説明

機能性高分子成形体の製造方法

【課題】 優れた機能が付与され、かつ安価で品質の良好な機能性高分子成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 高分子成形体内部にて金属イオンを含む化合物(A)と、化合物(A)と反応しうる化合物(B)とを反応させることにより高分子成形体内部に金属化合物の微粒子を微細に分散・生成させる機能性高分子成形体の製造方法において、
化合物(B)が溶解された浴中に高分子成形体中に金属イオンを含む化合物(A)を含浸させた後、超音波が照射された状態にて化合物(A)と化合物(B)を反応させることを特徴とする機能性高分子成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性金属化合物の微粒子によって機能化された高分子成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルムや繊維などの高分子成形体を機能化する方法として、種々の技術が開発されている。例えば、機能性のポリマー自体を用いて繊維化あるいはフィルム化する方法、各種機能化剤を予めポリマーに配合して繊維化、フィルム化する方法、または後工程にてそれら成形体に機能化剤を付与する方法などが挙げられる。特に最近では各種機能化剤の開発が進んでいることから、機能化剤を活用することにより幅広い用途展開が可能であり、例えば、親水性、撥水性、導電性、発光・蓄光性、熱線遮蔽性、抗菌・消臭性、難燃性など、さまざまな分野にて利用されている。
【0003】
しかしながら、上記機能化剤にて効率良く機能付与を行うためには、種々の課題も残されている。例えば、予め機能化剤をポリマー中に配合する場合、所望の機能を発現させるには多量の機能化剤を複合させる必要があるが、このような方法では、機能化剤の凝集などによる工程通過性の悪化が懸念されるだけでなく、得られた成形体の外観不良や力学物性の低下をもたらすなどの問題を抱えていた。また、コーティング等の後加工により機能化剤を付与する方法も挙げられるが、コーティング等の後加工の場合、成形体に均一に機能性を付与することは困難であり、それ故、品質の安定性確保が難しい問題があった。また、予め後加工し易いように成形体に何らかの処理を施す必要性がある場合が多く、コストの面でも問題を抱えていた。
【0004】
一方で、機能性ポリマー自体を用いれば、機能性を有した成形体が得られることが期待されるが、機能性ポリマー自体特殊な製造方法で作られており、それ故コストが高く、汎用的に普及していないのが現状である。また、機能性ポリマーは、それ自身の分子骨格中に特殊な官能基を有していることが特徴的であり、実際の成形方法が限定されてしまうなど、実使用において制限がかかるものであった。
【0005】
また、高分子成形体を金属イオンが溶解された浴に浸漬することで、金属イオンを成形体中に含侵させ、次いで金属イオンと反応しうる化合物が溶解された浴に浸漬することで、成形体中に機能性の金属微粒子を微細に形成させることが提案されており、具体的には、本発明者等も、該方法によって硫化銅微粒子を繊維内部に析出させた導電性のポリビニルアルコール系繊維を提案している(例えば、特許文献1参照)。この方法は、ポリマーと金属イオンの間で形成される配位結合を利用してナノサイズの金属化合物の微粒子を成形体中に析出させる技術であり、少量の複合量で高い機能を発現させること、低コストであることなどの点については極めて優れているが、実際には成形体表面にも機能に寄与しない不要な微粒子が析出してしまい、品質が極端に低下してしまう問題を抱えていた。
また、より高い機能を付与させる目的で該処理を繰り返した場合は、表面の微粒子析出は処理回数と共に増大していき、機能性は付与できても、益々品質が悪化していくことが明らかとなった。更には、成形体表面の微粒子析出の抑制を目的として、例えば、金属イオンが溶解された浴に浸漬した後に、成形体表面の付着金属イオンを洗い流すことを試みたが、この場合、成形体内部に含侵された金属イオンまで洗い流されてしまい、表面の微粒子の形成は抑制されるものの機能が発現し難いことが判明した。
【0006】
以上のようなことから、機能性を付与でき、かつ品質の良好な高分子成形体の安価な製造方法が望まれており、該製造方法が確立できれば、あらゆる分野にて有用な技術となることが期待できる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−264419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた機能が付与され、且つ安価で品質の良好な機能性高分子成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は上記した機能性高分子成形体を得るべく鋭意検討を重ねた結果、特別に高価な設備を必要とせず、通常の成形体製造工程中あるいは後加工において、高分子成形体中に金属イオンを含む化合物を含浸させ、その後、超音波が付与された状態で金属イオンを反応させることにより、成形体内部にのみ機能性金属化合物の微粒子を微細に生成させた、高機能で且つ品質の優れた高分子成形体を安価に製造できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、高分子成形体内部にて金属イオンを含む化合物(A)と、化合物(A)と反応しうる化合物(B)とを反応させることにより高分子成形体内部に金属化合物の微粒子を生成・分散させる機能性高分子成形体の製造方法において、
化合物(B)が溶解された浴中に高分子成形体中に金属イオンを含む化合物(A)を含浸させた後、超音波が照射された状態にて化合物(A)と化合物(B)を反応させることを特徴とする機能性高分子成形体の製造方法であり、好ましくは下記1)、2)の工程において、2)の工程にて超音波を照射することにより高分子成形体内部に金属化合物の微粒子を生成・分散させる上記の機能性高分子成形体の製造方法に関するものである。
1)金属イオンを含む化合物(A)が10〜300g/Lの濃度で溶解された浴に高分子成形体を通過させることで化合物(A)を高分子成形体中に浸透させる工程、
2)化合物(A)と反応しうる化合物(B)が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴に上記1)の化合物(A)を浸透させた高分子成形体を通過させることにより高分子成形体中の化合物(A)と化合物(B)を反応させる工程。
【0011】
そして本発明は、より好ましくは、化合物(A)が銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銀イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン、チタンイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイオンを含む化合物であり、且つ化合物(B)が酸化能、還元能、硫化能、ハロゲン化能からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性を持つ反応剤であり、さらに好ましくは、照射する超音波の周波数が10〜200kHzであることを特徴とする上記の機能性高分子成形体の製造方法である。
【0012】
さらに本発明は、高分子成形体が好ましくは水酸基、シアノ基、アミド基、カルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする上記の高機能性高分子成形体の製造方法であり、そしてこのような製造方法により得られる機能性高分子成形体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた機能が付与され、且つ品質の良好な機能性高分子成形体を安価に製造できる。また、繊維やシート、フィルム、粉体などの従来通りのあらゆる形態で供給することが可能であり、多くの用途に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明でいう高分子成形体を構成するポリマーについては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリアミド類、ポリカルボン酸類、ポリアクリロニトリル及びその誘導体、セルロース類、ポリオレフィン類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ハロゲン含有ポリマーなど、これら1種または数種を混合して用いても良い。中でも、詳細は後述するが、成形体内部に金属イオンを浸透させ、強固に配位結合せしめる観点からは、ポリビニルアルコール類、脂肪族ポリアミド類、ポリアクリロニトリル類、ポリカルボン酸類などのような、金属イオンと配位結合可能な水酸基、シアノ基、アミド基、カルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリマーが好適に用いられる。また、本発明でいう高分子成形体とは、本発明の構成要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、フィルム、シート、プレート、繊維、織布、不織布、棒材、パイプ、チューブ、フォーム、粉体、微粒子又は異形成型品等が挙げられる。
【0015】
また、本発明に用いる成形体の成形方法については特に限定はなく、例えば、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸、押し出し成形法、ブロー成形、インフレーション成形、共押し出し成形、射出成形法、トランスファー成形法、ラミネーション成形法など、従来の公知の方法で成形される。
【0016】
本発明でいう金属化合物とその機能は、後述する化合物(A)および化合物(B)の組み合わせにより形成されるものであり、例えば、硫化銅による導電性、熱伝導性、紫外・近赤外吸収性付与、硫化亜鉛による発光性付与、フェライト(酸化鉄)による磁性付与、沃化銀による超イオン伝導性付与、酸化銀による消臭性、抗菌性付与などが挙げられる。この金属化合物微粒子を成形体内部にのみ微細に形成させることで優れた機能を発揮する。
【0017】
かかる金属化合物の形状については特に限定はなく、球状、棒状、扁平状、楕円状などあらゆる形態のものが含まれる。また粒子径についても特に限定はないが、500nm以下であると好ましく、100nm以下のナノ微粒子であるとさらに好ましい。このようなナノ微粒子であることにより、成形体内部での粒子間距離の著しい減少が可能となり、例えば同じ質量%の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなる。このような場合、粒子間の相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー鎖はあたかも粒子と同じような機能を示すことが知られている。[例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照]。従って、このサイズ効果により、少ない量でも優れた機能を発揮することが可能となる。
一般に、水酸基、シアノ基、アミド基やカルボキシル基などの官能基は、金属イオンと強く配位結合を形成することが知られている[例えば、Polymer、Vol.37、No.14、p3097、(1997)参照]。成形体中において、これら官能基と金属イオンで形成された錯体ブロックは、その大きさが数オングストロームであることから、金属化合物のナノ微粒子構成ユニットとなりえる。従って、これら配位結合能を持つ官能基を有するポリマーであれば、より高機能性のものが創出される。
【0018】
以上のように、かかる高分子成形体の内部にのみ金属微粒子を形成させ、高機能で品質の優れた成形体を得るためには、成形体製造工程中あるいは後加工において、先ず金属イオンを含む化合物(A)を溶解した浴を通過させて該化合物を成形体中に含浸させる必要がある。この場合、成形体内部へ金属イオンを含む化合物を均一浸透させるためには、成形体は浴溶媒により膨潤していることが望ましく、そのためには浴に用いる溶媒はメタノール、エタノール、アセトン、酢酸メチル、ヘキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、グリセリン、水、塩類あるいはこれらの混合物であることが好ましい。その時の浴溶媒による成形体の膨潤率は20質量%以上であることが好ましい。なお、膨潤率調整のため、成形体を先ず所定の浴に浸漬し、その後、金属イオンを含む化合物が溶解された浴に浸漬することが望ましい場合もある。膨潤率が20質量%未満の場合、金属イオンが成形体内部まで十分に浸透していかず、機能化を十分に付与できない場合がある。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴への成形体を構成するポリマーの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。以上のことから、金属イオンを含む化合物が溶解された浴での膨潤率は30質量%以上、300質量%以下であることが好ましく、50質量%以上250質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明で使用する金属イオンを含む化合物(A)としては、用いる浴溶媒に可溶であるものであれば特に制限はなく、例えば、金属イオンとして、銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銀イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン等、種々の金属イオンが好適に用いられ、またそれら金属イオンを含有する化合物としては、例えば酢酸塩、ギ酸塩、硝酸塩、あるいは塩化物、臭化物等、種々の化合物を用いることができる。
【0020】
金属イオンを含む化合物(A)の浴への溶解量は要求される機能性に応じて適宜設定すればよいが、10〜300g/Lの範囲であることが好ましい。溶解量が10g/L未満の場合、所望の機能が発現せず、また300g/Lを越える場合は、工程通過性の悪化をもたらすので好ましくない。より好ましくは20〜200g/Lである。浴での滞留時間については特に制限はないが、成形体内部にまで金属イオンを含浸させ、場合によっては配位結合を十分にせしめることを目的に、浴での滞留時間は3秒以上、好ましくは30秒以上であることが望ましい。
【0021】
次に高分子成形体内部に含浸されている金属イオンを機能性の金属化合物として成形体内部に形成させる目的で、金属イオンと反応しうる化合物(B)を溶解した浴を通過させるが、その際には、(B)を溶解した浴は予め超音波を付与させておくことが本発明の重要なキーポイントである。すなわち、金属イオンを反応させて金属化合物を形成させる際に、特定の周波数の超音波を浴に付与させておくことにより、成形体内部においてのみ、金属化合物の微粒子形成が起こり、成形体表面での粒子析出が顕著に抑制され、高機能、高品質な高分子成形体を製造することができる。
【0022】
何故、反応時に超音波を付与することで成形体表面の微粒子形成、付着が抑制されるのかは定かではないが、本願発明者等は次のように考えている。一般に、溶液に超音波を照射することによって溶液中に気泡、キャビテーションが無数に発生し、これが破壊するときに巨大なエネルギーが働くことが知られている。このエネルギーにより、金属イオンが成形体表面で微分散した状態になり、形成された金属化合物の成長や形状に影響を与え、一次粒子の粒径が極めて小さく、且つ粒子間の凝集の少ない単分散状態に近い状態になり、成形体表面に固着するのではなく、浴溶媒中に分散してしまうものと考えている。
【0023】
本発明において用いる超音波の周波数は、10〜200kHzであることが好ましい。周波数が10kHz未満の場合、キャビテーション強度が強すぎて成形体自体の損傷を招く恐れがあるので好ましくなく、また200kHzを越える場合はキャビテーション効果が小さくなるので表面性改善効果が少なく、品質確保できないので好ましくない。より好ましくは15〜150kHzであり、さらに好ましくは20〜100kHzである。
【0024】
本発明で用いる化合物(B)については、用いる浴溶媒に可溶であり、化合物(A)と反応して成形体中に金属化合物の微粒子を形成させる目的を成し得るものであれば特に限定はないが、酸化能、還元能、硫化能、ハロゲン化能からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性を持つ反応剤が好適に使用され、例えば、硫化ナトリウムやチオ硫酸ナトリウムのような硫化剤や、水酸化ナトリウムのような酸化剤、沃化カリウムのような沃化剤などが挙げられる。
【0025】
化合物(B)の浴への溶解量は要求される機能性に応じて適宜設定すればよいが、1〜100g/Lの範囲であることが好ましい。添加量が1g/L未満の場合、成形体内部に存在していた金属イオンの浴への溶出が多くなったり、成形体内部まで反応が進まない可能性があるので好ましくない。また100g/Lを超える場合は、成形体内部に含まれる金属イオンを反応、金属化合物として形成させるに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。成形体に含浸された金属イオンを反応させるに必要な時間は、化合物(A)および(B)の種類により異なるが、成形体内部にまで十分に反応を施すことを目的に、滞留時間は1.0秒以上であることが望ましい。
【0026】
成形体の機能性を高める為に、上記の金属イオンを成形体内部に含浸させる工程と、反応によって微粒子を形成させる工程を繰り返し通過させることで、成形体内部の金属化合物の微粒子含有量を多くすることが可能である。その場合も、最初の反応工程だけでなく、処理回数毎の反応工程に超音波を付与させておくことが望ましい。処理回数を繰り返すことは、機能性をより一層向上させる一方で、力学物性の低下やコスト高になってしまうなどの懸念があることから、繰り返しの処理回数は6回以下であることが望ましい。
【0027】
また、成形体の力学物性を向上させたりする目的で、各処理工程において延伸などの加工を施してもよい。例えば、反応工程で延伸を行うことで、形成される金属化合物微粒子が配向方向に沿って成長し、機能を高められる場合もある。但し、金属化合物微粒子を形成させたものに対して延伸を行うと、目的とする機能によっては低下する恐れがあるので、目的とする機能に応じて適宜選択することが好ましい。
【0028】
一方で、金属化合物の微粒子をポリマーと一括に仕込んで成形した場合には、成形体中に金属化合物の微粒子を分散させることはできず、所望の機能を発現させるには、多量の金属化合物微粒子の添加が必要となる。この場合、粘度上昇やポリマー中での凝集などが起こり、成形加工における工程通過性が低下し、結果として機能は付与できても品質不良となったり、力学物性の低い成形体しか得られない。
【0029】
このようにして得られた、成形体内部にのみ金属化合物の微粒子を導入された成形体を乾燥することで、機能性の高分子成形体を得ることができる。乾燥する方法に関しては特に限定はなく、ポリマーの種類や目的に応じて、装置、温度等を適宜選択することができる。また、力学物性を向上させる目的で、乾燥工程と連続して熱処理を施してもよい。この時の乾燥条件も特に限定はないが、ポリマーのガラス転移温度以上、融点以下で施すのが一般的である。融点を越えてしまうと、成形体の部分的融解が生じ、力学物性の低下をもたらすので好ましくない。
【0030】
本発明によって得られる機能性高分子成形体は、例えばフィルム、シート、プレート、繊維、織布、不織布、棒材、パイプ、チューブ、フォーム、粉体、微粒子又は異形成型品などあらゆる形態において優れた機能と品質を有していることから、例えば、産業資材分野を始め、電気・電子分野、医療・衛材分野、生活関連資材分野、建設資材分野用、農業・園芸用資材、濾過用資材、土木・資材用をはじめ、種々の用途で使用することができる。また、本発明によって得られる機能性高分子成形体は単独で使っても、複数組み合わせて使っても構わない。
【0031】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。以下の実施例において、各物性値は以下に示し如く測定した。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0032】
[成形体表面及び内部の粒子存在状態の観察]
成形体表面の粒子付着状態、成形体内部の粒子存在状態の観察は、(株)日立製作所製S−3000N走査型電子顕微鏡(SEM)、及びH−800NA透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行った。
【0033】
[導電性評価]
成形体より5cm×5cmの試験片を採取し、該試験片の両端間に、横河ヒューレットパッカード社製の抵抗値測定機「MULTIMETER」を使用して、10Vの電圧をかけてその抵抗値(Ω)を測定した。体積固有抵抗値(ρ)(Ω・cm)=R×(S/L)より、各試験片の体積固有抵抗値を測定し、その平均値を不織布の体積固有抵抗値とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、Lは長さ(cm)を示す。
【0034】
[紫外線発光性評価]
成形体に、中心波長365nmのブラックライトを照射し、発光するかどうかを観察した。
【0035】
[実施例1]
(1)粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)ポリマーを濃度50質量%になるように水を含水させ、押し出し機を通して165℃に加熱し、孔径0.1mm、ホール数200のノズルを通して空気中に乾式紡糸した。巻取り機により160m/minの速度で巻き取った繊維を、200℃の熱風延伸炉中で30n/minの延伸速度で1.6倍に延伸した。
(2)得られた繊維を、和光純薬(株)製の硝酸銅を280g/L溶解した50℃の浴に滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した50℃の水浴に予め38kHzの超音波を付与した後、該水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸した。この処理を2回繰り返した後、水洗し、120℃の熱風で乾燥し、硫化銅微粒子を複合したPVA繊維を得た。繊維の性能評価の結果を表1に、参考として、繊維表面及び内部のSEM写真及びTEM写真を図1および2に示した。
(3)得られた繊維の表面は、図1に示すように不要な微粒子の形成もなく、品質の良好なものであった。また、繊維内部には図2に示すように、平均10nmの導電性を示す硫化銅の微粒子が微細に分散しており、その体積固有抵抗値は2.0×10Ω・cmであり、高度な導電性を示すものであった。
【0036】
[実施例2]
実施例1の(2)において、超音波の周波数を100kHzとした以外は、実施例1と同じ条件で紡糸、延伸、導電化処理を実施し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価結果を表1に示した。得られた繊維の表面には不要な微粒子の形成もなく、品質の良好なものであった。また、繊維内部には平均11nmの導電性を示す硫化銅の微粒子が微細に分散しており、その体積固有抵抗値は2.2×10Ω・cmであり、高度な導電性を示すものであった。
【0037】
[実施例3]
(1)重合度1700、ケン化度99.9モル%のPVAポリマーを用い、PVA濃度20.7質量%になるようにDMSO中に添加し、101℃にて窒素雰囲気下で加熱溶解した。得られた紡糸原液を孔径0.08mm、ホール数35000のノズルを通して液温10℃のメタノール/DMSO=65/35(質量比)よりなる固化浴中に湿式紡糸した。
(2)得られた固化糸を固化浴と同じメタノール/DMSO組成の第二浴に浸漬し、次いで、液温25℃のメタノール浴中で3倍に湿延伸を施した。その後、230℃にて4倍の乾熱延伸(全延伸倍率は12倍)を実施しPVA繊維を得た。
(3)このPVA繊維を紡績して80/1とし、基布密度経96本/1インチ、緯86本/1インチにて織り幅20cm×20cmの布帛を作成した。これを実施例1の(2)と同様の処理を行った。得られた布帛の性能評価結果を表1に示した。
(4)得られた布帛の表面には不要な微粒子の形成もなく、品質の良好なものであった。また、布帛を構成する繊維内部には平均20nmの導電性を示す硫化銅の微粒子が微細に分散しており、その体積固有抵抗値は4.1×10Ω・cmであり、高度な導電性を示すものであった。
【0038】
[実施例4]
実施例1の(2)において、硝酸銅の変わりに酢酸亜鉛、酢酸マンガンをそれぞれ50g/L、1.0mol%/亜鉛イオンの濃度で溶解した浴を通した以外は実施例1同じ条件で処理を行い、繊維を得た。得られた繊維の性能評価結果を表1に示した。得られた繊維の表面には不要な微粒子の形成もなく、品質の良好なものであった。また、繊維内部には平均50nmの紫外線発光性を示す硫化亜鉛にマンガンがドープされた微粒子が微細に分散しており、その繊維に紫外線ランプを照射したところ、ピンクに発光した。
【0039】
[実施例5]
(1)平均重合度2400、ケン化度99.8mol%のPVAポリマーを濃度12質量%になるように水に溶解させ、この系水溶液を60℃の金属ロール上で乾燥して厚みが75μmのPVAフィルムを得た。さらに得られたフィルムを枠固定し、120℃で3分間熱処理をした。
(2)得られたフィルムを、和光純薬(株)製の硝酸銅を280g/L溶解した50℃の浴に滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、予め38kHzの超音波を付与した、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した50℃の水浴に滞留時間が120秒になるように導糸した。この処理を4回繰り返した後、水洗し、120℃の熱風で乾燥し、硫化銅微粒子を複合したPVAフィルムを得た。フィルムの性能評価の結果を表1に示した。
(3)得られたフィルムの表面は、不要な微粒子の形成もなく、品質の良好なものであった。また、その体積固有抵抗値は5.4×10Ω・cmであり、高度な導電性を示すものであった。
【0040】
[実施例6]
(1)市販のナイロン6繊維を、和光純薬(株)製の硝酸銀を50g/L溶解した50℃の浴に滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、予め38kHzの超音波を付与した、和光純薬(株)製のヨウ素およびヨウ化カリウムをそれぞれ5g/L、10g/L溶解した50℃の水浴に滞留時間が120秒になるように導糸した。この処理を2回繰り返した後、水洗し、120℃の熱風で乾燥し、ヨウ化銀を複合したナイロン6繊維を得た。得られた繊維の性能評価の結果を表1に示した。
(2)得られた繊維の表面には不要な微粒子の形成もなく、品質の良好なものであった。また、繊維内部には平均40nmの導電性を示すヨウ化銀の微粒子が微細に分散しており、その体積固有抵抗値は7.6×10Ω・cmであり、高度な導電性を示すものであった。
【0041】
[比較例1]
実施例1の(2)において、超音波を付与させない以外は実施例1と同じ条件で紡糸、延伸、導電化処理を実施し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価の結果を表2に示した。参考として、繊維表面のSEM写真を図3に示した。得られた繊維は、体積固有抵抗値は5.9×10Ω・cmであったものの、図3に示した如く、繊維表面には不要な微粒子の析出が多く、手で触ると付着するなど、品質の悪いものであった。
【0042】
[比較例2]
実施例1の(2)において、超音波の周波数を970kHzにした以外は実施例1と同じ条件で紡糸、延伸、導電化処理を実施し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価の結果を表2に示した。得られた繊維は、体積固有抵抗値は4.6×10Ω・cmであったものの、繊維表面には不要な微粒子の析出が多く、手で触ると微粒子が手に付着するなど、品質の悪いものであった。
【0043】
[比較例3]
実施例1の(2)において、硝酸銅の濃度を0.1g/Lにした以外は実施例1と同じ条件で処理し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価の結果を表2に示した。得られた繊維の表面には不要な微粒子の形成は極僅かだったものの、その体積固有抵抗値は1.0×1012Ω・cmであり、全く導電性を示さなかった。
【0044】
[比較例4]
和光純薬(株)製の酢酸銅を50g/L溶解した水溶液と、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した水溶液を混合し、2次粒子径約10μmの硫化銅粒子を析出させた。これを水で十分洗浄後、80℃で乾燥したものを、PVAに対して30質量%となるように原液に添加する、いわゆる原液添加にて実施例1の(1)と同じ条件で紡糸し、繊維を得た。得られた繊維の性能評価結果を表2に示した。得られた繊維の表面は比較的平滑で良好にも関わらず、体積固有抵抗値は2.0×10Ω・cmであり、導電性に劣るものであった。また、繊維内部での硫化銅粒子は所々凝集しており、そのため、糸斑が見られた。更には、短時間でフィルターの昇圧が起こるなど、工程通過性も悪いものであった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1、図1および2の結果から明らかなように、本発明によれば、PVAやナイロンなどそのポリマー種、繊維や布帛、あるいはフィルムなどの形状に関わらず、高機能でかつ品質の優れた機能性高分子成形体の製造可能となる。一方、表2、図3の結果から明らかなように、特定の周波数の超音波が付与されていなかったり、特定濃度範囲での金属イオン含侵処理ができていなかったり、金属化合物を原液から仕込んだ場合などは、本発明のような高機能性でかつ品質の良好な高分子成形体を製造することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、従来技術では達成することができなかった高機能性と良好な品質を兼備した機能性高分子成形体を安価に製造することが可能となり、例えば、産業資材分野を始め、電気・電子分野、医療・衛材分野、生活関連資材分野、建設資材分野用、農業・園芸用資材、濾過用資材、土木・資材用をはじめ、種々の用途で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明によって製造されたPVA系繊維の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真。
【図2】本発明によって製造されたPVA系繊維の内部に微粒子が分散している状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真。
【図3】本発明以外のPVA系繊維における表面に微粒子が多数付着しており、品質が悪い状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子成形体内部にて金属イオンを含む化合物(A)と、化合物(A)と反応しうる化合物(B)とを反応させることにより高分子成形体内部に金属化合物の微粒子を生成・分散させる機能性高分子成形体の製造方法において、
化合物(B)が溶解された浴中に高分子成形体中に金属イオンを含む化合物(A)を含浸させた後、超音波が照射された状態にて化合物(A)と化合物(B)を反応させることを特徴とする機能性高分子成形体の製造方法。
【請求項2】
下記1)、2)の工程において、2)の工程にて超音波を照射することにより高分子成形体内部に金属化合物の微粒子を生成・分散させる請求項1記載の機能性高分子成形体の製造方法。
1)金属イオンを含む化合物(A)が10〜300g/Lの濃度で溶解された浴に高分子成形体を通過させることで化合物(A)を高分子成形体中に浸透させる工程、
2)化合物(A)と反応しうる化合物(B)が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴に上記1)の化合物(A)を浸透させた高分子成形体を通過させることにより高分子成形体中の化合物(A)と化合物(B)を反応させる工程。
【請求項3】
化合物(A)が銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銀イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン、チタンイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイオンを含む化合物であり、且つ化合物(B)が酸化能、還元能、硫化能、ハロゲン化能からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性を持つ反応剤であることを特徴とする請求項1または2記載の機能性高分子成形体の製造方法。
【請求項4】
照射する超音波の周波数が10〜200kHzであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の機能性高分子成形体の製造方法。
【請求項5】
高分子成形体が水酸基、シアノ基、アミド基、カルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の機能性高分子成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法から得られる機能性高分子成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−7661(P2008−7661A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180586(P2006−180586)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】