においては、脂環式骨格、環状エーテル化合物、テルペノイド骨格あるいは芳香族骨格に、少なくとも1つのビニルエーテル基が直接結合しており、顔料と同時に含有されても硬化性能に優れる。
【0108】
かかるビニルエーテル化合物は、前述のエポキシ化合物や、オキセタン化合物と組み合わせて使用することができる。あるいは、溶媒としての酸重合性化合物の全量を、このビニルエーテル化合物で構成してもよい。
【0109】
前記一般式(6)において(p+1)価の有機基R14としては、例えば、ベンゼン環やナフタレン環、ビフェニル環を含む(p+1)価の基、シクロアルカン骨格や、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、および、コレステロール骨格などの橋かけ脂環化合物から誘導される(p+1)価の基などが挙げられる。
【0110】
より具体的には、シクロヘキサン(ポリ)オール、ノルボルナン(ポリ)オール、トリシクロデカン(ポリ)オール、アダマンタン(ポリ)オール、ベンゼン(ポリ)オール、ナフタレン(ポリ)オール、アントラセン(ポリ)オール、ビフェニル(ポリ)オールなどの脂環ポリオールやフェノール誘導体おける水酸基の水素原子が、ビニル基に置換された化合物などが挙げられる。また、ポリビニルフェノールやフェノールノボラックなどのポリフェノール化合物における水酸基の水素原子が、ビニル基に置換された化合物などを用いることもできる。上述したような化合物は、水酸基の一部が残留していても、あるいは、脂環式骨格の一部のメチレン原子がケトン基やラクトン、酸素原子などに酸化あるいは置換されていても問題ない。こうした場合には、揮発性が低減するため望ましいものとなる。
【0111】
特に、シクロヘキシルモノビニルエーテル化合物は揮発性に富むため、シクロヘキシルモノビニルエーテル化合物が用いられる場合は、シクロヘキサン環は少なくともシクロヘキサノン環等に酸化されていることが望ましい。
【0112】
かかる化合物のなかでも、ビニルエーテル構造を含む置換基を有する環状エーテル化合物がより好ましい。硬化性や安全性の面では、酸素原子を含む5員環骨格を含み、橋かけ構造やスピロ構造を同時に有する環状エーテル骨格が最も好適である。こうしたビニルエーテル化合物は、相当するアルコール化合物と酢酸ビニルやプロペニルエーテルのようなビニルエーテル源を出発原料として、例えば、塩化イリジウムのような触媒を用いてアルコールをビニルエーテルに置換するような方法(J.Am.Chem.Soc.Vol124,No8,1590−1591(2002))を用いて、好適に合成することができる。
【0113】
また、上述した化合物のなかでも、テルペノイド骨格やノルボルナン骨格のような天然に多く存在する骨格を有するエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物は、コストの面で良好である。
【0114】
本発明の実施形態にかかる分散体を調製するための分散媒としては、一般油性インク溶剤やカチオン重合性溶剤のほか、ラジカル重合性溶剤を用いることもできる。ラジカル重合性溶剤は、光ラジカル発生剤を配合して、光硬化型インクジェットインクの溶媒として適用することもできる。
【0115】
ラジカル重合性溶媒としては、例えば、一般に知られているモノ〜ポリオールのアクリルまたはメタクリルエステル化合物などが挙げられる。モノアクリレートとしては安全性が高いため、テルペノイド骨格をエステル側鎖に有するアクリレートまたはメタクリレート化合物が好適に用いられる。例えば特開平08−82925号公報に開示されたようなアクリル系化合物が、モノマーとして好適に用いられる。例えば、ミルセン,カレン,オシメン,ピネン,リモネン,カンフェン,テルピノレン,トリシクレン,テルピネン,フェンチェン,フェランドレン,シルベストレン,サビネン,ジペンテン、ボルネン、イソプレゴール、またはカルボンなどの不飽和結合を有するテルペンの2重結合をエポキシ化し、アクリル酸またはメタクリル酸を付加させたエステル化合物が挙げられる。あるいは、シトロネロール,ピノカンフェオール,ゲラニオール,フェンチルアルコール,ネロール,ボルネオール,イソボルネオール、リナロール,メントール,テルピネオール,ツイルアルコール,シトロネラール,ヨノン,イロン,シネロール,シトラール,ピノール,シクロシトラール,カルボメントン,アスカリドール,サフラナール,ピペリトール、メンテンモノオール、ジヒドロカルボン、カルベオール、スクラレオール,マノール,ヒノキオール,フェルギノール,トタロール,スギオール、ファルネソール,パチュリアルコール,ネロリドール,カロトール,カジノール,ランセオール,オイデスモール、またはフィトールなどのテルペン由来アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル化合物を用いてもよい。これに加えて、密着性などの改善のためにアルキルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、脂環エポキシを側鎖に有するアクリレートなどの一般のアクリレートやメタクリレート化合物を例示することができる。
【0116】
また、上述したモノマーの反応性を高めるために、多官能アクリレート類も用いることができる。例えば、多価アルコール化合物のポリアクリレート化合物、多価芳香族アルコールのポリアクリレート化合物、多価脂環アルコールのポリアクリレート化合物、および置換基を有するスチレン系化合物などが挙げられる。かかるモノマーとして、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ネオペンチルアルコール、トリメチロールプロパンやペンタエリスト−ル、ビニルアルコール系オリゴマーなどのジ〜ポリアクリレート化合物、ウレタンアクリレート系化合物、フェノールやクレゾール、ナフトール、ビスフェノール、およびそれらのノボラック系縮合化合物やビニルフェノール系オリゴマーのジ〜ポリアクリレート化合物など、およびそれらが水添された、シクロヘキサン、水添ビスフェノール、デカヒドロナフタレン脂環や、テルペン系脂環、ジシクロペンタンやトリシクロデカン系脂環のジ〜ポリヒドロキシ化合物のジ〜ポリアクリレート化合物などが例示される。こうした化合物のアクリレート部位を、ビニルエーテルを含む基に置換した化合物もまた、好適に用いることができる。
【0117】
2価以上のアクリレートの具体的な化合物としては、以下のものが挙げられる。例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールアクリレートと1,9−ノナンジオールジアクリレート混合物、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、およびウレタンアクリレート類などである。
【0118】
さらに、商品名として大阪有機化学工業(株)のV#195、V#230、V#260、V#265、V#310HP、V#335HP、V#295、V#300、V#360、V#GPT、V#3PA、V#400、ダイセルUCB社のHDODA、DPGDA、TPGDA、PEG300DA、PEG400DA、Ebecryl11、IRR214、TMPTA、PETIA、Ebecryl160、Ebecryl2047、OTA480,Ebecryl53、Ebecryl40、共栄社化学(株)のライトアクリレート1.6HX−A、ライトアクリレート1.9ND−A、ライトアクリレートBEPG−A、ライトアクリレート3EG−A、ライトアクリレート4EG−A、ライトアクリレート9EG−A、ライトアクリレート14EG−A、ライトアクリレートNP−A、ライトアクリレートMPD−A、ライトアクリレートMOD−A、ライトアクリレートDCP−A、ライトアクリレートHPP−A、ライトアクリレートPTMGA−250、ライトアクリレートTMP−A、ライトアクリレートPE−3A、ライトアクリレートTMP−3EO−A、ライトアクリレートTMP−6EO−A、およびライトアクリレートPE−4Aなどが例示される。
【0119】
上述した化合物に加えて、オレフィン構造を置換基に有する化合物をラジカル重合性化合物として用いることもできる。一般に、オレフィンを構造内に有する脂肪族系化合物は、重合性に乏しく、5員環などの歪みの高い環構造を有するオレフィン骨格やスチレン骨格を置換基として有する場合に、特に好適に用いられる。例えば、上述した一連のアルコールとマレイン酸やノルボルネン骨格を有するモノマー化合物や、スチレンやヒドロキシスチレンの一部の水素原子がテルペノイド骨格など、他の脂肪族系炭化水素を有する置換基に変換されたモノマーなどが望ましい。
【0120】
上述したようなラジカル重合性化合物が溶剤として用いられる場合には、インクジェットインク中には、光ラジカル発生剤がさらに含有されることが望ましい。光ラジカル発生剤としては、例えば、商品名イルガキュアーやダロキュア(長瀬産業)で知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤を用いることができる。より具体的には、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン誘導体、例えばα−ヒドロキシ−もしくは、α−アミノセトフェノン、4−アロイル−1,3−ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、pp’−ジクロロベンゾフェン、pp’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾイルフォーメート、ゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインn−プロピルなどのベンゾインアルキルエ−テルやエステル、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシドまたはチタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントンまたはキサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物またはジハロメチル化合物、活性エステル化合物、および有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0121】
具体的な商品名としては、例えば、チバガイギー社のIRGACURE379、IRGACURE127、IRGACURE369、およびIRGACURE907などが挙げられる。これらの化合物に加えて、ジエタノールアミン類などの重合促進添加剤を含有させてもかまわない。
【0122】
本発明の実施形態にかかる分散体は、上述したような溶媒で希釈し、必要に応じてさらに光酸発生剤や光ラジカル発生剤のような光重合開始剤、添加剤等を添加して、インクジェットインクを調製することができる。
【0123】
光酸発生剤としては、すでに説明したオニウム塩を用いることができる。インクジェットインク中における光酸発生剤の含有量は、使用する光酸発生剤の酸発生効率や顔料の含有量などに応じて設定することができる。感光性の観点から、光酸発生剤は、インクジェット中の酸で重合する全溶媒に100重量部に対して、通常、2重量部乃至10重量部、好ましくは2重量部乃至8重量部、より好ましくは2重量部乃至6重量部の割合で添加される。
【0124】
特に、増感剤を同時に配合した場合には、光酸発生剤の添加量を1重量部乃至4重量部程度に低減することができる。これによって、配管およびヘッド部材といった金属部材の腐食も低減されるため、より望ましいものとなる。また、光ラジカル発生剤を同時に含む場合、光ラジカル発生に対する増感作用も同時に付与できる場合が多い。増感色素としては、例えば、アクリジン化合物、ベンゾフラビン類、ペリレン類、アントラセン類、チオキサントン化合物類、およびレーザ色素類などを挙げることができる。なかでも、ジヒドロキシアントラセンの水素原子を有機基で置換した化合物やチオキサントン誘導体などは含有されて効果が高いため望ましいものとなる。増感色素の添加量は、光重合開始剤に対して、通常20重量%乃至100重量%であり、より好ましくは30重量%乃至60重量%である。
【0125】
インクジェットインク中における溶媒100重量部に対する光重合開始剤の割合が1重量部未満の場合には、インクジェットインクの感度が低下する。一方、10重量部を越えると、分散の劣化や溶剤の暗重合のためインクの経時間的増粘が激しくなって、塗膜性や光硬化後のインク膜の硬度が低下する場合がある。また、記録装置の配管やヘッド部材の腐食が生じることもある。
【0126】
光酸発生剤として、比較的強力な他の酸を発生する非極性光酸発生剤を同時に配合することもできる。このような化合物としては、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルファミド化合物、有機ハロゲン化合物のいずれからか選択される光酸発生剤が望ましい。なかでも、強力なフルオロメタンスルフォン酸や、塩酸、臭素酸を発生するような化合物が、かかる光酸発生剤として望ましい。
【0127】
具体的には、非極性光酸発生剤としては、N−ヒドロキシナフタルイミドのトリフルオロメタンスルフォン酸イミドのようなスルファミド化合物、ハロゲン化トリアジン化合物などの有機ハロゲン化化合物などが挙げられる。例えば、溶媒100重量部に対して、オニウム塩化合物0.3乃至2重量部、非極性光酸発生剤2乃至10重量部の割合で配合されることが好ましい。
【0128】
本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、インクジェット記録に適用することができる。油性インクの場合、記録媒体は主に吸収媒体であり、この吸収媒体に残り像を形成し、そのまま印刷物として用いられる。また、乾燥性を有する溶媒を用いた場合には、溶媒は蒸発して記録媒体上にインク層が形成される。
【0129】
感光性インクジェットインクの場合、得られたインク層に光を照射すると、光重合開始剤からラジカルまたは酸が発生し、これらは重合性化合物の連鎖反応の開始剤や架橋反応の触媒として機能する。感光性インクジェットインクにおいては、上述した重合性化合物が溶媒の少なくとも一部として使用され、典型的には、溶媒のほぼ全量が重合性化合物で構成される。溶媒全体に対する重合性化合物の割合が十分に高ければ、印刷時に有機溶剤が揮発することは殆どない。したがって、有機溶剤の揮発に起因した雰囲気汚染の問題を防止することができ、排気設備や溶剤回収機構などが不要となる。
【0130】
また、後者の化学増幅型インクで発生した酸は、インク層内を拡散して触媒として機能する。酸の拡散および酸を触媒とした架橋反応は、加熱することにより加速することができ、この架橋反応はラジカル重合とは異なって、酸素の存在によって阻害されることがない。そのため、1つの光子で複数の架橋反応を生じさせることが可能であり、高い感度が得られる。しかも、インク層の深部や吸収性の記録媒体内部でも、架橋反応は速やかに進行することから、得られるインク層は、ラジカル重合系の場合と比較して密着性にも格段に優れる。
【0131】
したがって、このようなインクジェットインクを用いると、被印刷面にインクを吐出した後に光照射および若干の加熱を行なうことによって、インク層を速やかに非流動化することができる。すなわち、大規模な露光システムを必要とすることなく、高品質な印刷物が得られる。なお、得られる非流動性の膜は熱可塑性(熱による再流動性であって、性質持続時間は短時間であってもかまわない)を示すものであることが望ましい。
【0132】
また、このようなインクジェットインクでは、ラジカル重合を利用するインクジェットインクとは異なり、皮膚刺激や臭気が大きなラジカル重合性モノマーを使用する必要がない。そのため、本実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、取り扱いが容易である。
【0133】
このように、化学増幅型インクは、有機溶剤を使用する必要がなく、且つインク層を速やかに非流動化することが可能である。その結果、性質が異なる様々な被印刷面に対して、滲みなどを殆ど生じることなく容易に画像を定着させることができる。しかも、インク層の乾燥に伴なう被印刷面の劣化を生じ難い。さらに、本実施形態に係る分散体を用いたインクジェットインクは、色成分としての顔料を高濃度で含有することができるので、鮮明であり且つ耐候性に優れた印刷パターンを形成することができる。
【0134】
本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクのうち、化学増幅型インクは、基本的には加熱を必要とする感光性インクであるため、安全性や臭気の観点からインクの揮発性は低いことが望まれる。具体的には、露光後、かつ80℃における揮発速度が、0.2mg/cm2・min以下であることが望ましい。ここでの揮発量は、例えば開口面積10cm2の容器を加熱した場合、毎分あたりの揮発量(mg)を示す。この値は、容器の開口に依存するが、通常、直径6cmのシャーレに4gのインクを収容して常圧下、加熱した際の値と定義している。この範囲を逸脱した組成のインクは、加熱時の揮発速度が大きすぎて安全性が損なわれるとともに、臭気の問題が著しいものとなる。一方、揮発性が著しく乏しい、例えば0.00001mg/cm2・min以下のインクでは、通常は粘度が高くなってインクジェット吐出が困難である場合が多い。
【0135】
すでに説明したように、本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、ヘッドの温度において、5乃至20mPa・sec、常温において少なくとも50mPa・sec、より好ましくは30mPa・secの流動性を有していることが望まれる。こうした流動性を確保するため、n種の酸重合性化合物が混合して含有される場合には、下記数式(1)式で表わされるηtが3(mPa・s)以上30(mPa・s)以下であることが好ましく、ヘッドの温度において5(mPa・s)以上20(mPa・s)以下の範囲内の組成であることがより望ましい。
【数1】

【0136】
χ1,χ2,χ3,・・・,χnは、各成分の重量組成比率であり、η1,η2,η3・・・,ηnは、各成分単独の常温常圧での粘度である。
この範囲を逸脱すると、インクの吐出が著しく困難になるか、吐出の乱れによる像の乱れが生じやすい。
【0137】
本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、光を照射することにより硬化させて、インク層を形成する。硬化後のインク層が十分な熱可塑性や再溶解性を有している場合には、液体インクを像担持体上に吐出してインク層を形成した後、このインク層を記録媒体上に転写することができる。すなわち、インクジェットインクを像担持体上に吐出してインク層を形成し、このインク層に光照射および加熱を行なうことによって硬化させる。さらに、このインク層に記録媒体を接触させた状態で圧力、あるいは圧力と熱とを加えることによって、再流動化または可塑化させて、記録媒体上へ転写することができる。
【0138】
また、インクジェットインクを記録媒体上に直接吐出した場合には、記録媒体上に形成したインク層に光照射および加熱を行なうことによって、硬化または予備硬化させる。さらに、このインク層に熱を加えることによって本硬化させて記録媒体上に定着させることも可能である。
【0139】
本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、インクジェット吐出の安定性が高いことが望まれるが、一般に、経時的粘度増加が高い傾向にあり、長期間にわたって性能を維持できない場合がある。こうした場合には、塩基性化合物および塩基性を発現する化合物の少なくとも一方を、粘度安定化剤としてさらに配合することが望ましい。塩基性化合物は、記録装置のインクジェットヘッド内部や、インク配管の金属部分の酸からの腐食を著しく低減させる効果も同時に有する。このため、塩基性化合物は、本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインク全般に添加することが好ましい。
【0140】
塩基性化合物としては、上述したような酸重合性化合物に溶解可能な任意の無機塩基および有機塩基を使用することができるが、溶解性を考慮すると有機塩基がより望ましい。有機塩基としては、例えば、アンモニアやアンモニウム化合物、置換または非置換アルキルアミン、置換または非置換の芳香族アミン、ピリジン、ピリミジン、およびイミダゾールなどのヘテロ環骨格を有する有機アミンが挙げられる。より具体的には、n−ヘキシルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロウンデカン、3−フェニルピリジン、4−フェニルピリジン、ルチジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、4−メチルベンゼンスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、および1,3−ベンゼンジスルホニルヒドラジドのようなスルホニルヒドラジドなどが挙げられる。
【0141】
塩基性化合物としては、アンモニウム化合物を用いることもできる。好ましいアンモニウム化合物としては、第四級アンモニウム塩が挙げられる。例えば、アンモニウム原子の置換基として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ドデシル、フェニル、ベンジルなどであり、対イオンが水酸イオン、-ORであって(Rは炭素数1乃至4のアルキル基)、-OCOR’(R’はアルキル、アリール、アルキルアリール)、OCOO- 、OSOO- で表わされるアニオンが好ましく用いられる。特に好ましくは、水酸化テトラメチルアンモニウム、および水酸化テトラブチルアンモニウム塩などが挙げられる。これらの塩基性化合物は、単独であるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0142】
イミダゾールなどの極めて強力な塩基性化合物が配合された場合には、例えば逆に経時重合を生じたり、あるいは光酸発生剤の分解などの副反応を生じやすくなるおそれがある。一方、塩基性の低すぎる化合物では、添加による粘度安定化の効果を十分に得ることが困難になる。例えば、好適な水溶液の状態での温度25℃における塩基解離定数pKbが4以上の塩基性化合物が望ましく、pKbが11を越える化合物では殆ど効果がみられない。そのような条件を満たす化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、アニリン誘導体、アミノナフタレン誘導体、その他の含窒素ヘテロ環化合物およびその誘導体が好適である。
【0143】
ピリジン誘導体としては、例えば、2−フルオロピリジン、3−フルオロピリジン、2−クロロピリジン、3−クロロピリジン、3−フェニルピリジン、2−ベンジルピリジン、2−ホルミルピリジン、2−(2′−ピリジル)ピリジン、3−アセチルピリジン、2−ブロモピリジン、3−ブロモピリジン、2−ヨードピリジン、3−ヨードピリジン、および2,6−ジ−tert−ブチルピリジン等を挙げることができる。
【0144】
アニリン誘導体としては、例えば、アニリン、4−(p−アミノベンゾイル)アニリン、4−ベンジルアニリン、4−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3−5−ジブロモアニリン、2,4−ジクロロアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3−ニトロアニリン、N−エチルアニリン、2−フルオロアニリン、3−フルオロアニリン、4−フルオロアニリン、2−ヨードアニリン、N−メチルアニリン、4−メチルチオアニリン、2−ブロモアニリン、3−ブロモアニリン、4−ブロモアニリン、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、3−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、ジフェニルアミン、2−ビフェニルアミン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、および4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン等を挙げることができる。
【0145】
アミノナフタレン誘導体としては、例えば、1−アミノ−6−ヒドロキシナフタレン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン、ジエチルアミノナフタレン、および、N−メチル−1−ナフチルアミン等を挙げることができる。
【0146】
その他の窒素ヘテロ環化合物およびその誘導体としては、例えば、シノリン、3−アセチルピペリジン、ピラジン、2−メチルピラジン、メチルアミノピラジン、ピリダジン、2−アミノピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、2−アミノ−5−ニトロピリミジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、ピロール、ピラゾール、1−メチルピラゾール、1,2,4−トリアゾール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、キナゾリン、キノリン、3−アミノキノリン、3−ブロモキノリン、8−カルボキシキノリン、3−ヒドロキシキノリン、6−メトキシキノリン、5−メチルキノリン、キノキサリン、チアゾール、2−アミノチアゾール、3,4−ジアザインドール、プリン、8−アザプリン、インドール、およびインドリジン等を挙げることができる。
【0147】
これらの中でも、塩基性化合物がアニリン誘導体である場合には、粘度安定性、揮発性、塩基性、さらに低副反応性の点で特に望ましいものとなる。
ただし、アニリン化合物は、塩基性が低いために、一般に化合物自体が塩基性を有しているオキセタン化合物との組み合わせでは望ましくない。オキセタン化合物としては、より塩基性の高い化合物が望ましく、例えば25℃でのpKbが7以下3以上の化合物である。より具体的には、脂肪族骨格を有するアミンや脂環骨格を有するアミンのような塩基性化合物を、好適に用いることができる。
【0148】
また、上述したような塩基性化合物がアニオンと塩を形成し、しかもアニオンの酸性度が低い場合には、化合物自体が弱い塩基としての作用があるので同様に用いることができる。
【0149】
本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、基本的には露光後加熱を必要とすることから、上述したような塩基性化合物もまた、その揮発性は極力低いことが望ましい。具体的には、塩基性化合物の沸点は常温で150℃以上、より好ましくは180℃以上であることが望ましい。
【0150】
塩基性化合物あるいは塩基性を発現する化合物の配合量は、光酸発生剤の総モル量に対して、30モル%以下1モル%以上の割合とすることが望ましい。より好ましくは、光酸発生剤の総モル数に対して15モル%以下2モル%以上である。こうした化合物の配合量が多すぎる場合には感度が著しく低下し、少なすぎる場合には粘度の安定化効果を十分に得られないおそれがある。
【0151】
光または放射線の照射により分解される感光性塩基性化合物を用いた場合には、塩基添加に伴なう感度の低下を低減することができるため、望ましいものとなる。
感光性塩基性化合物としては、スルホニウム化合物あるいはヨードニウム化合物を好適に用いることができる。スルホニウム化合物としては、例えば、下記一般式(SS1)、(SS2)、(SS3)、(SS4)で示される化合物が例示される。
【化9】

【0152】
(式中、R31、R32、およびR33は、それぞれアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、あるいはアルキル基、アルキルアリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、フェノキシ基、チオフェノール基、フェニルスルホニル基またはフェニルスルフェニル基により置換されたアリール基であり、Yは、CH2、OまたはSである。R34、R35、R36、およびR37は、おのおのアルキル基、アルコキシ基、またはハロゲン原子であり、X1-は、塩基性陰イオンを表わす。)
31、R32、およびR33としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、キシリル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロピルオキシフェニル基、ブチルオキシフェニル基、tert−ブチルオキシフェニル基、フェノキシフェニル基、チオフェノキシフェニル基、フェノキシフェニル基、チオフェノキシフェニル基、およびフェニルスルホニルフェニル基が挙げられる。
【0153】
34、R35、R36、およびR37としては、好ましくはアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子または臭素原子が挙げられる。
【0154】
X1-としては、水酸イオン、-OR(RはC1〜C4のアルキル基)、-OCOR’(R’はアルキル基、アリール基またはアルキルアリール基)、OCOO- 、OSOO- で表わされるアニオンが挙げられる。
【0155】
ヨードニウム化合物としては、下記一般式(IS1)、(IS2)、(IS3)、(IS4)で示される化合物が好ましい。
【化10】

【0156】
上記一般式中、R38、R39は、おのおのアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、あるいはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、フェノキシ基、チオフェノール基、フェニルスルホニル基またはフェニルスルフェニル基によりモノ、ジまたはトリ置換されたアリール基である。YはCH2、OまたはSであり、R40、R41、R42、R43は、おのおのアルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子であり、nは5または6であり、X2-は、塩基性陰イオンである。
【0157】
38、R39としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、キシリル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロピルオキシフェニル基、ブチルオキシフェニル基、tert−ブチルオキシフェニル基、フェノキシフェニル基、チオフェノキシフェニル基、フェノキシフェニル基、チオフェノキシフェニル基、およびフェニルスルホニルフェニル基が挙げられる。
【0158】
40、R41、R42、およびR43としては、好ましくはアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子または臭素原子が挙げられる。
【0159】
X2-としては、好ましくは水酸イオン、-ORはC1〜C4アルキル基本、-OCOR’(R’はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基)、OCOO-、OSOO-で表わされるアニオンが挙げられる。
【0160】
スルホニウム化合物、ヨードニウム化合物として特に好ましいものとしては、例えば、トリフェニルスルフォニウムアセテート、水酸化トリフェニルスルホニウム、トリフェニルスルホニウムフェノレート、水酸化トリス−(4−メチルフェニル)スルホニウム、トリス−(4−メチルフェニル)スルホニウムアセテート、トリス−(4−メチルフェニル)スルホニウムフェノレート、水酸化ジフェニルヨードニウム、ジフェニルヨードニウムアセテート、ジフェニルヨードニウムフェノレート、水酸化ビス−(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス−(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムアセテート、ビス−(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムフェノレート、チオフェニル置換されたトリフェニルスルフォニウムアセテート、およびチオフェニル置換されたトリフェニルスルフォニウムヒドロキサイドなどが挙げられる。
【0161】
上述した塩基性化合物に加えて、他の塩基性化合物を添加することもできる。また、感度、保存安定性の点で良好な結果を得るには、光酸発生剤および塩基性化合物がいずれもスルホニウム系化合物やヨードニウム系化合物のように、同種の化合物であることが好ましい。
【0162】
あるいは、本来は塩基性でない化合物が、経時的に分解して塩基性化合物が生成される場合も、徐々に発生される酸を中和することができるため望ましいものとなる。このような化合物としては、熱により塩基を発生する化合物が使用可能であり、例えば、NBC−101(商品名:みどり化学株式会社製)、およびα,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルカルバメートなどのカルバメート化合物などが挙げられる。
【0163】
さらに、本発明の実施形態に係る分散体を用いたインクジェットインクには、表面張力等を調整するために、少量のノニオン系またはイオン系界面活性剤や帯電剤のような低分子添加剤を添加することができる。低分子添加剤としてカチオン系添加剤を使用する場合には、酸性度がカルボン酸より低い化合物を選択することが望ましい。カチオン系添加剤のなかには、インクの硬化暗反応を促進するものもあるからである。また、強い塩基性を有する低分子添加剤や色素なども、インクの感度を低下させるのみならず、同様に硬化暗反応を促進することがある。こうした不都合を避けるため、低分子添加剤は中性に近いものやノニオン系が望ましい。
【0164】
被印刷面が強い塩基性である場合、本発明の実施形態にかかる分散体を用いたインクジェットインクは、例えば、前述のラジカル重合性化合物をさらに配合することによって、その影響を低減することができる。これは、顔料や被印刷面が酸によって影響を受け易い場合にも、適用できる。ラジカル重合性化合物としては、例えば、アクリルまたはメタクリル系モノマー、スチレン系モノマー、それらのビニル系の重合性基を複数有する化合物などを挙げることができる。また、ビニルエーテル系化合物を含有する場合、アクリル系モノマーと組み合わせるか、さらに単独でもラジカル重合できる。同様に、ダイセル化学製CEL2000、エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルアルコール誘導体とアクリル、メタクリルなどのエステル化合物のように、カチオン重合性とラジカル重合性との双方の特性を有する化合物をさらに添加した場合には、ラジカル重合性およびカチオン重合性の利点が得られる。この場合、前述の商品名イルガキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、およびビスアジドのような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させることができる。こうした手法は、硬化後のインク層により高い耐薬品性を付与させたい場合にも適用することができる。
【0165】
本実施形態に係る分散体を用いたインクジェットインクは、通常、水または有機溶剤のような揮発成分を極力含まないように調製することが望まれる。しかしながら、前述の一般の有機溶剤のなかから、例えば、メチルエチルケトン、プロピレングリコール系溶媒、乳酸エチル、キシレン、水などのように原材料の調製時に使用する有機溶剤や湿気などは、微量であれば不可避的に混入していてもよい。また、例えば、排気機構や溶媒回収機構を設けた場合には、所望の印刷物を得る目的などで、少量の有機溶媒を含有させてもよい。この場合、安全性の観点からは、水、アルコール類、アイソパーやテルペンのような成分を使用することが望ましい。
【0166】
本実施形態に係る分散体を用いたインクジェットインクのうち、像形成能力を化学増幅機構に依存しているものは、露光によって光酸発生剤から酸が発生し、この酸が加熱によって拡散して架橋反応もしくは分解反応の触媒として機能する。このため、このインクジェットインクでは、著しい塩基性イオンの存在は感度低下の要因となる。したがって、液体インクの調製過程はもちろん、構成成分のそれぞれの製造過程でも大量の塩基性イオンが混入しないよう留意することが望ましい。
【0167】
次に、図面を参照して、上述したようなインクジェットインクが用いられる記録装置のうち、化学増幅型インクに使用できる加熱機構のついた印字方法および記録方法を説明する。
【0168】
図1は、上述したようなインクジェットインクを用いて記録を行なうための典型的な記録装置の概略的に示す図である。図示するインクジェット記録装置1は、記録媒体2を搬送する搬送機構3を備えている。搬送機構3の移動方向に沿って上流側から下流側には、インクジェット式の記録ヘッド4、光源5、および加熱機構6としてのヒーターが順次配置されている。
【0169】
記録媒体(あるいは、被印刷物)2は、印刷可能な媒体であれば特に限定されるものではない。記録媒体2としては、例えば、紙、OHPシート、樹脂フィルム、不織布、多孔質膜、プラスチック板、回路基板、および金属基板などを使用することができる。
【0170】
搬送機構3は、例えば、記録媒体2が記録ヘッド4、光源5、およびヒーター6の正面を順次通過するように媒体2を搬送する。ここでは、搬送機構3は、記録媒体2を、図中、右側から左側へ向けて搬送する。搬送機構3は、例えば、記録媒体2を移動させるベルトおよび/またはローラと、それを駆動する駆動機構とによって構成することができる。また、搬送機構3には、記録媒体2の移動を補助するガイド部材などをさらに設けてもよい。
【0171】
記録ヘッド4は、画像信号に対応して記録媒体2上にインクジェットインクを吐出して、インク層を形成する。記録ヘッド4としては、例えば、キャリッジに搭載されたシリアル走査型ヘッドや、記録媒体2の幅以上の幅を有するライン走査型ヘッドを使用することができる。高速印刷の観点では、通常、後者のほうが前者に比べて有利である。記録ヘッド4からインクジェットインクを吐出する方法には、特に制限はない。例えば、発熱体の熱により発生する蒸気の圧力を利用してインク滴を飛翔させることができる。あるいは、圧電素子によって発生する機械的な圧力パルスを利用して、インク滴を飛翔させてもよい。
【0172】
光源5は、記録媒体2上のインク層に光を照射して、インク層中に酸を発生させる。光源5としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、タングステンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、レーザと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザシステム、高周波誘起紫外線発生装置、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。これらのなかでも、システムを簡便化できることから、高周波誘起紫外線発生装置、高・低圧水銀ランプや半導体レーザなどを使用することが望ましい。光源5には、必要に応じて集光用ミラーや走引光学系を設けてもよい。
【0173】
加熱機構6としてのヒーターは、記録媒体2上のインク層を加熱して、酸を触媒とした架橋反応を促進する。具体的には、ヒーターとしては、例えば、赤外ランプ、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)、温風または熱風を吹き出すブロワなどを使用することができる。
【0174】
こうした装置1を用いて、例えば以下のような方法により記録媒体に印刷を行なうことができる。
まず、搬送機構3により記録媒体2を、図中、右側から左側へ向けて搬送する。記録媒体2の搬送速度は、例えば、0.1m/min乃至数100m/minの範囲内とすることができる。
【0175】
記録媒体2が記録ヘッド4の正面まで搬送されると、記録ヘッド4は画像信号に対応して、上述のインクジェットインクを吐出する。これにより、記録媒体2上に所定のインク層(図示せず)が形成される。
【0176】
インク層を有する記録媒体2は、光源5の正面へ搬送される。記録媒体2が光源5の正面を通過する際、光源5は記録媒体2上に形成されたインク層に向けて光を照射して、インク層中に酸を発生させる。なお、インク層表面の位置における照射光強度は、使用する光源の波長などに応じて異なるが、通常、数mW/cm2乃至1KW/cm2の範囲内とすることができる。インク層への露光量は、インクジェットインクの感度や被印刷面の移動速度(記録媒体2の搬送速度)などに応じて、適宜設定することができる。
【0177】
続いて、記録媒体2は、ヒーター6内あるいはその近傍へ搬送される。記録媒体2がヒーター6内あるいはその近傍を通過する際、ヒーター6は記録媒体2上に形成されたインク層を加熱して、インク層中での架橋反応を促進する。なお、図1に示す装置1においては、通常、ヒーター6による加熱時間は数秒乃至数10秒程度と比較的短い。したがって、ヒーター6によりインク層の硬化をほぼ完全に進行させる場合は、最高到達温度が例えば200℃程度以下、望ましくは60℃乃至200℃あるいは80℃乃至180℃程度の比較的高い温度となるように加熱を行なう。
【0178】
その後、記録媒体2は図示しないストッカー(あるいは容器)内へと搬送される。こうして、印刷が完了する。
インク層を加熱するための加熱機構は、図1に示したように光源の下流に配置されたヒーター6に限定されるものではない。例えば、インク層への露光の際、被印刷面を損なわない程度に光源5を記録媒体2に近づけることによって、光源5を熱源としても利用することができる。コールドミラーのような除熱機構を光源に設けないことによって、同様に光源を熱源として利用してもよい。数百ワットの高出力バルブの場合には、冷却機構を同時に有しているので、その排熱機構の一部を変更して、意図的にその熱を紙面に還元する機構を設ければよい。これによって、光源から発生する熱によって、インク層を加熱することができる。
【0179】
例えば、光源を冷却した気流を紙面や搬送/保持機構内に再導入して、加熱に用いる機構を有する百w以上の出力の光源が該当する。光源の熱の還元による記録媒体の到達温度は、上述したヒーターによる加熱と同程度の効果が得られる温度とすればよい。好ましい温度は、加熱時間に依存するが、通常少なくとも60℃以上、より好ましくは80℃から100℃である。また、露光速度が数m/秒と高速な場合には、瞬間的に加熱されるために180℃程度の高温としてもよい。
【0180】
光源5として、例えば可視光に加えて赤外光を発生し得るものを使用した場合には、光照射と同時に加熱を行なうことができる。この場合には、硬化を促進させることができるので好ましい。
【0181】
インク層に光を照射すると、光源5から発生する熱によってインク層が加熱されるため、加熱機構は、ヒーター6のように必ずしも独立した部材として設ける必要はない。しかしながら、光源5からの熱のみで常温で放置してインク層を完全に硬化させるには長時間を要する。したがって、常温放置は、完全硬化までに充分に長い時間を確保できる用途に適用することが望まれる。例えば、翌日に配布される新聞公告のような印刷物は、硬化までに要する時間を一昼夜程度と長く確保することができるので、常温放置でも完全硬化させることができる。
【0182】
このような記録方法とインクにより形成された画像は、印字品質のみならず、硬化性能も高く、硬度、密着性、耐光性、および安全性の全てにおいて優れたものとなり得る。硬化後の印字は、有害物の輻射がほとんどないことに加えて、露光中の重量減においても、10%以内に抑えられる。このため、印刷雰囲気の飛散物も極力低減されて、望ましいものとなる。
【0183】
先に説明したように、上述したようなインクジェットインクで使用される顔料は、発色・着色性に加えて、磁性、蛍光性、導電性、誘電性、および電磁波発熱性等のような他の性質をさらに示すものであってもよい。そのような顔料を含有したインクジェットインクを使用した場合、様々な機能を印刷物に付与することが可能である。以下、その例を幾つか示す。
【0184】
最初に、磁性を有する顔料を含有するインクジェットインクについて説明する。
まず、顔料として磁性を有する粉体を含有したインクジェットインクを調製する。このインクジェットインクは、基本的には、すでに説明したものと同様の方法により調製することができる。すなわち、顔料を磁性粉に変更する以外は同様の方法により分散体を作製し、これを希釈してインクジェットインクが得られる。磁性粉としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、およびそれらの合金や酸化物などを用いることができる。
【0185】
次に、このインクジェットインクを記録媒体上に吐出してバーコードパターンのようなパターンを描く。インク吐出後、速やかにインク層に紫外線のような光を照射する。この際の照射量は、インクジェットインクにおける顔料の含有量やその感光性などに応じて設定することができ、通常は数百mJ乃至千数百mJ程度である。光照射直後の状態でもインク層の粘着性や流動性は失われるが、ストッカー内で常温乃至60℃に維持することによって、インク層を完全に硬化させることができる。このようにして硬化したインク層は磁性を有しているため、磁気ヘッドなどの磁性検出機構により、画像情報以外の二次情報を読み取ることが可能となる。
【0186】
次に、導電性顔料を含有したインクジェットインクについて説明する。
まず、顔料として導電性を有する粉体を含有したインクジェットインクを調製する。このインクジェットインクを調製するには、導電性顔料を含有する分散体を作製する。導電性顔料としては、例えば、銀、金、銅、アルミニウム、炭素、ニッケル、鉄、コバルト、鉛、錫、アンチモン、それらの任意の組み合わせの合金粉末、およびそれらと有機物との複合体などが挙げられる。すなわち、こうした導電性顔料を用いる以外は、前述と同様の方法により、導電性顔料を含むインクジェットインクを作製することができる。最終的に得られるインク層中の樹脂含有量を低減して導電性を高める目的で、インクジェットインク中の重合性化合物の含有量を低減するとともに、インクジェットインクに有機溶剤を添加してもよい。
【0187】
得られたインクジェットインクを絶縁基板のような記録媒体上に吐出して、線パターンのようなパターンを描く。インク吐出後、速やかにインク層に紫外線のような光を照射する。この際の照射量は、インクジェットインク中における顔料の含有量やその感光性などに応じて設定することができ、通常は数百mJ乃至千数百mJ程度である。光照射直後の状態でもインク層の粘着性や流動性は失われるが、ストッカー内で常温乃至60℃に維持することにより、インク層を完全に硬化させることができる。また、インク層に熱および圧力を加えると、導電性はよりいっそう高められる。さらに、導電性顔料として比較的低融点の合金粉末を使用した場合には、その流動温度までインク層を加熱して導電パターンを得ることもできる。こうして得られる印刷パターンは導電性を有しているため、回路パターンや抵抗パターンとして使用することが可能である。
【0188】
さらに、バリウム鉛、ビスマス、イリジウム、ルテニウム、タンタル、白金、チタン、ストロンチウム、クロムなどの合金やその酸化物、セラミック粉末のような誘電体粉末を顔料として含有したインクジェットインクを使用した場合には、キャパシタやインダクタの誘電体層を形成することも可能である。この場合、パターン形成後に焼成することによって、その特性を向上させることができる場合がある。また、酸化チタン粉末のように光触媒機能や殺菌能力を有する顔料を含有したインクジェットインクを使用した場合、そのような機能を有する印刷パターンを形成することも可能である。電磁波発熱性粉体としては、例えば電磁波発熱性セラミックスやシリコン樹脂が例示される。これらは、電磁波を照射して、印字部分を選択的に加熱するなどの用途に用いることができる。かかる粉体は、上述したようなインクジェットインク全般の電磁波加熱性を向上することに用いることが可能である。
【0189】
さらに、こうしたインクを用いて、重ね印刷や比較的厚みのある印刷パターンを形成することも可能となる。すなわち、記録媒体の所定の領域内でインクジェットインクの吐出と、それにより得られるインク層の硬化とを複数回繰り返すことによって、印刷の部分訂正や触覚的な画像認識が可能な浮き上がり部分を有する画像、例えば点字のようなハンデキャップ者向けの印刷パターン、等高線に対応して厚さを変化させた地形図のような印刷パターン、さらには数10μm以上の厚さを有するデバイスの一部などを形成することも可能である。
【実施例】
【0190】
以下、具体例を示して本発明の実施形態を詳細に説明する。
青色系顔料、ブラック系顔料、およびイエロー系顔料を用いて、種々の顔料分散体を製造した。
【0191】
青色系顔料分散体は、顔料としてPigment Blue 15:3を用いて、以下に説明する3種類の手法により製造した。
【0192】
(C−1)
Pigment Blue 15:3 100g、バナジウムアセチルアセトナート[V(acac)3]0.1モルの混合液を、クロロホルム中、超音波分散ヘッド(日本精機製)で処理しつつ60℃で4時間攪拌した。この際の雰囲気は、二酸化硫黄(SO2)(0.5atm=50.5kPa)および酸素(0.5atm=50.5kPa)とし、ヘッドの条件は、24KHz、300Wとした。反応液を水洗した後、クロロホルムを分別した。
【0193】
減圧下でクロロホルムを除去して表面修飾シアン顔料を得、これを減圧乾燥した。元素分析により同定したスルホン酸修飾率は、EDX元素分析法により1.8%と推測された。また、IR吸収の3200cm-1付近にブロードな吸収が現われ、同時に表面に水酸基が発生していることが確認された。
【0194】
上述の方法を、他の数種類の市販のフタロシアニン系顔料にも適用したところ、同様にスルホン酸基で修飾されたフタロシアニンが得られた。
【0195】
得られた表面修飾フタロシアニン60gを1500gの純水中に加え、30分撹拌してスラリーを得た。一方、第1の樹脂分散剤としてのエポキシ樹脂(ダイセル化学社製エポリード)をトルエンに溶解して、トルエン溶液を調製した。このトルエン溶液60gを、前述のスラリーに少量ずつ添加して、攪拌した。水に分散していたフタロシアニンは、トルエン側に徐々に移行したので、これを分別して、スプレードライ乾燥した。その後、オゾン処理により表面に再凝集防止処理を施し、これをカプセル化シアン顔料とした。この顔料をTEM(透過型電子顕微鏡)により観測したところ、顔料の表面にエポキシ樹脂によるカプセル状の膜が形成されていることが確認された。
【0196】
次に、使用するエポキシ樹脂の量を変化させて、第1の樹脂分散剤の含有量を調整した。さらに0.1ミリのジルコニアビーズとビーズミル(シンマルエンタープライゼス社)を用いて、周測8m/sec、予備分散媒としてのメチルエチルケトン(MEK)に再分散させて、分散体前駆体を得た。
【0197】
それぞれの分散体前駆体に対し、本分散媒としての溶剤を等量添加した。これを1時間攪拌した後、50℃50mmHgで攪拌しつつ1時間加熱し、さらに5mmHgで3時間加熱してMEKを除去した。同様にして、下記表1に示すような種々の顔料分散体を製造した。本分散媒としては、C3000:セロキサイド3000(リモネンジオキサイド:ダイセル化学)、SR−NPG(ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)、DVE−3(トリエチレングリコールジビニルエーテル、ISPジャパン)、OXT−221([1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル:東亞合成(株)、乳酸エチル、ONB−DVE(2個のビニルエーテル含有基を有するオキサノルボルナン化合物:ダイセル化学工業(株)より入手)、IBA(イソボルニルアクリレート、アルドリッチ)のいずれかを用いた。
なお、溶剤を変換せずメチルエチルケトンをそのまま用いたものもある。
【0198】
(C−2)
Pigment Blue 15:3と、第1の樹脂分散剤としての末端アミノ基を有するポリエステル樹脂(アビシア社:ソルスパース32000)、ポリエステル樹脂に対して1/10量のシナジスト(アビシア社、ソルスパース5000)とを、予備分散媒としてのMEKに添加した。得られた混合物に、ホモジェナイザーで予備分散処理を施した。その後、0.1ミリのジルコニアビーズとビーズミル(シンマルエンタープライゼス社)で周測8m/sec、2時間循環処理して、表面被覆顔料のMEK溶液(分散体前駆体)を得た。顔料に対する第1の樹脂分散剤の比率を変更する以外は同様にして、種々のMEK溶液を調製した。
【0199】
この分散体前駆体を乾燥し、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観測したところ、顔料の表面にポリエステル樹脂からなる膜が形成されていることが確認された。一部のポリエステル樹脂が、顔料表面に吸着せず残留していることがわかったが、正確な樹脂被覆量は、次のように同定した。すなわち、遠心分離−デカンテーション、超音波(24KHz 300W)による再分散を繰り返した。その結果、余剰樹脂が洗い落とされた顔料分散体が作製された。この分散体中の顔料を熱分析(TG)することにより正確な樹脂被覆量を同定して、下記表1中に記した。
【0200】
それぞれの分散体前駆体に対し、本分散媒としての溶剤を等量添加した。これを1時間攪拌した後、50℃50mmHgで攪拌しつつ1時間加熱し、さらに5mmHgで3時間加熱してMEKを除去した。このようにして、下記表1に示すような種々の顔料分散体を製造した。
【0201】
(C−3)
Permajet Blue B2G(クラリアント社)をMEKに添加し、ホモジェナイザーで予備分散処理を施した。その後、0.1ミリのジルコニアビーズとビーズミルで周測8m/sec、2時間循環処理して、表面被覆顔料のMEK溶液(分散体前駆体)を得た。
【0202】
この分散体前駆体を乾燥し、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観測したところ、顔料の表面に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる膜が形成されていることが確認された。一部の樹脂(共重合体)は、顔料表面から脱離していることがわかったが、正確な樹脂被覆量は、次のように同定した。すなわち、遠心分離−デカンテーション、超音波(24KHz 300W)による再分散を繰り返した。その結果、余剰樹脂が洗い落とされた顔料分散体が作製された。この分散体中の顔料を熱分析法(TG)することにより正確な樹脂被覆量を同定して、下記表1中に記した。
【0203】
それぞれの分散体前駆体に対し、本分散媒としての溶剤を等量添加した。これを1時間攪拌した後、50℃50mmHgで攪拌しつつ1時間加熱し、さらに5mmHgで3時間加熱してMEKを除去した。このようにして、下記表1に示すような種々の顔料分散体を製造した。
【表1】

【0204】
ブラック系顔料分散体は、顔料としてSpecial Black 250(デグッサ社:カーボンブラック)を用いて、以下の手法により製造した。
Special Black 250(デグッサ社:カーボンブラック)と、第1の樹脂分散剤としての末端アミノ基を有するポリエステル樹脂(アビシア社:ソルスパース32000)と、このポリエステル樹脂に対して1/10量のシナジスト(アビシア社、ソルスパース5000)とを、顔料に対してさまざまな分散剤樹脂比率で予備分散媒としてのMEKに添加し、ホモジェナイザーで予備分散処理を施した。その後、0.1ミリのジルコニアビーズおよびビーズミル(シンマルエンタープライゼス社)を用い、周測8m/secで2時間循環処理して、表面被覆顔料のMEK溶液(分散体前駆体)を得た。顔料に対する第1の樹脂分散剤の比率を変更する以外は同様にして、種々のMEK溶液を調製した。
【0205】
この分散体前駆体を乾燥し、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観測したところ、顔料の表面にポリエステル樹脂からなる膜が形成されていることが確認された。一部のポリエステル樹脂が、顔料表面に吸着せず残留していることがわかったが、正確な樹脂被覆量は、次のように同定した。すなわち、遠心分離−デカンテーション、超音波(24KHz 300W)による再分散を繰り返した。その結果、余剰樹脂が洗い落とされた顔料分散体が作製された。この分散体中の顔料を熱分析(TG)することにより正確な樹脂被覆量を同定して、下記表2中に記した。
【0206】
それぞれの分散体前駆体に対し、本分散媒としての溶剤を等量添加した。これを1時間攪拌した後、50℃50mmHgで攪拌しつつ1時間加熱し、さらに5mmHgで3時間加熱してMEKを除去した。このようにして、下記表2に示すような種々の顔料分散体を製造した。本分散媒としては、C3000:セロキサイド3000(リモネンジオキサイド:ダイセル化学)、SR−NPG(ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)、OXT−221([1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル:東亞合成(株))、乳酸エチル、DVE−3(トリエチレングリコールジビニルエーテル、ISPジャパン社)、ONB−DVE(2個のビニルエーテル含有基を有するオキサノルボルナン化合物:ダイセル化学工業(株)より入手)、ISB−DVE(イソソルビトールのジビニルエーテル:ダイセル化学工業(株)より入手)、IBA(イソボルニルアクリレート、アルドリッチ)のいずれかを用いた。
【0207】
なお、溶剤を変換せずメチルエチルケトンをそのまま用いたものもある。
【表2】

【0208】
黄色系顔料分散体は、Pigment Yellow 150(クラリアント製)、Pigment Yellow 139(クラリアント製:Graphtol Yellow H2R)、およびPigment Yellow 180(クラリアント製:Toner Yellow HG)のいずれかを用いて、以下に説明する2種類の手法により製造した。
【0209】
(Y−1)
まず、Pigment Yellow 150(クラリアント製)、Pigment Yellow 139(クラリアント製:Graphtol Yellow H2R)、およびPigment Yellow 180(クラリアント製:Toner Yellow HG)を用意した。次に、第1の樹脂分散剤としての末端アミノ基を有するポリエステル樹脂(アビシア社:ソルスパース32000)と、このポリエステル樹脂に対して1/10量のシナジスト(アビシア社、ソルスパース22000)とを、予備分散媒としてのMEKに添加し、ホモジェナイザーで予備分散処理を施した。その後、0.1ミリのジルコニアビーズおよびビーズミル(シンマルエンタープライゼス社)を用い、周測8m/secで2時間循環処理して、表面被覆顔料のMEK溶液(分散体前駆体)を得た。顔料に対する第1の樹脂分散剤の比率を変更する以外は同様の手法により、種々のMEK溶液を調製した。
【0210】
この分散体前駆体を乾燥し、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観測したところ、顔料の表面にポリエステル樹脂からなる膜が形成されていることが確認された。一部のポリエステル樹脂が、顔料表面に吸着せず残留していることがわかったが、正確な樹脂被覆量は、次のように同定した。すなわち、遠心分離−デカンテーション、超音波(24KHz 300W)による再分散を繰り返した。その結果、余剰樹脂が洗い落とされた顔料分散体が作製された。この分散体中の顔料を熱分析(TG)することにより正確な樹脂被覆量を同定し、下記表中に記した。
【0211】
それぞれの分散体前駆体に対し、本分散媒としての溶剤を等量添加した。これを1時間攪拌した後、50℃50mmHgで攪拌しつつ1時間加熱し、さらに5mmHgで3時間加熱してMEKを除去した。このようにして、下記表に示すような種々の顔料分散体を製造した。本分散媒としては、C3000:セロキサイド3000(リモネンジオキサイド:ダイセル化学)、SR−NPG(ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)、OXT−221([1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル:東亞合成(株))、乳酸エチル、DVE−3(トリエチレングリコールジビニルエーテル、ISPジャパン社)、ONB−DVE(2個のビニルエーテル含有基を有するオキサノルボルナン化合物:ダイセル化学工業(株)より入手)、IBA(イソボルニルアクリレート、アルドリッチ)のいずれかを用いた。
なお、溶剤を変換せずメチルエチルケトンをそのまま用いたものもある。
【0212】
(Y−2)
Permajet Yellow HG(クラリアント製)をMEKに添加し、ホモジェナイザーで予備分散処理を施した。その後、0.1ミリのジルコニアビーズおよびビーズミルを用い、周測8m/secで2時間循環処理して、表面被覆顔料のMEK溶液(分散体前駆体)を得た。
【0213】
この分散体前駆体を乾燥しTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観測したところ、顔料の表面には、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体からなる膜が形成されていることが確認された。このとき、一部の樹脂は顔料表面から脱離していることが観測されたため、遠心分離−デカンテーション、超音波(24KHz 300W)による再分散を繰り返した。その結果、余剰樹脂が洗い落とされ、3種類の樹脂被覆量の分散前駆体が得られた。この分散前駆体について、熱分析法(TG)によって求めたそれぞれの樹脂の被覆量も、下記表中に記した。
【0214】
それぞれの分散体前駆体に対し、本分散媒としての溶剤を等量添加した。これを1時間攪拌した後、50℃50mmHgで攪拌しつつ1時間加熱し、さらに5mmHgで3時間加熱してMEKを除去した。このようにして、下記表に示すような種々の黄色系顔料分散体を製造した。
【表3】

【0215】
【表4】

【0216】
上述したように調製された顔料分散体に対して、第2の樹脂分散剤としてDAあるいはDBを添加した。分散剤DAは、アミン価が45である芳香族ポリエステルをアミン末端に結合させたポリアリルアミン化合物であり、分散剤DBは、アミン価が38である脂肪族ポリエステルをアミン末端に結合させたポリアリルアミン化合物である。さらに、分散媒に対して2.5重量%の割合でイオン性化合物を添加した。分散体中のイオン性化合物の濃度が1重量%未満の場合には、その効果が小さかったが、1乃至10重量%の範囲で良好な安定を示している。このため、本実施例では2.5乃至3.5重量%の濃度でイオン性化合物を配合した。ここで用いたイオン性化合物は、下記に示す化合物(C1)乃至(C4)、または(C5)(テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート)である。
【化10】

【0217】
その後、分散ヘッド(日本精機製:24KHz、600W)で、冷却しながら40℃以下の温度で1時間再分散し、再分散/分散安定化を行なった。
TEMの結果、添加した第2の樹脂分散剤は、90%以上の割合で第1の樹脂分散剤とともに顔料に吸着していることが観測された。正確な樹脂被覆量は、次のように同定した。まず、遠心分離−デカンテーション、超音波(24KHz 300W)による再分散を繰り返すことによって、余剰樹脂の洗い落とされた顔料分散体を作製した。この分散体の顔料を熱分析(TG)することにより正確な樹脂被覆量を同定して、下記表5乃至8中に記した。それぞれの顔料について、第2の樹脂分散剤を配合せずに比較例(Rf)の分散体を調製した。表5および表6には、青色系顔料分散体およびブラック系顔料分散体をそれぞれ示し、表7および8には、黄色系顔料分散体を示した。
【表5】

【0218】
【表6】

【0219】
【表7】

【0220】
【表8】

【0221】
上記表5乃至8中、第2の樹脂分散剤の含有量は顔料重量に対する%であり、イオン性化合物の含有量は全溶剤量に対する重量%を示す。
【0222】
表5乃至8に示した顔料分散体を、それぞれ65℃10日間放置して加速試験を行なった後、顔料粒子の粒子径(d1)を調べた。希釈後の粒子径を、HPPS測定器(マルバーン社製)により測定して求めたZ平均粒子径であり、熱加速試験後の粒子径は、65℃10日間保管後の熱加速試験後の粒子径である。
初期の粒子径(d0)からの粒子径の増加率(SA)により、次のように分散安定性を評価した。
【0223】
(加速試験後) SA=((d1−d0)/d0
A:SA<1.05
B:1.05≦SA<1.3
C:SA≧1.3
得られた結果を、下記表9乃至表12にまとめる。表9および表10には、青色系顔料分散体およびブラック系顔料分散体の結果をそれぞれ示し、表11および12には、黄色系顔料分散体の結果を示した。
【表9】

【0224】
【表10】

【0225】
【表11】

【0226】
【表12】

【0227】
上記表9乃至12に示されるように、いずれの顔料の場合も、第2の樹脂分散剤が含有されない比較例の分散体は、顔料の分散安定性が劣っている。
【0228】
上記表5乃至8に示した分散体のうちから数種を選択し、さらに、第2の樹脂分散剤の添加量を変化させた。その組成を、下記表13乃至16にまとめる。表13および表14には、青色系顔料分散体およびブラック系顔料分散体をそれぞれ示し、表15および16には、黄色系顔料分散体を示した。
【表13】

【0229】
【表14】

【0230】
【表15】

【0231】
【表16】

【0232】
各分散体の安定性を上述と同様の手法により評価し、その結果を、下記表17乃至20にまとめる。表17および表18には、青色系顔料分散体およびブラック系顔料分散体の結果をそれぞれ示し、表19および20には、黄色系顔料分散体の結果を示した。
【表17】

【0233】
【表18】

【0234】
【表19】

【0235】
【表20】

【0236】
上記表17乃至20に示されるように、基本的には、いずれの顔料の場合も、B以上の安定性を有している。
【0237】
表5乃至8,13乃至16に示した分散体からいくつか用いて、下記表21乃至23に示す処方によりインクジェットインクを調製した。下記表21、22、および23には、青色系顔料分散体、ブラック系顔料分散体、および黄色系顔料分散体を用いたインクをそれぞれ示した。
【0238】
下記表中、分散媒2として配合したOXT−221は、先述のオキセタン化合物(ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル:商品名:東亞合成製OXT221)であり,DVE−3はビニルエーテル化合物(トリエチレングリコールジビニルエーテル、ISPジャパン社)、C2021Pはエポキシ化合物(ダイセル化学社、セロキサイド2021P)、TMPTAはトリメチロールプロパントリアクリレート(アルドリッチ、5%のイルガキュア365(チバガイギー)を含む)、ELは乳酸エチルを示す。また、イオン性化合物または光酸発生剤としては、分散体と同様なものを用いて、表中の全溶媒に対する濃度になるように調整した。
【0239】
さらに、表5,6,および8に記載した比較例の分散体を用いて、比較例のインクジェットインク(LL−Rf)を調製した。
【表21】

【0240】
【表22】

【0241】
表22中の光酸発生剤量には、増感剤として添加されたジブトキシアントラセンも含まれており、この増感剤は、光酸発生剤の30重量%の量で用いた。
【表23】

【0242】
次に、図1に示したインクジェット記録装置1を用いて、各インクジェットインクの性能試験を行なった。
表21乃至23に示す処方で調製されたインクジェットインクは、1ミクロンのメンブランフィルターで濾過して準備した。記録媒体2としては通常の光沢紙を使用し、光源5としては出力230Wの超高圧水銀ランプを用いて、露光量は500mJ/cm2とした(ただし、LL−C5、LL−B5、およびLL−Y5は光を照射しなかった)。また、記録ヘッドの4温度は45℃に保ち、加熱機構6としては、出力600Wの赤外セラミックヒーターを用いた。
【0243】
形成されたインク層の鉛筆硬度、印字安定性、溶剤耐性、および印字画質を以下のように評価した。
印字安定性は、24時間あたりの吐出エラー頻度(回数)で示した。
溶剤耐性は、水、エタノール、およびアセトンの3種類の溶剤に対する耐性を調べて、次のように評価した。水のみに耐性を有するものは“1”とし、水およびエタノールに耐性を有するものを“2”とした。水、エタノールおよびアセトン全てに耐性があるものは、“3”とした。
画像品質は目視により判断して、問題があるものについてその状況を記した。なお、画像の若干の乱れ(ミス・ディレクション・ショットなど)が若干観測されるが、詳細に調べないとミスショットに気づかないレベルは“良好”とし、エラーショットが全く観測されないものは“優秀”とした。ミスディレクション・ショットが目立つが、印字の判読に支障のないレベルであれば、“可”とした。
【0244】
得られた結果を、各インクの加速試験評価とともに、下記表24乃至26にまとめる。下記表24には、青色インクについての結果を示す。なお、ELを溶剤とするものは硬化性のインクではないので、硬度や溶剤耐性は未測定とした。
【表24】

【0245】
上記表24に示されるように、実施例の青色インクは、いずれも加速試験や印字が安定しており、得られる画像の画質も優秀である。一方、比較例のインクは、粒子径が増加して吐出安定性に欠けており、また、画質も若干のミスディレクションが観測される平凡なものであることがわかる。
以上の結果から、青色系顔料は、分散媒の全重量に対して2重量部以上30重量部以下の割合で含有されていると、色彩および分散安定性が良好であることがわかる。また、第1の樹脂分散剤の最適な樹脂量は10%以上30%以下であり、第2の樹脂分散剤の添加量は顔料重量に対して5%以上30%以下であることがわかる。樹脂分散剤の含有量が少なすぎる場合には色感や分散安定性が悪く、一方、多すぎる場合には粘度や分散安定性などの問題が大きくなる。
【0246】
下記表25には、ブラックインクについての結果を示す。
【表25】

【0247】
上記表25に示されるように、実施例のブラックインクは、いずれも加速試験や印字が安定しており、得られる画像の画質も優秀である。一方、比較例のインクは、粒子径が増加して吐出安定性に欠けており、また、画質も若干のミスディレクションが観測される平凡なものであることがわかる。
以上の結果から、ブラック系顔料は、分散媒の全重量に対して2重量部以上30重量部以下の割合で含有されていると、色彩および分散安定性が良好であることがわかる。また、第1の樹脂分散剤の最適な樹脂量は10%以上30%以下であり、第2の樹脂分散剤の添加量は、顔料重量に対して5%以上30%以下であることがわかる。樹脂分散剤の含有量が少なすぎる場合には色感や分散安定性が悪く、一方、多すぎる場合には粘度や分散安定性などの問題が大きくなる。
【0248】
下記表26には、イエローインクについての結果を示す。
【表26】

【0249】
上記表26に示されるように、実施例のイエローインクは、いずれも加速試験や印字が安定しており、得られる画像の画質も優秀である。一方、比較例のインクは、吐出安定性に欠けており、また、画質も若干のミスディレクションが観測される平凡なものであることがわかる。
以上の結果から、黄色系顔料は、分散媒の全重量に対して2重量部以上30重量部以下の割合で含有されていると、色彩および分散安定性が良好であることがわかる。また、第1の樹脂分散剤の最適な樹脂量は10%以上60%以下であり、第2の樹脂分散剤の添加量は、顔料重量に対して1%以上30%以下であることがわかる。樹脂分散剤の含有量が少なすぎる場合には色感や分散安定性が悪く、一方、多すぎる場合には粘度や分散安定性などの問題が大きくなる。
【0250】
なお、いずれの顔料の場合も、第2の樹脂分散剤を用いずに顔料を分散媒に直接分散させてなる比較例のインクジェットインクでは、加速試験により増粒することが確認された。その結果、吐出におけるエラー回数も、実施例のインクより1桁近く多くなることが確認された。
【0251】
次に、粘度の異なる分散媒を用いて数種の分散体を製造し、分散媒として用いられる溶媒の粘度の影響を調べた。溶媒としては、SR−NPG、SR−16H(1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)、SR−TPG(トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)、SR−4PG(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)、およびSR−8EGS(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル:阪本薬品工業)を用意した。これらの分散媒は、いずれも1気圧における沸点が150℃以上である。
【0252】
顔料としてはPigment Yellow 139を用い、その濃度は全溶媒重量に対して25%とした。また、分散剤樹脂含有量は、顔料重量に対して20%とした以外は、前述のI-Y1(25)15s-bの場合と同様の手法により、5種類の黄色系顔料分散体を作製した。
【0253】
得られた顔料分散体に対して、第2の樹脂分散剤としてのDAおよびイオン性化合物としての(C2)を加えて、顔料分散体を調製した。DAの含有量は20%とし、(C2)の含有量は、溶媒に対して3.75重量%とした。最後に、希釈用溶媒(分散媒2)としてC3000を加えて、インクジェットインクを作製した。インクは、インク中の顔料濃度を4%とし、分散媒1と分散媒2の比率は重量比で1:1とした。
【0254】
得られた顔料分散体およびインクの粘度を、E型粘度計(東機産業製)により測定し、分散媒の粘度とともに下記表27に示す。また、各インクジェットインクを用いて、図1に示したインクジェット記録装置により性能試験を行ない、インクの印字安定性および画像品質を評価した。得られた結果を、下記表27に併記した。
【表27】

【0255】
上記表27の結果から、粘度が30mPa・s(25℃)以下の分散媒を用いたインクは、印字安定性および印字画像が優れていることがわかった。また、30mPa・sを越える粘度の分散媒を用いて作製したインクは、吐出エラーの頻度が多くなり、また、画質においてもミスディレクションが観測されるものであった。これより、顔料分散体に用いる分散媒としては、粘度30mPa・sec以下の分散媒がより好適に用いられることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0256】
【図1】本発明の実施形態にかかるインクジェットインクを用いるインクジェット記録装置の概略図。
【符号の説明】
【0257】
1…インクジェット記録装置; 2…記録媒体; 3…搬送機構
4…インクジェット式記録ヘッド; 5…光源; 6…加熱機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、
平均粒子径300nm以下のバリウムまたはチタンを含む金属酸化物の機能性色材と、
第一の樹脂分散剤および第二の樹脂分散剤を含む高分子分散剤と、
イオン性化合物とを含有し、
前記機能性色材の量は、前記分散媒の重量の2%以上60%以下であり、
前記第一の樹脂分散剤の量は、前記機能性色材重量に対して1%以上30%以下であり、
前記第二の樹脂分散剤は塩基性末端を有する樹脂であり、その量が、前記機能性色材の重量に対して2%以上30%以下であり、
前記イオン性化合物の量は全分散媒量の重量の0.01%以上40%以下であることを特徴とする機能性色材分散体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−144175(P2008−144175A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320982(P2007−320982)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【分割の表示】特願2005−49127(P2005−49127)の分割
【原出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】