説明

機能性長短複合紡績糸およびそれを用いてなる機能性繊維製品

【課題】ソフトな光輝性を呈し、毛羽が少なく、吸水性が良好で、ハリ・コシがあり、製造工程において結び目ができにくく、さらには肌触りが柔らかいなどの機能性を有する機能性長短複合紡績糸と、それを用いた繊維製品であって、機能性長短複合紡績糸の上記機能性に加え、抗ピリング性に優れ、製造工程で斜行しにくく、繊維玉の発生も少ない等の機能性も有する機能性繊維製品を提供すること。
【解決手段】芯部を鞘部で被覆してなる長短複合紡績糸であって、該芯部にラメ糸(1)を有し、該鞘部に短繊維を有し、該鞘部の短繊維はラメ糸(1)とほぼ平行に配されている短繊維群A(2)と、該短繊維群Aとラメ糸を結束する結束短繊維群B(3)とからなり、かつ長短複合紡績糸全体として実質的に無撚りである機能性長短複合紡績糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯部のラメ糸を鞘部の短繊維で被覆してなる実質的に無撚りである機能性長短複合紡績糸とそれを用いてなる織物、編物などおよびそれらを用いた機能性繊維製品に関する。
【0002】
さらに詳しくは、金属光沢のソフトな光輝性を呈し、毛羽が少なく、吸水性が良好で、ハリ・コシがあり、製造工程において結び目ができにくく、さらには肌触りが柔らかいなどの機能性を有し、各種の衣料用品やインテリア用品などに好適な素材として幅広く受け入れられる機能性長短複合紡績糸と、それを用いた2次繊維製品及び最終繊維製品であって、機能性長短複合紡績糸の上記機能性に加え、抗ピリング性(毛玉の発生が少ない)に優れ、斜行が発生しにくく、繊維玉の発生も少ないなどの機能性も有する2次繊維製品及び最終繊維製品(以下、これらを総称して機能性繊維製品という)に関する。
【0003】
ここで、機能性繊維製品には、該長短複合紡績糸を単独であるいは他の糸と共に織りもしくは編みなどをしたものがあり、例えば、織物、編物、レース、刺繍などの2次繊維製品や、更にそれらの2次繊維製品を使用した例えば、和服、洋服、靴下などの衣料用品、カーテンなどのインテリア用品、布団カバー・シーツなどの寝装用品、服飾雑貨品などの最終繊維製品も含まれる。
【0004】
また、ラメ糸とは、広幅で長尺のプラスチックフィルム(以下フィルムという)に少なくとも金属薄膜層が積層された積層体を縦長にスリット(裁断)して糸状(長繊維状)としたスリット糸をいい、更にそのスリット糸の周りに他の糸を一本以上巻き付けた撚り糸、あるいは他の糸の周りにそのスリット糸を巻き付けた撚り糸なども含み、金属薄膜層の存在により金属光沢の光輝性を呈しているものである。
【0005】
なお、上述した積層体の積層構成としては、例えば、フィルム/金属薄膜層、フィルム/金属薄膜層/樹脂層、フィルム/樹脂層/金属薄膜層、フィルム/樹脂層/金属薄膜層/樹脂層、フィルム/金属薄膜層/接着層/金属薄膜層/フィルム、フィルム/金属薄膜層/樹脂層/接着層/樹脂層/金属薄膜層/フィルム、フィルム/樹脂層/金属薄膜層/接着層/金属薄膜層/樹脂層/フィルム、フィルム/樹脂層/金属薄膜層/樹脂層/接着層/樹脂層/金属薄膜層/樹脂層/フィルム、フィルム/金属薄膜層/接着層/フィルム、フィルム/金属薄膜層/樹脂層/接着層/フィルム、フィルム/樹脂層/金属薄膜層/接着層/フィルム、およびフィルム/樹脂層/金属薄膜層/樹脂層/接着層/フィルムなどの各種のものがある。
【0006】
上記積層体の積層構成において、樹脂層に着色剤を混入すれば、着色された金属光沢を有するラメ糸が実現される。例えば、フィルム/黄色着色樹脂層/金属薄膜層の積層構成のスリット糸を、フィルム側から見ると黄色着色によりゴールド色に見え、金属薄膜層側からみるとシルバー色に見えるのである。
【0007】
また、前述した撚り糸には、その撚り方法として、丸撚り、たすき撚り、蛇腹撚りなどがある。さらに前述したスリット糸の周りに巻き付けられる他の糸、あるいは周りにスリット糸が巻き付けられる他の糸としては、例えば、セルロース系繊維糸、綿糸などの天然繊維糸や化学繊維糸、あるいはアクリル系繊維糸、ポリエステル系繊維糸、ポリアミド系繊維糸などの合成繊維糸がある。
【背景技術】
【0008】
ラメ糸は上述のようにスリット糸や撚り糸のみで使用される場合の他に、風合いや意匠効果の点から、ラメ糸をさらに他の短繊維と紡績した長短複合紡績糸として使用されることも多い。
【0009】
一般的に、長短複合紡績糸とは、実質的に無限長の長繊維と、短繊維(ステープル)が複合使用されて単一の紡績糸を構成しているものをいい、上記の場合はラメ糸が長繊維に該当する。
【0010】
ラメ糸を使用した上記長短複合紡績糸としては例えば、精紡機などを使用して、金属光沢糸(スリット糸)を芯糸にして短繊維群を鞘糸として交撚した精紡交撚糸として使用することが提案されている(特許文献1)。
【0011】
また、少なくとも金属光沢糸(ラメ糸)を芯糸とし、短繊維を鞘糸とする精紡糸において、芯糸が鞘糸で完全には被覆されていなく、芯糸であるラメ糸がランダムに露出している光輝性精紡糸が提案されている(特許文献2)。
【0012】
しかし、従来からの一般的な紡績方法で紡績された紡績糸である特許文献1記載の精紡交撚糸や特許文献2記載の光輝性精紡糸に代表される長短複合紡績糸、および該長短複合紡績糸を用いた繊維製品は、以下に示す欠点があった。
【0013】
[1]長短複合紡績糸を織物や編物などに使用すると、その製織や製編時にラメ糸と短繊維が分離したり、一方が浮いたりし、ひいてはそれが原因となって一部が切れたりして繊維玉になったりするという問題があった。
[2]長短複合紡績糸は交撚糸であることから該糸が一方向(SまたはZ方向)のトルクを有し、それが原因となり緯編で繊維製品を製造する場合には、特に斜行が発生しやすいという問題があった。
[3]長短複合紡績糸は短繊維が比較的緩く締まっている構造であるために、毛羽が多く、ハリ、コシが不十分であり、さらには長短複合紡績糸の製造工程において繊維の結び目ができやすいので長短複合紡績糸を使用して均一な組織の繊維製品を安定して製造することができないものであった。さらに、短繊維間の隙間が少ないことから、該隙間によって発揮される吸水性の点でも劣っていた。
[4]特許文献2記載の光輝性精紡糸は、カバーリング率(鞘糸の短繊維の金属光沢糸に対する被覆率)が低いため、芯糸が鞘糸で完全には被覆されていなく、芯糸である金属光沢糸(ラメ糸)がランダムに露出しているが、露出部分が点状のみではなく、線状になっている部分が多く、結果的に光輝性精紡糸全体にわたるソフトな光輝性という点では劣るものであった。
[5]特許文献2記載の光輝性精紡糸は、金属光沢糸(ラメ糸)のエッジ部が一部、糸表面に露出しているため、仮に光輝性精紡糸を用いて繊維製品を製造した場合には、着用者の肌に該エッジ部が直接的に当たり、肌触りが悪く、「肌を刺す」として衣料用品に使用することは一般に好まれないものであった。
[6]長短複合紡績糸を用いた繊維製品は、上記複合紡績糸の欠点に加え、抗ピリング性で劣るという不都合を招くものであった。
【0014】
従って、該繊維製品は、使用期間が進むにつれて、摩擦により繊維製品表面に毛玉が多く発生するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−54234号公報
【特許文献2】特開2002−285443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、ソフトな光輝性を呈し、毛羽が少なく、吸水性が良好で、ハリ・コシがあり、製造工程において結び目ができにくく、さらには肌触りが柔らかいなどの機能性を有する機能性長短複合紡績糸と、それを用いた繊維製品であって、機能性長短複合紡績糸の上記機能性に加え、抗ピリング性(毛玉の発生が少ない)に優れ、製造工程で斜行しにくく、繊維玉の発生も少ないなどの機能性も有する機能性繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的を達成する本発明の機能性長短複合紡績糸は、以下の(1)の構成からなる。
(1)芯部を鞘部で被覆してなる長短複合紡績糸であって、前記芯部にラメ糸を有し、前記鞘部に短繊維を有し、該鞘部の短繊維は、ラメ糸とほぼ平行に配されている短繊維群Aと、該短繊維群Aと前記ラメ糸を結束する結束短繊維群Bとからなり、かつ長短複合紡績糸全体として実質的に無撚りであることを特徴とする機能性長短複合紡績糸。
【0018】
また、かかる本発明のラメ糸を用いソフトな光輝性を呈する長短複合紡績糸において、以下の(2)の構成からなることが好ましい。
(2)前記ラメ糸の幅が0.1〜2.5mmである上記(1)記載の機能性長短複合紡績糸。
【0019】
また、上述した目的を達成する本発明の繊維製品は、以下の(3)の構成を有する。
(3)上記(1)または(2)に記載の機能性長短複合紡績糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする機能性繊維製品。
【発明の効果】
【0020】
本発明の機能性長短複合紡績糸およびそれを少なくとも一部に用いてなる機能性繊維製品は、下記の効果を有する。
【0021】
[1]本発明の機能性長短複合紡績糸を用いた機能性繊維製品の製造工程においても、その製織や製編時にラメ糸と短繊維が分離したり、一方が浮いたりし、ひいてはそれが原因となって一部が切れたりすることがないので、繊維玉が発生することが非常に少ない。
[2]本発明の機能性長短複合紡績糸は、実質的に無撚りであることから、該紡績糸を用いて織物を製造する場合はもちろん、緯編で編物を製造する場合であっても斜行が発生しにくい。
[3]本発明の機能性長短複合紡績糸は、短繊維が比較的堅く締まっている構造であるため、毛羽の発生がほとんどなく、ハリ・コシも十分であり、さらには長短複合紡績糸の製造工程において繊維の結び目ができにくいので本発明の長短複合紡績糸を使用すれば均一な組織の繊維製品を安定して製造することができる。さらに、短繊維間の隙間が多いことから、該隙間によって発揮される吸水性の点でも優れている。
[4]本発明の機能性長短複合紡績糸は、カバーリング率が高く、ラメ糸が糸表面にほとんど露出していないため、ソフトな光輝性を呈する。
[5]本発明の機能性長短複合紡績糸は、カバーリング率が高く、ラメ糸のエッジ部が糸表面にほとんど露出していないため、本発明の機能性長短複合紡績糸を用いて繊維製品を製造した場合にも、肌に該エッジ部が直接的に当たることがなく、肌触りが柔らかいため、衣料用品に使用することが十分可能となった。
[6]本発明の機能性長短複合紡績糸を用いた機能性繊維製品は、上記機能性長短複合紡績糸の効果に加え、抗ピリング性にも優れている。
【0022】
本発明の機能性長短複合紡績糸および本発明の機能性繊維製品は、上記の優れた機能性を長期間にわたり維持できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の機能性長短複合紡績糸のモデル側面図である。
【図2】本発明の機能性長短複合紡績糸のラメ糸と直角な方向でのモデル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、さらに詳しく本発明の機能性長短複合紡績糸について説明する。
【0025】
本発明の機能性長短複合紡績糸は、図1や図2にモデル図を例示したように、芯部を鞘部で被覆してなる長短複合紡績糸であって、前記芯部にラメ糸を有し、前記鞘部に短繊維を有し、該鞘部の短繊維は、ラメ糸とほぼ平行に配されている短繊維群Aと、該短繊維群Aと前記ラメ糸を結束する結束短繊維群Bとからなり、かつ長短複合紡績糸全体として実質的に無撚りであることを特徴とし、図示したように、芯部にラメ糸1が位置し、その周囲(鞘部)に短繊維が芯部のラメ糸とほぼ平行な状態で存在している短繊維群A2と、更にその周囲に緩いピッチで交互撚り状態を呈しながらラメ糸と短繊維群Aにしっかりと巻き付いて結束して全体の糸形態を保持させている結束短繊維群B3とからなっている。
【0026】
本発明の機能性長短複合紡績糸は、上記の通り特徴ある構造であるため、カバーリング率(鞘部の短繊維群(A、B)のラメ糸に対する被覆率)が高く、芯部のラメ糸が露出している部分はほとんどない。
【0027】
しかし、鞘部の短繊維は機能性長短複合紡績糸の全てにおいて芯部のラメ糸を均一にカバーリング(被覆)しているわけではなく、短繊維がやや密になっている部分や疎になっている部分があり、またラメ糸も機能性長短複合紡績糸の中心に位置しているわけではなく多少中心からずれているところもある。
【0028】
このように、本発明の機能性長短複合紡績糸は、従来の長短複合紡績糸である特許文献2記載の光輝性精紡糸と異なり、ラメ糸が完全に露出している部分がほとんどないが、短繊維がやや疎になっている部分や、ラメ糸が機能性長短複合紡績糸の中心からややずれて位置している部分に光輝性を呈するので、該光輝性は、露出した部分のラメ糸による強い光輝性ではなく、ソフトな光輝性に優れたものとなるのである。
【0029】
ラメ糸の幅は0.1〜2.5mmとすること、ラメ糸の混合率(対長短複合紡績糸)は5〜60重量%であることが、本発明の機能性長短複合紡績糸および本発明の機能性繊維製品の機能性、すなわち前記本発明の効果を良好に発揮する上で、さらにはこれらを安定して製造する上で好ましい。より好ましくは、ラメ糸の幅は0.1〜2mm、ラメ糸の混合率(対長短複合紡績糸)は10〜40重量%であれば本発明の効果をより高く発揮できる。したがって、鞘部の短繊維の全体に占める混合率(対長短複合紡績糸)は、40〜95重量%の範囲にあることが好ましく、さらには60〜90重量%の範囲にあることがより好ましい。ラメ糸は、1本の場合が良いが特に複数本の使用にしてもよい。ラメ糸を複数本使用する場合には、色の相違したものを使用することが高い意匠効果を得ることができるので好ましい。
【0030】
本発明において機能性長短複合紡績糸は、前記の優れた機能性を発揮するためには、実質的に無撚りであることが重要である。
【0031】
ここで、本発明における実質的に無撚りとは、該複合紡績糸に撚りトルクの作用による撚り戻りの発生がないかもしくはきわめて小さいレベルのものであることをいい、具体的には、短繊維の平均繊維長をLsとした場合に、4.0T(ターン)/Ls以下の実撚りレベルで糸に撚りがかかっているものまたは無撚り状のものをいう。撚り数が4.0T/Ls以下の場合には、撚りのトルクの作用による撚り戻りの発生がないので実質的に無撚りの糸ということができるのである。なお、本発明では、該撚り数の測定法は、JIS L 1095(一般紡績糸試験方法)に準ずる。
【0032】
短繊維は、本発明の機能性長短複合紡績糸やそれを用いた機能性繊維製品の各種用途などに合わせてその種類が決定されればよく、特に限定されない。たとえば、レーヨン、モダール、リヨセル、綿(コットン)、ウールなどの化学繊維や天然繊維、あるいはアクリル系繊維、ポリアミド系繊維あるいはポリエステル系繊維などの合成繊維の短繊維を使用することができる。
【0033】
短繊維の長さは、一般に30mm程度〜150mm程度までとするのがよく、特に後述する旋回空気流を用いた長短複合紡績装置を使用する場合には、短繊維の長さは30mm〜75mm程度の範囲内とするのがよい。該短繊維は、機能性長短複合紡績糸の鞘部(短繊維群A、結束短繊維群B)を構成するものであり、上述のような旋回空気流を用いた長短複合紡績では、その短繊維の長さは抗ピリング性や機能性長短複合紡績糸全体の締まり性の度合いなどに関係する。短繊維の長さは30mm〜75mm程度の範囲内としておけば抗ピリング性や機能性長短複合紡績糸全体の締まり性の度合いなどの点でさらに好ましい。短繊維は、繊度が1〜3dtex(デシテックス)のものを使用することがカバーリング性(被覆性)、肌触りの点から好ましい。
【0034】
ラメ糸に使用するプラスチックフィルム(フィルム)としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリアミドフィルムなどが例示できる。
【0035】
フィルムは、無色あるいは有色の透明、半透明、不透明のものなどを使用してもよい。
【0036】
また、フィルムに積層する金属薄膜層は、本発明の機能性長短複合紡績糸に金属光沢のソフトな光輝性を付与するもので、アルミニューム(Al)薄膜層、クロム(Cr)薄膜層、錫(Sn)薄膜層あるいは銀(Ag)薄膜層などが使用できる。
【0037】
中でも銀薄膜層を使用した場合には、光輝性に加え抗菌性も有するので、抗菌性が要請される医療分野、保健・介護分野などの用途にも好ましく使用できる。
【0038】
金属薄膜層は、1層でもよく、異種または同種の2層以上の複数層としてもよい。
【0039】
金属薄膜層の形成方法は、真空蒸着法、スパッタリング蒸着法など公知の形成方法が使用できる。
【0040】
樹脂層や接着層に使用する樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂などの従来公知の樹脂が使用できる。
【0041】
樹脂層や接着層の形成方法は、グラビアコート法、リバースコート法、ダイコート法などの従来公知の方法が使用できる。
【0042】
本発明の機能性長短複合紡績糸および本発明の機能性繊維製品は、所望に応じて染色を施しても構わない。その場合、あらかじめ染色された材料(フィルム、短繊維など)を使用して、機能性長短複合紡績糸や機能性繊維製品を製造する先染め方式としてもよいが、機能性長短複合紡績糸や機能性繊維製品を製造した後に染色をする、いわゆる後染め方式としてもよい。
【0043】
染色する対象としては、ラメ糸(スリット糸の場合はスリット糸、撚り糸の場合はスリット糸及び/又は他の糸)あるいは短繊維、機能性繊維製品に使用する他の糸であり、何れを染色するかは所望の意匠に応じて適宜決定すればよい。
【0044】
後染め方式を採用する場合に染色するタイミングは、ラメ糸の製造後、機能性長短複合紡績糸の製造後、機能性繊維製品(特に2次繊維製品)の製造後の何れかであり、染色するタイミングも、所望の意匠や用途に応じて適宜決定すればよい。
【0045】
後染め方式で使用する染料の種類としては、酸性染料、アルカリ染料、反応染料、カチオン染料、直接染料などがあり、染色する対象の種類により適宜決定すればよい。
【0046】
特に本発明の機能性長短複合紡績糸と機能性繊維製品は小ロットでの多品種・多用途向けの生産に向いたものであり、後染め方式で染色することに適している。
【0047】
また、本発明の機能性繊維製品は、該繊維製品の表面の一部に、プリント加工により印刷図柄を形成したり、あるいは短繊維をオパール加工することにより金属光沢図柄を形成したりしてももちろん構わない。
【0048】
本発明の機能性長短複合紡績糸を製造する方法の1例について具体的に説明する。
【0049】
まず、使用する短繊維(スライバー)とラメ糸をそれぞれ準備する。それぞれの繊維の製造方法は、従来から知られている方法によればよい。次にこれら繊維を紡績し長短複合紡績糸とする。
【0050】
紡績方法としては、できあがる長短複合紡績糸が実質的に無撚りとなる方法であればよく、特に限定されないが、例えば、旋回空気流の作用(仮撚りとその解撚作用)により短繊維を結束させて紡績糸を形成する汎用の空気精紡機を使用して、適宜のフィードローラーと糸道ガイドなどのラメ糸用の糸送り設備を介して、ラメ糸を精紡糸形成部手前のドラフトゾーンにてドラフトされながら精紡部に供給されていく短繊維束の中心部に添えるように供給することにより製造する方法などを好ましく用いることができる。
【0051】
特に好ましいのは、“ムラタ・ボルテックス・スピナー”装置(村田機械株式会社製:以下、MVSと記す)を用いる方法である。旋回空気流の作用を利用する紡績方法は各種のものが提案、開発、利用されているが、本発明の長短複合紡績糸を得るにはカバーリング率が高いことが重要であり、中でも、MVSを用いた紡績方法はこれを最も達成しうる紡績方法の一つである。
【0052】
また、その他の方法としては、次のような方法がある。まず、短繊維に、好ましくは120℃以下の低い融点を有する低融点繊維をある一定比率で混ぜて、リング精紡機を用いる長短複合紡績糸の一般的な製造方法によって実撚り構造(撚り数が4.0T(ターン)/Lsを超える実撚りレベルで糸に撚りがかかっている状態)の長短複合実撚り紡績糸を得る。次に、ホットローラーまたは非接触式の熱板を有するリング撚糸機にこの長短複合実撚り紡績糸を仕掛けて、精紡機とは逆撚り方向での同じ撚り数の撚りを与えて、撚りを完全に戻しながら、ホットローラー、または熱板によって低融点繊維を周りの短繊維やラメ糸に融着させて無撚りの本発明の機能性長短複合紡績糸を得ることができる。この方法の場合、混ぜる低融点繊維の混率や与える撚り数、およびホットローラーまたは熱板の温度設定などを得られる長短複合紡績糸の風合いを損なわないように適正に設定することが重要である。
【0053】
こうして得られた本発明の機能性長短複合紡績糸を各種繊維製品にするには、特別な方法による必要はなく既存の方法によればよい。
【0054】
本発明の機能性長短複合紡績糸を上述した旋回空気流の作用を利用する紡績法により製造する場合には、機能性長短複合紡績糸は、チーズあるいはコーンで巻取るので、リング紡績機を使用して製造する場合に比べてラージパッケージ化とすることができる。したがって、後工程では糸の結び目をより少なくできるものである。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
実施例1〜10
本発明の機能性長短複合紡績糸に使用する短繊維としてセルロース系短繊維(モダール繊維1.3dtex×39mm:LENZING社製)を準備し、通常の紡績法を経て1.0g/mの太さのスライバーを作成した。
【0056】
また、ラメ糸として、表1に記載した通りの積層構成で広幅で長尺の積層体を幅0.15mm、0.1mm、1mm、2mm、2.5mmにスリットして、幅の異なる5種のスリット糸を用意した。スリット糸の厚さは13μmである。
【0057】
なお、フィルムとしてPETフィルムを使用し、金属薄膜層として、樹脂層側からAl薄膜層、Cr薄膜層が順次積層された金属薄膜層とした。
【0058】
これらのセルロース系短繊維とスリット糸とを用いて、スリット糸の混合率(対複合紡績糸重量%)(3%、5%、14%、30%、60%、70%)と、スリット糸の幅(スリット幅)との組合せを種々変えて、合計10種類の本発明の機能性長短複合紡績糸を製造した(実施例1〜10)。
【0059】
本発明の機能性長短複合紡績糸は、上記の短繊維スライバーをMVS精紡機に仕掛け、フィラメント用のフィードローラー装置と糸道ガイドを介して、ラメ糸(1本)をフロントトップローラー〜セカンドトップローラー間から短繊維束の幅方向中心位置に供給する製造方法により得た。ラメ糸と短繊維の種類、混合率などは表1に記載したとおりである。
【0060】
こうして得られた実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸は何れも、芯部にラメ糸が位置し、その周囲(鞘部)にセルロース系短繊維が芯部のラメ糸とほぼ平行な状態で存在している短繊維群Aと、更にその周囲に緩いピッチで交互撚り状態を呈しながらラメ糸と短繊維群Aにしっかりと巻き付いて結束して全体の糸形態を保持させている結束短繊維群Bとからなる全体として実質的に無撚り(撚り数:0T/Ls)である長短複合紡績糸であった。
【0061】
さらに該長短複合紡績糸を、後染め方式による染色加工に供し、短繊維であるセルロース系短繊維を染め対象にして、青色の反応染料により染色した。
【0062】
こうして得られた本発明の機能性長短複合紡績糸は、ソフトな光輝性を呈し、毛羽が少なく、肌触りが柔らかいなどの前記した機能性を全て有しており、従来のもの(後述の比較例1品)と比べて全ての機能性に優れているものであった。
【0063】
この実施例1〜10の機能性長短複合紡績糸と、他の糸(セルロース系繊維糸)と製編して、本発明の機能性繊維製品である2次繊維製品の編物および該編物を使用した最終繊維製品のセーターをそれぞれ製造した。
【0064】
この実施例1〜10のセーターも、本発明の機能性長短複合紡績糸の有する上記機能性に加え、抗ピリング性(毛玉の発生が少ない)に優れ、製造工程で斜行しにくく、繊維玉の発生も少ないなどの機能性も有するものであった。
【0065】
なお、実施例1〜4の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターは、スリット糸の幅が2.5mmである実施例5の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと比較して、機能性の全ての点でより優れており万全であった。
【0066】
また、実施例5〜8の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターは、スリット糸の混合率が3重量%である実施例9の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと比較して、ソフトな光輝性の点でより優れており万全であり(実施例9の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターはスリット糸の混合率が低いため、光輝性を呈する部分(短繊維が疎になっている部分など)が相対的に少なく、光輝性そのものにやや欠ける)、スリット糸の混合率が70重量%である実施例10の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと比較して、ソフトな光輝性や肌触りの点でより優れており万全であった(実施例10の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターはスリット糸の混合率が高いため、光輝性を呈する部分(短繊維が疎になっている部分など)が相対的に多く、またごく一部にスリット糸が露出しているので、ソフトな光輝性や肌触りの点でやや劣る)。
【0067】
比較例1
実施例1と同様のスリット糸と短繊維を用いて同様の混合率で、リング精紡機を使用して、スリット糸を芯糸にして短繊維を鞘糸として交撚した長短複合紡績糸(特許文献2記載の光輝性精紡糸に相当)を製造した。
【0068】
上記長短複合紡績糸は、糸の全体にわたり芯糸であるスリット糸がランダムに露出しているものであった。
【0069】
さらに、実施例1と同様にして短繊維を染色したセーターを製造した。
【0070】
なお、比較例1の長短複合紡績糸の撚り数は9400T(ターン)/mであり、この撚り数を、短繊維の平均繊維長(39mm)あたりの撚り数に換算すると367T/Lsとなり、実質的に無撚りではなかった。
【0071】
比較例1の長短複合紡績糸およびセーターは、糸の全体にわたり芯糸であるスリット糸がランダム露出しており、ソフトな光輝性、肌触り、抗ピリング性など、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸やセーターの前記機能性を全く有していなかった。
【0072】
なお、実施例1〜10、比較例1で使用したスリット糸の積層構成、幅およびフィルムや金属薄膜層の種類、短繊維の種類、並びにスリット糸の混合率について表1にまとめた。
【表1】

【0073】
実施例11
短繊維として、実施例1のセルロース系短繊維に替えてポリエステル系短繊維(1.3dtex×38mm:東レ株式会社製)を使用したこと、及びラメ糸として、積層構成を表2記載の通りとし、実施例1のAl薄膜層、Cr薄膜層が順次積層された金属薄膜層に替えて、Al薄膜層を金属薄膜層とした厚さ12μmのスリット糸を使用したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の機能性長短複合紡績糸を製造した。
【0074】
実施例11の本発明の機能性長短複合紡績糸も、実施例1〜11の本発明の機能性長短複合紡績糸と同様の構造を有していた。
【0075】
この機能性長短複合紡績糸とポリエステル系繊維糸を製織して、本発明の機能性繊維製品である2次繊維製品の織物および該織物を使用した最終繊維製品のカーテンを製造した。
【0076】
実施例11の本発明の機能性長短複合紡績糸およびカーテンも、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと同様、本発明の優れた機能性を全て有するものであった。
【0077】
実施例12
短繊維として、実施例1のセルロース系短繊維に替えてアクリル系短繊維(0.7dtex×38mm:東レ株式会社製)を使用したこと、及びラメ糸として、積層構成を表2記載の通りとし、実施例1のPETフィルムに替えてポリアミドフィルムを使用し、Al薄膜層、Cr薄膜層が順次積層された金属薄膜層に替えてSn薄膜層を金属薄膜層とした厚さ25μmのスリット糸を使用したこと以外は、実施例1と同様にして本発明の機能性長短複合紡績糸を製造した。
【0078】
実施例12の本発明の機能性長短複合紡績糸も、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸と同様の構造を有していた。
【0079】
この機能性長短複合紡績糸とウール糸を製編して本発明の機能性繊維製品である2次繊維製品の編物を製造した。
【0080】
さらに該編物を後染め方式による染色加工に供し、スリット糸およびウール糸を染め対象にして、黄色の酸性染料により染色した。
【0081】
染色後の編物を使用して最終繊維製品のセーターを製造した。
【0082】
実施例12の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターも、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと同様、本発明の優れた機能性を全て有するものであった。
【0083】
実施例13
ラメ糸として、積層構成を表2記載の通りとし、実施例1のAl薄膜層、Cr薄膜層が順次積層された金属薄膜層に替えてAg薄膜層を金属薄膜層とした厚さ19μmのスリット糸を使用したこと以外は、実施例1と同様にして本発明の機能性長短複合紡績糸を製造した。
【0084】
実施例13の本発明の機能性長短複合紡績糸も、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸と同様の構造を有していた。
【0085】
この機能性長短複合紡績糸とセルロース系繊維糸を製編して、本発明の機能性繊維製品である2次繊維製品の編物および該編物を使用した最終繊維製品の靴下を製造した。
【0086】
実施例13の本発明の機能性長短複合紡績糸および靴下も、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと同様、本発明の優れた機能性を全て有するとともに、Ag薄膜層の存在により抗菌性をも有するものであった。
【0087】
実施例14
ラメ糸として、実施例1のスリット糸に替えて、該スリット糸の周りにポリアミド系繊維糸をたすき撚り(S撚り、Z撚りの2方向)で2本撚り合わせた撚り糸を使用したこと以外は、実施例1と同様にして本発明の機能性長短複合紡績糸を製造した。
【0088】
実施例14の本発明の機能性長短複合紡績糸も、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸と同様の構造を有していた。
【0089】
さらに該長短複合紡績糸を、後染め方式による染色加工に供し、短繊維であるセルロース系繊維を染め対象にして青色の反応染料により染色した。
【0090】
この染色後の機能性長短複合紡績糸とセルロース系繊維糸を製編して、本発明の機能性繊維製品である2次繊維製品の編物および該編物を使用した最終繊維製品のセーターを製造した。
【0091】
実施例14の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターも、実施例1〜10の本発明の機能性長短複合紡績糸およびセーターと同様、本発明の優れた機能性を全て有するものであった。
【0092】
なお、実施例11〜14で使用したスリット糸の積層構成、幅およびフィルムや金属薄膜層の種類、短繊維の種類、並びにスリット糸の混合率について表2にまとめた。
【0093】
【表2】

【符号の説明】
【0094】
1:ラメ糸
2:短繊維群A
3:結束短繊維群B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部を鞘部で被覆してなる長短複合紡績糸であって、前記芯部にラメ糸を有し、前記鞘部に短繊維を有し、該鞘部の短繊維は、ラメ糸とほぼ平行に配されている短繊維群Aと、該短繊維群Aと前記ラメ糸を結束する結束短繊維群Bとからなり、かつ長短複合紡績糸全体として実質的に無撚りであることを特徴とする機能性長短複合紡績糸。
【請求項2】
前記ラメ糸の幅が0.1〜2.5mmである請求項1記載の機能性長短複合紡績糸。
【請求項3】
請求項1または2記載の機能性長短複合紡績糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする機能性繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−149131(P2011−149131A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12332(P2010−12332)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000156042)株式会社麗光 (33)
【出願人】(506072815)丸一繊維株式会社 (6)
【Fターム(参考)】