機能的インフルエンザウイルス様粒子(VLP)
【課題】高分子タンパク質構造物を提供すること。
【解決手段】本発明により、トリインフルエンザウイルスA型H9N2のHAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404626)、NAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404629)、M1タンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ278646タンパク質)、M2タンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255363)およびNPタンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255742)を含む高分子タンパク質構造物、ならびにヒトインフルエンザウイルスA型H3N2のHA配列コード(GenBank登録番号AJ311466)およびNA配列コード(GenBank登録番号AJ291403)を含む高分子タンパク質構造物が提供される。
【解決手段】本発明により、トリインフルエンザウイルスA型H9N2のHAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404626)、NAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404629)、M1タンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ278646タンパク質)、M2タンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255363)およびNPタンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255742)を含む高分子タンパク質構造物、ならびにヒトインフルエンザウイルスA型H3N2のHA配列コード(GenBank登録番号AJ311466)およびNA配列コード(GenBank登録番号AJ291403)を含む高分子タンパク質構造物が提供される。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科の1属である(総説について、MurphyおよびWebster、1996を参照のこと)。A、BおよびCと命名された3種のサブタイプのインフルエンザウイルスが存在する。そのインフルエンザビリオンは、分節されたマイナスセンスRNAゲノムを含有する。インフルエンザビリオンは、以下のタンパク質:ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA),マトリックス(M1),プロトンイオンチャネルタンパク質(M2),核タンパク質(NP)、ポリメラーゼ塩基性タンパク質1(PB1)、ポリメラーゼ塩基性タンパク質2(PB2)、ポリメラーゼ酸性タンパク質(PA)、および非構造タンパク質2(NS2)を含む。上記HA、NA、M1およびM2は、膜結合型タンパク質であり、一方NP、PB1、PB2、PAおよびNS2は、ヌクレオキャプシド関連タンパク質である。上記NS1は、ビリオン粒子と関連しないが、インフルエンザ感染細胞に特異的である、唯一の非構造タンパク質である。上記M1タンパク質は、インフルエンザ粒子に最も豊富に存在するタンパク質である。上記HAタンパク質およびNAタンパク質は、エンベロープ糖タンパク質であり、そのウイルス粒子が細胞へ付着し、そして侵入する役割を果たし、ウイルス中和および防御免疫のための主要抗原エピトープの供給源である。HAタンパク質およびNAタンパク質の両方は、予防的インフルエンザワクチンにとって最も重要な成分であると考えられる。
【0002】
インフルエンザウイルス感染は、ビリオン表面のHAタンパク質が、シアル酸含有細胞性レセプター(糖タンパク質および糖脂質)に付着することにより開始される。上記NAタンパク質は、シアル酸レセプターのプロセシングを媒介し、細胞の中へのウイルスの侵入は、HA依存性レセプター媒介エンドサイトーシスに依存する。インフルエンザビリオンを含有する内部に吸収したエンドソームの酸性制限下において、上記HA2タンパク質は、立体配座の変化を受け、これによりウイルスと細胞膜との融合およびウイルス脱コート化、およびヌクレオキャプシド関連リボヌクレオタンパク質(RNP)からのM1タンパク質のM2介在性放出がもたらされる。このM1タンパク質は、ウイルスRNA合成のために細胞核に移動する。HAタンパク質に対する抗体は、ウイルス感染性を中和することにより、ウイルス感染を予防し、一方NAタンパク質に対する抗体は、ウイルス複製の早期段階に対する効果を媒介する。
【0003】
不活性化インフルエンザAウイルスワクチンおよび不活性化インフルエンザBウイルスワクチンは、現在非経口投与について許諾されている。これらの3価のワクチンは、胚含有鶏卵の尿膜腔において産生され、沈降速度ゾーン遠心分離法(rate zonal centrifugation)またはカラムクロマトグラフィーにより精製され、そしてホルマリンまたはβ−プロピオラクトンにより不活性化され、問題の年にヒト集団の間に広まるインフルエンザウイルスA型およびインフルエンザウイルスB型の2株のブレンドとして処方される。市販されるインフルエンザワクチンは、全ウイルス(WV)またはサブビリオン(SV;分割または精製された表面抗原)ウイルスワクチンである。上記WVワクチンは、インタクトな不活性化ビリオンを含有する。トリ−n−ブチルリン酸(Flu−Shield、Wyeth−Lederle)のような溶媒で処理されたSVワクチンは、ほとんど全ての上記ウイルス構造タンパク質およびいくらかの上記ウイルスエンベロープを含有する。Triton X−100(Fluzone、Connaught;Fluvirin、Evans)で溶解されたSVワクチンは、HAモノマー、NAおよびNPの凝集体を主に含有するが、残量の他のウイルス構造タンパク質が存在する。潜在的な低温適合弱毒化生インフルエンザウイルスワクチン(FluMist、MedImmune)が、5〜17歳の健常な青少年および18〜49歳の健常な成人における能動免疫およびインフルエンザA型ウイルスおよびインフルエンザB型ウイルスによる疾患の予防のために指示される鼻内送達ワクチンとして商業使用に市販されることが、FDAにより最近承認された。
【0004】
いくつかの組換え産物が、組換えインフルエンザワクチン候補として開発されてきた。これらのアプローチは、バキュロウイルス感染昆虫細胞(Crawfordら、1999;Johansson、1999;Treanorら、1996)、ウイルスベクター(Pushkoら、1997;Berglundら、1999)およびDNAワクチン構築物(Olsenら、1997)のを使用するこれらのタンパク質発現を含む、インフルエンザA型 HAタンパク質およびNAタンパク質の発現、産生および精製に焦点が当てられていた。
【0005】
Crawfordら(1999)は、バキュロウイルス感染昆虫細胞において発現したインフルエンザHAは、トリインフルエンザサブタイプH5およびトリインフルエンザサブタイプH7に起因する致死的なインフルエンザ疾患を予防する能力があることを例証した。同時に、別のグループは、バキュロウイルスにより発現されたインフルエンザHAタンパク質およびインフルエンザNAタンパク質は、動物において従来のワクチンで誘導される免疫応答より優れた免疫応答を誘導することを例証した(Johanssonら、1999)。ウマインフルエンザウイルスのバキュロウイルス発現ヘマグルチニンの免疫原性および有効性が、相同的なDNAワクチン候補(Olsenら、1997)と比較された。合わせて考えると、そのデータは、インフルエンザウイルスチャレンジに対する高度な防御が、種々の実験手法および異なる動物モデルを使用して、組換えHAタンパク質または組換えNAタンパク質により誘導され得ることを例証した。
【0006】
Lakeyら(1996)は、バキュロウイルス誘導インフルエンザHAワクチンは、第I相用量拡大安全性試験研究においてヒトボランティアにおいてよく寛容され、そして免疫原性もあったことを示した。しかしながらHAタンパク質および/またはNAタンパク質を含む数回のインフルエンザワクチンをワクチン投与されたヒトボランティアにおけるいくつかの臨床部位で行われた第2相試験の結果は、上記の組換えサブユニットタンパク質ワクチンは、防御免疫を誘発しなかったことを示した[G.Smith、Protein Sciences;M.Perdue、USDA、Personal Communications]。これらの結果は、感染性ビリオンのHAペプロマーおよびNAペプロマーの表面に提示された立体配座エピトープが、抗体中和および防御免疫の誘発に重要であることを示した。
【0007】
組換えインフルエンザワクチン候補中に他のインフルエンザタンパク質を含めることに関して、多くの研究がなされ、それにはインフルエンザ核タンパク質(NP)を単独でか、またはM1タンパク質と組合せて含む実験(Ulmerら,1993;Ulmerら,1998;Zhouら,1995;Tsuiら、1998)が挙げられる。これらのワクチン候補は、準不変の内部ビリオンタンパク質から鋼製、主に細胞性(CD4+記憶T細胞およびCD8+記憶T細胞)の広いスペクトル範囲の免疫原性を誘発した。これらの実験は、DNAまたはウイルス遺伝子ベクターの使用を含んだ。比較的大量の注入されたDNAが必要であった。それは低用量のDNAを使用した実験からの結果がほとんどまたはまったく防御を示さなかった(Chenら、1998)からである。ここで、さらに前臨床研究および臨床研究が、インフルエンザNPおよびM1を含むそのようなDNAベースのアプローチが、安全であるか、有効であるかそして持続的であるかについて評価するために必要とされ得る。
【0008】
最近、インフルエンザについてのより有効なワクチンを開発する試みにおいて、粒子タンパク質がインフルエンザM2タンパク質エピトープのキャリアとして使用された。M2ベースのワクチンの開発の論理的根拠は、動物研究において、インフルエンザに対する防御免疫がM2タンパク質により誘発された(Slepushkinら、1995)、ことである。Neirynckら(1999)は、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)とのアミノ末端融合相手として23アミノ酸長のM2膜貫通ドメインを使用して、HBcAgキャプシド様粒子の表面に、M2エピトープを露出させた。しかしながら、完全長M2タンパク質およびM2−HBcAg VLPの両方が、マウスにおいて検出可能な抗体および防御を誘導したという事実にもかかわらず、将来のインフルエンザワクチンは、上記M2タンパク質のみが、ベースとなることはなさそうであった。というのは、上記M2タンパク質が、1つのビリオン当たり低いコピー数で存在し、弱い抗原性であり、遊離するインフルエンザビリオンに結合する抗体を誘発できなかったし、細胞レセプターにウイルスが付着することを遮断(ウイルス中和)できなかったからである。
【0009】
以前の研究が、表面インフルエンザ糖タンパク質であるHAおよびNAが、インフルエンザウイルスに対して防御免疫を誘発する主要な標的であり、そしてM1がインフルエンザに対する細胞性免疫の保存的標的を提供することを示したので、新しいワクチン候補は、これらのウイルス抗原を、ウイルス様粒子(VLP)のようなタンパク質高分子粒子として含み得る。さらにこれらのインフルエンザ抗原を有する粒子は、多系統のインフルエンザウイルスに対して中和抗体を誘発する立体配座エピトープを提示し得る。
【0010】
いくつかの研究は、組換えインフルエンザタンパク質が、哺乳動物の発現プラスミドまたはバキュロウイルスベクターを使用して細胞培養においてVLPへ自己会合し得ることを例証した(Gomez−Puertasら、1999;Neumannら、2000;LathamおよびGalarza、2001)。Gomez−Puertasら(1999)は、インフルエンザVLPの効率的な形成がウイルスタンパク質の発現レベルにより依存することを例証した。Neumannら(2000)は、専らクローン化cDNAから感染性インフルエンザウイルス様粒子を生成させる哺乳動物発現プラスミドベースの系を確立した。LathamおよびGalarza(2001)は、共発現するHA、NA、M1およびM2遺伝子を組換えバキュロウイルスで感染された昆虫細胞におけるインフルエンザVLPの形成を報告した。これらの研究は、インフルエンザビリオンタンパク質が、真核細胞において共発現するときに自己会合し得ることを例証した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明によると、トリインフルエンザウイルスA型H9N2のHAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404626)、NAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404629)、M1タンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ278646タンパク質)、M2タンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255363)およびNPタンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255742)を含む高分子タンパク質構造物、ならびにヒトインフルエンザウイルスA型H3N2のHA配列コード(GenBank登録番号AJ311466)およびNA配列コード(GenBank登録番号AJ291403)を含む高分子タンパク質構造物が提供される。これらのインフルエンザウイルス遺伝子をコードするゲノムRNAは、インフルエンザウイルス単離物から、またはインフルエンザ感染生物体の組織から単離され得る。同じまたは異なる株あるいは型のインフルエンザウイルス由来のこれらコード配列の各々は、発現ベクター内で転写プロモーターの下流にクローン化されそして細胞において発現される。
【0012】
このように本発明は、(a)第1インフルエンザウイルスM1タンパク質および(b)付加的構造タンパク質を含む、高分子タンパク質構造物を提供し、この付加的構造タンパク質は、第2またはそれより多くのインフルエンザウイルスM1タンパク質を含み得る、付加的構造タンパク質;第1、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスHAタンパク質;第1、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスNAタンパク質;第1、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスM2タンパク質を含み得る。もし付加的構造タンパク質が、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスM1タンパク質由来でない場合、上記グループの両方または全てのメンバー、例えば、第1および第2インフルエンザM2ウイルスタンパク質が含まれる。そのように、機能的インフルエンザタンパク質構造物が提供され、本発明の方法により産生されるインフルエンザウイルス構造タンパク質から本質的になるその構造物には、サブウイルス粒子、VLPまたはキャプソメア構造物、あるいはそれらの一部、ワクチン、多価ワクチンおよびそれらの混合物が含まれる。特に好ましい実施形態では、上記インフルエンザ高分子タンパク質構造物としては、野生型ウイルスに由来する合成断片としてクローン化されたインフルエンザウイルス遺伝子の発現産物であるインフルエンザウイルスのHAタンパク質,NAタンパク質およびM1タンパク質が挙げられる。
【0013】
上記高分子タンパク質構造物はまた、付加的構造タンパク質、例えば核タンパク質(NP)インフルエンザウイルス以外の種由来の膜タンパク質および非インフルエンザ供給源に由来する膜タンパク質を含み得、それらは鳥類起源または哺乳動物起源に由来し、そしてサブタイプAインフルエンザウイルスおよびサブタイプBインフルエンザウイルスを含む、インフルエンザウイルスの異なるサブタイプに由来するものである。本発明は、キメラの高分子タンパク質構造物を含み得、それは、インフルエンザウイルスによって産生されない1部分を有する少なくとも1つのタンパク質の1部分を含む。
【0014】
インフルエンザの予防は、宿主細胞において組換え構築物から自己会合し得る高分子タンパク質構造物を提供することにより達成され得る。本発明の高分子タンパク質構造物は、HAタンパク質およびNAタンパク質上に立体配座エピトープ(防御的である中和抗体を誘発する)を提示する、同型または異型のウイルス様粒子(VLP)へ自己会合する能力を有する。上記組成物は、ワクチン組成物であって、キャリアもしくは希釈剤および/またはアジュバンドを含有する。機能的インフルエンザVLPは、1以上の株または型のインフルエンザウイルスに対する中和抗体を、その機能的インフルエンザVLPが1以上のウイルス株または型に由来するHAタンパク質および/またはNAタンパク質を含有するかどうかに依存して、誘発する。上記ワクチンは、野生型インフルエンザウイルスタンパク質であるインフルエンザウイルスタンパク質を含み得る。好ましくは、インフルエンザVLP、またはその1部分を含有する上記構造タンパク質は、種々の株の野生型インフルエンザウイルスに由来し得る。上記インフルエンザワクチンは、1以上の株または型のインフルエンザウイルスに対する防御免疫を誘発するために、ヒトまたは動物に投与され得る。
【0015】
本発明の高分子タンパク質構造物は、ヘマグルチニン活性および/またはノイラミニダーゼ活性を示し得る。
【0016】
本発明は、インフルエンザウイルスに由来するM1、HAおよび少なくとも1種の構造タンパク質を含む、インフルエンザ構造遺伝子をコードする組換え構築物を構築することにより、インフルエンザに由来するVLPを産生する方法を提供する。組換え構築物は、組換えバキュロウイルスで適切な宿主細胞をトランスフェクトし、感染させまたは形質転換するために使用される。上記宿主細胞は、インフルエンザウイルスに由来するM1、HAおよび少なくとも1種の構造タンパク質の発現を可能にする条件下で培養され、そして上記VLPが宿主細胞において形成される。機能的インフルエンザVLPを含有する感染細胞培地が収穫され、そして上記VLPが精製される。本発明はまた、第2インフルエンザタンパク質をコードする第2組換え構築物で、宿主細胞を共トランスフェクトし、共感染させまたは共形質転換し、それにより上記VLP内に第2インフルエンザタンパク質を取り込む、付加的な工程を特徴とする。そのような構造タンパク質(NA、M2およびNPを含む)は、インフルエンザウイルスに由来し得、そして少なくとも1つの構造タンパク質は、鳥類起源または哺乳動物起源に由来する。上記構造タンパク質は、サブタイプAおよびサブタイプBのインフルエンザウイルス由来であり得る。本発明によると、宿主細胞は、真核細胞であり得る。さらに、上記VLPは、キメラVLPであり得る。
【0017】
本発明はまた、宿主細胞へインフルエンザウイルス遺伝子をコードする組換え構築物を導入し、そして細胞において機能的な同型VLPまたは異型VLPへの組換えインフルエンザウイルスタンパク質の自己会合を可能にすることにより、インフルエンザVLPを含有する薬物物質を処方する方法を特徴とする。上記インフルエンザVLPは、単離され、精製され、そして薬物物質が上記インフルエンザVLPを含有するように処方される。上記薬物物質は、さらにアジュバンドを含み得る。さらに本発明は、インフルエンザVLPを含有する薬物物質と脂質小胞(すなわち非イオン性脂質小胞)とを混合することにより、薬物製品を処方する方法を提供する。このように、機能的な同型または異型のVLPは、感染細胞に由来するエンベロープ粒子として出芽し得る。出芽したインフルエンザVLPは、単離され得、そして超遠心またはカラムクロマトグラフィーにより薬物物質として精製され得、そして単独か、またはNovasomes(登録商標)(Novavax、Inc.の製品)のようなアジュバンドと共に、ワクチンのような薬物製品として処方され得る。Novasomes(登録商標)は、免疫効果を高める。これは、米国特許第4,911,928号(本明細書に参考として援用される)に、さらに記載されている。
【0018】
本発明は、脊椎動物におけるインフルエンザウイルス感染に対する体液性免疫を検出する方法であって、インフルエンザウイルス高分子構造物の少なくとも1つの立体配座エピトープを有する抗体検出有効量のインフルエンザウイルスタンパク質を含む試験試薬を提供することによる、方法を提供する。上記試験試薬は、インフルエンザウイルス感染について試験される脊椎動物からの体液サンプルと接触させられる。サンプル中に含有されるインフルエンザウイルス特異抗体は、インフルエンザウイルス高分子構造の立体配座エピトープに結合して抗原−抗体複合体を形成するようにさせられる。上記複合体は、非結合複合体から分離され、そして検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤と接触させられる。上記複合体に結合している、検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤の量が、決定される。
【0019】
インフルエンザウイルスは、ウイルスに感染している疑いのある動物またはヒトからの標本において、抗体を提供することにより検出され得、その抗体は、検出可能なシグナルを生成する標識を有するか、または検出可能に標識された試薬に結合され、インフルエンザウイルス粒子の少なくとも1つの立体配座エピトープに対する特異性を有する。上記標本は、抗体と接触させられ、そして上記抗体は上記インフルエンザウイルスへ結合が可能となる。標本中のインフルエンザウイルスの存在は、検出可能な標識により決定される。
【0020】
本発明は、脊椎動物に本発明の有効量の組成物を投与することにより処置、予防および防御的免疫応答を発生させる方法を提供する。
あるいは、上記インフルエンザVLP薬物物質は、インフルエンザウイルス構造研究および臨床診断アッセイに使用される実験試薬として処方され得る。本発明はまた、有効量の本発明の組成物を投与することによりインフルエンザウイルスを処置するキットおよび使用法を提供する。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
高分子タンパク質構造物であって、
(a)第1インフルエンザウイルスM1タンパク質および
(b)付加的構造タンパク質
を含み、該付加的構造タンパク質は、
(i)第2インフルエンザウイルスM1タンパク質;
(ii)(a)第1インフルエンザウイルスHAタンパク質、
(b)第1インフルエンザウイルスHAタンパク質;
(iii)(a)第1インフルエンザウイルスNAタンパク質、
(b)第2インフルエンザウイルスNAタンパク質;および
(iv)(a)第1インフルエンザウイルスM2タンパク質、
(b)第2インフルエンザウイルスM2タンパク質;
からなる群より選択され、
ここで該付加的構造タンパク質が、サブグループ(i)からではない場合、(ii)、(iii)および(iv)のうちの少なくとも1つのサブグループの両方のメンバーが含まれる、高分子タンパク質構造物。
(項目2)
前記高分子タンパク質構造物が、サブウイルス粒子、ウイルス様粒子(VLP)、キャプソメア構造物またはそれらの部分、ワクチン、多価ワクチンおよびその混合物からなる群より選択される、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目3)
前記付加的構造タンパク質が、非インフルエンザウイルスより以外の株由来の核タンパク質(NP)および膜タンパク質からなる群より選択される、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目4)
前記付加的構造タンパク質が、非インフルエンザ源由来の膜タンパク質である、項目3に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目5)
前記タンパク質構造物が、宿主細胞において組換え構築物から自己会合する、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目6)
少なくとも1つの構造タンパク質が、鳥類起源または哺乳動物起源に由来する、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目7)
前記構造タンパク質が、異なるサブタイプのインフルエンザウイルスに由来する、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目8)
前記インフルエンザウイルスのサブタイプが、サブタイプAのインフルエンザウイルスおよびサブタイプBのインフルエンザウイルスからなる群より選択される、項目7に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目9)
前記インフルエンザウイルスが、野生型インフルエンザウイルスを含む、項目7に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目10)
前記高分子タンパク質構造物が、異型のウイルス様粒子(VPL)へと自己会合する能力を有する、少なくとも1つの構造タンパク質を含む、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目11)
少なくとも1つのタンパク質の部分が、インフルエンザウイルスにより産生されない部分を有するキメラタンパク質構造物を含む、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目12)
項目2に記載の高分子タンパク質構造物とキャリアまたは希釈剤とを含む、組成物。
(項目13)
アジュバントをさらに含む、項目12記載の組成物。
(項目14)
前記構造物が、ヘマグルチニン活性を示す組成物から選択される、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目15)
前記構造物が、ノイラミニダーゼ活性を示す組成物から選択される、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目16)
インフルエンザウイルス中和抗体を誘導するインフルエンザVLPの立体配座エピトープを含む、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目17)
項目16に記載のタンパク質構造物とキャリアまたは希釈剤とを含む、ワクチン組成物。
(項目18)
インフルエンザ由来のVLPを産生する方法であって、該方法は、
(a)インフルエンザ構造遺伝子をコードする構築物を構築する工程であって、組換えバキュロウイルスが、M1、HAおよびインフルエンザウイルス由来の少なくとも1つの第1構造タンパク質をコードする、工程;
(b)適切な宿主細胞を該組換えバキュロウイルスでトランスフェクトするか、感染させるかまたは形質転換し、該宿主細胞を、M1、HA、およびインフルエンザウイルス由来の少なくとも1つの構造タンパク質の発現を可能にする条件下で培養する工程;
(c)該宿主細胞においてVLPの形成を可能にする工程;
(d)機能性インフルエンザVLPを含有する感染細胞培地を収穫する工程;ならびに
(e)該VLPを精製する工程
を包含する、方法。
(項目19)
インフルエンザウイルス由来の構造タンパク質が、NA、M2およびNPからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目20)
少なくとも1つの構造タンパク質が、鳥類起源または哺乳動物起源に由来する、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記構造タンパク質が、サブタイプAのインフルエンザウイルスおよびサブタイプBのインフルエンザウイルスからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目22)
前記宿主細胞が、真核細胞である、項目18に記載の方法。
(項目23)
前記VLPが、キメラVLPを含む、項目18に記載の方法。
(項目24)
項目18に記載の方法であって、該方法は、
(a)前記宿主細胞を、第2インフルエンザタンパク質をコードする第2組換え構築物で共トランスフェクトするか、共感染させるかまたは共形質転換、それにより該第2インフルエンザタンパク質が前記VLP内に取り込まれる、工程
をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目25)
インフルエンザVLPを含有する薬物物質を処方する方法であって、該方法は、
(a)インフルエンザウイルス遺伝子をコードする組換え構築物を宿主細胞中に導入する工程;
(b)細胞において機能的な同型VLPまたは異型VLPへの組換えインフルエンザウイルスタンパク質の自己会合を可能にする工程;
(c)インフルエンザVLPを単離しそして精製する工程;および
(d)該インフルエンザVLPを含有する薬物物質を処方する工程
を包含する、方法。
(項目26)
前記薬物物質が、アジュバンドをさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
薬物製品を処方する方法であって、該方法は、インフルエンザVLPを含有する項目25に記載の薬物物質と脂質小胞とを混合する工程を包含する、方法。
(項目28)
前記脂質小胞が、非イオン性脂質小胞である、項目27に記載の方法。
(項目29)
脊椎動物におけるインフルエンザウイルス感染に対する体液性免疫を検出する方法であって、該方法は
(a)インフルエンザウイルス高分子構造物の少なくとも1つの立体配座エピトープを有する抗体検出有効量のインフルエンザウイルスタンパク質を含む、試験試薬を提供する工程;
(b)該試験試薬と、インフルエンザウイルス感染に関して試験する脊椎動物由来の体液サンプルとを接触させる工程;
(c)該サンプル中に含まれるインフルエンザウイルス特異抗体を、インフルエンザウイルス高分子構造物の立体配座エピトープに結合させ抗原抗体複合体を形成させることを可能にする工程;
(d)非結合複合体から、該複合体を分離する工程;
(e)該複合体を、検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤と接触させる工程;および
(f)該複合体に結合した該検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤の量を決定する工程
を包含する、方法。
(項目30)
該ウイルスに感染したことが疑わしい動物またはヒトに由来する標本において、インフルエンザウイルスを検出する方法であって、該方法は、
(a)該インフルエンザウイルスの粒子の少なくとも1つの立体配座エピトープに対して特異性を有する抗体を提供する工程であって、該抗体は検出可能なシグナルを産生する標識を有するか、または検出可能に標識された試薬に結合されている;
(b)該標本を該抗体と接触させる工程;
(c)該抗体を、該インフルエンザウイルスに結合することを可能にする工程;および
(d)該検出可能な標識により該標本中に存在するインフルエンザウイルスの存在を決定する工程
を包含する、方法。
(項目31)
有効量の項目13に記載の組成物を脊椎動物に投与する工程を包含する、処置方法。
(項目32)
有効量の項目17に記載のワクチン処方物を脊椎動物に投与する工程を包含する、インフルエンザを予防する方法。
(項目33)
項目13に記載の組成物を投与することを包含する、防御免疫応答を提供する方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスノイラミニダーゼ(NA)遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1)を示す。
【図2】図2は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスヘマグルチニン遺伝子(HA)のヌクレオチド配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスマトリックスタンパク質遺伝子M1(M1)のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。
【図4】図4は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HAタンパク質、NAタンパク質、およびM1タンパク質の発現のための組換えバキュロウイルスの構築物のための転移ベクターを示す。図4Aは、個々の遺伝子の発現のための転移ベクターを示し、そして図4Bは、上記遺伝子の多重発現のための転移ベクターを示す。
【図5】図5は、Sf−9S細胞における、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHAタンパク質、NAタンパク質、およびM1タンパク質の発現を示す。
【図6】図6は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPのショ糖密度勾配法による精製を示す。
【図7】図7は、インフルエンザウイルスタンパク質のゲル濾過クロマトグラフィーによる検出を示す。ウェスタンブロット分析に使用された抗体は以下の通りである:(A)ウサギ抗H9N2;(b)マウス抗M1 mAb;および(C)マウス抗BACgp64。
【図8】図8は、サブウイルス粒子、VLPおよびVLP複合体を含む、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)タンパク質の電子顕微鏡による検出を示す。
【図9】図9は、精製されたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPの血球凝集反応活性を示す。
【図10】図10は、精製されたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPのノイラミニダーゼ活性を示す。
【図11】図11は、マウスにおける、精製されたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPを用いた組換えインフルエンザの免疫原性研究のための免疫および採血スケジュールを示す。
【図12】図12は、組換えインフルエンザH9N2 VLPで免疫したマウスにおける免疫原性研究の結果を示す。図12Aは、トリインフルエンザウイルスA型/Hong Kong/1073/99由来のHAタンパク質、NAタンパク質、およびM1タンパク質を含む組換えVLPで免疫したBALB/cマウスからの血清を示す。図12Bは、不活性化されたトリインフルエンザウイルスA型H9N2で免疫されたニュージランド白ウサギからの血清を、不活性化されたトリインフルエンザウイルスA型H9N2(レーン1およびレーン3)または低温適合トリインフルエンザウイルスA型H9N2(レーン2およびレーン4)を含有するウェスタンブロットと反応させたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
本明細書で使用される場合、用語「バキュロウイルス」とは、バキュロウイルス科としてもまた知られており、エンベロープを有する節足動物のDNAウイルスの一族を指しそのメンバーは、挿入細胞培養において組換えタンパク質を産生する発現ベクターとして使用され得る。そのビリオンは、環状スーパーコイルの2本鎖DNAの分子(Mr54x106〜154x106)を含有する、1以上の桿状ヌクレオキャプシドを含有する。ベクターとして使用される上記ウイルスは、一般にAutographa califonica核多角体病ウイルス(NPV)である。導入遺伝子の発現は、感染細胞においてウイルスが包埋される大核封入体のポリヘドリンタンパク質成分の発現を通常制御する強力なプロモーターの調節下である。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「由来する」とは、起源または供給源をいい、天然に存在する分子、組換え分子、未精製分子または精製された分子を含み得る。本発明のタンパク質および分子は、インフルエンザに由来し得るか、または非インフルエンザ分子であり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「第1」インフルエンザウイルスタンパク質、即ち第1インフルエンザウイルスM1タンパク質とは、インフルエンザウイルスの特定の株に由来するM1、HA、NA、およびM2のようなタンパク質をいう。第1インフルエンザウイルスの株または型は、第2インフルエンザウイルスタンパク質の株または型と異なる。このように、「第2」インフルエンザウイルスタンパク質、即ち第2インフルエンザウイルスM1タンパク質とは、第1インフルエンザウイルスタンパク質とは異なる、第2のインフルエンザウイルス株由来である、M1、HA、NAおよびM2のようなタンパク質をいう。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「ヘマグルチニン活性」とは、HA含有タンパク質、VLPまたはその部分が、赤血球に結合し、そしてそれで凝集する能力をいう。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「ノイラミニダーゼ活性」とは、NA含有タンパク質,VLPまたはその部分の、フェチュインのようなタンパク質を含む基質由来のシアル酸残基を切断する酵素活性をいう。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「異型の」とは、ウイルスの1以上の異なる型または株をいう。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「同型の」とは、ウイルスの1つの型または株をいう。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「高分子タンパク質構造物」とは、1以上のタンパク質の構築物または配列をいう。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「多価」ワクチンとは、インフルエンザウイルスの複数の型または株に対するワクチンをいう。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「非インフルエンザ」とは、インフルエンザウイルス由来でないタンパク質または分子をいう。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「ワクチン」とは、病原体に対して抗体の形成または免疫を誘導するのに使用される、死んだ病原体調製物または弱体化した病原体、あるいは誘導された抗原決定基をいう。ワクチンは、疾患(例えば、インフルエンザウイルスが原因となるインフルエンザ)に対する免疫を提供するために与えられる。本発明は、免疫原性であり防御を提供するワクチン組成物を提供する。
【0033】
インフルエンザは、最適な条件下では60〜80%有効である、特定の不活性化されたウイルスワクチンの利用可能性にもかかわらず、広範な公衆衛生上の問題のままである。これらのワクチンが有効である場合、病気は、ウイルス感染を防ぐことにより通常避けられる。ワクチンの失敗は、蓄積した抗原性の差異(抗原シフトおよび抗原ドリフト)の結果として起こり得る。例えば、トリインフルエンザウイルスA型H9N2は、ブタにおいてヒトインフルエンザウイルスA型Sydney/97 H3N2と共循環し、そして遺伝子の再組合せおよび流行潜在能力を有するヒトインフルエンザウイルスの新株の出現を引き起こした(Peirisら、2001)。そのような抗原シフトの場合、現在のワクチンは適切な防御を提供する可能性がない。
【0034】
インフルエンザウイルスプログラムの不足の別の理由は、現在のワクチンに誘発される免疫の持続性が比較的短いことである。さらにインフルエンザ制御尺度の不正確さが、小児、高齢者および卵成分に対するアレルギーを有するヒトにおけるワクチン反応原生および副作用が原因である、現在のワクチンの制限された使用を反映している。卵成分は、商業的に許諾された不活性化ウイルスインフルエンザワクチンの製造で使用されている。
【0035】
さらに、不活性化インフルエンザウイルスワクチンは、中和抗体を誘発しそして疾患に対する防御において主要な役割を果たす、改変型のHAおよびNAの立体配座エピトープが欠けていたり、または含有する。このように、不活性化ウイルスワクチンおよびいくつかの組換えモノマーインフルエンザサブユニットタンパク質ワクチンは、不適切な防御を送達する。一方で、キャプソメア、サブウイルス粒子および/またはVLPのような高分子タンパク質構造物は、立体配座エピトープ(最適なワクチン免疫原性に有利である)を提示する、複数の天然のタンパク質コピーを含む。
【0036】
本発明は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子を、1つのバキュロウイルス発現ベクターに単独でまたは直列にクローニングすること、およびバキュロウイルス感染昆虫細胞において、サブウイルスインフルエンザ粒子およびインフルエンザVLPを含む機能的かつ免疫原性のある同型高分子タンパク質構造物へと自己会合する組換えインフルエンザ構造タンパク質を含む、インフルエンザワクチン候補または試薬の産生について記載する。
【0037】
本発明は、ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子、M1遺伝子、M2遺伝子およびNP遺伝子をバキュロウイルス発現ベクターにクローニングし、そしてバキュロウイルス感染昆虫細胞において、サブウイルスインフルエンザ粒子およびインフルエンザVLPのような機能的かつ免疫原性のある同型高分子タンパク質構造物へと自己会合するインフルエンザ構造タンパク質を含む、インフルエンザワクチン候補または試薬の産生を、さらに特徴とする。
【0038】
さらに本発明は、ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルスのHA遺伝子ならびにトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)のHA遺伝子、NA遺伝子、およびM1遺伝子を1つのバキュロウイルス発現ベクターに直列にクローニングし、そしてバキュロウイルス感染昆虫細胞において、サブウイルスインフルエンザ粒子およびインフルエンザVLPを含む機能的かつ免疫原性のある異型高分子タンパク質構造物へと自己会合するインフルエンザ構造タンパク質を含む、インフルエンザワクチン候補または試薬の産生を記載する。
【0039】
本発明は、以下の実施例でさらに説明される。この実施例は、限定するものと解釈されるべきではない。本出願の全体を通じて引用される全ての参考文献、特許、公開特許出願の内容、ならびに図面および配列表は、本明細書に参考として援用される。
【実施例】
【0040】
(具体的な実施例)
(実施例1)
(材料および方法)
トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子、およびM1遺伝子を、バキュロウイルスbacmid発現系を使用して、Spodoptera frugiperda細胞(Sf−9S細胞株;ATCC PTA−4047)において発現した。上記HA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子を、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスから単離されたRNAを使用して、逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により合成した(図1、図2および図3)。逆転写およびPCRのために、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子に特異なオリゴヌクレオチドプライマーを使用した(表1)。これらの遺伝子のcDNAコピーを、細菌サブクローニングベクターであるpCR2.1TOPOへ最初にクロ−ニングした。得られた3種のpCR2.1TOPOベースのプラスミドから、上記のHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子をバキュロウイルス転移ベクターpFastBac1(InVitrogen)のAcMNPVポリヘドリンプロモーターの下流に挿入し、3種のpFastBac1ベースのプラスミド(それぞれこれらのインフルエンザウイルス遺伝子を発現するpHA、pNAおよびpM1)を得た。次いで、単一のpFastBac1ベースのプラスミドpHAMを、別個のポリへドリンプロモーターの下流に、HA遺伝子およびM1遺伝子の両方を、各々コードするよう構築した(図4)。上記pNAプラスミド内に隣接する5’および3’領域を有するNA遺伝子のヌクレオチド配列を決定した(配列番号1)(図1)。同時に、上記の隣接領域を有するHA遺伝子およびM1遺伝子のヌクレオチド配列をまた、pHAMプラスミドを使用して決定した(配列番号2および3)(図2および3)。
【0041】
最後に、上記HA発現カセットおよびM1発現カセットの両方をコードするpHAMプラスミド由来の制限DNA断片を、pNAプラスミドにクロ−にングした。トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子をコードするプラスミドpNAHAMを得た(図4)。
【0042】
プラスミドpNAHAMを、ゲノムに、別個のバキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流にそれぞれ組込まれたインフルエンザウイルスNA遺伝子、HA遺伝子およびM1遺伝子を含有する組換えバキュロウイルスを構築するために使用した。許容Sf−9S昆虫細胞を得られた組換えバキュロウイルスで感染させると、そのような組換えバキュロウイルスで感染させた各々のSf−9S細胞において、これら3種のインフルエンザ遺伝子の共発現が得られた。
【0043】
(結果)
感染Sf−9S細胞における発現産物を、感染後(p.i.)72時間目で、HA特異抗体およびM1特異抗体を使用して、SDS−PAGE分析、クーマシーブルータンパク質染色およびウェスタン免疫ブロット分析により特性分析をした(図5)。ウェスタン免疫ブロット分析をインフルエンザウイルスA型/Hong Kong/1073/99(H9N2)(CDC、Atlanta、Georgia、USA)に対して惹起させたウサギ抗体またはインフルエンザM1タンパク質に対するマウスモノクローナル抗体(Serotec、UK)を使用して実施した。予想される分子量(それぞれ64kd、60kdおよび31kd)の上記HAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を、ウェスタン免疫ブロット分析により検出した。このアッセイで検出したHAタンパク質の量と比較して、上記NAタンパク質は、インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスに対するウサギ血清との反応性がより低かった。検出可能なNAタンパク質の量に対する説明としては、上記HAタンパク質と比較して、組換えバキュロウイルスで感染させたSf−9S細胞からのNAタンパク質の発現量が低いこと、ウェスタン免疫ブロットアッセイにおける変性条件下でのこの血清との上記NAの反応性がより低かったこと(膜結合のゲル電気泳動の間での重要なNAエピトープの消失に起因する)、HA抗体と比較してNA抗体のより低いアビディティーまたは上記血清中においてNA抗体の存在量がより低いことが挙げられた。
【0044】
A/Hong Kong/1073/99(H9N2)のHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を発現する組換えバキュロウイルスに感染させたSf−9S細胞からの培養培地をまた、インフルエンザタンパク質について調べた。上記清澄にした培養上清を、サブウイルス粒子、VLP、VLPの複合体のようなインフルエンザウイルスの高分子タンパク質複合体およびおそらくインフルエンザHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を含む他の自己会合粒子を濃縮するために27,000rpmで超遠心分離に供した。ペレット化したタンパク質産物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)に再懸濁し、不連続20〜60%のショ糖段階勾配法で、超遠心分離によりさらに精製した。ショ糖勾配からの画分を収集し、SDS−PAGE分析、ウェスタン免疫ブロット分析および電子顕微鏡により分析した。
【0045】
予想される分子量のインフルエンザHAタンパク質およびM1タンパク質を、クーマシーブルー染色およびウェスタン免疫ブロット分析により、多くのショ糖密度勾配画分の中に検出した(図6)。このことは、感染Sf−9S細胞由来のインフルエンザウイルスタンパク質が、キャプソメア、サブウイルス粒子、VLPおよび/またはVLP複合体のような高分子量の複合体の状態で凝集していることを示唆した。上記NAタンパク質は、クーマシーブルー染色とウェスタン免疫ブロット分析とでは一貫せずに検出されたが、ウェスタン免疫ブロット分析において変性NAタンパク質を認識するウサギ抗インフルエンザ血清が、能力がないことに起因したようであり、ノイラミニダーゼ酵素活性アッセイにおいて一致して検出された(図10)。
【0046】
高分子VLPの存在を、ゲル濾過クロマトグラフィーにより確認した。インフルエンザウイルスタンパク質を含有するショ糖密度勾配画分からのアリコートを、質量に基づく分画のためにSepharose CL−4Bカラムにローディングした。そのカラムを、見かけの分子量がそれぞれ2,000,000ダルトン;20,000ダルトン;および1,357ダルトンを有するデキストランブルー2000、デキストランイエローおよびビタミンB12(Amersham Pharmacia)で較正し、カラムのボイドボリュームを決定した。予想されたように、高分子インフルエンザウイルスタンパク質は、カラムのボイドボリューム内で移動したが、これはウイルス粒子のように高分子タンパク質に特徴的であった。画分をウェスタン免疫ブロット分析で分析し、インフルエンザウイルスタンパク質およびバキュロウイルスタンパク質を検出した。例えば、M1タンパク質を、ボイドボリューム画分において検出したが、この画分はまたバキュロウイルスタンパク質もまた含有した(図7)。
【0047】
ショ糖勾配画分中のインフルエンザVLPおよびタンパク質の形態学を、電子顕微鏡で明らかにした。陰性染色電子顕微鏡については、2つのショ糖密度勾配画分からのインフルエンザタンパク質を、PBS、pH7.2中、2%グルタルアルデヒドで固定した。陰性染色サンプルの電子顕微鏡試験は、両方の画分における高分子タンパク質複合体またはVLPの存在を明らかにした。これらのVLPは、直径約60nmおよび直径約80nmを含む、異なるサイズならびに形状(球状)を示した。両方の型の粒子のより大きな複合体をまた、桿状粒子と共に検出した(図8)。観察した全ての高分子構造物は、その表面に突起物(ペプロマー)を有し、それはインフルエンザウイルスに特徴的である。80nm粒子のサイズおよび外観は、野生型インフルエンザウイルス粒子と類似していたので、これらの構造は、VLPを示しているようであった。そのVLPは、粒子構成、構造、三角分割数、対称性および他の特性を含む、野生型インフルエンザビリオンに対して明確な類似性を有する。約60nmのより小さい粒子は、形態学的にも構造的にもVLPとは異なるサブウイルス粒子を示し得る。異なるサイズおよび形態の組換え高分子タンパク質の類似した現象はまた、他のウイルスに関して報告された。例えば、B型肝炎ウイルスの組換えコア抗原(HBcAg)は、異なるサイズの粒子を形成し、それは異なる構造ならびに、三角分割数(それぞれ、T=4およびT=3)を有する(Crowtherら、1994)。
【0048】
精製されたインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPの機能的性質を特徴づけるために、サンプルを血球凝集反応アッセイ(図9)およびノイラミニダーゼ酵素アッセイ(図10)において試験した。血球凝集反応アッセイについては、精製インフルエンザVLPの2倍希釈物を、0.6%モルモット赤血球と混合し、4℃において、1時間または16時間インキュベーションした。血球凝集反応の程度を視覚的に調べ、そして赤血球を凝集する能力がある組換えインフルエンザタンパク質の最高希釈倍率を決定し記録した(図9)。再び、ショ糖密度勾配からの多くの画分は、血球凝集反応活性を示し、そしてそれはインフルエンザタンパク質の複数の高分子形態およびモノマー形態が存在することを示唆した。検出された最高力価は、1:4000である。対照実験において、野生型インフルエンザA/Shangdongウイルスは、1:2000の力価を示した。血球凝集反応アッセイで、インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質からなる組換えVLPが、機能的に活性であることを明らかにした。これは、VLP内でのHAサブユニットタンパク質の会合、立体配座およびフォールディングが、野生型インフルエンザウイルスのそれと類似するかまたは同一であることを示唆した。
【0049】
さらに、ノイラミニダーゼ酵素アッセイを、精製したH9N2 VLPのサンプルについて実施した。ショ糖密度勾配画分におけるノイラミニダーゼ活性の量を、基質としてフェチュインを使用して決定した。ノイラミニダーゼアッセイにおいて、ノイラミニダーゼは、基質分子からシアル酸を切断し、シアル酸を測定のために遊離させる。亜ヒ酸塩試薬を、酵素活性を停止させるのに添加した。遊離したシアル酸の量を、遊離シアル酸の量に比例するピンク色を生じるチオバルビツール酸で化学的に決定した。色(発色団)の量を、波長549nmで分光光度的に測定した。この方法を用いて、ノイラミニダーゼ活性を、インフルエンザVLPを含有するショ糖勾配画分において例証した(図10)。予想されたように、上記活性を、2つのピーク画分を含むいくつかの画分において観察した。陽性対照として、野生型インフルエンザウイルスを使用した。野生型インフルエンザイウイルスは、精製したインフルエンザVLPと匹敵するノイラミニダーゼ酵素活性を示した。これらの知見は、タンパク質立体配座に関するHA結果を確証し、そしてインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスの精製したVLPが、野生型インフルエンザウイルスと機能的に類似していることを示唆した。
【0050】
上記分析およびアッセイからの結果は、インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質の発現が、バキュロウイルス感染昆虫細胞由来の機能的VLPの自己会合および輸送に十分であることを示した。これらのインフルエンザVLPは、自己会合インフルエンザ構造タンパク質を示し、そして野生型インフルエンザウイルスと類似する機能的および生化学的な性質を示したのでこれらのインフルエンザVLPは、有効なインフルエンザワクチンに必要な表面エピトープを含む、重要な構造的立体配座を保存した。
【0051】
(実施例2:トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルス遺伝子のRT−PCRクローニング)
組換えインフルエンザウイルスタンパク質の産生を指向することができる合成核酸配列を提供することが、本発明の目的である。そのような合成核酸配列を、インフルエンザウイルスから単離されたインフルエンザウイルスの天然ゲノムRNAを使用して、逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得た。この適用のために、核酸配列とは、RNA、DNA、cDNAまたはそのタンパク質をコードするいかなる合成改変体をもいう。
【0052】
トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスは、K/Subbarao博士(Centers for Disease Control、Atlanta、GA、USA)により提供された。ウイルスゲノムRNAを、Biosafety Level 3(BSL3)封じ込め条件下で、CDCで、Trizol LS試薬(Invitrogen、Carlsbad、CA USA)を使用して、酸フェノールRNA抽出法により単離した。上記ウイルスRNAのcDNA分子を、MuLV逆転写酵素(InVitrogen)を使用した逆転写、およびHAタンパク質、NAタンパク質ならびにM1タンパク質に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーおよびTaqIDNAポリメラーゼ(InVitorgen)を使用したPCRにより、得た(表1)。上記PCR断片を、細菌サブクローニングベクターpCR2.1TOPO(InVitrogen)へEco RI部位の間に、クロ−ニングし、HAクローン、NAクローンおよびM1 cDNAクローンを含有する3種の組換えプラスミドを得た。
【0053】
(実施例3:ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルス遺伝子のRT−PCRクローニング)
インフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルスは、M.Massare博士(Novavax,Inc.、Rockville、MD)から得た。ウイルスゲノムRNAを、BSL2封じ込め条件下で、Novavax、 Inc.においてTrizol LS試薬(Invitrogen)を使用して、酸フェノール抽出法により単離した。上記ウイルスRNAのcDNA分子を、逆転写、ならびにHAタンパク質、NAタンパク質、M1タンパク質、M2タンパク質およびNPタンパク質に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用するPCRにより、得た(表2)。上記PCR断片を、細菌サブクローニングベクターpCR2.1TOPOのEco RI部位の間に、クロ−ニングし、HAクローン、NAクローン、M1クローン、M2クローンおよびNP cDNAクローンを含有する5種の組換えプラスミドを得た。
【0054】
(実施例4:トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルスcDNAのバキュロウイルス転移ベクターへのクローニング)
pCR2.1TOPOベースプラスミドから、HA遺伝子、NA遺伝子またはM1遺伝子を、ポリヘドリン(polyhedron)遺伝子座内のTn7 att部位であって、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流、かつポリアデニル化シグナル配列の上流にpFastBac1バキュロウイルス転移ベクター(InVitorgen)中にサブクローニングした。上記ウイルス遺伝子を、T4 DNAリガーゼで連結した。HA遺伝子については,pCR2.1TOPO−HA由来のBam HI−Kpn I DNA断片を、Bam HI−Kpn I消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。NA遺伝子については、pCR2.1TOPO−NA由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。M1遺伝子に関しては、pCR2.1TOPO−M1からのEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。コンピテントE.coli DH5α細菌(InVitrogen)を、これらのDNA連結反応で形質転換し、形質転換されたコロニーが得られ、そして細菌クローンが単離された。得られたpFastBac1ベースのプラスミドであるpFastBac1−HA、pFastBac1−NA、およびpFastBac1−M1を、アガロースゲル上で、制限酵素マッピング(図4A)により特性分析した。クローン化された遺伝子の図1〜3に示されるヌクレオチド配列を、自動化されたDNA配列決定により決定した。DNA配列分析は、クローン化されたインフルエンザHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子が、以前に公開されたこれらの遺伝子のヌクレオチド配列[インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)のNA遺伝子、HA遺伝子およびM1遺伝子(それぞれ、GenBank登録番号AJ404629、AJ404626およびAJ278646)]と同一であったことを示した。
【0055】
(実施例5:ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94ウイルスcDNAのバキュロウイルス転移ベクターへのクローニング)
pCR2.1TOPOベースプラスミドから、HA遺伝子、NA遺伝子、M1遺伝子、M2遺伝子またはNP遺伝子を、ポリヘドリン(polyhedron)遺伝子座内のTn7 att部位であって、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流、かつポリアデニル化シグナル配列の上流においてpFastBac1バキュロウイルス転移ベクターにサブクローニングした。ウイルス遺伝子をT4 DNAリガーゼで連結した。HA遺伝子については,pCR2.1TOPO−hHA3由来のBam HI−Kpn I DNA断片を、Bam HI−Kpn I消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。NA遺伝子については、pCR2.1TOPO−hNA由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。M1遺伝子については、pCR2.1TOPO−hM1由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。M2遺伝子については、pCR2.1TOPO−hM2由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。NP遺伝子については、pCR2.1TOPO−hNP由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。コンピテントE.coli DH5α細菌を、これらのDNA連結反応で形質転換し、形質転換されたコロニーが得られ、そして細菌クローンが単離された。得られたpFastBac1ベースのプラスミドであるpFastBac1−hHA3、pFastBac1−hNA2、pFastBac1−hM1、pFASTBAC1−hM2およびpFASTBAC1−hNPを、アガロースゲル上で、制限酵素マッピングにより特性分析した。クローン化された遺伝子のヌクレオチド配列を、自動化されたDNA配列決定により決定した。DNA配列分析は、クローン化されたインフルエンザHA遺伝子、NA遺伝子、M1遺伝子、M2遺伝子およびNP遺伝子が、以前に公開されたこれらの遺伝子のヌクレオチド配列と同一であることを示した。
【0056】
(実施例6:複数のトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルス遺伝子をコードする多重遺伝子バキュロウイルス転移ベクターの構築)
複数のインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルス遺伝子を発現するpFastBac1ベースのbacmid転移ベクターを構築するために、最初にM1遺伝子を含有するpFastBac1−M1プラスミド由来のSna BI−Hpa I DNA断片をpFastBac1−HAのHpa I部位へクローン化した。この結果、独立した発現カセット内に別個のポリヘドリンプロモーターの制御下で発現するHA遺伝子およびM1遺伝子の両方をコードするpFastBac1−HAMプラスミドが得られた。
【0057】
最終的には、HA発現カセットおよびM1発現カセットを含有するpFastBac1−HAM由来のSna BI−Avr II DNA断片を、Hpa I−Avr II消化pFastBacI−NAプラスミドDNAに転移した。この結果、HA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子の発現のための3種の独立した発現カセットをコードし、別個のポリヘドリンプロモーターの制御下で発現されるプラスミドpFastBac1−NAHAMが得られた(図4B)。
【0058】
別の実施例で、pFASTBAC1−hHA3(実施例5を参照のこと)由来のH3遺伝子を異型インフルエンザVLPの発現および産生のための第4のインフルエンザウイルス遺伝子として、pFASTBAC1−NAHAMにクローン化した。
【0059】
(実施例7:昆虫細胞において、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルスのNA遺伝子、HA遺伝子およびM1遺伝子をコードする多重組換えバキュロウイルスの生成)
上記で得られた多重bacmid転移ベクターpFastBac1−NAHAMを、昆虫細胞において発現させるためのトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子をコードする多重組換えバキュロウイルスを生成するために、使用した。組換えbacmid DNAを、コンピテントE.coli DH10BAC細胞(InVitrogen)に含まれているpFastBac1−NAHAM DNAおよびAcMNPCバキュロウイルスゲノムとの間のポリヘドリン配列およびTn7 att DNA配列における部位特異的組換えにより産生した(図4B)。組換えbacmidDNAを、mini−prepプラスミドDNA法により単離し、カチオン性脂質CELLFECTIN(InVitrogen)を使用してSf−9S細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションに続き、組換えバキュロウイルスを単離し、プラークを精製し、そしてSf−9S昆虫細胞において増幅した。ウイルスストックをSf−9S昆虫細胞において調製し、トリインフルエンザウイルスHA遺伝子産物、NA遺伝子産物およびM1遺伝子産物の発現を特性分析した。得られた組換えバキュロウイルスを、bNAHAM−H9N2と命名した。
【0060】
(実施例8:昆虫細胞におけるトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99タンパク質の発現)
無血清培地(HyQ SFM、HyClone、Ogden、UT)中で28℃にて振盪フラスコにおいて懸濁培養物として維持されたSf−9S昆虫細胞を、細胞密度2x106細胞/mlで、組換えバキュロウイルス、bNAHAM−H9N2で、感染多重度(MOI)3pfu/細胞で、感染させた。上記ウイルス感染を、インフルエンザタンパク質の発現が可能なように72時間続けた。感染昆虫細胞におけるトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HAタンパク質およびM1タンパク質の発現を、SDS−PAGEおよびウェスタン免疫ブロット分析により確認した。SDS−PAGE分析を、還元および変性条件下で4〜12%直線勾配NuPAGEゲル(InVitrogen)で実施した。ウェスタン免疫ブロット分析における一次抗体は、CDCから得られたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)に対して惹起されたポリクローナルウサギ抗血清、およびインフルエンザM1タンパク質に対するモノクローナルマウス抗血清(Serotec,UK)であった。ウェスタン免疫ブロット分析のための2次抗体は、ウサギまたはマウスIgG(H+L)に対して惹起されたアルカリホスファターゼ結合体化ヤギIgG抗血清(KirkegaardおよびPerry Laboratories、Gaithersburg、MD、USA)であった。これらの分析の結果(図5)は、HAタンパク質およびM1タンパク質が、バキュロウイルス感染昆虫細胞において発現されることを示した。
【0061】
(実施例9:組換えトリインフルエンザH9N2ウイルス様粒子および高分子タンパク質複合体の精製)
インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HA、NAおよびM1遺伝子産物を発現する組換えバキュロウイルスbNAHAM−H9N2で感染したSf−9S昆虫細胞からの培養上清(200ml)を、低速遠心分離により、収穫した。培養上清とはSorval RC−5B超高速遠心分離機で、GS−3ローターを使用して、10,000x gおよび4℃で、1時間の遠心分離により清澄化した。ウイルスおよびVLPを、Sorval TH−641スイングローターを使用して、Sorval
ODT−65超遠心分離機における27,000rpmおよび4℃で3時間の遠心分離により、清澄にした培養上清から単離した。上記ウイルスペレットを1mlのPBS(pH7.2)に再懸濁し、20〜60%(重量/容量)の不連続ショ糖段階勾配にローディングし、Sorval TH−641ローターを使用して、Sorval OTD−65超遠心分離機で、27,000rpm、4℃で16時間、遠心分離をして溶解した。画分(0.5ml)を、ショ糖勾配の上部から収集した。
【0062】
ショ糖勾配画分におけるインフルエンザタンパク質を、上記の実施例6で記載したように、SDS−PAGEおよびウェスタン免疫ブロット分析により分析した。上記HAタンパク質およびM1タンパク質は、ウェスタン免疫ブロット分析で示されるように、同じショ糖勾配画分(図6)に見出され、それはHAタンパク質およびM1タンパク質が高分子タンパク質複合体として会合していることを示唆した。HAタンパク質およびM1タンパク質はまた、ショ糖勾配の全体にわたる画分で見出されており、それはこれらの組換えウイルスタンパク質が、異なる密度および組成の高分子タンパク質複合体と会合していることを示唆した。
【0063】
(実施例10:組換えトリインフルエンザH9N2 VLPおよびタンパク質のゲル濾過クロマトグラフィーによる分析)
VLPおよびモノマータンパク質のようなタンパク質高分子は、それらの質量サイズおよび形状の基づいてゲル濾過またはサイズ排除クロマトグラフィーカラム上で、別々に移動する。ショ糖勾配画分からの組換えインフルエンザタンパク質が、モノマータンパク質であるかVLPのような高分子タンパク質複合体であるかを決定するために、樹脂床容量14mlのSepharose CL−4B(Amersham)を有するクロマトグラフィーカラム(7mm x 140mm)を調製した。サイズ排除カラムをPBSで平衡化し、見かけ分子量が、それぞれ2,000,000;20,000;および1,357であるデキストランブルー2000、デキストランイエローおよびビタミンB12(Amersham Pharmacia)で較正し、カラムのボイドボリュームを確認した。デキストランブルー2000は、そのボイドボリューム(6ml画分)でカラムから溶出した。予想されたように、組換えインフルエンザタンパク質複合体もまた、そのボイドボリューム(6ml)でカラムから溶出した。この結果は、VLPのような高分子量の高分子タンパク質複合体に特徴的であった。カラム画分におけるウイルスタンパク質を、実施例6で上記されたようにウェスタン免疫ブロット分析により検出した。上記M1タンパク質を、ボイドボリューム画分で検出した(図7)。予想されたように、バキュロウイルスタンパク質もまたそのボイドボリューム中にあった。
【0064】
(実施例11:組換えインフルエンザVLPの電子顕微鏡検査法)
ショ糖勾配で単離され、組換えトリインフルエンザタンパク質を含有する高分子タンパク質複合体が、インフルエンザビリオンと類似する形態を有するか否かを決定するために、陰性染色サンプルの電子顕微鏡試験を実施した。組換えトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)タンパク質複合体を濃縮し、そして実施例7に記載されているように不連続ショ糖勾配上での超遠心分離により培養上清から精製した。ショ糖勾配画分のアリコートを、pH7.2のPBS中2%グルタルアルデヒドで処理し、新たな放出されたプラスチック/カーボンコートされたグリッドに吸収させ、蒸留水で洗浄した。上記サンプルを2%リンタングステン酸ナトリウム、pH6.5で染色し、透過型電子顕微鏡(Philips)を使用して観察した。2つのショ糖勾配画分からの組換えトリインフルエンザH9N2タンパク質複合体の陰性染色サンプルの電子顕微鏡写真は、2つのショ糖勾配画分からの球状粒子および桿状粒子を示した(図8)。上記粒子は、異なるサイズ(60および80nm)および形態を有する。両方の型の粒子の、より大きな複合体ならびに桿状粒子もまた検出された(図8)。観察された全てのタンパク質複合体構造物は、インフルエンザウイルスのHAペプロマーおよびNAペプロマーに類似するスパイク様表面突起を示した。上記80nm粒子の野生型インフルエンザウイルス粒子のサイズおよび外観に類似していたので、これらの構造は、おそらくエンベロープインフルエンザVLPを示していた。ほぼ60nmの小さい方の粒子は、上記のVLPとは形態学的にも構造的にも異なるサブウイルス粒子を、おそらく示した。
【0065】
(実施例12:血球凝集反応アッセイによるインフルエンザタンパク質の機能的な特性の分析)
精製したインフルエンザVLPおよびタンパク質が、インフルエンザウイルスに特徴的な血球凝集反応活性およびノイラミニダーゼ活性のような機能的特性を有するか否かを決定するために、精製されたインフルエンザVLPおよびタンパク質を、血球凝集反応アッセイおよびノイラミニダーゼアッセイについて試験した。
【0066】
血球凝集反応アッセイに関しては、インフルエンザVLPまたは陽性対照野生型インフルエンザウイルスA型を含むショ糖勾配画分の一連の2倍希釈を、調製した。ついでそれらを、PBS(pH7.2)中の0.6%モルモット赤血球と混合し、4℃で1〜16時間インキュベートした。陰性対照として、PBSを使用した。血球凝集反応の程度とは、視覚的に決定されモルモット赤血球を凝集させることができる画分の最高希釈倍率を決定した(図9)。精製したインフルエンザVLPおよびタンパク質について観察された最高血球凝集反応力価は、1:4000であった。これは、1:2000であった野生型インフルエンザ対照により示された力価より高かった。
【0067】
(実施例13:ノイラミニダーゼアッセイによるインフルエンザタンパク質の機能的特性の分析)
インフルエンザVLP含有ショ糖勾配画分におけるノイラミニダーゼ活性の量を、ノイラミニダーゼアッセイにより決定した。このアッセイにおいて、NA(酵素)は、基質(フェチュイン)に作用し、そしてシアル酸を遊離させた。酵素活性を停止させるために、亜ヒ酸塩試薬を添加した。遊離したシアル酸の量を、遊離のシアル酸の量に比例してピンク色を生じるチオバルビツール酸で化学的に決定した。色(発色団)の量を、波長594nmで、分光光学計において測定した。図8に示されるデータは、ショ糖勾配のVLP含有画分によリ、顕著な量のシアル酸が産生され、そしてこれらの画分が血球凝集反応活性を示す画分に対応することを示した。
【0068】
(実施例14:機能的同型組換えインフルエンザH9N2 VLPによるBALB/cマウスの免疫)
組換えインフルエンザVLPの免疫原性を、マウスを免疫して、次いで免疫血清のウェスタンブロット分析により確認した。トリインフルエンザウイルスA型/Hong Kong/1073/99由来のHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を含みショ糖勾配で精製された組換えVLP(1μg/注射)を、0日目と28日目に十匹(10)の雌性BALB/cマウスの三角筋部に皮下接種した(図11)。PBS(pH7.2)を、五匹(5)のマウスに陰性対照として投与した。それらのマウスの眼窩上腔から、−1日目(予備採血)、27日目(1次採血)および54日目(2次採血)に採血した。一晩凝固させそして遠心分離した後、血液サンプルから血清を収集した。
【0069】
ウェスタンブロット分析については、200ngの不活性化トリインフルエンザウイルスA型H9N2または低温適合トリインフルエンザウイルスA型H9N2、およびSee
Blue Plus 2予備染色タンパク質標準(InVitrogen)を、変性し(95℃、5分)そして還元条件下(10mM β−メルカプトエタノール)、MES緩衝液中4%〜12%ポリアクリルアミド勾配NuPAGEゲル(InVitrogen)上で、172ボルトで、ブロモフェノールブルー追跡用色素が消失するまで電気泳動にかけた。タンパク質ゲルについては、電気泳動されたタンパク質を、コロイド状クーマシーブルー試薬(InVitrogen)で染色することにより可視化した。タンパク質を、標準的ウェスタンブロット手順により、メタノール中でゲルからニトロセルロース膜へ転写した。VLP免疫マウスからの血清および不活性化したトリインフルエンザウイルスH9N2で免疫したウサギからの血清(陽性対照血清)を、PBS溶液(pH7.2)中で1:25および1:100にそれぞれ希釈して、1次抗体として使用した。タンパク質結合膜(5%カゼインでブロックした)を、一次抗体と室温で60分間、一定に振盪しながら、反応させた。Tween20を含有するリン酸緩衝化生理食塩溶液で一次抗体膜を洗浄した後、2次抗血清[ヤギ抗マウスIgG−アルカリホスファターゼ結合体(1:10,000)またはヤギ抗ウサギIgG−アルカリホスファターゼ結合体(1:10,000)]を、上記膜と60分間反応させた。2次抗体膜を、Tween20を含有するリン酸緩衝化生理食塩水溶液で洗浄した後に、膜上の抗体結合タンパク質を、NBT/BCIP(InVitrogen)のような発色性基質で発色させて可視化した。
【0070】
ウェスタンブロット分析の結果(図12)は、ウイルスHAタンパク質およびウイルスM1タンパク質(それぞれ、75kdおよび30kd)と同様の分子量を有するタンパク質が、陽性対照血清(図12B)および組換えインフルエンザH9N2 VLPで免疫されたマウスからの血清(図12A)へ結合したことであった。これらの結果は、組換えインフルエンザH9N2 VLP単独が、投与経路によりマウスにおいて免疫原性であることを示した。
【0071】
以下の参考文献は、本明細書に参考として援用される:
【0072】
【化1】
【0073】
【化2】
【0074】
【化3】
(他の実施形態)
当業者は、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を認識するかまたは慣用的にすぎない実験しか使用せずに、確認し得る。そのような等価物は、特許請求の範囲に包含されるよう意図されている。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
(配列表)
【表3−1】
【表3−2】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科の1属である(総説について、MurphyおよびWebster、1996を参照のこと)。A、BおよびCと命名された3種のサブタイプのインフルエンザウイルスが存在する。そのインフルエンザビリオンは、分節されたマイナスセンスRNAゲノムを含有する。インフルエンザビリオンは、以下のタンパク質:ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA),マトリックス(M1),プロトンイオンチャネルタンパク質(M2),核タンパク質(NP)、ポリメラーゼ塩基性タンパク質1(PB1)、ポリメラーゼ塩基性タンパク質2(PB2)、ポリメラーゼ酸性タンパク質(PA)、および非構造タンパク質2(NS2)を含む。上記HA、NA、M1およびM2は、膜結合型タンパク質であり、一方NP、PB1、PB2、PAおよびNS2は、ヌクレオキャプシド関連タンパク質である。上記NS1は、ビリオン粒子と関連しないが、インフルエンザ感染細胞に特異的である、唯一の非構造タンパク質である。上記M1タンパク質は、インフルエンザ粒子に最も豊富に存在するタンパク質である。上記HAタンパク質およびNAタンパク質は、エンベロープ糖タンパク質であり、そのウイルス粒子が細胞へ付着し、そして侵入する役割を果たし、ウイルス中和および防御免疫のための主要抗原エピトープの供給源である。HAタンパク質およびNAタンパク質の両方は、予防的インフルエンザワクチンにとって最も重要な成分であると考えられる。
【0002】
インフルエンザウイルス感染は、ビリオン表面のHAタンパク質が、シアル酸含有細胞性レセプター(糖タンパク質および糖脂質)に付着することにより開始される。上記NAタンパク質は、シアル酸レセプターのプロセシングを媒介し、細胞の中へのウイルスの侵入は、HA依存性レセプター媒介エンドサイトーシスに依存する。インフルエンザビリオンを含有する内部に吸収したエンドソームの酸性制限下において、上記HA2タンパク質は、立体配座の変化を受け、これによりウイルスと細胞膜との融合およびウイルス脱コート化、およびヌクレオキャプシド関連リボヌクレオタンパク質(RNP)からのM1タンパク質のM2介在性放出がもたらされる。このM1タンパク質は、ウイルスRNA合成のために細胞核に移動する。HAタンパク質に対する抗体は、ウイルス感染性を中和することにより、ウイルス感染を予防し、一方NAタンパク質に対する抗体は、ウイルス複製の早期段階に対する効果を媒介する。
【0003】
不活性化インフルエンザAウイルスワクチンおよび不活性化インフルエンザBウイルスワクチンは、現在非経口投与について許諾されている。これらの3価のワクチンは、胚含有鶏卵の尿膜腔において産生され、沈降速度ゾーン遠心分離法(rate zonal centrifugation)またはカラムクロマトグラフィーにより精製され、そしてホルマリンまたはβ−プロピオラクトンにより不活性化され、問題の年にヒト集団の間に広まるインフルエンザウイルスA型およびインフルエンザウイルスB型の2株のブレンドとして処方される。市販されるインフルエンザワクチンは、全ウイルス(WV)またはサブビリオン(SV;分割または精製された表面抗原)ウイルスワクチンである。上記WVワクチンは、インタクトな不活性化ビリオンを含有する。トリ−n−ブチルリン酸(Flu−Shield、Wyeth−Lederle)のような溶媒で処理されたSVワクチンは、ほとんど全ての上記ウイルス構造タンパク質およびいくらかの上記ウイルスエンベロープを含有する。Triton X−100(Fluzone、Connaught;Fluvirin、Evans)で溶解されたSVワクチンは、HAモノマー、NAおよびNPの凝集体を主に含有するが、残量の他のウイルス構造タンパク質が存在する。潜在的な低温適合弱毒化生インフルエンザウイルスワクチン(FluMist、MedImmune)が、5〜17歳の健常な青少年および18〜49歳の健常な成人における能動免疫およびインフルエンザA型ウイルスおよびインフルエンザB型ウイルスによる疾患の予防のために指示される鼻内送達ワクチンとして商業使用に市販されることが、FDAにより最近承認された。
【0004】
いくつかの組換え産物が、組換えインフルエンザワクチン候補として開発されてきた。これらのアプローチは、バキュロウイルス感染昆虫細胞(Crawfordら、1999;Johansson、1999;Treanorら、1996)、ウイルスベクター(Pushkoら、1997;Berglundら、1999)およびDNAワクチン構築物(Olsenら、1997)のを使用するこれらのタンパク質発現を含む、インフルエンザA型 HAタンパク質およびNAタンパク質の発現、産生および精製に焦点が当てられていた。
【0005】
Crawfordら(1999)は、バキュロウイルス感染昆虫細胞において発現したインフルエンザHAは、トリインフルエンザサブタイプH5およびトリインフルエンザサブタイプH7に起因する致死的なインフルエンザ疾患を予防する能力があることを例証した。同時に、別のグループは、バキュロウイルスにより発現されたインフルエンザHAタンパク質およびインフルエンザNAタンパク質は、動物において従来のワクチンで誘導される免疫応答より優れた免疫応答を誘導することを例証した(Johanssonら、1999)。ウマインフルエンザウイルスのバキュロウイルス発現ヘマグルチニンの免疫原性および有効性が、相同的なDNAワクチン候補(Olsenら、1997)と比較された。合わせて考えると、そのデータは、インフルエンザウイルスチャレンジに対する高度な防御が、種々の実験手法および異なる動物モデルを使用して、組換えHAタンパク質または組換えNAタンパク質により誘導され得ることを例証した。
【0006】
Lakeyら(1996)は、バキュロウイルス誘導インフルエンザHAワクチンは、第I相用量拡大安全性試験研究においてヒトボランティアにおいてよく寛容され、そして免疫原性もあったことを示した。しかしながらHAタンパク質および/またはNAタンパク質を含む数回のインフルエンザワクチンをワクチン投与されたヒトボランティアにおけるいくつかの臨床部位で行われた第2相試験の結果は、上記の組換えサブユニットタンパク質ワクチンは、防御免疫を誘発しなかったことを示した[G.Smith、Protein Sciences;M.Perdue、USDA、Personal Communications]。これらの結果は、感染性ビリオンのHAペプロマーおよびNAペプロマーの表面に提示された立体配座エピトープが、抗体中和および防御免疫の誘発に重要であることを示した。
【0007】
組換えインフルエンザワクチン候補中に他のインフルエンザタンパク質を含めることに関して、多くの研究がなされ、それにはインフルエンザ核タンパク質(NP)を単独でか、またはM1タンパク質と組合せて含む実験(Ulmerら,1993;Ulmerら,1998;Zhouら,1995;Tsuiら、1998)が挙げられる。これらのワクチン候補は、準不変の内部ビリオンタンパク質から鋼製、主に細胞性(CD4+記憶T細胞およびCD8+記憶T細胞)の広いスペクトル範囲の免疫原性を誘発した。これらの実験は、DNAまたはウイルス遺伝子ベクターの使用を含んだ。比較的大量の注入されたDNAが必要であった。それは低用量のDNAを使用した実験からの結果がほとんどまたはまったく防御を示さなかった(Chenら、1998)からである。ここで、さらに前臨床研究および臨床研究が、インフルエンザNPおよびM1を含むそのようなDNAベースのアプローチが、安全であるか、有効であるかそして持続的であるかについて評価するために必要とされ得る。
【0008】
最近、インフルエンザについてのより有効なワクチンを開発する試みにおいて、粒子タンパク質がインフルエンザM2タンパク質エピトープのキャリアとして使用された。M2ベースのワクチンの開発の論理的根拠は、動物研究において、インフルエンザに対する防御免疫がM2タンパク質により誘発された(Slepushkinら、1995)、ことである。Neirynckら(1999)は、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)とのアミノ末端融合相手として23アミノ酸長のM2膜貫通ドメインを使用して、HBcAgキャプシド様粒子の表面に、M2エピトープを露出させた。しかしながら、完全長M2タンパク質およびM2−HBcAg VLPの両方が、マウスにおいて検出可能な抗体および防御を誘導したという事実にもかかわらず、将来のインフルエンザワクチンは、上記M2タンパク質のみが、ベースとなることはなさそうであった。というのは、上記M2タンパク質が、1つのビリオン当たり低いコピー数で存在し、弱い抗原性であり、遊離するインフルエンザビリオンに結合する抗体を誘発できなかったし、細胞レセプターにウイルスが付着することを遮断(ウイルス中和)できなかったからである。
【0009】
以前の研究が、表面インフルエンザ糖タンパク質であるHAおよびNAが、インフルエンザウイルスに対して防御免疫を誘発する主要な標的であり、そしてM1がインフルエンザに対する細胞性免疫の保存的標的を提供することを示したので、新しいワクチン候補は、これらのウイルス抗原を、ウイルス様粒子(VLP)のようなタンパク質高分子粒子として含み得る。さらにこれらのインフルエンザ抗原を有する粒子は、多系統のインフルエンザウイルスに対して中和抗体を誘発する立体配座エピトープを提示し得る。
【0010】
いくつかの研究は、組換えインフルエンザタンパク質が、哺乳動物の発現プラスミドまたはバキュロウイルスベクターを使用して細胞培養においてVLPへ自己会合し得ることを例証した(Gomez−Puertasら、1999;Neumannら、2000;LathamおよびGalarza、2001)。Gomez−Puertasら(1999)は、インフルエンザVLPの効率的な形成がウイルスタンパク質の発現レベルにより依存することを例証した。Neumannら(2000)は、専らクローン化cDNAから感染性インフルエンザウイルス様粒子を生成させる哺乳動物発現プラスミドベースの系を確立した。LathamおよびGalarza(2001)は、共発現するHA、NA、M1およびM2遺伝子を組換えバキュロウイルスで感染された昆虫細胞におけるインフルエンザVLPの形成を報告した。これらの研究は、インフルエンザビリオンタンパク質が、真核細胞において共発現するときに自己会合し得ることを例証した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明によると、トリインフルエンザウイルスA型H9N2のHAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404626)、NAタンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ404629)、M1タンパク質コード配列(GenBank登録番号AJ278646タンパク質)、M2タンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255363)およびNPタンパク質コード配列(GenBank登録番号AF255742)を含む高分子タンパク質構造物、ならびにヒトインフルエンザウイルスA型H3N2のHA配列コード(GenBank登録番号AJ311466)およびNA配列コード(GenBank登録番号AJ291403)を含む高分子タンパク質構造物が提供される。これらのインフルエンザウイルス遺伝子をコードするゲノムRNAは、インフルエンザウイルス単離物から、またはインフルエンザ感染生物体の組織から単離され得る。同じまたは異なる株あるいは型のインフルエンザウイルス由来のこれらコード配列の各々は、発現ベクター内で転写プロモーターの下流にクローン化されそして細胞において発現される。
【0012】
このように本発明は、(a)第1インフルエンザウイルスM1タンパク質および(b)付加的構造タンパク質を含む、高分子タンパク質構造物を提供し、この付加的構造タンパク質は、第2またはそれより多くのインフルエンザウイルスM1タンパク質を含み得る、付加的構造タンパク質;第1、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスHAタンパク質;第1、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスNAタンパク質;第1、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスM2タンパク質を含み得る。もし付加的構造タンパク質が、第2またはそれ以降のインフルエンザウイルスM1タンパク質由来でない場合、上記グループの両方または全てのメンバー、例えば、第1および第2インフルエンザM2ウイルスタンパク質が含まれる。そのように、機能的インフルエンザタンパク質構造物が提供され、本発明の方法により産生されるインフルエンザウイルス構造タンパク質から本質的になるその構造物には、サブウイルス粒子、VLPまたはキャプソメア構造物、あるいはそれらの一部、ワクチン、多価ワクチンおよびそれらの混合物が含まれる。特に好ましい実施形態では、上記インフルエンザ高分子タンパク質構造物としては、野生型ウイルスに由来する合成断片としてクローン化されたインフルエンザウイルス遺伝子の発現産物であるインフルエンザウイルスのHAタンパク質,NAタンパク質およびM1タンパク質が挙げられる。
【0013】
上記高分子タンパク質構造物はまた、付加的構造タンパク質、例えば核タンパク質(NP)インフルエンザウイルス以外の種由来の膜タンパク質および非インフルエンザ供給源に由来する膜タンパク質を含み得、それらは鳥類起源または哺乳動物起源に由来し、そしてサブタイプAインフルエンザウイルスおよびサブタイプBインフルエンザウイルスを含む、インフルエンザウイルスの異なるサブタイプに由来するものである。本発明は、キメラの高分子タンパク質構造物を含み得、それは、インフルエンザウイルスによって産生されない1部分を有する少なくとも1つのタンパク質の1部分を含む。
【0014】
インフルエンザの予防は、宿主細胞において組換え構築物から自己会合し得る高分子タンパク質構造物を提供することにより達成され得る。本発明の高分子タンパク質構造物は、HAタンパク質およびNAタンパク質上に立体配座エピトープ(防御的である中和抗体を誘発する)を提示する、同型または異型のウイルス様粒子(VLP)へ自己会合する能力を有する。上記組成物は、ワクチン組成物であって、キャリアもしくは希釈剤および/またはアジュバンドを含有する。機能的インフルエンザVLPは、1以上の株または型のインフルエンザウイルスに対する中和抗体を、その機能的インフルエンザVLPが1以上のウイルス株または型に由来するHAタンパク質および/またはNAタンパク質を含有するかどうかに依存して、誘発する。上記ワクチンは、野生型インフルエンザウイルスタンパク質であるインフルエンザウイルスタンパク質を含み得る。好ましくは、インフルエンザVLP、またはその1部分を含有する上記構造タンパク質は、種々の株の野生型インフルエンザウイルスに由来し得る。上記インフルエンザワクチンは、1以上の株または型のインフルエンザウイルスに対する防御免疫を誘発するために、ヒトまたは動物に投与され得る。
【0015】
本発明の高分子タンパク質構造物は、ヘマグルチニン活性および/またはノイラミニダーゼ活性を示し得る。
【0016】
本発明は、インフルエンザウイルスに由来するM1、HAおよび少なくとも1種の構造タンパク質を含む、インフルエンザ構造遺伝子をコードする組換え構築物を構築することにより、インフルエンザに由来するVLPを産生する方法を提供する。組換え構築物は、組換えバキュロウイルスで適切な宿主細胞をトランスフェクトし、感染させまたは形質転換するために使用される。上記宿主細胞は、インフルエンザウイルスに由来するM1、HAおよび少なくとも1種の構造タンパク質の発現を可能にする条件下で培養され、そして上記VLPが宿主細胞において形成される。機能的インフルエンザVLPを含有する感染細胞培地が収穫され、そして上記VLPが精製される。本発明はまた、第2インフルエンザタンパク質をコードする第2組換え構築物で、宿主細胞を共トランスフェクトし、共感染させまたは共形質転換し、それにより上記VLP内に第2インフルエンザタンパク質を取り込む、付加的な工程を特徴とする。そのような構造タンパク質(NA、M2およびNPを含む)は、インフルエンザウイルスに由来し得、そして少なくとも1つの構造タンパク質は、鳥類起源または哺乳動物起源に由来する。上記構造タンパク質は、サブタイプAおよびサブタイプBのインフルエンザウイルス由来であり得る。本発明によると、宿主細胞は、真核細胞であり得る。さらに、上記VLPは、キメラVLPであり得る。
【0017】
本発明はまた、宿主細胞へインフルエンザウイルス遺伝子をコードする組換え構築物を導入し、そして細胞において機能的な同型VLPまたは異型VLPへの組換えインフルエンザウイルスタンパク質の自己会合を可能にすることにより、インフルエンザVLPを含有する薬物物質を処方する方法を特徴とする。上記インフルエンザVLPは、単離され、精製され、そして薬物物質が上記インフルエンザVLPを含有するように処方される。上記薬物物質は、さらにアジュバンドを含み得る。さらに本発明は、インフルエンザVLPを含有する薬物物質と脂質小胞(すなわち非イオン性脂質小胞)とを混合することにより、薬物製品を処方する方法を提供する。このように、機能的な同型または異型のVLPは、感染細胞に由来するエンベロープ粒子として出芽し得る。出芽したインフルエンザVLPは、単離され得、そして超遠心またはカラムクロマトグラフィーにより薬物物質として精製され得、そして単独か、またはNovasomes(登録商標)(Novavax、Inc.の製品)のようなアジュバンドと共に、ワクチンのような薬物製品として処方され得る。Novasomes(登録商標)は、免疫効果を高める。これは、米国特許第4,911,928号(本明細書に参考として援用される)に、さらに記載されている。
【0018】
本発明は、脊椎動物におけるインフルエンザウイルス感染に対する体液性免疫を検出する方法であって、インフルエンザウイルス高分子構造物の少なくとも1つの立体配座エピトープを有する抗体検出有効量のインフルエンザウイルスタンパク質を含む試験試薬を提供することによる、方法を提供する。上記試験試薬は、インフルエンザウイルス感染について試験される脊椎動物からの体液サンプルと接触させられる。サンプル中に含有されるインフルエンザウイルス特異抗体は、インフルエンザウイルス高分子構造の立体配座エピトープに結合して抗原−抗体複合体を形成するようにさせられる。上記複合体は、非結合複合体から分離され、そして検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤と接触させられる。上記複合体に結合している、検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤の量が、決定される。
【0019】
インフルエンザウイルスは、ウイルスに感染している疑いのある動物またはヒトからの標本において、抗体を提供することにより検出され得、その抗体は、検出可能なシグナルを生成する標識を有するか、または検出可能に標識された試薬に結合され、インフルエンザウイルス粒子の少なくとも1つの立体配座エピトープに対する特異性を有する。上記標本は、抗体と接触させられ、そして上記抗体は上記インフルエンザウイルスへ結合が可能となる。標本中のインフルエンザウイルスの存在は、検出可能な標識により決定される。
【0020】
本発明は、脊椎動物に本発明の有効量の組成物を投与することにより処置、予防および防御的免疫応答を発生させる方法を提供する。
あるいは、上記インフルエンザVLP薬物物質は、インフルエンザウイルス構造研究および臨床診断アッセイに使用される実験試薬として処方され得る。本発明はまた、有効量の本発明の組成物を投与することによりインフルエンザウイルスを処置するキットおよび使用法を提供する。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
高分子タンパク質構造物であって、
(a)第1インフルエンザウイルスM1タンパク質および
(b)付加的構造タンパク質
を含み、該付加的構造タンパク質は、
(i)第2インフルエンザウイルスM1タンパク質;
(ii)(a)第1インフルエンザウイルスHAタンパク質、
(b)第1インフルエンザウイルスHAタンパク質;
(iii)(a)第1インフルエンザウイルスNAタンパク質、
(b)第2インフルエンザウイルスNAタンパク質;および
(iv)(a)第1インフルエンザウイルスM2タンパク質、
(b)第2インフルエンザウイルスM2タンパク質;
からなる群より選択され、
ここで該付加的構造タンパク質が、サブグループ(i)からではない場合、(ii)、(iii)および(iv)のうちの少なくとも1つのサブグループの両方のメンバーが含まれる、高分子タンパク質構造物。
(項目2)
前記高分子タンパク質構造物が、サブウイルス粒子、ウイルス様粒子(VLP)、キャプソメア構造物またはそれらの部分、ワクチン、多価ワクチンおよびその混合物からなる群より選択される、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目3)
前記付加的構造タンパク質が、非インフルエンザウイルスより以外の株由来の核タンパク質(NP)および膜タンパク質からなる群より選択される、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目4)
前記付加的構造タンパク質が、非インフルエンザ源由来の膜タンパク質である、項目3に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目5)
前記タンパク質構造物が、宿主細胞において組換え構築物から自己会合する、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目6)
少なくとも1つの構造タンパク質が、鳥類起源または哺乳動物起源に由来する、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目7)
前記構造タンパク質が、異なるサブタイプのインフルエンザウイルスに由来する、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目8)
前記インフルエンザウイルスのサブタイプが、サブタイプAのインフルエンザウイルスおよびサブタイプBのインフルエンザウイルスからなる群より選択される、項目7に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目9)
前記インフルエンザウイルスが、野生型インフルエンザウイルスを含む、項目7に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目10)
前記高分子タンパク質構造物が、異型のウイルス様粒子(VPL)へと自己会合する能力を有する、少なくとも1つの構造タンパク質を含む、項目1に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目11)
少なくとも1つのタンパク質の部分が、インフルエンザウイルスにより産生されない部分を有するキメラタンパク質構造物を含む、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目12)
項目2に記載の高分子タンパク質構造物とキャリアまたは希釈剤とを含む、組成物。
(項目13)
アジュバントをさらに含む、項目12記載の組成物。
(項目14)
前記構造物が、ヘマグルチニン活性を示す組成物から選択される、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目15)
前記構造物が、ノイラミニダーゼ活性を示す組成物から選択される、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目16)
インフルエンザウイルス中和抗体を誘導するインフルエンザVLPの立体配座エピトープを含む、項目2に記載の高分子タンパク質構造物。
(項目17)
項目16に記載のタンパク質構造物とキャリアまたは希釈剤とを含む、ワクチン組成物。
(項目18)
インフルエンザ由来のVLPを産生する方法であって、該方法は、
(a)インフルエンザ構造遺伝子をコードする構築物を構築する工程であって、組換えバキュロウイルスが、M1、HAおよびインフルエンザウイルス由来の少なくとも1つの第1構造タンパク質をコードする、工程;
(b)適切な宿主細胞を該組換えバキュロウイルスでトランスフェクトするか、感染させるかまたは形質転換し、該宿主細胞を、M1、HA、およびインフルエンザウイルス由来の少なくとも1つの構造タンパク質の発現を可能にする条件下で培養する工程;
(c)該宿主細胞においてVLPの形成を可能にする工程;
(d)機能性インフルエンザVLPを含有する感染細胞培地を収穫する工程;ならびに
(e)該VLPを精製する工程
を包含する、方法。
(項目19)
インフルエンザウイルス由来の構造タンパク質が、NA、M2およびNPからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目20)
少なくとも1つの構造タンパク質が、鳥類起源または哺乳動物起源に由来する、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記構造タンパク質が、サブタイプAのインフルエンザウイルスおよびサブタイプBのインフルエンザウイルスからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目22)
前記宿主細胞が、真核細胞である、項目18に記載の方法。
(項目23)
前記VLPが、キメラVLPを含む、項目18に記載の方法。
(項目24)
項目18に記載の方法であって、該方法は、
(a)前記宿主細胞を、第2インフルエンザタンパク質をコードする第2組換え構築物で共トランスフェクトするか、共感染させるかまたは共形質転換、それにより該第2インフルエンザタンパク質が前記VLP内に取り込まれる、工程
をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目25)
インフルエンザVLPを含有する薬物物質を処方する方法であって、該方法は、
(a)インフルエンザウイルス遺伝子をコードする組換え構築物を宿主細胞中に導入する工程;
(b)細胞において機能的な同型VLPまたは異型VLPへの組換えインフルエンザウイルスタンパク質の自己会合を可能にする工程;
(c)インフルエンザVLPを単離しそして精製する工程;および
(d)該インフルエンザVLPを含有する薬物物質を処方する工程
を包含する、方法。
(項目26)
前記薬物物質が、アジュバンドをさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
薬物製品を処方する方法であって、該方法は、インフルエンザVLPを含有する項目25に記載の薬物物質と脂質小胞とを混合する工程を包含する、方法。
(項目28)
前記脂質小胞が、非イオン性脂質小胞である、項目27に記載の方法。
(項目29)
脊椎動物におけるインフルエンザウイルス感染に対する体液性免疫を検出する方法であって、該方法は
(a)インフルエンザウイルス高分子構造物の少なくとも1つの立体配座エピトープを有する抗体検出有効量のインフルエンザウイルスタンパク質を含む、試験試薬を提供する工程;
(b)該試験試薬と、インフルエンザウイルス感染に関して試験する脊椎動物由来の体液サンプルとを接触させる工程;
(c)該サンプル中に含まれるインフルエンザウイルス特異抗体を、インフルエンザウイルス高分子構造物の立体配座エピトープに結合させ抗原抗体複合体を形成させることを可能にする工程;
(d)非結合複合体から、該複合体を分離する工程;
(e)該複合体を、検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤と接触させる工程;および
(f)該複合体に結合した該検出可能に標識された免疫グロブリン結合薬剤の量を決定する工程
を包含する、方法。
(項目30)
該ウイルスに感染したことが疑わしい動物またはヒトに由来する標本において、インフルエンザウイルスを検出する方法であって、該方法は、
(a)該インフルエンザウイルスの粒子の少なくとも1つの立体配座エピトープに対して特異性を有する抗体を提供する工程であって、該抗体は検出可能なシグナルを産生する標識を有するか、または検出可能に標識された試薬に結合されている;
(b)該標本を該抗体と接触させる工程;
(c)該抗体を、該インフルエンザウイルスに結合することを可能にする工程;および
(d)該検出可能な標識により該標本中に存在するインフルエンザウイルスの存在を決定する工程
を包含する、方法。
(項目31)
有効量の項目13に記載の組成物を脊椎動物に投与する工程を包含する、処置方法。
(項目32)
有効量の項目17に記載のワクチン処方物を脊椎動物に投与する工程を包含する、インフルエンザを予防する方法。
(項目33)
項目13に記載の組成物を投与することを包含する、防御免疫応答を提供する方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスノイラミニダーゼ(NA)遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1)を示す。
【図2】図2は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスヘマグルチニン遺伝子(HA)のヌクレオチド配列(配列番号2)を示す。
【図3】図3は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスマトリックスタンパク質遺伝子M1(M1)のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。
【図4】図4は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HAタンパク質、NAタンパク質、およびM1タンパク質の発現のための組換えバキュロウイルスの構築物のための転移ベクターを示す。図4Aは、個々の遺伝子の発現のための転移ベクターを示し、そして図4Bは、上記遺伝子の多重発現のための転移ベクターを示す。
【図5】図5は、Sf−9S細胞における、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHAタンパク質、NAタンパク質、およびM1タンパク質の発現を示す。
【図6】図6は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPのショ糖密度勾配法による精製を示す。
【図7】図7は、インフルエンザウイルスタンパク質のゲル濾過クロマトグラフィーによる検出を示す。ウェスタンブロット分析に使用された抗体は以下の通りである:(A)ウサギ抗H9N2;(b)マウス抗M1 mAb;および(C)マウス抗BACgp64。
【図8】図8は、サブウイルス粒子、VLPおよびVLP複合体を含む、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)タンパク質の電子顕微鏡による検出を示す。
【図9】図9は、精製されたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPの血球凝集反応活性を示す。
【図10】図10は、精製されたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPのノイラミニダーゼ活性を示す。
【図11】図11は、マウスにおける、精製されたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPを用いた組換えインフルエンザの免疫原性研究のための免疫および採血スケジュールを示す。
【図12】図12は、組換えインフルエンザH9N2 VLPで免疫したマウスにおける免疫原性研究の結果を示す。図12Aは、トリインフルエンザウイルスA型/Hong Kong/1073/99由来のHAタンパク質、NAタンパク質、およびM1タンパク質を含む組換えVLPで免疫したBALB/cマウスからの血清を示す。図12Bは、不活性化されたトリインフルエンザウイルスA型H9N2で免疫されたニュージランド白ウサギからの血清を、不活性化されたトリインフルエンザウイルスA型H9N2(レーン1およびレーン3)または低温適合トリインフルエンザウイルスA型H9N2(レーン2およびレーン4)を含有するウェスタンブロットと反応させたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
本明細書で使用される場合、用語「バキュロウイルス」とは、バキュロウイルス科としてもまた知られており、エンベロープを有する節足動物のDNAウイルスの一族を指しそのメンバーは、挿入細胞培養において組換えタンパク質を産生する発現ベクターとして使用され得る。そのビリオンは、環状スーパーコイルの2本鎖DNAの分子(Mr54x106〜154x106)を含有する、1以上の桿状ヌクレオキャプシドを含有する。ベクターとして使用される上記ウイルスは、一般にAutographa califonica核多角体病ウイルス(NPV)である。導入遺伝子の発現は、感染細胞においてウイルスが包埋される大核封入体のポリヘドリンタンパク質成分の発現を通常制御する強力なプロモーターの調節下である。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「由来する」とは、起源または供給源をいい、天然に存在する分子、組換え分子、未精製分子または精製された分子を含み得る。本発明のタンパク質および分子は、インフルエンザに由来し得るか、または非インフルエンザ分子であり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「第1」インフルエンザウイルスタンパク質、即ち第1インフルエンザウイルスM1タンパク質とは、インフルエンザウイルスの特定の株に由来するM1、HA、NA、およびM2のようなタンパク質をいう。第1インフルエンザウイルスの株または型は、第2インフルエンザウイルスタンパク質の株または型と異なる。このように、「第2」インフルエンザウイルスタンパク質、即ち第2インフルエンザウイルスM1タンパク質とは、第1インフルエンザウイルスタンパク質とは異なる、第2のインフルエンザウイルス株由来である、M1、HA、NAおよびM2のようなタンパク質をいう。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「ヘマグルチニン活性」とは、HA含有タンパク質、VLPまたはその部分が、赤血球に結合し、そしてそれで凝集する能力をいう。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「ノイラミニダーゼ活性」とは、NA含有タンパク質,VLPまたはその部分の、フェチュインのようなタンパク質を含む基質由来のシアル酸残基を切断する酵素活性をいう。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「異型の」とは、ウイルスの1以上の異なる型または株をいう。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「同型の」とは、ウイルスの1つの型または株をいう。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「高分子タンパク質構造物」とは、1以上のタンパク質の構築物または配列をいう。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「多価」ワクチンとは、インフルエンザウイルスの複数の型または株に対するワクチンをいう。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「非インフルエンザ」とは、インフルエンザウイルス由来でないタンパク質または分子をいう。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「ワクチン」とは、病原体に対して抗体の形成または免疫を誘導するのに使用される、死んだ病原体調製物または弱体化した病原体、あるいは誘導された抗原決定基をいう。ワクチンは、疾患(例えば、インフルエンザウイルスが原因となるインフルエンザ)に対する免疫を提供するために与えられる。本発明は、免疫原性であり防御を提供するワクチン組成物を提供する。
【0033】
インフルエンザは、最適な条件下では60〜80%有効である、特定の不活性化されたウイルスワクチンの利用可能性にもかかわらず、広範な公衆衛生上の問題のままである。これらのワクチンが有効である場合、病気は、ウイルス感染を防ぐことにより通常避けられる。ワクチンの失敗は、蓄積した抗原性の差異(抗原シフトおよび抗原ドリフト)の結果として起こり得る。例えば、トリインフルエンザウイルスA型H9N2は、ブタにおいてヒトインフルエンザウイルスA型Sydney/97 H3N2と共循環し、そして遺伝子の再組合せおよび流行潜在能力を有するヒトインフルエンザウイルスの新株の出現を引き起こした(Peirisら、2001)。そのような抗原シフトの場合、現在のワクチンは適切な防御を提供する可能性がない。
【0034】
インフルエンザウイルスプログラムの不足の別の理由は、現在のワクチンに誘発される免疫の持続性が比較的短いことである。さらにインフルエンザ制御尺度の不正確さが、小児、高齢者および卵成分に対するアレルギーを有するヒトにおけるワクチン反応原生および副作用が原因である、現在のワクチンの制限された使用を反映している。卵成分は、商業的に許諾された不活性化ウイルスインフルエンザワクチンの製造で使用されている。
【0035】
さらに、不活性化インフルエンザウイルスワクチンは、中和抗体を誘発しそして疾患に対する防御において主要な役割を果たす、改変型のHAおよびNAの立体配座エピトープが欠けていたり、または含有する。このように、不活性化ウイルスワクチンおよびいくつかの組換えモノマーインフルエンザサブユニットタンパク質ワクチンは、不適切な防御を送達する。一方で、キャプソメア、サブウイルス粒子および/またはVLPのような高分子タンパク質構造物は、立体配座エピトープ(最適なワクチン免疫原性に有利である)を提示する、複数の天然のタンパク質コピーを含む。
【0036】
本発明は、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子を、1つのバキュロウイルス発現ベクターに単独でまたは直列にクローニングすること、およびバキュロウイルス感染昆虫細胞において、サブウイルスインフルエンザ粒子およびインフルエンザVLPを含む機能的かつ免疫原性のある同型高分子タンパク質構造物へと自己会合する組換えインフルエンザ構造タンパク質を含む、インフルエンザワクチン候補または試薬の産生について記載する。
【0037】
本発明は、ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子、M1遺伝子、M2遺伝子およびNP遺伝子をバキュロウイルス発現ベクターにクローニングし、そしてバキュロウイルス感染昆虫細胞において、サブウイルスインフルエンザ粒子およびインフルエンザVLPのような機能的かつ免疫原性のある同型高分子タンパク質構造物へと自己会合するインフルエンザ構造タンパク質を含む、インフルエンザワクチン候補または試薬の産生を、さらに特徴とする。
【0038】
さらに本発明は、ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルスのHA遺伝子ならびにトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)のHA遺伝子、NA遺伝子、およびM1遺伝子を1つのバキュロウイルス発現ベクターに直列にクローニングし、そしてバキュロウイルス感染昆虫細胞において、サブウイルスインフルエンザ粒子およびインフルエンザVLPを含む機能的かつ免疫原性のある異型高分子タンパク質構造物へと自己会合するインフルエンザ構造タンパク質を含む、インフルエンザワクチン候補または試薬の産生を記載する。
【0039】
本発明は、以下の実施例でさらに説明される。この実施例は、限定するものと解釈されるべきではない。本出願の全体を通じて引用される全ての参考文献、特許、公開特許出願の内容、ならびに図面および配列表は、本明細書に参考として援用される。
【実施例】
【0040】
(具体的な実施例)
(実施例1)
(材料および方法)
トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子、およびM1遺伝子を、バキュロウイルスbacmid発現系を使用して、Spodoptera frugiperda細胞(Sf−9S細胞株;ATCC PTA−4047)において発現した。上記HA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子を、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスから単離されたRNAを使用して、逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により合成した(図1、図2および図3)。逆転写およびPCRのために、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスのHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子に特異なオリゴヌクレオチドプライマーを使用した(表1)。これらの遺伝子のcDNAコピーを、細菌サブクローニングベクターであるpCR2.1TOPOへ最初にクロ−ニングした。得られた3種のpCR2.1TOPOベースのプラスミドから、上記のHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子をバキュロウイルス転移ベクターpFastBac1(InVitrogen)のAcMNPVポリヘドリンプロモーターの下流に挿入し、3種のpFastBac1ベースのプラスミド(それぞれこれらのインフルエンザウイルス遺伝子を発現するpHA、pNAおよびpM1)を得た。次いで、単一のpFastBac1ベースのプラスミドpHAMを、別個のポリへドリンプロモーターの下流に、HA遺伝子およびM1遺伝子の両方を、各々コードするよう構築した(図4)。上記pNAプラスミド内に隣接する5’および3’領域を有するNA遺伝子のヌクレオチド配列を決定した(配列番号1)(図1)。同時に、上記の隣接領域を有するHA遺伝子およびM1遺伝子のヌクレオチド配列をまた、pHAMプラスミドを使用して決定した(配列番号2および3)(図2および3)。
【0041】
最後に、上記HA発現カセットおよびM1発現カセットの両方をコードするpHAMプラスミド由来の制限DNA断片を、pNAプラスミドにクロ−にングした。トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子をコードするプラスミドpNAHAMを得た(図4)。
【0042】
プラスミドpNAHAMを、ゲノムに、別個のバキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流にそれぞれ組込まれたインフルエンザウイルスNA遺伝子、HA遺伝子およびM1遺伝子を含有する組換えバキュロウイルスを構築するために使用した。許容Sf−9S昆虫細胞を得られた組換えバキュロウイルスで感染させると、そのような組換えバキュロウイルスで感染させた各々のSf−9S細胞において、これら3種のインフルエンザ遺伝子の共発現が得られた。
【0043】
(結果)
感染Sf−9S細胞における発現産物を、感染後(p.i.)72時間目で、HA特異抗体およびM1特異抗体を使用して、SDS−PAGE分析、クーマシーブルータンパク質染色およびウェスタン免疫ブロット分析により特性分析をした(図5)。ウェスタン免疫ブロット分析をインフルエンザウイルスA型/Hong Kong/1073/99(H9N2)(CDC、Atlanta、Georgia、USA)に対して惹起させたウサギ抗体またはインフルエンザM1タンパク質に対するマウスモノクローナル抗体(Serotec、UK)を使用して実施した。予想される分子量(それぞれ64kd、60kdおよび31kd)の上記HAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を、ウェスタン免疫ブロット分析により検出した。このアッセイで検出したHAタンパク質の量と比較して、上記NAタンパク質は、インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスに対するウサギ血清との反応性がより低かった。検出可能なNAタンパク質の量に対する説明としては、上記HAタンパク質と比較して、組換えバキュロウイルスで感染させたSf−9S細胞からのNAタンパク質の発現量が低いこと、ウェスタン免疫ブロットアッセイにおける変性条件下でのこの血清との上記NAの反応性がより低かったこと(膜結合のゲル電気泳動の間での重要なNAエピトープの消失に起因する)、HA抗体と比較してNA抗体のより低いアビディティーまたは上記血清中においてNA抗体の存在量がより低いことが挙げられた。
【0044】
A/Hong Kong/1073/99(H9N2)のHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を発現する組換えバキュロウイルスに感染させたSf−9S細胞からの培養培地をまた、インフルエンザタンパク質について調べた。上記清澄にした培養上清を、サブウイルス粒子、VLP、VLPの複合体のようなインフルエンザウイルスの高分子タンパク質複合体およびおそらくインフルエンザHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を含む他の自己会合粒子を濃縮するために27,000rpmで超遠心分離に供した。ペレット化したタンパク質産物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)に再懸濁し、不連続20〜60%のショ糖段階勾配法で、超遠心分離によりさらに精製した。ショ糖勾配からの画分を収集し、SDS−PAGE分析、ウェスタン免疫ブロット分析および電子顕微鏡により分析した。
【0045】
予想される分子量のインフルエンザHAタンパク質およびM1タンパク質を、クーマシーブルー染色およびウェスタン免疫ブロット分析により、多くのショ糖密度勾配画分の中に検出した(図6)。このことは、感染Sf−9S細胞由来のインフルエンザウイルスタンパク質が、キャプソメア、サブウイルス粒子、VLPおよび/またはVLP複合体のような高分子量の複合体の状態で凝集していることを示唆した。上記NAタンパク質は、クーマシーブルー染色とウェスタン免疫ブロット分析とでは一貫せずに検出されたが、ウェスタン免疫ブロット分析において変性NAタンパク質を認識するウサギ抗インフルエンザ血清が、能力がないことに起因したようであり、ノイラミニダーゼ酵素活性アッセイにおいて一致して検出された(図10)。
【0046】
高分子VLPの存在を、ゲル濾過クロマトグラフィーにより確認した。インフルエンザウイルスタンパク質を含有するショ糖密度勾配画分からのアリコートを、質量に基づく分画のためにSepharose CL−4Bカラムにローディングした。そのカラムを、見かけの分子量がそれぞれ2,000,000ダルトン;20,000ダルトン;および1,357ダルトンを有するデキストランブルー2000、デキストランイエローおよびビタミンB12(Amersham Pharmacia)で較正し、カラムのボイドボリュームを決定した。予想されたように、高分子インフルエンザウイルスタンパク質は、カラムのボイドボリューム内で移動したが、これはウイルス粒子のように高分子タンパク質に特徴的であった。画分をウェスタン免疫ブロット分析で分析し、インフルエンザウイルスタンパク質およびバキュロウイルスタンパク質を検出した。例えば、M1タンパク質を、ボイドボリューム画分において検出したが、この画分はまたバキュロウイルスタンパク質もまた含有した(図7)。
【0047】
ショ糖勾配画分中のインフルエンザVLPおよびタンパク質の形態学を、電子顕微鏡で明らかにした。陰性染色電子顕微鏡については、2つのショ糖密度勾配画分からのインフルエンザタンパク質を、PBS、pH7.2中、2%グルタルアルデヒドで固定した。陰性染色サンプルの電子顕微鏡試験は、両方の画分における高分子タンパク質複合体またはVLPの存在を明らかにした。これらのVLPは、直径約60nmおよび直径約80nmを含む、異なるサイズならびに形状(球状)を示した。両方の型の粒子のより大きな複合体をまた、桿状粒子と共に検出した(図8)。観察した全ての高分子構造物は、その表面に突起物(ペプロマー)を有し、それはインフルエンザウイルスに特徴的である。80nm粒子のサイズおよび外観は、野生型インフルエンザウイルス粒子と類似していたので、これらの構造は、VLPを示しているようであった。そのVLPは、粒子構成、構造、三角分割数、対称性および他の特性を含む、野生型インフルエンザビリオンに対して明確な類似性を有する。約60nmのより小さい粒子は、形態学的にも構造的にもVLPとは異なるサブウイルス粒子を示し得る。異なるサイズおよび形態の組換え高分子タンパク質の類似した現象はまた、他のウイルスに関して報告された。例えば、B型肝炎ウイルスの組換えコア抗原(HBcAg)は、異なるサイズの粒子を形成し、それは異なる構造ならびに、三角分割数(それぞれ、T=4およびT=3)を有する(Crowtherら、1994)。
【0048】
精製されたインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)VLPの機能的性質を特徴づけるために、サンプルを血球凝集反応アッセイ(図9)およびノイラミニダーゼ酵素アッセイ(図10)において試験した。血球凝集反応アッセイについては、精製インフルエンザVLPの2倍希釈物を、0.6%モルモット赤血球と混合し、4℃において、1時間または16時間インキュベーションした。血球凝集反応の程度を視覚的に調べ、そして赤血球を凝集する能力がある組換えインフルエンザタンパク質の最高希釈倍率を決定し記録した(図9)。再び、ショ糖密度勾配からの多くの画分は、血球凝集反応活性を示し、そしてそれはインフルエンザタンパク質の複数の高分子形態およびモノマー形態が存在することを示唆した。検出された最高力価は、1:4000である。対照実験において、野生型インフルエンザA/Shangdongウイルスは、1:2000の力価を示した。血球凝集反応アッセイで、インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質からなる組換えVLPが、機能的に活性であることを明らかにした。これは、VLP内でのHAサブユニットタンパク質の会合、立体配座およびフォールディングが、野生型インフルエンザウイルスのそれと類似するかまたは同一であることを示唆した。
【0049】
さらに、ノイラミニダーゼ酵素アッセイを、精製したH9N2 VLPのサンプルについて実施した。ショ糖密度勾配画分におけるノイラミニダーゼ活性の量を、基質としてフェチュインを使用して決定した。ノイラミニダーゼアッセイにおいて、ノイラミニダーゼは、基質分子からシアル酸を切断し、シアル酸を測定のために遊離させる。亜ヒ酸塩試薬を、酵素活性を停止させるのに添加した。遊離したシアル酸の量を、遊離シアル酸の量に比例するピンク色を生じるチオバルビツール酸で化学的に決定した。色(発色団)の量を、波長549nmで分光光度的に測定した。この方法を用いて、ノイラミニダーゼ活性を、インフルエンザVLPを含有するショ糖勾配画分において例証した(図10)。予想されたように、上記活性を、2つのピーク画分を含むいくつかの画分において観察した。陽性対照として、野生型インフルエンザウイルスを使用した。野生型インフルエンザイウイルスは、精製したインフルエンザVLPと匹敵するノイラミニダーゼ酵素活性を示した。これらの知見は、タンパク質立体配座に関するHA結果を確証し、そしてインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスの精製したVLPが、野生型インフルエンザウイルスと機能的に類似していることを示唆した。
【0050】
上記分析およびアッセイからの結果は、インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質の発現が、バキュロウイルス感染昆虫細胞由来の機能的VLPの自己会合および輸送に十分であることを示した。これらのインフルエンザVLPは、自己会合インフルエンザ構造タンパク質を示し、そして野生型インフルエンザウイルスと類似する機能的および生化学的な性質を示したのでこれらのインフルエンザVLPは、有効なインフルエンザワクチンに必要な表面エピトープを含む、重要な構造的立体配座を保存した。
【0051】
(実施例2:トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルス遺伝子のRT−PCRクローニング)
組換えインフルエンザウイルスタンパク質の産生を指向することができる合成核酸配列を提供することが、本発明の目的である。そのような合成核酸配列を、インフルエンザウイルスから単離されたインフルエンザウイルスの天然ゲノムRNAを使用して、逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得た。この適用のために、核酸配列とは、RNA、DNA、cDNAまたはそのタンパク質をコードするいかなる合成改変体をもいう。
【0052】
トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルスは、K/Subbarao博士(Centers for Disease Control、Atlanta、GA、USA)により提供された。ウイルスゲノムRNAを、Biosafety Level 3(BSL3)封じ込め条件下で、CDCで、Trizol LS試薬(Invitrogen、Carlsbad、CA USA)を使用して、酸フェノールRNA抽出法により単離した。上記ウイルスRNAのcDNA分子を、MuLV逆転写酵素(InVitrogen)を使用した逆転写、およびHAタンパク質、NAタンパク質ならびにM1タンパク質に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーおよびTaqIDNAポリメラーゼ(InVitorgen)を使用したPCRにより、得た(表1)。上記PCR断片を、細菌サブクローニングベクターpCR2.1TOPO(InVitrogen)へEco RI部位の間に、クロ−ニングし、HAクローン、NAクローンおよびM1 cDNAクローンを含有する3種の組換えプラスミドを得た。
【0053】
(実施例3:ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルス遺伝子のRT−PCRクローニング)
インフルエンザA/Sydney/5/94(H3N2)ウイルスは、M.Massare博士(Novavax,Inc.、Rockville、MD)から得た。ウイルスゲノムRNAを、BSL2封じ込め条件下で、Novavax、 Inc.においてTrizol LS試薬(Invitrogen)を使用して、酸フェノール抽出法により単離した。上記ウイルスRNAのcDNA分子を、逆転写、ならびにHAタンパク質、NAタンパク質、M1タンパク質、M2タンパク質およびNPタンパク質に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用するPCRにより、得た(表2)。上記PCR断片を、細菌サブクローニングベクターpCR2.1TOPOのEco RI部位の間に、クロ−ニングし、HAクローン、NAクローン、M1クローン、M2クローンおよびNP cDNAクローンを含有する5種の組換えプラスミドを得た。
【0054】
(実施例4:トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルスcDNAのバキュロウイルス転移ベクターへのクローニング)
pCR2.1TOPOベースプラスミドから、HA遺伝子、NA遺伝子またはM1遺伝子を、ポリヘドリン(polyhedron)遺伝子座内のTn7 att部位であって、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流、かつポリアデニル化シグナル配列の上流にpFastBac1バキュロウイルス転移ベクター(InVitorgen)中にサブクローニングした。上記ウイルス遺伝子を、T4 DNAリガーゼで連結した。HA遺伝子については,pCR2.1TOPO−HA由来のBam HI−Kpn I DNA断片を、Bam HI−Kpn I消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。NA遺伝子については、pCR2.1TOPO−NA由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。M1遺伝子に関しては、pCR2.1TOPO−M1からのEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。コンピテントE.coli DH5α細菌(InVitrogen)を、これらのDNA連結反応で形質転換し、形質転換されたコロニーが得られ、そして細菌クローンが単離された。得られたpFastBac1ベースのプラスミドであるpFastBac1−HA、pFastBac1−NA、およびpFastBac1−M1を、アガロースゲル上で、制限酵素マッピング(図4A)により特性分析した。クローン化された遺伝子の図1〜3に示されるヌクレオチド配列を、自動化されたDNA配列決定により決定した。DNA配列分析は、クローン化されたインフルエンザHA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子が、以前に公開されたこれらの遺伝子のヌクレオチド配列[インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)のNA遺伝子、HA遺伝子およびM1遺伝子(それぞれ、GenBank登録番号AJ404629、AJ404626およびAJ278646)]と同一であったことを示した。
【0055】
(実施例5:ヒトインフルエンザA/Sydney/5/94ウイルスcDNAのバキュロウイルス転移ベクターへのクローニング)
pCR2.1TOPOベースプラスミドから、HA遺伝子、NA遺伝子、M1遺伝子、M2遺伝子またはNP遺伝子を、ポリヘドリン(polyhedron)遺伝子座内のTn7 att部位であって、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの下流、かつポリアデニル化シグナル配列の上流においてpFastBac1バキュロウイルス転移ベクターにサブクローニングした。ウイルス遺伝子をT4 DNAリガーゼで連結した。HA遺伝子については,pCR2.1TOPO−hHA3由来のBam HI−Kpn I DNA断片を、Bam HI−Kpn I消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。NA遺伝子については、pCR2.1TOPO−hNA由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。M1遺伝子については、pCR2.1TOPO−hM1由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。M2遺伝子については、pCR2.1TOPO−hM2由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。NP遺伝子については、pCR2.1TOPO−hNP由来のEco RI DNA断片を、Eco RI消化pFastBac1プラスミドDNAに挿入した。コンピテントE.coli DH5α細菌を、これらのDNA連結反応で形質転換し、形質転換されたコロニーが得られ、そして細菌クローンが単離された。得られたpFastBac1ベースのプラスミドであるpFastBac1−hHA3、pFastBac1−hNA2、pFastBac1−hM1、pFASTBAC1−hM2およびpFASTBAC1−hNPを、アガロースゲル上で、制限酵素マッピングにより特性分析した。クローン化された遺伝子のヌクレオチド配列を、自動化されたDNA配列決定により決定した。DNA配列分析は、クローン化されたインフルエンザHA遺伝子、NA遺伝子、M1遺伝子、M2遺伝子およびNP遺伝子が、以前に公開されたこれらの遺伝子のヌクレオチド配列と同一であることを示した。
【0056】
(実施例6:複数のトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルス遺伝子をコードする多重遺伝子バキュロウイルス転移ベクターの構築)
複数のインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)ウイルス遺伝子を発現するpFastBac1ベースのbacmid転移ベクターを構築するために、最初にM1遺伝子を含有するpFastBac1−M1プラスミド由来のSna BI−Hpa I DNA断片をpFastBac1−HAのHpa I部位へクローン化した。この結果、独立した発現カセット内に別個のポリヘドリンプロモーターの制御下で発現するHA遺伝子およびM1遺伝子の両方をコードするpFastBac1−HAMプラスミドが得られた。
【0057】
最終的には、HA発現カセットおよびM1発現カセットを含有するpFastBac1−HAM由来のSna BI−Avr II DNA断片を、Hpa I−Avr II消化pFastBacI−NAプラスミドDNAに転移した。この結果、HA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子の発現のための3種の独立した発現カセットをコードし、別個のポリヘドリンプロモーターの制御下で発現されるプラスミドpFastBac1−NAHAMが得られた(図4B)。
【0058】
別の実施例で、pFASTBAC1−hHA3(実施例5を参照のこと)由来のH3遺伝子を異型インフルエンザVLPの発現および産生のための第4のインフルエンザウイルス遺伝子として、pFASTBAC1−NAHAMにクローン化した。
【0059】
(実施例7:昆虫細胞において、トリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99ウイルスのNA遺伝子、HA遺伝子およびM1遺伝子をコードする多重組換えバキュロウイルスの生成)
上記で得られた多重bacmid転移ベクターpFastBac1−NAHAMを、昆虫細胞において発現させるためのトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HA遺伝子、NA遺伝子およびM1遺伝子をコードする多重組換えバキュロウイルスを生成するために、使用した。組換えbacmid DNAを、コンピテントE.coli DH10BAC細胞(InVitrogen)に含まれているpFastBac1−NAHAM DNAおよびAcMNPCバキュロウイルスゲノムとの間のポリヘドリン配列およびTn7 att DNA配列における部位特異的組換えにより産生した(図4B)。組換えbacmidDNAを、mini−prepプラスミドDNA法により単離し、カチオン性脂質CELLFECTIN(InVitrogen)を使用してSf−9S細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションに続き、組換えバキュロウイルスを単離し、プラークを精製し、そしてSf−9S昆虫細胞において増幅した。ウイルスストックをSf−9S昆虫細胞において調製し、トリインフルエンザウイルスHA遺伝子産物、NA遺伝子産物およびM1遺伝子産物の発現を特性分析した。得られた組換えバキュロウイルスを、bNAHAM−H9N2と命名した。
【0060】
(実施例8:昆虫細胞におけるトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99タンパク質の発現)
無血清培地(HyQ SFM、HyClone、Ogden、UT)中で28℃にて振盪フラスコにおいて懸濁培養物として維持されたSf−9S昆虫細胞を、細胞密度2x106細胞/mlで、組換えバキュロウイルス、bNAHAM−H9N2で、感染多重度(MOI)3pfu/細胞で、感染させた。上記ウイルス感染を、インフルエンザタンパク質の発現が可能なように72時間続けた。感染昆虫細胞におけるトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HAタンパク質およびM1タンパク質の発現を、SDS−PAGEおよびウェスタン免疫ブロット分析により確認した。SDS−PAGE分析を、還元および変性条件下で4〜12%直線勾配NuPAGEゲル(InVitrogen)で実施した。ウェスタン免疫ブロット分析における一次抗体は、CDCから得られたトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)に対して惹起されたポリクローナルウサギ抗血清、およびインフルエンザM1タンパク質に対するモノクローナルマウス抗血清(Serotec,UK)であった。ウェスタン免疫ブロット分析のための2次抗体は、ウサギまたはマウスIgG(H+L)に対して惹起されたアルカリホスファターゼ結合体化ヤギIgG抗血清(KirkegaardおよびPerry Laboratories、Gaithersburg、MD、USA)であった。これらの分析の結果(図5)は、HAタンパク質およびM1タンパク質が、バキュロウイルス感染昆虫細胞において発現されることを示した。
【0061】
(実施例9:組換えトリインフルエンザH9N2ウイルス様粒子および高分子タンパク質複合体の精製)
インフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)HA、NAおよびM1遺伝子産物を発現する組換えバキュロウイルスbNAHAM−H9N2で感染したSf−9S昆虫細胞からの培養上清(200ml)を、低速遠心分離により、収穫した。培養上清とはSorval RC−5B超高速遠心分離機で、GS−3ローターを使用して、10,000x gおよび4℃で、1時間の遠心分離により清澄化した。ウイルスおよびVLPを、Sorval TH−641スイングローターを使用して、Sorval
ODT−65超遠心分離機における27,000rpmおよび4℃で3時間の遠心分離により、清澄にした培養上清から単離した。上記ウイルスペレットを1mlのPBS(pH7.2)に再懸濁し、20〜60%(重量/容量)の不連続ショ糖段階勾配にローディングし、Sorval TH−641ローターを使用して、Sorval OTD−65超遠心分離機で、27,000rpm、4℃で16時間、遠心分離をして溶解した。画分(0.5ml)を、ショ糖勾配の上部から収集した。
【0062】
ショ糖勾配画分におけるインフルエンザタンパク質を、上記の実施例6で記載したように、SDS−PAGEおよびウェスタン免疫ブロット分析により分析した。上記HAタンパク質およびM1タンパク質は、ウェスタン免疫ブロット分析で示されるように、同じショ糖勾配画分(図6)に見出され、それはHAタンパク質およびM1タンパク質が高分子タンパク質複合体として会合していることを示唆した。HAタンパク質およびM1タンパク質はまた、ショ糖勾配の全体にわたる画分で見出されており、それはこれらの組換えウイルスタンパク質が、異なる密度および組成の高分子タンパク質複合体と会合していることを示唆した。
【0063】
(実施例10:組換えトリインフルエンザH9N2 VLPおよびタンパク質のゲル濾過クロマトグラフィーによる分析)
VLPおよびモノマータンパク質のようなタンパク質高分子は、それらの質量サイズおよび形状の基づいてゲル濾過またはサイズ排除クロマトグラフィーカラム上で、別々に移動する。ショ糖勾配画分からの組換えインフルエンザタンパク質が、モノマータンパク質であるかVLPのような高分子タンパク質複合体であるかを決定するために、樹脂床容量14mlのSepharose CL−4B(Amersham)を有するクロマトグラフィーカラム(7mm x 140mm)を調製した。サイズ排除カラムをPBSで平衡化し、見かけ分子量が、それぞれ2,000,000;20,000;および1,357であるデキストランブルー2000、デキストランイエローおよびビタミンB12(Amersham Pharmacia)で較正し、カラムのボイドボリュームを確認した。デキストランブルー2000は、そのボイドボリューム(6ml画分)でカラムから溶出した。予想されたように、組換えインフルエンザタンパク質複合体もまた、そのボイドボリューム(6ml)でカラムから溶出した。この結果は、VLPのような高分子量の高分子タンパク質複合体に特徴的であった。カラム画分におけるウイルスタンパク質を、実施例6で上記されたようにウェスタン免疫ブロット分析により検出した。上記M1タンパク質を、ボイドボリューム画分で検出した(図7)。予想されたように、バキュロウイルスタンパク質もまたそのボイドボリューム中にあった。
【0064】
(実施例11:組換えインフルエンザVLPの電子顕微鏡検査法)
ショ糖勾配で単離され、組換えトリインフルエンザタンパク質を含有する高分子タンパク質複合体が、インフルエンザビリオンと類似する形態を有するか否かを決定するために、陰性染色サンプルの電子顕微鏡試験を実施した。組換えトリインフルエンザA/Hong Kong/1073/99(H9N2)タンパク質複合体を濃縮し、そして実施例7に記載されているように不連続ショ糖勾配上での超遠心分離により培養上清から精製した。ショ糖勾配画分のアリコートを、pH7.2のPBS中2%グルタルアルデヒドで処理し、新たな放出されたプラスチック/カーボンコートされたグリッドに吸収させ、蒸留水で洗浄した。上記サンプルを2%リンタングステン酸ナトリウム、pH6.5で染色し、透過型電子顕微鏡(Philips)を使用して観察した。2つのショ糖勾配画分からの組換えトリインフルエンザH9N2タンパク質複合体の陰性染色サンプルの電子顕微鏡写真は、2つのショ糖勾配画分からの球状粒子および桿状粒子を示した(図8)。上記粒子は、異なるサイズ(60および80nm)および形態を有する。両方の型の粒子の、より大きな複合体ならびに桿状粒子もまた検出された(図8)。観察された全てのタンパク質複合体構造物は、インフルエンザウイルスのHAペプロマーおよびNAペプロマーに類似するスパイク様表面突起を示した。上記80nm粒子の野生型インフルエンザウイルス粒子のサイズおよび外観に類似していたので、これらの構造は、おそらくエンベロープインフルエンザVLPを示していた。ほぼ60nmの小さい方の粒子は、上記のVLPとは形態学的にも構造的にも異なるサブウイルス粒子を、おそらく示した。
【0065】
(実施例12:血球凝集反応アッセイによるインフルエンザタンパク質の機能的な特性の分析)
精製したインフルエンザVLPおよびタンパク質が、インフルエンザウイルスに特徴的な血球凝集反応活性およびノイラミニダーゼ活性のような機能的特性を有するか否かを決定するために、精製されたインフルエンザVLPおよびタンパク質を、血球凝集反応アッセイおよびノイラミニダーゼアッセイについて試験した。
【0066】
血球凝集反応アッセイに関しては、インフルエンザVLPまたは陽性対照野生型インフルエンザウイルスA型を含むショ糖勾配画分の一連の2倍希釈を、調製した。ついでそれらを、PBS(pH7.2)中の0.6%モルモット赤血球と混合し、4℃で1〜16時間インキュベートした。陰性対照として、PBSを使用した。血球凝集反応の程度とは、視覚的に決定されモルモット赤血球を凝集させることができる画分の最高希釈倍率を決定した(図9)。精製したインフルエンザVLPおよびタンパク質について観察された最高血球凝集反応力価は、1:4000であった。これは、1:2000であった野生型インフルエンザ対照により示された力価より高かった。
【0067】
(実施例13:ノイラミニダーゼアッセイによるインフルエンザタンパク質の機能的特性の分析)
インフルエンザVLP含有ショ糖勾配画分におけるノイラミニダーゼ活性の量を、ノイラミニダーゼアッセイにより決定した。このアッセイにおいて、NA(酵素)は、基質(フェチュイン)に作用し、そしてシアル酸を遊離させた。酵素活性を停止させるために、亜ヒ酸塩試薬を添加した。遊離したシアル酸の量を、遊離のシアル酸の量に比例してピンク色を生じるチオバルビツール酸で化学的に決定した。色(発色団)の量を、波長594nmで、分光光学計において測定した。図8に示されるデータは、ショ糖勾配のVLP含有画分によリ、顕著な量のシアル酸が産生され、そしてこれらの画分が血球凝集反応活性を示す画分に対応することを示した。
【0068】
(実施例14:機能的同型組換えインフルエンザH9N2 VLPによるBALB/cマウスの免疫)
組換えインフルエンザVLPの免疫原性を、マウスを免疫して、次いで免疫血清のウェスタンブロット分析により確認した。トリインフルエンザウイルスA型/Hong Kong/1073/99由来のHAタンパク質、NAタンパク質およびM1タンパク質を含みショ糖勾配で精製された組換えVLP(1μg/注射)を、0日目と28日目に十匹(10)の雌性BALB/cマウスの三角筋部に皮下接種した(図11)。PBS(pH7.2)を、五匹(5)のマウスに陰性対照として投与した。それらのマウスの眼窩上腔から、−1日目(予備採血)、27日目(1次採血)および54日目(2次採血)に採血した。一晩凝固させそして遠心分離した後、血液サンプルから血清を収集した。
【0069】
ウェスタンブロット分析については、200ngの不活性化トリインフルエンザウイルスA型H9N2または低温適合トリインフルエンザウイルスA型H9N2、およびSee
Blue Plus 2予備染色タンパク質標準(InVitrogen)を、変性し(95℃、5分)そして還元条件下(10mM β−メルカプトエタノール)、MES緩衝液中4%〜12%ポリアクリルアミド勾配NuPAGEゲル(InVitrogen)上で、172ボルトで、ブロモフェノールブルー追跡用色素が消失するまで電気泳動にかけた。タンパク質ゲルについては、電気泳動されたタンパク質を、コロイド状クーマシーブルー試薬(InVitrogen)で染色することにより可視化した。タンパク質を、標準的ウェスタンブロット手順により、メタノール中でゲルからニトロセルロース膜へ転写した。VLP免疫マウスからの血清および不活性化したトリインフルエンザウイルスH9N2で免疫したウサギからの血清(陽性対照血清)を、PBS溶液(pH7.2)中で1:25および1:100にそれぞれ希釈して、1次抗体として使用した。タンパク質結合膜(5%カゼインでブロックした)を、一次抗体と室温で60分間、一定に振盪しながら、反応させた。Tween20を含有するリン酸緩衝化生理食塩溶液で一次抗体膜を洗浄した後、2次抗血清[ヤギ抗マウスIgG−アルカリホスファターゼ結合体(1:10,000)またはヤギ抗ウサギIgG−アルカリホスファターゼ結合体(1:10,000)]を、上記膜と60分間反応させた。2次抗体膜を、Tween20を含有するリン酸緩衝化生理食塩水溶液で洗浄した後に、膜上の抗体結合タンパク質を、NBT/BCIP(InVitrogen)のような発色性基質で発色させて可視化した。
【0070】
ウェスタンブロット分析の結果(図12)は、ウイルスHAタンパク質およびウイルスM1タンパク質(それぞれ、75kdおよび30kd)と同様の分子量を有するタンパク質が、陽性対照血清(図12B)および組換えインフルエンザH9N2 VLPで免疫されたマウスからの血清(図12A)へ結合したことであった。これらの結果は、組換えインフルエンザH9N2 VLP単独が、投与経路によりマウスにおいて免疫原性であることを示した。
【0071】
以下の参考文献は、本明細書に参考として援用される:
【0072】
【化1】
【0073】
【化2】
【0074】
【化3】
(他の実施形態)
当業者は、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を認識するかまたは慣用的にすぎない実験しか使用せずに、確認し得る。そのような等価物は、特許請求の範囲に包含されるよう意図されている。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
(配列表)
【表3−1】
【表3−2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−46715(P2011−46715A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208644(P2010−208644)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【分割の表示】特願2006−518925(P2006−518925)の分割
【原出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(504187124)ノババックス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【分割の表示】特願2006−518925(P2006−518925)の分割
【原出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(504187124)ノババックス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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