説明

正常新鮮血小板の模擬物

本発明は、血液学的装置において使用するための新鮮なヒト血小板の新規類似体を提供する。そのような類似体の調製方法も記載される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液学計測手段用の参照物質および対照物質の分野に属し、自動化血小板計数用の対照として使用されるヒト模擬血小板に特に注目する。
【背景技術】
【0002】
血液試料中に存在する様々なタイプの細胞各々に関する細胞計数を提供する自動化血液細胞解析装置は、それぞれの細胞タイプの電気特性および/または光学特性の測定によりこれを実行する。これらの特性は、電気インピーダンス、電気伝導性、高周波数変調、光散乱、および光吸収を種々の組み合わせで含む。多用な解析装置が市販され、臨床検査室で使用されている。個々の解析装置は、データ回収とデータ処理の様式が異なる。
【0003】
連邦規定では、血液細胞解析装置の信頼性を確認するために該解析装置を対照に対して定期的に検査することが要求される。前記対照は、血液が有するのと同様な特定の物理的および化学的な性質を有し、かつヒト血液に存在する様々な細胞に非常に近いサイズおよび形状の安定な細胞または粒子を含む、合成懸濁物である。残念なことに、種々の装置における異なる方法論が異なる様式で対照に対応しており、特定の装置においてはある種の細胞についての効果的代替物として働く特定の種類の対照粒子が、異なる装置においては別の種類の様かさらには細胞片の様にさえ見えることが、観察されている。
【0004】
対照において提示されるべきヒト血液における種々のタイプの細胞の中で、血小板は特に問題がある。対照において実際の血小板を使用することは好ましくない。なぜなら、血小板が懸濁されている血液が血管系から漏れると血小板は崩壊し、この崩壊が、血液凝固を生じさせるトロンボプラスチンの遊離の原因となるからである。さらに、血小板は容易に活性化されかつ凝集する傾向がある。また、高価でもある。これらの理由により、より低コストで、これらの好ましくない特徴を欠いた、模擬血小板が開発されてきた。模擬血小板は、典型的には生体細胞または非生体粒子である。生体細胞を使用する場合、これらは、実際の血小板と同じパラメータで検出可能となりかつそれによって他の細胞タイプから識別可能となるような特徴を保持するように改変された、血小板以外の細胞である。粒子を使用する場合、これらは、これらの特徴を有する粒子である。特徴は、検出の方法論に応じて異なる。識別する特徴がサイズ範囲およびサイズ分布である場合もあり、一方、赤血球細胞中のヘモグロビンの存在量と比較したヘモグロビンの欠如等の化学物質含有量が差次的特徴としてはたらく場合もある。一つだけはなくむしろ様々なタイプの装置において有用な対照に関しては、装置の方法論に関わらず、模擬血小板成分が血小板として検出可能であることが重要である。残念ながら、測定される特徴がサイズ分布である場合でさえも、必ずこうであるわけではなく、すなわち特定の対照が、ある検出手段によりあるサイズ分布を有するとして読み取られる一方で、別の検出手段により別のサイズ分布を有するとして読み取られることは、よくあることである。新鮮なヒト血小板は、ガウス分布よりはむしろ正規対数型サイズ分布を有し、粒子サイズに依る検出機器は、正規対数型分布を有する対照を有するか、または、正規対数型サイズ分布に近い群を受け入れることができるコンピューターアルゴリズムを有するかのいずれかでなければならない。
【0005】
実際のヒト血小板に対する比較的安価な代替物ならびにヒト血小板の崩壊性および凝集性を欠如した代替物は、非ヒト脊椎動物由来の赤血球細胞である。これらの細胞を模擬血小板として有用なものにするために、該細胞のサイズを縮小し、固定剤で処理して細胞膜を強化する。ヤギの赤血球細胞は、ヒト血小板に似たサイズおよびサイズ分布へと改変することも混合することも可能であるので、ヤギは、血小板の代替物としての赤血球細胞の好ましい供給源である。サイズ調整の一方法は、高浸透圧溶液中に細胞を懸濁し、浸透圧により前記細胞から細胞液を抜き取ることである。浸透圧が印加される時に細胞液の透過率を制御または限定する手段として固定処理を使用するかどうかに応じて、浸透圧の使用前または後のいずれかに固定処理を実行する。
【0006】
液の細胞膜透過率を制御するために前記固定処理を行う場合、その目的は、所望の粒子サイズ範囲およびサイズ分布を実現することである。光学技術により測定される特定の粒子サイズ範囲および分布を実現することは、しかしながら、電気技術により測定されるのと同一のサイズ範囲および分布を必ずしももたらすものではない。この欠点を正す一方法が、Ryan,W.L.(Streck Laboratories,Inc.)による、2001年4月16日に発行された米国特許第5,008,201号(特許文献1)に開示されている。この方法は、浸透圧が印加されたら各集団を異なる程度まで収縮させるために、様々な細胞集団を様々な程度の固定に供することにより、段階的な一連の粒子サイズを調製することを必要とする。前記集団をその後、所望のサイズ分布に集合的に近似する割合で組み合わせる。これは、労力がかかり、選択される割合と様々な程度の処理との両者において気力が薄れやすい。
【0007】
光学的測定により検出されるサイズ範囲および分布が電気的測定により検出されるサイズ範囲および分布と密接に一致する血小板類似体が、既にサイズを低下させてその後固定した非ヒト脊椎動物の赤血球細胞から調製可能であることが、発見された。その調製方法は、まず、サイズ低下および固定させた細胞を、該細胞への変性効果を十分に有する期間にわたり、周囲温度より高い温度まで加熱する工程と、その後、好ましくは該細胞を周囲温度もしくはそれに近い温度まで冷却する前または後に、該細胞を固定剤に曝露する工程とを含む。様々なサイズの細胞を異なるロットで別々に調製すること、および、所望のサイズ分布に近似する組み合わせを実現するように注意深く選択された割合で該ロットを組み合わせることを必要とせずに、有効な結果がこの方法を用いて達成可能である。該方法は代替的に、単一ロット上で実行可能であり、かつさらに、電気的および光学的測定モードの両者により検出される所望の分布を実現できる。この調製方法は、サイズ特性および分布特性を、収縮された細胞が実際のヒト血小板を評価するための対照として使用可能なものに近いものにする。
【0008】
米国特許第4,179,398号(特許文献2)および米国特許出願公開第2006/0223187号(特許文献3)は、出発材料としてヤギ赤血球細胞を使用するヒト血小板類似体の調製方法を記載する。本発明は、より望ましい特徴、例えば改善された光学特性ならびに、光学的測定と電気的測定との間でより一致したサイズ範囲および分布の読み取り値を有する、ヒト模擬血小板の新しい製造方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,008,201号
【特許文献2】米国特許第4,179,398号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0223187号
【発明の概要】
【0010】
発明の簡単な概要
一局面では、本発明は、自動化血液細胞解析装置において参照対照として使用するためのヒト血小板類似体の製造方法に関する。特許請求される方法は、(a)非ヒト脊椎動物の赤血球細胞から細胞液を抽出することにより、該赤血球細胞をヒト血小板のサイズへと収縮させる工程と、(b)少なくとも1日の期間にわたり少なくとも50℃の温度で、工程(a)からの細胞を加熱する工程とを含む。
【0011】
いくつかの態様では、前記方法の工程(a)は、前記細胞の収縮後に、約0.5〜約5時間にわたり、例えば約3時間にわたり、約40℃の温度で、該細胞を加熱することをさらに含む。他の態様では、前記方法の工程(b)は変性剤の存在下で実行されるか、または、工程(b)は、工程(a)からの細胞を少なくとも2時間にわたり変性剤で処理すること、およびその後、工程(b)にて加熱する前に該細胞から該変性剤を除去することを、さらに含んでもよい。
【0012】
いくつかの態様では、特許請求される方法は、工程(b)からの細胞を固定剤で固定する工程(c)をさらに含む。例示的な固定剤は、グルタルアルデヒドである。他の態様では、赤血球細胞は、ヤギ赤血球細胞である。
【0013】
いくつかの態様では、工程(b)における加熱は、約50℃〜約75℃、例えば、約56℃で実行される。いくつかの態様では、工程(b)における加熱期間は、少なくとも2日間、3日間、4日間、7日間、14日間、または21日間である。他の態様では、変性剤はα-ナフトールであり、その濃度は約100g/Lから約500g/Lもしくは少なくとも400g/L、または少なくとも500g/Lの範囲であり得る。
【0014】
いくつかの態様では、加熱期間が少なくとも7日間でありかつα-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lであるか;加熱期間が少なくとも14日間でありかつα-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lであるか;加熱期間が少なくとも21日間でありかつα-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lであるか;または、加熱期間が約21日間でありかつナフトール濃度が約500g/Lである。
【0015】
第二の局面では、本発明は、上記段落にて、特に請求項1〜25のいずれか一項に記載された方法のいずれか一つによって調製された、自動化血液細胞解析装置において参照対照として使用するための改変赤血球細胞に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Abbott Cell-Dyn CD4000血液学装置における新鮮血の解析。
【図2】Abbott Cell-Dyn CD4000血液学装置における、210g/Lのα-ナフトール(加熱なし、グルタルアルデヒドなし)を用いて調製した血小板類似体濃縮物の解析。
【図3】Abbott Cell-Dyn CD4000血液学装置における、210g/Lのα-ナフトール(56℃で1日加熱後、グルタルアルデヒド処理した)を用いて調製した血小板類似体濃縮物の解析。
【図4】Abbott Cell-Dyn CD4000血液学装置における、210g/Lのα-ナフトール(56℃で2日加熱、グルタルアルデヒドなし)を用いて調製した血小板類似体濃縮物の解析。
【図5】Abbott Cell-Dyn CD400血液学装置で解析された、PIC/POC%に対するα-ナフトール(100〜500g/L)および加熱処理(56℃で1〜21日)の効果。
【図6】Abbott Cell-Dyn CD4000血液学装置における、450g/Lのα-ナフトール(56℃で3日加熱、グルタルアルデヒドなし)を用いて調製した血小板類似体濃縮物の解析。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明者らは、所望のサイズに収縮され好ましくは固定された非ヒト赤血球細胞等の血小板類似体を製造する従来法を、変性剤(例えば、α-ナフトール)の使用と組み合わせた高温での非ヒト赤血球細胞の長期間加熱によって改変することによって、光学的手段と電気的手段との間で一致する読み取り値が実現可能であるように該類似体の光学品質を改善できることを発見し、これにより、該類似体を、血液学的装置において使用するためのより良好な対照とすることができた。
【0018】
II.出発材料
本発明の組成物のための出発材料は、非ヒト脊椎動物、例えばヤギまたはヤギの一般的な任意の種由来の全血であってもよい。何らかの特異的抗原または抗原群、例えばヒト血小板組成物に時折存在する肝炎関連抗原に関する心配がないので、それに対する対策が必要ない。ヤギ赤血球の体積とサイズ分布範囲は、年齢、性別、遺伝的因子、繁殖歴、代謝状態、およびそのヤギの飼育方式や環境に伴ってある程度変動する。一般的には、しかしながら、ヤギの赤血球の赤血球体積平均値は、ヒト血小板の血小板体積平均値の2〜3倍であり、通常、直径約4.1ミクロンで体積約35立方ミクロンである。
【0019】
III.沈殿工程
当該技術分野で公知の種々の方法により、例えば、重合糖、ジカルボン酸塩、および弱塩基を含む溶液と血液とを混合することにより、または遠心分離法により、非ヒト脊椎動物、例えばヤギの全血由来の赤血球細胞を優先的に沈殿させる、すなわち、残りの血液細胞成分よりも速い速度で沈降させる。
【0020】
例として、前記重合糖は、分子量約100,000〜約500,000または分子量約150,000〜約200,000の、重合無水グルコースまたは、当該技術分野で一般的に知られる、デキストランである。別の可能な重合糖は、分子量500,000の重合スクロースである。重合糖の濃度は、1リットル当たり約20〜約50グラム、例えば、1リットル当たり約30グラムであってもよい。
【0021】
前記ジカルボン酸塩は、アルカリ金属塩等の任意の一般的な塩であってもよく、一方で、ジカルボン酸は赤血球細胞の沈殿を補助するのに効果的な任意の酸である場合がある。例えば、前記酸はシュウ酸または酒石酸である。酒石酸のジアルカリ金属塩は該細胞に球状の形状を付与する傾向があるので、使用されることが多い。
【0022】
前記弱塩基は、任意の一般的な弱塩基であってもよく、例えば、アンモニア、一塩基性もしくは二塩基性のアルカリ金属のリン酸塩または炭酸水素塩である。例えば、前記弱塩基は、炭酸水素ナトリウムである。
【0023】
前記ジカルボン酸塩と前記弱塩基とは、約6.0〜約8.5、最も好ましくは約6.5〜約7.5のpH範囲を沈殿溶液に付与するのに十分な濃度であるべきである。前記沈殿工程がpHに逆依存すること、つまり、pHが低くなればなるほど沈殿速度が大きくなることが発見されている。
【0024】
種々の遠心分離法もまた効果的であり、非ヒト脊椎動物の全血試料から赤血球細胞を沈殿させるための便利な手段である。いくつかの遠心分離器および確立されたプロトコルが、この特定の目的のために市販されている。
【0025】
上記した沈殿溶液の成分のタイプおよび濃度について多数のバリエーションが可能であることは当業者に自明であり、唯一の制限は、不要な赤血球細胞結合および溶血を防止することであることが理解されるべきである。
【0026】
IV.収縮工程
沈殿工程において沈殿した赤血球細胞を取り出し、それらを一連の高浸透圧塩水溶液中に懸濁することにより収縮させる。高浸透圧溶液の中で、もしくは溶質濃度が細胞中の溶質濃度を上回る溶液の中で細胞が収縮する原理は単純であるので、不要な溶血や細胞結合を引き起こさない限り、任意の塩が本発明のこの工程における溶質として働くことが想定される。不要な細胞結合を防止するのに役立つので、分散効果を有する試薬の添加が望ましい。適切な分散剤は、ナフトール-ジスルホン酸のジアルカリ金属塩と低分子量(42,000未満)のデキストランである。また、本発明の組成物が電気的血小板計数装置に使用される場合の塩の選択については一定の潜在的限定があることも当業者は理解し、かつ、液体懸濁物の相対的伝導性/抵抗および任意の起こりうる有害な電解効果について配慮するであろう。
【0027】
収縮工程に特に適したクラスの塩は、分散剤と収縮剤としての二重の役割をもつために、ナフトール-ジスルホン酸のジアルカリ金属塩、例えば、2-ナフトール-6,8ジスルホン酸のジカリウム塩および2-ナフトール-3,6ジスルホン酸のジナトリウム塩である。
【0028】
沈殿した赤血球細胞(例えば、ヤギ赤血球細胞)を、連続的に濃度を増加させた塩の水溶液中に連続的に懸濁することにより、所望のサイズ範囲が達成されるまで収縮させる。ヒト血液細胞の血小板は、直径約1.8〜約3.6ミクロンの範囲にあり、その体積は約5〜約25立方ミクロンであり、これが望ましいサイズ範囲である。ヒトにおける正常な血小板計数は、1立方ミリメートル当たり約200,000〜約400,000であり、一方、低い計数とは1立方ミリメートル当たり75,000程度の少なさである。したがって、望ましい細胞集団または密度は、1立方ミリメートル当たり細胞約75,000〜約400,000個である。高浸透圧を維持しかつ細胞のいかなる膨張も防止するように、全ての時点において塩溶液の濃度を直前の溶液の濃度以上に維持することが重要である。
【0029】
高浸透圧溶液の塩の有効最終濃度は、1リットル当たり約650〜約700ミリ当量の範囲内、好ましくは1リットル当たり約680でなければならない。これは、任意の数の漸増濃度を追加することによっても達成され得るが、添加期間が現実的であることおよび析出しないように溶液中で塩を維持することのみが制限される。後者の問題に関しては、ナフトールジスルホン酸のジカリウム塩とジナトリウム塩とを等量で使用することが、特に有用であることが分かった。
【0030】
本発明の好ましい態様では、連続的に濃度を大きくした3種類の高浸透圧水溶液中に細胞を連続的に懸濁し、ここで第1の溶液は濃度が1リットル当たり約100〜約300ミリ当量の範囲、好ましくは1リットル当たり200ミリ当量であり、第2の溶液は第1の溶液の濃度を二倍にしたものであり、第3の溶液は第2の溶液の濃度を二倍にしたものである。毎回、残存している直前の懸濁物に三倍体積の高浸透圧溶液を加えることにより、有効最終濃度が好ましい範囲内になる。各懸濁の後、細胞が沈殿し、その上清は廃棄される。各懸濁後に遠心分離することにより、収縮過程を大幅に促進できる。遠心分離に適した範囲の速度および時間は、各工程について、1,000〜3,000回・gで約10〜20分間、好ましくは15分間である。細胞が所望のサイズまで収縮したら、任意の固定工程用の調製においてまたは変性工程用の直接の調製において、それらを最後の収縮溶液と同一濃度の新鮮な溶液中に再懸濁することができる。
【0031】
ヒト血小板のサイズ範囲にするためのヤギ赤血球の調製方法は、当該技術分野において公知である。これらの方法には、上記と同様の固定剤を使用した細胞膜の固定と組み合わせた、上記で示された浸透圧による赤血球からの制御量の細胞液の抽出が含まれる。同様に追加的な処理および処理剤が使用される場合もあり、それらは例えば、抗凝血剤および安定剤、ならびに一部の場合には細胞液の抽出後に細胞をアニールするための熱の印加を含む。これらの処理の全ては、組み合わされてもいかなる順序であったとしても、本発明を構成する処理工程用の赤血球を調製する。本発明に係る処理前の赤血球のサイズ範囲は、該赤血球が本物の血小板というよりはむしろ血小板類似体であるという事実に関わらず、本明細書中では用語「血小板体積平均値」で表現され、ばらつきがあってもよい。ほとんどの場合、約5フェムトリットル〜約15フェムトリットル、好ましくは約5フェムトリットル〜約10フェムトリットル、そして最も好ましくは約7フェムトリットル〜約9フェムトリットルのサイズ範囲により、最良の結果が達成される。
【0032】
任意で、赤血球細胞の収縮に続いて、追加的な短期間の加熱工程を実行してもよい。具体的には、比較的短い期間(例えば、0.5〜5時間の間のいずれか、例えば3時間)にわたり、室温から穏やかに上昇させた温度(例えば、40℃)の環境中に、収縮させた細胞を配置する。この工程は、細胞膜の再アニール目的に役立つ。
【0033】
V.変性工程
本発明によれば、その光学特性をさらに改善して測定の際に光学チャネルに対してより良く「適合」させるために、前処理された赤血球細胞(すなわち、収縮され任意で短期間、例えば3時間にわたり40℃で加熱された、赤血球細胞)を、次に、長期間加熱することにより変性させる。
【0034】
本発明の実施における変性工程は、変性剤(例えば、α-ナフトール)の存在下または非存在下のいずれかにおいて、サイズが縮小した赤血球を、変性効果を達成するのに十分な期間にわたり十分な温度まで加熱することを含む。この熱処理は、細胞の損傷や細胞の凝固を伴うことなくこの効果を達成するのに十分な程度および期間である。前記温度は、細胞がその温度で保持される時間の長さに伴って変化する場合がある。ほとんどの場合、処理時間の点で最も効果的な結果は、約50℃以上、好ましくは約50℃〜約75℃、最も好ましくは約50℃〜約60℃の温度に加熱することにより得られる。加熱処理に十分な期間とは、温度、ならびに細胞が処理される変性剤の存在および濃度を含む要素に応じて変動してもよい。例えば、より高い温度またはより高い濃度の変性剤、例えばα-ナフトールが用いられる場合、より短い期間の加熱が適用されたとしても、同一の変性効果が実現可能である。この適用に用いるような所望の変性効果を達成できるかまたは加熱の変性効果を増強できる任意の化学薬品(chemical)を、変性剤として使用することができる。いくつかの例示的な態様では、本発明に有用な変性剤は、以下に提供されるナフトールまたは式(I)もしくは(II)を有するナフトール誘導体である。
【0035】
後述の項において実施例に記載されるように、望ましいサイズまで既に収縮させた(およびその後に短期間の穏やかな加熱により好ましくは処理された)、前処理された赤血球細胞(再アニール膜とも称される)を、次に、細胞性タンパク質を変性させるのに十分な期間、高温で加熱して、該細胞の光学特性を改善する、特に、自動化血液学的装置におけるフラグシグナル、例えばAbbott Cell-Dyn 4000血液学装置におけるPIC-POCフラグ(インピーダンスシステム計数(PIC)と光学システム計数(POC)との間に20%超の不一致があることを示す)を減少または排除するように、光学的測定と電気インピーダンスとによるサイズ範囲/分布の読み取り値の間での高レベルの一貫性を実現する。前記高温とは通常、50〜75℃の間、例えば、56℃である。前記加熱期間は通常、少なくとも24時間であり、少なくとも48、72、96、120、168、336、または504時間であってもよい。加熱は、さらに長い期間で実施可能である場合もある。加熱工程は、水浴等の一定温度の環境中で実行する。
【0036】
一部の場合には、非ヒト赤血球細胞を改変するこの処理を、変性剤の存在下で実施して、加熱効果をさらに増強するかまたはより短い加熱期間で同一の変性効果を達成することができる。例えば、α-ナフトールおよびβ-ナフトールを含むナフトールが変性剤として機能し得る。他のナフトール誘導体も、この処理における変性剤として有用である。これらのナフトール誘導体は、式(I)または(II)を有する:

式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、およびR7は、それぞれ独立に、-H、アルキル、アリール、アルコキシ、-OH、-NH2、アルキル-NH-、アリール-NH-、ハロゲン、スルホ、-C(O)H、アルキル-C(O)-、アルキル-SO2NH-、アリール-SO2NH-、-NO2、-NO、-COOH、-COO-アルキル、-CN、または-C(O)NH-アルキルから選択される。式(I)のα-ナフトール誘導体のいくつかの態様においては、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立に、アルキル、アリール、-OH、-NH2、アルキルNH-、ハロゲン、スルホ、-C(O)H、アルキル-C(O)-、-NO2、-NO、-COOH、または-COO-アルキルから選択される。ある例では、R4、R5、R6、およびR7は、それぞれ独立して、-H、-OH、-NH2、スルホ、ハロゲン、-CN、-COOH、または-COO-アルキルである。式(I)のα-ナフトール誘導体の他の態様においては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、およびR7は、それぞれ独立して、-OH、-NH2、-Ph、-SO3H、-Br、-Cl、-F、-C(O)H、-C(O)CH3、-NO2、-NO、-COOH、-C(O)OCH3R1、-SO2NH-アルキル、-OCH3、-CN、-C(O)NH-アルキル、-C(O)NH-アリール、アルキル-NH-、またはアリール-NH-から選択される。ある例では、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立して、-OH、-NH2、-Ph、-SO3H、-Br、-Cl、-F、-C(O)H、-C(O)CH3、-NO2、-NO、-COOH、または-C(O)OCH3から選択される。一事例においては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、およびR7が、-Fである。
【0037】
本発明において使用可能な市販のα-ナフトール誘導体の例は、4-クロロ-l-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、l-メトキシ-4-ニトロナフタレン、4-フルオロスルホニル-l-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1,3-ジヒドロキシナフタレン、4-メトキシ-l-ナフトニトリル、2-ニトロ-l-ナフトール、4-メトキシ-l-ナフトール、2-アセチル-l-ナフトール、9-フェナントロール、l-ナフトール-3,6-ジスルホン酸二ナトリウム塩水和物、α-ヒドロキシ-ヘプタフルオロナフタレン、5-アミノ-1-ナフトール、N-(2-アセトアミドフェネチル)-l-ヒドロキシ-2-ナフトアミド、8-アミノ-l-ナフトール-3,6-ジスルホン酸もしくはそのモノナトリウム塩一水和物、8-アミノ-l-ナフトール-5-スルホン酸、クロモトロプ酸もしくはその塩、2,4-ジクロロ-1-ナフトール、l-ナフトール-2-スルホン酸もしくはそのカリウム塩、l-ナフトール-4-スルホン酸もしくはその塩、1,7-ジヒドロキシナフタレン、4-アミノスルホニル-l-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-1-ナフタレンスルホンアミド、6-アミノ-1-ナフトール、2-(2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル)-l-ナフトール、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルエステル、1,6-ジヒドロキシナフタレン、4-ヒドロキシ-l-ナフトアルデヒド、7-アニリノ-l-ナフトール-3-スルホン酸、6-アミノ-l-ナフトール-3-スルホン酸、4-ニトロ-l-ナフトール、4-ヒドロキシ-6,7-ジ(メトキシカルボニル)-1-ナフトール、2,4,6,8-テトラニトロ-5-ヒドロキシ-1-ナフトール、4,6-ジニトロソ-5-ヒドロキシ-1-ナフトール、4,6-ジアミノ-5-ヒドロキシ-1-ナフトール、2,2'-ビナフチル-1,1'-ジオール、2,3-ジ(メトキシカルボニル)-l-ナフトール、2-アセチル-3-ブチル1-ナフトール、3-フェニル-1-ナフトール、l-ナフトール-8-スルホン酸もしくはその塩、3-クロロ-l,4-ジヒドロキシナフタレン、l-アミノ-5-ナフトール-7-スルホン酸、2-フルオロ-l-ナフトール、3,5-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1-ナフトール-3-スルホン酸もしくはその塩、2,4-ジブロモ-l-ナフトール、6-アミノ-1-ナフトール、塩酸2-アミノ-l-ナフトール、2,3-ジシアノ-1,4-ジヒドロキシ-5-ニトロナフタレン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1-ヒドロキシ-2-ナフトアルデヒド、4-フェニルスルホンアミド-l-ナフトール、2-(4-フェニルスルホニル)-4-(4-クロロフェニルスルホンアミド)1-ナフトール、および4-アセトアミド-1-ナフトールを含むが、これらには限定されない。
【0038】
変性剤の濃度は、加熱工程中に用いられる期間および温度ならびに、前記剤の性質に応じて変動しうる。典型的には、濃度は、約100g/L〜約500g/Lの範囲にある。
【0039】
代替的に、収縮した赤血球細胞を、加熱なしに(例えば、室温で)十分な期間(例えば、少なくとも2時間)、変性剤(例えば、α-ナフトール)を用いて処理してもよい。変性剤が除去された後、細胞を次に、上記のような、例えば50〜75℃の間、例えば56℃の高温で、少なくとも24時間にわたり、場合によっては少なくとも48、72、96、120、168、336、もしくは504時間の期間にわたり、またはより長い期間にわたり、加熱処理に供する。この処理スキームでは、変性剤の濃度は同じく、約100g/L〜約500g/Lの範囲にある。
【0040】
VI.固定工程
収縮し且つ変性/加熱された赤血球細胞の固定は、本発明においては任意の工程である。言い換えると、本発明によれば、上記した処理により処理された赤血球細胞は、固定剤による固定工程なしに、血液学的装置中で、血小板類似体として直接使用可能である。任意で、収縮工程および変性/加熱工程の後に得られた赤血球細胞を、グルタルアルデヒド等の固定剤を用いてさらに処理して、細胞膜を強化しかつその生分解を防止する。このように、この効果を達成可能な任意の化学薬品が、本方法用の固定剤として使用可能である。例えば、前処理された赤血球細胞の固定は、細胞の懸濁物と、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒド等の有機アルデヒド溶液とを接触させることにより達成される。添加される該アルデヒドの濃度は、その最終濃度が約0.5重量%〜約1.0重量%の範囲内、好ましくは約0.6重量%である限り、約5重量%〜約50重量%のいずれであってもよい。沈殿溶液および収縮溶液の場合と同じように、適切な固定剤(例えば、アルデヒド)とその濃度との選択に関する唯一の実施上の限定は、不要な細胞結合および溶血ならびに潜在的な望ましくない電解効果を排除することである。
【0041】
一態様では、濃度50重量%未満のグルタルアルデヒドを速やかに撹拌しながら、細胞の高浸透圧懸濁物中にゆっくりと滴下する。固定液の添加により高浸透圧懸濁物が希釈されるので、十分量の高浸透圧収縮溶液を加えてその濃度を同レベルに維持しかつよって、収縮された細胞のサイズを維持する必要がある。
【0042】
固定細胞をその後、沈降させ、分離し、緩衝溶液を用いて洗浄し、保存溶液中に置く。
【0043】
収縮された細胞を回収する前の任意工程として、安定化された細胞集団の最も堅固な細胞しか含まない高品質製品を保証するために、細胞懸濁物を、超音波撹拌等の任意の適切な手段による激しい撹拌に供してもよい。この工程は、より脆弱な膜をもつ細胞を破壊する傾向があり、したがって、血小板計数用の参照対照として使用するためのより堅固な細胞が残る。
【0044】
緩衝洗浄液は、中性〜アルカリ性であるべきであり、好ましくは、約7.0〜約10.0のpH範囲である。任意の緩衝溶液が使用可能であるが、上記した溶血、細胞結合、および電解効果の問題を考慮に入れ、一連の好ましい緩衝試薬としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および塩化ナトリウムが挙げられる。収縮させた細胞は、透明な上清を得るのに必要な回数、好ましくは少なくとも3回、緩衝溶液を用いて洗浄するべきである。
【0045】
細胞が懸濁される保存溶液は、単なる水を含む実質的に任意の液体であってもよく、これは、溶血、細胞結合、または生分解を引き起こす等の、固定細胞への有害効果を有しない。好ましい保存溶液は基本的に、洗浄工程に用いるのと同一の緩衝溶液に、汚染を防止するための殺菌剤または静菌剤と分散剤とを添加したものである。前記殺菌剤または静菌剤は、細菌の増殖を減少または阻止するのに十分な濃度で加えられる任意の既知の剤であってもよい。安価且つ好ましい殺菌/静菌剤は、ゲンタマイシンおよび/またはProclin 150である。別のものには、テトラサイクリンの塩酸塩がある。それぞれは、1リットルあたり約0.1グラムの濃度で添加可能である。前記分散剤は、ナフトール-スルホン酸のジアルカリ金属塩の一種または低分子量デキストランであってもよい。好ましい分散剤は、1リットルあたり約30グラムの濃度で添加される、分子量約20,000〜約41,000、好ましくは約40,000のデキストランである。2-ナフトール6,8-ジスルホン酸のジカリウム塩等の、ナフトール-スルホン酸のジアルカリ金属塩が使用される場合、好ましい濃度は約0.02〜約0.05、好ましくは約0.04モルである。
【0046】
血小板の参照対照が電気的血小板計数装置に関連して使用される場合、電気伝導性を促進するために、保存溶液中に電解質を含めることが好ましい。しかしながら、そのような用途における前記溶液のpHは、実質的に中性からアルカリ性でなければならず、電解質を兼ねることが可能な緩衝系を有利に用いて前記溶液のpHを維持する。
【0047】
細胞集団または密度は、任意の公知の希釈技術または濃縮技術により調節可能である。例えば、製品が1立方ミリメートル当たり300,000個の細胞の密度を示し、望ましい密度が約75,000である場合、望ましい密度を得るために体積3の希釈液を加えることにより液体懸濁物を希釈する必要がある。
【0048】
高純度の製品を保証するために上記工程のすべてを実施する際には、工業等級ではなく試薬等級の化学薬品を使用することが好ましい。その天然の傾向ではあるが、細胞がガラス製品に付着することに対して防止策をとることも好ましい。これを達成する標準的な方策は、使用される全てのガラス製品をテトラメチルシランのベンゼン溶液で被覆して、コーティングガラス製品を15〜30分間100℃(乾燥空気)に供することにより、「シリコン化」することである。
【0049】
IV.製剤化工程
収縮工程、変性/加熱工程、および任意の固定工程後、任意の様々な液体、例えば低浸透圧液、等浸透圧液、または高浸透圧液の中に、赤血球細胞を懸濁することができる。最終的な血液対照製品に対して最も高い相容性を有するので、等浸透圧水溶液、つまり、細胞膜を介して浸透圧差を形成しないものが好ましい。先行技術の標準的細胞懸濁物中で果たされるのと同じ目的に関して、従来の添加物を添加してもよい。例えば、プロピレングリコールを添加して、任意で細胞質を取り除き、細胞間結合を減少させることができる。
【0050】
本発明のある態様では、本発明に係る加熱工程および固定工程に先行して、細胞をプレコンディショニングする。プレコンディショニングは、好ましくは等浸透圧希釈液、生理食塩水希釈液、または水で希釈した形態で、場合によってはこれらの媒体のいずれか中に溶解したプロピレングリコールで希釈した形態で、少なくとも1時間、上記温度範囲未満の温度まで穏やかに加熱することにより達成される。プレコンディショニングのための好ましい温度範囲は約30℃〜約40℃であり、プレコンディショニング時間は約2時間〜約4時間である。プレコンディショニングは、光学的方法と電気的方法との間の血小板計数の一致を改善する傾向がある。
【0051】
光学的方法と電気的方法との間の血小板計数の一致についてのさらに別の改善は、上述した種々の処理工程に加えて、ヒト赤血球細胞の懸濁物中で細胞をインキュベートすることによっても実現される。このインキュベーションは好ましくは、室温で少なくとも1日間の期間にわたり、より好ましくは少なくとも5日間にわたり、最も好ましくは少なくとも10日間にわたり実施する。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は、限定のためではなく説明のためだけに提供される。当業者であれば、本質的に同一または類似の結果をもたらすように変更または改変されうる重大でない各種パラメータを、容易に認識できる。
【0053】
実施例1 前処理した赤血球細胞の加熱
新鮮血(図1)と比較して、現行の再アニール膜を用いるAbbott CD4000およびSapphire装置(以後「Hem-Au」)用の実験的血液対照製剤は、優れた血小板インピーダンス計数精度を有するが、光学計数精度に劣る(図2)。インピーダンス計数平均値は、光学計数と比較すると一般的に高く、これによりPIC/POCフラグが高頻度で生じ;このフラグは、インピーダンス計数(PIC)平均値が血小板光学計数(POC)と実質的に異なる場合に設定される。使用されている現行の再アニール膜は、CD4000およびSapphire血液学装置の光学チャネルには、正しく適合しない。過去の研究および係属中の特許出願(図3:米国特許出願公開第2006/0223187号)において、完成した再アニール膜をグルタルアルデヒドおよび56℃24時間の加熱で処理することにより、再アニール膜を、CD4000上の光学血小板チャネルによりよく「適合」させることが示されている。この特許出願係属中の処理は、優れた血小板インピーダンス計数(PIC)精度と優れた血小板光学計数(POC)精度とを有する血小板類似体を可能にする。しかしながら、Abbott CD4000装置では、複数のPIC/POC患者フラグが付与され、血小板類似体が新鮮血とは同等に評価されないことが示されている。また、血小板類似体と結合する遊離アルデヒド基は、CD4000のWBCチャネル上の蛍光と干渉する。本実施例では、長期間の変性加熱のみによって、最終的な再アニール膜の形状が変更されかつしたがって、光学血小板チャネルにより良く「適合」するのが補助されることを、実証する。血小板がより良く適合すればするほど、PIC/POCフラグの発生頻度は少なくなる。
【0054】
材料:
・再アニール膜;
・血液対照を製剤化するのに使用される相容性媒体中の処理されたヒト赤血球細胞;
・有機緩衝液を含むカエルリンゲル液としての低浸透圧生理食塩水(すなわち、改変リンゲル液またはM-リンゲル液);
・血液対照の製剤中で希釈液として使用される懸濁媒体;
・1mLの滅菌ピペット;
・15mlの遠心管;
・2.5mlのバイアルおよびキャップ;
・Abbott CD1700、CD3500、およびCD4000血液学解析装置;
・水浴。
【0055】
方法:
1.再アニール膜の加熱(4日間、56℃)
a.10mlの再アニール膜を、1×15mlの遠心管に注いだ。
b.遠心管を56℃の水浴に配置する。
2.加熱した再アニール膜の洗浄
a.加熱した再アニール膜を取り出す。
b.遠心管を15分間フルスピード(3600rpm)で遠心分離する。
c.上清を吸引して捨てる。
d.遠心管を、14mlの印までリンゲル液で満たす。
e.工程2.b.〜2.dまでをさらに3回繰り返す。
f.大体の計数が25.9×106になるように、M-リンゲル液中に再懸濁する。
3.試料の製剤化
a.処理されたヒト赤血球細胞を、正常計数であるおよそ4.50×106まで濃縮する。
b.前記ヒト赤血球細胞を使用して、低血小板試料、正常血小板試料、および高血小板試料を製造する。
c.CD4000上で、その3種類のレベル全てに関して精度試験を実行する。
d.CD1700およびCD3500上でさらなる試料を実行する。
e.前記試料を、2〜8℃で保存する。
【0056】
4.結果
・加熱した再アニール膜は、CD4000上で光学血小板チャネルに完璧に適合した。処理されたヒト赤血球細胞に、低血小板濃度および正常血小板濃度でそれらを加えた場合、PIC/POCフラグはなかった。
・PLToおよびPLTiの3種類のレベルの全てにおけるCV%は、Cell-Dyn 4000の精度限界の範囲内であった。
・試料がCD4000上で実行された場合、血小板、白血球細胞、または赤血球細胞のフラグはなかった。Abbott CD1700およびCD3500のような他のインピーダンス計数装置においても試料は機能した。
【0057】
実施例2 加熱前ヤギ赤血球細胞に対するナフトールの効果
目的:
Abbott CD4000装置におけるPIC/POCフラグを排除するために血液細胞を処理するのに使用されるα-ナフトール量が、α-ナフトール処理細胞を56℃で加熱するのに要する時間量と逆相関するかどうかを決定すること。
【0058】
機器:
・Abbott CD4000血液学解析装置、S/N 30380AA
・VWR水浴、モデル89032-218、S/N WL0713029
・VWR遠心分離器、Clinical 50、S/N F703069、2007-10-15に較正
【0059】
材料:
・ヤギ赤血球細胞;
・ナフトール溶液調製用の脱イオン水;
・血液対照を製剤化するのに使用される赤血球細胞懸濁媒体中の、処理されたヒト赤血球細胞;
・試薬級グルタルアルデヒド(Gluteraldehyde)-pH 7.00;
・有機緩衝液を含むカエルリンゲル液;
・0.9% NaCl(等浸透圧生理食塩水);
・血液対照の製剤中で希釈液として使用される懸濁媒体;
・125mLのガラス瓶およびキャップ;
・1mLの滅菌ピペット;
・15mLの遠心管;
・2.5mLのバイアルおよびキャップ。
【0060】
手順:
再アニール膜
1)低浸透圧環境中に、ヤギ赤血球細胞を穏やかに溶解する。
2)約40℃で約3時間、膜をアニールする。
3)100、200、300、400、または500g/リットルのα-ナフトール中に、2時間懸濁する。
4)0.3%グルタルアルデヒドによる安定化を実施する。
5)等浸透圧の平衡化生理食塩水溶液中で洗浄する。
【0061】
再アニール膜の加熱
1)各75mlの再アニール膜[1-シリーズ(100g/L)、2-シリーズ(200g/L-ストック)、3-シリーズ(300g/L)、4-シリーズ(400g/L)、および5-シリーズ(500g/L)]を、滅菌した125mlのガラス瓶に注ぎ、56℃の水浴中に置いた。
2)30分後に瓶を混ぜて、血小板を再懸濁して熱を均一に分散させる。
3)試料を取り出す(表1を参照されたい)。
【0062】
【表1】

【0063】
24時間〜504時間加熱した再アニール膜の洗浄
1)2mLの試料を15mLの管に加える。
2)遠心管を、14.5mLまでM-リンゲル液で満たし、再懸濁する。
3)遠心管を15分間3600rpmで遠心分離する。
4)上清を吸引して捨てる。
5)さらに3回洗浄を繰り返す。
6)遠心管を懸濁媒体で満たし、粒子を再懸濁する。
7)遠心管を10分間3600rpmで遠心分離する。
8)さらに2回洗浄して、計数を20〜30×106に調節する。
【0064】
試料の製剤化
1)加熱/洗浄した血小板をヒトRBC成分に加え、ほぼ正常血小板計数(およそ250×103)とする。
2)CD4000上で実行する。
【0065】
結果:
・CD4000上で実行した場合にPIC/POCフラグを再び生じない血小板類似体を製造するためには、α-ナフトール濃度を増加させることが必要である。
・Cell-Dyn 4000が光学的におよびインピーダンス方法により血小板を同等に計数することができるように、α-ナフトールの濃度変化により血小板類似体の光学特性が変化する。
・使用されるα-ナフトール濃度が高ければ高いほど、MPVはより小さくなる。
・血小板類似体が長く加熱されればされるほど、MPVはより小さくなる。血小板のゲイン設定が正しく較正されていない場合、装置によっては小型の血小板類似体を正確に計数するのが困難なことがあるので、必要以上に長く血小板類似体を加熱しないことがより有益である。
・使用されるα-ナフトール濃度と加熱(56℃)に必要な時間との間には相関がある。
・56℃での長期の加熱と組み合わせて使用する場合にα-ナフトール濃度を増加させることにより、インピーダンスおよび光学的な血小板計数のCV%が向上する。またこれにより、PIC/POCフラグの発生頻度も低下する。
【0066】
考察:
・標準的な既製の血小板類似体(図2)は、新規技術の装置(CD4000およびCD Sapphire)の光学計数システムにおいて、完全には計数されていない。このことにより、より信頼性の高いインピーダンス計数方法と比較すると、高い不正確性が生じている。化学薬品であるl-ナフトール-3,6-ジスルホン酸(以下、α-ナフトールと示す)が、血小板類似体の調製において使用されており、かつ原料の水分含有量に応じて、使用する濃度はロット間で変わる場合がある。構成成分の製造では、血小板類似体のバッチの産生前に受領した原料の新規ロット各々の伝導性を確認する。CD4000が光学モードとインピーダンスモードとのどちらにおいても全ての粒子を正確に計数できない場合、システムフラグが生じ;これはPIC/POCフラグと命名されている。該2つの計数モード間のデルタ差が20%より大きい時に、このフラグは生じる。
・最終的な類似体の電気的および光学的検出特性に基づいたサイズおよび形状の決定の際にα-ナフトールは役立つ。α-ナフトール濃度を(210g/Lから360g/Lへ)増加させることにより、56℃で2日間の加熱後に、CD4000が光学(PLTo)モードおよびインピーダンス(PLTi)モードの両者において全粒子を正確に計数できるように血小板類似体の物理特性を改善できることを、実験は示している(図4および図5)。
・α-ナフトール濃度を(210g/Lから500g/Lへ)増加させることにより、CD4000が光学(PLTo)モードおよびインピーダンス(PLTi)モードの両者において全粒子を正確に計数できるように、56℃で3日間の加熱後に、血小板類似体の光学特性が改善されたことを、実験は示した(図5)。この実験はまた、CD4000上で血小板類似体を適正に機能させるために、56℃におけるα-ナフトール濃度と必要な時間との間に相関があり得ることも示した。
・血小板類似体を56℃にて加熱するのが長ければ長いほど、MPVがより小さくなったことを、実験は示した。初期MPVに応じて、血小板類似体を加熱することのできる最大時間量がある可能性がある。MPVが5〜12fLの規格範囲内にある限り、PIC/POCフラグがCD4000上で発生しなくなるまで血小板類似体を加熱することができる。
・使用されたα-ナフトール濃度が高ければ高いほど、前記血小板の光学特性がより良くなったことを、この実験は示した。加熱時間が増加するにつれて、PIC/POCフラグの数は、α-ナフトール濃度の増加と共に減少した。したがって、加熱はα-ナフトール濃度に逆相関する。
・CD4000上で実行した場合にPIC/POCフラグを生じない血小板類似体を製造するために、より高い濃度のα-ナフトール(例えば、最小400g/L)が望ましい可能性がある。使用される濃度はα-ナフトールの原料の品質に基づいて変化する場合があることに注目するべきである。原料α-ナフトールの新規ロットを受領したら、使用濃度を最適化するためにα-ナフトール濃度の調整を実施する必要がある。450g/Lのα-ナフトールを用いて調製され56℃で3日間加熱された血小板類似体の確認バッチを、図6で実証する。
・正常な計数である220×103〜270×103にてCD4000上で実行した場合にPIC/POCフラグが発生しなくなるまで、56℃で血小板類似体を加熱する。
【0067】
公開されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列を含む、本出願中で引用された全ての特許、特許出願、および他の刊行物は、全目的に関してその全文が参照により組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動化血液細胞解析装置において参照対照として使用するためのヒト血小板類似体の製造方法であって、
(a)非ヒト脊椎動物の赤血球細胞から細胞液を抽出することにより、該赤血球細胞をヒト血小板のサイズへと収縮させる工程と、
(b)少なくとも1日の期間にわたり少なくとも50℃の温度で、工程(a)からの細胞を加熱する工程と
を含む方法。
【請求項2】
工程(a)が、前記細胞の収縮後に約0.5〜約5時間にわたり約40℃の温度で該細胞を加熱することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、前記細胞の収縮後に約3時間にわたり約40℃の温度で該細胞を加熱することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(b)が変性剤の存在下で実行される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が、少なくとも2時間にわたり工程(a)からの細胞を変性剤で処理すること、およびその後、加熱の前に該細胞から該変性剤を除去することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程(b)からの細胞を固定剤で固定する工程(c)をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記固定剤がグルタルアルデヒドである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記赤血球細胞がヤギ赤血球細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程(b)における加熱が約50℃〜約75℃で実行される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程(b)における加熱が約56℃で実行される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記期間が少なくとも2日間である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記期間が少なくとも3日間である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記期間が少なくとも4日間である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記期間が少なくとも7日間である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記期間が少なくとも14日間である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記期間が約21日間である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記変性剤がα-ナフトールである、請求項4記載の方法。
【請求項18】
前記変性剤がα-ナフトールである、請求項5記載の方法。
【請求項19】
α-ナフトール濃度が100g/L〜500g/Lである、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
α-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lである、請求項17または18記載の方法。
【請求項21】
α-ナフトール濃度が少なくとも500g/Lである、請求項17または18記載の方法。
【請求項22】
前記期間が少なくとも7日間でありかつα-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lである、請求項17記載の方法。
【請求項23】
前記期間が少なくとも14日間でありかつα-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lである、請求項17記載の方法。
【請求項24】
前記期間が少なくとも21日間でありかつα-ナフトール濃度が少なくとも400g/Lである、請求項17記載の方法。
【請求項25】
前記期間が約21日間でありかつα-ナフトール濃度が約500g/Lである、請求項17記載の方法。
【請求項26】
請求項1記載の方法により調製される、自動化血液細胞解析装置における参照対照としての使用のための、改変赤血球細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−515333(P2012−515333A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545494(P2011−545494)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/020654
【国際公開番号】WO2010/083130
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(507190880)バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレーティッド (25)
【Fターム(参考)】