説明

機能物質を用いる有価文書の信頼性保証

発明は、粒子形態の少なくとも1つの発光物質及び発光物質粒子の表面を少なくともある程度包被するナノ粒子を有する、有価文書の信頼性を保証するための機能物質に関し、機能物質の特性は発光物質の特性とナノ粒子の特性の相互作用の結果として生じる。発明はさらに、機能物質を作成する方法及び機能物質を用いて保証素子または有価文書の信頼性を保証する方法に関し、機能物質に基づく信頼性保証特徴をもつ保証素子及び有価文書にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価文書の信頼性を保証するための機能物質、機能物質の作成方法、本発明の機能物質を含有する保証素子及び有価文書に関し、本発明の機能物質を用いる保証素子及び有価文書の信頼性を保証する方法にも関する。本発明の機能物質は、少なくとも1つの発光物質及び少なくとも1つの、磁性体であるかまたは導電性であることが好ましい、別の物質の両者を含有する。
【背景技術】
【0002】
本発明の意味における保証素子は、信頼性を保証する目的のために有価文書に貼り付けられるかまたは有価文書と一体化される、信頼性保証特徴をもつ素子である。本発明の枠組み内における有価文書は、銀行券、小切手、株券、商品券、身分証明書、パスポート、クレジットカード、証明書及びその他の文書、ラベル、シールのような、物体、並びに、例えば、CD、パッケージ等のような、保証されるべき物体である。好ましい適用分野は銀行券である。
【0003】
発光物質を用いる有価文書の信頼性の保証はかなり前から知られている。希土類金属がドープされたホスト格子が用いられることが好ましく、希土類金属とホスト格子の適当な調整によって、吸収スペクトル及び発光スペクトルを広範囲で変えることができる。信頼性保証のための磁性材料及び導電性材料の使用自体も知られている。磁気、導電度及び発光は市販の測定装置による機械検出が可能であり、可視スペクトルにおいて発光する場合の光は、強度が十分であれば、目視検出も可能である。
【0004】
有価文書の信頼性保証特徴が偽造されるという問題は実際上有価文書の信頼性保証と同じくらい昔からある。偽造保証識別性は、例えば、1つの機能物質だけでなく、いくつかの物質、例えば発光物質と磁性物質または発光物質と発光特性に影響する物質の組合せを用いることによって、強化することができる。
【0005】
いくつかの機能物質が組み合せて用いられることになる場合、これまでは、物質の物理的混合物を作成し、この混合物を有価文書の表面に被着させるかまたは有価文書の本体内に導入すること、あるいは機能物質を個別に被着させることしかできなかった。2つまたはそれより多くの工程での機能物質の個別被着は時間がかかり、煩雑である。したがって、機能物質の組合せは主に混合物として用いられる。混合物を作成するためには、初めに個々の機能物質を個別に作成し、次いで完成した機能物質を、通常は乾燥状態で、一緒に混合する。このようにして作成された物理的混合物では、個々の機能物質の粒子が互いに接してはいるが、通常はいかなる特定の相互作用もおこしてはいない。すなわち、機能物質は再び別々に、意図的に分離させるかまたは自然に分離することができる。個々の機能物質は、もはや個別の成分に分離され得ない生成物が作成されるような態様で、結合させられてはいない。
【0006】
これらの混合物には、製造プロセス及び被着プロセス中に強度の分離が多少は生じ、分離がバッチの開始時または終了時のいずれで生じたかに依存して異なる特性をもつ保証特徴を生じさせ得るという欠点がある。機能物質の混合物の保管中にも、例えば印刷インクのような、分散液の形態で保管が行われる場合には特に、分離がおこることが多い。したがって、混合物は、分離または一部の分離によって混合物が自然に不均一になり、無効になっていないか否かを品質チェックによって定期的に確かめられなければならない。
【0007】
機能物質があるパターンの形状、例えば発光性コードの形態で与えられる場合、これまでは、保証素子または有価文書の表面に所望のパターン、例えばコードの形状に機能物質または機能物質の混合物を印刷することしかできなかった。定められた配置の形態での有価文書または保証素子の本体内への直接導入あるいは印刷以外のいずれかの方法による有価文書または保証素子の表面への機能物質の定められた配置の形成は、これまで不可能であった。コードの作成において、一部分離によって生じた機能物質の混合物の不均一性は、不正確であるかまたは読出不能のコードを生じさせ得るから、特に重大な問題になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は非分離系を形成する少なくとも2つの相異なる物質を有する機能物質の組合せを提供することである。
【0009】
機能物質の組合せは、有価文書または保証素子の上またはこれらの中にパターンの形状で、好ましくは印刷以外の方法によっても、与えられるように適合されるべきである。
【0010】
本発明の課題は機能物質のそのような組合せを作成する方法も提供することである。
【0011】
本発明の別の課題は、機能物質のそのような組合せを用いる、有価文書または保証素子の信頼性を保証する方法を提供することである。
【0012】
本発明の課題は、さらに、機能物質のそのような組合せに基づく少なくとも1つの信頼性保証特徴を有する保証素子または有価文書を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は独立特許請求項の特徴によって解決される。本発明の実施形態はそれぞれの従属請求項において指定される。
【0014】
本発明の機能物質の組合せは、発光、好ましくは蛍光発光のために、赤外スペクトル及び/または可視スペクトル及び/または紫外スペクトルにおける光による励起が可能な、少なくとも1つの発光物質を有する。さらに、本発明の機能物質の組合せは付着力によって発光物質粒子の表面に結合されるナノ粒子を有する。付着は、保管及び処理中に発光物質とナノ粒子の分離が、少なくとも保証特徴の形成を妨害する程度には、おこらないように十分に強い。分散液の形態での保管中の分離を懸念する必要もない。
【0015】
したがって、本発明の機能物質の組合せは、少なくとも2つの相異なる物質で形成されるが、単一の機能物質であるかのように振る舞う、「複合機能物質」にあたる。複合機能物質の特性は発光物質の特性とナノ粒子の特性の組合せになる。「組合せ」は特性の加法的な組合せ及び/または影響だけとすることができる。
【0016】
本発明は、エマルションの安定化のため及び懸濁重合に同様に用いられる現象を利用する。
【0017】
1907年にピッカリング(Pickering)は、液滴の界面に自発的に凝集するコロイドによって油−水エマルションを安定化させ得ることを見いだした。いわゆる「ピッカリングエマルション」においては、小さな固体粒子が乳化剤として作用する。すなわち、無界面活性剤エマルション系をつくることができる。固体粒子が油−水界面に並び、エマルションの液滴を包被する緻密な被膜を形成する。この固体粒子網状組織は液滴の凝集を防止する機械的バリアとなり、よってエマルションを安定化する。
【0018】
固体粒子が「ピッカリング乳化剤」として作用するための前提条件は、粒径が所望の液滴径の少なくとも1/10より小さいこと、及び固体物質が油相及び水相に濡れるが、2つの相のそれぞれに対する親和度は異なることである。化学プロセス工学技術では、ピッカリング乳化剤は懸濁重合において懸濁粒子が合着して大きくなることを防止するための安定剤として用いられる。ピッカリング乳化剤は懸濁粒子と液相の界面に並び、懸濁粒子を包被し、よって懸濁粒子の凝集を防止する。ピッカリング乳化剤としてはたらく粒子に対する第1の前提条件は、乳化剤が液相に不溶であり、安定化されるべき懸濁粒子より実質的に小さいことである。相間界面における集積プロセスのための前提条件は適切な相互作用力、すなわち安定化されるべき懸濁粒子とピッカリング乳化剤の間の付着力であるが、同時に、周囲液体によるピッカリング乳化剤の十分良好な濡れ性も必要である。
【0019】
驚くべきことに、ピッカリング乳化剤型の物質がある状況の下では有価文書の信頼性を保証するための機能物質を作成するために用いることができ、これまで達成され得なかった特性をもつ機能物質を得ることが可能であることが見いだされた。
【0020】
本発明にしたがえば、発光物質粒子がナノ粒子に包被され、一般には、ナノ粒子が緻密な被膜を形成する、単層のナノ粒子層が形成される。しかし、ある程度の、好ましくは粗放な包被でも十分であり得る。発光物質粒子の平均粒径はほぼ1〜100μmである。ナノ粒子の体積は発光物質粒子の体積より少なくとも1桁、好ましくは2〜3桁、小さい。
【0021】
ナノ粒子による発光物質粒子コアの包被によって、異なる機能物質が、コア及び包被からなる、単一機能物質になる。したがって、本発明の機能物質は実際上、個々の成分の特性の組合せからその特性が得られる機能物質系である。
【0022】
本発明の機能物質を作成するために用い得る発光物質は、決して限定されることはない。一般に、全ての物質、特に、赤外スペクトル及び/または可視スペクトル及び/または紫外スペクトルの光による照射で励起されて放出できる、特に発光できる、発光物質が適している。放出または発光は赤外スペクトル及び/または可視スペクトル及び/または紫外スペクトルにおいておこることも好ましい。発光物質は蛍光物質であることが好ましい。
【0023】
希土類金属、例えば、イットリウム、プラセオジム、ネオジム等がドープされた、適する発光物質ホスト格子の例として、トープトガーネットまたはドープトペロブスカイトを挙げることができ、微量の、銀、銅、マンガンまたはユウロピウムのような重金属を含む、硫化物、酸化物、セレン化物のような、無機リン化合物も適する。しかし、これらの例は挙げてみただけであり、限定され得ると理解されるべきでは決してない。さらに、有機発光物質、例えば、ローダミン、ペリレン、イソインドリノン、キノフタロン及びオキサジノンも用いることができる。発光物質を作成する方法は当業者には既知である。作成方法は、例えば国際公開第81/03508A1号パンフレットに説明されている。多くの発光物質、例えばBASFによるPaliosecure Gelb及びClariantによるCartaxが、市販されてもいる。
【0024】
発光物質粒子を囲む包被を形成するためには、原則的には、十分小さな粒子に粉砕することができ、粉砕された状態で、すなわちナノ粒子として、発光物質に付着し、それ自体が機能物質特性を有するかまたは少なくとも発光物質の発光特性を改変する、全ての固体物質が適する。
【0025】
発光物質の発光特性を改変する物質は、例えば、発光物質が放射するいくつかの波長範囲で光を吸収し、よって発光スペクトルを変えるような物質である。そのような組合せの例は、発光物質としては上掲の国際公開第81/03508A1号パンフレットの実施例8及びナノ粒子物質としてはナノスケールFeである。
【0026】
さらに、発光物質、すなわち、原則的には本発明の機能物質のコアの形成にも適する同じ物質を、ナノ粒子としても用いることができる。相異なる発光物質の組合せにより、重畳発光スペクトルが得られる。
【0027】
しかし、ナノ粒子の包被には、コア材料の検出可能な特徴とは異なる機械検出可能な特徴を有するような物質、例えば、磁性物質すなわち磁化可能な物質、導電性物質または半導体を用いることが好ましい。これらの物質は、分散媒質内で安定でなければならない。例えば、ナノスケール鉄は水中では不安定であるが、水に濡れた後は厳密には定めることができない磁性酸化物になる(ナノスケール物質は一般に発火性である)。材料を選択するときには、発光スペクトルを識別するために肝要なスペクトルにおいて材料が強い吸収を示してはならないということを忘れてはならない。発光スペクトルは干渉を受ける程度までナノ粒子によって影響されてはならない。干渉性影響と見なされずにどれだけ強く変化させることができるかという問題は、基本的に、意図される用法に依存する。発光スペクトル及び/または吸収スペクトルの変化または弱化は、識別をさらに困難にするために実際上望ましいことであり得る場合もある。
【0028】
ナノ粒子材料の一例はカーボンナノチューブ(CNT)である。CNTはカーボンの極微小のチューブ形構造である。チューブ壁において、カーボンはsp混成軌道関数を有し、グラファイト層に似たハニカム構造を形成する。チューブの直径はほとんどが1〜50μmの範囲にあるが、さらに小さいチューブを作成することもできる。個々のチューブの長さは数mmまでとすることができる。いくつかの単壁カーボンナノチューブ(SWCNT)を互いに同軸に入れ込むことができ、よって複壁カーボンナノチューブが得られる。正確な構造に依存して、1つのチューブ内の導電度は金属的に、または半導電性になり得る。
【0029】
CTNは(例えば、MER CorporationまたはNanoLab Inc.から)市販されており、ミル粉砕のような従来の粉砕手順により必要な寸法に粉砕することができる。
【0030】
本発明の機能物質を形成するために発光性材料と組み合せることができるナノ粒子材料の別の例は、ナノα鉄、ナノFe及びナノNiFeである。ナノα鉄、ナノFe及びナノNiFeを含む機能物質は発光性であり、磁気を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、発光物質のナノ粉末との2成分組合せのいくつかの非限定的例が挙げられる。発光物質としての上掲の国際公開第81/03508A1号パンフレットの実施例9の、
MWCNT (粒径:20〜50μm),
MWCNT (粒径:20〜30μm),
MWCNT (粒径:40〜70μm),
ナノα鉄 (APS:25nm),
ナノFe (APS:20〜30nm),または
ナノNiFe (APS:20〜30nm),
との組合せである。
【0032】
APSはカーボンチューブのチューブ径を表す。材料は例えばMER Corporationから入手できる。
【0033】
ナノ粉末の平均粒径はほぼ1〜1000nmの範囲にあることができ、最適粒径は発光物質粒子の粒径にも依存する。発光物質粒子の平均粒径は一般にほぼ1〜100μmの範囲にあり、ナノ粒子は1桁、好ましくは2〜3桁小さい。ナノ粉末に好ましい平均粒径は1〜500nm,特に好ましくは10〜100nmの範囲にある。
【0034】
発光物質とナノ粒子材料の重量比はそれぞれの材料のタイプ及び粒径に依存する。さらに、重量比は所望の機能物質の正確な特徴、すなわち、機能物質の発光物質粒子がナノ粒子包被で好ましく最適に囲まれていることが必要であるか否かに、粒子包被が十分であると見なされているか否かにも、あるいは、必要であれば、(包被されていない)自由発光物質粒子が存在するべきであるか否かにも、依存する。機能物質が好ましくナノ粒子で完全に包被されている発光物質粒子からなり、自由発光物質粒子も自由ナノ粒子も含んでいないことが望ましければ、ナノ粉末に対する発光物質の重量比は一般に約1:1の範囲にある。
【0035】
しかし、特に本発明の機能物質がさらに自由発光物質及び/または自由ナノ粒子を含んでいれば、重量比はほぼ100:1〜1:100,好ましくはほぼ5:1〜1:3の、かなり広い範囲内で変わることもできる。そのような余剰が用いられる場合、得られる系が分離に対して安定であるか否かを先行試験でチェックしなければならない。
【0036】
本発明の機能物質は1つのタイプの発光物質の1つのタイプのナノ粒子との組合せに限定されない。むしろ、2つまたはそれより多くの相異なる発光物質及び/または2つまたはそれより多くの相異なるナノ粒子を相互に組み合せることができる。このようにすれば、例えば、磁気を有し、導電性でもある発光物質を得ることが可能である。
【0037】
本発明の機能物質の組み合された特性の検出は、個々の機能物質の発光特性、磁気特性及び導電特性の通常の検出と同様の態様で行われる。必要な、分光計、発光性または磁性のためのチェック装置及び導電度計は市販されている。
【0038】
本発明の機能物質の作成は、発光物質または発光物質とナノ粉末の形態の材料または、必要であれば、いくつかの相異なるナノ粉末材料を分散剤に加える工程及び分散が達成されるまでのような時間をかけてこれらを混合する工程によって、極めて簡単な態様で行われる。分散液をそのまま用いることができるが、機能物質は、通常は濾過によって分散液から分離され、乾燥されることが好ましい。
【0039】
分散剤としては水が用いられることが好ましい。原材料、特にナノ粉末は、分散剤中に辛うじてではあるが分散可能であり、時間が経過するにつれて、次第に多数のナノ粒子が発光物質粒子の表面に付着によって結合し、余剰ナノ粒子が存在しなければ、最終的に、ナノ粒子「クラスター」が全く含まれていない、機能物質の分散液が得られる。発光物質粒子へのナノ粒子の結合は数時間かかる。結合は室温で進められることが好ましいが、温度を若干上げることもできる。しかし、温めても発光物質粒子へのナノ粒子の結合は極めて稀にしか加速されない。分散液の濾過で得られた機能物質の乾燥は高温で行われ、その温度は選ばれた分散剤に依存する。分散剤として水が用いられていれば、乾燥はほぼ110℃で行われることが好ましい。
【0040】
濾過が行われる場合、通常の標準フィルタでは分散されたナノ粒子をせき止めることはできない。ナノ粒子は特殊フィルタで何とか保留できる。したがって、表面が完全にナノ粒子で包被されていることが好ましい発光物質粒子からなるが自由ナノ粒子は全く存在しない、機能物質がつくられるべきであれば、作成は、量がかなり余剰のナノ粉末を用い、十分な時間(ほぼ10時間)攪拌し、続いて濾過することによる、簡単な態様で行うことができる。発光物質粒子に被膜の形態で結合されていないナノ粒子は、フィルタを通過するかまたは、密度に依存して、分散液の表面に浮くが、機能物質は沈み、後でフィルタ上に残る。同じくフィルタで保留されるナノ粒子クラスターが分散液にいくらか残っている場合の対策は、慎重な微粉砕及びその後の分散剤による洗い流し、あるいは先行スキミング(例えば特に軽いMWCNTまたは大量に空気を含むナノスケール酸化物の場合)で与えられる。
【0041】
本発明の機能物質は、それぞれの特性(発光性、磁気、導電度)及び、例えばそれぞれの色のような、それぞれの外観のいずれにも関する原料成分のハイブリッド生成物である。例えば、白色または透明な発光物質が黒色または褐色のナノ粉末で被覆されれば、灰色または淡褐色の均質な機能物質粉末が得られる。
【0042】
本発明の機能物質は有価文書または保証素子の信頼性を保証するために用いられる。
【0043】
有価文書及び保証素子はそれぞれ、少なくとも1つのキャリア材料層及びおそらくはさらに別の層からなる。さらに、それぞれは1つまたはいくつかの機能物質で形成された少なくとも1つの信頼性保証特徴を有する。有価文書とは対照的に、保証素子はそれだけで流通することはないが、有価文書に貼り付けられるかまたは有価文書と一体化されて、有価文書とともに流通する。
【0044】
本発明の保証素子及び有価文書は本発明の機能物質で形成された少なくとも1つの信頼性保証特徴を有する。
【0045】
本発明の機能物質は、その可能な用途に関して、従来の発光物質と変わることはない。機能物質は、例えば保証素子または有価文書の本体または本体の部分領域に導入することができ、キャリア材料は紙またはプラスチックからなることができる。あるいは、機能物質は保証素子または有価文書の少なくとも1つの表面または少なくとも1つの表面の部分領域上の被膜の形態で与えることができる。
【0046】
さらなる別形として、機能物質は、保証素子または有価文書に印刷される印刷インクに含有させることができる。本発明の機能物質は、個々の応用分野において発光物質に通常であるような濃度、すなわち、機能物質が紙の層の本体に含められる場合はほぼ0.05〜1重量%,機能物質が印刷インクに含まれる場合はほぼ10〜40重量%で、それぞれ用いられる。
【0047】
本発明の機能物質をもつ保証素子は、有価文書のキャリア材料の本体内に導入されるか、または有価文書のキャリア材料層または別の層の表面に貼り付けられる、保証糸、玉虫色繊維、プランシェットまたはラベルであることが好ましい。
【0048】
保証素子を作成するために、本発明の機能物質は、例えば、ラッカーに練り込み、次いで機能物質が練り込まれたラッカーを展延してラッカーフィルムを形成し、保証素子に適合する寸法に切断することができる。適するラッカーはポリアミドラッカーであり、適する濃度はほぼ0.1〜1重量%の範囲にある。
【0049】
本発明の機能物質の特別な利点は、本発明の機能物質が、例えばコードを形成することになるような、定められた分配パターンで与えられることになる場合に、明らかになる。そのようなコードでは、高濃度の機能物質をもつ領域が低濃度の機能物質をもつかまたは機能物質を完全にもたない領域と、あらかじめ定められた態様で、交互する。高濃度の機能物質をもつ領域と低濃度の機能物質をもつ(または機能物質をもたない)領域の配置は機械読取可能である。これまで、そのようなコードは発光物質をあるパターンで印刷することによってしか作成できなかった。そのようなコードを有価文書の本体内に直接に形成することはできなかった。
【0050】
しかし、本発明の機能物質は、発光特性を有するだけでなく、好ましくは磁性を有するすなわち磁化可能であるかまたは導電性でもあるという、特別な特徴を有する。電場または磁場内において、発光物質粒子の包被のナノ粒子は電場または磁場によって整列し、機能物質はこの電場または磁場内で移動する傾向をもつ。そのような整列及び可能な移動のための前提条件は、機能物質を囲んでいる媒質が機能物質の移動を可能にするに十分に液体であることである。実際上、これは本発明の機能物質を、キャリア材料が未だ十分に軟質であるかまたは湿っているか、あるいは印刷インクが未だ十分に液体である限り、適当な磁場または電場を印加することによりキャリア材料または印刷インク内で所望の態様で配向または移動させ得ることを意味する。紙層内の高濃度の機能物質をもつ領域と低濃度の機能物質をもつ領域をもつ領域のパターンを、例えば、所望のコードパターに配列された磁石を紙の直近に配置しておいて、発光特性及び磁気特性をもつ本発明の機能物質を抄紙機内で湿った紙に導入することで、作成することができる。次いで、機能物質の磁性ナノ粒子が湿った紙体内で配向し、機能物質粒子が磁石に向けて移動して、磁石の配置パターン、すなわちコードを再現する。このコードは、例えば分光測定法で、読み出すことができる。
【0051】
本発明の機能物質についての一般的な作成手順を以下に詳述する。
【0052】
2gの上述した国際公開第81/03508A1号パンフレットの実施例9と1.5gのMWCNTナノ粉末を計量してほぼ50mlの水とともにビーカーに入れ、室温で一日間攪拌する。混合プロセスの開始時に、ナノ粉末は上面に浮かび、一部が大きなクラスターを形成する。分散し難いナノ粉末がこのようにして作成された分散液内に細かく分散してしまうと、材料を濾過する。ナノ材料がフィルタ孔を通ってフィルタを通り抜けることはない。濾過された材料を110℃で例えば一晩かけて乾燥する。
【0053】
続いて、このようにして得られた材料は、例えば、銀行券用紙の作成時に、例えば0.4重量%の添加量で、用紙内に導入することができる。
【0054】
同様に、材料は、この場合も機能物質の濃度を例えば0.4重量%にして、ポリアミドラッカーに練り込むことができ、ラッカーを展延してラッカーフィルムを形成することができる。ラッカーフィルムは銀行券への貼り付けに適する。
【0055】
この結果、ナノ粉末で決定される赤外発光の測定及び導電度の測定の両者によって銀行券の信頼性を検認することができる。いずれの特徴も測定することによって信頼性が確立され得ることも当然である。
【0056】
上記詳述例の代りに、国際公開第81/03508A1号パンフレットに関して上述したナノ粉末を用いることもできる。同様に、他の発光物質を用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外スペクトル及び/または可視スペクトル及び/または紫外スペクトルの光で励起して発光させることができる、粒子形態の少なくとも1つの発光物質を有する、有価文書の信頼性を保証するための機能物質において、前記発光物質の粒子の表面を少なくともある程度包被するナノ粒子を有し、前記機能物質の特性が前記発光物質の発光特性と前記ナノ粒子の特性の相互作用の結果として生じることを特徴とする機能物質。
【請求項2】
前記発光物質が赤外スペクトル及び/または可視スペクトル及び/または紫外スペクトルで発光することを特徴とする請求項1に記載の機能物質。
【請求項3】
前記発光物質の粒子が実質的に単層の前記ナノ粒子の層で実質的に完全に包被されていることを特徴とする請求項1または2に記載の機能物質。
【請求項4】
前記発光物質が、少なくとも1つの希土類金属がドープされたホスト格子に基づく発光物質から選ばれることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項5】
前記発光物質が無機リン化合物から選ばれることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項6】
前記発光物質が有機発光物質から選ばれることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項7】
前記発光物質が、平均粒径が1〜100μmの範囲にある粒子の形態で存在することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、磁性材料、磁化可能な材料、導電性材料、半導体材料及びこれらの混合物から選ばれることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項9】
前記ナノ粒子が、カーボンナノチューブ、ナノα鉄、ナノFe、ナノNiFe及びこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項10】
前記ナノ粒子の平均粒径が、1〜1000nm,好ましくは1〜500nm,特に好ましくは10〜100nmの範囲にあることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項11】
前記ナノ粒子に対する前記発光物質粒子の重量比が、10:1〜1:10,好ましくは5:1〜1:3,特に好ましくは2:1〜1:1の範囲にあることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項12】
前記機能物質が、ナノ粒子で包被されていない発光物質粒子及び/または自由ナノ粒子をさらに有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項13】
前記機能物質が、少なくとも2つの相異なる発光物質及び/または少なくとも2つの相異なるタイプのナノ粒子を有することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の機能物質。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の機能物質を作成する方法において、粒子形態の少なくとも1つの発光物質及びナノ粉末の形態の少なくとも1つの物質を、分散剤に加え、分散液が得られるまでのような時間をかけて攪拌することを特徴とする方法。
【請求項15】
前記分散液を濾過して前記機能物質を分離することを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分離した機能物質を乾燥させることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記分散剤として水を用いることを特徴とする請求項14から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記機能物質を、少なくとも1つの別の機能物質及び/または少なくとも1つの別のタイプのナノ粒子と混合することを特徴とする請求項14から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
保証素子または有価文書の信頼性を保証する方法において、
前記保証素子または有価文書の少なくとも1つの表面の少なくとも部分領域に、請求項1から13のいずれか1項に記載の機能物質を被着させる工程、または
前記有価文書または保証素子の本体の少なくとも1つの部分領域に、請求項1から13のいずれか1項に記載の機能物質を導入する工程、
を特徴とする方法。
【請求項20】
前記保証素子または有価文書に、前記機能物質の被着または導入中に電場または磁場を、前記電場または磁場内で前記機能物質の粒子の配向及び、望ましければ、移動がおこるような態様で、かけることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記移動により、機械検認が可能であるかまたは目視検認が可能な、前記機能物質粒子の定められた分布が生じることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記定められた分布がコードを形成することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つのキャリア材料及び、前記キャリア材料上または前記キャリア材料内の機能物質に基づく少なくとも1つの信頼性保証特徴を有する有価文書または保証素子において、前記機能物質が請求項1から13のいずれか1項に記載の物質であることを特徴とする有価文書または保証素子。
【請求項24】
前記キャリア材料が紙またはプラスチックからなることを特徴とする請求項23に記載の有価文書または保証素子。
【請求項25】
前記機能物質が前記キャリア材料の本体内に与えられていることを特徴とする請求項23または24に記載の有価文書または保証素子。
【請求項26】
前記機能物質が前記キャリア材料の表面の少なくとも部分領域に被着された層内に存在することを特徴とする請求項23または24に記載の有価文書または保証素子。
【請求項27】
前記機能物質が前記有価文書または保証素子の表面上に被着される印刷インク内に存在することを特徴とする請求項23または24に記載の有価文書または保証素子。
【請求項28】
前記機能物質が、目視検認が可能であるかまたは機械検認が可能な、定められた分布を示すことを特徴とする請求項23から27のいずれか1項に記載の有価文書または保証素子。
【請求項29】
前記定められた分布がコードを形成することを特徴とする請求項28に記載の有価文書または保証素子。
【請求項30】
前記保証素子が保証糸または玉虫色繊維またはプランシェットまたはラベルとして構成されていることを特徴とする請求項23から29のいずれか1項に記載の保証素子。
【請求項31】
請求項23から30のいずれかにしたがう保証素子が前記有価文書に備えられていることを特徴とする請求項23から29のいずれか1項に記載の有価文書。

【公表番号】特表2009−510239(P2009−510239A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533930(P2008−533930)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009603
【国際公開番号】WO2007/039288
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(596007511)ギーゼッケ ウント デフリエント ゲーエムベーハー (47)
【氏名又は名称原語表記】Giesecke & Devrient GmbH
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】