説明

機能生地、補正機能付衣類および補正機能付衣類の製造方法

【課題】 引っ張り応力の異なる部分を形成して体のラインを補正することができる補正機能付衣類において、全方向に同じように引っ張り応力を得ることができると共に、この引っ張り応力の異なる部分を一枚の生地の中に継ぎ目なく形成することができる機能生地、補正機能付衣類および補正機能付衣類の製造方法を提供すること。
【解決手段】 丸編機によって編成された引っ張り応力の強い締付け機能部2と引っ張り応力の弱い伸縮機能部3とを備えた機能生地1であって、前記締付け機能部2と伸縮機能部3が、弾性の強い糸と弾性の弱い糸を適宜切り換えることにより一続きに編成されたものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能生地、補正機能付衣類および補正機能付衣類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボトム、ショーツ、キャミソール、シャツといった下着において、下腹部、二の腕部分の引き締めを行ったり、ヒップアップのような体のラインを補正する機能を有するものがある。また、ヒップアップの効果を得るためのガードルのような衣類も用いられており、水着やレオタードのような衣類においても体のラインの補正機能を有するものがある。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、従来の補正機能付下着が示されている。図7は従来の補正機能付下着(一例としてショーツ)を着用し、その上からピッタリとしたスラックスを着用した状態を示す図である。補正機能付下着は体の膨出を抑えるような補正機能を持たせる部分90の基本となる生地に、引っ張り応力が大きい生地や伸縮性の少ない生地を裏打ちしたり、この部分90に引っ張り応力の異なる別の生地を継ぎ合わせるように縫製するようにして形成され、前記部分90において引っ張り応力の強い部分を形成することにより、例えばヒップアップなどの補正機能を持たせることが行われている。
【特許文献1】特開平10−212606号公報
【特許文献2】特開2004−156193公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数の生地を継ぎ合わせたり、当て布を裏打ちするなどした場合には、前記部分90の両縁部90a、つまり、生地と生地との継ぎ目や当て布の縁部において、縫い目などの凹凸が生じることは避けられなかった。したがって、前記縁部90aにおいて引っ張り応力が大きい部分と小さい部分との間の境界が生じ、このような補正機能付きの下着を着用すると、スラックスやタイトスカート等の比較的身体に密着して着用されるアウターファッション(外衣)の表面に斜め方向の所謂稜線が出現することがある。つまり、従来の補正機能付下着はいわゆるアウターに響くので見栄えが悪くなる。
【0005】
とりわけ、補正機能付下着において引っ張り応力を強くかける部分90は両臀部の中央下方または臀部に近い股部分から左右に向かって斜め上方向に引き上げるようなラインを形成するように配置されているので、この部分90の両縁部90aはいずれも外衣に継ぎ目のない部分である。したがって、これらの縁部90aに稜線が現れることにより、腰から脚にかける流れるようなラインが崩れるという問題がある。また、長時間着用すると前記縁部90aの縫い目や縁部による型が体に残るという問題もあった。
【0006】
そこで、補正機能付の下着を構成する生地を縦編機によって形成して、縦糸の一部に、弾力のある強い糸を用いることにより、部分的に強い引っ張り応力を得ることができるような機能を有する機能生地を形成し、この機能生地を用いて補正機能付下着を形成することが考えられる。ところが、縦編機を用いて編成された生地では、引っ張り応力に方向性が生じるので、衣類としての伸縮性に乏しく着用者の動きを阻害するものとなるという問題がある。
【0007】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであって、その目的は、引っ張り応力の異なる部分を形成して体のラインを補正することができる補正機能付衣類において、全方向に同じように引っ張り応力を得ることができると共に、この引っ張り応力の異なる部分を一枚の生地の中に継ぎ目なく形成することができる機能生地、補正機能付衣類および補正機能付衣類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の機能生地は、丸編機によって編成された引っ張り応力の強い締付け機能部と引っ張り応力の弱い伸縮機能部とを備えた機能生地であって、前記締付け機能部と伸縮機能部が、弾性の強い糸と弾性の弱い糸を適宜切り換えることにより一続きに編成されたものであることを特徴としている。なお、前記締付け機能部は2つの伸縮機能部の間に配置するように構成してあることが好ましい。また、弾性の強い糸と弾性の弱い糸は何れも一種類の糸であってもよいが、例えば弾性の強弱を決める太さの異なるポリウレタンの繊維と、強度を得るためのナイロンの繊維などのより糸であってもよい。
【0009】
前記締付け機能部が前記弾性の強い糸に加えて一方の別糸によって編成してあると共に、前記伸縮機能部が前記弾性の弱い糸に加えて他方の別糸によって編成してあり、一方の別糸と他方の別糸を染色の容易性において異なるものを用いることにより、前記締付け機能部と伸縮機能部を染色の度合いによって判別可能に構成してあってもよい(請求項2)。なお、レーヨンと綿糸は何れも吸水性に優れた糸であるから、前記別糸として有用であり、レーヨンは綿糸に比べて容易に染色される。ゆえに、前記別糸として例えばレーヨンや綿糸を用いることができる。
【0010】
請求項3に記載の補正機能付衣類は、前記機能生地を用いて形成され、体の膨出を抑えるための強い引っ張り応力が必要な部分に前記締付け機能部を配置すると共に、体の膨らみをソフトに被覆する部分に前記伸縮機能部を配置するように型どって裁断され、外衣に縫い目が現れにくい部分において縫合された、各パーツからなることを特徴としている。なお、体の膨出を抑えるための強い引っ張り応力が必要な部分は、例えば、ボトム,ショーツの場合は、臀部から太腿にかける部分および下腹部であり、キャミソールの場合はウエスト部分、シャツの場合はウエスト部分に加えて二の腕の部分などがある。一方、体の膨らみをソフトに被覆する部分は、例えば、ボトム,ショーツの場合は臀部、キャミソール,シャツの場合は胸部などである。
【0011】
請求項4に記載の補正機能付衣類の製造方法は、前記機能生地を用い、体の膨出を抑えるための強い引っ張り応力が必要な部分に前記締付け機能部を配置すると共に、体の膨らみをソフトに被覆する部分に前記伸縮機能部を配置するように型どって各パーツを裁断し、これらのパーツを外衣に縫い目が現れにくい部分において縫合して形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の機能生地では、締付け機能部と伸縮機能部を一続きの生地に形成したものであるから、この生地を用いて体を部分的に締付ける機能を持たせた補正機能付衣類を容易に製造することができる。つまり、体を部分的に締付ける機能を得るために複数の生地を継ぎ合わせたり裏打ちする必要がないので製造にかかる手間を少なくすることができ、それだけ、製造コストを削減することができる。
【0013】
なお、機能生地は2つの伸縮機能部の間に帯状の締付け機能部を配置するように構成してあってもよい。この場合、締付け機能部と伸縮機能部との切り替わり部分を活用しやすくなり、より縫い目の少ない補正機能付衣類を形成することができる。また、締付け機能部の両端に連続的に伸縮機能部が形成されているので、締付け機能部の境界部には弱い力で体に密着する伸縮機能部が位置して、部分的に力が集中することがない。
【0014】
また、丸編機によって編成された生地は全方向に伸縮するので、とりわけ下着などの衣類を形成するのに適している。特に、前記丸編機は縦横の全方向に伸縮すると共に生地を薄く形成する天竺編を行うことができるので下着の形成に適しているが、フライス編みなど種々の編み方で編成されたものであってもよいことはいうまでもない。
【0015】
加えて、締付け機能部が伸縮機能部と一続きに形成されているので、本発明の機能生地を用いて形成された補正機能付の衣類を着用したときに、締付け機能部と伸縮機能部との境界に、従来のような縫い目や段差のような稜線が現れることはない。
【0016】
前記締付け機能部が前記弾性の強い糸に加えて一方の別糸によって編成してあると共に、前記伸縮機能部が前記弾性の弱い糸に加えて他方の別糸によって編成してあり、一方の別糸と他方の別糸を染色の容易性において異なるものを用いることにより、前記締付け機能部と伸縮機能部を染色の度合いによって判別可能に構成してある場合(請求項2)には、締付け機能部と伸縮機能部を容易に判別できるので、この機能生地を適正に裁断して加工しやすく、間違いを少なくすることができる。また、この機能生地を用いて補正機能付の衣類を形成した場合には、締付け機能部の存在を目視にて確認することができるだけでなく、これを一つのデザインとすることができる。なお、外衣を着用した状態では外部に染色の違いが現れることはない。
【0017】
請求項3に記載の補正機能付衣類では、体の膨出を抑えたい部分においては締付け機能部を用いて体を引き締めることができると共に、伸縮機能部が体の膨らみをソフトに被覆するので体型を整えることができる。また、締付け機能部と伸縮機能部は一続きの機能生地によって形成されているので、この補正機能付衣類を着用した状態で締付け機能部と伸縮機能部の境界部に縫い目や段差が生じることがなく、ピッタリとした外衣を着用したときにも稜線が現れることがなく、全く自然に体型を整えることができる。
【0018】
加えて、前記補正機能付衣類には通常の衣類と異なる位置に縫い目や段差がないので、着用者は通常の衣類と全く同じ感覚で補正機能付衣類を着用できると共に、丸編機によって形成された機能生地は薄く肌触りも良好である。また、着用後に、着用者の肌には締付け機能部と伸縮機能部との境界部分による跡形が残ることもない。
【0019】
請求項4に記載の補正機能付衣類の製造方法では、補正機能付衣類の製造の際に、前記機能生地を用いることと、機能生地の中から補正機能付衣類を構成する各パーツを裁断する部分を選択することにおいて、通常の衣類の製造方法と異なるが、実質的に新たに手間のかかる製造工程が加わることはないので、補正機能付衣類を安価にて製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明にかかる機能生地1の第1実施例を示す図である。図1において、機能生地1は図外の丸編機によって編成されたものであり、引っ張り応力の強い締付け機能部2と引っ張り応力の弱い伸縮機能部3と一続きに編成してなる機能生地である。締付け機能部2と伸縮機能部3は例えばそれぞれ所定の幅W1 ,W2 で交互に編成されたものである。締付け機能部2と伸縮機能部3の継ぎ目は、丸編機に供給する糸を、弾性の強い糸から弾性の弱い糸に切り換えたり、弾性の強い糸から弾性の弱い糸に切り換えることにより行われる。このようにして形成される円筒状の機能生地1を切り開くことにより平面状の機能生地1を得ることができる。
【0021】
図2は前記機能生地の一部を段階的に拡大して示す図である。図2に示すように、前記機能生地1は拡大部分Z1 に示すように天竺編で編成されたものであり、2つの伸縮機能部3の間に所定幅W1 の締付け機能部2を形成したものである。拡大部分Z1 において、Lは締付け機能部2と伸縮機能部3の境界を示している。
【0022】
また、締付け機能部2を構成する繊維は、拡大部分Z2 が示すように、70デニール(78デシテックス)のナイロン繊維10aに70デニール(78デシテックス)のポリウレタン繊維10bに加えて30デニール(33デシテックス)のナイロン繊維10cを補強用により合わせてなる撚り糸10と、40デニール(45デシテックス)の綿糸11を交互に編成して形成されている。
【0023】
一方、伸縮機能部3を構成する繊維は、各大部分Z3 に示すように、70デニール(78デシテックス)のナイロン繊維12aに20デニール(22デシテックス)のポリウレタン繊維12bに加えて30デニール(33デシテックス)のナイロン繊維12cを補強用により合わせてなる撚り糸12と、40デニール(45デシテックス)のレーヨン13を交互に編成して形成されている。
【0024】
したがって、伸縮機能部3を構成するポリウレタン繊維12bが20デニールであるのに対して、締付け機能部2を構成するポリウレタン繊維10bは70デニールであるから、締付け機能部2は伸縮機能部3に比べて強い引っ張り応力を得ることができる。また、伸縮機能部3を構成する綿糸11よりもレーヨン13の方が染色しやすい性質を有しており、同じように染色したとしても、伸縮機能部3の方が締付け機能部2よりも濃い色になる。
【0025】
なお、本実施例では撚り糸10と綿糸11または撚り糸12とレーヨン13を交互に編成することにより、十分な伸縮性と吸水性を備えると共に平らな表面を有する機能生地1を編成することが可能であるが、本発明はこの点に限定されるものではない。すなわち、綿糸やレーヨンなどの基本となる繊維に対して伸縮性のあるポリウレタン繊維を引き揃えるようにして機能生地1を編成し、締付け機能部2と伸縮機能部3の部分において引き揃えるポリウレタン繊維の太さを切り換えるようにしてもよい。この場合、肌触りを更に向上できる。
【0026】
上述のように、本発明の機能生地1は締付け機能部2と伸縮機能部3を一続きに形成したものである。したがって、この機能生地1を用いることにより、体を部分的に締付ける機能を得るために複数の生地を継ぎ合わせたり裏打ちするまでもなく、体を部分的に締付ける機能を持たせた補正機能付衣類を極めて容易に製造することができる。つまり、それだけ製造コストを削減することができる。また、締付け機能部2が伸縮機能部3と一続きに形成されているので、本発明の機能生地1を用いて形成された補正機能付の衣類を着用したときに、締付け機能部2と伸縮機能部3との境界に、縫い目や段差のような稜線が現れることはない。
【0027】
また、本実施例の場合、締付け機能部2と伸縮機能部3が交互に形成してあるので、締付け機能部2と伸縮機能部3との切り替わり縁部を活用しやすくなり、より縫い目の少ない補正機能付衣類を形成することができる。加えて、締付け機能部2の両端に伸縮機能部3を連続的に一続きにして形成してあるので、締付け機能部2の境界部には弱い力で体に密着する伸縮機能部3が位置する。つまり、この機能生地1を用いて肌着を形成した場合に着用者の肌に部分的な力の集中が生じることがなく、着用による跡形が残ることもない。
【0028】
さらに、丸編機によって編成された機能生地1は全方向に伸縮するので、肌着などの柔軟性が必要な衣類を形成するのに適している。とりわけ、上述の実施例では機能生地1が天竺編によって編成されており、これによって薄く伸縮性の優れた生地を形成することができ、下着の形成に適している。しかしながら、本発明の機能生地1をフライス編によって編成して機能生地1を厚く編成してもよく、機能生地1をスムース編によって編成して機能生地1をさらに厚く編成してもよい。
【0029】
さらに、機能生地1は、その編み方を部分的に変えることにより模様を形成してあってもよく、その他の種々の編成方法で編成されたものを組み合わせてあってもよいことはいうまでもない。
【0030】
また、本実施例では締付け機能部2よりも伸縮機能部3が濃い色に染色されるようにすることにより、締付け機能部2と伸縮機能部3を容易に判別できるので、この機能生地1を適正に裁断して加工しやすく、間違いを少なくすることができる。また、この機能生地1を用いて補正機能付の衣類を形成した場合には、締付け機能部2を目視にて確認することができるだけでなく、これを一つのデザインとすることができる。
【0031】
図3は前記機能生地1を用いて形成される補正機能付衣類の一例を示す図である。図3は補正機能付衣類の一例であるボトム20の構成を示しており、図3(A)は前方側の斜め方向から見た斜視図、図3(B)は後方側の斜め方向から見た斜視図である。
【0032】
本実施例のボトム20は主に下腹部の引き締めおよび臀部の引き上げ機能を有する下着であり、前身頃21、左身頃22、右身頃23などのパーツを縫合して形成されている。また、24は前身頃21と左右の身頃22,23を縫合してなる縫合部、25は左右の身頃22,23を臀部の中心から背骨に沿うようにしてつなぎ合わせた縫い目、26はボトム20の上端部に取付けられた弾性体で所定の幅を有する襠部、27はボトム20の下端部に取り付けられたレースなどの襠部である。これらの襠部26,27の形成により、ボトム20の端部がアウターに響かないようにすることができる。
【0033】
前記前身頃21はその全体が前記機能生地1の中で強い引っ張り応力を有する締付け機能部2によって形成されており、前記左右の身頃22,23は前記締付け機能部2と伸縮機能部3を跨ぐようにして機能生地1を裁断して形成したものである。つまり、左身頃22は、前記締付け機能部2によって形成された腰部締付け機能部分22aと、前記伸縮機能部3によって形成された上部伸縮機能部分22bと、締付け機能部2によって形成された締付け機能部分22cと、伸縮機能部3によって形成された下部伸縮機能部分22dとからなっている。同様に、左身頃23は、前記締付け機能部2によって形成された腰部締付け機能部分23aと、前記伸縮機能部3によって形成された上部伸縮機能部分23bと、締付け機能部2によって形成された締付け機能部分23cと、伸縮機能部3によって形成された下部伸縮機能部分23dとからなっている。
【0034】
前記腰部締付け機能部分22a,23aは臀部の中央上方において臀部の縫い目25の部分を引き上げるように配置してある。前記締付け機能部分22c,23cは両臀部の下部から腰部を通って前記前身頃21に繋がるように配置してあり、これによって臀部を持ち上げて、その下部を引き締めるような力を加えることができる。
【0035】
本実施例の締付け機能部分22c,23cの幅W1 は50〜300mmであることが好ましく、最適は125mmである。この幅が臀部の引き上げにちょうどよい幅である。また、前記前身頃21が締付け機能部2によって形成されているので、下腹部の膨出を抑えることができる。なお、前記腰部締付け機能部分22a,23aの大きさは伸縮機能部分32b,33bを構成する伸縮機能部3の幅W2 によって容易に調整することができ、本例の場合は390mmである。なお、この幅W2 を大きくすることにより腰部締付け機能部分22a,23aを形成しないことも可能である。前記幅W1 ,W2 を適宜定めることにより、ボトム10を形成するための各パーツ(前身頃21と、左身頃22と、右身頃23)を機能生地1から効率良く裁断することができる。
【0036】
なお、本例に示すボトム20は、図1,2に示した機能生地1を用いることにより、補正機能を持たせるための特別な縫合を一切行なうことなく、従来のボトム20と何ら変わることのない形状のパーツ21,22,23を縫合することにより形成することができる。したがって、極めて簡単に補正機能付のボトム20を形成することができる。つまり、それだけ補正機能付のボトム20をできるだけ低コストにて製造することができる。
【0037】
加えて、前記ボトム20を形成するための各パーツ21〜23を裁断するときに、前記各機能部分22a〜22d,23a〜23dが所定の位置にくるように、機能生地1を裁断する必要があるが、このとき機能生地1の締付け機能部2と伸縮機能部3の色が異なるように構成されていることにより、作業がいっそう容易となる。
【0038】
また、左右の身頃22,23に一続きの機能部分22a〜22d,23a〜23dを形成することができ、各機能部分22a〜22d,23a〜23dの境界(引っ張り応力の切換え部)に縫い目や段差がない。したがって、このボトム20を着用した状態で、ピッタリとしたスラックスやタイトスカートのような外衣を着用したとしても、締付け機能部分22a,22c,23a,23cと伸縮機能部分22b,22d,23b,23dの間の境界に稜線が現れることがないので、腰から脚にかけて流れるようなラインを崩すことがなく、見栄えが良くなる。加えて、着用後に肌に型が残るような問題も生じることがない。
【0039】
さらに、前記機能生地1の製造工程において、前記締付け機能部分22b,23bと伸縮機能部分22a,22c,23a,23cにおいて染色の度合いを異ならせることにより、着用者は形成されたボトム20の締付け機能部分22b,23bを視覚にて容易に確認することができる。つまり、使用者は色の違いによって締付け機能部分22b,23bの存在を確認して補正機能付のボトムを着用することができ、効果を実感できると共に、締付け機能部分22b,23bの配置によってワンポイントのデザインを加えることができる。なお、前記染色の違いは外衣の上からは確認することができない程度であることが望ましい。
【0040】
図4は前記機能生地1を用いて形成される補正機能付衣類の別の例を示す図である。図4は補正機能付衣類の一例であるショーツ30の構成を示しており、図4(A)は正面図、図4(B)は背面図である。
【0041】
本実施例のショーツ30は主に下腹部の引き締めと臀部の引き上げ機能を有する下着であり、前身頃31、左身頃32、右身頃33、股布34などのパーツを縫合して形成されている。また、35は前身頃31と左右の身頃32,33を縫合してなる縫合部、36は左右の身頃32,33を臀部の中心から背骨に沿うようにしてつなぎ合わせた縫合部、37は前記身頃31〜33と股布34を前方において縫合する縫合部、38は前記身頃32,33と股布34を後方において縫合する縫合部である。なお、股布34および左右の身頃32,33の下端の縁部には、その詳細な説明を省略するが、レースなどによって襠部を形成し、ショーツ30の下端がアウターに響かないように構成してある。
【0042】
本例の前身頃31は、その上部の大部分が前記機能生地1の中で強い引っ張り応力を有する締付け機能部2によって形成された締付け機能部分31aであり、その下部に前記伸縮機能部3によって形成された伸縮機能部31bが形成されている。
【0043】
一方、前記左右の身頃32,33は前記締付け機能部2と伸縮機能部3を跨ぐようにして機能生地1を裁断して形成したものである。つまり、左身頃32は、前記締付け機能部2によって形成された上部締付け機能部分32aと、前記伸縮機能部3によって形成された伸縮機能部分32bと、締付け機能部2によって形成された下部締付け機能部分32cとからなっている。同様に、左身頃33は、前記締付け機能部2によって形成された上部締付け機能部分33aと、前記伸縮機能部3によって形成された伸縮機能部分33bと、締付け機能部2によって形成された下部締付け機能部分33cとからなっている。また、前記股布34は伸縮機能部3によって形成されている。
【0044】
前記締付け機能部分32c,33cの幅W1 は50〜200mmであることが好ましく、最適は125mmである。この幅が臀部の引き上げにちょうどよい幅である。また、前記上部締付け機能部分32a,33aの大きさは伸縮機能部分33b,33bを構成する伸縮機能部3の幅W2 によって容易に調整することができ、本例の場合は上部締付け機能部分32a,33aの幅W1 の幅と同じにしている。つまり幅W2 の最適は125mmである。なお、この幅W2 を大きくすることにより腰部締付け機能部分32a,33aを形成しないことも可能である。前記幅W1 ,W2 を適宜定めることにより、ショーツ30を構成する各パーツ31〜34を機能生地1から効率良く裁断することができる。
【0045】
上記構成のショーツ30では、前記前身頃31の大部分が締付け機能部分31aであるから下腹部の膨出を抑えることができる。なお、本例のショーツ30では機能生地1から各パーツ31〜34を裁断する際に、より小さい面積から多くのパーツを得ることができるように、前身頃31の一部に伸縮機能部31bを配置させているが、前身頃31の全体が締付け機能部分であってもよい。
【0046】
また、前記上部締付け機能部32a,33aは臀部の中央上方において臀部の縫い目36の部分を引き上げるように配置してあるが、この上部締付け機能部32a,33aは省略してもよい。前記下部締付け機能部分32c,33cは両臀部の下部から腰部を通って前記前身頃31に繋がるように配置してあり、これによって両太股の左右への膨出を抑えるとともに、臀部を持ち上げるように力を加えることができる。
【0047】
したがって、本実施例のショーツ30を用いることにより、従来のショーツの上から着用していたガードルを不要とすることができる。加えて、本実施例に示すショーツ30は、図1,2に示した機能生地1を用いているから、左右の身頃32,33に一続きの機能部分32a〜32c,33a〜33cを形成することができるので、ピッタリとした外衣を着用したとしても、引っ張り応力が切り替わる境界線においてアウターに稜線が現れることがないので、見栄えが良くなる。加えて、着用後に肌に型が残るような問題も生じることがない。
【0048】
さらに、本実施例のショーツ30は、図1,2に示した機能生地1を用いているから、その製造工程において、各パーツ31〜34の裁断時以外に従来のショーツの製造と異なる加工を施す必要がない。したがって、極めて簡単に補正機能付のショーツ30を形成することができる。つまり、それだけ補正機能付のショーツ30をできるだけ低コストにて製造することができる。
【0049】
図5は前記機能生地1を用いて形成される補正機能付衣類の別の例を示す図である。図5は補正機能付衣類の一例であるキャミソール40の構成を示しており、図5(A)は前方の斜め方向から見た斜視図、図5(B)は後方の斜め方向から見た斜視図である。
【0050】
本実施例のキャミソール40は主にウエストラインにおける腹部の膨出を抑え、バストアップを行なうための下着であり、左右の前身頃41,42、胸部の身頃43、左右の脇身頃44,45、左右の後身頃46,47などのパーツを縫合して形成されている。また、48は左前身頃41と右前身頃42を中心線に沿うようにつなぎ合わせた縫合部、49は左右後身頃45,46を背骨に沿うようにしてつなぎ合わせた縫合部である。
【0051】
本例の胸部の身頃43と、左右の脇身頃44,45は機能生地1の締付け機能部2によって形成してあり、左右の前身頃41,42および左右の後身頃45,46は、図1,2を用いて説明した機能生地1の締付け機能部2と伸縮機能部3を跨ぐようにして裁断して形成したものである。
【0052】
つまり、左右の前身頃41,42は前記締付け機能部2によって形成された上部締付け機能部分41a,42aと、前記伸縮機能部3によって形成された上部伸縮機能部分41b,42bと、締付け機能部2によって形成された腹部締付け機能部分41c,42cと、伸縮機能部3によって形成された下部伸縮機能部分41d,42dと、締付け機能部2によって形成された下部締付け機能部分41e,42eとからなっている。
【0053】
同様に、左右の後身頃46,47は、前記締付け機能部2によって形成された上部締付け機能部分46a,47aと、前記伸縮機能部3によって形成された上部伸縮機能部分46b,47bと、締付け機能部2によって形成された腰部締付け機能部分46c,47cと、伸縮機能部3によって形成された下部伸縮機能部分46d,47dと、締付け機能部2によって形成された下部締付け機能部分46e,47eとからなっている。
【0054】
前記締付け機能部分41c,42c,46c,47cの幅W1 は50〜200mmであることが好ましく、最適は125mmである。この幅がウェスト部の引き締めにちょうどよい幅である。また、伸縮機能部分41b,42b,46b,47b,41d,42d,46d,47dを構成する伸縮機能部3の幅W2 は例えば125mmである。なお、この幅W2 を広くして締付け機能部分41a,42a,46a,47a,41e,42e,46e,47eを省略することも可能である。このように、前記幅W1 ,W2 を適宜定めることにより、キャミソール40の各パーツ31〜47を機能生地1から効率良く裁断することができる。
【0055】
上記構成のキャミソール40では、前記左右の前身頃41,42および左右の後身頃45,46のウエストラインの部分において略V字状の締付け機能部分41b,42bを形成しているので、ウエストラインに自然なくびれを形成することができる。また、本実施例のキャミソール40も補正機能を得るために複雑なパーツを組み合わせる必要がないので、その製造コストを削減することができるだけでなく、引っ張り応力を変えるために、縫合部を無闇に増やすことによって肌触りの悪化やアウターへの悪影響を無くすことができる。
【0056】
また、前記胸部の身頃43は胸部において所定の力で締めつけることにより、胸を引き上げてバストアップを図ることができる。なお、上部締付け機能部分41a,42a,46a,47aおよび下部締付け機能部分41e,42e,46e,47eはいずれも腹部および背中の肉を斜め方向に引き上げるように作用するが、これらの部分を省略してもよいことはいうまでもない。
【0057】
図6は前記機能生地1を用いて形成される補正機能付衣類の別の例を示す図である。図6は補正機能付衣類の一例であるシャツ50の構成を示しており、図6(A)は前方の斜め方向から見た斜視図、図6(B)は後方の斜め方向から見た斜視図である。
【0058】
本実施例のシャツ50は主にウエストラインにおける腹部の膨出を抑えると共に、二の腕部分の引き締めを行なう下着であり、前身頃51、後身頃52、左袖の身頃53、右袖の身頃54などのパーツを縫合して形成されている。
【0059】
本例の身頃51〜54は、何れも図1,2を用いて説明した機能生地1の締付け機能部2と伸縮機能部3を跨ぐようにして裁断して形成したものである。前後の身頃51,52は前記伸縮機能部3によって形成された上部伸縮機能部分51a,52aと、前記締付け機能部2によって形成された締付け機能部分51b,52bと、伸縮機能部3によって形成された下部伸縮機能部分51c,52cとからなっている。同様に、左右の袖の身頃53,54は、前記伸縮機能部3によって形成された伸縮機能部分53a,54aと、前記締付け機能部2によって形成された締付け機能部分53b,54bとからなっている。
【0060】
また、55,56は前後の身頃51,52を左右の何れか一方の脇部(本例では左脇部)においてつなぎ合わせた縫合部、57は前後の身頃51,52の上端を肩の上端部においてつなぎ合わせた縫合部、58,59は前後の身頃51,52と左右の袖の身頃53,54をつなぎ合わせた縫合部である。
【0061】
前記締付け機能部分52bの幅W1 は50〜300mmであることが好ましく、最適は125mmである。この幅がウェスト部の引き締めにちょうどよい幅である。また、伸縮機能部分52aを構成する伸縮機能部3の幅W2 は例えば390mmである。前記幅W1 ,W2 を適宜定めることにより、シャツ50の各パーツ51〜54を機能生地1から効率良く裁断することができる。
【0062】
上記構成のシャツ50を着用することにより、前後の身頃51,52のウエストラインに相当する部分の締付け機能部分51b,52bがウエストラインに自然なくびれを形成する程度に着用者のウエストを締めつけることができる。加えて、着用者の二の腕部分に前記締付け機能部分53b,54bが位置するので、着用者の二の腕を適度に引き締めることができる。また、本実施例のシャツ50も補正機能を得るために複雑なパーツを組み合わせる必要がないので、その製造コストを削減することができるだけでなく、縫合部を無闇に増やすことによる肌触りの悪化やアウターへの悪影響を無くすことができる。
【0063】
以上、詳述した各補正機能付衣類20,30,40,50は何れも下着であり、本発明の機能生地1を用いることにより、体のラインを補正する機能を有する下着を極めて容易に形成することができる。また、丸編機でとりわけ天竺編によって形成された生地は全方向に伸縮するので着用者の動きを阻害することがなく下着として有用である。加えて、天竺編によって形成される生地は薄いのでアウターに響かない下着として極めて有用である。
【0064】
しかしながら、本発明は機能生地1が天竺編によって編成されていることに限定するものではなく、フライス編によって幾分厚みを持たせることも、スムース編によってさらに厚みを持たせたり表と裏で異なる糸を用いることも可能である。同様に、本実施例では説明を簡単にするために省略してあるが、機能生地1に編成の方法や組織を変えることにより柄を施すことも可能であることはいうまでもない。
【0065】
また、本発明は補正機能付衣類を下着に限定するものではなく、水着やレオタードなどの外衣であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る機能生地の全体を示す図である。
【図2】前記機能生地の構成の詳細を示す図である。
【図3】補正機能付衣類の一例であるボトムの構成を示す図である。
【図4】補正機能付衣類の一例であるショーツの構成を示す図である。
【図5】補正機能付衣類の一例であるキャミソールの構成を示す図である。
【図6】補正機能付衣類の一例であるシャツの構成を示す図である。
【図7】従来の補正機能付下着を着用した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 機能生地
2 締付け機能部
3 伸縮機能部
10 弾性の強い糸
11 一方の別糸
12 弾性の弱い糸
13 他方の別糸
20 ボトム(補正機能付衣類)
21〜23 パーツ
22b,22d,23b,23d 体の膨らみをソフトに被覆する部分
21,22c,23c 体の膨出を抑える部分
30 ショーツ(補正機能付衣類)
31〜34 パーツ
32b,33b,34 体の膨らみをソフトに被覆する部分
31a,32a,33a,32c,33c
体の膨出を抑える部分
40 キャミソール(補正機能付衣類)
41b,41d,42b,42d,46b,46d,47b,47d
体の膨らみをソフトに被覆する部分
41c,42c,43,44,45,46c,47c
体の膨出を抑える部分
50 シャツ(補正機能付衣類)
51〜54 パーツ
51a,51c,52a,52c,53a,54a
体の膨らみをソフトに被覆する部分
51b,52b,53b,54b 体の膨出を抑える部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸編機によって編成された引っ張り応力の強い締付け機能部と引っ張り応力の弱い伸縮機能部とを備えた機能生地であって、前記締付け機能部と伸縮機能部が、弾性の強い糸と弾性の弱い糸を適宜切り換えることにより一続きに編成されたものであることを特徴とする機能生地。
【請求項2】
前記締付け機能部が前記弾性の強い糸に加えて一方の別糸によって編成してあると共に、前記伸縮機能部が前記弾性の弱い糸に加えて他方の別糸によって編成してあり、一方の別糸と他方の別糸を染色の容易性において異なるものを用いることにより、前記締付け機能部と伸縮機能部を染色の度合いによって判別可能に構成してある請求項1に記載の機能生地。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機能生地を用いて形成され、体の膨出を抑えるための強い引っ張り応力が必要な部分に前記締付け機能部を配置すると共に、体の膨らみをソフトに被覆する部分に前記伸縮機能部を配置するように型どって裁断され、外衣に縫い目が現れにくい部分において縫合された、各パーツからなることを特徴とする補正機能付衣類。
【請求項4】
請求項1または2に記載の機能生地を用い、体の膨出を抑えるための強い引っ張り応力が必要な部分に前記締付け機能部を配置すると共に、体の膨らみをソフトに被覆する部分に前記伸縮機能部を配置するように型どって各パーツを裁断し、これらのパーツを外衣に縫い目が現れにくい部分において縫合して形成することを特徴とする補正機能付衣類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−37248(P2006−37248A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215374(P2004−215374)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(594152929)株式会社タカギ (3)
【Fターム(参考)】