止水作業空間の構築方法および止水作業函
【課題】水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函を提供する。
【解決手段】前面および上面を開口した函体2の前面の前端部に、不透水性の軟質独立気泡体からなる止水材3を延設し、函体2を所定位置に設置する際に、函体2に設けた函体2の内部と外部とを連通可能な連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしながら、止水材3を壁状体12に当接させ、壁状体12に対して函体2を上部固定手段7および下部固定手段8で固定し、次いで連通口6を閉じて函体2内部の水Wを外部に排出する前に、または、排出した後に、止水材3に沿ってその背面に延設したゴムチューブ4を膨張させることにより止水材3を壁状体12に押圧する。
【解決手段】前面および上面を開口した函体2の前面の前端部に、不透水性の軟質独立気泡体からなる止水材3を延設し、函体2を所定位置に設置する際に、函体2に設けた函体2の内部と外部とを連通可能な連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしながら、止水材3を壁状体12に当接させ、壁状体12に対して函体2を上部固定手段7および下部固定手段8で固定し、次いで連通口6を閉じて函体2内部の水Wを外部に排出する前に、または、排出した後に、止水材3に沿ってその背面に延設したゴムチューブ4を膨張させることにより止水材3を壁状体12に押圧する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水作業空間の構築方法および止水作業函に関し、さらに詳しくは、水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海や河川等の護岸を構成している矢板等の水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物については、腐食劣化程度の調査や、腐食劣化が進行していれば補修、補強工事を行なう必要がある。従来、このような調査や補修工事を行なう際には、例えば、水際の壁状体の場合では、前面および上面を開口した函体を、函体の前面の前端部に設けたゴム等の弾性の止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を形成するようにしていた。
【0003】
この際に、壁状体に対して止水材を圧着させ、壁状体と函体との間のすき間をなくして形成した作業空間に漏水を生じさせないことが重要である。そこで、止水材として管状弾性体を採用し、この管状弾性体の内部に圧縮空気を供給することにより、様々な表面形状の壁状体に対しても、すき間を生じさせることなく、函体を設置できるようにした止水作業函が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この提案の止水作業函では、圧縮空気を充填した管状弾性体を、その弾性変形によって壁状体の表面形状に密着させるので、様々な形状に追従させて変形させることが難しい。それ故、複雑な表面形状の壁状体に密着させることが困難であり、すき間が生じるという問題があった。
【0005】
また、管状弾性体を壁状体に密着させた後は、函体内部が水を閉じ込めて閉じた状態になり、止水作業函を壁状体に固定するまでの間に、潮の干満等により水面が上昇すると止水作業函には追加的な浮力が生じ、また、水面が下降すると浮力が減じて函体内部に閉じ込めた水によって下方に追加的な力が生じる。そのため、止水作業函を安定して固定することが難しいという問題があった。上記した問題は、水際の壁状体だけでなく、水中に立設する杭状体や構造物に止水作業函を設置する際にも当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−93330公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の止水作業空間の構築方法は、前面および上面を開口した函体を、この函体の前面の前端部に延設した止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この函体を所定位置に設置する際に、函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を壁状体に当接させて、壁状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じて函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を壁状体に押圧することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の止水作業空間の構築方法は、上面を開口した有底の函体の底面の貫通孔に、水中に立設する杭状体を貫通させて、この杭状体の外周を囲むようにして、この函体を所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記函体の底面を分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記函体を形成して、前記貫通孔に貫通させた杭状体に前記止水材を当接させた状態で杭状体の外周を囲むように函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を杭状体に当接させて、杭状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じた状態にして函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を杭状体に押圧することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の別の止水作業空間の構築方法は、上面および下面を開口した筒状の函体に、水中に立設する構造物を貫通させた状態にして、この函体の下端面部に設けた止水材を、構造物の対向する面に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記筒状の函体を形成して、この函体に構造物を貫通させて前記止水材を対向する面に当接させた状態で、この函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を対向する面に当接させ、構造物に対して函体を固定手段で固定して、次いで前記連通口を閉じてこの函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を対向する面に押圧することを特徴とする。
【0011】
本発明の止水作業函は、前面および上面を開口した函体と、この函体の前面の前端部に延設された止水材とを備えた止水作業函であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、前記函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記止水材が当接する水際の壁状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の止水作業函は、底面に貫通孔を有し上面を開口した有底の函体と、この貫通孔に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記函体をその底面を分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記貫通孔を貫通して前記止水材が当接する水中に立設する杭状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の別の止水作業函は、上面および下面を開口した筒状の函体と、この函体の下端面部に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記函体を貫通して水中に立設する構造物に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、函体に設けた止水材を、水際の壁状体などの対象物に当接させて所定位置に設置する際に、函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、止水材を対象物に当接させて、その対象物に対して函体を固定手段で固定することで、函体内部と外部とが同じ水面位置になるので、函体の外部の水面位置の変動に起因して、函体に不要な力が生じることがない。そのため、止水作業函を安定して対象物に固定することができる。
【0015】
次いで、連通口を閉じて函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を対象物に押圧するが、止水材は不透水性の軟質独立気泡体であるので、通常のゴム材に比して変形し易く、対象物の表面に大きな凹凸や小さな凹凸があっても、その凹凸に沿って変形させることができる。そして、膨張するゴムチューブによって、凹凸に沿って変形した止水材を対象物に押付けるので、すき間なく密着させることが可能になる。そのため漏水を生じさせることなく、対象物に対して止水作業函を安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】連通口を開いて函体内部に水を流入させている本発明の止水作業函を例示する側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の止水作業函の正面図である。
【図4】図2の止水材およびゴムチューブの周辺を例示する一部拡大断面図である。
【図5】図4のゴムチューブが膨張していない状態を示す断面図である。
【図6】図2の止水材の変形例を示す断面図である。
【図7】図2の止水材の別の変形例を示す断面図である。
【図8】函体を壁状体の表面に向かって移動させている状態を例示する断面図(図1のA−A断面相当図)である。
【図9】止水材のさらに別の変形例を示す断面図である。
【図10】図3のゴムチューブの変形例を示す止水作業函の正面図である。
【図11】止水作業函の別の実施形態を例示する平面図である。
【図12】図11の函体分割体どうしを組み付ける工程を例示する説明図である。
【図13】図11のB−B断面図である。
【図14】止水作業函の別の実施形態を例示する斜視図である。
【図15】止水作業函の別の実施形態を例示する平面図である。
【図16】図15のC−C断面図である。
【図17】図15の函体分割体を所定位置に設置する工程を例示する説明図である。
【図18】止水作業函の変形例を示す側面図である。
【図19】止水作業函の別の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の止水作業空間の構築方法および止水作業函を、実施形態に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図4に例示するように、本発明の止水作業函1の第1実施形態は、前面および上面を開口した函体2と、函体2の前面の前端部に延設された止水材3とを備えている。この実施形態では、函体2の前面の前端部は鋼等で形成されたチャネルで構成され、函体2の左右側面、後面および底面は、鋼板等の剛性材により構成されている。函体2の材質、部材等はこれに限定されるものではない。
【0019】
函体2の底面には、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が設けられている。連通口6は底面に限らず、他の場所に設けることもできるが、できるだけ函体2の下方位置に設けることが好ましい。連通口6は1つに限らず、複数設けることもできる。
【0020】
止水材3は、函体2の前面の前端部を覆うように取付けられている。止水材3は、不透水性の軟質独立気泡体であり、厚さは例えば、10mm〜200mm程度である。止水材3として、例えば、樹脂材料、ゴム材料、エラストマー、或いはこれらの複合材料で形成されたスポンジ体が使用される。具体的には、止水材3としてEPDM製のスポンジ体が挙げられる。
【0021】
止水材3の硬度は、例えば、25%圧縮荷重が10kPa〜50kPa程度である。この値は、厚さ12.5mm×縦50mm×横50mmのサンプルをオートグラフにて圧縮速度50mm/minで圧縮した際の測定値である。
【0022】
止水材3の背面には、止水材3に沿ってゴムチューブ4が延設されている。ゴムチューブ4は流体配管5を介して、壁状体12の上に設置された流体給排手段10に接続されている。流体給排手段10によって、空気や水などの流体Lが注入されることにより、ゴムチューブ4は膨張し、注入された流体Lが排出されることにより収縮する。ゴムチューブ4の両側面および背面は、鋼板等の剛性材で囲うようにするとよい。これにより、ゴムチューブ4を膨張させた際に、止水材4側に向かって大きく突出させることができる。ゴムチューブ4の背面と剛性材(函体2の前面)との間に追加的に止水材3を介在させることもできる。
【0023】
流体給排手段10は制御装置11によって制御される。即ち、制御装置11によってゴムチューブ4の膨張圧力や膨張および収縮させるタイミングが制御される。
【0024】
函体2には、函体2上部を固定する上部固定手段7と、函体2下部を固定する下部固定手段8とが設けられている。この実施形態では、上部固定手段7として、L字状の剛性アングル部材が用いられ、函体2上部が壁状体12の上面に固定されている。また、下部固定手段8は、水中の壁状体12の表面に突設されたアンカーボルト8aとアンカーボルト8aと函体2の下部との間に張設されるワイヤ8bとで構成されている。上部固定手段7および下部固定手段8は、これに限定されず、他の構造(部材)を用いることもできる。
【0025】
また、函体2を壁状体12に対して安定に固定できれば、上部固定手段7、下部固定手段8の2種類のうち、1種類の固定手段のみにすることもできる。例えば、上部固定手段7のみを用いることもできる。
【0026】
図4に例示するように、ゴムチューブ4の内部に流体Lを注入して所定の膨張圧力で膨張させている状態では、ゴムチューブ4は止水材3の背面を押圧する。一方、ゴムチューブ4に負荷している膨張圧力を解除すると、図5に例示するように収縮した状態になって止水材3の押圧を止める。
【0027】
止水材3は、図6に例示するように2つの層3A、3Bで構成し、それぞれの層3A、3Bの硬さを異ならせて、層3Aを層3Bよりも柔らかくした仕様にすることもできる。
【0028】
図7に例示するように、止水材3の前面とゴムチューブ4との間に、止水材3およびゴムチューブ4よりも高剛性の板状の剛性体9を介在させた仕様にすることもできる。剛性体9としては、例えば繊維等で形成された補強層が用いられる。
【0029】
以下、この止水作業函1を用いた本発明の止水作業空間の構築方法の手順を説明する。
【0030】
まず、図8に例示するように、止水作業函1の前面を、鋼矢板等の水際の壁状体12の表面に対向させる。この際に、連通口6は開いたままにしておき、ゴムチューブ4は膨張させない状態にしておく。
【0031】
そして、函体2の前面を壁状体12の表面に向かって移動させ、止水材3を壁状体12の表面に当接させる。止水材3は、不透水性の軟質独立気泡体なので変形性能に優れ、壁状体12の表面形状にすき間なく沿うように変形することができる。このようにして図1に例示するように、連通口6を通じて、函体2内部に外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0032】
尚、壁状体12の表面との密着性をより高めるために、図9に例示するように止水材3の前面を、概略、壁状体12の表面形状に沿った形状(対応させた形状)に予め形成しておくこともできる。
【0033】
次いで、函体2上部を上部固定手段7により壁状体12に固定し、函体2下部を下部固定手段8により壁状体12に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ、膨張させた状態を維持する。
【0034】
次いで、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wをポンプ等により函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0035】
函体2を所定位置に設置する際に、連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、函体2内部と外部とが常に同じ水面位置になる。そのため、函体2(止水作業函1)を壁状体12の所定位置に固定するまでの間に、潮の干満等により水面が上昇しても函体2(止水作業函1)には追加的な浮力が生じることがない。また、水面が下降することにより浮力が減じても、函体2内部に存在する水Wによって下方に追加的な力が生じることもない。また、函体2の内部と外部の水面位置の違い(水圧差)による外力が函体2に作用することもない。
【0036】
このように、函体2(止水作業函1)の外部の水面位置の変動に起因して、函体2(止水作業函1)に上下方向に不要な追加的な力や水圧差に起因する外力が生じることがない。これにより、函体2(止水作業函1)を壁状体12に対して強固に安定して固定することができる。
【0037】
また、止水材3は不透水性の軟質独立気泡体であるので、壁状体12の表面に凹凸があっても、その凹凸に沿って容易に変形させることができる。そして、膨張するゴムチューブ4によって、凹凸に沿って変形した止水材3を壁状体12に押付けるので、すき間なく密着させることができる。そのため、漏水を生じさせることなく、壁状体12に対して止水作業函1を安定して固定することができる。
【0038】
尚、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0039】
図6に例示した仕様のように、止水材3の硬さを厚さ方向で異ならせ、前面側をゴムチューブ4側よりも柔らかくした仕様にすると、層3Aを壁状体12の表面にすき間なく密着させ易く、かつ、層3Bによって、膨張するゴムチューブ4の押圧力を広範囲に層3Aに伝え易くなる。図7に例示した仕様の場合も、剛性体9によって、膨張するゴムチューブ4の押圧力を広範囲に止水材3に伝え易くなる。
【0040】
図10に例示するように、ゴムチューブ4を延設方向で4A、4B、4Cの複数に分割した構成することもできる。それぞれのゴムチューブ4A、4B、4Cの膨張は、独立して制御装置11により制御される。
【0041】
この実施形態では、ゴムチューブ4を延設方向で上下に4A、4B、4Cの複数に分割している。それぞれのゴムチューブ4A、4B、4Cを膨張させる際の膨張圧力は、下方に位置するゴムチューブ4Cよりも上方に位置するゴムチューブ4A、4Bにおいて高くなるように設定されている。
【0042】
止水材3の下方に位置する部分は、上方に位置する部分よりも、水圧を受ける函体2によって強く壁状体12に押圧される。したがって、止水材3の上方に位置する部分を、下方に位置する部分よりも強く壁状体12に押圧することが、すき間なく壁状体12の表面に密着させるには効率的である。そこで、この実施形態では、ゴムチューブ4Cよりもゴムチューブ4A、4Bの膨張圧力を高くするのが好ましい。
【0043】
図11〜図13に例示する止水作業函1の第2実施形態は、桟橋などの水中に立設する杭状体13を補修工事する場合等に用いられるものである。この止水作業函1は、上面を開口した有底の函体2を備えている。この函体2は底面に貫通孔2aを有し、貫通孔2aの内周面には止水材3が取り付けられている。この止水材3は、第1実施形態と同仕様のものである。止水材3の背面(外周側)には止水材3に沿って環状のゴムチューブ4が延設されている。
【0044】
函体2は、貫通孔2aを分割して底面を分割するように形成した2つの函体分割体2A、2Bで構成されているが、3つ以上の函体分割体によって函体2を構成することもできる。函体分割体2A、2Bは鋼板等で構成されている。それぞれの函体分割体2A、2Bは、互いの合わせ面にゴム等からなる一般的なシール材3aを介在させて組み付けることにより、函体2に形成される。
【0045】
一方の函体分割体2Bの底面には、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が設けられている。連通口6は、少なくとも1つの函体分割体2Bに1つ設ければよいが、複数設けることもできる。連通口6は底面に限らず、他の場所に設けることもできるが、できるだけ函体分割体2B(函体2)の下方位置に設けることが好ましい。
函体2は、上記のような分割構造であるため、それぞれの函体分割体2A、2Bの貫通孔2aに相当する位置に止水材3、ゴムチューブ4が取り付けられている。それぞれのゴムチューブ4には、流体配管5が接続されている。流体配管5は杭状体13の上部工に設置された流体給排手段10に接続されている。流体給排手段10は制御装置11により制御される。
【0046】
それぞれの函体分割体2A、2Bには、函体分割体2A、2B(函体2)の上部を杭状体13に対して固定する上部固定手段7が設けられている。この実施形態では、上部固定手段7として函体分割体2A、2B(函体2)の上部と杭状体13の上部工に固定された剛性アングル部材が用いられている。
【0047】
上部固定手段7に代えて、或いは上部固定手段7に加えて、函体分割体2A、2B(函体2)の下部を杭状体13に固定する下部固定手段を設けることもできる。上部固定手段7および下部固定手段は、第1実施形態と同仕様のものを用いることができる。
【0048】
この止水作業函1を用いて止水作業空間を構築する手順は以下のとおりである。
【0049】
まず、それぞれの函体分割体2A、2Bに浮体を取付け、図12に例示するように水上移動させて、止水材3を杭状体13の表面に当接させる。この際に、連通口6は開いたままにしておき、ゴムチューブ4は膨張させない状態にしておく。函体分割体2A、2Bの合わせ面にはシール材3aを介在させて、それぞれの函体分割体2A、2Bのフランジ部にボルトを通して互いを組み付けて函体2を形成する。
【0050】
これにより函体2は、図11に例示するように、貫通孔2aを貫通する杭状体13の外周を囲んだ状態になる。止水材3は、杭状体13の表面形状に沿うように変形して、杭状体13の外周面にすき間なく密着する。函体2内部には、外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0051】
次いで、函体2上部を上部固定手段7により杭状体13に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させる。
【0052】
次いで、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wを函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0053】
連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、第1実施形態と同様に函体2の外部の水面位置の変動に起因して、函体2に上下方向に不要な追加的な力や水圧差に起因する外力が生じることがない。そのため、函体2を杭状体13に対して強固に安定して固定することができる。
【0054】
また、第1実施形態と同様に杭状体13の表面が複雑な形状であっても、止水材3によって、漏水を生じさせるすき間がないように函体2を所定位置に設置することができる。
【0055】
この実施形態においても、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0056】
第2実施形態の止水作業函1では、1本の杭状体13の外周を1つの函体2で囲むようにしたが、図14に例示する第3実施形態のように、複数本の杭状体13a、13b、13cの外周を1つの函体2で囲む構造にした止水作業函1にすることもできる。
【0057】
この函体2は、上面を開口した有底の函体2の底面に、杭状体13a、13b、13cを貫通させる複数の貫通孔2a(この実施形態では3つの貫通孔2a)を有し、それぞれの貫通孔2aを分割して函体2の底面を分割するように形成した2つの函体分割体2A、2Bで構成されている。
【0058】
それぞれの函体分割体2A、2Bの貫通孔2aに相当する位置には、止水材3が取り付けられている。止水材3の背面(外周側)には止水材3に沿って環状のゴムチューブ4が延設されている。それぞれのゴムチューブ4には、流体配管5が接続されている。流体給排手段10は制御装置11により制御される。
【0059】
また、少なくとも1つの函体分割体2Bに、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が少なくとも1つ設けられており、貫通孔2aを貫通して止水材3が当接する杭状体13a、13b、13cに対して函体2を固定する固定手段7が設けられている。それぞれの函体分割体2A、2Bを、互いの合わせ面にシール材3aを介在させて組み付けることによって、函体2が形成される。
【0060】
その他の仕様は、第2実施形態と同様であり、止水作業空間を構築する手順も第2実施形態と同様である。
【0061】
この実施形態によっても、第2実施形態と同様の効果を得ることができるが、複数の杭状体13a〜13cが、近接した位置で立設している場合や、複雑に交錯するように立設している場合であっても、1つの函体2で止水作業空間を構築することができるという利点がある。
【0062】
図15〜図17に例示する止水作業函1の第4実施形態は、橋梁下部工14などの水中に立設する構造物を補修工事する場合等に用いられるものである。この橋梁下部工14は、地盤に設置される平面状のフーチング14bから柱部14aを上方に突出させた形状になっている。
【0063】
この止水作業函1は、上面および下面を開口した筒状の函体2を備えている。この函体2の下端面部(下端面および下端面の内周側)には止水材3が取り付けられている。詳しくは、平面視で長方形の函体2において、長方形の長辺の下端面および短辺の下端面の内周側に止水材3が取り付けられている。この止水材3は、第1実施形態と同仕様のものである。
【0064】
函体2は、筒状を周方向に分割するようにして形成された2つの函体分割体2A、2Bで構成されているが、3つ以上の函体分割体によって函体2を構成することもできる。函体分割体2A、2Bは、それぞれのフランジ部にボルトを通して、互いの合わせ面にシール材3aを介在させて組み付けることにより、筒状の函体2に形成される。函体分割体2A、2B(函体2)の下端面部は、設置する橋梁下部工14の形状に合わせて形成される。止水材3は、その下端面部に取り付けられる。
【0065】
一方の函体分割体2Bの側面には、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が設けられている。連通口6は、少なくとも1つの函体分割体2Bに1つ設ければよいが、複数設けることもできる。連通口6は、できるだけ函体分割体2B(函体2)の下方位置に設けることが好ましい。
【0066】
それぞれの函体分割体2A、2Bの下端面部に相当する位置に止水材3が取り付けられている。止水材3の背面には止水材3に沿ってゴムチューブ4が延設されている。それぞれのゴムチューブ4には、流体配管5が接続されている。流体給排手段10は制御装置11により制御される。
【0067】
それぞれの函体分割体2A、2Bには、函体分割体2A、2B(函体2)を橋梁下部工14に対して固定する固定手段が設けられている。この実施形態では、固定手段(上部固定手段7や下部固定手段8)として函体分割体2A、2B(函体2)と橋梁下部工14のフーチング14bにアンカーボルト等によって固定された剛性アングル部材が用いられている。
【0068】
この止水作業函1を用いて止水作業空間を構築する手順は以下のとおりである。
【0069】
まず、それぞれの函体分割体2A、2Bに浮体を取付けて、図17に例示するように、橋梁下部工14の柱部14aの外周を囲む所定位置まで水上移動させて、止水材3を対向するフーチング14bに当接させて載置する。
【0070】
この際に、連通口6は開いたままにしておく。函体分割体2A、2Bの合わせ面にシール材3aを介在させて、それぞれの函体分割体2A、2Bのフランジ部にボルトを通して互いを組み付けることによって、筒状の函体2が形成される。これにより函体2は、図15、図16に例示するように、橋梁下部工14を貫通させた状態になる。
【0071】
止水材3は、フーチング14bの表面形状に沿うように変形して、止水材3がフーチング14bの表面にすき間なく密着する。函体2内部には、外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0072】
次いで、函体2を固定手段7(8)により橋梁下部工14に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させる。
【0073】
函体2を所定位置に固定した後は、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wを函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0074】
第1実施形態と同様にフーチング14bの表面が複雑な形状であっても、止水材3によって、漏水を生じさせるすき間がないように函体2を所定位置に設置することができる。
【0075】
また、連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、函体2の内部と外部との水面位置は常に同じレベルになる。そのため、第1実施形態と同様に水圧差に起因する外力が函体2に作用することがない。
【0076】
この実施形態においても、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0077】
この実施形態では、止水材3をフーチング14bの上面および側面に止水材3を当接させるので、これに対応して、函体分割体2A、2B(函体2)の下端面および下端面の内周側に止水材3を設けている。したがって、函体2を完全にフーチング14aの上に載置するように設置する場合には、函体分割体2A、2B(函体2)の下端面のみに止水材3を設ければよい。
【0078】
第4実施形態のように、フーチング14bに対して止水作業函1を設置する場合は、例えば、図18に例示するように、函体分割体2A、2Bを完全にフーチング14bの上面に載置する構造にすることもできる。
【0079】
また、図19に例示するように、函体分割体2A、2Bを高さ方向中途で上側を縮径するようにして、上側と下側との間に段差を設けた構造にすることもできる。この構造によると、段差の平坦部に作用する水圧によって函体分割体2A、2Bがフーチング14bに押圧されるので、安定して設置するには有利になる。
【0080】
尚、第1実施形態において説明した種々の仕様は、第2〜4実施形態でも適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 止水作業函
2 函体
2A、2B 函体分割体
2a 貫通孔
3、3A、3B 止水材
3a シール材
4、4A、4B、4C ゴムチューブ
5 流体配管
6 連通口
7 上部固定手段
8 下部固定手段
8a アンカーボルト
8b ワイヤ
9 剛性体
10 流体給排手段
11 制御装置
12 壁状体
13、13a、13b、13c 杭状体
14 橋梁下部工
14a 柱部
14b フーチング
L 流体
W 水
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水作業空間の構築方法および止水作業函に関し、さらに詳しくは、水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海や河川等の護岸を構成している矢板等の水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物については、腐食劣化程度の調査や、腐食劣化が進行していれば補修、補強工事を行なう必要がある。従来、このような調査や補修工事を行なう際には、例えば、水際の壁状体の場合では、前面および上面を開口した函体を、函体の前面の前端部に設けたゴム等の弾性の止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を形成するようにしていた。
【0003】
この際に、壁状体に対して止水材を圧着させ、壁状体と函体との間のすき間をなくして形成した作業空間に漏水を生じさせないことが重要である。そこで、止水材として管状弾性体を採用し、この管状弾性体の内部に圧縮空気を供給することにより、様々な表面形状の壁状体に対しても、すき間を生じさせることなく、函体を設置できるようにした止水作業函が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この提案の止水作業函では、圧縮空気を充填した管状弾性体を、その弾性変形によって壁状体の表面形状に密着させるので、様々な形状に追従させて変形させることが難しい。それ故、複雑な表面形状の壁状体に密着させることが困難であり、すき間が生じるという問題があった。
【0005】
また、管状弾性体を壁状体に密着させた後は、函体内部が水を閉じ込めて閉じた状態になり、止水作業函を壁状体に固定するまでの間に、潮の干満等により水面が上昇すると止水作業函には追加的な浮力が生じ、また、水面が下降すると浮力が減じて函体内部に閉じ込めた水によって下方に追加的な力が生じる。そのため、止水作業函を安定して固定することが難しいという問題があった。上記した問題は、水際の壁状体だけでなく、水中に立設する杭状体や構造物に止水作業函を設置する際にも当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−93330公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水際の壁状体や水中に立設する杭状体や構造物の表面形状に凹凸があっても、漏水を生じさせることなく、止水作業函を安定して固定することができる止水作業空間の構築方法およびその止水作業函を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の止水作業空間の構築方法は、前面および上面を開口した函体を、この函体の前面の前端部に延設した止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この函体を所定位置に設置する際に、函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を壁状体に当接させて、壁状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じて函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を壁状体に押圧することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の止水作業空間の構築方法は、上面を開口した有底の函体の底面の貫通孔に、水中に立設する杭状体を貫通させて、この杭状体の外周を囲むようにして、この函体を所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記函体の底面を分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記函体を形成して、前記貫通孔に貫通させた杭状体に前記止水材を当接させた状態で杭状体の外周を囲むように函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を杭状体に当接させて、杭状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じた状態にして函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を杭状体に押圧することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の別の止水作業空間の構築方法は、上面および下面を開口した筒状の函体に、水中に立設する構造物を貫通させた状態にして、この函体の下端面部に設けた止水材を、構造物の対向する面に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記筒状の函体を形成して、この函体に構造物を貫通させて前記止水材を対向する面に当接させた状態で、この函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を対向する面に当接させ、構造物に対して函体を固定手段で固定して、次いで前記連通口を閉じてこの函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を対向する面に押圧することを特徴とする。
【0011】
本発明の止水作業函は、前面および上面を開口した函体と、この函体の前面の前端部に延設された止水材とを備えた止水作業函であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、前記函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記止水材が当接する水際の壁状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の止水作業函は、底面に貫通孔を有し上面を開口した有底の函体と、この貫通孔に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記函体をその底面を分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記貫通孔を貫通して前記止水材が当接する水中に立設する杭状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の別の止水作業函は、上面および下面を開口した筒状の函体と、この函体の下端面部に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記函体を貫通して水中に立設する構造物に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、函体に設けた止水材を、水際の壁状体などの対象物に当接させて所定位置に設置する際に、函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、止水材を対象物に当接させて、その対象物に対して函体を固定手段で固定することで、函体内部と外部とが同じ水面位置になるので、函体の外部の水面位置の変動に起因して、函体に不要な力が生じることがない。そのため、止水作業函を安定して対象物に固定することができる。
【0015】
次いで、連通口を閉じて函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を対象物に押圧するが、止水材は不透水性の軟質独立気泡体であるので、通常のゴム材に比して変形し易く、対象物の表面に大きな凹凸や小さな凹凸があっても、その凹凸に沿って変形させることができる。そして、膨張するゴムチューブによって、凹凸に沿って変形した止水材を対象物に押付けるので、すき間なく密着させることが可能になる。そのため漏水を生じさせることなく、対象物に対して止水作業函を安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】連通口を開いて函体内部に水を流入させている本発明の止水作業函を例示する側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の止水作業函の正面図である。
【図4】図2の止水材およびゴムチューブの周辺を例示する一部拡大断面図である。
【図5】図4のゴムチューブが膨張していない状態を示す断面図である。
【図6】図2の止水材の変形例を示す断面図である。
【図7】図2の止水材の別の変形例を示す断面図である。
【図8】函体を壁状体の表面に向かって移動させている状態を例示する断面図(図1のA−A断面相当図)である。
【図9】止水材のさらに別の変形例を示す断面図である。
【図10】図3のゴムチューブの変形例を示す止水作業函の正面図である。
【図11】止水作業函の別の実施形態を例示する平面図である。
【図12】図11の函体分割体どうしを組み付ける工程を例示する説明図である。
【図13】図11のB−B断面図である。
【図14】止水作業函の別の実施形態を例示する斜視図である。
【図15】止水作業函の別の実施形態を例示する平面図である。
【図16】図15のC−C断面図である。
【図17】図15の函体分割体を所定位置に設置する工程を例示する説明図である。
【図18】止水作業函の変形例を示す側面図である。
【図19】止水作業函の別の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の止水作業空間の構築方法および止水作業函を、実施形態に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図4に例示するように、本発明の止水作業函1の第1実施形態は、前面および上面を開口した函体2と、函体2の前面の前端部に延設された止水材3とを備えている。この実施形態では、函体2の前面の前端部は鋼等で形成されたチャネルで構成され、函体2の左右側面、後面および底面は、鋼板等の剛性材により構成されている。函体2の材質、部材等はこれに限定されるものではない。
【0019】
函体2の底面には、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が設けられている。連通口6は底面に限らず、他の場所に設けることもできるが、できるだけ函体2の下方位置に設けることが好ましい。連通口6は1つに限らず、複数設けることもできる。
【0020】
止水材3は、函体2の前面の前端部を覆うように取付けられている。止水材3は、不透水性の軟質独立気泡体であり、厚さは例えば、10mm〜200mm程度である。止水材3として、例えば、樹脂材料、ゴム材料、エラストマー、或いはこれらの複合材料で形成されたスポンジ体が使用される。具体的には、止水材3としてEPDM製のスポンジ体が挙げられる。
【0021】
止水材3の硬度は、例えば、25%圧縮荷重が10kPa〜50kPa程度である。この値は、厚さ12.5mm×縦50mm×横50mmのサンプルをオートグラフにて圧縮速度50mm/minで圧縮した際の測定値である。
【0022】
止水材3の背面には、止水材3に沿ってゴムチューブ4が延設されている。ゴムチューブ4は流体配管5を介して、壁状体12の上に設置された流体給排手段10に接続されている。流体給排手段10によって、空気や水などの流体Lが注入されることにより、ゴムチューブ4は膨張し、注入された流体Lが排出されることにより収縮する。ゴムチューブ4の両側面および背面は、鋼板等の剛性材で囲うようにするとよい。これにより、ゴムチューブ4を膨張させた際に、止水材4側に向かって大きく突出させることができる。ゴムチューブ4の背面と剛性材(函体2の前面)との間に追加的に止水材3を介在させることもできる。
【0023】
流体給排手段10は制御装置11によって制御される。即ち、制御装置11によってゴムチューブ4の膨張圧力や膨張および収縮させるタイミングが制御される。
【0024】
函体2には、函体2上部を固定する上部固定手段7と、函体2下部を固定する下部固定手段8とが設けられている。この実施形態では、上部固定手段7として、L字状の剛性アングル部材が用いられ、函体2上部が壁状体12の上面に固定されている。また、下部固定手段8は、水中の壁状体12の表面に突設されたアンカーボルト8aとアンカーボルト8aと函体2の下部との間に張設されるワイヤ8bとで構成されている。上部固定手段7および下部固定手段8は、これに限定されず、他の構造(部材)を用いることもできる。
【0025】
また、函体2を壁状体12に対して安定に固定できれば、上部固定手段7、下部固定手段8の2種類のうち、1種類の固定手段のみにすることもできる。例えば、上部固定手段7のみを用いることもできる。
【0026】
図4に例示するように、ゴムチューブ4の内部に流体Lを注入して所定の膨張圧力で膨張させている状態では、ゴムチューブ4は止水材3の背面を押圧する。一方、ゴムチューブ4に負荷している膨張圧力を解除すると、図5に例示するように収縮した状態になって止水材3の押圧を止める。
【0027】
止水材3は、図6に例示するように2つの層3A、3Bで構成し、それぞれの層3A、3Bの硬さを異ならせて、層3Aを層3Bよりも柔らかくした仕様にすることもできる。
【0028】
図7に例示するように、止水材3の前面とゴムチューブ4との間に、止水材3およびゴムチューブ4よりも高剛性の板状の剛性体9を介在させた仕様にすることもできる。剛性体9としては、例えば繊維等で形成された補強層が用いられる。
【0029】
以下、この止水作業函1を用いた本発明の止水作業空間の構築方法の手順を説明する。
【0030】
まず、図8に例示するように、止水作業函1の前面を、鋼矢板等の水際の壁状体12の表面に対向させる。この際に、連通口6は開いたままにしておき、ゴムチューブ4は膨張させない状態にしておく。
【0031】
そして、函体2の前面を壁状体12の表面に向かって移動させ、止水材3を壁状体12の表面に当接させる。止水材3は、不透水性の軟質独立気泡体なので変形性能に優れ、壁状体12の表面形状にすき間なく沿うように変形することができる。このようにして図1に例示するように、連通口6を通じて、函体2内部に外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0032】
尚、壁状体12の表面との密着性をより高めるために、図9に例示するように止水材3の前面を、概略、壁状体12の表面形状に沿った形状(対応させた形状)に予め形成しておくこともできる。
【0033】
次いで、函体2上部を上部固定手段7により壁状体12に固定し、函体2下部を下部固定手段8により壁状体12に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させ、膨張させた状態を維持する。
【0034】
次いで、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wをポンプ等により函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0035】
函体2を所定位置に設置する際に、連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、函体2内部と外部とが常に同じ水面位置になる。そのため、函体2(止水作業函1)を壁状体12の所定位置に固定するまでの間に、潮の干満等により水面が上昇しても函体2(止水作業函1)には追加的な浮力が生じることがない。また、水面が下降することにより浮力が減じても、函体2内部に存在する水Wによって下方に追加的な力が生じることもない。また、函体2の内部と外部の水面位置の違い(水圧差)による外力が函体2に作用することもない。
【0036】
このように、函体2(止水作業函1)の外部の水面位置の変動に起因して、函体2(止水作業函1)に上下方向に不要な追加的な力や水圧差に起因する外力が生じることがない。これにより、函体2(止水作業函1)を壁状体12に対して強固に安定して固定することができる。
【0037】
また、止水材3は不透水性の軟質独立気泡体であるので、壁状体12の表面に凹凸があっても、その凹凸に沿って容易に変形させることができる。そして、膨張するゴムチューブ4によって、凹凸に沿って変形した止水材3を壁状体12に押付けるので、すき間なく密着させることができる。そのため、漏水を生じさせることなく、壁状体12に対して止水作業函1を安定して固定することができる。
【0038】
尚、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0039】
図6に例示した仕様のように、止水材3の硬さを厚さ方向で異ならせ、前面側をゴムチューブ4側よりも柔らかくした仕様にすると、層3Aを壁状体12の表面にすき間なく密着させ易く、かつ、層3Bによって、膨張するゴムチューブ4の押圧力を広範囲に層3Aに伝え易くなる。図7に例示した仕様の場合も、剛性体9によって、膨張するゴムチューブ4の押圧力を広範囲に止水材3に伝え易くなる。
【0040】
図10に例示するように、ゴムチューブ4を延設方向で4A、4B、4Cの複数に分割した構成することもできる。それぞれのゴムチューブ4A、4B、4Cの膨張は、独立して制御装置11により制御される。
【0041】
この実施形態では、ゴムチューブ4を延設方向で上下に4A、4B、4Cの複数に分割している。それぞれのゴムチューブ4A、4B、4Cを膨張させる際の膨張圧力は、下方に位置するゴムチューブ4Cよりも上方に位置するゴムチューブ4A、4Bにおいて高くなるように設定されている。
【0042】
止水材3の下方に位置する部分は、上方に位置する部分よりも、水圧を受ける函体2によって強く壁状体12に押圧される。したがって、止水材3の上方に位置する部分を、下方に位置する部分よりも強く壁状体12に押圧することが、すき間なく壁状体12の表面に密着させるには効率的である。そこで、この実施形態では、ゴムチューブ4Cよりもゴムチューブ4A、4Bの膨張圧力を高くするのが好ましい。
【0043】
図11〜図13に例示する止水作業函1の第2実施形態は、桟橋などの水中に立設する杭状体13を補修工事する場合等に用いられるものである。この止水作業函1は、上面を開口した有底の函体2を備えている。この函体2は底面に貫通孔2aを有し、貫通孔2aの内周面には止水材3が取り付けられている。この止水材3は、第1実施形態と同仕様のものである。止水材3の背面(外周側)には止水材3に沿って環状のゴムチューブ4が延設されている。
【0044】
函体2は、貫通孔2aを分割して底面を分割するように形成した2つの函体分割体2A、2Bで構成されているが、3つ以上の函体分割体によって函体2を構成することもできる。函体分割体2A、2Bは鋼板等で構成されている。それぞれの函体分割体2A、2Bは、互いの合わせ面にゴム等からなる一般的なシール材3aを介在させて組み付けることにより、函体2に形成される。
【0045】
一方の函体分割体2Bの底面には、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が設けられている。連通口6は、少なくとも1つの函体分割体2Bに1つ設ければよいが、複数設けることもできる。連通口6は底面に限らず、他の場所に設けることもできるが、できるだけ函体分割体2B(函体2)の下方位置に設けることが好ましい。
函体2は、上記のような分割構造であるため、それぞれの函体分割体2A、2Bの貫通孔2aに相当する位置に止水材3、ゴムチューブ4が取り付けられている。それぞれのゴムチューブ4には、流体配管5が接続されている。流体配管5は杭状体13の上部工に設置された流体給排手段10に接続されている。流体給排手段10は制御装置11により制御される。
【0046】
それぞれの函体分割体2A、2Bには、函体分割体2A、2B(函体2)の上部を杭状体13に対して固定する上部固定手段7が設けられている。この実施形態では、上部固定手段7として函体分割体2A、2B(函体2)の上部と杭状体13の上部工に固定された剛性アングル部材が用いられている。
【0047】
上部固定手段7に代えて、或いは上部固定手段7に加えて、函体分割体2A、2B(函体2)の下部を杭状体13に固定する下部固定手段を設けることもできる。上部固定手段7および下部固定手段は、第1実施形態と同仕様のものを用いることができる。
【0048】
この止水作業函1を用いて止水作業空間を構築する手順は以下のとおりである。
【0049】
まず、それぞれの函体分割体2A、2Bに浮体を取付け、図12に例示するように水上移動させて、止水材3を杭状体13の表面に当接させる。この際に、連通口6は開いたままにしておき、ゴムチューブ4は膨張させない状態にしておく。函体分割体2A、2Bの合わせ面にはシール材3aを介在させて、それぞれの函体分割体2A、2Bのフランジ部にボルトを通して互いを組み付けて函体2を形成する。
【0050】
これにより函体2は、図11に例示するように、貫通孔2aを貫通する杭状体13の外周を囲んだ状態になる。止水材3は、杭状体13の表面形状に沿うように変形して、杭状体13の外周面にすき間なく密着する。函体2内部には、外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0051】
次いで、函体2上部を上部固定手段7により杭状体13に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させる。
【0052】
次いで、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wを函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0053】
連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、第1実施形態と同様に函体2の外部の水面位置の変動に起因して、函体2に上下方向に不要な追加的な力や水圧差に起因する外力が生じることがない。そのため、函体2を杭状体13に対して強固に安定して固定することができる。
【0054】
また、第1実施形態と同様に杭状体13の表面が複雑な形状であっても、止水材3によって、漏水を生じさせるすき間がないように函体2を所定位置に設置することができる。
【0055】
この実施形態においても、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0056】
第2実施形態の止水作業函1では、1本の杭状体13の外周を1つの函体2で囲むようにしたが、図14に例示する第3実施形態のように、複数本の杭状体13a、13b、13cの外周を1つの函体2で囲む構造にした止水作業函1にすることもできる。
【0057】
この函体2は、上面を開口した有底の函体2の底面に、杭状体13a、13b、13cを貫通させる複数の貫通孔2a(この実施形態では3つの貫通孔2a)を有し、それぞれの貫通孔2aを分割して函体2の底面を分割するように形成した2つの函体分割体2A、2Bで構成されている。
【0058】
それぞれの函体分割体2A、2Bの貫通孔2aに相当する位置には、止水材3が取り付けられている。止水材3の背面(外周側)には止水材3に沿って環状のゴムチューブ4が延設されている。それぞれのゴムチューブ4には、流体配管5が接続されている。流体給排手段10は制御装置11により制御される。
【0059】
また、少なくとも1つの函体分割体2Bに、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が少なくとも1つ設けられており、貫通孔2aを貫通して止水材3が当接する杭状体13a、13b、13cに対して函体2を固定する固定手段7が設けられている。それぞれの函体分割体2A、2Bを、互いの合わせ面にシール材3aを介在させて組み付けることによって、函体2が形成される。
【0060】
その他の仕様は、第2実施形態と同様であり、止水作業空間を構築する手順も第2実施形態と同様である。
【0061】
この実施形態によっても、第2実施形態と同様の効果を得ることができるが、複数の杭状体13a〜13cが、近接した位置で立設している場合や、複雑に交錯するように立設している場合であっても、1つの函体2で止水作業空間を構築することができるという利点がある。
【0062】
図15〜図17に例示する止水作業函1の第4実施形態は、橋梁下部工14などの水中に立設する構造物を補修工事する場合等に用いられるものである。この橋梁下部工14は、地盤に設置される平面状のフーチング14bから柱部14aを上方に突出させた形状になっている。
【0063】
この止水作業函1は、上面および下面を開口した筒状の函体2を備えている。この函体2の下端面部(下端面および下端面の内周側)には止水材3が取り付けられている。詳しくは、平面視で長方形の函体2において、長方形の長辺の下端面および短辺の下端面の内周側に止水材3が取り付けられている。この止水材3は、第1実施形態と同仕様のものである。
【0064】
函体2は、筒状を周方向に分割するようにして形成された2つの函体分割体2A、2Bで構成されているが、3つ以上の函体分割体によって函体2を構成することもできる。函体分割体2A、2Bは、それぞれのフランジ部にボルトを通して、互いの合わせ面にシール材3aを介在させて組み付けることにより、筒状の函体2に形成される。函体分割体2A、2B(函体2)の下端面部は、設置する橋梁下部工14の形状に合わせて形成される。止水材3は、その下端面部に取り付けられる。
【0065】
一方の函体分割体2Bの側面には、函体2の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口6が設けられている。連通口6は、少なくとも1つの函体分割体2Bに1つ設ければよいが、複数設けることもできる。連通口6は、できるだけ函体分割体2B(函体2)の下方位置に設けることが好ましい。
【0066】
それぞれの函体分割体2A、2Bの下端面部に相当する位置に止水材3が取り付けられている。止水材3の背面には止水材3に沿ってゴムチューブ4が延設されている。それぞれのゴムチューブ4には、流体配管5が接続されている。流体給排手段10は制御装置11により制御される。
【0067】
それぞれの函体分割体2A、2Bには、函体分割体2A、2B(函体2)を橋梁下部工14に対して固定する固定手段が設けられている。この実施形態では、固定手段(上部固定手段7や下部固定手段8)として函体分割体2A、2B(函体2)と橋梁下部工14のフーチング14bにアンカーボルト等によって固定された剛性アングル部材が用いられている。
【0068】
この止水作業函1を用いて止水作業空間を構築する手順は以下のとおりである。
【0069】
まず、それぞれの函体分割体2A、2Bに浮体を取付けて、図17に例示するように、橋梁下部工14の柱部14aの外周を囲む所定位置まで水上移動させて、止水材3を対向するフーチング14bに当接させて載置する。
【0070】
この際に、連通口6は開いたままにしておく。函体分割体2A、2Bの合わせ面にシール材3aを介在させて、それぞれの函体分割体2A、2Bのフランジ部にボルトを通して互いを組み付けることによって、筒状の函体2が形成される。これにより函体2は、図15、図16に例示するように、橋梁下部工14を貫通させた状態になる。
【0071】
止水材3は、フーチング14bの表面形状に沿うように変形して、止水材3がフーチング14bの表面にすき間なく密着する。函体2内部には、外部の水Wが自由に出入りする状態になる。
【0072】
次いで、函体2を固定手段7(8)により橋梁下部工14に固定する。その後、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させる。
【0073】
函体2を所定位置に固定した後は、連通口6を閉じた状態にして、函体2内部の水Wを函体2外部に排出することにより、函体2の内部に止水作業空間を構築することができる。
【0074】
第1実施形態と同様にフーチング14bの表面が複雑な形状であっても、止水材3によって、漏水を生じさせるすき間がないように函体2を所定位置に設置することができる。
【0075】
また、連通口6を開いて函体2内部に水Wを流入させた状態にしているので、函体2の内部と外部との水面位置は常に同じレベルになる。そのため、第1実施形態と同様に水圧差に起因する外力が函体2に作用することがない。
【0076】
この実施形態においても、連通口6を閉じて函体2の内部の水Wを外部に排出した後に、ゴムチューブ4に流体Lを注入して所定の膨張圧力を負荷して膨張させることもできる。
【0077】
この実施形態では、止水材3をフーチング14bの上面および側面に止水材3を当接させるので、これに対応して、函体分割体2A、2B(函体2)の下端面および下端面の内周側に止水材3を設けている。したがって、函体2を完全にフーチング14aの上に載置するように設置する場合には、函体分割体2A、2B(函体2)の下端面のみに止水材3を設ければよい。
【0078】
第4実施形態のように、フーチング14bに対して止水作業函1を設置する場合は、例えば、図18に例示するように、函体分割体2A、2Bを完全にフーチング14bの上面に載置する構造にすることもできる。
【0079】
また、図19に例示するように、函体分割体2A、2Bを高さ方向中途で上側を縮径するようにして、上側と下側との間に段差を設けた構造にすることもできる。この構造によると、段差の平坦部に作用する水圧によって函体分割体2A、2Bがフーチング14bに押圧されるので、安定して設置するには有利になる。
【0080】
尚、第1実施形態において説明した種々の仕様は、第2〜4実施形態でも適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 止水作業函
2 函体
2A、2B 函体分割体
2a 貫通孔
3、3A、3B 止水材
3a シール材
4、4A、4B、4C ゴムチューブ
5 流体配管
6 連通口
7 上部固定手段
8 下部固定手段
8a アンカーボルト
8b ワイヤ
9 剛性体
10 流体給排手段
11 制御装置
12 壁状体
13、13a、13b、13c 杭状体
14 橋梁下部工
14a 柱部
14b フーチング
L 流体
W 水
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面および上面を開口した函体を、この函体の前面の前端部に延設した止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この函体を所定位置に設置する際に、函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を壁状体に当接させて、壁状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じて函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を壁状体に押圧することを特徴とする止水作業空間の構築方法。
【請求項2】
前記ゴムチューブを延設方向で複数に分割した構成にして、分割したそれぞれのゴムチューブの膨張を独立して制御する請求項1に記載の止水作業空間の構築方法。
【請求項3】
前記ゴムチューブを延設方向で上下に複数に分割した構成にして、分割したそれぞれのゴムチューブを膨張させる際の膨張圧力を、下方に位置するゴムチューブよりも上方に位置するゴムチューブにおいて高くする請求項2に記載の止水作業空間の構築方法。
【請求項4】
上面を開口した有底の函体の底面の貫通孔に、水中に立設する杭状体を貫通させて、この杭状体の外周を囲むようにして、この函体を所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記函体の底面を分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記函体を形成して、前記貫通孔に貫通させた杭状体に前記止水材を当接させた状態で杭状体の外周を囲むように函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を杭状体に当接させて、杭状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じた状態にして函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を杭状体に押圧することを特徴とする止水作業空間の構築方法。
【請求項5】
上面および下面を開口した筒状の函体に、水中に立設する構造物を貫通させた状態にして、この函体の下端面部に設けた止水材を、構造物の対向する面に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記筒状の函体を形成して、この函体に構造物を貫通させて前記止水材を対向する面に当接させた状態で、この函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を対向する面に当接させ、構造物に対して函体を固定手段で固定して、次いで前記連通口を閉じてこの函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を対向する面に押圧することを特徴とする止水作業空間の構築方法。
【請求項6】
前面および上面を開口した函体と、この函体の前面の前端部に延設された止水材とを備えた止水作業函であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、前記函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記止水材が当接する水際の壁状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする止水作業函。
【請求項7】
底面に貫通孔を有し上面を開口した有底の函体と、この貫通孔に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記函体をその底面を分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記貫通孔を貫通して前記止水材が当接する水中に立設する杭状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする止水作業函。
【請求項8】
上面および下面を開口した筒状の函体と、この函体の下端面部に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記函体を貫通して水中に立設する構造物に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする止水作業函。
【請求項9】
前記止水材の硬さを厚さ方向で異ならせ、前面側をゴムチューブ側よりも柔らかくした請求項6〜8のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項10】
前記止水材の前面とゴムチューブとの間に、止水材およびゴムチューブよりも剛性の高い剛性体を介在させた請求項6〜9のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項11】
前記ゴムチューブを延設方向で複数に分割した構成にして、分割したそれぞれのゴムチューブの膨張を独立して制御する制御装置を設けた請求項6〜10のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項12】
前記止水材の前面が、当接する対象物の表面形状に対応した形状に予め形成されている請求項6〜11のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項1】
前面および上面を開口した函体を、この函体の前面の前端部に延設した止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この函体を所定位置に設置する際に、函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を壁状体に当接させて、壁状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じて函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を壁状体に押圧することを特徴とする止水作業空間の構築方法。
【請求項2】
前記ゴムチューブを延設方向で複数に分割した構成にして、分割したそれぞれのゴムチューブの膨張を独立して制御する請求項1に記載の止水作業空間の構築方法。
【請求項3】
前記ゴムチューブを延設方向で上下に複数に分割した構成にして、分割したそれぞれのゴムチューブを膨張させる際の膨張圧力を、下方に位置するゴムチューブよりも上方に位置するゴムチューブにおいて高くする請求項2に記載の止水作業空間の構築方法。
【請求項4】
上面を開口した有底の函体の底面の貫通孔に、水中に立設する杭状体を貫通させて、この杭状体の外周を囲むようにして、この函体を所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記函体の底面を分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記函体を形成して、前記貫通孔に貫通させた杭状体に前記止水材を当接させた状態で杭状体の外周を囲むように函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を杭状体に当接させて、杭状体に対して函体を固定手段で固定し、次いで前記連通口を閉じた状態にして函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を杭状体に押圧することを特徴とする止水作業空間の構築方法。
【請求項5】
上面および下面を開口した筒状の函体に、水中に立設する構造物を貫通させた状態にして、この函体の下端面部に設けた止水材を、構造物の対向する面に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように複数の函体分割体を形成し、それぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に止水材を取付け、この止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、それぞれの函体分割体を組み付けて前記筒状の函体を形成して、この函体に構造物を貫通させて前記止水材を対向する面に当接させた状態で、この函体を所定位置に設置する際に、前記函体分割体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記止水材を対向する面に当接させ、構造物に対して函体を固定手段で固定して、次いで前記連通口を閉じてこの函体内部の水を外部に排出する前に、または、排出した後に、前記止水材に沿ってその背面に延設したゴムチューブを膨張させることにより止水材を対向する面に押圧することを特徴とする止水作業空間の構築方法。
【請求項6】
前面および上面を開口した函体と、この函体の前面の前端部に延設された止水材とを備えた止水作業函であって、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、前記函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記止水材が当接する水際の壁状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする止水作業函。
【請求項7】
底面に貫通孔を有し上面を開口した有底の函体と、この貫通孔に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記函体をその底面を分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記貫通孔に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記貫通孔を貫通して前記止水材が当接する水中に立設する杭状体に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする止水作業函。
【請求項8】
上面および下面を開口した筒状の函体と、この函体の下端面部に設けられた止水材とを備えた止水作業函であって、前記筒状の函体を周方向に分割するように形成した複数の函体分割体で構成し、前記止水材が不透水性の軟質独立気泡体であり、この止水材をそれぞれの函体分割体の前記下端面部に相当する位置に取付けるとともに、この止水材に沿ってその背面に延設される膨張するゴムチューブと、少なくとも1つの函体分割体に設けられる函体の内部と外部とを連通可能な開閉する連通口と、前記函体を貫通して水中に立設する構造物に対して函体を固定する固定手段と、を設けたことを特徴とする止水作業函。
【請求項9】
前記止水材の硬さを厚さ方向で異ならせ、前面側をゴムチューブ側よりも柔らかくした請求項6〜8のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項10】
前記止水材の前面とゴムチューブとの間に、止水材およびゴムチューブよりも剛性の高い剛性体を介在させた請求項6〜9のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項11】
前記ゴムチューブを延設方向で複数に分割した構成にして、分割したそれぞれのゴムチューブの膨張を独立して制御する制御装置を設けた請求項6〜10のいずれかに記載の止水作業函。
【請求項12】
前記止水材の前面が、当接する対象物の表面形状に対応した形状に予め形成されている請求項6〜11のいずれかに記載の止水作業函。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−202082(P2012−202082A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66525(P2011−66525)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
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