説明

正のゼータ電位を有する防食顔料

本発明は、金属表面の防食体としての、少なくとも1のポリカチオン性ポリマーと組み合わせた、2〜2000nmの平均粒度を有する酸化物ナノ粒子の使用、及び、以下の工程:i)酸化物ナノ粒子(a)と少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と塗布媒質とを含有する配合物を調製する工程、ii)該配合物を、保護すべき金属表面に塗布する工程、及びiii)場合により、該表面を乾燥及び/又は熱処理する工程を含む、金属表面の防食方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、金属表面用の防食体としての、少なくとも1のポリカチオン性ポリマーと組み合わせた、2〜2000nmの平均粒度を有する酸化物ナノ粒子の使用に関する。本特許出願は、2009年12月3日付けで出願された係属中の米国特許仮出願番号61/266,184の優先権を主張し、当該米国特許仮出願は、これをもって参照により完全に本願明細書の一部をなす。
【0002】
金属表面の防食は、すでに極めて長い間集中的に研究されている分野であり、それというのも、腐食により引き起こされる損傷は経済的に極めて重大であり、損傷への備え並びに排除には常に高いコストがかかるためである。
【0003】
ここで、金属における腐食は、本質的に、化学的及び電気化学的腐食反応に起因するものとみなすことができる。防食顔料は、種々のルートで腐食プロセスに介入する。防食顔料は、物理的には、被覆表面から金属表面への、水、酸素及び他の腐食作用を有する物質の拡散経路の延長により作用する。電気化学的に作用する防食顔料は、金属表面を不動態化する。
【0004】
特に有効な防食顔料は、例えば鉛含有及びクロメート含有防食顔料のように、該顔料の人の健康を損ないかつ環境毒物学的に懸念すべき特性のために、今日ではもはや使用されないか又は極めて限定的にのみ使用されるに過ぎない化合物がベースとなっている。この点に関して、金属表面のリン酸塩処理も、そこで十分なリン酸塩処理のために必要とされるニッケル添加物のために、環境学的な理由からあまり望ましくない。
【0005】
例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化鉄又は酸化マンガンからのナノ粒子が腐食阻害作用を示すことは公知である。しかしながら該ナノ粒子のこの作用は持続的でなく、腐食プロセスをある程度の時間だけ遅らせるに過ぎず、かつ、防食体として使用されるナノ粒子は腐食プロセスの開始後に比較的迅速に効果を失う。
【0006】
本発明の課題は、環境毒物学的に問題があるとして公知である、例えば鉛、クロム又はニッケルをベースとする化合物なしで、改善された防食性を提供することである。
【0007】
前記課題は、本発明によれば、金属表面の防食のための、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と組み合わせた、2〜2000nmの平均粒度を有する酸化物ナノ粒子(a)の使用により解決される。
【0008】
本発明により酸化物ナノ粒子と少なくとも1のポリカチオン性ポリマーとの組合せにより保護された金属表面は、酸化物ナノ粒子のみで保護されている金属表面よりも高い耐腐食性を示す。酸化物ナノ粒子による金属表面の防食に対するポリカチオン性ポリマーのプラスの影響は、ポリカチオン性ポリマーの存在による該ナノ粒子のゼータ電位の上昇に基づくものである。生じた腐食プロセスによって、多くの基材の場合、カチオン性酸素還元によりpH値が約9〜13に上昇する。無機ナノ粒子は負に帯電しているため、通常は、同様に負に帯電している金属基材表面にはあまり強く結合しない。ポリカチオン性ポリマーはナノ粒子の表面上に堆積し、そのゼータ電位を高める。それにより、金属基材表面へのナノ粒子の吸着が、pH値が上昇した場合であっても、生じる腐食プロセスのために安定化される。この効果は、ナノ粒子又はポリカチオン性ポリマーが、水のような極性分散媒中に施与されるか、又は石油のような非極性分散媒中に施与されるかには無関係である。バインダーにおける使用の際にも、明らかに改善された金属表面の防食性が得られる。
【0009】
以下に本発明を詳説する。
【0010】
通常は、酸化物ナノ粒子(a)及び少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)は一緒に、(a)及び(b)を含有する配合物において使用される。
【0011】
酸化物ナノ粒子は、2〜2000nm、有利には5〜1000nm、特に有利には5〜200nmの平均粒度を有する。平均粒度は、通常は、AFM及びTEMを用いて測定される。
【0012】
酸化物ナノ粒子(a)は、ナノ粒子の製造に好適であるとして当業者に公知である酸化物材料から選択されてよい。これは特に、金属及び半金属の無機酸化物である。本発明によれば有利に、酸化物ナノ粒子(a)は、酸化物である、二酸化ケイ素、二酸化チタン、Fe(II)−、Fe(III)−及びFe(II)−Fe(III)−混合酸化物を含む酸化鉄、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化数III及びIVの酸化マンガン並びにその混合酸化物及び混合物、例えばBaTiO3のようなチタネートから選択される。特に有利に、本発明によれば、ナノ粒子は二酸化ケイ素、二酸化チタン及び酸化亜鉛から選択される。
【0013】
前記ナノ粒子は、当業者に公知の種々の方法により製造することができる。通常は、該ナノ粒子は、粉砕工程、気相中での反応、火炎中での反応により、結晶化、沈降、ゾルゲル法により、プラズマ中で、又は昇華により製造される。ナノ粒子のサイズ測定は、有利には電子顕微鏡分析を用いて、例えばAFM又はTEMを用いて行われる。本発明に好適なナノ粒子は、例えばナノスケールの二酸化ケイ素で、Aerosil(R)の商品名でEvonik社から市販もされている。
【0014】
本発明により使用可能な酸化物ナノ粒子は、通常は水ないし極性溶剤との相容性を示す。例えば石油のような非極性媒体において使用するために、酸化物ナノ粒子を表面疎水化作用を有する化合物で処理するのが有利であり得る。酸化物ナノ粒子の疎水改質に好適な物質は、当業者に公知である。該疎水改質は、例えば、ヘキサメチレンジシラザン、オクタメチルシクロテラシロキサン、ステアリン酸又はポリプロピレンオキシドでの処理により生じ得る。相応する疎水改質されたシリカナノ粒子は、例えばEvonik社で市販もされている。本発明の有利な一実施態様によれば、疎水改質されたナノ粒子が使用される。このことは特に、酸化物ナノ粒子が非極性塗布媒質又は分散媒中で使用される場合に当てはまる。
【0015】
本発明の他の有利な一実施態様によれば、特に塗布媒質ないし分散媒が極性であり、特に水を塗布媒質ないし分散媒として使用する場合には、酸化物ナノ粒子は改質せずに使用される。
【0016】
本発明によれば、酸化物ナノ粒子は少なくとも1のポリカチオン性ポリマーと組み合わせて使用される。ポリカチオン性とは、本発明の範囲内で、ポリマーが、その都度4〜5のpH値で測定して、1mequ/g超、有利には5〜25mequ/g、特に有利には10〜20mequ/gの最小電荷密度を有することを意味する。本発明によれば、ポリマー鎖中に遊離又はアルキル置換アミノ基又は4級アンモニウム基を含むか、又は、ポリマー鎖に直接又は中間員を介して結合している2級又は3級アミノ基又は4級アンモニウム基を有する、全てのポリマーを使用することができる。前記アミノ−又は4級アンモニウム基は、5員又は6員の環系、例えばモルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環又はイミダゾール環の員であってもよい。本発明によれば、カチオン性ポリマーは、ポリアミド、ポリイミン及びポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール及びポリビニルピロリドン、並びに、カチオン改質デンプンを含む天然及び半合成ポリマーから選択されていてよい。
【0017】
本発明により使用可能なポリカチオン性ポリマーは、有利には500g/モル〜2000000g/モル、有利には750g/モル〜100000g/モルの範囲内の数平均分子量を有する。有利に、ポリカチオン性ポリマー(b)としてポリエチレンイミンが使用され、その際、該ポリエチレンイミンは有利には500g/モル〜125000g/モル、特に有利には750g/モル〜100000g/モルの数平均分子量を有する。
【0018】
ポリカチオン性ポリマーは、直鎖、分枝鎖又はいわゆるデンドリマーとして存在していてよく、有利に該ポリマーはデンドリマーとして存在する。特に有利に、本発明によれば、デンドリマーとして存在するポリエチレンイミンが使用される。そのようなポリエチレンイミンは、例えばLupasol(R)の商品名でBASF SE社より入手可能である。この種のポリイミンのより詳細な記載は、例えばMacromolecules Vol. 2, H.-G. Elias, 2007 Vol. 2, 第447頁〜第456頁に存在する。
【0019】
本発明の特に有利な一実施態様によれば、少なくとも1のポリカチオン性ポリマーとして、デンドリマーとして存在しており、500g/モル〜125000g/モル、有利には750g/モル〜100000g/モルの数平均分子量を有するポリエチレンイミンが使用される。
【0020】
本発明によれば、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)が使用されるため、1つのポリカチオン性ポリマーも、2、3又はそれを上回るポリカチオン性ポリマーからの混合物も使用できる。
【0021】
酸化物ナノ粒子(a)と少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)とからの組合せは、すでにわずかな濃度で極めて有効な防食体である。ここで有利に、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)は、酸化物ナノ粒子の量に対して不足量で使用される。本発明によれば有利に、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)対酸化物ナノ粒子(a)の質量比は、1:1000〜1:1、有利に1:100〜1:2である。
【0022】
一般に、特に亜鉛メッキされた表面又はアルミニウムの場合には、pH値は腐食プロセスによって通常は9.5を上回るpH値にまで上昇する。それにより、ナノ粒子の表面は負に帯電し、即ち、ナノ粒子のゼータ電位は負となり、かつ、同様に負に分極した(帯電した)金属表面からのナノ粒子の脱離が生じる。酸化物ナノ粒子を少なくとも1のポリカチオン性ポリマーと組み合わせて使用することにより、25℃で測定された酸化物ナノ粒子のゼータ電位は、少なくとも1のポリカチオン性ポリマーの存在下に、5〜13のpH値範囲内、有利には7〜11のpH値範囲内で、少なくとも−2、有利に少なくとも−1、特に有利に少なくとも0に上昇する。
【0023】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマーと組み合わせた酸化物ナノ粒子は、通常は塗布媒質を用いて、保護すべき表面に塗布される。有利に、酸化物ナノ粒子(a)及び少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)は、塗布媒質中で、塗布媒質、(a)及び(b)の全量に対して少なくとも0.1質量%の全濃度で、有利に少なくとも0.5質量%の全濃度で使用される。通常、酸化物ナノ粒子(a)及び少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)は、塗布媒質、(a)及び(b)の全量に対してせいぜい3質量%、有利にせいぜい2.5質量%の全濃度で使用される。なぜならば、防食効果の改善は、(a)及び(b)の全濃度を高めた場合には達成され得ないので、経済的な理由からより高い濃度は通例でないためである。
【0024】
本発明によれば、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と組み合わせた酸化物ナノ粒子(a)によって、通常腐食により損傷され得る全ての金属表面を保護することができる。これには例えば、鋼表面及び亜鉛メッキされた表面、Al及びMg並びに例えばZnMgをベースとする合金からの表面が属する。
【0025】
本発明の他の対象は、以下の工程:
i)上記の通りの酸化物ナノ粒子(a)と少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と塗布媒質とを含有する配合物を調製する工程、
ii)該配合物を、保護すべき金属表面に塗布する工程、及び
iii)場合により、該表面を乾燥及び/又は熱処理する工程
を含む、金属表面の防食方法である。
【0026】
本発明による方法の工程(i)において、前に詳細に記載されているように、酸化物ナノ粒子(a)と少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)とを含有する配合物を調製する。少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)対酸化物ナノ粒子(a)の質量比は、有利には1:1000〜1:1、特に有利には100:1〜1:2である。さらに、該配合物は塗布媒質を含有する。該塗布媒質は、酸化物ナノ粒子(a)と少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)とを、保護すべき表面に塗布するための媒体として役立つ。この塗布媒質は、有利には流動性である。該塗布媒質は、単純な溶剤、例えば水、石油、アルコール等であってよいが、しかしながら塗布媒質として、すでにバインダー及び場合によりこの目的のために慣用の他の添加剤を含有している被覆系を使用することもできる。
【0027】
酸化物ナノ粒子並びに少なくとも1のポリカチオン性ポリマーは、塗布媒質中に溶解ないし分散される。配合物を製造するための塗布媒質の選択は最終用途の規定に応じて行われ、溶剤/親油系及び水性系が対象となる。この点で、全ての公知の溶剤、例えば水、アルコール、グリコール、エステル、ケトン、アミド、炭化水素、例えば合成油及びワックス、並びに天然系、例えばアマニ油、改質アマニ油(アルキド樹脂)及び天然ワックスも使用できる。この場合、ポリカチオン性ポリマーは酸化物ナノ粒子の表面上に堆積する。塗布媒質としてバインダー系を使用する場合には、まず、溶剤中で酸化物ナノ粒子と少なくとも1のポリカチオン性ポリマーとからの混合物を製造し、この混合物を引き続きバインダー系に導入することも可能である。
【0028】
工程ii)において、配合物を保護すべき金属表面に塗布する。該配合物を、浸漬、吹き付け、ナイフ塗布、刷毛塗り、ロール塗布等の公知の方法で塗布することができる。
【0029】
これに、場合により工程iii)表面の乾燥及び/又は熱処理が引き続く。
【0030】
本発明のさらなる対象は、以下:
防食剤の全量に対して、
1〜2000nmの平均粒度を有する酸化物ナノ粒子(a)及び少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b) 0.1〜3質量%、ここで、(b)対(a)の質量比は1:1000〜1:1であるものとする、
少なくとも1の乳化剤 0.1〜30質量%、
液体分散媒 5〜90質量%、
Li、Na、K、Mg、Ca、Ba、Zn、Mn、Fe、Ti及び/又はZrのリン酸塩又はフッ化物から選択された少なくとも1の無機塩 0〜5質量%
を含有する防食剤である。
【0031】
少なくとも1の無機塩が防食剤中に含まれている場合、その最小濃度は、防食剤の全量に対して0.1質量%である。
【0032】
防食剤中に含まれている酸化物ナノ粒子(a)、及びその中に含まれている少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)は、上記されている。有利に、本発明による防食剤は、酸化物ナノ粒子として二酸化ケイ素を、ポリカチオン性ポリマーとしてポリエチレンイミンを含有する。特に有利に、500g/モル〜125000g/モル、特に有利には750g/モル〜100000g/モルの数平均分子量を有するポリエチレンイミンが使用される。極めて特に有利に、デンドリマーとして存在するポリエチレンイミンが使用される。
【0033】
液体分散媒として、塗布媒質として上記された化合物及び系を使用することができる。
【0034】
本発明のさらなる対象は、上記の通り少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と組み合わせた酸化物ナノ粒子(a)の本発明による使用下に防食されている金属表面である。
【0035】
以下に、本発明を実施例により詳説する。
【0036】
A)顔料分散液の製造
実施例1〜7
酸化物ナノ粒子として、8〜10nmの平均粒度を有する疎水化二酸化ケイ素粒子(製造者仕様書、Evonik社製の商品名Aerosil(R) R 106)を使用した。ポリカチオン性ポリマーとして、分子量Mn800、2000、25000g/モル及びカチオン電荷密度16〜17mequ/gを有するポリエチレンイミン(BASF SE社製Lupasol(R) FG、G 35及びWF)を使用した。
【0037】
パラフィン油(Tudalen(R) 3036, H&R Vertrieb GmbH, 密度0.86g/ml及び動粘度17mm2/s(40℃、DIN 51562)を有する)1000gを2L容器に装入し、疎水化二酸化ケイ素粒子50gを添加した。撹拌下に、透明な溶液ないし分散液が得られるまで60℃に加熱した。
【0038】
実施例2〜7について、その都度、該溶液/分散液150gを40℃で種々の量のカチオン性ポリマーと混合した。
【0039】
実施例8〜10
酸化物ナノ粒子として、平均粒度12nm及びBET表面積>20m2/gを有する酸化亜鉛粒子(Evonik社製VP AdNano Z 805)を使用した。ポリカチオン性ポリマーとして、分子量Mn800ないし2000g/モルを有するポリエチルイミンを使用した。酸化亜鉛粒子25gをパラフィン油(実施例1に相応)500gと共に、撹拌下に60℃に加熱し、分散液を得た。
【0040】
実施例11〜16
酸化物ナノ粒子として、平均粒度12nm及びBET表面積170±125m2/s(製造者仕様書)を有する二酸化ケイ素粒子(Evonik社製Aerosil(R) 200)を使用し、ポリカチオン性ポリマーとして、実施例1〜7に記載したポリエチレンイミンを使用した。各実施例ごとに、ナノ粒子10gを脱塩水100ml中に導入した。該分散液を、実施例1に記載された通りのポリエチレンイミンそれぞれ0.5g、0.75g、1.0gないし2.0gと混合した。
【0041】
実施例17〜22
実施例11〜16からの混合物それぞれ60gを、室温で撹拌下に少量ずつ、50%ポリ(スチレンアクリレート)分散液(BASF SE社製Acronal(R) S 760)それぞれ120ml中に導入し、20分間撹拌した。
【0042】
それぞれのポリエチレンイミンの使用量及び分子量に関する上記データを、実施例1〜16について第1表〜第3表にまとめる。ポリエチレンイミンの電荷密度をそれぞれpH値4〜5で測定したところ、使用した全てのPEIについて16〜17mequ/gであった。
【0043】
B)ゼータ電位の測定
実施例1〜7及び11〜16について、ゼータ電位を測定した。このゼータの電位測定はMalvern社製Zetasizer nanoを用いて行い、その際、同濃度の場合には同一の表面被覆であると仮定することにより、非水性配合物の電位を水性配合物から類推して行った。電位測定を、常に、即ち疎水化ナノ粒子を用いた場合にも、水性媒体中で行った。試料をまず水中に導入した。このために、顔料を1:3の比で水と混合し、次いで第1表に記載された量(実施例1〜7及び11〜16について、mg PEI/g ナノ粒子)のポリエチレンイミンと混合した。実施例1〜7からの試料の場合、該処置は30分間の期間にわたる強力な混合を要した。しかしながら、表面改質顔料の場合にも好適な分散液が得られた。
【0044】
その後、個々の測定のために、それぞれこのバッチ1gを、10ミリモル/l KCl 40mlに希釈した。該試料からpH値を測定し、移動度を測定した。
【0045】
この測定を、試料が希釈後に示すpH値で開始した。測定をpH7.9及び11で実施できるように、HClないしNaOHによりpH値調整を行った。
【0046】
第1表及び第3表に、実施例1〜7の(第1表)及び実施例11〜16の(第3表)、使用したポリエチレンイミン、その濃度並びに測定したゼータ電位を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
疎水化二酸化ケイ素粒子及び非改質二酸化ケイ素粒子のいずれについても、種々のポリエチレンイミンを種々の濃度で添加することによって、7〜11のpH値範囲内で、ポリエチレンイミンの不在での二酸化ケイ素粒子のゼータ電位−0.8〜−3.8と比較して、ゼータ電位が少なくとも−1.7に高められる。
【0051】
C)腐食試験
実施例1〜22からの配合物を、Chemetall社製のサイズ10.5×19cmの薄板Gardobond(R) OC(鋼薄板)及びGardobond(R) OMBZ(電解亜鉛メッキ鋼薄板)それぞれ4枚の片面にナイフにより塗布した。塗布を重量により制御(湿式)し、その際、0.9〜1.4g/m2の範囲を保持した。水性配合物を有する薄板を60℃で乾燥させた。パラフィン分散液で被覆された薄板を、水性分散液で被覆された薄板と同じ熱処理下においた。
【0052】
防食性を2つの異なる方法で試験した。それぞれ2枚の薄板を、サイクル耐候試験(DIN ISO 9227、3週間)により、及びDIN 50017による塩噴霧試験により試験した。塩室内での試験の際に、鋼薄板の場合、腐食(赤錆)が生じるまでの時点を記録し、評価をISO 10289による錆指標RIにより6時間後に行った。電解亜鉛メッキ鋼薄板の場合、3日後に塩室内で錆指数RIを決定した。ISO 10289による錆指標RIに関する評価段階を、第4表に示す。
【0053】
第5表〜第8表に、それぞれ2枚の薄板の平均値を示す。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
薄板の防食性は、ポリカチオン性ポリマーと組み合わせた酸化物ナノ粒子の使用により明らかに向上する。このことは、粒子の種類(改質二酸化ケイ素及び未改質二酸化ケイ素、並びに酸化亜鉛)及び塗布媒質の種類に依存しない。本発明は、すでに表面保護のために公知である系、例えばラッカーにおいても使用可能であり、かつ、この種の被覆の防食作用のさらなる向上に寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の防食のための、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と組み合わせた、2〜2000nmの平均粒度を有する酸化物ナノ粒子(a)の使用。
【請求項2】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)の存在下に、4〜13のpH値範囲内で、水相中で25℃で測定された酸化物ナノ粒子(a)のゼータ電位が、少なくとも−2である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)対酸化物ナノ粒子(a)の質量比が、1:1000〜1:1である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
酸化物ナノ粒子(a)が、二酸化ケイ素、酸化鉄、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化マンガン並びにその混合酸化物及び混合物から選択されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
酸化物ナノ粒子(a)が疎水改質されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)が、ポリアミン、ポリイミン、ポリアミド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール及びポリビニルピロリドン、並びに、カチオン改質デンプンを含む天然及び半合成ポリマー、及びその混合物から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)がポリエチレンイミンである、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)が500g/モル〜2000000g/モルの数平均分子量を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)がデンドリマーである、請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
酸化物ナノ粒子(a)及び少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)を、塗布媒質中で、(a)、(b)及び塗布媒質の全量に対して少なくとも0.1質量%の全濃度で使用する、請求項1から9までのいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に定義されている通りに少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と組み合わせた酸化物ナノ粒子(a)を用いて防食されている、金属表面。
【請求項12】
以下の工程:
i)請求項1から10までのいずれか1項に定義されている通りの酸化物ナノ粒子(a)と少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)と塗布媒質とを含有する配合物を調製する工程、
ii)該配合物を、保護すべき金属表面に塗布する工程、及び
iii)場合により、該表面を乾燥及び/又は熱処理する工程
を含む、金属表面の防食方法。
【請求項13】
防食剤であって、以下:
防食剤の全量に対して、
請求項1から10までのいずれか1項に定義されている通りの、2〜2000nmの平均粒度を有する酸化物ナノ粒子(a)及び少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b) 0.1〜3質量%、ここで、(b)対(a)の質量比は1:1000〜1:1であるものとする、
少なくとも1の乳化剤 0.1〜30質量%、
液体分散媒 5〜90質量%、
Li、Na、K、Mg、Ca、Ba、Zn、Mn、Fe、Ti及び/又はZrのリン酸塩又はフッ化物から選択された少なくとも1の無機塩 0〜5質量%
を含有する防食剤。
【請求項14】
酸化物ナノ粒子(a)が二酸化ケイ素であり、少なくとも1のポリカチオン性ポリマー(b)がポリエチレンイミンである、請求項13記載の防食剤。

【公表番号】特表2013−513023(P2013−513023A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541505(P2012−541505)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068724
【国際公開番号】WO2011/067329
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】