説明

次亜塩素酸塩のペースト状組成物

【課題】次亜塩素酸塩(NaOCl)酸化性水溶液をペースト化して、固着部,斜面,コーナー部などのカビや粘結性汚染物を漂白酸化するにおいて、安定性や耐久性はあるが、二次汚染に繋がる組成物とするのに、増粘手段に特別な増粘物を要することなく、洗浄力も兼備した、しかも1年以上スタミナの落ちない組成体を提案する上で本発明に到達した、
【解決手段】その具体的な組成は、生分解性の優れたアニオンのアルキルスルホン酸ソーダとヤシ脂肪酸からの両性イオンである酢酸ベタインを併用し、これに特定のセピオライト鉱物を含ませることにより、堅固な組成体を形成する。そればかりか、固着性が優れ、浸透力がある、臭気の少ない作業性の優れた商品を成し、今まで敬遠されていた次亜塩素酸塩の用途が広がり、エコノミー,安全性,簡便性も加わり、使用者において正に好都合な性質を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強力な酸化性漂白力を有するアルカリ性の次亜塩素酸塩を主成分とするペースト状組成物に関し、特別な増粘剤や増粘助剤の加入を必要としないで、安定な次亜塩素酸塩の粘稠なペースト状組成物を提案することにある。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸塩(NaOCl)は、古くからその強力な酸化力による漂白,除菌,消臭,消毒,洗浄などの目的に汎用されている。その一つはコスト的にも非常に安く、一定の条件を配慮すればスピーディーで確実に各種細菌類やカビ類を、その強力な酸素の力で除菌,漂白,浸透などを達成できるので、食品関係者の中で唯一衛生上の処理剤として認められ、食品工業や食品産業、食品営業面で利用されていると共に、黒カビなどの胞子をも漂白し、発育を阻止する即効性のため、好んで採用され、その用途も漂白,洗浄,除菌から、カビやヌメリ性状物,人の垢(プロテイン+脂肪酸類の複合物)などのプリカーサ−として重宝に利用されている。
【0003】
一方、その酸化力のために併発するフリーの塩素イオンが、酸性化で有害な塩素ガスや塩化水素ガスを発生し、その力はタンパク質に致命的な影響を与え、呼吸器の酸素吸入を妨げ、極めて有害な状況を形成して、人命への危険や眼などの水晶体への損傷、周囲の設備の腐食や有機プリント器材などに損傷を与えることから、その対策が必要とされている。
【発明の内容】

【本発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、当該次亜塩素酸塩の力を利用して、安定な塩素化合物を作り、これが実際の使用においてより強力に作用する併有機能を持たせることを考えて本発明に至ったものであり、また近年化学物自体の排出などの取扱に関する法令などの制約も解決しながら、より安全に使いやすく、更にエコロジーで安定した商品を提供することを目的とする。
【0005】
次亜塩素酸塩を増粘するためには、すぐ想定するのは高分子ポリマー、例えばアクリル酸ポリマー(カルボキシビニルポリマー),キサンタンガム,ヒドロキシプロピルセルロース,メチルセルロース,ローカストビーンガム,カルボキシメチルセルロース,PVA,ペクチン,ポリビニルピロリドン,ベントナイト,ビーガム,ゼオライト,パーライトなどの増粘剤であるが、有効塩素をキープしながら粘性だけを上昇させるには二律背反の如く極めて困難で、加えて高分子構造が有効塩素の作用を抑制し、かえってその効果が低下したり、またビニルポリマー系の様に後で水不溶物を派生したりして、二次汚染に繋がったり、強アルカリ下での年単位の安定性を担保する保証が無いなどの他、分子量1000万を超すカルボキシビニルポリマーは、増粘は満たしても放置(つけ置き)利用で被膜を形成し、次亜塩素酸塩の働きが失墜することもある。
【0006】
一方、界面活性剤の組み合わせで、例えばSAS−アルキルアミドベタイン,LAS−ヤシアミドプロピルベタイン,AES−アミンオキシド,カリ石けん−脂肪酸(C18)ジエタノールアミド,AS−アルキル酢酸ベタイン,ジオクチルコハク酸ソーダ−脂肪酸エタノールアミド,アルキル(C14〜18)アミンオキシド−KOH,エトキシジメチルアンモニウムクロライド−SAS−アミドプロピルベタイン、これにNaCl,KCl,MgSO,MgCl,NaSO,LiCl,KNO,NaHSO,NaSiO,RCOONa(R=C1〜5),クエン酸ソーダ,EDTAなどの方法も限度があり、決定的なものはない。
【0007】
当該有機物が多いほど、有効塩素の安定性が低下する。そして増粘剤としてよく知られているキサンタンガム,CMC,メチルセルロース,卵白アルブミン,ヒドロキシプロピルセルロース,有機酸ソーダ,PVA,ポリビニルエーテル/無水マレイン酸ポリマー,カルボキシビニルポリマーを併用しても、6〜10ヶ月が限度である。
【0008】
今ひとつの課題は、ポリマー物質が汚水中の油分やアルカリ土類金属と化学反応して、ヘドロや泥礫を生じる事である。そればかりかポリマーは生分解度が悪く、水中汚染に拍車をかける始末である。
【0009】
更に、当該次亜塩素酸塩を目地タイルやシリコーンゴムなどに塗布した場合、その場所にマーキングしておかないと、その処理部分が不詳となり、つけ残しによる酸化などの黄ばみやひび割れが起こるため、識別性も必要となるが、多くの色素顔料類は漂白脱色されたりして用をなさず、また耐色性のものは鉛,錫,モリブデン,アンチモン,砒素,水銀,クロム,ベリリウムなどの有害元素が混入しており、その上で課題が残る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の多くの課題を一挙に解決するために、増粘効果を2種の界面活性剤とセピオライト無機増粘剤(揺変剤)に依拠したことである。この定義は大きく、この3成分の組み合わせが次亜塩素酸塩と相まって固着性の高い粘性物質(ペースト状)に変化することである。しかもセピオライト自身は水不溶性の黄土色の土成分であり、処理した場合はその部分が黄土〜褐色状で残留するので、そこを水洗すれば良いわけである。しかもその土は元来地中から抽出したもので、自然回帰そのものとなる。
【0011】
セピオライト(MgSi1230(OH(OH)・6〜8HO)の組成を有し、タルクの多結晶構造の形をとるもので、空孔が優れた吸着,粘性,揺変性を発揮し、塩素臭の低減力も大きく、比表面積の大きさが、優れたペースト状物を形成する。その前提が以下の通り界面活性剤(アニオン+両性イオン)の組み合わせに依拠していることは本発明のポイントである。当該物は2〜15w%(より好ましくは3〜8w%)で、20w%を超えると固形物となり、経時により離水を生じる事があり、また有効塩素の効果も目に見えて低下する。これは予め苛性ソーダなどのアルカリ水溶液に混ぜて、良く馴染ませてから次亜塩素酸塩を添加していく事が望ましい。この時に必要によりアロマ成分で芳香を持たせ、塩素臭を緩和することもできる。
【0012】
即ち本発明は、次亜塩素酸塩(具体的にはNaOCl)をベースとし、この有効塩素5〜7%(6%前後)を安定域として、第1に界面活性剤としてアルキルスルホン酸ソーダ(SAS,分子量は約314)を用い、これに第2の界面活性剤としてアルキル酢酸ベタイン両性イオン活性剤(AB)と併用すると、急激な増粘が始まる。アルカリ性(とりわけ−OHイオン)のアクティブなNaOHやKOHを含む物が都合が良い。
【0014】
このSAS+ABはSASの1w%に対して、ABは2〜5w%で配合する。当該組み合わせの界面活性剤は全体として2〜20w%の範囲が安定性と経済性、耐久性の面から有利である。この系には勿論、既知のアミンオキシド,AS,AES,アミドプロピルベタイン,アルキルグルコシドなどを併用しても差し支えない。
【0015】
アルキルスルホン酸ソーダは残り成分としてNaSO(芒硝)の少ない方が好ましく(NaClは良い)、生分解性も優れており(LAS,AOS,AES,ASなどの汎用アニオン系では最大)、またアルキル硫酸ベタインとの相溶性は極めて良く、両者を50%以上含ませることもできることが判明した。
【0016】
無機質のセピオライト増粘剤としては珪酸マグネシウムが主成分であり、多孔性の吸着性の高い粘土剤として多用途で使用されている。安全性は高く、二次汚染の極めて少ない、理想的な増粘剤としての効果だけではなく、吸着による臭気減少や、界面活性剤の粘性を三次元的に組み立てるチキソトロピー効果をあげると共に、当該物が水不溶性の黄土色であり、処理した面に識別効果を有し、放置している面も塩素などの臭気が少ないので、安心して作業にあたる事が出来る、堅固な組成形成がポイントである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好ましい性質は、次亜塩素酸塩(NaOCl)を有効塩素(Av−Cl)として、助剤(キレート)の塩類(例えばグルコン酸ソーダ,ヘプトン酸ソーダ,EDTA,珪酸カリ,硅曹,酒石酸ソーダ,PVAソーダ,ピロリン酸カリ,スルファミン酸ソーダなど)を0.1〜2w%含み、アルカリ剤としてNaOH,KOHから選ばれた1〜2種が0.5〜4%(好ましくは0.5〜2.5%)含ませる。これに本発明の組成体であるアニオン界面活性剤のアルキルスルホン酸ソーダ(SAS)と両性イオン界面活性剤のアルキル硫酸ベタイン(AB)を併用することである。
【0018】
SASはn−パラフィンに光エネルギー(hν)を介してスルホン化した物を苛性ソーダで中和して合成する。この時にバイプロとして芒硝(NaSO)を副生するが、あるいはクロルスルホン酸の場合、NaCl(食塩)を副生するが、生分解性はアニオン界面活性剤の中で随一であり、これからの洗剤のメインになると考えられる。
【0019】
1990年代、日本でも工業化されたが、時期尚早と粉末化が難しくなった。これにより両性イオン界面活性剤の代表であるアルキル酢酸ベタインの組み合わせがベストカップルとなる。RSO3Na(R=C12〜15)+RN(CHCOO(R=C12〜15)が複塩を形成し、これが−OHラジカルと共に本発明液の中で架橋して、増粘を誘発したものと思われる。アルキル酢酸ベタインはアルカリ下で両性イオンからアニオン傾向に変化して、これがチキソトロピーの粘性を発生したものである。
【0020】
この両者を20w%以上入れるとゲル状の物質を作る事が出来るので、次亜塩素酸塩(NaOCl)のゲル化も可能になる。具体的にはアルキルスルホン酸ソーダが0.5〜6.0w%(好ましくは0.5〜5.0w%)に対して、アルキルベタインは1.0〜20w%(好ましくは1.5〜15w%)であって、合計で2.0〜20w%の範囲に調整することが望ましい。
【0021】
本発明はこの組成物に第3,第4の界面活性剤としてアルキルジフェニルジスルホン酸ソーダ,アルキルジメチルアンモニウムオキサイド、及びこれらの誘導体(ジエチルヒドロキシアルキルアミンオキシド,アルキルエーテル硫酸エステル塩,第4級アンモニウム塩類)、キレート剤としてNTA,硼砂,塩化マグネシウム,ロッシェル塩,トルエンスルホン酸ソーダ,キシレンスルホン酸ソーダなどの可溶化剤を逐次配合しても良い。また塩素臭をマスキングする上で、アロマオイル,香料混合物,ハーブエキス,活性炭,アモルファスシリカ,活性雲母,シクロデキストリン,トレハロース,ヒドロキシアパタイト,チタン白,活性白土,水酸化リチウム,蛍光剤,香味剤などを適宜配合する事も妨げない。
【本発明の効果】
【0022】
本発明はこれらの今までの課題を克服し、次亜塩素酸塩(NaOCl)の特性を生かし、更なる用途開発へ利用できる。特に斜面,凹凸面,吸水面などのコーナーや微小細部の防カビ,消毒、あるいは排気の悪い場所での清掃作業など、ペースト状の特徴を利用して、液体やスプレー(ミスト)では使用できなかった面への塗布剤(コート剤)として、またセメント,モルタル,セラミックファイバーに吸入したペイント油や汚泥物の浸入分解、発酵食品(漬物,キムチ,納豆,ヨーグルト,チーズなど)の特有の臭気を、化学反応と吸着で除去する場合など、ホームケアユースよりも土建用,食品産業,清掃(メンテナンス)などに転用する事も出来る。今後想定される水汚染やエコ対策において、希望的光明をもたらすに違いないと考える。以下、本発明の効果について、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0023】
本発明の組み合わせの物と、それ以外の対照品を作製し、具体的にその効果の有意義性を検討した。
【表1】

[検証結果]
40℃,1か月での試作品の安定性テスト
▲1▼外観
◎:変化なし
○:少しクラックあり
△:分離・膨張・塩素臭あり
×:膨潤・崩壊あり
▲2▼有効塩素(Av−Cl)
ヨード澱粉反応(ハイポ滴定分析)
▲3▼粘度
B型粘度計,20℃
▲4▼臭気
200ml蓋付三角フラスコに試作品を10gサンプリングし、1N酢酸(pH1.8)を10ml,20ml滴下してから封栓し、10秒後の三角フラスコ内の塩素臭を検証した。
◎:微かな塩素臭
○:弱い塩素臭
△:かなりの塩素臭
×:強烈な塩素臭
【表2】

【0024】
次の組成体を作製し、本発明組成体の優れた効果を再確認した。
【表3】

上表試作品について、次の項目を検証した。
JIS:Z−2911に準じて、アスペルギルスニジェール(黒麹カビ)を培養したシャーレについて、本発明品5,6と大手社製市販品(ジェル状)のA,Bをそれぞれ比較した。
▲1▼カビ取り効果
シャーレ内培地全面にカビを培養しておき、培地上に群生したカビがほぼ脱色してゼロ(白〜淡灰色)になるまでの時間を測定した(n=3の平均)。
本発明品:5…41分
本発明品:6…41分
大手市販品:A…65〜71分
大手市販品:B…72〜85分
▲2▼液の移動状況(勾配域)
ステンレスプレート(SUS316)面にサンプルをそれぞれ3g静置し、当該プレートを0°から90°(垂直)方向に立てていく。その角度を40°と80°にした時の各サンプルの移動距離を測定した(n=3の平均)。
[40°]
本発明品:5…動かず
本発明品:6…動かず
大手市販品:A…22cm/20分
大手市販品:B…16cm/20分
[80°]
本発明品:5…18cm/3分
本発明品:6…15cm/2.5分
大手市販品:A…35cm/3分
大手市販品:B…32cm/2.5分
▲3▼ペースト状物の各種プレートへの固着性(摺動ベクトル)
試作品と市販品を3g塗布し、60秒後の移動距離(摺動ベクトル)を測定した(勾配は80°,n=3ほ平均)。
【表4】

▲4▼スライドグラスに市販の赤マジック及びラー油の汚染物(1000mg/cm)を作製し(8枚×2回×2種=32枚)、1日放置してからサンプルを塗布(500mg/cm)して12時間放置し、流水(30L/分)ですすいで汚染物を除去した部分を測り、除去率を算出した(赤マジックは除去面積、ラー油は試験前後の重量差をもって算出,n=2の平均)。
【表5】

【0024】
本発明品は市販品を含め、従来品よりも有効塩素の安定性,ペースト化の状況,固着性,臭気は優位性は勿論、カビ取り効果や油分等の汚れに対する効果も遜色ないことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩(NaOCl)と苛性ソーダ、又は/及び苛性カリを含む酸化性アルカリ剤に、次の(1)〜(3)の組み合わせからなる次亜塩素酸塩のペースト状組成物。
(1)アニオン界面活性剤(アルキルスルホン酸ソーダ)
R−SONa(R=C12〜15のアルキル基、0.5〜5.0w%)
(2)両性イオン界面活性剤(アルキル酢酸ベタイン)

(3)セピオライト系鉱物(2〜15w%)

【公開番号】特開2012−219267(P2012−219267A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96535(P2011−96535)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(509036300)株式会社東企 (13)
【Fターム(参考)】