説明

止血剤、血液凝固剤の塗布方法、血液凝固剤の基剤

【課題】流血している開いた傷口または体液が流出している傷口に直接塗布する直前に水性媒体と混合して流出中の血液および体液が凝固するのを促進し、治癒を早めることのできる方法を提供する。
【解決手段】A.血液または水性媒体の存在下で水和して多価の金属イオンを生成させることのできる実質的に無水の鉄(VI)オキシ酸塩を、傷口から流出する血液と混合するステップと、B.ステップAで得られるこの混合物を、血液が十分に凝固して傷口から実質的にこれ以上出血しなくなるのに十分な時間にわたって、この傷口に当てておくステップを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、開いた傷口からの出血を止めるため局所的に塗布して血液の凝固を促進する薬剤に関するものであり、さらに詳細には、流血している開いた傷口または体液が流出している傷口に直接塗布する直前に水性媒体と混合して流出中の血液および体液が凝固するのを促進し、治癒を早めることのできる無水止血剤の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流血し、開いた傷口に直接押し当てる従来の包帯、絆創膏、バップなどに加え、開いた傷口から流出する血液の凝固を促進して血流を止めるさまざまな化学的薬剤の開発に多くの努力が払われてきた。これら薬剤の多くは、“凝固カスケード”、すなわちフィブリノーゲン、トロンビン、VIII因子などに関係している。その他の薬剤は、コラーゲンを利用したものである。エドワードスンは、例えば特許文献1においてフィブリンを固体支持体とともに用いることを記載し、特許文献2においてフィブリンを酵素フリーなシール剤として用いることを記載し、特許文献3においてフィブリンを触媒となる酵素が実質的に含まれない固体止血剤として用いることを記載している。
【0003】
マーチンによる3つの特許文献4〜6はどれも、ピルビン酸塩を脂肪酸および抗酸化剤と組み合わせ、傷治療用の止血剤として用いることに関するものである。
【0004】
スティルウェルは、特許文献7において、カルシウムで修飾した酸化セルロースを用いて止血を促進することを記載している。ウィンターらは、特許文献8において、薬理学的に受容可能な基剤の中に存在する傷治療用止血剤またはその塩について記述している。ここでの好ましい実施態様は、ナトリウム塩となっている。ウィンターは、凝固ではなく治癒を促進するため、タスピン化合物を用いた傷手当て用品を提示している。
【0005】
コミッシュは、特許文献9において、血液の流出を止めて凝固させるため、粘性剤と消毒剤を付着させた非常に細い繊維を有する傷当てパッドを記載している。エバールらは、特許文献10において、アルギニン酸を凝固剤として用いた改良型の止血用外科手当て用品を記載している。マッシらも、特許文献11、12において、パッドと遊離酸セルロースグリコール酸を含む止血用外科手当て用品を記載している。別の止血用傷口手当て用品に関する特許は、シェリーによる特許文献13であり、この手当て用品は、塩酸メチルアミノアセトカテコールの形態をした有効成分を含んでいる。同様に、アンダーソンによる特許文献14においては、セルロースグリコール酸エーテルのフィルムを含む別の傷口手当て用品が、止血剤として提示されている。
【0006】
特許文献15として開示されているスギタチらによる止血剤は、血液凝固VIII因子にフィブリンまたはトロンビンを加えたものである。すぐに使用できる状態の包帯がアルトシュラーによる特許文献16になっているが、これも有効成分としてトロンビンを含んでいる。なお包帯の全体は、シールされたパッケージに入れられている。
【0007】
リンドナーらの発明は、組織適合性のあるコラーゲンなどのタンパク質と、凍結乾燥させた血液凝固VIII因子、トロンビン、フィブリノーゲンとを染み込ませた傷当てパッドであり、特許文献17に記載されている。凍結乾燥させたコラーゲンを止血剤としてパッドの中で用いることは、ソーヤーの特許文献18に記載されている。
【0008】
セイファースタインらは、特許文献19において、傷口に薬剤を放出するための孔が開いたプラスチック・フィルムの表面に高分子量のポリエチレンオキシドを付着させた絆創膏を用い、小さな切り傷からの出血を止めることを記載している。トロンビンと血液凝固VIII因子が固定されたフレーク状または繊維状の基剤を含むさらに別の止血剤が、サカモトによる特許文献20に記載されている。止血剤として特別に純粋で清潔なトロンビン溶液を用いることが、ボクターによる特許文献21に記載されている。プラスらの最近の2つの特許文献22、23のどちらにも、ゼラチンの中にトロンビン、ε−アミノカプロン酸(EACA)、塩化カルシウムを混合した止血用手当て用品を使用することが記載されている。
【0009】
吸収性のある紡績綿タイプの局所性止血剤が、シミズらによる特許文献24に記載されている。この特許は、もともと出血面に粘着する性質があるアセトコラーゲン繊維でできた吸収性手当て用品が対象である。ベルらの特許文献25では、微小繊維状のコラーゲンと超吸収性ポリマーでできた手当用品により、血液吸収と凝固誘起の両方を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,763,411号
【特許文献2】米国特許第5,804,428号
【特許文献3】米国特許第5,962,026号
【特許文献4】米国特許第5,692,302号
【特許文献5】米国特許第5,874,479号
【特許文献6】米国特許第5,981,606号
【特許文献7】米国特許第5,484,913号
【特許文献8】米国特許第5,474,782号
【特許文献9】米国特許第2,163,588号
【特許文献10】米国特許第2,688,586号
【特許文献11】米国特許第2,772,999号
【特許文献12】米国特許第2,773,000号
【特許文献13】米国特許第3,206,361号
【特許文献14】米国特許第3,328,259号
【特許文献15】米国特許第4,265,233号
【特許文献16】米国特許第4,363,319号
【特許文献17】米国特許第4,600,574号
【特許文献18】米国特許第4,606,910号
【特許文献19】米国特許第4,616,644号
【特許文献20】米国特許第4,655,211号
【特許文献21】米国特許第5,525,498号
【特許文献22】米国特許第5,643,596号
【特許文献23】米国特許第第5,645,849号
【特許文献24】米国特許第5,679,372号
【特許文献25】米国特許第5,800,372号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による方法の一実施態様では、イオン交換樹脂を用いる。イオン交換樹脂は、スチレンとジビニルベンゼンのコポリマーをスルホン化した形態になっていることが好ましい。この従来技術の樹脂を製造する上で参考にした方法は、共同発明者であるパターソンの以前の特許である米国特許第4,291,980号に見いだすことができる。しかもこの特許の少なくとも一部は、スチレンとジビニルベンゼンのコポリマーからなる球形ビーズの製造法が記載されている米国特許第2,366,007号と第3,463,320号に基づいている。これら従来技術が、参考としてこの明細書に組み込まれている。この樹脂を本発明にさらによく適合させるには、架橋を大きく減らして約0.25%の架橋状態にすることである。
【0012】
本発明の方法における別の重要な特徴は、オキシ酸塩、好ましくは鉄酸カリウム(2KFeO)を使用していることである。アルカリ金属の鉄酸塩を製造する方法は、もう一人の共同発明者トンプソンによる米国特許第4,545,974号に記載されている。この内容も、参考としてこの明細書に組み込まれている。本発明の共同発明者たちによる米国特許第6,187,347号も参照のこと。
【0013】
上記の従来技術を個別に利用しても、どのように組み合わせて利用してもうまくいかないが、この明細書には、従来よりも優れた止血剤と、流出する血液または体液を凝固させるために血液と反応して血液の凝固を促進させる3価の鉄イオンFe3+を生成する鉄酸塩の混合物を含む凝固剤の塗布方法と、このような凝固剤の基剤が提示されている。しかも、従来よりも優れた不溶性陽イオン交換物質(例えばスルホン化されたイオン交換樹脂)を鉄酸塩と組み合わせて用いると、従来よりも優れた止血剤が得られるだけでなく、傷口を覆う保護マトリックスが形成され、酸化能も生じて抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤として作用する。さらに、選択した塩が存在していることで凝固の際に生成する水酸化物ラジカルが中和され、ズキズキした痛みの感覚を実質的にほとんど消すことができる。
【0014】
“保護マトリックス”は、本発明の成分が、外傷と関係する血液および組織の液体成分および固体成分と相互作用することによって形成される。“クロット”および/または“凝血塊”という用語には、自然に起こる血液凝固カスケードの産物および/または本発明の保護マトリックスが含まれる。“傷口”にはあらゆる外傷によってできるものが含まれ、その外傷があるために血管および/または組織(特に皮膚)から血液および/または血漿および/またはリンパ液が流出することになる。“体液”には、全血(赤血球、白血球、血小板、血漿)、血漿だけ、リンパ液だけ(浮遊細胞を含む)のほか、尿、唾液、膣液以外の体液が含まれる。“血液”は、全血および/または血漿および/またはリンパ液を意味する。出血は、体液(血液および/または血漿および/またはリンパ液)の流出を意味する。“止血剤”は、血液が失われることを止める天然および/または人工の物質を意味する。
【0015】
本発明の別の大きな特徴は、流出する血液または体液を凝固させる薬剤(止血剤)が、オキシ酸塩と、陽イオン交換樹脂、有機酸塩、酸性無機塩のいずれかとを組み合わせた混合物を含んでいて、血液または血液中のタンパク質と反応して血液の凝固を促進することにあるが、どの従来技術にもこのような特徴はない。不溶性陽イオン交換物質をオキシ酸塩と組み合わせて用いることにより、傷口を覆う保護マトリックスが形成され、酸化能も生じて抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤として作用する。本発明のさらに別の特徴は、選択した親水性プロトン供与体が存在していることで、凝固の際に生成する水酸化物ラジカルが中和され、ズキズキした痛みを実質的にほとんど消せることである。
【0016】
本発明は、開いた傷口から血液および体液が流出するのを止め、傷の治癒を促進するための方法、基剤、従来よりも優れた止血剤を提供することを目的とする。この方法では、鉄酸塩と、従来よりも優れた陽イオン交換樹脂とからなる実質的に無水の止血剤を血液の存在下、または他のタンパク質を含む体液の存在下で水和させるという特別な使い方をする。止血剤を開いた傷口に十分な時間にわたって当てることで、直ちにその傷口から実質的にそれ以上は体液が流出しなくなる一方で、その止血剤からFe3+が生成して血液ならびにその他の体液の凝固が促進される。無水止血剤としては、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Frからなるグループの中から選択した陽イオンを用いた1価、2価、3価の鉄酸塩(MFeO、MFeO、M(FeO)が挙げられる。しかしズキズキした痛みの感覚を軽減または除去するには、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Al、As、NH4、N(Cからなるグループの中から選択した陽イオンに由来する塩を有する化合物にするとよい。好ましい1つの止血剤は、実質的に無水の鉄酸塩と、スルホン化された従来よりも優れたイオン交換樹脂とを混合物として含んでおり、血液またはそれ以外の水性媒体の存在下でその混合物が迅速に水和してFe3+が生成することにより、凝固が促進される。樹脂は、外傷を覆って保護する保護マトリックスとなり、治癒を促進する。反応中に酸化能が生じることにより、傷口に存在している細菌、ウイルス、真菌類の分量が実質的に少なくなる。
【0017】
本発明の別の大きな特徴は、オキシ酸塩と親水性プロトン供与体からなる実質的に無水の混合物を提供することである。この無水混合物が血液および体液の存在下で水和すると、プロトンが放出されて水酸化物が中和され、血液の凝固が促進される。好ましいオキシ酸塩は、遷移金属のアルカリ及びアルカリ土類塩、ハロゲンのオキシ酸塩のうちで、血液の凝固を促進するのに十分な酸化能を有するものである。これ以外の具体例としては、オキシ酸塩に加えて非イオン性親水性ポリマー(例えばカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸塩、デンプン、糖、あらゆる可溶性ゴム)を含む化合物が挙げられる。さらに別の実施態様としては、オキシ酸塩に、親水性プロトン供与体と凝固を促進する固体乾燥剤を組み合わせた混合物がある。従来よりも優れた陽イオン交換物質、またはアルカリ金属のオキシ酸塩と酸性無機塩の混合物は、傷口を覆うかさぶた、すなわち保護コーティングを形成し、保護と治癒促進を実現する。
【0018】
このように、本発明の1つの目的は、鉄酸塩を凝固剤として用い、開いた傷口表面からの血液流出を止める方法を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、開いた傷口に鉄酸塩からなる止血剤を当てて血液と体液の流出を止めることでズキズキした痛みを実質的になくす方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、鉄酸塩に従来よりも優れた不溶性陽イオン交換物質を組み合わせた無水止血剤を提供し、使用の直前にこの止血剤を水性媒体と混合することにより、皮膚の開いた傷口から流出する血液を止めることである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、抗菌性、抗ウイルス性、抗真菌性を有する保護コーティングまたは保護カバーを局所的に迅速に形成する方法を提供することである。
【0022】
上記のように、本発明の1つの目的は、オキシ酸塩を血液凝固剤として用い、開いた傷口表面からの血液流出を止める方法を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、開いた傷口にオキシ酸塩からなる止血剤を当てて血液と体液の流出を止めることでズキズキした痛みを実質的になくす方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、オキシ酸塩に従来よりも優れた不溶性陽イオン交換物質または無機塩を組み合わせた組成物を提供し、皮膚の開いた傷口から流出する血液を止めることである。
【0025】
本発明の別の目的は、オキシ酸塩と不溶性陽イオン交換物質からなる組成物を提供し、血液の凝固を促進して開いた傷口からの流血を止めるとともに、殺菌力のある保護マトリックスを傷口の上に形成することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、架橋が従来よりも少ない樹脂を使用することにより、および/または樹脂を適切に処理することにより、鉄酸塩を混合した樹脂が流体を取り込む能力を向上させることである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による止血剤の構成要素と、個々の用途におけるデリバリー法の概略図である。
【図2】本発明の好ましい1つのデリバリー法を示す図であり、シールした個々のアンプルの形態になっている。
【図3】鉄酸塩と混合する前に過酸化水素(H)中で沸騰処理した結果、樹脂が水分を取り込む量が増加したことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
これらの特徴に従って本発明をこれから説明するが、その他の特徴は、以下の説明において明らかになる。
【0029】
血液凝固のメカニズム
本発明に効果があることを説明しうる1つの可能なメカニズムについて、以下に簡単に説明する。本発明については後で詳しく説明する。
【0030】
可能な理論
止血のメカニズム
血液は、固体成分と液体成分の両方を含んでいる。液体成分は血漿と呼ばれ、極めて多彩なタンパク質を含んでいる。そうしたタンパク質として、アルブミンや免疫グロブリンのほか、血液凝固に関与するいろいろなタンパク質がある。血液の固体成分としては、赤血球、白血球、血小板がある。これらのうち、血小板だけが血液の凝固に直接関係する。
【0031】
血液が凝固するとき、直接的な原因が何であるかに応じ、血小板中の関与するタンパク質(タンパク質分解酵素)が連鎖反応を起こす(すなわち、タンパク質#1がタンパク質#2を活性化し、今度はこのタンパク質#2がタンパク質#3を活性化する。以下同様)。これは、血液凝固のカスケード機構と呼ばれている。このプロセスを単純化して最後の3ステップだけにすると、以下のようになる。
【0032】
血小板が刺激されて破壊されると、プロトロンボプラスチンが放出される。血漿中に普通存在しているカルシウム・イオン(Ca2+)が、不活性なプロトロンボプラスチンを活性なタンパク質分解酵素であるトロンボプラスチンに変換する。このトロンボプラスチンは、カルシウム・イオン(Ca2+)の存在下で、プロトロンビンを活性化させてトロンビンにする。トロンビン(これもタンパク質分解酵素)は、(血漿中に大量に存在する)フィブリノーゲンに作用を及ぼし、その一部をフィブリンに変換する。このフィブリンは、みずから活発に重合する。この凝固プロセスの簡単なダイヤグラムを以下に示す。
【0033】
【化1】

【0034】
フィブリン分子は、その名称が示すように、長い鎖のような配列になっている。これらの分子は非常に“粘着性が強い”タンパク質であり、傷口(上皮組織と、それよりも深部にある筋肉や他の結合組織の両方)のまわりの組織に粘着する。さらに、フィブリン分子は傷口に隣接する組織に粘着するだけでなく、互いにくっつき合う。この“自己粘着性”により、分子のネットワークが形成される。このネットワークは広がることができ、傷口全体にフィブリンの鎖が多く絡まるにつれてより丈夫になっていく。血液が傷口から流出し続けると、血液の固体成分がフィブリンの“ネットワーク”に捕えられ、その上に積み重なる。そのため傷口からの血液流出が止まり、クロットが形成される。
【0035】
クロット(脱分化した傷組織のカルス)の下にある傷ついた組織が修復されたとき、クロットは自然に離れていく。
【0036】
別の理論
本発明の作用メカニズム
本発明に含まれるのは、血液と体液の損失を制御するために傷口を覆う非薬剤性で非生物性の粉末である。この粉末は、傷口からの浸出液を吸収し、傷口の擦れ、摩擦、乾燥、汚染を防止する。この粉末は、親水性ポリマーとイオン性の無機鉄酸塩の均一な混合物である。1つのデリバリー法は、この混合物を含有する濡らした綿/ダクロン塗布具を用い、粒子/粉末を傷部位に直接散布するか、あるいは鼻の中に散布するというものである。この混合物とその構成成分は局所的に塗布されるため、体内で代謝されることはない。
【0037】
本発明のメカニズムは、通常の凝固メカニズムである凝固カスケードとは独立である。本発明により皮膚、傷口組織、血液成分と結合する独自の手段が提供されるため、人工的な栓または防護壁が生成される。本発明では、組織および血液成分と結合する3価イオンが樹脂に供給されるため、抗凝固剤を使用しているかどうかとは無関係に、マトリックスが迅速に形成される。本発明は、通常の血液凝固メカニズムとは独立であるため、凝固を妨げる抗凝固剤を使用している人や、血液凝固メカニズムに遺伝的欠陥がある人(例えば血友病の患者)でもうまくいく可能性がある。通常の血液凝固は、(患者を治療することによって抑制されていたり遺伝的欠陥によって妨げられたりしているのでなければ)本発明の人工的マトリックス/クロットが形成されているときにその下で起こりうるし、実際に同時に起こっていることに注意されたい。
【0038】
可能な第2のメカニズムは、3価の鉄イオンが血小板に刺激を与え、プロトロンボプラスチンだけでなく、傷口の治癒に関係する生体内物質を放出させ、その結果として傷ついた組織の再構成/再生が促進されるというものである。他の可能性としては、前躯体の3価の鉄酸塩イオンによって化学的に刺激され、凝固成分が活性化されるというメカニズムが挙げられる。
【0039】
本発明による3価の鉄イオン成分は、傷が開いて露出した皮膚や組織と結合することができる。赤血球、白血球、血小板は、傷口から血漿によって運び去られて3価の鉄イオンおよび樹脂と結合し、耐水性防護壁を形成する。この防護壁が、血液が流出しないようにする人工的なクロットとなる。組織浸出液と血漿(リンパ液と血液の液体成分(大部分は水))は、樹脂ポリマーに吸収される。樹脂ポリマーは、流体をこのように吸収することで顕著に膨脹する。この膨脹によって今度は傷口の部位が塞がれ、血液の流出が制御される/止まる。
【0040】
鉄イオンの保護マトリックス、水を吸って膨脹した樹脂、天然の固体血液成分が組み合わさり、迅速に保護マトリックスが形成される。この状態が完成するにあたって、本発明は、傷口の周辺領域の治癒を促進し、その領域を感染から保護し、その領域の痛みや不快感を最少にするのに役立つ。
【0041】
多価の陽イオンはすべて、天然の血液凝固カスケードを起こすことができる。鉄(VI)酸カリウムが分解するとき、利用可能な最も細かい酸化鉄(Fe)の粒子が生成することが知られている(米国特許第4,545,974号を参照のこと)。KFeOは、水の中に入れるとFeOOHの形態のFe3+になる。これを乾燥させるとFeが得られる。FeOOH(またはFe・HO)は、分散液中の超微細な固体である。この超微細物質は、天然の凝固カスケードを開始させるのに必要なプロトロンボプラスチンを血小板からなる膜に放出させるための理想的な刺激材料であるように思われる。この超微細物質が血小板そのものを壊し、凝固因子の大量放出を引き起こしている可能性がある。これは、傷口の粗い面が同じ目的を達成するために行なっていることである。
【0042】
Fe3+イオンは、血液の凝固を引き起こす多価の陽イオンの一例である。3価イオンは、溶液中のζポテンシャルを低下させることによって粒子(血小板)が容易に凝集できるようにする。血小板は、哺乳類の血液中に発見された、細胞質からなる小さな円板である。傷ができると、血小板が凝集し始め、傷口のまわりに粘着する。その結果、細胞質の別の成分である血小板因子が凝集して粘着する。この凝集プロセスの間、血小板からなる膜からのある種のリン脂質が、血漿の不活性な酵素および凝固XII因子とともに、凝集プロセス全体に寄与する。血小板からなる膜を物理的に引っ掻くことは、血小板からリン脂質成分を遊離させる上で重要である。
【0043】
役に立つ鉄酸塩の範囲
出願人は、まず最初に、鉄酸カリウムを用いると、上記の理論におけるように、開いた傷口から流出する血液の凝固が効果的に促進されることを見いだした。血液中において鉄酸塩と水の間で明らかに見られる反応は、以下の通りである。
【0044】
【化2】

【0045】
重要な結果の1つは、3価の鉄イオンFe3+が生成することである。本発明のこの特徴により、好ましい凝固剤が提供されるように思われる。さらに、タンパク質を含むあらゆる体液に対して本発明が有効であることが明らかになった。タンパク質としては、例えば皮膚の水疱や火傷によって開いた傷口から流出するタンパク質が挙げられる。
【0046】
本発明による化合物のこの特徴の適用範囲を拡げるには、カリウム塩の代わりに、カリウム陽イオンと同じ陽イオン特性を有する他の塩を用いるとよかろう。カリウム陽イオンの代わりとなりうる元素を以下の表Iと表IIに示す。
【0047】
表I
H 水素
Li リチウム
Na ナトリウム
K カリウム
Rb ルビジウム
Cs セシウム
Fr フランシウム
【0048】
表II
Be ベリリウム
Mg マグネシウム
Ca カルシウム
Sr ストロンチウム
Ba バリウム
Ra ラジウム
Ti チタン
V バナジウム
Cr クロム
Mn マンガン
Fe 鉄
Co コバルト
Ni ニッケル
Cu 銅
Zn 亜鉛
Ga ガリウム
Ge ゲルマニウム
Zr ジルコニウム
Nb ニオブ
Mo モリブデン
Tc テクネチウム
Ru ルテニウム
Rh ロジウム
Pd パラジウム
Ag 銀
Cd カドミウム
In インジウム
Sn スズ
Hf ハフニウム
Ta タンタル
W タングステン
Re レニウム
Os オスミウム
Ir イリジウム
Pt 白金
Au 金
Hg 水銀
Tl タリウム
Pb 鉛
Bi ビスマス
Al アルミニウム
As ヒ素
NH 陽イオン
N(C 陽イオン
【0049】
上記の元素を含む塩が陽イオンの形態になったものに加え、あらゆるゼオライト、スルホン化された石炭、天然の膜(例えばタンパク質の膜)も、鉄酸塩との混合物にすると3価の鉄イオンFe3+を放出し、血液と体液を凝固させるであろう。
【0050】
ズキズキする痛みの除去
化学反応式1によれば、上記のようにKFeOを用いて出血している傷口からの血を止めるとき、水酸化物ラジカル(OH)が生成して存在していることがわかる。水酸化物ラジカル(OH)は、化学反応式3でも残ったままになるため、傷口の部位にズキズキする痛みを起こす。さらに、表Iに掲載したすべての陽イオンの塩は、同じ結果を引き起こす。すなわち、ヒドロキシルイオンが存在することによってズキズキした痛みが起こる。
【0051】
しかし表IIに示した陽イオンの塩はどれも、わずかに異なる化学反応をし、生成した水酸化物イオンはすべて中和される。例えばカリウム陽イオンの代わりにカルシウム陽イオンの塩を用いると、血液中で水と以下のような化学反応をする。
4.4HO+4CaFeO→4Ca(OH)↓+2Fe↓+3O
【0052】
化学反応式4からわかるように、水酸化物イオンは生成しない。この化学反応式から、すべての水酸化物イオンが中和されてカルシウムと結合していることがわかる。
【0053】
上記の化合物により、皮膚の開いた傷口から流出する血液と体液を止める方法が提供される。任意の上記鉄酸塩の有効量、好ましくは粉末状の鉄酸カリウムの有効量を傷口に直接に塗布して流出する血液および体液と相互作用させ、血液および体液の凝固を促進する。
【0054】
樹脂と鉄酸塩の組み合わせ上記の方法と鉄酸塩の利用によって血液の凝固が大いに促進されるが、傷口は開いたままであり、鉄酸塩を基剤と組み合わせるのでなければ、一般に傷口が保護されない状態が続く。基剤の具体例としては、例えば、止血剤として選択した上記鉄酸塩のうちの1つを乾燥粉末にしたものを染み込ませた、あるいはこの乾燥粉末でコーティングした指用包帯、綿棒などが挙げられる。
【0055】
鉄酸塩を含むイオン交換樹脂Rを添加することにより、開いた傷口の上に保護マトリックスが形成される、すなわち血液中で水と反応することによって生成した物質が堆積されるという別の利点もある。止血剤の詳細と、好ましいイオン交換樹脂Rをスチレンとジビニルベンゼンのコポリマーの形態にする方法に関しては、参考として挙げた上記の特許に開示されており、その内容が参考としてこの明細書に組み込まれている。以下に示す一般式からわかるように、樹脂Rは、化学式として表わすか、あるいは単純化して一般に記号“R”で表わすことにする。イオン交換樹脂Rは、以下のそれぞれの化学反応式の要素からわかるように、スルホン化されている。
【0056】
スルホン化されたイオン交換樹脂Rの酸形態を象徴的に以下のように表わす。
【化3】

【0057】
スルホン化されたこのイオン交換樹脂Rの好ましい水素形態が鉄酸塩および水とともに血液中に存在しているのであれば、以下の反応が、上記の化学反応式3で生成したヒドロキシルイオンを中和するのに役立つ。
【0058】
【化4】

【0059】
ズキズキする痛みを軽減または除去するために樹脂Rをほんのわずかでも存在させてヒドロキシルイオンを中和することに加え、過剰な3価の鉄イオンFe3+を以下のように樹脂と反応させる。
【0060】
【化5】

【0061】
すると過剰な3価の鉄イオンFe3+は、以下の化学反応式に従い、凝固しつつある血液と結合する。
【0062】
【化6】

【0063】
血液に含まれるタンパク質中のアミノ酸は、樹脂と以下のように相互作用することが示される。
【0064】
【化7】

【0065】
FeOは吸湿性の小粒子であり、表面の状態が最高になるのはサイズが約50〜100メッシュのときである。イオン交換樹脂Rは、化学反応式4〜7に示したように、いくつかのカルシウム・イオンで置換された酸の形態であることが好ましい。樹脂Rの架橋結合度は、4.0未満で0.25%程度の低い値でなくてはならない。また樹脂Rは、吸湿性を有する必要がある。乾燥したイオン交換樹脂Rは、乾燥した鉄酸塩に対して重量比が少なくとも4対1でなくてはならない。イオン交換樹脂Rは、陽イオン交換樹脂であることが好ましい。
【0066】
別の実施態様では、2価のカルシウムCa2+を追加の凝固剤として少量添加する。ヘパリン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、シュウ酸カリウム、ワルファリンは抗凝固剤であり、もともとイオン性であるためにカルシウムCa2+と3価の鉄イオンFe3+をキレート化によって除去して天然の凝固カスケードを抑制する。多価イオンを過剰に供給することにより、上記の抗凝固剤およびそれ以外の凝固剤に打ち勝つことができ、凝固が可能になる。また、樹脂Rの水素形態だけでなく
【化8】

所定の割合のカルシウム塩
【化9】

もこのイオンを過剰に供給することができ、血液の凝固がさらに進む。鉄酸塩は、皮膚の表面で血液−水と接触すると酸化能を生じ、傷口に対して強力な消毒剤となる。
【0067】
利点のまとめ
スルホン化された上記樹脂(RSO)をほんのわずかでも鉄酸カリウム(KFeO4)と混合することにより、以下の利点が生まれる。
【0068】
1.3価の鉄イオンFe3++3RSOにより保護マトリックスが形成され、出血が止まる。
2.反応によって生じる酸化能が、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤として役立つ。
3.樹脂Rとともに凝固すると、傷口に対する保護コーティングとして機能する保護マトリックスができる。
4.混合物中の樹脂(RSO)がヒドロキシルイオンを中和させ、ズキズキした痛みを防止する。
【実施例】
【0069】
実施例1
無水粉末の調製
出血している傷に直接塗布するため、鉄酸塩−イオン交換樹脂の混合物(水分なし)を調製した。陽イオン交換樹脂Rを水素形態で調製して洗浄した後、110℃にて24時間にわたって乾燥させ、グラインダーで約100メッシュの粉末にした。
【0070】
次に、この止血剤を、皮膚用ランセットを深さ1.6〜2.2mmまで入れることにより新たに出血させた指の傷に直接塗布した。被験者は77歳で、皮膚は弾力性がなかった。傷口からの出血速度は0.206g/30秒であった。すなわち、1分間に0.0412g〜0.0606gだった。
【0071】
皮膚への切り込みを1つだけ入れ、出血が1分間に0.0412g〜0.0605gで始まった場合には、止血剤である上記樹脂−鉄酸塩を直接傷口に5秒間塗布したところ、出血がゼロになった。そのことは、採取した血液が1.0分以内に0.0020gになったことで確認した。塗布した樹脂−鉄酸塩は約0.0175〜0.0170gであり、傷口からの出血が止まるまでに切り傷の上に無菌の硬い保護コーティングが形成された。
【0072】
投薬量の節約
治療前の出血 出血0.0305g/30秒(0.0605g/分)
治療後の出血 出血0.0010g/30秒(0.0028g/分)
【0073】
投薬量
無水鉄酸塩と樹脂の混合物を0.0174g使用して傷口を治療した。
この投薬量だと、止血剤が30gあれば約1724回の独立した治療が行なえよう。
【0074】
調製方法
使用する直前
上記の無水混合物は、鉄酸カリウム(KFeO)と、架橋の割合が少ないイオン交換樹脂粒子の酸性形態とが組み合わさった形態であることが好ましい。両方の物質は粉末状であり、無水の状態で一緒に保管する。以前は、乾燥した状態(粉末)で体液(すなわち血液)に直接接触させていたが、この方法だと、この乾燥化合物を傷口にうまく接触させることと、傷口において安定させることが難しい。
【0075】
化学反応によっては、血液の凝固が遅くなり、好ましい酸化能の発生も遅くなる。酸性の樹脂を用いて水酸化カリウム(KOH)の中和を制御することにより、混合時間と塗布時間を制御することができる。水性媒体を用いてKFeOとRSOHを混合する。その後、この混合物を傷口の上に塗り広げて血液を凝固させ、出血を止める。混合時間と塗布時間を合計した作業時間は約5分間である。水性媒体の量は、塗り広げるペーストを鉄酸塩(VI)と樹脂を組み合わせて作るのにちょうど十分な量である。架橋した樹脂の割合が少なくなるほど使用する樹脂が多くなり、必要な水性媒体の量も多くなる。
【0076】
本発明の好ましい結果をもたらすことがわかった水性媒体は、以下のものである。
(1)全血(傷口からのもの)と体液;
(2)脱イオン水;
(3)塩化ナトリウム(イオン性、水性);
(4)溶かしたゼラチン(すなわち2%(水性));
(5)カルボキシメタセル(水性);
(6)炭水化物溶液、すなわち糖溶液。
【0077】
以下の媒体制御因子が本発明の方法において有効であることが明らかになった。
(1)イオン性水性添加物;
(2)粘性;
(3)水性媒体の浸透圧pH制御(pHが2〜10);
(4)温度(5℃〜30℃)。
【0078】
実施例2
化合物の成分:
0.1673gの無水の陽イオン交換樹脂RSOH[0.5%X−L]
0.0215gのKFeO
1.020gの2%ゼラチン(水性)。
【0079】
樹脂とKFeOを混合する。次に、ゼラチンを添加して混合する。5分以内に、このペースト状混合物を出血している傷口に塗り広げる。この形態で塗布した樹脂−鉄酸塩が、出血を制御する。
【0080】
実施例3
化合物の成分:
0.1400gのRSO[2.0%X−L]
0.0120gのKFeO
【0081】
樹脂とKFeOを被験者の傷口からの血液と混合し、このペースト状の混合物を、血液を採取した傷口に塗布する。調製したペースト状混合物で傷口を均等に覆い、出血を制御する。
【0082】
血液凝固の促進
本発明の1つの特徴は、オキシ酸として知られる酸素含有無機酸を塩の形態で利用することである。オキシ酸塩を以下に示すように単独で、あるいは組み合わせて選択することは、開いた傷口から流出する血液や体液中のタンパク質の凝固を促進する上で、上述したのと同様の好ましい効果があると思われる。
【0083】
血液凝固をこのように促進することがわかっているオキシ酸塩は以下のものである。
1.アルカリおよびアルカリ性土類塩;
2.遷移金属のオキシ酸塩;
3.ハロゲンのオキシ酸塩;
4.アルカリ及びアルカリ性酸化物、過酸化物及びスーパーオキシド。
【0084】
ズキズキした痛みの除去
親水性プロトン供与体も、血液凝固反応が進行しているときに生成するヒドロキシルイオンが存在しているために起こるズキズキした痛みを化学的結合によって除去するのに寄与する可能性がある。一般に、マトリックスとして作用して、存在しているヒドロキシルイオンを中和する親水性プロトン供与体には3種類ある。それは以下のものである。
【0085】
1.(スルホン化、リン酸化、炭酸化された)陽イオン交換樹脂;
2.酸生成塩;
3.有機酸。
【0086】
以下のものは、本発明の血液凝固反応において存在しているヒドロキシル酸を中和する上記の一般的な3つの分類の化合物それぞれの、より特殊な具体例である。
【0087】
1.水素型陽イオン交換樹脂(硫酸塩)
2.水素型陽イオン交換樹脂(リン酸塩)
3.水素型陽イオン交換樹脂(炭酸塩)
4.酸性無機塩(例えばNaHSO
5.有機酸(例えばクエン酸、カルボン酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質)
6.固体乾燥剤(例えばCaCl、CaSO
7.多孔性の親水性マトリックス樹脂
8.ケイ酸塩(例えばベントナイト粘土、ヒドロキシアパタイト)
9.オキシ酸、プロトン供与体、固体乾燥剤という3成分
10.ポリビニルアルコール
11.カルボキシメチルセルロース。
【0088】
固体乾燥剤も、血液からの水分を吸収して血液の凝固をさらに促進する。
【0089】
保護マトリックスの形成
本発明の別の好ましい機能は、出血を止めるために血液を凝固させるとき、開いた傷口の上に人工的なかさぶたを作り出すとともに、それを酸化剤の形態をした潜在的抗菌剤として利用できることである。このような人工的なかさぶたを形成する薬剤は、一般に2つのタイプに分けられる。1つは、陽イオン交換物質を以下の物質と組み合わせたものである。
【0090】
1.KFeO
2.KMnO
3.Na
4.KIO
5.KFeO+KMnO
【0091】
第2のタイプは、酸性無機塩とオキシ酸塩を組み合わせるというユニークなもので、NaHSO+KFeOの混合物が具体例として挙げられる。これも、人工的なかさぶたを形成する薬剤の機能を持っている。
【0092】
オキシ酸塩の主要な2つのタイプ、すなわち遷移金属塩とハロゲン塩は、本発明のかさぶた形成機能に関して異なる働きをする。遷移金属のオキシ酸塩は金属酸化物を形成し、陽イオン交換物質または他の任意の親水性プロトン供与体と結合してマトリックス、すなわちかさぶたを形成するときに重要な働きをする。ハロゲンのオキシ酸塩にはこの性質がなく、アルカリ又はアルカリ性酸化物、過酸化物又はスーパーオキシドにもこの性質はない。この後者のグループは、凝固を促進する酸化環境を確かに生み出すが、傷口の上に保護用かさぶたを形成する上で、遷移金属のオキシ酸塩ほど効果的ではない。
【0093】
デリバリーと塗布の方法
生成物のデリバリーと塗布の方法は以下の通りである。
【0094】
医学への応用には、小さな傷や、より深刻な傷(例えば血液の損失を招く銃撃、刃物による刺し傷、他の重大な裂傷)によって起こる出血を止めるのに用いられるさまざまな止血法が含まれる。止血のための材料は、血圧を安定化させ、患者から失われる血液ができるだけ早く最少になるようにすることが期待される。
【0095】
A.粉末スプレー・システム
不活性な推進剤(例えば窒素および/または亜酸化窒素および/または二酸化炭素)を用いて生成物の性能、安定性、商品の有効期間を最適化する。スプレーは非常に制御しやすいので、使用者は、傷が十分に治癒するまで、傷に向けて生成物を望む量だけスプレーすることができる。小さなEMT装置の収納容器や小さなポケットに入るよう小箱のサイズにすると、商品がコンパクトで魅力的になろう。例えば、コストの割に便益が有意に大きいスプレーができれば、より多く使用されるようになろう。このようなスプレーを携帯している軍人は、緊急事態のときに使用する物質が入った缶を持ち歩くことが可能になったも同然である。サイズが小さくなるほど、魅力が増すとともに携帯性がよくなる。その結果、市場に対する訴求力が大きくなる。
【0096】
B.包帯
このようなデリバリー・システムは、問題の物質を染み込ませた形態で含むことになろう。ベースとなる材質は、天然または人工の生体適合性材料になろう。そのような材料としては、例えば、開いた傷口に引っ張り強度を与えることのできるダクロンまたはセルロースが挙げられる。この利点が加わるため、より深刻な傷を治療することもできよう。薬剤を染み込ませた包帯は、効果を最大にするため、使用する直前まで空気中の水分に触れないような包装にする必要があろう。さまざまな大きさの傷に対応できるよう、さまざまなサイズの包帯を製造することができる。
【0097】
C.止血剤を染み込ませたスポンジ
止血剤をスポンジまたはスポンジ様物質に染み込ませておくと、外科手術中にそのスポンジを体腔内で操作することが容易である。これは大きな利点である。この実施態様だと、スポンジは体内の出血源からの出血を止めるという利点を維持しながら、形を保ったままになるため、出血源と手術領域の間に防護壁ができることになる。止血剤を染み込ませたスポンジは、過剰な血液を吸収することもできよう。
【0098】
D.ティーバッグの形態
止血剤を多孔性の“ティーバッグ”に充填して、体内の血液やその他の体液を吸収する効果を最大にすることもできる。このアイディアは、女性用生理用品などにも適用することができる。
【0099】
E.泡
泡には、体腔または傷の形状に正確に合わせられるという利点がある。泡を直接吹きつけることによって止血剤が傷口から流出している血液および体液と直接触したときに瞬時に反応を起こすことの直接的な利点を享受するためには、活性のある粉末と泡が要求されたときに同時に塗布されるような設計の特殊な塗布装置が必要とされる。そのための容器は、泡物質と乾燥した止血剤を別々に収容する2つの独立した区画を備えており、止血剤が使用前に活性化しないようになっている。
【0100】
F.注入と散布
止血剤を傷口に直接届けると、流血が止まり、血液が凝固する。
【0101】
G.綿棒
この実施態様の収容容器は、乾燥した凝固剤を入れたボトルからなる。このボトルの中に綿棒を浸し、この綿棒よりも小さな局所的な傷に当てる。別の方法として、粉末をガーゼの上に振りかけ、その粉末の中で綿棒を転がすこともできる。鼻血を止めるのに止血剤を用いるには、綿棒などの形態のものがよかろう。この綿棒は、湿らせてから凝固剤に浸し、鼻孔の中に直接入れる。このようにすると、鼻孔内の敏感な膜に、他の物質を用いて焼灼などを行なった場合に生じる以上の傷ができることはなかろう。
【0102】
H.直接型容器アプリケーター
本発明を適用する別の方法は、出血している鼻の孔にぴったりと合う丸いプラスチック製の止血剤供給容器を用いることである。この容器に止血剤を充填しておくか、あるいはこの容器を使用の直前に止血剤に浸す。
【0103】
特殊な用途
本発明は、床擦れ、すなわち褥瘡の治療に適している。柔軟性のある保護用表面防護壁または仮皮膚を作り出す一方で傷の表面に酸化能を与え、そのことによって今度は治癒を促進する。褥瘡の治療は非常に難しいことがある。というのも、傷口に出血がないからである(特に糖尿病の場合)。止血剤は、酸化能を与えて細菌を殺すと同時に、汚染された空気やそれ以外のゾル化または浮遊している感染媒体から保護することで、傷の回復を促進できねばならない。
【0104】
本発明は、皮膚や組織の火傷の治療にも適している。火傷の領域を覆う保護表面または保護殻を作り出し、火傷でダメージを受けた領域の下に酸化能を生じさせることで天然組織の治癒を促進する。
【0105】
別の用途としては、例えば、外傷によって分離した表面を互いにつなぎ合わせる、および/または合体させておくための外科用シーラントがある。本発明は、外科用ステープルその他の用具や、心臓にカテーテルを挿入している間に役立つ大腿動脈栓子システムと合わせて使用することもできよう。鉄酸塩は、この鉄酸塩と接触することによって生成する硬いクロットの表面の下に酸化能を与えることにより、組織の治癒と成長を促進する。
【0106】
鉄酸塩と樹脂を組み合わせることのさらに別の利点は、流体が樹脂と接触したときの流体吸収性能である。樹脂は、流体を吸収するにつれて膨脹し、傷の内部で栓としても機能するようになる。こうして圧力が加わるため、流血を止める能力がさらに増大する。不溶性の酸である樹脂ポリマーの架橋状態を変えることによりクロットのマトリックスと構造を制御することもできる。すると、傷の表面に当てる上で重要なクロットの柔軟性と硬度を制御することができる。
【0107】
酢酸セルロース、レーヨン、ダクロン、綿、シルクなどの繊維を止血剤の中に含めて別の構造にすることができる。こうすると、クロットのマトリックスがより強く、および/またはより柔軟になる。
【0108】
本発明を外科治療システムと組み合わせると、外科的縫合や他の同様な外科的処置を行なった箇所の近傍またはその処置部分の出血を止めることもできよう。本発明の止血剤は、特殊な傷手当て用品や傷処置システムに見事なほどに適している。
【0109】
獣医学での使用には、止血剤を動物の傷口に直接塗布して迅速な治癒を促進することが含まれる。傷口は非常によく保護されており、動物が動き回ったときに傷口が再び開くことはない。これは、止血剤の結合特性と、それに関係した粘着特性のおかげである。
【0110】
図1は、止血剤のさまざまなデリバリー法の全体を示すダイヤグラムである。特殊な用途において最終生成物の形態にする際に使用する可能性のある添加物も含めてある。
【0111】
図2は、アンプルの形態をしたディスペンサー10である。シールされた成形プラスチック製の中空容器12には、粉末状の止血剤18が所定量含まれている。アンプル式ディスペンサー10を1つ取り出し、取り外し可能な末端部14を壊して引き離すと開口部16が現われ、そこから粉末18を分配することができる。
【0112】
樹脂の膨脹
ここで図3を参照し、樹脂が流体を取り込んで大きく膨脹する様子を詳しく説明する。図3からわかるように、公称で2.0%が架橋している代表的な強酸陽イオン樹脂(SAC)は、膨脹前には水分を約80%取り込む能力がある。0.5%架橋したSAC樹脂は、水分を95%取り込む能力がある。この数値は、樹脂が完全に水で飽和したときの重量に対する割合である。言い換えるならば、80%の飽和度では、樹脂そのものは全重量の20%であり、水と樹脂の重量比は4:1である。
【0113】
樹脂の流体取り込み性能または吸収性能は本発明の極めて重要な特徴であるため、樹脂の水分取り込み性能を大きくすることが、本発明の凝固作用を促進する上で非常に望ましい。この膨脹を実現するため、樹脂を約8時間経過するまでH(過酸化水素)の中で煮沸した。煮沸後、樹脂を濾過し、洗浄し、乾燥させ、混合するプロセスにおいて、選択した鉄酸塩またはオキシ酸塩と混合した。
【0114】
膨脹するプロセスにおいて、2%架橋した樹脂はビーズが元の球形を維持するが、0.5%架橋したビーズでは元々持っていた球の形が壊れ、流体を吸収する能力がほとんど完全になくなってしまう。さらに、架橋が2%の樹脂と0.5%の樹脂で製造コストを比較すると、前者のほうが実質的に優れており、上記のHOH−ラジカルを中和するのに必要な水も少ない。
【0115】
膨脹プロセスは、樹脂ポリマーからの遊離ラジカルを壊すことであると見なせよう。これは、高エネルギーの光、音波照射、照射線、漂白剤への浸漬によって実現することもできる。このプロセスのフロー・ダイヤグラムを以下に示す。
【0116】
【化10】

【0117】
樹脂が膨脹するプロセスの概略は以下のようになる。
【0118】
【化11】

【0119】
樹脂がこのように膨脹して水分または流体をより多く吸収することの利点を図3に示してある。加熱した過酸化水素中で樹脂を煮沸する時間が長くなるほど、この利点も着実に大きくなっていく。そして煮沸時間が約450分のときに水分の取り込み率が約98%で最大になる。これよりも短い煮沸時間だと、膨脹はより低いレベルである。図3からは、このようなことがわかる。
【0120】
本発明を最も実用的で最も好ましい実施態様と考えられるものについて説明してきたが、本発明の範囲内でこれ以外のものを考えることもできるため、本発明がこの明細書に開示した細部に限定されることはなく、等価なあらゆる装置や材料を含めるには、請求の範囲をすべて考慮する必要があることを認識すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出血している傷口からの流血を止める方法であって、
A.血液または水性媒体の存在下で水和して多価の金属イオンを生成させることのできる実質的に無水の鉄(VI)オキシ酸塩を、傷口から流出する血液と混合するステップと、
B.ステップAで得られるこの混合物を、血液が十分に凝固して傷口から実質的にこれ以上出血しなくなるのに十分な時間にわたって、この傷口に当てておくステップを含む方法。
【請求項2】
ステップAの混合物が、H、Li、Na、K、Rb、Cs及びFrからなるグループに由来する塩から形成されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップAの化合物が、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Al、As、NH、N(Cからなるグループに由来する塩から形成されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップAの混合物が、H、Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Cs、Ba、Fr、Ra、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Al、As、NH、N(Cからなるグループの中から選択した元素の塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップAの混合物がKFeOである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップAの混合物が、血液中の水分または水性媒体と結合してズキズキする痛みの感覚を生じさせる水酸化物(OH)を実質的にすべて除去する塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記水性媒体として、傷口から直接採取した全血および/または血漿および/またはリンパ液;
脱イオン水;
塩化ナトリウム溶液;
水性溶解化ゼラチン;
水性カルボキシメタセル;及び
炭水化物水溶液が挙げられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
血液と、タンパク質を含む血液以外の体液とが開いた皮膚の傷口から流出するのを止める方法であって、
A.血液の存在下で水和してFe3+を生成させ、血液の凝固を促進することのできる1価、または2価、または3価の実質的に無水の鉄酸塩を所定量の水性媒体と混合してペーストにするステップと、
B.ステップAで得られるこのペーストを、血液が十分に凝固して傷口から実質的にこれ以上血液または体液が流出しなくなるのに十分な時間にわたって、この傷口に当てておくステップを含む方法。
【請求項9】
出血している傷口に直接当てるのに適した止血剤であって、オキシ酸塩の有効量と、不溶性陽イオン交換物質の有効量とを含み、オキシ酸塩は、血液と結合して傷口の位置で血液の凝固を促進し、陽イオン交換物質は、血液がこれにより凝固するときに傷口を覆う保護カバーを形成する、止血剤。
【請求項10】
上記オキシ酸塩を、アルカリ及びアルカリ性塩;
遷移元素のオキシ酸塩;
ハロゲンのオキシ酸塩;並びにアルカリ及びアルカリ性酸化物、過酸化物、スーパーオキシドからなるグループの中から選択する、請求項9に記載の止血剤。
【請求項11】
上記陽イオン交換物質が、陽イオン交換樹脂と、
FeO
KMnO
Na;及び
KIOを含むグループの中から選択した化合物の混合物である、請求項9に記載の止血剤。
【請求項12】
FeOをオキシ酸塩として含み、NaHSOを酸性無機塩として含む、請求項9に記載の止血剤。
【請求項13】
出血している傷口からの流血を止める方法であって、
A.実質的に無水のオキシ酸塩の有効量と、親水性プロトン供与体の有効量を供給し、この混合物には、血液の存在下で水和させることによって血液の凝固を促進する機能があり、
B.この混合物を、血液が十分に凝固して傷口から実質的にこれ以上血液が流出しなくなるのに十分な時間にわたって、この傷口に当てておくステップを含む方法。
【請求項14】
出血している傷口に直接当てるのに適した止血剤であって、オキシ酸塩の有効量と、親水性プロトン供与体物質の有効量とを含み、オキシ酸塩は、血液と結合して傷口の位置で血液の凝固を促進し、親水性プロトン供与体物質は、オキシ酸塩が血液と結合して凝固するときに生成するヒドロキシルイオンと結合してそのヒドロキシルイオンを中和する、止血剤。
【請求項15】
上記オキシ酸塩および上記親水性プロトン供与体物質に加えて固体乾燥剤をさらに含み、この固体乾燥剤が、血液中の水分を吸収することによって血液の凝固をさらに促進する、請求項14に記載の止血剤。
【請求項16】
出血している傷口に直接当てるのに適した止血剤であって、実質的に無水の鉄酸塩化合物の有効量と、不溶性陽イオン交換物質の有効量とを含み、鉄酸塩は、血液と結合して傷口の位置における血液の凝固を促進し、陽イオン交換物質は、血液がこれにより凝固するときに傷口を覆う保護カバーを形成し、上記陽イオン交換物質は、0.5%よりも多い割合で架橋した樹脂であり、水分の取り込みが、完全に水で飽和した樹脂の全重量の実質的に80%を超えるように前処理されている、止血剤。
【請求項17】
出血している傷口に当てるのに適した止血剤のデリバリー用ビヒクルであって、止血剤を、血液または水性媒体の存在下で水和してFe3+を生成させ、血液の凝固を促進することのできる1価、または2価、または3価の鉄酸塩の実質的に無水の鉄酸塩;
不溶性陽イオン交換物質の有効量と組み合わされた実質的に無水のオキシ酸塩;及び
親水性プロトン供与体物質の有効量と組み合わされた実質的に無水のオキシ酸塩;を含んで成るグループの中から選択し;
上記ビヒクルを、上記止血剤を染み込ませた繊維材料;
加圧容器の中に収容されていて、この容器のスプレー・ノズルから放出されるときに乾燥粉末として上記止血剤と組み合わされる粉末状スプレー用基剤;
上記止血剤を染み込ませた綿棒;
上記止血剤を染み込ませた包帯;
上記止血剤を染み込ませたスポンジ;
所定量の上記止血剤を含む多孔性のティーバッグ式封入容器;
加圧された泡容器の中に収容されていて、この泡容器の放出用ノズルから放出されるときに上記止血剤と組み合わされる泡状基剤からなるグループの中から選択する、デリバリー用ビヒクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−235098(P2009−235098A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167103(P2009−167103)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【分割の表示】特願2001−579771(P2001−579771)の分割
【原出願日】平成13年4月27日(2001.4.27)
【出願人】(502389881)バイオライフ,リミティド ライアビリティー カンパニー (1)
【Fターム(参考)】