説明

止水ゴム

【課題】常時水圧負荷による膨出を確実に防止するとともに、地震時の管体の変位にも対応でき、製造コストを低減できる管体継手用の止水ゴム1を提供する。
【解決手段】止水ゴム1は、2つの相対する地下の管体2,3の目地部4の内側に配置される。止水ゴム1は、波型をし、繊維の基布23を内部に有するゴムからなる。止水ゴム1の両端6,7は、アンカーボルト10,11で管体2,3に固定される。管体2,3のアンカーボルト10,11に接合され、止水ゴム1の中央部に向かって延在し、止水ゴム1に生じる圧力による膨張を抑えるための押さえ板16,17が配置される。両押さえ板16,17の先端は、目地部4の幅L以上の間隔Δを開けて対峙する。止水ゴム1と押さえ板16,17との間に、間隔Δ以上の幅Wの薄鋼板18を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管体継手用の止水ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
止水ゴムは、トンネル等の地下構造物を構成するコンクリート製の管体同士の継手部を、管体内側から覆うために用いられる。
耐震対策として、止水ゴムは、止水性(地下水圧によるトンネル内側への漏水の防止)、および変位性(地震による管体の変位吸収)の機能を有している。
地震時の管体同士の変位を吸収するために、止水ゴムの形状は、U字形、波形等に余長をもたせた種々の形状がある。一方で、外水圧が止水ゴムに負荷されると、この止水ゴムの余長分はトンネル内側に膨らもうとする。
【0003】
特に、既設構造物に取り付ける「後付け用可とう継ぎ手止水ゴム」では、トンネル内空寸法を確保するために、または既存障害物に当たらないようにするために、等の理由により、常時かかる水圧により止水ゴムが内側に膨出することを嫌う場合がある。
常時の水圧負荷に対する止水ゴムの膨らみ防止技術として、図3または図4に示す技術がある。
【0004】
図3に示す止水ゴムでは、断面波形の止水ゴム101の内側を、筒状のカバーゴム102で覆っている(カバーゴム方式という。例えば、非特許文献1参照。)。地震時の管体の変位には、止水ゴムの変形とともに、カバーゴムの伸び変形により追随する。
また、図4に示す止水ゴムは、止水ゴム111を覆うカバーゴム112が、ナイロン基布に折り返し部112aを設けて構成され、この折り返し部112aが接着されるとともに、トッピングゴム113により止められている(折り返し方式という)。常時水圧負荷に対しては止水ゴムが膨出しないようになっているが、地震時等の大きな外力が作用したときには、折り返し部112aの接着がはずれ、止水ゴムの変形が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3022362号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本ビィクトリック株式会社 カタログ「角型補修継手 耐震目地伸縮可とう継手 角型可とう継手」(耐震目地伸縮可とう継手VKRH型の項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図3に示す止水ゴムでは、常時水圧負荷により止水ゴム101が膨らもうとするため、カバーゴム102にも水圧による伸びが発生し、カバーゴム102の取り付け高さが、取付け当初の初期高さよりも高くなってしまう。
また、図4に示す止水ゴムでは、カバーゴム112の製造方法として、ナイロン基布を折り返し加硫を行い、再度、折り返し部が開かないようにトッピングゴム113をバッチ当てゴム部として接着/加硫接着とすることが必要となる。その結果、製造工数が多くかかり、製造方法としても複雑である。従って、製造コストが高くなる。
【0008】
そこで、図5に示す止水ゴムの膨らみ防止構造が考えられる。すなわち、鋼製の一対の押さえ板121を止水ゴム122の基部から中央側へ張り出させる。各押さえ板121の基部は、対応する管体のアンカーボルトに固定し、一対の押さえ板の先端同士を間隔Δの隙間を開けて対峙させる。押さえ板121により、止水ゴムの膨らみを防止できる。
ところが、図5において、止水ゴムのはみ出しを防止するために、一対の押さえ板121間の間隔Δを管体の目地部125の幅よりも狭くすると、地震時に一対の押さえ板121同士が互いに干渉してしまう。一方、図6に示すように、一対の押さえ板121の間隔Δを管体の目地部125の幅よりも広くすると、常時水圧負荷により膨張した止水ゴム122(破線122で図示)が、一対の押さえ板121間の隙間からはみ出してしまう。
【0009】
この発明は、このような従来技術に鑑みてなされたもので、その目的は、常時水圧負荷による膨出を確実に防止するとともに、地震時の管体の変位にも対応でき、製造コストを低減できる止水ゴムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、2つの相対する地下の管体の目地部の内側に配置する止水ゴムであって、当該止水ゴムは、波型をし、繊維の基布を内部に有するゴムからなり、止水ゴムの両端は、アンカーボルトで管体に固定され、一方の管体のアンカーボルトに接合され、止水ゴムの中央部に向かって延在し、止水ゴムに生じる圧力による膨張を抑えるための押さえ板と、他方の管体のアンカーボルトに接合され、止水ゴムの中央部に向かって延在し、止水ゴムに生じる圧力による膨張を抑えるための押さえ板とが設けられ、両押さえ板の先端は、目地部の幅以上の間隔Δを開けて対峙し、さらに、止水ゴムと押さえ板との間に、前記間隔Δ以上の幅の薄鋼板を設置したことを特徴とする、管体継手用の止水ゴムである。
【0011】
請求項2記載の発明は、前記押さえ板の先端側には、前記薄鋼板が重なり合う部分が存在し、一方の押さえ板の基部から先端方向への寸法であって、前記薄鋼板が重なり合う部分までの長さをΔ1とし、他方の押さえ板の基部から先端方向への寸法であって、前記薄鋼板が重なり合う部分までの長さをΔ2としたときに、前記薄鋼板の幅Wは、
Δ<W<Δ1+Δ2
の関係を満たしていることを特徴とする請求項1記載の管体継手用の止水ゴムである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、両押さえ板と薄鋼板とにより、止水ゴムを覆うことができるので、常時水圧負荷による止水ゴムの膨出を確実に防ぐことができる。両押さえ板の先端の間隔Δが目地部の幅以上に設定されているので、地震等により目地部が狭くなる縮み変形時に、両押さえ板の先端同士の干渉が防止される。従って、地震時に止水ゴムの変形が妨げられることはない。また、止水ゴムの膨出の防止に、通例安価に製造できる一対の押さえ板および薄鋼板を利用するので、製造コストを安価にできる。
【0013】
請求項2の発明によれば、地震等により目地部が狭くなる縮み変形時に、薄鋼板が両押さえ板の基部間で突っ張ることがないので、押さえ板に対して変位可能であり、ひいては、止水ゴムの変形が妨げられることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の一実施形態の管体継手用の止水ゴムの一部断面図である。
【図2】図2は、この発明の実施例の止水ゴムの一部断面図である。
【図3】図3は、従来の止水ゴムの一部断面図である。
【図4】図4は、従来の他の止水ゴムの一部断面図である。
【図5】図5は、関連技術としての止水ゴムの一部断面図であり、押さえ板同士の間隔が狭い状態を示す。
【図6】図6は、関連技術としての止水ゴムの一部断面図であり、押さえ板同士の間隔が広い状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態の管体継手用の止水ゴム1の一部断面図である。
止水ゴム1は、2つの相対する地下の管体2,3(一部のみ図示)の目地部4の内側に配置されている。図1において、上方が管体2,3で囲まれた内側空間を示している。これら一対の管体2,3は、互いに隣接し、その内部が互いに連通した状態で地下に埋設されて、トンネル等の地下構造物の少なくとも一部を構成している。管体2,3のつなぎ目である目地部4は、例えば、管体2,3の端面に沿って配置された環状の弾性継手により構成されている。目地部4の内側を覆うように、止水ゴム1の両端部6,7が、各管体2,3の内面8,9にアンカーボルト10,11およびナット12,13により固定されている。
【0016】
アンカーボルト10,11の一端は、対応する管体2,3に埋設されることにより固定されている。アンカーボルト10,11の他端には雄ねじが形成されており、この雄ねじにナット12,13がねじ嵌合されている。
また、止水ゴム1の中間部14を内側から覆うように、止水ゴム1に生じる圧力による膨張を抑えるための一対の押さえ板16,17と薄鋼板18とが設けられている。各押さえ板16,17の後述する基部25は、止水ゴム1の対応する端部6,7と共締め状態で、対応する管体2,3に接合されている。薄鋼板18は、一方の押さえ板16の後述する延設部26と止水ゴム1との間に変位可能な状態で挟み込まれており、これとともに、他方の押さえ板17の延設部26と止水ゴム1との間に変位可能な状態で挟み込まれている。
【0017】
止水ゴム1は、繊維の基布23を内部に有するゴムからなる。例えば、止水ゴム1は、基布23とゴムとの総厚みが5〜20mmで形成されている。ゴムとしては、例えば、天然ゴム系、クロロプレン系、EPDM系のゴムを利用できる。繊維の基布23としては、例えば、ナイロン基布を利用できる。
止水ゴム1は、波形断面を有する板状をなし、紙面垂直方向に延びている。止水ゴム1は、管体2,3の軸線に沿う軸方向Xについての一対の端部6,7および中間部14を有している。中間部14は、断面波型をなしており、軸方向Xについて伸縮可能である。端部6,7は、平板状をなし、アンカーボルト10,11を挿通するための挿通孔を有しており、固定部として機能する。
【0018】
一対の押さえ板16,17は、同様に構成されている。それぞれの押さえ板16,17の同じ機能を有する構成については同じ名称および同じ符号を付す。
押さえ板16,17は、断面L字形形状の基部25と、軸方向Xについて基部25からの止水ゴム1の中央部1cに向かって所定長で延在する平板状の延設部26とを有している。基部25と延設部26とは、鋼製であり、溶接構造により一体に形成されている。
【0019】
一対の押さえ板16,17の基部25は、止水ゴム1の中間部14を挟んだ両側に配置されている。両押さえ板16,17の延設部26は、基部25から互いに逆向きに延びており、延設部26の先端同士は、目地部4の幅L以上の間隔Δ(Δ≧L)を開けて互いに対峙している。また、延設部26は、止水ゴム1の中間部14の波形の高さに見合う距離で、管体2,3の内面8,9から離れて、基部25により支持されている。
【0020】
薄鋼板18は、平板形状をなしており、例えば、ステンレス鋼等の鋼板により形成されている。薄鋼板18は、いずれの押さえ板16,17にも止水ゴム1にも固定されていないので、押さえ板16,17の延設部26の延びる方向に自由に変位できる。
また、薄鋼板18の幅方向(前述の軸方向Xに相当する)について、薄鋼板18の一部としての一方の端部と、一方の押さえ板16の延設部26の先端側の一部とが、互いに重なりあっている。これとともに、薄鋼板18の一部としての他方の端部と、他方の押さえ板17の延設部26の先端側の一部とが、互いに重なりあっている。
【0021】
止水ゴム1の中央部14は、常時水圧負荷により変形する(図1に変形した中央部14の輪郭の一部を破線で図示)が、押さえ板16,17および薄鋼板18により区画される内部に収容されている。
両押さえ板16,17の延設部26の先端の間隔Δが目地部4の幅L以上に設定されているので、地震等により目地部4が狭くなる縮み変形時に、両押さえ板16,17の延設部26の先端同士の干渉が防止される。また、薄鋼板18は、押さえ板16,17に対して変位しつつ、隙間27を塞ぐ。
【0022】
よって、止水ゴム1の膨出の防止に、一対の押さえ板16,17および薄鋼板18を利用するので、製造コストを安価にできる。
なお、薄鋼板18の幅Wは、前述した押さえ板16,17の延設部26の先端間の間隔Δ以上の値に設定されていればよい。これにより、押さえ板16,17間の隙間27を塞ぐことができる。また、隙間27を確実に且つ容易に塞ぐ観点からは、薄鋼板18の幅Wは、間隔Δよりも所定長さで長い寸法に設定されているのが好ましい。
【0023】
さらに、この実施形態では、一方の押さえ板16の延設部26において薄鋼板18と重ならない部分の長さをΔ1とし、他方の押さえ板17の延設部26において薄鋼板18と重ならない部分の長さをΔ2としたときに、薄鋼板18の幅Wは、
Δ<W<Δ1+Δ2
の関係を満たすように、設定されている。
【0024】
これにより、地震等により目地部4が狭くなる縮み変形時に、薄鋼板18が両押さえ板16,17の基部25間で突っ張ることがないので、薄鋼板18は押さえ板16,17に対して変位可能であり、ひいては、止水ゴム1の変形が妨げられることが防止される。
【実施例】
【0025】
図2は、この発明の実施例の止水ゴム51の一部断面図である。
実施例の止水ゴム51は、図1に示す止水ゴム1とは、止水ゴム1,51の中間部14の波形の頭部の数について相異なるが、他の点では同じであり、対応する構成については同じ符号を付す。実施例の止水ゴム51は、図2に示す寸法で形成され、以下の試験が実施された。
【0026】
また、比較例の止水ゴム(図示せず)が製造され、同様の試験が実施された。比較例の止水ゴムは、薄鋼板で覆われていない点で実施例の止水ゴム51と異なっているが、他の点については実施例の止水ゴム51と同じである。
[試験と結果]
実施例の止水ゴム51を、管体2,3に相当する試験治具に固定し、管体2,3と止水ゴム51との間に水圧を負荷する。
【0027】
具体的には、止水ゴム51は、紙面垂直方向について1030mmの長さで形成され、紙面垂直方向の両端部も治具で密封された状態で、試験が行われた。また、アンカーボルト10,11の締付トルクは、80N・mとされた。
水圧は、予め定める圧力(0.1MPa)に高められて、この状態で所定時間(1時間)保持され、止水ゴム51の膨出が発生していないかが目視で確認される。ここで、前述した予め定める圧力(0.1MPa)は、通常想定される値(設計値)である。
【0028】
次に、水圧は0.15MPaに高められ、この状態で所定時間(1カ月)保持され、膨出の有無が同様に確認される。
実施例の止水ゴム51には、通常想定される水圧よりも厳しい0.15MPaで1カ月の経過後においても、膨出は発生していないことが確認された。また、漏水も発生していないことが確認された。
【0029】
一方、比較例の止水ゴムに対して同様の試験を行おうとしたが、前述の予め定める圧力に達するまでの低い圧力(0.01〜0.02MPa)において膨出が発生した。
なお、この発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1,51 止水ゴム
1c 中央部
2,3 管体
4 目地部
6,7 端部
10,11 アンカーボルト
16,17 押さえ板
18 薄鋼板
23 基布
25 基部
L 目地部の幅
W 薄鋼板の幅
Δ 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの相対する地下の管体の目地部の内側に配置する止水ゴムであって、
当該止水ゴムは、波型をし、繊維の基布を内部に有するゴムからなり、
止水ゴムの両端は、アンカーボルトで管体に固定され、
一方の管体のアンカーボルトに接合され、止水ゴムの中央部に向かって延在し、止水ゴムに生じる圧力による膨張を抑えるための押さえ板と、
他方の管体のアンカーボルトに接合され、止水ゴムの中央部に向かって延在し、止水ゴムに生じる圧力による膨張を抑えるための押さえ板とが設けられ、
両押さえ板の先端は、目地部の幅以上の間隔Δを開けて対峙し、
さらに、止水ゴムと押さえ板との間に、前記間隔Δ以上の幅の薄鋼板を設置したことを特徴とする、管体継手用の止水ゴム
【請求項2】
前記押さえ板の先端側には、前記薄鋼板が重なり合う部分が存在し、
一方の押さえ板の基部から先端方向への寸法であって、前記薄鋼板が重なり合う部分までの長さをΔ1とし、他方の押さえ板の基部から先端方向への寸法であって、前記薄鋼板が重なり合う部分までの長さをΔ2としたときに、
前記薄鋼板の幅Wは、
Δ<W<Δ1+Δ2
の関係を満たしていることを特徴とする、請求項1記載の管体継手用の止水ゴム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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