説明

機能性透明有機高分子材料とその製造方法

【課題】 メガネレンズ、コンタクトレンズ、スポーツグラス、ルーペ等のレンズ、或いは顕微鏡、カメラ、望遠鏡、双眼鏡等の光学機器レンズ、その他、光コネクターや光ファイバー等の光通信用部材、紫外線カット繊維等の各種の用途に使用される透明有機高分子材料の機能と特性の改良のための複合化に関し、ハードコート層を表面処理したもののようにレンズ材料等の有機高分子材料の耐衝撃性を損なうことがなく、また紫外線吸収剤を添加、混練することによる従来の弊害を生じさせないようにすることを課題とする。
【解決手段】 膨潤した有機高分子材料の内部に、無機微粒子が注入、分散されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メガネレンズ、コンタクトレンズ、スポーツグラス、ルーペ等のレンズ、顕微鏡、カメラ、望遠鏡、双眼鏡等の光学機器レンズ、その他、光コネクターや光ファイバー等の光通信用部材、紫外線カット繊維等の各種の用途に使用される透明有機高分子材料の機能と特性の改良のための複合化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、メガネレンズ、コンタクトレンズ、スポーツグラス、光学機器レンズ等、各種の用途に使用されるレンズ材料として、従前では無機のガラス製のものが用いられていたが、ガラスに比べて軽量で、成形性や加工性が良く、割れにくく安全性も高い等の理由から、プラスチック等の有機高分子材料からなるレンズ材料が普及してきている。
【0003】
プラスチック製のものは、軟質で傷つき易いため、レンズ材料の表面に硬度の高いハードコート層を設けることによって耐擦傷性の向上が図られている。また、表面反射を防止する目的でハードコート層の表面に無機物質を蒸着した反射防止膜を設けている場合もある。さらに汚れ防止等の目的で、反射防止膜の表面に撥水膜を設けている場合もある。このような表面加工により、プラスチック製レンズの品質は高いものとなっている。
【0004】
しかしながら、このような表面加工済プラスチックレンズの問題点として、たとえば下記特許文献1には、「ハードコート層や反射防止膜の表面処理を施した合成樹脂製レンズは、一切表面処理を施していない合成樹脂製レンズと比較して耐衝撃性(物理的な面での)が弱く、また熱衝撃によりクラックが生じる可能性もあり、コート層にひび割れが入り易いという欠点がある。またレンズの重量も重くなり、眼鏡の使用感は低下する」旨が記載されている(明細書の〔0004〕)。
【0005】
一方、メガネレンズ、コンタクトレンズ等の眼鏡系レンズの場合、強い太陽光線に含まれる紫外線が角膜障害、水晶体障害、網膜光障害の原因となることが下記特許文献2や特許文献3で報告されており、紫外線から目を保護する手段として、レンズ材料の樹脂に紫外線吸収剤を添加、混練する手段等が開示されている。また、紫外線吸収剤を添加、混練することを開示する出願は数多く存在する。
【0006】
しかし、一般に紫外線吸収剤は低分子量であり、皮膚や体に接触した場合、皮膚内や体内に拡散し易く、逆に紫外線吸収剤による障害が生じることが懸念されている。また紫外線吸収剤が溶出するおそれもある(特許文献2の明細書〔0003〕)。さらに、紫外線吸収剤には多くの種類があり、たとえばベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系紫外線吸収剤でも種類によっては波長の吸収特性が異なり、同一使用量においても紫外線遮蔽効果が違う場合もあり、さらに多量に紫外線吸収剤を使用した場合、レンズ材料の重合を妨害するおそれもある(特許文献3の従来技術)。また、このような有機系紫外線吸収剤は、紫外線吸収効果が経時で失活するという不具合が生じる(非特許文献1)。さらに、レンズ表面に紫外線吸収能を有するコート層を付与することも行なわれているが、かかる方法では、コストが高くなるという問題がある(下記特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−13127号公報
【特許文献2】特許第3063041号公報
【特許文献3】特許第2523492号公報
【特許文献4】特許第3354066号公報
【非特許文献1】吹挙昌広,嶋田幸雄,松下電工技報,2,92(2001)
【0008】
本発明者等は、レンズ本体を構成する有機高分子材料と、所定の無機微粒子の前駆体と高圧流体との混合流体とを接触させる技術により、上記のようなハードコート層の表面処理や、紫外線吸収剤等の添加、混練等の技術の問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたもので、ハードコート層を表面処理したもののようにレンズ材料等の有機高分子材料の耐衝撃性を損なうことがなく、また紫外線吸収剤を添加、混練することによる上述のような弊害を生じさせないようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような課題を解決するために、機能性透明有機高分子材料とその製造方法としてなされたもので、機能性透明有機高分子材料に係る請求項1記載の発明は、膨潤した有機高分子材料の内部に、無機微粒子が注入、分散されていることを特徴とする。また請求項2記載の発明は、高圧流体と接触することによって、膨潤した有機高分子材料の内部に無機微粒子が注入、分散されていることを特徴とする。ここで、「膨潤」とは、有機高分子材料が膨潤する前の状態から膨潤した後の状態へ移行する際に、その有機高分子材料の内部で無機微粒子が移動しうる程度に膨らんだ状態をいい、発泡しているような状態にまで至っている必要はない。
【0011】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の機能性透明有機高分子材料において、有機高分子材料が、アリルジグリコールカーボネート、チオウレタン、エピチオ、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、又はポリスチレンの少なくとも1種によって構成されていることを特徴とする。
【0012】
さらに請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料において、無機微粒子が、銀、金、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、ガドリウム、鉛、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタンの少なくとも1種であることを特徴とする。無機微粒子として銀、金、銅、又はこれらの複数を混合した混合物を用いることによって、紫外線や近紫外青色光の波長領域の光の吸収性が生ずる。またガドリウムは磁性体になるので、これを注入、分散すると電磁波吸収材料になる。フェライト(酸化鉄)やガドリウムのような磁性体、酸化亜鉛や酸化チタンのような光触媒効果を有する金属酸化物が電磁波の吸収体となる。さらに鉛を用いた場合には、X線の遮蔽効果が生ずる。さらにチタンの酸化物は親水性を発現する。また鉄は耐熱性を発現する。無機微粒子全般に生ずる効果として、表面近傍の耐摩耗性、摺動性、硬度を向上させる効果がある。
【0013】
また、無機微粒子の前駆体としては、金属アルコキシド、アセチルアセトン錯体、カルボニル錯体などの有機金属化合物を利用できる。これらの前躯体は、高圧流体に溶解するため、高圧流体を介してプラスチック材料の内部に浸透させることができるのである。
【0014】
さらに請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料において、有機高分子材料の表面から10nmより深い部位に、無機微粒子が注入、分散されていることを特徴とする。表面から10nmより深い部位に無機微粒子を注入、分散させることとしたのは、10nmより表面に近い部位に無機微粒子が存在すると、その無機微粒子が剥離するおそれがあるからである。
【0015】
さらに、請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料において、有機高分子材料の内部の無機微粒子の重量含有率が、100ppm〜10%であることを特徴とする。無機微粒子の重量含有率が100ppm未満では、プラズモン効果が好適に生じず、また10重量%を越えると、材料の色が暗色となり、外観体裁が損なわれるおそれがあるからである。この観点からは、無機微粒子の重量含有率は1.5〜5.0重量%であることがより好ましい。
【0016】
ここで、「無機微粒子の重量含有率」とは、無機微粒子が分散している部分のみの有機高分子材料(有機高分子材料における一定の厚みを有する部分を想定している)の重量をW1 とし、その部分における無機物質の微粒子の重量をW2 とした場合に、W2 /W1 ×100(%)で表されるものをいう。
【0017】
さらに請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料において、無機微粒子の粒子径が、10〜30nmであることを特徴とする。この無機微粒子は、有機高分子材料の補強材であるという側面も有し、その観点からすると、無機微粒子の径は小さい程、有機高分子材料との相互作用が強くなり、そのために有機高分子材料の流動性が少なくなり、結果として複合材料として強固な材料となる。一般に100nm以下の粒径のものがナノ粒子と称されており、ナノ粒子は、上記のような補強材としての観点からも優れた特性を有している。
【0018】
また、ナノ粒子には、局在化プラズモン効果が発現することが知られている。プラズモンとは、金や銀などの貴金属表面で、光と共鳴(カップリング)する自由電子波のことをいう。一般に光は電子波とはカップリングしないが、金属表面ではその特殊性から光とカップリングを起こす電子波のモードが表面に一様に生じる。これを表面プラズモンと呼ぶ。電子波と光の分散関係から、金属表面ではエバネッセント波のみが表面プラズモンとカップリングする。一方、ナノメートルオーダーの金属ナノ粒子の表面では、電子波は特定の位置に局在化して光とカップリングを起こす。この電子波を局在化プラズモンという。ナノ粒子の表面では近接場光のみが局在化プラズモンと共鳴する。これらの共鳴(カップリング)によって、特定波長の光の領域を吸収することができる。特に、最外殻の自由電子が動きやすい金、銀、銅、アルミニウムなどの金属においてプラズモン吸収が観測されている。金は赤外線に近い領域、銀は近紫外線領域、銅は金と銀の間の領域の波長の光の吸収が認められている。また、プラズモン吸収の効果を得るためには、ある程度の自由電子の量が必要であり、経験的に、10nmから30nm程度の径の金属ナノ粒子が必要となっている。
【0019】
さらに機能性透明有機高分子材料の製造方法に係る請求項8記載の発明は、有機高分子材料に、無機微粒子の前躯体を溶解した高圧流体を接触させることによって有機高分子材料を膨潤させるとともに、高圧流体に同伴して前駆体を有機高分子材料の内部に注入し、次に高圧流体の圧力を維持した状態で温度を上昇させて、前駆体を無機微粒子に変換して、有機高分子材料に微粒子が注入、分散された機能性透明有機高分子材料を製造することを特徴とする。
【0020】
高圧流体としては、種々のものが利用できるが、有機高分子材料に対して浸透性の優れた、亜臨界流体や超臨界流体を用いるのが好ましい。流体の種類としては、例えば二酸化炭素(臨界温度:31.1℃、臨界圧力:7.38MPa)、亜酸化窒素(臨界温度:36.4℃、臨界圧力:7.24MPa)、トリフルオロメタン(臨界温度:25.9℃、臨界圧力:4.84MPa)、窒素(臨界温度:―147℃、臨界圧力:3.39MPa)、又はそれらの内の二種類以上の混合物を利用できる。
【0021】
さらに請求項9記載の発明は、有機高分子材料と、無機微粒子の前駆体とを別々の高圧セルに収容し、前駆体が収容された高圧セルに高圧流体を供給して前駆体を高圧流体に溶解し、次に前駆体を溶解した高圧流体を、有機高分子材料が収容された高圧セルに供給し、有機高分子材料に前駆体を溶解した高圧流体を接触させることによって前駆体を有機高分子材料に注入し、次に有機高分子材料が収容された高圧セルのみ、高圧流体の圧力を維持した状態で温度を上昇させ、前駆体を無機微粒子に変換して、有機高分子材料に無機微粒子が注入、分散された機能性透明有機高分子材料を製造することを特徴とする。
【0022】
さらに請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載の機能性透明有機高分子材料の製造方法において、無機微粒子の前駆体を有機高分子材料に注入する際に、高圧流体とともに、有機高分子材料又は前駆体の少なくともいずれかを溶解又は可塑化させうる溶剤を補助溶媒として添加することを特徴とする。補助溶媒が前駆体の良溶媒であれば、高圧流体中の前駆体の濃度を高めることによって好適に有機高分子材料に前駆体を注入することができ、また補助溶媒が有機高分子材料の良溶媒であれば、有機高分子材料の可塑化がより好適に進行することとなり、その結果、前駆体が有機高分子材料に注入され易くなるのである。従って、補助溶媒は有機高分子材料又は前駆体の少なくともいずれかに対する良溶媒であればよいが、双方に対する良溶媒であってもよい。
【0023】
さらに請求項11記載の発明は、請求項8乃至10のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料の製造方法において、無機微粒子の前駆体が、アルコキシド、カルボニル錯体、若しくはアセチルアセトン錯体、又はアルコキシド、カルボニル錯体、若しくはアセチルアセトン錯体を主成分とする金属錯体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明においては、膨潤した有機高分子材料内に、無機微粒子が注入、分散されているため、ハードコート層を表面処理した従来のレンズ材料等の有機高分子材料のように耐衝撃性を損なうことがなく、また一般の紫外線吸収剤を添加、混練することなく紫外線吸収効果を奏させることも可能となる。
【0025】
さらに、本発明による無機微粒子は経時的に劣化することが無く、一般に多用されている有機紫外線吸収剤と比べて、効果が半永久的に持続すると言う効果がある。
【0026】
また、有機高分子材料の表面から10nmより深い位置に微粒子を注入、分散させて透明有機高分子機能性材料を製造した場合には、その透明有機高分子機能性材料の表面が過酷な使用条件にさらされても、微粒子が有機高分子材料から脱離することがなく、微粒子分散層にヒビが入ることもないという効果がある。
【0027】
さらに、微粒子の粒子径が10nm以上30nm以下である場合には、紫外線吸収効果が一層良好になる他、材料があざやかな色彩になるという効果がある。
【0028】
さらに、本発明の透明有機高分子機能性材料の製造方法においては、有機高分子材料と、無機微粒子に変換される微粒子の前駆体を溶解した高圧流体とを接触させることによって、前記前駆体を有機高分子材料内に注入し、次に高圧流体の圧力を維持したまま温度のみを上昇させて、前駆体が注入された有機高分子材料と高圧流体とを接触させて有機高分子材料を膨潤させるので、前駆体から変換された無機微粒子は、膨潤した有機高分子材料の内部を移動し易くなり、1つの微粒子を核としてその微粒子の近辺の微粒子が結合し易くなり、結合した微粒子がナノ粒子となって有機高分子材料内で保持されることとなる。
【0029】
この点を詳細に説明すると、前駆体の注入後、高圧流体の圧力を保持した状態で温度上昇すると、高圧流体の密度が低下するため、有機高分子材料の内部に浸透している高圧流体に平衡状態で溶解していた前駆体が溶解しきれずに析出する。その際、膨潤した有機高分子材料の内部に析出するため、続く熱処理によって金属へと成長するための核を好適に形成することができるという効果が生じるのである。
【0030】
さらに、有機高分子材料と、無機微粒子に変換される微粒子の前駆体とを別々の高圧セルに収容し、前駆体が収容された高圧セルに高圧流体を供給して該前駆体を高圧流体中に溶解し、次に前駆体を溶解した高圧流体を、前記有機高分子材料が収容された高圧セルに供給し、該有機高分子材料に前記前駆体を溶解した高圧流体を接触させることによって前記前駆体を有機高分子材料に注入し、その後、高圧流体のみを前記有機高分子材料が収容された高圧セルに供給し、前駆体が注入された有機高分子材料と高圧流体とを接触させる場合には、高圧流体に溶解した前駆体を効率的に有機高分子材料に接触させることができ、しかも高圧セル内部の有機高分子材料のみを取り替えることによって、最初に仕込んだ前駆体を次工程で有効に使用することができるという効果がある。
【0031】
さらに、前駆体を有機高分子材料に注入する際に、高圧流体とともに、有機高分子材料又は前駆体の少なくともいずれかを溶解あるいは可塑化させうる良溶媒を補助溶媒として添加する場合には、有機高分子材料の可塑化をより確実に進行させることができ、或いは前駆体をより好適に溶解させることができるので、有機高分子材料への前駆体の注入をより確実に行うことができるという効果がある。
【0032】
さらに、二酸化炭素のような常温常圧で気体である流体をプロセス溶媒として用いて処理する場合には、有機高分子材料と溶媒としての二酸化炭素との分離が容易であり、プロセスの簡略化を図ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面に従って説明する。
(実施形態1)
本実施形態は、機能性透明有機高分子材料をレンズに適用した機能性レンズ材料の実施形態である。レンズ材料としての有機高分子材料がアリルジグリコールカーボネート(以下、ADC樹脂、又はポリエチレングリコールビスアリルカーボネートともいう。)で構成され、微粒子が銀で構成されている。レンズ材料は、メガネレンズ用のレンズとして前記有機高分子材料を金型に流し込んだ後に硬化させる注型成形法によって予め所望形状に成形されている。
【0034】
銀の微粒子は、後述の高圧流体を利用した製造方法によって、レンズ材料の表面から10nmより深い部位に注入、分散する。この銀の微粒子は、銀の錯体である銀アセチルアセトネート(以下、Ag(acac)ともいう)を高圧流体で溶解し、前記レンズ本体に接触させることによって前駆体であるAg(acac)をレンズ材料に注入し、その後に続く熱分解等によって前駆体を金属の微粒子に変換することによってレンズ材料の表面から10nmより深い部位に微粒子が注入、分散された機能性レンズ材料が得られることとなる。
【0035】
(実施形態2)
本実施形態は、レンズ材料がポリカーボネート(以下、PCともいう)で構成されている。レンズ材料は、有機高分子原料としてのPCのモノマーを射出成形法で所望のレンズ材料の形状に成形することによって構成されている。
【0036】
その他、微粒子の種類、前躯体の種類等は実施形態1と同じである。本実施形態においても、銀の微粒子が高圧流体によってレンズ材料の表面から10nmより深い部位に注入、分散されている。
【0037】
(実施形態3)
本実施形態は、レンズ材料がポリメチルメタクリレート(以下、PMMAともいう)で構成されている。レンズ材料は、PMMAを射出成型法で所望のレンズ材料の形状に成形することによって構成されている。
【0038】
その他、微粒子の種類、前躯体の種類等は実施形態1および2と同じである。本実施形態においても、銀の微粒子が高圧流体によってレンズ材料の表面から10nmより深い部位に注入、分散されている。
【0039】
(実施形態4)
本実施形態では、無機微粒子として上記実施形態の銀に代えてチタンの酸化物が用いられている。従って無機微粒子の前駆体として上記実施形態1乃至4の銀の有機金属錯体に代えて、金属アルコキシド、より具体的にはチタンイソプロポキシドが用いられている。
【0040】
レンズ材料の材質としては、上記各実施形態のADC樹脂、PC、PMMAを使用することができる。また、チタンの酸化物粒子の注入、分散状態は実施形態1乃至3と同様である。
【0041】
(実施形態5)
本実施形態は、機能性レンズ材料の製造方法の実施形態である。図1は、一実施形態としての機能性レンズ材料の製造に用いる装置の概略ブロック図である。本実施形態の装置は、高圧ポンプ2、圧力計3、恒温槽4、背圧弁5、及び高圧セル6を具備している。
【0042】
高圧ポンプ2は、高圧流体を高圧セル6へ供給するためのポンプである。本実施形態では、日本分光社製のプランジャー式の高圧ポンプを用いたが、これ以外にも例えば日本精密機器社製、日機装社製、富士ポンプ社製等の、プランジャー式或いはダイヤフラム式の高圧ポンプを一般的に使用することができる。また高圧ポンプ2には、高圧流体供給用のボンベ1が接続されている。本実施形態では高圧流体として二酸化炭素が用いられる。
【0043】
圧力計3は、操作時の系内の圧力を検出し、表示するためのもので、計器内部の汚染を防止するために、高圧セル6の前段に設置するのが好ましい。例えば、長野計器社製、山崎計器社製などの圧力計が使用できる。なお、形式としては、ダイヤフラム式、ブルドン管式のものを使用できるが、汚染防止のためにはダイヤフラム式が好ましい。
【0044】
恒温槽4は、高圧セル6の温度を精密に調整するためのもので、熱伝導用の媒体は、空気、水、オイル、エチレングリコール、砂、その他これらの混合物が使用可能である。オイル、砂は100℃以上の高温条件で有効であり、水、エチレングリコール、それらの混合物は100℃以下の低温条件に有効である。空気は、両方の範囲に有効に適用可能である。本実施形態では、精密な温度制御が可能なGL−サイエンス社製の空気循環式恒温槽を用いた。
【0045】
背圧弁5は、高圧セル6内の圧力を一定に保つための弁であり、手動、あるいは自動の背圧弁が使用できる。例えば、AKICO社製、東洋高圧社製、日本分光社製などの背圧弁が使用できるが、減圧速度の微細な調整、圧力変動の低減などの観点から、自動制御式の背圧弁が好ましい。
【0046】
高圧セル6は、レンズ材料8に無機微粒子の前駆体9を注入するための容器である。高圧セル内部には、レンズ材料8を固定するための架台と、セル内の流体を攪拌するための攪拌設備が具備されている。攪拌設備は、攪拌翼式、流体循環式の何れも使用できる。また、図示はされていないが、高圧セル6内部の状況を観察し易くするために、内部観察用の可視窓を取り付けても良い。
【0047】
その他、本実施形態の装置では、各装置が耐圧性の配管で接続され、さらに、配管の経路の途中部分には、流体の流量調整や、流路の開閉のために耐圧バルブが適宜具備されている(耐圧バルブは、図面上、省略している)。例えば、スェッジロック社製や、オートクレーブ社製の耐圧バルブが使用できる。また耐圧性の構成機器の材質は特に限定されないが、SUS304、SUS316、SUS316L、ハステロイ、インコネル、モネル鋼等の耐圧、及び耐腐食性の材質であることが望ましい。
【0048】
次に、この様な装置を用いて、機能性レンズ材料を製造する方法の実施形態について説明する。
【0049】
先ず、無機微粒子を注入、分散させるための有機高分子材料としてのレンズ材料8を高圧セル6内の材料固定用架台に固定し、無機微粒子の前駆体9と、攪拌用の攪拌子7とともに高圧セル6に封入する。本実施形態では、レンズ材料8として、機能性プラスチックであるアリルジグリコールカーボネート(ADC樹脂)を用いた。無機微粒子としては、局在化プラズモン効果が期待され、かつ生体に対する影響が少ない銀を選んだ。その銀の前駆体9として、銀アセチルアセトネートAg(acac)を用いた。
【0050】
次に、ボンベ1から二酸化炭素を高圧セル6に供給し、高圧セル6内の残存空気をパージした後、高圧ポンプ2を用いて二酸化炭素を高圧セル6に供給するとともに、温度と圧力を調整する。温度は恒温槽4で調整し、圧力は背圧弁5で調整する。温度と圧力は、使用する高圧流体が、亜臨界流体、もしくは超臨界流体になる条件であれば良い。本実施形態では高圧流体として二酸化炭素(臨界温度31.1℃、臨界圧力7.38MPa)を利用するため、温度範囲は35℃から90℃が好ましい。要は、母材であるレンズ材料の内部に無機微粒子の前駆体である有機金属化合物を注入する際に、その有機金属化合物が分解して無機化することによってレンズ材料の内部に注入されなくなる不具合を防止する温度範囲を選べば良いのである。圧力は、高圧流体としての二酸化炭素による有機高分子材料の可塑化に起因する膨潤効果が有効に発現する6MPaから50MPaが好ましい。
【0051】
所定の温度と圧力の条件に到達した後、高圧ポンプ1を停止し、攪拌子7によって高圧セル6内の攪拌を開始し、二酸化炭素と前駆体9を混合する。なお、攪拌子7の回転には、図示しないが、マグネット式の撹拌装置を使用する。攪拌の開始後、所定時間のあいだ注入処理を行う。
【0052】
二酸化炭素の超臨界流体がレンズ材料8に接触すると、レンズ材料8の内部に二酸化炭素が浸透する。そのため、レンズ材料8を構成する有機高分子材料は膨潤・可塑化し、ガラス転移温度の低下が起こり、有機高分子材料の内部での物質の移動特性が著しく向上する。さらに、前駆体9は超臨界流体の二酸化炭素に溶解するため、二酸化炭素を媒体にして、前駆体9を、有機高分子材料の内部に浸透させることができる。このときの処理時間は、30分から4時間が好ましい。この処理時間は、超臨界状態の二酸化炭素がレンズ材料8に充分に浸透するために要する時間として定められたものである。
【0053】
続いて、注入処理終了後に高圧セル6の内部にレンズ材料8を吊したまま、恒温槽4によって加熱処理することによって、レンズ材料8の内部の前駆体9を金属微粒子に還元する。この際、高圧セル6の圧力は、注入処理時の圧力を維持して運転する。圧力の維持は背圧弁5で行う。
【0054】
前駆体の注入処理後、高圧流体の圧力を保持した状態で温度上昇すると、高圧流体の密度が低下するため、有機高分子材料の内部に浸透している高圧流体に平衡状態で溶解していた前駆体が溶解しきれずに析出する。その際、膨潤した有機高分子材料の内部に析出するため、続く熱処理によって金属へと成長するための核を好適に形成することができる。
【0055】
圧力を維持したまま、温度のみを上昇させる場合の恒温槽4の操作条件は、前駆体9であるAg(acac)の分解温度より約10℃高い110℃とし、処理時間は2時間で行う。
【0056】
なお、処理時間は、前駆体9の分解の飽和時間確保とレンズ材料の劣化防止の観点から、30分から4時間以内が好ましい。
【0057】
前駆体9を熱分解することによって、有機物から無機物質へ変換することができるが、このとき、前駆体9の種類によって熱分解温度が異なるため、その種類に合わせて適宜、処理温度を選択することができる。例えば、AgFOD錯体は160℃、銅のアセチルアセトン錯体は286℃、ニッケルのアセチルアセトン錯体は240℃、白金のアセチルアセトン錯体は251℃、パラジウムのアセチルアセトン錯体は260℃等である。
【0058】
その後、背圧弁5を調整して高圧セル6内の圧力を大気圧まで減圧する。このとき、PC、PMMAのような熱可塑性樹脂を用いる場合、0.1MPa/minより速い速度で減圧すると、レンズ材料8の内部に残存する二酸化炭素によってレンズ材料8を構成する有機高分子材料が発泡する。有機高分子材料を発泡させずに減圧する場合は、0.1MPa/minより遅い速度で減圧することが好ましい。
【0059】
また、ADC樹脂やチオウレタン樹脂を用いた場合には、0.5MPa/min以上の速度で減圧してよい。
【0060】
(実施形態6)
本実施形態の設備では、図2に示すように、高圧ポンプ2、圧力計3、恒温槽4、背圧弁5、高圧セル6の他に溶剤ポンプ10が具備され、その溶剤ポンプ10に、溶剤貯留槽11が接続されている。すなわち、本実施形態では流体として二酸化炭素を使用し、補助溶媒としてアセトンが使用される。
【0061】
次に、操作手順について実施形態6との比較の上で、異なる部分のみ示す。
【0062】
レンズ材料8と、前駆体9とを高圧セル6に封入し、残存空気をパージした後、二酸化炭素を流通させて所定の温度と圧力に設定し、続いて、溶剤としてのアセトンを溶剤ポンプ10を用いて、所定量を高圧セル6に投入する。アセトンの投入後、高圧ポンプ6及び溶剤ポンプ10を停止し、所定時間、注入処理する。アセトンの投入量は、所定の温度と圧力条件での二酸化炭素の投入量に対し、モル比で0.5%から10%までが好ましい。
【0063】
続いて、所定圧力を維持したまま、さらに温度のみを上昇させる。それによって、実施形態5と同様に銀の微粒子がレンズ材料の内部に好適に注入、分散されることとなる。さらに、最後の減圧の工程も実施形態5と同様に行う。
【0064】
本実施形態では、補助溶媒として、レンズ材料8を構成する有機高分子材料と前駆体9の両方の良溶媒であるアセトンを用いるため、レンズ材料8をより可塑化させ易くなり、またレンズ材料8の内部に前駆体9をより浸透し易くなるという効果がある。また、二酸化炭素に対する前駆体9の溶解度を増加させることによって、レンズ材料8の内部に浸透する前駆体9の量を増加させることができるという効果がある。
【0065】
このような効果を奏させる観点から、補助溶媒を選択する基準としては、レンズ材料8の良溶媒、無機微粒子の前駆体9の良溶媒であることが望ましい。本実施形態では、溶剤としてアセトンを使用したが、補助溶媒と、前駆体9やレンズ材料8との相互作用を事前に調べ、前駆体9に対する良溶媒か、レンズ本体8に対する良溶媒か、或いは前駆体9とレンズ本体8の両方の良溶媒かを確認しておくことによって、アセトン以外の溶剤も適宜選択することができる。たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールを使用することができる。
【0066】
(実施形態7)
本実施形態では、図3に示すように、無機微粒子の前駆体9の溶解・抽出専用の高圧セル6aと、レンズ材料8の処理専用の高圧セル6bとの2つの高圧セルを設け、それぞれの高圧セルに恒温槽4a、4bをそれぞれ設置し、さらに、系内の攪拌のために、循環ポンプ12とその循環ライン22が設置されている。
【0067】
上記実施形態5及び6では、1つの高圧セル内で前駆体9の溶解と、レンズ材料8の可塑化処理を行ったが、本実施形態では高圧セル6a内での前駆体9の溶解,抽出の処理と、高圧セル6b内でのレンズ材料8の可塑化処理を行うこととした。
【0068】
より具体的に説明すると、先ず、高圧ポンプ2側のバルブ13と、高圧セル6aと高圧セル6bとの入口部と出口部のバルブ14、15、16、17を開の状態とし、他のバルブ18、19、20、21を閉の状態として、高圧セル6a、6b内の残存空気をパージした後、所定の温度、圧力になるまで高圧ポンプ2を用いてボンベ1から二酸化炭素を高圧セル6a、6bに供給する。
【0069】
所定の圧力になった後、高圧ポンプ2を停止し、その高圧ポンプ2側のバルブ13を閉の状態とし、循環ライン22中のバルブ20、21を開の状態にして、循環ポンプ12を作動させる。これによって、高圧流体は循環ライン22を循環するとともに高圧セル6a、6bに供給され、その高圧流体が前駆体9を効率的に溶解する。
【0070】
このようにして、前駆体9がレンズ材料8に注入された後、高圧セル6aの入口部と出口部のバルブ14、15を閉の状態とし、その間のバルブ18を開の状態にすることにより、前駆体9は高圧セル6aに供給されることがなく、高圧流体のみが高圧セル6bに供給されることとなる。
【0071】
続いて、注入処理終了後に高圧セル6bの内部にレンズ材料8を吊したまま、恒温槽4bのみによって加熱処理することによって、レンズ材料8の内部の前駆体9を金属微粒子に還元する。この際、高圧セル6bの圧力は、注入処理時の圧力を維持して運転する。圧力の維持は背圧弁5で行う。
【0072】
上記のように注入処理と熱処理が終了した後、背圧弁5を調整して高圧セル6b内の二酸化炭素を除去し、高圧セル6bを開き、新たなレンズ材料8を高圧セル6b内に入れて設置し、同様に処理を行う。
【0073】
この場合において、前駆体9は、レンズ材料8が収容された高圧セル6bと別の高圧セル6aに収容されているので、高圧セル6b内部のレンズ材料8のみを取り替えることによって、高圧セル6aの内部の前駆体9は、最初に仕込んだものを次の新たな材料の処理にも有効に使用することができる。
【0074】
以上のように、本実施形態では、溶解・抽出専用の高圧セル6aと、レンズ材料8の処理専用の高圧セル6bとの2つの高圧セルを設け、系内の攪拌を循環ポンプ12により行うことによって、高圧セル6a内部で、高圧流体に溶解した前駆体9が効率的にレンズ材料8に接触するので、高圧セル6a内に残存する前駆体9を予め高圧セル6a外へ除去せずに高圧セル6bのみに二酸化炭素を連続的に通すことによって、より短時間に操作を行うことができ、しかも高圧セル6b内部のレンズ材料8のみを取り替えることによって、最初に仕込んだ前駆体9を、次工程で有効に使用することができるのである。
【0075】
(実施形態8)
本実施形態の装置では、図4に示すように実施形態7の構成要素の他に溶剤貯留槽11及び溶剤ポンプ10を具備させている。従って、本実施形態では、流体として二酸化炭素を、補助溶媒としてアセトンを使用する。二酸化炭素の他に溶剤を用いたことによる作用効果は、上記実施形態6と同じである。
【0076】
次に、操作手順について実施形態7との比較の上で、異なる部分のみ示す。すなわち、レンズ材料8と、無機微粒子の前駆体9とをそれぞれ高圧セル6aと6bに封入し、残存空気をパージした後、二酸化炭素を流通させて所定の温度と圧力に設定し、続いて、溶剤としてのアセトンを溶剤ポンプ11を用いて、所定量を高圧セル6a及び高圧セル6bに供給する。アセトンの供給後、高圧ポンプ2を停止し、所定時間、注入処理する。
【0077】
この際、循環ポンプ12を作動させ、系内の流体を均一に攪拌することができる。アセトンの供給量は、前記実施形態6と同じく、所定の温度と圧力条件での二酸化炭素の投入量に対し、モル比で0.5から10%までが好ましい。
【0078】
本実施形態では高圧ポンプ2側のみならず、溶剤ポンプ10側にもバルブ23を設けている。その他の工程は、前記実施形態5乃至7と同じであるためここでは説明を省略する。
【0079】
(実施形態9)
本実施形態は、無機微粒子の前駆体9として、上記実施形態5乃至8の銀の有機金属錯体に代えて金属アルコキシドを用いた。より具体的には、チタンイソプロポキシドを用いた。また、本実施形態では溶剤としてエタノールあるいはイソプロパノールを用いた。
【0080】
そして、この前駆体9をレンズ材料8に注入した後、二酸化炭素とともに水を流通させる。これによって、チタンイソプロポキシドは加水分解されて酸化チタンとなり、結果的に酸化チタンの微粒子がレンズ本体8内に注入、分散されることとなった。使用した装置やレンズ本体8の材料は実施形態5乃至8と同様のものである。
【0081】
(実施形態10)
本実施形態では、レンズ材料8である有機高分子材料として、上記実施形態5乃至9のアリルジグリコールカーボネート(ADC樹脂)に代えてポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた。無機微粒子の前駆体9は実施形態5乃至8と同様の銀の錯体を用い、製造装置と操作手順も同様にして行い、レンズ材料8内に銀の微粒子を分散させたレンズを得ることができた。
【0082】
(実施形態11)
本実施形態は、透明有機高分子機能性材料の用途として、上記実施形態1乃至10のレンズに代えて、光ファイバーに適用する場合の実施形態である。
【0083】
有機高分子材料としてはPMMAを用いた。無機微粒子の前駆体9としては、実施形態5乃至8と同様の銀の錯体を用い、製造装置と操作手順も同様にして行い、有機高分子材料内に銀の微粒子を分散させた光ファイバーを得ることができた。このような光ファイバーに適用することで、銀の微粒子による紫外線遮蔽機能により、ノイズカットの効果が生ずる。
【0084】
(実施形態12)
本実施形態は、透明有機高分子機能性材料の用途として、紫外線カット繊維に適用する場合の実施形態である。
【0085】
有機高分子材料としてはPMMAを用いた。無機微粒子の前駆体9としては、実施形態5乃至8と同様の銀の錯体を用い、製造装置と操作手順も同様にして行い、有機高分子材料内に銀の微粒子を分散させた、紫外線遮蔽機能に優れた紫外線カット繊維を得ることができた。
【0086】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態1乃至10では、レンズ本体8を構成する有機高分子材料としてアリルジグリコールカーボネート(ADC樹脂)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等を用いたが、レンズ本体8の材質はこれに限定されるものではなく、たとえばポリスチレンや透明性ポリイミド等の透明プラスチックを用いることが可能である。要は、レンズとして成形しうる透明の有機高分子材料であれば、その種類は問うものではない。
【0087】
また、微粒子の種類も、上記実施形態1乃至12の銀、酸化チタンに限定されるものではなく、たとえば金、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ガドリウム、鉛等の金属や、亜鉛や鉄などの金属の金属酸化物を使用することも可能である。
【0088】
さらに、微粒子の前駆体も上記実施形態に限らず、アセチルアセトン錯体、アルコキシド、カルボニル錯体、およびそれらの誘導体等、有機金属錯体等を用いることが可能である。要は、これらの前駆体が、後処理によって金属や金属酸化物などの無機物に変換できればよいのである。
【0089】
尚、実施形態5乃至8の装置の配管途中に位置する高圧バルブの形式は、ニードル式、ダイヤフラム式、ボール弁式などの形式のものを使用することができる。圧力調整用にはニードル式のものを用い、流路の効率的な開閉にはボール弁式のものを用いることが好ましい。また、バルブ内部への不純物の流入を防止するためにはダイヤフラム式が好ましい。
【0090】
さらに、高圧セルについては、内部のレンズ本体8あるいは流体の変化を観察するため、可視窓を具備していることが好ましい。また、高圧セル内部の反応物が可視窓の内面に付着することを防止するために、可視窓の内面に雲母などの保護カバーを取り付けることが好ましい。
【0091】
さらに、レンズ材料の用途は問うものではなく、メガネレンズ、コンタクトレンズ、スポーツグラス、ルーペのレンズ、光学機器レンズ、光学機器窓材等に使用することも可能である。また本発明の機能性高分子材料の用途も上記各実施形態のようなレンズや光ファイバー、紫外線カット繊維等に限定されるものではなく、その他の機能性透明有機高分子に適用することも可能である。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0093】
(実施例1)
本実施例では、光学素子の例として眼鏡レンズの機能化を行なうものであり、レンズ本体を構成するアリルジグリコールカーボネート(ADC)に対して銀の微粒子を注入した。試験の装置として実施形態2の装置を用いた。操作手順は、次の通りである。
【0094】
先ず、材料としてADC試験片(昭和光学製のCR−39無色レンズ65φ)を試料架台に吊り下げ、銀の前躯体として、試験片の重量に対して銀で5重量%分のアセチルアセトン錯体〔Ag(acac)〕(Aldrich社製)を、攪拌子と共に高圧セル内に封入した。
【0095】
続いて、二酸化炭素で高圧セル内の残存空気をパージした後、高圧ポンプで補助溶媒とてのアセトンを投入した。アセトンの投入量は、二酸化炭素の投入モル量の10%とした。アセトンの投入後、高圧セル内の流体の攪拌を開始し、温度を80℃、圧力を25MPaに調節し、2時間、注入処理を行った。
【0096】
続いて、注入処理後、圧力を25MPaに保ったまま、温度を110℃に上昇させ、2時間熱処理した。なお、温度上昇によってセル内の圧力が上昇するが、背圧弁を25MPaに設定することによって圧力を維持した。
【0097】
そして、熱処理後、高圧セルを冷却するとともに、減圧してADC試験片を取り出した。銀の注入量は2.5重量%であった。
【0098】
また、得られた銀注入レンズの光吸収特性を図5に示した。図5に示すように、350nm〜500nmの領域の紫外線及び近紫外青色光が吸収されていることが確認できた。
【0099】
(実施例2)
本実施例においても、上記実施例と同様にアリルジグリコールカーボネート(ADC)に対して銀の微粒子を注入した。本実施例では、実施例1の全体の操作を2バッチ繰り返して行った。各バッチにおける操作方法は実施例1と同じである。
【0100】
本実施例で作成したレンズにおける銀の注入量は4重量%であり、実施例1と同様に350nm〜500nmの領域の紫外線及び近紫外青色光が吸収されていることが確認できた(図略)。
【0101】
比較のため、処理後のADC試験片の外観を、参考写真のとおり示した。左端は処理前のレンズ、中央は実施例1のレンズ、右端は実施例2のレンズである。
【0102】
(実施例3)
本実施例においても、上記実施例と同様にアリルジグリコールカーボネート(ADC)に対して銀の微粒子を注入した。実施例1と同様に操作を行なったが、本実施例では、実施例1で25MPaとしていた当初の圧力を、本実施例では30MPaに調節した。後処理として、圧力を30MPaに保ったまま、温度を110℃に上昇させた。
【0103】
本実施例で作成したレンズにおいても、350nm〜500nmの領域の紫外線及び近紫外青色光が吸収されていることが確認できた(図略)。
【0104】
(実施例4)
本実施例においても、上記実施例1及び2と同様にアリルジグリコールカーボネート(ADC)に対して銀の微粒子を注入した。実施例1と同様に操作を行ったが、本実施例では、実施例1で、銀の前躯体の添加量を試験片の重量に対して銀で5重量%分のアセチルアセトン錯体〔Ag(acac)〕としていたが、本実施例では2.5%とした。
【0105】
本実施例で作成したレンズにおいても、350nm〜500nmの領域の紫外線及び近紫外青色光が吸収されていることが確認できた(図略)。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のレンズは、メガネレンズ、コンタクトレンズ、スポーツグラス、ルーペ顕微鏡、カメラ、望遠鏡、双眼鏡等の光学機器レンズ、その他、透明プラスチック材料で構成される各種の用途のレンズ、さらには光コネクターや光ファイバー等の光通信部材や紫外線カット繊維等に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】一実施形態としての無機微粒子複合化有機高分子材料の製造装置の概略ブロック図
【図2】一実施形態としての無機微粒子複合化有機高分子材料の製造装置の概略ブロック図
【図3】一実施形態としての無機微粒子複合化有機高分子材料の製造装置の概略ブロック図
【図4】一実施形態としての無機微粒子複合化有機高分子材料の製造装置の概略ブロック図
【図5】銀注入レンズの光吸収特性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤した有機高分子材料の内部に、無機微粒子が注入、分散されていることを特徴とする機能性透明有機高分子材料。
【請求項2】
高圧流体と接触することによって、膨潤した有機高分子材料の内部に無機微粒子が注入、分散されていることを特徴とする機能性透明有機高分子材料。
【請求項3】
有機高分子材料が、アリルジグリコールカーボネート、チオウレタン、エピチオ、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、又はポリスチレンの少なくとも1種によって構成されている請求項1又は2記載の機能性透明有機高分子材料。
【請求項4】
無機微粒子が、銀、金、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、ガドリウム、鉛、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタンの少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料。
【請求項5】
有機高分子材料の表面から10nmより深い部位に、無機微粒子が注入、分散されている請求項1乃至4のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料。
【請求項6】
有機高分子材料の内部の無機微粒子の重量含有率が、100ppm〜10%である請求項1乃至5のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料。
【請求項7】
無機微粒子の粒子径が、10〜30nmである請求項1乃至6のいずれかに記載の機能性透明有機高分子材料。
【請求項8】
有機高分子材料に、無機微粒子の前躯体を溶解した高圧流体を接触させることによって有機高分子材料を膨潤させるとともに、高圧流体に同伴して前駆体を有機高分子材料の内部に注入し、次に高圧流体の圧力を維持した状態で温度を上昇させ、前駆体を無機微粒子に変換して、有機高分子材料に微粒子が注入、分散された機能性透明有機高分子材料を製造することを特徴とする機能性透明有機高分子材料の製造方法。
【請求項9】
有機高分子材料と、無機微粒子の前駆体とを別々の高圧セルに収容し、前駆体が収容された高圧セルに高圧流体を供給して前駆体を高圧流体に溶解し、次に前駆体を溶解した高圧流体を、有機高分子材料が収容された高圧セルに供給し、有機高分子材料に前駆体を溶解した高圧流体を接触させることによって前駆体を有機高分子材料に注入し、次に有機高分子材料が収容された高圧セルのみ、高圧流体の圧力を維持した状態で温度を上昇させ、前駆体を無機微粒子に変換して、有機高分子材料に無機微粒子が注入、分散された機能性透明有機高分子材料を製造することを特徴とする機能性透明有機高分子材料の製造方法。
【請求項10】
無機微粒子の前駆体を有機高分子材料に注入する際に、高圧流体とともに、有機高分子材料又は前駆体の少なくともいずれかを溶解又は可塑化させうる溶剤を補助溶媒として添加する請求項8又は9記載の機能性透明有機高分子材料の製造方法。
【請求項11】
無機微粒子の前駆体が、アルコキシド、カルボニル錯体、若しくはアセチルアセトン錯体、又はアルコキシド、カルボニル錯体、若しくはアセチルアセトン錯体を主成分とする金属錯体である請求項8乃至10記載の機能性透明有機高分子材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−96810(P2006−96810A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282052(P2004−282052)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】