説明

止血組成物及び治療法

本発明は全般的に、創傷を治療するために使用できる方法、組成物及び装置を含む、止血の分野に関する。より詳細には、本発明は、創傷被覆材交換の頻度を減らすことにより、慢性創傷患者のケアの必要性及びコストを低減させる止血組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.分野)
本出願は全般的に、増加した速度で又は減少した期間で止血を達成するために使用できる方法、組成物及び装置を含む、止血の分野に関する。より詳細には、本出願は、創傷及び創傷処置のための治療法に適用できる止血組成物を記載する。止血組成物は、ポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミン被覆材などの、1以上の生体適合性ポリマー又は繊維を含み得る。任意に、ポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミン被覆材は、減少した分子量及び長さの照射を受けたポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミンを含む。
【背景技術】
【0002】
(2.背景)
創傷治癒又は創傷修復は、真皮及び表皮組織を再生する身体の自然なプロセスである。創傷が発生した後、一連の複雑な生化学的現象が緊密に組織化されたカスケードにおいて起こり、創傷を治療する。これらの現象は時を違えず重複し、人工的に別々のステップへと分類できる:炎症段階、増殖段階、並びに成熟段階及びリモデリング段階。炎症段階において、細菌及び破片は食菌されて除去され、増殖段階に関与する細胞の移動及び分裂を引き起こす因子を放出する。増殖段階は、血管新生(内皮細胞からの新しい血管の形成)、線維増殖、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、上皮形成、及び創傷収縮によって特徴づけられる。成熟及びリモデリング段階において、コラーゲンは緊張線に沿ってリモデリング及び再編成され、もはや必要でない細胞はアポトーシスにより除去される。
【0003】
2種類の創傷、開放創及び閉鎖創がある。開放創は、創傷を引き起こした物体に従って分類される。例えば、切開又は切創(外科的創傷を含む)は、ナイフ、カミソリ又はガラス破片などのきれいな、鋭利な物体によって生じる。裂傷は、硬組織の上にある軟組織への鈍い衝撃によって生じる不規則な創傷(例えば、頭蓋骨を覆っている皮膚の裂傷(laceration))であり、又は例えば出産によって生じる皮膚及び他の組織の裂傷(tearing)である。擦過傷又は擦傷は、皮膚(表皮)の一番上の層がこすり取られる表在性創傷である。刺創は、釘又は針などの皮膚を穿刺する物体によりもたらされる。貫通創傷は、身体に入るナイフなどの物体によりもたらされる。銃創は、身体内に(例えば、刺入創)及び/又は身体を通って(例えば、流出創)進む弾丸又は同様の発射体によりもたらされる。医学的状況において、全ての刺創及び銃創は、大きな創傷と考えられる。開放創はまた、熱傷、化学創傷、又は電気創傷により誘発される熱傷創を含む。
【0004】
閉鎖創は、挫傷(より一般的には打撲として知られ、皮膚の下の組織を損傷する鈍い力外傷によりもたらされる)、血腫(血液腫瘍とも呼ばれ、次々に血液を皮膚の下に集まらせる血管への損傷によりもたらされる)、及び圧壊創傷(長い期間に渡って適用される大量の又は極度量の力によりもたらされる)を含む。
【0005】
慢性創傷は、整然とした及び時機を得た一連の現象を介して進行できなかった創傷であり、永続的な構造的、機能的及び表面的な閉鎖を生じる。多くの慢性創傷は、皮膚創傷又は潰瘍であり、糖尿病、静脈うっ血、動脈不全又は圧力などの要因によりもたらされる。特定の皮膚創傷は熱傷創であり、熱傷、化学創傷、又は電気創傷により誘導される。慢性創傷は、著しい苦痛の出所である。治療しないままである場合、創傷は、生命を脅かす事態を生じさせ、回復速度を低減させ、又は他の健康状態を悪化させることがあり得る。集中的かつ有効な治療は、皮膚の完全性を回復するのを助けることができ、好ましくない健康問題を回避できる。これらの創傷は異なる原因によって負わされるが、創傷治癒プロセス及び創傷治療戦略は多くの点において類似する。
【0006】
褥瘡は、著しく生活の質を低減させ、一般的予後に負の影響を及ぼし得る圧力潰瘍の一種である。褥瘡は、軟組織が長期間、骨隆起と固い表面との間に圧迫されるときに発現する皮膚創傷の限局部分である。褥瘡は、通常、身体位を変えることなく長期間横たわっているか又は座っていることから発現する。寝たきりの者について、褥瘡は、踵、寛骨、及び下背若しくは尾骨に、又はその周辺で最も形成されるであろう。圧力潰瘍は、患者の体位によって、脊椎、足関節、膝肩及び頭部を含む、様々な他の領域において発現することもあり得る。治療されないままである場合、褥瘡は、炎症、細菌感染及び他の重篤な事態を伴って上皮組織の崩壊の段階に悪化し得る。感染に対する身体の反応はしばしば、発熱、悪寒、精神状態の変化、頻脈、及び呼吸数を生じる。
【0007】
相互作用的一時被覆材を含む一時被覆材は、最終的な閉鎖が達成できるまで支持治療を提供することを意図する。一時被覆材は、ヒトの皮膚によく似た障壁として機能すると思われる。利用できる創傷被覆材はある程度有効であるが、高頻度の被覆材交換、創傷乾燥又は被覆材付着、高い治療費用、異物反応の発現、及び特に高齢患者における改善の低い割合などの重大な欠点を有する。異物反応は、創傷部位での滲出液の蓄積、該領域を創傷清拭する炎症細胞の浸潤、及び肉芽組織の形成を含む創傷治癒として始まる。しかしながら、異物の持続的な存在は、完全な治癒を阻害し得る。創傷治癒において起こる再吸収及び再構成よりむしろ、異物反応は、異物巨細胞の形成、異物のカプセル化、及び慢性的炎症により特徴づけられる。カプセル化とは、通常は異物周辺で堆積する堅い無血管コラーゲンシェルをいい、宿主組織から異物を効果的に分離する。この反応は、保護対策として発達してきた。異物反応は、慢性的な痛みにつながり得る。
【0008】
創傷のサイズ及びタイプに応じて、慢性創傷の治癒時間は、数週から1年にわたり得る。創傷治療は、多くの直接的及び間接的費用を必要とする。創傷管理における国際委員会(International Committee on Wound Managemen)(ICWM)によると、創傷被覆材は、直接的な総治療費の10パーセント〜15パーセントのみを占める(International Committee on Wound Management, 1994, Wounds 6(3):94-100)。対照的に、総費用のかなりのパーセンテージは、ケア提供者給料及びスタッフ費用に起因する(International Committee on Wound Management, 1994, Wounds 6(3):94-100)。
【0009】
異物反応を誘発しないか又は従来の創傷被覆材より低い速度で異物反応を誘発する創傷被覆材用の技術の必要性がある。そのような創傷被覆材は、低頻度での交換に必要とされ、かつ閉鎖への治癒時間を短縮し、それゆえ患者のためのより有効な治療法及びケアコストの減縮へと言い換えることができる。
【発明の概要】
【0010】
(3.要旨)
本出願は、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン(「pGlcNAc」又は「NAG」)を糖尿病マウスモデルの創傷に投与する場合に、創傷治癒が向上し、かつ創傷被覆材交換の必要性が低減することの発明者の発見に一部基づく。これらの研究は、pGlcNAcが、現在使用中である他の創傷被覆材で要求される頻繁な創傷被覆材交換を必要としない創傷用創傷被覆材として有利に使うことができることを示す。pGlcNAcに類似的特徴を有する他のポリマー又は繊維も、本明細書中に記載されている方法に従って使用できる。
【0011】
pGlcNAc創傷被覆材交換の必要性の減少とともにpGlcNAcの改良された創傷治癒特性は、pGlcNAcがその分子量及び長さを減少させるために照射を受けるときに特に言明される。発明者は、照射が、繊維のミクロ構造を撹乱することなくpGlcNAcの分子量及び長さを減少させ、そのようにして照射を受けたpGlcNAcの赤外スペクトルは、非照射pGlcNAcの赤外スペクトルと実質的に類似又は等しいことを発見した。
【0012】
この分子量の減少したpGlcNAcは、本明細書において「sNAG」(短いN-アセチルグルコサミンについて)といい、創傷治癒を促進する際の活性の向上、及び治療された動物における検出可能な異物反応がないことを示す。したがって、このポリマー又は繊維は、より大きな有効性での創傷治療及びコスト削減に特に有用である。
【0013】
したがって、本明細書に記載するのは、患者、好ましくはヒト対象の創傷を治療する方法であって、前記方法は、被覆材を該患者の創傷に局所適用することを含み、これにより該患者の創傷を治療する。好ましくは、適用は、3〜35日毎に繰り返される(現在クリニックにおいて使用される方法を超える顕著な改善において、適用は2日毎に繰り返される)。下記の第5.2節に記載するように、被覆材素材は、好ましくはポリマー又は繊維である。好ましくは、下記の第5.3節に記載するように、ポリマー又は繊維は、それらの効力を高めるために照射を受ける。好ましくは、被覆材は、下記の第5.2.1節に記載するように、生体適合性及び/又は免疫中性のポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその誘導体の被覆材である。創傷被覆材交換又は再適用の選択的頻度は、下記の第5.4節に記載されている。
【0014】
本明細書に記載されているのは、生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物であって、(i)該大部分の繊維が約15μm未満の長さであり、かつ、(ii)該組成物が(a)MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救助せず、並びに(b)筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性である。ある種の実施態様において、組成物は、MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、かつトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救助しない。一実施態様において、大部分の繊維は、約1〜2μmの厚み又は直径を有する。一実施例において、少なくとも50%の繊維は、約4μmの長さである。
【0015】
また、本明細書に記載するのはヒト対象の創傷を治療する方法であって:(a)被覆材をその必要のあるヒト対象の創傷に局所適用することを含み、該被覆材は、生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物を含み、それによって前記ヒト対象の創傷を治療する。ある種の実施態様において、大部分の繊維は約15μm未満の長さであり、かつ、該組成物は(a)MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救助せず、並びに(b)筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性である。特定の他の実施態様において、方法はさらに(b)前記適用を5〜35日毎に繰り返すことを含む。一実施態様において、創傷は、慢性創傷である。一実施態様において、慢性創傷は、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍である。一実施態様において、慢性創傷は、静脈うっ血性潰瘍である。別の実施態様において、創傷は、外科的創傷又は熱傷創である。
【0016】
さらに、本明細書に記載するのは、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物を生産する方法であって、前記方法は生体適合性ポリ-β-1-4-N-アセチルグルコサミン繊維を照射することを含み、そのようにして(i)該大部分の照射を受けた繊維は約15μm未満の長さであり、かつ、(ii)該組成物は(a)MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救助せず、並びに(b)筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性であり、それによってポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物を生産する。特定の実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維は、乾燥繊維として照射を受ける。一実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維は、500〜2,000kgyでのガンマ照射による照射を受ける。特定の他の実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維は、湿繊維として照射を受ける。一実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維は、100〜500kgyでのガンマ照射による照射を受ける。
【0017】
さらに、本明細書に記載するのは、ヒト対象の創傷を治療する方法であって:(a)被覆材をその必要のあるヒト対象の創傷に局所適用することであって、該被覆材が生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含むこと、及び(b)前記適用を5〜35日毎に繰り返すこと、を含み、これにより前記ヒト対象の創傷を治療し、該ヒト対象が、糖尿病患者、喫煙者、血友病患者、HIV感染者、肥満者、放射線治療を受けている者、又は静脈うっ血性潰瘍を有する者である、前記方法である。ある種の実施態様において、ヒト対象は、静脈うっ血性潰瘍を有する者である。一実施態様において、創傷は、慢性創傷である。ある種の実施態様において、慢性創傷は、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍である。一実施態様において、慢性創傷は、静脈うっ血性潰瘍である。他の実施態様において、創傷は、外科的創傷又は熱傷創である。
【0018】
さらに、本明細書に記載するのは、ヒト対象の慢性創傷を治療する方法であって:(a)被覆材をその必要のあるヒト対象における慢性創傷に局所適用することであって、該被覆材が生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含むこと、及び(b)前記適用を5〜35日毎に繰り返すこと、を含み、これにより前記ヒト対象の慢性創傷を治療し、該慢性創傷が、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍である、前記方法である。ある種の実施態様において、慢性創傷は、静脈うっ血性潰瘍である。
【0019】
ある種の実施態様において、工程(a)の被覆材は、工程(b)の前に除去される。特定の他の実施態様において、工程(b)の被覆材は、工程(b)の前に除去されない。
【0020】
ある種の実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは、微細藻類のポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンである。特定の実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは、甲殻類のポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミンでない。
【0021】
ある種の実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは繊維を含み、該ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは該繊維の長さを減少させるために照射を受けている。
【0022】
ある種の実施態様において、少なくとも75%の被覆材は、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンからなる。
【0023】
ある種の実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは、脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含む。一実施態様において、脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは、20〜70%が脱アセチル化されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
(4.図面の簡単な説明)
【図1】pGlcNAc治療された創傷及び無処置の創傷の創傷閉鎖分析。標準化された写真は、追跡調査の間、創傷の日(0日目)及び週2回撮った。創傷収縮(C)、再上皮化(E)及び開放創(O)は、元の創傷域のパーセンテージとして検討した。
【0025】
【図2】pGlcNAcは、より速い創傷閉鎖を誘導した。(A)1時間のpGlcNAcパッチの適用は、擦傷表面のより速い減少を誘導した。(B)1時間の群は、NT群より急速に90%の創傷閉鎖に達した。(C)パッチ適用1時間後、再上皮化は強化された。(D)1時間の群は、14日目に再上皮化の強化を示した。(E)24時間のパッチの適用は、無処置の創傷と比較した場合、創傷収縮を減少させた。平均値及び標準偏差が示される。*p<0.01。
【0026】
【図3】創傷観察病期分類システム。(A)Ki-67染色:1時間の群は、他の群と比較して10日目に細胞増殖の強化を示した。 (B) PECAM-1染色:1時間の群は、他の基と比較して10日目に強化された血管新生を示した。(C)プロットは、2つの免疫組織化学的標識の定量化を組合せ、研究群間の差異を視覚的に示す。1時間の群は、24時間の群及びNT群の両方と劇的に異なった。平均値及び標準偏差が示される。*p<0.01。
【0027】
【図4】pGlcNAc繊維の化学的及び物理的構造における照射の効果。(A)pGlcNAcの分子量と照射レベルとの間の相関。(B)非照射pGlcNAcスラリー(頂線)の赤外(IR)スペクトル、100kGy(底線)で照射を受けたpGlcNAcスラリー、及び200kGy(中間線)で照射を受けたpGlcNAcスラリー。(C)pGlcNAcの走査電子顕微鏡(SEM)分析。(D)sNAGの走査電子顕微鏡(SEM)分析。
【0028】
【図5】sNAG(照射を受けたpGlcNAc、第5.3節及び第6.2.1節を参照されたい)膜処置した創傷及び無処置のコントロール創傷の創傷閉鎖分析。標準化された写真は、0、4、7、10、14、17、21、25、及び28日目に撮った。創傷収縮(C)、再上皮化(E)、及び開放創(O)は、元の創傷域のパーセンテージとして検討した。
【0029】
【図6−10】0日目(図6)、4日目(図7)、10日目(図8)、17日目(図9)、及び28日目(図10)におけるsNAG膜処置したマウスの創傷及び無処置のコントロールマウスの創傷の肉眼写真。
【0030】
【図11−15】sNAGは、より速い創傷閉鎖を誘導した。sNAG膜の適用は、擦傷表面のより速い減少を誘導した(図11)。sNAG膜処置マウスは、無処置のコントロールマウスより、50%(図12)及び90%(図13)早く創傷閉鎖に達した。sNAG膜処置マウスは、4、7及び10日目に再上皮化の強化を示した(図14)。sNAG膜処置マウスは、14及び17日目に、より大きな創傷収縮を示した(図15)。
【0031】
【図16−17】sNAG膜処置マウス(図17)及び無処置のコントロールマウス(図16)における創傷端の組織学。
【0032】
【図18】Ki-67染色:sNAG膜処置マウスは、無処置のコントロールマウスと比較して10日目に細胞増殖の強化を示した。
【0033】
【図19】PECAM-1染色:sNAG膜処置マウスは、無処置のコントロールマウスと比較して10日目に血管新生の強化を示した。
【0034】
【図20】10日目で測定されたsNAG膜処置マウス及び無処置のコントロールマウスについての創傷再上皮化の程度。
【0035】
【図21】10日目で測定されたsNAG膜処置マウス及び無処置のコントロールマウスについての肉芽組織形成の程度。
【0036】
【図22】10日目における無処置コントロール対sNAG膜処置した創傷の組織学的分析。sNAG膜処置したマウスにおいて異物反応がないことに留意されたい。
【0037】
【図23】10日目における無処置コントロール対sNAG膜処置した創傷のコラーゲン染色。異物カプセル化は、sNAG膜処置マウスにおいて観察できない。
【0038】
【図24】pGlcNAcは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)を血清欠乏により誘導される細胞死から保護した。各時間(すなわち、24、48及び72時間)について、5本の棒(左から右に)の各々のアイデンティティは、以下の通りである:血清飢餓(SS)、VEGF、並びに50、100及び250μg/mlのpGlcNAc(NAG)。
【0039】
【図25】pGlcNAcは、代謝速度に影響しなかった。各時間(すなわち、24及び48時間)について、4本の棒(左から右に)の各々のアイデンティティは、以下の通りである:血清飢餓(SS)、VEGF、及び50及び100μg/mlのpGlcNAc(NAG)。
【0040】
【図26】pGlcNAcは、細胞移動を増加させた。
【0041】
【図27】pGlcNAcは、フィブロネクチンの方へ遊走の増加を引き起こした。5本の棒(左から右に)の各々のアイデンティティは、以下の通りである:血清飢餓(SS)、VEGF、50及び100 250μg/mlのpGlcNAc(NAG)、並びにNAG/VEGF。
【0042】
【図28】pGlcNAcは、コード形成を増加させた。
【0043】
【図29】細胞運動性に関与するpGlcNAc誘導性エフェクタ(A)pGlcNAc治療は、Ets1、メタロチオネイン2A(MT)、Akt3及びEdg3の発現を刺激した。(B) リアルタイムPCRは、Ets1がpGlcNAc治療によってほぼ2倍誘導されたことを証明する。(C)メッセージにおけるEts1増加は、ウエスタンブロット解析に示すようにより高いタンパク質発現を伴った。
【0044】
【図30】pGlcNAcのホスホ-MAPKの誘導はVEGFR2依存的であった(A)pGlcNAc治療は、MAPKのリン酸化の著しい増加を生じた。(B)pGlcNAcのリン光体-MAPKの誘導はVEGFR2に依存的であった。
【0045】
【図31】pGlcNAcは、VEGFR2を活性化させなかった。
【0046】
【図32】pGlcNAc誘導性の遊走は、Ets1依存的であった。(A)ECにおけるEts1活性の阻害は、pGlcNAcに応答してEC遊走の著しい減少を生じた。(B) Ets1タンパク質発現は、当該量のdn-Ets構築物で減少した。(C)Ets1に対して向けられた2つの量のプラスミド含有RNAiをトランスフェクトしたECにおけるEts1の結果的発現レベル。
【0047】
【図33】pGlcNAc誘導性の細胞運動には、インテグリンを必要とした。(A)遊走アッセイにおいて、αVβ3又はα5β1(CD49e)インテグリンに指示された抗体をフィブロネクチン(αVβ3受容体)に対して使用した場合の結果。(B)ビトロネクチンで被覆されたトランスウェルにおいてαVβ3又はα5β1(CD49e)に対して指示された抗体を使用する(A)と同様の実験。
【0048】
【図34】インテグリン係合を介するpGlcNAc誘導性の細胞運動性及びFAKの活性化。
【0049】
【図35】pGlcNAcは、創傷治癒モデルにおいて血管形成をもたらすインテグリン→Ets1経路を活性化できる。(A)α5β1インテグリンの抗体遮断は、pGlcNAc誘導性Ets1発現の減少を結果的に生じる。(B)α5β1インテグリンの遮断を使用するEts1発現のこの阻害は、タンパク質レベルに集約される。
【0050】
【図36】pGlcNAcは、VEGF及びIL-1の発現を誘導した。(A)pGlcNAcは、VEGF及びIL-1両方の発現を増加させた。(B)その阻害剤をもつECでの治療は、VEGFによるEts1の誘導を妨害したが、pGlcNAcによるEts1の誘導に効果を有しなかった。
【0051】
【図37】sNAGは、FGF1、FGFR3、スタビリン、IFNg、コラーゲンA18及びCXCL9の発現を誘導した。
【0052】
【図38】sNAGは、細胞移動を増加させた。4本の棒(左から右に)の各々についてのアイデンティティは、以下の通りである:血清飢餓(SS)、並びに50及び100μg/mlのsNAG。
【0053】
【図39】sNAGは、代謝速度の著しい増加を誘導した。5本の棒(左から右に)の各々についてのアイデンティティは、以下の通りである:血清飢餓(SS)、VEGF、並びに50、100及び200μg/mlのsNAG。
【0054】
【図40】sNAGは、ECを血清欠乏により誘導される細胞死から保護しなかった。各時間(すなわち、24及び48時間)について、5本の棒(左から右に)の各々についてのアイデンティティは、以下の通りである:血清飢餓(SS)、VEGF、並びに50、100及び200μg/mlのsNAG。
【0055】
【図41】sNAGは、VEGF及びIL-1の発現を誘導した。
【発明を実施するための形態】
【0056】
(5.詳細な説明)
以下の第6.1節及び第6.2節は、創傷治癒が障害されている糖尿病マウスモデルにおける創傷に対するpGlcNAc、特にsNAGの適用が、創傷閉鎖、創傷再上皮化及び創傷収縮のための時間を著しく短縮することを明示する。再上皮化及び肉芽組織も、sNAG膜処置マウスについて時間短縮が強化された。sNAG膜の適用も、無処置コントロールにおける85%と比較し、28日目において治療を受けた全ての動物の創傷閉鎖を生じた。免疫組織学データは、sNAG膜処置マウスにおける細胞増殖の増加、及び新しい血管(血管新生)の出現と整合する。異物反応は、sNAG膜で治療した全ての動物における研究全体にわたって観察されなかった。
【0057】
これらの知見は、pGlcNAc及びsNAG膜が、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍及び圧力潰瘍を含む慢性創傷の治療における臨床用途を有することを示唆する。pGlcNAc及びsNAG膜も、外科的創傷及び熱傷創を含むがこれらに限定されない他の開放創の治療における臨床的実用性を有する。
【0058】
(5.1 本方法及び組成物による治療のための創傷)
本明細書に記載されている方法及び組成物は、切開創(すなわち、切開又は切創)、裂傷、擦過、穿刺、貫通、弾丸、熱傷、その他によってもたらされる開放創などの創傷を治療するのに有用である。本明細書に記載されている方法及び組成物は、慢性創傷、又は通常では治癒できない患者、又は他のヒト対象と同様に整然とした若しくは時機を得た様式で治癒できない患者を治療するのに有用である。
【0059】
慢性創傷は、永続的な構造的、機能的及び表面的な閉鎖をもたらす、整然とした及び時機を得た一連の現象を介して進むことのできなくなった創傷である。慢性創傷は、適切に治癒できない全ての創傷であり得、外科的創傷(例えば、皮膚移植供与部位)、皮膚潰瘍(例えば、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍)、又は熱傷創を含む。
【0060】
治療されている慢性創傷のタイプ(例えば、糖尿病性、静脈うっ血性、動脈不全性、及び圧力性)の同定は、通常、患者の病歴を考慮して、及び身体検査を実行することにより決定できる。診断を確認するための客観的手段には、脈管不全を認定及び定量化するドップラー超音波検査法:動脈性又は静脈性(深部、表面、又は混合);経皮性酸素分圧(tcpO2)測定;足関節/上腕指数;感覚神経病を定量化するフィラメントテスト;真正糖尿病の臨床検査標識の測定;潰瘍生検の組織病理学;を含み得る。加えて、潰瘍の段階を分類するために用いる基準が広く受け入れられている(例えば、褥瘡についての国立褥瘡審議会(NPUAP):NPUAP分類、足潰瘍についてのワグナー分類)。そのような方法は、熟練した当業者によって日常的に実施される。
【0061】
通常では治癒できない患者、又は他のヒト対象のような整然とした若しくは時機を得た様式で治癒できない患者の同定は、例えば、患者の病歴を考慮して、及び身体検査を実行することにより日常的に決定できる。そのような決定は、熟練した当業者により日常的になされる。
【0062】
(5.2 止血組成物材料)
止血組成物は、創傷被覆材に好ましく配合される。創傷被覆材は、任意の適切な天然若しくは合成ポリマー又は繊維から製造できる。被覆材が本明細書に記載される方法及び組成物を実施するために調製できる適切なポリマー又は繊維の例には、セルロースポリマー、キサンタン、ポリアラミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミド/イミド、ポリアミドヒドラジド、ポリヒドラジド、ポリイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリエステル/アミド、ポリエステル/イミド、ポリカーボネート/アミド、ポリカーボネート/イミド、ポリスルホン/アミド、ポリスルホンイミド、など、コポリマー及びそれらの混合物を含む。ポリマー又は繊維の他の適切な種類は、ポリビニリデン(polyvinyledene)フッ化物及びポリアクリロニトリルを含む。これらのポリマー又は繊維の例は、米国特許番号RE 30,351;4,705,540、4,717,393;4,717,394;4,912,197;4,838,900;4,935,490;4,851,505;4,880,442;4,863,496;4,961,539;及びヨーロッパ特許出願0 219 878に記載されたものを含み、これらの全ては引用により本明細書に組み込まれる。ポリマー又は繊維は、セルロースポリマー、ポリアミド、ポリアラミド、ポリアミド/イミド又はポリイミドのいずれかのうちの少なくとも1つを含むことができる。ある種の実施態様において、ポリマー又は繊維は、ポリアラミド、ポリエステル、ウレタン及びポリテトラフルオロエチレンを含む。他の好ましい実施態様において、重合N-アセチルグルコサミン繊維又はその誘導体を使用する。最も好ましい実施態様において、ポリマー又は繊維は、ポリN-アセチルグルコサミンポリマー若しくは繊維又はその誘導体である。ある種の実施態様において、ポリ-N-アセチルグルコサミンポリマー又は繊維は、β-1→4配置を有する。他の実施態様において、ポリ-N-アセチルグルコサミンポリマー又は繊維は、α-1→4配置を有する。
【0063】
特定の実施態様において、ポリマー又は繊維は、キチン、キトサン、セルロース、ナイロン又はPET(ポリエチレンテレフタラート)である。
【0064】
好ましい実施態様において、ポリマー又は繊維は、生体適合性及び/又は生分解性である。生体適合性は、溶出試験、筋肉内移植、又は動物被験体への皮内若しくは全身注入などの手順を含むがこれらに限定されない様々な技術により測定できる。そのような試験は、米国特許第6,686,342号に記載されており、その全ては引用により本明細書に組み込まれる。生分解性高分子は、患者への投与又は移植の後、約1日、2日、5日、8日、12日、17日、25日、30日、35日、40日、45日、50日、55日、60日、65日、70日、75日、80日、85日、90日、95日又は100日以内に好ましく分解する。
【0065】
特定の態様において、ポリマー又は繊維は、それらが免疫応答を誘発しないという点で免疫中性である。
【0066】
通常、ポリマー又は繊維は、筋肉内移植試験において非反応性である。ある種の実施態様において、組成物は、この節に記載する繊維を含み、該繊維は、MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救助せず、並びに筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性である。ある種の実施態様において、該繊維は、MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、及びトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救助せず、並びに筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性である。
【0067】
一実施態様において、止血組成物は精製ポリマー又は繊維を含み、これは約100%、99.9%、99.8%、99.5%、99%、98%、95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%又は20%純粋であり得る。好ましい実施態様において、本明細書に記載される組成物及び方法で使用するポリマー又は繊維は、90〜100%純粋である。
【0068】
ある種の実施態様において、創傷被覆材において使用されるポリマー又は繊維は、以下の1以上でない:イオン性合成ヒドロゲル、例えばこれらに限定されないが、架橋ポリ(AAn-アクリル酸)及びポリ(AAm-メタクリル酸ジメチルアミノエチル)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(N-ビニル(vynl)ピロリドン)、ポリ(メトキシ-PEGメタクリラート)。ある種の実施態様において、ポリマー又は繊維は、以下の1以上でない:ポリ-L-アミノ酸、例えばポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン、ポリL-グルタミン酸、ポリ-L-ヒスチジン、ポリ-D-グルタミン酸又はそれらの混合物。ある種の実施態様において、ポリマー又は繊維は、以下の1以上でない:アルギン酸塩ポリマー、例えばアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸マグネシウム若しくは他の任意のアルギン酸塩又はその混合物。ある種の実施態様において、ポリマー又は繊維は、以下の1以上に由来しない:貝、甲殻類、昆虫、菌類又は酵母。ある種の実施態様において、組成物は、コラーゲン繊維を含まない。ある種の実施態様において、組成物は、エラスチン繊維を含まない。他の実施態様において、これらのポリマー又は繊維は、本組成物に含まれる。
【0069】
本明細書に記載されるポリマーは、通常、本明細書に記載されるポリマーを含む繊維の形態である。したがって、本明細書に記載されるポリマーは、繊維の形態であり得る。繊維は、好ましくは、電子顕微鏡法によって測定される平均長で約2、3、4、5、8、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140若しくは150ミクロン、又はその間の任意の範囲である(例えば、平均で10〜150ミクロン又は20〜100ミクロン又は50〜120ミクロン)。繊維は、好ましくはナノ繊維であり、電子顕微鏡によって測定される厚さ及び/又は直径において平均0.5〜100nmの寸法を有する。特定の実施態様において、ナノ繊維は、平均で厚さ及び/又は直径において約0.5、1、2、5、10、20、50若しくは100nm。又はその間の任意の範囲である(例えば、0.5〜4nm、0.5〜5nm、1〜4nm、1〜5nm、1〜10nm、2〜20nm、4〜15nm、5〜15nm、4〜20nm、5〜20nm、5〜50nmなど)。他の実施態様において、繊維は好ましくはマイクロ繊維であり、平均で厚さ及び/又は直径において約0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.75、0.85及び1ミクロン、又はその間の任意の範囲を有する(例えば、0.2〜0.5ミクロン、0.3〜0.75ミクロン、0.5〜1ミクロン、その他等)。本明細書で使用する用語「約」の境界は、当業者によって容易に認識され;通常、本明細書で使用する該用語は、規定値より10%超過及び10%少ない範囲をいう。
【0070】
特定の実施態様において、繊維の大部分(50%を超える、例えば60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)は、長さが約30、25、20、15、10、5、4、又は3ミクロン未満である。特定の実施態様において、繊維の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%又は99.9%は、長さが約15ミクロン未満である。特定の実施態様において、繊維の全て(100%)は、長さが約15ミクロン未満である。特定の実施態様において、繊維の大部分(50%を超える、例えば60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)は、長さが5、4、3、2、又は1ミクロンである。特定の実施態様において、繊維の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%又は99.9%は、長さが約4ミクロン未満である。特定の実施態様において、繊維の全て(100%)は、長さが約4ミクロンである。
【0071】
繊維は、好ましくは電子顕微鏡によって測定される平均厚又は直径約0.1、0.5、1、2、3、4、5、8若しくは10ミクロン、又はその間の任意の範囲(例えば、平均で0.1〜10ミクロン又は0.5〜5ミクロン又は1〜2ミクロン)である。特定の実施態様において、繊維の大部分(50%を超える、例えば、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)は、約1〜2ミクロンの厚さ又は直径を有する。特定の実施態様において、繊維の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%又は99.9%は、約1〜2ミクロンの厚さ又は直径を有する。特定の実施態様において、繊維の全て(100%)は、約1〜2ミクロンの厚さ又は直径を有する。
【0072】
ある種の実施態様において、繊維の大部分(50%を超える、例えば、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)は、長さが約15ミクロン未満で、かつ約1〜2ミクロンの厚さ又は直径を有する。
【0073】
特定の好ましい実施態様において、ポリマー又は繊維は創傷被覆材として調製され、それはバリア、膜又はフィルムの形態であり得る。あるいは、ポリマー又は繊維は、バリア、膜又はフィルムなどの被覆材裏打ちに加えられる。バリア、膜又はフィルムは様々な標準サイズで供給でき、それを更に切断して治療領域に大きさを整えることができる。裏打ちは、包帯又はガーゼなどの従来の被覆材材料であり得、患者への適用前に、ポリマー又は繊維をそれに添加又は被覆する。あるいは、ポリマー又は繊維を、ストリング、ミクロビーズ、ミクロスフェア若しくはミクロフィブリルで構成されるバリア、膜又はフィルムとして配合でき、あるいは組成物をバリア形成マットとして配合できる。本明細書に指摘されるように、ポリマーは繊維の形態で存在できる。そのようなものとして、明細書を通じて、明確に記述されるかどうかにかかわらず、本明細書に記載したポリマーに言及する全ての実施態様において、ポリマーが繊維の形態で存在できることは理解される。
【0074】
ある種の実施態様において、被覆材の少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%は、先に挙げたポリマーの1以上からなる。
【0075】
特定の態様において、被覆材は、ガーゼ又は被覆材などの従来の被覆材素材を含有しない。そのような実施態様において、ポリマーそれ自体が創傷被覆材として配合される。
【0076】
一実施態様において、本明細書に記載される組成物は、複数種類のポリマー(例えば、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン及びセルロース)を含む。
【0077】
特定の態様において、ポリマー(例えば、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその誘導体)は、被覆材の唯一の活性成分である。他の実施態様において、被覆材は、成長因子などの創傷治癒を促進する付加的な活性成分を含む。特定の実施態様において、成長因子は、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、PDGF-CC、PDGF-DD、FGF-1、FGF-2、FGF-5、FGF-7、FGF-10、EGF、TGF-α、(HB-EGF)、アンフィレグリン、エピレグリン、ベタセルリン、ニューレグリン、エピゲン(epigen)、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、胎盤成長因子(PLGF)、アンギオポエチン-1、アンギオポエチン-2、IGF-I、IGF-II、肝細胞増殖因子(HGF)、又はマクロファージ刺激タンパク質(MSP)である。
【0078】
しかしながら、他の態様において、被覆材は、大量のタンパク質を含まない。特定の実施態様において、被覆材のタンパク質含量は、0.1%、0.5%又は1重量%以下である。他の実施態様において、被覆材のタンパク質含量は、クーマシー染色によって検出不可能である。
【0079】
被覆材はコラーゲンを含むことができるが、特定の態様において、被覆材はコラーゲンを含まない。
【0080】
被覆材は、創傷の感染を防止するために抗菌因子を含むこともできる。
【0081】
好ましい実施態様において、亜鉛も被覆材にも含まれる。その抗微生物特性に加え、亜鉛は、創傷治癒における役割も果たす(Andrewsらの文献, 1999, Adv Wound Care 12:137-8)。亜鉛は好ましくは、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛又はグルコン酸亜鉛などの塩形態で加えられる。
【0082】
(5.2.1 ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン(「pGlcNAc」又は「NAG」)
この節は、参照により好ましい実施態様であるポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーの構造を詳細に記載する米国特許第5,622,834号;第5,623,064号;第5,624,679号;第5,686,115号;第5,858,350号;第6,599,720号;第6,686,342号;及び第7,115,588号;を組み込み、それらの全ては引用により本明細書に組み込まれる。
【0083】
好ましい実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンは、a)細胞体及びポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマー繊維を含む微細藻類を、該ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマー繊維を該細胞体から分離することができる生物学的因子(ハイドフルオリック(hydofluoric))で十分な時間の間処理し、それによりポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマー繊維が該細胞体から放出されること;b)該ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマー繊維を該細胞体から分離すること;及び、c)該分離したポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマー繊維から汚染物質を除去し、それにより該ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーを分離及び精製すること;を含むプロセスに由来する。
【0084】
本明細書で使用するポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーの誘導体には、以下を含む:ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーの半結晶形態;β-1→4配置で共有結合した約50〜約150,000のN-アセチルグルコサミン単糖を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーであって、前記ポリマーが約10,000ダルトン〜約30,000,000ダルトンの分子量を有する;β-1→4配置で共有結合した約50〜約50,000のN-アセチルグルコサミン単糖を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーであって、前記ポリマーが約10,000ダルトン〜約10,000,000ダルトンの分子量を有する;β-1→4配置で共有結合した約50〜約10,000のN-アセチルグルコサミン単糖を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーであって、前記ポリマーが約10,000ダルトン〜約2,000,000ダルトンの分子量を有する;β-1→4配置で共有結合した約50〜約4,000のN-アセチルグルコサミン単糖を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーであって、前記ポリマーが約10,000ダルトン〜約800,000ダルトンの分子量を有する;脱アセチル化された少なくとも1のN-アセチルグルコサミン単糖を含む半結晶性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーであって、前記N‐アセチルグルコサミン単糖の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%がアセチル化されている;及び、脱アセチル化された少なくとも1のN-アセチルグルコサミン単糖を含む半結晶性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーであって、前記N‐アセチルグルコサミン単糖の少なくとも20%〜70%(又は上述の実施態様間の任意の範囲)が脱アセチル化されている。
【0085】
ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンポリマーの誘導体も、100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%以下のポリ-β-1→4-N‐アセチルグルコサミンである組成物を含む。
【0086】
ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの他の誘導体も、本明細書に記載される組成物に使用できる。例えば、硫酸化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン誘導体、リン酸化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン誘導体、又はニトロ化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン誘導体が使用できる。加えて、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの1以上の単糖ユニットは、1以上のスルホニル基又は1以上のO-アシル基を含むことができる。加えて、脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの1以上の単糖は、N-アシル基を含むことができる。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその脱アセチル化された誘導体の1以上の単糖は、O-アルキル基を含むことができる。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの1以上の単糖ユニットは、アルカリ誘導体でもよい。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの脱アセチル化された誘導体の1以上の単糖ユニットは、N-アルキル基を含むことができる。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの脱アセチル化された誘導体の1以上の単糖ユニットは、少なくとも1のデオキシハロゲン誘導体を含むことができる。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの脱アセチル化された誘導体の1以上の単糖ユニットは、塩を形成できる。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの脱アセチル化された誘導体の1以上の単糖ユニットは、金属キレートを形成できる。好ましくは、該金属は亜鉛である。ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンの脱アセチル化された誘導体の1以上の単糖ユニットは、N-アルキリデン基又はN-アリーリデン基を含むことができる。このような誘導体を作る方法は米国特許番号5,623,064に記載されており、その全ては引用により本明細書に組み込まれる。
【0087】
(5.3 分子量及び長さを低減させる照射)
ポリマー又は繊維は、先に記載したように、乾燥ポリマー若しくは乾燥繊維又はポリマー膜若しくは繊維膜として照射を受けることができる。あるいは、ポリマー又は繊維は、湿ったときに照射を受けることができる。
【0088】
他の好ましい実施態様において、ポリマー又は繊維は、照射のために懸濁液/スラリー又はウエットケークに配合される。照射は、ポリマー又は繊維の被覆材への配合の前に、同時に、又はその後に実行できる。通常、懸濁液/スラリー及びウエットケークのポリマー又は繊維含量は変更でき、例えば、スラリーについて蒸留水1ml当たり約0.5mg〜約50mgのポリマー又は繊維が使用され、ウエットケーク配合物について蒸留水1ml当たり約50mg〜約1000mgのポリマー又は繊維が使用される。ポリマー又は繊維をはじめに凍結乾燥し、液体窒素中で凍結し、微粉化して、より懸濁液/スラリー又はウエットケークに形成し易くすることができる。また、ウエットケークが形成されるように、懸濁液/スラリーを濾過して水を除去できる。特定の態様において、ポリマー又は繊維は、蒸留水1ml当たり約0.5mg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、12mg、15mg、18mg、20mg、25mg若しくは50mg、あるいは上述の実施態様間の任意の範囲(例えば、1〜10mg/ml、5〜15mg/ml、2〜8mg/ml、20〜50mg/ml、その他)のポリマー又は繊維を含む懸濁液として照射を受ける。他の実施態様において、ポリマー又は繊維は、蒸留水1ml当たり約50〜1,000mgのポリマー又は繊維を含むウエットケークとして照射を受ける。特定の実施態様において、ウエットケークは、1mlの蒸留水当たり約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900若しくは1000 mg、あるいはその間の任意の範囲(例えば、100〜500mg/ml、300〜600mg/ml、50〜1000mg/ml、その他)のポリマー又は繊維を含む。
【0089】
照射は、好ましくは、ガンマ放射線、eビーム放射線、又はX線の形態である。2つの照射源が好ましい:放射性核種及び電気。特定の実施態様において、放射性核種は、コバルト-60及びセシウム-137である。これらの核種の両方は、質量を含まない光子であるガンマ線を放射する。ガンマ線は、0.66〜1.3MeVのエネルギーを有する。電気を使用すると、電子は、10MeV以上までのエネルギーを発生し、加速される。それらのサイズを減らすためにポリマー又は繊維を照射する場合、考慮すべき約因は、10MeV電子による水と類似の密度を有する材料の浸透の深さが、片側曝露で約3.7cm又は両側曝露で約8.6cmに限られているということである。浸透の深さは、より低い電子エネルギーで低減する。電子エネルギーは、電子線経路に金属(通常、タングステン又はタンタル)標的を配置することによってX線に変換できる。X線への変換は、5MeVまでエネルギーを有する電子に限られている。X線は、質量のない光子であり、ガンマ線と類似のポリマー又は繊維を透過できる。電子エネルギーのX線エネルギーへの変換における効率はわずか約8%である。低い変換効率のため、高出力電子線機器がX線生産施設において必要である。
【0090】
好ましくは、照射は、ガンマ照射である。
【0091】
放射線の吸収線量は、製品のユニット重量当たりに吸収されるエネルギーであり、グレイ(gy)又はキログレイ(kgy)で測定される。乾燥ポリマー又は繊維について好ましい吸収線量は、500〜2,000kgyの放射線、最も好ましくは750〜1,250kgyの放射線であり、湿ったポリマー又は繊維について好ましい吸収線量は、約100〜500kgyの放射線、最も好ましくは約150〜250kgyの放射線である。
【0092】
放射線の線量は、ポリマー又は繊維の長さにおけるその影響に関して記載できる。特定の実施態様において、使用する放射線の線量は、それぞれ、ポリマー又は繊維の開始長の約10%〜90%までの何処かでポリマー又は繊維の長さを好ましく減少させる。特定の実施態様において、平均長は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、又は約90%、あるいはその間の任意の範囲(例えば、20〜40%、30〜70%、その他等)で減少する。あるいは、使用する放射線の線量は、30〜100ミクロンの何処かにポリマー又は繊維の長さを好ましく減少させる。特定の実施態様において、及びはじめの繊維長に応じて、ポリマー又は繊維の平均長は、約15ミクロン未満、約14ミクロン未満、約13ミクロン未満、約12ミクロン未満、約11ミクロン未満、約10ミクロン未満、約5ミクロン未満、約4ミクロン未満、約3ミクロン未満、2ミクロン未満、又は1ミクロン未満に減少する。ある種の実施態様において、ポリマー又は繊維の大部分(50%を超える、例えば、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)の長さは、40ミクロン以下、約30ミクロン以下、約20ミクロン以下、約15ミクロン以下、約10ミクロン以下、又は約5ミクロン以下に減少する。前述の長さ間のいかなる範囲も含まれ;例えば、特定の実施態様において、ポリマー又は繊維の照射は、繊維の大部分(50%を超える、例えば、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)の長さを、約1〜20ミクロンの間、約2〜15ミクロンの間、約4〜10ミクロンの間、その他等の何処かに低減させる。
【0093】
放射線の線量は、ポリマー又は繊維の分子量に対するその影響に関しても記載できる。特定の実施態様において、使用する放射線の線量は好ましくは、ポリマー又は繊維の分子量を、ポリマー又は繊維の開始重量の約10%〜90%の何処かで減少させる。特定の実施態様において、平均分子量は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、又は約90%、又はその間の任意の範囲で(例えば、20〜40%、30〜70%、その他等)減少する。あるいは、使用する放射線の線量は好ましくは、ポリマー又は繊維の分子量を、1,000から1,000,000ダルトンの何処かに減少させる。特定の実施態様において、及びはじめの分子量に応じて、ポリマー又は繊維の平均分子量は、1,000,000ダルトン未満、750,000ダルトン未満、500,000ダルトン未満、300,000ダルトン未満、200,000ダルトン未満、100,000ダルトン未満、50,000ダルトン未満、25,000ダルトン未満、10,000ダルトン未満、又は5,000ダルトン未満に減少する。ある種の実施態様において、平均分子量は、500ダルトン以上、1,000ダルトン以上、2000ダルトン以上、3,500ダルトン以上、5,000ダルトン、7,5000ダルトン以上、10,000ダルトン以上、25,000ダルトン以上、50,000ダルトン以上、又は100,000ダルトン以上に減少する。前述の平均分子量間のいかなる範囲も含まれ;例えば、特定の実施態様において、ポリマー又は繊維の照射は、平均分子量を、10,000〜100,000ダルトン、1,000〜25,000ダルトン、50,000〜500,000ダルトン、その他等の間の何処かに低減させる。
【0094】
他の好ましい実施態様において、使用する照射は、ガンマ照射である。
【0095】
照射の後、スラリーを濾過及び乾燥、かつウエットケークを乾燥して、本明細書に記載される実施に有用な被覆材を形成することができる。
【0096】
(5.3.1 短縮されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン(「sNAG」))
先の第5.2節に記載したポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを先の第5.3節に記載したように照射に供し、その繊維の長さを減少させて短縮されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを形成し、このようにしてそのミクロ構造を撹乱することなくその分子量を減少させることができる。短縮されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン(sNAG)の赤外スペクトル(IR)は、非照射のポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン(NAG)のIRに実質的に類似しているか、又は等しい。
【0097】
ある種の実施態様において、sNAGの繊維の大部分(50%を超える、例えば、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%又は100%)は、長さ15ミクロン未満である。一態様において、sNAGの大部分の繊維は、約1〜2ミクロンの厚さ又は直径を有する。繊維の長さは、当業者に周知の任意の方法、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定できる。
【0098】
一態様において、sNAGは、MTTアッセイにおいて血清飢餓されたヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)の代謝速度を増加させる。MTTアッセイは検査室的試験であり、細胞増殖(細胞成長)を測定するための標準比色アッセイ(色の変化を測定するアッセイ)である。簡潔にいうと、黄色のMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド、テトラゾール)は、生細胞のミトコンドリアで紫のホルマザンに還元される。この還元は、ミトコンドリアレダクターゼ酵素が活性の場合にだけ起こり、したがって、変換は、可視(生)細胞の数に直接的に関連し得る。細胞の代謝速度は、一般当業者に知られている他の技術により決定できる。
【0099】
別の態様において、sNAGは、トリパンブルー排除試験において血清飢餓されたECのアポトーシスを救わない。トリパンブルー排除試験は、細胞懸濁液に存在する生菌の数を決定するために使用される色素排除試験である。これは、生細胞が特定の染料、例えばトリパンブルー、エオシン又はプロピジウムなどを排除する完全な細胞膜を有する一方で死細胞は有しないという原理に基づく。細胞の生存率は、一般当業者に知られている他の技術により決定できる。
【0100】
別の態様において、筋肉内移植試験において試験されるときに、sNAGは非反応性である。一態様において、筋肉内移植試験は、第6.4.2節に記載する筋肉内移植試験、すなわちISO 4週間移植である。
【0101】
ある種の実施態様において、sNAGは繊維を含み、その大部分の繊維は長さが約15ミクロン未満であり、かつ筋肉内移植試験において試験される場合に非反応性である。
【0102】
ある種の実施態様において、sNAGは(i)繊維を含み、該大部分の繊維は長さが約15ミクロン未満であり、かつ(ii)(a)MTTアッセイにおいて血清飢餓されたECの代謝速度を増加させ、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓されたECのアポトーシスを救わず、並びに(b)筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性である。
【0103】
(5.4 止血組成物を使用する方法)
本明細書に記載するのは、患者の創傷を治療する方法である。本方法は一般に、患者の創傷に被覆材を適用することを含み、該被覆材は上記の第5.2節及び第5.3節に収載された任意のポリマー又は繊維を含むか又はそれから構成される。
【0104】
患者は、好ましくは哺乳類であり、最も好ましくはヒトである。
【0105】
ある種の実施態様において、患者は、成人、若者又は乳児である。一実施態様において、患者は、45歳より年をとったヒトである。一実施態様において、患者は、妊娠していない女性である。
【0106】
ある種の実施態様において、哺乳類は、家畜哺乳類(例えば、ウシ又はヒツジ又はブタ)又は家庭用ペット(例えば、ネコ又はイヌ)である。
【0107】
ある種の実施態様において、他のヒト対象のように整然とした又は時機を得た様式で通常は回復しない患者の創傷を治療する方法が、本明細書に記載される。患者は、好ましくは、糖尿病患者、喫煙者、血友病患者、HIV感染者、肥満者、放射線治療を受けている者、又は静脈うっ血性潰瘍を有する者などのヒトである。一態様において、患者は、静脈うっ血性潰瘍を有する者である。特定の態様において、創傷は、外科的創傷又は熱傷創である。特定の他の態様において、創傷は、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍などの慢性創傷である。
【0108】
ある種の実施態様において、患者の慢性創傷を治療する方法が本明細書に記載され、該慢性創傷は整然とした又は時機を得た様式で治癒しない。ある種の実施態様において、創傷は、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍などの慢性創傷である。一態様において、慢性創傷は、静脈うっ血性潰瘍である。
【0109】
本明細書に記載される止血組成物及び方法は、創傷、特に慢性創傷に伴う看護の労働及び費用を有利に減らす。市場において現在利用可能な創傷被覆材は、ほぼ2日ごとに交換を必要とし;対照的に、本方法では、創傷被覆材は、3〜35日ごとに交換又は再適用される。特定の実施態様において、創傷被覆材は、4〜35日ごと、5〜35日ごと、6〜35日ごと若しくは7〜35日ごとに交換又は再適用される。特定の態様において、創傷被覆材は、3〜10日ごと、4〜14日ごと、5〜12日ごと、7〜14日ごと、7〜28日ごと、7〜21日ごと、14〜28日ごと、又は下端で3、4、5、6若しくは7日から上端で8、9、10、12、14、18、21、24、28、30若しくは35日の間の任意の範囲で交換又は再適用される。一態様において、創傷被覆材は、治療の始めに1回だけ交換又は再適用される。別の態様において、創傷被覆材は、治療の間、1週につき1回交換又は再適用される。別の態様において、創傷被覆材は、治療の間、一週おきに交換又は再適用される。別の態様において、創傷被覆材は、治療の間、2週ごと、3週ごと若しくは4週ごとに交換又は再適用される。本方法は、創傷被覆材交換の頻度を少なくとも50%減らし、100%、200%、500%又はさらにより多く創傷被覆材交換の頻度を減らすことができる。創傷被覆材を交換又は再適用するための具体的頻度は、個人の必要に応じて、すなわち、創傷のサイズ、分類及び被覆材への反応に応じて変化する。頻度は、標準臨床技術により決定されることができ、定間隔である必要がない。むしろ、頻度は、個人の必要に応じて、時間に渡って変化できる。例えば、慢性創傷が治癒し始めるにつれて、創傷被覆材の交換又は再適用の頻度は減少される。
【0110】
ある態様において、創傷被覆材が創傷に適用され、そこで該被覆材は、それが除去されるか又は生分解されるまで残っていてよい。より好ましくは、創傷被覆材は、少なくとも一回再適用される(以前の創傷被覆材を取り除くことなく)か又は交換される(以前の創傷被覆材を取り除き、新規な被覆材を適用することによって)が、創傷の間に上記の頻度で再適用又は交換できる。好ましくは、創傷被覆材は、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回若しくはそれより多く再適用又は交換される。治療法は、数週間(例えば、2〜8週)から数ヶ月(例えば、2〜4ヵ月から6〜12ヵ月以上まで、及びその間の任意の範囲)にわたって実行できる。
【0111】
都合よく、被覆材は、全体の創傷治癒時間も減少させる。例えば、以下の第6節に記載されている糖尿病のマウスモデルにおいて、pGlcNAc被覆材は、コントロールマウスにおいてよりも時間を減少させて、1週早く創傷閉鎖を達成した。それゆえ、所与の創傷のための被覆材交換回数を減らすことに加え、本明細書に記載される方法は、創傷閉鎖時間を減少させることに有用である。したがって、ある態様において、患者の慢性創傷に被覆材を局所適用することを含む、慢性創傷の創傷閉鎖時間を減少させる方法が提供され、該被覆材は上記の第5.2節及び第5.3節に収載されるポリマーの1以上を含むか又はそれから構成される。任意に、適用は、この節に記載されている治療法によって、1回以上繰り返される。ある態様において、創傷閉鎖時間は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、又は少なくとも50%減少する。
【0112】
最も好ましくは、被覆材が作られるポリマーは生体適合性及び/又は免疫中性のポリマーであり、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその誘導体を含むがこれらに限定されない。より好ましい実施態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその誘導体は、微細藻類のポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその誘導体である。ある態様において、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン又はその誘導体は、貝類又は甲殻類供給源由来ではない。
【0113】
上述した方法は、慢性創傷の他の標準的ケア手順と連動して使用されることが可能である。例えば、本方法は、以下の皮膚潰瘍療法のための治療の1以上に関連して使用可能である:壊死又は感染組織の除去(創傷清拭);オフローディング;静脈うっ血性潰瘍の圧縮治療;十分な循環血液の確立;湿性創傷環境の維持;創傷感染の管理;創傷洗浄;糖尿病潰瘍を有する対象の血液グルコース制御を含む栄養的支持;汚染の危険がある圧力潰瘍を有する対象の腸及び膀胱のケア。
【0114】
熱傷創について、本明細書に記載される方法と連動して使用されることが可能である標準的ケア手順は、以下を含む:血行力学蘇生;共罹患率の管理;時機を得た熱傷創傷清拭及び切除;創傷閉鎖;創傷感染の管理;疼痛制御;栄養的支持;過剰な瘢痕形成の阻害の測定;及び熱傷が関節の上にある場合の受動的可動域を含むリハビリテーション。
【0115】
(5.5 キット)
上記した被覆材素材のいずれかを含むキットも提供する。被覆材は、好ましくは、汚染なく組成物の除去を容易にする密封、耐水、無菌パッケージ内に含まれる。容器を製造できる材料は、アルミニウム箔、プラスチック又は容易に殺菌される他の従来的材料を含む。キットは、単一の被覆材又は複数の被覆材を含むことができ、好ましくはその各々は、別々の耐水、無菌パッケージで提供される。上記の第5.2節及び第5.3節に記載するように、被覆材は、創傷治癒薬剤又は抗微生物剤を更に含むことができる。
【0116】
別の実施態様において、二重区画を有する容器が提供される。第一区画は被覆材を含み、第二区画は成長因子又は抗微生物剤などの活性薬剤を含む。現場又はクリニックにおいて、被覆材は、創傷にその後適用される活性薬剤に容易に浸漬できる。
【0117】
キットは、使用のためのFDA承認及び/又は指示に関する通知を含むことができる。
【0118】
加えて、非常事態又は軍事利用のために設計したキットは、剪刀、外科用メス、クランプ、止血帯、弾性若しくは非弾性包帯、その他などの使い捨て可能な予め殺菌された器具を含むこともできる。
【実施例】
【0119】
(6. 実施例)
(実施例6.1 実施例1、dB/dBマウスにおける創傷治癒でのポリ-N-アセチルグルコサミン(pGlcNAc)パッチの効果)
(6.1.1 材料及び方法)
pGlcNAcパッチの調製。pGlcNAcパッチSyvekPatch(商標)(Marine Polymer Technologies社, Danvers, MA)は、先に記載したように生産される微細藻類由来のナノ繊維からなる(Vournakisらの文献、米国特許第5,623,064号及び第5,624,679号を参照されたく、そのそれぞれの内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる)。簡潔には、微細藻類は、規定の増殖培地を使用するユニークなバイオリアクタ条件で培養された。高密度培養からの微細藻類の回収後、ナノ繊維を段階的分離及び精製プロセスを介して単離し、注射用蒸留水(wfi)に懸濁される純粋なナノ繊維のバッチを生じた。繊維は、濃縮及びオーブン乾燥によってパッチに配合され、包装され、ガンマ照射により殺菌された。ナノ繊維は、平均20〜50nm×1〜2nm×〜100μmの寸法である。繊維のバッチは個々に、化学的及び物理的な試験パラメータを使用して制御される品質であり、各バッチは発売前に厳しい純度基準を満たした。最終的なバッチは、タンパク質、金属イオン及び他の成分を実質的に含まないことが要求された。
【0120】
創傷モデル及び研究設計。ホモ接合体、遺伝的に糖尿病の8〜12週齢、Lep/r-dB/dB雄マウス(株C57BL/KsJ-Leprdb)を、国際実験動物ケアの調査及び認定(Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International)(AAALAC)の適格施設において承認された動物プロトコル下で使用した。手術日前に、毛を留め、脱毛した(Nair(登録商標)、Church & Dwight社, Princeton, NJ)。手術日に、動物を秤量し、60mg/kgのネンブタール(ペントバルビタール)で麻酔した。皮膚及び皮筋の背面の1.0cm2の領域を切除し、創傷を撮影した。創傷は、pGlcNAcパッチで1時間(1時間の群、n=15)、24時間(24時間の群、n=15)覆ったか、又は無処置のまま(NT群、n=15)にした。全ての創傷は、半閉塞性ポリウレタン被覆材(Tegaderm(登録商標)、3M, St. Paul, MN)で覆った10及び21日目に、群当たり7〜8匹の動物を安楽死させ、創傷を撮影し、切除し、10%の中性緩衝ホルマリン溶液において固定した。群当たりN=15は1から10日目に観察され、及び群当たりn=7〜8は14日目から21日目に観察した。
【0121】
創傷閉鎖分析。3人の盲検独立観察者は、週2回撮られたデジタル写真を、平面図法を使用して0日目のはじめの写真と比較した。創傷閉鎖は、元の創傷域のパーセンテージとしての収縮(C)、再上皮化(E)及び開放創(O)を測定されることによって定量化した。収縮し、再上皮化し、及び開いた創傷域の合計は、元の創傷サイズの100%に等しい(図1)(Yannas I.の文献 「成体における組織及び器官の再生(Tissue and Organ Regeneration in adults.)」New York: Springer; 2001を参照されたい)。
【0122】
中心創傷横断面をパラフィン包埋し、切片化し、日常的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)プロトコルに従って染色した。デジタル平面幾何学(Image J, NIH, Bethesda, MD)で肉芽組織域及び厚みを分析するために、各創傷のパノラマ断面デジタル画像をAdobe Photoshop CSソフトウェア(アドビシステムズ社、San Jose, CA)を使用して準備した。
【0123】
免疫組織化学。パラフィン包埋切片を再水和し、増殖Ki-67の免疫組織化学的標識のための抗原回復を、10mMのクエン酸ナトリウム(pH 6.0)中で10分間マイクロ波処理することにより達成した。凍結切片をアセトンで固定し、血管新生血小板内皮細胞接着因子1(PECAM-1)の免疫組織化学的標識について着色した。Ki-67(LabVision, Freemont, Ca)一次抗体を室温で1時間インキュベートし、PECAM-1(Pharmingen, San Jose, CA)一次抗体を終夜4℃でインキュベートした。PECAM-1シグナルは、チラミド増幅システム(Perkin Elmer, Boston, MA)を使用して強化した。
【0124】
血管密度の定量化。創傷断面のデジタル色画像を定量化前に前処理し、背景と比較してのPECAM-1陽性領域の均一なコントラストを保障した。ポジティブ染色のマスクは、ポジティブ染色域において現れる5つの異なるクロモゲン色相をサンプリングすることによりプログラムCorel PhotoPaint v.10 (Corel Corporation, Ottawa, Ontario, Canada)の色マスク機能を使用して作成した。マスクした血管域は真黒に変わり、背景は真白となった。黒及び白の発現は、分割機能を適用することにより、IPLabソフトウェア(BD Biosciences Bioimaging、Rockville, MD)の領域定量化に使用した。組織領域は、元のH&E画像を加工画像に投影することにより規定した。全画像に渡って定量化した血管密度は、血管域の総肉芽組織域の比として表現した。4〜7の顕微鏡視野(20×)を使用して、各創傷及び治療手順についての血管密度を評価した。
【0125】
細胞増殖の定量化。創傷は、血管密度定量化の方法と類似の様式でKi-67染色した断面の画像分析を使用して、細胞増殖について分析した。Ki-67染色された創傷断面の高出力デジタル画像を使用して、核の総数に相対的なKi-67陽性細胞の数を測定した。増殖の程度は、20×倍率で4〜6視野を使用して全ての創傷節に渡って定量化し、増殖している核(Ki-67陽性)の全核に対する比として表現した。
【0126】
統計解析。値は、テキスト及び図の平均±標準偏差として表現した。一元配置分散分析法及び特別LSD試験を使用して、治療モード間の差異の有意性を決定した。多変量解析は、Statistica v7.0(StatSoft社, Tulsa, OK)を使用して実施した。
【0127】
(6.1.2 結果)
統計解析。値は、テキスト及び図の平均±標準偏差として表現した。一元配置分散分析法及び特別LSD試験を使用して、治療モード間の差異の有意性を決定した。多変量解析は、Statistica v7.0(StatSoft社, Tulsa, OK)を使用して実施した。
【0128】
pGlcNAcパッチは、創傷治癒速度を変えた。pGlcNAcでの治療は、非治療と比較して時間に渡ってより速い創傷閉鎖を誘導した。7、14及び17日目のNT群と比較して、1時間の群は、擦傷表面(創傷の開いた部分)のより速い(p<0.01)減少を示した(図2A)。1時間の群はまた、平均16.6日で90%の閉鎖に達し、これはNT群(25.6日)より9日早かった(p<0.01)(図2B)。24時間の群は、18.2日で90%の閉鎖に達した(図2B)。
【0129】
4、7、14及び2 1日目のNT群と比較して、1時間の群は、再上皮化の増加(p<0.01)を示した(図2C、2D)。4及び21日目でのNT群と比較して、24時間の群は、再上皮化の増加(p<0.01)を示した(図2C)。
【0130】
4及び17日目のNT群と比較して、24時間の群は収縮の減少(p<0.01)を示し;かつ、7日目の1時間の群と比較して収縮を減少させた(p<0.01)(図2E)。14日目のNT群と比較して、1時間の群は、収縮の減少(p<0.01)を示した(図2E)。
【0131】
pGlcNAcパッチは、血管密度及び増殖を増加させた。dB/dBマウスにおける1cm2、全厚、無処置の創傷は、術後8〜12日に50%閉鎖に達した(Chanらの文献、「遺伝的糖尿病マウスでの創傷閉鎖における組換え血小板由来増殖因子(Regranex)の効果(Effect of recombinant platelet-derived growth factor (Regranex) on wound closure in genetically diabetic mice.)」J Burn Care Res 2006;27(2):202-5)。治療後の創傷治癒についての病期分類の中間時点として10日目が選ばれた。
【0132】
増殖細胞がKi-67について染色された(図3A)。PECAM-1(CD31)を選択して内皮細胞を染色し、肉芽組織の血管密度を定量化した(図3B)。NT及び24時間の群と比較して、1時間の群は、血管密度及び細胞増殖に顕著な増加を示した(図3A、3B)。PECAM-1及びKi-67の結果を共にプロットし、異なる治療間での血管形成及び増殖の視覚的相関を与えた(図3C)。
【0133】
肉芽組織域及び厚みは、4×倍率(群当たりn=7〜8)で顕微写真にて測定し、以下に示すように、傷害及び治療様式に応答して新しく形成された組織による被覆レベルを評価した:
【表1】

【0134】
有意差は、NT、24時間及び1時間の群の間で、肉芽組織の量及び分布において観察されなかった。
【0135】
pGlcNAcパッチの適用時間は異物反応を調整した。不溶性繊維に接した創傷の延長曝露の効果を研究するために、パッチは、はじめに全追跡調査期間(3週)の間そのままにした。パッチの不溶性長繊維の長期にわたる存在は異物反応の形成を誘導し、肉芽組織形成及び巨大多核細胞の増加により特徴づけられた。1又は24時間のパッチの適用は、いかなる異物反応も誘導しなかった。
【0136】
(6.2 実施例2 dB/dBマウスの創傷治癒における短いポリ-N-アセチルグルコサミン(sNAG)膜の効果)
(6.2.1 材料及び方法)
sNAG膜の調製。sNAG膜は、上記第6.1節に記載したように生産した微細藻類由来のナノ繊維からなり、該繊維は照射によって短くなっている。簡潔には、出発物質は、1mg/mLの濃度で、60gのpGlcNAcスラリーを含んだ。pGlcNAcスラリーの濃度は、5mLを0.2μmのフィルターに濾過することにより確認した。15gのpGlcNAcを含んでいる15LのpGlcNAcスラリーを、ウエットケークの形成まで濾過した。ウエイクケーク(wake cake)をそれからガンマ線照射適合性容器であるホイルパウチに移し、200kGyガンマ線照射に供した。他の照射条件は、図4Aにおいて反映されるように、pGlcNAc組成物におけるそれらの効果について試験した。
【0137】
創傷モデル及び研究設計。先の第6.1節に記載されている遺伝的マウスモデルを使用して、創傷治癒におけるsNAG膜の効果を試験した。
【0138】
創傷閉鎖分析。創傷閉鎖分析は、実質的に第6.1節に記載するように実施した。収縮し、再上皮化し、及び開いた創傷域の合計は、元の創傷サイズの100%に等しい(図5)(Yannas I.の文献「成体における組織及び器官の再生(Tissue and Organ Regeneration in adults.)」New York: Springer; 2001を参照されたい)。
【0139】
免疫組織化学。免疫化学は、実質的に第6.1節で先に記載した通りに実施した。
【0140】
血管密度定量化。血管密度定量化は、実質的に第6.1節で先に記載したようにに実行した。
【0141】
細胞増殖の定量化。細胞増殖の定量化は、実質的に第6.1節で先に記載したようにに実行した。
【0142】
コラーゲン染色。創傷は、日常的方法を使用してコラーゲン成分について染色した。
【0143】
統計解析。創傷閉鎖の統計解析は、実質的に第6.1節で先に記載したように実行した。
【0144】
(6.2.2 結果)
統計解析。創傷閉鎖の統計解析は、実質的に第6.1節で先に記載したように実行した。
【0145】
pGlcNAc膜の照射の効果。照射はpGlcNAcの分子量を減らすが、照射は繊維のミクロ構造を撹乱しなかった。pGlcNAcは、異なる状態の下で:乾燥、凍結乾燥された材料として;乾燥した膜として;濃縮スラリー(ボリュームに対し30:70の重量)として;及び、薄いスラリー(5mg/ml)として;照射を受けた。適切な分子量減少(500,000〜1,000,000ダルトンの分子量に)は、乾燥ポリマーについて1,000kgy、及びウエットポリマーについて200kgyの照射線量で成し遂げられた(図4A)。
【0146】
繊維の化学的及び物理的な構造は、赤外線の(IR)スペクトル(図4B)、元素分析、及び走査型電子顕微鏡(SEM)分析により検証されるように照射の全体にわたって維持された。照射を受けた繊維の顕鏡観察は、粒子長の減少を示した(図4C及び4D)。大部分の繊維は、約15μm未満の長さであって、平均長約4umである。
【0147】
sNAG膜は、創傷治癒速度を変えた。肉眼写真は、sNAG膜処置されたマウスの創傷が、無処置のコントロールマウスの創傷より速やかに治癒したことを示す(図6〜10を参照)。sNAGでの治療は、無処置と比較して時間に渡ってより速い創傷閉鎖を誘導した。sNAG膜処置マウスは、4、7、10、14、17、21及び25日目において、無処置のコントロールマウスと比較して、擦傷表面(創傷の開いた部分)のより速やかな(p<0.05)減少を示した(図11)。
【0148】
sNAG膜処置マウスは、わずか8日平均で50%閉鎖にも達し、これは無処置のコントロールマウス(12日を越える)より4日早い(p<0.01)(図12)。
【0149】
sNAG膜処置マウスは、平均15日未満で90%閉鎖にも達し、これは無処置のコントロールマウス(およそ23日)より8日早い(p<0.01)(図13)。
【0150】
28日目に、sNAG膜処置マウスにおいて全て(100%)の創傷は閉鎖したが、無処置のコントロールマウスにおいてにおいては85%の創傷だけが閉鎖した。
【0151】
sNAG膜処置マウスは、14及び17日目における無処置のコントロールマウスと比較して、再上皮化の増加(p<0.05)を示した(図14)。
【0152】
sNAG膜処置マウスは、4、7及び10日目における無処置のコントロールマウスと比較して、収縮の減少(p<0.01)を示した(図15)。
【0153】
sNAG膜は、血管密度及び増殖を増加させた。dB/dBマウスにおける1cm2、全厚、無処置の創傷は、術後8〜12日に50%閉鎖に達した(Chanらの文献、「遺伝的糖尿病マウスでの創傷閉鎖における組換え血小板由来増殖因子(Regranex)の効果(Effect of recombinant platelet-derived growth factor (Regranex) on wound closure in genetically diabetic mice.)」J Burn Care Res 2006;27(2):202-5)。治療後の創傷治癒についての病期分類の中間時点として10日目が選ばれた。
【0154】
無処置のコントロールマウス対sNAG膜処置マウスにおける創傷端の組織学を、それぞれ、図16及び17に示す。増殖細胞をKi-67について染色した(図18)。PECAM-1(CD31)を選択し、内皮細胞を染色し、肉芽組織の血管密度を定量化した(図19)。sNAG膜処置マウスは、無処置のコントロールマウスと比較して、血管密度及び細胞増殖の顕著な増加を示した(図16、17)。
【0155】
図20及び21に示すように、再上皮化及び肉芽組織域を、4×倍率(群当たりn=7〜8)にて顕微写真で測定し、傷害及び治療様式に応答して新しく形成された組織による被覆のレベルを評価した。
【0156】
sNAG膜の適用時間は異物反応を調整した。sNAG繊維に接した創傷の延長曝露の効果を研究するために、全ての実験の間(4週)、sNAG膜を適用したままにした。図22は、10日での異物反応の欠如を示す。さらに、異物反応は、全てのsNAG膜処置マウスでの研究全体にわたって観察されなかった。
【0157】
sNAG膜はコラーゲン形成/配置を調整した。コラーゲン染色をsNAG治療マウス及び無処置のマウスの両方において観察したが、コラーゲン束は治療を受けたマウスにおいてより高密度かつ均一であり、これは、治療を受けたマウスにおける創傷繊維芽細胞の刺激増加及びより高度な創傷治癒の進行を示唆した(図22)。
【0158】
(6.3 実施例3 内皮細胞(EC)の動態及び血管新生におけるポリN-アセチルグルコサミン(pGlcNAc)及びsNAGの効果)
(6.3.1 材料及び方法)
組織培養、成長因子及びトランスフェクション。プールされた複数のドナーのヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)(Cambrex)を、Cambrex手順により記載されるEC生育培地2SingleQuotsを補充した内皮基礎培地2(Cambrex)にて、37℃、5%CO2で維持した。血清飢餓は、0.1%のウシ胎仔血清(Gibco BRL)を補充したRPMI-1640中24時間80〜90%集密度の後、VEGF 165(20ng/ml、R&D Systems)での刺激、又はテキストに記載された量で無菌水中の高度に精製されたpGlcNAcナノ繊維若しくはsNAGナノ繊維(Marine Polymer Technologies社, Danvers, Mass., USAにより提供される)での刺激により実施した。VEGFR阻害剤SU5416(10μm; R&D Systems)を使用する阻害については、細胞をVEGF、pGlcNAc又はsNAGによる刺激の前に15分間前処理した。
【0159】
ヒトの臍帯静脈ECは、製造業者により記載されている手順においてAmaxa nucleofectorシステムを使用してトランスフェクションし、80%までトランスフェクション効率を得た。すべてのトランスフェクションは、GFP発現ベクター(pFP-C1; Clontech)又はGFP指示RNA干渉(RNAi;Amaxa)を使用する緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現によりモニターした。特にEts1に対して指示されたプラスミドベースRNAiはPandomics社から購入し、ドミナントネガティブEts (dn-Ets)構築物は、pcDNA3発現ベクターにクローン化されたEts2のDNA結合ドメインを含む。
【0160】
抗体及びウェスタンブロット解析。ウエスタンブロット解析に使用する抗体は、以下の通りである:抗PI3K p85サブユニット(Upstate Biotechnology)、抗リン酸化型特異的VEGFR2(Cell Signaling)、VEGFR2(Santa Cruz)、抗リン酸化型特異的p42/p44(Promega)、及び抗リン酸化型特異的VEGFR2(BD Biosciences社)、抗p42/p44 Erk1/2、抗VEGFR2及び抗Ets1(Santa Cruz)。
【0161】
処理した細胞をリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で1回洗浄し、EDTA不含完全プロテアーゼ阻害剤(Roche)及び200μM オルトバナジウム酸ナトリウムを補充した1×RIPA溶解緩衝液(50mM トリス-HCl、pH 7.5、1% トリトンX-100、150mM NaCl、0.1% SDS、1% デオキシコール酸ナトリウム、40mM NaF)において溶解した。タンパク質濃度をビシンコニン酸タンパク質アッセイ(Pierce)で測定し、SDS-PAGEで分離し、イモビロン-Pポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)に転写した。ウエスタン分析は、標準的方法に従った。タンパク質は、Luminol試薬(Santa Cruz)を使用して視覚化した。
【0162】
細胞運動性及び増殖アッセイ。「掻爬」創傷閉鎖アッセイのために、ECをプラスチック組織培養ディッシュ上でコンフルエントまで培養し、ピペット先端部材を使用して1回の「創傷」を引き起こした。細胞をそれから、VEGF(20ng/ml)、テキストにおいて示される量のpGlcNAc若しくはsNAGで補充した、又は補充しない血清飢餓培地で16〜18時間インキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、メタノールで10分間固定し、0.1% クリスタルバイオレットで10分間染色して、完全に水でリンスした。創傷アッセイをデジタル画像治療を備えているオリンピック光学顕微鏡を使用して10×倍で撮影し、移動距離を測定した。
【0163】
修飾トランスウェルアッセイのために、トランスフェクションしたEC又はトランスフェクションしていないECを、20μg/μlのフィブロネクチン又はビトロネクチンでプレコートした8μmの孔サイズの浸潤チャンバー(Sigma)にまき、チャンバーあたり500μlの血清飢餓培地中5×104細胞であり、500μlの飢餓培地を該ウェルに添加した。VEGF(20ng/ml)、pGlcNAc又はsNAGを上部チャンバに添加した。細胞は、5%のCO2存在下、37℃で12時間インキュベートした。移動しなかった細胞は、各膜の上側を綿布でふくことにより除去した。移動した細胞をメタノールで10分間固定し、PBS中0.1μg/mlのエチジウムブロマイドで染色した。移動した細胞は、ライカの蛍光顕微鏡を使用して計数した。各アッセイは最低独立した3回の3回重複で実施し、トランスウェル当たり少なくとも6視野を計数した。
【0164】
インビトロ血管新生アッセイのために、ECを、成長因子を減らしたマトリゲルマトリクス(BD Laboratory)上に、血清飢餓培地中96ウェルプレートのウェルあたり1.6×104細胞/50μlで、VEGF(20ng/ml)、pGlcNAc若しくはsNAGの存在下又は不在下においてまいた。コード形成は、播種後8時間までで評価した。VEGF-、pGlcNAc-及びsNAG-治療細胞がコードを形成し始めるときに細胞を固定して撮影する一方で、コントロールは単一の細胞層を保持した。アッセイは2回反復で実行し、独立して2回繰り返した。
【0165】
細胞増殖/生存率評価のために、2つの異なるアッセイ法を使用した:血球計算板を使用する直接的な細胞計数によるトリパンブルー排除、及び製造業者(Promega)により記載されている手順でのMTT[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイ。
【0166】
抗体遮断。インテグリンにより媒介される細胞運動性及びシグナリングを遮断するために、pGlcNAc又はsNAGによる刺激前に、ECを、Chemicon Internationalから購入したαVβ3若しくはα5β1(CD49e)に対して指示された遮断抗体、又はα5サブユニットに対して指示された遮断抗体(Santa Cruz)を用い、実験的に決定された濃度(1μg/ml)で15分間プレインキュベートした。正常ウサギ血清を陰性対照として使用した。αVβ3抗体を使用する細胞移動の阻害のために、トランスウェルをフィブロネクチン(20μg/μl)でよりもむしろビトロネクチン(Sigma)でプレコートした。VEGFRの活性化を防ぐために、ECを、阻害剤であるSU5416(SU)で10μg/mlの濃度にて15分間プレインキュベートした。
【0167】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応。半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)のために、cDNAを総RNA(2〜5μg)から合成し、製造業者により説明されている手順にてRNA-STAT 60(Tel-Test社)を使用して分離し、製造業者の指示に従ってオリゴ(dT)を使用するGibco BRLから購入したスーパースクリプトファーストストランド合成キットを用いた。PCR反応は、等量のcDNA及び1.25μMの適切なプライマー対(Proligo社)を含んだ。プライマー配列は以下の通りである:
【化1】

サイクル条件は以下の通りだった:20〜35サイクルの94℃で5分間;94℃で1分間、50〜65℃(プライマーTmに基づく)で1分間、72℃で1分間、及び45s+ 2s/サイクル;72℃で7分間、並びに4℃への冷却。サイクル数は、使用する各プライマー対のアッセイの線形範囲の中で実験的に決定された。全ての半定量的RTPCRは、内部標準としてS26プライマーをタンデムで実施した。生成物を1〜1.5%のアガロースゲル上で流し(生成物サイズに基づく)、バイオラドの分子イメージングシステムで視覚化した。
【0168】
リアルタイムPCRは、Mx3000PリアルタイムPCRシステムと組み合わせてBrilliant CYBR green定量的PCR(QPCR)キットを使用して実行し、その両方ともストラタジーンから購入した。リアルタイムは、少なくとも2つの独立した時間で少なくとも3回反復で実行した。リボソームタンパク質サブユニットS26を検出する内部標準プライマーを使用した。
【0169】
(6.3.2 結果)
(6.3.2.1 pGlcNAc)
pGlcNAcは、血清飢餓により誘導される細胞死からECを保護した。pGlcNAc繊維がECに直接効果を有したかどうか試験するために、血清飢餓されたEC細胞を、VEGFで、又は異なる濃度のpGlcNAc繊維で処理した。図24の血清飢餓後の48時間及び72時間に示すように、播種された細胞の総数(コントロール)と比較して、48時間又は72時間後に細胞数において約2倍の減少があった。48時間において、細胞数のこの減少は、VEGFの添加によって、又は50若しくは100μg/mlのpGlcNAc繊維の添加によって救われた。72時間において、細胞数の減少は、VEGFの添加によって救われ、又は100μg/mlのpGlcNAc繊維の添加によって大幅に救われた。これらの結果は、VEGFの様に、pGlcNAc繊維治療が、血清欠乏により誘導される細胞死を防止したことを示した。
【0170】
pGlcNAcは代謝速度に影響しなかった。図25に示すように、pGlcNAcは、MTTアッセイで測定されるより高い代謝速度生じず、これはこの重合物質が、細胞増殖において著しい増加を引き起こさないが、血清欠乏による細胞死から救っていたことを示した。
【0171】
pGlcNAcは細胞移動を増加させた。ECのpGlcNAc繊維治療が細胞運動性の変化を生じるかどうか試験するために、「掻爬」創傷閉鎖アッセイ法を使用した。創傷領域への細胞の移動は、50、100及び250μg/mlでpGlcNAcが存在する場合に著しく増加した。図26に示すように、創傷閉鎖は、VEGF治療について観察されたものと類似していた。これらの結果は、pGlcNAc治療がEC運動の増加を生じることを示した。
【0172】
pGlcNAcは、フィブロネクチンの方への遊走の増加を引き起こした。この細胞運動性の増加がさらなる細胞侵入と相関したかどうか決定するために、EC運動性を、膜が細胞外基質タンパク質であるフィブロネクチンでプレコートされたトランスウェルアッセイを使用して測定した。図27に示すように、pGlcNAc治療は、VEGFの添加により強化された(4倍)フィブロネクチンの方への遊走において3倍の増加を生じた。
【0173】
pGlcNAcはコード形成を増加させた。細胞移動の刺激は、血管新生増加の必要条件である。インビトロで、pGlcNAcが血管新生刺激性であったかどうか試験するために、マトリゲルアッセイを実行した。ECを血清飢餓の状態の下で成長因子を減らしたマトリゲルにまき、6時間以内にVEGF又はpGlcNAc繊維の存在下又は不在下でコード形成について評価した。図28に示すように、VEGF及びpGlcNAc処理の両方は、マトリゲル上でコード形成の増加を生じた。これらの結果は、pGlcNAcが血管新生刺激性であることを示す。
【0174】
pGlcNAcは、細胞運動性に関与するエフェクタを誘導した。総RNAを血清飢餓されたEC(SS)から分離し;SS を、VEGF、pGlcNAc、スフィンゴシイング(Sphingosiing)1-リン酸(S1P)、又はZnで処理し;SSをVEGF又はS1Pで前処理した後、pGlcNAc処理し;SSをVEGF又はpGlcNAcで前処理した後、VEGFR阻害剤であるSU5416(Su)で処理した。図29Aに示すように、pGlcNAc処理は、EC運動の重要な制御因子であるEts1転写因子、並びにメタロチオネイン2A(MT)、Akt3及びEdg3の発現を刺激した。図29Bに示すように、リアルタイムPCRは、Ets1がpGlcNAc処理によってほぼ2倍誘導されたことを示した。メッセージにおけるこのEts1増加は、図29Cにおけるウエスタンブロット解析に示すより高いタンパク質発現を伴った。図29Aは、pGlcNAcにより刺激されるMT発現がVEGFR依存的であることも示した。
【0175】
pGlcNAcによるリン酸化型MAPK の誘導はVEGFR2依存的であった。pGlcNAc治療が、先に示したVEGFRシグナリングの下流の経路の活性化を生じるかどうか試験するために、ECをVEGF又はpGlcNAcで処理した。図30Aに示すように、pGlcNAc処理は、MAPKのリン酸化の著しい増加を生じた。この増加がVEGFR2依存的であったかどうか試験するために、ECをVEGFR阻害剤で前処理した後、VEGF又はpGlcNAc処理した。結果は、pGlcNAcによるリン光体-MAPKの誘導がVEGFR2に依存していることを示した(図30Bも参照されたい)。
【0176】
pGlcNAcはVEGFR2を活性化させなかった。pGlcNAcがVEGFRを活性化させたかどうか試験するために、VEGFR2のリン酸化形態に対して指示された抗体を使用して、一連のウエスタンブロットを実行した。図31に示すように、VEGF処理は、総VEGFR2タンパク質レベルのターンオーバーを伴い、VEGFRの急速なリン酸化が生じたが、pGlcNAcは、示されるこれらの初期の時点又は治療後6時間までのいずれにおいても効果を有しなかった(データ示さず)。
【0177】
pGlcNAc誘導性の遊走はEts依存的であった。Ets1がpGlcNAcにより誘導される運動性に必要であるかどうか試験するために、ドミナントネガティブ法並びにRNAiを使用してEts1を阻害した。保存されたEts DNA結合ドメインを発現しているdn-Ets構築物をECにトランスフェクトした。dn-Etsを発現させた24時間後、細胞は、pGlcNAcでの処理後のトランスウェルアッセイにおけるフィブロネクチンの方への細胞移動の変化について評価した。図32Aに示すように、Ets1活性並びにECにおいて発現される他のファミリーの阻害は、pGlcNAcに応答してのEC遊走において著しい減少を生じた。dn-Etsの活性のためのコントロールとして、図5Bは、dn-Etsの量を増加させたトランスフェクションが、総Ets1タンパク質の減少をもたらしたことを示す。Ets1発現は、別のファミリーメンバーによって制御され得るのみならず、自己制御されていることもあり得る。RNAiによる特異的なEts1の阻害は、フィブロネクチン上でpGlcNAc誘導性の細胞運動の減少も生じた(図32A、右面)。図32Bに示すように、dn-Ets発現プラスミドによってトランスフェクトされた細胞において、Ets1タンパク質発現は、プラスミド量の増加に伴って減少した。RNAi実験のためのコントロールとして、図32Cは、Ets1に対して指示された2つの量のプラスミド含有RNAiでトランスフェクトされたECにおけるEts1の結果的発現レベルを示す。dn-Etsの発現は、細胞移動においてEts1 RNAiより実質的な減少を生じ、これはおそらくECにおいて発現された他のファミリーメンバーのその遮断による。この知見は、pGlcNAcによる細胞運動性の誘導におけるEts1の役割を支持した。
【0178】
pGlcNAc誘導性の細胞運動はインテグリンを必要とした。pGlcNAcの効果がインテグリン依存的であるかどうか試験するために、遮断抗体を使用して、ECのインテグリンにより媒介されるシグナリングを破壊した。pGlcNAc誘導性細胞移動におけるこれらの抗体の効果は、トランスウェルアッセイを使用して評価した。図33Aは、フィブロネクチン(αVβ3受容体)に向かう遊走アッセイにおいて、αVβ3又はα5β1(CD49e)インテグリンに対して指示された抗体を使用した場合の結果を示す。図33Bは、ビトロネクチンで被覆されたトランスウェルにおいて、αVβ3又はα5β1(CD49e)に対して指示された抗体を使用する同様の実験を示す。いずれのインテグリン亜型の抗体遮断も、それらの同族の基質におけるpGlcNAc誘導性の細胞運動の阻害を生じた。これらの結果は、pGlcNAcが細胞運動性をインテグリン活性化を介して刺激することを示す。結果は、インテグリン活性化を介して血管新生を刺激しているpGlcNAcとも整合している。
【0179】
pGlcNAc誘導性の細胞運動は、インテグリン係合を介するFAKの活性化に関与し得る。FAKは、インテグリンのクラスタリング及び活性化に応答してリン酸化される。FAKは、インテグリン及び成長因子により媒介される細胞運動性及び浸潤の重要な制御因子である。pGlcNAcによるインテグリン活性化を試験するために、ECを時間増量のpGlcNAc繊維で処理し、FAKリン酸化のレベルの変化をアッセイした。図34に示すように、pGlcNAc処理は、処理15分以内でFAKのリン酸化を生じた。これらの結果は、pGlcNAc誘導性の細胞運動が、インテグリン係合を介するFAKの活性化に関与し得ることを示す。
【0180】
pGlcNAcは、創傷治癒モデルにおける血管新生をもたらすインテグリン→Ets1経路を活性化させる。多くのインテグリンサブユニットの転写制御におけるEts1の役割が説明されており、Ets1はインテグリンの上流に位置する。pGlcNAcによって誘導される運動性が、インテグリン及びEts1の両方に依存するという発見は、Ets1がインテグリンの制御された下流であり得ることを暗示する。インテグリン活性化がEts1発現の制御を生じることを確認するために、α5β1(フィブロネクチン受容体)又はαVβ3(ビトロネクチン受容体)に対して指示された遮断抗体を使用して、pGlcNAcによるインテグリンを阻害した。図35Aは、α5β1インテグリンの抗体遮断が、pGlcNAc誘導性Ets1発現の減少を生じることを示す。α5β1インテグリンの遮断を使用するEts1発現のこの阻害は、タンパク質レベルに要約される(図35B)。しかしながら、αVβ3インテグリン抗体は、ビトロネクチンにおける運動性を遮断したが、Ets1のpGlcNAc誘導性発現に影響を及ぼさず(図35)、これはビトロネクチンにおけるpGlcNAc誘導性の細胞運動がEts1非依存的であり得ることを示した。合わせて考えると、これらの結果は、初代ECにおいてEts1を特定のインテグリンの下流に位置させ、初代ECにおけるEts1発現に関するインテグリンシグナリングの潜在的特異性を示す。したがって、これらの知見は、pGlcNAcが、創傷治癒モデルの血管新生をもたらすインテグリン→Ets1経路を活性化できることを示す。
【0181】
pGlcNAc はVEGF及びIL1の発現を誘導した。pGlcNAc処理が、活性化したECにより分泌されることが知られている成長因子又はサイトカインの発現を誘導したかどうか試験するために、血清飢餓されたECをpGlcNAcで12時間処理し、VEGF、IL-1及びIL-8の発現の変化を評価した。RT-PCR及びQPCRで示すように、(図36A)、pGlcNAc処理は、VEGF及びIL-1両方の発現増加を生じた。これらの知見は、別のインターロイキンであるIL-8の発現に変化がなかったことから、ECのpGlcNAcに対する反応は特異的であることも示した。VEGF発現に対するpGlcNAcの効果に続発する、VEGFにより制御されることが知られている転写因子であるEts1発現のpGlcNAc依存的な誘導を試験するために、pGlcNAcでの処理前に、VEGFRの活性化を薬理学的阻害剤であるSU5416(SU)を使用して遮断した。QPCR(図36B)で示すように、この阻害剤でのECの処理は、VEGFによるEts1の誘導を遮断したが、pGlcNAcによるEts1の誘導に効果を有しなかった。
【0182】
pGlcNAcは、FGF1及びFGFR3の発現を誘導した。pGlcNAc処理が血管新生関連因子の発現を誘導したかどうか試験するために、ECをpGlcNAcで処理し、FGF1、FGF2、FGFR1、FGFR2、FGFR3、スタビリン、IFNg、コラーゲンA18の発現における変化を評価した。図37で示すように、pGlcNAc処理は、スタビリン及びコラーゲンA18の発現増加を生じた。
【0183】
(6.3.2.2 sNAG)
sNAGは細胞移動を増加させた。ECのsNAG繊維処理が細胞運動性の変化を生じるかどうか試験するために、「掻爬」創傷閉鎖アッセイ法を使用した。創傷領域への細胞の移動は、50及び100μg/ml両方のsNAG存在下で著しく増加した。創傷閉鎖は、pGlcNAc処理で観察されたものと類似していた(図38を参照)。これらの結果は、sNAG処理がEC運動の増加を生じることを示した。
【0184】
sNAGは、代謝速度の著しい増加を誘導した。MTTアッセイで測定されたように、50、100又は200μg/mlのsNAGは、VEGFより高いECの代謝速度を生じた(図39)。
【0185】
sNAGは、血清欠乏により誘導される細胞死からECを保護しなかった。sNAG繊維がECに直接効果を有したかどうか試験するために、血清飢餓されたEC細胞をVEGで、又は異なる濃度のsNAG繊維で処理した。図40に示すように、血清飢餓後の48時間で、播種された細胞の総数(コントロール)と比較して、細胞数の約2倍の減少があった。細胞数のこの減少は、VEGFの添加によって救われたが、50、100又は200μg/mlのsNAG繊維の添加によっては救われなかった。これらの結果は、VEGFとは異なり、sNAG繊維処理が血清欠乏により誘導される細胞死を防止しなかったことを示した。
【0186】
sNAG はVEGF及びIL1の発現を誘導した。sNAG処理が、活性化されたECにより分泌されることが知られている成長因子又はサイトカインの発現を誘導したかどうか試験するために、かつその効果をpGlcNAcと比較するために、血清飢餓されたECをpGlcNAc又はsNAGで12時間処理し、VEGF、IL-1及びIL-8の発現における変化を評価した。図41で示すように、sNAG処理は、VEGF及びIL-1両方の発現増加を生じた。これらの知見は、別のインターロイキンであるIL-8の発現において変化がなかったことから、ECのsNAGに対する反応が特異的であることも示した。
【0187】
sNAGはFGF1及びFGFR3の発現を誘導した。sNAG処理が、血管新生関連因子の発現を誘導したかどうか試験するために、ECをsNAGで処理し、FGF1、FGF2、FGFR1、FGFR2、FGFR3、スタビリン、IFNg、コラーゲンA18の発現における変化を評価した。RT-PCR(図37)で示すように、sNAG処理は、FGF1及びFGFR3の発現増加を生じた。
【0188】
上記の結果は、pGlcNAc及びsNAGがEC運動性を誘導し、かつpGlcNAc及びsNAGの両方がVEGF及びIL-1の発現を誘導することを証明する。
【0189】
上記の結果はまた、sNAGがMTTアッセイにおいて血清飢餓されたECの代謝速度を増加させ、トリパンブルー排除試験において血清飢餓されたECのアポトーシスを救わないことを証明する。
【0190】
(6.4 実施例4 sNAGの前臨床試験)
(6.4.1 試験物品)
上記第6.2.1節において前述したように生産できるsNAGを含む試験物品を利用した。試験物品は、Marine Polymer Technologies社により無菌で供給された。
【0191】
(6.4.2 生体適合性試験−L929 MEM回避試験−ISO 10993-5)
試験物品の生体親和性をマウス繊維芽L929哺乳動物細胞において試験した。試験物品への曝露後48時間のL929細胞において、生物反応性(等級0)は観察されなかった。ポジティブコントロール物品(等級4)及びネガティブコントロール物品(等級0)から得られた観察された細胞反応によって、試験系の適合が確認された。プロトコルの基準に基づき、試験物品は無毒性であるとみなされ、回避実験、すなわち国際標準化機構(ISO)10993-5指針の要件を満たす。下記の表Iを参照されたい。
【表2】

【0192】
(6.4.3 筋肉内移植試験−ISO−4週間移植)
(6.4.2.1材料及び方法)
局所毒作用を誘導する試験物品の可能性を評価するために、筋肉内移植試験−ISO−4週間移植(「筋肉内移植試験」)を使用した。簡潔にいうと、試験物品を4週間、ニュージーランドホワイト種ウサギの傍脊椎筋組織に移植した。試験物品をそれから2つのコントロール物品を使用して別々に評価した:ポジティブコントロール・サージセル(Surgicel)(ジョンソンアンドジョンソン、NJ)及びネガティブコントロール・高密度ポリエチレン(ネガティブコントロールプラスチック)。
【0193】
試験及びコントロール物品の準備。試験物品を、幅およそ1mm及び長さ10mmで測定した。2つのコントロール物品を準備した。ポジティブコントロールであるサージセル(C1)を幅およそ1mm及び長さ10mmで測定し、無菌で受け取った。ネガティブコントロールプラスチック(C2)を幅およそ1mm及び長さ10mmで測定し、70%エタノールへの浸漬により殺菌した。
【0194】
前投与手順。各動物を移植前に秤量した。試験の日に、動物の背面側を毛皮がない状態で留め、抜け毛を掃除機で除去した。各動物を適切に麻酔した。移植前に、該領域を外科調製溶液で拭いた。
【0195】
用量投与。4つの試験物品ストリップを、正中及び平行から脊柱におよそ2.5cm、並びに互いにおよそ2.5cmで、各ウサギの傍脊椎筋の各々に外科的に移植した。試験物品ストリップを片側の脊椎側に移植した。同様の様式で、ポジティブコントロール物品ストリップ(サージセル)を各動物の反対側の筋肉に移植した。2つのネガティブコントロールストリップ(ネガティブコントロールプラスチック)を、試験物品に対し、及び脊椎(合計で4つのストリップ)の一方のC1コントロール移植部位に対し、尾側で(尾部の方へ)移植した。少なくとも8つの試験物品ストリップ、及び8つの各コントロール物品ストリップの合計が評価のために必要とされる。
【0196】
投与後手順。動物を4週間維持した。移植部位及び毒性の臨床徴候の適切な治癒を保証するためのこの期間、動物を毎日観察した。観察は全ての臨床症状を含んだ。観察期間の終わりに、動物を秤量した。各動物を注射可能なバルビツール酸塩で犠牲とした。組織を出血なく切るために充分な時間、経過させた。
【0197】
肉眼観察。試験物品又はコントロール物品が移植された傍脊椎筋をまとめて各動物から切除した。筋肉組織は、慎重に外科用メスで移植部位のまわりで切り、組織を持ち上げることにより切除した。切除された移植組織を肉眼的に調査したが、組織病理的評価のためにこの組織の完全性を壊し得る過剰な侵襲的手順は使用しなかった。組織を10%の中性緩衝ホルマリンを含んでいる適切に標識した容器中に置いた。
【0198】
組織病理学。ホルマリンでの固定の後、移植部位の各々をより大量の組織から切除した。移植料を含む移植部位を肉眼的に検討した。各部位は、以下の基準を使用して、炎症、カプセル化、出血、壊死及び変色の徴候について検討した:
0=正常
1=軽度
2=中程度
3=顕著
肉眼の観察の後、移植材料はインサイチュウでそのままにしておき、移植部位を含む組織切片を加工した。ヘマトキシリン及びエオジン染色した切片の組織学的スライドをトキコン(Toxikon)で調製した。スライドを光学顕微鏡観察で評価し、等級分けした。
【0199】
移植の効果における病理学的評価。生体反応の以下のカテゴリを各移植部位について顕鏡観察により評価した:
1.炎症反応:
a.多形核白血球
b.リンパ球
c.好酸球
d.プラズマ細胞
e.マクロファージ
f.巨細胞
g.壊死
h.変性
2.反応治癒
a.線維形成
b.脂肪浸潤
【0200】
反応の各カテゴリは以下の基準を使用し等級分けした:
0=正常
0.5=ごくわずか
1=軽度
2=中程度
3=顕著
【0201】
関連のある領域の相対寸法を、インプラント/組織界面から、正常組織及び通常の血管分布の特徴を有する無影響領域までの領域の幅を評価することによりスコア化した。関連のある領域の相対寸法は以下の基準を使用してスコア化した:
0=0mm、部位なし
0.5 =〜0.5mm、ごくわずか
1= 0.6〜1.0mm、軽度
2 =1.1〜2.0mm、中程度
3 =>2.0mm、顕著
【0202】
筋肉内移植試験は以下の参照に基づいて実施した:
1.ISO 10993-6、1994、医療機器の生物学的評価−パート6:移植後の局所効果についての試験。
2.ISO 10993-12、2002、医療機器の生物学的評価−パート12:サンプル調製及び対照材料。
3.ASTM F981-04、2004、筋肉及び骨における材料の効果に関する外科用移植材料についての生体材料の互換性の評価のための標準実務。
4.ASTM F763-04、2004、移植材料の短期スクリーニングのための標準実務。
5.ISO/IEC 17025、2005、試験及び較正試験室の能力の一般的要件。
【0203】
筋肉内移植試験の結果は以下の基準に基づいて評価した:
1.算出速度:各移植部位について、合計スコアを決定する。各動物について試験部位の平均スコアを、その動物のコントロール部位の平均スコアと比較する。全ての動物について試験部位とコントロール部位との間の平均差を算出し、初期生体反応速度を以下の通りに割り当てる:
0〜1.5 反応なし*
>1.5〜3.5 軽度の反応
>3.5〜6.0 中程度の反応
>6.0 顕著な反応
*負の計算値は0として報告する。
2.速度の変更:病理学観察者は、生体反応性の算出レベルを再調査する。全ての因子(例えば、相対寸法、反応のパターン、炎症対回復)の観察に基づいて、病理学観察者は生体反応速度を修正できる。速度の変更についての正当化は、物語報告にある(試験材料の生体親和性に関する記述的物語報告は病理学観察者により提供される)。
【0204】
(6.4.2.2 結果)
結果は、試験物品が、4週間(0.2の生体反応速度)移植されるときに、ポジティブコントロールサージセルと比較した場合に非反応性であり;かつ、ネガティブコントロール高密度ポリエチレン(ネガティブコントロールプラスチック)と比較した場合に非反応性(0.0の生体反応速度)であった;ことを示した。
【0205】
臨床観察。下記の表IIは、試験物品及びコントロール移植部位の肉眼の評価の結果が、4週間での炎症、カプセル化、出血、壊死又は変色の顕著な徴候を示さなかったことを示す。いくつかの試験部位及び大部分のポジティブコントロールであるサージセルは肉眼的に見られず、連続切片を顕微鏡的評価に供した。
【表3】

【0206】
移植部位観察(顕微鏡的)。下記の表IIIは、試験物品移植部位の顕微鏡的評価の結果が、コントロール物品部位の各々と比較して、炎症、線維形成、出血、壊死又は退化の顕著な徴候を示さなかったことを示す。4週間の生体反応速度(3匹の動物の平均)は0.2(C1−サージセル)、及び0.0(C2−ネガティブコントロールプラスチック)であり、これはコントロール移植部位のいずれと比較しても反応がないことを示す。病理学者は、インサイチュウで試験物品周辺に適度な多形及び組織球(マクロファージ)浸潤があったことを記述し、これは試験材料の性質に与えられたものから予想外でなかった。
【表4】

【表5】

【表6】

【0207】
(6.4.4 皮内注試験−ISO10993-10)
試験物品の注射用USP 0.9%塩化ナトリウム(NaCl)抽出物及び綿実油(CSO)抽出物を、ニュージーランドホワイト種ウサギの皮内注後に刺激をもたらすそれらの可能性について評価した。試験物品部位は、コントロール物品を注射した部位より著しく大きな生体反応を示さなかった。プロトコルの基準に基づき、試験物品は、無視可能な刺激物とみなされ、ISO 10993-10指針の要件を満たす。結果は、以下に表IVで示す。
【表7】

【0208】
(6.4.5 クリグマン(Kligman)最大化試験−ISO 10993-10)
試験物品の注射用UPS 0.9%塩化ナトリウム(NaCl)抽出物及び綿実油(CSO)抽出物は、誘発(0%感作)及び続く誘導期でハートレイモルモットに皮内反応を誘発しなかった。したがって、クリグマンの評価法により規定されるように、これは等級I反応であり、試験物品は弱いアレルギーを起こす可能性があるとして分類する。プロトコルの基準に基づき、等級Iの感作速度は著しいとはみなされず、試験物品はISO 10993-10指針の要件を満たす。結果を下記表Vに示す。
【表8】

【0209】
(具体的実施態様、参考文献の引用)
本発明は、本明細書に記載される具体的実施態様による範囲に制限されない。実際、本明細書に記載されるものに加えて本発明のさまざまな変更態様が、前述の説明及び添付の図面から当業者にとって明らかになるであろう。そのような変更態様は、添付の特許請求の範囲内にあることが意図される。
【0210】
特許出願、特許公報及び科学的刊行物を含む様々な参考文献が本明細書に引用されており;そのような参考文献の各々の開示は、引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維を含むポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物であって、(i)大部分の繊維が約1 5μm未満の長さであり、かつ(ii)該組成物が(a)MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させる、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救わない、並びに(b)筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性である、前記組成物。
【請求項2】
前記組成物が、MTTアッセイにおいて血清飢餓されたヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させ、かつトリパンブルー排除試験において血清飢餓されたヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救わない、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記大部分の繊維が、約1〜2μmの厚さ又は直径を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記繊維の少なくとも50%が、約4μmの長さである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ヒト対象の創傷を治療する方法であって:
(a)被覆材をその必要のあるヒト対象の創傷に局所適用することを含み、該被覆材が請求項1記載の組成物であり、
それにより前記ヒト対象の創傷を治療する、前記方法。
【請求項6】
(b)5〜35日毎に前記適用を繰り返すことをさらに含む、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記創傷が慢性創傷である、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記慢性創傷が、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍である請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記慢性創傷が静脈うっ血性潰瘍である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記創傷が、外科的創傷又は熱傷創である、請求項5又は6記載の方法。
【請求項11】
ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物を生産する方法であって、前記方法が、生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維を照射することを含み、そのようにして(i)大部分の照射を受けた前記繊維が約15μm未満であり、かつ(ii)該組成物が(a)MTTアッセイにおいて血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞の代謝速度を増加させる、及び/又はトリパンブルー排除試験において血清飢餓ヒト臍帯静脈内皮細胞のアポトーシスを救わない、並びに(b)筋肉内移植試験において試験されるときに非反応性であって、それによりポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン組成物を生産する、前記方法。
【請求項12】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維が乾燥繊維として照射を受ける、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維が、500〜2,000kgyでのガンマ照射による照射を受ける、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維が湿繊維として照射を受ける、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミン繊維が、100〜500kgyでのガンマ照射による照射を受ける、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ヒト対象の創傷を治療する方法であって:
(a)被覆材をその必要のあるヒト対象の創傷に局所適用することであって、該被覆材が生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含むこと、及び、
(b)前記適用を5〜35日毎に繰り返すこと、
を含み、これにより前記ヒト対象の創傷を治療し、該ヒト対象が、糖尿病患者、喫煙者、血友病患者、HIV感染者、肥満者、放射線治療を受けている者、又は静脈うっ血性潰瘍を有する者である、前記方法。
【請求項17】
前記ヒト対象が静脈うっ血性潰瘍を有する者である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記創傷が慢性創傷である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記慢性創傷が、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記慢性創傷が静脈うっ血性潰瘍である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記創傷が、外科的創傷又は熱傷創である、請求項16記載の方法。
【請求項22】
前記工程(a)の被覆材が、工程(b)の前に除去される、請求項16記載の方法。
【請求項23】
前記工程(b)の被覆材が、工程(b)の前に除去されない、請求項16記載の方法。
【請求項24】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、微細藻類のポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンである、請求項16記載の方法。
【請求項25】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、甲殻類のポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミンでない、請求項16記載の方法。
【請求項26】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが繊維を含み、該ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが照射を受けて繊維の長さが減少している、請求項16記載の方法。
【請求項27】
前記被覆材の少なくとも75%が、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンから構成される、請求項16記載の方法。
【請求項28】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含む、請求項16記載の方法。
【請求項29】
前記脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、20〜70%脱アセチル化されている、請求項28記載の方法。
【請求項30】
ヒト対象の慢性創傷を治療する方法であって:
(a)被覆材をその必要のあるヒト対象の創傷に局所適用することであって、該被覆材が生体適合性ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含むこと、及び、
(b)前記適用を5〜35日毎に繰り返すこと、
を含み、これにより前記ヒト対象の慢性創傷を治療し、該慢性創傷が、糖尿病潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、動脈不全潰瘍、又は圧力潰瘍である、前記方法。
【請求項31】
前記慢性創傷が静脈うっ血性潰瘍である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記工程(a)の被覆材が工程(b)の前に除去される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記工程(b)の被覆材が工程(b)の前に除去されない、請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、微細藻類のポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンである、請求項30記載の方法。
【請求項35】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、甲殻類のポリβ-1→4-N-アセチルグルコサミンでない、請求項30記載の方法。
【請求項36】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが繊維を含み、該ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが照射を受けて繊維の長さが減少している、請求項30記載の方法。
【請求項37】
前記被覆材の少なくとも75%が、ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンから構成されている、請求項30記載の方法。
【請求項38】
前記ポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンを含む、請求項30記載の方法。
【請求項39】
前記脱アセチル化されたポリ-β-1→4-N-アセチルグルコサミンが、20〜70%脱アセチル化されている、請求項38記載の方法。

【図1】
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【図2A−C】
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【図2D−E】
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【図3A−B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29A】
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【図29B−C】
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【図30A】
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【図30B】
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【図31】
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【図32A】
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【図32B】
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【図32C】
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【図33A−B】
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【図34】
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【図35A】
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【図35B】
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【図36A】
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【図36B】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公表番号】特表2010−518917(P2010−518917A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550097(P2009−550097)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/002172
【国際公開番号】WO2008/103345
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(501250337)マリン ポリマー テクノロジーズ,インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】