説明

正極活物質、リチウム二次電池、および正極活物質の製造方法

【課題】本発明は、大電流での放電特性およびサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質であって、上記固体粉末は、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することを特徴とする正極活物質を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流での放電特性およびサイクル特性の向上を図ることができる正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機電解質を用いたリチウム二次電池において、正極には主にLiCoO等、負極には主にグラファイト等が用いられている。実際の電池使用の際には、Li1−xCoOの組成において、x=0.5程度しかLiが使用されていなかった。なお、これを充電電圧に置き換えると約4.2Vである。近年、携帯機器の高機能化および消費電力の増大、並びに電気自動車およびハイブリッド自動車の開発・普及等により、リチウム二次電池の一層の高エネルギー密度化が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化の方法として、正極活物質(例えばLiCoO)からのLi脱離量を増大させる方法が挙げられる。Liを多く引き抜くことによって、容量増加が見込むことができる。また、Liを多く引き抜くことは充電電圧を上昇させることにもつながる。しかしながら、この方法には以下のような問題点があった。すなわち、例えば、正極活物質としてLiCoOを用いた場合は、Liを多く引き抜くと、結晶構造の破壊が生じたり、充電電圧を上昇させたことによる有機電解質の酸化分解が生じたり、遷移金属の溶出による電極−電解液界面のインピーダンスの増大が生じたりするという問題があった。さらに、これらの問題により、サイクル特性の低下が懸念されている。
【0004】
サイクル特性の問題に対して、種々の金属酸化物(例えばAl、ZrO、TiO、SiO、SnO)を正極活物質(例えばLiCoO)に被覆することにより、サイクル特性の改善させる方法が知られている。例えば特許文献1においては、容易に価数変化しないリチウムを含むリン酸塩で表面被覆された正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。これにより、電解質の酸化分解や正極活物質粒子からの酸素の離脱が抑制され、サイクル性が向上する。しかしながら、大電流における放電特性およびサイクル性が共に十分ではないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2007−5267号公報
【特許文献2】特開2006−344523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、大電流での放電特性およびサイクル特性の向上を図ることができる正極活物質を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明においては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質であって、上記固体粉末は、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することを特徴とする正極活物質を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記正極活物質が上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末を有することにより、有機電解質の分解を抑制し、サイクル特性の向上を図ることができる。また、上記固体粉末が、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することから、大電流での放電特性およびサイクル特性の向上を同時に図ることができる。さらに、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤において、例えば、Mgの代わりにCoを含む場合と比べて体積あたりの重量が軽くなるという利点を有する。
【0009】
また、本発明は、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、上記正極活物質および上記負極活物質の間でリチウムイオンを伝導させる有機電解質とを有し、上記正極活物質が、上述した正極活物質であることを特徴とするリチウム二次電池を提供する。
【0010】
本発明によれば、上述した正極活物質を用いることにより、大電流での放電特性およびサイクル特性に優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0011】
さらに、本発明は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質の製造方法であって、LiO、MgO、Pを含む原料混合物を機械的に混合・摩砕する際、遊星型ボールミルの台盤回転数が200rpm〜600rpm、処理時間を1時間〜100時間で処理をすることにより結晶化させ、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有する固体粉末を形成する結晶化工程と、上記固体粉末と上記活物質担体とを混合することにより、上記固体粉末を上記活物質担体の表面の少なくとも一部に被覆させる固体粉末被覆工程と、を有することを特徴とする正極活物質の製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、上記活物質担体と、上記固体粉末とを混合するのみで、上記活物質担体の表面の少なくとも一部に固体粉末が被覆された正極活物質を容易に作製することが可能である。さらに、上述の正極活物質の製造方法の結晶化工程にて得られる結晶体および活物質担体を用いて固体粉末を表面に有する正極活物質を作製するので、高放電レート容量を維持でき、かつ、サイクル容量低下の抑制が可能なリチウム二次電池を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、大電流での放電特性およびサイクル特性の向上を図ることができる正極活物質を得ることができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、正極活物質、リチウム二次電池および正極活物質の製造方法に関するものである。以下、本発明の正極活物質、リチウム二次電池および正極活物質の製造方法について順に説明する。
【0015】
A.正極活物質
まず、本発明の正極活物質について説明する。本発明の正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質であって、上記固体粉末は、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することを特徴とするものである。
【0016】
このような正極活物質について、図を用いて説明する。図1は、本発明の正極活物質の一例を説明する説明図である。図1に示される正極活物質3は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体1と、活物質担体1の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末2と、を有するものである。さらに、図示しないが、固体粉末2は、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有する。
【0017】
本発明によれば、上記活物質担体の表面の少なくとも一部が被覆されることにより、活物質担体の表面の活性を低下させることができ、有機電解質の分解を抑制することができる。その結果、サイクル特性の向上を図ることができる。
【0018】
また、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆している上記固体粉末が、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することにより、電解質分解抑制作用によって有機電解質の酸化分解を抑制する。また、上記LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤および上記LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤は、リチウムイオン伝導性を有することも期待される。したがって、高電圧充電時のサイクル容量の低下および急速充放電時の容量の低下を同時に改善することができる。
【0019】
本発明によれば、活物質担体は、その表面に、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤およびLiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤を混合相として含む一次粒子を含有する固体粉末を有する。活物質担体の表面には、上記LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤からなる粒子と上記LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤からなる粒子とが別個に存在しているのではなく、上記LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤および上記LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤を混合相として含む一次粒子が存在している。すなわち、上述したように、活物質担体の表面には、上記LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤および上記LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤がミクロ相分離状態で存在している。これにより本発明においては、有機電解質の酸化分解の抑制することができる。また、リチウムイオンの伝導性を有することも期待できる。したがって、高電圧充電時のサイクル容量の低下および急速充放電時の容量の低下を同時に改善することができるものと思料される。特に、LiMgPOで表される電解質分解抑制剤およびLiPOで表される電解質分解抑制剤は共に結晶性であるので、電解質分解抑制剤そのものの特性、すなわち有機電解質の酸化分解を抑制する性質が充分に発揮されているものと思料される。
【0020】
さらに、本発明によれば、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤において、例えば、Mgの代わりにCoを含むLiCoPOを用いた場合と比べて体積あたりの重量が軽くなるという利点を有する。
【0021】
本発明の正極活物質は、少なくとも活物質担体と、固体粉末とを有するものである。また、本発明の正極活物質は上記以外のその他の材料を有していてもよい。
以下、本発明の正極活物質の各構成について、順に説明する。
【0022】
1.固体粉末
本発明に用いられる固体粉末について説明する。本発明に用いられる固体粉末は、活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆し、かつ、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することを特徴とするものである。
以下、このような固体粉末について詳細に説明する。
【0023】
本発明に用いられる固体粉末の平均粒径としては、活物質担体の平均粒径よりも小さければよいが、中でも活物質担体が充填されている隙間に入り込むことが可能な大きさであることが好ましい。具体的には、固体粉末の平均粒径は、活物質担体の平均粒径に対して1/1000倍〜1/2倍程度であることが好ましい。さらに具体的には、固体粉末の平均粒径は、例えば0.05μm〜5μmの範囲内、中でも0.07μm〜3μmの範囲内、特に1μm〜0.1μmの範囲内であることが好ましい。固体粉末の平均粒径が上記範囲であれば、活物質担体の表面に付着しやすくなるからである。また、固体粉末の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があり、固体粉末の平均粒径が大きすぎると、活物質担体の表面に付着することが困難となる場合があるからである。
【0024】
なお、固体粉末の平均粒径が、活物質担体の平均粒径よりも小さいことは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって、活物質担体および固体粉末の粒径を観察することにより、確認することができる。また、固体粉末の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される固体粉末の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0025】
本発明に用いられる固体粉末の正極活物質中における含有量としては、固体粉末に含有される他の化合物の種類によっても異なるが、具体的には、0.1重量%〜50重量%の範囲内、中でも0.5重量%〜20重量%の範囲内、特に1重量%〜10重量%の範囲内であることが好ましい。固体粉末が上記範囲より多いと相対的に活物質担体の含有量が少なくなるので、電池容量が低下する可能性があり、上記範囲より少ないと有機電解質の酸化分解を抑制し、リチウムイオン伝導性を向上させる効果が十分に得られない可能性があるからである。
【0026】
本発明に用いられる固体粉末の被覆量としては、活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆していればよいが、中でも、活物質担体の表面全部を被覆していることが好ましい。活物質担体の表面全部を被覆することにより、有機電解質の酸化分解抑制効果およびリチウムイオン伝導性をさらに向上させることができ、大電流での放電特性およびサイクル特性の向上を図ることができるからである。
【0027】
さらに、固体粉末は活物質担体の表面に均一に付着していることが好ましい。さらに、固体粉末は、活物質担体の表面に密に付着していてもよく、疎に付着していてもよい。また、密に付着している場合は、例えば有機電解質として有機電解液が用いられる際には、通常、有機電解液がしみ込む程度において密であることが好ましい。
【0028】
なお、固体粉末の形成方法については後述する「C.正極活物質の製造方法」の項で詳しく記載するのでここでの説明は省略する。
【0029】
本発明に用いられる固体粉末は、少なくとも、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有するものである。
以下、このような固体粉末の各構成について順に説明する。
【0030】
(1)一次粒子
本発明における一次粒子は、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含むものである。
【0031】
一次粒子の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円球等を挙げることができる。
【0032】
この一次粒子の平均粒径としては、活物質担体の平均粒径よりも小さければよいが、中でも、活物質担体が充填されている隙間に入り込むことが可能な大きさであることが好ましい。具体的には、一次粒子の平均粒径は、活物質担体の平均粒径に対して1/500倍〜1/4倍程度であることが好ましい。さらに具体的には、一次粒子の平均粒径は、0.05μm〜5μm程度あることが好ましく、より好ましくは0.05μm〜1μmの範囲内、さらに好ましくは0.05μm〜0.1μmの範囲内である。一次粒子の平均粒径が上記範囲であれば、活物質担体の表面に付着しやすくなるからである。また、一次粒子の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があり、一次粒子の平均粒径が大きすぎると、活物質担体の表面に付着することが困難となったりする場合があるからである。
【0033】
なお、一次粒子の平均粒径が、活物質担体の平均粒径よりも小さいことは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって、正極層における活物質担体および一次粒子の粒径を観察することにより、確認することができる。また、一次粒子の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される一次粒子の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0034】
一次粒子は、少なくともLiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを含むものである。以下、一次粒子の構成成分について説明する。
【0035】
(LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤)
本発明に用いられるLiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤は、オリビン構造を有するものである。オリビン構造を有することにより、リン原子と酸素原子が強く共有結合しているため、電気化学的安定性が高く、サイクル特性に優れたものとすることができる。また、LiMgPOを用いることにより、例えばCoなどの遷移金属を含むLiCoPOを用いる場合よりも、低密度なものとすることができる。さらに、結晶性のLiMgPOを用いることにより、LiMgPOそのものの特性、すなわち電解質分解抑制作用を充分に発揮することができる。また、リチウムイオン伝導性についても期待される。
【0036】
本発明に用いられるLiMgPOとしては、オリビン構造を有する結晶性のものであれば特に限定されるものではないが、中でも後述する「C.正極活物質の製造方法」の項に記載の方法により製造されたものであることが好ましい。このように製造されたものによれば、原料混合物を機械的に混合・摩砕して結晶化させることにより、混合相を得ることができるからである。これにより、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とがミクロ相分離状態となっている一次粒子を得ることができる。
【0037】
結晶性の電解質分解抑制剤は、X線回折測定(XRD)、電子回折(ED)により同定することができる。
【0038】
(LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤)
本発明に用いられるLiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤は、上記LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と同様に、電解質分解抑制作用を有することにより、有機電解質の酸化分解を効果的に抑制することができる。さらに、リチウムイオン伝導性を有することも期待される。また、本発明に用いられるLiPOで表される電解質分解抑制剤は、結晶性であるため、LIPOそのものの特性、すなわち有機電解質の酸化分解を抑制する性質を充分に発揮することができ、同時にリチウムイオン伝導性についても期待される。
【0039】
本発明に用いられるLiPOとしては、後述する「C.正極活物質の製造方法」の項に記載の方法により製造されたものであることが好ましい。このように製造されたものによれば、原料混合物を機械的に混合・摩砕して結晶化させることにより、混合相を得ることができるからである。これにより、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とがミクロ相分離状態となっている一次粒子を得ることができる。
【0040】
LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤が形成されたことは、上記「LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤」に記載した方法により確認することができる。
【0041】
(2)その他の成分
固体粉末は、少なくとも上記の一次粒子を含有するものであればよいが、その他の成分を含有していてもよい。
【0042】
その他の成分としては、電極活物質の機能を向上させることができるものであれば特に限定されるものではない。中でも、本発明においては、その他の成分が、一般式Li1+xAl2−x(PO(MはTi、GeおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、0≦x≦1)で表されるナシコン型リン酸化合物と、結晶性の電解質分解抑制剤とを有する一次粒子(以下、添加粒子とする)であることが好ましい。高電圧充電時のサイクル容量の低下および急速充放電時の容量の低下をさらに改善することができるからである。以下、この添加粒子について詳細に説明する。
【0043】
本発明に用いられる添加粒子は、通常、一般式Li1+xAl2−x(PO(MはTi、GeおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種であり、0≦x≦1)で表されるナシコン型リン酸化合物および電解質分解抑制剤がミクロ相分離状態で存在しているものである。
【0044】
上記ナシコン型リン酸化合物としては、結晶または非晶質のいずれであっても良いが、結晶であることが好ましい。上記ナシコン型リン酸化合物が結晶であれば、ナシコン型リン酸化合物そのものの特性、すなわちリチウムイオン伝導性が充分に発揮されるからである。また、結晶性のナシコン型リン酸化合物と非晶質のナシコン型リン酸化合物とが混在していても良い。
【0045】
上記結晶性の電解質分解抑制剤としては、結晶性を有し、有機電解質の酸化分解を抑制する電解質分解抑制作用を有するものであれば特に限定されるものではないが、上記ナシコン型リン酸化合物の構成元素の一部または全部を含む化合物であることが好ましい。このような結晶性金属酸化物としては、例えば、AlPO、TiP、LiPO、Al、TiO、GeO、ZrO等を挙げることができる。中でも、AlPO、TiP、LiPO、AlおよびTiOからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、特にAlPOであることが好ましい。
【0046】
本発明に用いられる添加粒子の形成方法としては、ナシコン型リン酸化合物の原料混合物を、メカニカルミリング法等により機械的に混合・摩砕し、非晶質化させて非晶質体を形成した後、この非晶質体を熱処理して結晶化させ、リチウムイオン伝導性固体電解質および電解質分解抑制剤の混合相を得る方法を挙げることができる。これにより、結晶性または非晶質のナシコン型リン酸化合物と結晶性の電解質分解抑制剤とがミクロ相分離状態となっている一次粒子を得ることができる。
【0047】
上記ナシコン型リン酸化合物の原料化合物としては、リチウム含有化合物と、アルミニウム含有化合物と、チタン含有化合物、ゲルマニウム含有化合物およびジルコニウム含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、リン含有化合物との混合物が用いられる。
【0048】
リチウム含有化合物としては、例えばLiO、LiOH、LiCO等を挙げることができる。アルミニウム含有化合物としては、例えば、Al、Al(OH)等を挙げることができ、中でもAlが好ましい。チタン含有化合物としては、例えばTiO等を挙げることができる。ゲルマニウム含有化合物としては、例えばGeO等を挙げることができる。ジルコニウム含有化合物としては、例えばZrO等を挙げることができる。リン含有化合物としては、例えばP、(NHHPO、NHPO等を挙げることができ、中でもPが好ましい。
【0049】
本発明において、活物質担体に対する添加粒子の割合としては、例えば活物質担体100重量部に対して、0.05重量部〜10重量部の範囲内、中でも0.5重量部〜5重量部の範囲内であることが好ましい。
【0050】
2.活物質担体
本発明に用いられる活物質担体について説明する。本発明に用いられる活物質担体は、リチウムイオンを吸蔵・放出する機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、一般的なリチウム二次電池の正極活物質をそのまま用いることができる。また、本発明に用いられる活物質担体は、通常、充放電反応に伴って膨張・収縮し、かつ絶縁性を有するものである。
【0051】
本発明に用いられる活物質担体としては、例えばLiCoO、LiCoPO、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMnPO、LiNi0.5Mn1.5等を挙げることができ、中でもLiCoO2、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3が好ましい。高エネルギー密度化を図ることができるからである。
【0052】
活物質担体の形状としては、特に限定されるものではないが、本発明においては、粒状が好適に用いられる。また、粒状の活物質担体の形状としては、例えば、球状、楕円球等を挙げることができる。
【0053】
活物質担体の平均粒径としては、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも10μm〜20μmの範囲内、特に3μm〜5μmの範囲内であることが好ましい。活物質担体の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があり、活物質担体の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極層を得るのが困難になる場合があるからである。なお、活物質担体の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0054】
3.その他の材料
本発明に用いられる正極活物質は、上記以外のその他の材料を有するものであってもよい。本発明に用いられるその他の材料としては、上記正極活物質の用途等に応じて、本発明に用いられる正極活物質に所望の機能を付加できるものであれば特に限定されるものではない。中でも本発明に好適に用いられるその他の材料としては、例えば、低融点ガラスを挙げることができる。
以下、本発明に用いられる低融点ガラスについて説明する。
【0055】
本発明に用いられる低融点ガラスは、通常、上記活物質担体の表面に熱融着により担持されるものである。すなわち、本発明の正極活物質は、低融点ガラス部を有していてもよい。また、本発明に用いられる低融点ガラス部は、通常、絶縁性を有するものである。
【0056】
このような低融点ガラスとしては、具体的には、図2に示すように、低融点ガラス部4と接触するようにして、固体粉末2が、活物質担体1の表面に担持されている例を挙げることができる。
【0057】
本発明において、「低融点ガラス」とは、ガラス転移現象を示す非晶質の固体であり、かつガラス転移温度(Tg)が600℃以下の物質をいう。中でも、本発明においては、低融点ガラスのTgが、550℃以下であることが好ましく、500℃以下であることがより好ましく、450℃以下であることがさらに好ましい。低融点ガラスのTgが高すぎると、活物質担体に低融点ガラスを熱融着させる際に、多くの熱が必要となるからである。また、低融点ガラスのTgが上記の値以下であれば、熱融着の際に不純物結晶が生成することを抑制できる場合がある。
【0058】
一方、本発明においては、低融点ガラスのTgが、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。低融点ガラスのTgが低すぎると、例えばリチウム二次電池の使用時に発生する熱によって溶融し、凝集してしまう可能性があるからである。なお、本発明において、低融点ガラスのTgは、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
【0059】
本発明に用いられる低融点ガラスは、所望のガラス転移温度を有するものであれば特に限定されるものではなく、一般的な低融点ガラスを用いることができる。一般的に、低融点ガラスは、鉛含有低融点ガラスおよび鉛フリー低融点ガラスに大別することができる。本発明においては、特に鉛フリー低融点ガラスを用いることが好ましい。環境への負荷が少ないからである。
【0060】
鉛含有低融点ガラスとしては、例えばPbO−SiO−B系ガラス、PbO−P−SnF系ガラス、PbF−SnF−SnO−P系ガラス等を挙げることができる。
【0061】
一方、鉛フリー低融点ガラスとしては、鉛を含有しない低融点ガラスであれば特に限定されるものではない。中でも、本発明においては、鉛フリー低融点ガラスが、SnOを構成成分として含むガラスであることが好ましい。ガラス転移温度の低いガラスを得ることができるからである。低融点ガラスに含まれるSnOの量は、添加する副成分材料により異なるものであるが、例えば、本発明に用いられる低融点ガラスがSnO−B−P系ガラスである場合は、50mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましい。
【0062】
鉛フリー低融点ガラスが、SnOを構成成分として含むガラスである場合、用いられる副成分としては、所望のガラス転移温度を有する低融点ガラスを得ることができる材料であれば特に限定されず、一般的なガラス製造に用いられる材料を用いることができる。具体的には、酸化ホウ素(B)、酸化リン(P)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)および酸化リチウム(LiO)からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。本発明おいては、低融点ガラスが、SnO−B−P系ガラス、SnO−B系ガラスまたはSnO−P系ガラスであることが好ましく、SnO−B−P系ガラスであることが特に好ましい。ガラス転移温度の低いガラスを得ることができるからである。
【0063】
本発明において、低融点ガラス部は、通常、活物質担体の表面の一部を被覆するように担持されることが好ましい。換言すると、低融点ガラス部は、活物質担体の表面に海島状に形成されることが好ましい。低融点ガラス部が活物質担体の表面全体を被覆してしまうと、活物質担体がリチウムイオンを吸蔵・放出できなくなるからである。また、低融点ガラス部が活物質担体の表面を被覆する割合は、正極活物質を製造する際に、原材料の使用量を適宜調整することにより、コントロールすることができる。本発明において、活物質担体に対する低融点ガラス部の割合としては、例えば活物質担体100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の範囲内、中でも1重量部〜10重量部の範囲内であることが好ましい。なお、活物質担体の表面に低融点ガラス部が担持されていることは電子顕微鏡等で観察することにより、確認することができる。
【0064】
B.リチウムイオン二次電池
次に、本発明のリチウム二次電池について説明する。本発明のリチウム二次電池は、正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、上記正極活物質および上記負極活物質の間でリチウムイオンを伝導させる有機電解質とを有し、上記正極活物質が、上記「A.正極活物質」に記載した正極活物質であることを特徴とするものである。
【0065】
本発明によれば、上述した正極活物質を用いることにより、サイクル特性に優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0066】
図3は、本発明のリチウム二次電池の一例を示す概略断面図である。図3に示されるリチウム二次電池は、正極集電体6と、固体粉末2が表面に被覆された活物質担体1を有する正極活物質(図示せず)を含有する正極層5と、負極集電体7と、負極活物質8を含有する負極層9と、正極層5および負極層9の間に配置されたセパレータ10と、正極活物質および負極活物質8の間でリチウムイオンを伝導させる有機電解質(図示せず)と、を有している。本発明においては、正極活物質に、上記「A.正極活物質」に記載した正極活物質が用いられる。
以下、本発明のリチウム二次電池について、構成ごとに説明する。
【0067】
1.正極層
まず、本発明に用いられる正極層について説明する。本発明に用いられる正極層は、少なくとも正極活物質が上記「A.正極活物質」に記載した正極活物質であることを特徴とする。また、必要に応じて、正極層は、導電化材および結着材等を含有していても良い。
【0068】
正極層に含まれる正極活物質の含有量としては、正極活物質の種類によっても異なるが、具体的には60重量%〜97重量%程度であることが好ましく、より好ましくは75重量%〜97重量%の範囲内、さらに好ましくは90重量%〜97重量%の範囲内である。
【0069】
本発明に用いられる正極層は、さらに導電化材および結着材を含有していても良い。結着材としては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。
【0070】
正極層は、正極集電体上に形成されていても良い。正極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル、鉄およびチタン等を挙げることができる。中でも、アルミニウムおよびSUSが好ましく用いられる。
【0071】
正極層の形成方法としては、一般的な方法を用いることができる。例えば、正極活物質と、結着材と、導電化材とを含有する正極層形成用ペーストを、正極集電体上に塗布して乾燥させた後に、プレスする方法等を挙げることができる。
【0072】
2.負極層
次に、本発明に用いられる負極層について説明する。本発明に用いられる負極層は、少なくとも負極活物質を含有するものである。必要に応じて、負極層は、導電化材および結着材等を含有していても良い。
【0073】
本発明に用いられる負極活物質として、一般的な負極活物質を使用することができる。このような負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、およびグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
【0074】
負極層は負極集電体上に形成されていても良い。負極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、銅、ステンレス、ニッケル等を挙げることができる。
【0075】
なお、負極層に用いられる結着材および導電化材については、上記正極層に用いられる結着材および導電化材と同様のものを用いることができる。また、負極層の形成方法についても上記正極層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0076】
3.有機電解質
本発明に用いられる有機電解質は、上記正極活物質および上記負極活物質の間でリチウムイオンを伝導させる機能を有するものである。有機電解質としては、具体的には、有機電解液、ポリマー電解質、ゲル電解質等を挙げることができる。
【0077】
有機電解液としては、通常、リチウム塩および非水溶媒を含有する非水電解液が使用される。リチウム塩としては、一般的なリチウム二次電池に用いられるリチウム塩であれば特に限定されるものではなく、例えば、LiPF、LiBF、LiN(CFSO、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSOおよびLiClO等を挙げることができる。
【0078】
非水溶媒としては、上記リチウム塩を溶解できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの非水溶媒は、一種のみ用いてもよく、二種以上を混合して用いても良い。また、非水電解液として、常温溶融塩を用いることもできる。
【0079】
ポリマー電解質は、リチウム塩およびポリマーを含有するものである。リチウム塩としては、上記有機電解液に用いられるリチウム塩と同様のものを用いることができる。ポリマーとしては、リチウム塩と錯体を形成するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0080】
ゲル電解質は、リチウム塩とポリマーと非水溶媒とを含有するものである。リチウム塩および非水溶媒としては、上記有機電解液に用いられるリチウム塩および非水溶媒と同様のものを用いることができる。また、ポリマーとしては、ゲル化が可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロプレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリウレタン、ポリアクリレート、セルロース等が挙げられる。
【0081】
4.その他の部材
本発明のリチウム二次電池は、正極層および負極層の間に配置されたセパレータを有していることが好ましい。セパレータとしては、有機電解質を保持する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜、樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0082】
本発明に用いられる電池ケースの形状としては、上述した正極層、負極層、有機電解質、セパレータ、正極集電体および負極集電体等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。また、本発明のリチウム二次電池は、正極層、セパレータおよび負極層から構成される電極体を有する。この電極体の形状としては、特に限定されるものではなく、具体的には、平板型および捲回型等を挙げることができる。
【0083】
C.正極活物質の製造方法
次に、本発明の正極活物質の製造方法について説明する。本発明の正極活物質の製造方法は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質の製造方法であって、LiO、MgO、Pを含む原料混合物を機械的に混合・摩砕する際、遊星型ボールミルの台盤回転数が200rpm〜600rpm、処理時間を1時間〜100時間で処理をすることにより結晶化させ、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有する固体粉末を形成する結晶化工程と、上記固体粉末と上記活物質担体とを混合することにより、上記固体粉末を上記活物質担体の表面の少なくとも一部に被覆させる固体粉末被覆工程と、を有することを特徴とするものである。
【0084】
本発明によれば、上記活物質担体と、上記固体粉末とを混合するのみで、上記活物質担体の表面の少なくとも一部に固体粉末が被覆された正極活物質を容易に作製することが可能である。さらに、正極活物質の製造方法の結晶化工程にて得られる結晶体および活物質担体を用いて固体粉末を表面に有する活物質担体を作製するので、高放電レート容量を維持でき、かつ、サイクル容量低下の抑制が可能なリチウム二次電池を得ることが可能である。
【0085】
また従来、電極活物質を金属酸化物で被覆する方法として、硝酸水溶液等を用いる溶液法や金属アルコキシドを用いるゾルーゲル法等の湿式法が用いられている。これらの湿式法は、金属酸化物の前駆体を粒子表面に固定化後、熱処理(焼成)するものである。この方法では、水を含む溶媒を用いるため、水との反応性の高い電極活物質への金属酸化物被覆は困難となるという問題があった。さらに、溶液中で電極活物質と直接反応する成分を含む出発原料や、熱処理(焼成)プロセスで電極活物質に悪影響を与える懸念のある出発原料を用いることができないため、出発原料の選択の幅が狭くなるという問題があった。また、上記の湿式法を用いて複合酸化物を被覆する場合は、化学量論組成の制御や焼成条件の最適化を図る必要があった。また、例えば複合酸化物の固溶体を形成させる場合は、高温かつ長時間の焼成を必要とする場合が多く、目的とする被覆材料が形成される前に、出発原料と正極活物質とが直接反応してしまい、正極活物質表面が活物質としての機能を発揮しない場合があった。また、溶液法の場合、絶縁物である被覆材料が電極活物質の表面全体を被覆してリチウムイオンの伝導経路を阻害する場合があった。さらに溶液法の場合は、非常に薄い被覆部を形成できるが、例えば厚膜の被覆部を形成する場合には、ひび割れ等が起こり、被覆部が剥がれたり、機械的なストレスで壊れたりする問題があった。これに対して、本発明の正極活物質の製造方法は、固体粉末を準備し、活物質担体と混合するのみで固体粉末による被覆が可能であるため、上記の問題が生じないという利点を有する。
以下、本発明の正極活物質の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0086】
1.結晶化工程
本発明における結晶化工程は、LiO、MgO、Pを含む原料混合物を機械的に混合・摩砕する際、遊星型ボールミルの台盤回転数が200rpm〜600rpm、処理時間を1時間〜100時間で処理をすることにより結晶化させ、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有する固体粉末を形成する工程である。このような固体粉末を用いることにより、活物質担体と混合するのみで、上記固体粉末を、上記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆させることが可能となる。
以下、原料混合物および機械的に混合・摩砕する方法について説明する。
【0087】
(1)原料混合物
本発明に用いられる原料混合物は、LiO、MgO、Pを含んでいるものである。また、上記原料混合物は、LiO、MgO、P以外の物質を含んでいてもよい。LiO、MgO、P以外の物質としては、LiO、MgO、Pと機械的に混合・摩砕して結晶化し、結晶性のLiMgPOと結晶性のLiPOとを混合相として含む一次粒子を得られるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、NiO、CoO、ZnO等を挙げることができる。
【0088】
本発明に用いられる原料混合物に含まれる、LiOと、MgOと、Pとの割合としては、具体的には、モル基準で、LiO:MgO:Pが0.45〜0.55:0.9〜1.1:0.45〜0.55であることが好ましい。
【0089】
(2)機械的に混合・摩砕する方法
本発明においては、上記原料混合物を機械的に混合・摩砕する。機械的に混合・摩砕する方法としては、結晶体を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、中でもメカニカルミリング法であることが好ましい。
【0090】
メカニカルミリング(以下、MMと略す場合がある。)法は、固体物質に粉砕、衝撃、摩擦等の機械的なエネルギーを加えることにより、物質表面を活性化させて、物質を反応させたり構造変化させたりする(これをメカノケミカル反応ともいう。)ことができる方法である。MM法は、温度条件が室温でよいこと(熱処理が不要であること)、微粒子を作製できること、粒子の表面改質ができること、等の利点を有する。
【0091】
このようなMM法を用いた場合には、原料混合物をMM法で混合・摩砕することにより一段階で結晶体を得ることができ、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有する固体粉末を容易に得ることができる。
【0092】
また、MM法では、原料を適宜選択することにより、第二相(第二成分)のみならず第三相(第三成分)や第四相(第四成分)を生成させる、すなわち3つ以上の相(成分)を生成させることが可能となる。したがって、複数種の電解質分解抑制剤を形成することが可能である。
【0093】
メカニカルミリング法としては、例えば、ボールミル装置を用いる方法を挙げることができる。ボールミル装置を用いる方法は、汎用的な方法であり、原料混合物を均一に機械的に混合・摩砕することができる。
ボールミル装置としては、例えば、遊星型ボールミル等を用いることができる。
【0094】
ボールミル装置を用いる場合、用いられる破砕ボールの直径、材質、および反応容器の材質等は、一般的なボールミル装置と同様であり、特に限定されるものではない。破砕ボールの直径としては、例えば3mm〜20mmの範囲内、中でも5mm〜15mmの範囲内であることが好ましい。また、破砕ボールの材質としては、具体的には酸化ジルコニウム等を挙げることができる。反応容器の材質としては、具体的にはステンレススチール鋼等を挙げることができる。
【0095】
ボールミル装置を用いて混合・摩砕する際の回転数としては、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを含む結晶体を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば200rpm〜600rpm程度で設定することができ、中でも250rpm〜500rpmの範囲内、特に300rpm〜400rpmの範囲内であることが好ましい。
【0096】
また、ボールミル装置を用いて混合・摩砕する時間としては、特に限定されるものではないが、例えば1時間〜100時間程度で設定することができ、中でも5時間〜50時間の範囲内、特に10時間〜20時間の範囲内であることが好ましい。
【0097】
原料混合物を機械的に混合・摩砕する際には、不活性化ガス雰囲気下で混合・摩砕することが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、Ar、N2、He等を挙げることができる。
【0098】
原料混合物は、各原料を同時に添加して混合・摩砕してもよく、各原料を順次添加して混合・摩砕してもよい。
【0099】
本工程において、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤およびLiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤が形成されたことは、上記「A.正極活物質」に記載した方法により確認することができる。
また、固体粉末が、上記リチウムイオン伝導性固体電解質および上記電解質分解抑制剤を含有することについても、上記「A.正極活物質」に記載した方法により確認することができる。
【0100】
なお、上記LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤および上記LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤の詳細については、上記「A.正極活物質」に記載したので、ここでの説明は省略する。
ることができる。
【0101】
2.固体粉末被覆工程
本発明における固体粉末被覆工程は、上記固体粉末と上記活物質担体とを混合することにより、上記固体粉末を上記活物質担体の表面の少なくとも一部に被覆させる工程である。これにより、活物質担体の表面の少なくとも一部に、上記固体粉末が被覆されるため、有機電解質の分解を抑制し、サイクル特性の向上を図ることができる。
【0102】
固体粉末と活物質担体を混合する方法としては、固体粉末が表面の少なくと一部に被覆される活物質担体を得られる方法であれば特に限定されるものではない。また、混合方法として、メカニカルミリング法を用いてもよい。
【0103】
固体粉末および活物質担体を混合する際の雰囲気としては、例えば、大気雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0104】
なお、活物質担体および固体粉末については上記「A.正極活物質」に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0105】
3.その他の工程
本発明の正極活物質の製造方法は、少なくとも上記結晶化工程および上記固体粉末被覆工程を有するものであれば特に限定されるものではなく、上記以外のその他の工程を有していてもよい。例えば、「A.正極活物質」で上述した添加粒子を用いる場合は、固体粉末被覆工程の際に、上記結晶化工程にて形成された一次粒子と同時に添加粒子を添加する工程を有していてもよい。また、「A.正極活物質」で上述した低融点ガラスを用いる場合は、例えば、活物質担体と、一次粒子と、低融点ガラスとを混合して、熱融着により活物質担体の表面に担持させて低融点ガラス部を形成する工程を有していてもよい。また、このような低融点ガラスおよび添加粒子の種類および添加量等については、上記「A.正極活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0106】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0107】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例]
(1)LiMgPOとLiPOを含む一次粒子の調製
原料としてLiO、MgO、Pを用い、LiO、MgO、Pを1:2:1(モル比)で、高純度アルゴンガス(純度99.99%)を充填したグローブボックス中にて混合後、これらを直径10mmの酸化ジルコニウムの粉砕ボールとともにステンレススチール鋼の完全密閉可能な容器中に投入した。密閉後の容器をグローブボックス内より取り出し、遊星型ボールミル装置に装着し、室温で台盤回転数350rpm、20時間のメカニカルミリング処理をして結晶化させた。その結果、LiMgPOと密度が2.4g/ccであるLiPOを含む一次粒子を得た。
【0108】
粉末X線回折測定の結果を図4に示す。図4における(a)は、メカニカルミリング処理後のX線回折パターンである。また、図4におけるIとIIはそれぞれ、LiMgPOとLiPO4のJCPDSのX線回折パターンである。これにより、LiMgPOとLiPOとを混合相として含むものが生成されていることがわかった。
【0109】
(2)正極作製
結着材であるポリビニリデンフロライド(PVDF)を5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125mL中に、活物質担体であるLiCoO粉末80.75gと、(1)で調製した化合物4.25gと、導電化材であるカーボンブラック10gとを導入し、均一に混合するまで混錬しペーストを作製した。このペーストを、厚さ15μmのAl集電体上に目付量6mg/cmで片面塗布し、乾燥することで電極を得た。その後、この電極をプレスし、ペースト厚さ45μm、ペースト密度2.4g/cmとした。最後に、この電極をφ16mmとなるように切り出して正極を得た。
【0110】
(3)負極作製
結着材であるポリビニリデンフロライド(PVDF)を7.5g溶解した溶剤n−メチルピロリドン溶液125mL中に、負極活物質であるグラファイト粉末92.5gを導入し、均一に混合するまで混錬しペーストを作製した。このペーストを、厚さ15μmのCu集電体上に目付量4mg/cmで片面塗布し、乾燥することで電極を得た。この電極をプレスし、ペースト厚さ20μm、密度1.2g/cmとした。最後に、この電極をφ19mmとなるよう切り出して負極を得た。
【0111】
(4)電池作製
得られた正極および負極を用いてCR2032型コインセルを作製した。なお、セパレータとしてPP製セパレータを使用し、電解液としてEC(エチレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)を体積比率3:7で混合したものに、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lで溶解したものを使用した。
【0112】
[比較例]
本比較例においては、正極層中に上記混合物の代わりにAlPOを添加すること以外は実施例と同様に作成した。
【0113】
[評価]
実施例および比較例で得られたコインセルを用いて、放電容量比率およびサイクル特性を評価した。評価方法は以下の通りである。
(放電容量比率)
電流値0.1mA/cmで3.0〜4.1Vのコンディショニングの後、電流値1mA/cmで4.1Vまで2.5時間充電後に、電流値1mA/cmで3.0Vまで放電し容量を測定した。さらに電流値1mA/cmで4.1Vまで2.5時間充電後に、電流値20mA/cmで3.0Vまで放電し容量を測定した。そして、(20mA/cmでの放電容量)/(1mA/cmでの放電容量)を求めた。結果を表1に示す。
【0114】
(サイクル特性)
放電レート容量測定後、3.0〜4.1V、2C、60℃の500サイクルで放電容量維持率を測定した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
表1から明らかなように、実施例は比較例と比較して、放電容量比率およびサイクル特性が大幅に改善されていた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の正極活物質の一例を説明する説明図である。
【図2】本発明の正極活物質の他の例を説明する説明図である。
【図3】本発明のリチウム二次電池の一例を示す概略断面図である。
【図4】実施例の粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
【符号の説明】
【0118】
1 … 活物質担体
2 … 固体粉末
3 … 正極活物質
4 … 低融点ガラス部
5 … 正極層
6 … 正極集電体
7 … 負極集電体
8 … 負極活物質
9 … 負極層
10 … セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、前記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質であって、
前記固体粉末は、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有することを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
正極活物質を含有する正極層と、負極活物質を含有する負極層と、前記正極活物質および前記負極活物質の間でリチウムイオンを伝導させる有機電解質とを有し、前記正極活物質が、請求項1に記載の正極活物質であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項3】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質担体と、前記活物質担体の表面の少なくとも一部を被覆する固体粉末とを有する正極活物質の製造方法であって、
LiO、MgO、Pを含む原料混合物を機械的に混合・摩砕する際、遊星型ボールミルの台盤回転数が200rpm〜600rpm、処理時間を1時間〜100時間で処理をすることにより結晶化させ、オリビン構造を有し、LiMgPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤と、LiPOで表される結晶性の電解質分解抑制剤とを混合相として含む一次粒子を含有する固体粉末を形成する結晶化工程と、
前記固体粉末と前記活物質担体とを混合することにより、前記固体粉末を前記活物質担体の表面の少なくとも一部に被覆させる固体粉末被覆工程と、
を有することを特徴とする正極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−301749(P2009−301749A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151979(P2008−151979)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】