説明

次亜リン酸イオン、亜リン酸イオンの酸化方法、無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法並びにリン酸塩の再資源化方法

【課題】 本発明は、無電解ニッケルメッキ廃液を浄化するための従来の酸化方法の問題点を排除して、簡便な装置を用い低コストで効果的な方法により、無電解ニッケルメッキ廃液の浄化と、ニッケルおよびリン酸塩を回収して再資源化する方法を提供する。
【解決手段】無電解ニッケルメッキ廃液からニッケルイオンを分離する第一工程と、第一工程で得られた分離液中の次亜リン酸イオンを酸化触媒により亜リン酸イオンに酸化する第二工程と、第二工程で得られた亜リン酸イオンを酸化触媒により正リン酸イオンに酸化する第三工程および、第三工程で得られた正リン酸イオンをリン酸塩に転換してろ過分離することにより、リン濃度が16mg/l以下の廃液に浄化し、リン酸をリン酸塩として回収する第四工程とからなることを特徴とする無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルメッキ廃液を浄化する方法に関し、更に詳しくは無電解ニッケルメッキ廃液中に残存するニッケルイオンを分離して資源回収し、分離液は、次亜リン酸イオンを亜リン酸イオンに、亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化触媒を用いて酸化した後、アルカリ土類金属化合物を用いて正リン酸イオンをリン酸塩として沈殿させてろ過分離することにより、リン濃度が16mg/l以下の廃液に浄化し、沈殿はリン資源として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜リン酸および亜リン酸イオンは無電解ニッケルメッキ廃液中に多量に含まれていることは周知のとおりであるが、リン化合物は湖沼、閉鎖水域など環境の富栄養化の一因となるのでメッキ工程からのリンの流出は年々厳しく規制(排水基準を定める省令(昭和46年6月21日総理府令第35号)にてリン濃度16mg/l(正リン酸イオン換算49.1mg/l)が定められている)されてきており、高性能な浄化法の開発が待望されている。
【0003】
一方、リンは貴重な資源であるから、リン含有廃液の有効な活用法が求められ、次亜リン酸および亜リン酸イオンを酸化して正リン酸イオンとすることにより資源化する方法も検討されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には次亜リン酸イオンを含むメッキ廃液に銅塩を加えて加熱することにより、亜リン酸イオンに酸化する方法が記載されている。また、特許文献2には次亜リン酸イオンを含有する水溶液に、ホウ素−ニッケル化合物を接触させて、亜リン酸イオンに酸化する方法が記載されている。また、特許文献3には次亜リン酸イオンを含有する水溶液に、金属パラジウムを接触させて亜リン酸イオンに酸化する方法が記載されている。また、特許文献4にはホスフォン酸及び/またはホスフィン酸を含む廃液をタングステン酸イオン及び/またはモリブデン酸イオンの存在下で、過酸化水素水と反応させリン酸を生成させる方法が記載されている。また、特許文献5には亜リン酸及び/または次亜リン酸を含有するめっき廃液に過酸化水素を添加した後、紫外線を照射して亜リン酸及び/または次亜リン酸を正リン酸に転化する方法が記載されている。また、特許文献6にはニッケルイオン、コバルトイオン及び銅イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンの存在下で、耐圧密閉容器中で水熱反応処理し、次亜リン酸イオンおよび亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化させる方法が記載されている。また、特許文献7には無電解ニッケルメッキ廃液をキレート樹脂と接触させてニッケル錯体からニッケルを吸着分離し、吸着分離したニッケルは酸により溶離回収し、ニッケル分離後の廃液はオゾン存在下にて高圧水銀灯による紫外線照射により、有機酸を水と炭酸ガスに分解し、次亜リン酸および亜リン酸を酸化した後、沈殿剤を加えてリン酸塩として回収する方法が記載されている。また、特許文献8には、元素周期律表第8族の金属及びその化合物よりなる群より選択された触媒を用いて、高濃度めっき廃液中の金属塩及び次亜リン酸ナトリウムを分解し、次に次亜塩素酸ナトリウム系の酸化剤を用いて、高濃度廃液の有機酸及び亜リン酸ナトリウムを酸化分解する方法が記載されている。また、特許文献9には、無電解ニッケルめっき老化液とニッケル粉末との接触により無電解めっき反応させ、該老化液中のニッケルイオンをニッケル金属として分離回収し、その分離母液に石膏又は鉱酸と消石灰を作用させて亜リン酸分を亜リン酸カルシウムとして分離回収する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−119389号公報
【特許文献2】特開平6−263414号公報
【特許文献3】特開平6−279009号公報
【特許文献4】特開平1−310793号公報
【特許文献5】特開平4−338284号公報
【特許文献6】特開平10−85769号公報
【特許文献7】特開平11−226596号公報
【特許文献8】特開昭61−120688号公報
【特許文献9】特開平9−176861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の方法では、高濃度の次亜リン酸又は亜リン酸イオンを含有する廃液を酸化処理して正リン酸イオンを短時間かつ低コストで効率的に生成させることは難しかった。また、従来の方法では、使用する薬品や電力のコスト負担が大きく、さらに、特殊な反応器を必要とするなどの課題があり満足できる方法とは言い難いものであった。
【0007】
即ち、銅塩を酸化剤として用いた前記特許文献1(特開昭58−119389号公報)、ホウ素−ニッケル化合物触媒を用いた前記特許文献2(特開平6−263414号公報)、金属パラジウム触媒を用いた前記特許文献3(特開平6−279009号公報)においては、次亜リン酸イオンを亜リン酸イオンには酸化できるが、正リン酸イオンへの酸化が困難である。
【0008】
前記特許文献4(特開平1−310793号公報)においては、酸化剤の過酸化水素と触媒であるタングステン酸イオン及び/又はモリブデン酸イオンを多量に添加する必要があり、処理コストが高くなるばかりでなく、亜リン酸及び/又は次亜リン酸イオンからの正リン酸イオンへの酸化が十分でない。
【0009】
前記特許文献5(特開平4−338284号公報)においては、酸化剤である過酸化水素だけでなく、紫外線照射を行うため、装置および処理コストが高くなるばかりでなく、亜リン酸及び/又は次亜リン酸イオンからの正リン酸イオンへの酸化が十分でない。
【0010】
前記特許文献6(特開平10−85769号公報)においては、次亜リン酸および亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化できるが、ニッケルなどの金属イオンの存在下で、耐熱密閉容器中で高温にて水熱反応させるため、装置のイニシャルコストが高く、さらに反応時間も長くかかり経済的でない。
【0011】
前記特許文献7(特開平11−226596号公報)においては、ニッケル分離後の次亜リン酸および亜リン酸イオンおよび有機酸を含む廃液を、オゾン存在下にて高圧水銀灯による紫外線照射により処理するため、装置のインシャルコストや紫外線電力などのランニングコストが高くなり経済的でない。
【0012】
前記特許文献8(特開昭61−120688号公報)においては、周期律表第8族の金属及びその化合物よりなる群より選択された触媒と次亜塩素酸ナトリウム系の酸化剤を用いるが、薬剤コストが高くなる上に、亜リン酸および正リン酸イオンへの酸化が十分でなく、処理時間も長い。
【0013】
前記特許文献9(特開平9−176861号公報)においては、無電解ニッケルめっき老化液とニッケル粉末との接触により無電解めっき反応させて、ニッケルイオンをニッケル金属として分離回収し、次亜リン酸イオンを亜リン酸イオンに酸化させることができるが、亜リン酸イオンへの酸化が十分でなく、さらに正リン酸への酸化は困難である。
【0014】
本発明者らは、還元剤として次亜リン酸塩を使用した無電解ニッケルメッキ廃液の処理について種々実験した結果、次亜リン酸および亜リン酸イオンを含有する廃液にホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を共存させることで、正リン酸イオンを効果的かつ効率的に酸化できることを発見して本発明を完成するに到った。
【0015】
本発明は、従来法の次亜リン酸および亜リン酸イオンの酸化などの問題点を解決し、簡便な装置を用い低コストで、効果的な方法により、無電解ニッケルメッキ廃液を浄化し、再資源化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0017】
即ち、本発明は、次亜リン酸イオンを含む水溶液を、水溶液のpH値が7.0〜11.0であって温度が15〜80℃の条件下において、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子と接触させて次亜リン酸イオンを亜リン酸イオンに酸化する次亜リン酸イオンの酸化方法である(本発明1)。
【0018】
また、本発明は、亜リン酸イオンを含む水溶液を、水溶液のpH値が2.0〜5.0であって温度が80〜100℃の条件下において、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子と接触させて亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化する亜リン酸イオンの酸化方法である(本発明2)。
【0019】
また、本発明は、無電解ニッケルメッキ廃液からニッケルイオンを分離する第一工程と、第一工程で得られた分離液中の次亜リン酸イオンを酸化触媒により亜リン酸イオンに酸化する第二工程と、第二工程で得られた亜リン酸イオンを酸化触媒により正リン酸イオンに酸化する第三工程および、第三工程で得られた正リン酸イオンをリン酸塩に転換してろ過分離することにより、リン濃度が16mg/l以下の排水に浄化し、リン酸をリン酸塩として回収する第四工程とからなることを特徴とする無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明3)。
【0020】
また、本発明は、第一工程におけるニッケルイオンの分離方法が、選択性重金属キレート樹脂を用いてニッケルイオンを吸着分離し、吸着したニッケルイオンを溶離する本発明3に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明4)。
【0021】
また、本発明は、第二工程における次亜リン酸イオンの酸化方法が、水溶液のpH値が7.0〜11.0、温度が15〜80℃において酸化触媒と接触させる方法である本発明3又は4に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明5)。
【0022】
また、本発明は、第三工程における亜リン酸イオンの酸化方法が、水溶液のpH値が2.0〜5.0、温度が80〜100℃において酸化触媒と接触させる方法である本発明3〜5に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明6)。
【0023】
また、本発明は、第四工程におけるリン酸塩に転換する方法が、アルカリ土類金属化合物を用いてリン酸塩を沈殿させ、固液分離したリン酸塩を再資源化する方法である本発明3〜6に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明7)。
【0024】
また、本発明は、第二工程および第三工程において用いる酸化触媒を担体に担持させて用いる本発明3〜7に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明8)。
【0025】
また、本発明は、酸化触媒が、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子である本発明3〜8に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明9)。
【0026】
また、本発明は、第二工程および第三工程で用いるホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子の添加量は、Ni換算で0.04〜1.0mol/lである本発明3〜9に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法である(本発明10)。
【0027】
また、本発明は、本発明3〜10のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法によって回収されたリン酸塩を再資源として利用する方法である(本発明11)。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、従来、困難であった無電解ニッケルメッキ廃液の次亜リン酸イオンおよび亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化することが容易にできるので、無電解ニッケルメッキ工程からのリン含有廃液を高度に浄化することができる。また、本発明方法は、環境汚染の元であったメッキ廃液からニッケルおよびリンを回収して再資源化することに貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0030】
まず、本発明に係る次亜リン酸イオン及び亜リン酸イオンの酸化触媒について述べる。
【0031】
本発明で用いる酸化触媒は、ニッケルイオンを含有する水溶液にジメチルアミンボラン、NaBH等の還元剤を作用させて得られるコロイド粒子を沈殿させ、十分に水洗した後、ろ過して得られるホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子である。
該ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物はアモルファス状であるので、X線回折測定では回折ピークは現れないが、金属ニッケルのブロードなピーク(潜晶質)は検出されてもよい。また、高い結晶性の水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケルなどのニッケル化合物のピークが現れると、触媒活性は著しく低下してしまう。
該ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物を酸溶解させ、原子吸光分光分析あるいはICP発光分光分析等を用いて元素定量した場合のニッケルに対するホウ素のモル比(B/Ni)は、0.4〜0.6となるのが好ましい。
【0032】
該ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子は、水分を含有したペースト状で使用するのが望ましい。乾燥してしまうと、コロイド粒子表面が酸化されて、水酸化物あるいは炭酸化物の状態となり、触媒活性が失活する。
【0033】
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を製造するにあたり、ニッケルイオンを含有する水溶液に使用するニッケル原料は、硫酸ニッケル、塩化ニッケルなどの可溶性塩を用いることができる。
【0034】
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を製造するにあたり、ニッケルイオン水溶液と還元剤を混合接触させて得られるコロイド水溶液のNi濃度が0.25〜1.0mol/lとなるようにニッケルイオン水溶液の濃度を調整することが好ましい。0.25mol/l未満の場合、アモルファス状のコロイド粒子が得られにくく、1.0mol/lを超える場合は、コロイド粒子の二次凝集により、触媒活性が低くなる。より好ましいNi濃度は0.30〜1.0mol/lである。
【0035】
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を製造するにあたり、ニッケルイオンを含有する水溶液への還元剤の添加量は、ニッケル1モルに対して0.5〜2.5モルが好ましい。0.5モル未満の場合は、ニッケルイオンが十分に還元されない。2.5モルを超える場合には、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物が得られない。還元剤の添加は、粉末及び水溶液の状態で行うことが可能である。
【0036】
次に、本発明3〜10に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法について述べる。
【0037】
本発明3〜10に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法において、対象とする無電解ニッケルメッキ廃液は、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩を還元剤として使用した無電解ニッケルメッキ液の廃液である。すなわち、無電解ニッケルメッキが進行すると、建浴した無電解ニッケルメッキ液中の還元剤である次亜リン酸塩が酸化されて亜リン酸塩となり、次第にこの亜リン酸イオンが増大すると、メッキ機能が減退するので、ニッケルイオンが相当量含有しているにもかかわらず、廃棄する廃液である。
【0038】
本発明に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法において、第一工程は無電解ニッケルメッキ廃液からニッケルイオンを分離する工程であり、選択性重金属キレート樹脂を用いてニッケルイオンを吸着分離し、吸着したニッケルイオンを溶離するものである。
【0039】
本発明3〜10の第一工程におけるニッケルイオン吸着用樹脂は、金属選択性機能を有するキレート樹脂、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等にイミノジ酢酸型、イミノプロピオン酸型等の官能基を導入した樹脂等を用いることができる。
【0040】
前記キレート樹脂をカラム装置に充填して無電解ニッケルメッキ廃液を通液することによってニッケルイオンを吸着分離させることができる。キレート樹脂を充填したカラム装置への通液条件としては、ニッケル濃度1g/l以下、pHが3.0〜6.0、SV(空間通液速度)は30h−1以下が好ましい。
【0041】
本発明3〜10に係る第一工程において、ニッケルイオンをキレート樹脂に吸着させた後、次いで、該キレート樹脂を酸溶液と接触させてニッケルイオンを溶離して再資源化する。再資源化方法としては溶離したニッケルイオンにシュウ酸を添加してシュウ酸ニッケルを生成させ、固液分離・回収する工程を追加させるのが好ましい。
前記ニッケルイオンを吸着したキレート樹脂を酸溶液と接触させてニッケルイオンを溶離させる処理方法、及びシュウ酸を添加してシュウ酸ニッケルを生成させる処理方法は、公知の方法を用いることができる。
【0042】
本発明に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法において、第二工程は第一工程で得られた分離液中の次亜リン酸イオンを酸化触媒により亜リン酸イオンに酸化する工程である。
【0043】
本発明3〜10の第二工程において、前記分離液中の次亜リン酸イオン濃度は10〜40g/lが好ましく、より好ましくは10〜35g/l、さらに好ましくは10〜30g/lである。必要により、所望の濃度となるように希釈又は濃縮すればよい。
【0044】
本発明3〜10の第二工程における次亜リン酸イオンを亜リン酸イオンに酸化するには、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いて次亜リン酸イオンを含む水溶液のpH値を7.0〜11.0に調整し、水溶液温度を15〜80℃とした後に、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を添加して攪拌混合すればよい。水溶液のpH値が7.0未満又は11.0を超える場合は、次亜リン酸イオンの酸化反応の進行が困難となる。好ましいpH値の範囲は7.0〜10.0である。
水溶液温度は15℃以上の温度であれば次亜リン酸イオンの酸化反応が生起する。80℃を超える温度で酸化反応を行う必要はなく、好ましい温度範囲は20〜50℃である。
【0045】
なお、本発明1に係る次亜リン酸イオンの酸化方法の条件は、前記本発明に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法における第二工程の処理条件と同様である。
【0046】
本発明に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法において、第三工程は第二工程で得られた亜リン酸イオンを酸化触媒により正リン酸イオンに酸化する工程である。
【0047】
本発明3〜10の第三工程において、前記水溶液中の亜リン酸イオン濃度は20〜120g/lが好ましく、より好ましくは30〜100g/l、さらに好ましくは30〜80g/lである。必要により、所望の濃度となるように希釈又は濃縮すればよい。
【0048】
本発明3〜10の第三工程において亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化するには、硫酸などの鉱酸を用いて亜リン酸イオンを含む水溶液のpH値を2.0〜5.0に調整し、水溶液温度を80〜100℃に加熱しながら、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を添加して攪拌混合すればよい。水溶液のpH値が2.0未満ではホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子が溶解し触媒活性を失い、またpH値が5.0を超える場合では亜リン酸イオンの酸化反応の進行が困難となる。好ましい水溶液のpH値の範囲は2.5〜4.5である。また、加熱温度が80℃未満では酸化速度が遅く、100℃を超える温度で酸化反応を行うことは、特別な酸化装置が必要となるので好ましくない。好ましい加熱温度の範囲は90〜100℃である。
【0049】
なお、本発明2に係る亜リン酸イオンの酸化方法の条件は、前記本発明に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法における第三工程の処理条件と同様である。
【0050】
本発明3〜10の第二工程および第三工程で用いる酸化触媒は、前記の発明1、2のホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を用いる。
【0051】
第二工程および第三工程で用いるホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子の添加量は、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子がNi換算で0.04〜1.0mol/lとなるように添加すればよい。ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子の存在量が0.04mol/l未満では酸化反応が生起し難い。1.0mol/lを超える場合では触媒活性が低下する。より好ましい添加量の範囲は0.08〜0.80mol/lである。
【0052】
第三工程で正リン酸イオンの生成が完了した水溶液から、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子をろ過分離して回収することにより、再使用することができる。
【0053】
また、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子を活性炭、アルミナ、珪藻土またはフェライトなどの担体に担持させて使用すると、再生使用する際にろ過分離が容易となるので便利である。
【0054】
本発明に係る無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法において、第四工程は第三工程で得られた正リン酸イオンをリン酸塩に転換してろ過分離する工程であり、アルカリ土類金属化合物を用いてリン酸塩を沈殿させ、固液分離しリン酸塩を回収して再資源化するものである。
【0055】
本発明3〜10の第四工程において用いるアルカリ土類金属化合物には、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物が用いられる。アルカリ土類金属化合物の使用方法としては、正リン酸イオンを含有する水溶液中に添加して攪拌混合した後、固液分離すればよい。
第四工程で用いるアルカリ土類金属化合物の添加量は、リンに対して1〜2モル当量が好ましい。
【0056】
第四工程を経た廃液は、溶液中のリン酸イオンをP換算で16mg/l以下にすることができる。
【0057】
得られたリン酸塩沈殿物は、公知の方法で固液分離した後、浄化された廃液と同時にリン酸塩が資源として回収できる。
【0058】
<作用>
本発明において重要な点は、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状(非晶質)化合物のコロイド粒子を、次亜リン酸イオン及び亜リン酸イオンを含む水溶液に特定の条件下で接触させることにより、それぞれ亜リン酸イオン、リン酸イオンに効率的に酸化できるという事実である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0060】
溶液中の次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン及びリン酸イオン濃度は、「イオンクロマトグラフィーICA−2000(東亜ディーケーケー(株))」で分析した。
【0061】
酸化触媒のニッケル及びホウ素の含有量は、該酸化触媒粉末を塩酸で溶解し、「プラズマ発光分光分析装置
iCAP6500(サーモエレクトロン(株))」にて測定して求めた。
酸化触媒の結晶相の同定は、「X線回折装置RINT2500(理学電機(株)製)」(管球:Cu)を使用して行った。
【0062】
実施試験には、容積300mlまたは1000mlの四つ口フラスコを用い、還流冷却器を付設して蒸発水蒸気を復水し、水溶液の攪拌はマグネチックスターラーで、また、加熱は温度制御装置を備えたウォ−タバスを用いた。
【0063】
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子をあらかじめ下記の要領で調製して実施試験に供した。水はイオン交換水を用いた。
【0064】
<ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1の調製>
試薬特級の塩化ニッケル6水和物0.076molを含む水溶液200mlに、水素化ホウ素ナトリウム0.14molを含む水溶液50mlを撹拌しながら添加してコロイド状の溶液を調製した。このときの還元剤とニッケル塩のモル比(還元剤/Ni)は、1.8であった。生成したコロイド溶液を静置させて沈殿させ、遠心分離機を用いて、回転数2000rpmで5分間遠心分離した後、上澄みを棄て、イオン交換水を加えて洗浄したものを再度遠心分離してペースト状のコロイド粒子を得た。
このコロイド粒子を未乾燥な状態でX線回折測定した結果、図1に示すような金属ニッケルに相当するブロードなピークが確認された。また、ICPによる元素定量した結果、B/Niのモル比は0.50であった。以上の結果から、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状(非晶質)化合物のコロイド粒子であることが確認された。
【0065】
<ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2〜7の調製>
原料のニッケル塩の種類と濃度、還元剤の種類と濃度、および得られたコロイド粒子の乾燥有無(ペースト、粉末)の条件を変えた以外は、前記アモルファス状のニッケル化合物からなるコロイド粒子1と同一条件で、コロイド粒子の調製を行った。
【0066】
このときの調製条件と得られたコロイド粒子の性状を表1示す。また、コロイド粒子6のX線回折測定結果を図2に示す。コロイド粒子6には、金属ニッケルに相当するブロードなピークと、塩基性炭酸ニッケルのピークが確認された。
【0067】
【表1】

【0068】
<次亜リン酸イオン含有水溶液の調整>
試薬特級の次亜リン酸ナトリウム一水和物をイオン交換水に溶解して、3%PO水溶液を調製した。
【0069】
<実施例1>
3%PO水溶液を200mlビーカーに100ml秤取し、この水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHを7.0に調整した後、四つ口フラスコに投入した。液温25℃でマグネチックスターラーで撹拌しながら、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1をニッケル換算で1g(0.17mol/l相当)添加した。添加直後から気泡を発生して反応が進んだ。
この気泡を水上置換法で採取して、ガスクロマトグラフで分析した結果、発生しているガスは水素ガスであった。時間の経過とともにガス発生は減少し60分経過したとき、ガスの発生は停止した。
【0070】
一方、経過時間毎にサンプリングしてPOをイオンクロマトグラフで分析した。その結果を表2に示した。表2から時間の経過とともにPOが減少し60分後には酸化反応が終了したことを示していた。これは水素ガスの発生が停止した時と一致していたことから、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1は次亜リン酸の存在下で水を分解する触媒作用があることが判明した。
酸化反応が終了した水溶液は遠心分離装置でホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1と亜リン酸水溶液に分離して回収した。
【0071】
【表2】

【0072】
<実施例2>
実施例1で回収したホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1を酸化触媒として添加した以外は、実施例1と同様にして、次亜リン酸イオン水溶液の酸化反応を行った。実施例1の結果と同様に酸化反応は60分で終了した。これにより、上記添加物の触媒作用が確認できた。
【0073】
<実施例3、4、比較例1、2>
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子の種類を変えた以外は、実施例1と同一条件で、次亜リン酸イオン水溶液の酸化反応を行った。それらの結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
<実施例5〜9、比較例3、4>
pH値を変えた以外は実施例1と同一条件で次亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。酸化反応の結果を表4に示した。表4から速やかに反応するpHの範囲は7.0から10であることを確認した。
【0076】
【表4】

【0077】
<実施例10〜12>
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1の添加量を変えた以外は実施例1と同一条件で次亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。酸化反応の結果を表5に示した。表5から、実施例11が示すように酸化反応はホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1の添加量がNi換算で0.4mol/lで十分な酸化反応を生起していることを示している。また実施例10によれば0.04mol/lでも十分反応は進行していた。0.80mol/l以上添加するのは経済的でないことを示していた。
【0078】
【表5】

【0079】
<亜リン酸イオン含有水溶液の調製>
試薬特級の亜リン酸二ナトリウム五水和物をイオン交換水に溶解して、3%PO水溶液を調製した。
【0080】
<実施例13>
3%PO水溶液を200mlのビーカーに100ml秤取し、この水溶液に硫酸を加えてpHを4.5に調整した後、四つ口フラスコに投入した。このフラスコをウオーターバスに設置し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、水溶液温度を90℃に加熱した。発生する水蒸気は還流冷却器を用いて復水した。加熱温度が90℃に到達したとき、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2を、Ni換算で1.0g(0.17mol/l相当)添加した。添加直後から気泡を発生して反応が進んだ。
この気泡を水上置換法で採取してガスクロマトグラフで分析した結果、発生しているガスは水素ガスであった。時間の経過とともにガス発生は減少し、360分経過したとき、ガスの発生は停止した。
一方、経過時間毎にサンプリングして亜リン酸イオン量をイオンクロマトグラフで分析した。その結果を表6に示した。表6から時間の経過とともに亜リン酸イオンが減少し、360分後には酸化反応が終了したことを示していた。これは水素ガスの発生が停止したときと一致していたことから、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2は亜リン酸イオンの存在下で水を分解する触媒作用があることが判明した。
酸化反応が終了した水溶液は遠心分離装置でホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2と正リン酸イオン水溶液に分離して回収した。
【0081】
【表6】

【0082】
<実施例14>
実施例13で回収したホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2を添加した以外は、実施例13と同一条件で、亜リン酸イオン水溶液の酸化反応を行った。実施例13の結果と同様に酸化反応は360分で終了した。上記添加物の触媒作用が確認できた。
【0083】
<実施例15、16、比較例5、6>
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子の種類を変えた以外は、実施例13と同一条件で、亜リン酸イオン水溶液の酸化反応を行った。その結果を表7に示す。
【0084】
【表7】

【0085】
<実施例17>
実施例13で回収した正リン酸イオン水溶液を300mlのビーカーに採取し、この水溶液中のリンPOに対して塩化カルシウムを1当量添加した後、水酸化カルシウム水溶液でpH値を10.0に調整して30分間攪拌して白色沈殿を得た。次に、この白色沈殿を分析用ろ紙(5C)を用いて、ヌッチェで吸引ろ過した。ろ液は透明で、リン濃度は5mg/lであった。白色沈殿を乾燥して化学分析した結果はリン酸カルシウムであった。このことから、正リン酸イオン水溶液を固体のリン酸塩として回収し、排水をリン濃度が10mg/l以下に浄化できることを確認した。
【0086】
<実施例18〜20>
水溶液のpH値を変えた以外は実施例13と同一条件で亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。酸化反応の結果を表8に示した。表8が示すようにpH値2.5、4.0では速やかに反応が進行するがpH値が5.0になると酸化反応に時間を要するようになる。従ってpH値を5.0を超えて大きくすることは反応時間が長くなるので好ましくないことを示していた。
【0087】
【表8】

【0088】
<実施例21〜23>
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2の添加量を変えた以外は実施例13と同一条件で亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。酸化反応の結果を表9に示した。表9から実施例22が示すように酸化反応はホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2の添加量がNi換算で0.4mol/lで十分な酸化反応を生起していることを示している。また実施例21によれば0.04mol/lでも十分反応は進行していた。0.80mol/l添加した場合であっても、実施例22と同程度の反応時間であるので、0.80mol/lを超えて添加することは経済的でないことを示していた。
【0089】
【表9】

【0090】
<比較例7>
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1の添加量をNi換算で0.06g(0.01mol/l相当)とした以外は実施例1と同一条件で次亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。60分後の溶液をサンプリングしてリン濃度を分析した。その結果、次亜リン酸イオン濃度は21300mg/lであった。
これは原液濃度の約70%であり酸化反応が遅いことを示していた。
【0091】
<比較例8>
加熱温度を50℃とした以外は実施例13と同一条件で亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。加熱温度が50℃に到達したとき、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2を添加したが発泡現象は起きなかった。120分経過したころから僅かに発泡が生じた。240分経過後の液をサンプリングしてリンを分析した。その結果、亜リン酸イオンが未だ29000mg/l残存していた。この値は原液濃度(30000mg/l)と大差ないので、50℃の加熱温度では酸化反応が進行しないことを示していた。
【0092】
<比較例9>
pH値を7.0とした以外は実施例13と同一条件で亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。360分経過後の溶液をサンプリングしてリン濃度を分析した。その結果、亜リン酸イオンが原液濃度の約75%の22000mg/lであった。pH値が7.0では酸化反応の進行が非常に遅いことを示していた。
【0093】
<比較例10>
ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子2の添加量をNi換算で0.06g(0.01mol/l相当)とした以外は実施例13と同一条件で亜リン酸イオン含有水溶液の酸化反応を行った。360分後の溶液をサンプリングしてリン濃度を分析した。その結果、亜リン酸イオン濃度は25500mg/lであった。これは原液濃度の85%であり、酸化反応が進んでいないことを示していた。
【0094】
<実施例24> 無電解ニッケルメッキ廃液を用いた実施例
廃液組成は下記である。
PO : 24800mg/l
PO : 42200mg/l
Ni : 1770mg/l
乳酸 : 9400mg/l
りんご酸 : 8900mg/l
【0095】
第一工程:
キレート樹脂の再生工程(A)
選択性重金属キレート樹脂(銘柄:レバチット TP207、バイエル社製(基体:ポリスチレン、交換基:イミノジ酢酸))1lをカラムに充填し(直径7.5cm 高さ 25cm)、濃度が10重量%の硫酸を用いて、通水速度を5l/hrとして2lを通水してH型に再生した。次いで、純水7lを用いて押出し水洗して、通過排液が中性になったことを確認した。次に、濃度が4重量%の水酸化ナトリウムを用いて、通水速度を5l/hrとして、1lを通水してH型樹脂の50%をNa型に置換した。次いで、純水5lを用いて押出し水洗した後、再生した両樹脂を撹拌混合してHNa混床型とし、選択性重金属キレート樹脂塔を作成した。
【0096】
無電解ニッケルメッキ廃液調整工程(B)
前記組成の廃液を5l採取し、純水を用いて3倍に希釈し、5重量%水酸化ナトリウム溶液を用いてpH値を5.5に調整し、無電解ニッケルメッキ廃液の希釈水溶液を15l準備した。
【0097】
ニッケルイオン吸着工程(C)
工程(A)で作成した選択性重金属キレート樹脂塔を用いて、工程(B)で準備した無電解ニッケルメッキ廃液の希釈廃液を5l/hrの割合で通水し、選択性重金属キレート樹脂を通過後のニッケル濃度を1mg/l以下に維持した。被処理液(無電解ニッケルメッキ廃液の希釈水溶液)を全量通水した後、更に、純水7lを用いて通水し、被処理液の押出しと樹脂の洗浄を行った。通水後の被処理液と押出し液を合わせてニッケル処理水とした。
【0098】
第二工程: 第一工程のニッケル処理水を用いたPOをPOに酸化する工程。
第一工程で得られたニッケル処理水1lに水酸化ナトリウムを添加してpHを7.0に調整し、温度25℃、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子3の添加量をNi換算で10g添加し、酸化反応を行った。
【0099】
結果を表10に示す。
【0100】
【表10】

【0101】
第三工程: 第二工程の処理後の液を用いて、引き続きPOをPOに酸化する工程。
第二工程を経た処理後の液1lを、硫酸を用いてpHを4.5に調整し、温度90℃で酸化反応を行った。
酸化反応が終了した水溶液は静置し、上澄みを除いた後、遠心分離装置でホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子3と正リン酸イオン水溶液に分離して回収した。
【0102】
結果を表11に示す。
【0103】
【表11】

【0104】
第四工程:廃液浄化と回収工程
第三工程で回収した正リン酸イオン水溶液を300mlのビーカーに150ml分取し、この水溶液中のPOに対して塩化カルシウムを1当量添加した後、水酸化カルシウム水溶液を用いてpH値を10.0に調整して30分間攪拌して白色沈殿を得た。次に、この白色沈殿を分析用ろ紙(5C)を用いて、ヌッチェで吸引ろ過した。ろ液は透明で、リン濃度は8mg/lであった。白色沈殿を乾燥して化学分析した結果はリン酸カルシウムであった。このことから、無電解ニッケルメッキ廃液をリン濃度16mg/l以下に浄化できること、および正リン酸イオン水溶液を固体のリン酸塩として回収できることが確認できた。
【0105】
<比較例11>
実施例24に基づいて、第3工程を省略し、第2工程の処理後の液に塩化カルシウムを添加した以外は実施例24の条件で実施した。得られた水溶液を固液分離して分析した。その結果、生成沈殿物は亜リン酸カルシウムであり、水溶液の亜リン酸(PO)イオン残存濃度は、120mg/l(P換算47mg/l)であった。このことから、無電解ニッケルメッキ廃液を、リン濃度16mg/l以下に浄化することはできなかった。また、亜リン酸水溶液を固体の正リン酸塩として回収することもできなかった。
【0106】
<比較例12>
実施例24に基づいて、第3工程のホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子3に代えて、ニッケル粉(平均粒子径3μm、結晶性)を用いて亜リン酸イオンを酸化した以外は実施例24の条件で実施した。得られた水溶液を分析した結果、亜リン酸イオン濃度はニッケル粉を投入する以前の濃度と変化していなかった。このことから、通常のニッケル粉は亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化する能力がないことを示していた。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子1のX線回折パターンである。
【図2】ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子6のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜リン酸イオンを含む水溶液を、水溶液のpH値が7.0〜11.0であって温度が15〜80℃の条件下において、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子と接触させて次亜リン酸イオンを亜リン酸イオンに酸化する次亜リン酸イオンの酸化方法。
【請求項2】
亜リン酸イオンを含む水溶液を、水溶液のpH値が2.0〜5.0であって温度が80〜100℃の条件下において、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子と接触させて亜リン酸イオンを正リン酸イオンに酸化する亜リン酸イオンの酸化方法。
【請求項3】
無電解ニッケルメッキ廃液からニッケルイオンを分離する第一工程と、第一工程で得られた分離液中の次亜リン酸イオンを酸化触媒により亜リン酸イオンに酸化する第二工程と、第二工程で得られた亜リン酸イオンを酸化触媒により正リン酸イオンに酸化する第三工程および、第三工程で得られた正リン酸イオンをリン酸塩に転換してろ過分離することにより、リン濃度が16mg/l以下の排水に浄化し、リン酸をリン酸塩として回収する第四工程とからなることを特徴とする無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項4】
第一工程におけるニッケルイオンの分離方法が、選択性重金属キレート樹脂を用いてニッケルイオンを吸着分離し、吸着したニッケルイオンを溶離する請求項3に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項5】
第二工程における次亜リン酸イオンの酸化方法が、水溶液のpH値が7.0〜11.0、温度が15〜80℃において酸化触媒と接触させる方法である請求項3又は4に記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項6】
第三工程における亜リン酸イオンの酸化方法が、水溶液のpH値が2.0〜5.0、温度が80〜100℃において酸化触媒と接触させる方法である請求項3〜5のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項7】
第四工程における正リン酸イオンをリン酸塩に転換する方法が、アルカリ土類金属化合物を用いてリン酸塩を沈殿させ、固液分離したリン酸塩を再資源化する方法である請求項3〜6のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項8】
第二工程および第三工程において用いる酸化触媒を担体に担持させて用いる請求項3〜7のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項9】
酸化触媒が、ホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子である請求項3〜8のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項10】
第二工程および第三工程で用いるホウ素とニッケルとからなるアモルファス状化合物のコロイド粒子の添加量が、Ni換算で0.04〜1.0mol/lである請求項3〜9のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法。
【請求項11】
請求項3〜10のいずれかに記載の無電解ニッケルメッキ廃液の浄化方法によって回収されたリン酸塩を再資源として利用する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100875(P2010−100875A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271351(P2008−271351)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(391051393)富士化水工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】