機能繊維シートおよび緑化用シートおよび緑化材充填物および緑化工法
【課題】表土中の土壌微生物の繁殖を促進して活性化して、健全かつ早期の緑化を実現する機能繊維シートを提供する。
【解決手段】単一のシート体6からなる,又は,シート体6を複数枚積層してなる,機能繊維シートであって、シート体6は、合成樹脂からなる繊維に保温材を付加した第1の機能繊維2と、合成樹脂からなる繊維に多孔質体を付加した第2の機能繊維3と、合成樹脂からなる繊維に吸水材を付加した第3の機能繊維4と、合成樹脂からなる繊維に有機質成分を付加した第4の機能繊維5とをランダムに交絡させてシート状に形成したことを特徴とする機能繊維シート1a,1bによる。
【解決手段】単一のシート体6からなる,又は,シート体6を複数枚積層してなる,機能繊維シートであって、シート体6は、合成樹脂からなる繊維に保温材を付加した第1の機能繊維2と、合成樹脂からなる繊維に多孔質体を付加した第2の機能繊維3と、合成樹脂からなる繊維に吸水材を付加した第3の機能繊維4と、合成樹脂からなる繊維に有機質成分を付加した第4の機能繊維5とをランダムに交絡させてシート状に形成したことを特徴とする機能繊維シート1a,1bによる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌微生物を活性化させるための複数種類の機能繊維をランダムに交絡させて形成してなる機能繊維シート,および,この機能繊維シートを用いてなる緑化用シート又は緑化材充填物,および,緑化用シート又は緑化用充填物を用いて表土中の土壌微生物の繁殖を促進して活性化することにより植物の生育を促進して,健全かつ早期の緑化を実現する緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事後の環境修復や土砂災害からの復旧などにおいて、裸地になった土地の緑化は植生の回復と土壌の保全の観点から重要である。これまでの緑化技術では、施工初期において植物の生育が十分でなく、土壌が流出しやすいという課題があった。
また、従来の緑化技術では生育の早い外来種のイネ科やマメ科植物が多用されてきたが、近年、生物多様性保護の観点から地域固有の在来種による緑化が注目されてきたため、施工地近辺の表土を活用した緑化工法、すなわちマザーソイル工法(非特許文献1を参照)、自己復元緑化工法(非特許文献2を参照)などが行われている。しかしながら、前者の工法を採用する場合は、施行地周辺の表土を活用した緑化工法は、表土を大量に確保する必要性があるという課題があり、また、後者の工法を採用した場合は、表土を採取した場所の生態系を乱してしまうという課題があった。
その一方で、近年、保温性、保湿性、消臭性など、様々な機能が付加された機能性繊維が多数開発され、特に衣類などの生活日用品などに利用されている。しかしながら、緑化用シートについては、合成繊維からなる構造を有してはいるものの、これらの機能性繊維を有効に活用して緑化の効率を高めるような利用はされていないのが現状である。
【0003】
また、火山活動による火砕流堆積地、大雨などによる土石流堆積地、山火事災害地などの荒廃地、砂漠などを緑化したり、樹林化したりする試みの中で、様々な資材や方法が開発されてきた。このうち、人里離れた場所や立ち入りが困難な場所、対象範囲が広大でシート体などの敷設が難しい場所などにおいては、植物種子や肥料など植物の生育に必要な資材の一式が充填されており、一度の散布により、後のメンテナンスが不要なバッグ状の植生袋を用いるのが便利である。
植生袋の従来例として、不織布などで作った袋体の中に、土壌,土壌改良材,肥料,保水材,植物共生微生物,植物の種子,苗などを充填した乾式緑化資材や、土壌,土壌改良材,肥料,植物共生微生物,浸食防止材,混和材,種子に水を加えた湿式緑化資材、地盤を安定化させるセメント系固化剤などがあり、これらを人力で施工したり、ヘリコプターなどの航空機から散布したりする方法が知られている。しかしながら、乾燥し易い荒廃地や施工面において土壌微生物の活性化を最優先に考慮して開発された緑化材資材についてはこれまで知られていなかった。
本願発明と同一の解決すべき課題を有する先行技術は、現時点では発見されていないが、関連する技術分野の先行技術としては以下に示すようなものが知られている。
【0004】
特許文献1には「有機肥シート」という名称で、塩化ビニールシートを使用せずに、地熱の保温、保湿や雑草の成長抑制と有機肥料の施肥と有益生物の増殖を同時に行うことのできるシート体に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明である有機肥シートは、藁,椰子がら,古紙などの生物分解性の長い繊維と、水,有機肥料,化学肥料,中和剤,粘化剤,保湿剤などを適宜に組み合わせて混ぜ合わせ、加熱、圧延することで柔軟な不織布状に成型したことを特徴とするものである。また、この有機肥シートは、その表裏を貫いて通気および吸水のための小さな孔や表面に凹凸を施し、作物に有益な細菌、微生物、昆虫の卵などを浸透、定着させてもよい。
上述のような特許文献1に開示される発明によれば、作物を植えつけると雨や散水時に水が通気吸水孔から染み込み、ふやけて多孔質の毛布のようになって畦を覆い、地熱を保温し、地表を保湿することで農作物の成長を促し、徐々に有機肥料と有益生物を土壌に供給し、他の成分も徐々に生物分解して有機肥料となるために、土壌が健全になり、病害に強く、食品安全性の高い農作物を健全に育てることができる。また、有害な産業廃棄物を発生させず、環境保全にも貢献できる。さらに、従来のビニールシートの敷設作業と施肥作業に当たる作業が一度に行われ、収穫後は撤去する必要がないため農作業にかかる労力を省力化することができる。
【0005】
特許文献2には、「野芝の植生マット」という名称で、養生中に種子の環境における保湿性や保温性を確保するための植生マットに関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明である植生マットは、紙からなるベース部上に、少なくとも発芽前の野芝の種子を重ね、その上にセルロースからなる不織布を介して有孔なプラスチックフィルムを重ねて、全体を一体化してなることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、セルロースからなる不織布によって保水又は/及び保湿部材性を向上でき、さらに万一プラスチックフィルムが万一破損しても種子を保護できるという効果を有する。
【0006】
特許文献3には「微生物固定化担体」という名称で、微生物を固定して繁殖状態を保持させるための微生物固定化担体に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明である微生物固定化担体及びその製法は、太い繊維状素材からなる3次元構造体の内部に、細い繊維及び/または細かい多孔性粒状物を充填せしめてなることを特徴とするものである。また、この微生物固定化担体の太い繊維状素材からなる3次元構造体は、熱融着法により作られた500デニール以上の繊維からなる不織布であり、さらに、この微生物固定化担体における細い繊維状充填物は10デニール以下の合成繊維、再生繊維、天然繊維またはセラミック、キトパール、キトサン、麦飯石、活性炭である。
上記構成の特許文献3に開示される発明によれば、微生物固定化担体の機能を付与するとともに全体としての取扱の容易性及び経済性を併せ持たせ、生物機能を利用した化学物質の生産、水質浄化、廃棄物処理等に広く適用することが出来る。
【0007】
特許文献4には「表土保護シートの製造方法」という名称で、道路建設、農地や宅地造成などによって生じる裸地や法面、あるいは荒廃裸地等の土壌浸食防止を図る表土保護シートに関する発明が開示されている。
特許文献4に開示される発明である表土保護シートは、本発明と同一の出願人によるものであり、特許文献4中に記載される符号をそのまま用いて説明すると、繊度の異なる複数種類の撥水性繊維4,6〜8を絡み合わせて1〜200mmの厚みに形成したシート状体2からなる表土保護シート1であって、前記撥水性繊維の繊度が1〜50デシテックスであるとともに繊維長が10〜100mmであり、かつ、前記複数種類の撥水性繊維4,6〜8のうち少なくとも1種類は、加熱によって溶着する接着繊維4であることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献4に開示される発明によれば、表土保護シートの復元力を維持させることができるため、長期間に亘って嵩高を維持可能であり、降雨水等の水との接触、あるいは経時変化によるシートの弾性の低下に起因する「へたり」が防止できる。従って、長期間に亘って被保護表土の浸食を防止することが可能である。また、この「へたり」が防止されることもあって、種子や培地が流出することを防止でき、十分な植生環境を形成できる。従って、二酸化炭素低減を可能としながら、表土の浸食も防止することができる。
【0008】
さらに、改良された植生袋や、植生袋を用いた工法の具体的な事例としては、以下に記載するような文献が知られている。
特許文献5には「植生袋」という名称で、発芽した種子の貫通性を有し,かつ,植生基盤材を流出させない目付量である不織布の袋に、保水材を入れた植生袋が開示されている。
特許文献6には「乾式緑化資材とスラリー状緑化資材とを用いる重ね播き航空緑化工法」という名称で、荒れ地に満遍なく散布可能なスラリー状緑化資材と、荒れ地に植生基盤を散布させるのに適した乾式緑化資材を重ね播きすることによって、荒れ地を短期間に緑化する方法が開示されている。
特許文献7には「緑化基盤造成方法および法面緑化構造体」という名称で、急傾斜地や山岳地域などの大型機器の搬入が困難な施工現場(例えば、荒廃地や、法面など)において機械を用いることなく緑化基盤層を造成する緑化基盤造成方法および法面緑化構造体に関し、落石防止のための金網と植生袋とを組み合わせた緑化工法が開示されている。
特許文献8には「表土を利用した法面緑化方法及び植生袋」という名称で、生物多様性保護の観点から、施工地域の表土を利用した法面緑化方法及び植生袋に関する発明が開示されている。
特許文献9には「荒廃地の樹林化方法」という名称で、荒廃地の樹林化方法に関し、詳しくは、火山灰の降灰地域やはげ山などの広範囲にわたる荒廃地を、簡易な方法で早期に樹林化することのできる荒廃地の樹林化方法に関し、複数の樹木苗を密に移植して形成した植物群落単位を,間隔を設けて多数配置し、この植物群落単位間に在来草本種子を播種施工する緑化工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−263688号公報
【特許文献2】特開2010―183856号公報
【特許文献3】特開平8−103272号公報
【特許文献4】特開2010−101105号公報
【特許文献5】特開2004−100327号公報
【特許文献6】特開平09−262010号公報
【特許文献7】特開2006−336193号公報
【特許文献8】特開2004−278229号公報
【特許文献9】特開2000−139113号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】清水正二「埋土種子を利用したマザーソイル工法」四国技報6(12):35−36
【非特許文献2】山里剛史ら「風土工学理念による緑化工法について(自己復元緑化工法試験施工報告)」日本感性工学会予稿集:巻6頁95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に開示される発明の場合、土壌微生物の繁殖を好適に促進できると考えられるものの、この有機肥シートはその全てが生分解性を有する材質により構成されるため、長期間にわたり土壌表面を保護して、雨水による土壌浸食を防止することはできなかった。
【0012】
特許文献2に開示される発明の場合、植生マットにおけるプラスチックフィルムを野芝の芽が成長する過程において取外さなければならない。この場合、植生マットを施工した後に別途プラスチックフィルムを取外す手間がかかる上、使用済のプラスチックフィルムを廃棄しなければならないので、廃棄のためのコストもかかり不経済であった。
【0013】
特許文献3に開示される発明は、そもそも緑化用シートとして使用することを目的としていないため、緑化対象面に緑化用シートとして敷設した場合に、3次元構造体の内部の収容物が雨水の流動により移動してしまう恐れがあった。
この場合、微生物固定化担体による土壌微生物の活性促進効果が、施工面の全面において均質に発揮されないおそれがあり、施工面全域を効率よく緑化することができない恐れがあった。
また、特許文献3に開示される発明の場合、土壌微生物を活性化できたとしても、3次元構造体の空隙率が90%以上でない場合は、シートの内部空間を雨水の導水路として有効に活用できない恐れがある上、3次元構造体内部(シート)への光の透過が不十分となり植物種子を好適に発芽させることができないおそれもあった。
すなわち、土壌微生物を活性化する機能を有することが、必ずしも、植物の生育に適した環境が形成されることを意味するのではなかった。
【0014】
特許文献4に開示される発明の場合は、施工面における表土の保護効果が期待できるものの、施工面に新規に導入される土がマサ土などの肥料分をほとんど含まない土である場合には、菌根菌を含む土壌微生物が定着しにくく、緑化に時間がかかるという課題があった。
【0015】
特許文献5に開示される発明は、不織布の袋に保水剤が入れられているものの、火砕流荒廃地などは夏場の乾燥が激しく、降雨が少ないために、植物の発芽や生育に必要な水分が得られないという課題があった。つまり、保水機能を有していない不織布を用いた場合、その内部に保水材を充填しても十分な保水機能を期待することはできなかった。
【0016】
特許文献6に開示される発明は、乾式緑化資材とスラリー状緑化資材とを組み合わせた重ね捲き航空緑化工法であり、スラリー中に含まれる水分は、施工後直ちに蒸発してしまい、上記特許文献5の場合と同様に、夏場の乾燥によって、植物の発芽や生育に必要な水分が得られないという課題があった。
【0017】
特許文献7に開示される発明は、法面などにおける落石防止のための金網と植生袋とを組み合わせた工法であるが、当該工法の目的が、施工地斜面での落石防止と植生回復であり、施工地に元来生息する土壌微生物の増殖や活性化を重視したものではなかった。
【0018】
特許文献8に開示される発明は、非特許文献1と同様に、施行地周辺の表土を活用した緑化工法は、表土を大量に確保する必要性があり、表土を採取した場所の生態系を乱してしまうという課題があった。
【0019】
特許文献9に開示される発明は、複数の樹木苗を密に移植して形成した植物群落単位を、間隔を設けて多数配置し、間に在来草本種子を播種施工する工法であるが、当該工法は綿密な植栽計画が必要であり、火砕流荒廃地のような大面積での施工には不向きであった。
【0020】
通常、荒廃地や法面は、植生が無いために肥料成分に乏しく、表層部分が乾燥しやすいという共通の性質を有しており、このため、自然な植生の発生を促すことが難しかった。上述の特許文献5〜9に開示される各種資材や工法においては、植物の種子や苗を発芽・生育させるために保水性を有する材料を用いて保水機能を持たせる構成にはなってはいるが、植生の形成には水分と肥料成分を与えるのみでは不十分であり、これら以外にも、例えば、土壌微生物の存在や、保温性、通気性、排水性などの機能を被施工面の表層部がバランスよく備えている必要がある。すなわち、被施工面である荒廃地や法面を緑化するには、当然ながらそのエリアが、草地や森林における表層部の状態に近い状態であることが好ましい。
しかしながら、このような植生に適した土壌の表層部は、通常、植生が形成されることによって初めて生じるものである。従って、植生が存在していない環境に、予め、植生の存在によって初めて生じるような土壌環境を人工的に形成することは極めて困難であった。
【0021】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、施工面を形成する土壌が肥料成分に乏しく,土壌微生物を活性化することが難しい状況であっても、その土壌の表面において確実に土壌微生物を活性化することができ、土壌表面を長期間にわたって均質に保温、保湿しつつ、かつ、肥料成分を供給して植物種子(植物)の発芽や生育に適した環境を提供するとともに、長期間にわたって土壌表面を保護できる機能繊維シート,および,それを用いた緑化用シートまたは緑化材充填物,および,緑化用シートまたは緑化材充填物を用いた緑化工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明である機能繊維シートは、単一のシート体からなる,又は,このシート体を複数枚積層してなる,機能繊維シートであって、シート体は、合成樹脂からなる繊維に保温材を付加した第1の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に多孔質体を付加した第2の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に吸水材を付加した第3の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に有機質成分を付加した第4の機能繊維とをランダムに交絡させてシート状に形成したことを特徴とするものである。
上記構成の発明において第1の機能繊維は、機能繊維シートが敷設される施工面を保温するという作用を有する。また、第2の機能繊維は、機能繊維シートが敷設される施工面を保水するという作用を有する。さらに、第3の機能繊維は、施工面上に土壌微生物の棲みかを提供するという作用を有する。また、第4の機能繊維は施工面に肥料成分又は土壌微生物の栄養源となる物質を供給するという作用を有する。
そして、請求項1に係る機能繊維シートが、上述のような第1〜4の機能繊維がランダムに交絡させてなることにより、機能繊維シートが敷設される施工面の全域において均質に上述のような保温作用、保水作用が発揮されるとともに、土壌微生物の棲みかとその活性化のための栄養源も提供するという作用を有する。
また、第1〜4の機能繊維の主原料を合成樹脂とすることで、請求項1記載の機能繊維シートの経時変化に伴う「へたり」を抑制するという作用を有する。
【0023】
請求項2記載の発明である機能繊維シートは、合成樹脂からなる繊維をランダムに交絡させてなる単層又は複数層からなる繊維シートと、この繊維シートを構成する繊維の表面に接着材を介して付着される粉末状又は粒子状の機能材料とを有し、機能材料は,保温材と,多孔質体と,吸水材と,有機質成分とを少なくとも含有することを特徴とするものである。
上記構成の発明において、繊維シートは機能材料である保温材と、多孔質体と、吸水材と、有機質成分とを少なくとも担持するとともに、機能繊維シートの「へたり」を抑制するという作用を有する。
また、請求項2記載の発明において保温材は,機能繊維シートの保温性を高めるという作用を、多孔質体は,土壌微生物の棲みかを提供するという作用を、吸水材は,機能繊維シートの保水性を高めるという作用を、有機質成分は,土壌微生物を繁殖させるための栄養分を供給するとともに,植物の生育を促進させる栄養分を供給するという作用をそれぞれ有する。
【0024】
請求項3記載の発明である機能繊維シートは、請求項1又は請求項2に記載の機能繊維シートであって、機能繊維シートの厚みは1〜50mmの範囲内であり、機能繊維シートの空隙率は90%以上であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明と同じ作用に加え、機能繊維シートの厚みを1〜50mmの範囲内とし、機能繊維シートの空隙率を90%以上とすることで、機能繊維シートの内部の空隙を雨水の導水路として機能させるという作用を有する。また、請求項3記載の発明の場合、機能繊維シートの空隙率が大きいので、内部にまで十分に光が届いて、機能繊維シートの内部における植物種子の発芽およびその生育を促進するという作用を有する。
【0025】
請求項4記載の発明である機能繊維シートは、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の機能繊維シートであって、機能繊維シートに少なくとも1種類の土壌微生物を添加したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明と同じ作用に加えて、機能繊維シートに予め土壌微生物を添加しておくことで、施工後の機能繊維シート内における土壌微生物の増加速度を速めるという作用を有する。
なお、請求項4記載の発明においては、機能繊維シートと別体に土壌微生物を添加してもよいし、土壌微生物が予め添加された有機質成分や多孔質体を合成樹脂からなる繊維に添加して第2の機能繊維や第4の機能繊維を構成することにより、機能繊維シートに土壌微生物を添加しても良い。
【0026】
請求項5記載の発明である緑化用シートは、生分解性を有する材質からなる基布と、この基布上に積層される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートと、この機能繊維シート上に覆設される生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強ネットと、を有することを特徴とするものである。
上記構成の請求項5記載の発明における基布は、基布の構成材料が生分解されて消失するまでの間、雨水や人工的に給水される水により,機能繊維シートに付加された有機質成分が施工面側に溶出して流亡するのを緩やかにするという作用を有する。また、請求項5記載の発明における機能繊維シートは、上記請求項1乃至請求項4のそれぞれに記載の発明と同じ作用を有する。そして、補強ネットは、緑化用シート内部への水や光の浸入を確保しつつ、機能繊維シートの施工面への設置を容易にするという作用を有する。
特に、補強ネットを,生分解性を有する材質により構成した場合は、時間の経過とともに生分解されて消失するという作用を有する。
【0027】
請求項6記載の発明である緑化用シートは、請求項5記載の緑化用シートであって、基布と機能繊維シートの間に植物種子を分散した状態で配置したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明と同じ作用に加えて、緑化シートに予め植物種子を付加しておくことで、緑化用シートを用いた施工面の緑化速度を速めるという作用を有する。
【0028】
請求項7記載の発明である緑化材充填物は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートからなり,内部に中空部を備えた袋体と、中空部内に充填される充填材とを有し、充填材は,少なくとも植生基盤材を含んでなることを特徴とするものである。
上記構成の請求項7記載の発明において、袋体を構成する機能繊維シートは、施工面に対して,請求項1乃至4のそれぞれに記載の発明と同じ作用を有する。また、袋体は、その中空部に充填材を収容保持するという作用を有する。
さらに、少なくとも植生基盤材を含んでなる充填材は、施工面上に、植物の根茎の生育に適した環境を十分な厚みをもって形成させるという作用を有する。
また、機能繊維シート内だけでなく、充填材中にも保水できるので、請求項7記載の緑化材充填物が配設された場所における施工面の保水性を飛躍的に高めるという作用も有する。さらに、施工面と請求項7記載の緑化材充填物との間に溜まった水分を、緑化材充填物内に取り込むことで請求項7記載の緑化材充填物を構成する機能繊維シート内及び充填材中の土壌微生物の活性を促進して、植物体の生育を促進するという作用を有する。特に、土壌微生物の一種である菌根菌は、植物の根の組織内に入り込んで共生して、植物の根の機能を補うという作用を有する。
そして、機能繊維シートからなる袋体の中空部に充填材を充填してなる緑化材充填体は、施工面を被覆して、雨水や降雪による浸食から強固に保護するという作用を有する。
請求項7記載の発明は、施工面上にスポット状に植生の形成に適したエリアを形成させるという作用を有する。
【0029】
請求項8記載の発明である緑化材充填物は、請求項7記載の緑化材充填物であって、機能繊維シートの厚み部分,又は,充填材中,あるいは,これらの両方に、植物種子,植物苗の根株から選択される少なくとも一方を収容したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明と同じ作用を有する。
また、請求項8記載の発明によれば、機能繊維シートの厚み部分,又は,充填材中,あるいは,これらの両方に、植物種子,植物苗の根株から選択される少なくとも一方を収容しておくことで、請求項8記載の緑化材充填物を配設した後に、緑化が開始される時期を早めるという作用を有する。
【0030】
請求項9記載の発明である緑化材充填物は、請求項7又は請求項8記載の緑化材充填物であって、袋体の外側に,生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強材を配設したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項9記載の発明は、請求項7又は請求項8記載の発明と同じ作用に加えて、補強材は袋体を補強して緑化材充填物の強度を高めるという作用を有する。
特に、補強材を,生分解性を有する材質により構成した場合は、時間の経過とともに生分解されて消失するという作用を有する。
【0031】
請求項10記載の発明である緑化材充填物は、請求項9記載の緑化材充填物であって、補強材の目合いから機能繊維シートを外側に向ってはみ出させたことを特徴とするものである。
上記構成の請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明と同じ作用に加えて、請求項10記載の発明では、補強材が設けられた場合でも機能繊維シートを、直接、施工面に接触させるという作用を有する。これにより、請求項10記載の緑化材充填物が配設される領域の地表面からの水分の蒸発を好適に抑制するという作用を有する。加えて、施工面から請求項10記載の緑化材充填物への水分の吸い上げも良好となり、請求項10記載の緑化材充填物内部、及び、この緑化材充填物が配設される領域の地表面の表層部分に生息する土壌微生物の活性化を促進するという作用を有する。
従って、請求項10記載の発明は、補強材が設けられた際に機能繊維シートと施工面とを密着させるという作用を有する。これにより、施工面と請求項10記載の緑化材充填物との間における水,土壌微生物,及び、植物体の根の移動を可能にしつつ、降雨時又は人工的な散水時に、緑化材充填物と施工面との間に溜まった水を、緑化材充填物内において植物の生育及び土壌微生物の繁殖に好適に利用して、施工面の緑化速度を速めるという作用を有する。
【0032】
請求項11記載の発明である緑化工法は、被緑化対象である地表面上に,請求項5又は請求項6に記載の緑化用シートを敷設して、この緑化用シートに雨水を,又は,人工的に水を供給して、緑化シート中に内包される植物種子に由来する植物,緑化シートに自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とするものである。
上記構成の請求項11に記載の発明において、緑化用シートを敷設する工程は、施工面上に人為的に土壌微生物の繁殖に適した環境を形成し、それにより、植物種子(植物)の生育に適した環境を施工面上に人為的に形成するという作用を有する。そして、この工程の後に、緑化用シートに水を供給して、緑化シート中に内包される植物種子に由来する植物,緑化シートに自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることで、植物の生育を促進させながら施工面上を緑化するという作用を有する。
【0033】
請求項12記載の発明である緑化工法は、被緑化対象である地表面上に,請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の緑化材充填物を単独で,あるいは,この中から選択される少なくとも2種類の緑化材充填物を組み合わせて配設して、緑化材充填物に雨水を,又は,人工的に水を供給して、緑化材充填物中に内包される植物種子に由来する植物,緑化材充填物中に内包される植物苗の根株に由来する植物,緑化材充填物に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とするものである。
上記構成の請求項12記載の発明において、被緑化対象である地表面上に,請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の緑化材充填物を単独で,あるいは,この中から選択される少なくとも2種類の緑化材充填物を組み合わせて配設する工程は、施工面上に請求項11に記載される場合よりもより厚くて充実した土壌微生物の繁殖に適した環境を人為的に形成し、それにより、植物種子(植物)の生育に適した環境を十分な厚みをもって施工面上に人為的に形成するという作用を有する。
そして、この工程の後に、緑化材充填物に水を供給して、緑化材充填物中に内包される植物種子に由来する植物,緑化材充填物中に内包される植物苗の根株に由来する植物,緑化材充填物に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることで、植物の生育を促進させながら施工面上を緑化するという作用を有する。
【発明の効果】
【0034】
請求項1記載の機能繊維シートによれば、機能繊維シートを構成する第1〜4の機能繊維の全てが施工面に接触するので、この機能繊維シートが敷設される全域を、保温しながら保水することができ、これにより、施工面における土壌微生物の繁殖を促進してその機能を活性化することができる。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、施工面上に植物種子(植物)の発芽や生育に適した環境を人為的に形成することができる。
また、請求項1記載の機能繊維シートの主原料は合成樹脂製の繊維であるため、腐食が生じず長期間にわたって存在し続け、また、生分解性の材質からなる繊維に比べてへたりが生じ難いので、長期間にわたり施工面を保護することができる。
すなわち、請求項1記載の機能繊維シートによれば、施工面上に植物の生育に適した環境を人為的に作り出してその状態を持続しつつ、施工面を雨水から好適に保護し続けることができる。
さらに、請求項1記載の機能繊維シートが長期間存在し続けることにより、そこで生育した植物が枯れてなる有機質成分が雨水とともに流亡するのを防止できるので、施工面上における土壌微生物の活性化効果を持続させることができる。
この結果、施工後に特にメンテナンスをしなくとも緑化植物が生育しやすい環境が維持されて、健全な植生を早期に実現することができる。
【0035】
請求項2記載の発明は、実質的には、請求項1記載の発明と同じであるため、その効果も請求項1記載の発明と同じである。
また、請求項2記載の発明によれば、繊維シートの繊維に付着させる機能材料を全て粉末状又は粒子状にできる場合、あるいは、機能材料を全て粉末状又は粒子状で調達できる場合に、請求項1記載の発明よりもその製造コストを安価にできる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明と同じ効果に加えて、機能繊維シートの内部空間を導水路として機能させることができるので、機能繊維シートの平面方向に速やかに水を排水することができる。これにより、豪雨の際には、施工面をしっかりと保護しつつ、速やかに不必要な水を排水することができる。
また、機能繊維シートの内部を水が流動する際に、第3の機能繊維に吸水させることができるので、不要な水が排水された後も機能繊維シートの内部,および,機能繊維シートが被覆される施工面を適切に保水することができる。
そして、これにより、機能繊維シート内に生育する土壌微生物および植物の生命と活力を維持することができる。
【0037】
請求項4記載の発明によれば、請求項1乃至請求項3に記載されるそれぞれの発明と同じ効果に加えて、施工面を構成する土壌が有機質に乏しく土壌微生物の生息に好ましくない環境でも、機能繊維シートを施工面上に敷設するだけで、施工面上に土壌微生物を生息させ、かつ、その機能を活性化することができる。
【0038】
請求項5記載の発明によれば、人工的に形成された施工面に、土壌微生物の生息に適した環境(層)を人為的に形成することができる。すなわち、施工面上に草地や森林における土壌の表層のような植物の生育に特に適した環境を人為的に形成することができる。また、緑化用シートが基布を備えることで、緑化用シートの保肥性を向上することができる。
従って、請求項5記載の緑化用シートによれば、施工面上において土壌微生物を活性化するとともに、それにより緑化用シートに人工的に付加される,又は,自然に飛来する植物種子の発芽および生育を促進することができる。
この結果、施工面上に緑化シートを敷設することで、施工面を早期にかつ健全に緑化することができるとともに、長期間にわたり施工面を降雨や降雪による損傷から保護することができる。
請求項5記載の発明は、施工面に土壌は存在しているものの,この土壌が植物の生育に適した環境でない場合に、効率よく緑化することができる。
【0039】
請求項6記載の発明によれば、植物種子(植物)の発芽や生育に適した環境が施工面上に形成されるとともに、そこに植物種子までもが供給されるので、請求項5記載の発明を用いる場合に比べて、健全な緑化をより早期に実現することができる。
【0040】
請求項7記載の発明によれば、請求項5記載の発明の場合に比べて、より厚くて,充実した植物の生育に適した表土層(表土層は、表層よりも厚みが大きい概念である)を施工面上にスポット状に形成することができる。
これにより、請求項7記載の発明によれば、特に樹木等の,根張りのための厚い表土層を必要とする植物体を緑化用植物体として使用することが可能になる。
つまり、請求項7記載の発明では、袋体が保水性を備えることにより、充填材を含む緑化材充填物全体が保水材として好適に機能する。この結果、請求項7記載の発明を用いることで、草地はもとより,森林をも早期に再生することができる。
また、請求項7記載の発明によれば、請求項7記載の緑化材充填物を配設したエリアを局所的に植物の生育に特に適した環境にすることができるという効果も有する。すなわち、施工面上をスポット状に緑化することができる。この場合、施工面の全面に緑化材を施工する必要がなくなるので、緑化に要す資材及びコストを節減できる。
また、請求項7記載の緑化材充填物はそれ自体が十分な重量を有しているので、風により飛ばされたりして施工位置から移動する心配がない。このため、施工の手間も省くことができる。
さらに、請求項7記載の発明によれば、土壌がほとんどない岩場の表面でも、水の供給さえ確保できれば緑化できる。この場合、従来緑化が不可能とされてきたエリアも緑化できる。そして、施工面上に請求項7記載の緑化材充填物を敷き詰めた場合、この緑化材充填物はそれ自体が強力な表面保護材として機能するので、雨水や降雪による表土の浸食を好適に防ぐことができる。
【0041】
請求項8記載の発明によれば、請求項7記載の発明と同じ効果に加えて、請求項7記載の緑化材充填物を配設した後の、緑化開始時期を早めることができる。
この結果、乾燥した荒廃裸地や土壌がほとんどない岩場等において、健全な緑化を早期に実現することができる。
【0042】
請求項9記載の発明によれば、施工時に緑化材充填物に大きな外力が作用した場合でも、例えば、施工面の上空から請求項9記載の緑化材充填物を投下するなどして施工した場合でも、請求項9記載の緑化材充填物の破損を防止できる。この結果、緑化材充填物の施工時の取扱いが容易になり、施工時の作業効率を高めることができる。また、野生動物の食害による袋体の破損も防止できる。
【0043】
請求項10記載の発明によれば、袋体の外周に補強材を備えた場合でも、施工面に請求項10記載の緑化材充填物を密着させることができる。これにより、請求項10記載の緑化材充填物により施工面からの水分蒸発を好適に防止して、施工面表層部及び請求項10記載の緑化材充填物内部の保水性を高めることができる。
この結果、袋体の外周に補強材を設けた場合でも、請求項10記載の緑化材充填物内に収容される植物種子の発芽及び生育,植物の苗の根茎の生育、あるいは、自然に請求項10記載の緑化材充填物に飛来する種子の発芽及び生育が促進されるので、健全な緑化を早期にかつ高効率で実現できる。
【0044】
請求項11記載の発明によれば、自然災害等で裸地となった施工面や、土木工事等により人工的に形成された裸地状の施工面上に、土壌微生物が活性化されて植物の生育に適した環境を形成しつつ、その場において植物を生育させて施工面を速やかに緑化することができる。また、緑化用シートは、植物の生育に適した環境を施工面上に形成するだけでなく、それ自体が地表面を降雨や降雪による損傷から保護する機能を有するため、緑化された植物体の根茎および緑化用シートの両方により施工面を好適に,かつ,長期間にわたり保護することができる。
また、請求項11記載の発明の場合、緑化用シートの敷設後に、緑化用シートを構成する部材の一部を除去したり、除去したものを廃棄したりする作業を行う必要がないので、施工後のメンテナンスにかかる手間やコストを大幅に削減することができる。
また、請求項11記載の発明の場合、緑化用の植物を生育させるにあたり,まず、土壌微生物を活性化させることができるので、緑化のために導入される植物種子の発芽や生育を促進するだけでなく、自然に飛来する土着の植物の生育をも促進することができる。従って、施工面の植生をその土地に適した植生に早期に移行させることができる。
この結果、裸地の地域特性に応じた健全な緑化が可能となり、土木工事等を実施した際の生態系の破壊を最小限度にとどめることができる。
請求項11記載の発明によれば、特に、土壌がありながら植物の生育に適さない施工面を好適に緑化することができる。
【0045】
請求項12記載の発明によれば、請求項11記載の発明の効果と同じ効果をより確実に発揮させることができる。
さらに、請求項12記載の発明によれば、特に樹木等の,根張りのための厚い表土層を必要とする植物体を用いた緑化も行うことができる。この結果、土壌がない場所に林地を形成させることができる。
また、請求項12記載の発明によれば、土壌が無くむき出しの岩場等の裸地でも、水の供給が確保できれば緑化できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1に係る機能繊維シートの断面概念図である。
【図2】本発明の実施例1に係る機能繊維シートの他の例の断面概念図である。
【図3】本発明の実施例2に係る緑化用シートの断面概念図である。
【図4】本発明の実施例3に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートの比較実験において、表土中のバイオマス炭素量の経時変化を示すグラフである。
【図6】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の細菌数の経時変化を示すグラフである。
【図7】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の糸状菌数の経時変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1年目における表土中の耐水性団粒組成の測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下30cmでの地温の測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下10cmの地点での含水比の測定結果を示すグラフである。
【図11】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目におけるトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの根のアーバスキュラー菌根菌共生率の計測結果を示すグラフである。
【図13】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例4に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。
【図15】本発明の実施例4に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。
【図16】本発明の実施例5に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。
【図17】本発明の実施例5に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。
【図18】本発明の実施例5に係る緑化材充填物の他の使用例を模式的に示した断面図である。
【図19】本発明の実施例6に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。
【図20】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、木本植物の発芽成立への影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフである。
【図21】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、木本植物の伸長成長への影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフである。
【図22】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、表土中のバイオマス炭素量の増加に対する影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフある。
【図23】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、草本植物へのアーバスキュラー菌根菌の共生に対する影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施の形態に係る機能繊維シート、および、それを用いた緑化用シート又は緑化材充填物、および、緑化用シート又は緑化材充填物を用いた緑化工法について実施例1乃至6を参照しながら詳細に説明する。
なお、言うまでもないが、本願明細書に記載されるものは本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの実施例に具体的に記載した材質や形態に何ら限定されるものではない。たとえば、吸水材又は保水材は,吸水又は保水機能を有する材料の総称を、接着材は接着機能を有する材料の総称を、架橋材は架橋作用を有する材料の総称を、それぞれ意味するものである。
【実施例1】
【0048】
本発明の実施例1に係る機能繊維シートについて図1,2を参照しながら説明する。図1は本発明の実施例1に係る機能繊維シートの断面概念図である。また、図2は本発明の実施例1に係る機能繊維シートの他の例の断面概念図である。
実施例1に係る機能繊維シート1aは、図1に示すように、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の保温材が付加された第1の機能繊維2と、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の多孔質体が付加された第2の機能繊維3と、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の吸水材が付加された第3の機能繊維4と、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の有機質成分が付加された第4の機能繊維5の,少なくとも4種類の機能繊維をランダムに交絡させて形成した1枚のシート体6からなるものである。なお、本願明細書では、上記4種類の機能繊維を区別することなく指し示す場合は、単に「機能繊維」と表記する。
また、図2に示すように、上述のシート体6を複数枚積層して、その所々をスポット状に,例えば、サーマルボンド方式により,あるいは,それぞれのシート体6を形成する機能繊維をシート体6の積層体の断面方向に貫通させながら交絡させるなどの手法により,一体に固定してシート体6の積層体としたものを、1枚のシート体とみなして機能繊維シート1bとしてもよい。
さらに、保温材、多孔質体、吸水材、有機質成分などの機能材料を付加する繊維は、紡糸していないものも使用可能である。
【0049】
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bにおいて、合成樹脂製の紡糸された繊維に粉末又は粒子状の機能材料である、保温材、多孔質体、保水材(吸水材)、および、有機質成分を付加する方法としては、紡糸された繊維の表面に,例えば,合成樹脂からなる架橋材や接着材を塗布して、上記粉末又は粒子を接着する方法を用いてもよい。
あるいは、上記以外の機能材料を付加する方法として、合成樹脂製の繊維に上記それぞれの機能材料を練り込むという方法もある。この練り込むという方法は、繊維を構成する合成樹脂に、粉末状又は粒子状の機能材料を直接混ぜ込んだものを繊維状に形成する方法である。また、機能材料が練りこまれた繊維の様態は、繊維を構成する合成樹脂中に機能材料が一様に封じこめられた状態にはならず、実際には、合成樹脂が芯となり,その周囲に粉末状又は粒子状の機能材料が付着したような状態になるので、実質的には、粉末状又は粒子状の機能材料を合成樹脂からなる繊維に接着又は付着させてなる機能繊維と概観上は大差がない。
【0050】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第1の機能繊維2に付加される保温材とは、例えば、セラミックスや凝灰質砂岩などの遠赤外線放射材などであり、保温性を高める機能を有し、粉末状又は粒子状にしてもその機能が損なわれないようなものであれば、どのようなものでも利用可能である。また、本願発明における「保温効果」とは、上述の保温性を高める材料を,合成樹脂製の紡糸された繊維に付加した際に、保温材を付加しない合成樹脂製の紡糸された繊維を用いた場合に比べて、被施工面の温度が上昇することをいう。
また、上述の複数種類の遠赤外線放射材等のうちの少なくとも2種類の粉末又は粒子を混合して用いてもよい。
実施例1に係る機能繊維シート1a,1bでは、このような第1の機能繊維2を備えることで、本発明と同一出願人による特許文献4に開示される表土保護シート(従来品)を用いる場合に比べて、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bが敷設される領域の土壌の保温効果が高まり、表土中の微生物を活性化したり、植物の発芽や生育を良くしたりすることができる。
【0051】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第2の機能繊維3に付加される多孔質体とは、例えば、炭、竹炭、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、セラミックなどから選ばれる多孔質の材料である。また、上述のような多孔質体を粉末状又は粒子状にしたものを,合成樹脂製の紡糸された繊維に付加する際には、粉末状又は粒子状の多孔質体の孔隙を閉塞することなく繊維に付加する必要がある。より具体的に説明すると、上述のような多孔質体を合成樹脂製の紡糸された繊維に付加する際には、粉末又は粒子状の多孔質体の表面全体が接着用の架橋材又は接着材により被覆されることがないよう注意する必要がある。
そして、第2の機能繊維3は、上述のような多孔質体が付加されることで、この多孔質体の空隙が、表土中(施工面を構成する土壌中)の土壌微生物の,または,予め機能繊維シート1a,1bに接種される土壌微生物の,生息場所となり、上述の保温材、および、後述の吸水材、有機質成分による効果と共同して、実施例1に係る機能繊維シート1a,1b中において土壌微生物の繁殖を促進して活性化するという効果を発揮する。
また、上述の複数種類の多孔質体のうちの少なくとも2種類の粉末又は粒子を混合して用いてもよい。
なお、第2の機能繊維3に付加される多孔質体がセラミックの場合で、このセラミックが保温材としての機能を兼ねる場合には、1種類の機能繊維で、第1の機能繊維2と、第2の機能繊維3の機能を兼ねることもできる。
【0052】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第2の機能繊維3に付加される吸水材とは、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム塩などの高吸水性高分子の粉末や粒子であり、上述のもの以外にも、粉末状又は粒子状の状態で十分な吸水能を有するものであれば、支障なく使用することができる。
なお、上述のような吸水材を合成樹脂製の紡糸された繊維に付加する際には、吸水材の機能が失われることがないよう、粉末又は粒子状の吸水材の表面全体が接着用の架橋材又は接着材により被覆されることがないよう注意する必要がある。また、上述の複数種類の吸水材のうちの少なくとも2種類の粉末又は粒子を混合して用いてもよい。
そして、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bは、上述のような吸水材が付加された第3の機能繊維4を備えることで、本発明と同一出願人による特許文献4に開示される表土保護シート(従来品)を用いる場合に比べて、吸水性や保水性が高まり、施工面中や実施例1に係る機能繊維シート1a,1b中の土壌微生物を活性化することができ、これにより、植物(植物種子)の発芽や生育を良くすることができる。
なお、本願発明における「保水効果」とは、上述の保水性を高める材料を,合成樹脂製の紡糸された繊維に付加した際に、保水材を付加しない合成樹脂製の紡糸された繊維を用いた場合に比べて、被施工面の保水性(含水率)が向上することをいう。
【0053】
さらに、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第2の機能繊維3に付加される有機質成分とは、例えば、セルロース、キチン、キトサンなどの糖類、タンパク質、ペプトン、アミノ酸などの単体や、バイオマスそのもの、すなわち牛糞、鶏糞、豚糞などの家畜糞、竹、稲葉などの植物性繊維やそれを含む堆肥などである。すなわち、土壌微生物が利用可能な栄養分であり、粉末又は粒子状にすることができるものであれば、どのようなものでも使用することができる。
そして、上述のような有機質成分を第4の機能繊維5に付加することで、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの内部において、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに予め添加される土壌微生物,あるいは,施工面中に生息していて実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに生息するようになる土壌微生物に対して栄養源を提供することができる。
また、この有機質成分は、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを基盤として植物を生育させる際に、その生育を促進する肥料成分としても機能する。
【0054】
従って、上述のような第1〜4の機能繊維2〜5を備える実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによれば、自然災害等により裸地となった施工面や、土木工事等により裸地になった施工面上を、保温および保水しつつ,土壌微生物の棲みかとなる場所を提供するとともに、そこに生息する土壌微生物の繁殖に必要な栄養源を供給することができる。
すなわち、施工面上に実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを敷設することで、裸地上に人為的に植物種子(植物)の生育に適した環境を形成することができる。
そして、施工面上において土壌微生物が活性化されると、土壌微生物の一部が植物体の根の組織内に入り込んだ共生関係が形成され易くなる。この場合、植物体の根の機能を、共生関係にある土壌微生物が補強するので、結果として、植物体の生育を促進することができる。つまり、施工面における土壌微生物の活性化(施工面の保水性、保温性の向上)は、植物の生育促進に直接的に寄与する。
【0055】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに予め土壌微生物を添加しておいてもよい。実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに土壌微生物を添加する方法としては、粉体状にした土壌微生物を実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに直接添加してもよいし、第2の機能繊維3や第4の機能繊維5を製造する際に、多孔質体や有機質成分に予め粉体状にした土壌微生物を添加しておき、土壌微生物が定着した多孔質体や有機質成分を、合成樹脂製の紡糸された繊維に接着材等により付加することで、間接的に実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに土壌微生物を添加してもよい。
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに添加する土壌微生物としては、例えば、アーバスキュラー菌根菌、外生菌根菌、マメ科植物窒素固定菌、エンドフィティック窒素固定菌、フランキア、耐乾性ラン藻などがある。また、これらの土壌微生物を単独で実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに添加する必要は特になく、複数種類の土壌微生物を併せて実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに添加してもよい。
上述のように、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに予め土壌微生物を添加しておくことで、施工面に土壌微生物が十分に生息していない場合であっても、より具体的には、施工面が荒地等で植生が貧弱化した土地であっても、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを敷設するだけで、土壌微生物が活性化されて、植物種子(植物)の発芽や生育が促進される環境を施工面上に形成することができる。
【0056】
さらに、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bは、単層からなるものも,複層からなるものもその厚みを1〜50mmの範囲内とし、空隙率を90%以上とすることが望ましい。より好ましくは、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの空隙率を90〜99%の範囲内にすることが望ましい。
この場合、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの内部に形成される空隙を、降雨時や給水時に導水路として機能させることができる。この結果、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの平面方向に効率よく水を排水することができる。また、この効果は、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bが斜面に敷設される場合に特に顕著である。
つまり、実施例1に係る実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを施工面上に敷設することで、機能繊維シート1a,1bが直接施工面の表土を押さえつけて保護しつつ、機能繊維シート1a,1bの内部の空隙が導水路として機能して雨水が施工面の表土上を直接流れることがないので、施工面の表土の浸食を好適に防止することができる。
【0057】
加えて、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する少なくとも4種類の機能繊維の主材を、合成樹脂製の紡糸された繊維とすることで、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを施工面上に敷設した際に、降雨や降雪などにより機能繊維シート1a,1bを押し縮めるような負荷が加えられたり、また、その負荷から機能繊維シート1a,1bが開放されて復元されることが繰り返された際に、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bにへたりが生じて、機能繊維シート1a,1bの内部が導水路として機能しなくなるのを抑制することができる。
すなわち、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを長期間にわたり、弾力と厚みのある状態に維持することができるので、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによる表土の保護効果が長期間にわたり持続させることができる。
よって、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによれば、緑化植物の生育環境を好適に維持する効果と、緑化しようとしている施工面の表土の長期間にわたって保護する効果を同時に発揮させることができる。
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する機能繊維において,粉末状又は粒子状の機能材料を担持する繊維としては、例えば、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなどの化学繊維を支障なく使用することが可能である。
【0058】
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bでは、少なくとも4種類の機能繊維は、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に、粉末状又は粒子状の機能素材が付着して繊維表面に凹凸が形成された構造となっている。このような構造を有することで、機能繊維シート1a,1bを構成する機能繊維自体が土壌粒子と絡み易くなっている。
このため、特許文献4に開示される表土保護シート(従来品)を用いる場合に比べて、上述のような機能繊維を用いてなる実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを用いた場合の方が、施工面の表土との密着性を高くすることができる。
従って、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによれば、より高い土壌浸食防止効果を発揮させることができる。
【0059】
ここで、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの変形例について説明する。
これまでは合成樹脂製の繊維に粉末状又は粒子状の機能材料を、接着又は練り込みにより付加して,機能繊維(第1〜4の機能繊維2〜5)としたものを複数種類準備し、この複数種類の機能繊維をランダムに交絡させてシート体6を形成する場合を例に挙げて説明してきたが、実施例1に係る機能繊維シートの製造方法は必ずしもこの方法に限定される必要はない。
上述したもの以外の機能繊維シートの製造方法としては、例えば、合成樹脂製の,紡糸された繊維,又は,紡糸されていない繊維をランダムに交絡させてシート体(繊維シート)を形成し、このシート体(繊維シート)の繊維の表面に接着材又は架橋材を塗布して、シート体(繊維シート)に複数種類の粉末状又は粒子状の満遍なく降りかけて,それらを繊維の表面に付着させるという方法を用いてもよい。なお、ここで用いる、合成樹脂製の,紡糸された繊維,又は,紡糸されていない繊維からなるシート体(繊維シート)は、単層のものでも積層されたものでもいずれでもよい。
この場合、機能材料が添加される前の合成樹脂製の,紡糸された繊維,又は,紡糸されていない繊維からなるシート体(繊維シート)は、空隙率が90%以上(より好ましくは、空隙率は90〜99%の範囲内)であるため、シート体(繊維シート)の内部の繊維にもしっかりと粉末状又は粒子状の機能材料を行きわたらせて付着させることができる。
上述のような方法によれば、使用する全ての機能材料を粉末状又は粒子状にできる場合や、使用する全ての機能材料を粉末状又は粒子状で調達できる場合に、実施例1の変形例に係る機能繊維シートの製造コストを安価にできるというメリットがある。
また、上述のような実施例1の変形例に係る機能繊維シートの作用,効果は、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bと同じである。
さらに、先に述べた実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの製造方法と、上述のような実施例1の変形例に係る機能繊維シートの製造方法を組み合わせて本発明に係る機能繊維シートを作製してもよい。つまり、少なくとも1〜3種類の機能繊維を交絡させてシート体6を形成した後、このシート体6に接着材等により粉末状又は粒子状の3〜1種類の機能材料を添加して付着させてもよい。
【実施例2】
【0060】
実施例2に係る緑化用シートについて図3を参照しながら詳細に説明する。図3は本発明の実施例2に係る緑化用シートの断面概念図である。なお、図1,2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先に述べた実施例1に係る機能繊維シート1a,1bはそれのみでも緑化用シートとして十分に使用可能であるが、機能繊維シート1a,1bの空隙率が90%以上と高いので、雨水や人工的に供給された水の浸透性が極めて高い。
このため、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを施工面上に直接敷設すると、機能繊維シート1a,1b内に内包される有機質成分から供給される栄養分が施工面を構成する土壌中に速やかに溶出してしまい、土壌微生物の活性化や、植物の生育に有効に利用され難いという課題があった。
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの空隙率が高いがために、例えば、施工面に機能繊維シート1a,1bを敷設して施工面に固定しようとした際に、固定具による機能繊維シート1a,1bの固定効果が十分に発揮されない恐れもあった。
上述のような事情に鑑み、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの実用性を高めるために、機能繊維シート1a,1bに新たな構成を付加して緑化用シートにすることで上述のような課題を解決することに成功した。
【0061】
すなわち、実施例2に係る緑化用シート10は、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bからの有機質成分の流去を緩慢にするために、機能繊維シート1a,1bの下面側(施工面側)に生分解性と透水性とを有する、例えば、紙や布からなる基布8を配設するとともに、機能繊維シート1a,1bの上面側には、合成樹脂製の繊維からなる補強ネット9を覆設したものである。
なお、基布8,実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1b,補強ネット9がこれらのみで十分に密着した状態になるのであれば特に固定する必要はないが、これらが分離容易である場合には、接着材や、サーマルボンド方式による接着、あるいは、縫製等を行うことにより3種類のシート体を固定することが望ましい。
【0062】
上述のような実施例2に係る緑化用シート10によれば、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1b施工面側に基布8を配設することで、この基布8が生分解されて消失するまでの間、施工面への水の浸透を許容しつつその速度を緩慢にすることができる。これにより、実施例2に係る緑化用シート10を構成する機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bから、施工面を形成する土壌に有機質成分が流亡する速度を遅くすることができる。この結果、緑化用シート10の保肥性を高めることができる。
また、実施例2に係る緑化用シート10を基盤として植物が十分生育するころには、基布8は腐食して自然に消滅するので、緑化用シート10を基盤として生長した植物の根を、機能繊維シート1a,1bの下の施工面側に容易に伸長させることができる。
さらに、実施例2に係る緑化用シート10では、合成樹脂からなる繊維である、例えば、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなどの化学繊維からなる補強ネット9を備えることで、実施例3に係る緑化用シート10の施工面への固定性(装着性)を向上することができる。また、施工直後の裸地状態のときだけ、施工面への機能繊維シート1a,1bの固定性(装着性)を向上する必要がある場合には、補強ネット9を、例えば、麻ネットなどの生分解性を有する材質により構成してもよい。
この結果、実施例2に係る緑化用シート10を施工面上に敷設することで、最終的には、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bと、植物の根茎とにより、しっかりと施工面を保護することができる。つまり、施工面上に健全な植生を形成させることができる。
【0063】
上述のように、実施例2に係る緑化用シート10における、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bが、予め収容された植物種子(植物),又は,外部から自然に飛来する植物種子(植物)が発芽して生育する際の人工苗床として機能することで、緑化植物の生育を促進することができ、これにより、施工面を植物の根と緑化用シート10とによりしっかりと保護することができる。
また、実施例2に係る緑化用シート10は、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bの機能材料(保温材、多孔質体、吸水材、有機質成分)以外の部分が生分解性でない材質により構成されることで、緑化用シート10の人工苗床としての機能、および、土壌浸食防止材としての機能を長期間にわたり持続させることができる。
この結果、降雨量が多く、裸地において植生が形成される速度よりも、降雨により土壌が浸食される速度の方が速い場所においても、健全な植生を実現して緑化を促進できる。
【0064】
実施例2に係る緑化用シート10の応用例として、緑化用シート10の基布8と、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bとの間に、植生基盤材として、例えば、種子、肥料、土壌改良材などのうちの少なくとも1種類を分散させた状態で収容しておいてもよい。なお、種子、肥料、土壌改良材などのそれぞれは、必ずしも1種類のみとする必要はなく、複数種類の種子、肥料、土壌改良材などのそれぞれを複合して配設してもよい。
また、種子、肥料、土壌改良材などのそれぞれを収容する位置としては、実施例2に係る緑化用シート10の基布8と、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bとの間が最適である。
【0065】
例えば、実施例2に係る緑化用シート10に種子を収容させた場合は、施工域周辺からの植物種子の自然な飛来が期待できない場合であっても、緑化用シート10を敷設するだけで確実に施工面を緑化することができる。
また、実施例2に係る緑化用シート10内に、肥料を収容した場合は、施工面を形成する土壌が肥料分に乏しい場合であっても、肥料分を補充して緑化用シート10内に予め収容された植物種子(植物),又は,外部から自然に飛来する植物種子(植物)の発芽や生育を促進することができる。
さらに、実施例2に係る緑化用シート10内に、土壌改良材を収容した場合は、例えば、施工面を構成する土壌の表層部の酸性度を、緑化植物の生育に適した状態にするなどの効果を発揮させることができる。
また、上述の種子、肥料、土壌改良材などを様々に組み合わせて実施例2に係る緑化用シート10内に収容した場合は、上述の効果を組み合せた効果が期待できる。
なお、実施例2に係る緑化用シート10の基布8と、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bとの間に、植生基盤材として、有機質成分からなる肥料を収容する場合は、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bの構成から第4の機能繊維を除いた構成としてもよい。
【実施例3】
【0066】
本発明の実施例3に係る緑化工法について図4を参照しながら説明する。図4は本発明の実施例3に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。なお、図1乃至図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例3に係る緑化工法11は、図4に示すように、必要に応じて施工面を整地し(ステップS10)た後、この施工面上に実施例2に係る緑化用シート10を敷設して(ステップS11)、この緑化用シート10を固定して(ステップS12)から、緑化用シート10に雨水を,又は,人工的に水を供給して(ステップS13)、緑化用シート10内に収容される植物種子に由来する植物,緑化用シート10に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させる(ステップS14)ことを特徴とするものである。
【0067】
上述のような実施例3に係る緑化工法11によれば、施工面上に実施例2に係る緑化用シート10を敷設するだけで、施工面上に植物種子(植物)の生育に適した環境を形成することができるので、施工面を効率良くかつ健全に緑化することができる。
また、緑化用シート10は、土壌浸食防止材としても優れた機能を発揮するので、実施例3に係る緑化工法11を実施する際に、緑化用シート10において植物の生育が十分に進んでいない状態であっても、緑化用シート10そのものにより施工面の表土をしっかりと保護することができる。
すなわち、実施例3に係る緑化工法11によれば、施工面における表土の保護と、緑化の促進を同時に行うことができる。
【0068】
なお、上述の実施例3に係る緑化工法11においては、実施例2に係る緑化用シート10を用いる場合を例に挙げて説明したが、施工面を形成する土壌に十分な肥料成分が含まれる場合や、施工面を形成する土壌に十分な埋土種子が存在する場合には、ステップS1において、実施例2に係る緑化用シート10に代えて、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bを施工面上に直接敷設してもよい。この場合、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bの固定に、実施例2に係る緑化用シート10に用いられる補強ネット9を用いてもよい。
この場合も、実施例2に係る緑化用シート10を用いた場合と同様の効果が期待できる。
【実施例4】
【0069】
本発明の実施例4に係る緑化材充填物について図14及び図15を参照しながら詳細に説明する。
先に述べた実施例1に係る機能繊維シート1a,1bおよび実施例2に係る緑化用シート10は、建設工事後の整地された平坦な施工面上に直接敷設することによって、土壌浸食防止や緑化を達成することが可能である。このような施工面では、土壌自体は存在するものの、樹木や草本の生育に必要な水分や養分そして、土壌微生物等が著しく不足した状況にあり、これらを実施例1に係る機能繊維シート1a,1bや、実施例2に係る緑化用シート10により補ってやることで、健全な植生に効率よく導くことができる。
これに対して、大きな岩や礫が多く、凹凸の著しい火砕流が大量に堆積したような荒廃裸地などでは、植生の基盤となる土壌自体が十分に存在しないことから、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bおよび実施例2に係る緑化用シート10を敷設しただけでは緑化は困難である。すなわち、植物の生育には、水分や養分、土壌微生物の活性だけでなく、植物体が根を張るための基盤が不可欠である。このため、火砕流が堆積した場所のように、大きな岩や礫が多く、凹凸の著しい荒廃裸地の表層浸食防止と早期の緑化を実現できる資材及び工法の開発が望まれていた。
このような事情に鑑み、発明者らは鋭意研究の結果、上述の実施例1に係る機能繊維シート1a,1bにより袋体を形成し、その中空内部に、少なくとも植生基盤材を含んでなる充填材を充填した緑化材充填物を施工面上に,隙間なく又は散在させて配設することで、大きな岩や礫が多く,凹凸の著しい荒廃裸地に人為的に土壌機能を付加して緑化できることを見出した。
本願発明では、特に、機能繊維シート1a,1bを用いて植生基盤材を収容する袋体を構成することで、袋体自体及びその中空部内に収容される充填材の保水性を格段に高めて、従来緑化が困難とされてきたエリアの緑化及び林地の再生に成功した。
【0070】
図14は本発明の実施例4に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。なお、図1乃至4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図14に示すように、実施例4に係る緑化材充填物12Aは、矩形状に切り取った実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの縁部を、例えば、縫製または熱による圧着等をするなどして袋体19としたものの中空部に、少なくとも植生基盤材13を含んでなる充填材を充填したものである。
また、袋体19内に充填する充填材を構成する植生基盤材13としては、例えば、ピートモス、椰子殻、腐食質をはじめとする有機質資材、ゼオライト、鹿沼土、バーミキュライト、ベントナイト、赤玉土、イソライトをはじめとする無機質資材を単独で,あるいは,これらから選択される少なくとも2種類を適宜組合せたものを使用できる。あるいは、施工面17から採取した表土を単独で,又は,上記資材の少なくとも1種類以上と混合して使用してもよい。
また、上述のような植生基盤材13に、アーバスキュラー菌根菌、外生菌根菌などの植物共生微生物、高吸水性の高分子樹脂、竹やアシなどの天然繊維からなるマット、クラゲなど高吸水性の動物性保水材などを単独で,あるいは,これらから選択される少なくとも2種類を適宜組合せたものを添加して植生基盤材13としてもよい。この場合、緑化材充填物12Aにおける土壌微生物を活性化して植物の生育を促進したり、緑化材充填物12Aの保水性や通気性を向上するなどの効果を付加することができる。
さらに、図14にも示すように、袋体19の中空部内に充填される充填材は、上述のような植生基盤材13に、必要に応じて上記添加材を添加するだけでなく、裁断した実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを混合して収容してもよい。 なお、実施例4に係る緑化材充填物12Aを用いて緑化を行う際に、設置後の緑化開始時期を早めるために、袋体19内に充填物と併せて、植物種子14を収容しておいても良い。
【0071】
このような実施例4に係る緑化材充填物12Aによれば、先に述べたような実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによる有利な効果が施工面17上に付加されるだけでなく、袋体19に植生基盤材13を含んでなる充填材が充填されることで、植生の基盤となる土壌が十分にない施工面17上に、植物の生育に適した表土層(表土層は表層よりも厚みが大きい概念である)を十分な厚みをもって人為的に形成して、その位置に定着させることができる。また、袋体19が機能繊維シート1a,1bにより構成されることで、充填材を含めた緑化材充填物12A全体が、保水材,保温材としても機能することから、緑化材充填物12A内部において土壌微生物を活性化するだけでなく、その施工面の表土においても土壌微生物を活性化することができる。
この結果、実施例4に係る緑化材充填物12Aにおいてまず緑化を開始させ、その後、この緑化材充填物12Aを基盤にしてその周囲も緑化することができる。
さらに、実施例4に係る緑化材充填物12Aは、それ自体がある程度重量を有するため、施工面17への緑化材充填物12Aの固定作業を簡素化したり、省略できる。従って、実施例4に係る緑化材充填物12Aを、例えば、ヘリコプター等の航空機等を利用して施工面上から散布するという方法により施工面17に設置することが可能であるため、人の立ち入りができない場所の緑化も可能である。
【0072】
また、植生基盤材13とともに実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを裁断したものを袋体19内に収容した場合は、緑化材充填物12Aの保水性や保温性が特に高められ、緑化材充填物12Aの下の施工面17の表層土,及び,袋体19内の植生基盤材13中の水分及び地温が好適に保持されることにより、これらに生息する土壌微生物を活性化することができる。この結果、袋体19内に充填材として混入された植物種子14や、外部から緑化材充填物12Aに自然に飛来した植物種子の発芽や生育を促進することができる。
【0073】
図15は本発明の実施例4に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。なお、図14に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図15に示すように、袋体19内の充填物中に、植物苗15の根茎を予め植え付けたものを施工面17上に配設してもよい。この場合、実施例4に係る緑化材充填物12Aによる緑化開始時期を早めることができる。また、施工面17の表層部の状態が植物の生育に好ましくない場合でも、緑化材充填物12Aの機能により植物苗15が枯死するリスクを低減できる。
なお、ここでは、袋体19の中空部内に充填される充填物中に植物種子14を混合する場合を例に挙げて説明したが、外部から植物種子の自然な飛来が十分期待できる場合には、植物種子14を充填物中に混合する必要は必ずしもない。
また、植物種子14は袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの厚み部分又は表面に散布しておいてもよい。なお、緑化材充填物12Aのどの位置に植物種子14を収容するかについては、使用する植物種子の発芽適性(日照、水分条件等)に応じて決めると良い。さらに、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの表面に植物種子14を播種する場合は、接着材等を用いて種子の落脱を防止するとよい。
【実施例5】
【0074】
本発明の実施例5に係る緑化材充填物について図16乃至図18を参照しながら詳細に説明する。
図16は本発明の実施例5に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。なお、図14,15に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図16に示すように、実施例5に係る緑化材充填物12Bは、実施例4に係る緑化材充填物12Aの袋体19の外周部に、ネット状の補強材20を設けたものである。なお、この補強材20は、機能繊維シート1a,1bからなる袋体19と一体に設けても良いし、別体に設けても良い。さらに、この補強材20は、先の実施例2に係る緑化用シート10における補強ネット9と同様の材質により構成してもよい。
【0075】
なお、補強材20の素材や形状などに、特段の限定はないが、補強材20は径が1〜10mmの範囲内であるような繊維により構成し、また、この繊維同士の目合い16が1〜10mmの範囲内となるように形成されたネットを用いるとよい。このように、補強材20の目合い16を少なくとも1mm以上とすることで、発芽した植物体の伸長が袋体19及び補強材20により阻害されるのを好適に防ぐことができる。また、補強材20の目合い16を10mm以下とすることで、袋体19の破損を好適に防止して、充填物の流失を防止することができる。なお、補強材20の目合い16は必ずしも規則的に形成されている必要はない。
また、補強材20は、経時変化に伴って腐食し,最終的には土に還るような生分解性を有する材質である,例えば,椰子繊維や麻ネットなどの天然繊維により構成してもよい。
なお、図16では、実施例5に係る緑化材充填物12Bの一例として、袋体19内に充填物として植生基盤材13のみを充填した場合を例に挙げているが、この充填物は、言うまでもなく、植生基盤材13に加えて、先に述べたような添加材や、裁断した機能繊維シート1a,1bを緑化の目的に応じて適宜混合したものでもよい。
実施例5に係る緑化材充填物12Bでは、袋体19の外側に補強材20を設けることで、緑化材充填物12Bに耐衝撃性を向上できる。また、例えば、ネズミやイノシシなどの野生動物の収容植物種子14を狙った食害等により袋体19が損傷にして充填物が外部に流出するのを防止することができる。
【0076】
なお、実施例5に係る緑化材充填物12Bは、図16に示すように、補強材20の目合い16から、下地である機能繊維シート1a,1bが外部にはみ出すよう構成してもよい。
この場合、補強材20の目合い16から、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bをはみ出させる具体的な手段としては、例えば、袋体19と補強材20を一体に形成し、その製造工程においてパンチングメタルを用いたニードルパンチを行うなどの手法がある。
実施例5に係る緑化材充填物12Bの場合、補強材20の目合い16から機能繊維シート1a,1bをはみ出させることで、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bを、施工面17の表面に密着させることができる。これにより、緑化材充填物12B内において生育する植物の根の施工面17内部への伸長をスムースにできる。また、緑化材充填物12B内部に生息する土壌微生物の、施工面17側への侵出もスムースにすることができる。逆に、施工面17に生息する土壌微生物を緑化材充填物12B内にスムースに侵入させることもできる。これにより、緑化材充填物12Bに予め添加される土壌微生物、又は、土着の土壌微生物を緑化材充填物12Bの内外において効率よく活性化することができ,植物体の生育に有効に活用することができる。
さらに、降雨時は特に施工面17と緑化材充填物12Bの間に水が溜まり易い傾向がある。この場合、補強材20の目合い16からはみ出した機能繊維シート1a,1bが施工面17上に密着していることで、施工面17と緑化材充填物12Bの間に溜まった水を袋体19の内部に好適に吸い上げて保水できるだけでなく、この緑化材充填物12Bにより施工面17上に分厚い保水層が形成されることになるので、施工面17の表層部分を効率的に保水できる。
従って、上述のような作用が相互に組み合わされて、緑化材充填物12B内で生育する植物の初期成育を促進することができる。
【0077】
図17は本発明の実施例5に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。なお、図14乃至16に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図17に示すように、実施例5に係る緑化材充填物12Bでは、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの厚み部分に植物種子14を散在させておいてもよい。この場合、機能繊維シート1a,1bの製造時に植物種子14を機能繊維シート1a,1bの厚み部分に収容するとよい。
このように、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの厚み部分に散在させて収容した場合、実施例5に係る緑化材充填物12Bを、例えば、空中から投下して設置する場合に、袋体19のどの面が上になっても、また、袋体19のどの面が下になっても、植物種子14を発芽、生育させることができる。
そして、機能繊維シート1a,1bを構成する機能繊維による効果(保温性、保水性など)により土壌微生物を好適に活性化して、草本類の生育のみならず、樹木の初期生育を促進できる。
【0078】
図18は本発明の実施例5に係る緑化材充填物の他の使用例を模式的に示した断面図である。なお、図14乃至17に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図18に示すように、実施例5に係る緑化材充填物12Bは、例えば、袋体19の厚みを厚くしておき、緑化材充填物12Aを施工面17上に載置した際に鉛直上方側に配される袋体19(機能繊維シート1a,1b)の厚み部分に、植物苗15の根茎を収容しても良い。この場合も、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bが保水性や保温性を備えることで、土壌微生物が活性化されて植物苗15の初期生育を促進できる。
【0079】
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bや、実施例2に係る緑化用シート10が、植生に必要な土壌の機能を補う働きをするものであるのに対して、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bは植生に適した土壌そのものを担うものであると言える。
また、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bは、実施例1,2に係る発明に比べて、充填材を収容したことによりその厚みが大幅に大きくなるため、大型の草本類のみならず、木本類の初期生育を好適に促進することができる。このため、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bによれば、草地の再生のみならず、林地や森林の再生に寄与することができる。
なお、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bに収容する植物種子14としては、例えば、日本国内における緑化を目的とする場合は、草本植物、木本植物のうち緑化に用いることが可能なものから適宜選択可能であるが、例えば木本植物では、ヤマハギ、コマツナギなどのマメ科、アカメガシワなどのトウダイグサ科、コナラ、アラカシ、シラカシ、ウバメガシなどのブナ科、クロマツ、アカマツなどのマツ科の植物が利用可能である。また、草本植物ではノシバ、トールフェスク、クリーピングレッドフェスク、ケンタッキーブルーグラス、バミューダグラスなどのイネ科、メドハギなどのマメ科などの植物が利用可能である。また生態系維持の観点から、上述の植物種子以外の施工地域に自生する植物種子や苗を用いてもよい。
また、木本系植物種子と、草本系植物種子とを実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12B内に併せて収容してもよいし、これらの植物種子と,ある程度大きく育てた植物苗を実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12B内に併せて収容してもよい。
【実施例6】
【0080】
本発明の実施例6に係る緑化工法について図19を参照しながら詳細に説明する。
図19は本発明の実施例6に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。なお、図14乃至18に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図19に示すように、実施例6に係る緑化工法18は、必要に応じて施工面17を整地し(ステップS20)た後、この施工面17上に、実施例5,6に係る緑化材充填物12A,12Bをそれぞれ単独で,あるいは,これらを適宜組み合わせて、人力により設置し,又は,ヘリコプターなどの航空機から投下して(ステップS21)、この緑化材充填物12A,12Bを必要に応じて固定して(ステップS22)から、緑化材充填物12A,12Bに雨水を,又は,人工的に水を供給して(ステップS23)、緑化材充填物12A,12B内に予め収容された植物種子13又は植物苗15に由来する植物,あるいは,緑化材充填物12A,12Bに自然に飛来する種子に由来する植物、のうちの少なくとも一方を生育させる(ステップS24)ものである。
なお、上述の緑化工法18においてステップS20及びステップ22は必須な工程ではなく、必要な場合にのみ実施すればよい。
【0081】
また、実施例6に係る緑化工法18では、施工面17上に緑化材充填物12A,12Bを隙間なく敷き詰める必要は必ずしもなく、緑化に時間がかかるものの、施工面17上に緑化材充填物12A,12Bを散在させるだけでも自然に飛来する植物種子により十分な緑化効果が発揮される。
この場合、先の図14〜18に示すような緑化材充填物12Aを様々に組み合わせて施工面17上に配設してもよい。具体的には、木本系植物種子又は苗を収容した本発明に係る緑化材充填物、草本系種子を収容した本発明に係る緑化材充填物、そして、植物種子や肥料成分を含まない植生基盤材13のみを収容した本発明に係る緑化材充填物などを、目的に応じて組み合わせて配設してよい。
あるいは、実施例2に係る緑化用シート10と、実施例5,6に係る緑化材充填物12A,12Bを組み合わせて施工してもよい。より具体的には、緑化用シート10を施工した上に緑化材充填物12A,12Bを施工してもよいし、緑化材充填物12A,12Bと緑化用シート10を併設してもよい。
【0082】
上述のような実施例6に係る緑化工法18によれば、施工面17上に実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bを投下または設置するだけで、施工面17上に植物種子(植物)の生育に適した環境を,十分な厚みをもって形成することができるので、施工面17を効率良く、かつ健全に緑化することができる。また、条件がよければ、最終的には実施例6に係る緑化工法により施工面17に林地を再生させることができる。
また、緑化材充填物12A,12Bは、十分な重量を有して施工面17上を被覆するので、土壌浸食防止材としても優れた機能を発揮する。このため、実施例6に係る緑化工法18を実施する過程において、緑化材充填物12A,12Bにおける植物の生育が十分に進んでいない状態であっても、緑化材充填物12A,12Bそのものにより、施工面17の表土をしっかりと保護することができる。
すなわち、実施例6に係る緑化工法18によれば、施工面17における表土の保護と、緑化の促進を同時に行うことができる。
また、実施例6に係る緑化工法18の場合、緑化材充填物12A,12Bを施工面17に配設した際に、個々の緑化材充填物12A,12Bを施工面17に固定する必要がないので、施工面17の上空から緑化材充填物12A,12Bを散布するという手法も取りうる。このため、人が立ち入ることのできない危険な地域においても緑化や森林の再生を行うことが可能である。
【0083】
本発明に係る機能繊維シートの効果を立証するために、以下に示すような試験1〜4を実施した。ここでは、その試験方法と試験結果について説明する。
まず、以下の試験1〜4において使用した本発明に係る機能繊維シート及び対照品であるポリエステル繊維シートについて説明する。
この度の試験に供試するために以下に示すような材料からなる機能繊維シートを作成した。
保温性の高い繊維であるポリエステル繊維に遠赤外線を放射する凝灰質砂岩を0.5重量%練り込んで第1の機能繊維とした。また、ポリエステル繊維に多孔質材として竹炭を0.3重量%練り込んで第2の機能繊維とした。さらに、ポリエステル繊維にポリアクリル酸ナトリウム塩を0.5重量%固着させて第3の機能繊維とした。そして、ポリエステル繊維に微生物の栄養源となる繊維としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を0.5重量%固着させて第4の機能繊維とした。
この後、上述の第1〜4の機能繊維をランダムに交絡させてシート体を形成し、このシート体を複数枚積層してサーマルボンド方式によりそれぞれ接着して、厚さ10mmの機能繊維シートを作製した。
また、この度の試験に用いる対照品として、上述のような機能材料を一切付加しないポリエステル繊維のみからなるシート体を作製し、このシート体を複数枚積層してサーマルボンド方式によりそれぞれ接着して厚さ10mmにしたポリエステル繊維シートも作製した。
【0084】
(試験1)
上記手順にて作製した本発明に係る機能繊維シート,及び,対照品であるポリエステル繊維シートを、木枠の中にマサ土を充填して締め固めたものの表面に敷設した。本発明に係る機能繊維シート,及び,対照品であるポリエステル繊維シートは、各シートにつき30cm×30cmに裁断したものに、綿の基布の上にトールフェスクの種子を入れたもの6枚と入れないもの9枚の合計15枚、2種類のシート(発明品、対照品)で合計30枚をランダムに敷設した。なお、トールフェスクの播種量は、成立期待本数として、トールフェスク270本/900cm2とした。このうち、トールフェスクの種子を入れたシート3枚には、アーバスキュラー菌根菌資材(Gigaspora margaritaを含む)を50gずつ入れた。
以下、本発明に係る機能繊維シート,及び,対照品であるポリエステル繊維シートを区別なく指し示す場合には単に「シート」と表記する。
【0085】
(試験1の測定項目について)
表土中の微生物バイオマス炭素は、敷設後1〜3年目において、種子を入れていない3枚のシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、クロロホルム薫蒸直接抽出方法にて測定を行った。(図5に対応)
表土中の細菌数も、敷設後1〜3年目において、種子を入れていないシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、希釈平板法にて測定を行った。なお、培地はYG培地を使用した。(図6に対応)
表土中の糸状菌数も、敷設後1〜3年目において、種子を入れていないシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、希釈平板法にて測定を行った。なお、培地はローズベンガル寒天培地を使用した。(図7に対応)
表土中の耐水性団粒組成は、敷設後1年目において、種子を入れていないシート直下の表土(0〜5cm)を、2mm、1mm、0.5mm、0.25mm、0.1mmの篩を用いて、湿式篩別法にて、各篩で分画された粒径区分の粒子を105℃の乾燥器で乾燥させた後、重量を測定して、各粒径の割合を算出した。(図8に対応)
表土中の地温は、シートを敷設した土壌表面から深さ30cmの位置に、データロガーの温度センサーを設置し、1か月間、測定を行った。(図9に対応)
表土中の含水比も、シートを敷設した土壌表面から深さ10cmの位置に、データロガーのTDRセンサーを設置し、1か月間、測定を行った。(図10に対応)
植物の育成状況は、3か月間栽培後のトールフェスク1株当たりの地上部乾物重を測定した。(図11に対応)
アーバスキュラー菌根菌の根への共生率ならびにアーバスキュラー菌根菌資材を入れた場合の植物の育成状況は、3か月栽培後のトールフェスクの根をトリパンブルーで染色後、格子交点法にて測定すると同時に、トールフェスク1株当たりの地上部乾物重を測定した。(図12、図13に対応)
【0086】
(試験結果1)
図5は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートの比較実験において、表土中のバイオマス炭素量の経時変化を示すグラフである。図5に示すグラフ縦軸はバイオマス炭素量(mg/kg乾土)、横軸は時間(年)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを用いた場合の測定結果については点線で、対照品を用いた場合の測定結果については実線で示した。図5のグラフが示すとおり、敷設後2年目、3年目と時間が経過するごとに本発明に係る機能繊維シートを用いた方のバイオマス炭素量が対照品を用いた場合に比べて多くなり、3年目ではkg乾土あたり10mg以上も多くなった。これにより、本発明係る機能繊維シートが土壌中の微生物叢を活性化し、バイオマス量の増大につながったことが示された。
【0087】
(試験結果2)
図6は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の細菌数の経時変化を示すグラフである。図6に示すグラフ縦軸は細菌数(CFU/g乾土)を、横軸は時間(年)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを用いた場合の測定結果については点線で、対照品を用いた場合の測定結果については実線で示した。図6のグラフが示すとおり、敷設後2年目から3年目にかけて本発明の緑化用シートではg乾土あたりの細菌数が急激に増加し、3年目では対照の5倍もの値を示した。これにより、本発明に係る機能繊維シートが表土中の細菌を活性化し、細菌数の増加につながったことが示された。
【0088】
(試験結果3)
図7は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の糸状菌数の経時変化を示すグラフである。図7に示すグラフ縦軸は糸状菌数(CFU/g乾土)を、横軸は時間(年)をそれぞれ示し、本発明に係る機能繊維シートを用いた場合の測定結果については点線で、対照品を用いた場合の測定結果については実線で示した。図7のグラフが示すとおり、発明品使用区においては、2年目から対照に比べて糸状菌数が大幅に増加し、3年目ではその差はさらに広がっていた。これにより、本発明に係る機能繊維シートが表土中の糸状菌を活性化し、糸状菌数の増加につながったことが示された。
【0089】
(試験結果4)
図8は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1年目における表土中の耐水性団粒組成の測定結果を示すグラフである。図8に示すグラフ横軸は団粒のサイズ(mm)を、縦軸は各団粒サイズの全体に対する割合(%)をそれぞれ示し、黒色で塗り潰された棒グラフは本発明に係る機能繊維シートを用いた場合を、白抜きの棒グラフは対照品であるポリエステル繊維シートを用いた場合の測定結果を表している。図8のグラフが示す通り、本発明に係る機能繊維シートを使用した処理区では団粒サイズが2mm以上のものが多く、耐水性大団粒の割合が増加した。一般的に、団粒サイズが大きくなるほど、土壌の三相分布や透水性などの土壌の物理性は改善されることから、本発明に係る機能繊維シートが植物の生育に好適に作用することが考えられる。
【0090】
(試験結果5)
図9は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下30cmでの地温の測定結果を示すグラフである。図9に示すグラフ縦軸は地温(℃)を、横軸は日付(カレンダー)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを敷設した処理区の測定結果については点線で、対照品を敷設した処理区の測定結果については実線で示した。図8のグラフが示す通り、測定した1か月間の中では、本発明に係る機能繊維シート敷設区では地温が対照区より1℃〜3℃程度高く推移しており、本発明機能繊維シートの方が対照品よりも保温力が高いことが示された。
【0091】
(試験結果6)
図10は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下10cmの地点での含水比の測定結果を示すグラフである。図9に示すグラフ左縦軸は含水比(%)を、右縦軸は2時間降水量(mm、1時間毎の降雨量を測定し、2時間単位で表す)を、横軸は日付(カレンダー)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを敷設した処理区の測定結果については点線で、対照品を敷設した処理区の測定結果については実線で示した。図10のグラフが示す通り、本発明に係る機能繊維シートは降雨後の保水性が対照品よりも優れており、例えば9/11〜9/16の期間など降雨後一定の期間が経過した時点で、顕著であった。
【0092】
(試験結果6)
図11は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目におけるトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。図11に示すグラフ左縦軸は地上部乾物重(g/株)を表し、黒色で塗りつぶされた棒グラフは本発明に係る機能繊維シート敷設区における乾物重の測定結果を、白抜きの棒グラフは対照区での乾物重の測定結果を示している。図11のグラフが示す通り、本発明の機能繊維シートを用いた場合はトールフェスクの地上部の生育が対照品を用いた場合よりも優れていた。
【0093】
(試験結果7,8)
図12は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの根のアーバスキュラー菌根菌共生率の計測結果を示すグラフである。図13は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。
図12,13に示すグラフ左縦軸は、アーバスキュラー菌根菌共生率(%)、トールフェスク1株当たりの地上部乾物重(g/株)をそれぞれ表している。また、図12,13では本発明に係る機能繊維シート敷設区のデータを黒塗りの棒グラフで示し、対照区のデータを白抜きの棒グラフで示した。図12,13のグラフが示す通り、本発明に係る機能繊維シートによって、トールフェスクの根へのアーバスキュラー菌根菌共生率が増加し、地上部の生育も対照品より優れていた。
【0094】
(試験2)
本発明に係る機能繊維シートによる表土の浸食防止効果を検証するために行った試験2について説明する。
試験2では、供試用の本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートを用いて人工試験機により降雨試験を行い、流出水濁度(SS値)を測定することで、それぞれのシートの浸食防止効果を比較した。
試験2では、マサ土の盛土(勾配30°)、時間降雨量36mmで30分間降雨試験(以下、第1降雨試験と呼ぶ)を行って採水した後、時間降雨量100mmで30分間降雨試験(以下、第2降雨試験と呼ぶ)を行って採水し、それぞれの流出濁度を表すSS値の測定を行った。その後、これらのシートを剥がして、100mm×100mmに裁断した後、105℃の乾燥器中で乾燥して、それぞれの重量を測定し、試験に用いなかった新品のシートとの重量差から、試験に使用したシートに付着した土壌の乾燥重量を算出し、シートと土壌との密着性を評価した。
【0095】
第1,2降雨試験後のそれぞれの処理区におけるSS値の測定結果を以下の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
上表1に示されるように、発明品は対照品よりもSS値が低いので、浸食防止機能が高いことが示された。
【0098】
また、第1,2降雨試験を終えた後の各シートへの土壌の付着量の測定結果を以下の表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
上表2に示されるように、発明品は対照品よりも、シートに付着した土壌の量が多いことから、発明品は土壌との密着性が高いといえ、これにより対照品に比べて高い土壌の浸食防止効果を有しているといえる。
【0101】
(試験3)
本発明に係る機能繊維シートと対照品の復元率を比較するために行った試験3について説明する。
試験3では、供試用の本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートを100mm×100mmに裁断して、水道水に浸漬して十分吸水させた後、引き上げて水平状態で吸着水を切り、重量を測定した。その後、それぞれのシートを水平面に対して90°に保って排水させた後、それぞれのシート重量を測定し、吸水後に水平状態に排水させた際の重量と、その後にシートの向きを水平面に対して90°にして排水させた際の重量の変化から排水率を測定した。さらに、排水率を測定した後に各シートを乾燥させてそれぞれの厚さを測定し、吸水前後のシートの厚さの変化割合を、吸水乾燥後復元率とした。
なお、発明品,対照品に係るシートの復元率は、試料であるシートを6枚重ね、5g/100cm2の荷重をかけて厚さを測定(測定値A)し、さらにその1/2になるまで荷重をかけて圧縮した後、荷重を取り除いた(それぞれのシートを荷重から開放した)。その後、再びそれぞれのシートに5g/100cm2の荷重をかけて厚さを測定し(測定値B)、測定値A,Bの変化割合を復元率とした。
発明品と対照品の復元率、排水率、吸水乾燥後復元率の計測結果を以下の表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
上表3に示すように、発明品は対照品よりも復元率、吸水乾燥後復元率共に高いことが示された。一方、排水率については、対照品に比べて発明品が低い値を示しているが、このことは、発明品が対照品に比べて高い保水性を有していることを示している。
【0104】
(試験4)
本発明に係る機能繊維シートと対照品を用いた場合の植物種子の発芽貫通特性を比較する目的で行った試験4について説明する。
試験4では、供試用の本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートを30cm×30cmに裁断したものをそれぞれ3枚ずつ準備し,トールフェスクの種子(成立期待本数270本/900cm2)をシートの下に分散させてからシートを敷設し、30日が経過した時点のトールフェスクの発芽本数を計測した。なお、発芽本数は、シートを貫通したもののみをカウントした。
発明品と対照品(それぞれ3枚ずつ)におけるトールフェスク種子の発芽本数を以下の表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
上表4に示されるように、発明品は対照品よりもトールフェスクの発芽本数が多かった。このことは、上表2の土壌との密着性の試験の結果で示されるように、発明品の方が対照品よりも土壌との密着性が高いことにより、発芽したトールフェスクは、シートをより貫通しやすくなったと考えられる。
また、試験4の結果から、発明品の方が対照品に比べて植物種子の発芽やその後の生育に適した環境を形成する効果が高いことが確認された。
【0107】
本発明に係る機能繊維シートは、第1〜4の機能繊維がランダムに交絡されてなるもの、あるいは、合成樹脂製の繊維がランダムに交絡されてなる繊維シートの繊維に機能材料が,付着され又は練り込まれて,あるいは,これらの両方の手段により担持されるものであり、本発明に係る機能繊維シートを構成する繊維が施工面の表土の土壌粒子と絡み合って密着し、施工面の表土の風雨による浸食を防止して保護することに加えて、表土中の微生物、特に菌根菌など糸状菌の生育を活性化する効果も有しているため、在来植物の定着と生育を促進し、早期の健全な緑化を実現することができる。
【0108】
本発明に係る緑化材充填物の効果を立証するために、以下に示すような試験5,6を実施した。ここでは、その試験方法と試験結果について説明する。
なお、本発明に係る緑化材充填物においては、袋体の保水性の向上が緑化に最も大きな影響を与えると考えられるため、特に試験5では緑化材充填物の袋体として、保水性のみを向上させたものを発明品として使用して試験を行った。
(試験5)
ポリエステル製の撥水性繊維のみを交絡させて作製した不織布(試験1〜4において使用した対照品と同じもの)からなる袋体(対照:以下対照品ともいう)、及び、撥水性繊維と高吸水性樹脂を練り込んだ保水性繊維をランダムに交絡させた不織布からなる袋体(本発明:以下発明品1ともいう)を作製した。なお、対照品及び発明品に係る袋体の構造は図14に示されるものと同じにした。
【0109】
(試験5の調査方法)
長崎県雲仙普賢岳の火砕流跡地において、現地における発芽成立本数と一定期間経過後の最大樹高の調査比較を行った。作製した対照品、発明品1それぞれの供試用袋体の中に、現地表土とアカガシ種子などを1袋あたり15粒ずつ入れ、現地にランダムに間隔を空けて設置した。対照品は10袋、発明品1は40袋作製した。設置後6ヶ月間、自然条件下に放置し、6ヶ月後に設置した袋体からの発芽成立本数と最大樹高を測定した。
なお、試験5は、火砕流跡地の一般人の立ち入り禁止区域内にて行い、作業関係者全てに対して守秘義務を負わせて試験を行った。
【0110】
(試験5の結果)
測定結果を、図20及び図21に示す。図20は供試用の袋体に入れたアカガシなど木本植物種子の発芽成立本数を対照品と発明品1で比較したものである。図20に示すグラフ縦軸は1袋あたりの発芽成立本数の平均値(本/袋)、横軸は対照品、発明品(発明品1)の結果を表している。エラーバーは標準偏差を表す。図20に示すグラフに示される通り、対照品では1袋あたりの平均発芽成立本数が4本であったのに対し、発明品1では12本であり、発明品1の優位性が示された。
図21は、発芽した木本植物の最大樹高を対照品と発明品1とで比較したものである。図21に示すグラフ縦軸は最大樹高(cm)、横軸は対照品、発明品(発明品1)の結果をそれぞれ表している。エラーバーは標準偏差を表す。図21に示すグラフが示す通り、対照品では樹高の平均が6.6cmであったのに対し、発明品1では平均で9.1cm以上であり、発明品1の優位性が示された。
従って、上記試験5に使用した袋体に、保温性が付加され、さらに、多孔質体や有機質成分が付加された場合には、より顕著な効果が発揮されることが予測される。
【0111】
(試験6)
先の試験1〜4において供試した機能繊維シートと同じ機能繊維シートを使用して袋体(以下発明品2ともいう)を作製して供試した。また、対照品は、試験5において使用したものと同じ対照品[ポリエステル製の撥水性繊維のみを交絡させて作製した不織布(試験1〜4において使用した対照品と同じもの)]を用いて作製した袋体を使用した。なお、発明品2の構造は図17に示すものと同じとし、補強材20として椰子繊維を使用した。
【0112】
(試験6の調査方法)
長崎県雲仙普賢岳の火砕流跡地において、現地における土壌微生物バイオマスの変化と草本植物根へのアーバスキュラー菌根菌の共生への影響を比較した。作製したそれぞれの袋体に、イネ科の多年草であるウィーピングラブグラス(シナダレスズメガヤ)の種子を約13,000粒ずつ入れ、現地にランダムに設置した。対照品は1袋、発明品2は3袋設置した。設置後6ヶ月間、自然条件下に放置し、6ヶ月後に設置した袋体下の表土中における微生物バイオマス炭素量とアーバスキュラー菌根菌のウィーピングラブグラスの根への共生率を測定した。
なお、微生物バイオマス炭素量は、対照品と発明品のそれぞれのシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、クロロホルム薫蒸直接抽出法にて測定を行った。
アーバスキュラー菌根菌による根への共生率は、ウィーピングラブグラスの根をとりパンブルーで染色後、格子交点法にて測定した。
なお、試験5は、火砕流跡地の一般人の立ち入り禁止区域内にて行い、作業関係者全てに対して守秘義務を負わせて試験を行った。
【0113】
(試験6の結果)
測定結果を、図22及び図23に示す。図22は表土中における微生物バイオマス炭素量を対照品と発明品2で比較したものである。図22に示すグラフ縦軸はバイオマス炭素量(mg/kg乾土)を、横軸は対照品、発明品(発明品2)の結果を表している。発明品のエラーバーは標準偏差を表す。図22に示すグラフが示す通り、対照品ではバイオマス炭素量が9.2mg/kg乾土であったのに対し、発明品2では22.3mg/kg乾土であり、発明品2の優位性が示された。
図23は、それぞれの袋体から発芽したウィーピングラブグラスの根へのアーバスキュラー菌根菌の共生率を、対照品と発明品2で比較したものである。図23に示すグラフ縦軸は共生率(%)を、横軸は対照品と発明品(発明品2)の結果を表している。発明品2のエラーバーは標準偏差を表す。図23に示すグラフが示す通り、対照品での共生率が21.0%であったのに対し、発明品では33.7%以上であり、発明品2の優位性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上説明したように本発明は、土壌微生物を活性化させるための複数種類の機能繊維をランダムに交絡させて形成してなる機能繊維シートと、この機能繊維シートを用いてなる緑化用シートおよび緑化材充填物、およびこの緑化用シート又は緑化材充填物を用いて表土中の微生物の生育を促進し、健全かつ早期の緑化を実現する緑化工法であり、土木工事および環境保護、園芸、農業、災害復旧に関する分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1a,1b…機能繊維シート 2…第1の機能繊維 3…第2の機能繊維 4…第3の機能繊維 5…第4の機能繊維 6…シート体 7…固定部 8…基布 9…補強ネット 10…緑化用シート 11…緑化工法 12A,12B…緑化材充填物 13…植生基盤材 14…植物種子 15…植物苗 16…目合い 17…施工面 18…緑化工法 19…袋体 20…補強材
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌微生物を活性化させるための複数種類の機能繊維をランダムに交絡させて形成してなる機能繊維シート,および,この機能繊維シートを用いてなる緑化用シート又は緑化材充填物,および,緑化用シート又は緑化用充填物を用いて表土中の土壌微生物の繁殖を促進して活性化することにより植物の生育を促進して,健全かつ早期の緑化を実現する緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事後の環境修復や土砂災害からの復旧などにおいて、裸地になった土地の緑化は植生の回復と土壌の保全の観点から重要である。これまでの緑化技術では、施工初期において植物の生育が十分でなく、土壌が流出しやすいという課題があった。
また、従来の緑化技術では生育の早い外来種のイネ科やマメ科植物が多用されてきたが、近年、生物多様性保護の観点から地域固有の在来種による緑化が注目されてきたため、施工地近辺の表土を活用した緑化工法、すなわちマザーソイル工法(非特許文献1を参照)、自己復元緑化工法(非特許文献2を参照)などが行われている。しかしながら、前者の工法を採用する場合は、施行地周辺の表土を活用した緑化工法は、表土を大量に確保する必要性があるという課題があり、また、後者の工法を採用した場合は、表土を採取した場所の生態系を乱してしまうという課題があった。
その一方で、近年、保温性、保湿性、消臭性など、様々な機能が付加された機能性繊維が多数開発され、特に衣類などの生活日用品などに利用されている。しかしながら、緑化用シートについては、合成繊維からなる構造を有してはいるものの、これらの機能性繊維を有効に活用して緑化の効率を高めるような利用はされていないのが現状である。
【0003】
また、火山活動による火砕流堆積地、大雨などによる土石流堆積地、山火事災害地などの荒廃地、砂漠などを緑化したり、樹林化したりする試みの中で、様々な資材や方法が開発されてきた。このうち、人里離れた場所や立ち入りが困難な場所、対象範囲が広大でシート体などの敷設が難しい場所などにおいては、植物種子や肥料など植物の生育に必要な資材の一式が充填されており、一度の散布により、後のメンテナンスが不要なバッグ状の植生袋を用いるのが便利である。
植生袋の従来例として、不織布などで作った袋体の中に、土壌,土壌改良材,肥料,保水材,植物共生微生物,植物の種子,苗などを充填した乾式緑化資材や、土壌,土壌改良材,肥料,植物共生微生物,浸食防止材,混和材,種子に水を加えた湿式緑化資材、地盤を安定化させるセメント系固化剤などがあり、これらを人力で施工したり、ヘリコプターなどの航空機から散布したりする方法が知られている。しかしながら、乾燥し易い荒廃地や施工面において土壌微生物の活性化を最優先に考慮して開発された緑化材資材についてはこれまで知られていなかった。
本願発明と同一の解決すべき課題を有する先行技術は、現時点では発見されていないが、関連する技術分野の先行技術としては以下に示すようなものが知られている。
【0004】
特許文献1には「有機肥シート」という名称で、塩化ビニールシートを使用せずに、地熱の保温、保湿や雑草の成長抑制と有機肥料の施肥と有益生物の増殖を同時に行うことのできるシート体に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明である有機肥シートは、藁,椰子がら,古紙などの生物分解性の長い繊維と、水,有機肥料,化学肥料,中和剤,粘化剤,保湿剤などを適宜に組み合わせて混ぜ合わせ、加熱、圧延することで柔軟な不織布状に成型したことを特徴とするものである。また、この有機肥シートは、その表裏を貫いて通気および吸水のための小さな孔や表面に凹凸を施し、作物に有益な細菌、微生物、昆虫の卵などを浸透、定着させてもよい。
上述のような特許文献1に開示される発明によれば、作物を植えつけると雨や散水時に水が通気吸水孔から染み込み、ふやけて多孔質の毛布のようになって畦を覆い、地熱を保温し、地表を保湿することで農作物の成長を促し、徐々に有機肥料と有益生物を土壌に供給し、他の成分も徐々に生物分解して有機肥料となるために、土壌が健全になり、病害に強く、食品安全性の高い農作物を健全に育てることができる。また、有害な産業廃棄物を発生させず、環境保全にも貢献できる。さらに、従来のビニールシートの敷設作業と施肥作業に当たる作業が一度に行われ、収穫後は撤去する必要がないため農作業にかかる労力を省力化することができる。
【0005】
特許文献2には、「野芝の植生マット」という名称で、養生中に種子の環境における保湿性や保温性を確保するための植生マットに関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明である植生マットは、紙からなるベース部上に、少なくとも発芽前の野芝の種子を重ね、その上にセルロースからなる不織布を介して有孔なプラスチックフィルムを重ねて、全体を一体化してなることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、セルロースからなる不織布によって保水又は/及び保湿部材性を向上でき、さらに万一プラスチックフィルムが万一破損しても種子を保護できるという効果を有する。
【0006】
特許文献3には「微生物固定化担体」という名称で、微生物を固定して繁殖状態を保持させるための微生物固定化担体に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明である微生物固定化担体及びその製法は、太い繊維状素材からなる3次元構造体の内部に、細い繊維及び/または細かい多孔性粒状物を充填せしめてなることを特徴とするものである。また、この微生物固定化担体の太い繊維状素材からなる3次元構造体は、熱融着法により作られた500デニール以上の繊維からなる不織布であり、さらに、この微生物固定化担体における細い繊維状充填物は10デニール以下の合成繊維、再生繊維、天然繊維またはセラミック、キトパール、キトサン、麦飯石、活性炭である。
上記構成の特許文献3に開示される発明によれば、微生物固定化担体の機能を付与するとともに全体としての取扱の容易性及び経済性を併せ持たせ、生物機能を利用した化学物質の生産、水質浄化、廃棄物処理等に広く適用することが出来る。
【0007】
特許文献4には「表土保護シートの製造方法」という名称で、道路建設、農地や宅地造成などによって生じる裸地や法面、あるいは荒廃裸地等の土壌浸食防止を図る表土保護シートに関する発明が開示されている。
特許文献4に開示される発明である表土保護シートは、本発明と同一の出願人によるものであり、特許文献4中に記載される符号をそのまま用いて説明すると、繊度の異なる複数種類の撥水性繊維4,6〜8を絡み合わせて1〜200mmの厚みに形成したシート状体2からなる表土保護シート1であって、前記撥水性繊維の繊度が1〜50デシテックスであるとともに繊維長が10〜100mmであり、かつ、前記複数種類の撥水性繊維4,6〜8のうち少なくとも1種類は、加熱によって溶着する接着繊維4であることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献4に開示される発明によれば、表土保護シートの復元力を維持させることができるため、長期間に亘って嵩高を維持可能であり、降雨水等の水との接触、あるいは経時変化によるシートの弾性の低下に起因する「へたり」が防止できる。従って、長期間に亘って被保護表土の浸食を防止することが可能である。また、この「へたり」が防止されることもあって、種子や培地が流出することを防止でき、十分な植生環境を形成できる。従って、二酸化炭素低減を可能としながら、表土の浸食も防止することができる。
【0008】
さらに、改良された植生袋や、植生袋を用いた工法の具体的な事例としては、以下に記載するような文献が知られている。
特許文献5には「植生袋」という名称で、発芽した種子の貫通性を有し,かつ,植生基盤材を流出させない目付量である不織布の袋に、保水材を入れた植生袋が開示されている。
特許文献6には「乾式緑化資材とスラリー状緑化資材とを用いる重ね播き航空緑化工法」という名称で、荒れ地に満遍なく散布可能なスラリー状緑化資材と、荒れ地に植生基盤を散布させるのに適した乾式緑化資材を重ね播きすることによって、荒れ地を短期間に緑化する方法が開示されている。
特許文献7には「緑化基盤造成方法および法面緑化構造体」という名称で、急傾斜地や山岳地域などの大型機器の搬入が困難な施工現場(例えば、荒廃地や、法面など)において機械を用いることなく緑化基盤層を造成する緑化基盤造成方法および法面緑化構造体に関し、落石防止のための金網と植生袋とを組み合わせた緑化工法が開示されている。
特許文献8には「表土を利用した法面緑化方法及び植生袋」という名称で、生物多様性保護の観点から、施工地域の表土を利用した法面緑化方法及び植生袋に関する発明が開示されている。
特許文献9には「荒廃地の樹林化方法」という名称で、荒廃地の樹林化方法に関し、詳しくは、火山灰の降灰地域やはげ山などの広範囲にわたる荒廃地を、簡易な方法で早期に樹林化することのできる荒廃地の樹林化方法に関し、複数の樹木苗を密に移植して形成した植物群落単位を,間隔を設けて多数配置し、この植物群落単位間に在来草本種子を播種施工する緑化工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−263688号公報
【特許文献2】特開2010―183856号公報
【特許文献3】特開平8−103272号公報
【特許文献4】特開2010−101105号公報
【特許文献5】特開2004−100327号公報
【特許文献6】特開平09−262010号公報
【特許文献7】特開2006−336193号公報
【特許文献8】特開2004−278229号公報
【特許文献9】特開2000−139113号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】清水正二「埋土種子を利用したマザーソイル工法」四国技報6(12):35−36
【非特許文献2】山里剛史ら「風土工学理念による緑化工法について(自己復元緑化工法試験施工報告)」日本感性工学会予稿集:巻6頁95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に開示される発明の場合、土壌微生物の繁殖を好適に促進できると考えられるものの、この有機肥シートはその全てが生分解性を有する材質により構成されるため、長期間にわたり土壌表面を保護して、雨水による土壌浸食を防止することはできなかった。
【0012】
特許文献2に開示される発明の場合、植生マットにおけるプラスチックフィルムを野芝の芽が成長する過程において取外さなければならない。この場合、植生マットを施工した後に別途プラスチックフィルムを取外す手間がかかる上、使用済のプラスチックフィルムを廃棄しなければならないので、廃棄のためのコストもかかり不経済であった。
【0013】
特許文献3に開示される発明は、そもそも緑化用シートとして使用することを目的としていないため、緑化対象面に緑化用シートとして敷設した場合に、3次元構造体の内部の収容物が雨水の流動により移動してしまう恐れがあった。
この場合、微生物固定化担体による土壌微生物の活性促進効果が、施工面の全面において均質に発揮されないおそれがあり、施工面全域を効率よく緑化することができない恐れがあった。
また、特許文献3に開示される発明の場合、土壌微生物を活性化できたとしても、3次元構造体の空隙率が90%以上でない場合は、シートの内部空間を雨水の導水路として有効に活用できない恐れがある上、3次元構造体内部(シート)への光の透過が不十分となり植物種子を好適に発芽させることができないおそれもあった。
すなわち、土壌微生物を活性化する機能を有することが、必ずしも、植物の生育に適した環境が形成されることを意味するのではなかった。
【0014】
特許文献4に開示される発明の場合は、施工面における表土の保護効果が期待できるものの、施工面に新規に導入される土がマサ土などの肥料分をほとんど含まない土である場合には、菌根菌を含む土壌微生物が定着しにくく、緑化に時間がかかるという課題があった。
【0015】
特許文献5に開示される発明は、不織布の袋に保水剤が入れられているものの、火砕流荒廃地などは夏場の乾燥が激しく、降雨が少ないために、植物の発芽や生育に必要な水分が得られないという課題があった。つまり、保水機能を有していない不織布を用いた場合、その内部に保水材を充填しても十分な保水機能を期待することはできなかった。
【0016】
特許文献6に開示される発明は、乾式緑化資材とスラリー状緑化資材とを組み合わせた重ね捲き航空緑化工法であり、スラリー中に含まれる水分は、施工後直ちに蒸発してしまい、上記特許文献5の場合と同様に、夏場の乾燥によって、植物の発芽や生育に必要な水分が得られないという課題があった。
【0017】
特許文献7に開示される発明は、法面などにおける落石防止のための金網と植生袋とを組み合わせた工法であるが、当該工法の目的が、施工地斜面での落石防止と植生回復であり、施工地に元来生息する土壌微生物の増殖や活性化を重視したものではなかった。
【0018】
特許文献8に開示される発明は、非特許文献1と同様に、施行地周辺の表土を活用した緑化工法は、表土を大量に確保する必要性があり、表土を採取した場所の生態系を乱してしまうという課題があった。
【0019】
特許文献9に開示される発明は、複数の樹木苗を密に移植して形成した植物群落単位を、間隔を設けて多数配置し、間に在来草本種子を播種施工する工法であるが、当該工法は綿密な植栽計画が必要であり、火砕流荒廃地のような大面積での施工には不向きであった。
【0020】
通常、荒廃地や法面は、植生が無いために肥料成分に乏しく、表層部分が乾燥しやすいという共通の性質を有しており、このため、自然な植生の発生を促すことが難しかった。上述の特許文献5〜9に開示される各種資材や工法においては、植物の種子や苗を発芽・生育させるために保水性を有する材料を用いて保水機能を持たせる構成にはなってはいるが、植生の形成には水分と肥料成分を与えるのみでは不十分であり、これら以外にも、例えば、土壌微生物の存在や、保温性、通気性、排水性などの機能を被施工面の表層部がバランスよく備えている必要がある。すなわち、被施工面である荒廃地や法面を緑化するには、当然ながらそのエリアが、草地や森林における表層部の状態に近い状態であることが好ましい。
しかしながら、このような植生に適した土壌の表層部は、通常、植生が形成されることによって初めて生じるものである。従って、植生が存在していない環境に、予め、植生の存在によって初めて生じるような土壌環境を人工的に形成することは極めて困難であった。
【0021】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、施工面を形成する土壌が肥料成分に乏しく,土壌微生物を活性化することが難しい状況であっても、その土壌の表面において確実に土壌微生物を活性化することができ、土壌表面を長期間にわたって均質に保温、保湿しつつ、かつ、肥料成分を供給して植物種子(植物)の発芽や生育に適した環境を提供するとともに、長期間にわたって土壌表面を保護できる機能繊維シート,および,それを用いた緑化用シートまたは緑化材充填物,および,緑化用シートまたは緑化材充填物を用いた緑化工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明である機能繊維シートは、単一のシート体からなる,又は,このシート体を複数枚積層してなる,機能繊維シートであって、シート体は、合成樹脂からなる繊維に保温材を付加した第1の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に多孔質体を付加した第2の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に吸水材を付加した第3の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に有機質成分を付加した第4の機能繊維とをランダムに交絡させてシート状に形成したことを特徴とするものである。
上記構成の発明において第1の機能繊維は、機能繊維シートが敷設される施工面を保温するという作用を有する。また、第2の機能繊維は、機能繊維シートが敷設される施工面を保水するという作用を有する。さらに、第3の機能繊維は、施工面上に土壌微生物の棲みかを提供するという作用を有する。また、第4の機能繊維は施工面に肥料成分又は土壌微生物の栄養源となる物質を供給するという作用を有する。
そして、請求項1に係る機能繊維シートが、上述のような第1〜4の機能繊維がランダムに交絡させてなることにより、機能繊維シートが敷設される施工面の全域において均質に上述のような保温作用、保水作用が発揮されるとともに、土壌微生物の棲みかとその活性化のための栄養源も提供するという作用を有する。
また、第1〜4の機能繊維の主原料を合成樹脂とすることで、請求項1記載の機能繊維シートの経時変化に伴う「へたり」を抑制するという作用を有する。
【0023】
請求項2記載の発明である機能繊維シートは、合成樹脂からなる繊維をランダムに交絡させてなる単層又は複数層からなる繊維シートと、この繊維シートを構成する繊維の表面に接着材を介して付着される粉末状又は粒子状の機能材料とを有し、機能材料は,保温材と,多孔質体と,吸水材と,有機質成分とを少なくとも含有することを特徴とするものである。
上記構成の発明において、繊維シートは機能材料である保温材と、多孔質体と、吸水材と、有機質成分とを少なくとも担持するとともに、機能繊維シートの「へたり」を抑制するという作用を有する。
また、請求項2記載の発明において保温材は,機能繊維シートの保温性を高めるという作用を、多孔質体は,土壌微生物の棲みかを提供するという作用を、吸水材は,機能繊維シートの保水性を高めるという作用を、有機質成分は,土壌微生物を繁殖させるための栄養分を供給するとともに,植物の生育を促進させる栄養分を供給するという作用をそれぞれ有する。
【0024】
請求項3記載の発明である機能繊維シートは、請求項1又は請求項2に記載の機能繊維シートであって、機能繊維シートの厚みは1〜50mmの範囲内であり、機能繊維シートの空隙率は90%以上であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明と同じ作用に加え、機能繊維シートの厚みを1〜50mmの範囲内とし、機能繊維シートの空隙率を90%以上とすることで、機能繊維シートの内部の空隙を雨水の導水路として機能させるという作用を有する。また、請求項3記載の発明の場合、機能繊維シートの空隙率が大きいので、内部にまで十分に光が届いて、機能繊維シートの内部における植物種子の発芽およびその生育を促進するという作用を有する。
【0025】
請求項4記載の発明である機能繊維シートは、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の機能繊維シートであって、機能繊維シートに少なくとも1種類の土壌微生物を添加したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明と同じ作用に加えて、機能繊維シートに予め土壌微生物を添加しておくことで、施工後の機能繊維シート内における土壌微生物の増加速度を速めるという作用を有する。
なお、請求項4記載の発明においては、機能繊維シートと別体に土壌微生物を添加してもよいし、土壌微生物が予め添加された有機質成分や多孔質体を合成樹脂からなる繊維に添加して第2の機能繊維や第4の機能繊維を構成することにより、機能繊維シートに土壌微生物を添加しても良い。
【0026】
請求項5記載の発明である緑化用シートは、生分解性を有する材質からなる基布と、この基布上に積層される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートと、この機能繊維シート上に覆設される生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強ネットと、を有することを特徴とするものである。
上記構成の請求項5記載の発明における基布は、基布の構成材料が生分解されて消失するまでの間、雨水や人工的に給水される水により,機能繊維シートに付加された有機質成分が施工面側に溶出して流亡するのを緩やかにするという作用を有する。また、請求項5記載の発明における機能繊維シートは、上記請求項1乃至請求項4のそれぞれに記載の発明と同じ作用を有する。そして、補強ネットは、緑化用シート内部への水や光の浸入を確保しつつ、機能繊維シートの施工面への設置を容易にするという作用を有する。
特に、補強ネットを,生分解性を有する材質により構成した場合は、時間の経過とともに生分解されて消失するという作用を有する。
【0027】
請求項6記載の発明である緑化用シートは、請求項5記載の緑化用シートであって、基布と機能繊維シートの間に植物種子を分散した状態で配置したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明と同じ作用に加えて、緑化シートに予め植物種子を付加しておくことで、緑化用シートを用いた施工面の緑化速度を速めるという作用を有する。
【0028】
請求項7記載の発明である緑化材充填物は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートからなり,内部に中空部を備えた袋体と、中空部内に充填される充填材とを有し、充填材は,少なくとも植生基盤材を含んでなることを特徴とするものである。
上記構成の請求項7記載の発明において、袋体を構成する機能繊維シートは、施工面に対して,請求項1乃至4のそれぞれに記載の発明と同じ作用を有する。また、袋体は、その中空部に充填材を収容保持するという作用を有する。
さらに、少なくとも植生基盤材を含んでなる充填材は、施工面上に、植物の根茎の生育に適した環境を十分な厚みをもって形成させるという作用を有する。
また、機能繊維シート内だけでなく、充填材中にも保水できるので、請求項7記載の緑化材充填物が配設された場所における施工面の保水性を飛躍的に高めるという作用も有する。さらに、施工面と請求項7記載の緑化材充填物との間に溜まった水分を、緑化材充填物内に取り込むことで請求項7記載の緑化材充填物を構成する機能繊維シート内及び充填材中の土壌微生物の活性を促進して、植物体の生育を促進するという作用を有する。特に、土壌微生物の一種である菌根菌は、植物の根の組織内に入り込んで共生して、植物の根の機能を補うという作用を有する。
そして、機能繊維シートからなる袋体の中空部に充填材を充填してなる緑化材充填体は、施工面を被覆して、雨水や降雪による浸食から強固に保護するという作用を有する。
請求項7記載の発明は、施工面上にスポット状に植生の形成に適したエリアを形成させるという作用を有する。
【0029】
請求項8記載の発明である緑化材充填物は、請求項7記載の緑化材充填物であって、機能繊維シートの厚み部分,又は,充填材中,あるいは,これらの両方に、植物種子,植物苗の根株から選択される少なくとも一方を収容したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明と同じ作用を有する。
また、請求項8記載の発明によれば、機能繊維シートの厚み部分,又は,充填材中,あるいは,これらの両方に、植物種子,植物苗の根株から選択される少なくとも一方を収容しておくことで、請求項8記載の緑化材充填物を配設した後に、緑化が開始される時期を早めるという作用を有する。
【0030】
請求項9記載の発明である緑化材充填物は、請求項7又は請求項8記載の緑化材充填物であって、袋体の外側に,生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強材を配設したことを特徴とするものである。
上記構成の請求項9記載の発明は、請求項7又は請求項8記載の発明と同じ作用に加えて、補強材は袋体を補強して緑化材充填物の強度を高めるという作用を有する。
特に、補強材を,生分解性を有する材質により構成した場合は、時間の経過とともに生分解されて消失するという作用を有する。
【0031】
請求項10記載の発明である緑化材充填物は、請求項9記載の緑化材充填物であって、補強材の目合いから機能繊維シートを外側に向ってはみ出させたことを特徴とするものである。
上記構成の請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明と同じ作用に加えて、請求項10記載の発明では、補強材が設けられた場合でも機能繊維シートを、直接、施工面に接触させるという作用を有する。これにより、請求項10記載の緑化材充填物が配設される領域の地表面からの水分の蒸発を好適に抑制するという作用を有する。加えて、施工面から請求項10記載の緑化材充填物への水分の吸い上げも良好となり、請求項10記載の緑化材充填物内部、及び、この緑化材充填物が配設される領域の地表面の表層部分に生息する土壌微生物の活性化を促進するという作用を有する。
従って、請求項10記載の発明は、補強材が設けられた際に機能繊維シートと施工面とを密着させるという作用を有する。これにより、施工面と請求項10記載の緑化材充填物との間における水,土壌微生物,及び、植物体の根の移動を可能にしつつ、降雨時又は人工的な散水時に、緑化材充填物と施工面との間に溜まった水を、緑化材充填物内において植物の生育及び土壌微生物の繁殖に好適に利用して、施工面の緑化速度を速めるという作用を有する。
【0032】
請求項11記載の発明である緑化工法は、被緑化対象である地表面上に,請求項5又は請求項6に記載の緑化用シートを敷設して、この緑化用シートに雨水を,又は,人工的に水を供給して、緑化シート中に内包される植物種子に由来する植物,緑化シートに自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とするものである。
上記構成の請求項11に記載の発明において、緑化用シートを敷設する工程は、施工面上に人為的に土壌微生物の繁殖に適した環境を形成し、それにより、植物種子(植物)の生育に適した環境を施工面上に人為的に形成するという作用を有する。そして、この工程の後に、緑化用シートに水を供給して、緑化シート中に内包される植物種子に由来する植物,緑化シートに自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることで、植物の生育を促進させながら施工面上を緑化するという作用を有する。
【0033】
請求項12記載の発明である緑化工法は、被緑化対象である地表面上に,請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の緑化材充填物を単独で,あるいは,この中から選択される少なくとも2種類の緑化材充填物を組み合わせて配設して、緑化材充填物に雨水を,又は,人工的に水を供給して、緑化材充填物中に内包される植物種子に由来する植物,緑化材充填物中に内包される植物苗の根株に由来する植物,緑化材充填物に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とするものである。
上記構成の請求項12記載の発明において、被緑化対象である地表面上に,請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の緑化材充填物を単独で,あるいは,この中から選択される少なくとも2種類の緑化材充填物を組み合わせて配設する工程は、施工面上に請求項11に記載される場合よりもより厚くて充実した土壌微生物の繁殖に適した環境を人為的に形成し、それにより、植物種子(植物)の生育に適した環境を十分な厚みをもって施工面上に人為的に形成するという作用を有する。
そして、この工程の後に、緑化材充填物に水を供給して、緑化材充填物中に内包される植物種子に由来する植物,緑化材充填物中に内包される植物苗の根株に由来する植物,緑化材充填物に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることで、植物の生育を促進させながら施工面上を緑化するという作用を有する。
【発明の効果】
【0034】
請求項1記載の機能繊維シートによれば、機能繊維シートを構成する第1〜4の機能繊維の全てが施工面に接触するので、この機能繊維シートが敷設される全域を、保温しながら保水することができ、これにより、施工面における土壌微生物の繁殖を促進してその機能を活性化することができる。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、施工面上に植物種子(植物)の発芽や生育に適した環境を人為的に形成することができる。
また、請求項1記載の機能繊維シートの主原料は合成樹脂製の繊維であるため、腐食が生じず長期間にわたって存在し続け、また、生分解性の材質からなる繊維に比べてへたりが生じ難いので、長期間にわたり施工面を保護することができる。
すなわち、請求項1記載の機能繊維シートによれば、施工面上に植物の生育に適した環境を人為的に作り出してその状態を持続しつつ、施工面を雨水から好適に保護し続けることができる。
さらに、請求項1記載の機能繊維シートが長期間存在し続けることにより、そこで生育した植物が枯れてなる有機質成分が雨水とともに流亡するのを防止できるので、施工面上における土壌微生物の活性化効果を持続させることができる。
この結果、施工後に特にメンテナンスをしなくとも緑化植物が生育しやすい環境が維持されて、健全な植生を早期に実現することができる。
【0035】
請求項2記載の発明は、実質的には、請求項1記載の発明と同じであるため、その効果も請求項1記載の発明と同じである。
また、請求項2記載の発明によれば、繊維シートの繊維に付着させる機能材料を全て粉末状又は粒子状にできる場合、あるいは、機能材料を全て粉末状又は粒子状で調達できる場合に、請求項1記載の発明よりもその製造コストを安価にできる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明と同じ効果に加えて、機能繊維シートの内部空間を導水路として機能させることができるので、機能繊維シートの平面方向に速やかに水を排水することができる。これにより、豪雨の際には、施工面をしっかりと保護しつつ、速やかに不必要な水を排水することができる。
また、機能繊維シートの内部を水が流動する際に、第3の機能繊維に吸水させることができるので、不要な水が排水された後も機能繊維シートの内部,および,機能繊維シートが被覆される施工面を適切に保水することができる。
そして、これにより、機能繊維シート内に生育する土壌微生物および植物の生命と活力を維持することができる。
【0037】
請求項4記載の発明によれば、請求項1乃至請求項3に記載されるそれぞれの発明と同じ効果に加えて、施工面を構成する土壌が有機質に乏しく土壌微生物の生息に好ましくない環境でも、機能繊維シートを施工面上に敷設するだけで、施工面上に土壌微生物を生息させ、かつ、その機能を活性化することができる。
【0038】
請求項5記載の発明によれば、人工的に形成された施工面に、土壌微生物の生息に適した環境(層)を人為的に形成することができる。すなわち、施工面上に草地や森林における土壌の表層のような植物の生育に特に適した環境を人為的に形成することができる。また、緑化用シートが基布を備えることで、緑化用シートの保肥性を向上することができる。
従って、請求項5記載の緑化用シートによれば、施工面上において土壌微生物を活性化するとともに、それにより緑化用シートに人工的に付加される,又は,自然に飛来する植物種子の発芽および生育を促進することができる。
この結果、施工面上に緑化シートを敷設することで、施工面を早期にかつ健全に緑化することができるとともに、長期間にわたり施工面を降雨や降雪による損傷から保護することができる。
請求項5記載の発明は、施工面に土壌は存在しているものの,この土壌が植物の生育に適した環境でない場合に、効率よく緑化することができる。
【0039】
請求項6記載の発明によれば、植物種子(植物)の発芽や生育に適した環境が施工面上に形成されるとともに、そこに植物種子までもが供給されるので、請求項5記載の発明を用いる場合に比べて、健全な緑化をより早期に実現することができる。
【0040】
請求項7記載の発明によれば、請求項5記載の発明の場合に比べて、より厚くて,充実した植物の生育に適した表土層(表土層は、表層よりも厚みが大きい概念である)を施工面上にスポット状に形成することができる。
これにより、請求項7記載の発明によれば、特に樹木等の,根張りのための厚い表土層を必要とする植物体を緑化用植物体として使用することが可能になる。
つまり、請求項7記載の発明では、袋体が保水性を備えることにより、充填材を含む緑化材充填物全体が保水材として好適に機能する。この結果、請求項7記載の発明を用いることで、草地はもとより,森林をも早期に再生することができる。
また、請求項7記載の発明によれば、請求項7記載の緑化材充填物を配設したエリアを局所的に植物の生育に特に適した環境にすることができるという効果も有する。すなわち、施工面上をスポット状に緑化することができる。この場合、施工面の全面に緑化材を施工する必要がなくなるので、緑化に要す資材及びコストを節減できる。
また、請求項7記載の緑化材充填物はそれ自体が十分な重量を有しているので、風により飛ばされたりして施工位置から移動する心配がない。このため、施工の手間も省くことができる。
さらに、請求項7記載の発明によれば、土壌がほとんどない岩場の表面でも、水の供給さえ確保できれば緑化できる。この場合、従来緑化が不可能とされてきたエリアも緑化できる。そして、施工面上に請求項7記載の緑化材充填物を敷き詰めた場合、この緑化材充填物はそれ自体が強力な表面保護材として機能するので、雨水や降雪による表土の浸食を好適に防ぐことができる。
【0041】
請求項8記載の発明によれば、請求項7記載の発明と同じ効果に加えて、請求項7記載の緑化材充填物を配設した後の、緑化開始時期を早めることができる。
この結果、乾燥した荒廃裸地や土壌がほとんどない岩場等において、健全な緑化を早期に実現することができる。
【0042】
請求項9記載の発明によれば、施工時に緑化材充填物に大きな外力が作用した場合でも、例えば、施工面の上空から請求項9記載の緑化材充填物を投下するなどして施工した場合でも、請求項9記載の緑化材充填物の破損を防止できる。この結果、緑化材充填物の施工時の取扱いが容易になり、施工時の作業効率を高めることができる。また、野生動物の食害による袋体の破損も防止できる。
【0043】
請求項10記載の発明によれば、袋体の外周に補強材を備えた場合でも、施工面に請求項10記載の緑化材充填物を密着させることができる。これにより、請求項10記載の緑化材充填物により施工面からの水分蒸発を好適に防止して、施工面表層部及び請求項10記載の緑化材充填物内部の保水性を高めることができる。
この結果、袋体の外周に補強材を設けた場合でも、請求項10記載の緑化材充填物内に収容される植物種子の発芽及び生育,植物の苗の根茎の生育、あるいは、自然に請求項10記載の緑化材充填物に飛来する種子の発芽及び生育が促進されるので、健全な緑化を早期にかつ高効率で実現できる。
【0044】
請求項11記載の発明によれば、自然災害等で裸地となった施工面や、土木工事等により人工的に形成された裸地状の施工面上に、土壌微生物が活性化されて植物の生育に適した環境を形成しつつ、その場において植物を生育させて施工面を速やかに緑化することができる。また、緑化用シートは、植物の生育に適した環境を施工面上に形成するだけでなく、それ自体が地表面を降雨や降雪による損傷から保護する機能を有するため、緑化された植物体の根茎および緑化用シートの両方により施工面を好適に,かつ,長期間にわたり保護することができる。
また、請求項11記載の発明の場合、緑化用シートの敷設後に、緑化用シートを構成する部材の一部を除去したり、除去したものを廃棄したりする作業を行う必要がないので、施工後のメンテナンスにかかる手間やコストを大幅に削減することができる。
また、請求項11記載の発明の場合、緑化用の植物を生育させるにあたり,まず、土壌微生物を活性化させることができるので、緑化のために導入される植物種子の発芽や生育を促進するだけでなく、自然に飛来する土着の植物の生育をも促進することができる。従って、施工面の植生をその土地に適した植生に早期に移行させることができる。
この結果、裸地の地域特性に応じた健全な緑化が可能となり、土木工事等を実施した際の生態系の破壊を最小限度にとどめることができる。
請求項11記載の発明によれば、特に、土壌がありながら植物の生育に適さない施工面を好適に緑化することができる。
【0045】
請求項12記載の発明によれば、請求項11記載の発明の効果と同じ効果をより確実に発揮させることができる。
さらに、請求項12記載の発明によれば、特に樹木等の,根張りのための厚い表土層を必要とする植物体を用いた緑化も行うことができる。この結果、土壌がない場所に林地を形成させることができる。
また、請求項12記載の発明によれば、土壌が無くむき出しの岩場等の裸地でも、水の供給が確保できれば緑化できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1に係る機能繊維シートの断面概念図である。
【図2】本発明の実施例1に係る機能繊維シートの他の例の断面概念図である。
【図3】本発明の実施例2に係る緑化用シートの断面概念図である。
【図4】本発明の実施例3に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートの比較実験において、表土中のバイオマス炭素量の経時変化を示すグラフである。
【図6】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の細菌数の経時変化を示すグラフである。
【図7】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の糸状菌数の経時変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1年目における表土中の耐水性団粒組成の測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下30cmでの地温の測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下10cmの地点での含水比の測定結果を示すグラフである。
【図11】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目におけるトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの根のアーバスキュラー菌根菌共生率の計測結果を示すグラフである。
【図13】本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例4に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。
【図15】本発明の実施例4に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。
【図16】本発明の実施例5に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。
【図17】本発明の実施例5に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。
【図18】本発明の実施例5に係る緑化材充填物の他の使用例を模式的に示した断面図である。
【図19】本発明の実施例6に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。
【図20】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、木本植物の発芽成立への影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフである。
【図21】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、木本植物の伸長成長への影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフである。
【図22】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、表土中のバイオマス炭素量の増加に対する影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフある。
【図23】本発明に係る機能繊維シートを用いた袋体と対照品であるポリエステル繊維シートを用いた袋体との比較実験において、草本植物へのアーバスキュラー菌根菌の共生に対する影響を、本発明品と対照品とで比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施の形態に係る機能繊維シート、および、それを用いた緑化用シート又は緑化材充填物、および、緑化用シート又は緑化材充填物を用いた緑化工法について実施例1乃至6を参照しながら詳細に説明する。
なお、言うまでもないが、本願明細書に記載されるものは本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの実施例に具体的に記載した材質や形態に何ら限定されるものではない。たとえば、吸水材又は保水材は,吸水又は保水機能を有する材料の総称を、接着材は接着機能を有する材料の総称を、架橋材は架橋作用を有する材料の総称を、それぞれ意味するものである。
【実施例1】
【0048】
本発明の実施例1に係る機能繊維シートについて図1,2を参照しながら説明する。図1は本発明の実施例1に係る機能繊維シートの断面概念図である。また、図2は本発明の実施例1に係る機能繊維シートの他の例の断面概念図である。
実施例1に係る機能繊維シート1aは、図1に示すように、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の保温材が付加された第1の機能繊維2と、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の多孔質体が付加された第2の機能繊維3と、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の吸水材が付加された第3の機能繊維4と、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に,粉末又は粒子状の有機質成分が付加された第4の機能繊維5の,少なくとも4種類の機能繊維をランダムに交絡させて形成した1枚のシート体6からなるものである。なお、本願明細書では、上記4種類の機能繊維を区別することなく指し示す場合は、単に「機能繊維」と表記する。
また、図2に示すように、上述のシート体6を複数枚積層して、その所々をスポット状に,例えば、サーマルボンド方式により,あるいは,それぞれのシート体6を形成する機能繊維をシート体6の積層体の断面方向に貫通させながら交絡させるなどの手法により,一体に固定してシート体6の積層体としたものを、1枚のシート体とみなして機能繊維シート1bとしてもよい。
さらに、保温材、多孔質体、吸水材、有機質成分などの機能材料を付加する繊維は、紡糸していないものも使用可能である。
【0049】
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bにおいて、合成樹脂製の紡糸された繊維に粉末又は粒子状の機能材料である、保温材、多孔質体、保水材(吸水材)、および、有機質成分を付加する方法としては、紡糸された繊維の表面に,例えば,合成樹脂からなる架橋材や接着材を塗布して、上記粉末又は粒子を接着する方法を用いてもよい。
あるいは、上記以外の機能材料を付加する方法として、合成樹脂製の繊維に上記それぞれの機能材料を練り込むという方法もある。この練り込むという方法は、繊維を構成する合成樹脂に、粉末状又は粒子状の機能材料を直接混ぜ込んだものを繊維状に形成する方法である。また、機能材料が練りこまれた繊維の様態は、繊維を構成する合成樹脂中に機能材料が一様に封じこめられた状態にはならず、実際には、合成樹脂が芯となり,その周囲に粉末状又は粒子状の機能材料が付着したような状態になるので、実質的には、粉末状又は粒子状の機能材料を合成樹脂からなる繊維に接着又は付着させてなる機能繊維と概観上は大差がない。
【0050】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第1の機能繊維2に付加される保温材とは、例えば、セラミックスや凝灰質砂岩などの遠赤外線放射材などであり、保温性を高める機能を有し、粉末状又は粒子状にしてもその機能が損なわれないようなものであれば、どのようなものでも利用可能である。また、本願発明における「保温効果」とは、上述の保温性を高める材料を,合成樹脂製の紡糸された繊維に付加した際に、保温材を付加しない合成樹脂製の紡糸された繊維を用いた場合に比べて、被施工面の温度が上昇することをいう。
また、上述の複数種類の遠赤外線放射材等のうちの少なくとも2種類の粉末又は粒子を混合して用いてもよい。
実施例1に係る機能繊維シート1a,1bでは、このような第1の機能繊維2を備えることで、本発明と同一出願人による特許文献4に開示される表土保護シート(従来品)を用いる場合に比べて、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bが敷設される領域の土壌の保温効果が高まり、表土中の微生物を活性化したり、植物の発芽や生育を良くしたりすることができる。
【0051】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第2の機能繊維3に付加される多孔質体とは、例えば、炭、竹炭、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、セラミックなどから選ばれる多孔質の材料である。また、上述のような多孔質体を粉末状又は粒子状にしたものを,合成樹脂製の紡糸された繊維に付加する際には、粉末状又は粒子状の多孔質体の孔隙を閉塞することなく繊維に付加する必要がある。より具体的に説明すると、上述のような多孔質体を合成樹脂製の紡糸された繊維に付加する際には、粉末又は粒子状の多孔質体の表面全体が接着用の架橋材又は接着材により被覆されることがないよう注意する必要がある。
そして、第2の機能繊維3は、上述のような多孔質体が付加されることで、この多孔質体の空隙が、表土中(施工面を構成する土壌中)の土壌微生物の,または,予め機能繊維シート1a,1bに接種される土壌微生物の,生息場所となり、上述の保温材、および、後述の吸水材、有機質成分による効果と共同して、実施例1に係る機能繊維シート1a,1b中において土壌微生物の繁殖を促進して活性化するという効果を発揮する。
また、上述の複数種類の多孔質体のうちの少なくとも2種類の粉末又は粒子を混合して用いてもよい。
なお、第2の機能繊維3に付加される多孔質体がセラミックの場合で、このセラミックが保温材としての機能を兼ねる場合には、1種類の機能繊維で、第1の機能繊維2と、第2の機能繊維3の機能を兼ねることもできる。
【0052】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第2の機能繊維3に付加される吸水材とは、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム塩などの高吸水性高分子の粉末や粒子であり、上述のもの以外にも、粉末状又は粒子状の状態で十分な吸水能を有するものであれば、支障なく使用することができる。
なお、上述のような吸水材を合成樹脂製の紡糸された繊維に付加する際には、吸水材の機能が失われることがないよう、粉末又は粒子状の吸水材の表面全体が接着用の架橋材又は接着材により被覆されることがないよう注意する必要がある。また、上述の複数種類の吸水材のうちの少なくとも2種類の粉末又は粒子を混合して用いてもよい。
そして、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bは、上述のような吸水材が付加された第3の機能繊維4を備えることで、本発明と同一出願人による特許文献4に開示される表土保護シート(従来品)を用いる場合に比べて、吸水性や保水性が高まり、施工面中や実施例1に係る機能繊維シート1a,1b中の土壌微生物を活性化することができ、これにより、植物(植物種子)の発芽や生育を良くすることができる。
なお、本願発明における「保水効果」とは、上述の保水性を高める材料を,合成樹脂製の紡糸された繊維に付加した際に、保水材を付加しない合成樹脂製の紡糸された繊維を用いた場合に比べて、被施工面の保水性(含水率)が向上することをいう。
【0053】
さらに、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する第2の機能繊維3に付加される有機質成分とは、例えば、セルロース、キチン、キトサンなどの糖類、タンパク質、ペプトン、アミノ酸などの単体や、バイオマスそのもの、すなわち牛糞、鶏糞、豚糞などの家畜糞、竹、稲葉などの植物性繊維やそれを含む堆肥などである。すなわち、土壌微生物が利用可能な栄養分であり、粉末又は粒子状にすることができるものであれば、どのようなものでも使用することができる。
そして、上述のような有機質成分を第4の機能繊維5に付加することで、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの内部において、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに予め添加される土壌微生物,あるいは,施工面中に生息していて実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに生息するようになる土壌微生物に対して栄養源を提供することができる。
また、この有機質成分は、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを基盤として植物を生育させる際に、その生育を促進する肥料成分としても機能する。
【0054】
従って、上述のような第1〜4の機能繊維2〜5を備える実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによれば、自然災害等により裸地となった施工面や、土木工事等により裸地になった施工面上を、保温および保水しつつ,土壌微生物の棲みかとなる場所を提供するとともに、そこに生息する土壌微生物の繁殖に必要な栄養源を供給することができる。
すなわち、施工面上に実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを敷設することで、裸地上に人為的に植物種子(植物)の生育に適した環境を形成することができる。
そして、施工面上において土壌微生物が活性化されると、土壌微生物の一部が植物体の根の組織内に入り込んだ共生関係が形成され易くなる。この場合、植物体の根の機能を、共生関係にある土壌微生物が補強するので、結果として、植物体の生育を促進することができる。つまり、施工面における土壌微生物の活性化(施工面の保水性、保温性の向上)は、植物の生育促進に直接的に寄与する。
【0055】
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに予め土壌微生物を添加しておいてもよい。実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに土壌微生物を添加する方法としては、粉体状にした土壌微生物を実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに直接添加してもよいし、第2の機能繊維3や第4の機能繊維5を製造する際に、多孔質体や有機質成分に予め粉体状にした土壌微生物を添加しておき、土壌微生物が定着した多孔質体や有機質成分を、合成樹脂製の紡糸された繊維に接着材等により付加することで、間接的に実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに土壌微生物を添加してもよい。
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに添加する土壌微生物としては、例えば、アーバスキュラー菌根菌、外生菌根菌、マメ科植物窒素固定菌、エンドフィティック窒素固定菌、フランキア、耐乾性ラン藻などがある。また、これらの土壌微生物を単独で実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに添加する必要は特になく、複数種類の土壌微生物を併せて実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに添加してもよい。
上述のように、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bに予め土壌微生物を添加しておくことで、施工面に土壌微生物が十分に生息していない場合であっても、より具体的には、施工面が荒地等で植生が貧弱化した土地であっても、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを敷設するだけで、土壌微生物が活性化されて、植物種子(植物)の発芽や生育が促進される環境を施工面上に形成することができる。
【0056】
さらに、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bは、単層からなるものも,複層からなるものもその厚みを1〜50mmの範囲内とし、空隙率を90%以上とすることが望ましい。より好ましくは、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの空隙率を90〜99%の範囲内にすることが望ましい。
この場合、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの内部に形成される空隙を、降雨時や給水時に導水路として機能させることができる。この結果、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの平面方向に効率よく水を排水することができる。また、この効果は、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bが斜面に敷設される場合に特に顕著である。
つまり、実施例1に係る実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを施工面上に敷設することで、機能繊維シート1a,1bが直接施工面の表土を押さえつけて保護しつつ、機能繊維シート1a,1bの内部の空隙が導水路として機能して雨水が施工面の表土上を直接流れることがないので、施工面の表土の浸食を好適に防止することができる。
【0057】
加えて、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する少なくとも4種類の機能繊維の主材を、合成樹脂製の紡糸された繊維とすることで、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを施工面上に敷設した際に、降雨や降雪などにより機能繊維シート1a,1bを押し縮めるような負荷が加えられたり、また、その負荷から機能繊維シート1a,1bが開放されて復元されることが繰り返された際に、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bにへたりが生じて、機能繊維シート1a,1bの内部が導水路として機能しなくなるのを抑制することができる。
すなわち、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを長期間にわたり、弾力と厚みのある状態に維持することができるので、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによる表土の保護効果が長期間にわたり持続させることができる。
よって、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによれば、緑化植物の生育環境を好適に維持する効果と、緑化しようとしている施工面の表土の長期間にわたって保護する効果を同時に発揮させることができる。
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを構成する機能繊維において,粉末状又は粒子状の機能材料を担持する繊維としては、例えば、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなどの化学繊維を支障なく使用することが可能である。
【0058】
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bでは、少なくとも4種類の機能繊維は、合成樹脂製の紡糸された繊維の表面に、粉末状又は粒子状の機能素材が付着して繊維表面に凹凸が形成された構造となっている。このような構造を有することで、機能繊維シート1a,1bを構成する機能繊維自体が土壌粒子と絡み易くなっている。
このため、特許文献4に開示される表土保護シート(従来品)を用いる場合に比べて、上述のような機能繊維を用いてなる実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを用いた場合の方が、施工面の表土との密着性を高くすることができる。
従って、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによれば、より高い土壌浸食防止効果を発揮させることができる。
【0059】
ここで、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの変形例について説明する。
これまでは合成樹脂製の繊維に粉末状又は粒子状の機能材料を、接着又は練り込みにより付加して,機能繊維(第1〜4の機能繊維2〜5)としたものを複数種類準備し、この複数種類の機能繊維をランダムに交絡させてシート体6を形成する場合を例に挙げて説明してきたが、実施例1に係る機能繊維シートの製造方法は必ずしもこの方法に限定される必要はない。
上述したもの以外の機能繊維シートの製造方法としては、例えば、合成樹脂製の,紡糸された繊維,又は,紡糸されていない繊維をランダムに交絡させてシート体(繊維シート)を形成し、このシート体(繊維シート)の繊維の表面に接着材又は架橋材を塗布して、シート体(繊維シート)に複数種類の粉末状又は粒子状の満遍なく降りかけて,それらを繊維の表面に付着させるという方法を用いてもよい。なお、ここで用いる、合成樹脂製の,紡糸された繊維,又は,紡糸されていない繊維からなるシート体(繊維シート)は、単層のものでも積層されたものでもいずれでもよい。
この場合、機能材料が添加される前の合成樹脂製の,紡糸された繊維,又は,紡糸されていない繊維からなるシート体(繊維シート)は、空隙率が90%以上(より好ましくは、空隙率は90〜99%の範囲内)であるため、シート体(繊維シート)の内部の繊維にもしっかりと粉末状又は粒子状の機能材料を行きわたらせて付着させることができる。
上述のような方法によれば、使用する全ての機能材料を粉末状又は粒子状にできる場合や、使用する全ての機能材料を粉末状又は粒子状で調達できる場合に、実施例1の変形例に係る機能繊維シートの製造コストを安価にできるというメリットがある。
また、上述のような実施例1の変形例に係る機能繊維シートの作用,効果は、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bと同じである。
さらに、先に述べた実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの製造方法と、上述のような実施例1の変形例に係る機能繊維シートの製造方法を組み合わせて本発明に係る機能繊維シートを作製してもよい。つまり、少なくとも1〜3種類の機能繊維を交絡させてシート体6を形成した後、このシート体6に接着材等により粉末状又は粒子状の3〜1種類の機能材料を添加して付着させてもよい。
【実施例2】
【0060】
実施例2に係る緑化用シートについて図3を参照しながら詳細に説明する。図3は本発明の実施例2に係る緑化用シートの断面概念図である。なお、図1,2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先に述べた実施例1に係る機能繊維シート1a,1bはそれのみでも緑化用シートとして十分に使用可能であるが、機能繊維シート1a,1bの空隙率が90%以上と高いので、雨水や人工的に供給された水の浸透性が極めて高い。
このため、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを施工面上に直接敷設すると、機能繊維シート1a,1b内に内包される有機質成分から供給される栄養分が施工面を構成する土壌中に速やかに溶出してしまい、土壌微生物の活性化や、植物の生育に有効に利用され難いという課題があった。
また、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの空隙率が高いがために、例えば、施工面に機能繊維シート1a,1bを敷設して施工面に固定しようとした際に、固定具による機能繊維シート1a,1bの固定効果が十分に発揮されない恐れもあった。
上述のような事情に鑑み、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの実用性を高めるために、機能繊維シート1a,1bに新たな構成を付加して緑化用シートにすることで上述のような課題を解決することに成功した。
【0061】
すなわち、実施例2に係る緑化用シート10は、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bからの有機質成分の流去を緩慢にするために、機能繊維シート1a,1bの下面側(施工面側)に生分解性と透水性とを有する、例えば、紙や布からなる基布8を配設するとともに、機能繊維シート1a,1bの上面側には、合成樹脂製の繊維からなる補強ネット9を覆設したものである。
なお、基布8,実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1b,補強ネット9がこれらのみで十分に密着した状態になるのであれば特に固定する必要はないが、これらが分離容易である場合には、接着材や、サーマルボンド方式による接着、あるいは、縫製等を行うことにより3種類のシート体を固定することが望ましい。
【0062】
上述のような実施例2に係る緑化用シート10によれば、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1b施工面側に基布8を配設することで、この基布8が生分解されて消失するまでの間、施工面への水の浸透を許容しつつその速度を緩慢にすることができる。これにより、実施例2に係る緑化用シート10を構成する機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bから、施工面を形成する土壌に有機質成分が流亡する速度を遅くすることができる。この結果、緑化用シート10の保肥性を高めることができる。
また、実施例2に係る緑化用シート10を基盤として植物が十分生育するころには、基布8は腐食して自然に消滅するので、緑化用シート10を基盤として生長した植物の根を、機能繊維シート1a,1bの下の施工面側に容易に伸長させることができる。
さらに、実施例2に係る緑化用シート10では、合成樹脂からなる繊維である、例えば、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなどの化学繊維からなる補強ネット9を備えることで、実施例3に係る緑化用シート10の施工面への固定性(装着性)を向上することができる。また、施工直後の裸地状態のときだけ、施工面への機能繊維シート1a,1bの固定性(装着性)を向上する必要がある場合には、補強ネット9を、例えば、麻ネットなどの生分解性を有する材質により構成してもよい。
この結果、実施例2に係る緑化用シート10を施工面上に敷設することで、最終的には、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bと、植物の根茎とにより、しっかりと施工面を保護することができる。つまり、施工面上に健全な植生を形成させることができる。
【0063】
上述のように、実施例2に係る緑化用シート10における、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bが、予め収容された植物種子(植物),又は,外部から自然に飛来する植物種子(植物)が発芽して生育する際の人工苗床として機能することで、緑化植物の生育を促進することができ、これにより、施工面を植物の根と緑化用シート10とによりしっかりと保護することができる。
また、実施例2に係る緑化用シート10は、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bの機能材料(保温材、多孔質体、吸水材、有機質成分)以外の部分が生分解性でない材質により構成されることで、緑化用シート10の人工苗床としての機能、および、土壌浸食防止材としての機能を長期間にわたり持続させることができる。
この結果、降雨量が多く、裸地において植生が形成される速度よりも、降雨により土壌が浸食される速度の方が速い場所においても、健全な植生を実現して緑化を促進できる。
【0064】
実施例2に係る緑化用シート10の応用例として、緑化用シート10の基布8と、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bとの間に、植生基盤材として、例えば、種子、肥料、土壌改良材などのうちの少なくとも1種類を分散させた状態で収容しておいてもよい。なお、種子、肥料、土壌改良材などのそれぞれは、必ずしも1種類のみとする必要はなく、複数種類の種子、肥料、土壌改良材などのそれぞれを複合して配設してもよい。
また、種子、肥料、土壌改良材などのそれぞれを収容する位置としては、実施例2に係る緑化用シート10の基布8と、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bとの間が最適である。
【0065】
例えば、実施例2に係る緑化用シート10に種子を収容させた場合は、施工域周辺からの植物種子の自然な飛来が期待できない場合であっても、緑化用シート10を敷設するだけで確実に施工面を緑化することができる。
また、実施例2に係る緑化用シート10内に、肥料を収容した場合は、施工面を形成する土壌が肥料分に乏しい場合であっても、肥料分を補充して緑化用シート10内に予め収容された植物種子(植物),又は,外部から自然に飛来する植物種子(植物)の発芽や生育を促進することができる。
さらに、実施例2に係る緑化用シート10内に、土壌改良材を収容した場合は、例えば、施工面を構成する土壌の表層部の酸性度を、緑化植物の生育に適した状態にするなどの効果を発揮させることができる。
また、上述の種子、肥料、土壌改良材などを様々に組み合わせて実施例2に係る緑化用シート10内に収容した場合は、上述の効果を組み合せた効果が期待できる。
なお、実施例2に係る緑化用シート10の基布8と、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bとの間に、植生基盤材として、有機質成分からなる肥料を収容する場合は、機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bの構成から第4の機能繊維を除いた構成としてもよい。
【実施例3】
【0066】
本発明の実施例3に係る緑化工法について図4を参照しながら説明する。図4は本発明の実施例3に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。なお、図1乃至図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例3に係る緑化工法11は、図4に示すように、必要に応じて施工面を整地し(ステップS10)た後、この施工面上に実施例2に係る緑化用シート10を敷設して(ステップS11)、この緑化用シート10を固定して(ステップS12)から、緑化用シート10に雨水を,又は,人工的に水を供給して(ステップS13)、緑化用シート10内に収容される植物種子に由来する植物,緑化用シート10に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させる(ステップS14)ことを特徴とするものである。
【0067】
上述のような実施例3に係る緑化工法11によれば、施工面上に実施例2に係る緑化用シート10を敷設するだけで、施工面上に植物種子(植物)の生育に適した環境を形成することができるので、施工面を効率良くかつ健全に緑化することができる。
また、緑化用シート10は、土壌浸食防止材としても優れた機能を発揮するので、実施例3に係る緑化工法11を実施する際に、緑化用シート10において植物の生育が十分に進んでいない状態であっても、緑化用シート10そのものにより施工面の表土をしっかりと保護することができる。
すなわち、実施例3に係る緑化工法11によれば、施工面における表土の保護と、緑化の促進を同時に行うことができる。
【0068】
なお、上述の実施例3に係る緑化工法11においては、実施例2に係る緑化用シート10を用いる場合を例に挙げて説明したが、施工面を形成する土壌に十分な肥料成分が含まれる場合や、施工面を形成する土壌に十分な埋土種子が存在する場合には、ステップS1において、実施例2に係る緑化用シート10に代えて、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bを施工面上に直接敷設してもよい。この場合、実施例1に係る機能繊維シート1a又は機能繊維シート1bの固定に、実施例2に係る緑化用シート10に用いられる補強ネット9を用いてもよい。
この場合も、実施例2に係る緑化用シート10を用いた場合と同様の効果が期待できる。
【実施例4】
【0069】
本発明の実施例4に係る緑化材充填物について図14及び図15を参照しながら詳細に説明する。
先に述べた実施例1に係る機能繊維シート1a,1bおよび実施例2に係る緑化用シート10は、建設工事後の整地された平坦な施工面上に直接敷設することによって、土壌浸食防止や緑化を達成することが可能である。このような施工面では、土壌自体は存在するものの、樹木や草本の生育に必要な水分や養分そして、土壌微生物等が著しく不足した状況にあり、これらを実施例1に係る機能繊維シート1a,1bや、実施例2に係る緑化用シート10により補ってやることで、健全な植生に効率よく導くことができる。
これに対して、大きな岩や礫が多く、凹凸の著しい火砕流が大量に堆積したような荒廃裸地などでは、植生の基盤となる土壌自体が十分に存在しないことから、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bおよび実施例2に係る緑化用シート10を敷設しただけでは緑化は困難である。すなわち、植物の生育には、水分や養分、土壌微生物の活性だけでなく、植物体が根を張るための基盤が不可欠である。このため、火砕流が堆積した場所のように、大きな岩や礫が多く、凹凸の著しい荒廃裸地の表層浸食防止と早期の緑化を実現できる資材及び工法の開発が望まれていた。
このような事情に鑑み、発明者らは鋭意研究の結果、上述の実施例1に係る機能繊維シート1a,1bにより袋体を形成し、その中空内部に、少なくとも植生基盤材を含んでなる充填材を充填した緑化材充填物を施工面上に,隙間なく又は散在させて配設することで、大きな岩や礫が多く,凹凸の著しい荒廃裸地に人為的に土壌機能を付加して緑化できることを見出した。
本願発明では、特に、機能繊維シート1a,1bを用いて植生基盤材を収容する袋体を構成することで、袋体自体及びその中空部内に収容される充填材の保水性を格段に高めて、従来緑化が困難とされてきたエリアの緑化及び林地の再生に成功した。
【0070】
図14は本発明の実施例4に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。なお、図1乃至4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図14に示すように、実施例4に係る緑化材充填物12Aは、矩形状に切り取った実施例1に係る機能繊維シート1a,1bの縁部を、例えば、縫製または熱による圧着等をするなどして袋体19としたものの中空部に、少なくとも植生基盤材13を含んでなる充填材を充填したものである。
また、袋体19内に充填する充填材を構成する植生基盤材13としては、例えば、ピートモス、椰子殻、腐食質をはじめとする有機質資材、ゼオライト、鹿沼土、バーミキュライト、ベントナイト、赤玉土、イソライトをはじめとする無機質資材を単独で,あるいは,これらから選択される少なくとも2種類を適宜組合せたものを使用できる。あるいは、施工面17から採取した表土を単独で,又は,上記資材の少なくとも1種類以上と混合して使用してもよい。
また、上述のような植生基盤材13に、アーバスキュラー菌根菌、外生菌根菌などの植物共生微生物、高吸水性の高分子樹脂、竹やアシなどの天然繊維からなるマット、クラゲなど高吸水性の動物性保水材などを単独で,あるいは,これらから選択される少なくとも2種類を適宜組合せたものを添加して植生基盤材13としてもよい。この場合、緑化材充填物12Aにおける土壌微生物を活性化して植物の生育を促進したり、緑化材充填物12Aの保水性や通気性を向上するなどの効果を付加することができる。
さらに、図14にも示すように、袋体19の中空部内に充填される充填材は、上述のような植生基盤材13に、必要に応じて上記添加材を添加するだけでなく、裁断した実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを混合して収容してもよい。 なお、実施例4に係る緑化材充填物12Aを用いて緑化を行う際に、設置後の緑化開始時期を早めるために、袋体19内に充填物と併せて、植物種子14を収容しておいても良い。
【0071】
このような実施例4に係る緑化材充填物12Aによれば、先に述べたような実施例1に係る機能繊維シート1a,1bによる有利な効果が施工面17上に付加されるだけでなく、袋体19に植生基盤材13を含んでなる充填材が充填されることで、植生の基盤となる土壌が十分にない施工面17上に、植物の生育に適した表土層(表土層は表層よりも厚みが大きい概念である)を十分な厚みをもって人為的に形成して、その位置に定着させることができる。また、袋体19が機能繊維シート1a,1bにより構成されることで、充填材を含めた緑化材充填物12A全体が、保水材,保温材としても機能することから、緑化材充填物12A内部において土壌微生物を活性化するだけでなく、その施工面の表土においても土壌微生物を活性化することができる。
この結果、実施例4に係る緑化材充填物12Aにおいてまず緑化を開始させ、その後、この緑化材充填物12Aを基盤にしてその周囲も緑化することができる。
さらに、実施例4に係る緑化材充填物12Aは、それ自体がある程度重量を有するため、施工面17への緑化材充填物12Aの固定作業を簡素化したり、省略できる。従って、実施例4に係る緑化材充填物12Aを、例えば、ヘリコプター等の航空機等を利用して施工面上から散布するという方法により施工面17に設置することが可能であるため、人の立ち入りができない場所の緑化も可能である。
【0072】
また、植生基盤材13とともに実施例1に係る機能繊維シート1a,1bを裁断したものを袋体19内に収容した場合は、緑化材充填物12Aの保水性や保温性が特に高められ、緑化材充填物12Aの下の施工面17の表層土,及び,袋体19内の植生基盤材13中の水分及び地温が好適に保持されることにより、これらに生息する土壌微生物を活性化することができる。この結果、袋体19内に充填材として混入された植物種子14や、外部から緑化材充填物12Aに自然に飛来した植物種子の発芽や生育を促進することができる。
【0073】
図15は本発明の実施例4に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。なお、図14に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図15に示すように、袋体19内の充填物中に、植物苗15の根茎を予め植え付けたものを施工面17上に配設してもよい。この場合、実施例4に係る緑化材充填物12Aによる緑化開始時期を早めることができる。また、施工面17の表層部の状態が植物の生育に好ましくない場合でも、緑化材充填物12Aの機能により植物苗15が枯死するリスクを低減できる。
なお、ここでは、袋体19の中空部内に充填される充填物中に植物種子14を混合する場合を例に挙げて説明したが、外部から植物種子の自然な飛来が十分期待できる場合には、植物種子14を充填物中に混合する必要は必ずしもない。
また、植物種子14は袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの厚み部分又は表面に散布しておいてもよい。なお、緑化材充填物12Aのどの位置に植物種子14を収容するかについては、使用する植物種子の発芽適性(日照、水分条件等)に応じて決めると良い。さらに、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの表面に植物種子14を播種する場合は、接着材等を用いて種子の落脱を防止するとよい。
【実施例5】
【0074】
本発明の実施例5に係る緑化材充填物について図16乃至図18を参照しながら詳細に説明する。
図16は本発明の実施例5に係る緑化材充填物を模式的に示した断面図である。なお、図14,15に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図16に示すように、実施例5に係る緑化材充填物12Bは、実施例4に係る緑化材充填物12Aの袋体19の外周部に、ネット状の補強材20を設けたものである。なお、この補強材20は、機能繊維シート1a,1bからなる袋体19と一体に設けても良いし、別体に設けても良い。さらに、この補強材20は、先の実施例2に係る緑化用シート10における補強ネット9と同様の材質により構成してもよい。
【0075】
なお、補強材20の素材や形状などに、特段の限定はないが、補強材20は径が1〜10mmの範囲内であるような繊維により構成し、また、この繊維同士の目合い16が1〜10mmの範囲内となるように形成されたネットを用いるとよい。このように、補強材20の目合い16を少なくとも1mm以上とすることで、発芽した植物体の伸長が袋体19及び補強材20により阻害されるのを好適に防ぐことができる。また、補強材20の目合い16を10mm以下とすることで、袋体19の破損を好適に防止して、充填物の流失を防止することができる。なお、補強材20の目合い16は必ずしも規則的に形成されている必要はない。
また、補強材20は、経時変化に伴って腐食し,最終的には土に還るような生分解性を有する材質である,例えば,椰子繊維や麻ネットなどの天然繊維により構成してもよい。
なお、図16では、実施例5に係る緑化材充填物12Bの一例として、袋体19内に充填物として植生基盤材13のみを充填した場合を例に挙げているが、この充填物は、言うまでもなく、植生基盤材13に加えて、先に述べたような添加材や、裁断した機能繊維シート1a,1bを緑化の目的に応じて適宜混合したものでもよい。
実施例5に係る緑化材充填物12Bでは、袋体19の外側に補強材20を設けることで、緑化材充填物12Bに耐衝撃性を向上できる。また、例えば、ネズミやイノシシなどの野生動物の収容植物種子14を狙った食害等により袋体19が損傷にして充填物が外部に流出するのを防止することができる。
【0076】
なお、実施例5に係る緑化材充填物12Bは、図16に示すように、補強材20の目合い16から、下地である機能繊維シート1a,1bが外部にはみ出すよう構成してもよい。
この場合、補強材20の目合い16から、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bをはみ出させる具体的な手段としては、例えば、袋体19と補強材20を一体に形成し、その製造工程においてパンチングメタルを用いたニードルパンチを行うなどの手法がある。
実施例5に係る緑化材充填物12Bの場合、補強材20の目合い16から機能繊維シート1a,1bをはみ出させることで、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bを、施工面17の表面に密着させることができる。これにより、緑化材充填物12B内において生育する植物の根の施工面17内部への伸長をスムースにできる。また、緑化材充填物12B内部に生息する土壌微生物の、施工面17側への侵出もスムースにすることができる。逆に、施工面17に生息する土壌微生物を緑化材充填物12B内にスムースに侵入させることもできる。これにより、緑化材充填物12Bに予め添加される土壌微生物、又は、土着の土壌微生物を緑化材充填物12Bの内外において効率よく活性化することができ,植物体の生育に有効に活用することができる。
さらに、降雨時は特に施工面17と緑化材充填物12Bの間に水が溜まり易い傾向がある。この場合、補強材20の目合い16からはみ出した機能繊維シート1a,1bが施工面17上に密着していることで、施工面17と緑化材充填物12Bの間に溜まった水を袋体19の内部に好適に吸い上げて保水できるだけでなく、この緑化材充填物12Bにより施工面17上に分厚い保水層が形成されることになるので、施工面17の表層部分を効率的に保水できる。
従って、上述のような作用が相互に組み合わされて、緑化材充填物12B内で生育する植物の初期成育を促進することができる。
【0077】
図17は本発明の実施例5に係る緑化材充填物の使用例を模式的に示した断面図である。なお、図14乃至16に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図17に示すように、実施例5に係る緑化材充填物12Bでは、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの厚み部分に植物種子14を散在させておいてもよい。この場合、機能繊維シート1a,1bの製造時に植物種子14を機能繊維シート1a,1bの厚み部分に収容するとよい。
このように、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bの厚み部分に散在させて収容した場合、実施例5に係る緑化材充填物12Bを、例えば、空中から投下して設置する場合に、袋体19のどの面が上になっても、また、袋体19のどの面が下になっても、植物種子14を発芽、生育させることができる。
そして、機能繊維シート1a,1bを構成する機能繊維による効果(保温性、保水性など)により土壌微生物を好適に活性化して、草本類の生育のみならず、樹木の初期生育を促進できる。
【0078】
図18は本発明の実施例5に係る緑化材充填物の他の使用例を模式的に示した断面図である。なお、図14乃至17に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図18に示すように、実施例5に係る緑化材充填物12Bは、例えば、袋体19の厚みを厚くしておき、緑化材充填物12Aを施工面17上に載置した際に鉛直上方側に配される袋体19(機能繊維シート1a,1b)の厚み部分に、植物苗15の根茎を収容しても良い。この場合も、袋体19を構成する機能繊維シート1a,1bが保水性や保温性を備えることで、土壌微生物が活性化されて植物苗15の初期生育を促進できる。
【0079】
なお、実施例1に係る機能繊維シート1a,1bや、実施例2に係る緑化用シート10が、植生に必要な土壌の機能を補う働きをするものであるのに対して、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bは植生に適した土壌そのものを担うものであると言える。
また、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bは、実施例1,2に係る発明に比べて、充填材を収容したことによりその厚みが大幅に大きくなるため、大型の草本類のみならず、木本類の初期生育を好適に促進することができる。このため、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bによれば、草地の再生のみならず、林地や森林の再生に寄与することができる。
なお、実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bに収容する植物種子14としては、例えば、日本国内における緑化を目的とする場合は、草本植物、木本植物のうち緑化に用いることが可能なものから適宜選択可能であるが、例えば木本植物では、ヤマハギ、コマツナギなどのマメ科、アカメガシワなどのトウダイグサ科、コナラ、アラカシ、シラカシ、ウバメガシなどのブナ科、クロマツ、アカマツなどのマツ科の植物が利用可能である。また、草本植物ではノシバ、トールフェスク、クリーピングレッドフェスク、ケンタッキーブルーグラス、バミューダグラスなどのイネ科、メドハギなどのマメ科などの植物が利用可能である。また生態系維持の観点から、上述の植物種子以外の施工地域に自生する植物種子や苗を用いてもよい。
また、木本系植物種子と、草本系植物種子とを実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12B内に併せて収容してもよいし、これらの植物種子と,ある程度大きく育てた植物苗を実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12B内に併せて収容してもよい。
【実施例6】
【0080】
本発明の実施例6に係る緑化工法について図19を参照しながら詳細に説明する。
図19は本発明の実施例6に係る緑化工法の作業手順を示すフローチャートである。なお、図14乃至18に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図19に示すように、実施例6に係る緑化工法18は、必要に応じて施工面17を整地し(ステップS20)た後、この施工面17上に、実施例5,6に係る緑化材充填物12A,12Bをそれぞれ単独で,あるいは,これらを適宜組み合わせて、人力により設置し,又は,ヘリコプターなどの航空機から投下して(ステップS21)、この緑化材充填物12A,12Bを必要に応じて固定して(ステップS22)から、緑化材充填物12A,12Bに雨水を,又は,人工的に水を供給して(ステップS23)、緑化材充填物12A,12B内に予め収容された植物種子13又は植物苗15に由来する植物,あるいは,緑化材充填物12A,12Bに自然に飛来する種子に由来する植物、のうちの少なくとも一方を生育させる(ステップS24)ものである。
なお、上述の緑化工法18においてステップS20及びステップ22は必須な工程ではなく、必要な場合にのみ実施すればよい。
【0081】
また、実施例6に係る緑化工法18では、施工面17上に緑化材充填物12A,12Bを隙間なく敷き詰める必要は必ずしもなく、緑化に時間がかかるものの、施工面17上に緑化材充填物12A,12Bを散在させるだけでも自然に飛来する植物種子により十分な緑化効果が発揮される。
この場合、先の図14〜18に示すような緑化材充填物12Aを様々に組み合わせて施工面17上に配設してもよい。具体的には、木本系植物種子又は苗を収容した本発明に係る緑化材充填物、草本系種子を収容した本発明に係る緑化材充填物、そして、植物種子や肥料成分を含まない植生基盤材13のみを収容した本発明に係る緑化材充填物などを、目的に応じて組み合わせて配設してよい。
あるいは、実施例2に係る緑化用シート10と、実施例5,6に係る緑化材充填物12A,12Bを組み合わせて施工してもよい。より具体的には、緑化用シート10を施工した上に緑化材充填物12A,12Bを施工してもよいし、緑化材充填物12A,12Bと緑化用シート10を併設してもよい。
【0082】
上述のような実施例6に係る緑化工法18によれば、施工面17上に実施例4,5に係る緑化材充填物12A,12Bを投下または設置するだけで、施工面17上に植物種子(植物)の生育に適した環境を,十分な厚みをもって形成することができるので、施工面17を効率良く、かつ健全に緑化することができる。また、条件がよければ、最終的には実施例6に係る緑化工法により施工面17に林地を再生させることができる。
また、緑化材充填物12A,12Bは、十分な重量を有して施工面17上を被覆するので、土壌浸食防止材としても優れた機能を発揮する。このため、実施例6に係る緑化工法18を実施する過程において、緑化材充填物12A,12Bにおける植物の生育が十分に進んでいない状態であっても、緑化材充填物12A,12Bそのものにより、施工面17の表土をしっかりと保護することができる。
すなわち、実施例6に係る緑化工法18によれば、施工面17における表土の保護と、緑化の促進を同時に行うことができる。
また、実施例6に係る緑化工法18の場合、緑化材充填物12A,12Bを施工面17に配設した際に、個々の緑化材充填物12A,12Bを施工面17に固定する必要がないので、施工面17の上空から緑化材充填物12A,12Bを散布するという手法も取りうる。このため、人が立ち入ることのできない危険な地域においても緑化や森林の再生を行うことが可能である。
【0083】
本発明に係る機能繊維シートの効果を立証するために、以下に示すような試験1〜4を実施した。ここでは、その試験方法と試験結果について説明する。
まず、以下の試験1〜4において使用した本発明に係る機能繊維シート及び対照品であるポリエステル繊維シートについて説明する。
この度の試験に供試するために以下に示すような材料からなる機能繊維シートを作成した。
保温性の高い繊維であるポリエステル繊維に遠赤外線を放射する凝灰質砂岩を0.5重量%練り込んで第1の機能繊維とした。また、ポリエステル繊維に多孔質材として竹炭を0.3重量%練り込んで第2の機能繊維とした。さらに、ポリエステル繊維にポリアクリル酸ナトリウム塩を0.5重量%固着させて第3の機能繊維とした。そして、ポリエステル繊維に微生物の栄養源となる繊維としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を0.5重量%固着させて第4の機能繊維とした。
この後、上述の第1〜4の機能繊維をランダムに交絡させてシート体を形成し、このシート体を複数枚積層してサーマルボンド方式によりそれぞれ接着して、厚さ10mmの機能繊維シートを作製した。
また、この度の試験に用いる対照品として、上述のような機能材料を一切付加しないポリエステル繊維のみからなるシート体を作製し、このシート体を複数枚積層してサーマルボンド方式によりそれぞれ接着して厚さ10mmにしたポリエステル繊維シートも作製した。
【0084】
(試験1)
上記手順にて作製した本発明に係る機能繊維シート,及び,対照品であるポリエステル繊維シートを、木枠の中にマサ土を充填して締め固めたものの表面に敷設した。本発明に係る機能繊維シート,及び,対照品であるポリエステル繊維シートは、各シートにつき30cm×30cmに裁断したものに、綿の基布の上にトールフェスクの種子を入れたもの6枚と入れないもの9枚の合計15枚、2種類のシート(発明品、対照品)で合計30枚をランダムに敷設した。なお、トールフェスクの播種量は、成立期待本数として、トールフェスク270本/900cm2とした。このうち、トールフェスクの種子を入れたシート3枚には、アーバスキュラー菌根菌資材(Gigaspora margaritaを含む)を50gずつ入れた。
以下、本発明に係る機能繊維シート,及び,対照品であるポリエステル繊維シートを区別なく指し示す場合には単に「シート」と表記する。
【0085】
(試験1の測定項目について)
表土中の微生物バイオマス炭素は、敷設後1〜3年目において、種子を入れていない3枚のシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、クロロホルム薫蒸直接抽出方法にて測定を行った。(図5に対応)
表土中の細菌数も、敷設後1〜3年目において、種子を入れていないシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、希釈平板法にて測定を行った。なお、培地はYG培地を使用した。(図6に対応)
表土中の糸状菌数も、敷設後1〜3年目において、種子を入れていないシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、希釈平板法にて測定を行った。なお、培地はローズベンガル寒天培地を使用した。(図7に対応)
表土中の耐水性団粒組成は、敷設後1年目において、種子を入れていないシート直下の表土(0〜5cm)を、2mm、1mm、0.5mm、0.25mm、0.1mmの篩を用いて、湿式篩別法にて、各篩で分画された粒径区分の粒子を105℃の乾燥器で乾燥させた後、重量を測定して、各粒径の割合を算出した。(図8に対応)
表土中の地温は、シートを敷設した土壌表面から深さ30cmの位置に、データロガーの温度センサーを設置し、1か月間、測定を行った。(図9に対応)
表土中の含水比も、シートを敷設した土壌表面から深さ10cmの位置に、データロガーのTDRセンサーを設置し、1か月間、測定を行った。(図10に対応)
植物の育成状況は、3か月間栽培後のトールフェスク1株当たりの地上部乾物重を測定した。(図11に対応)
アーバスキュラー菌根菌の根への共生率ならびにアーバスキュラー菌根菌資材を入れた場合の植物の育成状況は、3か月栽培後のトールフェスクの根をトリパンブルーで染色後、格子交点法にて測定すると同時に、トールフェスク1株当たりの地上部乾物重を測定した。(図12、図13に対応)
【0086】
(試験結果1)
図5は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートの比較実験において、表土中のバイオマス炭素量の経時変化を示すグラフである。図5に示すグラフ縦軸はバイオマス炭素量(mg/kg乾土)、横軸は時間(年)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを用いた場合の測定結果については点線で、対照品を用いた場合の測定結果については実線で示した。図5のグラフが示すとおり、敷設後2年目、3年目と時間が経過するごとに本発明に係る機能繊維シートを用いた方のバイオマス炭素量が対照品を用いた場合に比べて多くなり、3年目ではkg乾土あたり10mg以上も多くなった。これにより、本発明係る機能繊維シートが土壌中の微生物叢を活性化し、バイオマス量の増大につながったことが示された。
【0087】
(試験結果2)
図6は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の細菌数の経時変化を示すグラフである。図6に示すグラフ縦軸は細菌数(CFU/g乾土)を、横軸は時間(年)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを用いた場合の測定結果については点線で、対照品を用いた場合の測定結果については実線で示した。図6のグラフが示すとおり、敷設後2年目から3年目にかけて本発明の緑化用シートではg乾土あたりの細菌数が急激に増加し、3年目では対照の5倍もの値を示した。これにより、本発明に係る機能繊維シートが表土中の細菌を活性化し、細菌数の増加につながったことが示された。
【0088】
(試験結果3)
図7は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、表土中の糸状菌数の経時変化を示すグラフである。図7に示すグラフ縦軸は糸状菌数(CFU/g乾土)を、横軸は時間(年)をそれぞれ示し、本発明に係る機能繊維シートを用いた場合の測定結果については点線で、対照品を用いた場合の測定結果については実線で示した。図7のグラフが示すとおり、発明品使用区においては、2年目から対照に比べて糸状菌数が大幅に増加し、3年目ではその差はさらに広がっていた。これにより、本発明に係る機能繊維シートが表土中の糸状菌を活性化し、糸状菌数の増加につながったことが示された。
【0089】
(試験結果4)
図8は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1年目における表土中の耐水性団粒組成の測定結果を示すグラフである。図8に示すグラフ横軸は団粒のサイズ(mm)を、縦軸は各団粒サイズの全体に対する割合(%)をそれぞれ示し、黒色で塗り潰された棒グラフは本発明に係る機能繊維シートを用いた場合を、白抜きの棒グラフは対照品であるポリエステル繊維シートを用いた場合の測定結果を表している。図8のグラフが示す通り、本発明に係る機能繊維シートを使用した処理区では団粒サイズが2mm以上のものが多く、耐水性大団粒の割合が増加した。一般的に、団粒サイズが大きくなるほど、土壌の三相分布や透水性などの土壌の物理性は改善されることから、本発明に係る機能繊維シートが植物の生育に好適に作用することが考えられる。
【0090】
(試験結果5)
図9は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下30cmでの地温の測定結果を示すグラフである。図9に示すグラフ縦軸は地温(℃)を、横軸は日付(カレンダー)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを敷設した処理区の測定結果については点線で、対照品を敷設した処理区の測定結果については実線で示した。図8のグラフが示す通り、測定した1か月間の中では、本発明に係る機能繊維シート敷設区では地温が対照区より1℃〜3℃程度高く推移しており、本発明機能繊維シートの方が対照品よりも保温力が高いことが示された。
【0091】
(試験結果6)
図10は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後1か月から2か月の1か月間における地表面下10cmの地点での含水比の測定結果を示すグラフである。図9に示すグラフ左縦軸は含水比(%)を、右縦軸は2時間降水量(mm、1時間毎の降雨量を測定し、2時間単位で表す)を、横軸は日付(カレンダー)をそれぞれ表し、本発明に係る機能繊維シートを敷設した処理区の測定結果については点線で、対照品を敷設した処理区の測定結果については実線で示した。図10のグラフが示す通り、本発明に係る機能繊維シートは降雨後の保水性が対照品よりも優れており、例えば9/11〜9/16の期間など降雨後一定の期間が経過した時点で、顕著であった。
【0092】
(試験結果6)
図11は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目におけるトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。図11に示すグラフ左縦軸は地上部乾物重(g/株)を表し、黒色で塗りつぶされた棒グラフは本発明に係る機能繊維シート敷設区における乾物重の測定結果を、白抜きの棒グラフは対照区での乾物重の測定結果を示している。図11のグラフが示す通り、本発明の機能繊維シートを用いた場合はトールフェスクの地上部の生育が対照品を用いた場合よりも優れていた。
【0093】
(試験結果7,8)
図12は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの根のアーバスキュラー菌根菌共生率の計測結果を示すグラフである。図13は本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートとの比較実験において、シート敷設後3か月目における,アーバスキュラー菌根菌資材を混入したトールフェスク1株当たりの地上部乾物重の測定結果を示すグラフである。
図12,13に示すグラフ左縦軸は、アーバスキュラー菌根菌共生率(%)、トールフェスク1株当たりの地上部乾物重(g/株)をそれぞれ表している。また、図12,13では本発明に係る機能繊維シート敷設区のデータを黒塗りの棒グラフで示し、対照区のデータを白抜きの棒グラフで示した。図12,13のグラフが示す通り、本発明に係る機能繊維シートによって、トールフェスクの根へのアーバスキュラー菌根菌共生率が増加し、地上部の生育も対照品より優れていた。
【0094】
(試験2)
本発明に係る機能繊維シートによる表土の浸食防止効果を検証するために行った試験2について説明する。
試験2では、供試用の本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートを用いて人工試験機により降雨試験を行い、流出水濁度(SS値)を測定することで、それぞれのシートの浸食防止効果を比較した。
試験2では、マサ土の盛土(勾配30°)、時間降雨量36mmで30分間降雨試験(以下、第1降雨試験と呼ぶ)を行って採水した後、時間降雨量100mmで30分間降雨試験(以下、第2降雨試験と呼ぶ)を行って採水し、それぞれの流出濁度を表すSS値の測定を行った。その後、これらのシートを剥がして、100mm×100mmに裁断した後、105℃の乾燥器中で乾燥して、それぞれの重量を測定し、試験に用いなかった新品のシートとの重量差から、試験に使用したシートに付着した土壌の乾燥重量を算出し、シートと土壌との密着性を評価した。
【0095】
第1,2降雨試験後のそれぞれの処理区におけるSS値の測定結果を以下の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
上表1に示されるように、発明品は対照品よりもSS値が低いので、浸食防止機能が高いことが示された。
【0098】
また、第1,2降雨試験を終えた後の各シートへの土壌の付着量の測定結果を以下の表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
上表2に示されるように、発明品は対照品よりも、シートに付着した土壌の量が多いことから、発明品は土壌との密着性が高いといえ、これにより対照品に比べて高い土壌の浸食防止効果を有しているといえる。
【0101】
(試験3)
本発明に係る機能繊維シートと対照品の復元率を比較するために行った試験3について説明する。
試験3では、供試用の本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートを100mm×100mmに裁断して、水道水に浸漬して十分吸水させた後、引き上げて水平状態で吸着水を切り、重量を測定した。その後、それぞれのシートを水平面に対して90°に保って排水させた後、それぞれのシート重量を測定し、吸水後に水平状態に排水させた際の重量と、その後にシートの向きを水平面に対して90°にして排水させた際の重量の変化から排水率を測定した。さらに、排水率を測定した後に各シートを乾燥させてそれぞれの厚さを測定し、吸水前後のシートの厚さの変化割合を、吸水乾燥後復元率とした。
なお、発明品,対照品に係るシートの復元率は、試料であるシートを6枚重ね、5g/100cm2の荷重をかけて厚さを測定(測定値A)し、さらにその1/2になるまで荷重をかけて圧縮した後、荷重を取り除いた(それぞれのシートを荷重から開放した)。その後、再びそれぞれのシートに5g/100cm2の荷重をかけて厚さを測定し(測定値B)、測定値A,Bの変化割合を復元率とした。
発明品と対照品の復元率、排水率、吸水乾燥後復元率の計測結果を以下の表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
上表3に示すように、発明品は対照品よりも復元率、吸水乾燥後復元率共に高いことが示された。一方、排水率については、対照品に比べて発明品が低い値を示しているが、このことは、発明品が対照品に比べて高い保水性を有していることを示している。
【0104】
(試験4)
本発明に係る機能繊維シートと対照品を用いた場合の植物種子の発芽貫通特性を比較する目的で行った試験4について説明する。
試験4では、供試用の本発明に係る機能繊維シートと対照品であるポリエステル繊維シートを30cm×30cmに裁断したものをそれぞれ3枚ずつ準備し,トールフェスクの種子(成立期待本数270本/900cm2)をシートの下に分散させてからシートを敷設し、30日が経過した時点のトールフェスクの発芽本数を計測した。なお、発芽本数は、シートを貫通したもののみをカウントした。
発明品と対照品(それぞれ3枚ずつ)におけるトールフェスク種子の発芽本数を以下の表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
上表4に示されるように、発明品は対照品よりもトールフェスクの発芽本数が多かった。このことは、上表2の土壌との密着性の試験の結果で示されるように、発明品の方が対照品よりも土壌との密着性が高いことにより、発芽したトールフェスクは、シートをより貫通しやすくなったと考えられる。
また、試験4の結果から、発明品の方が対照品に比べて植物種子の発芽やその後の生育に適した環境を形成する効果が高いことが確認された。
【0107】
本発明に係る機能繊維シートは、第1〜4の機能繊維がランダムに交絡されてなるもの、あるいは、合成樹脂製の繊維がランダムに交絡されてなる繊維シートの繊維に機能材料が,付着され又は練り込まれて,あるいは,これらの両方の手段により担持されるものであり、本発明に係る機能繊維シートを構成する繊維が施工面の表土の土壌粒子と絡み合って密着し、施工面の表土の風雨による浸食を防止して保護することに加えて、表土中の微生物、特に菌根菌など糸状菌の生育を活性化する効果も有しているため、在来植物の定着と生育を促進し、早期の健全な緑化を実現することができる。
【0108】
本発明に係る緑化材充填物の効果を立証するために、以下に示すような試験5,6を実施した。ここでは、その試験方法と試験結果について説明する。
なお、本発明に係る緑化材充填物においては、袋体の保水性の向上が緑化に最も大きな影響を与えると考えられるため、特に試験5では緑化材充填物の袋体として、保水性のみを向上させたものを発明品として使用して試験を行った。
(試験5)
ポリエステル製の撥水性繊維のみを交絡させて作製した不織布(試験1〜4において使用した対照品と同じもの)からなる袋体(対照:以下対照品ともいう)、及び、撥水性繊維と高吸水性樹脂を練り込んだ保水性繊維をランダムに交絡させた不織布からなる袋体(本発明:以下発明品1ともいう)を作製した。なお、対照品及び発明品に係る袋体の構造は図14に示されるものと同じにした。
【0109】
(試験5の調査方法)
長崎県雲仙普賢岳の火砕流跡地において、現地における発芽成立本数と一定期間経過後の最大樹高の調査比較を行った。作製した対照品、発明品1それぞれの供試用袋体の中に、現地表土とアカガシ種子などを1袋あたり15粒ずつ入れ、現地にランダムに間隔を空けて設置した。対照品は10袋、発明品1は40袋作製した。設置後6ヶ月間、自然条件下に放置し、6ヶ月後に設置した袋体からの発芽成立本数と最大樹高を測定した。
なお、試験5は、火砕流跡地の一般人の立ち入り禁止区域内にて行い、作業関係者全てに対して守秘義務を負わせて試験を行った。
【0110】
(試験5の結果)
測定結果を、図20及び図21に示す。図20は供試用の袋体に入れたアカガシなど木本植物種子の発芽成立本数を対照品と発明品1で比較したものである。図20に示すグラフ縦軸は1袋あたりの発芽成立本数の平均値(本/袋)、横軸は対照品、発明品(発明品1)の結果を表している。エラーバーは標準偏差を表す。図20に示すグラフに示される通り、対照品では1袋あたりの平均発芽成立本数が4本であったのに対し、発明品1では12本であり、発明品1の優位性が示された。
図21は、発芽した木本植物の最大樹高を対照品と発明品1とで比較したものである。図21に示すグラフ縦軸は最大樹高(cm)、横軸は対照品、発明品(発明品1)の結果をそれぞれ表している。エラーバーは標準偏差を表す。図21に示すグラフが示す通り、対照品では樹高の平均が6.6cmであったのに対し、発明品1では平均で9.1cm以上であり、発明品1の優位性が示された。
従って、上記試験5に使用した袋体に、保温性が付加され、さらに、多孔質体や有機質成分が付加された場合には、より顕著な効果が発揮されることが予測される。
【0111】
(試験6)
先の試験1〜4において供試した機能繊維シートと同じ機能繊維シートを使用して袋体(以下発明品2ともいう)を作製して供試した。また、対照品は、試験5において使用したものと同じ対照品[ポリエステル製の撥水性繊維のみを交絡させて作製した不織布(試験1〜4において使用した対照品と同じもの)]を用いて作製した袋体を使用した。なお、発明品2の構造は図17に示すものと同じとし、補強材20として椰子繊維を使用した。
【0112】
(試験6の調査方法)
長崎県雲仙普賢岳の火砕流跡地において、現地における土壌微生物バイオマスの変化と草本植物根へのアーバスキュラー菌根菌の共生への影響を比較した。作製したそれぞれの袋体に、イネ科の多年草であるウィーピングラブグラス(シナダレスズメガヤ)の種子を約13,000粒ずつ入れ、現地にランダムに設置した。対照品は1袋、発明品2は3袋設置した。設置後6ヶ月間、自然条件下に放置し、6ヶ月後に設置した袋体下の表土中における微生物バイオマス炭素量とアーバスキュラー菌根菌のウィーピングラブグラスの根への共生率を測定した。
なお、微生物バイオマス炭素量は、対照品と発明品のそれぞれのシート直下の表土(0〜5cm)を採取し、1週間前培養を行った後、クロロホルム薫蒸直接抽出法にて測定を行った。
アーバスキュラー菌根菌による根への共生率は、ウィーピングラブグラスの根をとりパンブルーで染色後、格子交点法にて測定した。
なお、試験5は、火砕流跡地の一般人の立ち入り禁止区域内にて行い、作業関係者全てに対して守秘義務を負わせて試験を行った。
【0113】
(試験6の結果)
測定結果を、図22及び図23に示す。図22は表土中における微生物バイオマス炭素量を対照品と発明品2で比較したものである。図22に示すグラフ縦軸はバイオマス炭素量(mg/kg乾土)を、横軸は対照品、発明品(発明品2)の結果を表している。発明品のエラーバーは標準偏差を表す。図22に示すグラフが示す通り、対照品ではバイオマス炭素量が9.2mg/kg乾土であったのに対し、発明品2では22.3mg/kg乾土であり、発明品2の優位性が示された。
図23は、それぞれの袋体から発芽したウィーピングラブグラスの根へのアーバスキュラー菌根菌の共生率を、対照品と発明品2で比較したものである。図23に示すグラフ縦軸は共生率(%)を、横軸は対照品と発明品(発明品2)の結果を表している。発明品2のエラーバーは標準偏差を表す。図23に示すグラフが示す通り、対照品での共生率が21.0%であったのに対し、発明品では33.7%以上であり、発明品2の優位性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上説明したように本発明は、土壌微生物を活性化させるための複数種類の機能繊維をランダムに交絡させて形成してなる機能繊維シートと、この機能繊維シートを用いてなる緑化用シートおよび緑化材充填物、およびこの緑化用シート又は緑化材充填物を用いて表土中の微生物の生育を促進し、健全かつ早期の緑化を実現する緑化工法であり、土木工事および環境保護、園芸、農業、災害復旧に関する分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1a,1b…機能繊維シート 2…第1の機能繊維 3…第2の機能繊維 4…第3の機能繊維 5…第4の機能繊維 6…シート体 7…固定部 8…基布 9…補強ネット 10…緑化用シート 11…緑化工法 12A,12B…緑化材充填物 13…植生基盤材 14…植物種子 15…植物苗 16…目合い 17…施工面 18…緑化工法 19…袋体 20…補強材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のシート体からなる,又は,前記シート体を複数枚積層してなる,機能繊維シートであって、
前記シート体は、合成樹脂からなる繊維に保温材を付加した第1の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に多孔質体を付加した第2の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に吸水材を付加した第3の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に有機質成分を付加した第4の機能繊維とをランダムに交絡させてシート状に形成したことを特徴とする機能繊維シート。
【請求項2】
合成樹脂からなる繊維をランダムに交絡させてなる単層又は複数層からなる繊維シートと、
この繊維シートを構成する前記繊維の表面に接着材を介して付着される粉末状又は粒子状の機能材料とを有し、
前記機能材料は,保温材と,多孔質体と,吸水材と,有機質成分とを少なくとも含有することを特徴とする機能繊維シート。
【請求項3】
前記機能繊維シートの厚みは1〜50mmの範囲内であり、前記機能繊維シートの空隙率は90%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の機能繊維シート。
【請求項4】
前記機能繊維シートに少なくとも1種類の土壌微生物を添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の機能繊維シート。
【請求項5】
生分解性を有する材質からなる基布と、この基布上に積層される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートと、この機能繊維シート上に覆設される生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強ネットと、を有することを特徴とする緑化用シート。
【請求項6】
前記基布と前記機能繊維シートの間に植物種子を分散した状態で配置したことを特徴とする請求項5記載の緑化用シート。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートからなり,内部に中空部を備えた袋体と、
前記中空部内に充填される充填材とを有し、
前記充填材は,少なくとも植生基盤材を含んでなることを特徴とする緑化材充填物。
【請求項8】
前記機能繊維シートの厚み部分,又は,前記充填材中,あるいは,これらの両方に、植物種子,植物苗の根株から選択される少なくとも一方を収容したことを特徴とする請求項7記載の緑化材充填物。
【請求項9】
前記袋体の外側に,生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強材を配設したことを特徴とする請求項7又は請求項8記載の緑化材充填物。
【請求項10】
前記補強材の目合いから前記機能繊維シートを外側に向ってはみ出させたことを特徴とする請求項9記載の緑化材充填物。
【請求項11】
被緑化対象である地表面上に,請求項5又は請求項6に記載の緑化用シートを敷設して、前記緑化用シートに雨水を,又は,人工的に水を供給して、前記緑化シート中に内包される前記植物種子に由来する植物,前記緑化シートに自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とする緑化工法。
【請求項12】
被緑化対象である地表面上に,請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の緑化材充填物を単独で,あるいは,この中から選択される少なくとも2種類の前記緑化材充填物を組み合わせて配設して、前記緑化材充填物に雨水を,又は,人工的に水を供給して、前記緑化材充填物中に内包される植物種子に由来する植物,前記緑化材充填物中に内包される植物苗の根株に由来する植物,前記緑化材充填物に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とする緑化工法。
【請求項1】
単一のシート体からなる,又は,前記シート体を複数枚積層してなる,機能繊維シートであって、
前記シート体は、合成樹脂からなる繊維に保温材を付加した第1の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に多孔質体を付加した第2の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に吸水材を付加した第3の機能繊維と、合成樹脂からなる繊維に有機質成分を付加した第4の機能繊維とをランダムに交絡させてシート状に形成したことを特徴とする機能繊維シート。
【請求項2】
合成樹脂からなる繊維をランダムに交絡させてなる単層又は複数層からなる繊維シートと、
この繊維シートを構成する前記繊維の表面に接着材を介して付着される粉末状又は粒子状の機能材料とを有し、
前記機能材料は,保温材と,多孔質体と,吸水材と,有機質成分とを少なくとも含有することを特徴とする機能繊維シート。
【請求項3】
前記機能繊維シートの厚みは1〜50mmの範囲内であり、前記機能繊維シートの空隙率は90%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の機能繊維シート。
【請求項4】
前記機能繊維シートに少なくとも1種類の土壌微生物を添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の機能繊維シート。
【請求項5】
生分解性を有する材質からなる基布と、この基布上に積層される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートと、この機能繊維シート上に覆設される生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強ネットと、を有することを特徴とする緑化用シート。
【請求項6】
前記基布と前記機能繊維シートの間に植物種子を分散した状態で配置したことを特徴とする請求項5記載の緑化用シート。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の機能繊維シートからなり,内部に中空部を備えた袋体と、
前記中空部内に充填される充填材とを有し、
前記充填材は,少なくとも植生基盤材を含んでなることを特徴とする緑化材充填物。
【請求項8】
前記機能繊維シートの厚み部分,又は,前記充填材中,あるいは,これらの両方に、植物種子,植物苗の根株から選択される少なくとも一方を収容したことを特徴とする請求項7記載の緑化材充填物。
【請求項9】
前記袋体の外側に,生分解性を有する材質又は合成樹脂からなる補強材を配設したことを特徴とする請求項7又は請求項8記載の緑化材充填物。
【請求項10】
前記補強材の目合いから前記機能繊維シートを外側に向ってはみ出させたことを特徴とする請求項9記載の緑化材充填物。
【請求項11】
被緑化対象である地表面上に,請求項5又は請求項6に記載の緑化用シートを敷設して、前記緑化用シートに雨水を,又は,人工的に水を供給して、前記緑化シート中に内包される前記植物種子に由来する植物,前記緑化シートに自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とする緑化工法。
【請求項12】
被緑化対象である地表面上に,請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の緑化材充填物を単独で,あるいは,この中から選択される少なくとも2種類の前記緑化材充填物を組み合わせて配設して、前記緑化材充填物に雨水を,又は,人工的に水を供給して、前記緑化材充填物中に内包される植物種子に由来する植物,前記緑化材充填物中に内包される植物苗の根株に由来する植物,前記緑化材充填物に自然に飛来する種子に由来する植物,のうちの少なくとも一方を生育させることを特徴とする緑化工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−74872(P2013−74872A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274675(P2011−274675)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(595177095)多機能フィルター株式会社 (9)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(595177095)多機能フィルター株式会社 (9)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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