説明

機能性食品の製造方法及び機能性食品

【課題】食品素材が本来持つ形状、色、香りなどの特徴を保持して、外部からの機能性成分の添加を行わずに、食品素材に均等に生理活性物質を含有した機能性食品を効率よく製造する方法を提供することにある。特に、食品素材に含まれるタンパク質や糖類を基質として水溶性ペクチン、ペプチドまたはオリゴ糖を生理活性物質として生成させた機能性食品を製造する方法を提供する。また、本来の形状を維持し、見た目が変わらない食品素材として、生理活性物質を摂取することができる機能性食品を提供する。
【解決手段】食品素材を誘電加熱して、食品素材内の組織間及び細胞内に含まれる水分を蒸散させ含水量を低減させた後、食品素材に分解酵素を接触させて加圧または減圧し、食品素材の形状を保持して内部に均一に分解酵素を含有させ、分解酵素の作用により食品素材内に含まれる酵素基質を分解して生理活性物質を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材の形状を保持したまま食品素材内に分解酵素を均一に含有させ生理活性物質を生成させた機能性食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の機能性食品が開発されている。機能性食品は、一般的に人間の健康、身体能力、心理状態に好ましい影響を与える作用、例えば、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、神経系等の生理系統を調節して、健康の維持や健康の回復に好ましい効果を及ぼす生体調節機能を十分に発現できるように設計・加工された食品であり、健康増進、病気予防、又は医薬的特性のある天然の生理活性物質もこれに含まれる。機能性食品の製造においては、機能性成分が豊富な食品素材を加工する方法や、食品素材からの抽出物を微生物発酵や酵素製剤によって分解あるいは転移反応させて製造した機能性成分を元に、食品に添加する方法が用いられている。機能性成分が豊富な食品素材としては、例えば大豆が挙げられ、豆乳や豆腐、煮豆などの加工食品が健康食品として販売されている。また加工食品に添加される機能性食品としては、例えば、デンプンにα−アミラーゼ等の糖分解酵素を作用させて製造されるマルトオリゴ糖や、砂糖にβ−フルクトフラノシダーゼを作用させて製造されるフルクトオリゴ糖などが挙げられ、それらは、例えばヨーグルトや飲料に添加され、機能性食品として販売されている。糖関連の機能性食品の多くはバイオリアクターで工業的に大量生産され(非特許文献1)、ペプチド関連の機能性素材は植物、魚、肉類等から直接抽出あるいは酵素分解後に抽出され(非特許文献2)、様々な食品に利用されている。しかし、これら機能性食品の製造では、食品加工工程中で機能性成分が減少・損失するという問題や、機能性食品を添加して加工食品を製造する場合、添加が容易な液状食品に偏ってしまうという問題がある。また、機能性食品の製造に使われる食品は、もともと食品素材がもつ風味やテクスチャー等の特徴は失われ、単なる抽出原料として利用されている。食品素材の形状を保持しながら、機能性成分を増強する食品として、納豆等の発酵食品があるが、この種の発酵食品は特定の食品に限定され、しかも、発酵臭を伴うために使用用途が限られるという問題がある。
【0003】
本発明者らは,これまでに植物食品素材を凍結・解凍後、減圧下で酵素液に浸漬し、もともとの素材の形状を保ったまま、植物食品素材の組織へ酵素を導入する方法(特許文献1)や、調味液の塩分濃度等を調整し、凍結及び解凍した植物性食品を酵素液に浸漬して減圧操作して酵素を組織に導入し、型崩れなく調味及び加圧加熱殺菌する方法(特許文献2)等を開発している。これらの方法は、植物食品素材の形状、色、味、香り、食感、栄養成分を変えずに食品素材内に分解酵素を導入し、分解酵素の作用によって食品素材内に含有されるタンパク質や多糖類の基質を分解し生理活性物質を生成させ、食品素材中に機能性成分が含有されているかどうかとは無関係に機能性成分を含有する食品とすると共に、その硬さを柔軟にすることができる。しかし、この方法では、分解酵素は食品素材の内部に均一に含有させることができるが、その浸透範囲は細胞間隙や、細胞表面に留まり、細胞内部まで到達させることは困難である。このため細胞内に存在する基質に対しては酵素作用による分解は困難であり、形状を保持して、細胞内部に蓄えられた基質を分解し、生理活性物質を生成させた食品を効率よく製造することに対しては充分ではなく、分解酵素を細胞内部まで浸透させる更なる技術が必要である。
【0004】
ところで、誘電加熱は、食品の解凍、加熱、乾燥、膨化処理のために食品工場ではもちろん、一般家庭でも、電子レンジにより使用されている。電子レンジで長時間加熱して調味液を浸透させる方法(特許文献3)や、電子レンジ加熱と真空調理を組み合わせて調味料を浸透させる方法(特許文献4)が開示され、食品調理技術として利用されている。しかし、これらの方法において、分解酵素を使用した場合、電子レンジ加熱により分解酵素は熱変性して失活し、食品中に分解酵素作用により生理活性成分を生成させることは不可能である。また、真空処理により食品内へ調味料を含有させることは可能であっても、分子量の大きい分解酵素を浸透させることは困難であり、効率よく細胞内の基質を分解させて生理活性物質を生成することは困難である。
【非特許文献1】FFI JOURNAL No.178(1998)p19−28
【非特許文献2】食品と開発 VOL.40 No.7 p37−45
【特許文献1】特許第3686912号公報
【特許文献2】特開2006−223122号公報
【特許文献3】特許第3615747号公報
【特許文献4】特開2001−238612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、食品素材が本来持つ形状、色、香りなどの特徴を保持して、外部から機能性成分を添加せずに、食品素材に均等に生理活性物質を含有した機能性食品を効率よく製造する方法を提供することにある。特に、食品素材に含まれるタンパク質や糖類を基質として水溶性ペクチン、ペプチドまたはオリゴ糖を生理活性物質として生成させた機能性食品を製造する方法を提供することにある。また、本来の形状を維持し、見た目が変わらない食品素材として、生理活性物質を摂取することができる機能性食品を提供することにある。また、食品素材に含まれるタンパク質や糖類を基質として水溶性ペクチン、ペプチドまたはオリゴ糖を生理活性物質として生成させると同時に、柔軟性を向上させ、咀嚼や嚥下が困難な者に対し摂取を容易とする機能性食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、内部に機能性成分を含有するにも拘わらず、形状や食感を保持し、通常と変わらない方法で摂取することができる機能性食品の製造方法について、鋭意研究を行った。その結果、食品素材を誘電加熱することにより、水分移動と水蒸気拡散過程を急速に行わせ、食品素材内の組織間のみならず細胞内の水分を蒸散させ含水量を低減させて、細胞内へ浸透可能な酵素の通り道をつくり、その後の加圧若しくは減圧の圧力処理により、食品素材の組織間のみならず細胞内へ均一、且つ効率よく酵素を導入することができることを見出した。食品素材の誘電加熱を行うことにより、処理時間の短縮を図り、細胞中心部に存在する酵素基質と分解酵素との接触効率を飛躍的に増大させることができ、食品素材の一般的な加熱処理方法である煮る、焼く、蒸すなどの方法を用いて食品素材内の水分を蒸散させた場合では得ることができない、食品素材の色調変化、栄養素の流出等の品質低下も招くこともなく、食品素材の形状を保持した状態で、機能性成分を均一、且つ効率よく含有させた機能性食品を製造することができることの知見を得た。
【0007】
更に、誘電加熱によって高温となった食品素材を、一旦、60℃以下まで冷却することが、酵素の浸透効率向上に一層効果的であることも見い出した。かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、食品素材を誘電加熱して、食品素材内の組織間及び細胞内に含まれる水分を蒸散させ含水量を低減させた後、食品素材に分解酵素を接触させて加圧または減圧し、食品素材の形状を保持して内部に均一に分解酵素を含有させ、分解酵素の作用により食品素材内に含まれる酵素基質を分解して生理活性物質を生成させることを特徴とする機能性食品の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、食品素材内に含まれる酵素基質を分解酵素の作用により分解した生理活性物質を、形状を保持した食品素材内の組織間及び細胞内に均一に含むことを特徴とする機能性食品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の機能性食品の製造方法は、食品素材が本来持つ形状、色、香りなどの特徴を保持して、外部からの機能性成分の添加を行わずに、食品素材に均等に生理活性物質を含有した機能性食品を効率よく製造することができ、特に、食品素材に含まれるタンパク質や糖類を基質として水溶性ペクチン、ペプチドまたはオリゴ糖を生理活性物質として生成させた機能性食品を得ることができる。
【0011】
また、本発明の機能性食品は、本来の形状を維持し、見た目が変わらない食品素材として、生理活性物質を摂取することができる。更に、食品素材に含まれるタンパク質や糖類を基質として水溶性ペクチン、ペプチドまたはオリゴ糖を生理活性物質として生成させると同時に、柔軟性を向上をさせることにより、咀嚼や嚥下が困難な者が容易に摂取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の機能性食品は、食品素材内に含まれる酵素基質を分解酵素の作用により分解した生理活性物質を、形状を保持した食品素材内の組織間及び細胞内に均一に含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の機能性食品において用いられる食品素材としては、生の状態のものでも、煮る、焼く、蒸す、揚げるなどの加熱・調理した食品素材でも、冷凍及び解凍したものでも用いることができる。具体的には、大根、人参、牛蒡、筍、生姜、キャベツ、白菜、セロリ、アスパラガス、葱、玉葱、ほうれん草、小松菜、茗荷、ブロッコリー、胡瓜、茄子、隠元等の野菜、ジャガイモ、薩摩芋、里芋等の芋類、大豆、小豆、蚕豆、エンドウ豆などの豆類、米、小麦等の穀類、みかん、林檎、桃、サクランボ、梨、パイナップル、バナナ、梅などの果実類、椎茸、シメジ、エノキ、ナメコ、松茸等のキノコ類、鯛、鮪、鯵、鯖、鰯、烏賊、蛸、浅蜊、蛤等の魚介類、鶏肉、豚肉、牛肉等の肉類、若布、昆布、海苔等の藻類等を例示することができる。更に、上記食品素材を加工したこれらの加工食品であってもよい。加工食品としては、蒲鉾などの練製品、漬物、惣菜、麺類、各種菓子等いずれのものであってもよい。
【0014】
このような食品素材の形状は、いずれの形状であってもよく、その大きさは素材毎に適宜選択することができる。例えば、ジャガイモ等は切断せずそのまま処理することもできるが、分解酵素等を中心部まで均一に導入し、均一に生理活性物質を含有させるために、略立方体であれば1辺が30mm以下、略球状であれば直径30mm以下であることが好ましい。この食品素材の形状はそのまま保持され機能性食品の形状となる。
【0015】
これらの食品素材内に含まれる酵素基質としては、分解酵素の酵素活性の作用により分解され生理活性物質を生成するものであれば、ペクチン類、タンパク質、デンプン類等いずれであってもよい。以下に例示する分解酵素の作用により水溶性ペクチン、ペプチド、オリゴ糖等の生理活性物質が生成される酵素基質を挙げることができる。また、抗原タンパク質も分解酵素の活性の対象として挙げることができる。これらの酵素基質は、組織間に存在するもののみならず、細胞内に存在するものであってもよい。
【0016】
本発明の機能性食品において用いられる分解酵素としては、食品素材内の基質を分解して生理活性物質を生成するものであれば、いずれのものであってもよい。具体的には、生理活性物質として、水溶性ペクチン、ペプチド、オリゴ糖を生成する酵素活性を有するものが好ましい。具体的には、ペクチナーゼ、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等のペクチン類を分解する酵素、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等のタンパク質を分解する酵素、アミラーゼ、β−グルコシダーゼ、トランスグルコシダーゼ等のデンプン類を分解する酵素等を例示することができる。これらの分解酵素の起源は特に問わず、微生物由来、植物由来、動物由来のものを使用することができる。これら1種または相互に作用を阻害しない範囲で2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
これらの分解酵素の形態としては、粉末状であっても、液状であっても、分散液に含有されるものであってもよい。
【0018】
本発明の機能性食品においては、上記分解酵素により生成される生理活性物質は、機能性食品内に均一に存在し、組織間のみならず細胞内に存在する。機能性食品における生理活性物質の含有量は、食品素材に接触させる分解酵素の量、分解酵素の作用時間を選択して調整することができ、例えば、ジャガイモ100g中オリゴ糖含量2g〜10g等とすることができる。また、これらの生理活性物質と共に、使用する分解酵素によってはアミノ酸や単糖類も生成され、呈味性の向上が図られる。更に、植物組織では細胞間隙物質の分解、動物組織では硬タンパク質の軟化が生じ、食品素材の形状を保持した状態で軟化が生じ、咀嚼困難者、嚥下困難者にとっても摂取が容易になり、機能性成分を容易に摂取できる食品となる。
【0019】
このような機能性食品の製造方法として、本発明の機能性食品の製造方法は、食品素材を誘電加熱して、食品素材内の組織間及び細胞内に含まれる水分を蒸散させ含水量を低減させた後、食品素材に分解酵素を接触させて加圧または減圧し、食品素材の形状を保持して内部に均一に分解酵素を含有させ、分解酵素の作用により食品素材内に含まれる酵素基質を分解して生理活性物質を生成させることを特徴とする。
【0020】
本発明の機能性食品の製造方法における食品素材の誘電加熱は、食品素材内の組織間及び細胞内に含まれる水を蒸散させ、食品素材中の含水量を低減させ、水分移動と水蒸気拡散過程を急速に行わせることにより、酵素の通り道をつくり、これにより、分子量が大きい分解酵素の細胞内への導入を容易にさせ得る。
【0021】
上記誘電加熱には高周波、マイクロ波電加熱のいずれも使用することができるが、マイクロ波誘電加熱が好ましく、周波数300MHz〜30GHz(波長1cm〜1m)のマイクロ波を用いることが好ましい。誘電加熱を行う出力としては、加熱時間との関連により適宜調整することができ、低出力であれば加熱時間を長く、高出力であれば加熱時間を短くすることにより調整することができる。
【0022】
誘電加熱時の温度は、食品素材の水分の蒸散効果を得るため、食品素材の中心温度が60℃以上であることが好ましく、より好ましくは80〜100℃である。加熱時間は食品素材に応じて設定する必要があるが、短いものでは20秒程度の加熱でも十分である。
【0023】
このような誘電加熱を行う装置としては、一般家庭で使用されている電子レンジや店舗で使用されている業務用レンジ、また、大量生産用に工場レベルで使用されるマイクロ波加熱機や減圧マイクロ波加熱機、加圧マイクロ波加熱機等を使用することもできる。
【0024】
誘電加熱は、食品素材の含水量を食品素材に対して3質量%以上低減するように行うことが好ましい。食品素材の含水量が食品素材に対して3質量%以上低減することにより、食品素材中において水分移動と水蒸気拡散が充分に行われ、後述する分解酵素と食品素材内の空気との置換効率を飛躍的に上昇させることができる。食品素材の含水量の低減は食品素材に対して60質量%以下であることが、食品素材の形状や性状が損なわれるのを抑制することができるため、好ましい。また、誘電加熱は食品を乾燥できるという特徴をもっており、水分の蒸散の程度によっては食品素材表面から乾燥が起こる。豆類などの硬い外皮をもつ食品素材では、この乾燥処理を利用して表面乾燥を兼ねた誘電加熱は更に分解酵素と食品素材内の空気の置換効率が上がり有効な場合もある。しかしながら、いずれの素材であっても過度の誘電加熱は、食品素材の形状や性状が失われてその品質を著しく損なう場合があり、圧力処理による分解酵素と空気の置換効率を却って低減させる原因となる場合があり、過度の乾燥を避ける必要がある。
【0025】
ここで、食品素材の含水量の低減は、誘電加熱前後での105℃高温加熱乾燥法による水分測定値の変化量を採用することができる。
【0026】
誘電加熱後、食品素材を冷却することが、加熱により膨張した食品素材内の組織及び細胞を収縮させ、食品素材の細胞間隙の広がり、細胞の損傷や緩みを生じさせるため、好ましい。誘電加熱後の食品素材の冷却は、分解酵素接触に際して酵素失活が起こらないように60℃以下とすることが好ましい。後工程の圧力処理を直後に行わない場合は、冷蔵保存しておくことも可能である。
【0027】
更に、食品素材を凍結、凍結解凍、凍結乾燥等をしてもよい。このような凍結処理により、誘電加熱により組織間、細胞内に生じた間隙を更に拡張することができ、分解酵素の導入をより容易にすることができる。
【0028】
上記食品素材の誘電加熱後、食品素材に分解酵素を接触させる方法としては、液体又は粉末の分解酵素を水、調味液、緩衝液、アルコール等の液体に溶解あるいは分散させて分解酵素液を調製し、若しくは液体分解酵素を直接用いた分解酵素液を、食品素材に塗布、浸漬、若しくは噴霧する方法を挙げることができる。粉末の分解酵素は、粉末をそのまま食品素材に、ふりかける、若しくは噴霧する方法も使用できる。
【0029】
使用する分解酵素量としては、生成する生理活性物質の設定値によって適宜選択することができ、分解酵素を直接使用する場合、食品素材100gに対して、例えば、0.001〜0.5gの範囲を挙げることができる。分解酵素液の場合、例えば、溶媒液に対して0.01〜5.0質量%の範囲で分解酵素を溶解あるいは分散させて使用することができる。使用する分解酵素液のpHは4〜10であることが好ましい。このpHの調整には、有機酸類とその塩類やリン酸塩等のpH調整剤などを用いることができる。分解酵素液に食品素材を浸漬する場合は、浸漬時間は、例えば1〜120分等、その温度は4〜80℃等とすることができる。
【0030】
食品素材を分解酵素に接触させる際、分解酵素と共に、若しくは分解酵素液中に、増粘剤、粘性物質を生成する微生物、その他、栄養物等を含有させ、食品素材表面にこれらを分解酵素と共に接触させ、後工程の圧力処理において、分解酵素と共に、食品素材内へ導入させることもできる。
【0031】
上記工程において得られた酵素接触させた食品素材を減圧あるいは加圧して圧力処理を行い、酵素を食品素材の組織間あるいは細胞内に導入させる。圧力処理を行う加圧または減圧装置としては、耐圧性密封容器内に加圧ポンプあるいは真空ポンプを有する装置を使用することができる。耐圧性密閉容器に入れる食品素材は、分解酵素を付着させた状態(分解酵素液から引き上げた状態)、分解酵素液に浸漬した状態であってもよく、容器内での食品素材の状態は問わない。ここで用いる減圧としては吸引圧力10〜60mmHg程度、加圧としては10〜4000気圧程度とすることが好ましい。食品素材の種類や状態によって圧力を適宜調整して行うことが好ましい。上記圧力処理時間は、食品素材の組織間、細胞内へ導入する分解酵素の導入量によって、適宜選択することができ、具体的には、1〜60分程度等とすることができる。この圧力処理は常温で行うことも、食品素材の品質を損なわないように10℃前後で行うこともできる。誘電加熱により食品素材の組織が緩み、その細胞間隙あるいは細胞の損傷部位を通して食品素材内の空気を分解酵素と置換することができる。
【0032】
減圧あるいは加圧から常圧に復帰させた後、食品素材を一定の温度下に置き、酵素反応をさせることにより、組織間や細胞内の酵素基質が分解酵素の作用を受け、生理活性物質が生成される。食品素材に含有される基質から酵素反応により、食品素材の外形形状を変えずに水溶性ペクチン、ペプチドあるいはオリゴ糖等の生理活性物質が生成される。食品素材内に生理活性物質を生成させ、増加させることができる。酵素反応時間は5分〜240分程度がよいが、生理活性物質は酵素反応生成物であり、過度の酵素反応は生理活性物質の更なる酵素分解につながり、単糖やアミノ酸などの低分子まで過分解されることから、食品素材ごとに反応時間を設定することが好ましい。食品素材内における酵素反応を促進させるため、食品素材の温度は導入した酵素の至適温度とすることができるが、分解物によって食品素材に苦味や酸味等を生じる場合もあり、必ずしも至適温度が最適とは限らない。低温で品質を保ちながら12〜72時間程度反応させる、いわゆる熟成工程を経て、生理活性物質を生成させることも可能である。酵素反応の停止には加熱工程を利用でき、例えば90〜125℃で10〜60分加熱する方法等によることができ、かかる加熱は酵素失活と食品素材の殺菌とを同時に兼ねるものとできる。
【0033】
以上の工程を経て得られる機能性食品は、圧力処理による分解酵素導入時に同時に調味液の導入による味付けも可能であり、食品素材の形状が保持されることにより、外観が製造前の食品素材と同様であり、生理活性物質を含有しない通常の食品と同様の方法で摂取することができる。また、得られた機能性食品を新たな食品加工素材として用い、機能性を付加・増強した惣菜、レトルト食品、冷凍食品、真空調理食品、缶詰食品等、種々の加工食品に応用できる。
【実施例】
【0034】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが,本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ジャガイモを直径2cm、高さ1.5cmの略円柱に切断し、全量25.5gを、700Wで60秒、電子レンジ(NE−SV30HA:松下電器産業社製)で加熱した。加熱後に品温が30℃になるまで冷却したところ、ジャガイモの水分含量は誘電加熱前の79.7質量%から70.4質量%に変化した。ジャガイモをクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いて0.5質量%に調製したアミラーゼ活性を有する酵素液(液化酵素6T:エイチビィアイ社製)に5分間浸漬した後、ジャガイモを酵素液に浸漬したまま耐圧性容器内に入れ、真空ポンプで5分間減圧処理(60mmHg)した。常圧に復帰させてジャガイモを酵素液から取り出し、70℃の恒温槽中で1時間反応させた。反応後、5分間蒸煮(100℃)して酵素を失活させた。得られたジャガイモは処理前の形状を保っていた。
【0035】
作製したジャガイモを粉砕して水抽出し、ジャガイモに含まれるオリゴ糖含量を、高速液体クロマトグラフフィー(SHODEX SUGAR KS−802カラム:昭和電工社製)で測定した。オリゴ糖含量はジャガイモ100g中8.04gであった。オリゴ糖含量は、単糖を除く2単糖から10単糖の総量を、グルコース換算で求めた。結果を図1(誘電加熱)に示した。
【0036】
[比較例1−1]
未処理のジャガイモ25.1gを粉砕し、そのまま水抽出し、同様に生ジャガイモ中のオリゴ糖含量を測定した。オリゴ糖含量はジャガイモ100g中1.21gであった。結果を図1(生)に示した。
【0037】
[比較例1−2]
同様の円柱状に切断したジャガイモ23.3gを5分間蒸煮したあと、品温が30℃になるまで冷却して粉砕した。粉砕物に同様に調製した酵素液を混合し(質量比 ジャガイモ:酵素液=3:1で混合)、70℃で5分間反応させた。反応後すぐに100℃で蒸煮して酵素失活させ、同様にオリゴ糖含量を測定した。オリゴ糖含量はジャガイモ100g中8.80gであった。結果を図1(粉砕)に示した。なお、5分間の反応時間は同条件下で最もオリゴ糖を生成する条件であり、それ以上の酵素反応は過分解がおこり、単糖が増加してオリゴ糖が減少することを確認した上で比較対照とした。
【0038】
[比較例1−3]
同様の円柱状に切断したジャガイモ23.3gを5分間蒸煮したあと、品温が30℃にまるまで冷却した。その後、実施例1と同様に酵素液に浸漬し、減圧処理、酵素反応、酵素失活させた。得られたジャガイモから実施例1と同様にオリゴ糖含量を測定した。オリゴ糖含量はジャガイモ100g中2.14gであった。結果を図1(蒸煮)に示した。
【0039】
[比較例1−4]
同様の円柱状に切断したジャガイモ22.9gを5分間蒸煮したあと、品温が30℃になるまで冷却し、さらに−20℃で16時間凍結した。解凍後、実施例1と同様に酵素液に浸漬し、減圧処理、酵素反応、酵素失活させた。得られたジャガイモから実施例1と同様にオリゴ糖含量を測定した。オリゴ糖含量はジャガイモジャガイモ100g中6.77gであった。結果を図1(蒸煮+凍結)に示した。
【0040】
以上の結果、形状を保ったまま、素材内に最もオリゴ糖を生成したのは誘電加熱処理を施した実施例1において得られたジャガイモであり、未処理の生ジャガイモ中に含まれるオリゴ糖含量に対し、約6.6倍増加した。凍結処理でもオリゴ糖の増加は可能であったが、誘電加熱による生成量が飛躍的に上回った。誘電加熱処理が、細胞内への酵素導入効率を最も高めており、したがって細胞内デンプンのオリゴ糖への変換効率が最も高いことが分かった。粉砕物に対する酵素反応で最も大量にオリゴ糖を生成するが、誘電加熱法を用いると、形状を保ったままその約91%を食品素材内部でオリゴ糖に変換できた。このジャガイモは、形状、色、香りも通常のジャガイモと同等であり、味ではグルコース含量が増加して甘味が増加した。
【0041】
[実施例2]
鶏ささ身を縦1.5cm×横2.0cm×長さ3.0cmの棒状に調整し、全量25.7gを、500Wで50秒、電子レンジ(NE−SV30HA:松下電器産業社製)で加熱した。加熱後に品温が30℃になるまで冷却したところ、鶏ささ身の水分含量は誘電加熱前の73.2%から69.2%に減少した。鶏ささ身をリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて0.5質量%に調製したプロテアーゼ活性を有する酵素液(ブロメライン:天野エンザイム社製)に1分間浸漬して取り出し、表面に酵素液を付着させた状態で、真空ポンプで5分間減圧処理(60mmHg)した。常圧に復帰させて4℃の冷蔵庫中で1時間反応させた。反応後、5分間煮沸(100℃)して酵素を失活させた。処理した鶏ささ身は処理前の形状を保っていた。
【0042】
得られた鶏ささ身を粉砕して水抽出し、限外ろ過して10kDa以下の画分を調製した。抽出画分に含まれるペプチド含量を、ローリー法で測定した。ペプチド含量は、BSA換算量として求めた。ペプチド含量は鶏ささ身100g中2.3gであった。結果を図2に示した。
【0043】
[比較例2−1]
実施例2と同様に棒状に調整した鶏ささ身26.1gをそのまま粉砕し、実施例2同様に水抽出してペプチド含量を求めた。ペプチド含量は鶏ささ身100g中0.24gであった。結果を図2に示した。
【0044】
[比較例2−2]
実施例2と同様に棒状に調整した鶏ささ身25.5gを、実施例2と同様に調製した酵素液に生のまま4℃で1時間浸漬し、その後酵素液から取り出して、5分間煮沸(100℃)して酵素を失活させた。実施例2と同様に水抽出してペプチド含量を求めた。ペプチド含量は鶏ささ身100g中1.29gであった。結果を図2に示した。
【0045】
以上の結果から、誘電加熱後に酵素を導入した場合に、最もペプチドの含量が増加した。誘電加熱後に酵素接触、圧力処理することによりペプチド含量は約10倍増加した。1時間酵素に浸漬した場合もペプチド含量は増えているが、増加量は約5倍程度にとどまった。浸漬法では長時間酵素液に浸漬しているため、鶏ささ身表面において過剰な酵素反応が起こり、表面崩壊によって形状を保つことができず、品質が損なわれた。誘電加熱、酵素接触、圧力処理の併用が、形状を保ったままでのペプチド増強に効果的であった。ペプチドともにアミノ酸含量も増加しており、旨味も増強された。
【0046】
[実施例3]
ゴボウを直径2.0cm、高さ1.0cmの略円柱に切断し、全量19.8gを500Wで70秒、電子レンジ(NE−SV30HA:松下電器産業社製)で加熱した。加熱後に品温が30℃になるまで冷却したところ、ゴボウの水分含量は誘電加熱前の83.8%から78.6%に変化した。ゴボウをクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いて0.5質量%に調製したヘミセルラーゼ及びペクチナーゼ活性を有する酵素液(ヘミセルラーゼ「アマノ」90:天野エンザイム(株)製)に5分間浸漬した後、ゴボウを酵素液に浸漬した状態で加圧機に入れ、加圧状態(700気圧)で10分処理した。常圧に復帰させてゴボウを酵素液から取り出し、50℃の恒温機中で1時間反応させた。反応後、5分間蒸煮(100℃)して酵素を失活させた。できたゴボウは処理前の形状を保っていた。
【0047】
作製したゴボウを粉砕して水抽出し、ゴボウに含まれる食物繊維含量を測定した。結果を表1に示した。未処理のゴボウの食物繊維総量は3.9質量%であり、酵素反応処理後ゴボウの食物繊維総量は4.0質量%とほとんど変化しなかったが、ゴボウに含まれる不溶性食物繊維は未処理ゴボウが3.0質量%であったのに対し、2.6質量%に減少し、水溶性食物繊維は0.9質量%から1.4質量%に増加した。
【0048】
未処理ゴボウと酵素反応処理後のゴボウをそれぞれ粉砕して水溶性画分を抽出し、ラット(Std:Wister/ST、 清水実験材料社製)での胃内滞留時間を調べたところ、酵素反応処理後のゴボウ抽出物では約2.5倍延長されたことから、本発明により作製されたゴボウは、色、香り、形状が保たれたまま機能性が付加されることが分かった。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例4]
大豆を水に16時間浸漬して水戻しした後、全量3.99gを700Wで2分、電子レンジ(NE−SV30HA:松下電器産業社製)で加熱した。加熱後に品温が30℃になるまで冷却したところ、大豆の水分含量は誘電加熱前の66.8%から51.0%に変化した。さらに大豆を−30℃で16時間凍結後、解凍した。解凍大豆をクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いて各1.0質量%ずつ2種類の酵素を混合して調製したプロテアーゼ及びペクチナーゼ活性を有する酵素液(プロテアーゼN「アマノ」G:天野エンザイム社製及びマセロチーム2A:ヤクルト薬品工業社製)に10分間浸漬した後、大豆を酵素液に浸漬したまま耐圧性容器内に入れ、真空ポンプで5分間減圧処理(60mmHg)した。常圧に復帰させて大豆を酵素液から取り出し、50℃の恒温機中で3時間反応させた。反応後、10分間蒸煮(100℃)して酵素を失活させた。できた大豆は処理前の形状を保っていた。
【0051】
得られた大豆を粉砕して水抽出し、6,000回転で15分遠心分離した上清液を、限外ろ過して10kDa以下の画分を調製した。抽出画分に含まれるペプチド含量を、ローリー法で測定した。ペプチド含量は、BSA換算量として求めた。ペプチド含量は大豆100g中3.97gであった。結果を図3に示した。
【0052】
[比較例4−1]
実施例4と同様に水浸漬した大豆4.06gを酵素処理せずにそのまま粉砕し、実施例4同様に水抽出してペプチド含量を求めた。ペプチド含量は大豆100g中0.24gであった。結果を図3に示した。
【0053】
[比較例4−2]
実施例4と同様に水浸漬した大豆3.94gを−30℃で16時間凍結し、その後解凍した。凍結解凍した大豆を実施例4と同様に調製した酵素液を用いて、同様に酵素浸漬、減圧処理、酵素反応、酵素失活を行った。実施例4同様に水抽出してペプチド含量を求めた。ペプチド含量は大豆100g中1.75gであった。結果を図3に示した。
【0054】
以上の結果から、誘電加熱及び凍結解凍後に酵素接触、圧力処理することにより最もペプチド含量が増加し、その量は酵素処理しない場合の約17倍に増加した。誘電加熱せず凍結解凍処理した大豆のペプチド含量も増えているが、増加量は約7倍程度にとどまった。凍結解凍操作のみでも細胞が損傷して酵素が作用し、ペプチドが増加したが、さらに誘電加熱処理を組み合わせることにより、すなわち誘電加熱による大豆表面乾燥と凍結解凍による氷結晶形成の相乗効果により酵素反応が効率的に進み、ペプチド生成量が飛躍的に増加した。できた大豆は形状を保持しており、ペプチドともにアミノ酸含量も増加しており、旨味も増強された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の機能性食品の実施例1の食品中の生理活性物質(ジャガイモ中のオリゴ糖含量)を示す図である。
【図2】本発明の機能性食品の実施例2の食品中の生理活性物質(鶏ささ身中のペプチド含量)を示す図である。
【図3】本発明の機能性食品の実施例4の食品中の生理活性物質(大豆中のペプチド含量)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品素材を誘電加熱して、食品素材内の組織間及び細胞内に含まれる水分を蒸散させ含水量を低減させた後、食品素材に分解酵素を接触させて加圧または減圧し、食品素材の形状を保持して内部に均一に分解酵素を含有させ、分解酵素の作用により食品素材内に含まれる酵素基質を分解して生理活性物質を生成させることを特徴とする機能性食品の製造方法。
【請求項2】
食品素材を誘電加熱する際、発振周波数300MHz〜30GHz(波長1cm〜1m)のマイクロ波を用いることを特徴とする請求項1記載の機能性食品の製造方法。
【請求項3】
食品素材を誘電加熱して、食品素材の含水量を食品素材に対して3質量%以上低減させることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性食品の製造方法。
【請求項4】
食品素材に分解酵素を接触させる際、分解酵素液を食品素材に塗布、浸漬、若しくは噴霧し、又は、分解酵素粉末を食品素材に付着、若しくは噴霧することを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の機能性食品の製造方法。
【請求項5】
分解酵素が生成する生理活性物質が、水溶性ペクチン、ペプチドまたはオリゴ糖のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の機能性食品の製造方法。
【請求項6】
食品素材が、肉類、魚介類、穀類、豆類、野菜類、果実類、きのこ類及び海藻類のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の機能性食品の製造方法。
【請求項7】
食品素材を誘電加熱した後、60℃以下に冷却することを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の機能性食品の製造方法。
【請求項8】
食品素材を誘電加熱後、凍結、凍結解凍、乾燥することを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の機能性食品の製造方法。
【請求項9】
食品素材内に含まれる酵素基質を分解酵素の作用により分解した生理活性物質を、形状を保持した食品素材内の組織間及び細胞内に均一に含むことを特徴とする機能性食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−187908(P2008−187908A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22868(P2007−22868)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】