説明

正常細胞の保護

本発明は、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を含む組成物であって、太陽光線、酸化ダメージ、環境要因、疾病及び微生物によって引き起こされるダメージから正常細胞を保護する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2002年11月26日に提出した米国仮特許出願第60/429,269号の優先権を主張している2003年11月26日に提出した米国特許出願第10/723,809号(現在は米国特許第7,129,374号)の分割出願である2006年8月29日に提出した米国特許出願第11/512,616号(現在は許可された)の一部継続出願である2008年5月5日に提出した米国特許出願第12/115,331号にの優先権を主張する。これらの全体がここで言及することによって組み込まれている。
【0002】
本発明は、生化学、薬理学及び医学の分野に関する。より詳細には、本発明は、細胞及び組織に対する酸化ダメージを軽減することによって、健康を促進し、寿命を延ばすための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
酸素は、広範囲の正常な代謝反応に関与しており、ヒトを含むすべての好気性生物の生存に不可欠である。超酸化物などの活性酸素種(ROS)は、呼吸酸素系に入った酸素の不完全な還元の副産物として多量に生じる。超酸化物は、過酸化水素、次亜塩素酸塩イオン及びヒドロキシラジカルを含む他の有害な酸素種の前駆物質である。食細胞などの細胞中のオキシダーゼ酵素及び一酸化窒素合成酵素は、ROSの別の源である。
【0004】
正常な生理的条件下においても低濃度のROSは存在するが、過剰なROSは、核酸、脂質及びタンパクなどの細胞内高分子を例えば酸化することによって、細胞及び組織に酸化ダメージを与えることがある。この態様における細胞への累積的なダメージによって結果的に病状が生じ得る。驚くべきことではないが、その後、酸化ダメージは、喫煙者の肺気腫といった慢性閉塞性肺障害、再潅流ダメージ、アルツハイマー病や、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった神経変性疾患、心臓発作、卒中、いくつかの自己免疫性疾患及び老化を含む様々な疾病及び症状に関与している。
【0005】
後者に関して、細胞内高分子に対する酸化ダメージは、老化作用を加速し、寿命を短くするとされている。例えば、動物中のタンパク中の酸化されたメチオニンのレベルは、その動物の加齢とともに増加することがわかっている。さらに、ショウジョウバエにおいて、超過酸化物不均化酵素及びカタラーゼの過剰発現によるROSに対するより高い抵抗性は、より長い寿命に関係しているが、超過酸化物不均化酵素及びカタラーゼの遺伝子破壊がより短い寿命に関係している。
【0006】
細胞は、ROSを中和するための自前の酵素的抗酸化システム(例えば超過酸化物不均化酵素、カタラーゼ及びペルオキシダーゼ)を発達させてきたが、そのようなシステムは、老化速度及び疾病の進行を最小化するような理想的レベルでは機能できていない。したがって、細胞に対する酸化ダメージを予防又は低減する天然に存在しない組成物及び方法が明らかに必要である。細胞の抗酸化活性を増大させる1つのアプローチは、ROSを直接的に除去する化合物(例えばビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、グルタチオン、ユビキノン、尿酸、カロチノイドなど)を細胞に提供することである。しかしながら、そのような従来の抗酸化化合物は、わずか1分子又は2分子のROSのみを中和した後に失活する。従って、それらの抗酸化化合物が破壊できるROSの量は比較的少量に限定されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、紫外部光線などの環境要因によるダメージ、又は、酸化ダメージなどのインビボ及び細胞内因子によるダメージに対する正常細胞の保護に関する。正常細胞の保護用組成物は、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー及びこれらの混合物を含む。
【0008】
好ましい実施形態において、対象におけるダメージから正常細胞を保護する方法は、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を含む組成物を提供するステップであって、前述したスリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物が少なくとも約0.010重量対重量%の濃度を有するステップと;少なくとも1つの生細胞を治療的有効量の前記スリンダクに接触させるステップと;及び、対象において正常細胞をダメージから保護するステップとを具える。
【0009】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物は、約0.001質量対質量%から100質量対質量%の濃度範囲内である。
【0010】
別の好ましい一実施形態においては、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を含む組成物を、全身的に、腹膜内に、静脈内に、皮下に、筋肉内に、及び、局所的に投与する。
【0011】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダク、スリンダク、その誘導体、その代謝産物及びその構造的類似化合物を含む。
【0012】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、R−エピマースリンダク、その誘導体、その代謝産物及びその構造的類似化合物を含む。
【0013】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、S−エピマースリンダク、その誘導体、その代謝産物及びその構造的類似化合物を含む。
【0014】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物の1つ以上を含む。
【0015】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を可変量で含む。
【0016】
別の好ましい一実施形態においては、スリンダクの比率:R−エピマースリンダク:S−エピマースリンダクがおよそ0〜1000である。
【0017】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、環境ダメージ、病状、微生物又は太陽光線を含むダメージから正常細胞を保護する。
【0018】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、酸化ダメージから正常細胞を保護する。
【0019】
定義
本発明に従ってここで用いられているように、明示的に別段の定めがない限り、以下の用語は、以下の意味で定義される。
【0020】
ここで用いられているように、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、明示的に別段の定めがない限り、複数への言及を含む。
【0021】
ここで用いられているように、「メチオニン部位」、「メチオニン類似化合物」という用語は、セレノメチオニン誘導体を含む、本明細書に記載されている一般的なメチオニン式1に包含されるすべての構造を含む。
【0022】
ここで用いられているように、「触媒抗酸化剤」という用語は、酸化剤(例えばROS)によって酸化された後に酵素によって再生可能であり、抗酸化化合物の各当量が1当量を超える酸化剤を破壊できる天然に存在しない(又は天然に存在する精製された)抗酸化化合物を意味する。
【0023】
ここで用いられているように、正常細胞を「保護すること」又は正常細胞の「保護」は、細胞が受け得るあらゆるダメージ、特に、例えば、太陽、発癌物質といった環境要因からの酸化ダメージ、神経系疾患及び癌などの疾病、アドリアマイシン及び三酸化二ヒ素などの薬剤、並びに、ウイルス及びバクテリアなどの微生物によって生じる疾病に対する保護を意味する。一実施形態において、「ダメージ」は酸化ダメージを意味する。酸化ダメージに対して保護するステップは、細胞に対してダメージを生じさせる反応性酸化中間体を防止し、阻害し、低減するステップを具える。
【0024】
ここで用いられているように、「癌」は、白血病、リンパ腫、黒色腫、癌及び肉腫を含むこれらに限定されない哺乳動物でみられるすべてのタイプの癌又は新生物又は悪性腫瘍を意味する。癌の例は、脳、胸、膵臓、頚部、結腸、頭部及び頚部、腎臓、肺、非小細胞肺、黒色腫、中皮腫、子房、肉腫、胃、子宮、並びに、髄芽腫の癌である。「腫瘍」及び「腫瘍細胞」という用語は、ここで用いられているように、制御されていない進行性の細胞増殖及び細胞分裂によって特徴付けられる又はその細胞増殖及び細胞分裂から結果的に生じる細胞又は細胞の集合を意味する。そのような細胞は、通常宿主生物に有害な作用を有している。腫瘍細胞は、インビボに位置していてもよく、特にヒト、その他の動物などに位置していてもよい。腫瘍細胞は、インビトロに位置していてもよく、例えば研究及び/又は創薬といった発明的方法及び発明的組成物を用いることによって処理されてもよい。腫瘍細胞の阻害は、そのような細胞の増殖の阻害、生理学的プロセスの阻害、転移の阻害、及び、好ましくはそのような細胞の死滅を含む。
【0025】
「診断的」又は「診断した」は、病理学状況の存在又は特性を確認することを意味する。診断方法は、それらの感受性及び特異性において異なる。診断分析の「感受性」は、陽性となる病気の患者のパーセンテージ(「真陽性」のパーセント)である。分析によって検出されない病気の患者は、「偽陰性」である。分析において陰性となる病気になっていない対象を「真陰性」と称する。診断分析の「特異性」は、1から偽陽性率を引いたものであり、この「偽陽性」率は、病気になっていないが陽性とされる割合として定義される。特定の診断方法が病状の決定的診断を与えるものではなくてもよいが、その方法が診断を支援する肯定的な指標を与えれば十分である。
【0026】
「患者」、「対象」又は「個体」という用語は、本明細書において互いに区別なく用いられ、正常細胞に対するダメージから保護される哺乳類、動物、鳥類又は爬虫類の対象を意味し、好ましくはヒト患者である。いくつかの場合において、本発明の方法は、マウス、ラット及びハムスターを含むこれらに限定されない齧歯類並びに霊長類を含む、実験動物、獣医学的用途、及び、疾病のための動物モデルの開発に用途がみいだされる。
【0027】
「治療」は、疾患の進行を予防するか、又は、疾患の病状若しくは症状を変化させる意図で行われる干渉である。従って、「治療」は、治療的処置と予防的若しくは防止的手段との両方を意味する。「治療」は苦痛緩和治療として規定してもよい。治療を必要とするものには、既にその疾患を有するもの、及び、疾患の予防が必要なものが含まれる。腫瘍(例えば癌)治療において、治療薬は、腫瘍細胞の病状を直接的に軽減してもよいし、又は、例えば放射線及び/又は化学療法といったその他の治療薬による治療に対する腫瘍細胞の感受性を高めてもよい。
【0028】
「微小球」又は「マイクロ粒子」は、ここで定義されているように、約1ミリメートルから約1マイクロメートルの直径又はそれより小さい直径を有する生体適合性固相材料の粒子であって、前記粒子は、生理活性物質を含んでいてもよく、前記固相材料は、有効量のスリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物のマイクロ球体からの放出を持続する粒子を含む。マイクロ球体は、球形状、非球形状、又は、不整形状を有し得る。典型的なマイクロ球体形状は、一般に球である。
【0029】
「生体適合性」材料は、ここで定義されているように、レシピエントに対して非毒性であり、また、レシピエントの身体に著しい有害効果又は悪影響を与えない材料及びその材料のあらゆる分解産物を意味する。
【0030】
「持続的放出」という用語(すなわち、延長された放出及び/又は制御された放出)は、本明細書において、有効量のスリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物であって、対象に投与されて1つ以上のスリンダク成分(例えばスリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物)のストリームを所定時間にわたって、かつ、その所定時間全体にわたって所望の効果(例えば太陽光線からの細胞又は動物全体の防御)を達成するのに充分なレベルで連続的に放出する組成物を意味するために用いられる。連続的放出ストリームへの言及は、組成物やマトリックスやその成分の生分解の結果として、又は、追加栄養素若しくはその他の望まれる薬剤の代謝的変換若しくは溶解の結果として、生じる放出を包含するように意図されている。
【0031】
別段の定めがない限り、ここで用いられる技術的用語のすべては、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0032】
本明細書に記載されているものと類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験において用いることができるが、適切な方法及び材料を以下に説明する。以下に論じる特定の実施形態は、例示的なものに過ぎず、限定するようには意図されていない。本明細書中で言及されている刊行物、特許出願、特許、及び、その他の参考文献のすべては、言及することによって全体が組み込まれている。紛争の場合には、定義を含む本明細書が規定するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従った、触媒酸化防止剤の作用機構を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に従った、MsrA酵素によって触媒されるスリンダクの触媒抗酸化活性のサイクルを示す概略図である。
【図3】図3A及び図3Bは、本発明の一実施形態に従った、MsrAによるスリンダクスルフィド生成の動態を示す2つのグラフである。
【図4】図4A及び4Bは、本発明の一実施形態に従ってスリンダクのメチオニン誘導体(化合物2a及び化合物3a)を作るための化学合成経路を示す概略図である。
【図5】図5A及び5Bは、本発明の一実施形態に従ってスリンダクのメチオニン誘導体(化合物4a及び化合物5a)を作るための化学合成経路を示す概略図である。
【図6】図6A及び図6Bは、本発明の実施形態に従ってサリチル酸及びメフェナム酸をベースとして触媒酸化防止剤(それぞれ化合物6a及び化合物7a)を作るための化学合成経路を示す概略図である。
【図7】図7A−図7Cは、本発明の実施形態に従って、イブプロフェン、インドメタシン及びバイオックス(登録商標)をベースとして触媒酸化防止剤(それぞれ化合物8a、化合物9a及び化合物10a)を作るための化学合成経路を示す概略図である。
【図8】図8は、本発明の化合物2aのNMRスペクトルを示している。
【図9】図9は、MsrA酵素及びMsrB酵素とのインキューベーション後のスリンダク(S)及びスリンダクメチオニンスルホキシド(SMO)の還元生成物の存在を示すTLCプレートの顕微鏡写真である。この結果は、SがMsrAの基質であること、及び、SMOがMsrA及びMsrBの両方の基質であることを実証している。
【図10】図10は、パラコートによって誘導された酸化ストレスに暴露されたハエの生存期間がスリンダク処理によって伸びることを示すグラフである。
【図11】図11は、神経変性疾患を有し、変異超過酸化物不均化酵素を過剰発現するG93Aトランスジェニックマウスの生存期間がスリンダク処理によって伸びることを示すグラフである。
【図12】図12は、G93Aトランスジェニックマウスの運動能力がスリンダク処理によって強化されることを示すグラフである。
【図13】図13は、G93Aマウスの脊髄切片中の神経細胞数を示すグラフである。神経細胞生存率は、スリンダク処理を行った動物において著しく高い。
【図14】図14は、スリンダク及びその代謝産物の構造を示す略図である。スリンダクは、スリンダクスルホキシドのR−エピマーとS−エピマーとの混合物を表す。理論的には、R−スリンダクスルホキシド及びS−スリンダクスルホキシドのいずれもが、酸化されてスリンダクスルホンを生じることができ、又は、還元されてスリンダクスルフィドを生じることができる。
【図15】図15は、スリンダクのRエピマーとSエピマーとのキラルカラムを用いた分離を示すクロマトグラムである。0.1%酢酸を含むヘキサン/エタノール(65/35)の混合物中にスリンダク(7mg/ml)を溶解させ、この溶液75μlをキラルカラムに注いだ。このカラムを1.5ml/分の流速で上記溶媒で進行させ、300μlの画分を回収した。スリンダクを溶出させた後に256nmにおける光学濃度をモニターした。22.5及び28分(OD256)の後に2つのピークが溶出していることが観察される。R型がまず溶出し(22.5分)、その後にS型が溶出した(28分)。
【図16】図16は、心臓筋細胞におけるスリンダクのRエピマー及びSエピマーのスルフィド形態への代謝的転換を示すグラフである。400μMのスリンダク、R、S又はRS混合物と共に培養した10個の細胞によって形成されたスリンダクスルフィドの量は、培養時間の関数として測定される。この分析は、C18カラム、並びに、50/50%の50mM酢酸ナトリウム(pH4.73)及びアセトニトリルの移動相を用いて、細胞溶解産物のHPLC分離によって行った。吸光度を330nmにおいて測定した。
【図17】図17は、tert−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)に暴露させる前に500μMのスリンダク−S(スリンダクのS−エピマー)によって処理を行った正常な肺細胞の生存率を示すグラフである。
【図18】図18は、tert−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)に暴露させる前に500μMのスリンダク−R(スリンダクのR−エピマー)によって処理を行った正常な肺細胞の生存率を示すグラフである。
【図19】図19は、インビボにおけるスリンダク−Rエピマーの投与によって、ランゲンドルフ心臓における虚血/再潅流の後のLDH放出が減少することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、日光(例えば紫外線)への暴露などの酸化ダメージを生じさせる様々な要因;例えば任意の数の疾病によって生じる酸化ダメージなどのインビボ要因によって生じるダメージからの正常細胞の保護に関する組成物及び方法を包含する。
【0035】
以下に記載されている好ましい実施形態は、本発明の様々な組成物及び方法を説明する。これらの実施形態の説明に関わらず、本発明の別の態様を作ってもよいし、及び/又は、以下に提供されている説明に基づいて実行してもよい。
【0036】
生物学的方法
従来の化学現象、細胞生物学及び分子生物学技術に関する方法は、本明細書に記載されている。そのような技術は、当業界において一般に知られており、「Total Synthesis. Targets, Strategies, Methods, K.C. Nicolaou and E.J. Sorensen, VCH, New York, 1996」、及び、「The Logic of Chemical Synthesis, E.J. Coney and Xue-Min Cheng, Wiley & Sons, NY, 1989」などの古典的文献などの方法論において詳細に記載されている。分子生物学的方法及び細胞生物学的方法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., vol.1-3, ed.Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 2001」及び「Current Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992(定期的アップデートを含む)」などの論文に記載されている。
【0037】
触媒酸化防止剤
本発明は、少なくとも1個(例えば1個、2個又は3個以上)のメチルスルホキシド基又はメチルスルフィド基を含む小分子であって、細胞内に入ることができ、触媒抗酸化機構によって酸化ダメージを防ぐことができる小分子を提供する。この化合物のメチルスルフィド基は、ROSと反応してメチルスルホキシドを生じる。次いで、メチルスルホキシド含有化合物は、Msr酵素及び/又はその他の酵素の基質として作用し、これらの酵素は、この化合物を還元することによって抗酸化特性を再生する。これらの化合物を細胞又は動物に投与することによってROSによって生じる細胞ダメージを軽減することができる。
【0038】
図1を参照すると、これらの化合物は、1)ROSを破壊するか又はROSと反応する活性基がこれらの構造内に存在することによってROS捕捉剤(酸化防止剤)として、また、2)酸化化合物を、ROSとさらに反応することができる非酸化形態に還元する触媒酸化防止剤として機能する。本発明の抗酸化化合物の触媒的特性は、Msr酵素及び/又はスルホキシド部位をスルフィドに還元することができるその他のあらゆる酵素のための基質として機能する能力による。これらの酵素によって認識されるコア官能基は、メチルスルホキシドである。N−メチオニン含有ペプチド及びタンパクの基質の場合には、この官能基がアミノ酸メチオニンに含まれている。
【0039】
スルフィドメチル又はメチルスルホキシドの官能基を有するあらゆる化合物であって、Msr酵素及び/又はスルホキシド部位をスルフィドに還元させることができるその他の酵素のための基質になりえる化合物を用いることができる。非ステロイド系抗炎症薬及びCOX阻害剤であるスリンダクは、Msr酵素のための基質として機能するメチルスルホキシド含有化合物の一例である。スリンダクは、プロドラッグであり、分子上のメチルスルホキシド部位をスルフィドに還元するときのCOX阻害剤としてのみ活性である。これまでにスリンダクがMsrのための基質として作用することは知られていなかった。図2は、Msrによって触媒された、スリンダクからスリンダクスルフィドへの還元を示している。下記に説明するように、スリンダクを、バクテリア(大腸菌)中で同定されたMsrファミリーの6個の知られているメンバーに対して、及び、哺乳類(ウシ)組織中のMsr酵素に対する基質として試験を行った。MsrA及びバクテリアの膜関連Msrは、スリンダクを活性スルフィドに還元することができることが示された。哺乳類組織において、スリンダクの還元は、主としてMsrAの活性によるものであった。
【0040】
以下にさらに説明するように、スリンダク投与は、(1)パラコートによって誘導したROS生成によるダメージからショウジョウバエを保護し、(2)酸化ダメージによって生じた神経変性疾患を有するマウスの脊髄運動ニューロンの生存期間を延ばし、(3)前記マウスの寿命を延ばした。
【0041】
メチオニンをベースとする触媒酸化防止剤
一態様においては、本発明は、メチオニン部位又はメチオニン類似化合物を有する触媒抗酸化化合物を提供する。そのような化合物は、メチオニン(例えばMsrA及びMsrB)のメチルスルホキシド官能基を認識するMsr酵素、及び/又は、スルホキシド部位をスルフィドに還元することができるその他の酵素のための基質になり得る。その化合物のメチオニン含有実施形態においてみられるメチオニン部位又は類似化合物は、下記一般的構造:

を有する。
【0042】
一般構造1中の基R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0043】
は、CH(D配置又はL配置)であってもよい。
【0044】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖又は分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0045】
は、エチルであってもよく、又は、好ましくはメチル若しくはそのフッ素化された誘導体である。
【0046】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0047】
ここで用いられているように、「メチオニン部位」、「メチオニン類似化合物」という用語は、メチオニンのセレノメチオニン類似化合物を含む一般式1によって包含されるすべての構造を含む。
【0048】
一般構造1は、カルボン酸のエステル及び塩を含む。小分子との結合のためのメチオニンを含むオリゴペプチドも本発明に包含されている。
【0049】
COX阻害剤に由来するメチオニンをベースとする触媒酸化防止剤
炎症及び酸化ダメージは、多数の病状及び退行性病状において共通に存在していることがわかっている。従って、本発明のメチオニン含有化合物の特に好ましい実施形態は、COX阻害剤などの抗炎症剤の誘導体である。いくつかのCOX阻害剤をベースとする骨格を用いたそのような化合物の非限定な例及びその合成方法を、下記の例において提供する。例示的化合物は:スリンダク、スリンダクのR−エピマー及びS−エピマーの両方;アセチルサリチル酸(オルトアセトキシ安息香酸)、メフェナム酸(2−[(2,3−ジメチルフェニル)アミノ]安息香酸);イブプロフェン(α−メチル−4−(2−メチルプロピル)−ベンゼン酢酸;インドメタシン(1−(p−クロロベンゾイル)−5−メトキシ−2−メチル−インドール−3−酢酸);並びに、ロフェコキシブ(4−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−3−フェニル−2(5H)−フランオン、例えばMerck社が販売するバイオックス(登録商標))、及び、セレコキシブ(4−[5−(4−メチルフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1H−ピラゾール−1−イル]−ベンゼンスルホンアミド、例えばPfizer社が販売するセレブレックス(登録商標))といった骨格に由来するものを含む。
【0050】
スリンダク誘導体である本発明の実施形態は、下記一般式2〜5を有し得る。

【0051】
一般式2、一般式3、一般式4及び一般式5中の基R、R、R、R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0052】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0053】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0054】
は、エチルであってもよく、又は、メチル若しくはそのフッ素化された誘導体であってもよい。
【0055】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基であってもよい。
【0056】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0057】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0058】
は窒素である。
【0059】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0060】
一般構造2、一般構造3、一般構造4及び一般構造5は、カルボン酸基のエステル及び塩を含む。本発明は、メチオニン部位及び類似化合物のオリゴマーを含むスリンダク誘導体をも包含する。
【0061】
アセチルサリチル酸誘導体である本発明の実施形態は、下記一般式を有し得る。

【0062】
一般構造6の芳香環は、1個以上の窒素原子を含んでいてもよい(例えばピリジン又はピラジン)。一般構造6中の芳香族カルボキシル基は、メチオニンをベースとする部位に対して、オルト位、メタ位、又は、パラ位であってもよい。一般構造中の基R、R、R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0063】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0064】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖又は分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0065】
は、エチルであってもよいし、又は、好ましくはメチル若しくは又はそのフッ素化された誘導体であってもよい。
【0066】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基であってもよい。
【0067】
は酸素であってもよい。
【0068】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0069】
一般構造6は、カルボン酸基のエステル及び塩をも含む。本発明は、メチオニン部位及び類似化合物のオリゴマーを含むアセチルサリチル酸誘導体を包含もする。
【0070】
メフェナム酸誘導体である本発明の実施形態は、下記一般式を有し得る。

【0071】
一般構造7の両方の芳香環は、1個以上の窒素原子を含んでいてもよい(例えばピリジン又はピラジン)。一般構造7中の芳香族カルボキシル基は、アニリン窒素に対してオルト位、メタ位、又は、パラ位であってもよい。一般構造中の基R、R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0072】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0073】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖又は分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0074】
は、エチルであってもよいし、又は、好ましくはメチル若しくはそのフッ素化された誘導体であってもよい。
【0075】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基であってもよい。
【0076】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0077】
一般構造7は、カルボン酸基のエステル及び塩をも含む。本発明は、メチオニン部位及び類似化合物のオリゴマーを含むメフェナム酸誘導体をも包含する。
【0078】
イブプロフェン誘導体である本発明の実施形態は、下記一般式を有し得る。

【0079】
一般構造8の芳香環は、1個以上の窒素原子を含んでいてもよい(例えばピリジン又はピラジン)。一般構造8中のsec−ブチル基は、メチオニンをベースとする部位に対してオルト位、メタ位、又は、パラ位であってもよい。基R、R、R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0080】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0081】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖又は分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0082】
は、エチルであってもよいし、又は、好ましくはメチル若しくはそのフッ素化された誘導体であってもよい。
【0083】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基であってもよい。
【0084】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0085】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0086】
一般構造8は、カルボン酸基のエステル及び塩をも含む。本発明は、メチオニン部位及び類似化合物のオリゴマーを含むイブプロフェン誘導体を包含もする。
【0087】
インドメタシン誘導体である本発明の実施形態は、下記一般式を有し得る。

【0088】
一般構造9中の基R、R、R、R、R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0089】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0090】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0091】
は、エチルであってもよいし、又は、好ましくはメチル若しくはそのフッ素化された誘導体であってもよい。
【0092】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基であってもよい。
【0093】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0094】
は、水素であってもよいし、又は、1〜6個の炭素からなる直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0095】
は、カルボニル基に対してオルト位、メタ位又はパラ位の任意のハロゲンであってもよい。
【0096】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0097】
一般構造9は、カルボン酸基のエステル及び塩をも含む。本発明は、メチオニン部位及び類似化合物のオリゴマーを含むインドメタシン誘導体をも包含する。
【0098】
バイオックス(登録商標)誘導体である本発明の実施形態は、下記一般式を有し得る。

【0099】
一般構造10中のラクトン環は、スルホニル基に対してオルト位、メタ位、又は、パラ位であってもよい。一般構造10中の基R、R、R、R及びXは、以下のように定義される。
【0100】
は、CH(R配置又はS配置)であってもよい。
【0101】
は、1〜6個の炭素を有する直鎖又は分岐のアルキル基又はフルオロアルキル基であってもよい。
【0102】
は、エチルであってもよいし、又は、好ましくはメチル若しくはそのフッ素化された誘導体であってもよい。
【0103】
は、水素又は1〜6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐のアルキル基であってもよい。
【0104】
Xは、任意の酸化状態のS又はSeであってもよい。
【0105】
Arは、フェニル、アルキル、及び、ハロゲンで置換されたフェニル、並びに、複素環芳香族化合物であってもよい。
【0106】
一般構造10は、カルボン酸基のエステル及び塩をも含む。本発明は、メチオニン部位及び類似化合物のオリゴマーを含むバイオックス(登録商標)誘導体をも包含する。
【0107】
正常細胞の保護
好ましい実施形態において、インビボ及びインビトロの両方の対象において正常細胞をダメージから保護する方法は、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物、及び、これらの混合物を有効量で含む組成物を動物に投与するステップ具える。
【0108】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダクのR−エピマー、その構造的類似化合物又はその誘導体を治療的有効濃度で含む。
【0109】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダクのS−エピマー、その構造的類似化合物又はその誘導体を治療的有効濃度で含む。
【0110】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダク、その構造的類似化合物又はその誘導体を治療的有効濃度で含む。
【0111】
別の好ましい一実施形態において、スリンダクは、スリンダクのR−エピマー及びS−エピマーを含む。好ましくは、スリンダクがR−エピマーである。癌細胞ではない正常細胞の培養においては、スリンダクのR−エピマーが、活性COX阻害剤であるスルフィドに効率的に変換されないことがわかった。COX阻害剤は深刻な毒性を生じさせるので、スリンダクのR−エピマーは、正常細胞においてより低い毒性プロファイルを有するので、潜在的により優れた治療薬となることが期待される。また、スリンダク、スリンダクのR−エピマー及びS−エピマー、特に、スリンダクのR−エピマーは、例えば酸化ダメージといったダメージから正常細胞を保護することがわかった。
【0112】
スリンダクは、その代謝産物とは異なり、硫黄原子の周囲に非対称が存在するメチルスルホキシド部位を含んでいる(図14)ので、光学活性物質である。スリンダクのいずれかエピマー(これらはプロドラッグである)を還元することによって、活性COX阻害剤であるスリンダクスルフィドが得られる。スリンダクのR−エピマーは、インビボの正常細胞においてあたかもCOX阻害剤にあまり効率的に変換されなかいかのように、その他の化合物よりも有利である。
【0113】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、スリンダクのR−エピマー及び/又はS−エピマー、これらの誘導体、及び、これらの構造的類似化合物を含み、前記R−エピマースリンダク、その誘導体、及び、その変異体が少なくとも約10重量対重量%の濃度を有し;少なくとも1個の生細胞を治療的有効量の前記スリンダクに接触させるステップと;正常細胞をダメージから保護するステップとを具える。例えば、太陽光線から細胞を保護するために対象者によって日焼け防止薬として用いられるローション剤、軟膏、液体などにおいて、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物、及び、これらの混合物を有効量で含む組成物は、例えば、酸素ラジカルの生成などによって測定される細胞の保護(例えば酸化ダメージ)を提供する。酸化ストレス及びラジカルなどの測定は当業者に公知である。正常細胞のダメージ及びダメージからの保護に関するその他の測定は、例えば、バイオマーカ、熱ショックタンパク又は熱ショックタンパクをコードする遺伝子、並びに、低酸素のバイオマーカの、例えば心臓細胞における測定を含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、熱ショックタンパクに関するバイオマーカーは、例えば、熱ショックタンパク(Hsp105)、シャペロニンサブユニット5(イプシロン)(Cct5)、シャペロニンサブユニット8(シータ)(Cct8)、DnaJ(Hsp40)ホモログ,サブファミリーA,メンバー1(Dnaja1)、DnaJ(Hsp40)ホモログ,サブファミリーC,メンバー2(Dnajc2)、DnaJ(Hsp40)ホモログ,サブファミリーC,メンバー7(Dnajc7)、熱ショック70kDタンパク5(グルコースによって制御されるタンパク)(Hspa5)、熱ショックタンパク(Hsp105)、熱ショックタンパク1,アルファ(Hspca)、熱ショックタンパク1、ベータ(Hspcb)、熱ショックタンパク1A(Hspa1a)、熱ショックタンパク1B(Hspa1b)、熱ショックタンパク4(Hspa4)、熱ショックタンパク4(Hspa4)、熱ショックタンパク8(Hspa8)、浸透ストレスタンパク(Osp94)、タンパクジスルフィドイソメラーゼ関連タンパク(P5−pending)、又は、ストレス誘導リンタンパク1(Stip1)をコードする遺伝子、その突然変異体、その変異体又はその断片であってもよい。
【0115】
遺伝子、遺伝子の核酸断片、変異体、突然変異体及びそのコードされた生成物の多数が、細胞ダメージを示すものとして同定されている。いくつかの実施形態において、そのようなバイオマーカーの例は、P450,ファミリー2,サブファミリーb,ポリペプチド10(Cyp2b10)、P450,ファミリー2,サブファミリーc,ポリペプチド70(Cyp2c70)、P450,ファミリー2,サブファミリーc,ポリペプチド37(Cyp2c37)、P450,ファミリー2,サブファミリーa、ポリペプチド12(Cyp2a12)、P450,ファミリー2,サブファミリーc,ポリペプチド40(Cyp2c40)、P450,ファミリー3,サブファミリーa,ポリペプチド11(Cyp3a11)、P450,ファミリー3,サブファミリーa,ポリペプチド13(Cyp3a15)、P450,ファミリー3,サブファミリーa,ポリペプチド16(Cyp3a16)、P450,ファミリー3,サブファミリーa,ポリペプチド25(Cyp3a25)、P450,ファミリー2,サブファミリーa,ポリペプチド4(Cyp2a4)、又は、P450,ファミリー4、サブファミリーa,ポリペプチド10(Cyp4a10)で構成されるシトクロムP450ファミリー遺伝子を含む。
【0116】
いくつかの実施形態において、DNA損傷を示す1個以上の生成物をコードする遺伝子、その突然変異体、その変異体又はその断片は、例えば、毛細血管拡張運動失調変異ホモログ(ヒト)(Atm)をコードする核酸配列、特異的DNA結合タンパク1(Ddb1)、切除修復相互保管齧歯類修復欠乏相補性群3(excision repair cross-complementing rodent repair deficiency, complementation group 3)(Ercc3)、ハンチンチン関連タンパク1(Hap1)、mutSホモログ2大腸菌(Msh2)、骨髄エコトロピックウイルス組込部位関連遺伝子1(Mrg1)、神経芽腫ラス癌遺伝子(Nras)、RAD21ホモログ(S.pombe)(Rad21)、網膜芽腫1(Rb1)、網膜芽腫結合タンパク4(Rbbp4)、網膜芽腫結合タンパク7(Rbbp7)、網膜芽腫結合タンパク9(Rbbp9)、脊髄小脳失調2ホモログ(ヒト)(Sca2)、X関連筋細管ミオパシー遺伝子1(Mtm1)、又は、チャイニーズハムスター細胞5中の不完全修復を補完するX線修復(X-ray repair complementing defective repair in Chinese hamster cells 5)(Xrcc5)であってもよい。
【0117】
いくつかの実施形態において、細胞周期を制御する1個以上の生成物をコードする遺伝子、その突然変異体、その変異体又はその断片は、例えば、サイクリンG1(Ccng1)、サイクリンD2(Ccnd2)、CDC23(細胞分裂周期23、酵母、ホモログ)(Cdc23)、サイクリンD3(Ccnd3)、サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)、p21(CDKN1A)活性化キナーゼ2(Pak2)、RASp21タンパクアクチベータ1(Rasa1)、サイクリン依存性キナーゼ8(Cdk8)、CDC42エフェクタタンパク(RhoGTPアーゼ結合)4(Cdc42ep4)、カスパーゼ8(Casp8)、カスパーゼ4、アポトーシス関連システインプロテアーゼ(Casp4)、カスパーゼ12(Casp12)、ベル関連デスプロモータ(Bcl-associated death promoter)(Bad)、Bcl2様2(Bcl2-like 2)(Bcl2l2)、プログラム細胞死6相互作用タンパク(Pdcd61P)、プログラム細胞死8(Pdcd8)、プログラム細胞死2(Pdcd2)、アネキシンA1(Anxa1)、アネキシンA2(Anxa2)若しくはシグナル誘導増殖関連遺伝子1(Sipa1)、プロテインキナーゼC及びJunキナーゼであってもよい。
【0118】
任意の数の遺伝子、変異体、断片及びこれらによってコードされる生成物を、正常細胞プロファイルと比較することによって、細胞ダメージ又はその欠如をさらに確認することができる。
【0119】
好ましい実施形態において、この組成物は、少なくとも約10(重量対重量)%以上のスリンダクのR−エピマーを含み;好ましくは、この組成物が約50(体積対体積)%以上のスリンダクのR−エピマーを含み;より好ましくは、この組成物が約75(重量対重量)%以上のスリンダクのR−エピマーを含み;さらに好ましくは、この組成物が約90(重量対重量)%以上のスリンダクのR−エピマーを含み;よりさらに好ましくは、この組成物が、約95(重量対重量)%以上、96(重量対重量)%以上、97(重量対重量)%以上、98(重量対重量)%以上、99(重量対重量)%以上、99.9(重量対重量)%以上のスリンダクのR−エピマーを含む。
【0120】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、そのR−エピマー及び/若しくはそのS−エピマー、これらの構造的類似化合物、又は、これらの誘導体は、約1〜99.999重量対重量%の濃度で存在する。
【0121】
別の好ましい一実施形態においては、スリンダクのR−エピマー及び/又はS−エピマー、スリンダク、これらの誘導体及び構造的類似化合物を含む組成物を、全身的に、腹膜内に、静脈内に、皮下に、筋肉内に、及び、局所的に投与する。
【0122】
好ましい実施形態において、この組成物は、日焼け防止(日焼け用ローション)ローション剤中に、スリンダクのR−エピマー及び/又はS−エピマー、スリンダク、これらの誘導体及び構造的類似化合物を含む。
【0123】
別の好ましい一実施形態において、この組成物は、局所的に塗布されるローション中に、スリンダクのR−エピマー及び/又はS−エピマー、スリンダク、これらの誘導体及び構造的類似化合物を含む。例えば、リップスティック、顔のクリーム若しくは液体、目のクリーム若しくは液体、又は、その他の化粧品などの化粧品において使用される。この組成物は、脂質中に、スリンダクのR−エピマー及び/又はS−エピマー、スリンダク、これらの誘導体及び構造的類似化合物を含むローション、クリーム、液体、組成物であってもよく、長時間にわたって管理された用量で放出されて、従って、延長された保護を与えることができる。これらの組成物は、ビタミン、ROI捕捉剤、サイトカイン、抗生物質、及び、抗発熱薬などのあらゆる化合物の1つ以上と混合されていてもよい。
【0124】
好ましい実施形態において、これらの組成物は:(1)患者における虚血/再酸化障害を防止すること、(2)移植用臓器を移植前に無酸素症状態、低酸素性状態、又は、過酸素状態で保存すること、(3)電離放射線及び/又はブレオマイシンなどの化学療法への暴露の結果として生じるフリーラジカルによるダメージから正常組織を保護すること、(4)直接的に又はシトクロムP−450系を介した1原子酸素添加反応の結果としてフリーラジカルを生じさせる生体異物化合物への暴露の結果として生じるフリーラジカルによる損傷から細胞及び組織を保護すること、(5)回収したサンプルの生存率を高めることによって、細胞、組織、臓器及び生物の低温保存性を向上させること、並びに、(6)発癌、細胞老化、白内障形成、マロンジアルデヒド付加物の生成、HIV病理、及び、コラーゲン架橋などの巨大分子の架橋を防止するための予防的投与を含むこれらに限定されない様々な用途で投与される。
【0125】
別の好ましい一実施形態において、正常細胞は、環境要因によって生じるダメージから保護される。環境要因は、限定されるものではないが、例えば、紫外線、γ線などの太陽からの光線;例えば、2−アミノ−3,4−ジメチルイミダゾ[4,5−f]キノリン、2−アミノ−3,8−ジメチルイミダゾ[4,5−f]キノキサリン、2−アミノ−1−メチル−6−フェニルイミダゾ[4,5−b]ピリジンなどの肉及び卵を高熱で調理したとき又は焼いたときに生じる発癌性物質、複素環アミン;タバコ煙などを含む。
【0126】
別の好ましい一実施形態においては、対象における正常細胞が、ウイルス、バクテリア、原生動物、菌類、プリオンなどの微生物よるダメージから保護される。細胞にダメージを与えるウイルスの例には、ヒトパピローマウイルスウイルス、及び、肝炎ウイルスなどが含まれる。
【0127】
別の好ましい一実施形態においては、対象における正常細胞が、例えばパーキンソン病などの神経系疾患といった疾病によって生じるダメージから保護される。
【0128】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物、及び、これらの混合物を有効量で含む組成物は、ヒト臓器移植における酸化ダメージを防ぐため、及び、虚血組織の再潅流後の再酸化障害を防止するために用いられる。
【0129】
一般に、スリンダク、スリンダクのR−エピマー及び/又はS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、並びに、これらの混合物を含む組成物は、正常細胞を酸化ダメージから保護する。活性酸素種及びその他のラジカル並びにその他の非ラジカル種による、DNA、タンパク及び脂質の酸化は、多数のヒト疾病に関与している。ラジカルは、下記病状の第一要因である可能性があり、その他の疾患発症因子から身体がより影響を受けやすくする可能性があり、内因性防御及び修復プロセスを阻害する可能性があり、及び/又は、初期疾患を進行させる可能性がある。治療薬剤送達の薬物動態的及び薬動力学的考察を行った当業者による、スリンダク、R−エピマー及び/又はS−エピマー、これらの構造的類似化合物又は誘導体の投与は、正常細胞のダメージから対象を保護し、前記病状を抑制及び/又は軽減させることもある。これらの例を限定するものと解釈してはならないが、スリンダク、R−エピマー及び/又はS−エピマー、これらの構造的類似化合物又は誘導体を用いることができるさらなる病状は、当業者に明らかであろう。頭、目、耳、鼻及び喉部:加齢黄斑変性(ARMD)、網膜剥離、高血圧網膜疾患、ブドウ膜炎、脈絡膜炎、硝子体炎、眼出血、退行性網膜障害、白内障発生及び白内障、未熟児網膜症、ムニエル病、薬剤誘導性聴器毒性(アミノグリコシド毒性及びフロセミド毒性を含む)、感染性及び特発性の耳炎、中耳炎、感染性及びアレルギー性副鼻腔炎、頭頚部癌;中枢神経系(脳及び脊髄):老人性痴呆(アルツハイマー痴呆を含む)、ニューマンピック病、神経毒反応、高圧酸素効果、パーキンソン病、大脳損傷及び脊髄損傷、高血圧脳血管障害、卒中(血栓塞栓性卒中、血栓性卒中、及び、出血性卒中)、流行性脳炎及び髄膜炎、アレルギー性脳脊髄炎及びその他の脱髄症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、糖尿病性ニューロパチー、多発性硬化症、神経セロイドリポフスチン症、運動失調末梢血管拡張症候群、アルミニウム、鉄、及びその他の重金属過剰、原発性脳癌腫/悪性及び脳転移;心臓血管:動脈硬化症、アテローム性動脈硬化、末梢血管疾患、心筋梗塞、慢性安定狭心症、不安定狭心症、(CABG、PTCA中の)特発性外科障害、炎症性心臓病[C反応性タンパク(CRP)及びミエロペルオキシダーゼ(MPO)によって測定及び影響されるもの]、脈管再狭窄、低密度リポタンパク酸化(ox−LDL)、心筋症、不整脈(虚血性のもの及び心筋梗塞後に誘導されるもの)、うっ血性心不全(CHF)、薬物毒性(アドリアマイシン及びドキソルビシンを含む)、ケシャン病(セレン欠乏)、トリパノソーマ症、アルコール心筋症、静脈うっ血及び障害(深部静脈血栓症又はDVTを含む)、血栓性静脈炎;肺:喘息、反応性気道疾患、慢性閉塞性肺疾患(慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は気腫)、高酸素症、高圧酸素効果、たばこ煙吸引効果、環境酸化汚染物質効果、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、気管支肺異形成症、無機粉塵じん肺症、アドリアマイシン毒性、ブレオマイシン毒性、パラコート及びその他の殺虫剤毒性、化学性肺炎、特発性肺間質性線維症、感染性肺炎(菌類を含む)、サルコイドーシス、アスベスト肺、肺癌(小細胞及び大細胞)、炭疽病感染、炭疽毒素暴露;腎:高血圧性腎疾患、終末期腎疾患、糖尿病性腎症、感染性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、アレルギー性糸球体腎炎、I型〜IV型過敏性反応、腎臓同種移植拒絶、腎臓抗糸球体基底膜疾患、重金属腎毒性、薬剤誘導(アミノグリコシド、フロセミド及び非ステロイド性の抗炎症剤を含む)腎毒性、横紋筋融解症、腎癌;肝臓:四塩化炭素肝障害、内毒素及びリポ多糖類肝障害、慢性ウィルス感染(肝炎感染を含む)、感染性肝炎(非ウイルス病因)、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アセトアミノフェン過剰服用、肝臓うっ血を伴ううっ血性心不全、肝硬変(アルコール、ウイルス及び特発性の病因を含む)、肝細胞癌、肝転移;胃腸:炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎及び過敏性腸症候群を含む)、結腸癌、ポリポシス、感染性憩室炎、中毒性巨大結腸症、胃炎(ヘリコバクターピロリ感染を含む)、胃癌、食道炎(バレット食道を含む)、胃食道逆流症(GERD)、ウィッペル病、胆石、膵炎、無βリポたんぱく血症、感染性胃腸炎、赤痢、非ステロイド系抗炎症薬で誘導される毒性;造血/血液:Pb(鉛)中毒、薬剤誘導性骨髄抑制、プロトポルフィリン光酸化、リンパ腫、白血病、ポルフィリン症、寄生虫感染(マラリアを含む)、鎌状赤血球貧血、サラセミア、そらまめ中毒、悪性貧血、ファンコーニ貧血、感染後貧血、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫不全症候群(AIDS);尿生殖器:感染性前立腺炎、前立腺癌、良性前立腺肥大(BPH)、尿道炎、精巣炎、精巣捻転、子宮頚管炎、子宮頚癌、卵巣癌、子宮癌、腟炎、腟痙;筋骨格:骨関節炎、慢性関節リウマチ、腱炎、筋ジストロフィー、変性円板疾患、変性骨関節症、運動誘発性骨格筋障害、手根管症候群、ギランバレイ症候群、骨パジェット病、強直性脊椎炎、異所的骨形成;並びに、外皮:太陽放射線障害(日光皮膚炎を含む)、熱障害、薬品及び接触皮膚炎(ウルシ皮膚炎を含む)、乾癬、ブルーム症候群、白斑症(特に口腔)、感染性皮膚炎、カポジ肉腫。
【0130】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、R−エピマー及び/又はS−エピマー、これらの構造的類似化合物又は誘導を含む組成物は:加齢関連免疫欠乏及び早期老化疾患を含む老化、癌、心臓血管疾患、脳血管障害、放射線障害、アルコール媒介性ダメージ(ウェルニッケコルサコフ症候群を含む)、虚血再潅流ダメージ、炎症性疾病及び自己免疫性疾病、薬物毒性、類デンプン症、過負荷症候群(鉄、銅など)、多臓器不全、並びに、エンドトキシン血症/敗血症によって引き起こされるダメージから対象中の正常細胞を保護する。
【0131】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、R−エピマー及び/又はS−エピマー、これらの構造的類似化合物又は誘導を含む組成物は、心臓筋及び中枢神経系などの重要な組織に対する虚血/再潅流ダメージによって引き起こされるダメージから対象中の正常細胞を保護する。
【0132】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、Rエピマー及び/又はS−エピマー、これらの構造的類似化合物又は誘導体を含む組成物は、潜在的に有害なフリーラジカル種を生じさせる様々な化学化合物への暴露から結果的に引き起こされる細胞のダメージから対象中の正常細胞を保護する。スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物、及び、これらの混合物の治療的又は予防的に有効な用量を投与するステップを具える。本発明の組成物は、非経口、局所、及び、経口を含む様々な経路によって投与される。
【0133】
別の好ましい一実施形態において、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物の治療的又は予防的に有効な用量を含む緩衝水溶液は、(1)心筋梗塞、大脳虚血現象、移植手術、直視下心臓手術、選択的血管形成、冠状動脈バイパス手術、脳外科手術、腎梗塞、外傷性出血、止血帯使用などの虚血発症、(2)フリーラジカルを生成する化学療法剤を用いた抗腫瘍的性又は寄生虫的な化学療法、(3)エンドトキシンショック又は敗血症、(4)電離放射線への被爆、(5)フリーラジカルであるか又はフリーラジカルを生じさせる外因性化学化合物への暴露、(6)温若しくは化学的熱傷又は潰瘍、(7)高圧酸素、又は、(8)所定の細胞集団のアポトーシス(例えばリンパ球アポトーシス)を経験した又は予想される患者に対して、典型的には静脈からの投与のために製剤される。本発明の緩衝水溶液は、典型的には他の確立された方法と組み合わされて、臓器培養、細胞培養、移植臓器保持、及び、心筋潅注に用いられてもよい。安定化されたエマルションを含む、脂質をベースとする製剤などの非水性製剤も提供する。この組成物は、意図されている特定の医療的又は獣医学的用途に応じて、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、心膜内注入、外科的潅注、局所的塗布、眼科的用途、潅注、強制経口投与、浣腸、腹腔内注入、煙霧質吸入、含嗽液、及び、その他の経路を含む様々な経路によって投与される。
【0134】
本発明の別の一態様において、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む本発明の組成物は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子又はNAD(P)H:キノン還元酵素遺伝子の抗酸化応答因子などの酸化的ストレス応答因子(例えば、抗酸化反応性因子,ARE)の転写調節下において天然に存在する遺伝子又は他のポリヌクレオチド配列の発現を調節するために使用される。
【0135】
他の実施形態において、本発明は、外科的切開、熱傷、酸化ダメージなどに起因する炎症又は軽度炎症といった損傷からの温血動物の皮膚修復を増進させる方法を提供する。この方法は、皮膚創傷又は炎症に対して、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物の治療的に又は予防的に有効な量を投与するステップを具える。
【0136】
好ましい実施形態において、この方法は、(1)パーキンソン病又は酸素欠乏障害などの神経ダメージ、(2)心虚血の結果として生じる心組織ネクローシス、(3)自己免疫性神経変性(例えば脳炎)、(4)敗血症及びエンドトキシン血症においてみられるような急性肺障害、並びに、(5)酸素欠乏(例えば、卒中、溺死、脳外科手術)又は外傷(例えば、脳振盪又は脊髄ショック)の結果として生じる神経ダメージを予防、阻止、又は、治療するために用いられる。
【0137】
スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物は、放射線障害又はフリーラジカル生成剤による化学的損傷を防止するためにも患者に投与される。軍関係者、及び、原子力発電、原子核医学並びに/又は化学工業において働く人にこの組成物を予防的に投与してもよい。スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物は、特に、反応性エポキシド中間体(例えば、ベンゾ−[a]−ピレン、ベンズアントラセン)を生ずる発癌性物質、及び、フリーラジカルを直接的に又は間接的に生ずる発癌性物質又は促進物質(例えば、フェノバルビタール、TPA、過酸化ベンゾイル、ペルオキシソーム増殖剤:シプロフィブラート、クロフィブレート)による化学発癌を予防する化学的予防剤として用いられてもよい。そのような化学発癌物質に暴露された人を、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物によって予備的に処理することによって、腫瘍形成発病の発病率又はリスクが低下する。
【0138】
スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物を、化粧品又は日光皮膚炎予防クリーム及びローション中の局所的塗布用の親油性基剤(又は、必要であれば水性担体)に製剤することができる。典型的な化粧品又は日光皮膚炎予防クリーム又はローションは、化粧品又は日光皮膚炎予防クリーム又はローションの1グラム当たりに、0.001mgから100mgのスリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含むであろう。
【0139】
スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物を、酸素毒性が健康危機を与える深海ダイバー又は高圧環境に暴露された個体に投与してもよい。スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物の有効用量の患者への投与は、呼吸ガス、若しくは、高圧酸素ガス、並びに/又は、酸素濃縮ガスの酸素毒性のリスクを低減して、これらを利用可能にする。スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物の有効用量の投与は、オゾンへの暴露と関係した毒性及び生物学的ダメージを軽減できると考えられる。スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物を、オゾンに暴露されている又は暴露されることになる人に予防的に投与することによって、オゾン濃度が高い地理的領域(例えばロサンゼルス)において注目されるオゾン誘導性肺損傷などのオゾン毒性に対する耐性を高めることが期待される。
【0140】
化粧品製剤
溶液として製剤される本発明の医薬品/化粧品組成物は、典型的には、薬学的に又は美容的に許容可能な有機溶媒を含む。「薬学的に許容可能な有機溶媒」及び「美容的に許容可能な有機溶媒」という用語は、スリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物をその有機溶媒中に分散又は溶解させることができることに加えて、許容可能な安全性(例えば刺激及び感作特性)及び美的特性(例えば、ベタベタしていないか又は粘着性でない)を有する有機溶媒を意味する。そのような溶媒の最も典型な例は、イソプロパノールである。その他の適切な有機溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(200−600)、ポリプロピレングリコール(425−2025)、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、ソルビトールエステル、1,2,6−ヘキサントリオール、エタノール、ブタンジオール、水及びこれらの混合物が含まれる。これらの溶液は、約0.001%から約100%、好ましくは約0.001%から約80%のスリンダク、スリンダクのR−エピマー、スリンダクのS−エピマー、これらの誘導体、これらの変異体、これらの構造的類似化合物及びこれらの混合物を含む組成物と、約0.001%から約50%、約1%から約99%の許容可能な有機溶媒と、を含む。
【0141】
ここで用いられているように、「皮膚軟化薬」は、乾燥の防止若しくは又は軽減並びに皮膚の保護に用いられる材料を意味する。種々様々の適切な皮膚軟化薬が知られており、それらを本発明において用いてもよい。ここで言及することによって組み込まれている「Sagarin, Cosmetics, Science and Technology, 2nd Edition, Vol. 1, 第32-43頁(1972)」には、適切な材料の多数の例が含まれている。有用な皮膚軟化薬の種の例は下記を含む。
【0142】
炭化水素油及びろう:具体例は、鉱油、ペトロラタム、パラフィン、セレシン、オゾケライト、微小蝋、ポリエチレン及びペルヒドロスクアレンを含む。
【0143】
シリコンオイル:ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、水可溶性及びアルコール可溶性シリコーングリコール共重合体など。
【0144】
トリグリセリドエステル:例えば植物及び動物油脂。具体例は、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、コーンオイル、オリーブオイル、たら肝油、扁桃油、アボカード油、パーム油、胡麻油及び大豆油を含む。
【0145】
アセトグリセリドエステル:アセチル化されたモノグリセリドなど。
【0146】
エトキシ化されたグリセリド:エトキシ化されたモノステアリン酸グリセロールなど。
【0147】
10個〜20個の炭素原子を有する脂肪酸のアルキルエステル:ここにおいて、脂肪酸のメチル、イソプロピル及びブチルエステルが特に有用である。その他の有用なアルキルエステルの例は、ヘキシルラウレート、イソヘキシルラウレート、イソヘキシルパルミテート、イソプロピルパルミテート、デシルオレエート、イソデシルオレエート、ヘキサデシルステアレート、デシルステアレート、イソプロピルイソステアレート、ジイソプロピルアジパート、ジイソヘキシルアジパート、ジヘキシルデシルアジパート、ジイソプロピルセバケート、ラウリルラクテート、ミリスチルラクテート及びセチルラクテートを含む。
【0148】
10個〜20個の炭素原子を有する脂肪酸のアルケニルエステル:具体例は、オレイルミリスチレート、オレイルステアレート及びオレイルオレエートを含む。
【0149】
10個〜20個の炭素原子を有する脂肪酸:適切な例は、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール、アラキジン酸、ベヘン酸、及び、エルカ酸を含む。
【0150】
10個〜20個の炭素原子を有する脂肪族アルコール:ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ヒドロキシステアリルアルコール、オレイルアルコール、リシノレイルアルコール、ベヘニルアルコール及びエルシルアルコール、及び、2−オクチルドデカノールは、申し分のない脂肪族アルコールの例である。
【0151】
脂肪族アルコールエーテル:10個〜20個の炭素原子を有するエトキシ化された脂肪族アルコールは、1個〜50個のエチレンオキシド基又は1個〜50個のプロピレンオキシド基が結合した、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、及び、コレステロールアルコールを含む。
【0152】
エーテル−エステル:エトキシ化された脂肪族アルコールの脂肪酸エステルなど。
【0153】
ラノリン及び誘導体:ラノリン、ラノリン油脂、ラノリンろう、ラノリンアルコール、ラノリン脂肪酸、イソプロピルラノレート、エトキシ化されたラノリン、エトキシ化されたラノリンアルコール、エトキシ化されたコレステロール、プロポキシ化されたラノリンアルコール、アセチル化されたラノリン、アセチル化されたラノリンアルコール、ラノリンアルコールリノレート、ラノリンアルコールリシノレエート、ラノリンアルコールリシノレエートの酢酸エステル、エトキシ化されたアルコールエステルの酢酸エステル、ラノリンの水素化分解物、エトキシ化された水素化ラノリン、エトキシ化されたソルビトールラノリン、及び、液体及び半固体のラノリン吸水性基剤は、ラノリンに由来する皮膚軟化薬の例である。
【0154】
多価アルコール及びポリエーテル誘導体:プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール2000及び4000、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、エトキシ化されたソルビトール、ヒドロキシプロピルソルビトール、ポリエチレングリコール200−6000、メトキシポリエチレングリコール350、550、750、2000及び5000、ポリ[エチレンオキシド]ホモポリマー(100,000−5,000,000)、ポリアルキルエングリコール及び誘導体、ヘキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、エトヘキサジオールUSP(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、C15−C18隣接グリコール、並びに、トリメチロールプロパンのポリオキシプロピレン誘導体は、材料のこのクラスの具体例である。
【0155】
多価アルコールエステル:エチレングリコールモノ脂肪酸エステル及びジ脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノ脂肪酸エステル及びジ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール(200−6000)モノ脂肪酸エステル及びジ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル及びジ脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール2000モノオレアート、ポリプロピレングリコール2000モノステアレート、エトキシ化されたプロピレングリコールモノステアレート、グリセリルモノ脂肪酸エステル及びジ脂肪酸エステル、ポリグリセロールポリ脂肪酸エステル、エトキシ化されたグリセリルモノステアレート、1,3−ブチレングリコールモノステアレート、1,3−ブチレングリコールジステアレート、ポリオキシエチレンポリオール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及び、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ここにおける使用に申し分ない多価アルコールエステルである。
【0156】
ワックスエステル:みつろう、鯨ろう、ミリスチン酸ミリスチレート、ステアリルステアレートなど。
【0157】
みつろう誘導体:例えば、ポリオキシエチレンソルビトールみつろう。これらは、エチレンオキシド含有量を変化させたエトキシ化されたソルビトールとみつろうの反応生成物であり、エーテル−エステルの混合物を生ずる。
【0158】
植物ろう:ブラジルロウヤシ及びカンデリラろうを含む。
【0159】
リン脂質:レシチン及び誘導体など。
【0160】
ステロール:コレステロール及びコレステロールの脂肪酸エステルは、具体例である。
【0161】
アミド:脂肪酸アミド、エトキシ化された脂肪酸アミド、固体脂肪酸アルカノールアミドなど。
【0162】
スキンコンディショニングを提供する特に有用な皮膚軟化薬は、グリセロール、ヘキサントリオール、ブタントリオール、乳酸及びその塩、尿素、ピロリドンカルボン酸及びその塩、アミノ酸、グアニジン、ジグリセロール及びトリグリセロールである。好ましいスキンコンディショニング剤は、プロポキシ化されたグリセロール誘導体である。
【0163】
触媒抗酸化化合物の試験
少なくとも1個のメチルスルホキシド及び/若しくはスルフィドメチル含有部位、又は、少なくとも1個のメチオニン及び/若しくはメチオニンスルホキシド部位を含む化学構造を有する所定のあらゆる分子が触媒抗酸化剤として作用する能力は、経験的に決定可能である。例えば、試験されるメチルスルホキシド基を含む分子(すなわち試験分子)を、その試験分子がMsrA、MsrB又はMsrファミリーの他のメンバーの基質として機能し得るか否かを示す酵素分析に供することができる(例えば、実施例1に記載されている下記NADPH分析、及び、実施例2に記載されている抽出分析を参照されたい。)。インビトロの細胞(例えば、MPP+による損傷を受けたPC−12細胞)において、又は、例えばショウジョウバエ若しくは酸化ダメージの哺乳類モデルといった動物対象において、酸化ストレスに対する抵抗性を増大させるその分子の能力を示す分析に試験分子供することもできる。例えば、下記実施例7、実施例8及び実施例9に記載されている分析を参照されたい。
【0164】
細胞における酸化ダメージの予防/回復
本発明の触媒抗酸化化合物は、細胞(例えば動物中の細胞)の酸化ダメージを軽減、予防、又は、逆行させるために使用可能である。この方法においては、天然に存在しない触媒抗酸化化合物を細胞に接触させる。細胞内に入った後に、この化合物は、還元された(スルフィド)形態であれば、ROSによってスルホキシドに酸化される(すなわち、ROS捕捉剤として作用する)。その後のMsr酵素によって触媒された還元は、元のスルフィドを再生する。その試験分子がメチルスルホキシド部位を含んでいれば、細胞内のMsr系によってスルフィドに還元され、次いで、抗酸化剤として作用する。図1に示すように、試験分子のようなスルフィド又はスルホキシドが存在すれば、酸化/還元サイクルは、化合物がROSを触媒的に破壊することができる。
【0165】
特定の化合物の有効性は、例えば、ROSを生ずる薬剤の投与に対する細胞又は動物の反応を決定するといった、インビトロ及びインビボにおける従来の分析を用いて評価することができる。例えば、細胞中のROSによって引き起こされる酸化ダメージを防ぐ能力について試験分子を評価するために、従来の方法で細胞を培養し、細胞内でROSを生ずる薬剤と共にその細胞を投与することができる。神経細胞におけるROSダメージの効果を試験するための例示的細胞系は、例えば、超酸化物及びその他の酸素ラジカルを生ずる薬剤であるMPP+による損傷を受けたPC−12細胞を使用する分析である。動物における試験化合物の有効性を評価するには、キイロショウジョウバエ(ミバエ)が優れた動物モデルである。ハエを、ROS(例えばパラコート)を生ずる薬剤で処理し、次いで、試験分子を含む飼料を与え、パラコートのみを与えたコントロールと比較してその生存期間について観察することができる。酸化ダメージの哺乳類モデルは、周知であり、特に、超過酸化物不均化酵素(SOD1)遺伝子における突然変異に基づいた筋萎縮性側索硬化症(ALS)のトランスジェニックマウスモデルを含む。
【0166】
動物対象
細胞に対する酸化ダメージは普遍的な現象であるので、本発明はあらゆる動物対象に適合すると考えられる。そのような動物の具体例の網羅的ではないリストには、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、並びに、サル、類人猿及びヒトなどの霊長類といった哺乳動物が含まれる。酸化ダメージに関係した疾病又は病状を有する動物対象は、これらの動物がその疾病の症状を軽減又は回復する可能性があるので、本発明における使用に好ましい。特に、炎症、気腫などの慢性閉塞性肺疾患、心臓発作又は脳卒中の後の再潅流ダメージ、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病及びALS)、慢性関節リウマチ、狼瘡及びクローン病などの自己免疫性疾患、早産に関係した病状、紫外線暴露によって引き起こされる病状、並びに、加齢関連病状(一例としては、加齢黄斑変性及び白内障形成を含む目の加齢関連性退行的病状)に罹患したヒト患者は、本発明における使用のための適切な動物対象である。ここに記載されている試験において、ROSダメージからの本発明の化合物による保護の有益な効果の実証に用いた動物は、ミバエ及びマウスである。それにもかかわらず、本明細書において教示されている方法を、医学又は獣医学において知られているその他の方法に適応させることによって(例えば、投与する物質の用量を対象動物の体重に従って調節することによって)、本発明の化合物及び組成物を、その他の動物における使用のために容易に最適化することができる。
【0167】
製剤
本発明の化合物は、医薬品組成物として製剤されてもよい。次いで、そのような組成物を、経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、直腸から、又は、局所的に、従来の薬学的に許容可能な非毒性の担体、添加物及び媒体を望ましく含む投与単位製剤として投与することができる。局所的投与は、ゲル及びローションの使用、並びに、経皮パッチ又はイオントホレシス装置などの経皮的投与を含んでいてもよい。ここで用いられている非経口投与という用語は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、胸骨内注射、吸入又は注入技術を包含する。
【0168】
薬剤の直腸投与用の坐薬を、ココアバター、合成のモノグリセリド、ジグリセリド若しくはトリグリセリド、脂肪酸、並びに、ポリエチレングリコールなどの常温で固体であるが、直腸温で液体であり、従って、直腸内で溶解してその薬剤を放出する適切な非刺激性添加剤とその薬剤を混合することによって調製することができる。
【0169】
本発明の方法及び組合せは1つ以上の利益を提供する。本発明の組合せは、各薬剤の用量をより低くすることができる。哺乳動物に投与する本発明の化合物、組成物、薬剤及び治療の用量を少なくすることによる利益には、高用量に伴う悪影響の発生を少なくすることが含まれる。
【0170】
局所的投与に適した製剤は、目、耳又は鼻への投与に適したリニメント剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤若しくはパスタ剤並びに滴下剤などのように、皮膚を経て治療を必要とする部位に浸透するのに適した液体製剤又は半液状製剤を含む。本発明の滴下剤は、水性若しくは油性の無菌溶液又は懸濁液を含んでいてもよく、好ましくは界面活性剤を含む殺菌剤及び/又は殺真菌剤及び/又はその他の適切な防腐剤の適切な水溶液中にその活性成分を溶解させることによって調製されてもよい。次いで、得られる溶液を、濾過によって浄化及び殺菌し、無菌技術による容器に移してもよい。滴下剤に混ぜるのに適した殺菌剤及び殺真菌剤の例は、硝酸フェニル水銀若しくは酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)並びにクロルヘキシジン酢酸エステル(0.01%)である。油性溶液の調製に適した溶媒には、グリセロール、希釈されたアルコール及びプロピレングリコールが含まれる。
【0171】
本発明の組成物を、単独で又は適切な担体又は添加剤と混合された医薬品組成物として、対象に投与することができる。
【0172】
本発明の方法において用いられるあらゆる化合物について、最初に細胞培養分析から治療的有効量を推定することができる。例えば、細胞培養において決定されるIC50を含む循環血漿中濃度範囲を動物モデルにおいて達成するように一用量を製剤することができる。そのような情報を用いてヒトにおける有効量をより正確に決定することができる。例えば、HPLCによって血漿中レベルを測定してもよい。
【0173】
例えば、太陽への暴露といった求められている特定の保護に応じて、そのような薬剤を製剤して全身的に又は局所的に投与してもよい。製剤及び投与の技術を「Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa.(1990)」においてみつけることができる。適切な経路は、数例を挙げると、経口、直腸、経皮、膣、口腔粘膜、腸における投与;筋肉内注射、皮下注射、髄内注射を含む非経口的送達、並びに、随腔内注射、直接的脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、若しくは、眼内注射を含んでいてもよい。
【0174】
上記組成物をあらゆる適切な製剤として対象に投与してもよい。本発明の他の態様においては、この組成物の局所的製剤によって正常細胞を癌から保護することに加えて、この組成物をその他の方法で送達することができる。例えば、この組成物を非経口的送達用(例えば、皮下注射用、静脈内注射用、筋肉内注射用、腫瘍内注射用)に製剤することができる。例えば、リポソーム送達又は組成物を含浸させた装置からの拡散といったその他の送達方法を用いてもよい。この組成物を、単回ボーラス注射、複数回注射、又は、(例えば、静脈から又は腹膜透析による)連続的注入によって投与してもよい。非経口投与用に、この組成物は、好ましくは発熱性物質を含まない殺菌された形態で製剤される。
【0175】
注射用に、本発明の薬剤を、水溶液中において、好ましくは、ハンクス溶液、リンゲル溶液又は生理食塩緩衝液などの生理学的に適合する緩衝液中に製剤してもよい。そのような口腔粘膜投与用には、浸透しようとする障壁に対して適切な浸透剤を製剤において用いる。そのような浸透剤は当業界において一般に知られている。
【0176】
本発明を実施するためにここにおいて開示されている化合物を全身投与に適した用量に製剤するための薬学的に許容可能な担体の使用は、本発明の範囲内である。適切な担体及び適切な生産手段を選択すれば、本発明の組成物、特に溶液として製剤した組成物を、静脈注射などのように非経口的に投与してもよい。この化合物を、当業界において広く知られている薬学的に許容可能な担体を用いて、経口投与に適した用量に容易に製剤することができる。そのような担体は、本発明の化合物を、治療される患者による経口摂取のための錠剤、ピル、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー及び懸濁液などとして製剤することを可能にする。
【0177】
細胞内に投与するように意図された薬剤を、当業者に広く知られた技術を用いて投与してもよい。例えば、そのような薬剤をリポソーム内に入れて、次いで、上記のように投与してもよい。リポソームは、水性内部領域を有する球状脂質二分子膜である。リポソーム形成時に水溶液中に存在するすべての分子がこの水性内部領域に組み込まれる。このリポソーム内容物は外の微環境から保護され、また、リポソームが細胞膜に融合するので、その内容物が細胞質中に効率的に送達される。さらに、それらの疎水性により、有機小分子を細胞内に直接的に投与することができる。
【0178】
本発明における使用に適した医薬品組成物は、その意図した目的を達成するために有効な量で活性成分が含まれている組成物を含む。その有効量の決定は、特に本明細書において提供されている詳細な開示を考慮した当業者の能力の充分に範囲内である。活性成分に加えて、これらの医薬品組成物は、その活性化合物を薬学的に使用可能な製剤に加工するのを容易にする添加剤及び助剤を含む薬学的に許容可能な適切な担体を含んでいてもよい。経口投与用に製剤した調製は、錠剤、ドラジェ、カプセル剤又は溶液の形態であってもよい。本発明の医薬品組成物を、例えば、従来の混合、溶解、粒状化、ドラジェ作成、浮遊化(levitating)、乳化、カプセル化、封入、又は、凍結乾燥プロセスといったそれ自体は知られている方法によって製造してもよい。
【0179】
局所的投与に適した製剤は、目、耳又は鼻への投与に適したリニメント剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤若しくはパスタ剤並びに滴下剤などのように、皮膚を経て治療を必要とする部位に浸透するのに適した液体製剤又は半液状製剤を含む。本発明の滴下剤は、水性若しくは油性の無菌溶液又は懸濁液を含んでいてもよく、好ましくは界面活性剤を含む殺菌剤及び/又は殺真菌剤及び/又はその他の適切な防腐剤の適切な水溶液中にその活性成分を溶解させることによって調製されてもよい。次いで、得られる溶液を、濾過によって浄化及び殺菌し、無菌技術による容器に移してもよい。滴下剤に混ぜるのに適した殺菌剤及び殺真菌剤の例は、硝酸フェニル水銀若しくは酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)並びにクロルヘキシジン酢酸エステル(0.01%)である。油性溶液の調製に適した溶媒には、グリセロール、希釈されたアルコール及びプロピレングリコールが含まれる。
【0180】
本発明のローション剤には、皮膚又は目に塗布するのに適したものが含まれる。目薬は、選択的に殺菌剤を含む無菌水性溶液を含んでいてもよく、滴下剤を調製する方法に類似した方法によって調製可能である。皮膚に塗布するためのローション剤又はリニメント剤は、アルコール又はアセトンなどの乾燥を促進して皮膚を冷やすための薬剤、及び/又は、グリセロール又はヒマシ油若しくは落花生油などの油脂といった保湿剤を含んでいてもよい。
【0181】
本発明のクリーム剤、軟膏剤又はパスタ剤は、外面塗布のための活性成分の半固形製剤である。これらは、細かく破断された又は粉末化された形態の活性成分を、単独で又は溶液として又は水性若しくは非水性の液体の懸濁液として、適切な機械の支援を用いて、脂肪性又は非脂肪性の基剤を用いて、混合することによって調製可能である。この基剤は、硬パラフィン、軟パラフィン若しくは流動パラフィンなどの炭化水素、グリセロール、みつろう、金属セッケン;粘質物;アーモンド、トウモロコシ、ナンキンマメ、キャスター若しくはオリーブオイルなどの天然由来の油脂;羊毛脂若しくはその誘導体又はステアリン酸若しくはオレイン酸などの脂肪酸とプロピレングリコールなどのアルコール、又は、マクロゲルで構成されていてもよい。この製剤は、ソルビタンエステル又はそのポリオキシエチレン誘導体などのような陰イオン性か、陽イオン性か、非イオンの界面活性などのような任意の適切な界面活性剤も組込むであってもよい。天然ゴム、セルロース誘導体などの懸濁化剤、又は、珪質シリカなど無機質原料、並びに、ラノリンなどのその他の成分が含まれていてもよい。
【0182】
非経口投与用の医薬製剤は、活性化合物の水溶液を水溶性形態で含む。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性注射懸濁液として調製してもよい。適切な親油性溶剤又は媒体は、胡麻油などの脂肪油、若しくは、オレイン酸エチル又はトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又は、リポソームを含む。水性注射懸濁液は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなどの懸濁液の粘度を増大させる物質を含んでいてもよい。選択的に、この懸濁液は、適切な安定剤又は化合物の溶解度を増大させて高濃縮溶液の調製を可能にする薬剤を含んでいてもよい。
【0183】
経口用途用の医薬品は、活性化合物を固体添加剤と混合し、選択的にその得られた混合物を顆粒化し、適切な助剤を加えた後にその顆粒の混合物を処理することによって得ることができ、必要に応じて錠剤又はドラジェコアを得ることができる。適切な添加剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含む糖;例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウムなどのセルロース製剤、及び/又は、ポリビニルピロリドン(PVP)といった充填材である。必要に応じて、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天又はアルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩といった崩壊剤を加えてもよい。
【0184】
ドラジェコアは適切なコーティングを具えている。この目的のために、アラビアゴム、滑石、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、及び/又は、二酸化チタン、ラッカー溶液、並びに、適切な有機溶媒若しくは混合溶媒を選択的に含んでいてもよい濃縮糖溶液を用いることができる。染料又は色素を錠剤又はドラジェのコーティングに加えて、活性化合物用量の様々な組合せを同定又は区別することができる。
【0185】
経口的に用いることができる医薬品は、ゼラチンで作られた押し込み型カプセル剤、並びに、ゼラチン及びグリセロール若しくはソルビトールなどの可塑剤で作られたソフト密閉カプセルを含む。この押し込み型カプセル剤は、ラクトースなどの充填材、デンプンなどのバインダー、並びに/又は、滑石若しくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤と、また、選択的に安定剤と混合状態で活性成分を含んでいてもよい。ソフトカプセル剤において、活性化合物は、脂肪油、液体パラフィン又は液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解又は懸濁していてもよい。さらに、安定剤を加えてもよい。
【0186】
組成物は、必要に応じて緩衝系を含んでいてもよい。緩衝系を選択することによって組成物のpHを所望の範囲内に維持又は緩衝する。ここで用いられている「緩衝系」又は「緩衝液」という用語は、水溶液中に存在するときに、酸又は塩基を加えたときのpH(又は水素イオン濃度又は活性)の大幅な変化に対してそのような溶液を安定化させる溶質剤を表す。従って、この溶質剤が、開始時の緩衝されたpH値からの上に示されている範囲内におけるpHの抵抗又は変化に関与していることは広く知られている。適切な緩衝剤は無数に存在するが、リン酸カリウム一水和物が好ましい緩衝液である。
【0187】
医薬品組成物の最終pH値は、生理的に適合する範囲内で変動してもよい。当然に、最終pH値は、ヒト皮膚を刺激しない値であり、また、好ましくは活性化合物、すなわち、スリンダク、パーオキサイド、三酸化二砒素の経皮的な輸送が容易になる値である。この制限から逸脱せずに、化合物の安定性を向上し、必要とされる濃度を調整するようにpHを選択してもよい。一実施形態において、好ましいpH値は約3.0乃至に約7.4であり、より好ましくは約3.0乃至約6.5であり、最も好ましくは約3.5乃至約6.0である。
【0188】
好ましい局所的送達媒体のために、組成物の残りの成分は、例えば脱イオン水といった必然的に精製された水である。そのような送達媒体組成物は、組成物の全重量に基づいて約50%乃至約95%の範囲の水を含む。しかしながら、特定量の水の存在は、決定的ではないが、所望の粘度(通常は約50cps乃至約10,000cps)及び/又はその他の成分の濃度を得るように調整することができる。局所的送達媒体は、少なくとも約30センチポアズの粘度を有していることが好ましい。
【0189】
その他の公知の経皮的皮膚浸透促進剤を用いて組成物の送達を容易にすることができる。具体例は、ジメチルスルホキシドなど(DMSO)などのスルホキシド;1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン(Azone(商標)、Nelson Research社の登録商標)などの環状アミド;N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジエチルトルアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルオクタミド、N,N−ジメチルデカミドなどのアミド;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、2−ピロリドン−5−カルボキシル酸、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、又は、これらの脂肪酸エステル、1−ラウリル−4−メトキシカルボニル−2−ピロリドン、並びに、N−獣脂アルキルピロリドンなどのピロリドン誘導体;プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、及び、ヘキサントリオールなどの多価アルコール;オレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、吉草酸、ヘプタン酸、カプロン酸、ミリスチン酸、イソバレルアルデヒド、ネオペンタン酸、トリメチル酸、ヘキサン酸、及び、イソステアリン酸などの直鎖脂肪酸及び分岐脂肪酸;エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、及び、リノリルアルコールなどのアルコール;ラウリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤;塩化ベンザルコニウム、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミドなどの陽イオン性界面活性剤;(例えば、ポロキサマー231、ポロキサマー182、ポロキサマー184などの)プロポキシ化されたポリオキシエチレンエーテル、(例えば、Tween20、Myrj45などの)エトキシ化された脂肪酸、(例えば、Tween40、Tween60、Tween80、Span60などの)ソルビタン誘導体、(例えば、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(Brij30)、ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(Brij93)などのエトキシ化されたアルコール、レシチン及びレシチンの誘導体などの非イオン性界面活性剤;D−リモネン、α−ピネン、β−カレン、α−テルピネオール、カルボール、カルボン、メントン、リモネンオキシド、α−ピネンオキシド、及び、ユーカリ油などのテルペンである。皮膚浸透促進剤としても適切なのものは、サリサイクリック酸、サリチル酸メチル、クエン酸、及び、コハク酸などの有機酸及びエステルである。
【0190】
組成物の投与
本発明の触媒抗酸化組成物を、ヒトを含む動物にあらゆる適切な製剤として投与してもよい。この組成物を、例えば、生理食塩水又は緩衝食塩水などの薬学的に許容可能な担体又は希釈剤中に製剤してもよい。投与の態様及び経路並びに標準的薬学的手順に基づいて、適切な担体及び希釈剤を選択することができる。その他の典型的な薬学的に許容可能な担体及び希釈剤並びに医薬品製剤の説明は、この分野の標準的なテキストであるRemington's Pharmaceutical Sciences及びUSP/NFにおいて見つけることができる。組成物を安定化させ及び/若しくは保持するために、又は、Msr系の活性を強めるために、その他の物質を組成物に加えてもよい。そのような活性を強める物質の1つは、Msrファミリーのメンバーによって触媒される反応に還元力を供給する分子であるNADPHの一部であるニコチン酸アミドであってもよい。
【0191】
あらゆる従来の技術によって本発明の組成物を動物に投与してもよい。そのような投与は、経口又は非経口(例えば、静脈内導入、皮下導入、筋肉内導入、腹腔内導入によるもの)であってもよいであってもよい。組成物を、例えば、内部若しくは外部のターゲット部位への外科的送達によって、又は、血管から近接可能な部位へのカテーテルによって、ターゲット部位に直接的に投与してもよい。その他の送達方法(例えば、リポソーム送達、組成物を浸透させた装置からの拡散)は、当業界において知られている。単回ボーラス、複数回注射、又は、持続的注入(例えば、静脈内に又は腹膜透析によって)によって組成物を投与してもよい。非経口投与用に、組成物を、発熱性物質を含まない殺菌された形態で製剤することが好ましい。
【0192】
細胞が含まれている液体に単に組成物を加えることによって(例えば、例えば臓器移植に又はインビトロ分析において用いる臓器のエクスビボにおける細胞操作中の酸化ダメージを予防するために)、インビトロにおいて本発明の組成物を細胞に投与することができる。
【0193】
有効用量
有効用量は、治療を行う動物又は細胞に所望の結果(例えば、動物又は細胞中の細胞に対する酸化ダメージの現象)をもたらすことができる量である。医学及び獣医学の分野において知られているように、任意の動物一頭のための用量は、特定の動物の大きさ、体表面積、年齢、投与する特定の組成物、投与の時間及び経路、健康状態、及び、同時に投与するその他の薬剤を含む多くの要因に応じて変わる。本発明の組成物の非経口又は経口投与のための適正な用量は、ヒトの体重1kg当たり約1μg乃至100mgの範囲内であると予想され、本発明の組成物は、ヒトの体重1kg当たり約0.1mg乃至10mgの範囲内であろう。培養中の細胞に使用するための有効用量は、変わるであろうが、(例えば、様々な濃度で細胞に加えて、所望の結果を最大限に生じさせる濃度を選択することによって)経験的に容易に決定することができる。適正濃度は約0.0001mM〜100mMの範囲内であると予想され、好ましくは適正濃度が約0.001mM〜5mMの範囲内である。以下に述べる方法によってさらに詳細な用量を決定することができる。
【0194】
LD50(集団の50%に対する致死量)及びED50(集団の50%に所望の結果をもたらす用量)を決定するための培養細胞及び/又は実験動物を用いて、標準的薬学的手法によって本発明の組成物の毒性及び有効性を決定することができる。大きなLD50/ED50比を示す組成物が好ましい。一般に毒性がより小さい組成物が好ましいが、適正なステップによって毒性の副作用が最小化される場合には、インビボにおける用途により毒性の強い組成物を用いてもよいことがある。
【0195】
細胞培養及び動物研究から得られるデータを用いてヒトで使用される適正な用量範囲を推定することができる。好ましい用量範囲は、組成物の毒性が殆ど又は全く生じさせない血中濃度となる範囲である。用量は、使用する組成物の形態及び投与の方法に応じてこの範囲内で変わってもよい。
【0196】
実施例
以下の詳細な実施例によって本発明をさらに説明する。いかなる態様においても本発明の範囲又は内容を限定するものとしてこれらの実施例を解釈してはならない。
【0197】
実施例1−スリンダクはMsrA酵素の基質である
酵素メチオニンスルホキシド還元酵素(MsrA)は、S配置にメチルスルホキシド基を含む基質に対して特異性を示すことがわかっている。この実施例は、メチルスルホキシド部位を含むことがわかっている抗酸化剤であるスリンダクがMsrAの基質として作用し得るという証拠を提供する。
【0198】
材料及び方法
【0199】
還元酵素分析
精製したMsr酵素を用いて、改良されたNADPH酸化分析によってスリンダク還元を測定することができる。50mMのトリス−Cl,pH7.4、15μgの大腸菌チオレドキシン、1μgの大腸菌チオレドキシン還元酵素、100ナノモルのNADPH、1μモルのスリンダク、及び、100〜400ナノグラムののMsrAを含む最終容積が500μlの反応混合物を調製した。インキューベーションを37℃において様々な回数で行った。
【0200】
分光測光法で340nmにおけるNADPHの酸化を測定することによって、合成された生成物(スリンダクスルフィド)の量を決定した。この波長においてスリンダクが非常に強く吸光するので、340nmにおける吸光度の損失を直接的に測定することはできなかった。これを達成するために、インキューベーションからスリンダク及びスリンダクスルフィド酢酸エチルを抽出によって以下のように除去した。インキューベーションの終了時に、500μlの0.5Mビス−トリス−Cl、pH5.5及び3mlの酢酸エチルを加えた。チューブを5秒間混合(攪拌)した(3回)。分離した後に有機相を除去し、3mlの酢酸エチルをさらに加えた。混合した後にこの有機相を再び除去した。2回の抽出によってスリンダク及びスリンダクスルフィドの実質的にすべてを除去し、水性相中に340nmにおいて測定されるNADPHを残した。スリンダクに依存した340nmにおける吸収の損失は、スリンダク還元の測定値である(340nmにおけるΔ0.062=10ナノモルの形成されたスリンダクスルフィド)。
【0201】
結果:大腸菌由来のMsrAを用いた還元酵素分析の結果を下記表1にまとめる。

【0202】
この結果は、スリンダクがMsrA酵素によって時間依存的及び濃度依存的態様で減少することを示している。
【0203】
実施例2−スリンダクはバクテリア及び哺乳動物のMsr酵素の基質である。
この実施例は、スリンダクが、大腸菌中のMsrA及び膜結合Msr、並びに、哺乳類組織中のMsrA及びおそらくはその他のMsr酵素の基質であることを実証する。
【0204】
材料及び方法
【0205】
化学製品、酵素及び基質
別段の定めがない限り、スリンダク(S)、スリンダクスルフィド(SS)、及び、他のすべての化合物及び大腸菌チオレドキシン還元酵素を、Sigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手した。チオレドキシン(大腸菌由来)をPromega(マディソン、ウィスコンシン)から購入した。N−アセチル−H−met−R、S−(O)、met−R−(O)、met−S−(O)、DABS−met−R−(O)、及び、DABS−met−S−(O)を以前に説明されているように調製した(Brot N. et al., Anal. Biochem. 122 (1982) 291-294; Lavine, F.T. J. Biol. Chem. 169 (1947) 477-491; Minetti G. et al., Ital. J. Biochem. 43 (1994) 273-283)。
【0206】
細菌酵素
大腸菌由来の組換えのMsrA及びMsrBを以前に説明されているように得た(Grimaud, R.et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 48915-48920; Rahman, M. A. et al., Cellular & Molecular Biology 38 (1992) 529-542)。free−S−Msr(fSMsr)、free−R−Msr(fRMsr)及びMsrA1並びに膜小胞関連Msr(mem−R,S−Msr)の部分的に精製されたDEAE画分を、大腸菌MsrA/B二重突然変異体から、(Etienne, F. et al., Biochem. & Biophys. Res. Comm. 300 (2003) 378-382;Spector, D. et al, Biochem.& Biophys.Res.Comm.302 (2003) 284-289)に説明されているように調製した。これらの酵素製剤は、以前に報告されているのと類似の比活性を有していた。
【0207】
哺乳類の酵素
4℃において子ウシ肝臓、腎臓及び脳抽出物を調製した。250mMのスクロース、10mMのトリス−Cl,pH7.4及び1mMのEDTAを含む緩衝液Aの5体積中において携帯型ホモジナイザを用いて、子ウシの各30グラムの組織(肝臓、腎臓、脳)を破砕した。この破砕物を加圧(6工程)し、1,500×gで10分間回転させ、ペレットを廃棄した。その上澄み(S−10)を10,000×gで10分間回転させた。S−10上澄みを100,000×gで12時間遠心分離機し、得られたペレット及び上澄み(S−100)を保存した。S100ペレットを冷却した緩衝液A中に懸濁し、100,000×gで4時間遠心分離した。洗浄したマイクロソームペレット(すべてのリボソームを含む)を、2mlの緩衝液A(S−100ペレット)に懸濁した。
【0208】
S10ペレットを20mlの緩衝液Aに懸濁してミトコンドリアを調製した。この懸濁液は、等しい体積の12%のフィコールを含む緩衝液A(上層)と7.5%のフィコールを含む緩衝液A(下層)とで構成された不連続フィコール勾配の最上に層を形成した。チューブを24,000×gで24分間遠心分離した。ペレットを緩衝液Aに再懸濁し、20,000×gで15分間遠心分離した。このペレット(ミトコンドリアを含む)を2mlの緩衝液Aに懸濁し、全画分を−80℃で保存した。
【0209】
生じたスリンダクスルフィドの還元酵素分析及び定量化
未処理の細胞画分を用いると、多量のNADPH酸化がある場合に、上記実施例1に記載されているNADPH分析を用いることはできない。未処理の細胞画分を使用するために、スリンダクスルフィドがベンゼン中に抽出される能力に基づいて抽出分析を開発した。スリンダクからスリンダクスルフィドへの還元のための反応混合物は、30μlの全体積中に:100mMのトリス−Cl,pH7.4;0.6μモルのグルコース−6−フォスフェート;50ナノグラムのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ;30ナノモルのNADPH;2.5μgのチオレドキシン、1μgのチオレドキシン還元酵素、50ナノモルのスリンダク及び様々な量のMsr酵素を含んでいた。別段の定めがない限り、37℃でインキューベーションを1時間行った。インキューベーションの終了時に、370μlの25mMのトリス−Cl,pH8.0、100μlのアセトニトリル及び1mlのベンゼンを各チューブに加えた。30秒間攪拌し、室温において1分間回転させた後に、ベンゼン相を除去し、350nmにおいて光学濃度を読み取った。50ナノモルのスリンダク(S)又はスリンダクスルフィド(SS)は、抽出手順を実行すると、それぞれ0.910及び0.030の光学濃度測定値を与えた。これらの条件下では、約2.5%のスリンダクが抽出された一方で、実質的にすべてのスリンダクスルフィドがベンゼン中に抽出された。子ウシ組織抽出液を用いたいくつかの試験においては、統計的に有意な値を得るために、標準的な30μlの反応混合物体積を3倍(90μl)にした。トリス緩衝液の体積を310μlに減らしたことを除き、抽出分析を変更しなかった。
【0210】
スリンダク(R、S混合物)を過剰なMsrA(4μg)及びDTTと共に、60分間又は反応が完結するまでインキュベートして、スリンダクのSエピマーを除去した。完結時に、第2インキューベーションにおいて酵素画分の追加によってみられるさらなる還元は、スリンダクのRエピマーの還元によるものであろう。
【0211】
いくつかの試験においては、生成物を薄層クロマトグラフィー(TLC)によっても確認した。インキューベーションの後に、未反応のスリンダク(S)及びスリンダクスルフィド(SS)生成物の両方を1mlの酢酸エチル中に抽出した。酢酸エチル相を除去し、室温において高速真空乾燥によって乾燥し、次いで、その残留物をTLCプレート上に乗せた5μlの酢酸エチルに懸濁した。このプレートを、ブタノール:酢酸:水(60:15:25)を溶媒として現像した。化合物はそれらの黄色で視覚化した。スリンダク及びスリンダクスルフィドのRf値は、それぞれ0.80及び0.95であった。
【0212】
結果
【0213】
上記方法において説明されている抽出分析を用いて、大腸菌由来の組換えMsrAがスリンダクをスリンダクスルフィドに還元できることがわかった。図3Aは、反応の経時変化を示しており、図3Bは、スリンダクの還元に対するMsrA濃度の効果を示している。この反応は、チオレドキシン還元系に依存していた。生成物(スリンダクスルフィド)は、TLCによって別に確認した。
【0214】
スリンダクは、mem−R,S−Msrの基質である。大腸菌は、Msrファミリーの少なくとも6個のメンバーを有していることがわかっている。表2を参照すると、これらのタンパクは、立体特異性、基質特異性、すなわち、遊離対タンパク結合Met(O)において異なり、また、細胞内位置、すなわち、可溶性であるか又は細胞膜に結合しているかにおいて異なる。msrA遺伝子及びmsrB遺伝子は、クローンされており、組み換えタンパクが精製されているが、その他の可溶性大腸菌Msr酵素(すなわち、fSMsr、fRMsr及びMsrA1)は、部分的にしか精製されておらず、DEAEセルロースクロマトグラフィー(Etienne, F. et al, Biochem. & Biophys. Res. Comm. 300 (2003) 378-382; Spector, D. et al, Biochem. & Biophys. Res. Comm. 302 (2003) 284-289)を用いた従来的分画方法によって分離されている。膜結合Msr(すなわち、mem−R,S−Msr)は、遊離した又はペプチドに結合したmet(o)のR型及びS型の両方に対する活性を有しており、膜小胞試料として存在していた。

括弧は非常に弱い活性を示している。
【0215】
表3を参照すると、スリンダクは、大腸菌及び部分精製酵素製剤からの非常に精製されたMsrA及びMsrBのための基質として比較された。この結果は、MsrA及びmem−R,S−Msrがスリンダクをスリンダクスルフィドに還元できることを示した。MsrA1によって非常に弱い活性がみられた。スリンダクは、ペプチドに結合したMet−S−(O)を認識するMsrBの基質ではなかった。

活性の単位は、1時間当たりに生じたSSのナノモルをとして定義されている。以下の酵素濃度:250ナノグラムのMsrA;10μgのMsrB;290μgのfRMsr;200μgのfSMsr;40μgのMsrAl;50μgの膜画分を用いた。
【0216】
ここで表4を参照すると、大腸菌の膜結合Msrは、おそらく1つを超えるMsr活性を含んでおり、主としてスリンダクのR型を還元することがわかる。これらの試験においては、RエピマーとSエピマーとの混合物であるスリンダク又はスリンダクのRエピマー(「方法」参照)のいずれかを基質として用いた。両者が同程度の活性を示した。これらの結果はR型が還元されていることを示しているが、決定的な確証を得るにはスリンダクの各エピマーの化学合成及び分析が必要になるかもしれない。

スリンダクのRエピマーは、Sエピマーを除去する方法に記載されているように、過剰なMsrAと共にスリンダク(R、S)をインキュベートすることによって得た。35μgの膜画分を用いた。
【0217】
哺乳類(ウシ)組織のスリンダクの還元
表5に示されている結果は、子ウシ肝臓、腎臓及び脳の未加工の破砕物(S−10画分、「方法」参照)がスリンダクを還元することができることを明らかにしている。試験を行った組織のうち、腎臓が最も高い特異的活性を有しており、脳が最も低い特異的活性を有していた。

様々なS−10画分の調製が「方法」に記載されている。特異的活性は、1時間当たりに生じるタンパク1mg当たりの生成物のナノモルとして与えられる。
【0218】
肝臓抽出物を分画し、ミトコンドリア,S−100及びS−100ペレット(マイクロソーム)を「方法」に記載されているように調製した。表6に示すように、3つの細胞の画分のすべてが、スリンダクをスリンダクスルフィドに還元することができた。活性の原因となる酵素の正体は決定されなかったが、予備的証拠は、過剰量のMet−S−(O)の追加が3つの画分のすべてにおいて活性を抑制したが、Met−R−(O)の追加がわずかな効果しかなかったという観察に基づいて、大部分においてMsrAが原因であることを示した。このように、原因となる酵素は、Met−S−(O)活性を有していた。遊離しMet(O)Msr酵素(すなわち、FSMsr及びFRMsr)がスリンダクを還元することができない(表2)ので、MsrAが、この活性の原因となる酵素である可能性が最も高い。

「方法」に記載されているように示されている肝臓画分を調製した。特異的活性は、1時間当たりに生じるタンパク1mg当たりの生成物のナノモルとして与えられる。
【0219】
実施例3−スリンダクメチオニン触媒酸化防止剤の合成
上に示されているように、スリンダクは、MsrBの基質ではなく、MsrAの基質である。スリンダクは、MsrA酵素によって認識されるメチルスルホキシド部位を含んでいるが、MsrA及びMsrB酵素のいずれによっても認識される基質であるN−メチオニンスルホキシド部位(図2参照)を含んでいない(表2)。この実施例は、メチオニンアミノ基がペプチド結合又はアミド結合中に存在するようにN−置換されたメチオニンを含むように修飾することによって、MsrBを含む複数のMsr酵素の基質として改良されたスリンダク誘導体の化学合成機構を説明する。
【0220】
化合物2a(1(Z)−5−フルオロ−2−メチル−1−[4−(メチルスルフィニル)フェニル]メチレン]−1H−インデン−3−[1−メチルチオメチレニル−2−アミノアセチル]プロパン酸)を図4Aに示す。化合物2aは、アミノ基を介してスリンダクのアセチル部位に結合したメチオニン基を含む。この化合物を、スリンダク及びメチオニンスルホキシドメチルエステルから以下のように合成した。テフロン撹拌バー及びゴム栓を備えた50mlの丸底フラスコにおいて、アルゴン雰囲気下で、1.4ミリモルのスリンダクを20mlのDMFに溶解させ、次いで、1.5モルのメチオニンスルホキシドメチルエステルを加えた。ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.2ミリモル)、トリエチルアミン(2.0ミリモル)及び4−ジメチルアミノピリジン(0.05ミリモル)を、反応フラスコ中に入れた。12時間後に、TLC分析(75%酢酸エチルを含むヘキサン)によって、生成物の形成がR=0.29であると示された。次いで、この反応混合物を、約6インチのシリカゲルで満たしてケイ砂栓で蓋をした2.5cmの直径フラッシュカラム上に置いた。以下の溶出順序:5%EtOAc/Hex(250ml)、30%EtOAc/Hex(500ml)、50%EtOAc/Hex(250ml)、及び、最終溶出の85%EtOAc/Hex(250ml)を用れた。化合物のHPLC解析(MeCN/HOの5%から95%までの45分間の勾配溶出)は、98%の純度で22.5分においてピークを示した。化合物2aのプロトンNMR分析を図8に示す。
【0221】
その他のスリンダクのメチオニン誘導体(すなわち、化合物3a)を図4Bに示す。α−炭素立体化学のコントロールを含む化合物3aの適切な合成機構を示す。この特定の合成方法においては、商業的に入手可能なスリンダク(ラセミ体)から合成を始める。ジアゾメタン(CH)を用いた処理によってスリンダクをそのメチルエステルに変換する。次いで、メチルエステルを強塩基で処理することによってエノラートを生じさせ、その後に、α−ブロモエステルをもたらすN−ブロモスクシンイミド(NBS)で停止させた(Kita et al, J. Am. Chem. Soc. 123:3214, 2001)。次いで、この中間体のエステル基を、Fukuyama et al., J. Am.Chem. Soc.116:3125, 1994,の方法に従って、ジイソブチルアルミニウム水素化物(DIBAL−H)を用いて第1級アルコールに選択的に還元して、中間体化合物1−3aを得た。中間体化合物2−3aをエポキシ化すると化合物1−3aが得られる。化合物2−3aをスルフィドメチルで処理するとβ−ヒドロキシスルフィド化合物3−3aが生じると予想される(Conte et al., Tetrahedron Lett. 30:4859, 1989)。パラトルエンスルホニルクロリド(TsCl)を用いて、化合物3−3aの水酸基を対応するトシラート(化合物4−3a)に変換する。O'Donnell (O'Donnell et al., J. Am. Chem. Soc. 111 :2353, 1989)の方法の伸展によって、化合物4−3aのトシラートは、キナノキアルカロイド不斉相間移動触媒の影響下において、保護されたジフェニルイミノ−グリシン誘導体と反応する。この反応は、α−炭素の立体配置を制御することによって、対応するα−イミノエステル(化合物5−3a)を与える。次いで、イミノ基及びtert−ブチルエステル基を加水分解することによって、目的の化合物3aが得られる。
【0222】
ここで図5Aを参照すると、スリンダクは、エノラート1−4aに容易に変換されるカルボキシルに隣接したメチレン基を含んでいる。リチウムジイソプロピルアミド(LDA)は、これらのタイプのエノラートを生じさせるために一般的に用いられる塩基である。中間体1−4aをブロモアセチルメチオニンスルホキシド(A)と反応させて、2−4aにみられる新しい炭素−炭素結合を生じさせるべきである。水酸化リチウムによってこの中間体を加水分解することによって、対応するカルボン酸誘導体(化合物4a)が得られる。
【0223】
図5Bは、化合物5aとして示されているさらに別の実施形態のスリンダクのN−メチオニン誘導体を説明する。化合物5aにおいて、スリンダク構造とN−アセチルメチオニン基とは、可変長のジアミン鎖によって連結されている。そのようなリンカー分子の使用は、組み合わせの合成方法によって、様々なメチオニン誘導体を生成する能力を提供する。以下のように化合物5aを得てもよい(図5B)。スリンダクは、DCCの作用下においてtert−ブトキシカルボニル(BOC)モノ保護されたジアミンに結合し、次いで、酸性条件下においてトリフルオロ酢酸(TFA)を用いてBOC保護基が除去される。この中間体をDCCの存在下においてN−アセチルメチオニンに結合させて化合物5aが得られる。化合物5aは、単一のエナンチオマー(又はスルホキシド位のエピマー)として容易に得られる。N−アセチルメチオニン部位の付加が好ましい。これらの部位が、N末端がブロックされたメチオニンスルホキシドを認識する酵素(MsrA及びMsrBなど)の基質として作用すると予想されるからである。代謝を最小限にするためにDアミノ酸が好ましい場合もある。スルホキシドのラセミ混合物(すなわち、R型及びS型の両方)は、遊離した又はタンパクに結合した形態のメチオニンスルホキシド(Rエピマー又はSのエピマーのいずれも)を認識する公知のMsrファミリー酵素のすべてではなくても大部分の基質として機能する化合物を所望する場合には、より好ましい。
【0224】
実施例4−サリチル酸及びメフェナム酸に由来するメチオニン触媒酸化防止剤の合成
この実施例は、触媒酸化防止剤及び抗炎症剤(COX阻害剤)のいずれとしても機能することができる二官能性化合物を調製するのに適した化学合成機構を説明する。
【0225】
上記のように、スリンダクはCOX阻害剤の一例である。この実施例は、その他のCOX阻害剤のメチオニン誘導体(すなわち、アセチルサリチル酸及びメフェナム酸)を記載する。これらの二機能性抗酸化化合物は、メチオニンのアミノ基をアミドの形態で含んでおり、好ましくは、その抑制作用に重要な親化合物においてみられるカルボキシル基を保持している。
【0226】
図6Aには、サリチル酸のメチルエステルから始まり、フェノール水酸基が、ブロモアセチルメチオニンスルホキシド(BAMS)として臭素を有する炭素と反応して中間体1−6aの酸素−炭素結合を形成することが示されている。メフェナム酸の場合には、アミン窒素においてBAMSとの反応が生じて中間体1−7a(図6B)が得られることが示されている。サリサイクリック酸及びメフェナム酸メチオニンスルホキシド誘導体を、水酸化リチウム(LiOH)との穏やかな加水分解反応を用いて、それぞれのカルボン酸生成物6a及び7aに変換することができる。
【0227】
実施例5−イブプロフェン、インドメタシン及びロフェコキシブ/バイオックス(登録商標)に由来するメチオニン触媒酸化防止剤の合成
図7には、イブプロフェン(図7A)、インドメタシン(図7B)及びロフェコキシブ/バイオックス(登録商標)(図7C)のそれぞれが、中間体1−8a及び中間体1−10aについて示されているカルボキシルに隣接したメチレン基又はエノラートに容易に変換されるスルホニル基を含んでいる。リチウムジイソプロピルアミド(LDA)は、エノラートを形成するために用いられる典型的な塩基である。中間体1−8a、1−9a及び1−10aは、ブロモアセチルメチオニンスルホキシドと反応して、中間体2−8a、2−9a及び2−10a中の新しい炭素−炭素結合を形成することが示されている。水酸化リチウムによってこれらの中間体を加水分解することによって、対応するカルボン酸誘導体(化合物8a、9a及び10a)が得られる。
【0228】
実施例6−スリンダクメチオニンスルホキシドはMsrA及びMsrBの基質である。
上に示されているように、スリンダクは、MsrBの基質ではなく、MsrAの基質である。図4Aを参照すると、修飾されていないスリンダクは、メチルスルホキシド部位を含んでいるが、その構造内にMsrB酵素に必要とされる基質であるメチオニンスルホキシド部位を含まない。上記実施例4に記載されていているスリンダクのN−アセチルメチオニンスルホキシド誘導体であるスリンダクメチオニンスルホキシド(SMO)は、メチルスルホキシド及びメチオニンスルホキシドの両方を含む(例えば、図4Aの化合物2aを参照されたい)。この実施例は、SMOがMsrA及びMsrB酵素の両方の基質として機能することができることを実証する。
【0229】
材料及び方法
【0230】
SMOの合成
実施例3に説明されている合成経路に従ってスリンダクメチオニンスルホキシド(SMO)を合成した。化合物2aをこれらの試験に用いた。
【0231】
還元酵素分析及び薄層クロマトグラフィー(TLC)
スリンダク(S)及びスリンダクメチオニンスルホキシド(SMO)の還元の分析のために、反応混合物を重複して調製した。混合物は、30μlの全体積中に:100mMトリス−Cl,pH7.4、15mMのDTT、100ナノモルのS又はSMO、3μgのMsrA酵素、又は、21μgのMsrB酵素を含んでいた。37℃において2時間のインキューベーションを行い、それが終了した時に、重複したサンプルを混合して高速真空装置中において室温で乾燥させた。残留物を50μlのエタノール中に懸濁し、次いで、それをシリカゲルTLCプレート上に載せた。ブタノール:酢酸:水(60:15:25)を溶媒としてこのプレートを現像した。化合物をそれらの黄色によって視覚化した。
【0232】
結果
【0233】
上で論じられているように、MsrAは、遊離した又はペプチドが結合したメチオニン(すなわち、Met(O))だけでなくその他の分子内の官能基として存在し得るメチルスルホキシド部位を還元できることがわかっている。対照的に、MsrBは、Met(O)のみを還元することができ、ペプチド結合中のMet(O)に最良に機能する(表2参照)。従って、MsrA及びMsrBの公知の基質特異性に基づいて、MsrA及びMsrBとスリンダク及びSMOとの反応時にいくつかの異なる生成物が予想される。例えば、(図2に示されているように)スリンダク(S)の構造はメチルスルホキシドのみを含んでいるので、MsrAによるSの還元によってスリンダクスルフィドが生じる。MsrBによるスリンダクの還元は、スリンダク中にはメチオニンスルホキシドが存在しないため、生成物を生じさせるとは予想していかった。修飾されていないスリンダクとは対照的に、SMOは、スリンダクのメチルスルホキシド基、及び、メチオニン基に含まれているメチルスルホキシドのいずれをも含む(例えば、図4Aの化合物2a参照)。従って、SMOのMsrAとの反応は、いずれか一方又は両方のメチルスルホキシド基が還元されたいくつかの可能な生成物、すなわち:スリンダクスルフィドメチオニンスルホキシド(SSMO)、スリンダクメチオニン(SM)、又は、スリンダクスルフィドメチオニン(SSM)を生成することができた。しかしながら、MsrBによってメチオニンスルホキシドのみが還元されるはずであり、予想される生成物はSMである。
【0234】
図9は、様々なインキューベーションのTLCの結果、すなわち、MsrA+S(レーン1);MsrA+SMO(レーン2);MsrB+S(レーン3)及びMsrB+SMO(レーン4)を示している。図9において、示されている基質及び反応生成物は:S−スリンダク;SS−スリンダクスルフィド;SM−スリンダクメチオニン;SSM−スリンダクスルフィドメチオニン;SMO−スリンダクメチオニンスルホキシド;SSMO−スリンダクスルフィドメチオニンスルホキシドである。基質、生成物、及び、TLCプレート上の標準的泳動を矢印によって示す。
【0235】
酵素分析の結果は以下を実証している。レーン1は、スリンダクがMsrAの基質であることを示すSSの存在を示している。レーン2は、SMOがMsrAの基質であること及び両方のメチルスルホキシド基が還元され得ることを実証するSSM、SM及びSSMOの生成を示している。レーン3は、修飾されていないスリンダクがMsrBの基質ではないことを実証するSのみを示している。対照的に、レーン4は、SMOがMsrBの基質であることをSMの生成によって示している(図9)。従って、スリンダクのメチオニン誘導体(すなわち、SMO)が、MsrA及びMsrB酵素の両方の基質として作用できることが示されている。
【0236】
実施例7−スリンダクは、ショウジョウバエにおいて酸化ストレスに対する耐性を向上させる
この実施例は、メチルスルホキシド部位を含む抗酸化剤であるスリンダクが、ROSの生成によってハエを殺すことが知られている薬剤を接種したハエの寿命を延ばすことができることを実証する。
【0237】
材料及び方法
【0238】
パラコートは、細胞内においてスーパーオキシドラジカルを生成することが知られている細胞毒性化合物である。異なる3つの濃度のパラコート(すなわち、2.5mM、5mM及び10mM)で試験を行った。異なる濃度のスリンダクを含む又は含んでいない(コントロール)リンゴジュース媒体(33%リンゴジュース、1.7%スクロース、及び、2.7mg/mlのメチルパラベンカビ防止剤を含む3.5%寒天)によって、ハエ(ショウジョウバエ)を3日間飼育した。3日間25℃にして、ハエを試験バイアル瓶に移してカウントした。
【0239】
結果
【0240】
2.5mMのパラコートで処理を行ったグループにおいて、治療を行っていないコントロールグループは、パラコート暴露から3日後及び6日後に、それぞれ、約80%及び約25%のハエが生存していた。対照的に、2mMのスリンダクで処理を行ったハエは、3日後及び6日後の時点において、それぞれ、約95%及び60%が生存していた(図10)。さらに高い濃度のパラコートに暴露させたグループにおいても同様の結果が観察された。例えば、10mMのパラコートに暴露させたグループにおいて、2日後及び3日後の生存率は、それぞれ、コントロールにおいては約50%及び約17%であったが、スリンダク処理を行ったグループにおいては約85%及び約57%であった。これらの結果は、MsrAの基質であるメチルスルホキシドを含む化合物の投与が、パラコートに暴露させたハエの寿命を延ばすことができることを実証している。先の研究によって、遺伝子導入されたハエにおけるMsrA酵素の過剰発現がそのハエの寿命を延ばすことが示されている。このデータは、有害なROS種に対する保護効果を提供することができるMsr系の基質の細胞内レベルを増大させ、酸化ストレスの条件下における寿命の伸長をもたらすという証拠を提供する。
【0241】
実施例8−スリンダクは、MPP+によって酸化ダメージを受けた神経細胞の細胞生存率を向上させる
この実施例は、インビトロにおいて及びパーキンソン病のインビボ動物モデルにおいてドーパミン作動性ニューロンを選択的に破壊する毒性化合物であるMPP+による損傷を受けた後のPC−12細胞に対するスリンダクの保護効果を実証する。
【0242】
材料及び方法
【0243】
MPP+神経毒素
神経毒素である1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)は、ヒト及び霊長類に与えると、いずれにおいてもパーキンソン病に非常に似た臨床的症候群を生じさせる。この化合物は、モノアミン酸化酵素Bによって1−メチル−4−フェニルピリジニウム(MPP+)に代謝され、次いで、ドーパミン作用性末端によって選択的に取り込まれ、黒質内の神経ミトコンドリア中に濃縮される。MPP+は、電子伝達連鎖の複合体1を抑制し、フリーラジカルの生成によってこの複合体を不可逆的に不活性化すると考えられている(Hartley A., Stone J.M., Heron C, Cooper J.M., and Schapira A.H.V. J. Neurosci. 63:1987-1990, 1994)。MPP+は、インビボ及びインビトロにおいて超酸化物合成を増加させる。超過酸化物分解酵素を過剰発現するトランスジェニックマウスにおいてMPP+ダメージが軽減されることは、フリーラジカルがその神経毒性に関与していることを示している。
【0244】
細胞培養
まず、9cmのディッシュ内において、PC−12細胞を、高グルコース(Gibco#11195−065)、5%ウシ胎仔血清及び10%ウマ血清を含むダルベッコ修飾イーグル培地中において一晩培養した。次いで、その細胞を6cmのディッシュに移し、グルコースを含まない同じ溶媒中において、唯一のエネルギー源としてナトリウムピルベート(Gibco#11966−025)を用いることによって増殖させた。これらの細胞を、0.1mM、0.2mM又は0.5mMの濃度のスリンダク(Sigma)で48時間にわたって予備的に処理し、スリンダクを含む培地を除去し、新しい溶媒で置換した。その後、0.2mMの最終濃度でMPP+を含む培地中でこの細胞を24時間培養した。コントロール細胞をMPP+を含まない培地中で培養した。24時間の期間の終わりに、トリパンブルー排除によって細胞の生存率を分析した。
【0245】
結果
【0246】
表7の結果は、この化合物による24時間の処理の後に約85%の細胞の死滅(15%の細胞生存率)を生じさせおり、0.2mMのMPP+がPC−12細胞に対して非常に毒性が強かったことを示している。MPP+損傷前のスリンダクによる予備処理は、試験を行った最大濃度(すなわち0.5mM)による予備処理の後に約35%の細胞死(65%の細胞生存率)と共に用量反応性を示しており、細胞死に対して保護的であった。MPP+の非存在下において、スリンダクは、細胞の生存率に対して効果がなかった。

【0247】
実施例9−スリンダクは、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)のトランスジェニックマウスモデルの寿命を延ばす
この実施例は、MsrA酵素の基質として作用するメチルスルホキシド含有化合物であるスリンダクが、有意に寿命を延ばし、運動ニューロン細胞数を増加させ、超過酸化物不均化酵素(SOD1)の突然変異をベースとしたALSのマウスモデルにおいて運動能力を改善することができるという証拠を与える。
【0248】
材料及び方法
【0249】
ALSは、一般に原因不明の成人発症性神経変性疾患である。ALSは、最も一般的には散発性であり、約10%のケースが常染色体優性の家族性型として遺伝している。家族型のケースの約20%はCu/Zn SODの変異形態を伴うことが現在わかっている(Rosen, D.R., et. al, (1993) Nature 362:59-62)。そのタンパクは突然変異を有している(ALS患者において100以上の様々なSOD突然変異が記録されている)が、なお、酵素的に活性である。酸化ダメージは、突然変異タンパクの毒性に関する主要な仮説の1つである。この研究において用いた動物は、ALS患者において説明されている突然変異をモデル化するSODの変異形態を発現する。
【0250】
ヒトALS患者においてみられるものと類似したSODの変異形態を発現するトランスジェニックマウスをこの研究に用いた。G93AヒトSOD1(G1H/+)突然変異を有するオスのトランスジェニックマウス(B6SJL-TgN (SOD1-G93A)1 Gur; Jackson Laboratories, ME)を、メスのB6SJLマウス(Jackson Laboratories, ME)と繁殖させるために用いた。F1世代を、尾部のDNAを用いたポリメラーゼチェーン反応(PCR)によってG93A突然変異について遺伝子型特定を行い、SOD1遺伝子に由来する2つの特定のプライマーについて遺伝子型特定を行った。
【0251】
スリンダク投与
G93Aマウスを、生後30日に開始した飼料中に混ぜた2つの異なる用量、すなわち300PPM、450PPMのスリンダクで処理した。3つのグループ(すなわち、300PPM、450PPMのスリンダク及びコントロール)を検討した。各グループの運動能力をロータロッド試験によって評価し、生存期間を記録した。
【0252】
運動機能試験
ロータロッド装置(Columbus instruments社、コロンバス、オハイオ)に習熟するようにマウスを2〜3日間訓練した。G93Aマウスにおいて60日齢から開始してロータロッドパフォーマンスを評価した。12rpmで回転するロッド上にマウスを配置することからこの試験を始めた。マウスがロッド上に残った落ちるまでの時間を、そのマウスの運動機能の能力の測定値として記録した。3回のトライアルを行い、その3回のトライアルのうちの最良の結果を、運動パフォーマンスの状態を表すものとして記録した。作業を行うことができなくなるまでマウスを週2回試験した。
【0253】
生存期間
G93Aのトランスジェニックマウスにおける疾病の初期兆候は休止時振戦であり、これは、末期において歩行障害、後肢の非対称的若しくは対称的な麻痺並びに究極的に完全な麻痺に進行する。側面を押した後に20秒以内に転がることができなかった時点でマウスを屠殺した。マウスを屠殺したこの時点を生存期間として決定した。
【0254】
光学顕微鏡免疫細胞化学
マウスに、冷却した0.1Mのリン酸塩緩衝食塩水(PBS)を1分間で経心臓的にかん流させ、次いで、4%パラホルムアルデヒドを含む冷却したPBS中を10分間で経心臓的にかん流させた。脊髄を素速く除去し、冠状にブロックし、4%パラホルムアルデヒドを含むPBS中において後固定を6時間行った。ブロックを、30%スクロース中で24時間凍結保護し、低温保持装置上において35マイクロメートルの厚さに切断した。すべてのプロトコルは、動物研究用NIHガイドライン内で実行され、Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC)によって承認された。
【0255】
連続横断面(厚さ50μm)を低温保持装置上で切断し、Niss1染色用に回収した。ステレオ調査システム(Microbrightfield社、コルチェスター、バーモント)の光学分画装置及び核形成促進剤プローブを用いて、ニューロンの容積及び数について各第4切片を分析した。各マウスから得た腰髄の6個の組織切片を分析した。水平線の下の前角内から灰白質を通って中心管の腹面境界までのすべての細胞をカウントした。顕微鏡写真をZeissAxiophotII顕微鏡で得た。
【0256】
統計分析
測定した生後の生存期間についてカプラン−マイヤー試験を用い、死亡分析の平均年齢についてフィッシャー試験を用い、及び、運動能力についてシェフェ検定を用いて、生存期間の統計分析を行った。
【0257】
結果:
【0258】
図11を参照すると、450PPMのスリンダクで処理を行ったG93Aマウスは、平均131.17±10.9日間生存した。これは、コントロールマウスと比較して7%の増加であった。コントロールマウスは、平均123.16±11日間(P=0.083)生存した。300PPMのスリンダクで処理を行ったG93Aマウスは、平均生存期間が135.17±11.4日(P=0.02)であり、コントロールと比較して長い生存期間(10%の増加)を示した。
【0259】
図11に示されているデータのいくつかの統計的検定の結果を表8に示す。

【0260】
ロータロッドパフォーマンス時間によって評価されるように、スリンダクで処理を行ったグループは、運動能力が有意に向上した(図12)。脊髄切片の顕微鏡分析によって、スリンダクで処理を行ったマウスは、G93Aコントロールと比較して、有意に多い数の運動性ニューロンを有していることが明らかになった(図13)。300PPMのスリンダクグループと450PPMのスリンダクグループとの差は、有意ではなかった(図13及び表9)。

【0261】
実施例10:R−エピマー及びS−エピマー分離
スリンダクのR−エピマー及びS−エピマーは、キラルカラム及びHPLCを用いて分離可能である。スリンダクエピマーは、分取キラルカラムを用いて、本研究用にスケールアップされた充分な量でラセミ混合物から分離及び単離された。キラルカラム(R,R)−Welk−01キラルのカラム(25cm×4.6mm)をRegis Technologies社(ミルトングローブ、イリノイ)から購入した。図15に示すように、スリンダクの2つのエピマーは、図15の凡例に記載されている条件下でかなり充分に分離された。22.5分後及び28分後に溶出する2つのピークが観察された。ピークチューブを混合し、溶媒を蒸散させた。次いで、分離されたエピマーを、1MのトリスCl,pH7.4に溶解させた。どのエピマーが各ピーク中に存在しているかを決定するために、各ピーク中の物質を、大腸菌MsrA及び15mMのDTTと共にインキュベートした、これによってS−エピマーがスリンダクスルフィドに変換される。インキューベーションの終了時に、還元された生成物をベンゼン中に抽出し、前に説明されているように350nmにおいて光学濃度を読み取った。28分に溶出したピークがスリンダクのS−エピマーであると決定された。
【0262】
図16に示すように、正常な心筋細胞において、スリンダクのR−エピマーは、凡例に記載されている条件下で、S−エピマーと比較してほとんどスルフィドに変換されなかった(10分の1よりも小さい変換率)。
【0263】
表10は、2つの正常細胞株(肺細胞及び心筋細胞)が、RエピマーをSエピマーほどには効率的に還元しない(<10% R/S)ことを示している。しかしながら、3つの癌細胞株(肺、HeLa及び皮膚SCC)においては、正常細胞においてみられた変換率(10%未満)とは異なって、R−エピマーの変換率が高い(40%以上)。スリンダクのR−エピマーの有意な還元は、正常細胞においてはみられなかったが、いくつかの悪性細胞において観察された。
【0264】
規定の無血清培地(EX−CELL(登録商標))中において、細胞を200μMのR−スリンダク又はS−スリンダクのエピマーと共に4時間インキュベートした。インキューベーション後に細胞を回収し、すすぎ、アセトニトリルで溶解させた。細胞質ゾル内容物をC−18カラムで分離した。
【0265】

【0266】
実施例11:癌の予防及び治療
正常な肺細胞を500μMのスリンダク(R+S;それぞれ約50%)、500μMのスリンダク−R(>99%のR;<1%のS)又は500μMのスリンダク−S(>99%のS;<1%のR)で48時間処理した。エピマーのラセミ混合物から、上記プロセスに類似したキラルカラムを用いて、スリンダク−R及びスリンダク−Sサンプルを得た。それらの細胞を、洗浄し、次いで、示されている濃度のtert−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)に2時間暴露させた。標準的なMTS分析を用いて細胞の生存率を測定した。4回の反復試験サンプルの平均値から0.12のバックグラウンド吸光度を引いた。濃度が等しい時間間隔で存在していないので、データは棒グラフとしてプロットされている。誤差バーは、4回の反復試験サンプルの標準誤差である。そのプレートから得た処理を行っていないサンプルを用いて、このデータを3個の別々のグラフで与える。
【0267】
これらの結果は、スリンダク−Rが、保護を与えることのみでなく、スリンダク−(R+S)又はスリンダク−Sと比較してさらに強い保護を与えることを示している。スリンダク−(R+S)についての結果は、本発明者らによって行われた以前の試験に類似しており、〜80μM〜100μMのTBHPの後で保護が急速に低下した。スリンダク−Sは、〜180μMのTBHP濃度に対する保護を与え、その誤差バーは、〜220μMのTBHPにおいて重複し始めている(図17参照)。スリンダク−Rについて、340μMのTBHPに保護の証拠がある(図18参照)。
【0268】
図19に示すように、ラットへのスリンダクのRエピマーの供与は、虚血及び再潅流による酸化ダメージから心臓を保護する。これらの試験において、ラットに、飼料中の0.1mgのスリンダクのRエピマーを2日間摂取させた。心臓を除去して45分間虚血し、次いで、ランゲンドルフ法を用いて2時間潅流(再潅流)した。乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出について分析することによって細胞ダメージを測定した。
【0269】
その他の実施形態
この明細書は、どのようにして本発明の組成物及び方法を考案し、実行することができるかを例示するものである。その他の詳細な実施形態に到達するときに様々な詳細を修正してもよく、それらの実施形態の多くは本発明の範囲内となるであろう。従って、本発明の範囲及び本発明に包含されている実施形態を公衆に知らせるために、特許請求の範囲を添付する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において正常細胞をダメージから保護する方法において:
スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を含む組成物であって、前記のスリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物が少なくとも約0.010重量対重量%の濃度を有する組成物を提供するステップと;
少なくとも1つの生細胞を治療的有効用量の前記スリンダクに接触させるステップと;
対象において正常細胞をダメージから保護するステップと、を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物が、およそ0.001重量対重量%から100重量対重量%の濃度範囲で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を含む前記組成物を、全身に、腹膜内に、静脈内に、皮下に、筋肉内に、及び、局所的に投与することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、スリンダク、スリンダク、その誘導体、その代謝産物及びその構造的類似化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、R−エピマースリンダク、その誘導体、その代謝産物及びその構造的類似化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、S−エピマースリンダク、その誘導体、その代謝産物及びその構造的類似化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、スリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物の1つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、可変比率のスリンダク、R−エピマースリンダク、S−エピマースリンダク、これらの誘導体、これらの代謝産物及びこれらの構造的類似化合物を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記スリンダクの比率:R−エピマースリンダク:S−エピマースリンダクが、およそ0〜1000であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、環境的ダメージ、病状、微生物又は太陽光線を含むダメージから正常細胞を保護することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が正常細胞を酸化ダメージから保護することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2011−520808(P2011−520808A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508574(P2011−508574)
【出願日】平成21年5月4日(2009.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/042703
【国際公開番号】WO2009/137400
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(510292685)フロリダ アトランティック ユニバーシティー (1)
【氏名又は名称原語表記】FLORIDA ATLANTIC UNIVERSITY
【出願人】(500201277)
【Fターム(参考)】