説明

正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを用いて呼吸抑制を阻害する方法

本発明は、オピエート、オピオイドまたはバルビツレートなどの薬剤疾患の結果としての対象における呼吸抑制を軽減する方法を対象とする。本発明はまた、上記方法による使用のための医薬組成物であって、鎮痛剤、麻酔剤、または鎮静剤により生じた呼吸抑制を低減または阻害するのに十分な量で、鎮痛剤、麻酔剤、または鎮静剤および正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを組み合わせて含有する組成物も開示する。一つの実施形態では、上記薬剤は、アルコール、オピエート、オピオイド、バルビツレート、麻酔剤、または神経毒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年8月31日に出願された、米国仮特許出願番号60/824,245の利益を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、疾患または薬剤の結果としての対象における呼吸抑制(RD)を低減または阻害する方法を対象とする。さらに、鎮痛または鎮剤反応を逆転させずに薬剤誘発呼吸抑制を逆転させる方法が提供される。さらに、呼吸を抑制することなく対象にオピエート、オピオイドまたはバルビツレートの鎮痛、麻酔または鎮静を誘導するための方法および医薬組成物が提供される。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
呼吸リズム生成ネットワークの神経化学的制御、ならびに呼吸筋の活性パターンを決定する前運動および運動ニューロン回路の理解に向けた医学的研究による協調努力がある。実験研究から得られる洞察は、種々の医学的状態における呼吸抑制を軽減するための薬理学的介入の開発に重要である。これに関し、腹外側延髄内の特定領域であるプレベッツィンガー複合体(preBotC)が、律動吸気ドライブの生成に重要な役割を果たすとして研究焦点の主要領域となっている(非特許文献1で概説)。
【0004】
preBotC内で、非NMDA受容体(主にα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体)に媒介されたグルタミン酸シナプスシグナル伝達は、呼吸リズムを維持するのに特に重要である。非特許文献2;非特許文献3参照。アンタゴニスト6−シアノ−7−ニトロキノキサリン−2,3−ジオン(CNQX)による非NMDA受容体の遮断は、呼吸頻度ならびに脳および脊髄運動ニューロンに対する吸気ドライブの用量依存的減少、および最終的な停止の原因となる。グルタミン酸取り込み阻害剤による内因性に放出されたグルタミン酸レベルの上昇(非特許文献3))またはAMPA受容体脱感作の低下(非特許文献4)はin vitroでの呼吸頻度の増加をもたらす。
【0005】
オピエートは、呼吸リズムを乱し、呼吸およびCOに対する呼吸感受性を抑制することが昔から知られていた(非特許文献5で概説)。橋および延髄は、オピエート剤がこの呼吸作用を生じる主要部位であることが知られている(同文献)。内因性オピオイドならびにオピオイド受容体のμおよびδサブタイプは、基本的に橋および延髄の呼吸領域すべてに存在する(非特許文献6)。in vivoおよびin vitroの研究は、外因性オピオイドが吸気および呼気ニューロンの活性をシナプス後性(非特許文献7)およびシナプス前性(非特許文献8)に抑制することを示した。しかし、呼吸に対するオピエート作用に関与する根本的な細胞機構は、解明されていない。
【0006】
オピエート剤は医療で幅広く使用されている。しかし、オピエート剤は呼吸を抑制するため、この使用は多くの例で、特に心血管および肺の機能が障害された患者には禁忌である。故に、患者の呼吸機能を抑制することなく、オピエートおよびオピオイドの鎮痛力を利用することが長年にわたり切実に必要とされてきた。
【0007】
本発明は、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターが、呼吸抑制に対処する新規な薬理学的手段を提供することを開示してこのおよび他のニーズに応える。本発明は、AMPA受容体媒介電流を増強することができる正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター(非特許文献9)が、呼吸抑制に対処する有効な手段であることを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Feldmanら(2006年)Nat. Rev. Neurosci.7巻3号:232〜241頁
【非特許文献2】Greer J.J.ら(1991年)J. Physiol.437巻:727〜749頁
【非特許文献3】Funk, G.D.ら(1993年)J. Neurophysiol.70巻4号:1497〜1515頁
【非特許文献4】Funk, G.D.ら(1995年)J. Neurosci.15巻:4046〜4056頁参照
【非特許文献5】Shookら、(1990年)Am. Rev. Respir. Dis.142巻4号:895〜909頁
【非特許文献6】YeadonおよびKitchen、(1989年)Prog Neurobiol.33巻1号:1〜16頁
【非特許文献7】Denavit−Saubie’、ChampagnatおよびZieglgansberger、(1978年)Brain Res.155巻1号:55〜67頁
【非特許文献8】Johnson、SmithおよびFeldman、(1996年)J. Appl. Physiol.80巻6号:2120〜33頁
【非特許文献9】Nagarajan, N.ら(2001年)Neuropharmacol.41巻:650〜663頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明の一態様では、呼吸抑制を有する対象における呼吸抑制を低減または阻害するための方法であって、呼吸抑制を低減または阻害するのに十分である量の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを対象に投与するステップを含む方法が提供される。本発明の一実施形態では、対象は哺乳動物である。別の実施形態では、対象はヒトである。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、呼吸抑制は薬剤の過量摂取により生じる。いくつかの実施形態では、薬剤は、アルコール、オピエート、オピオイド、バルビツレート、麻酔剤、または神経毒である。別の実施形態では、対象は医学的状態により生じる呼吸抑制を有する。典型的な医学的状態には、中枢性睡眠時無呼吸、脳卒中誘発性中枢性睡眠時無呼吸、閉塞性睡眠時無呼吸、先天性低換気症候群、肥満低換気症候群、乳幼児突然死症候群、レット症候群、脊髄損傷、外傷性脳損傷、チェーンストークス呼吸、オンディーヌの呪い、プラダーウィリー症候群、および溺水を含めることができる。
【0011】
本発明の別の態様は、臨床的に意味のある形で、中枢性呼吸抑制剤の鎮痛、麻酔、または鎮静作用を変えることなく対象における呼吸抑制を同時に低減または阻害しながら、対象に鎮痛、麻酔、または鎮静を誘導する方法である。この方法は、対象に鎮痛、麻酔、または鎮静を誘導するのに十分な治療有効量の中枢性呼吸抑制剤を対象に投与するステップと、臨床的に意味のある形で、中枢性呼吸抑制剤の鎮痛、麻酔、または鎮静作用に影響を及ぼすことなく、呼吸抑制を低減または阻害するのに十分な治療有効量の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの治療有効量を同時に投与するステップとを含む。
【0012】
本発明の別の態様は、対象における呼吸抑制を同時に低減または阻害しながら、対象に鎮痛、麻酔、または鎮静を誘導する医薬組成物であって、中枢性呼吸抑制剤、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター、および適切な担体を含む医薬組成物である。
【0013】
いくつかの実施形態では、中枢性呼吸抑制剤は、アルコール、オピエート、オピオイド、またはバルビツレートである。本発明のいくつかの実施形態では、オピエートまたはオピオイドは、アルフェンタニル、ブプレノルフィン、カーフェンタニル、コデイン、ジヒドロコデイン、ジプレノルフィン、エトルフィン、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、LAAM、レボルファノール、メペリジン、メタドン、モルヒネ、ナルブフィン、ナルトレキソン、ベータ−ヒドロキシ−3−メチルフェンタニル、オキシコドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、レミフェンタニル、スフェンタニル、チリジン、トラマドール、これらの濃縮または純粋エナンチオマーまたはジアステレオマー、これらのラセミ混合物、およびこれらの医薬的に適切な塩から成る群から選択される。バルビツレートは、アロバルビタール、アミルバルビタール、ブタバルビタール、ヘキサバルビタール、メフォバルビタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、フェネチルバルビタール、セコバルビタール、タルブタールおよびチオペンタールから成る群から選択される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、AMPAKINE(登録商標)化合物である。別の実施形態では、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、CX546、CX614、1−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)−4,4−ジフルオロピペリジン、および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンから成る群から選択される。本発明の実施において使用に適した別の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物は、当業者によく知られている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】CX546が、脳幹−脊髄標本により生成された律動呼吸活性の頻度を刺激することを示す図である。図1Aは、CX546溶液適用に反応したE20脳幹−脊髄標本からのC4腹側根放電の整流および積分した吸引電極記録を示す。図1Bは、異なる周産期年齢(各年齢に対しn=4〜5;#は対照とCX546との有意差を示す;P<0.05)でのCX546の溶液適用に反応した脳幹−脊髄標本の呼吸頻度の変化を示す集団データを示す。
【図2】CX546が、延髄スライス標本により生成された律動呼吸活性の頻度を刺激することを示す図である。図2Aは、整流および積分した舌下神経根(XII)活性を示す、3mM[Kを含有する浸漬培地で灌流したP2延髄スライス標本からの長期記録(>3時間)を示す。図2A(a〜d)の下の波形は、記録中の一定期間での呼吸放電の拡大記録を示す。図2A(a)は、3mM[K浸漬培地で灌流した場合、律動活性がスライス作成直後にあったことを示す。図2A(b)は、バースト振幅および頻度が漸減し、60分>で停止したことを示す。図2A(c)〜(d)は、律動活性(3mM[K)の停止後、CX546の溶液適用がXII運動ニューロンの律動活性を回復したこと、および呼吸リズムが、CX546の存在下で3時間を超えて持続したことを示す。図2Bは、3mM[K培地におけるまたは3mM[Kに続きt=60分でCX546を添加した、P2延髄スライス標本の呼吸頻度の変化の時間経過を示す集団データを示す(45分後の各データポイントに対しn=3、n=60〜45分)。
【図3】CX546が、in vitroでのオピオイド誘発呼吸抑制に対抗することを示す図である。図3Aは、C4腹側根(P1ラットの脳幹−脊髄)の整流および積分した記録を示し、図3Bは、μ−オピオイド受容体アゴニストTyr−D−Ala−Gly−N−メチル−Phe−Gly−ol−エンケファリン(DAGOまたはDAMGO)の溶液適用に反応したXII神経根(9mM[K浸漬培地により灌流したP1ラットの延髄スライス)の整流および積分した記録を示す。これらの標本における呼吸頻度および振幅のDAGO誘導抑制は、この後のCX546の溶液適用により一部逆転した。図3Cおよび図3Dは、対照値(1.0)と比べた吸気頻度およびバースト振幅に対する、溶液適用したDAGO単独および次いで(DAGOの持続的存在下の)CX546の作用を示す、脳幹−脊髄および延髄スライス標本(P1〜P2ラット;各標本に対しn=7)に関する集団データを示す。は、対照と比べた有意差を示す;#はDAGO単独での値とこの後のCX546の適用後での値との有意差を示す。
【図4】CX546が、灌流した心臓in situ標本により生成された、呼吸頻度および振幅のオピオイド誘発呼吸抑制に対抗することを示す図である。図4Aは、P24ラットにおける横隔神経放電の生のおよび積分した長期記録を示す。フェンタニルおよびCX546を、酸素化灌流培地を含有する貯蔵槽に添加した時点が矢印で示される。下のパネルは、長期記録でa〜eに標識した領域から収集した横隔神経呼吸放電の拡大部分を示す。図4Bは、積分した横隔神経放電の振幅および頻度に対するフェンタニルおよび(フェンタニルの持続存在下の)CX546の相対作用を示す、集団データ(n=8)を示す。p<0.001;#p<0.05;+p<0.01。
【図5】CX546が、in vivoでのオピオイドおよびフェノバルビタール誘導呼吸抑制に対抗することを示す図である。無麻酔P0仔における呼吸頻度および振幅に対するフェンタニル(図5A)およびフェノバルビタール(図5B)の阻害作用が、CX546により対抗されることを示すプレチスモグラフ記録。図5Cは、P0仔において見られたように、フェンタニルの投与が呼吸頻度および振幅を阻害すること、およびこの阻害はCX546により低減されることを示す、成齢ラットからのプレチスモグラフ記録を示す。図5Dおよび図5Eは、CX546投与前および後の両方でフェンタニルまたはフェノバルビタールにより誘発した、対照と比べた頻度および振幅の変化を示すP0ラット仔に関する集団データを示す(n=4)。図5Fは、フェンタニル単独により誘発したおよびCX546投与後の頻度および振幅の相対変化を示す、成齢ラットに関する集団データを示す(n=4)。は、対照と比べた有意差を示す;#は、群間有意差が、呼吸抑制剤単独の存在下の値とこの後のCX546の適用後での値との有意差を示すことを示す。
【図6】正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物CX614および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(化合物A)の、preBotCへの局所注射が、新生ラット延髄スライス標本における呼吸リズムのDAMGO誘導抑制を軽減することを示す図である。図6Aは、出生後日数(P)2延髄スライス標本からのXII延髄根放電(∫XII)の整流および積分した吸引電極記録を示す。吸気バーストの頻度は、μ−オピエート受容体アゴニストTyr−D−Ala−Gly−N−メチル−Phe−Gly−ol−エンケファリン(DAMGOまたはDAGO)の溶液適用により著しく減少する。薬剤適用のタイミングを横線で示す。化合物Aの局所適用は頻度抑制を軽減する。DAMGOへの曝露を維持しつつ、化合物Aをウォッシュアウトした後の、CX614の局所適用は、XII運動ニューロン活性の頻度および振幅に対する強力な作用を示す。図6Bは集団データを示す(n=5標本)。
【図7】正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物CX614および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(化合物A)の、XII運動ニューロン核への局所注射が、新生ラット延髄スライス標本における吸気放電振幅のDAMGO誘導抑制を軽減することを示す図である。図7Aは、出生後日数(P)2延髄スライス標本からのXII延髄根放電(∫XII)の整流および積分した吸引電極記録を示す。吸気バーストの振幅は、μ−オピエート受容体アゴニストDAMGOの溶液適用により減少する。化合物Aの局所適用は振幅抑制のいくつかを軽減する。DAMGOへの曝露を維持しつつ、化合物Aをウォッシュアウトした後の、CX614の局所適用は、XII運動ニューロン活性の頻度および振幅に対する強力な作用を示す。図7Bは集団データを示す(n=5標本)。
【図8】正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物CX614および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(化合物A)の溶液適用が、XII運動ニューロン核へのグルタミン酸の局所適用による誘導電流の増加をもたらすことを示す図である。ラット延髄スライス標本におけるXII運動ニューロンからの電圧クランプ記録(上の波形)およびXII神経根の吸引電極記録(下の波形)。左から右のパネルは、以下の通り:i)律動活性スライスにおけるXII核へのグルタミン酸局所注射は、吸気バースト間のXII神経放電のバーストを誘導する;ii)浸漬培地へのテトロドトキシン(TTX)の添加後、グルタミン酸に誘導された内向き電流は、バースティングおよびシナプス伝達を阻害する;iii)グルタミン酸誘導内向き電流の振幅および持続時間は、浸漬培地への化合物Aの添加により著しく変化することはない;iv)グルタミン酸誘導内向き電流の振幅は、浸漬培地へのCX614の添加によりおよそ2倍増加した;v)化合物AおよびCX614のウォッシュアウト(TTXは洗浄するのが難しく、故に呼吸リズムの再出現がないことに注目)。
【図9】4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(化合物A)の溶液適用が、プレベッツィンガー複合体へのグルタミン酸局所適用により誘導された電流の増加をもたらすことを示す図である。データは、ラット延髄スライス標本のプレベッツィンガー複合体内の吸気ニューロンからの電圧クランプ記録を示す。左のパネルは、シナプス入力を介した間接作用を防ぐTTXの存在下で局所グルタミン酸適用に反応した内向き電流を示す。右のパネルは、グルタミン酸注射に反応した電流振幅が、化合物Aの存在下で増加することを示す。
【図10】CX546の全細胞分析が、preBotC内の吸気ニューロンに作用することを示す図である。図10Aは、弱い呼吸ドライブを誘導するため、低い細胞外K+に浸漬した延髄スライス標本におけるpreBotC内の吸気ニューロンからの膜電位電流クランプ記録。リズムの頻度および吸気ドライブ電位は、CX546により増加する。図10Bは、同じニューロンからの膜電流の電圧クランプ記録。CX546は、内向き吸気ドライブ電流の振幅に著しい増加をもたらした。作用はすべて、CX546のウォッシュアウトの際に逆転した。
【図11】非拘束Sprague−Dawleyラットからの呼吸の頻度および深度の全身プレチスモグラフ測定を示す図である。呼吸は、投与数分以内の有意に減少した呼吸頻度および振幅で示された、μ−オピオイド受容体アゴニストフェンタニル(130μg/kg)の腹腔内(i.p.)投与により抑制された(左の波形の数は、フェンタニル注射後の分を指す)。呼吸抑制は、1時間でも依然として明白であった。左の波形は、4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(化合物A)なしのビヒクル(ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリン(HPCD))溶液のこの後のi.p.注射が、呼吸リズムのオピエート媒介抑制に対し何ら影響しなかったことを示す。右の波形は、上記に記載の通りフェンタニルで処理されたが、化合物A(33mg/kg、HPCD溶液により作製)のこの後のi.p.注射を与えられた別のP17ラットが、5分以内でフェンタニル誘導呼吸抑制を逆転させたことを示す。化合物Aによる呼吸リズムの増大は、少なくとも1時間持続した。化合物Aは、動物の挙動または覚醒状態(すなわち、自発運動の増減、興奮、鎮静の兆候)に何らかの明白な作用をもたらすことはなかった。
【図12】非拘束Sprague−Dawleyラットからの呼吸の頻度および深度の全身プレチスモグラフ測定を示す図である。呼吸は、投与数分以内の有意に減少した呼吸頻度および振幅で示された、μ−オピオイド受容体アゴニストフェンタニル(130μg/kg)の腹腔内(i.p.)投与により抑制された(左の波形の数は、フェンタニル注射後の分を指す)。CX614(2.5mg/kg、HPCD溶液により作製)のこの後の注射は、フェンタニル誘導呼吸抑制を逆転させた。CX614による呼吸リズムの増大は、少なくとも1時間持続した。CX614も、ラットの挙動または覚醒状態(すなわち、自発運動の増減、興奮、鎮静の兆候)に何らかの明白な作用をもたらすことはなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
I.定義
本明細書では語句「呼吸抑制」または「低換気」とは、減少した呼吸頻度ならびに脳および脊髄運動ニューロンに対する吸気ドライブを特徴とする種々の状態を指す。具体的には、呼吸抑制とは、呼吸リズム生成活性に関連した延髄神経ネットワークが血中PCOの蓄積レベル(またはPOの減少レベル)に反応せず、続いて肺の筋肉組織を制御する運動ニューロンの刺激不足になる状態を指す。
【0017】
本明細書では用語「正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター」とは、AMPA受容体複合体のアロステリックモジュレーターである化合物を指す。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、アゴニスト結合状態でのAMPA受容体複合体に結合してチャネル閉鎖および受容体からの伝達物質の解離および受容体脱感作の速度を調節することで、AMPA受容体シグナル伝達を増強する。いくつかの実施形態では、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、AMPAKINE(登録商標)化合物である。本発明による使用に適した非限定例の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターには、1−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イルカルボニル)ピペリジン(1−BCP)、(1−(キノキサリン−6−イルカルボニル)ピペリジン(CX516)、1−(1,4−ベンゾジオキサン−6−イルカルボニル)ピペリジン(CX546)、2H,3H,6aH−ピロリジノール[2”,1”−3’,2’]1,3−オキサジノ[6’,5’−5,4]ベンゾ[e]1,4−ジオキサン−10−オン(CX614)、1−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)−4,4−ジフルオロピペリジン、および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンが含まれる。本発明による使用に適した別の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、本明細書に記載されており、当業者に知られている。
【0018】
本明細書では用語「AMPA受容体」とは、グルタミン酸塩およびAMPAを認識し、これらに結合する、(通常は表面膜の)細胞、特にニューロンに存在する分子、または分子複合体である受容体を指す。AMPA受容体へのAMPAまたはグルタミン酸塩の結合は、通常、生物学的反応をもたらす一連の分子事象または反応を惹起する。
【0019】
本明細書では用語「オピエート」および「オピオイド」とは、一般に、モルヒネに似た依存症形成または依存症持続特性を有すること、あるいはこうした依存症形成または依存症持続特性を有する薬剤に変換できることを特徴とする麻薬化合物の一クラスを指す。具体的には、用語「オピエート」は、基本的なモルヒネまたはテバイン構造を含有する、およびオピオイド受容体サブタイプのいずれか、またはすべてにいくらかの親和性を有する化合物を意味する。オピエート例には、ヘロイン、ブプレノルフィン、およびナルトレキソンがある。「オピオイド」は、基本的なモルヒネまたはテバイン構造は含有しないものの、オピオイド受容体サブタイプのいずれか、またはすべてにいくらかの親和性を有する、いずれかの化合物、ペプチドなどである。一般的なオピオイドは、エンドルフィン、フェンタニルおよびメタドンである。オピエートおよびオピオイドの包括的リストには、モルヒネ、ヘロイン、アヘン、コカイン、フェンタニル、エクゴニン、テバインが含まれる。市販のオピエートおよびオピオイドには、アルフェンタニル、ブプレノルフィン(SUBUTEX(登録商標))、カーフェンタニル、コデイン、ジヒドロコデイン、ジプレノルフィン、エトルフィン(IMMOBILON(登録商標))、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン(VICODIN(登録商標))、ヒドロモルホン(DILAUDID(登録商標))、LAAM、レボルファノール(LEVODROMORAN(登録商標))、メペリジン(DEMEROL(登録商標))、メタドン(DOLOPHINE(登録商標))、モルヒネ、ナルブフィン(NUBAIN(登録商標))、ナルトレキソン(TREXAN(登録商標))、ベータ−ヒドロキシ−3−メチルフェンタニル、オキシコドン(PERCODAN(登録商標))、オキシモルホン(NUMORPHAN(登録商標))、ペンタゾシン(TALWIN(登録商標))、プロポキシフェン(DARVON(登録商標))、レミフェンタニル(ULTIVA(登録商標))、スフェンタニル、チリジン(VALERON(登録商標))、およびトラマドール(ULTRAM(登録商標))が含まれる。定義には、天然由来化合物、合成化合物、および半合成化合物を含む、任意のソースからのすべてのオピエートおよびオピオイドが含まれる。定義にはまた、すべての異性体、立体異性体、エステル、エーテル、塩、ならびにこうした異性体、立体異性体、エステル、およびエーテルの塩も含まれる(こうした異性体、立体異性体、エステル、およびエーテルの存在が、特定の化学物質指定内の可能性がある場合は常に)。
【0020】
本明細書では用語「バルビツレート」とは、一般に、バルビツール酸の塩またはエステルを指し、および中枢神経系抑制剤として作用し鎮静剤または睡眠剤として使用されるバルビツール酸誘導体の任意の群を含む。非限定例のバルビツレートには、アロバルビタール、アミルバルビタール、ブタバルビタール、ヘキサバルビタール、メフォバルビタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール(NEMBUTAL(登録商標))、フェネチルバルビタール(LUMINAL(登録商標))、セコバルビタール(SECONAL(登録商標))、タルブタール(LOTUSATE(登録商標))、およびチオペンタールが含まれる。定義にはまた、すべての異性体、立体異性体、エステル、エーテル、塩、ならびにこうした異性体、立体異性体、エステル、およびエーテルの塩も含まれる(こうした異性体、立体異性体、エステル、およびエーテルの存在が、特定の化学物質指定内の可能性がある場合は常に)。
【0021】
用語「対象」とは、哺乳動物、特にヒトを指す。本明細書では用語「対象」とは、ヒト以外の霊長類、畜牛、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラットなどの家畜哺乳動物および一般的な実験用哺乳動物を含む任意の哺乳動物を指すことができる。
【0022】
本明細書では用語「中枢神経系」または「CNS」は、脳および脊髄を含む。用語「末梢神経系」または「PNS」は、脳および脊髄神経、ならびに自律神経系を含む、CNSの一部ではない神経系のすべての部分を含む。
【0023】
本明細書では用語「有効量」または「治療有効量」とは、所望の治療効果を達成するのに十分な薬剤の量または投与量を指す。こうした量は、達成される効果および使用される薬剤により変わり得る。
【0024】
本明細書では用語「低減」または「阻害」とは、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター非存在下での呼吸抑制レベルと比較した、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター存在下での対象における呼吸抑制の低減を指す。呼吸頻度および吸気ドライブの減少は、脳幹における非NMDA受容体に媒介されたグルタミン酸シナプスシグナル伝達の刺激(AMPA受容体媒介電流の増強)により逆転または軽減される。
【0025】
本明細書では語句「同時投与された」とは、第2の薬剤(例えば中枢性呼吸抑制剤)の投与前、投与中、または投与後のいずれかの第1の薬剤(例えば正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター)の投与を指す。薬剤投与の順番は重要ではなく、2つの薬剤の投与が完全に重複、一部重複してもよく、または重複しなくてもよい。2つの薬剤の投与期間が重複しない実施形態では、第2の薬剤が第1の薬剤の生物活性期中に投与される場合、投与はやはり同時となる。
【0026】
本明細書では用語「中枢性呼吸抑制剤」とは、呼吸抑制または低換気をもたらす中枢神経系に作用する任意の化合物を指す。典型的な中枢性呼吸抑制剤には、十分な投与量で摂取された場合にいずれも呼吸抑制を生じ得るアルコール、ベンゾジアゼピン、バルビツレート、GHB、オピオイドおよびオピエートなどの薬剤を含めることができる。中枢性呼吸抑制剤として作用することが知られている非限定例のオピエートまたはオピオイドには、ヘロインおよびフェンタニルが含まれる。
【0027】
II.序論
本発明は、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターをこれを必要とする対象に投与して、対象における呼吸抑制を低減または阻害する方法および組成物に関する。具体的には、本発明は、CX546、CX614、および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンなどの正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターが、脳における呼吸ドライブおよびリズム生成を増強し、これにより呼吸抑制に対抗するという驚くべき発見に一部基づく。
【0028】
in vitro、in situおよびin vivoでのラットモデルの併用は、複数の発達段階にわたる削減されたおよびインタクトな標本での、preBotC活性および呼吸運動プールに関する種々の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの分析を可能にした。in vivo試験は、さらに、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの投与が、オピオイド誘導呼吸抑制を軽減するだけでなく、臨床的に意味のある形で、オピオイドの鎮痛作用を変えることなくオピオイド誘導呼吸抑制を軽減するという驚くべき結果を示した。本発明のこれらおよび他の態様は、以下および続く実施例でより詳細に論じられる。
【0029】
A.呼吸抑制
1.呼吸抑制の原因
本発明の方法および組成物は、呼吸抑制を有する対象に関する。本明細書に開示された方法および組成物で治療することができる呼吸抑制の原因は、多様であり、薬剤の過量摂取、中枢性呼吸抑制剤の医薬的使用、および外傷を含む医学的状態を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、呼吸抑制は薬剤の過量摂取により生じる。過剰に摂取された場合に呼吸抑制の原因となることが知られる薬剤クラスには、睡眠剤、ベンゾジアゼピン、オピエート、オピオイド、バルビツレートおよびアルコールが含まれる。過剰に摂取された場合に呼吸抑制の原因となり得る非限定例のバルビツレートには、アモバルビタール(SODIUM AMYTAL(登録商標))、アプロバルビタール(ALURATE(登録商標))、ブタバルビタール(BUTISOL(登録商標))、ブタルビタール(FIORINAL(登録商標))、ヘキソバルビタール(SOMBULEX(登録商標))、メチルフェノバルビタール(MEBARAL(登録商標))、ペントバルビタール(NEMBUTAL(登録商標))、フェノバルビタール(LUMINAL(登録商標))、セコバルビタール(SECONAL(登録商標))、チオペンタールナトリウム(SODIUM PENTOTHAL(登録商標))、およびタルブタール(LOTUSATE(登録商標))が含まれる。非限定例のベンゾジアゼピンには、アルプラゾラム(XANAX(登録商標))、クロナゼパム(KLONOPIN(登録商標))、ジアゼパム(VALIUM(登録商標))、フルニトラゼパム(ROHYPNOL(登録商標))、ロラゼパム(ATIVAN(登録商標))、ニトラゼパム(MOGADON(登録商標))、およびテマゼパム(RESTORIL(登録商標))が含まれる。非限定例の非ベンゾジアゼピンGABA−Aモジュレーターには、ザレプロン(SONATA(登録商標))、ゾピクロン(LUNESTA(登録商標))、およびゾルピデム(AMBIEN(登録商標))が含まれる。過剰に摂取された場合に呼吸抑制の原因となり得る非限定例のデリリアント(deliriant)には、アトロピン、ジフェンヒドラミン塩酸塩(BENADRYL(登録商標))、ジメンヒドリナート(DRAMAMINE(登録商標))、およびスコポラミンが含まれる。過剰に摂取された場合に呼吸抑制の原因となり得る非限定例の解離性麻酔剤には、フルオラタンおよび関連揮発性麻酔剤、デキストロメトルファン(DXM)、ケタミン(KETASET(登録商標))、亜酸化窒素、フェンシクリジン(PCP)、サルビノリンA、(サルビアディビノラムで見出される)、およびアヘン(パパベルソムニフェルム)が含まれる。過剰に摂取された場合に呼吸抑制の原因となり得る非限定例のオピオイドには、コデイン、フェンタニル(DURAGESIC(登録商標)、ACTIQ(登録商標))、ヘロイン、ヒドロコドン(VICODIN(登録商標))、ヒドロモルホン(DILAUDID(登録商標))、メペリジン(DEMEROL(登録商標))、メタドン(METHADOSE(登録商標))、モルヒネ、オキシコドン(OXYCONTIN(登録商標)、ROXICODONE(登録商標))、オキシモルホン(OPANA(登録商標))、およびデキストロプロポキシフェン(DARVOCET(登録商標))を含めることができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、呼吸抑制は医学的状態を有する対象で生じる。呼吸抑制の原因となり得る非限定例の医学的状態には、中枢性睡眠時無呼吸、脳卒中誘発性中枢性睡眠時無呼吸、閉塞性睡眠時無呼吸、パーキンソン病により生じる睡眠時無呼吸、先天性低換気症候群、乳幼児突然死症候群、レット症候群、チェーンストークス呼吸、オンディーヌの呪い、およびプラダーウィリー症候群が含まれる。いくつかの実施形態では、対象は、外傷性損傷または神経変性疾患の結果として呼吸抑制を有する。呼吸抑制と関連し得る非限定例の外傷性損傷には、脊髄損傷、外傷性脳損傷、および溺水が含まれる。非限定例の神経変性疾患には、パーキンソン病、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病および脳卒中が含まれる。
【0032】
2.対象における呼吸抑制を認識する
本明細書で開示されるような方法および組成物を用いて治療することができる呼吸抑制の例示的原因が、上記に記載される。いくつかの実施形態では、当業者は、直接観察により呼吸抑制を有する対象を認識できよう。呼吸抑制の症状には、緩徐なまたは浅い呼吸数を特徴とする、呼吸低下を含めることができる。臨床的に有意な呼吸低下は、空気流量の50%以上の減少を特徴とし、および10秒間以上にわたる血中Oレベルの3%以上の不飽和化を伴う。いくつかの実施形態では、呼吸抑制を有する対象は、皮膚表面近くの血管における脱酸素化ヘモグロビンの存在による皮膚の青みがかった色である、チアノーゼの徴候を示すであろう。チアノーゼは、動脈血の酸素飽和度が85%を下回る場合に起きる。
【0033】
別の実施形態では、呼吸抑制は睡眠ポリグラフを用いて診断することができる。これは、典型的には、何らかの形態の睡眠時無呼吸または呼吸リズムが睡眠時に乱れる別の医学的状態を有することが疑われる対象で行われる。別の実施形態では、呼吸性アシドーシス(PaCO>6.3kPaまたは47mm HgおよびpH7.35)が呼吸抑制を示す。さらに他の実施形態では、呼吸抑制は、パルス酸素濃度計を用いて日常的にモニターすることができる。呼吸気流量は、圧力変換器に接続された鼻カニューレによりモニターすることができ、胸式および腹式呼吸運動は、特に新生児において、圧電ひずみ計により日常的にモニターされる。
【0034】
上記に記載されたような特性観察および試験を用いて、当業者は、呼吸抑制を有し、これにより呼吸抑制を低減または阻害するための正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターでの治療を必要とする対象を認識することができよう。さらに、上記に記載された観察および試験に対し、当業者は、本発明による使用に適した呼吸抑制を認識および診断するための他の特徴的な徴候、症状および試験に気付くことになろう。本発明の実施における次のステップは、(以下により詳細に記載されるような)正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを上記に記載されている通り呼吸抑制を有する対象に投与することである。
【0035】
B.正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター
1.呼吸ネットワークに対する正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの作用の特異性
正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、アロステリックに作用してAMPA受容体電流を正に調節する化合物である。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、神経活性化を直接刺激して作用するのではなく、AMPA型グルタミン酸受容体を含有するニューロンにおける神経活性化および神経伝達を「上方調節」(アロステリック調節)して作用する。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、グルタミン酸結合部位以外の部位でAMPA受容体に結合するが、結合自体が該受容体を介するイオンフラックスを惹起することはない。しかし、グルタミン酸分子が、AMPA受容体に結合した正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを有するAMPA受容体に結合する場合、続いて生じるイオンフラックスは、AMPA受容体に結合している正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター非存在下で生じるよりも長期間となる。故に、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター存在下では、シナプス後ニューロンは、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターに結合されないシナプス後ニューロンよりもはるかに低いグルタミン酸濃度で活性化される。
【0036】
CX546、CX614、および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンなど、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターが、実施例で詳述される通り神経回路を広範に活性化することなく呼吸を刺激したという所見は、中枢神経系内にAMPA受容体が普遍的に分布することを考えると、驚くべきことである。さらに驚くべきは、BDNFは、延髄スライス標本での呼吸リズム頻度を増加させるよりむしろ減少させるため(Thoby−Brisson, M.ら(2003年)J. Neurosci.23巻:7685〜7689頁参照)、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター(例えばAMPAKINE(登録商標)化合物)が、海馬および皮質ニューロンでのBDNF産生を慢性的に高めることを示す研究(Lauterborn, J.C.ら(2000年)J. Neurosci.20巻:8〜21頁参照)に照らして、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターが、呼吸抑制を軽減するという発見である。
【0037】
2.正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物
本発明は、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物の有効量の投与が、これを必要とする対象における呼吸抑制を低減または軽減できるという驚くべき発見に一部基づく。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、共通の機能特性を共有する構造的に異なる化合物の大きなクラスである。具体的には、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、AMPA受容体のアロステリックなモジュレーターである。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、神経活性化を直接刺激して作用するのではなく、AMPA型グルタミン酸受容体を含有するニューロンにおける神経活性化および神経伝達を「上方調節」(アロステリック調節)して作用する。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、グルタミン酸結合部位以外の部位でAMPA受容体に結合するが、結合自体が該受容体を介するイオンフラックスを惹起することはない。しかし、グルタミン酸分子が、AMPA受容体に結合した正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを有するAMPA受容体に結合する場合、続いて起こるイオンフラックスは、AMPA受容体に結合している正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター非存在下で生じるよりも長期間となる。故に、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター存在下では、シナプス後ニューロンは、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターに結合されないシナプス後ニューロンよりもはるかに低いグルタミン酸濃度で活性化される。これは、当業者に知られ、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物を同定するためのスクリーニング方法において以下に例示する標準的な電気生理学的方法を用いて測定することができる。
【0038】
正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物は、グルタミン酸誘導AMPA受容体依存性内向き電流の持続時間を増加させてAMPA(α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオン酸)受容体複合体を調節する。Arai, A.C.ら(2004年) Neurosci.123巻4号:1011〜1024頁参照。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物は、AMPA受容体の失活(チャネル閉鎖および伝達物質の解離)および脱感作の速度を調節して作用する。Nagarajan, N.ら(2001年)Neuropharmacol.41巻:650〜663頁参照。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、血液脳関門を容易に横断し、良好な耐容性であるように思われる。Lynch, G.(2006年)Curr. Op. Pharmacol.6巻:82〜88頁;Goff, D.C.ら(2001年)J. Clin. Psychopharmacol.21巻5号:484〜487頁;Porrino, L.J.ら(2005年)PLoS Biol.3巻9号:1639〜1652頁参照。
【0039】
本発明の実施において使用に適した例示的な正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、PCT国際公開WO94/02475ならびに関連する米国特許第5,773,434号、第5,488,049号、第5,650,409号、第5,736,543号、第5,747,492号、第5,773,434号、第5,891,876号、第6,030,968号、第6,274,600号、第6,329,368号、第6,943,159号、第7,026,475号、および米国特許出願公開第20020055508号に開示されている。さらに、本発明による使用に適した非限定例の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターには、米国特許第6,174,922号、第6,303,816号、第6,358,981号、第6,362,230号、第6,500,865号、第6,515,026号、第6,552,086号、PCT国際公開WO0190057、WO0190056、WO0168592、WO0196289、WO02098846、WO0006157、WO9833496、WO0006083、WO0006148、WO0006149、WO9943285、WO9833496に開示されているようなスルホンアミド誘導体、WO0194306に開示されているような(ビス)スルホンアミド誘導体、米国特許第6,525,099号およびPCT国際公開WO0006537に開示されているようなN−置換スルホンアミド誘導体、米国特許第6,355,655号ならびにPCT国際公開WO0214294、WO0214275、およびWO0006159に開示されているような複素環スルホンアミド誘導体、米国特許第6,358,982号およびPCT国際公開WO0006158に開示されているようなヘテロシクリルスルホンアミド誘導体、米国特許第6,387,954号およびPCT国際公開WO0006539に開示されているようなアルケニルスルホンアミド誘導体、PCT国際公開WO02098847に開示されているようなシクロアルケニルスルホンアミド誘導体、米国特許第6,639,107号およびPCT国際公開WO0142203に開示されているようなシクロペンチルスルホンアミド誘導体、PCT国際公開WO0232858に開示されているようなシクロアルキルフルオロスルホンアミド誘導体、PCT国際公開WO0218329に開示されているようなアセチレンスルホンアミド誘導体、米国特許第6,596,716号およびPCT国際公開WO2006087169、WO2006015827、WO2006015828、WO2006015829、WO2007090840、およびWO2007090841に開示されているような2−プロパンスルホンアミド化合物および誘導体、ならびにWO02089734に開示されているような2−アミノベンゼンスルホンアミド誘導体が含まれる。米国特許第5,650,409号、第5,747,492号、第5,783,587号、第5,852,008号、および第6,274,600号に開示されているようなベンゾイルピペリジン、ベンゾイル誘導体、ならびにピロリジン化合物および関連構造物。米国特許第5,736,543号、第5,962,447号、第5,985,871号、ならびにPCT国際公開WO9736907およびWO9933469に開示されているようなベンゾキサジン環系に基づく化合物、米国特許第6,124,278号およびPCT国際公開WO9951240に開示されているようなアシルベンゾキサジン、PCT国際公開WO03045315に開示されているようなカルボニルベンゾキサジン化合物、米国特許第5,891,871号に開示されているような置換2,3−ベンゾジアゼピン−4−オン、米国特許第6,110,935号、第6,313,115号、およびPCT国際公開WO9835950に開示されているようなベンゾフラザン化合物。本発明による使用に適した特に好ましいベンゾフラザン化合物は、1−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)−4,4−ジフルオロピペリジン、4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンなどである。PCT国際公開WO9812185に開示されているようなベンゾチアジド誘導体、ならびにPCT国際公開WO0075123に開示されているような置換5−オキソ−5,6,7,8−テトラヒドロ−4H−1−ベンゾピランおよびベンゾチオピランおよび関連化合物は、本発明の実施における正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターとしての使用に適する。本発明の実施による使用に適した別の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、米国特許第6,521,605号およびPCT国際公開WO0006176に開示されているようなアミドホスフェート誘導体、PCT国際公開WO0066546に開示されているようなモノフルオロアルキル誘導体、ならびにPCT国際公開WO9944612に開示されているような置換キナゾリンおよびこの類似体ならびにPCT国際公開WO2007060144に開示されているようなキノキサリン化合物および誘導体である。本発明の実施による正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターとしての使用に適した別の化合物には、米国特許出願公開第20060276532号に開示されているような2−エトキシ−4’−[3−(プロパン−2−スルホニルアミノ)−チオフェン−2−イル]−ビフェニル−4−カルボン酸およびこの誘導体、米国特許出願公開第20070066573号に開示されているようなピロールおよびピラゾール化合物ならびにこの誘導体、ならびに米国特許出願公開第20070004709号に開示されているようなチアジアジン化合物および誘導体、ならびに米国特許出願公開第20040171605号に開示されているようなベンズオキサゼピン化合物および誘導体が含まれる。正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターとしての使用に適した他の化合物は、PCT国際公開WO9942456、WO0006156、WO0157045、および米国特許第6,617,351号に開示されている。
【0040】
上記参考文献に開示された各々の化合物クラスは、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターとして本発明による使用に適する。当業者は、上記に記載された化合物が、構造的には異なるものの、上記に記載されたような正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの共通の機能特性を共有すること、およびこれらの共通の機能特性のため、該化合物が本発明の実施において使用に適することを容易に認識するであろう。
【0041】
C.本発明の使用に適した正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを同定するためのスクリーニング方法
本発明による使用に適した化合物は、特に興奮性シナプス応答を増幅して、AMPA受容体の天然の刺激因子の活性を増幅または正に調節するものである。上記に開示の通り、多種多様な構造的に異なる化合物が、本発明の実施では有用であり、本発明による使用に適した別の化合物の同定は、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターに共有された共通の機能特性に基づき日常的に行われる。本発明による使用に適した別の化合物を同定するためのスクリーニング方法は、候補化合物がAMPA受容体の正のアロステリックモジュレーターであるか否かを測定するための種々の承認された試験を含む。1次アッセイは、ラット海馬スライスなどのin vitro脳スライス、またはin vivoでのラット海馬における全細胞パッチクランピング、切除パッチクランピング、および興奮性シナプス後電位(EPSP)の増大を用いたグルタミン酸またはAMPA誘導電流の測定である。
【0042】
正常なEPSPの波形は、脱分極方向に比較的速い立ち上がり時間を有する(およそ5〜10ミリ秒)、およびおよそ20ミリ秒で減衰するAMPA成分;緩徐な(およそ30〜40ミリ秒)立ち上がり時間および緩徐な(およそ40〜70ミリ秒)減衰時間を特徴とするNMDA成分;ならびにおよそ10〜20ミリ秒の立ち上がり時間および少なくともおよそ50〜100ミリ秒の非常に緩徐な減衰時間である時間経過を示す反対(過分極)方向のGABA成分から構成される。注目すべきは、EPSPのNMDA部分が、典型的には正常なCSF培地では出現せず、低マグネシウム培地で出現することができることである。
【0043】
EPSPの異なる成分は、AMPA受容体増強剤としての候補分子の作用をアッセイするのに別々に測定することができる。これは、具体的には、検出可能な反応が基本的にAMPA反応のみとなるよう、不要成分を遮断する薬剤を添加して達成される。例えば、NMDA受容体遮断薬(例えば、AP−5、または当技術分野でよく知られた他のNMDA遮断薬)および/またはGABA遮断薬(例えば、ピクロトキシンまたは当技術分野でよく知られた他のGABA遮断薬)がスライス標本に添加される。GABA遮断スライスでのてんかん活性を防ぐには、テトロドトキシンなどの既知の薬剤を使用することができる。
【0044】
本発明では、Araiら(1994年)Brain Res.638巻:343〜346頁に記載されているように、切除膜パッチを使用するため、いくつかの実施形態では、切除膜パッチアッセイが、本発明による使用に適した正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターとしての候補化合物の確認に使用される。具体的には、アウトサイドアウトパッチ(outside−out patch)は、錐体海馬ニューロンから得ることができ、記録チャンバーに移すことができる。グルタミン酸パルスを加え、パッチクランプ増幅器でデータを回収し、Araiら(1994年)に記載されているようにデジタル化する。これらのニューロンは、グルタミン酸作動性受容体を含有するにすぎないため、GABA作動性電流は見られないであろう。NMDA電流は、AP−5などの薬剤を用いて上記に記載されているように遮断することができる。
【0045】
他の実施形態では、可能性のある正のアロステリックAMPA受容体調節化合物は、in vitroでの脳スライスアッセイを用いて確認される。具体的には、ラットなどの哺乳動物からの脳スライス(海馬スライスなど)が調製され、当業者に知られた従来の方法を用いてインターフェースチャンバーで維持される。海馬スライスが使用される実施形態では、EPSPは、以前に記載されているように、CA1bの放線状層領域から記録され、シェーファー交連投射に置かれた双極電極へ20秒に1回送達される単一の刺激パルスによりスライスから誘導される。Grangerら(1993年)Synapse、15巻:326〜329頁;Staubli, V.ら(1994年)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91巻:777〜781頁;Staubli, V.ら(1994年)Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91巻:11158〜11162頁;およびAraiら(1994年)Brain Res.638巻:343〜346頁参照。
【0046】
さらに他の実施形態では、可能性のある正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物の生理学的作用は、以下の手順に従い麻酔された動物においてin vivoで試験することができる。動物は、ハミルトンシリンジポンプを用いて投与されたフェノバルビトールによる麻酔下で維持される。刺激電極および記録電極は、それぞれ海馬の貫通路および歯状回に挿入される。ひとたび電極が埋め込まれると、誘導反応の安定なベースラインは、刺激電極に3回/分の割合で送達される単一の単相パルス(100μ秒パルス持続時間)を用いて誘導される。フィールドEPSPは、安定なベースラインが得られるまで(約20〜30分)モニターされ、この後HPCD中の試験化合物溶液が腹腔内注射され、誘導フィールド電位が記録される。誘導電位は、薬剤投与後約2時間またはフィールドEPSPの振幅がベースラインに戻るまで記録される。後者の場合、i.v.投与もまた、適量の同じ試験化合物により行われるのが一般的である。
【0047】
本発明に有用な正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターは、グルタミン酸作動性刺激に反応してAMPA受容体複合体チャネルを介する増加したイオンフラックスをもたらすような物質である。増加したイオンフラックスは、典型的には1つまたは複数の以下のパラメータ、例えば、NMDAおよびGABA成分を遮断するように処理された製剤では、減衰時間の少なくとも10%の増加、波形および/または波形曲線下の面積の振幅、およびまたは波形立ち上がり時間の少なくとも10%の減少として測定される。増減は、好ましくは少なくとも25〜50%であり、最も好ましくはこれは少なくとも100%である。増加したイオンフラックスがどのように達成されるか(例えば、増加した振幅または増加した減衰時間)は二義的であり、正の調節は、達成方法に関係なく、AMPAチャネルを介する増加したイオンフラックスを反映する。
【0048】
III.医薬品形態
いくつかの実施形態では、本発明は、呼吸抑制を有する対象を治療する単位投与形態で、少なくとも1つの正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの有効量を投与するのに適した医薬組成物の使用方法を提供する。さらに他の実施形態では、組成物は、鎮痛剤、麻酔剤、または鎮静剤により生じる呼吸抑制を低減または軽減するのに十分な量で、少なくとも1つの正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターに加えて鎮痛剤、麻酔剤、または鎮静剤を含むことができる。他の実施形態では、組成物はさらに医薬的担体を含む。
【0049】
本発明の別の態様は、呼吸抑制を同時に最小限にしながら、鎮痛または麻酔誘導する医薬組成物を提供する。組成物は、許容可能な担体と組み合わせて、および場合により他の治療的に活性な成分または不活性な副成分と組み合わせて、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターと混合された、オピエートまたはオピオイド化合物(医薬的に許容可能なこの塩を含む)またはバルビツレート(医薬的に許容可能なこの塩を含む)を含む。担体は、製剤の他の成分と適合する、およびレシピエントに有害でないという意味で医薬的に許容可能でなければならない。医薬組成物には、経口、舌下、局所、経皮、吸引、直腸または非経口(皮下、筋肉内および静脈内を含む)投与に適したものが含まれる。
【0050】
いくつかの実施形態では、医薬組成物の治療有効成分は、医薬的に許容可能な酸付加塩および/または塩基塩の両方を形成することができる。これらの形態はすべて本発明の範囲内であり、呼吸抑制を治療するため対象に投与することができる。
【0051】
本発明の医薬的に許容可能な酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、亜リン酸などの非毒性無機酸由来の塩、ならびに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの非毒性有機酸由来の塩が含まれるが、これらに限定されない。非限定例塩には、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソ酪酸塩、シュウ酸塩、マロン酸、コハク酸、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレケート(malcate)、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などが含まれる。アルギン酸塩などのアミノ酸の塩、グルコン酸塩、ガラクツロン酸塩およびn−メチルグルカミンも企図される。
【0052】
塩基性化合物の酸付加塩は、従来の方法で塩を生成するのに十分な量の所望の酸と遊離塩基形を接触させて調製される。遊離塩基形は、従来の方法で塩基と塩形態を接触させ、遊離塩基を分離して再生成することができる。遊離塩基形は、特定の物理特性では塩形態と異なるが、他の点では本発明の目的には塩形態と同等である。
【0053】
医薬的に許容可能な塩基付加塩は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属またはアミドにより形成される。使用することができる非限定例の金属には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどが含まれる。非限定例のアミンには、N2,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキサアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン、およびプロカインが含まれる。
【0054】
酸性化合物の塩基付加塩は、従来の方法で塩を生成するのに十分な量の所望の塩基と遊離酸形を接触させて調製される。遊離酸形は、従来の方法で酸と塩形態を接触させ、遊離酸を分離して再生成することができる。遊離酸は、特定の物理特性では塩形態と異なるが、他の点では本発明の目的には同等である。
【0055】
本発明による使用に適したいくつかの化合物は、非溶媒和および溶媒和形態で存在することができる。水和物形態を含む溶媒和形態は、非溶媒和形態と同等であり、本発明の範囲内に包含されることが意図される。本発明による使用に適した特定の化合物は、1つまたは複数のキラル中心を有し、各中心は異なる立体配置で存在することができる。したがって、これらの化合物のいくつかは立体異性体を形成することができ、本発明は個々の分離された異性体およびこの混合物の両方の使用を企図する。
【0056】
本発明により使用する医薬組成物は、医薬的担体で調製することができる。医薬的に許容可能な担体は、任意の適切な形態(例えば、固体、液体、エアロゾル、ゲルなど)中にあってよい。非限定例の固体製剤には、粉末、錠剤、ピル、カプセル、カシェ剤、座薬、および分散性顆粒が含まれる。固体担体は、希釈剤、着香剤、結合剤、防腐剤、錠剤崩壊剤、または封入材料として作用することもできる1つまたは複数の物質であってよい。
【0057】
注射では、本発明に使用される薬剤は、水溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理緩衝食塩水(PBS)などの生理学的に適合可能な緩衝液で処方することができる。経粘膜または経皮投与では、透過するバリアに適した浸透剤が製剤で使用される。適切な浸透剤は、当業者に既知であろう。
【0058】
薬剤が粉末形態で存在する実施形態では、担体は、微粉化された活性成分との混合物中にある微粉化された固体である。錠剤では、活性作用物質は適切な割合で必要な結合特性を有する担体と混合され、所望の大きさおよび形に圧入される。
【0059】
粉末および錠剤は、典型的には約5%から約70%の活性化合物を含有する。非限定例の適切な担体には、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、酒石、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが含まれる。座薬では、低融点ワックス、ココア、バター、脂肪酸グリセリドの混合物などを使用することができる。
【0060】
非限定例の液状製剤には、溶液、懸濁液、および乳液(例えば水溶液またはプロピレングリコール水溶液)が含まれる。非経口注射では、液体製剤は、水性ポリエチレングリコール中の溶液として処方することができる。経口投与では、水溶液は水中で活性成分を溶解し、所望の通り適切な着色剤、香味剤、安定化剤、濃化剤、および懸濁剤を添加して調製することができる。
【0061】
使用直前に経口投与用液体製剤に変換されることが意図される固形製剤も企図される。こうした液体形態には、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。こうした製剤は、活性成分に加えて、着色剤、香味剤、安定剤、緩衝剤、分散剤、増粘剤、可溶化剤などを含有してもよい。
【0062】
医薬製剤は、典型的には単位投与形態である。このようなものとして、医薬製剤は、適切な量の活性成分を含有する単位投与量に細分される。単位投与形態は、包装製剤であってよく、包装は、錠剤、カプセル、粉末、またはバイアルもしくはアンプル中の液体など、製剤の離散量を含有する。
【0063】
医薬製剤を調製する一般的な手順は、当業者によく知られており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、E.W. Martin編、Mack Publishing Co. PA(1990年)に記載されている。
【0064】
A.投与量および投与経路
本発明は、本発明の実施で使用される種々の手法および化合物の投与経路を企図する。本発明による使用に適した非限定例の投与経路には、経口、舌下、直腸、経皮、膣、経粘膜、または腸が含まれる。筋肉内、皮下、延髄内、髄腔内、静脈内、動脈内、腹腔内、鼻内、眼内、および特に直接心室内注射を含む非経口送達が企図される。実際、本発明は、任意の特定の投与経路に限定されるものではない。
【0065】
本発明の一態様では、対象に投与される正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター量は、対象における呼吸抑制を低減または軽減する有効量の量である。単位投与製剤中の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター量は、約0.001mg/kg体重から約100mg/kg体重であってよい。好ましくは、単位投与量あたりの正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター量は、約0.01mg/kgから約50mg/kgの範囲となる。より好ましくは、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターの単位投与量は、約0.1mg/kgから約10mg/kg体重の範囲となる。組成物は、所望であれば、他の適合可能な治療剤を含有することもできる。
【0066】
呼吸困難を有する対象に投与される正確な投与量は、治療される個々の対象に特有のいくつかの要因、および投与される特定の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターにより決まり、最終的には治療する医師(または獣医師)の責任となる。対象評価の一環として、毒性などのため投与をどのようにおよびいつ終了、中断、または調整するかを知ることは、ケア提供者の十分に技術内であることが企図される。反対に、ケア提供者は、毒性を排除しつつ、臨床反応が不適切な状況で治療をより高いレベルに調整する方法も知っているであろう。呼吸抑制の管理における投与量の規模は、投与される特定の薬剤、投与経路、呼吸抑制の重症度および個々の対象の生理学的、生化学的状態などにより変わるであろう。呼吸抑制の重症度は、標準的方法論によりある程度評価することができ、投与量、および投与頻度も、個々の対象ごとに年齢、体重、性別、および反応によりある程度決まるであろう。
【0067】
すべての特許、特許出願、および本出願に引用された他の出版物は、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0068】
以下の実施例は、例示の目的で含まれ、本発明に対する制限として解釈されるものでは決してない。本明細書および続く実施例で開示された手法は、本発明者に発見された本発明の実践で十分に機能する手法を代表すること、故に、本発明の実践のための好ましい様式を代表するとみなされ得ることが当業者には理解されよう。しかし、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、本明細書に開示された特定の実施形態には行えること、および本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく類似した結果を得られることも理解するであろう。
【0069】
(実施例1)
in vitroでの正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター活性の試験モデル
この例は、対照条件下で種々のin vitroモデルを用いて呼吸関連活性パターンに対する正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター作用を詳述する。具体的には、これらの実験は、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター(例えば、CX546、CX614、および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン)が、E18−POラットにおけるin vitroでの呼吸リズム頻度を著しく高め、脳幹−脊髄および延髄スライス標本の両方で年長の新生児における抑制されたリズムを回復したことを示した。
【0070】
A.脳幹−脊髄標本
胎児および新生児の脳幹−脊髄標本は、特徴が十分に明らかになっており、呼吸関連活性の複雑で、協調的なパターンを生成することが示されている。Smith J.C.ら(1990年)およびGreer, J.J.ら(1992年)参照。頚神経腹側根および舌下神経延髄根からの記録は、末梢化学受容器および延髄上構造の影響を混乱させることなく、呼吸リズム生成ネットワークの薬理およびこの呼吸ドライブを呼吸運動系の主な出力成分へ伝達する経路に関する情報を提供する。
【0071】
脳幹−脊髄標本は、以下のように実施された。Sprague−Dawley(SD)ラット胎児を、アルバータ大学動物福祉委員会により承認された手順に従い、ハロタン(95%Oおよび5%COで2%送達)で麻酔し時限妊娠した(timed−pregnant)雌親から娩出させ、放射熱により37℃で維持した。妊娠のタイミングは、雌親の膣洗浄により測定した。新生ラット仔をメトファンで麻酔した。新生仔および胚を次いで除脳し、脳幹−脊髄を周産期ラットに関し確立されたものと似た手順に従い切開した。Smith, J.C.ら(1990年)J. Neurophysiol.64巻:1149〜1169頁;Greer, J.J.ら(1992年)J. Neurophysiol.67巻:996〜999頁参照。中枢神経軸を、128 NaCl、3.0 KCl、1.5 CaCl、1.0 MgSO、24 NaHCO、0.5 NaHPO、および95%O−5%CO(pH=7.4)で平衡化した30 D−グルコースを含有する(mM)改変クレブス液により27±1℃で連続灌流した(灌流量5ml/分、チャンバー容積1.5ml)。
【0072】
図1Aは、胎生(E)20日目の脳幹−脊髄標本により生成された呼吸放電の代表例を示す。律動呼吸放電頻度は、浸漬培地(bathing medium)へのCX546(50〜100μM)の添加により著しく増大した。年齢E18〜P3について対照と比べ呼吸頻度の増加を示す集団データを、図1Bに提供する。年長の新生児と比べより緩徐なベースラインのリズムを有することが多い周産期標本では(E18〜P0)(Greer, J.J.ら(1992年)参照)、CX546は、頻度の有意な増加をもたらした。しかし、P3までには、CX546が、これらの年長の脳幹−脊髄標本により生成されたより強固な呼吸出力のベースライン頻度に影響することはなかった。
【0073】
B.延髄スライス標本
延髄スライス標本は、脳幹−脊髄標本の派生物である。Smith J.C.ら(1991年)参照。延髄スライス標本は、呼吸リズムの生成に必要な腹外側延髄内のニューロン集団であるpreBotCの最小成分を含有する。延髄スライスは、吸気運動放電が記録される吻側腹外側呼吸群、舌下神経核およびXII脳神経細根のかなりの部分も含有する。
【0074】
新生ラットから分離した脳幹−脊髄を、パラフィンコートブロックで、腹側表面を上にし、ピンで固定した。Funk, G.D.ら(1993年);Smith, J.C.ら(1991年)参照。ブロックを、ビブラトーム槽(Leica社、VT1000S)の万力に据えた。脳幹を、下オリーブの外観により判断して、吻側延髄からpreBotCの吻側境界約150μm内まで、横断面で連続的に切断した。preBotCおよび多くの尾側網様体領域を含有する単一の横断スライスを、次いで切断し(500〜600μm厚)、記録チャンバーに移し、シルガードエラストマーにピンで固定した。延髄スライスは、K濃度が9mM(これらの標本による安定なリズムの長期生成(>5時間)を促進する)に上昇したいくつかのケースを除いて、脳幹−脊髄標本に使用したものと同じ浸漬液(bathing solution)で連続灌流した。Funk, G.D.ら(1993年);Smith, J.C.ら(1991年)参照。記録は、神経根上または律動スライス標本表面に置いた吸引電極により、舌下神経(XII)脳神経根、頚神経(C4)腹側根および腹外側延髄内のニューロン集団放電から作成した。
【0075】
図2は、延髄スライス標本により生成された呼吸リズムに対するCX546の作用を説明する。これらのスライスにより生成された呼吸関連出力は、延髄スライスを3mM[K]含有溶液で調製し、浸漬した場合、典型的には頻度の漸減およびバースト振幅を示し、約60分以内で停止する。3mM[K]での律動活性の停止後、スライスへのCX546(400μM)の浸漬適用(bath application)は、呼吸ネットワークの迅速で強力な刺激をもたらした。CX546適用2分以内で、頻度および振幅は、3mM[K]溶液レベルまで回復し、いくつかのケースでは、3mM[K含有浸漬培地において任意時点で観察されたレベルを超えるレベルまで回復した。
【0076】
C.CX546は脳幹−脊髄標本および延髄スライス標本におけるDAGO誘導呼吸抑制を軽減する
次の一連の実験では、μ−オピオイド受容体アゴニストDAMGOによりもたらされた呼吸頻度および振幅の抑制に対処する、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物CX546、CX614および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンの能力を調べた。図3Aおよび図3Bは、P1脳幹−脊髄および 延髄スライス(9mM[Kに浸漬した)標本により生成された律動呼吸放電の記録を示す。DAMGO(800nM)は、両標本における呼吸頻度および振幅を著しく抑制した。DAMGO誘導抑制は、この後のCX546(200μM)の投与により軽減した。集団データを、図3CおよびDに提供する。CX546単独の投与が、9mM[Kに浸漬した延髄スライス標本により生成された呼吸頻度または運動神経放電振幅の対照値を有意に変えることはなかった。同様の結果は、preBotC(図6)またはXII運動ニューロン核(図7)へのCX614(200μM)または4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(1mM)の局所注射が、新生ラット延髄スライス標本における呼吸リズムのDAMGO誘導抑制を軽減した後で得られた。
【0077】
D.in situモデルでの灌流心臓
律動的に活動する、ラット脳幹−脊髄および延髄スライス標本は、新生児期を超えて生存することはできない。しかし、中枢性呼吸制御およびこの薬理は、in situで鼓動する心臓−脳幹標本を用いて年長のげっ歯類の削減された標本において調べることができる(Paton, J.F.(1996年)参照)。これらの標本は、増加する横隔バースト(phrenic burst)を含む正常な(in vivo様の)呼吸運動パターンを生成する。これらはまた、全体に酸素化され、均一の脳組織pHを有する。Wilson, R.J.ら(2001年)Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol.281巻:R528〜538頁参照。図4Aは、P24ラットのin situ標本から記録された横隔神経放電の代表例を示す。灌流液へのフェンタニル(4nM)の投与は、呼吸頻度および横隔バースト振幅の有意な減少をもたらした。これは、この後のCX546(50μM)の投与により相殺された。集団データを図4Bに示す。該モデルの詳細な方法は、他で提供されており、ここでは簡単に詳述するのみである。Paton, J.F.、(1996年)J. Neurosci. Meth.65巻:63〜68頁;Day, T.A.ら(2003年)Auton. Neurosci.106巻:50頁参照。簡単には、若齢SDラット(3〜4週齢の間、80〜120g)をイソフルランで麻酔し、氷冷酸素化灌流液に浸し、除脳し、および横隔膜およびカニューレを挿入した下行大動脈の尾側を切断した(<8分)。胴体および脳幹を次いで記録チャンバーに移し、ここで下行大動脈に二重管カニューレ(1本は灌流液を送達、2本目は血圧をモニターする)を挿入し、動脈圧を発生させ60mmHgに維持するのに十分な流量で(95%O/5%COで泡立てた)生理食塩水により灌流した。灌流が始まり動脈圧が安定したら、灌流液を加熱して32℃まで動物を徐々に温めた。標本を次いで1時間(切開開始から)安定させ、この間、吸気活性(頻度およびバースト振幅)をモニターするため左横隔神経を切開した。1時間の安定期後、ベースライン呼吸出力を記録し、種々の薬剤(例えば、フェンタニルおよびCX546)を灌流液に直接添加した。灌流したin situ標本における呼吸リズムを、2つの白金フック電極上に置いた横隔神経からモニターした。シグナルを増幅し、整流し、低域濾過し、アナログ−デジタル変換器(Digidata 1200、Molecular Devices社、ユニオンシティ、CA)およびデータ収集ソフトウェア(Axoscope、Molecular Devices社)を用いてコンピュータに記録した。
【0078】
(実施例2)
in vivo動物モデル
新生ラットおよび成齢ラットからの以下に記載されたin vivo実験は、in vitroおよびin situで観察された正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター作用が、インタクトな動物においても生じることを示した。
【0079】
A.プレチスモグラフ測定
この例は、無麻酔新生ラット(P0〜P2)および成齢ラットにより生成された呼吸パターンを調べた。呼吸の頻度および深度の全身プレチスモグラフ測定を、どちらかの性別の非拘束SDラットから行った。呼吸に伴う圧力変化を、生後(P)0〜P1ラットには27mlチャンバー、成齢ラット(150〜200gm)には2200mlチャンバーのどちらか、圧力変換器(モデルDP 103、Validyne社、ノースリッジ、CA)およびシグナルコンディショナ(CD−15、Validyne社)を用いて測定した。新生児では、巣の温度に近い32℃で周囲温度を維持するため、プレチスモグラフを保育器(モデルC−86、Isolette社、ウォーミンスター、PA)内に包含した。Abel, R.A.ら(1998年)Dev. Psychobiol.32巻2号:91〜99頁参照。
【0080】
呼吸を、μ−オピオイド受容体アゴニストフェンタニルまたはバルビツレートフェノバルビタールのi.p.投与により抑制した。CX546は、16mg/kgの投与量(Lauterbornら(2000年)に基づく投与量)で腹腔内(i.p.)投与した。フェンタニルHCl(新生ラットには60μg/kg、成齢ラットには130μg/kg)およびフェノバルビタール(新生ラットには28mg/kgおよび成齢ラット100mg/kg)を生理食塩水で溶解し、i.p.投与(新生ラットには5〜10μl合計容量および成齢ラットには150〜300μl)してベースライン呼吸頻度をおよそ50%減少させた。ビヒクル投与は、いずれの標本でも試験した呼吸パラメータに影響しなかった。
【0081】
各呼吸に関連した呼吸間の間隔および容量逸脱の相対振幅を、i.p.薬剤投与の前後(5分)で算出した。すべてのケースで、値は平均および標準偏差として与えられる。統計的有意性は、対応のあるまたは対応のないデータ(2群)ではスチューデントt検定を、または多重比較では一元配置反復測定ANOVA(複数群)の後でHolm−Sidak検定を用いて試験した。有意性は、0.05より低いp値で認められた。図5A、5Bおよび5Cならびに図5D、5Eおよび5Fの集団データの代表例に示される通り、両方のμ−オピオイド受容体アゴニストは、呼吸頻度およびバースト振幅を有意に減少させた。この後のCX546のi.p.注射(16mg/kg)は、オピエートおよびフェノバルビタール媒介呼吸抑制を逆転させた。しかし、新生ラット(P0〜P2、n=5)および成齢ラット(n=3、データ不図示)のベースライン頻度および振幅は、CX546単独の同じ投与量で有意に変化することはなかった。CX546はまた、ラットの挙動または覚醒状態(すなわち、自発運動の増減、興奮、鎮静の兆候)に何らかの明白な作用をもたらすこともなかった。
【0082】
B.侵害受容性試験
CX546のi.p.投与が、in vivoでのフェンタニル誘導鎮痛に影響するかどうかを測定するため、温痛覚試験を用いた。温痛覚は、以前に報告された方法の改変により測定した。Hargreaves, K.ら(1988年)Pain 32巻:77〜88頁参照。簡単には、非拘束ラットをプラスチックチャンバーに入れ(14×16×22cm)、試験前に10分間順応させた。足底試験装置(Ugo Basile社、コメーリオ、VA、イタリア)は、チャンバー床の20mm下、後肢の真下に位置する可動赤外線加熱源(OSRAM社、8V 50Wハロゲンランプ)で構成された。熱設定は、新生ラットおよび成齢ラットでそれぞれ30および50(メーカー設定)とした。機器は、熱への曝露開始からの足の逃避潜時を、0.1秒までの精度で検出した。ラットが痛みを感じて足を引っ込めた場合、機器は、逃避潜時を直近の0.1秒まで自動的に検出した。逃避潜時を、各薬剤の投与前、投与中、および投与後に記録した。逃避反応が、熱刺激開始20秒以内で観察されなかった場合、熱刺激を自動的に中止した。
【0083】
温痛覚試験からの測定結果は、後肢の逃避潜時が、新生ラットおよび成齢ラットでそれぞれ、4.9±3.8sおよび5.6±1.7sであることを示した(表1参照)。呼吸リズムを抑制する投与量(新生ラットには60μg/kgおよび成齢ラットには130μg/kg)でのフェンタニルの投与は、足の逃避潜時を20秒のカットオフ限界まで延長させた。故に、足の逃避の減少に表れるフェンタニル誘導鎮痛は、この後のCX546i.p.投与(16mg/kg)にもかかわらず持続した。しかし、フェンタニル誘導鎮痛作用は、この後のナロキソン投与(1mg/kg)により、新生ラットおよび成齢ラットの両方で遮断された。CX546(16mg/kg)を単独で投与した場合、対照条件での温痛覚試験の感度を変化させることはなかった。これらの結果は、CX546がオピオイドの望ましい鎮痛作用を阻害することなく、この有害な呼吸抑制作用を低減することを示す。
【0084】
(表1.後肢の逃避潜時試験を用いた温痛覚に対する薬剤作用)
【0085】
【表1】

CX546投与(16mg/kg)を、フェンタニル投与前および投与後に試験した(新生ラットには60μg/kgおよび成齢ラットには130μg/kg)。ナロキソン投与量は1mg/kgであった。薬剤はすべてi.p.投与した。*は、対照と比べた有意差を示す(p値<0.05)。
【0086】
C.オピエート誘導呼吸抑制の軽減に関するin vivoでの正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物CX614および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンの作用
上記実験で見られるような正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター作用は、CX546に特有ではないことを示すため、オピエート誘導呼吸抑制に対するCX614および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンの作用を、全身プレチスモグラフィーによりin vivoでSDラットにおいて調べた。呼吸の頻度および深度の全身プレチスモグラフ測定は、非拘束SDラットから行った。呼吸に伴う圧力変化を、P17ラット(およそ35g)について300mlチャンバー、圧力変換器(モデルDP 103、Validyne Engineering社、ノースリッジ、CA)、およびシグナルコンディショナ(CD−15、Validyne Engineering社)により測定した。呼吸を、μ−オピオイド受容体アゴニストフェンタニル(130μg/kg)のi.p.投与により抑制した。図11および12に示した通り、フェンタニルは、投与数分以内で呼吸頻度および振幅を有意に減少させた(波形左の数はフェンタニル注射後の分を指す)。呼吸抑制は、1時間でも依然として明白であった。この後の、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター化合物なしでのビヒクルHPCD溶液のi.p.注射は、オピエート媒介呼吸リズム抑制に何ら影響しなかった(図11、右の波形参照)。注目すべきは、ビヒクル注射によるフェンタニル誘導呼吸抑制の時間経過は、いずれの介入もしない実験で以前に観察されたのと同じであることである。
【0087】
別のP17ラットでは、この後の4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン(33mg/kg、HPCD溶液により作製)の注射は、5分以内でフェンタニル誘導呼吸抑制を逆転させた(図11、左の波形参照)。4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンによる呼吸リズムの増大は、少なくとも1時間持続した。4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンはまた、ラットの挙動または覚醒状態(すなわち、自発運動の増減、興奮、鎮静の兆候)に何らかの明白な作用をもたらすこともなかった。別の実験では、フェンタニル誘導呼吸抑制は、4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリン20mg/kgという低い投与量で一部軽減された。
【0088】
別のP17ラットでは、この後のCX614(HPCD溶液により作製された2.5mg/kg)の注射も、数分以内でフェンタニル誘導呼吸抑制を逆転させた(図12参照)。4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンの投与と同様に、呼吸リズムの増大は少なくとも1時間持続した。CX614はまた、ラットの挙動または覚醒状態(すなわち、自発運動の増減、興奮、鎮静の兆候)に何らかの明白な作用をもたらすこともなかった。
【0089】
(実施例3)
正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターによる呼吸抑制を有する患者の治療
この例は、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターによる呼吸抑制を有する患者の治療を詳述する。治療過程における第1のステップは、当業者による呼吸抑制の診断である。これは、皮膚が青みがかった色をしている患者、および浅い低呼吸で明らかなような著しい呼吸消失または低換気を視診して達成され得る。
【0090】
滅菌緩衝生理食塩水溶液で調製された正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター(例えばCX614)は、約0.1から10mg CX614/kg体重の投与量で静脈内注射により患者に投与することができる。
【0091】
患者を、次いで皮膚の色、ならびに/または呼吸の深度および頻度を含む、上記に記載した基準を用いて呼吸の変化をモニターする。患者の呼吸が正常レベルに安定するまで、追加の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを送達してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における呼吸抑制を低減または阻害するための方法であって、呼吸抑制を低減または阻害するのに十分な治療有効量の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを、呼吸抑制を有する対象に投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記呼吸抑制が、アルコール、オピエート、オピオイド、またはバルビツレートでの治療により生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記呼吸抑制が薬剤の過量摂取により生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記呼吸抑制が、中枢性睡眠時無呼吸、脳卒中誘発性中枢性睡眠時無呼吸、閉塞性睡眠時無呼吸、パーキンソン病により生じる睡眠時無呼吸、先天性低換気症候群、乳幼児突然死症候群、レット症候群、チェーンストークス呼吸、オンディーヌの呪い、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、プラダーウィリー症候群、脊髄損傷、外傷性脳損傷、および溺水から成る群から選択される医学的状態を有する対象により生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記呼吸抑制が中枢性呼吸抑制剤の使用により生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
対象における呼吸抑制を同時に低減または阻害しながら、対象に鎮痛、麻酔または鎮静を誘導するための方法であって、
該対象に鎮痛、麻酔または鎮静を誘導するのに十分な治療有効量の中枢性呼吸抑制剤を該対象に投与するステップと、
中枢性呼吸抑制剤により生じる呼吸抑制を低減または阻害するのに十分な治療有効量の正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターを同時に投与するステップと
を含む方法。
【請求項7】
前記中枢性呼吸抑制剤が、アルコール、オピエート、オピオイド、およびバルビツレートから成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象における呼吸抑制を同時に低減または阻害しながら、対象に鎮痛、麻酔または鎮静を誘導するための医薬組成物であって、中枢性呼吸抑制剤、正のアロステリックAMPA受容体モジュレーター、および医薬的に適切な担体を組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項9】
前記正のアロステリックAMPA受容体モジュレーターが、CX546、CX614、1−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)−4,4−ジフルオロピペリジン、および4−(ベンゾフラザン−5−イルカルボニル)モルホリンから成る群から選択される、請求項1、6、または8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が哺乳動物である、請求項1、6、または8に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物がヒトである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物が、ヒト以外の霊長類、畜牛、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウスおよびラットから成る群から選択される、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−501597(P2010−501597A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525874(P2009−525874)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001517
【国際公開番号】WO2008/025148
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509057453)ザ ガバナーズ オブ ザ ユニバーシティー オブ アルバータ (1)
【Fターム(参考)】