説明

正孔輸送領域内の金属副層

有機電場発光デバイスは、アノードと、アノードの上に配置され、少なくとも1つの正孔輸送材料を含む正孔輸送領域と、正孔輸送領域内に配置され、元素の周期律表の4族〜16族から選択された少なくとも1つの金属を含み、選択された金属が4.0eVより高い仕事関数を有する金属副層と、正孔輸送領域に接触して形成され、正孔−電子の再結合に応答して光を生じる発光層と、発光層の上に配置された電子輸送層と、電子輸送層の上に配置されたカソードとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電場発光(EL)デバイスの性能の改善に関し、特に、ELデバイスの発光効率の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電場発光(EL)デバイスまたは有機発光デバイス(OLED)は、印加された電位に応答して光を放射する電子デバイスである。OLEDの構造は、順に、アノードと、有機EL媒体と、カソードとを備える。アノードとカソードとの間に配置された有機EL媒体は一般に、有機正孔輸送層(HTL)と有機電子輸送層(ETL)とから構成される。正孔と電子は再結合し、HTL/ETLの境界面の近くのETL中で光を放射する。タン(Tang)他は、「有機電場発光ダイオード(“Organic Electroluminescent Diodes”)」、応用物理通信(Applied Physics Letters)、51、913(1987)及び同じ譲受人に譲受された米国特許第4,769,292号で、こうした層構造を使用した効率の高いOLEDを実証した。それ以来、代替層構造を有する非常に多くのOLEDが開示されている。例えば、安達(Adachi)他、「3層構造を備えた有機膜における電場発光(“Electroluminescence in Organic Films with Three−Layer Structure”)」、日本応用物理学会紀要(Japanese Journal of Applied Physics)、27、L269(1988)、及びタン(Tang)他、「ドープ有機薄膜の電場発光(“Electroluminescence of Doped Organic Thin Films”)」、応用物理紀要(Journal of Applied Physics)、65、3610(1989)によって開示されたもののような、HTLとETLとの間の有機発光層(LEL)を含む3層OLEDが存在する。LELは一般に、ゲスト材料でドープしたホスト材料からなる。さらに、デバイス中に正孔注入層(HIL)、及び/または電子注入層(EIL)、及び/または電子阻止層(EBL)、及び/または正孔阻止層(HBL)といった追加の機能層を含む他の多層OLEDが存在する。同時に、多くの様々な種類のEL材料も合成され、OLEDで使用されている。こうした新しい構造及び新しい材料によって、デバイスの性能はさらに改善した。
【0003】
発光効率を改善する1つの方法は、OLED中の正孔輸送領域(HTR)を修正することである。従来のOLED構造を図1Aに示すが、そこではOLED100は、アノード120、HTR131、LEL134、ETL138、及びカソード140を示す。このデバイスは、導電体160を通じて外部で電源150に接続される。このデバイスはHTR中に1つだけHTLを有するが、普通LELへの不平衡なキャリア注入のため高い発光効率を生じることはできない。高い発光効率を得るため、OLED中で1つより多いHTLを使用する試みがなされている。図2Bに、先行技術で開示された別の種類のOLEDを示すが、そこではOLED200のHTR131は、1つより多いHTL、すなわちHTL1、...HTLn、(n>1、整数)を含む。図面では、HTL1をHTL131.1として示し、HTL2をHTL131.2として示し、HTLnをHTL131.nとして示す。城田(Shirota)他は、「正孔輸送材料として新しいスターバースト分子、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミンを使用する多層有機電場発光デバイス(“Multilayered Organic Electroluminescent Devices Using a Novel Starburst Molecule,4,4’,4”−Tris(3−MethylphenylPhenylamino)Triphenylamine,as a Hole Transport Material”)、応用物理通信(Applied Physics Letters)、65、807(1994)で、二重のHTLを備えるOLEDは効率と寿命を増大できることを報告している。デバイス中のHTLとして二重のHTL、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−TDATA)/4,4’−ビス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)ビフェニル(TPD)を使用する場合、単一のTPD層を使用する場合よりも高い効率と長い寿命が達成された。江草(Egusa)他は、米国特許第5,343,050号で、2つより多い正孔輸送層を含むOLED構造を示している。さらに、OLEDの発光効率を改善するため、HTR中でドープHTL(またはドープHIL)が使用されている。例えば、ツォウ(Zhou)他は、「p型ドープアモルファス正孔注入層を使用する超低動作電圧有機発光ダイオード(“Very−Low−Operating−Voltage Organic Light−Emitting Diodes Using a p−Doped Amorphous Hole Injection Layer”)」、応用物理通信(Applied Physics Letters)、78、410(2001)で、アノード及びHTLの両方に接触する、テトラフルオロ−テトラシアノ−キノジメタン(F4−TCNQ)をドープした4,4’,4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)トリフェニルアミン(TDATA)を備えるHTLを有するOLEDで、高い輝度効率と低い駆動電圧を達成できることを報告している。
【0004】
上記の方法を使用して、OLEDの発光効率を有効に向上することができる。しかし、多数のHTL構造は、実質上デバイスの寿命を改善することはできない。その代わり、普通デバイスの寿命を短縮する。図1B及び図2Bは、それぞれ図1A及び図2Aの概略電子エネルギーバンド図である。周知のように、最も一般的に使用されるアノードである、インジウムスズ酸化物(ITO)は、何らかの適切な表面処理によって約5.0eVの仕事関数を有することができ、TPD層は、約5.6eVのイオン化電位(Ip)を有する。OLED中のITOに隣接するHTLとして単一のTPD層を使用する場合、単一のTPD層は、ITO/TPDの境界面での正孔注入のため0.6eVより高いエネルギー障壁を発生し、この高いエネルギー障壁は動作中境界面の損傷を速めるので、結果として動作寿命が短くなる。城田の論文では、ITO及びTPD層の間の別のHTLとしてm−TDATA層を使用する。m−TDATA層は約5.1eVのIpを有するので、ITO/m−TDATAの境界面で約0.1eVのエネルギー障壁を形成する。この低い正孔注入障壁は、動作中容易には境界面の損傷を発生しない。従って、二重のHTLとしてm−TDATA/TPD層を使用するOLEDのブライトネス半減寿命は、初期輝度が300cd/m2の場合150時間から300時間に増大する。その上、m−TDATA/TPDの境界面で、約0.5eVの別のエネルギー障壁が形成される。この障壁は正孔を蓄積しLELへの正孔の輸送を減速し、その結果高い発光効率を生じるが、この障壁はデバイスの寿命のさらなる改善を制限することにもなる。単一のHTLとしてのN,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPB)層と、ETLとしてのトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)層とを有する従来のOLEDは普通、初期輝度が300cd/m2の場合5,000時間より長いブライトネス半減寿命を有する。この寿命の大きな増大は、主としてNPBが約5.4eVのIpを有し、ITO/TPDと比較してITO/NPBの境界面で低いエネルギー障壁を形成するという事実によると共に、NPBのガラス転移温度がTPDより高いことによる。NPB HTLを二重のHTLによって置き換える場合、デバイスの寿命は実際に減少することがある。OLED中で2つより多いHTLを使用し、正孔注入障壁がHTR中の各境界面での境界面損傷を減少させる十分に低いものでないならば、OLEDの寿命は改善されないことがある。その上、F4−TCNQはホスト層中では熱的に安定ではなく、ホスト層からLEL中に拡散して輝度を消滅させ、デバイスの寿命を短縮することがある。さらに、多数のHTLまたはドープHTL(またはドープHIL)の製造には気化チャンバ内でより多くの材料源が必要であり、特に2つより多いHTLを製造する場合必要なデバイス製造時間が長くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、OLEDの発光効率を改善することである。
【0006】
本発明の別の目的は、OLEDの層構造を単純化することである。
【0007】
本発明のまた別の目的は、OLEDの製造のために必要な材料源の数を減らすことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、有機電場発光デバイスであって、
a)アノードと、
b)アノードの上に配置され、少なくとも1つの正孔輸送材料を含む正孔輸送領域と、
c)正孔輸送領域内に配置され、元素の周期律表の第4族〜第16族から選択された少なくとも1つの金属を含み、該選択された金属が4.0eVより高い仕事関数を有する金属副層と、
d)正孔輸送領域に接触して形成され、正孔−電子の再結合に応答して光を生じる発光層と、
e)発光層の上に配置された電子輸送層と、
f)電子輸送層の上に配置されたカソードとを備える有機電場発光デバイスによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、HTR中の金属副層を利用し、その際金属副層は、4.0eVより高い仕事関数を有する金属を含む。この配置によって、OLEDは、動作寿命を損なうことなく、従来のOLEDと比較して高い発光効率を有することができる。また、このOLEDを製造するのに必要な材料源は、多層HTLを有するOLEDを製造する場合より少ない。また、この金属副層は、デバイス中の金属拡散の問題を発生しないことも予想外に判明している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
層の厚さといったデバイスの特徴的な寸法はマイクロメータ未満のものが多いため、図1A〜図3Bの図面の縮尺は寸法精度より視覚化の容易さを考慮したものになっている。
【0011】
図3は、本発明に係るOLED300を示す。OLED300はアノード120とカソード140とを有し、その少なくとも1つは透明である。アノード120とカソード140との間には少なくともHTR131、LEL134、及びETL138が配置され、その際HTR131は、少なくとも金属副層332、HTL131.1(HTL1)、及びHTL131.2(HTL2)を含む。このデバイスは導電体160を通じて外部で電源150に接続される。
【0012】
正孔輸送領域中の金属副層
上記のように、多層HTLまたはドープHTL(またはドープHIL)は実質上発光効率を改善することができるが、デバイス寿命を劣化させることがある。しかし、HTR内に高仕事関数金属(高仕事関数とは、仕事関数が4.0eVより高いことを意味する)の単一層を挿入することによって、安定動作を損なうことなく発光効率を改善できることが判明した。金属をHTL上に蒸着する場合、有機層と金属層との両方で電荷移動が発生することがあると考える。この電荷移動の結果、表面領域上の有機層の(真空エネルギーレベルから離れる)Ipのダウンシフトが生じる。次のHTLを表面上の金属層の単一層を有する以前のHTLの上部に蒸着すると、それに応じて2つのHTLの間に正孔注入障壁が形成される。この正孔注入障壁の高さは、2つのHTLの間の金属の仕事関数と、HTL中の有機材料の電子構造とに応じて、1eVを越える値から0.1eV未満の値の範囲内をとりうる。高仕事関数金属の単一層を2つのHTLの間に蒸着すると、0.4eV未満の障壁高さの正孔注入障壁を形成することができる。同じ正孔輸送材料を有する2つのHTLの間に0.4eV未満の正孔注入障壁を形成することによって、デバイスの安定動作を損なうことなく、正孔注入を減速し発光効率を増大することができる。図3Bに、図3AのHTR中に金属副層を有するOLEDの対応する電子エネルギーバンド図を示す。
【0013】
正孔輸送領域内に配置されたこの金属副層は、元素の周期表の4族〜16族から選択される少なくとも1つの金属を含み、選択される金属は4.0eVより高い仕事関数を有する。金属副層は、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、AuまたはPbを含む少なくとも1つの金属を含む。好適には、金属副層は、Al、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Pd、Ag、In、Sn、PtまたはAuを含む少なくとも1つの金属を含む。さらに好適には、金属副層は、Al、Cu、Ag、またはAuから選択される金属の1つを含む。製造の観点から、材料源の数を減らし製造工程を単純化するため、金属副層は、OLED中の電極を形成するため通常使用される高仕事関数金属を使用して形成してもよい。例えば、蒸着チャンバ内にLiF/Alカソードを形成するために使用するAl源が存在するならば、Al金属を使用してHTR中に金属副層を形成してもよく、蒸着チャンバ内にMg:Ag合金カソードを形成するために使用するAg源が存在するならば、Ag金属を使用してHTR中に金属副層を形成してもよい。
【0014】
この金属副層は厚さ10nm未満でよい。好適には、これは1nm未満でよい。実際には、金属副層は0.05nm程度の薄いものでも有用である。金属副層と発光層との間の距離は2nm〜30nmの範囲内である。好適には、この距離は5nm〜20nmの範囲内である。別言すれば、第2のHTLの厚さは2nm〜30nmの範囲内であり、好適には、5nm〜20nmの範囲内である。
【0015】
金属副層は2つのHTLの間に挿入し、その際各HTLは、芳香族第三級アミンから選択されるか、または多環式芳香族化合物から選択される少なくとも1つの正孔輸送材料を含む。好適には、各HTLは、NPB、またはN,N,N’,N’−テトラキス(ナフサ−2−イル)−ベンジジン(TNB)から選択される正孔輸送材料を含む。製造の観点から、金属副層は2つのHTLの間に挿入され、その際2つのHTLは同じ正孔輸送材料を含む。
【0016】
基板
本発明のOLEDは通常支持基板の上に提供され、そこではカソードまたはアノードの何れが基板に接触してもよい。基板に接触する電極を従来ボトム電極と呼ぶ。従来、ボトム電極はアノードであるが、本発明はその構成に制限されない。基板は、光放射の目指す方向に応じて光透過性または不透明の何れかでよい。光透過特性は、基板を通じてEL放射を見るため望ましい。透明なガラスまたはプラスチックは一般にこうした場合に利用する。トップ電極を通じてEL放射を見る適用業務の場合、ボトム支持体の透過特性は重要でないので、光透過性、光吸収性または光反射性でよい。この場合使用する電極は、ガラス、プラスチック、半導体材料、シリコン、セラミックス、及び回路基板材料を含むが、これらに制限されない。もちろん、こうしたデバイス構成では、光透過性トップ電極を提供することが必要である。
【0017】
アノード
EL放射をアノード120を通じて見る場合、アノードは対象放射に対して透明または実質上透明であるべきである。本発明で使用する一般的な透明アノード材料はインジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)及びスズ酸化物であるが、アルミニウムまたはインジウムでドープした亜鉛酸化物、マグネシウム−インジウム酸化物、及びニッケル−タングステン酸化物を含むがこれらに制限されない他の金属酸化物も使用できる。こうした酸化物に加えて、窒化ガリウムのような金属窒化物、セレン化亜鉛のような金属セレン化物、及び硫化亜鉛のような金属硫化物をアノードとして使用してもよい。EL放射をカソード電極だけを通じて見る適用業務では、アノードの透過特性は重要でないので、透明、不透明または反射性であるかにかかわらず、任意の導電性材料を使用してよい。この適用業務のための導体の例は、金、イリジウム、モリブデン、パラジウム、及びプラチナを含むが、これらに制限されない。透過性または他の、通常のアノード材料は、4.0eVより高いエネルギーで機能する用途を有する。望ましいアノード材料は一般に、気化、スパッタリング、化学蒸着、または電気化学手段といった何らかの適切な手段によって蒸着する。アノードは周知のフォトリソグラフィ処理を使用してパターン化してもよい。必要に応じて、他の層を蒸着する前にアノードを研磨し、表面粗度を減らして電気的短絡を最小化し又は反射率を向上してもよい。
【0018】
正孔輸送層(HTL)
HTR131中には少なくとも2つのHTLが存在する。好適には、2つのHTLは同じ正孔輸送材料を含む。各HTLは、芳香族第三級アミンのような少なくとも1つの正孔輸送化合物を含むが、ここで芳香族第三級アミンとは、少なくとも1つが芳香環の要素である炭素原子にだけ結合する少なくとも1つの三価窒素原子を含む化合物であると理解されている。1つの形態では、芳香族第三級アミンは、モノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、またはポリマーアリールアミンといったアリールアミンでもよい。モノマートリアリールアミンの例は、米国特許第3,180,730号で、クリュプフェル(Klupfel)他によって例示されている。1つかそれ以上のビニル基によって置換され、かつ/または少なくとも1つの活性水素を含む基を備える他の適切なトリアリールアミンは、米国特許3,567,450号及び第3,658,520号でブラントリー(Brantly)他によって開示されている。
【0019】
芳香族第三級アミンのさらに好適な種類は、米国特許第4,720,432号及び第5,061,569号で開示されているような少なくとも2つの芳香族第三級アミンモイエティを含むものである。HTLは単一の芳香族第三級アミン化合物またはその混合物から形成してもよい。有用な芳香族第三級アミンの例は以下である。
1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン
1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン
4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クアドリフェニル
ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン
N,N,N−トリ(p−トリル)アミン
4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)−スチリル]スチルベン
N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4−4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラ−1−ナフチル−4,4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラ−2−ナフチル−4,4’−ジアミノビフェニル
N−フェニルカルバゾール
4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ビフェニル
4,4”−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]p−テルフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ナフタレン
4,4’−ビス[N−(9−アンスリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4”−ビス[N−(1−アンスリル)−N−フェニルアミノ]−p−テルフェニル
4,4’−ビス[N−(2−フェナンスリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(8−フルオランテニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ナフタセニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(1−コロレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン
2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン
2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン
N,N,N’,N’−テトラ(2−ナフチル)−4−4”−ジアミノ−p−テルフェニル
4,4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)−フェニル]アミノ}ビフェニル
4,4’−ビス「N−フェニル−N−(2−ピレニル)アミノ]ビフェニル
2,6−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミン]フルオレン
1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ナフタレン
4,4’,4”−トリス[(3−メチルフェニル)フェニルアミノ]トリフェニルアニン
【0020】
有用な正孔輸送材料の別の種類は、欧州特許第1 009 041号に記載の多環式芳香族化合物を含む。オリゴマー材料を含む、2つより多いアミン基を有する第三級芳香族アミンを使用してもよい。さらに、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、及びPEDOT/PSSとも呼ばれるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホネート)のような共重合体といったポリマー正孔輸送材料を使用してもよい。
【0021】
発光層(LEL)
米国特許第4,769,292号及び第5,935,721号にさらに十分に記載されているように、OLED300中のLEL134は、この領域での電子−正孔の再結合の結果として電場発光が生じる発光または蛍光材料を含む。LELは単一の材料から構成してよいが、より一般的には、光放射が主としてドーパントから生じ任意の色でよい、ゲスト化合物(単数または複数)でドープしたホスト材料からなる。LEL中のホスト材料は、電子輸送材料、正孔輸送材料、または正孔−電子の再結合をサポートする別の材料または材料の組み合わせでもよい。ドーパントは普通高蛍光性染料から選択するが、例えば、国際公開第98/55561号、第00/18851号、第00/57676号、及び第00/70655号に記載のような遷移金属複合体のような燐光材料も有用である。通常、ホスト材料中に0.01〜10重量%のドーパントをコーティングする。例えばポリ(p−フェニレンビニレン)、PPVのようなポリフルオレン及びポリビニルアリーレンといったポリマー材料をホスト材料として使用してもよい。この場合、分子の小さいドーパントをポリマーのホスト中に分子分散してもよく、また少ない方の成分をホストのポリマー中に共重合することによってドーパントを追加してもよい。
【0022】
ドーパントとして染料を選択するための重要な関係は電子エネルギーバンドギャップの比較である。ホストからドーパント分子への効率的なエネルギー移動のためには、必要な条件は、ドーパントのバンドギャップがホスト材料のバンドギャップより小さいことである。また、燐光発光体の場合、ホストのトリプレットエネルギーレベルがホストからドーパントへのエネルギー移動を可能にするよう十分に高いことも重要である。
【0023】
使用できることが知られているホスト及び発光分子は、米国特許第4,768,292号、第5,141,671号、第5,150,006号、第5,151,629号、第5,405,709号、第5,484,922号、第5,593,788号、第5,645,948号、第5,683,823号、第5,755,999号、第5,928,802号、第5,935,720号、第5,035,721号、及び第6,020,078号で開示されたものを含むが、これらに制限されない。
【0024】
8−ヒドロキシキノリン(オキシン)及び同様の誘導体の金属複合体は、電場発光をサポートできる有用なホスト化合物の1つの種類を構成する。有用なキレート化オキシノイド化合物の例は以下である。
CO−1:アルミニウムトリスオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−2:マグネシウムビスオキシン[別名、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム(II)]
CO−3:ビス[ベンゾ{f}−8−キノリノラト]亜鉛(II)
CO−4:ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)−μ−オキソ−ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)
CO−5:インジウムトリスオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)インジウム]
CO−6:アルミニウムトリス(5−メチルオキシン)[別名、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−7:リチウムオキシン[別名、(8−キノリノラト)リチウム(I)]
CO−8:ガリウムオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)ガリウム(III)]
CO−9:ジルコニウムオキシン[別名、テトラ(8−キノリノラト)ジルコニウム(IV)]
【0025】
他の種類の有用なホスト材料は、2−(1,1−ジメチエチル)−9,10−ビス(2−ナフタレニル)アントラセン(TBADN)、9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(ADN)、及び米国特許第5,935,721号に記載の誘導体といったアントラセンの誘導体、米国特許第5,121,029号に記載のジスチリルアリーレン誘導体、例えば2,2’,2”−(1,3,5−フェニレン)トリス[1−フェニル−1H−ベンジミダゾール]といったベンザゾール誘導体、及び、例えばビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(B−Alq)といった青色放射キレート化オキノイド化合物を含むが、これらに制限されない。カルバゾール誘導体は燐光発光体のための特に有用なホストである。
【0026】
有用な蛍光ドーパントは、アントラセン、テトラセン、キサンテン、ルブレン、クマリン、ローダミン、及びキナクリドン、ジシアノメチレンピラン化合物、チオピラン化合物、ポリメチン化合物、ピリリウム及びチアピリリウム化合物、フルオレン誘導体、ペリフランテン誘導体、インデノペリレン誘導体、ビス(アジニル)アミンボロン化合物、ビス(アジニル)メタン化合物及びカルボスチリル化合物の誘導体を含むが、これらに制限されない。
【0027】
電子輸送層(ETL)
本発明のOLED中のETLを形成する際使用する好適な薄膜形成材料は、一般に8−キノリノールまたは8−ヒドロキシキノリンとも呼ばれる、オキシン自体のキレートを含む金属キレート化オキシノイド化合物である。こうした化合物は電子の注入及び輸送を助け、高いレベルの性能を示し、容易に蒸着して薄膜を形成する。オキノイド化合物の例は以下である。
CO−1:アルミニウムトリスオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−2:マグネシウムビスオキシン[別名、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム(II)]
CO−3:ビス[ベンゾ{f}−8−キノリノラト)亜鉛(II)
CO−4:ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)−μ−オキソ−ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)
CO−5:インジウムトリスオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)インジウム]
CO−6:アルミニウムトリス(5−メチルオキシン)[別名、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−7:リチウムオキシン[別名、(8−キノリノラト)リチウム(I)]
CO−8:ガリウムオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)ガリウム(III)]
CO−9:ジルコニウムオキシン[別名、テトラ(8−キノリノラト)ジルコニウム(IV)]
【0028】
他の電子輸送材料は、米国特許第4,356,429号に記載の様々なブタジエン誘導体及び米国特許第4,539,507号に記載の様々な複素環式蛍光増白剤を含む。ベンザゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、ピリジンチアジアゾール、トリアジン、及び一部のシロール誘導体も有用な電子輸送材料である。
【0029】
電子注入層(EIL)
必ずしも必要ではないが、カソード140に接触するEILを提供するのが有用であることが多い。米国特許第6,013,384号に記載のように、EILは、ETLへの電子の注入を促進し、導電率を増大する役目を果たすことができ、結果としてOLEDの駆動電圧を下げることができる。EIL中で使用する適切な材料は、強還元剤をドーパントとして有するか、または低仕事関数金属(<3.0eV)をドーパントとして有し、n型ドープ有機層を形成する上記のETLである。n型ドープ有機層とは、層が導電性であり、電荷担体が主として電子であることを意味する。ドーパント材料からホスト材料への電子移動の結果である電荷移動錯体の形成によって導電性が提供される。代替無機電子注入材料もOLED中のEILを形成するため有用なことがある。無機EILは好適には、米国特許第5,677,572号に記載のような0.5〜1nmのLiF層といった低仕事関数金属または金属塩を含む。
【0030】
カソード
光放射をアノードを通じてだけ見る場合、本発明で使用するカソード140はほぼあらゆる導電性材料から構成されるものでよい。望ましい材料は下にある有機層との良好な接触を保証する良好な膜形成特性を有し、低電圧での電子の注入を促進し、良好な安定性を有する。有用なカソード材料は低仕事関数金属(<4.0eV)または金属合金を含むことが多い。米国特許第4,885,221号に記載のように、1つの好適なカソード材料はMg:Ag合金から構成され、その際銀の割合は、米国特許第4,885,221号に記載のように1〜20%の範囲内である。カソード材料の別の適切な種類は、導電性金属の厚い層で上部を覆った有機層(例えば、ETL)に接触する(上記のような)薄い無機EILを備える二重層を含む。無機EILが好適には低仕事関数金属または金属塩を含む場合、厚い方の覆いとなる層は低仕事関数を有する必要はない。1つのこうしたカソードは、米国特許5,677,572号に記載のような、LiFの薄い層にAlの厚い層が続くものを含む。他の有用なカソード材料の組み合わせは、米国特許第5,059,861号、第5,059,862号、及び第6,140,763号に記載のものを含むが、これらに制限されない。
【0031】
光放射をカソードを通じて見る場合、カソードは透明またはほぼ透明でなければならない。こうした適用業務の場合、金属は薄くなければならないか、また透明な導電性酸化物、またはそれらの材料の組み合わせを使用しなければならない。光学的に透明なカソードは、米国特許第4,885,211号、第5,247,190号、第5,703,436号、第5,608,287号、第5,837,391号、第5,677,572号、第5,776,622号、第5,776,623号、第5,714,838号、第5,969,474号、第5,739,545号、第5,981,306号、第6,137,223号、第6,140,763号、第6,172,459号、第6,278,236号、第6,284,393号、日本国特許第3,234,963号、及び欧州特許第1 076 368号にさらに詳細に記載されている。カソード材料は通常熱気化、電子ビーム気化、イオンスパッタリング、または化学蒸着によって蒸着する。必要な場合、スルーマスク蒸着、例えば米国特許第5,276,380号及び欧州特許第0 732 868号に記載のもののような一体型シャドーマスキング、レーザーアブレーション、及び選択的化学蒸着を含むが、これらに制限されない多くの周知の方法を通じてパターン化を達成してもよい。
【0032】
代替層
場合によっては、有機ELユニット中のLEL及びETLを必要に応じて、発光及び電子輸送の両方をサポートする機能を果たす単一層に一体化してもよく、有機EILを、電子注入及び電子輸送の両方をサポートする機能を果たすETLと呼んでもよい。また、当業技術分野では、放射ドーパントをHTLに追加してもよく、このHTLはホストの役目を果たしてもよいことが知られている。例えば、青色及び黄色の放射材料、シアン及び赤色の放射材料、または赤色、緑色、及び青色の放射材料を結合することによって白色放射OLEDを形成するため、多数のドーパントを1つかそれ以上の層に追加してもよい。白色放射デバイスは、例えば、米国特許出願第2002/0025419A1号、米国特許第5,683,823号、米国特許第5,503,910号、第5,405,709号、第5,283,182号、欧州特許第1 187 235号、及び第1 182 244号に記載されている。
【0033】
当業技術分野で教示されるような電子または正孔阻止層といった追加層を本発明のデバイスで利用してもよい。正孔阻止層は一般に、例えば米国特許出願公開第2002/0015859A1号の場合のように、燐光発光体デバイスの効率を改善するために使用する。
【0034】
有機層の蒸着
上記で言及した有機材料は熱気化のような気相法を通じて適切に蒸着されるが、膜形成を改善するため、例えば必要に応じてバインダを加えた溶剤のような流体から蒸着してもよい。材料がポリマーである場合、溶剤蒸着は有用であるが、スパッタリングまたはドナーシートからの熱転写といった他の方法を使用してもよい。熱気化によって蒸着される材料は、例えば米国特許第6,237,529号に記載のようなタンタル材料から構成されることの多い気化「ボート」から気化してもよく、またまずドナーシートにコーティングしてから基板の近くで昇華させてもよい。材料が混合物である層は別個の気化ボートを利用してもよく、また材料を予備混合して単一のボートまたはドナーシートからコーティングしてもよい。フルカラーディスプレイの場合、LELの画素化が必要なことがある。このLELの画素化蒸着は、シャドーマスク、一体型シャドーマスク(米国特許第5,294,870号)、ドナーシートからの空間的に定義された熱染料転写(米国特許第5,688,551号、第5,851,709号、及び第6,066,357号)、及びインクジェット法(米国特許第6,066,357号)を使用して達成してもよい。
【0035】
カプセル化
大部分のOLEDは湿気または酸素、またはそれらの両方の影響を受けやすいので、一般に、アルミナ、ボーキサイト、硫酸カルシウム、粘土、シリカゲル、ゼオライト、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫化物、または金属ハロゲン化物、及び過塩素酸塩といった乾燥剤と共に、窒素またはアルゴンといった不活性雰囲気中に密閉する。カプセル化及び乾燥の方法は、米国特許第6,226,890号に記載のものを含むが、これらに制限されない。さらに、カプセル化のためのSiOx、テフロン(登録商標)、及び交互の無機/ポリマー層といった障壁層も当業技術分野で周知である。
【0036】
光学的最適化
本発明のOLEDデバイスは、望ましい場合その特性を向上するため様々な周知の光学作用を利用してもよい。これは、光透過を最大にするため層厚さを最適化すること、誘電体ミラー構造を提供すること、反射性電極を光吸収性電極によって置き換えること、ディスプレイの上に防眩性または反射防止性コーティングを提供すること、ディスプレイの上に偏光媒体を提供すること、またはディスプレイの上に着色、中性、または色変換フィルタを提供することを含む。フィルタ、偏光体、及び防眩性または反射防止性コーティングは特に、カバーの上またはカバーの一部として提供してもよい。
【0037】
本発明は、大部分のOLED構成で利用してよい。こうした構成は、単一のアノード及びカソードを備える非常に簡単な構造から、画素を形成するアノード及びカソードの直交アレイから構成されるパッシブマトリックスディスプレイ、及び、各画素が独立して制御され、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)を備えるアクティブマトリックスディスプレイといったより複雑なデバイスまでを含む。
【実施例】
【0038】
本発明及びその利点は、以下の本発明の例及び比較例によってよりよく認識できる。簡潔にするため、形成される材料及び層を以下のように略記する。
ITO:インジウム−スズ酸化物:ガラス基板上に透明なアノードを形成する際使用する。
CFx:ポリマー化フルオロカーボン層:ITOの上部に正孔注入層を形成する際使用する。
CuPc:銅フタロシアニン:正孔輸送領域で正孔輸送層(または正孔注入層と呼ぶ)を形成する際使用する。
NPB:N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン:正孔輸送層を形成する際使用する。
TPD:4,4’−ビス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)ビフェニル:正孔輸送層を形成する際使用する。
Alq:トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III):電子輸送層を形成する際、または正孔輸送領域中の有機副層を形成する際使用する。
TBADN:2−(1,1−ジメチエチル)−9,10−ビス(2−ナフタレニル)アントラセン:発光層を形成する際ホスト材料として使用する、また正孔輸送領域中の有機副層を形成する際使用する。
TBP:2,5,8,11−テトラ−t−ブチルペリレン:発光層中のドーパント材料として使用する。
Li:リチウム:正孔輸送領域中の金属副層を形成する際使用する、また電子輸送特性を改善するためETL中のドーパントとして使用する。
Ag:銀:HTR中の金属副層を形成する際またはマグネシウムを備えるカソードを形成する際使用する。
Mg:Ag:体積比10:0.5のマグネシウム:銀:カソードを形成する際使用する。
【0039】
以下の例では、有機層の厚さ及びドーピング濃度は、較正膜厚モニタ(INFICON IC/5蒸着制御装置)を使用して現場で制御及び測定した。製造した全てのデバイスの電場発光特性は、室温で定電流源(KEITHLEY 2400 SourceMeter)及び光度計(PHOTO RESEARCH SpectraScan PR 650)を使用して評価した。色は国際照明委員会(Commission Internationale de l’Eclairage,CIE)座標を使用して報告することになる。いくつかの有機薄膜のイオン化電位(Ip)は、紫外光電子分光法システム(THERMO VG THERMAL ESCALAB−250)での光電子分光法を使用して測定した。安定動作の試験の際、試験対象のいくつかのデバイスは70℃のオーブン(VWR Scientific Products)内で20mA/cm2の電流密度で駆動し、いくつかの他のデバイスは室温条件下で20mA/cm2の電流密度で駆動した。
【0040】
例1(OLED−比較例)
従来のOLEDの準備は以下の通りである。透明なITO導電層でコーティングした〜1.1mm厚のガラス基板を市販のガラス洗浄工具を使用して清掃及び乾燥した。ITOの厚さは約42nmであり、ITOのシート抵抗は約68Ω/スクエアである。次いで、ITOの表面を酸化性プラズマで処理し、表面をアノードとして調整した。RFプラズマ処理チャンバ内でCHF3ガスを分解することによって、1nm厚のCFxの層を、清掃したITOの表面にHILとして蒸着した。そして、基板を真空蒸着チャンバ(TROVATO MFG.INC)内に移動し、基板の上部に他の全ての層を蒸着した。約10-6トールの真空下で加熱したボートから気化することによって、以下の層を以下の順序で蒸着した。
(1)HTR、75nm厚、NPBからなる1つのみのHTLを有する。
(2)LEL、20nm厚、Alqからなる。
(3)ETL、40nm厚、同様にAlqからなる。
(4)カソード、約210nm厚、Mg:Agからなる。
【0041】
これらの層を蒸着した後、カプセル化のためデバイスを蒸着チャンバからドライボックス(VAC Vacuum Atmosphere Company)内に移動した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(90)/Alq(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表1に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及び70%輝度残存時間(輝度が初期値の70%残っている時点の動作時間、これを本発明ではT70(70℃)として示す)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図4に示す。
【0042】
例2(比較例)
OLEDを、75nm厚のHTRが、1つが37.5nm厚のNPB層からなるHTL1であり、もう1つが37.5nm厚のTPD層からなるHTL2である2つのHTLによって置き換えられるステップ1以外は例1に記載した方法で構成した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(37.5)/TPD(37.5)/Alq(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表1に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT70(70℃)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図4に示す。
【0043】
例3(比較例)
OLEDを、75nm厚のHTRが、1つが25nmのCuPc層からなるHTL1であり、1つが25nm厚のNPB層からなるHTL2であり、もう1つが25nm厚のTPD層からなるHTL3である3つのHTLによって置き換えられるステップ1以外は例1に記載した方法で構成した。完成したデバイス構造をITO/CFx/CuPc(25)NPB(25)/TPD(25)/Alq(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表1に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT70(70℃)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図4に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すデータから、多層HTLはEL性能を改善できないことがあるのが分かる。70℃での70%輝度残存時間によって示される安定動作は、HTLの数が増大するに従って低下する。
【0046】
例4(OLED−比較例)
OLEDを、HTRの厚さが75nmから100nmに変更されるステップ1と、LELが2容量%のTBPでドープした20nm厚のTBADNによって置き換えられるステップ2以外は例1に記載した方法で構成した。このデバイスは、電気的に駆動されると青色を放射する。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(100)/TBADN:TBP(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表2に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT70(70℃)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図5に示す。
【0047】
例5(比較例)
OLEDを、100nm厚のHTRが、1つが50nm厚のNPB層からなるHTL1であり、1つが2nm厚のTBDAN層からなる有機副層であり、もう1つが50nm厚のNPB層からなるHTL2である3つの層によって置き換えられるステップ1以外は例1に記載した方法で構成した。別言すれば、2nm厚のTBADN有機副層をNPB材料からなるHTR中に挿入した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(50)/TBADN(2)/NPB(50)/TBADN:TBP(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表2に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT70(70℃)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図5に示す。
【0048】
例6(比較例)
OLEDを、100nm厚のHTRが、1つが50nm厚のNPB層からなるHTL1であり、1つが2nm厚のAlq層からなる有機副層であり、もう1つが50nm厚のNPB層からなるHTL2である3つの層によって置き換えられるステップ1以外は例1に記載した方法で構成した。別言すれば、2nm厚のAlq有機副層をNPB材料からなるHTR中に挿入した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(50)/Alq(2)/NPB(50)/TBADN:TBP(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表2に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT70(70℃)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図5に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すデータから、有機副層は発光効率を改善できるが、安定動作を大きく損なうことが分かる。
【0051】
例7(OLED−比較例)
別の従来のOLEDを例1に記載の方法で構成した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(75)/Alq(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表3に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT90(RT)(室温で試験した90%輝度残存時間)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図4に示す。
【0052】
例8(比較例)
OLEDを、75nm厚のHTRが、1つが55nm厚のNPB層からなるHTL1であり、1つが0.05nm厚のLiからなる金属副層であり、もう1つが20nm厚のNPB層からなるHTL2である3つの層によって置き換えられるステップ1以外は例1に記載した方法で構成した。別言すれば、0.05nm厚のLi副層をNPB材料からなるHTR中に挿入した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(55)/Li(0.05)/NPB(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表3に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT90(RT)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図6に示す。
【0053】
例9(発明例)
OLEDを、75nm厚のHTRが、1つが55nm厚のNPB層からなるHTL1であり、1つが0.05nm厚のAgからなる金属副層であり、もう1つが20nm厚のNPB層からなるHTL2である3つの層によって置き換えられるステップ1以外は例1に記載した方法で構成した。別言すれば、0.05nm厚のAg副層をNPB材料からなるHTR中に挿入した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(55)/Ag(0.05)/NPB(20)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表3に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT90(RT)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図6に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示すデータから、金属副層は発光効率を改善できることが分かる。しかし、金属副層が低仕事関数金属からなる場合、安定動作を大きく損なう。高仕事関数金属からなる金属副層は、発光効率を改善しつつ、安定動作を維持できる。
【0056】
例10(OLED−比較例)
OLEDを、LELの厚さが20nmから25nmに変更されるステップ2と、ETLが、導電率を改善するため1.2容量%のLiでドープした35nm厚のAlqによって置き換えられるステップ3以外は例7に記載した方法で構成した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(75)/Alq(25)/Alq:Li(35)/Mg:Agとして示す。表4に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT90(RT)(室温で試験した90%輝度残存時間)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図7に示す。
【0057】
例11(発明例)
OLEDを、75nm厚のHTRが、1つが70nm厚のNPB層からなるHTL1であり、1つが0.05nm厚のAgからなる金属副層であり、もう1つが5nm厚のNPB層からなるHTL2である3つの層によって置き換えられるステップ1以外は例10に記載した方法で構成した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(70)/Ag(0.05)/NPB(5)/Alq(25)/Alq:Li(35)/Mg:Agとして示す。表4に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT90(RT)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図7に示す。
【0058】
例12(発明例)
OLEDを、75nm厚のHTRが、1つが65nm厚のNPB層からなるHTL1であり、1つが0.05nm厚のAgからなる金属副層であり、もう1つが10nm厚のNPB層からなるHTL2である3つの層によって置き換えられるステップ1以外は例10に記載した方法で構成した。完成したデバイス構造をITO/CFx/NPB(65)/Ag(0.05)/NPB(10)/Alq(40)/Mg:Agとして示す。表4に、デバイスを20mA/cm2の電流密度で測定した時のデバイスのEL性能、すなわち駆動電圧、輝度、発光効率、電力効率、CIEx、CIEy、及びT90(RT)を示す。正規化輝度と動作時間との関係を図7に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
表4に示すデータと図7の重なり合う安定性曲線から、HTR中の高仕事関数金属副層をLELに近づけて配置すると、金属拡散の問題なしに同じ安定動作を維持しつつ、さらに発光効率を改善できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1A】先行技術のOLEDの断面図を示す。
【図1B】図1Aの先行技術のOLEDの対応するエネルギーバンド図を示す。
【図2A】HTR中の多層HTLを有する別の先行技術のOLEDの断面図を示す。
【図2B】図2AのHTR中の多層HTLを有する別の先行技術のOLEDの対応するエネルギーバンド図を示す。
【図3A】HTR中の金属副層を有する本発明に係るOLEDの断面図を示す。
【図3B】図3Aの構造の対応するエネルギーバンド図を示す。
【図4】HTR中の多数のHTLを有する先行技術によって製造したOLEDの安定動作を実証する正規化輝度対動作時間を示すグラフである。
【図5】HTR内の有機副層を有する先行技術によって製造したOLEDの安定動作を実証する正規化輝度対動作時間を示すグラフである。
【図6】本発明及び先行技術によって製造したOLEDの安定動作を実証する正規化輝度対動作時間を示すグラフである。
【図7】本発明及び先行技術によって製造した他のOLEDの安定動作を実証する正規化輝度対動作時間を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
100 OLED(先行技術)
200 多層HTLを有するOLED(先行技術)
300 OLED(本発明)
120 アノード
131 正孔輸送領域、HTR
131.1 第1の正孔輸送層、HTL1
131.2 第2の正孔輸送層、HTL2
131.n 第nの正孔輸送層、HTLn
134 発光層、LEL
138 電子輸送層、ETL
140 カソード
332 金属副層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電場発光デバイスであって、
a)アノードと、
b)前記アノードの上に配置され、少なくとも1つの正孔輸送材料を含む正孔輸送領域と、
c)前記正孔輸送領域内に配置され、元素の周期律表の第4族〜第16族から選択された少なくとも1つの金属を含み、該選択された金属が4.0eVより高い仕事関数を有する金属副層と、
d)前記正孔輸送領域に接触して形成され、正孔−電子の再結合に応答して光を生じる発光層と、
e)前記発光層の上に配置された電子輸送層と、
f)前記電子輸送層の上に配置されたカソードとを備える有機電場発光デバイス。
【請求項2】
前記金属副層の厚さが10nm未満である、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項3】
前記金属副層の厚さが1nm未満である、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項4】
前記金属副層と前記発光層との間の距離が2nm〜30nmの範囲内である、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項5】
前記金属副層と前記発光層との間の距離が5nm〜20nmの範囲内である、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項6】
前記金属副層が、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、AuまたはPbを含む少なくとも1つの金属を含む、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項7】
前記金属副層が、Al、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Pd、Ag、In、Sn、PtまたはAuを含む少なくとも1つの金属を含む、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項8】
前記金属副層が、Al、Cu、Ag、またはAuを含む少なくとも1つの金属を含む、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項9】
前記正孔輸送領域が、芳香族第三級アミンを含む少なくとも1つの正孔輸送材料を含む、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項10】
前記正孔輸送領域が、多環式芳香族化合物を含む少なくとも1つの正孔輸送材料を含む、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。
【請求項11】
前記正孔輸送領域が、NPBまたはTNBから選択される少なくとも1つの正孔輸送材料を含む、請求項1に記載の有機電場発光デバイス。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−507894(P2007−507894A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533932(P2006−533932)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/030411
【国際公開番号】WO2005/038942
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】