説明

次亜塩素酸含有殺菌水及びその製造方法、並びに次亜塩素酸含有殺菌シート

【課題】有毒な塩素ガスを発生させることなく、殺菌性の高い次亜塩素酸が十分に存在する次亜塩素酸含有殺菌水及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】次亜塩素酸ナトリウムとpH調整剤とを含有し、該pH調整剤によってpH5〜6にpH調整した次亜塩素酸含有殺菌水であり、該pH調整剤を、緩衝作用を奏する2種の酢酸と酢酸ナトリウムとで構成し、次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムのそれぞれの含有量を、76〜84ppm、157〜173ppm及び9.5〜10.5ppmに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、次亜塩素酸を含有する次亜塩素酸含有殺菌水、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸を含有する次亜塩素酸含有殺菌水は殺菌性が優れており、従来から多用されている。そして、次亜塩素酸含有殺菌水は、殺菌性の高い次亜塩素酸の存在比がpHによって変化するため、次亜塩素酸の存在比が高くなるpH2〜7にpH調整することを特徴とした次亜塩素酸含有殺菌水の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、次亜塩素酸含有殺菌水のpHが、例えばpH=4以下となった場合、有毒な塩素ガスが多量に発生するため、周囲の人間に危害を与えるおそれもある。
なお、次亜塩素酸含有殺菌水を製造するための次亜塩素酸ナトリウムは安定性が低く、単に塩酸などでpH調整した場合、予想以上にpH値が低下して、不用意に塩素ガスが発生するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−323365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこでこの発明は、有毒な塩素ガスを発生させることなく、殺菌性の高い次亜塩素酸が十分に存在する次亜塩素酸含有殺菌水及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウムとpH調整剤とを含有し、該pH調整剤によってpH5〜6にpH調整した水溶液であり、該pH調整剤を、緩衝作用を奏する2種の緩衝成分で構成した次亜塩素酸含有殺菌水であることを特徴とする。
【0007】
上記緩衝作用を奏する2種の緩衝成分で構成したpH調整剤は、氷酢酸などの酢酸と酢酸ナトリウムとで構成する酢酸緩衝溶液、塩酸と塩化カリウムとで構成する塩酸−塩化カリウム緩衝溶液、塩酸とグリシンとで構成するグリシン−塩酸緩衝溶液、クエン酸とクエン酸ナトリウムとで構成するクエン酸緩衝溶液、クエン酸とリン酸水素二ナトリウムとで構成するクエン酸−リン酸緩衝溶液、リン酸二水素カリウムとリン酸水素二ナトリウムとで構成するリン酸緩衝溶液、ギ酸とギ酸ナトリウムとで構成するギ酸緩衝溶液、コハク酸と水酸化ナトリウムとで構成するコハク酸緩衝溶液、或いは酒石酸と水酸化ナトリウムとで構成する酒石酸緩衝溶液とすることができる。
【0008】
これにより、有毒な塩素ガスを発生させることなく、殺菌性の高い次亜塩素酸の存在比が高く、殺菌性能の高い次亜塩素酸含有殺菌水を得ることができる。
また、次亜塩素酸の存在比が高くなるpH5〜6にpH調整するpH調整剤を、緩衝作用を奏する2種の緩衝成分で構成したことにより、pH調整剤の添加による急激なpH値の変化を防止することができる。
【0009】
詳しくは、例えば、自己分解性が高いため安定性が低い次亜塩素酸ナトリウムの含有量が低減した状態で、緩衝作用を有しない通常のpH調整剤を所定量添加した場合、予想以上にpH値が低下(酸性化)し、有毒な塩素ガスが発生する。
【0010】
しかし、緩衝作用が奏する2種の緩衝成分で構成したpH調整剤を用いることでpH値の急激な低下を防止することができる。したがって、有毒な塩素ガスを発生させることなく、安全に、殺菌性の高い次亜塩素酸の存在比が高く、殺菌性能の高い次亜塩素酸含有殺菌水を得ることができる。
なお、pH5〜5.5にpH調整することにより次亜塩素酸の存在比がより高まるためより好ましい。
【0011】
この発明の態様として、緩衝作用を奏する前記2種の緩衝成分を、酢酸と酢酸ナトリウムとで構成とすることができる。これにより、次亜塩素酸の存在比が高いpH値により安全に調整し、殺菌性能の高い次亜塩素酸含有殺菌水を得ることができる。詳しくは、pH値が低下し有毒な塩素ガスが発生した場合であっても、塩酸や酢酸のみで構成するpH調整剤を添加して塩素ガスが発生した場合と比較して、塩素ガスの発生量が低く安全である。
【0012】
また、この発明の態様として、次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムのそれぞれの含有量が76〜84ppm、157〜173ppm及び9.5〜10.5ppmとすることができる。
【0013】
これにより、十分な殺菌性能を有する次亜塩素酸含有殺菌水を無駄なく、且つ安全に得ることができる。
詳しくは、次亜塩素酸ナトリウムの含有量がこれより低いと、保存状態等によって次亜塩素酸ナトリウムの濃度が低下した場合であっても、十分な殺菌効果を得るために時間を要することとなる。
【0014】
逆に、次亜塩素酸ナトリウムの含有量がこれより高い場合、必要な殺菌性能を確保するのに対して、含有量が過剰となって無駄が生じる。
また、酢酸及び酢酸ナトリウムの含有量を上記範囲に設定することで、十分な緩衝作用を奏しながら、所望のpH値5〜6にpH調整することができる。
【0015】
また、この発明の態様として、前記次亜塩素酸ナトリウムが、一般的な臭素酸の含有量より低含有量である低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムとすることができる。
これにより、次亜塩素酸ナトリウムが安定するため、所望の配合比率で構成する次亜塩素酸含有殺菌水を容易に得ることができる。
【0016】
また、この発明は、吸水性シート体に、上述の次亜塩素酸含有殺菌水を吸水させた次亜塩素酸含有殺菌シートであること特徴とする。
これにより、この次亜塩素酸含有殺菌シートで人体や器物の表面を拭くことで汚れを取るとともに、殺菌効果を得ることができる。
【0017】
さらにまた、この発明は、臭素酸の含有量が10ppm未満である低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムの濃度が所定濃度となるように濃度調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、酢酸と酢酸ナトリウムとを含有する酢酸緩衝溶液を添加して、pH5〜6にpH調整し、次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムがそれぞれ76〜84ppm、157〜173ppm及び9.5〜10.5ppmの含有量で含有する次亜塩素酸含有殺菌水の製造方法であることを特徴とする。
【0018】
これにより、有毒な塩素ガスを発生させることなく、殺菌性の高い次亜塩素酸の存在比が高く、殺菌性能の高い次亜塩素酸含有殺菌水を製造することができる。
詳しくは、次亜塩素酸の存在比が高くなるpH5〜6に、酢酸と酢酸ナトリウムとを含有する酢酸緩衝溶液を添加してpH調整するため、急激なpH値の変化が生じることなく、安全に次亜塩素酸含有殺菌水を製造することができる。
【0019】
また、安定性の高い低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムを用いるため、所望の配合比率で構成された次亜塩素酸含有殺菌水を製造することができる。
さらにまた、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムの濃度が所定濃度となるように濃度調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、酢酸緩衝溶液を添加して、pH5〜6にpH調整したことにより、より正確に、所望の配合比率で構成された次亜塩素酸含有殺菌水を製造することができる。
【0020】
詳しくは、高濃度では自己分解により次亜塩素酸ナトリウムの安定性が低いが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液における低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムの濃度を所定濃度に希釈してから酢酸緩衝溶液を添加するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液における低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムの安定性が向上し、より正確に、所望の配合比率で構成された次亜塩素酸含有殺菌水を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、有毒な塩素ガスを発生させることなく、殺菌性の高い次亜塩素酸が十分に存在する次亜塩素酸含有殺菌水及びその製造方法の提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】次亜塩素酸含有殺菌水の製造フロー図。
【図2】pH値に応じた次亜塩素酸の存在比について説明するグラフ。
【図3】緩衝作用について説明する説明図。
【図4】抗ノロウイルス効果の確認試験の試験結果である電気泳動写真。
【図5】パッチテストにおけるパッチ貼り付け前の貼り付け箇所の状態写真。
【図6】パッチテストにおけるパッチ貼り付け24時間後の貼り付け箇所の状態写真。
【図7】パッチテストにおけるパッチ貼り付け48時間後の貼り付け箇所の状態写真。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一実施形態を、以下図面を用いて説明する。
本実施形態における次亜塩素酸含有殺菌水は、臭素酸の含有量が10ppm未満である低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムとpH調整剤とを含有し、該pH調整剤によってpH5〜5.5にpH調整した水溶液である。
【0024】
pH調整剤は、緩衝作用を奏する2種の氷酢酸(CHCOOH)と酢酸ナトリウム(CHCooNa)とで構成する酢酸緩衝水溶液で構成している。
なお、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムは、80ppm、165ppm及び10ppmの配合率で含有しているが、この配合率にはそれぞれ約5%の許容範囲を有している。
【0025】
次亜塩素酸含有殺菌水の製造方法について、図1とともに説明する。なお、図1は次亜塩素酸含有殺菌水の製造方法についてのフロー図を示している。
まず、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムを含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を所定濃度に希釈する(ステップs1)。本実施例においては12%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、80ppm(つまり0.008%)となるように希釈する。
【0026】
そして、氷酢酸を含有する氷酢酸水溶液に酢酸ナトリウムを混合して酢酸緩衝溶液を生成する(ステップs2)。このとき、氷酢酸と酢酸ナトリウムとが165:10の配合比率となるように酢酸ナトリウムを混合する。
【0027】
このようにして所定濃度に濃度調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムとが上記配合比率となるように、酢酸緩衝溶液を添加して、次亜塩素酸含有殺菌水を生成する(ステップs3)。
【0028】
この様な製造方法で製造され、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムとが上記配合比率で含有する次亜塩素酸含有殺菌水は、有毒な塩素ガスを発生させることなく、殺菌性の高い次亜塩素酸(HClO)の存在比が高く、殺菌性能の高い次亜塩素酸含有殺菌水を得ることができる。
【0029】
詳しくは、次亜塩素酸含有殺菌水におけるpH値に応じた次亜塩素酸の存在比について説明するグラフである図2に示すように、pH値が約7以上、或いは約3.5以下になると、次亜塩素酸含有殺菌水に残留遊離塩素として存在する次亜塩素酸の存在比が低減する。
【0030】
次亜塩素酸含有殺菌水は、pH5〜5.5となるように、上記配合率で次亜塩素酸ナトリウム水溶液に酢酸緩衝溶液を添加しているため、殺菌性の高い次亜塩素酸の存在比が高くなる。したがって、殺菌性の高い殺菌水を生成することができる。
【0031】
また、図2に示すように、pH値が約3以下になると、有毒ガスである塩素ガスが発生するが、次亜塩素酸含有殺菌水はpH5〜5.5であるため、塩素ガスも発生することなく安全である。
【0032】
また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加する酢酸緩衝溶液がpH調整剤として機能しているため、酢酸緩衝溶液の添加によって次亜塩素酸含有殺菌水のpH値が急激に低下して塩素ガスが発生するといったおそれがない。
【0033】
詳しくは、緩衝作用について説明する説明図である図3における酢酸の滴定曲線グラフである図3(a)や、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に希酢酸を添加した場合のpH変化のグラフである図3(b)に示すように、次亜塩素酸ナトリウムに酢酸緩衝溶液を添加した場合のpH変化が緩やかである。
【0034】
したがって、例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が蒸発等によって低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムの濃度が変化している状態において、酢酸緩衝溶液を所定量添加してもpH値が大きく変化することはない。
よって、塩素ガスが発生するようなpH値まで低下するといった危険な状態におちいることを防止できる。
【0035】
また、pH調整剤として機能させるために酢酸緩衝液を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加しているため、仮に、予想以上にpH値が低下して塩素ガスが発生した場合であっても、塩素ガスの発生量が少なく安全である。
【0036】
詳しくは、80ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に酢酸緩衝溶液を添加してpH調整した場合、塩酸のみでpH調整した場合、酢酸のみでpH調整した場合についてそれぞれ塩素ガスの発生試験を実施した結果、塩酸のみでpH調整した場合が0.5ppmともっとも塩素ガスが発生し、次いで酢酸のみでpH調整した場合が0.4ppm、酢酸緩衝溶液でpH調整した場合が0.3ppmともっとも塩素ガスの発生量が少ないことが確認できた。
【0037】
このように、酢酸緩衝溶液を次亜塩素酸含有殺菌水のpH調整剤として用いたことにより、次亜塩素酸含有殺菌水の急激なpH変化がなく、塩素ガスが発生する危険性を低減できる。また、もし、有毒な塩素ガスが発生するようなpH値になった場合であっても、塩素ガスの発生量を、塩酸や酢酸のみをpH調整剤として用いた場合より低減できるため安全である。
【0038】
さらには、臭素酸の含有量が10ppm未満である低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムで次亜塩素酸ナトリウム水溶液を構成しているため、毒性のある臭素酸が次亜塩素酸含有殺菌水に不純物として含まれることを防止できる。
【0039】
詳しくは、次亜塩素酸含有殺菌水を構成する次亜塩素酸ナトリウムは、食塩の電気分解によって生成される苛性ソーダと塩素ガスとを反応させて生成される。
2NaOH+Cl2→NaClO+H2O+NaCl
この次亜塩素酸ナトリウム生成時に不純物の臭素が酸化され、臭素酸が不純物として生成されるが、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムは、不純物として生成された臭素酸を吸収・除去することでさせるため、毒性のある臭素酸が不純物として含まれることを防止している。
【0040】
なお、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムを用いることで、分解しやすい薬剤である次亜塩素酸ナトリウムの安定性を向上することもできる。したがって、適正な配合率の次亜塩素酸含有殺菌水を確実に製造することができる。
【0041】
さらにまた、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈してから酢酸緩衝溶液を添加して次亜塩素酸含有殺菌水を製造しているため、分解しやすい薬剤である次亜塩素酸ナトリウムの安定性を向上させ、適正な配合率の次亜塩素酸含有殺菌水を安価且つ確実に製造することができる。
【0042】
詳しくは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は有効含有量が12%の水溶液が多く流通しており、安価で入手することでできる。
しかし、分解しやすい薬剤である次亜塩素酸ナトリウムの水溶液である次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、次亜塩素酸ナトリウムの自己分解により有効含有量が変化しやすい。これを安定性の高い低濃度に希釈してから酢酸緩衝溶液を添加することで、適正な配合率の次亜塩素酸含有殺菌水を安価且つ確実に製造することができる。
【0043】
次に、上述したような構成で構成するとともに、上述の製造方法で製造した次亜塩素酸含有殺菌水の殺菌効果を確認するために行った殺菌効果確認試験について説明する。
【0044】
まず、パンデミックが懸念される新型インフルエンザウイルスといわれるインフルエンザウイルスA型(H1N1)に対するウイルス不活性試験の結果について説明する。
【0045】
このウイルス不活性試験では、次亜塩素酸含有殺菌水と、比較対照である精製水に、ウイルス浮遊液を添加して混合し、室温下で作用させ、所定時間後のウイルス感染価を測定する試験である。
【0046】
詳しくは、細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養し、単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウイルスを接種した。次に細胞維持培地を加えて37℃±1℃の炭酸ガスインキュベータ(co2濃度:5%)内で1〜5日間培養する。そして、培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認し、培養液を遠心分離し(3000r/min、10分間)、得られた上澄み液を精製水で10倍に希釈し、ウイルス浮遊液とする。
【0047】
この生成したウイルス浮遊液0.1mlを次亜塩素酸含有殺菌水1mlに添加、混合し、作用液として室温で作用させ、15,30、60秒並びに3分後に細胞維持培地を用いて10倍に希釈した。なお、比較対照として精製水を用いて同様に試験し、開始時及び3分後について測定した。
【0048】
そして、細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート内(96穴)で単層培養した後、細胞増殖培地を除き細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、作用液の希釈液0.1mlを4穴ずつ摂取し、37℃±1℃の炭酸ガスインキュベータ(co2濃度:5%)内で4〜7日間培養する。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出して作用液1mlあたりのウイルス感染価に換算した。その結果を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】

このウイルス不活性試験によって、表1に示すように、試験開始後15秒でインフルエンザウイルスが死滅し検出できなくなっていることが判明した。このことから次亜塩素酸含有殺菌水は、感染力が高くパンデミックが懸念されるインフルエンザウイルスA型(H1N1)に対して、十分な殺菌効果があることが確認できた。
【0050】
次に、次亜塩素酸含有殺菌水の抗ノロウイルス効果の確認試験の結果について、試験結果である電気泳動写真を表示する図4とともに説明する。詳しくは、図4(a)は次亜塩素酸含有殺菌水による電気泳動写真を示し、図4(b)は次亜塩素酸ナトリウムの含有量が40ppmである次亜塩素酸含有殺菌水による電気泳動写真を示している。なお、この電気泳動写真において、ノロウイルス陽性の場合344bpの位置にバンドが出現する。
【0051】
この抗ノロウイルス効果の確認試験では、RT―PCR法に基づき、糞便由来ノロウイルスの懸濁液に80ppmと40ppmの次亜塩素酸含有殺菌水を添加し、所定時間経過後にノロウイルスを検出した。その結果を以下の表2に示す。
【0052】
【表2】

この抗ノロウイルス効果の確認試験によって、表2に示すように、80ppmの次亜塩素酸ナトリウムを含有する次亜塩素酸含有殺菌水は試験開始後5分で陰性となり、十分な抗ノロウイルス効果が確認できた(表中III,IV)。これに対し、40ppmの次亜塩素酸ナトリウムを含有する次亜塩素酸含有殺菌水は試験開始後15分で陰性となり、時間はかかるものの十分な抗ノロウイルス効果を奏することが確認できた(表中V,VI)。このように、次亜塩素酸含有殺菌水は、次亜塩素酸ナトリウムの含有量によって、効果が確認できる時間に違いはあるものの、抗ノロウイルス効果を奏することが確認できた。
【0053】
次に、各種細菌に対する殺菌力確認試験の結果について説明する。
この各種細菌に対する殺菌力確認試験では、細菌一般試験法に基づいて、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、サルモネラ、大腸菌、黄色ブドウ球菌及び腸炎ビブリオの懸濁液に次亜塩素酸含有殺菌水を入れて1分後の生菌数を確認した。その結果を以下の表3に示す。
【0054】
【表3】

この殺菌力確認試験によって、表3に示すように、次亜塩素酸含有殺菌水は各細菌に対して十分な殺菌力を有することが確認できた。
【0055】
続いて、この様に殺菌性能の高い次亜塩素酸含有殺菌水の安全性を確認するための実施したパッチテストについて、図5〜7とともに説明する。図5はパッチ貼り付け前の貼り付け箇所の状態写真を示し、図6はパッチ貼り付け24時間後の貼り付け箇所の状態写真を示し、図7はパッチ貼り付け48時間後の貼り付け箇所の状態写真を示している。
【0056】
このパッチテストでは、被験者の25名の背部(傍脊椎部)に検査薬を含ませたパッチを貼り付け、貼り付け24時間後に除去し、除去後30〜60分後及び貼り付け後48時間の判定基準及び皮膚刺激指数を用いて判定した。その結果を以下の表4及び図5〜7に示す。
【0057】
なお、検査薬として、次亜塩素酸含有殺菌水、洗剤ムース液及び注射用蒸留水を用い、その結果を比較した。また、No18の被験者は試験条件不適合であったため24名で試験を行った。
【0058】
【表4】

この殺菌力確認試験によって、表4及び図5〜7に示すように、次亜塩素酸含有殺菌水は、比較対照である洗剤ムース液や注射用蒸留水と同程度に皮膚に刺激の少ない「許容品」という評価を得ることができる安全性の高い殺菌液であることが確認できた。したがって、直接手足にかけさせて殺菌効果を得る場合であっても安全に使用することができる。
【0059】
さらに、布地退色試験の結果について説明する。
この布地退色試験では、次亜塩素酸含有殺菌水、水道水、液体洗剤、酸素系洗剤、塩素系洗剤を10cmの高さから試験生地にスプレーし、10分後の生地の変退色を確認した。その結果を以下の表5に示す。なお、試験生地として、綿、シルク、ポリエステル、ウール及び麻の5種類について試験した。
【0060】
【表5】

この布地退色試験によって、表5に示すように、次亜塩素酸含有殺菌水は水道水や液体洗剤と同程度にしか変退色しておらず、安全性の高い殺菌液であることが確認できた。したがって、被服等に直接かけて殺菌効果を得る場合であっても安全に使用することができる。
【0061】
上述の試験によって、十分な殺菌効果を有するとともに、安全性の高いことが確認できた次亜塩素酸含有殺菌水の使用方法について以下で説明する。
まず、次亜塩素酸含有殺菌水をスプレーボトル等の噴霧容器に封入し、例えば、手指や被服、或いはドアノブ等の殺菌したい場所に直接噴射する。これにより、噴射箇所を、安全且つ確実に殺菌することができる。なお、手指の場合、セッケン等を用いた手洗いと併用することで殺菌効果は向上する。また、十分な殺菌効果を有するため、カビが発生しやすい浴室等に噴射させてもよい。
【0062】
また、装着するマスクに次亜塩素酸含有殺菌水を噴射して用いてもよい。これにより、マスクを通過しようとするウイルスや細菌を死滅させることができる。なお、マスク自体に、不織布等の吸水性シート体に次亜塩素酸含有殺菌水を吸水させた次亜塩素酸含有殺菌シートを収容する収容ポケットを備えて構成してもよい。その場合も同様の効果を得ることができる。
【0063】
また、水噴霧式加湿器や超音波式加湿器のタンクに次亜塩素酸含有殺菌水を入れて使用してもよい。これにより次亜塩素酸含有殺菌水が空気中に噴霧されるため、室内空気が殺菌され、例えば空気感染等を防止することができる。
【0064】
また、切り花を生ける花瓶の水に次亜塩素酸含有殺菌水を混ぜて使用してもよい。これにより、切り花が吸収する水の中の細菌や茎内の細菌の繁殖を防止できるため、切り花の寿命を延ばすことができる。
【0065】
さらにまた、不織布等の吸水性シート体に次亜塩素酸含有殺菌水を吸水させた次亜塩素酸含有殺菌シートを構成してもよい。例えば、難水溶性のティッシュペーパー(不織布)に次亜塩素酸含有殺菌水を含ませて構成すればよい。この次亜塩素酸含有殺菌シートで人体や器物の表面を拭くことで汚れを取るとともに、殺菌効果を得ることができる。
【0066】
また、使い捨ての床磨き用の不織布シートに次亜塩素酸含有殺菌水を含ませて次亜塩素酸含有殺菌床拭き用シートを構成することで、床表面の汚れを取るとともに、殺菌効果を得ることができる。
【0067】
なお、上記次亜塩素酸含有殺菌水は、上述したように、低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムは、80ppm、165ppm及び10ppmの配合率で構成したが、配合率にそれぞれ約5%許容範囲を有しているため、76〜84ppm、157〜173ppm及び9.5〜10.5ppmでの配合率で配合しても上述の効果を得ることができる。
また、上記次亜塩素酸含有殺菌水はpH調整剤によってpH5〜5.5にpH調整したが、pH5〜6であれば同様の効果をえることができる。
【0068】
なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、氷酢酸と酢酸ナトリウムとで構成する酢酸緩衝溶液を添加して次亜塩素酸含有殺菌水を構成したが、塩酸と塩化カリウムとで構成する塩酸−塩化カリウム緩衝溶液、塩酸とグリシンとで構成するグリシン−塩酸緩衝溶液、クエン酸とクエン酸ナトリウムとで構成するクエン酸緩衝溶液、クエン酸とリン酸水素二ナトリウムとで構成するクエン酸−リン酸緩衝溶液、リン酸二水素カリウムとリン酸水素二ナトリウムとで構成するリン酸緩衝溶液、ギ酸とギ酸ナトリウムとで構成するギ酸緩衝溶液、コハク酸と水酸化ナトリウムとで構成するコハク酸緩衝溶液、或いは酒石酸と水酸化ナトリウムとで構成する酒石酸緩衝溶液などの緩衝溶液を添加しても、急激なpH変化による塩素ガスの発生を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸ナトリウムとpH調整剤とを含有し、該pH調整剤によってpH5〜6にpH調整した水溶液であり、
該pH調整剤を、緩衝作用を奏する2種の緩衝成分で構成した
次亜塩素酸含有殺菌水。
【請求項2】
緩衝作用を奏する前記2種の緩衝成分を、
酢酸と酢酸ナトリウムとで構成した
請求項1に記載の次亜塩素酸含有殺菌水。
【請求項3】
次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムのそれぞれの含有量が
76〜84ppm、157〜173ppm及び9.5〜10.5ppmである
請求項2に記載の次亜塩素酸含有殺菌水。
【請求項4】
前記次亜塩素酸ナトリウムが、
一般的な臭素酸の含有量より低含有量である低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムである
請求項1から3のうちいずれかに記載の次亜塩素酸含有殺菌水。
【請求項5】
吸水性シート体に
請求項1から4のうちいずれかに記載の次亜塩素酸含有殺菌水を吸水させた
次亜塩素酸含有殺菌シート。
【請求項6】
臭素酸の含有量が10ppm未満である低臭素酸タイプ次亜塩素酸ナトリウムの濃度が所定濃度となるように濃度調整された次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、
酢酸と酢酸ナトリウムとを含有する酢酸緩衝溶液を添加して、pH5〜6にpH調整し、
次亜塩素酸ナトリウム、酢酸及び酢酸ナトリウムがそれぞれ
76〜84ppm、157〜173ppm及び9.5〜10.5ppmの含有量で含有する
次亜塩素酸含有殺菌水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56377(P2011−56377A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207986(P2009−207986)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(598147891)株式会社ユーキケミカル (3)
【Fターム(参考)】