説明

止血組成物の作成方法および止血装置の作成方法

【課題】 流動性の止血組成物、当該止血組成物を用いている止血装置、および当該組成物および装置を作成する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は滅菌処理したおよび滅菌処理していない両方の止血組成物を含み、これらの組成物は生体適合性の液体を含み、この液体が止血において使用することに適していて上記液体中において実質的に不溶性である生体適合性のポリマーから成る粒子を含有しており、さらに上記組成物が、それぞれ上記液体の重量に基づいて、約20重量%までのグリセロールおよび約1重量%の塩化ベンズアルコニウムを含有しており、これらの全てが上記液体の全体において実質的に均質に分散していて実質的に均質な組成物を形成しており、さらに、本発明は上記組成物を作成するための方法、上記止血組成物を内部に配置した状態で収容している医療装置、および当該装置を作成する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給するための止血装置において用いるための流動性の止血組成物、当該組成物を利用している止血装置および当該組成物および装置を作成するための装置に関連している。
【背景技術】
【0002】
固形のスポンジまたは粉末の形態のゼラチン基材型の止血物質が市場において入手可能であり、種々の外科処置において用いられている。このゼラチン粉末は、流体と共に混合する場合に、特に平らでない種々の表面からのまたは領域に到達することが困難である出血を拡散するための流動性の押出可能で注入可能な止血物質として有用であるペーストまたはスラリーを形成することができる。また、従来のスラリーはその組成物を均一にするためにその粉末および液体を機械的に攪拌および混合することにより使用する場所において調製されている。その後、このペーストは、例えば、注射器等のような配給手段またはアプリケータの中に置かれて、傷に対して供給される。
【0003】
上記の手法の主な不都合点は上記の粉末を液体に混合して、これをペーストに混練してからこのペーストを選択した配給装置の中に戻す必要があり、これらの全てを必要な時間に使用場所において行なわなければならない。また、これらの操作は時間がかかり、その配給する製品の滅菌の状態を損なう可能性がある。従って、使用場所において容易に用いることができ、最少の操作により製品の滅菌状態を損なう危険性を伴わずに調製できる無菌の流動性で成形可能な止血組成物に対する要望が存在している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、注射器またはその他のアプリケータ等のような配給手段等の止血装置が止血組成物により予備充填可能であり、その他の操作を必要とせずに使用場所において外科医により速やかに利用可能であれば望ましいと考えられる。この場合に、上記の装置またはアプリケータの中に予備充填される止血組成物は無菌で流動性であり、最少の調製時間、およびその使用場所において配給手段を通して押し出されるか注入される際に最少の力を用いることを必要とする。本発明の組成物は上記のような特性および予備充填型の装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給するための止血装置を調製する場合の使用に適している止血組成物に関連している。この組成物は生体適合性の液体、固体、すなわち、止血における使用に適している生体適合性のポリマーから成り上記液体中において実質的に不溶性である多孔質または非多孔質の粒子、液体の重量に基づいて約20重量%のグリセロール、および液体の重量に基づいて約1重量%までの塩化ベンズアルコニウムを含有している実質的に均質なペーストまたはスラリーを含む。上記固体の粒子、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムは上記液体の全体において実質的に均質に分散している。また、上記液体の上記固体粒子に対する比率は滅菌処理の前後において止血特性を伴う組成物を形成するために有効である。本発明の組成物は使用時の十分前に調製可能であり、使用場所において調製する必要が無く、さらにこれらの組成物はその使用場所および使用時において流動性、押出可能性、注入可能性を示すために有効な物理特性を維持する。本発明はまた上記の止血組成物を作成する方法、内部に配置されている滅菌処理した上記組成物を収容している医療装置および当該装置を作成する方法も含む。
【発明の効果】
【0006】
従って、本発明によれば、止血組成物により予備充填可能であり、その他の操作を必要とせずに使用場所において外科医により速やかに利用可能である止血装置、および当該装置の中に予備充填可能であり、その際に無菌で流動性であり、最少の調製時間、および使用場所において配給手段を通して最少の力により供給可能な止血組成物が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の滅菌処理したおよび滅菌処理していない組成物は共に固体、すなわち、止血における使用に適している生体適合性のポリマーにより成る多孔質または非多孔質の粒子、生体適合性の液体、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムを含有している。これらの組成物の各成分は実質的に均質な止血組成物を形成するために有効な種々の条件下において組み合わされて混合されている。この組成物の中に含有されている粒子の量および平均の直径およびその固体および液体の相対的な量は止血性および本明細書において以下に述べられているような物理特性を有する組成物を形成するために有効直径である。
【0008】
上記のように形成した止血組成物は止血性のペーストまたはスラリーであり、塩化ベンズアルコニウムおよびグリセロールを含有していない種々のペーストに比して改善された特性を示す。本発明の組成物はそれぞれの目的とする使用の時間の十分前に調製して、従来の種々の止血組成物を分配するために用いる注射器またはその他の既知のアプリケータ等のような医療装置の中に充填し、電離線の照射により滅菌処理できる。さらに、これらの組成物はその組成物の調製を容易にして、物理特性および機械特性を向上し、その組成物の止血特性を改善して抗菌性を賦与するために種々の添加物を含有できる。
【0009】
本明細書において用いられているように、「実質的に均質である(substantially homogenous)」は上記の固体:液体の比率が実質的に同一になるように上記固体が上記液体の全体において均一に分散しているそれぞれの組成物またはペーストの物理的な状態を示している。
【0010】
また、本明細書において用いられているように、「無菌の(sterile)」は、本明細書において記載されて特許請求されている組成物および医療装置に関係している政府の基準により認められていて記述されている程度に、生活している細菌および/または微生物が実質的に存在していない状態を意味している。
【0011】
また、本明細書において用いられているように、「止血性の(hemostatic)」または「止血特性(hemostatic properties)」は、止血の技術分野における熟練者がその用語の意味を理解すると考えられ、本明細書の各実施例においてさらに例証されており、本明細書において記載されて特許請求されている組成物および医療装置に関係している政府の基準により認められていて記述されている程度に、出血を停止または最少にする能力を意味している。
【0012】
さらに、本明細書において用いられているように、「最大圧出力(Peak Expression Force)」は本明細書の各実施例において記載されているような、14ゲージ型血管カテーテルの先端部分を取り付けている予備充填した10ccのベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)(BD)型ルアー注射器から組成物を押し出すために必要とされる最大の力の値である。
【0013】
種々の生体適合性の天然、半合成または合成のポリマーが本発明の組成物において使用する固体の粒子を調製するために使用できる。この選択されるポリマーはその特定の組成物に対応して選択される液体中において実質的に不溶性でなければならない。好ましくは、機械的、化学的および/または生物学的な止血の活性を示す非水溶性で生体崩壊性の種々のポリマーが用いられる。さらに、これらのポリマーは種々のタンパク質および多糖類を含むことができるが、これらに限定されない。さらに、使用可能な多糖類は酸化セルロース、キトサン、キチン、アルギネート、酸化アルギネートおよび酸化デンプンを含む。好ましくは、上記粒子を調製するために用いる生体適合性のポリマーはゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲンまたはフィブロネクチン等のような架橋または変性したタンパク質である。さらに、好ましいゼラチン粉末はエシコン・インコーポレイテッド社(Ethicon, Inc.)の一事業部であるジョンソン・アンド・ジョンソン・ウウンド・マネージメント社(Johnson & Johnson Wound Management)から入手可能なサージフォーム(Surgifoam)(登録商標)止血性ゼラチン粉末である。このサージフォーム(Surgifoam)(登録商標)粉末はゼラチン・スポンジ材を、レーザー回折により決定した場合に、約40ミクロン乃至約1200ミクロン、さらに好ましくは約100ミクロン乃至約1000ミクロンの平均直径を有する粒子に微粉砕することにより調製した部分的に架橋しているゼラチン粉末である。
【0014】
本発明の組成物は連続的な液体の相を有しており、この相の中に、上記の固体粒子、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムが分散している。特定の医療装置およびその使用方法に応じて、上記液体は水性または非水性にすることができる。ただし、好ましくは、上記液体は水性である。このような水性の液体は塩化カルシウムおよび生理食塩水等のような種々の生体適合性の水性溶液を含むことができるが、これらに限定されない。さらに好ましくは、上記液体は生理食塩水を含む。これらの液体および固体粒子は止血を行なうことにおける使用に適しているペーストまたはスラリーを形成するために有効である種々の相対的な量において存在している。ただし、固体粒子の相の過度の希釈は、上記の最大圧出力をさらに低下するので有利であるが、その材料の止血特性に悪影響を及ぼすことになり、それゆえ望ましいと考えられない。この結果、上記の固体粒子の液体に対する重量比率は一般に約1:2乃至1:12である。さらに、上記固体のゼラチン粒子の生理食塩水に対する好ましい重量比率は約1:3乃至約1:6である。
【0015】
本発明の組成物は、電離放射線により照射されていると言う点において、無菌である本明細書において記載されている種々の組成物を含有している。このような照射は電子線またはガンマ線の照射を含むことができる。また、上記組成物を照射する時間を含む照射の量および滅菌処理の種々の条件は、本明細書において定められているような、種々の無菌の組成物を形成する条件である。なお、この開示の恩恵を受けた後に、当該技術分野における熟練者は種々の無菌の組成物を形成するために必要な照射の量を容易に決定できるようになる。
【0016】
グリセロールは組成物の押出可能性または注入可能性を高めるために本発明の組成物に添加されている。このグリセロールは上記液体の約0重量%乃至約20重量%において上記組成物中に存在している。好ましくは、上記組成物は上記液体の重量に基づいて、約1重量%乃至約10重量%のグリセロールを含有している。さらに好ましくは、上記組成物は上記液体の重量に基づいて、約1重量%乃至約5重量%のグリセロールを含有している。
【0017】
加えて、塩化ベンズアルコニウム等のような第四級アミンであるポリブレン(Polybrene)またはオナマー・M(Onamer M)が上記組成物に改善された特性を賦与するために用いられている。好ましくは、この塩化ベンズアルコニウムは上記液体の重量に基づいて、上記組成物の約1重量%までの量で用いられている。さらに好ましくは、この塩化ベンズアルコニウムは上記液体の重量に基づいて、上記組成物の約0.001重量%乃至約0.01重量%の量で用いられている。さらに好ましくは、上記組成物は約0.002重量%乃至約0.006重量%の塩化ベンズアルコニウムを含有している。この場合に、この塩化ベンズアルコニウムは上記組成物において多数の機能を果たし、抗菌剤、発泡剤、ラジカル・スカベンジャーとしておよびヘパリン中和剤として作用する。
【0018】
上記の止血組成物はさらに種々のヘパリン中和剤、トロンビン、フィブリノゲン、フィブリン、第Xa因子、または第VIIa因子等のような、凝血物質(procoagulants)または止血物質を含有できる。なお、「有効な量(effective amount)」とは、上記の添加物が添加される場合に上記組成物に上記の種々の特性を賦与するために必要な量を意味する。この有効な量はまた有害な生物の影響を生じることなく添加できる最大の量により制限されている。
【0019】
本発明の組成物は照射に対して影響を受けやすい種々の添加物が用いられている種々の止血組成物において使用する場合に特に有利である。例えば、トロンビンは、水性溶液中において、滅菌用の照射に曝される場合に全ての凝血活性を失うことが知られている。これに対して、実施例3において示されているように、本発明による種々の組成物中において配合される場合に、トロンビンはその元の酵素活性の約40%およびその止血活性の全てを滅菌処理後に保持している。なお、ウシのトロンビンが本明細書において例示されているが、ヒト由来型のトロンビンも本発明の組成物において用いることができる。
【0020】
本発明の止血組成物が利用可能である医療装置は止血を必要としている部位または傷に対して流動性のまたは注入可能な止血性のペーストまたはスラリーを供給するために現在において用いられている任意の装置を含む。さらに、上記の止血を必要としている部位は傷害または外科処置の結果とすることができる。また、上記の装置またはアプリケータの例はベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)型ルアー注射器またはモノジェクト(Monoject)型注射器等のような種々の注射器を含む。さらに、別の装置が米国特許第6,045,570号において詳細に開示されており、この内容はその全体において本明細書に参考文献として含まれる。
【0021】
本発明の組成物を作成するための一例の実施形態において、溶液を形成するために上記の塩化ベンズアルコニウムおよびグリセロールを生理食塩水中において最初に混合することにより実質的に均質なペーストが調製されている。この生理食塩水の溶液は上述したようにその中に溶けている種々の有効な量の別の添加物を含有できる。その後、上記粒子が上記の溶液中にこれらの粒子がその溶液全体に実質的に均質に分散されるまで混合して組み込まれることにより、上記の実質的に均質なペーストまたはスラリーが形成される。なお、この混合は押出処理によるか、上記固体粒子の溶液中における均一な分散を行なうために有効な種々の条件下における混合処理により達成できる。この場合に、上記固体粒子の液体に対する好ましい比率(重量/容量)は約1:12乃至約1:2(g/ml)である。
【0022】
あるいは、本発明の組成物の作成において二軸遊星形ミキサーを利用できる。この場合に、上記の生理食塩水の溶液が上述したように調製されてこのミキサーに加えられる。その後、上記固体の粒子が、最も一般的には粉末の形態で、時間をかけて上記ミキサーの中の溶液に加えられて、その溶液全体の中に均一に分散された上記固体を含有している実質的に均質な組成物が形成される時間まで連続的な混合が行なわれる。さらに、望まれる場合に、上記粉末は、それぞれの粒子の多孔度または直径が悪影響を外界から受けるかひとりでに生じない限りにおいて、取り扱い性を改善して粉塵を最少にするために上記溶液への添加の前に成形または圧縮することができる。
【0023】
上記のように調製した止血組成物は上述したように医療装置の中に移され、その組成物を収容している装置が、好ましくは、電離放射線により滅菌処理される。さらに好ましくは、この滅菌処理は本明細書において例示されているようなガンマ線の照射により行なわれる。
【0024】
以下の実施例は本発明の特定の幾つかの実施形態を示しているが、これらは本発明の範囲を限定することを目的とするためではなく、むしろ、本発明の完全な説明に貢献することを目的としている。
【実施例】
【0025】
実施例1:
合計で10個のサンプルが以下のように調製されている。1グラムの乾燥したサージフォーム(Surgifoam)(登録商標)をプラスチック容器の中に入れて、4mlの生理食塩水と共に混合した。この容器に蓋をして、その内容物を均一な濃度の実質的に均質なペーストが得られるまで振盪した。その後、このペーストを円筒形の形状に形成して、10ccのBD型ポリプロピレン廃棄式ルアー注射器の中に入れた。次に、これらの注射器に蓋をして、その充填した注射器の内の5個を25kGyの線量におけるガンマ線の照射により滅菌処理した。この場合の最大圧出力が決定されて以下の表1において示されている。この場合に、滅菌処理していないサンプルは1aとして示されており、滅菌処理したサンプルは1bとして示されている。
【0026】
実施例2:
合計で10個のサンプルが以下のように調製されている。0.005重量%の塩化ベンズアルコニウムおよび5重量%のグリセロールを含有している生理食塩水の溶液を調製した。この溶液を用いて実施例1において記載されているような均質なゼラチン粉末の種々のペーストを調製した。その後、このペーストを円筒形の形状に形成して、10ccのBD型ポリプロピレン廃棄式ルアー注射器の中に入れた。次に、これらの注射器に蓋をして、その充填した注射器の内の5個を25kGyの線量におけるガンマ線の照射により滅菌処理した。この場合の最大圧出力が決定されて以下の表1において示されている。この場合に、滅菌処理していないサンプルは2aとして示されており、滅菌処理したサンプルは2bとして示されている。
【0027】
最大圧出力の決定:
以下の各実施例において調製したサンプルを2インチ(5.08cm)/分の速度で50ポンド(22.7キログラム)のロード・セル[DFG550]を使用するシャチロンTCD200(Chatillon TCD 200)により決定した場合の最大圧出力について試験した。内在式のカテーテル・シース(寸法:12ゲージ乃至14ゲージ)を試験するサンプルの注射器に取り付けた。その後、この注射器を保持用の装置の中に挿入した後に、この装置を上記の試験器具に装填した。この場合の最大圧出力が以下に記載されている。
【0028】
【表1】

【0029】
表1のデータが示すように、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムを上記ペーストの全体に均質に分散した状態で含有することはグリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムを含有していないペーストに比べて滅菌処理の前に組成物の最大圧出力を有意義に低下する。この結果、本発明の滅菌処理した組成物はこれらの成分を含まない滅菌処理したペーストの最大圧出力よりも有意義に小さい最大圧出力を示す。実際に、本発明の滅菌処理した組成物の最大圧出力はグリセロールまたは塩化ベンズアルコニウムを全く含まない滅菌処理前のペーストの最大圧出力に近い。
【0030】
ブタの脾臓の生検パンチ・モデルにおける異なる材料の止血性能:
実施例1および2において調製したそれぞれのサンプルの止血特性の評価のためにブタの脾臓の生検パンチ・モデルを用いた。この場合に、6mmのパンチを用いて組織の皮弁を3mmの深さに切断した。その後、この組織の皮弁と0.4mlの試験材料を傷の部位に適用した。手による圧力を2分間にわたり傷に加えて保持した。その後、その傷の部位を出血の徴候について3分間まで観察した。さらに付加的な出血が観察される場合に、完全な止血が達成されるまでその度ごとに30秒間の手による圧縮の付加的な適用を行なった。以下の表2はこの評価の結果を示している。この場合に、滅菌処理をしないまたは滅菌処理した各サンプルの結果は試験した全てのサンプルにおける平均値として示されている。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例3:
凍結乾燥処理したウシのトロンビン(20,000単位のトロンボゲンJJMI)の2個のバイアルを20mlの生理食塩水の中において再構成することにより1000単位/mlの作業溶液を作成した。その後、凝固活性を実施例3において記載されているように生体外試験において測定した。この材料の1個のバイアルを4℃乃至8℃において保管してその凝固活性を1日目、8日目および30日目においてそれぞれ測定した。その後、第2のバイアルをガンマ線照射(25kGY)により滅菌処理して、その凝固活性を以下のように測定した。この場合に、滅菌処理をしないまたは滅菌処理した各サンプルがサンプル3aおよび3bとしてそれぞれ示されている。なお、この滅菌処理したおよび滅菌処理していない各サンプルはそれぞれの測定の間に4℃乃至8℃において保管されている。
【0033】
さらに、凍結乾燥処理したウシのトロンビンの20,000単位の別の2個のバイアルを0.005%の塩化ベンズアルコニウムおよび5%のグリセロールを含有している生理食塩水中において再構成した。1個のバイアルを4℃乃至8℃において保管して、その凝固活性を0日目、1日目、8日目および30日目において測定した。その後、第2のバイアルをガンマ線照射(25kGY)により滅菌処理して、その凝固活性を以下のように測定した。これらの測定の間において、上記の滅菌処理したおよび滅菌処理していないサンプルは共に4℃乃至8℃において保管されている。この場合に、滅菌処理をしないまたは滅菌処理した各サンプルがサンプル3cおよび3dとしてそれぞれ示されている。
【0034】
上記のトロンビンを含有している各ゼラチン・ペーストを上述したように1グラムのサージフォーム・ゼラチン粉末と5mlのトロンビン溶液とを混合することにより調製した。この場合に、サンプル3eは上記サンプル3aの滅菌処理していない溶液の5mlに対してサージフォーム粉末を混合することにより調製されている。また、サンプル3fは上記の滅菌処理していないサンプル3cの5mlに対してサージフォーム粉末を混合することにより調製されている。さらに、サンプル3gは上記サンプル3cの5mlに対してサージフォーム粉末を混合することにより調製されている。その後、これらの結果として得られたペーストを10ccの注射器の中にそれぞれ装填した。さらに、これらの注射器をガンマ線の照射(25kGy)により滅菌処理して、その凝固活性を以下のように測定した。
【0035】
フィブロメーター器具(BBL)中における生体外凝固試験によるトロンビン活性の測定
方法:0.2mlの貯留した正常な血漿(シトロール・レベル1(Citrol Level 1)対照血漿、デイド・ダイアグノステイクス社(Dade Diagnostics))のベロナル(Veronal)緩衝液中(pH7.2)において調製したトロンビンを含有している試験サンプルの一連の希釈物を上記フィブロメーターのインキュベータ・ブロックの中において37℃に加温した。次に、0.1mlのサンプルの希釈物を上記の血漿に加えて、タイマーを同時に始動した。この凝固形成に要する時間を記録した。この場合に、全てのサンプルを2回試験し、平均の凝固時間を計算した。これらのデータがlog10(常用対数)の希釈物対log10の凝固時間としてグラフに示されており、回帰分析が行なわれている。この場合に、新しく調製したトロンビンは100%の活性を有していると見なされ、その他の全てサンプルは上記の新しく調製したトロンビンに対する活性の割合として計算されている。これらの結果が表3および4において示されている。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給するための止血装置を調製する場合の使用に適している止血組成物に適用できる。この組成物は生体適合性の液体、固体、すなわち、止血における使用に適している生体適合性のポリマーから成り上記液体中において実質的に不溶性である多孔質または非多孔質の粒子、液体の重量に基づいて約20重量%のグリセロール、および液体の重量に基づいて約1重量%までの塩化ベンズアルコニウムを含有している実質的に均質なペーストまたはスラリーを含む。上記固体の粒子、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムは上記液体の全体において実質的に均質に分散している。また、上記液体の上記固体粒子に対する比率は滅菌処理の前後において止血特性を伴う組成物を形成するために有効である。本発明の組成物は使用時の十分前に調製可能であり、使用場所において調製する必要が無く、さらにこれらの組成物はその使用場所および使用時において流動性、押出可能性、注入可能性を示すために有効な物理特性を維持する。本発明はまた上記の止血組成物を作成する方法、内部に配置されている滅菌処理した上記組成物を収容している医療装置および当該装置を作成する方法にも適用できる。
【0039】
本発明の具体的な実施態様は以下のとおりである。
(1)止血組成物において、
生体適合性の液体、
止血において使用することに適していて前記液体中において不溶性である生体適合性のポリマーの粒子、
前記液体の約1重量パーセントまでの塩化ベンズアルコニウム、および
前記液体の約20重量パーセントまでのグリセロールを含有しており、
前記粒子、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムが前記液体の全体において実質的に均質に分散しており、前記液体の前記粒子に対する比率が前記組成物に止血特性を賦与するために有効である止血組成物。
(2)前記液体が水性である実施態様1に記載の組成物。
(3)前記液体が生理食塩水を含む実施態様2に記載の組成物。
(4)前記生体適合性のポリマーがゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲンおよびフィブロネクチンから成る群から選択されるタンパク質である実施態様3に記載の組成物。
(5)前記タンパク質がゼラチンを含む実施態様4に記載の組成物。
【0040】
(6)前記粒子の平均の直径が約40ミクロン乃至約1200ミクロンである実施態様5に記載の組成物。
(7)前記粒子および前記液体がg/mlに基づいて約1:2乃至約1:12の比率で前記止血組成物中に存在している実施態様6に記載の組成物。
(8)さらに、抗菌剤、発泡剤、発泡安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、希釈剤、潤滑剤、湿潤化剤、照射安定化剤、可塑剤、ヘパリン中和剤、凝血剤および止血剤から成る群から選択される機能的に有効な量の添加物を含有している実施態様1に記載の組成物。
(9)前記液体の重量に基づいて、約1重量パーセント乃至約10重量パーセントのグリセロールを含有している実施態様1に記載の組成物。
(10)前記液体の重量に基づいて、約0.001重量パーセント乃至約0.01重量パーセントのグリセロールを含有している実施態様1に記載の組成物。
【0041】
(11)前記組成物が無菌である実施態様1に記載の組成物。
(12)前記組成物が無菌である実施態様8に記載の組成物。
(13)前記機能的な添加物がフィブリノゲンおよびトロンビンから成る群から選択される実施態様12に記載の組成物。
(14)止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給することに適している止血装置を調製することにおいて使用することに適している実質的に均質な止血組成物を作成するための方法において、
生体適合性の液体を含み、当該液体の重量に基づいて、約20重量パーセントのグリセロールおよび約1パーセントまでの塩化ベンズアルコニウムを含有している溶液を調製する処理、
前記溶液を止血において使用することに適していて前記溶液中において実質的に不溶性である生体適合性のポリマーの粒子と共に組み合わせる処理、
前記溶液および前記粒子を前記溶液の全体において当該粒子を実質的に均質に分散するために有効な条件下において混合することにより、前記実質的に均質な止血組成物を形成する処理、
を含み、前記液体の前記粒子に対する比率が前記組成物に止血特性を賦与するために有効である方法。
(15)前記液体が生理食塩水を含む実施態様14に記載の方法。
【0042】
(16)前記生体適合性のポリマーがゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲンおよびフィブロネクチンから成る群から選択されるタンパク質である実施態様15に記載の方法。
(17)前記タンパク質がゼラチンを含む実施態様16に記載の方法。
(18)前記粒子の平均の直径が約40ミクロン乃至約1200ミクロンである実施態様17に記載の方法。
(19)さらに、抗菌剤、発泡剤、発泡安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保湿剤、潤滑剤、増粘剤、希釈剤、湿潤化剤、照射安定化剤、ヘパリン中和剤、凝血剤および止血剤から成る群から選択される機能的に有効な量の添加物を前記液体に添加する処理を含む実施態様14に記載の方法。
(20)さらに、ある量の電離放射線の照射により無菌の実質的に均質な組成物を形成するために有効な時間にわたり前記実質的に均質な組成物を照射する処理を含む実施態様14に記載の方法。
【0043】
(21)さらに、ある量の電離放射線の照射により無菌の実質的に均質な組成物を形成するために有効な時間にわたり前記実質的に均質な組成物を照射する処理を含む実施態様19に記載の方法。
(22)前記添加物がフィブリノゲンおよびトロンビンから成る群から選択される実施態様21に記載の方法。
(23)止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給することに適している医療装置において、当該装置が実質的に均質な止血組成物をその内部に配置されており、当該実質的に均質な止血組成物が
止血において使用することに適している生体適合性のポリマーの粒子を含有している生体適合性の液体を含み、前記生体適合性のポリマーが前記液体の相の中において実質的に不溶性であり、さらに前記止血物質が、約20重量パーセントまでのグリセロール、および約1重量パーセントまでの塩化ベンズアルコニウムを含有しており、
前記粒子、前記グリセロールおよび前記塩化ベンズアルコニウムが前記液体の全体において実質的に均質に分散しており、前記液体の前記粒子に対する比率が前記組成物に止血特性を賦与するために有効である医療装置。
(24)前記液体の相が生理食塩水を含む実施態様23に記載の装置。
(25)前記生体適合性のポリマーがゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲンおよびフィブロネクチンから成る群から選択されるタンパク質である実施態様24に記載の装置。
【0044】
(26)前記タンパク質がゼラチンを含む実施態様25に記載の装置。
(27)前記粒子の平均の直径が約40ミクロン乃至約1200ミクロンである実施態様26に記載の装置。
(28)前記組成物がさらに抗菌剤、発泡剤、発泡安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、潤滑剤、希釈剤、湿潤化剤、照射安定化剤、可塑剤、ヘパリン中和剤、凝血剤および止血剤から成る群から選択される機能的に有効な量の添加物を含有している実施態様23に記載の装置。
(29)前記組成物および前記装置が無菌である実施態様23に記載の装置。
(30)前記組成物および前記装置が無菌である実施態様28に記載の装置。
【0045】
(31)前記機能的な添加物がフィブリノゲンおよびトロンビンから成る群から選択される実施態様30に記載の装置。
(32)止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給することに適している医療装置を作成するための方法において、
実質的に均質な止血組成物を供給する処理を含み、当該組成物が生体適合性の液体、止血において使用することに適していて前記液体中において実質的に不溶性である生体適合性のポリマーの粒子、前記液体の重量に基づいて、約20重量%までのグリセロール、および前記液体の重量に基づいて、約1重量%までの塩化ベンズアルコニウムを含有しており、
前記粒子、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムが前記液体の全体において実質的に均質に分散しており、前記液体の前記粒子に対する比率が前記組成物に止血特性を賦与するために有効であり、さらに
前記実質的に均質な止血組成物を前記医療装置の中に分配する処理を含む方法。
(33)前記液体が生理食塩水を含む実施態様32に記載の方法。
(34)前記生体適合性のポリマーがゼラチン、コラーゲン、フィブリノゲンおよびフィブロネクチンから成る群から選択されるタンパク質を含む実施態様33に記載の方法。
(35)前記タンパク質がゼラチンを含む実施態様34に記載の方法。
【0046】
(36)前記粒子の平均の直径が約40ミクロン乃至約1200ミクロンである実施態様35に記載の方法。
(37)さらに、抗菌剤、発泡剤、発泡安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保湿剤、潤滑剤、増粘剤、希釈剤、湿潤化剤、照射安定化剤、ヘパリン中和剤、凝血剤および止血剤から成る群から選択される機能的に有効な量の添加物を前記液体の相に添加する処理を含む実施態様32に記載の方法。
(38)さらに、前記実質的に均質な組成物が内部に分配されている前記装置をある量の電離放射線の照射により無菌の実質的に均質な止血組成物が内部に分配されている無菌の装置を形成するために有効な時間にわたり照射する処理を含む実施態様32に記載の方法。
(39)さらに、前記実質的に均質な組成物が内部に分配されている前記装置をある量の電離放射線の照射により無菌の実質的に均質な止血組成物が内部に分配されている無菌の装置を形成するために有効な時間にわたり照射する処理を含む実施態様37に記載の方法。
(40)前記添加物がフィブリノゲンおよびトロンビンから成る群から選択される実施態様39に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給することに適している止血装置を調製することにおいて使用することに適している均質な止血組成物を作成するための方法において、
生体適合性の液体を含み、当該液体の重量に基づいて、20重量パーセントまでのグリセロールおよび1パーセントまでの塩化ベンズアルコニウムを含有している溶液を調製すること、
前記溶液を止血において使用することに適していて前記溶液中において不溶性である生体適合性のポリマーの粒子と共に組み合わせること、
前記溶液および前記粒子を前記溶液の全体において当該粒子を均質に分散するために有効な条件下において混合して、前記均質な止血組成物を形成することを含み、
前記粒子の前記液体に対する比率(重量/容量)が、前記組成物に止血特性を賦与するために有効な、1:12乃至1:2(g/ml)であり、
前記液体が生理食塩水を含んでなり、前記生体適合性のポリマーがゼラチンを含んでなり、前記粒子の平均の直径が40ミクロン乃至1200ミクロンである方法。
【請求項2】
さらに、抗菌剤、発泡剤、発泡安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保湿剤、潤滑剤、増粘剤、希釈剤、湿潤化剤、照射安定化剤、ヘパリン中和剤、凝血剤および止血剤から成る群から選択される機能的に有効な量の添加物を前記液体に添加することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、ある量の電離放射線の照射により無菌の均質な組成物を形成するために有効な時間にわたり前記均質な組成物を照射することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、ある量の電離放射線の照射により無菌の均質な組成物を形成するために有効な時間にわたり前記均質な組成物を照射することを含む請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記添加物がフィブリノゲンおよびトロンビンから成る群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
止血を必要としている部位に流動性の止血組成物を供給することに適している医療装置を作成するための方法において、
均質な止血組成物を供給することを含み、当該組成物が生体適合性の液体、止血において使用することに適していて前記液体中において不溶性である生体適合性のポリマーの粒子、前記液体の重量に基づいて、20重量%までのグリセロール、および前記液体の重量に基づいて、1重量%までの塩化ベンズアルコニウムを含有しており、
前記粒子、グリセロールおよび塩化ベンズアルコニウムが前記液体の全体において均質に分散しており、前記粒子の前記液体に対する比率(重量/容量)が、前記組成物に止血特性を賦与するために有効な、1:12乃至1:2(g/ml)であり、前記液体が生理食塩水を含んでなり、前記生体適合性のポリマーがゼラチンを含んでなり、前記粒子の平均の直径が40ミクロン乃至1200ミクロンであり、さらに
前記均質な止血組成物を前記医療装置の中に分配することを含む方法。
【請求項7】
さらに、抗菌剤、発泡剤、発泡安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保湿剤、潤滑剤、増粘剤、希釈剤、湿潤化剤、照射安定化剤、ヘパリン中和剤、凝血剤および止血剤から成る群から選択される機能的に有効な量の添加物を前記液体の相に添加することを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
さらに、前記均質な組成物が内部に分配されている前記装置を、ある量の電離放射線の照射により無菌の均質な止血組成物が内部に分配されている無菌の装置を形成するために有効な時間にわたり照射することを含む請求項6に記載の方法。
【請求項9】
さらに、前記均質な組成物が内部に分配されている前記装置を、ある量の電離放射線の照射により無菌の均質な止血組成物が内部に分配されている無菌の装置を形成するために有効な時間にわたり照射することを含む請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記添加物がフィブリノゲンおよびトロンビンから成る群から選択される請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2012−210479(P2012−210479A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−170859(P2012−170859)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【分割の表示】特願2005−23789(P2005−23789)の分割
【原出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】