説明

止水フィルタ及び止水フィルタを備えたフィルタチップ並びに止水フィルタの製造方法

【課題】液体の吸引,吐出に時間をかけることなく、止水性能を向上できる止水フィルタを提供する。
【解決手段】止水フィルタ2を、所定のポアサイズを有する多孔質マトリックス3と、該多孔質マトリックス3のポア3a内に配置された撥水性粒子4とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ関連産業,ライフサイエンス産業,医療産業等の分野で採用される止水フィルタ及び止水フィルタを備えたフィルタチップ並びに止水フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、血液の検査や試液の実験等において、容器に保存した液体を別の容器に移す場合には、定量分注が可能なピペットによりフィルタチップを介して液体を吸引保持し、該フィルタチップに保持した液体を別の容器に吐出するようにしている。
【0003】
この場合、ピペットの吸引操作を誤って過吸引したり、急激に吸引したりすると、液体がフィルタチップを通過してピペット側に流出し、該ピペットの吸引ノズルに付着する場合がある。その結果、吸引ノズルが汚染され、気づかずに再度使用するとコンタミネーシッョンを起こしてしまうという問題がある。
【0004】
このような過吸引による液体のピペット側への流出を防止するために、例えば、特許文献1には、吸水性ポリマーからなる止水フィルタにより、流出する液体を吸収するようにしたものが提案されている。また、例えば、特許文献2には、ポリエチレンからなる多孔質焼結体の止水フィルタにより、液体が流出するのを抑制するようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−513211
【特許文献2】特開平7−148441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記従来の吸水性ポリマーによる止水フィルタでは、液体を吸収すると粒子が膨張して通路を閉塞してしまうことから、吸引した液体の吐出に時間がかかったり、吐出が困難になるという懸念がある。
【0007】
また前記従来のポリエチレンによる止水フィルタでは、空気の流通を確保しつつ、止水可能なポアサイズに設定するのが難しいという問題がある。例えば、ポアサイズを15μm以下に設定すると、止水性能は高くなるものの、10μmを境にピペット操作に吸引,吐出抵抗による悪影響が出はじめ、液体の吸引,吐出に時間がかかる。
【0008】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、液体の吸引,吐出に時間をかけることなく、液体の流出を防止できる止水フィルタ及び止水フィルタを備えたフィルタチップ並びに止水フィルタの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、所定のポアサイズを有する多孔質マトリックスと、該多孔質マトリックスのポア内に配置された撥水性粒子とを有することを特徴とする止水フィルタである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の止水フィルタにおいて、前記撥水性粒子は、四フッ化エチレン樹脂であることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の止水フィルタにおいて、前記撥水性粒子は、該粒子径が前記多孔質マトリックスの平均ポア径と同等以上であることを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1又は2に記載の止水フィルタにおいて、前記撥水性粒子は、該粒子径が前記多孔質マトリックスの平均ポア径より小さく、かつ該多孔質マトリックスに接着していることを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1に記載の止水フィルタにおいて、前記多孔質マトリックスは、ポリエチレンからなることを特徴としている。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1ないし5の何れかに記載の止水フィルタを備えたことを特徴とするフィルタチップである。
【0015】
請求項7の発明は、所定の溶融温度に加熱することにより多孔質マトリックスを形成するプラスチック粒子と、該プラスチック粒子の溶融温度より高い溶融温度を有する撥水性粒子とを所定の配合比で混合し、該混合された混合物を前記プラスチック粒子の溶融温度にて焼結することを特徴とする止水フィルタの製造方法である。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7に記載の止水フィルタの製造方法において、前記プラスチック粒子は、溶融温度が80〜100度程度のポリエチレンであり、前記撥水性粒子は、溶融温度が200〜260度程度の四フッ化エチレン樹脂であることを特徴としている。
【0017】
請求項9の発明は、請求項7に記載の止水フィルタの製造方法において、前記配合比は、プラスチック粒子が7〜9に対して前記撥水性粒子が3〜1の割合であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る止水フィルタによれば、所定のポアサイズを有する多孔質マトリックスのポア内に撥水性粒子を配置したので、撥水性粒子がそのままの状態でポア内に存在することから、ポアを流れる空気の流通は確保でき、かつ液体の流出は撥水性粒子が弾くことにより抑制されることとなる。その結果、液体の吸引,吐出を短時間で、かつ容易に行うことができるとともに、止水性能を向上でき、コンタミネーションの発生を防止できる。
【0019】
請求項2の発明では、撥水性粒子に四フッ化エチレン樹脂を採用したので、撥水機能をより一層高めることができる。
【0020】
請求項3の発明では、撥水性粒子の粒子径を、多孔質マトリックスの平均ポア径の同等以上としたので、吸引,吐出時に撥水性粒子がポアからこぼれ落ちることはなく、空気の流通を確保しつつ、止水性能を高めることができる。
【0021】
請求項4の発明では、撥水性粒子の粒子径を、多孔質マトリックスの平均ポア径より小さくし、かつ該多孔質マトリックスに接着させたので、吸引,吐出時に撥水性粒子がポアからこぼれ落ちることはなく、止水性能を確保しつつ、空気の流通を高めることができ、吸引,吐出時間をより一層短縮することができる。
【0022】
請求項5の発明では、ポリエチレンにより多孔質マトリックスを形成したので、撥水性粒子とポリエチレン自体の撥水特性との相乗効果により、止水性能をより一層高めることが可能である。
【0023】
請求項6の発明では、前述の止水性能を有する止水フィルタをフィルタチップに採用したので、液体の吸引,吐出を容易に行うことができるとともに、過吸引による液体の流出を回避することができ、コンタミネーシッョンの発生を確実に防止できる。
【0024】
請求項7の発明によれば、所定の溶融温度に加熱することにより多孔質マトリックスを形成するプラスチック粒子と、該プラスチック粒子の溶融温度より高い溶融温度を有する撥水性粒子とを混合し、この混合物をプラスチック粒子の溶融温度にて焼結したので、多孔質マトリックス内に撥水性粒子がそのままの状態で存在する止水フィルタを製造することができる。
【0025】
請求項8の発明では、プラスチック粒子を溶融温度が80〜100度程度のポリエチレンとし、撥水性粒子を溶融温度が200〜260度程度の四フッ化エチレン樹脂としたので、前述の止水性能に優れた止水フィルタを製造できる。
【0026】
請求項9の発明では、プラスチック粒子と撥水性粒子との配合比を、プラスチック粒子7〜9に対して撥水性粒子3〜1の割合としたので、少ない量の撥水性粒子で止水性能を発揮させることができ、材料コストの上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1による止水フィルタを備えたフィルタチップの断面図である。
【図2】前記止水フィルタの模式図である。
【図3】前記実施例1の変形例による止水フィルタの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0028】
図1及び図2は、本発明の実施例1による止水フィルタ及び該止水フィルタを備えたフィルタチップを説明するための図である。
【0029】
本実施例のフィルタチップ1は、血液検査や試液実験等において、定量分注が可能なピペット(不図示)により、容器Aから吸引保持した液体Bを別の容器に移す際に使用される。
【0030】
前記フィルタチップ1は、軸方向に貫通するよう形成されたテーパ状の吸引通路1aを有する樹脂製のチップ本体1bにより構成されている。
【0031】
このチップ本体1bの大径部1c内にピペットの吸引ノズルを挿入し、細径部1dを液体Bに浸漬することにより、該液体Bを吸引通路1a内に吸引保持する。
【0032】
前記大径部1cの外周面には、軸方向に延びる複数のリブ1eが周方向に所定角度間隔をあけて形成されている。この各リブ1eにより、ピペットを挿入したときの大径部1cの強度,剛性を高めている。
【0033】
前記フィルタチップ1の吸引通路1aの大径部1c側には、止水フィルタ2が挿入配置されている。この止水フィルタ2は、略円柱状のもので、所定の軸方向厚さを有し、かつ吸引通路1aの内周面に密着されている。
【0034】
前記止水フィルタ2は、所定のポアサイズを有する多孔質マトリックス3と、該多孔質マトリックス3のポア3a内に配置された撥水性粒子4とを有する。このポア3aは平均ポア径が20〜50μmであり、前記撥水性粒子4は、平均粒子径が前記平均ポア径と同等以上のものとなっている。ここで、多孔質マトリックス3のポア3aの平均ポア径を設定するには、プラスチック粒子の粒径を適宜選定することにより可能である。例えば、プラスチック粒子の粒径を大きくするとポア径は大きくなる。
【0035】
前記多孔質マトリックス3は、溶融温度が80〜100度程度のポリエチレンにより形成されたものである。
【0036】
前記撥水性粒子4は、溶融温度が200〜260度の四フッ化エチレン樹脂からなるものである。この撥水性粒子4は、前記ポア3a内に粒子のままの状態で存在しており、詳細には多孔質マトリックス3のポア3a内面に付着しているか、又はフリーとなっている。
【0037】
次に、止水フィルタ2の一製造方法について説明する。
【0038】
〔第1行程〕
ポリエチレンからなるプラスチック粒子と、四フッ化エチレン樹脂からなる撥水性粒子とを所定の配合比で混合する。この配合比は、プラスチック粒子が7〜9に対して撥水性粒子が3〜1の割合とする。好ましくは、プラスチック粒子8に対して撥水性粒子2とする。
【0039】
〔第2行程〕
プラスチック粒子と撥水性粒子との混合物を金型に充填して棒状となるよう圧縮成形する。該金型を加熱炉によりポリエチレンの溶融温度より少し高い温度で加熱する。これによりプラスチック粒子を発泡させて焼結する。この場合、撥水性粒子は、プラスチッチ粒子より溶融温度が高いことから粒子のまま残る。
【0040】
〔第3行程〕
前記金型を加熱炉から取り出し、常温に冷却した後、金型からフィルタ体を取り出し、該フィルタ体を所定寸法に切断する。このようにして止水フィルタ2が製造される。これにより製造された止水フィルタ2は、多孔質マトリックス3のポア3a内に、撥水粒子4が溶けることなくそのままの状態で存在する構造を有する。
【0041】
本実施例のフィルタチップ1によれば、止水フィルタ2を、所定のポアサイズを有する多孔質マトリックス3のポア3a内に撥水性粒子4を配置した構造のものとしたので、撥水性粒子4がそのままの状態でポア3a内に存在することから、ポア3aを流れる空気aの流通は確保でき、かつ液体は撥水性粒子4が弾くことにより流出が防止されることとなる。その結果、液体の吸引,吐出を短時間で、かつ容易に行うことができるとともに、止水性能を向上できる。これにより、ピペットの誤操作による過吸引が生じても、液体の流出を回避することができ、コンタミネーシッョンの発生を確実に防止できる。
【0042】
本実施例では、前記撥水性粒子4として、四フッ化エチレン樹脂を採用したので、容易に入手できる市販のテフロン(登録商標)を使用することで、撥水機能をより一層高めることができる。
【0043】
本実施例では、前記撥水性粒子4の粒子径を、多孔質マトリックス3の平均ポア径の同等以上としたので、吸引,吐出時に撥水性粒子4がポア3aからこぼれ落ちることはなく、空気の流通を確保しつつ、止水性能を高めることができる。これによりコンタミネーションをより一層防止できる。
【0044】
本実施例では、多孔質マトリックス3をポリエチレンにより形成したので、撥水性粒子4とポリエチレン自体の撥水特性との相乗効果により、止水性能をより一層高めることができる。
【0045】
本実施例の止水フィルタ2の製造方法によれば、所定の溶融温度に加熱することにより多孔質マトリックス3を形成するプラスチック粒子と、該プラスチック粒子の溶融温度より高い溶融温度を有する撥水性粒子4とを混合し、この混合物をプラスチック粒子の溶融温度にて金型により焼結したので、多孔質マトリックス3内に撥水性粒子4がそのままの状態で存在する止水フィルタ2を製造することができる。
【0046】
本実施例では、プラスチック粒子を溶融温度が80〜100度程度のポリエチレンとし、撥水性粒子を溶融温度が200〜260度程度の四フッ化エチレン樹脂としたので、止水性能に優れた止水フィルタを製造できる。
【0047】
また本実施例では、プラスチック粒子と撥水性粒子との配合比を、プラスチック粒子7〜9に対して撥水性粒子3〜1の割合としたので、少ない量の撥水性粒子で止水性能を発揮させることができ、撥水性粒子にテフロン(登録商標)を使用する場合の材料コストの上昇を抑制できる。ひいては安価なフィルタチップ1を製造販売できる。
【0048】
図3は、前記実施例1の変形例による止水フィルタを説明するための模式図である。図中、図2と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0049】
この変形例の止水フィルタ2は、撥水性粒子4の粒子径が多孔質マトリックス3の平均ポア径より小さく、かつ撥水性粒子4が多孔質マトリックス3に接着した構造を有する。
【0050】
前記撥水性粒子4を多孔質マトリックス3に接着させるには、プラスチック粒子と撥水性粒子とを混合する際に、例えば界面相溶化剤を添加する。これにより加熱成形によってプラスチック粒子が発泡しているときに、撥水性粒子が界面相溶化剤を介してポアの内面に接着することとなる。
【0051】
この変形例では、撥水性粒子4の粒子径を、多孔質マトリックス3の平均ポア径より小さくし、かつ該多孔質マトリックス3に接着させたので、吸引,吐出時に撥水性粒子がポアからこぼれ落ちることはなく、止水性能を確保しつつ、空気の流通を高めることができ、吸引,吐出時間を一層短縮することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 フィルタチップ
2 止水フィルタ
3 多孔質マトリックス
3a ポア
4 撥水性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のポアサイズを有する多孔質マトリックスと、該多孔質マトリックスのポア内に配置された撥水性粒子とを有することを特徴とする止水フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の止水フィルタにおいて、
前記撥水性粒子は、四フッ化エチレン樹脂であることを特徴とする止水フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の止水フィルタにおいて、
前記撥水性粒子は、該粒子径が前記多孔質マトリックスの平均ポア径と同等以上であることを特徴とする止水フィルタ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の止水フィルタにおいて、
前記撥水性粒子は、該粒子径が前記多孔質マトリックスの平均ポア径より小さく、かつ該多孔質マトリックスに接着していることを特徴とする止水フィルタ。
【請求項5】
請求項1に記載の止水フィルタにおいて、
前記多孔質マトリックスは、ポリエチレンからなることを特徴とする止水フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れかに記載の止水フィルタを備えたことを特徴とするフィルタチップ。
【請求項7】
所定の溶融温度に加熱することにより多孔質マトリックスを形成するプラスチック粒子と、該プラスチック粒子の溶融温度より高い溶融温度を有する撥水性粒子とを所定の配合比で混合し、該混合された混合物を前記プラスチック粒子の溶融温度にて焼結することを特徴とする止水フィルタの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の止水フィルタの製造方法において、
前記プラスチック粒子は、溶融温度が80〜100度程度のポリエチレンであり、前記撥水性粒子は、溶融温度が200〜260度程度の四フッ化エチレン樹脂であることを特徴とする止水フィルタの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の止水フィルタの製造方法において、
前記配合比は、プラスチック粒子が7〜9に対して前記撥水性粒子が3〜1の割合であることを特徴とする止水フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−5387(P2011−5387A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149476(P2009−149476)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(390026413)深江化成株式会社 (12)
【Fターム(参考)】