説明

機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法

本発明は、細胞におけるMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する工程、または細胞をMycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増殖を誘導するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、細胞におけるMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する工程、または細胞をMycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0002】
発明の背景:
数年間におよび、再生医療の分野の技術は、幹細胞、特に多能性幹細胞(例えば胚幹細胞およびより最近では人工多能性幹細胞)に焦点が当てられている。なぜならこれらの細胞は、自己再生し、そして複数の特化した細胞型へと分化する能力を有するからである。再生医療の概念は、それ自体では再生できないターゲット組織および/またはターゲット臓器を修復および再生することを目標にして対象の細胞を移植することを含む。なぜなら、心臓組織および神経組織などの大半の組織または臓器は、機能的に分化した体細胞から実質的になり、そして単独では再生できないか、または少なくとも、その自己再生能が非常に低いために効率的に再生できないからである。
【0003】
実際に、後生動物の生物においての最終分化は一般的に、細胞周期離脱と密接に連関し、一方、多能性幹細胞の未分化状態は、無制限の自己再生に関連している。最終分化した細胞の非増殖状態は、特に、強くてしばしば冗長な機序によって保証され、そして完全に成熟した細胞が周期に再度入ることができる稀な例外を除いて、増殖は依然として一過性であり、そして通常は脱分化を含む。その直接的な前駆体の増殖を刺激する正にそのマイトジェンシグナルに対して、分化した細胞を不応性とするものが何かは依然として不明である。例えば、M−CSFに対する骨髄単球性前駆体の増殖応答は、マクロファージへの分化時に消失するが、これらの成熟細胞がサイトカインを感作する能力は続く。結果として、骨髄前駆細胞は、半固体のM−CSF含有培地中でコロニーを形成するが、血中単球および組織マクロファージは形成しない。
【0004】
しかしながら、国際特許出願WO2008/084069は、近年、細胞におけるMafBおよびc−Mafの発現または活性を阻害し;そしてM−CSFなどの少なくとも1つのサイトカインの存在下において細胞を増殖することによって、長期培養中の単球およびマクロファージを生成、維持および増殖するための方法を開示している。
【0005】
今回、本発明者らは、このような方法が、c−MycおよびKlf4の調節された活性化に依存する機序に基づくことを強調し、そして、驚くべきことにc−MycおよびKlf4はRowland et al. 2006およびAdhikary et al. 2005に記載のように両方共に発癌遺伝子であるという事実にも関わらず、このようにして得られた長期増殖細胞が腫瘍原性ではないことを実証した。
【0006】
発明の要約:
それ故、本発明の第1の局面は、細胞におけるMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0007】
本発明の第2の局面は、細胞を、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0008】
本発明の第3の局面は、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法において使用するための、Mycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)の組合せに関する。
【0009】
本発明はまた、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法において使用するためのMycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)を含むキットに関する。
【0010】
本発明はまた、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するためのMycファミリー遺伝子またはタンパク質およびKlfファミリー遺伝子またはタンパク質の使用に関する。
【0011】
本発明はさらに、本発明の方法によって得ることのできる機能的に分化した体細胞の個体群、並びに、このような個体群および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む薬学的組成物に関する。
【0012】
発明の詳細な説明:
従って、本発明者らは、多能性(pluri-potent)または多能性(multi-potent)幹細胞中間体を通ることなく、そして悪性形質転換を伴うことなく、該細胞におけるc−MycおよびKlf4の発現を活性化することによって機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導することによって、大量に前記の機能的に分化した体細胞を得ることが可能であることを実証した。本発明者らは、実際に、前記の機能的に分化した体細胞が、長期培養液中で増殖し得るが、特にマウスへの移植後にもまた非腫瘍原性であることを示した。
【0013】
それ故、本発明の第1の局面は、細胞におけるMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0014】
特定の態様において、本発明による方法は、細胞におけるMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するためのin vitroにおける方法である。
【0015】
本明細書において使用する「Mycファミリー遺伝子」という用語は、c−Myc、N−Myc、L−MycおよびS−Mycからなる群より選択される任意の遺伝子を指す。このような遺伝子は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして参考文献(Adhikary et al. 2005)に記載された。Mycファミリー遺伝子は任意の起源に由来し得るが、典型的には哺乳動物(例えばヒトおよび非ヒト霊長類、またはげっ歯類)のMycファミリー遺伝子である。特定の態様において、Mycファミリー遺伝子は、骨髄球腫症発癌遺伝子とも呼ばれるc−Mycである。Mycファミリー遺伝子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は当業者にはそれ自体公知であり、そしてNCBI Genbankで公共的に利用可能である。例えば、天然に存在するヒトc−Myc遺伝子は、GenbankアクセッションナンバーNM_002467に示されるヌクレオチド配列を有し、そして天然に存在するヒトタンパク質は、GenbankアクセッションナンバーNP_002458に示されるアミノ酸配列を有する。
【0016】
本明細書において使用する「Klfファミリー遺伝子」という用語は、Klf1、Klf2、Klf3、Klf4、Klf5、Klf6、Klf8、Klf9、Klf10、Klf11、Klf12、Klf13、Klf14、Klf15、Klf16およびKlf17からなる群より選択される任意の遺伝子を指す。このような遺伝子は当技術分野におけるその一般的な意味を有する。Klfファミリー遺伝子は任意の起源に由来し得るが、典型的には哺乳動物(例えばヒトおよび非ヒト霊長類、またはげっ歯類)のKflファミリー遺伝子である。特定の態様において、Klfファミリー遺伝子は、Kruppel様因子4とも呼ばれるKlf4である。Klfファミリー遺伝子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は当業者にはそれ自体公知であり、そしてNCBI Genbankで公共的に利用可能である。例えば、天然に存在するヒトKlf4遺伝子は、GenbankアクセッションナンバーNM_004235に示されるヌクレオチド配列を有し、そして天然に存在するヒトタンパク質はGenbankアクセッションナンバーNP_004226に示されるアミノ酸配列を有する。
【0017】
本明細書において使用するような、特定の遺伝子(例えばc−MycまたはKlf4遺伝子)への言及は、天然(内因性)ポリヌクレオチド配列、特にヒト遺伝子、またはその任意の対立遺伝子または多形変異体、並びに、他の種に見られるオルソロガス配列を有する核酸を含み得る。ポリヌクレオチド変異体は、1つ以上の置換、付加、欠失および/または挿入を含み得る。例えば、遺伝子コードの固有な縮重に因り、実質的に同じまたは機能的に等価なアミノ酸配列をコードする他のDNA配列が産生され得、そしてこれらの配列を使用して所与のポリペプチドをクローニングおよび発現させ得る。
【0018】
当業者によって認識されているように、ポリヌクレオチドは一本鎖(コード鎖またはアンチセンス鎖)または二本鎖であり得、そしてDNA分子(ゲノム、cDNAまたは合成)またはRNA分子であり得る。追加のコード配列または非コード配列が、本発明のポリヌクレオチド内に存在していてもよいがその必要はなく、そしてポリヌクレオチドは、他の分子および/または支持材料に連結していてもよいがその必要はない。
【0019】
本明細書において使用する「DNA」および「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、特定の種の全ゲノムDNAを含まないように単離されたDNA分子を指す。それ故、ポリペプチドをコードするDNAセグメントは、DNAセグメントが得られた種の全ゲノムDNAから実質的に単離された、またはそれから精製された1つ以上のコード配列を含むDNAセグメントを指す。「DNAセグメント」および「ポリヌクレオチド」という用語には、DNAセグメントおよびこのようなセグメントのより小さなフラグメント、並びにまた組換えベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージミド、ファージ、ウイルスなどを含む)が含まれる。
【0020】
本明細書において使用するような、特定のタンパク質(例えばc−MycまたはKlf4タンパク質)への言及は、天然アミノ酸配列、並びに変異体および改変形(その起源または調製様式に関係なく)を有する、ポリペプチドを含み得る。天然アミノ酸配列を有するタンパク質は、天然から得られたのと同じアミノ酸配列を有するタンパク質である(例えば天然に存在するc−MycまたはKlf4)。このような天然配列のタンパク質を、天然から単離しても、あるいは標準的な組換えおよび/または合成法を使用して調製してもよい。天然配列のタンパク質は、特に、天然に存在する切断短縮形または可溶形、天然に存在する変異体形、天然に存在する対立遺伝子変異体および形(翻訳後修飾を含む)を包含する。天然配列のタンパク質は、いくつかのアミノ酸残基のグリコシル化、またはリン酸化、ユビキチン化、SUMO化または他の修飾などの翻訳後修飾後のタンパク質を含む。
【0021】
変異体は、類似したアミノ酸配列を有し、そしてある程度まで、天然タンパク質の1つ以上の活性を保持する、天然配列のタンパク質に対する機能的な等価体であるタンパク質を指す。変異体はまた、活性を保持するフラグメントも含む。変異体はまた、天然配列と実質的に同一である(例えば80、85、90、95、97、98、99%の配列同一性を有する)タンパク質を含む。このような変異体は、欠失、挿入および/または置換などのアミノ酸変化を有するタンパク質を含む。「欠失」は、関連タンパク質における1つ以上のアミノ酸残基の不在を指す。「挿入」という用語は、関連タンパク質における1つ以上のアミノ酸の付加を指す。「置換」は、ポリペプチドにおける別のアミノ酸残基による1つ以上のアミノ酸残基の置換を指す。典型的には、このような変化は、性質が保存的であるので、変異タンパク質の活性は、実質的に、天然配列のタンパク質と類似している。置換の場合、別のアミノ酸を置換するアミノ酸は、通常、類似した構造的および/または化学的特性を有する。挿入および欠失は、典型的には、1〜5アミノ酸の範囲であるが、挿入の位置に依存して、より多くのアミノ酸を挿入または除去することができる。
【0022】
特定の態様において、本発明は、細胞におけるc−Myc遺伝子およびKlf4遺伝子の発現を活性化する工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0023】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0024】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0025】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf4である。
【0026】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0027】
さらに別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0028】
本明細書において使用する「機能的に分化した体細胞」という用語は、特定の機能に特化された細胞(例えばリンパ球、ニューロンまたは筋肉細胞)を指す。大半の組織または臓器は再生できないか、または少なくとも効率的に再生できないことをさらに注記しなければならない。実際に、このような組織または臓器は、生物の生涯におよび自分自身の同一のコピー(自己再生)を作ることができない分化した細胞からなる。従って、本発明の特定の態様において、対象の機能的に分化した細胞は、それ自体で自己再生できないか、または効率的に自己再生できないか、あるいは成体組織幹細胞または前駆細胞からの置換が非常に稀であるかまたは非効率的である細胞である。本発明の機能的に分化した体細胞は、典型的には、例えばヒト、霊長類、ウマ、ウシ、ラクダ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラットまたはマウスなどの哺乳動物起源に由来する。
【0029】
例えば、機能的に分化した体細胞は、表皮細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、ニューロン(運動ニューロン、特定の神経伝達物質産生ニューロン、例えばドーパミン作動性ニューロンを含む)、グリア細胞、網膜細胞、角膜の水晶体細胞、内耳の有毛細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、内分泌膵細胞(膵β細胞を含む)、肝細胞、内皮細胞、造血細胞(赤血球、リンパ球(B、TおよびNKリンパ球を含む)、単球、マクロファージおよび樹状細胞を含む)、筋肉細胞、例えば心筋細胞、骨格筋細胞および他の筋肉細胞、骨芽細胞および破骨細胞からなる群より選択される。これらの例は、制限ではなくむしろ例示的なものである。
【0030】
1つの態様において、機能的に分化した体細胞は造血細胞である。
【0031】
特定の態様において、機能的に分化した体細胞は、単球、マクロファージまたは樹状細胞である。
【0032】
別の特定の態様において、機能的に分化した体細胞はBおよびTリンパ球である。
【0033】
別の特定の態様において、機能的に分化した体細胞は血小板である。
【0034】
さらに別の特定の態様において、機能的に分化した体細胞は赤血球である。
【0035】
別の態様において、機能的に分化した体細胞は、心筋細胞、肝細胞および脂肪細胞からなる群より選択される。
【0036】
発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子を、関連する機能的に分化した体細胞に依存して選択され得ることを注記すべきである。実際に所与の機能的に分化した体細胞は、Pearson et al. 2008に記載のようにKfl遺伝子に関する特異的な発現を示す。
【0037】
典型的には、機能的に分化した体細胞が心筋細胞である場合、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、Klf2、Klf5、Klf6、Klf10、Klf13およびKlf15からなる群より選択され得る。
【0038】
特定の態様において、機能的に分化した体細胞が心筋細胞である場合、Klfファミリー遺伝子は、Haldar et al. 2007に記載のように、Klf5、Klf10、Klf13およびKlf15からなる群より選択され得る。
【0039】
典型的には、体細胞が骨格筋細胞である場合、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、Klf6、Klf13およびKlf15からなる群より選択され得る。
【0040】
典型的には、体細胞が脂肪細胞である場合、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、Klf2、Klf5およびKlf15からなる群より選択され得る。
【0041】
典型的には、体細胞がニューロンである場合、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、Klf6、Klf7およびKlf9からなる群より選択され得る。
【0042】
典型的には、体細胞が骨芽細胞である場合、Klfファミリー遺伝子はKlf10であり得る。
【0043】
典型的には、体細胞が赤血球細胞である場合、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、Klf1、Klf2、Klf6およびKlf11からなる群より選択され得る。
【0044】
典型的には、体細胞がTリンパ球である場合、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、Klf2、Klf4およびKlf13からなる群より選択され得る。
【0045】
典型的には、体細胞が肝細胞である場合、Klfファミリー遺伝子はKlf6であり得る。
【0046】
典型的には、体細胞が内皮細胞である場合、Klfファミリー遺伝子はKlf5であり得る。
【0047】
典型的には、体細胞がケラチノサイトである場合、Klfファミリー遺伝子はKlf4であり得る。
【0048】
KLFメンバーのこの選択は、現在発行されている文献に基づき、そして制限ではなくむしろ例示的なものとして捉えるべきであることをさらに注記すべきである。
【0049】
1つの態様によると、Mycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子をコードする遺伝子材料を、組み込み型または非組み込み型ベクターなどのベクターを使用して、トランスフェクションまたは形質導入によって体細胞に導入することができる。導入後、Mycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子をコードするDNAセグメント(群)を、染色体外に(例えばエピソームプラスミド上に)配置し得るか、または細胞染色体(群)中に安定に組み込み得る。本明細書において使用する「ベクター」という用語は、in vitro、in vivoまたはex vivoにおいて、それが連結された別の核酸を宿主細胞中に輸送することのできる核酸分子を指す。このようなベクターは、被験体への投与時に前記ポリペプチドの発現を引き起こすまたは指令するような、プロモーター、エンハンサー、終結因子などの調節エレメントを含み得る。プロモーター領域は、コード配列に対して同種であっても異種であってもよく、そして、in vivoでの使用を含む、任意の適切な宿主細胞における、遍在的、構成的、調節的および/または組織特異的な発現を与える。プロモーターの例としては、細菌プロモーター(T7、pTAC、Trpプロモーターなど)、ウイルスプロモーター(LTR、TK、CMV−IEなど)、哺乳動物遺伝子プロモーター(アルブミン、PGKなど)などが挙げられる。ベクターは、Mycファミリー遺伝子またはKlfファミリー遺伝子またはその両方をコードする単一のDNAセグメントを含み得る。ベクターはさらに、1つまたは数個の複製起点を含み得る。ベクターは場合により、ベクターを取り込みそして発現する細胞を同定するための選択マーカーをコードし得る。一例として、ベクターが細胞に抗生物質耐性を付与する場合、抗生物質を培養培地に添加することにより、細胞へのベクターの成功裏の導入を同定することができる。本明細書において使用する「ウイルスベクター」という用語は、核酸分子および/またはペプチドまたは他の分子をターゲット細胞に導入するために使用することのできる改変されたウイルス粒子を指す。
【0050】
ウイルスベクターの例としては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えばアデノ随伴ウイルスまたはAAVベクター)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えばオルソミクソウイルス(例えばインフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば麻疹およびセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えばピコルナウイルスおよびアルファウイルス、並びに二本鎖DNAウイルス(アデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えばヘルペス単純ウイルス1型および2型、エプシュタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えばワクシニア、鶏痘およびカナリアポックス)を含む)が挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病肉腫ウイルス、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV−BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが挙げられる。
【0051】
このような組換えウイルスは、パッケージング細胞をトランスフェクションすることによって、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスを用いての一過性トランスフェクションによってなどの、当技術分野において公知の技術によって産生され得る。本明細書において記載したベクターを、当技術分野において認められた技術を使用して構築および工学操作することにより、療法において使用するためのその安全性を高め、そして適切な発現エレメントおよび対象の遺伝子を含ませることができる。本発明において使用するために適した発現ベクターの構築のための標準的な技術は当業者には周知であり、そしてSambrook J, et al, "Molecular cloning: a laboratory manual," (3rd ed. Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. 2001)などのこのような刊行物に見出すことができ、この刊行物はその全体が示されているかのように参照により本明細書に組み入れられる。
【0052】
従って、1つの特定の態様において、Mycファミリー遺伝子および/またはMycファミリー遺伝子をコードするベクターを使用する。
【0053】
1つの特定の態様において、ベクターはウイルスベクターである。
【0054】
1つの特定の態様において、ウイルスベクターはレトロウイルスベクターである。レトロウイルスベクターは、細胞と接触させる前にベクターをビリオン中にパッケージングすることによって形質導入される。
【0055】
この態様によると、ウイルスベクターは、好ましくは、レンチウイルスベクターである。
【0056】
別の態様において、ウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。
【0057】
別の特定の態様において、ベクターは非ウイルスベクターである。
【0058】
別の特定の態様において、非ウイルスベクターはエピソームベクターである。
【0059】
さらに特定の態様において、エピソームベクターはプラスミドである。
【0060】
「非ウイルス」ベクターへの本明細書における言及は、ベクターが感染性ウイルスをコードすることができないことを示す。従って、このような非ウイルスベクターは、感染性のまたは複製能のあるウイルスを生じるに十分なウイルスゲノムの全てまたは一部をコードしないベクターを指すが、このようなベクターは、1つ以上のウイルスから得られた構造エレメントを含み得る。
【0061】
両方の導入遺伝子(すなわちMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子)を単一ベクター(ウイルス性または非ウイルス性)上に提供し得ることをさらに注記すべきである。
【0062】
例えば、1つの強力で構成的な転写プロモーターが、両方の導入遺伝子のための転写制御を行ない得、該導入遺伝子は発現カセットとして提供され得る。ベクター上の別々の発現カセットは、別々の強力で構成的なプロモーターの転写制御下にあってもよく、該プロモーターは同じプロモーターのコピーであっても、または別個のプロモーターであってもよい。当技術分野において種々の異種プロモーターが知られており、そしてこれを、導入遺伝子の所望の発現レベルなどの導入遺伝子に依存して使用し得る。
【0063】
本発明はまた、核酸分子および非ウイルス遺伝子送達ビヒクルを含む、遺伝子送達システムの使用も包含する。非ウイルス遺伝子送達ビヒクルの例としては、リポソームおよびポリマー、例えばポリエチレンイミン、シクロデキストリン、ヒスチジン/リジン(HK)ポリマーなどが挙げられる。
【0064】
本発明の第2の局面は、細胞を、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0065】
1つの態様において、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質またはその変異体を、細胞へのタンパク質の送達について知られている任意の手順を用いて、ターゲット細胞に、ex vivoにおいて、培養液中の細胞上もしくは被験体から取り出した細胞上で、またはin vivoにおいて導入し得る。
【0066】
特定の態様において、本発明による方法は、細胞を、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するためのin vitroにおける方法である。
【0067】
特定の態様において、Mycファミリータンパク質はc−Mycであり、そしてKlfファミリータンパク質はKlf4である。
【0068】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0069】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0070】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf4である。
【0071】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0072】
さらに別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0073】
以前に記載したように、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、関連する機能的に分化した体細胞に依存して選択され得る。
【0074】
タンパク質の送達は、タンパク質が細胞形質膜を透過する過程である。伝統的には、細胞中にタンパク質を導入するための方法としては、マイクロインジェクション、電気穿孔法、およびタンパク質薬物送達のためのナノ粒子が挙げられる。
【0075】
また、細胞中へのタンパク質の送達を媒介する多くのタンパク質透過ドメイン(PTD)が開発されている。これらのPTDまたはシグナルペプチド配列は、15〜30アミノ酸の天然に存在するポリペプチドであり、これは通常、細胞におけるタンパク質の分泌を媒介する。それらは、正に荷電したアミノ末端、中心の疎水性コア、およびシグナルぺプチダーゼによって認識されるカルボキシ末端開裂部位からなる。このような膜透過ペプチドの例としては、Trojanペプチド、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)−1転写アクチベーター(TAT)タンパク質またはその機能的ドメインペプチド、並びに、ショウジョウバエホメオティック転写因子アンテナペディア(Antp)および単純ヘルペスウイルスDNA結合タンパク質、VP22などの転移タンパク質に由来するタンパク質透過ドメイン(PTD)を含む他のペプチドが挙げられる。いくつかの市販されているペプチド、例えばペネトラチン1、Pep−1(Chariot reagent, Active Motif Inc., CA)およびHIV GP41フラグメント(519〜541)をタンパク質の送達のために使用することができる。
【0076】
近年、対象のタンパク質と複合体を形成し、そして細胞中へのタンパク質の送達を促進することのできる脂質リポソームまたは類似物の使用も実証されている。市販されている製品、例えばBioPORTER (Gene Therapy Systems)またはProVectin (Imgenex, San Diego, Calif.)などを使用することができる。
【0077】
前記の方法は本発明の範囲を制限せず、そして当業者は、in vivoまたはin vitroにおいて細胞にタンパク質を送達するための任意の他の公知の適切な方法を容易に使用し得ることが理解されるだろう。
【0078】
あるいは、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質の活性を模倣する生物学的または化学的な化合物を、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するために使用し得る。特定の態様において、このような生物学的または化学的な化合物は、c−MycおよびKlf4のタンパク質活性を模倣する。
【0079】
それ故、本発明はまた、細胞を、Mycファミリータンパク質を模倣する生物学的または化学的な化合物、およびKlfファミリータンパク質を模倣する生物学的または化学的な化合物と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法に関する。
【0080】
特定の態様において、前記方法は、細胞を、Mycファミリータンパク質を模倣する生物学的または化学的な化合物、およびKlfファミリータンパク質を模倣する生物学的または化学的な化合物と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するためのin vitroにおける方法である。
【0081】
従って、ポーロン構造クラスに属する化学的化合物を、Lyssiotis et al. 2010に記載のようにKlf4の代わりに使用し得る。
【0082】
1つの態様において、ポーロン構造クラスに属するこのような化学的化合物は、国際特許出願WO99/65910に記載され、そして以下の式:
【化1】


(式中、
Aは、単結合または二重結合によって右に結合した酸素または硫黄であり;R2は、水素、アリール、低級脂肪族置換基、特にアルキルおよび低級アルキルエステルからなる群より選択され;R4〜R7は、独立して、アルコキシ、アミノ、アシル、脂肪族置換基、特にアルキル、アルケニルおよびアルキニル置換基、脂肪族アルコール、特にアルキルアルコール、脂肪族ニトリル、特にアルキルニトリル、シアノ、ニトロ、カルボキシル、ハロゲン、水素、ヒドロキシル、イミノ、およびα,β不飽和ケトンからなる群より選択され;R8〜R11は、独立して、脂肪族置換基、特にアルキル、アルケニルおよびアルキニル置換基、特に低級脂肪族置換基、脂肪族アルコール、特にアルキルアルコール、アルコキシ、アシル、シアノ、ニトロ、エポキシ、ハロアルキル基、ハロゲン、水素およびヒドロキシルからなる群より選択され;R12は、脂肪族基、特に低級アルキル基、脂肪族アルコール、特にアルキルアルコール、カルボン酸および水素からなる群より選択される)
を有する。
【0083】
特定の態様において、ポーロン構造クラスに属する化学的化合物は、以下の式:
【化2】


を有する、ケンパウロンすなわち9−ブロモ−7,12−ジヒドロ−インドロ[3,2−d][1]ベンザゼピン−6(5H)−オンである。
【0084】
あるいは、フラボンおよびリゼルグアミドなどの他の化学構造の化合物を、Lyssiotis et al. 2010にも記載のように、Klf4の代わりに使用し得る。
【0085】
従って、別の態様において、フラボン構造クラスに属する化学的化合物をKlf4の代わりに使用し得る。
【0086】
特定の態様において、フラボン構造クラスに属する化学的化合物は、以下の式:
【化3】


を有する7−ヒドロキシフラボンである。
【0087】
別の態様において、リゼルグアミド構造クラスに属する化学的化合物をKlf4の代わりに使用し得る。
【0088】
特定の態様において、リゼルグアミド構造クラスに属する化学的化合物は、以下の式:
【化4】


を有するリゼルギン酸エチルアミドである。
【0089】
さらに別の態様において、Wntシグナル伝達経路を活性化する生物学的または化学的化合物をc−Mycの代わりに使用し得る。
【0090】
従って、1つの態様において、Wntシグナル伝達経路を活性化する化学的化合物はWntアゴニストであり得る。
【0091】
特定の態様において、Wntアゴニストは、Marson et al. 2009および国際公開公報WO2009/032194に記載のようなタンパク質Wnt3aである。
【0092】
さらに特定の態様において、Wntアゴニストは、以下の式:
【化5】


(式中、
R1は水素およびC1〜C6アルキルから選択され;R2はC1〜6アルキルおよびX1NR4R5から選択され;X1はC1〜4アルキレンであり;R4およびR5は、独立して、水素およびC1〜4アルキルから選択されるか;または、R4およびR5はそれら両方が結合している窒素と一緒に、そして場合によりO、SおよびN基から選択された別のヘテロ原子と一緒に、1〜2つのヘテロ原子を含む6員環のヘテロ環を形成するか;あるいは、R1およびR2は、それら両方が結合している窒素と一緒に、そして場合によりO、SおよびN基から選択された別のヘテロ原子と一緒に、1〜2つのヘテロ原子を含む6員環のヘテロ環を形成し;R1およびR2またはR4およびR5から形成された前記ヘテロ環は、場合により、C1〜4アルキルで置換されていてもよく;そしてR3は、水素、ハロ、C1〜4アルキル、ハロ置換C1〜4アルキル、C1〜4アルコキシ、およびハロ置換C1〜4アルコキシから選択される)
を有する、Wang et al. 2009および国際特許出願WO2010/056907に記載のような5−チオフェンピリミジンクラスに属する化学的化合物である。
【0093】
特定の態様において、5−チオフェンピリミジンクラスに属する化学的化合物は、以下の式:
【化6】


を有する、2−クロロ−N−(2−モルホリノエチル)−4−(4−(チオフェン−2−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)ベンズアミドである。
【0094】
別の特定の態様において、Wntアゴニストは、Wang et al. 2009に記載のようなアミノピリジンクラスに属する化学的化合物である。
【0095】
さらに別の特定の態様において、Wntアゴニストは、Wang et al. 2009に記載のようなインディルビン構造クラスに属する化学的化合物である。
【0096】
従って、インディルビンクラスに属するこのような化学的化合物は、国際特許出願WO2005/041954に記載されている。このような化合物は、インディルビン分子のC6位がハロゲンで置換されたインディルビン分子を含む。
【0097】
特定の態様において、インディルビン構造クラスに属する前記化合物は、以下の式:
【化7】


を有する6−ブロモインディルビン−3’−オキシム(「BIO」)である。
【0098】
使用し得る他の置換インディルビンは、国際特許出願WO2007/099402に記載のような3’−,7−置換インディルビン、または国際特許出願WO2010/013168に記載のような3’−,6−置換インディルビンである。
【0099】
別の態様において、Wntシグナル伝達経路を活性化する化学的化合物は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤であり得る。
【0100】
GSK3阻害への言及は、1つ以上のGSK3酵素の阻害を指す。GSK3酵素のファミリーは当技術分野において周知である。特定の態様において、GSK3−βが阻害される。GSK3α阻害剤も適切であり、そして一般的に本発明において使用するための阻害剤は両方を阻害する。多種多様なGSK3阻害剤が知られており、例えば、阻害剤CHIR98014、AR−AO144−18、TDZD−8、SB216763およびSB415286がある。他の阻害剤も公知であり、そして本発明において有用である。さらに、GSK3−βの活性部位の構造が特徴付けられ、そして特異的および非特異的阻害剤と相互作用する重要な残基が同定された(Bertrand et al. 2003)。この構造特徴から、さらなるGSK阻害剤を容易に同定することができる。
【0101】
特定の態様において、GSK3阻害剤は、以下の式:
【化8】


を有する6−(2−(4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)エチルアミノ)ニコチノニトリル(CHIR99021)である。
【0102】
別の特定の態様において、GSK3阻害剤は、Zhang et al. 2007に記載のような2,6,9−三置換プリンである。
【0103】
特定の態様において、2,6,9−三置換プリンは、以下の式:
【化9】


を有する(S)−2−(9−(ビフェニル−4−イルメチル)−2−(2,3−ジヒドロ−1H−インデン−5−イルオキシ)−9H−プリン−6−イルアミノ)−3−フェニルプロパン−1−オール(QS11)である。
【0104】
別の特定の態様において、GSK3阻害剤は、Zhong et al. 2009に記載のようなベンゾ[e]イソインドール−1,3−ジオンである。
【0105】
特定の態様において、ベンゾ[e]イソインドール−1,3−ジオンは、以下の式:
【化10】


を有する5−エチル−7,8−ジメトキシ−1H−ピロロ[3,4−c]−イソキノリン−1,3−(2H)−ジオン(3F8)である。
【0106】
あるいは、Mycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する生物学的または化学的化合物を、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するために使用し得る。特定の態様において、このような生物学的または化学的化合物は、c−MycおよびKlf4遺伝子の発現を誘導する。
【0107】
従って、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)のアクチベーターを使用して、Hall et al. 2009に記載のようにKlf4の発現を増強し得る。STAT3のアクチベーターの一例はサイトカイン白血病抑制因子(LIF)である。
【0108】
本発明の別の局面は、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するためのMycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)の使用に関する。
【0109】
特定の態様において、Mycファミリーメンバーはc−Mycであり、そしてKlfファミリーメンバーはKlf4である。
【0110】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0111】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0112】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf4である。
【0113】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0114】
さらに別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0115】
以前に記載したように、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、関連する機能的に分化した体細胞に依存して選択され得る。
【0116】
本発明の別の局面は、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法において使用するための、Mycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)の組合せに関する。
【0117】
特定の態様において、Mycファミリーメンバーはc−Mycであり、そしてKlfファミリーメンバーはKlf4である。
【0118】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0119】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0120】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf4である。
【0121】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0122】
さらに別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0123】
以前に記載したように、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、関連する機能的に分化した体細胞に依存して選択され得る。
【0124】
本発明の別の局面は、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法において使用するための、Mycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)を含むキットに関する。
【0125】
特定の態様において、Mycファミリーメンバーはc−Mycであり、そしてKlfファミリーメンバーはKlf4である。
【0126】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0127】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0128】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf4である。
【0129】
別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf2である。
【0130】
さらに別の特定の態様において、Mycファミリー遺伝子はN−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子はKlf5である。
【0131】
以前に記載したように、発現を活性化するためのKlfファミリー遺伝子は、関連する機能的に分化した体細胞に依存して選択され得る。
【0132】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法に従って得ることのできる機能的に分化した体細胞の個体群に関する。
【0133】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法に従って得られた機能的に分化した体細胞の個体群に関する。
【0134】
本発明の方法に従って得られた機能的に分化した体細胞を、in vitroにおいて容易にかつ効果的に生成することができる。in vitroで大量の機能的に分化した体細胞を得る能力は、治療分野のための新たな機会を開拓する。以前に記載したように、c−MycおよびKlf4は両方共に発癌遺伝子であるという事実にも関わらず、前記のin vitroの機能的に分化した体細胞は、移植から6ヶ月後まで分析したところマウスにおいて腫瘍原性ではないことをさらに注記すべきである。
【0135】
さらに、本発明の機能的に分化した体細胞を、前記細胞が、対象のタンパク質をコードする対象の治療核酸を発現するように、さらに遺伝子工学操作し得る。対象の適切な遺伝子としては成長因子が挙げられる。
【0136】
例えば、本発明の細胞を遺伝子工学操作して、被験体への遺伝子工学操作された細胞の移植時に有益な遺伝子産物を産生し得る。このような遺伝子産物としては、抗炎症因子、例えば抗TNF、抗IL−1、抗IL−6、抗IL−2などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0137】
遺伝子病を有する患者からのさらに増幅された機能的に分化した体細胞を、薬学的スクリーニングのために使用して、疾病症状を処置または寛解するのに有用な薬物を同定し得る。
【0138】
また、本発明の機能的に分化した体細胞をさらに遺伝子工学操作して、これにより前記細胞は再移植前に遺伝子的欠陥を修正し得る。
【0139】
あるいは、マクロファージなどの本発明の機能的に分化した体細胞を、他の機能的に分化した体細胞へと融合させて、ターゲット細胞における遺伝子的欠陥を修正または治療化合物を送達し得る。
【0140】
実際に、マクロファージは心筋細胞または肝細胞と融合することが示され、そしてCamargo et al., 2003; Camargo et al., 2004およびWillenbring et al., 2004に記載のようにこれらの細胞における遺伝子的欠陥を修正し得る。例えば、それ故、マクロファージなどの本発明の細胞をまた工学操作して、遺伝子疾患において突然変異している複数のまたは1コピーの正常なまたは過活性の遺伝子の変異体を発現させ得る。例としては、肝臓における酵素欠乏症またはデュシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるジストロフィンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0141】
それ故、本発明はまた、移植後にin vivoにおいてターゲット細胞と融合させるための、増幅された機能的に分化した体細胞、特にマクロファージの使用に関する。
【0142】
特定の態様において、本発明による融合細胞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患しそして野生型(WT)ジストロフィンを発現するように遺伝子的に改変された患者から得られたマクロファージと、移植後の同じ患者に由来する骨格筋細胞との融合から生じた細胞である。
【0143】
従って、本発明は、薬学的に許容される担体または賦形剤と組み合わせた、前記に定義したような機能的に分化した体細胞を含む薬学的組成物を提供する。特定の態様において、本発明の方法は、機能的に分化した体細胞の実質的に均一な個体群を提供する。本明細書において使用する「実質的に均一な個体群」という用語は、細胞の全数の大半(例えば少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%)が、対象の完全に分化した体細胞の特異的な特徴を有する、細胞の個体群を指す。本明細書において使用する「薬学的に許容される担体または賦形剤」という用語は、本発明の機能的に分化した体細胞の生物活性の効力に干渉せず、そして投与される濃度において宿主に対して過度に毒性ではない、担体媒体を指す。適切な薬学的に許容される担体または賦形剤の例としては、水、塩溶液(例えばリンガー液)、アルコール、油、ゼラチン、炭水化物(例えばラクトース、アミラーゼまたはデンプン)、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルプロリンが挙げられるがそれらに限定されない。薬学的組成物は、液体、半液体(例えばゲル)または固体(例えばマトリックス、格子、足場など)として製剤化され得る。所望であれば、薬学的組成物を滅菌し得る。
【0144】
特定の態様において、薬学的組成物はさらに、少なくとも1つの生物学的に活性な物質または生物活性因子を含み得る。本明細書において使用する「生物学的に活性な物質または生物活性因子」という用語は、本発明の薬学的組成物中におけるその存在が、前記組成物を受ける被験体にとって有益である任意の分子または化合物を指す。当業者によって認められているように、本発明の実施に使用するのに適した生物学的に活性な物質または生物活性因子は、多種多様なファミリーの生物活性分子および化合物に見出され得る。例えば、本発明の脈絡において有用な生物学的に活性な物質または生物活性因子は、抗炎症剤、抗アポトーシス剤、免疫抑制剤または免疫調節剤、抗酸化剤、成長因子、および薬物から選択され得る。
【0145】
さらに、本発明の機能的に分化した体細胞の個体群は、他の用途も有し得る。これらの用途としては、損傷または病態をモデリングするためのおよび化合物をスクリーニングするための使用が挙げられるがそれらに限定されない。例えば、前記の機能的に分化した体細胞の個体群はまた、多種多様なin vitroおよびin vivo試験のために使用され得る。特に制限するものではないが、それらは、薬学的候補化合物などの化合物の毒性の評価においても用途を見出す。
【0146】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。しかしながら、これらの実施例を、いずれにしても本発明の範囲を制限するものとは解釈すべきではない。
【0147】
実施例1:MAF−DKOマクロファージおよびWTマクロファージの自己再生
以下に報告した結果は科学文献(Aziz et al. 2009)に提示され、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0148】
材料および方法:
マウス:MafBおよびc−Mafの欠損は誕生時または誕生後すぐに致命的であるので、本発明者らは、Aziz et al. 2006に記載のように年齢および性別の一致するLy5.1レシピエントを、wtまたはMaf−DKO E14.5Ly5.2胎児肝細胞を用いて再構成することによって、Maf−DKO造血系を有するマウスを作製した。
【0149】
細胞および培地:Maf−DKOマクロファージを、10〜50ng/mlのrM−CSF(Preprotec)の補充されたDMEM/10%FCS(Invitrogen)または20%M−CSF含有L−929細胞馴化IMDM/0.5%FCS培地(LCM)中において2日毎に一部の培地を交換しながら4日毎に継代させた。コロニーアッセイを、100ng/mlのrM−CSF、IL−3またはGM−CSF(Preprotec)の補充されたMethocult−3234(Stem Cell Technologies)または完全なサイトカイン混液を含むMethocult−3434を使用して実施した。白血球を、ヘパリン処理したミクロキャピラリーでの血液回収および赤血球溶解(BD)後にLympholyte Mammalian(登録商標)(TeBU-Biotech)を使用して密度勾配遠心分離によって濃縮した。クッパー細胞を、肝細胞懸濁液からF4/80autoMACS(登録商標)によって濃縮した。FACS抗体染色を、Aziz et al. 2006に記載のようにPBS/0.2%BSA/2mM EDTA中で行なった。Maf−DKOマクロファージ(10個の細胞/ml)を2.5μMのCFSEで標識し、その後、致死量以下で照射した(450Gy)Ly5.1レシピエントに注射した。
【0150】
アッセイ:細胞周期分析を、37℃で5μM BrdUを用いての細胞培養液または全血の1時間かけての標識後にBrdU−フローサイトメトリー(登録商標)(BD)によって実施した。食作用およびNOアッセイをAziz et al. 2006に記載のように、またはGFPを発現するサルモネラNPCC1202323を用いて実施した。核型分析を、KaryoMAX(登録商標)Colcemid(登録商標)溶液(Invitrogen)およびDAPIによる中期染色体伸展標本の染色により実施した。RNAを単離し、そして定量RT−PCRアッセイをAziz et al. 2006に記載のように実施した。パラホルムアルデヒドで固定した凍結組織を、抗F4/80(Serotec;MCA497A647)または抗Moma−1(BMA;T−2021)/ストレプトアビジン−Alexa546(Invitrogen;S11225)抗体を用いて染色し、そしてZeiss LSM510共焦点顕微鏡で分析した。イムノブロットを、Aziz et al. 2006に記載のように、抗c−Myc(N−262;SantaCruz-764)、抗Klf4(H−180;SantaCruz-20691)および抗βチューブリン−I(Sigma;T-7816)抗体を使用して実施した。FACS抗体染色を、記載のように(Aziz et al., 2006)PBS/0.2%BSA/2mM EDTA中で実施した。細胞を、FACSCalibur、FACSCantoまたはLSRIIで分析し、そしてDIVA(登録商標)(Becton-Dickinson)またはFlowJo(登録商標)ソフトウェアを使用してFACSAriaで選別した。
【0151】
shRNAウイルス:shRNA配列を、「RNAi−Codex」ソフトウェア(http://codex.cshl.edu/scripts/newmain.pl)を使用して決定し、そしてLMP−GFPウイルス(Paddison et al., 2004に記載のようなOpen Biosystems)にクローニングした。Maf−DKOマクロファージまたはNIH3T3を、PhoenixE細胞(www.stanford.edu/group/nolan)によって産生したウイルスを用いて感染させた。全てのエラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を示す。
【0152】
結果:
分化した細胞を、4つの転写因子であるOct−4、Sox−2、KLF4およびc−Mycによって幹細胞へと再プログラム化し、その後者の2つは、ES細胞自己再生におけるその役割に基づいて、増強された増殖能を付与すると提唱されている。KLF4およびc−Mycはまた、それぞれ単球の分化および増殖を媒介し得るので、本発明者らは、Maf−DKOマクロファージの実証された増強された増殖能におけるその役割を調査した(文書WO2008/084069参照)。本発明者らは、wt対照と比べて、Maf−DKOマクロファージは、KLF4およびc−Mycの両方の発現の強力なアップレギュレーションを示したが、多能性因子のSox2、Oct3/4またはnanogのアップレギュレーションは示さなかったことを観察した。KLF4およびc−Mycは、M−CSF枯渇細胞においてM−CSFによる刺激の2時間以内に高度に発現するようになり、そして、72時間の観察期間におよび有意により高い発現レベルを維持した。
【0153】
c−MycおよびKLF4は両方共に、Rowland et al. 2006およびAdhikary et al. 2005に記載のように特定の状況において発癌遺伝子として作用し得る。c−MycおよびKLF−4を過剰発現するMaf−DKO単球の増強された増殖能が、腫瘍原性形質転換に関連するかどうかを決定するために、本発明者らは、in vivoにおいてMafB/cMaf欠損の長期作用を分析した。興味深いことに、Maf−DKO造血系を有する骨髄キメラは、再構成後の1年間におよび白血病または骨髄増殖疾病の兆候を全く示さなかった。さらに、Maf−DKOマクロファージは、長期のex vivoにおける増殖を通して、正常な数の染色体を保持し、そして注射経路に関係なく、そしてin vivoにおける細胞の分裂能に関わらず、同系または免疫無防備状態のヌードマウスへの移植時に腫瘍を生じなかった。比較によって、同じ条件下で、マウスマクロファージ細胞株J774.1は、数日間以内に大量の腫瘍を誘導し、そして4週間後までに100%の死亡率を引き起こした。腫瘍を形成するのではなくむしろ、移植されたMaf−DKOマクロファージは、複数の組織においてマクロファージの正常な位置へのホーミングを示した。Maf−DKO細胞は、このように、骨髄、腹膜、脾臓の赤色髄および辺縁帯のマクロファージに、そして肝臓のクッパー細胞へと寄与した。共に、これらの結果は、増殖されたMaf−DKO単球は形質転換されないが、in vivoにおける恒常性の制御にかけられ、そして正常な組織構造に組み込まれるマクロファージを生じ得ることを示す。
【0154】
これらの変化の機能的結果を決定するために、本発明者らは、RNAおよびタンパク質レベルで内因性およびトランスフェクションされたターゲット遺伝子の両方の発現を特異的に減少させ得る、KLF4またはc−Mycに対して指向されるshRNAレトロウイルスベクターを作製した。全くコードしないかまたは対照shRNA配列をコードするGFP発現レトロウイルスを用いて感染させたMaf−DKOマクロファージは、methocultアッセイにおいて、非感染細胞と同じサイズおよび形態のGFPコロニーを生じた。これに対して、KLF4またはc−Myc shRNAのいずれかを発現するGFP−レトロウイルスを用いて感染させた細胞は、連続的な再播種を通して増殖することのできない、20個未満の細胞のほんの小さなGFP細胞クラスターを生じた。同じ播種からの感染していないGFPコロニーの内部対照は、全ての条件下において同一の形態、発生頻度および再播種挙動を示した。さらに、本発明者らは、c−MycおよびKLF4のレトロウイルス性の過剰発現が、wtマクロファージにおける増強された自己再生能を誘導するのに十分であったが、腫瘍原性形質転換を誘導しなかったことを観察した。c−Mycのみの感染マクロファージクローンは、移植されたヌードマウスにおいて多くの腫瘍を誘導し、レシピエントの急速な死亡を引き起こしたが、c−Myc/KLF4の感染マクロファージクローンは、MafB/c−Maf欠損マクロファージクローンと同じようにそうではなかった。合わせると、これらの結果は、KLF−4およびc−Mycの両方の増加した発現が、マクロファージの増強された増殖能を可能とするのに必要とされかつ十分であることを示した。従って、本発明者らの結果は、完全に分化した細胞の長期増殖が、機能の消失または腫瘍原性形質転換を伴うことなく可能であることを示す。興味深いことに、これは、体細胞を多能性幹細胞(iPS)へと再プログラム化し得る一群の転写因子に属する、c−MycおよびKLF4を必要とする。多能性には必要とされないが、c−MycおよびKLF4は、増強された増殖を媒介すると提唱され、そしてES細胞の自己再生に重要である。Maf−DKOマクロファージの非腫瘍原性は、個々にc−MycおよびKLF4の両方がRowland et al. 2006およびAdhikary et al. 2005に記載のように発癌遺伝子として作用し得ることを考えると興味深い。特に、c−Mycは、マクロファージを悪性形質転換し得、そしてiPS由来マウスにおいて腫瘍を誘導し得る。しかしながら、KLF4の同時発現は、c−Mycのみを発現するマクロファージとは対照的にc−MycおよびKLF−4の両方を発現するマクロファージが腫瘍原性でないことが観察されているように、c−Mycの腫瘍原性能を阻害するようである。しかしながら、従って、Maf−DKO細胞におけるc−MycおよびKLF4の制御されそして共同のアップレギュレーションは、細胞周期制御における因子の部分的なアンタゴニスト活性の微調整された釣合いを確実にすることによって悪性病変を抑制し得る。共に本発明者らの結果は、完全に分化した細胞の増強された増幅は、多能性(pluri-potent)または多能性(multi-potent)幹細胞中間体を通過することなく、c−MycおよびKLF4の調節された活性化に依存する機序によって達成することができることを示す。これらの所見は、組織再生における細胞療法のための新たな展望を開拓し得る。
【0155】
実施例2:WT Bリンパ球の自己再生
材料および方法:
細胞および培地:正常な野生型C57/Bl6マウスからの骨髄を、IMDM、4%FBS、50ng/ml SCF、50ng/ml Flt3、10ng/ml IL6、10ng/ml IL7および140μのβ−メルカプトエタノール中で2日間かけて刺激し、そして、トランスフェクションしたpNXeパッケージング細胞株からの上清との共培養によって、空、c−Mycのみ、KLF4のみ、またはc−MycおよびKLF4の両方を発現するレトロウイルスを用いて感染させ、その後、IL−7を含むMethocult−3630(Stem Cell Technologies)中に125,000個の細胞/mlで播種した。分化から8日後に、半固体培地からの細胞を洗浄し、そしてIL−7を含むMethocult−3630中に100,000個の細胞/mlで再播種し、そして種々の細胞濃度で連続的に再播種して、出現するコロニーの計測を容易にした。いずれの場合にも、計測および再播種は、インキュベーションから8日後に実施した。
【0156】
アッセイ:4回目の再播種後、半固体培地からの全細胞を、PBS中で繰り返し洗浄することによって洗浄した。FACS抗体染色を、記載(Aziz et al., 2006)のようにPBS/0.2%BSA/2mM EDTA中で実施した。細胞を、FACSCalibur、FACSCantoまたはLSRIIで分析し、そしてDIVA(登録商標)(Becton-Dickinson)またはFlowJo(登録商標)ソフトウェアを使用してFACSAriaで選別した。
【0157】
結果:
KLF−4およびc−Mycが、他の細胞型における自己再生も誘導し得るかどうかを調べるために、本発明者らは、wt B細胞においてKLF−4およびc−Mycをレトロウイルスにより発現させた。本発明者らは実際に、c−MycおよびKLF4が、少なくとも4回におよぶB細胞の連続的な再播種能を可能としたが、対照ウイルスで感染させた細胞は再播種できなかったことを観察できた。マクロファージと同じように、c−Mycのみの感染B細胞もまた最初はコロニーを生じたが、おそらくc−Mycにより誘導されるアポトーシスに因り、3回の後には再播種することができず、このことは再度、c−MycおよびKLF4の組合せ作用が、自己再生を可能とするのに必要とされることを示す。
【0158】
実施例3:赤血球細胞の自己再生
材料および方法:
ROSA26−rtTAヘテロ接合性骨髄からのMACSで枯渇させた系統陰性細胞を、IMDM、4%FBS、50ng/ml SCF、50ng/ml Flt3、10ng/ml IL11、10ng/ml IL7および140μのβ−メルカプトエタノール中で24時間維持した。その後、細胞を、丸底96ウェルプレート中で50,000個の細胞の密度で接種した。それらを4μg/mlのポリブレンの存在下において24時間、MOI40で、Klf4またはc−Mycのいずれかを発現するドキシサイクリン誘導性ベクターを有する濃縮されたレンチウイルスを用いて感染させた。コロニーアッセイを、Methocult M3231(Stem cell technology)で2回、1μg/mlのドキシサイクリンおよび50ng/mlのrEPO(Sigma)の存在下において実施して、赤芽球を検出した。
【0159】
結果:
KLF−4およびc−Mycがまた他の細胞型においても自己再生を誘導し得るかどうかを調べるために、本発明者らはまた、ROSA26遺伝子座にrTA−ノックインしたヘテロ接合性骨髄からの造血細胞を、誘導性Klf4およびc−Myc含有、Klf4またはc−Mycのいずれかを発現するドキシサイクリン誘導性ベクター、または対照ベクターを用いて感染させた。先行するデータもまた、c−MycおよびKLF4の組合せ発現がまた、赤血球細胞の増加した増殖を誘導し得ることを示す。
【0160】
参考文献:
本出願全体を通じて、種々の参考文献は、本発明が属する技術分野の最新技術を記載する。これらの参考文献の開示は、本開示への参照により本明細書に組み入れられる。
【0161】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるMycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法。
【請求項2】
Mycファミリー遺伝子および/またはMycファミリー遺伝子をコードするベクターを使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ベクターがウイルスベクターである、請求項5記載の方法。
【請求項4】
ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、請求項6記載の方法。
【請求項5】
レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項7記載の方法。
【請求項6】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞を、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質と接触させる工程を含む、機能的に分化した体細胞の増強された自己再生のための方法。
【請求項8】
Mycファミリー遺伝子またはタンパク質がc−Mycである、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
Klfファミリー遺伝子またはタンパク質がKlf4である、請求項1〜7のいずれか
1項記載の方法。
【請求項10】
Mycファミリー遺伝子またはタンパク質がc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子またはタンパク質がKlf4である、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
機能的に分化した体細胞が、表皮細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、ニューロン、グリア細胞、軟骨細胞、膵内分泌細胞、肝細胞、内皮細胞、造血細胞(赤血球、リンパ球、単球、マクロファージおよび樹状細胞を含む)、心筋細胞および他の筋肉細胞、骨芽細胞および破骨細胞からなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
細胞を、Mycファミリータンパク質およびKlfファミリータンパク質の活性を模倣する生物学的または化学的な化合物と接触させる工程を含む、請求項1または請求項7記載の方法。
【請求項13】
前記の生物学的または化学的な化合物が、c−MycおよびKlf4タンパク質の活性を模倣する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
Klf4タンパク質活性を模倣する前記の化学的な化合物が、ポーロン構造クラスに属する化学的な化合物である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
c−Mycタンパク質活性を模倣する前記の生物学的または化学的な化合物が、Wntシグナル伝達経路を活性化する化合物である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
Wntシグナル伝達経路を活性化する前記の化学的な化合物が、5−チオフェンピリミジンクラスに属する化学的な化合物である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
Mycファミリー遺伝子およびKlfファミリー遺伝子の発現を活性化する生物学的または化学的な化合物を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記の生物学的または化学的な化合物が、c−MycおよびKlf4の発現を活性化する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
c−MycおよびKlf4の発現を活性化する前記の生物学的または化学的な化合物が、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)のアクチベーターである、請求項17記載の方法。
【請求項20】
機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法において使用するための、Mycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)の組合せ。
【請求項21】
機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するための方法において使用するための、Mycファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)およびKlfファミリーメンバー(遺伝子またはタンパク質)を含むキット。
【請求項22】
機能的に分化した体細胞の増強された自己再生を誘導するためのMycファミリー遺伝子またはタンパク質およびKlfファミリー遺伝子またはタンパク質の使用。
【請求項23】
Mycファミリー遺伝子またはタンパク質がc−Mycであり、そしてKlfファミリー遺伝子またはタンパク質がKlf4である、請求項22記載の使用。
【請求項24】
請求項1〜19のいずれか1項記載の方法によって得ることのできる機能的に分化した体細胞の個体群。
【請求項25】
請求項24記載の機能的に分化した体細胞の個体群および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、薬学的組成物。

【公表番号】特表2012−532592(P2012−532592A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519002(P2012−519002)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059843
【国際公開番号】WO2011/003988
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(511237047)ユニヴェルシテ・ドゥ・ラ・メディテラネ−エクス−マルセイユ・ドゥ (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE−AIX−MARSEILLE II
【Fターム(参考)】