説明

機能性養魚用飼料

【課題】 通常の飼料として投与可能であり、魚体内に残留・蓄積する有害物質を含まず、Flavobacterium属細菌による感染症を予防し、ヒレの損傷を防止可能な機能性養魚用飼料、及び該機能性養魚用飼料投与による、Flavobacterium属細菌による感染症の予防効果の評価方法を提供する。
【解決手段】 ブドウ(Vitis spp.)種子抽出物、及びβ‐1,3/1,6‐グルカンを含有し、Flavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられることを特徴とする機能性養魚用飼料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Flavobacterium属細菌による感染症の予防に好適な機能性養魚用飼料、特にヒレの欠損防止に好適な機能性養魚用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、アユ(Plecoglossus altivelis)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutch)等の養殖場において、養殖魚の冷水病(cold water disease)が重大な問題となっている。冷水病は、国内のアユ養殖場の約半数で毎年発生しているといわれており、また、冷水病菌を保菌した魚が河川に放流されることにより、天然魚への冷水病の感染・発症による大量死も報告されている。
【0003】
冷水病は、Flavobacterium psychrophillum(グラム陰性桿菌)の感染によって生じる細菌感染症で、5〜10℃の低水温においても発生する。
冷水病に感染した魚類は、鰓や肝臓の貧血、体表の白濁、体表の潰瘍、ヒレの欠損といった症状を生じ、特に稚魚において斃死率が高くなることが知られている。
【0004】
また、養殖魚は、一般的にコンクリート壁やいけす等で区画された飼育池において、過密状態で飼育されるため、養殖魚同士の接触や、壁面との接触により、体表に傷を生じることがある。該傷の部位からFlavobacterium columnare(グラム陰性桿菌)が感染することによってカラムナリス病を発症しやすいことが知られている。カラムナリス病に感染した魚類は、感染部位の炎症や損傷を発症し、進行することにより組織が融解壊死し、斃死することが知られている。
【0005】
これらの疾患の予防や治療には、抗生物質等の医薬品が使用されるが、耐性菌の出現による効果の減少、過剰投与による魚体内への抗生物質成分の残留という問題がある。また、菌の温度特性を利用した対策として、飼育水温を上昇させる方法が挙げられるが、加温設備の設置や燃料費のコスト負担が大きいという問題がある。更に、飼育水温を上昇させ、加温処理した魚(特に、琵琶湖産魚)において、シュードモナス病がしばしば発生し、感染拡大により大きな被害を生じることが報告されている。
【0006】
ところで、養殖魚の商品価値は、魚体の外観、特にヒレの状態に左右され、胸鰭、背鰭、尾鰭に欠損がなく、美麗であることが養殖魚の商品価値を高める上で重要である。
前記冷水病や前記カラムナリス病等のFlavobacterium属細菌による感染症は、斃死を引き起こすという弊害のみならず、ヒレの損傷による養殖魚の商品価値の低下という重大な問題を有するため、養殖業者にとっては該感染症の予防方法が切実に求められている。
特に、食材としての養殖魚は、食品衛生上の観点から、魚体内に薬剤成分が残留していないことが強く求められ、また、予防コストの増大が市場における該養殖魚の価格の高騰につながるという問題があることから、安全かつ簡易な予防方法が求められる。
【0007】
したがって、魚体内に有害物質を残留・蓄積させることなく、Flavobacterium属細菌による感染症を予防し、特に、ヒレの損傷を防止可能な手段は、未だ提供されていないのが現状であり、これらの開発が切に望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、通常の飼料として投与可能であり、魚体内に残留・蓄積する有害物質を含まず、Flavobacterium属細菌による感染症を予防し、特に、ヒレの損傷を防止可能な機能性養魚用飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ブドウ(Vitis spp.)種子抽出物を0.1〜0.2質量%、及びβ‐1,3/1,6‐グルカンを0.1〜0.2質量%含有し、Flavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられることを特徴とする機能性養魚用飼料である。
<2> ブドウ種子抽出物の含有量が0.1〜0.2質量%であり、β‐1,3/1,6‐グルカンの含有量が0.1〜0.2質量%である前記<1>に記載の機能性養魚用飼料である。
<3> ブドウ種子抽出物が、プロアントシアニジンを38〜60質量%含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の機能性養魚用飼料である。
<4> ビタミンCを0.5〜1.0質量%、及びビタミンEを0.1〜0.2質量%含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の機能性養魚用飼料である。
<5> サケ目、及びコイ目の魚類のFlavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられる前記<1>から<4>のいずれかに記載の機能性養魚用飼料である。
<6> ニジマス(Oncorhynchus mykiss)稚魚のFlavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられる前記<1>から<5>のいずれかに記載の機能性養魚用飼料である。
<7> Flavobacterium columnare、及びFlavobacterium psychrophillumの少なくともいずれかによる感染症の予防に用いられる前記<1>から<6>に記載の機能性養魚用飼料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、通常の飼料として投与可能であり、魚体内に残留・蓄積する有害物質を含まず、Flavobacterium属細菌による感染症を予防し、ヒレの損傷を防止可能な機能性養魚用飼料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(機能性養魚用飼料)
本発明の機能性養魚用飼料は、ブドウ種子抽出物、及びβ‐1,3/1,6‐グルカンを含有し、必要に応じて、適宜選択したビタミン類及びその他の成分を含み、Flavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられる。
【0012】
<ブドウ種子抽出物>
前記ブドウ種子抽出物としては、ブドウ種子から水、有機溶媒、及びこれらの混合液のいずれかにより抽出された抽出物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該抽出物中に、プロアントシアニジンを含有するものが好ましい。
前記ブドウ種子の品種としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができるが、プロアントシアニジン含有量の高い品種が好ましく、例えば、白羽種、及びミラトルガウ種、ツバイゲル種、セイベル種、及びキャンベル種等が挙げられる。
【0013】
前記プロアントシアニジンは、フラバン‐3‐オール、及びフラバン‐3,4‐ジオールを構成単位として縮合又は重合により結合した化合物群であり、酸処理によりシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン等のアントシアニジンを生成するプロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン、及びこれらの立体異性体を含む。
前記種子抽出物としては、前記プロアントシアニジンを38〜60質量%含有するものが好ましく、40〜50質量%含有するものがより好ましい。
【0014】
前記ブドウ種子抽出物の含有量としては、前記機能性養魚用飼料100質量%に対して0.1〜0.2質量%であることが好ましく、0.1質量%であることがより好ましい。
前記ブドウ種子抽出物の含有量が、前記0.1質量%未満であると、Flavobacterium属細菌による感染症の予防効果が得られないことがあり、0.2質量%を超えると、ヒレの欠損率抑制効果が制限されることがある。
【0015】
<β‐1,3/1,6‐グルカン>
前記β‐1,3/1,6‐グルカンとしては、β‐1,3グリコシド結合により結合したグルコピラノース単位からなる主鎖に、β‐1,6グリコシド結合によって結合したグルコピラノース単位の少なくとも1個の側鎖を有するグルカンであれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記β‐1,6グリコシド結合を6%以上含有するグルカンが好ましい。
前記β‐1,3/1,6‐グルカンとしては、例えば、微生物の細胞壁から抽出されたグルカンが挙げられ、具体的には、パン酵母菌(Saccharomyces cervisiae)、黒酵母菌(Aureobasidium pullulans)等の細胞壁から抽出されたものが挙げられる。
【0016】
前記β‐1,3/1,6‐グルカンの含有量としては、前記機能性養魚用飼料100質量%に対して0.1〜0.2質量%であることが好ましく、0.1質量%であることがより好ましい。
前記β‐1,3/1,6‐グルカンの含有量が、0.1質量%未満であるとFlavobacterium属細菌による感染症の予防効果が得られないことがあり、前記含有量が0.2質量%を超えると、飼料の投与量に対する魚体の体重増加量(飼料効率)が低下することがある。前記飼料効率は、下記の式により求められる。
飼料効率(%)=体重増加量(g)×100/飼料投与量(g)
【0017】
<ビタミン類>
前記ビタミン類としては、例えば、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、ビタミン様物質、及びプロビタミン類などが挙げられ、これらの中でも、ビタミンC及びビタミンEの組合せが好ましい。
前記ビタミンCの含有量としては、0.5〜1.0質量%が好ましく、前記ビタミンEの含有量としては、0.1〜0.2質量%が好ましい。
【0018】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ酸、ミネラル類、色素、ラクトフェリン、納豆胞子、ニンニク抽出物、タウリン、グルタチオン、木酢酸、リゾチーム、DHA、りん脂質、ベタイン、及びカゼインホスホペプチド等が挙げられる。
【0019】
<養魚用飼料基材>
上記各成分が添加される養魚用飼料基材としては、特に制限はなく、投与する魚の種類や成長段階等に応じて適宜選択することができる。例えば、主成分として魚粉、小麦粉、及び大豆粕粉からなる配合飼料等が挙げられる。
【0020】
前記機能性養魚用飼料の形状としては、特に制限はなく、投与する魚の種類や成長段階等に応じて適宜選択することができ、例えば、ペースト状、固型状(モイストペレットを含む)、及び粉末状等が挙げられる。
【0021】
前記機能性養魚用飼料の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記養魚用飼料基材に対し、少なくとも前記ブドウ種抽出物、及び前記β‐1,3/1,6‐グルカンを予め配合し、常法に従い調製・成形してもよく、前記養魚用飼料基材として調製・成形された配合飼料に対し、少なくとも前記ブドウ種子抽出物、及び前記β‐1,3/1,6‐グルカンをコーティング等の方法により添加してもよい。
また、前記養魚用飼料基材に対し、前記ブドウ種抽出物、前記β‐1,3/1,6‐グルカン、前記ビタミンC、及び前記ビタミンEを予め配合し、常法に従い調製・成形してもよく、前記養魚用飼料基材として調製・成形された配合飼料に対し、前記ブドウ種子抽出物、前記β‐1,3/1,6‐グルカン、前記ビタミンC、及び前記ビタミンEをコーティング等の方法により添加してもよい。
【0022】
前記機能性養魚用飼料の投与方法としては、特に制限はなく、投与する魚の種類や成長段階等に応じて適宜選択することができるが、餌付け開始時から連続的に投与することが好ましい。
【0023】
前記機能性養魚用飼料を投与し、前記Flavobacterium属細菌による感染症の予防を行う対照の魚類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サケ目サケ科(ニジマス、カラフトマス、シロサケ、ギンザケ、イワナ、ヤマメ等)、サケ目アユ科(アユ等)、サケ目キュウリウオ科(サカサギ、シシャモ等)、サケ目シラウオ科(シラウオ)、コイ目(コイ、フナ等)、スズキ目(ブリ、マダイ等)、ウナギ目、キンメダイ目、及びタラ目などが挙げられる。前記機能性養魚用飼料は、これらの中でもサケ目、コイ目、及びスズキ目の魚類の飼料として好適であり、サケ目、及びコイ目の魚類の飼料としてより好適であり、ニジマスの稚魚の飼料として特に好適である。
前記機能性養魚用飼料は、前記Flavobacterium属細菌による感染症を予防し、ヒレや体表の欠損を防ぐことができるため、養殖魚や観賞魚等の商業的価値のある魚類の餌として好適である。
【0024】
(Flavobacterium属細菌感染予防の評価)
前記Flavobacterium属細菌の感染症予防効果は、前記魚類のヒレの欠損による面積変化に基づいて判定することができる。
面積を測定するヒレとしては、背鰭、胸鰭、尾鰭、腹鰭、臀鰭のいずれでもよいが、観察が容易であり、欠損の発生頻度が高いことから、背鰭及び尾鰭のいずれかが好ましい。
【0025】
<測定方法>
前記ヒレの面積は、測定対照の魚体を、オイゲノール等を用いて麻酔し、実体顕微鏡等を用いて観察することにより測定することができる。
比較対照は、欠損が認められない正常固体のヒレ面積、成長段階に応じたヒレの基部(付け根)と長さとの相関から統計的に得ることができる。統計的に得た前記ヒレ面積、及びヒレの基部(付け根)とヒレの長さの相関を基準として、測定した被験魚体のヒレの欠損率を評価することができる。
【0026】
<評価方法>
前記比較対照から、前記被験魚体のヒレの欠損率を求めることにより、前記Flavobacterium属細菌の感染症の発症を評価することができる。例えば、ヒレ欠損を有する魚体のヒレ面積を、前記比較対照のヒレ面積と比較し、ヒレ欠損率が30%未満である場合(ヒレ残存率が70%以上である場合)を「軽度」、ヒレ欠損率が30%以上70%未満である場合(ヒレ残存率が30%以上70%未満である場合)を「中度」、ヒレ欠損率が70%以上である場合(ヒレ残存率が30%未満である場合)を「重度」として評価することができる。
【0027】
前記評価に基づく「軽度」又は「中度」と評価された魚体が存在した場合、該魚体と同じ水槽で飼育されている養殖魚に前記機能性養魚用飼料を投与し、あわせて飼育環境の改善を行うことによって、前記Flavobacterium属細菌感染拡大をより確実に防止することができ、ヒレ欠損の発生を抑制することができる。
前記飼育環境の改善としては、例えば、飼育密度を低くする方法、通水量を多くする方法、投餌率を高くする方法等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(実施例)
図1に示す塩化ビニル製飼育用水槽を屋内に設置し、平均体重1.4gのニジマス稚魚を、図2に示す1区画の水槽に190尾ずつ収容した区画A〜Eを設けた。各区画の前記ニジマス稚魚に下記表1に示す組成の飼料を給餌し、30日間飼育した。各区画の水槽中の水量39.4L、水深10cmとして、通水を行った。
なお、飼育期間中の平均水温は14℃であった。
【0030】
【表1】

・ブドウ種子抽出物:KPA−F(キッコーマン(株)製)
・β‐1,3/1,6‐グルカン:マクロガード(バイオテック社製)
・ビタミンC:L−Ascorbic acid(江芳江山制葯有限公司製)
・ビタミンE:メイロング((株)科学飼料研究所製)
・配合飼料組成:魚粉62質量%、小麦粉25質量%、脱脂大豆粕5質量%、魚油5質量%、ビタミン・ミネラル混合物3質量%。ただし、ビタミン・ミネラル混合物中のビタミンC配合率は2.4質量%、ビタミンE配合率は1.05質量%であるため、該配合飼料組成中のビタミンC配合率は0.072質量%、ビタミンE配合率は0.0315質量%である。
【0031】
飼育開始から30日目に、区画A〜Eそれぞれの生残率(%)、体重増加量(g)、飼料効率(%)を測定した。前記飼料効率は、下記式(1)から求めた。結果を表2に示す。
飼料効率(%)=体重増加量(g)×100/飼料投与量(g) 式(1)
【0032】
また、飼育開始から30日目に、水槽から取出した魚体を、オイゲノール(FA100、大日本製薬(株)製)で麻酔し、実体顕微鏡を用いてヒレの状態を観察し、ヒレの異常率、背鰭の欠損度を評価した。結果を表2に示す。
【0033】
(1)ヒレの異常率
前記魚体の背鰭、尾鰭、胸鰭、及び腹鰭を観察し、いずれかのヒレに欠損を有する個体数の割合を各区画ごとに算出し、異常率(%)とした。
また、比較区として前記機能性養魚用飼料を投与していない区画Aの異常率に対し、区画B〜Dの異常率を、相対異常率として算出した。
【0034】
(2)背鰭の欠損度
各区画ごとに、ヒレに欠損がみられない正常個体の背鰭面積の平均値を求め、基準面積とした。欠損のある個体の背鰭面積を、前記基準面積と比較し、欠損率を求めた。該欠損率の値に基づき、以下の評価基準に従って欠損度を評価した。
前記欠損のある個体における、各欠損度の割合を表2に示す。
〔評価基準〕
軽度:欠損率が30%未満
中度:欠損率が30%以上、70%未満
重度:欠損率が70%以上
【0035】
【表2】

【0036】
また、外観観察により、養殖魚としての商品価値を以下の方法で評価した。各評価の割合(%)を表3に示す。
〔評価基準〕
◎:ヒレの欠損がみとめられず、商品価値が非常に高い
○:ヒレの欠損がわずかにみとめられるが、商品価値がある
△:ヒレの欠損がみとめられ、商品価値が低い
×:ヒレの欠損が大きく、商品価値がない
【0037】
【表3】

【0038】
表2及び表3から、本発明の機能性養魚用飼料を給餌して飼育したニジマス稚魚は、ヒレの異常率が低く、特に、ヒレの欠損が抑制されているため、商品価値が高いことがわかった。また、前記機能性養魚用飼料を給餌して飼育したニジマス稚魚は、ヒレに欠損が少ないことから、Flavobacterium属細菌の感染が予防された可能性が明らかになった。
【0039】
(2)Flavobacterium属細菌の同定
−菌体の分離と感染試験−
前記実施例で尾鰭を観察したニジマス稚魚から、尾鰭に欠損がない個体(正常個体)5尾、及び尾鰭に欠損がみられる個体(中度から重度と評価された欠損個体)5尾を選び、それぞれの尾鰭(欠損個体については、残存部分)を切除して回収した。前記各尾鰭を、滅菌済み生理食塩水入りのプラスチックチューブに収容し、ホモジナイザーペッスル(1.5mL用;1005−39、アズワン(株)製)によりホモジナイズし、サンプル溶液を得た。
前記サンプル溶液を、滅菌生理食塩水を用いて10倍希釈列を5段階調製した。各希釈液100μLを、サイトファーガ寒天培地に塗布し、15℃で1週間培養した。培地1枚あたり約100コロニーを確認できたものから、ランダムにコロニーを採取し、正常個体由来の10株(A1〜10)、欠損個体由来の10株(B1〜10)を得た。これらをサイトファーガ寒天培地で、15℃の温度条件下で継代培養した。
前記正常個体由来の10株(A1〜10)、及び前記欠損個体由来の10株(B1〜10)を、それぞれサイトファーガ液体培地に接種し、15℃で24時間培養し、得られた各培養液1mLを回収した。
【0040】
試験用に、尾鰭に欠損がないことを実体顕微鏡を用いて確認できた正常個体20尾から、尾鰭を切除し、感染試験用尾鰭を得た。前記感染試験用尾鰭の表面を70%エタノールを含ませたキムワイプ(登録商標)で拭き、体表粘液を除去した後、前記各培養液中に1枚ずつ投入し、15℃の恒温器内に1時間静置した。次いで、前記試験用尾鰭を取出し、細菌用寒天1.5%(w/w)のみからなる培地上に置き、これを15℃の恒温器内で1週間インキュベートした。1週間後の尾鰭の状態を実体顕微鏡で観察した。結果を表4に示す。また、A−1及びB−1の培養液を投与した尾鰭の写真を図3に示す。
【0041】
【表4】

−:尾鰭に欠損がみられなかった、又はごくわずかに欠損がみられた
+:尾鰭に欠損がみられた
【0042】
表4、及び図3から、正常個体由来の菌体(A1〜10)を接種した尾鰭には変化がみられないか、欠損があってもごくわずかであったが、欠損個体由来の菌体(B1〜10)を接種した尾鰭は、すべて欠損が生じ、尾鰭の組織が崩壊して溶けたような状態であった。このことから、尾鰭の欠損は、細菌の感染によって生じる現象である可能性が示された。また、前記欠損個体由来の菌体(B1〜10)のコロニーは、色、形状、及び菌の形態からFlavobacterium属細菌であることが推定された。
【0043】
−菌の同定−
前記正常個体由来の10株(A1〜10)、及び前記欠損個体由来の10株(B1〜10)を、それぞれサイトファーガ液体培地に接種し、15℃で24時間培養し、得られた各培養液から遠心分離(10,000g、5分間)により菌体を沈殿させた。得られた菌体に5%キレックス溶液(Chelex100、シグマ社製)を添加し、十分に混合した後、恒温水槽にて55℃で20分間インキュベートした。次いで、ボルテックスミキサーで攪拌した後、沸騰水中に20分間置き、遠心分離(10,000g、10分間)により不溶物を沈殿させ、上清を回収した。
【0044】
得られた上清を用い、PCR法により菌体の同定を行った。Flavobacterium columnare、及びFlavobacterium psychrophillumの同定は、Triyano et al.,Fishpathology,34(4),217−218(1999)、及びToyama et al.,Fishpathology,29(4),271−275(1994)に記載の方法により行った。
PCR反応後の反応液を、1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動し、PCR産物の有無及びサイズから、F.columnare特異的遺伝子、及びF.psychrophillum特異的遺伝子の有無を確認した。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

+:菌体特異的遺伝子の増幅がみられた
−:菌体特異的遺伝子の増幅がみられなかった
【0046】
表5から、B1、B3、及びB9はF.columnareであり、B5、B6、及びB7はF.psychrophillumであることが同定された。いずれの菌体特異的遺伝子の増幅がみられなかったB4、及びB9は、F.columnare及びF.psychrophillumのいずれでもなかったが、外観上の特徴から、Flavobacterium属の細菌であると考えられる。
これらの結果から、ヒレの欠損はFlavobacterium属の細菌感染によるものであり、Flavobacterium属の細菌感染を予防することにより、ヒレの欠損を防止できることがわかった。
【0047】
また、前記感染試験用尾鰭の表面を、拭取りを行わず、体表粘液を残して同様の試験を行ったところ、いずれの試験用尾鰭にも欠損が生じなかった。このことから、ヒレの欠損は、何らかの原因で粘液が除去された部位にFlavobacterium属の細菌が感染・増殖し、ヒレを溶解する物質が産生されることにより生じる可能性が示された。
【0048】
(実施例2)
図1に示す塩化ビニル製飼育用水槽を屋内に設置し、平均体重0.9gのニジマス稚魚を図2に示す1区画に200尾ずつ収容した区画A〜Dを設けた。各区画の前記ニジマス稚魚に下記表6に示す組成の飼料を給餌し、30日間飼育した。各区画の水槽中の水量39.4L、水深10cmとして、通水を行った。
なお、飼育期間中の平均水温は14℃であった。
【0049】
【表6】

・ブドウ種子抽出物:KPA−F(キッコーマン(株)製)
・β‐1,3/1,6‐グルカン:マクロガード(バイオテック社製)
・配合飼料組成:魚粉62質量%、小麦粉25質量%、脱脂大豆粕5質量%、魚油5質量%、ビタミン・ミネラル混合物3質量%。ただし、ビタミン・ミネラル混合物中のビタミンC配合率は2.4質量%、ビタミンE配合率は1.05質量%であるため、該配合飼料組成中のビタミンC配合率は0.072質量%、ビタミンE配合率は0.0315質量%である。
【0050】
飼育開始から30日目に、区画A〜Dそれぞれの生残率(%)、体重増加量(g)、飼料効率(%)を実施例1と同様にして測定し、それぞれの区画の魚体について、ヒレの異常率、背鰭の欠損度を実施例1と同様にして測定した。結果を表7に示す。
また、養殖魚としての商品価値を実施例1と同様にして評価した。結果を表8に示す。
【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
表7及び表8の結果から、ブドウ種子抽出物、又はβ‐1,3/1,6‐グルカンを単独で配合した飼料を投与することにより、ヒレの異常率を低下させる効果は得られるが、ブドウ種子抽出物、及びβ‐1,3/1,6‐グルカンをともに配合してなる本発明の機能性養魚用飼料を投与することにより、ヒレの欠損度を著しく低下させることができ、養殖ニジマスの商品価値を高めることができることがわかった。
【0054】
(実施例3)
400L容コンクリート水槽で飼育中のニジマス(平均体重1.2g)において、ヒレの欠損度が中度の個体が多くみられるようになり、1日に30〜40尾が斃死する状況が続いた。斃死したニジマスから、実施例1と同様にしてFlavobacterium属細菌(F.columnare及びF.psychrophillum)を検出した。
この水槽から得たニジマス800尾を、図1に示す塩化ビニル製飼育用水槽の1区画に400尾ずつ収容した区画A及びBを設けた。各区画の前記ニジマスに下記表1に示す組成の飼料を給餌し、60日間飼育した。
なお、飼育期間中の平均水温は14℃であった。
【0055】
【表9】

・ブドウ種子抽出物:KPA−F(キッコーマン(株)製)
・β‐1,3/1,6‐グルカン:マクロガード(バイオテック社製)
・ビタミンC:L−Ascorbic acid(江芳江山制葯有限公司製)
・ビタミンE:メイロング((株)科学飼料研究所製)
・配合飼料組成:魚粉62質量%、小麦粉25質量%、脱脂大豆粕5質量%、魚油5質量%、ビタミン・ミネラル混合物3質量%。ただし、ビタミン・ミネラル混合物中のビタミンC配合率は2.4質量%、ビタミンE配合率は1.05質量%であるため、該配合飼料組成中のビタミンC配合率は0.072質量%、ビタミンE配合率は0.0315質量%である。
【0056】
区画Aにおいて、配合飼料を給餌したニジマスは、ヒレの欠損度が重度の個体が増加し、斃死が連続してみられ、60日経過時点で28%が斃死した。一方、区画Bにおいて、本発明の機能性養魚用飼料を給餌したニジマスは、軽度のヒレ欠損個体においてヒレ欠損の回復が観られ、ヒレ欠損個体数は減少し、斃死率は3%であった。
このことから、本発明の機能性養魚用飼料は、Flavobacterium属細菌感染に対する予防効果により、給餌した養殖魚等のヒレ欠損を防止可能であるとともに、Flavobacterium属細菌感染症の回復効果をも有し、特に、仔稚魚の生残率を向上させることによって養殖魚の生残率を高めることができ、該養殖魚を商品価値の高い状態で維持できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の機能性養魚用飼料は、通常の飼料として投与可能であり、魚体内に残留・蓄積する有害物質を含まず、Flavobacterium属細菌による感染症を予防し、ヒレの損傷を防止可能であるため、養殖魚の飼料として好適であり、特に、商業価値の高い食用養殖魚や観賞魚の餌として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、実施例1及び2で使用した飼育用水槽の全体を示す模式図である。
【図2】図2は、図1の飼育用水槽の1区画を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例1において、A−1及びB−1の培養液を投与した尾鰭の写真である。
【符号の説明】
【0059】
10 注水部
11 水槽(区画)
12 排水ネット
13 排水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ(Vitis spp.)種子抽出物、及びβ‐1,3/1,6‐グルカンを含有し、Flavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられることを特徴とする機能性養魚用飼料。
【請求項2】
ブドウ種子抽出物の含有量が0.1〜0.2質量%であり、β‐1,3/1,6‐グルカンの含有量が0.1〜0.2質量%である請求項1に記載の機能性養魚用飼料。
【請求項3】
ブドウ種子抽出物が、プロアントシアニジンを38〜60質量%含有する請求項1から2のいずれかに記載の機能性養魚用飼料。
【請求項4】
ビタミンCを0.5〜1.0質量%、及びビタミンEを0.1〜0.2質量%含有する請求項1から3のいずれかに記載の機能性養魚用飼料。
【請求項5】
サケ目魚類、及びコイ目魚類の稚魚のFlavobacterium属細菌による感染症の予防に用いられる請求項1から4のいずれかに記載の機能性養魚用飼料。
【請求項6】
Flavobacterium columnare、及びFlavobacterium psychrophillumの少なくともいずれかによる感染症の予防に用いられる請求項1から5に記載の機能性養魚用飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−166806(P2006−166806A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364416(P2004−364416)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】