説明

正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池、及び正極活物質の製造方法

【課題】リチウム二次電池のバナジウムの溶出を回避し、これにより優れたサイクル特性を得ることが可能な正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池、及び正極活物質の製造方法を得る。
【解決手段】リン酸バナジウムリチウム粒子が、LiFePO4で被覆されてなること正極活物質を用いることで、バナジウムの溶出が回避され、長期サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池でが得られた。また、メカノケミカル処理により、LiFePO4をリン酸バナジウムリチウム粒子の表面に安定的に結着させ、安定な正極活物質を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、特にリン酸バナジウムリチウムを含む正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池、及び正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスは、近年、電気機器等の電源として使用されており、さらに、電気自動車(EV、HEV等)の電源としても使用されつつある。そして、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスは、その更なる特性向上、例えばエネルギー密度の向上(高容量化)、出力密度の向上(高出力化)やサイクル特性の向上(サイクル寿命の向上)、高い安全性等が望まれている。
【0003】
小型電気機器等に使用されているリチウムイオン二次電池の多くはLiCoO2や同様の結晶構造をもつLiCo1-x-yxy等(M、M=金属元素)を正極活物質として用いたものであり、高容量、高寿命の蓄電デバイスを実現している。しかしながら、これらの正極活物質は、異常発生時の高温高電位状態等において、激しく電解液と反応し、酸素放出を伴って発熱し、最悪の場合、発火に至る場合がある等の問題がある。
【0004】
近年、高温高電位状態でも熱安定性に優れた正極活物質としてポリアニオン系正極材料、例えばオリビン型Fe(LiFePO4)や類似結晶構造を有するオリビン型Mn(LiMnPO4)等が検討され、一部、電動工具用途等で実用化に至っている。これらのポリアニオン系材料は強固な結晶構造を持ち、高温高電圧時にも酸素を放出しにくいという特徴がある。
【0005】
しかしながら、LiFePO4は、作動電圧がLi/Li基準に対して3.3〜3.4Vであり、汎用電池に使用されている正極活物質の作動電圧に比べて低いため、エネルギー密度や出力密度の点で不十分である。また、LiMnPO4は、作動電圧がLi/Li基準に対して4.1Vであり、160mAh/gの理論容量を有することから高エネルギー密度の電池が期待できるが、材料自身の抵抗が高く、出力密度が上がりにくい。
【0006】
このため強固な結晶構造を持ち、更に作動電圧が高い正極材料の開発が望まれていた。
【0007】
最近では、強固な結晶構造を持つことにより熱安定性に優れ、かつ作動電圧の高い正極材料としてナシコン型リン酸バナジウムリチウム、すなわちLi32(PO43が注目されている。Li32(PO43は3.8V(対Li+/Li電位)という高い電位を持ち、4.2V充電時に120〜130mAh/g、4.6V充電時に150〜180mAh/gという高いエネルギー密度を得ることができる正極活物質ではあるものの、上記高電圧下で繰り返し使用することにより、一般には容量劣化を免れない。
【0008】
すなわち、リチウムイオン二次電池の電解液内には、侵入した水分の影響によりHFが副生し、Li32(PO43に作用すると、バナジウムが溶出して負極に析出するため、Li32(PO43がその理論容量を維持できなくなるためである。
【0009】
この問題を回避すべく、特許文献1にはLi32(PO43粒子を空気中で酸化処理しLi32(PO43粒子表面に3価を超えるバナジウムの化合物を配し、これを正極活物質として用いることで、高温環境下におけるバナジウムの溶出を抑制し、高温での充放電サイクル特性に優れた非水電解質電池を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2009−231206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1によると、Li32(PO43粒子の空気中での酸化処理は、制御が難しく、酸化処理をしてもLi32(PO43粒子表面に3価を超えるバナジウム化合物が必ず必要量配されるわけではなく、酸化処理が不十分となれば高温環境下におけるバナジウムの溶出や、充放電サイクル特性の低下が回避できない。また、酸化反応が進行し過ぎると抵抗の高い3価を超えるバナジウム化合物が過剰に増加して放電容量や出力密度の低下が起こる。
【0012】
従って、本発明は、上述の従来の不具合がなく、リチウムイオン二次電池のバナジウムの溶出を回避し、これにより優れたサイクル特性を得ることが可能な正極活物質、これを用いたリチウムイオン二次電池、及び正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者等は、リン酸バナジウムリチウム粒子が、LiFePO4で被覆されてなることを特徴とする正極活物質を見出した。
【0014】
本発明の正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極に適用すると、リン酸バナジウムリチウムからのバナジウムの溶出が抑制され、長期サイクル特性が向上するため、電池の寿命が長期化する。
【0015】
上記リン酸バナジウムリチウムは、Li2−y(PO4)で表され、Mは原子番号11以上の元素、例えばFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上であり、1≦x≦3、0≦y<2、2≦z≦3を満たす材料であると好ましい。このうち、特に、Li32(PO4)3が好適に用いられる。
【0016】
上記Li2−y(PO4)、特にLi32(PO4)3は、高いエネルギー密度を有しているため、長期使用可能な大容量のリチウムイオン二次電池を構成することができる。
【0017】
更に、正極活物質は、リン酸バナジウムリチウム:LiFePO4の質量割合が(99.5:0.5)〜(50:50)の範囲にあると好ましい。
【0018】
本発明では、リン酸バナジウムリチウムと被覆材料のLiFePO4の双方が、正極活物質として機能する。リン酸バナジウムリチウムに比較してLiFePO4のエネルギー密度は劣るが、上記質量割合のリン酸バナジウムリチウムを保持することにより、正極活物質全体を高エネルギー密度の材料として利用することができる。
【0019】
また、LiFePO4が、メカノケミカル処理によりリン酸バナジウムリチウム粒子表面に結着していると好ましい。
【0020】
また、リン酸バナジウムリチウム粒子の表面は、露出部分を有さずに、LiFePO4により一定の膜厚で均一に被覆されていると好ましい。
【0021】
これにより、リン酸バナジウムリチウム粒子表面のいずれの箇所からもバナジウムの溶出が抑制される。
【0022】
LiFePO4の上記の膜厚は0.01μm〜10μmの範囲にあると好ましい。
これにより、リチウムイオンの移動を妨げることなく、バナジウムの溶出が抑制される。
【0023】
更に、本発明により、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解液と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池が得られる。
【0024】
すなわち、リン酸バナジウムリチウム本来の優れた放電容量を確保しつつ、バナジウム
の溶出を回避し、優れたサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池が得られる。
【0025】
また、本発明ではメカノケミカル処理により、LiFePO4をリン酸バナジウムリチウム粒子の表面に結着させることを特徴とする、LiFePO4で被覆されたリン酸バナジウム粒子の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の正極活物質は、リン酸バナジウムリチウム粒子が、LiFePO4で被覆されてなる。
【0027】
この正極活物質、乃至これを含むリチウムイオン二次電池は、サイクル特性、特に高電圧条件下でのサイクル特性が向上されている。
【0028】
更に、本発明の製造方法では、メカノケミカル処理により、LiFePO4をリン酸バナジウムリチウム粒子の表面に結着させることが可能となり、リン酸バナジウム粒子がLiFePO4で安定的に被覆された正極活物質が製造可能とされた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例におけるリチウムイオン二次電池の放電容量維持率の推移を表すグラフである。
【図4】本発明の実施例及び比較例におけるリチウムイオン二次電池の高電圧印加時における放電容量維持率の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明では、リチウムイオン蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池に使用可能な正極材料が得られる。
【0031】
[正極活物質]
本発明では、リン酸バナジウムリチウム(以下、LVPともいう)粒子をLiFePO4(以下、LFPともいう)で被覆してなる材料を正極活物質とする。正極活物質はLiFePO4で被覆されたリン酸バナジウムリチウム粒子(以下、LVP−LFPともいう)のみから構成されてもよいが、他の材料との混合物とすることも可能である。
【0032】
ただし、活物質(混合物)全体の質量に対して、LVP−LFPは10質量%以上含まれていると好ましく、30質量%以上含まれていると更に好ましい。
【0033】
LVPはエネルギー密度が大きい優れた活物質であるが、特に高電圧下でバナジウムが溶出しやすい。従って、LiFePO4で被覆されたリン酸バナジウムリチウム粒子として用いることにより、高電圧付加と、これによる高出力が可能となる上、バナジウム溶出が防止されてサイクル特性が向上する。
【0034】
1.リン酸バナジウムリチウム(LVP)
本発明において、リン酸バナジウムリチウムとは、
Li2−y(PO4)
で表され、
MがFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上であり、
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦x≦3
を満足する材料を意味する。
【0035】
本発明では、LVPとして、ナシコン型(NASICON(ナトリウム・スーパーイオンコンダクター)型)のリン酸バナジウムリチウム、すなわちLi2(PO4)3が好ましく使用される。
【0036】
本発明において、LVPは、どのような方法で製造されても良く、製造法に特に制限されない。LVPは、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる。
【0037】
本発明では、LVP粒子が球形又は略球形であると好ましく、安定性や密度への影響を考慮すると、LVPの二次粒子の粒度分布におけるD50が0.5〜25μmであることが好ましい。
【0038】
上記D50が0.5μm未満の場合は、電解液との接触面積が増大し過ぎることからLVPの安定性が低下する場合があり、25μmを超える場合は密度低下のため出力が低下する場合がある。
【0039】
上記の範囲であれば、より安定性が高く高出力の蓄電デバイスとすることができる。LVPの二次粒子の粒度分布におけるD50は1〜10μmであることが更に好ましく、2〜5μmであることが特に好ましい。なお、この二次粒子の粒度分布におけるD50は、レーザー回折(光散乱法)方式による粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0040】
また、リン酸バナジウムリチウムは、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面が導電性カーボンの被膜加工が行われた粒子であってもよい。この場合、導電性カーボンの被膜量はC原子換算で0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0041】
導電性カーボン被膜の加工は、公知の方法で行うことができる。例えば、カーボン被膜材料として、クエン酸、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ショ糖、メタノール、プロペン、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を用い、上述のLi32(PO43製造の反応時や焼成時に混合すること等によって表面に導電性カーボン被膜を形成させることができる。
【0042】
2.オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4(LFP))
本発明で使用されるオリビン型リン酸鉄リチウムについても、特に製造法に制限はなく、市販材料を用いることができる。
【0043】
また、オリビン型リン酸鉄リチウムは、例えば、酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム等のリチウム源と、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等のリン源と、Fe元素を含有するシュウ酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩等のFe源を混合し、反応、焼成する等により製造できる。
【0044】
なお、リチウム源とリン源を兼ねる化合物であるリン酸リチウムや、リン源とFe源を兼ねる化合物のリン酸塩を原料として用いてもよい。
【0045】
また、オリビン型リン酸鉄リチウムは、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面が導電性カーボンの被膜加工が行われた粒子であってもよい。この場合、導電性カーボンの被膜量はC原子換算で0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0046】
LiFePO4は平均粒径0.01μm〜10μmの粒子状ないし粉体状であると好ましく、これによりLVPの表面に均一に付着させることが容易となる。
【0047】
また、リン酸バナジウムリチウム(LVP)のエネルギー密度を十分に活用するためには、リン酸バナジウムリチウム:LiFePO4の質量割合が(99.5:0.5)〜(50:50)、好ましくは(99:1)〜(70:30)の範囲とされるようにLVP-LFPを構成するとよい。
【0048】
[正極活物質の製造方法]
本発明の正極活物質は、LVPがLFPに被覆された状態、すなわちLiFePO4がLVP粒子表面に結着した材料であればよい。
【0049】
リン酸バナジウムリチウムに対するLiFePO4の被覆方法に、特に制限はないが、リン酸バナジウムリチウム粒子の表面の全体にわたり、好ましくはリン酸バナジウムリチウム表面に露出部分を生じさせず、LiFePO4が一定の膜厚で均一に被覆されているとよい。LiFePO4の膜厚が0.01μm〜10μm、特に0.1μm〜2.5μmの範囲にあると好ましい。
【0050】
0.01μm以下であるとバナジウムの溶出が生ずる可能性であり、10μm以上であるとLFPの含有率が過剰となり放電容量が低下するためである。被覆方法に特に制限はないが、LFPをLVP粒子表面に結着し、正極に適用しても容易には剥離しない方法、例えばメカノケミカル処理(メカニカルミリング)、塗布(流延、浸漬等を含む)等が挙げられる。
【0051】
本発明に用いられるメカノケミカル処理とは、摩擦、圧縮等の機械エネルギーにより固体物質の粉砕処理を行うことにより、この処理の過程で局部的に生じる高いエネルギーを利用して、処理対象の固体に結晶化反応、固溶反応、相転位反応等の化学反応を生じさせる処理をいう。
【0052】
本発明の正極活物質の製造方法の具体例としては、例えば、リン酸バナジウムリチウム粒子とLiFePO4粒子とをボールミル(例、遊星ボールミル、振動ボールミル、転動ボールミル)等の磨砕機を用いて混合するメカニカルミリング処理により行われる。さらには、LiFePO4粒子及び必要によりバインダ、溶剤を加えた塗布液と、リン酸バナジウムリチウム粒子を混合し、加熱乾燥(必要により焼成)することにより行うこともできる。
【0053】
本発明の被覆処理は、メカニカルミリング処理によると好ましく、特にボールミルを用いる方法が特に好ましい。例えば、遊星ボールミルを用いた場合、ポットが自転回転しながら台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率よく発生させることができるため好ましい。これにより、リン酸バナジウムリチウム粒子の表面に部分的に接するようにLiFePO4粒子を比較的短時間で被覆することができる。
【0054】
また、ボールミルのポットの回転数は100rpm以上であることが好ましい。ポットの回転数が100rpm未満になると、リン酸バナジウムリチウム粒子の表面に少なくとも部分的に接するようにLiFePO4を配置するためのエネルギーが不足するためである。
【0055】
リン酸バナジウムリチウム粒子とLiFePO4粒子とを混合する時間は2時間以内であることが好ましい。ポットの回転数が100rpm以上で、リン酸バナジウムリチウム粒子とLiFePO4粒子とを2時間以上混合した場合、リン酸バナジウムリチウム粒子の結晶構造が崩壊し、充放電特性が劣化するためである。
【0056】
ボールミルのポットの材質は、例えば、ZrO等のセラミックであり、その寸法は、直径5〜30cm、高さ5〜30cmの円筒形、ボールは、その材質は、例えばZrO等のセラミックであり、その寸法は、:直径0.5〜1cmの球形である。
【0057】
この他、ハイブリダイゼーションシステムによる処理、回転流動装置による処理、およびレーザアブレーションシステムによる処理等を用いることができる。
【0058】
これにより、LVPの結晶構造が安定化するとともに、LVPとLiFePO4とが強固に結着する。ここで、結着とは、LVPとLiFePO4とが物理的に吸着している状態、隙間なく密接している状態、および化学的に結合している状態、またはこれらの複数の状態を含むことを意味する。
【0059】
[正極]
本発明における正極は、上述の正極材料を含んでいれば良く、それ以外は公知の材料を用いて作製することができる。具体的には、以下のように作製することができる。
【0060】
上記正極材料、結合剤、及び導電助剤を含む混合物を溶媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体上に塗布、乾燥を含む工程により正極合材層を形成する。乾燥工程後にプレス加圧等を行っても良い。これにより正極合材層が均一且つ強固に集電体に圧着される。正極合材層の厚みは10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0061】
正極合材層の形成に用いる結合剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダ、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース等が使用できる。結合剤は、本発明の蓄電デバイスに用いられる非水電解液に対して化学的、電気化学的に安定な含フッ素系樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく、特に含フッ素系樹脂が好ましい。含フッ素系樹脂としてはポリフッ化ビニリデンの他、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体及びプロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。結合剤の配合量は、上記正極合材量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0062】
正極合材層の形成に用いる導電助剤としては、例えばケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム及びタングステン等の金属、酸化インジウム及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等が使用できる。導電材の配合量は、上記正極活物質に対して1〜30質量%が好ましい。
【0063】
正極合材層の形成に用いる溶媒としては、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が使用できる。
【0064】
正極集電体は正極合材層と接する面が導電性を示す導電性基体であれば良く、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電性基体や、非導電性の基体本体を上記の導電性材料で被覆したものが使用できる。導電性材料としては、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金又は導電性カーボンが好ましい。正極集電体は、上記材料のエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。多孔質体の場合の貫通孔の形状や個数等は特に制限はなく、リチウムイオンの移動を阻害しない範囲で適宜設定できる。
【0065】
また、本発明においては、正極合材層の目付けを4mg/cm以上、20mg/cm以下とすることで、優れたサイクル特性を得ることができる。目付けが4mg/cm未満または20mg/cmを超えると、サイクル劣化が生じる。なお、目付けが大きいほど高容量が得られる。正極合材層の目付けは10mg/cm以上、20mg/cm以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう目付けとは正極集電体の一方の面側の正極合材層の目付けを意味する。正極合材層を正極集電体の両面に形成する場合には、一方の面および他方の面の正極合材層がそれぞれ上記範囲に含まれるよう形成される。
【0066】
また、本発明においては、正極合材層の空孔率を35%以上、65%以下とすることで、優れたサイクル特性を得ることができる。正極合材層の空孔率が35%未満ではサイクル劣化が生じる。正極合材層の空孔率が65%を超えても、優れたサイクル特性は維持できるが、容量や出力が低下するため好ましくない。正極合材層の空孔率は40%以上、60%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
[負極]
本発明において負極は、特に制限はなく、公知の材料を用いて作製することができる。例えば、一般に使用される負極活物質及び結合剤を含む混合物を溶媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体上に塗布、乾燥等することにより負極合材層を形成する。なお、結合剤、溶媒及び集電体は上述の正極の場合と同様なものが使用できる。
【0068】
負極活物質としては、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、又はリチウムインターカレーション炭素材料が挙げられる。
【0069】
リチウム系金属材料は、例えば金属リチウムやリチウム合金(例えば、Li−Al合金)である。金属とリチウム金属との金属間化合物材料は、例えば、スズ、ケイ素等を含む金属間化合物である。リチウム化合物は、例えば窒化リチウムである。
【0070】
また、リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素材料等の炭素系材料、ポリアセン物質等が挙げられる。ポリアセン系物質は、例えばポリアセン系骨格を有する不溶且つ不融性のPAS等である。なお、これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。負極合材層の厚みは一般に10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0071】
また、本発明においては、負極合材層の目付けは、正極合材層の目付けに合わせて適宜設計される。通常、リチウムイオン二次電池では、正負極の容量バランスやエネルギー密度の観点から正極と負極の容量(mAh)がおおよそ同じになるように設計される。よって、負極合材層の目付けは、負極活物質の種類や正極の容量等に基づいて設定される。
【0072】
[非水電解液]
本発明における非水電解液は、特に制限はなく、公知の材料を使用できる。例えば、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液を使用できる。
【0073】
電解質としては、例えば、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0074】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4-メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオトリル等又はこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0075】
非水電解液中の電解質濃度は0.1〜5.0mol/Lが好ましく、0.5〜3.0mol/Lが更に好ましい。
【0076】
非水電解液は液状でも良く、可塑剤やポリマー等を混合し、固体電解質又はポリマーゲル電解質としたものでも良い。
【0077】
[セパレータ]
本発明で使用するセパレータは、特に制限はなく、公知のセパレータを使用できる。例えば、電解液、正極活物質、負極活物質に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性の無い多孔質体等を好ましく使用できる。このような多孔質体として例えば、織布、不織布、合成樹脂性微多孔膜、ガラス繊維などが挙げられる。合成樹脂性の微多孔膜が好ましく用いられ、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好ましい。
【0078】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスとしては、上述の正極材料を含む正極と、負極と、非水電解液とを備えている。
【0079】
以下に本発明の蓄電デバイスの実施形態の一例として、リチウムイオン二次電池の例を、図面を参照しながら説明する。
【0080】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池20は、正極21と、負極22とがセパレータ23を介して対向配置されている。
【0081】
正極21は、本発明の正極材料を含む正極合材層21aと、正極集電体21bとから構成されている。正極合材層21aは、正極集電体21bのセパレータ23側の面に形成されている。負極22は、負極合材層22aと、負極集電体22bとから構成されている。
【0082】
負極合材層22aは、負極集電体22bのセパレータ23側の面に形成されている。これら正極21、負極22、セパレータ23は、図示しない外装容器に封入されており、外装容器内には非水電解液が充填されている。外装材としては例えば電池缶やラミネートフィルム等が挙げられる。また、正極集電体21bと負極集電体22bとには、必要に応じて、それぞれ外部端子接続用の図示しないリードが接続されている。
【0083】
次に、図2は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態の別の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池30は、正極31と負極32とが、セパレータ33を介して交互に複数積層された電極ユニット34を備えている。正極31は、正極合材層31aが、正極集電体31bの両面に設けられて構成されている。負極32は、負極合材層32aが負極集電体32bの両面に設けられて構成されている(ただし、最上部および最下部の負極32については、負極合材層32aは片面のみ)。
【0084】
また、正極集電体31bは図示しないが突出部分を有しており、複数の正極集電体31bの各突出部分はそれぞれ重ね合わされ、その重ね合わされた部分にリード36が溶接されている。負極集電体32bも同様に突出部分を有しており、複数の負極集電体32bの各突出部分が重ね合わされた部分にリード37が溶接されている。リチウムイオン二次電池30は、図示しないラミネートフィルム等の外装容器内に電極ユニット34と非水電解液が封入されて構成されている。リード36,37は外部機器との接続のため、外装容器の外部に露出される。
【0085】
なお、リチウムイオン二次電池30は、外装容器内に、正極、負極、又は正負極双方にリチウムイオンをプレドープする為のリチウム極を備えていてもよい。その場合には、リチウムイオンが移動し易くするため、正極集電体31bや負極集電体32bに電極ユニット34の積層方向に貫通する貫通孔が設けられる。
【0086】
また、リチウムイオン二次電池30は、最上部および最下部に負極を配置させたが、これに限定されず、最上部および最下部に正極を配置させる構成でもよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
(1)正極の作製
以下の材料から正極合剤を調整した。
LiFePO4(粒径:2μm) 1質量部
Li32(PO43(粒径:5μm) 92質量部
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)) 5質量部
ケッチェンブラック 2質量部
N−メチル2−ピロリドン(NMP) 100質量部
【0089】
Li32(PO43粒子とLiFePO4粒子とを遊星ボールミル(ポット:形状:直径10cm、高さ12cmの円筒形、材質;ボール:直径0.8cmの球形、材質ZrO)に投入し、回転数300rpmで2時間回転させ、LiFePO4粒子による被覆を有するLi32(PO43粒子(正極活物質)を得た。なお、LiFePOとLi32(PO43はカーボンをC原子換算で1.4質量%被覆したものを用いた。
【0090】
また、得られた正極活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDS)で分析することにより、Li32(PO43粒子表面は、露出部を有さずに、LiFePOにより均一に被覆されていることを確認した。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて分析した結果、LiFePOの膜厚はおおよそ2〜4μmであった。
【0091】
このように得られた正極活物質と、残りの材料を混合し、正極合剤スラリーを得た。
正極合剤スラリーをアルミニウム箔(厚み30μm)の正極集電体に塗布、乾燥し、正極集電体上に正極合材層を形成した。正極合材層の目付けは(片面当たり)15mg/cmであった。
【0092】
(2)負極の作製
以下の負極合材層用材料を混合して、負極合剤スラリーを得た。
活物質(グラファイト) ; 95質量部
結合剤(PVdF) ; 5質量部
溶媒(NMP) ;150質量部
【0093】
負極スラリーを銅箔(厚み10μm)の負極集電体に塗布、乾燥し、負極合材層を負極集電体上に形成した。負極合材層の目付けは(片面当たり)7mg/cmであった。
【0094】
(3)電解液の作成
エチレンカーボネート(EC)を28.2質量%と、エチルメチルカーボネート(EMC)を27.9質量%と、とジメチルカーボネート(DMC)を30.5質量%と、6フッ化リン酸リチウム(Li−PF6)を12.4質量%の割合で混合し、非水電解液を製造した。
【0095】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
上述のように作製した正極9枚と、負極10枚とを用いて、図2の実施形態で示したようなリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、正極及び負極を、ポリエチレンセパレータを介して積層し、得られた積層形スタックの周囲をテープで固定した。
【0096】
積層形スタックの正極側にアルミニウム金属タブを、負極側に銅タブを溶接し、各正極集電体のタブを重ねてアルミニウム金属リードを溶接した。同様に各負極集電体のタブを重ねてニッケル金属リードを溶接した。これを104mm×140mm×10mmのアルミラミネート外装材に封入し、正極リードと負極リードを外装材外側に出して、電解液封入口を残して密閉融着した。電解液封入口より上記非水電解液を注液し、真空含浸にて電極内部に電解液を浸透させた後、ラミネートを真空封止した。
【0097】
(比較例1)
正極活物質として、メカノケミカル処理を施していないLi32(PO43を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0098】
(比較例2)
Li32(PO43をLiCoO2粒子(粒径14μm)に変更して、LiCoO2粒子の表面にLiFePO4をメカノケミカル処理により結着させたものを正極活物質として用いた以外は実施例1と同様の操作を行行い、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0099】
(比較例3)
正極活物質として、メカノケミカル処理を施していないコバルト酸リチウムLiCoO2(粒径14μm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0100】
(比較例4)
Li32(PO43をLiMn23粒子(粒径14μm)に変更して、LiMn23粒子の表面にLiFePO4をメカノケミカル処理により結着させたものを正極活物質として用いた以外は実施例1と同様の操作を行行い、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0101】
(比較例5)
正極活物質として、メカノケミカル処理を施していないLiMnO2(粒径14μm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0102】
各電池の性能を評価するために以下の試験を行った。
【0103】
(5)充放電試験
(5−1)容量維持率の測定(充電電圧・・・4.2V)
実施例1及び比較例1〜5により作製したリチウムイオン二次電池の正極リードと負極リードとを、充放電試験装置(富士通アクセス社製)の対応する端子に接続した。この電池を、充電電流レートを1C、充電電圧を4.2Vとして2.0時間定電流定電圧充電し、放電電流レートを0.5C、放電終止電圧を2.5Vとして放電する、サイクル試験を1000サイクル行った。
【0104】
1000サイクル後の容量維持率を下式により求めた。
放電容量維持率(%)=Nサイクル目の放電容量(Ah)/1サイクル目の放電容量(Ah)×100(1≦N≦1000)
4.2V印加時の容量維持率の推移を図3に示す。
【0105】
(5−2)高電圧印加による容量維持率の測定(充電電圧・・・4.5V)
実施例1及び比較例1により作成したリチウムイオン二次電池について、充電電圧を4.2Vから4.5Vに変更した以外は、上記(5−1)と同様の上記と同様の条件下で、充放電試験を行った。
【0106】
高電圧(4.5V)印加時の容量維持率の推移を図4に示す。
【0107】
なお、上記の充電及び放電電流レート(C)は以下の式で示される。
電流レート(C)=電流値(A)/電池電流容量(Ah)
【0108】
すなわち、例えば1Cとは公称容量値の電流容量を有する電池を定電流放電して、ちょうど1時間で放電終了となる電流値、0.25Cは公称容量値の容量を有する電池が4時間で放電終了となる電流値を意味する。
【0109】
図3及び4より、本発明の正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れ、高電圧印加時でも放電容量維持率の低下が少ないことがわかる。
【0110】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0111】
20、30 リチウムイオン二次電池
21、31 正極
21a、31a 正極合材層
21b、31b 正極集電体
22、32 負極
22a、32a 負極合材層
22b、32b 負極集電体
23、33 セパレータ
34 電極ユニット
36、37 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸バナジウムリチウム粒子が、LiFePO4で被覆されてなることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
リン酸バナジウムリチウムが、
LixV2−y(PO4)
で表され、
MがFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる一種以上であり、
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦x≦3
を満足する材料であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
リン酸バナジウムリチウムが、Li32(PO4)3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
リン酸バナジウムリチウム:LiFePO4が質量基準で(99.5:0.5)〜(50:50)の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
LiFePO4が、メカノケミカル処理によりリン酸バナジウムリチウム粒子表面に結着していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
リン酸バナジウムリチウム粒子の表面は、露出部分を有さずに、LiFePO4により均一に被覆されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項7】
LiFePO4の膜厚が0.01μm〜10μmの範囲にあることを特徴とする請求項6に記載の正極活物質。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解液と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
メカノケミカル処理により、LiFePO4をリン酸バナジウムリチウム粒子の表面に結着させることを特徴とする、LiFePO4で被覆されたリン酸バナジウム粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−84449(P2013−84449A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223591(P2011−223591)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】