説明

機能膜の製造方法、機能膜の製造装置、および有機ELデバイス

【課題】微小量のコーティングにおいてノズル間のバラツキの影響を低減し、大面積基板などの塗布対象物に対してもバラツキなく微細なパターンを安定して塗布できる機能膜の製造方法および機能膜の製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の機能膜の製造方法は、機能膜材料を溶かした溶液をノズルヘッド10のノズル孔11から塗布対象物としての基板に吐出させて塗布する工程と、基板に塗布した溶液を乾燥させる工程とを有する機能膜の製造方法であって、ノズル孔11に臨ませて配設された弾性を有する隔壁15を、隔壁15におけるノズル孔11と反対側の面に臨ませて配設した圧力室16に流体を導入して圧力を作用させ弾性変形させることで、ノズル孔11からの吐出量を調整しながら塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置における発光層などの機能を有する薄膜である機能膜を塗布して製造する機能膜の製造方法と製造装置、およびその製造方法によって製造された電子デバイスとしての有機ELデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1等に見られるように、近年、インクジェットやダイコートなどの塗布技術を用いて電子デバイスの機能膜を製造する方法が注目を集めている。塗布技術を用いた製造方法は、蒸着技術などに比べて、設備構成がシンプルで大型化が可能である利点がある。例えば表示用の電子デバイスに関しては大画面への市場要求が高まり、これに伴って塗布による電子デバイスの製造技術への期待が高まっている。
【0003】
これに呼応するようにインクジェットやダイコートやロール印刷を用いた膜製造技術が特許文献1〜3において開示されている。
これらの製造方法において、ライン状の機能膜を形成する際は特にダイコートによる塗布が有利である。つまり、インクジェット方式を用いる場合では、インクを吐出するノズルの機構や制御機構が複雑になり、この結果、製造設備費が高価となる上に、設備の信頼性が低い、メンテナンスにも大変な労力が必要となる短所がある。またインクジェットでは高い粘度のインクを塗布できないという短所もある。
【0004】
なお、インクとは機能膜の成分(機能膜材料)を塗布できるように溶媒に溶かした溶液のことである。塗布されたインクは乾燥することによって機能膜となる。生産性を向上させるために乾燥時間を短縮しようとするとインクの粘度を高くする必要があるが、インクジェット方式では吐出力の限界があり粘度の高いインクを吐出することができない。また、ロール印刷方式は版材料が機能膜を汚染したり、版材料の耐久性が十分でなかったりする問題がある。
【0005】
これに対して、ダイコートを用いた場合には、製造設備費が比較的安価で済む上に、メンテナンスにも比較的容易であり、高い粘度のインクも支障なく塗布できる利点がある。また、ダイコートを用いた場合には、ロール印刷方式のように版材料が機能膜を汚染したり、版材料の耐久性が十分でなかったりする問題も生じない。
【0006】
以下に、ダイコートを使って塗布する従来の機能膜の製造装置および製造方法を説明する。
図6(a)〜(c)に従来のダイコート装置の構成を示す。ダイコート装置は、その構成要素として、塗布対象物としての基板1を搬送する基板搬送ステージ2、インクを実際に吐出して塗布するノズルヘッド6、定板7、ノズルヘッド取り付け支柱8、インク配送配管3、インクタンク4、インク用ポンプ5、ノズルヘッド昇降機構(図示せず)、制御部(図示せず)などを備えている。また、図6(a)〜(c)において、矢印Aは基板1の搬送方向(基板搬送ステージ2の移動方向)、Iは基板1上に塗布されたインクである。
【0007】
次に各構成要素の動作を説明する。
インクタンク4には機能膜材料を溶媒に溶かしたインクが貯蔵されている。インクはインクタンク4からインク用ポンプ5によってインク配送配管3を通ってノズルヘッド6に送り込まれる。図7(a)、(b)に示すように、ノズルヘッド6は、ノズルヘッド部材としてのノズルヘッドパーツ18に、インク配送配管3が接続されるインク導入口13と、導入されたインクを各ノズル孔11に分配するマニホールド部12と、複数のノズル孔11とが形成された構成とされている。ノズルヘッド6には複数のノズル孔11が開いており、インク用ポンプ5によって印加された圧力によってノズル孔開口部11aからインクが吐出される。
【0008】
基板1とノズルヘッド6のノズル孔開口部11aとは、ノズル昇降機構により20〜100μmのギャップを有する位置に調整され、ノズル孔開口部11aから吐出されたインクは、図6(a)、(b)に示した基板搬送ステージ2の動きによって搬送された基板1に塗布される。その結果、基板1上にはインクでライン状のパターンが形成される。塗布されたインクIは塗布工程および次の工程で乾燥され、機能膜のパターンが形成される。
【0009】
近年の電子デバイスの微細化、高精細化にともない、機能膜のパターンは微細である。電子デバイスの一例である有機ELデバイスの発光層を例にとると、線幅は30〜150μmであり厚みも30〜300nmである。この機能膜を形成する場合、ノズル孔のひとつからの吐出量は1〜1000nl/sと微量である。また、近年の電子デバイスの大型化に伴い、この微量吐出量をバラツキなく大面積の基板1に塗布しなければならない。
【特許文献1】特許3982502号公報
【特許文献2】特許3728109号公報
【特許文献3】特開2003−093944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来、ダイコートによって大面積基板にバラツキなく塗布を行うことは困難であった。
この課題を解決する方法として、例えば特許文献2に見られるように、ピエゾ素子を使って吐出量をノズル内で制御する方法が提案されているが、有機ELの発光層の形成に使用されるインクのようにピエゾ素子の熱により粘度が変化するインクの場合は、吐出量にバラツキを生じる。また、ノズル孔毎にポンプとインク配送配管を設けて流量を調整する方法も考えられるが、ノズル孔の数は1000〜10000個であるため、製造設備の信頼性を良好な状態に確保することが困難である。また、各配送ラインにおけるインク配送配管長が長くなり、メンテナンス時などにおける捨てインク量が多量となる問題がある。有機ELデバイスにおける発光層などのインクは非常に高価であり、製品のコストを下げるためには、捨てインクの量を最小にする必要がある。
【0011】
本発明は上記従来例の課題に鑑みてなされたもので、微小量のコーティングにおいてノズル間のバラツキの影響を低減し、大面積基板などの塗布対象物に対してもバラツキなく微細なパターンを安定して塗布できる機能膜の製造方法および機能膜の製造装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、大面積であっても面内の特性バラツキがなく、高精細であり、しかも安価な電子デバイスとしての有機ELデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の機能膜の製造方法は、機能膜材料を溶かした溶液をノズル孔から塗布対象物に吐出させて塗布する工程と、塗布対象物に塗布した溶液を乾燥させる工程とを有する機能膜の製造方法であって、ノズル孔に臨ませて配設した弾性を有する隔壁を、隔壁におけるノズル孔と反対側の面に臨ませて配設した圧力室に流体を導入して圧力を作用させ弾性変形させることで、ノズル孔からの吐出量を調整しながら塗布することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の機能膜の製造方法は、圧力室に導入する流体が不活性ガスであることを特徴とする。
また、本発明の機能膜の製造方法は、不活性ガスがNであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の機能膜の製造方法は、ダミーの塗布対象物、または塗布対象物の塗布量観測用領域、または塗布対象物に塗布した溶液の塗布量を測定し、測定した塗布量に応じて圧力室の圧力を調整することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の機能膜の製造装置は、機能膜材料を溶かした溶液を塗布対象物に吐出するノズル孔と、ノズル孔に臨ませて配設した弾性を有する隔壁と、隔壁におけるノズル孔と反対側の面に臨ませて配設した圧力室と、圧力室の圧力を調整する圧力調整手段とを備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の機能膜の製造装置は、ノズル孔を、ノズルヘッド部材に列状に並べて複数形成していることを特徴とする。
また、本発明の機能膜の製造装置は、隔壁の材料がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の機能膜の製造装置は、ダミーの塗布対象物、または塗布対象物の塗布量測定用ダミー領域、または塗布対象物に、吐出されて塗布された溶液の塗布量を測定する塗布量計測手段と、前記塗布量計測手段によって測定した塗布量に応じて圧力室の圧力を調整する制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の機能膜の製造装置は、隔壁が、ノズル孔が形成されたノズルヘッド部材を型とした転写物をエッチングすることにより作成されていることを特徴とする。
また、本発明は、陰極と陽極の間に発光層を挟む有機ELデバイスであって、陰極と陽極の間にある少なくとも一つの層を前記機能膜の製造方法で製造したことを特徴とする。
【0020】
本発明の機能膜の製造方法および機能膜の製造装置によると、各ノズル孔からの微小吐出量をノズル孔に臨ませて設けた隔壁の変形によって制御できるので、バラツキなく大面積に機能膜を形成することができる。
【0021】
その際、隔壁の制御方法として流体、すなわちガスまたは液体による圧力を使用することで、ピエゾ素子などの発熱を伴う制御手段を用いた場合と異なり、機能膜を溶かした溶液の粘度変化が生じることがない。
【0022】
また、各ノズル孔にインクの流量を調整する機構を個別に設ける必要がないとともに、その配管寸法を長くしなくて済むので、メンテナンス時に高価なインクを捨てる量を低減できる。
【0023】
また、インクジェットのように複雑な機構や制御を用いる必要がないので設備の信頼性が高く、電子デバイスを安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように本発明によれば、各ノズル孔からの微小吐出量をノズル孔に臨ませて設けた隔壁の変形によって精密に制御できるので、バラツキなく大面積に機能膜を形成することができる。
【0025】
その際、隔壁の制御方法として流体(ガスまたは液体)による圧力を使用することで、ピエゾ素子などの発熱を伴う制御手段を用いた場合と異なり、機能膜を溶かした溶液の粘度変化が生じることがなく微小吐出量を精度よく制御できる。
【0026】
また、今後の電子デバイスの微細化、薄膜化、高機能化に伴い、上述したようにコンタミネーション対策が必要となり、塗布装置の表面処理が重要になってくるが、本発明によれば、バラツキなく大面積に機能膜を形成することができるので、その表面処理状態の微妙なバラツキが微小量塗布のバラツキになってくるという従来の問題を解決できる。
【0027】
また、各ノズル孔にインクの流量を調整する機構を個別に設ける必要がないとともに、その配管寸法を長くしなくて済むので、メンテナンス時での高価なインクを捨てる量を低減できる。また、インクジェットのように複雑な機構や制御を用いる必要がないので設備の信頼性が高く、有機ELデバイスなどの電子デバイスを安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る機能膜の製造装置としてのノズルヘッドの構成を図1(a)〜(c)に示す。なお、従来のダイコート装置のノズルヘッド6と同様な機能を有する構成要素には同じ符号を付す。図1(a)は本発明の実施の形態に係るノズルヘッドの簡略的な正面断面図、図1(b)は圧力室が設けられている箇所(図1におけるA−A’線)で切断したノズルヘッドの側面断面図、図1(c)は隔壁が設けられている箇所(図1におけるB−B’線)で切断したノズルヘッド10の側面断面図である。
【0029】
図1(a)〜(c)に示すように、本発明の実施の形態に係るノズルヘッド10には、インクを吐出するノズル孔(ノズル孔流路)11と、インク導入口13から導入されたインクを溜めて各ノズル孔11に分配するマニホールド部12とが設けられているだけでなく、これに加えて、隔壁15と圧力室16と圧力導入口17とを有する。隔壁15は、各ノズル孔11に対して共通に設けられている(なお、隔壁15は、各ノズル孔11に対して個別に設けられていてもよい)が、圧力室16と圧力導入口17とは各ノズル孔11毎に個別に設置される。なお、この実施の形態では、隔壁15は、一方の面がマニホールド部12およびノズル孔11に臨んで配置されており(詳しくはノズル孔11におけるインクの流れ方向に沿うようにノズル孔11に対して側方から臨んでおり)、隔壁15の他方の面(マニホールド部12やノズル孔11が臨む面と反対側の面)が圧力室16に臨んで配置されている。また、圧力室16は、隔壁15を介してノズル孔11に対応する箇所に設けられている。
【0030】
ここで、ノズル孔11の断面寸法は□(矩形状であり1辺の寸法)10〜100μmで、ノズル孔11の先端開口部11aからマニホールド部12までの距離は50〜200μm、ノズル孔のピッチは300〜600μmである。ノズル孔11の数は、実際はおよそ1000〜10000個であるが、図1(b)では分かり易いように、簡略化しており、8個の場合を示している。
【0031】
高精細な電子デバイスを実現するために、ノズル孔11は原材料部品となるノズルヘッド部品としてのノズルヘッドパーツ18に、研削、放電加工、レーザー加工、プラズマ加工などを用いて高精度に作成される。ノズルヘッドパーツ18の材料は、ステンレスやガラスなどインクに使用している溶媒に対して耐性を持つ材料が選択される。また、ノズルヘッドパーツ18は、電子デバイスにコンタミネーションの害をもたらさない材質が用いられる。
【0032】
溶媒に対する耐性を持たせたり、コンタミネーションを発生させなかったりするためにノズルヘッドパーツ18の表面に表面処理を施してもよい。また、表面処理の材料は電子デバイスに使用される材料を使用するとよい。例えば電子デバイスが有機ELデバイスである場合においては、SiOなどをCVDやPVDを用いてコーティングすることで形成すればよい。今後の電子デバイスの微細化、薄膜化、高機能化に伴い、以上のようにコンタミネーション対策が必要となり、塗布装置への表面処理が重要になってくる。その際、表面処理状態の微妙なバラツキが微小量塗布のバラツキになってくるため、本発明の実施の形態に係るノズルヘッド10によってそのバラツキを低減することが重要となる。
【0033】
ノズルヘッド10において、ノズルヘッドパーツ18のマニホールド部12およびノズル孔11に臨む面に沿って隔壁15が配置される。隔壁15の材料は、ステンレスやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など、ヤング率0.3〜300GPaの弾性とインクの溶媒に対する耐性とを持ち、電子デバイスに対してコンタミネーションを発生させない材質が選択される。なお、隔壁15にノズルヘッドパーツ18と同様の表面処理を施してもよい。本実施の形態においては、隔壁15は薄板状であり、厚みは50〜500μmである。
【0034】
上記したように、隔壁15におけるノズル孔11の流路に対応する部分に圧力室16が設けられている。圧力室16の大きさは150×200×200μm程度である。圧力室16は隔壁15に圧力をかけて、隔壁15の変形によってノズル孔11の断面積を制御するためのもので、作成時に特別な高精度加工は要求されないので、安価に製作することができる。圧力室16は流体、すなわち液体または気体で満たされ、圧力導入口17から液体または気体が導入されて圧力が印加される。なお、19は圧力室16や圧力導入口17が形成されている圧力室形成部材である。
【0035】
図2により圧力室16に圧力を印加するシステムを示す。図2に示すように、各ノズル孔11に対応して設けられている圧力導入口17は、図示していない制御装置で開閉を制御されるバルブ20に接続されている。各バルブ20で開閉される流路は、圧力室16に圧力を印加する圧力印加ポンプ21に接続されている。圧力印加ポンプ21とバルブ20と間には圧力を調整するためのレギュレータ22が設置されている。これらのバルブ20、圧力印加ポンプ21、レギュレータ22などにより、圧力調整手段が構成される。
【0036】
図3(a)〜(c)は本発明の実施の形態に係るダイコート装置を示し、従来のダイコート装置と同じ構成要素には同符号を付す。なお、このダイコート装置においても、ノズルヘッド昇降機構や制御装置などを備えている(図示せず)。
【0037】
本発明の実施の形態に係るダイコート装置は、塗布前にダミー基板1’または基板1のダミーエリア(塗布量測定用ダミー領域)に、試し塗りした塗布量を計測する塗布量計測手段としての塗布量測定器30が設置されている点が従来のダイコート装置と異なる。
【0038】
以下、上記ダイコート装置を使用する本発明の機能膜の製造方法について説明する。
まずインクがノズルヘッド10から吐出されるまでの動作を、図3(c)および図1を参照しながら説明する。インクタンク4には機能膜の原料を溶媒に溶かしたインクが貯蔵されている。インクはインクタンク4からインク用ポンプ5によってインク配送配管3を通ってノズルヘッド10に送り込まれる。ノズルヘッド10ではインク配送配管3が接続されるインク導入口13からインクがマニホールド部12内に導入され、このマニホールド部12で各ノズル孔11に分配される。分配されたインクはインク用ポンプ5によって印加された圧力によって吐出される。
【0039】
次に、本発明の機能膜の製造方法によりバラツキなく塗布するための動作について説明する。
まず、基板搬送ステージ2によってダミー基板1’を搬送しながらダミー基板1’上にインクを塗布する。試し塗りしたインクの塗布量を塗布量測定器30で測定し、各ノズル孔11からの吐出量を算出する。塗布量測定器30による塗布量の測定および吐出量(塗布量)の算出は、例えば共焦点方式のレーザー変位計で塗布膜の断面形状を測定し、その断面積にステージ速度を乗じることによってなされる。
【0040】
次に、その塗布量の測定結果に基づいて、吐出量が狙いの量に対して多いノズル孔11に対しては、バルブ20を開き、圧力室16の気体または液体に圧力を大きくするよう制御部等で制御する。また、吐出量が狙いの量に達していないときは圧力室16の圧力を、インク用ポンプ5がインクにかけている圧力より下げることで、インク流路の吐出抵抗を下げ、必要なインク量を補う。ここで、圧力は圧力印加ポンプ21により発生させ、圧力の値はレギュレータ22により手動または電子的に制御する。なお、圧力を印加する液体や気体は、インクにダメージを与えない材質が望ましい。気体であれば不活性ガスやNが望ましく、有機ELで使用されるインクに対してはNが使用できるので、コストの低いNが望ましい。
【0041】
狙いの塗布量にまだ調整されていない場合には、再度、ダミー基板1’への塗布動作を行い、この際の塗布量を測定して狙いの塗布量になるまで、圧力室16に印加する圧力の大きさを調整する。なお、圧力室16に圧力を印加した後はバルブ20を閉じてその圧力状態を保つ。このステップを、各ノズル孔11に対して繰り返して行い、各ノズル孔11からの塗布量が狙いの塗布量になったことを確認した後、製品の基板1に塗布を行う。このような方法を採用することで、大面積の基板1に対してもバラツキなく高精細なパターンを形成できる。
【0042】
従来の方法を用いた場合では、ノズル孔11の加工精度のバラツキ、ノズル孔11の表面状態のバラツキ、ノズル孔11の開口部11a付近の撥水処理の劣化によるバラツキ、基板1の表面高さのバラツキ、基板1の表面状態のバラツキ、などにより、吐出量(塗布量)のバラツキはおよそ±10〜20%であった。これに対し、本発明の方法によれば、ノズル孔11に起因する吐出量(塗布量)のバラツキを、±5〜10%まで低減できる。
【0043】
なお、上記の実施の形態ではダミー基板1’を用いて各ノズル孔11からの吐出量を求めたが、これに限るものではなく、製品となる基板1に設けた塗布量測定用のダミー領域に塗布したインクの塗布量から算出してもよい。このように、製品としての基板1にダミー領域を用いて吐出量を調整すれば、ダミー基板の搬送に関わる時間を節約できてダイコート装置の稼働率を上げることができる。あるいは、製品としての基板1に塗布した後の塗布量を測定して、次の基板1の塗布前に各ノズル孔11にかける圧力を調整してもよく、この方法を採用すれば、経時的に発生する吐出量の変化を抑えて安定した製造を実現できる。
【0044】
また、上記実施の形態では圧力室16が一つのノズル孔11に対して一つずつ設けられている場合を説明したが、これに限るものではなく、一つのノズル孔11に対して複数の圧力室16を備えて、圧力室16毎に独立に圧力を制御してもよい。この方法によれば、ノズルヘッド10の製造コストは高くなるが、より精密な制御ができる。
【0045】
また、上記実施の形態では一つのノズル孔11に対して圧力室16が一つであったが、複数のノズル11に対して一つの圧力室16を設けても良い。また、電子デバイスに要求される均一性がさほど厳しくない場合は中央部、端部などノズル特性に合わせてノズルをいくつかの部分に分けて部分的に制御してもよい。この場合には、複数のノズル孔11で配管やバルブを共有できるのでノズルヘッド10のコストを抑えることができる。
【0046】
また、上記実施の形態ではノズルヘッドパーツ18と隔壁15とは分離して形成していたが一体としてもよい。例えばノズル孔11を開けたノズルヘッドパーツ18の片側から研削を進めて、ノズル孔11の一部に臨む部分を薄くすることで隔壁15としてもよい。
【0047】
隔壁15を分離して形成する場合は、ノズル孔11にダストが入り込んだ場合に分解洗浄ができる点、ノズル孔11の表面処理が容易である点、ノズルヘッド10の製作コストを抑えられる点に長所がある。一方、隔壁15を一体型で作成する場合は、圧力室16に満たす気体や液体からのインクへのコンタミネーションを防ぐことができる点に長所がある。
(実施の形態2)
図4(b)を用いて本発明の実施の形態2を説明する。ここで、図4(a)は実施の形態1におけるノズルヘッド10のノズル孔11の中間部に対応する断面図を示している。ただし、図1に示す場合と違い、ノズル孔11が4つの場合を表現している。このように、実施の形態1では、1枚の隔壁15に対応させて、ノズル孔11および圧力室16を所定間隔ごとに設けている。
【0048】
図4(b)は実施の形態2のノズルヘッド10におけるノズル孔11の中間部での断面図である。
実施の形態1ではノズル孔11を1列に並べて配置していたが、本実施の形態2では、2枚の隔壁15を設けて、ノズル孔11を平面視して複数列交互となるように(いわゆる千鳥状に)並べている。
【0049】
この配置によって、ノズル孔11のピッチが小さくなった場合でも圧力室16につながる配管のスペースを支障なく確保できる。ここで、小さいノズルピッチに対応する別の方法として、ノズルヘッドを複数用いて第1のノズルヘッドのノズル孔からの塗布ラインの間に第2のノズルヘッドのノズル孔からの塗布ラインが形成されるように、ノズルヘッドを配置する方法がある。しかしながら、ノズルヘッドの数が増えれば設備費が高くなり、信頼性が低くなるため、このような方法は好ましくなく、本発明の実施の形態のように、一つのノズルヘッド10に複数列のノズル孔11を設けることが望ましい。
(実施の形態3)
図5(a)〜(d)を用いて本発明の実施の形態3を説明する。
【0050】
実施の形態1、2では隔壁15は板状であった。これに対して、図5(a)に示すように、本実施の形態3のノズルヘッドでは隔壁15がノズル孔11の形状に沿った形状になっている。
【0051】
この隔壁15は次のように製作される。
図5(b)に示すように、まず、ノズルヘッドパーツ18に、隔壁15の材料となるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)15’をコーティングする。コーティング工程においては塗布やCVDなどノズル孔11の大きさや隔壁15の厚さに応じたコーティング手段が選ばれる。次に、図5(c)に示すように、コーティングしたPTFE(隔壁材料)15’をノズルヘッドパーツ18より剥離する。
【0052】
次に、図5(d)に示すように、ノズルヘッドパーツ18より剥離したPTFE(隔壁材料)15’のノズル孔側部分をエッチングする。エッチングにはウエットエッチングやドライエッチングなど必要な精度に応じた手段が選ばれる。
【0053】
このようにしてノズル孔11の形状に合った隔壁15を作成することができる。
この隔壁15を使用すると、隔壁15がノズル孔11に対応した形状をしているので、圧力よる隔壁15の変形で吐出量を高精度に制御できる。
【0054】
塗布による電子デバイスの製造においてはデバイスの構造、特にインクのパターニングを補助する撥水バンクの形状によりノズル孔11の形状を最適化する必要がある。本実施の形態の手法を使用すれば、多様なノズル孔11の形状においてバラツキなく微小量を塗布できる。
【0055】
なお、本発明の実施の形態は、電子デバイスに機能膜を作成する場合に適しており、特に、陰極と陽極の間に発光層を挟む有機ELデバイスにおいて、陰極と陽極の間にある少なくとも一つの層(前記発光層や発光層の一部など)を製造する場合に、上記実施の形態に係る機能膜の製造方法を用いると好適であり、これにより、大面積であっても面内の特性バラツキがなく、高精細であり、しかも安価な電子デバイスとしての有機ELデバイスを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の機能膜の製造方法および製造装置は、有機ELディスプレイパネルなどの電子デバイスの製造に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は本発明の実施の形態1に係るノズルヘッドの簡略的な正面断面図、(b)は圧力室が設けられている箇所(図1(a)におけるA−A’線)で切断したノズルヘッドの側面断面図、(c)は隔壁が設けられている箇所(図1(a)におけるB−B’線)で切断したノズルヘッド10の側面断面図
【図2】本発明の実施の形態1に係るノズルヘッドの圧力室に圧力を印加するシステムを示した図
【図3】本発明の実施の形態に係るダイコート装置を示し、(a)は塗布前の状態のダイコート装置の平面図、(b)は塗布後の状態のダイコート装置の平面図、(c)はダイコート装置の正面図
【図4】(a)は本発明の実施の形態1に係るダイコート装置のノズルヘッドの平面断面図、(b)は本発明の実施の形態2に係るダイコート装置のノズルヘッドの平面断面図
【図5】(a)はそれぞれ本発明の実施の形態3に係るノズルヘッドの隔壁およびその近傍箇所の平面断面図、(b)〜(d)はそれぞれ本発明の実施の形態3に係るノズルヘッドの製造方法の工程を示した断面図
【図6】従来のダイコート装置を示し、(a)は塗布前の状態のダイコート装置の平面図、(b)は塗布後の状態のダイコート装置の平面図、(c)はダイコート装置の正面図
【図7】(a)は従来のノズルヘッドの簡略的な正面断面図、(b)はノズル孔が設けられている箇所で切断したノズルヘッドの側面断面図
【符号の説明】
【0058】
1 基板
1’ ダミー基板
2 基板搬送ステージ
3 インク配送配管
4 インクタンク
5 インク用ポンプ
10 ノズルヘッド
11 ノズル孔
15 隔壁
16 圧力室
21 圧力印加ポンプ
22 レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能膜材料を溶かした溶液をノズル孔から塗布対象物に吐出させて塗布する工程と、
塗布対象物に塗布した溶液を乾燥させる工程とを有する機能膜の製造方法であって、
ノズル孔に臨ませて配設した弾性を有する隔壁を、隔壁におけるノズル孔と反対側の面に臨ませて配設した圧力室に流体を導入して圧力を作用させ弾性変形させることで、ノズル孔からの吐出量を調整しながら塗布すること
を特徴とする機能膜の製造方法。
【請求項2】
圧力室に導入する流体が不活性ガスであることを特徴とする請求項1に記載の機能膜の製造方法。
【請求項3】
不活性ガスがNであることを特徴とする請求項2に記載の機能膜の製造方法。
【請求項4】
ダミーの塗布対象物、または塗布対象物の塗布量観測用領域、または塗布対象物に塗布した溶液の塗布量を測定し、測定した塗布量に応じて圧力室の圧力を調整することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の機能膜の製造方法。
【請求項5】
機能膜材料を溶かした溶液を塗布対象物に吐出するノズル孔と、
ノズル孔に臨ませて配設した弾性を有する隔壁と、
隔壁におけるノズル孔と反対側の面に臨ませて配設した圧力室と、
圧力室の圧力を調整する圧力調整手段と
を備えたことを特徴とする機能膜の製造装置。
【請求項6】
ノズル孔を、ノズルヘッド部材に列状に並べて複数形成していることを特徴とする請求項5記載の機能膜の製造装置。
【請求項7】
隔壁の材料がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項5または6に記載の機能膜の製造装置。
【請求項8】
ダミーの塗布対象物、または塗布対象物の塗布量測定用ダミー領域、または塗布対象物に、吐出されて塗布された溶液の塗布量を測定する塗布量計測手段と、
前記塗布量計測手段によって測定した塗布量に応じて圧力室の圧力を調整する制御装置と
を備えたことを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の機能膜の製造装置。
【請求項9】
隔壁が、ノズル孔が形成されたノズルヘッド部材を型とした転写物をエッチングすることにより作成されていることを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の機能膜の製造装置。
【請求項10】
陰極と陽極との間に発光層を挟む有機ELデバイスであって、
陰極と陽極の間にある少なくとも一つの層を、請求項1〜4の何れか1項に記載の機能膜の製造方法で製造したことを特徴とする
有機ELデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−262052(P2009−262052A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114690(P2008−114690)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】