説明

正極活物質およびこれを含む正極を備える非水系二次電池

【課題】電解液中に添加剤等を混合すること無く、Mnの溶出を防止し、長寿命の正極活物質を実現する。
【解決手段】本発明の正極活物質1は、マンガンを含有すると共にスピネル型構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物から構成される主結晶相2を含み、非水系二次電池において用いられる正極活物質において、上記リチウム含有遷移金属酸化物と同一の酸素配列を有し、異なる元素組成から構成される副結晶相3が主結晶相2の内部に形成されており、副結晶相3の周囲における主結晶相部分2’の結晶方位と、副結晶相3の結晶方位とが同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池を長寿命化する為の正極活物質に関するものであり、特に、貯蔵性および充放電サイクル寿命が改善された非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポータブル機器用の電源として、経済性等の点から非水系二次電池が多く使われている。非水系二次電池には様々な種類があり、現在、最も一般的であるのがニッケル−カドミウム電池であり、最近ではニッケル水素電池も普及しつつある。
【0003】
非水系二次電池の中でも、リチウムを用いたリチウム二次電池は、出力電位が高く、高エネルギー密度であるために、一部実用化されている。また、更なる高性能化を実現するため、近年、盛んに研究が行われている。このリチウム二次電池の正極材料として、現在、市販されているものはLiCoOである。しかし、LiCoOの原料であるコバルトが高価であるために、より安価な原料であるマンガンを用いたLiMnが注目されている。
【0004】
しかし、LiMnは充放電サイクルを繰り返すことにより、正極活物質中のMnがMnイオンとなって溶出し、溶出したMnは充放電の過程において、負極上に金属Mnとして析出する。この負極上に析出した金属Mnは電解液中のリチウムイオンと反応し、その結果、電池に大きな容量低下を生じさせる。
【0005】
上記の問題点を改良するにあたり種々の方法が採用されている。例えば、特許文献1ではマンガン酸化物の粒子の表面を高分子で覆うことによりマンガンの溶出を防止する方法が、特許文献2ではマンガン酸化物の粒子の表面をホウ素で覆うことによりマンガンの溶出を防止する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3、特許文献4及び非特許文献1では、LiMn結晶中に遷移元素を含まない別の組成を有し、LiMn結晶と類似する構造の物質を包含させることにより、マンガンの溶出を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-231919号公報(2000年8月22日公開)
【特許文献2】特開平9−265984号公報(1997年10月7日公開)
【特許文献3】特開2001-176513号公報(2001年6月29日公開)
【特許文献4】特開2003-272631号公報(2003年9月26日公開)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mitsuhiro Hibino, Masayuki Nakamura, Yuji Kamitaka, Naoshi Ozawa and Takeshi Yao, Solid State Ionics Volume 177, Issues 26-32, 31 October 2006, Pages 2653-2656.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の構成では、正極活物質からMnの流出を抑制することができるものの、他の不具合が生じるという問題がある。
【0010】
具体的には、上記特許文献1、2に開示の正極活物質では、絶縁体である別の物質によってLiMn表面が被覆されているため、LiMn粒子からの電気抵抗が著しく増加し、電池の出力特性が低下するという欠点が存在する。
【0011】
また、特許文献3、特許文献4および非特許文献1に開示された正極活物質では、電極材料にLiMn結晶と類似する構造の物質を包含させることにより、充放電に伴うLiMnのマンガンの溶出を防ぐことで、高温特性を改善しているが、室温におけるサイクル特性については解決されていない。
【0012】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、電解液中に添加剤等を混合すること無く、Mnの溶出を防止し、長寿命の正極活物質を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る正極活物質は、上記課題を解決するために、マンガンを含有すると共にスピネル型構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物から構成される主結晶相を含み、非水系二次電池において用いられる正極活物質において、上記リチウム含有遷移金属酸化物と同一の酸素配列を有し、異なる元素組成から構成される副結晶相が上記主結晶相の内部に形成されており、上記副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、上記副結晶相の結晶方位とが同一であることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、上記正極活物質を非水系二次電池の正極材料に用いた場合、主結晶相とは異なり、副結晶相は放充電反応に関与しない。このため、主結晶相からリチウムが脱離または挿入される際に生じる、主結晶相の膨張または収縮を副結晶相によって物理的に抑制することができる。さらに、当該正極活物質では、上記副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、上記副結晶相の結晶方位とが同一である。両結晶方位が同一であることは、隣接する結晶同士の結晶方位が同一であることを意味する。すなわち、本発明の正極活物質は、副結晶相とその周囲における主結晶相部分とが連続的な結晶構造を有しているため、副結晶相が主結晶相中に安定して存在することができる。したがって、主結晶相の膨張または収縮を抑制できる副結晶相が主結晶相中に安定して存在できる構造となっている。
【0015】
これにより、上記正極活物質を非水系二次電池の正極材料に用いた場合、正極活物質を構成する結晶粒子群を変形し難くすることができ、その結果、結晶粒子群の割れや崩壊等が生じ難くなり、放電容量の低下が生じ難い非水電解質二次電池を実現可能な正極活物質を提供することができる。
【0016】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相の結晶構造が正方晶または斜方晶であることが好ましい。
【0017】
副結晶相が上記構造を有する場合、副結晶相を主結晶相の界面により高い親和性にて存在させることができるため好ましい。
【0018】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相がスピネル型構造を有することが好ましい。
【0019】
副結晶相が、スピネル型構造を有する場合、副結晶相を主結晶相の界面により高い親和性にて存在させることができるため好ましい。
【0020】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相が、回折法によって検出可能な結晶性を有することが好ましい。なお、回折法にはX線回折法、中性子回折法、電子線回折法などが挙げられる。
【0021】
上記のような副結晶相は結晶性が高く、上記正極活物質を非水系二次電池の正極材料に用いた場合、主結晶相からリチウムが脱離または挿入される際に生じる膨張または収縮を物理的に抑制することができる。これによって、正極活物質を構成する結晶粒子群を変形し難くすることができ、その結果、結晶粒子群の割れ等がさらに生じ難くなり、放電容量の低下が生じ難い非水電解質二次電池を実現可能な正極活物質を提供することができる。
【0022】
また、本発明に係る正極活物質では、上記主結晶相の少なくとも一部の元素と、上記副結晶相の少なくとも一部の元素からなる中間相が上記主結晶相と上記副結晶相との界面に存在することが好ましい。
【0023】
上記正極活物質において上記のような界面が形成されていれば、主結晶相と副結晶相とを強固に結合させることができるため、さらに割れなどが生じ難い正極活物質を得ることができる。
【0024】
また、本発明に係る正極活物質では、上記主結晶相および副結晶相を含む全体の組成を以下の一般式Aで示す時、0.01≦x≦0.10であることが好ましい。
一般式A:Li1−xM12−2xM2M32x4−y
(但し、M1はマンガンあるいはマンガンと遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素を示し、M2およびM3は典型金属元素あるいは遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素を示し、M1、M2およびM3は互いに異なる。また、yはxと電気的中性を満足する値である。)
xが上記範囲内であれば、主結晶相および副結晶相の割合を好ましい値とすることができ、正極活物質を非水系二次電池の正極材料に用いた場合、非水系二次電池の放電容量の低下抑制とサイクル特性向上とのバランスを好適なものとすることができる。
【0025】
また、本発明に係る正極活物質では、上記リチウム含有遷移金属酸化物は、遷移金属としてマンガンのみを含有することが好ましい。
【0026】
上記の場合、リチウム含有遷移酸化物を簡便に合成することができ、正極活物質の製造工程を簡素化することができる。
【0027】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相が、典型元素およびマンガンを含むことが好ましい。
【0028】
これにより、主結晶相と共通の酸素配列を介して構成される副結晶相がより安定化される。その結果、主結晶相からのMnの溶出をさらに低減させることができる。
【0029】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相が、亜鉛およびマンガンを含むことが好ましい。
【0030】
副結晶相が亜鉛およびマンガンを含むことによって、主結晶相と共通の酸素配列を介して構成される副結晶相が特に安定化される。これにより、主結晶相からMnが溶出することを特に好ましく低減させることができる。
【0031】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相の亜鉛およびマンガンの組成比Mn/Znが、2≦Mn/Zn<4であることが好ましい。
【0032】
亜鉛およびマンガンの組成比が上記の範囲内であれば、Mnの溶出をより低減できるため好ましい。
【0033】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相の厚さが、1nm以上、100nm以下であることが好ましい。
【0034】
副結晶相の厚さが上記の範囲であれば、Mnの溶出を低減できる副結晶相の厚さを好ましく確保できると共に、副結晶相の厚さが厚すぎることによって、正極活物質からのLiイオンの移動を妨げる不具合も生じ難い。
【0035】
また、本発明に係る正極活物質では、上記リチウム含有遷移金属酸化物の格子定数が、8.22Å以上、8.25Å以下であることが好ましい。
【0036】
これにより、上記格子定数と、同一の酸素配列を有する副結晶相の任意の面の酸素配列の酸素原子同士の間隔および配列とが一致することにより、副結晶相と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となる。その結果、副結晶相が主結晶相の界面において安定に存在することができる。
【0037】
また、本発明に係る正極活物質では、上記副結晶相と上記主結晶相部分とが、主結晶相部分の011面と副結晶相の001面とが接して形成されていることが好ましい。
【0038】
これにより、上記主結晶相部分の011面における酸素原子と、副結晶相の001面の酸素原子との間隔および配列とが一致することにより、副結晶相と主結晶相とが更に親和性良く接合することが可能となる。その結果、副結晶相が主結晶相の界面において更に安定に存在することができる。
【0039】
また、本発明に係る非水系二次電池は、正極、負極および非水系のイオン伝導体を備える非水系二次電池において、上記負極は、リチウムを含有する物質若しくはリチウムを挿入または脱離可能な負極活物質を含んでおり、上記正極は、上記正極活物質を含むものである。
【0040】
上記非水系二次電池は、正極が上記正極活物質を含んでいるため、Mnの溶出の低減を実現でき、サイクル特性が大きく向上され、放電容量の低下が生じ難い非水電解質二次電池を実現することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る正極活物質は、マンガンを含有すると共にスピネル型構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物から構成される主結晶相を含み、非水系二次電池において用いられる正極活物質において、上記リチウム含有遷移金属酸化物と同一の酸素配列を有し、異なる元素組成から構成される副結晶相が上記主結晶相の内部に形成されており、上記副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、上記副結晶相の結晶方位とが同一であることを特徴とするものである。
【0042】
このため、上記の構成によれば、副結晶相がMn溶出を抑制する障壁となるので、Mnの溶出の低減が実現でき、サイクル特性が大きく向上された非水電解質二次電池を実現することができる正極活物質を提供できる。本発明の正極活物質は、副結晶相とその周囲における主結晶相部分とが連続的な結晶構造を有しているため、副結晶相が主結晶相中に安定して存在することができる。したがって、主結晶相の膨張または収縮を抑制できる副結晶相が主結晶相中に安定して存在できる。
【0043】
これにより、上記正極活物質を非水系二次電池の正極材料に用いた場合、正極活物質を構成する結晶粒子群を変形し難くすることができ、その結果、結晶粒子群の割れや崩壊等が生じ難くなり、放電容量の低下が生じ難い非水電解質二次電池を実現可能な正極活物質を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、正極活物質の構成を示す斜視図である。
【図2】実施例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図である。
【図3】実施例1にて得られた正極活物質のEDX‐元素マップを示す写真図である。
【図4】(a)は実施例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図であり、(b)は実施例1にて得られた正極活物質の電子線回折結果を示す写真図である。
【図5】実施例1にて得られた正極活物質の格子像を示す写真図である。
【図6】実施例2にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図である。
【図7】実施例2にて得られた正極活物質のEDX‐元素マップを示す写真図である。
【図8】(a)は実施例2にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図であり、(b)は実施例2にて得られた正極活物質の電子線回折結果を示す写真図である。
【図9】実施例3にて得られた正極活物質のHAADF−STEM像を示す写真図である。
【図10】実施例3にて得られた正極活物質のEDX‐元素マップを示す写真図である。
【図11】は実施例3にて得られた正極活物質のHAADF−STEM像を示す写真図である。
【図12】実施例3にて得られた正極活物質の電子線回折結果を示す写真図である。
【図13】比較例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図である。
【図14】比較例1にて得られた正極活物質のEDX‐元素マップを示す写真図である。
【図15】(a)は比較例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図であり、(b)は比較例1にて得られた正極活物質の電子線回折結果を示す写真図である。
【図16】比較例2にて得られた正極活物質の電子線回折を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の一実施形態について図1に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本明細書において、「非水電解質二次電池において用いられる正極活物質」を「正極活物質」と、「非水電解質二次電池において用いられる正極」を「正極」と、「非水電解質二次電池」を「二次電池」と適宜略す。
【0046】
本発明に係る正極活物質は、マンガンを含有すると共にスピネル型構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物から構成される主結晶相を含み、非水系二次電池において用いられる正極活物質において、上記リチウム含有遷移金属酸化物と同一の酸素配列を有し、異なる元素組成から構成される副結晶相が上記主結晶相の内部に形成されており、上記副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、上記副結晶相の結晶方位とが同一であるものである。なお、上記「リチウム含有遷移金属酸化物」を「リチウム含有酸化物」と適宜略す。
【0047】
<正極活物質>
〔主結晶相〕
本発明に係る正極活物質は、主たる相として主結晶相を有する。上記主結晶相は、マンガンを含有するリチウム含有酸化物から構成されている。上記リチウム含有酸化物は、一般的にスピネル型構造を有することが多いが、スピネル型構造を有していなくとも本発明に係るリチウム含有酸化物として用いることができる。
【0048】
具体的には、上記リチウム含有酸化物は、少なくともリチウム、マンガンおよび酸素を含んだ組成を有している。また、マンガンに加えてマンガン以外の遷移金属が含まれていてもよい。マンガン以外の遷移金属としては、正極活物質の作用を妨げなければ特に限定されるものでないが、具体的には、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Ni、Coなどを挙げることができる。
【0049】
しかしながら、上記リチウム含有酸化物は遷移金属として、マンガンのみを含んでいる場合、リチウム含有遷移酸化物を簡便に合成することができる観点から好ましい。
【0050】
リチウム含有酸化物の組成比は、スピネル型構造の場合、マンガンあるいはマンガンとそれ以外の1種類以上の遷移金属をMとすると組成比Li:M:Oは1:2:4にて表すことができる。
【0051】
しかしながら、スピネル型構造の場合、実際にはLi:M:O=1:2:4の組成比からずれることが多く、本発明に係る正極活物質においても同様である。上記組成比と異なる酸素濃度が異なる不定比化合物の組成比として、Li:M:O=1:2:3.5〜4.5、あるいは、4:5:12にて例示することができる。
【0052】
本発明の正極活物質においてリチウム含有酸化物の割合が少ない場合、上記正極活物質を正極材料とする二次電池の放電容量が小さくなるおそれがある。したがって、主結晶相および副結晶相を含む全体の組成を
一般式A:Li1−xM12−2xM2M32x4−y
(但し、M1はマンガンあるいはマンガンと遷移金属元素の少なくとも1種類以上との元素を示し、M2およびM3は典型金属元素あるいは遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素を示し、M1、M2およびM3は互いに異なる。また、yはxと電気的中性を満足する値である。)で示す時、一般式Aにおけるxが0.01≦x≦0.10であることが好ましく、0.03≦x≦0.07であることがさらに好ましい。また、yはxと電気的中性を満足する値であり、y=0となる場合もある。
【0053】
xが上記範囲内であれば、主結晶相および副結晶相の割合を好ましい値とすることができ、正極活物質を非水系二次電池の正極材料に用いた場合、非水系二次電池の放電容量の低下抑制とサイクル特性向上のバランスを好適なものとすることができる。
【0054】
M1の具体例としては、Mnのみ、あるいはMnおよび遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素であってよい。上記遷移金属元素としては、具体的には、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Ni、Coなどを挙げることができる。
【0055】
M2およびM3の具体例としては、特に限定されるものではないが、M2がSnであり、M3がZnである場合、または、M2がSnであり、M3がCoである場合などが挙げられる。
【0056】
なお、遷移金属は不完全に電子が満たされたd軌道をもつ元素、あるいはそのような陽イオンを生じる元素であり、典型元素はそれ以外の元素を指す。例えば、亜鉛原子Znの電子配置は1s2s2p3s3p4s3d10であり、亜鉛の陽イオンはZn2+で、2s2s2p3s3p3d10である。原子も陽イオンも3d10であり、「不完全に満たされたd軌道」を持たないので、Znは典型元素である。
【0057】
主結晶相の結晶構造は、立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、三方晶、六方晶あるいは三斜晶のいずれかであってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
結晶方位とは、試料座標系と結晶座標系との間の相対的な関係を表すものである。結晶方位が同じであると、隣接している結晶の方位が同じであることを意味し、結晶が連続である。そのため、副結晶相が主結晶相中に安定して存在することができる。一方で、結晶方位が異なると、隣接している結晶の方位が異なることを意味し、結晶が不連続である。そのため、副結晶が主結晶中に安定して存在することはできなくなる。
【0059】
〔副結晶相〕
本発明に係る副結晶相は、上記リチウム含有酸化物と同一の酸素配列を有し、異なる元素組成から構成される化合物である。すなわち、副結晶相は、上記リチウム含有酸化物とは同一でない化合物から構成されており、リチウム含有酸化物と同一の酸素配列を有している。同一の酸素配列を有するとは、リチウム含有酸化物および副結晶相が立方最密を基本とする酸素配列をともに有することを示す。なお、この酸素配列は完全な立方最密構造でなくてもよく、具体的には任意の軸方向に歪んでいてもよく、また一部の酸素欠陥があってもよく、あるいは酸素の欠損が規則的に配列していてもよい。副結晶相の結晶構造は、立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、三方晶、六方晶あるいは三斜晶のいずれかであってもよいし、異なっていてもよい。
【0060】
本発明の正極活物質では、副結晶相が上記リチウム含有酸化物と同一の酸素配列を有しており、この同一の酸素配列を介して副結晶相と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となっている。したがって、副結晶相が主結晶相において安定に存在することができる。なお、主結晶相が立方晶で、副結晶相は正方晶または斜方晶である場合、結晶構造が互いに異なるために、酸素配列が微妙に異なり、ミスマッチが通常発生し得る。このミスマッチは副結晶相が厚くなるに従って大きくなる。したがって、副結晶相は厚くなることができず薄い状態であることが好ましく、具体的には層状であることが好ましい。これにより、副結晶相の結晶構造が立方晶以外であっても、主結晶相中に副結晶相が高い親和性にて存在できる。
【0061】
副結晶相の好ましい厚さは、1nm以上、100nm以下である。副結晶相の厚さが上記の範囲であれば、Mnの溶出を低減できる副結晶相の厚さを好ましく確保できると共に、副結晶相の厚さが厚すぎることによって、正極活物質からのLiイオンの移動を妨げるなどの不具合も生じ難い。
【0062】
立方晶の化合物の例としてMgAlが、正方晶の化合物の例としてZnMnが、斜方晶の化合物の例としてCaMnが挙げられる。なお、これらの副結晶相の組成は化学量論的である必要は無く、MgやZnの一部がLiなどの他の元素で置換されていてもよいし、あるいは欠陥を含んでいてもよい。
【0063】
また、副結晶相がスピネル型構造を有する場合、副結晶相を主結晶相の界面により高い親和性にて存在させることができるため好ましい。
【0064】
上記副結晶相は、含有元素として、典型元素およびマンガンを含むことが好ましい。上記構成であれば、副結晶相の組成がマンガンおよび典型元素を含むことによって、主結晶相と共通の酸素配列を介して構成される副結晶相がより安定化される。これにより、主結晶相からMnが溶出することをさらに低減させることができる。
【0065】
上記典型元素としては、特に限定されるものではないが、マグネシウム、カリウム、亜鉛などを挙げることができる。
【0066】
また、上記副結晶相は、亜鉛およびマンガンを含むことが好ましい。副結晶相の組成が亜鉛およびマンガンを含むことによって、主結晶相と共通の酸素配列を介して構成される副結晶相がより一層安定化される。これにより、主結晶相からMnが溶出することを特に好ましく低減させることができる。
【0067】
特に、副結晶相が亜鉛およびマンガンを含む場合、亜鉛およびマンガンの組成比Mn/Znは、2≦Mn/Zn<4であることが好ましく、2≦Mn/Zn<3.5であることがさらに好ましい。亜鉛およびマンガンの組成比が上記の範囲内であれば、主結晶相からMnの溶出をより低減できる。
【0068】
主結晶相が立方晶の時、あるいは近似的に立方晶と考える時の主結晶相における、リチウム含有酸化物の格子定数は8.22Å以上、8.25Å以下であることが好ましい。リチウム含有酸化物の格子定数が上記の範囲内であれば、上記格子定数と、同一の酸素配列を有する副結晶相の任意の面の酸素配列の酸素原子同士の間隔および配列とが一致することにより、副結晶相と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となる。その結果、副結晶相が主結晶相の界面において安定に存在することができる。
【0069】
また、本発明の正極活物質では、上記副結晶相と上記主結晶相部分とが、主結晶相部分の011面と副結晶相の001面とが接して形成されていることが好ましい。これにより、上記主結晶相部分の011面における酸素原子と、副結晶相の001面の酸素原子との間隔および配列とが一致する。したがって、副結晶相と主結晶相とが更に親和性良く接合することが可能となる。その結果、副結晶相が主結晶相の界面において更に安定に存在することができる。
【0070】
本発明に係る正極活物質では、副結晶相が上記主結晶相の内部において形成されている。このため、上記正極活物質を二次電池の正極材料として用いた場合、充放電の過程において、正極活物質から電解液へ溶出しようとするMnを主結晶相内部に形成されている副結晶相によって物理的にブロックすることができる。すなわち、副結晶相がMn溶出を抑制する障壁となるので、Mnの溶出の低減が実現でき、サイクル特性が大きく向上された非水電解質二次電池を実現する可能な正極活物質を提供できる。
【0071】
また、上述したように、上記副結晶相が層状に形成されていることが好ましい。これにより、上記正極活物質を二次電池の正極材料として用いた場合、充放電の過程において、正極活物質から電解液へ溶出しようとするMnを層状に形成されている副結晶相によって物理的に好ましくブロックすることができる。すなわち、副結晶相によるMnの溶出のさらなる低減が実現でき、サイクル特性が更に大きく向上された非水電解質二次電池を実現する可能な正極活物質を提供できる。
【0072】
図1は、本実施の形態に係る正極活物質1を示す斜視図である。同図に示すように、正極活物質1は、主結晶相2を含んでおり、主結晶相2の内部において副結晶相3が形成されている。換言すると、副結晶相3は主結晶相2に覆われているとも言える。正極活物質1では、好ましい形状として副結晶相3が層状に形成されている。このため、主結晶相2からMnが溶出される際、副結晶相3が障壁となり、Mnの溶出を好ましく抑制できる。上記副結晶相3は層状であるため、正極活物質1における副結晶相3が少ない混合量であっても、リチウム含有酸化物を覆うことができるためMnの溶出を抑制することが可能である。
【0073】
副結晶相3が層状に形成されていることは、正極活物質1を公知の電子顕微鏡によって観察することにより確認することができる。上記電子顕微鏡としては、HAADF‐STEM(高角度散乱暗視野走査(型)透過電子顕微鏡)などを用いることができる。
【0074】
主結晶相部分2’は主結晶相2のうち、副結晶相3の周囲に位置する部分を示す。したがって、主結晶相部分2’と副結晶相3とは隣接している。主結晶相部分2’の結晶方位と副結晶相3の結晶方位とは同一である。両結晶方位が同一であることは、隣接する結晶同士の結晶方位が同一であることを意味する。すなわち、本発明の正極活物質は、副結晶相と主結晶相部分とが連続的な結晶構造を有しているため、副結晶相3が主結晶相2中に安定して存在することができる。
【0075】
「上記副結晶相3の周囲」とは、特に限定されるものではないが、「副結晶相3の表面から1nm以上、500nm以下の範囲」ということができる。また、「上記副結晶相3の周囲」は、「上記副結晶相3の周辺」と換言することもできる。
【0076】
さらに、好ましい形態として主結晶相部分2’と副結晶相3とは、主結晶相部分2’の011面と副結晶相3の001面とが接して形成されている。これにより、主結晶相部分2’の011面における酸素原子と、副結晶相3の001面の酸素原子との間隔および配列とが一致することにより、副結晶相3と主結晶相2とが更に親和性良く接合することが可能となる。その結果、副結晶相3が主結晶相2の界面において更に安定に存在することができる。
【0077】
本発明の正極活物質を二次電池の正極材料として用いた場合、正極活物質において副結晶相の混合量が多いとリチウム含有酸化物の相対量が減少することとなり、正極活物質の放電容量が減少するおそれがある。一方、副結晶相の混合量が少ない場合、主結晶相からのMnの溶出を抑制させる効果が低減し、二次電池のサイクル特性を向上させる効果が低減するため好ましくない。
【0078】
これらの事項を考慮すると、一般式Aにおいて、xの範囲が0.01≦x≦0.10であることが好ましく、0.03≦x≦0.07であることが好ましい。上記の範囲であれば、正極活物質に対する上記副結晶相の割合が好ましい範囲となり、放電容量の低下抑制と、サイクル特性向上とのバランスを好適なものとすることができる。
【0079】
また、発明者らはさらに鋭意検討した結果、主結晶相における副結晶相が、回折法(結晶回折法)によって検出可能な結晶性を有することが好ましいことを見出した。このような副結晶相は結晶性が高く、正極活物質が二次電池の正極材料として用いられる場合、主結晶相からリチウムが脱離または挿入される際に生じる膨張または収縮を物理的に抑制することができる。これによって、正極活物質を構成する結晶粒子群を変形し難くすることができ、その結果、結晶粒子群の割れ等がより生じ難くなり、放電容量の低下が生じ難い二次電池を実現可能な正極活物質を提供することができる。
【0080】
<二次電池の製造方法>
二次電池の製造方法について以下に説明する。まず、正極活物質の原料となる副結晶相の原料化合物の製造方法について説明する。
【0081】
〔副結晶相の原料化合物の製造〕
副結晶相の原料化合物であるスピネル型化合物を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の固相法、水熱法などを用いることができる。また、ゾルゲル法、噴霧熱分解法を用いてもよい。
【0082】
固相法によって、スピネル型化合物を製造する場合、スピネル型化合物の原料としては、副結晶相に含まれる元素を含む原料が使用される。上記原料としては、上記元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの塩化物を用いることができる。
【0083】
具体的には、二酸化マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、酸化鉄、炭酸鉄、硝酸鉄、酸化スズ、炭酸スズ、硝酸スズ、酸化チタン、炭酸チタン、硝酸チタン、五酸化バナジウム、炭酸バナジウム、硝酸バナジウム、酸化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルトなどを例示することができる。
【0084】
また、上記原料として、副結晶相に含まれる元素Me(Meはマンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、チタン、バナジウムなど)を含んだ金属アルコキシドの加水分解物Me(OH)(Xは元素Meの価数)、上記元素Meを含んだ金属イオンの溶液を用いることもでき、上記金属イオンの溶液は増粘剤またはキレート剤と混合された状態にて原料として用いられる。
【0085】
上記増粘剤およびキレート剤としては、公知の増粘剤を用いればよく特に限定されるものではない。例えば、エチレングリコール、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤、および、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンなどのキレート剤を例示することができる。
【0086】
原料中の元素量が目的となる副結晶相の組成比となるように、上記原料を混合して焼成することによって、スピネル型化合物を得ることができる。焼成温度は用いる原料の温度によって設定されるため、一義的に設定することは困難であるが、概して400℃以上、1500℃以下の温度にて焼成を行うことができる。焼成を行う雰囲気は、不活性雰囲気であってもよいし、酸素を含む雰囲気であってもよい。
【0087】
また、密閉容器中にスピネル型化合物に含まれる元素を含む原料である酢酸塩や塩化物等をアルカリ性の水溶液に溶解し、これを加熱する水熱法によっても合成が可能である。水熱法でスピネル型化合物を合成した場合、得られたスピネル型化合物を次の正極活物質を製造する工程にて用いてもよいし、得られたスピネル型化合物に対し熱処理等を行った後に、正極活物質を製造する工程にて用いてもよい。
【0088】
上記の方法によって得られたスピネル型化合物の平均粒径が100μmより大きい場合は、平均粒径を小さくすることが好ましい。例えば、乳鉢や遊星式ボールミル等で粉砕して粒径を小さくすること、または、メッシュ等によってスピネル型化合物の粒径を分別して平均粒子径の小さなスピネル型化合物を次工程で用いることが挙げられる。
【0089】
〔正極活物質の製造〕
次に得られたスピネル型化合物に対して、(1)スピネル型化合物を単一相の状態にて合成し、その後、合成したスピネル型化合物に、リチウム含有酸化物の原料であるリチウム源材料とマンガン源材料とを混合して焼成することによって正極活物質を製造する、または、(2)スピネル型化合物を単一相の状態にて合成し、さらに、別途、合成したリチウム含有酸化物と混合して焼成することによって正極活物質を製造する。上述のように、本実施の形態に係る正極活物質は、予め得られたスピネル型化合物を用いる方法により製造される。
【0090】
上記(1)の方法を用いる場合、まず、スピネル型化合物と、所望のリチウム含有酸化物に応じたリチウム源材料およびマンガン源材料とを配合する。
【0091】
上記リチウム源材料としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムなどを挙げることができる。また、上記マンガン源材料としては、二酸化マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガンなどを挙げることができる。なお、マンガン源材料としては、電解二酸化マンガンを用いることが好ましい。
【0092】
また、マンガン源材料にマンガン以外の遷移金属を含有する遷移金属原料を併用してもよい。上記遷移金属としては、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Ni、Coなどを挙げることができ、遷移金属原料としては、上記遷移金属の酸化物、および、炭酸塩、塩酸塩などの塩化物を用いることができる。
【0093】
混合するリチウム源材料およびマンガン源材料(遷移金属原料を含む)を選定した後に、上記リチウム源材料中のLiの比率と、マンガン源材料(遷移金属原料を含む)の比率とを、所望のリチウム含有酸化物の比率となるようにリチウム源材料およびマンガン源材料(遷移金属原料を含む)をスピネル型化合物に配合する。例えば、所望のリチウム含有酸化物がLiMの場合(Mはマンガンあるいはマンガンとそれ以外の1種類以上の遷移金属)、LiとMとの比率が1:2となるように、リチウム源材料およびマンガン源材料(遷移金属原料を含む)の配合量を設定する。
【0094】
スピネル型化合物、リチウム源材料およびマンガン源材料を設定した配合量にて配合した後、これらを均一に混合する(混合工程)。スピネル型化合物、リチウム源材料およびマンガン源材料の配合量は、上記一般式Aにおけるxが、0.01≦x≦0.10の範囲内であることが好ましい。上記の範囲であれば、後述する焼成時間および焼成温度にて焼成を行うことによって、本発明に係る正極活物質を得ることができる。混合の際には、乳鉢、遊星型ボールミル等の公知の混合器具を用いて行えばよい。
【0095】
混合方法として、スピネル型化合物、リチウム源材料及びマンガン源材料の全量を一度に混合してもよいし、スピネル型化合物の全量に対してリチウム源材料およびマンガン源材料を少量ずつ追加しながら混合してもよい。後者の場合、スピネル型化合物の濃度を徐々に低下させることができ、より均一に混合を行うことができるので好ましい。
【0096】
さらに、混合された原料に対して仮焼成を行う(仮焼成工程)。仮焼成とは、後述する焼成工程の前段階として、焼成を行うものである。仮焼成は空気雰囲気下で行ってもよく、酸素濃度を高めた雰囲気下で行ってもよい。後述する焼成工程においても同様である。
【0097】
仮焼成工程における好ましい焼成温度および焼成時間は、混合された原料および正極活物質を一般式Aで表した場合のxの値によって適宜変化する。このため、焼成温度および焼成時間を一義的に決定することは困難であるが、概して、焼成温度を400℃以上、600℃以下、好ましくは400℃以上、550℃以下、焼成時間を12時間とすることができる。
【0098】
仮焼成後、さらに焼成を行うことによって正極活物質を製造する(焼成工程)。上記混合された原料は、焼成の便宜上、ペレット状に加圧成形して焼成することが好ましい。焼成温度は、混合された原料の種類によって設定されるが、概して400℃以上、1000℃以下の温度範囲にて焼成を行うことができる。焼成を長時間行った場合、副結晶相の厚さが厚くなりすぎるため、焼成時間は16時間以下とすることが好ましい。一方、焼成を短時間にて行った場合、副結晶相の厚さが薄くなるため、焼成時間の下限は0.5時間以上であることが好ましい。
【0099】
上記焼成時間の範囲であれば、得られる正極活物質において、主結晶相の少なくとも一部の元素と、副結晶相の少なくとも一部の元素からなる中間相が主結晶相と副結晶相の界面に存在することができる。このような界面が形成されれば、主結晶相と副結晶相とを強固に結合させることができるため、さらに割れなどが生じ難い正極活物質を得ることができる。
【0100】
なお、上記界面とは、主結晶相と副結晶相とが接している境界を示す。さらに、中間相は、主結晶相と副結晶相の界面に存在し、主結晶相の元素と副結晶相の元素が混ざり合った領域である。中間相では、主結晶相及び副結晶相それぞれを構成する元素が、元素の種類ごとに異なる割合で混在する。中間相は、主結晶相及び副結晶相のいずれとも異なり、且つ主結晶相を構成する元素の全てあるいは一部(少なくとも一部)と、副結晶相を構成する元素の全てあるいは一部(少なくとも一部)とからなる、1種類あるいは複数種類の化合物で構成される。
【0101】
この化合物には固溶体も含まれる。また中間相を構成する元素の割合は、場所が変われば変化し得る。例えば、中間相のうち、主結晶相に近い場所と、副結晶相に近い場所では、各元素の混在する割合は異なることが考えられる。
【0102】
また、主結晶相と副結晶相とが固溶しているか否かについては、X線回折法によって確認することができる。具体的には、例えば、主結晶相のピークと副結晶相のピークとの両方を検出することができ、その状態での主結晶相のピーク位置と主結晶相のみが存在している場合のピーク位置とがシフトしておらず、かつ上記状態(主結晶相のピークと副結晶相のピークとの両方を検出することができる状態)での副結晶相のピーク位置と副結晶相のみが存在している場合のピーク位置とがシフトしていなければ、固溶していない。一方、例えば、副結晶相が主結晶相に固溶していれば、副結晶相のピークを検出することができず、さらに、主結晶相のX線回折法プロファイルのピークは、固溶していない場合のピークと比べてシフトすることとなる。「固溶している」とは、少なくとも一部が固溶していればよく、固溶している割合については限定されない。
【0103】
副結晶相の全量が主結晶相中に拡散し、一様な固溶体が形成されるおそれがある長時間の焼成は好ましくない。完全な固溶体が形成されると、副結晶相が主結晶相内部に形成されない。
【0104】
正極活物質の製造方法としては、副結晶相の原料の一部を有するスピネル化合物であるZnSnOを単一相の状態で合成し、その後、リチウム源材料およびマンガン源原料とを混合して焼成する方法によって得られた正極活物質が、二次電池のサイクル特性を大きく向上させることできるため非常に好ましい。
【0105】
〔正極の製造〕
上述のようにして得られた正極活物質は、以下の公知の手順にて正極に加工される。正極は、上記正極活物質、導電剤および結着剤を混合した合剤を用いて形成される。
【0106】
上記導電剤としては公知の導電剤を用いることができ、特に限定されるものではない。一例として、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素類、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)粉末、金属粉末、金属繊維等を挙げることができる。
【0107】
上記結着剤としては公知の結着剤を用いることができ、特に限定されるものではない。一例として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー等のポリオレフィン系ポリマー、スチレンブタジエンゴム等を挙げることができる。
【0108】
導電剤および結着剤の適切な混合比は、混合する導電剤および結着剤の種類により異なるため、一義的に設定することは困難であるが、概して正極活物質100重量部に対して、導電剤を1重量部以上、50重量部以下、結着剤を1重量部以上、30重量部以下とすることができる。
【0109】
導電剤の混合比が1重量部未満であると、正極の抵抗あるいは分極等が大きくなり、放電容量が小さくなるため、得られた正極を用いて実用的な二次電池が作製できないこととなる。一方、導電剤の混合比が50重量部を超えると正極内に含まれる正極活物質の混合比率が減少するため、正極としての放電容量が小さくなる。
【0110】
また、結着剤の混合比が、1重量部未満であると結着効果が発現しないおそれがある。一方、30重量部を超えると、導電剤の場合と同様に、電極内に含まれる活物質量が減り、さらに、上記に記載のように、正極の抵抗あるいは分極等が大きくなり、放電容量が小さくなるため実用的ではない。
【0111】
合剤には、導電剤や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン伝導体、圧力増強剤およびその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された二次電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば特に限定されることなく用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン、などのオレフィン系ポリマー、ガラスなどの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、上記合剤に対して0重量部以上、30重量部以下であるが好ましい。
【0112】
上記正極活物質、導電剤、結着剤、および、各種添加剤などを混合した合剤を正極として形成する方法としては、特に限定されるものではない。一例として、合剤を圧縮によってペレット状の正極を形成する方法、合剤に適切な溶媒を添加してペーストを形成し、このペーストを集電体上に塗布した後に、乾燥、さらに圧縮を行うことによってシート状の正極を形成する方法などが挙げられる。
【0113】
正極中の正極活物質から、または、正極活物質への電子の授受は、集電体によって行われる。このため、得られた正極活物質には集電体を配置する。上記集電体としては、金属単体、合金、炭素などが用いられる。例えば、チタン、アルミニウムなどの金属単体、ステンレス鋼などの合金、炭素などを挙げることができる。また、銅、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、チタン、銀の層が形成されたもの、または、銅、アルミニウムやステンレス鋼の表面を酸化した集電体を用いることもできる。
【0114】
集電体の形状は、箔の他、フィルム、シート、ネット、パンチされた形状を挙げることができ、集電体の構成としては、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体などを挙げることができる。集電体の厚さは1μm以上、1mm以下のものが用いられるが特に限定はされない。
【0115】
〔負極の製造〕
本発明の二次電池が有する負極は、リチウムを含有する物質若しくはリチウムを挿入または脱離可能な負極活物質を含むものである。換言すると、上記負極は、リチウムを含有する物質若しくはリチウムを吸蔵または放出可能な負極活物質を含むものということもできる。
【0116】
上記負極活物質としては公知の負極活物質を用いればよい。一例として、リチウム合金類:金属リチウム、リチウム/アルミ合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金、ウッド合金など、電気化学的にリチウムイオンをドープおよび脱ドープできる物質:導電性高分子(ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等)、熱分解炭素、触媒の存在下で気相熱分解された熱分解炭素、ピッチ、コークス、タール等から焼成した炭素、セルロース、フェノール樹脂等の高分子より焼成した炭素など、リチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションの可能な黒鉛:天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など、および、リチウムイオンをドープ・脱ドープできる無機化合物:WO、MoOなどの物質を挙げることができる。これらの物質は、単独で用いてもよいし、複数種類からなる複合体を用いることもできる。
【0117】
これらの負極活物質のうち、熱分解炭素、触媒の存在下で気相熱分解された熱分解炭素、ピッチ、コークス、タール等から焼成した炭素、高分子より焼成した炭素などや、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等)を用いると、電池特性、特に安全性の面で好ましい二次電池を作製することができる。特に、高電圧の二次電池を作製するためには黒鉛を用いることが好ましい。
【0118】
負極活物質に導電性高分子、炭素、黒鉛、無機化合物等を用いて負極とする場合、導電剤と結着剤が添加されてもよい。
【0119】
導電剤には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素類や、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)粉末、金属粉末、金属繊維等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0120】
また、結着剤には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー等のポリオレフィン系ポリマー、スチレンブタジエンゴム等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0121】
〔イオン伝導体および二次電池の形成方法〕
本発明に係る二次電池を構成するイオン伝導体は、公知のイオン伝導体を用いることができる。例えば、有機電解液、固体電解質(無機固体電解質、有機固体電解質)、溶融塩などを用いることができ、この中でも有機電解液を好適に用いることができる。
【0122】
有機電解液は有機溶媒と電解質とから構成される。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒であるプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの置換テトラヒドロフラン類、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタンなどのエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチルなどの一般的な有機溶媒を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0123】
また電解質として、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム、6フッ化砒酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、塩化アルミン酸リチウム等のリチウム塩が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して使用される。上述の溶媒に対し適切な電解質を選択し、両者を溶解することによって有機電解液を調製する。有機電解液を調製する際に使用する溶媒、電解質は、上記に掲げたものに限定されるものではない。
【0124】
固体電解質である無機固体電解質としては、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などを挙げることができる。例えば、LiN、LiI、LiN−LiI−LiOH、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、硫化リン化合物、LiSiSなどを挙げることができる。
【0125】
固体電解質である有機固体電解質としては、有機電解液を構成する上記電解質と電解質の解離を行う高分子とから構成された物質、高分子にイオン解離基を持たせた物質などが挙げられる。
【0126】
電解質の解離を行う高分子として、例えば、ポリエチレンオキサイド誘導体もしくは該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体もしくは該誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマーなどを挙げることができる。また、その他に上記非プロトン性極性溶媒を含有させた高分子マトリックス材料、イオン解離基を含むポリマーと上記非プロトン性電解液との混合物、ポリアクリロニトリルを上記電解液に添加する方法もある。また、無機固体電解質および有機固体電解質を併用する方法も知られている。
【0127】
二次電池内において、上記電解液を保持するためのセパレータとしては、電気絶縁性の合成樹脂繊維、ガラス繊維、天然繊維などの不織布、織布、ミクロポア構造材料、アルミナなどの粉末の成形体などが挙げられる。中でも合成樹脂のポリエチレン、ポリプロピレンなどの不織布、ミクロポア構造体が品質の安定性などの点から好ましい。これら合成樹脂の不織布およびミクロポア構造体では電池が異常発熱した場合、セパレータが熱により溶解して正極と負極の間を遮断する機能を付加したものもあり、安全性の観点からこれらも好適に使用することができる。セパレータの厚みは特に限定はないが、必要量の電解液を保持することが可能で、かつ正極と負極との短絡を防ぐ厚さがあればよい。通常、0.01mm以上、1mm以下程度のものを用いることができ、好ましくは0.02mm以上、0.05mm以下程度である。
【0128】
二次電池の形状はコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型などいずれにも適用できる。コイン型およびボタン型の場合、正極および負極をペレット状に形成し、蓋を備える缶構造の電池缶に正極および負極を入れ、絶縁パッキンを介して蓋をかしめる(固定する)方法が一般的である。
【0129】
一方、円筒型および角型の場合、シート状の正極および負極を電池缶に挿入し、二次電池とシート状の正極および負極とを電気的に接続し、電解液を注入し、絶縁パッキンを介して封口板を封口する、または、ハーメチックシールにより封口板と電池缶とを絶縁して封口し二次電池を作製する。このとき、安全素子を備えつけた安全弁を封口板として用いることができる。安全素子には、例えば、過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC(positive temperature coefficient)素子などが挙げられる。また、安全弁のほかに電池缶の内圧上昇の対策として、ガスケットに亀裂を入れる方法、封口板に亀裂を入れる方法、電池缶に切り込みを入れる方法等を用いる。また、過充電や過放電対策を組み込んだ外部回路を用いてもよい。
【0130】
ペレット状またはシート状の正極および負極は、予め乾燥または脱水されていることが好ましい。乾燥および脱水方法としては、一般的な方法を利用することができる。例えば、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線及び低湿風等を単独あるいは組み合わせて用いる方法が挙げられる。温度は50℃以上、380℃以下の範囲であることが好ましい。
【0131】
上記電池缶への電解液の注入は、電解液に注入圧力を加える方法、負圧と大気圧との気圧差を利用する方法などが挙げられるが、上記に掲げた方法に限定されない。電解液の注入量も特に限定されないが、正極および負極とセパレータとが完全に浸る量であることが好ましい。
【0132】
作製した二次電池の充放電方法としては、定電流充放電方法、定電圧充放電方法および定電力充放電方法があり、電池の評価目的に応じて使い分けることが好ましい。上記方法は、単独あるいは組み合わせて充放電を行ってもよい。
【0133】
本発明に係る二次電池の正極は、上記正極活物質を含んでいるため、本発明の二次電池によれば、Mnの溶出の低減が実現でき、サイクル特性が大きく向上された非水電解質二次電池を実現することができる。さらに、放電容量の低下が生じ難い非水電解質二次電池を実現できる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において得られた2極式セル(二次電池)および正極活物質について以下の測定を行った。
【0135】
<充放電サイクル試験>
充放電サイクル試験は、得られた2極式セルに対し、電流密度が0.5mA/cm、電圧が3.2Vから4.3Vまでの範囲において、25℃および60℃の条件下において行った。
【0136】
25℃条件下では、6サイクル後から10サイクル後の放電容量の平均値を初期の放電容量とし、198サイクル後から202サイクル後の放電容量の平均値を200サイクル後の放電容量として、放電容量維持率は、{(200サイクル後の放電容量)/(初期の放電容量)}×100から算出した。
【0137】
一方、60℃条件下では、6サイクル後から10サイクル後の放電容量の平均値を初期の放電容量とし、98サイクル後から102サイクル後の放電容量の平均値を100サイクル後の放電容量として、放電容量維持率は、{(100サイクル後の放電容量)/(初期の放電容量)}×100から求めた。
【0138】
<HAADF‐STEM像の撮影>
得られた正極活物質の粉末を、主成分がシリコンである樹脂に取り付け、Gaイオンを用いて正極活物質を10μm角に加工した。さらに、Gaイオンビームを一方方向から照射することによって厚さが100nm以上、150nm以下のSTEM‐EDX分析用薄膜サンプルを得た。
【0139】
上記STEM‐EDX分析用薄膜サンプルに対して電界放出型電子顕微鏡(HRTEM、HITACHI社製、品番HF−2210)を用いて、加速電圧を200kV、試料吸収電流を10−9A、ビーム径を0.7nmφに設定し、HAADF−STEM像を得た。
【0140】
<EDX‐元素マップの撮影>
STEM像の撮影にて、得たSTEM−EDX分析用薄膜サンプルに対して電界放出型電子顕微鏡(HRTEM、HITACHI社製、品番HF‐2210)を用いて、加速電圧を200kV、試料吸収電流を10−9A、ビーム径を1nmφに設定し、ビームを40分間照射することによってEDX−元素マップを得た。
【0141】
<電子線回折>
STEM像の撮影にて得たSTEM−EDX分析用薄膜サンプルに対して電界放出型電子顕微鏡(HRTEM、HITACHI社製、品番HF‐2210)を用いて、加速電圧を200kV、試料吸収電流を10−9A、ビーム径を2nmφに設定し、電子線回折を行った。得られた電子線回折図形により上記サンプルの結晶方位を調べた。
【0142】
<格子像の撮影>
STEM像の撮影にて、得たSTEM−EDX分析用薄膜サンプルに対して電界放出型電子顕微鏡(HRTEM、HITACHI社製、品番HF−2210)を用いて、加速電圧を200kV、試料吸収電流を10−9A、ビーム径を0.7nmφに設定し、20000倍以上の高倍率観察により、格子像の撮影像を得た。
【0143】
〔実施例1〕
亜鉛源材料として酸化亜鉛、スズ源材料として酸化スズ(IV)を用い、これらの材料を亜鉛とスズがモル比で2:1になるように秤量した後、自動乳鉢で5時間混合した。さらに、1000℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて焼成を行うことによって焼成物を得た。焼成後、得られた焼成物を自動乳鉢で5時間粉砕および混合し、スピネル型化合物を作製した。
【0144】
リチウム含有酸化物を構成するリチウム源材料として炭酸リチウム、マンガン源材料として電解二酸化マンガンを用い、これらの材料をリチウムおよびマンガンがモル比で1:2になるように秤量した。さらに、スピネル型化合物と主結晶相とが一般式Aにおいてx=0.05となるようにスピネル型化合物を秤量した。炭酸リチウム、電解二酸化マンガンおよびスピネル型化合物を自動乳鉢にて5時間混合し、550℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて仮焼成を行った(仮焼成工程)。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、粉体を得た。
【0145】
上記粉体をペレット状に成型した物を800℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて焼成した(焼成工程)。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、正極活物質を得た。
【0146】
また、上記正極活物質を80重量部、導電剤としてアセチレンブラックを15重量部、および、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを5重量部の比率にて混合し、さらに、N−メチルピロリドンと混合することによりペーストにし、厚さ20μmのアルミニウム箔に厚さが50μm以上、100μm以下になるように塗布した。このペースト塗布物を乾燥後、ペースト塗布物を直径15.958mmの円盤状に打ち抜き、真空乾燥させることによって正極を作製した。
【0147】
一方、負極は、所定の厚さの金属リチウム箔を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いて作製した。また、非水電解質としての非水電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比で2:1で混合された溶媒に、溶質であるLiPFを1.0mol/lの割合で溶解することにより調製した。なお、セパレータとしては厚さが25μmで空孔率が40%のポリエチレン製の多孔質膜を用いた。
【0148】
上述の正極、負極、非水電解液およびセパレータを用いて2極式セルを作製した。得られた2極式セルに対し、充放電サイクル試験を行った。初期放電容量およびサイクル試験後の容量維持率の25℃における測定結果を表1に、60℃における測定結果を表2に示した。また、得られた正極活物質に対してHAADF‐STEM像の撮影、EDX‐元素マップの撮影、電子線回折の撮影、および格子像の撮影を行った。図2は、実施例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す写真図であり、図3は、実施例1にて得られた正極活物質のEDX‐元素マップを示す写真図であり、図4(a)は、図2のHAADF‐STEM像の一部を示す写真図であり、図4(b)は実施例1にて得られた正極活物質の電子線回折図であり、図5は、実施例1にて得られた正極活物質の格子像を示す撮影図である。
【0149】
HAADF−STEM像はビームが照射された部分の厚さ方向の全部を分析しているため、主結晶相に含まれるマンガンに対してスピネル型化合物に含まれる亜鉛およびスズが層状に形成されていることが図2、3から理解できる。このため、正極活物質において、スピネル型化合物(副結晶相)が層状に形成されていることが明確に理解できる。
【0150】
図4(a)のHAADF‐STEM像において、1および2は主結晶相を、3および4は、主結晶相および副結晶相を含んだ相をそれぞれ示している。3および4は、1および2によって挟まれており、図4(b)から分かるように、1、2および3の電子線回折図はほとんど同じである。電子線回折図がほとんど同じであることは、結晶方位がほとんど同じであることを示している。したがって、副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、副結晶相の結晶方位とが同一であることが明確に理解できる。
【0151】
さらに、図5の格子像より、主結晶相部分および副結晶相が接していることがわかる。さらに、格子像を解析することにより、同図の結晶面は、主結晶相部分が011面、副結晶相が001面であることが分かった。したがって、主結晶相部分の011面と副結晶相の001面とが接していることが理解できる。
【0152】
〔実施例2〕
一般式Aにおけるスピネル型化合物の混合率xをx=0.05からx=0.02に変更した以外は、実施例1と同様の合成を行った。実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0153】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。さらに、実施例1と同様の方法で撮影し、HAADF−STEM像の写真図(図6、図8(a))、EDX−元素マップの撮影図(図7)および電子線回折図(図8(b))を得た。
【0154】
図6、7より、実施例1と同様に、正極活物質の主結晶相においてスピネル型化合物(副結晶相)が層状に形成されていることを確認した。さらに、図8(a)のHAADF‐STEM像において、8、10、11、12は主結晶相を、9は、主結晶相および副結晶相を含んだ相をそれぞれ示している。実施例1と同様に、9は8および10によって挟まれており、図8(b)から分かるように、8、9および10の電子線回折図はほとんど同じである。したがって、副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、副結晶相の結晶方位とが同一であることが明確に理解できる。
【0155】
〔実施例3〕
一般式Aにおけるスピネル型化合物の混合率xをx=0.05からx=0.10に変更した以外は、実施例1と同様の合成を行った。実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0156】
また、実施例1と同様の方法でSTEM−EDX分析用サンプルを得た。その後、実施例1と同様の方法で撮影し、HAADF−STEM像の写真図(図9、図11)、EDX−元素マップの写真図(図10)、電子線回折図(図12)を得た。
【0157】
図9、10より、実施例1と同様に、正極活物質の主結晶相においてスピネル型化合物(副結晶相)が層状に形成されていることを確認した。また、図11において1、2、5、6、7は主結晶相を、3、4は、主結晶相および副結晶相を含んだ相をそれぞれ示している。実施例1と同様に、3は、1、2に挟まれており、4は5、6、7に挟まれている。実施例1と同様に、1〜7の電子線回折図はほとんど同じであり、副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、副結晶相の結晶方位とが同一であることを確認した。
【0158】
〔比較例1〕
スピネル型化合物を全く混合することなく、リチウム源材料として炭酸リチウム、マンガン源材料として電解二酸化マンガンを用い、これらの材料をリチウムとマンガンがモル比で1:2になるように出発物質を秤量した。炭酸リチウムおよび電解二酸化マンガンを自動乳鉢にて5時間混合し、550℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて仮焼成を行った。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、粉体を得た。
【0159】
上記粉体をペレット状に成型した物を800℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて焼成した。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、正極活物質を得た。さらに、実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示す。
【0160】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。さらに、実施例1と同様の方法で撮影し、HAADF−STEM像の写真図(図13、図15(a))、EDX−元素マップの撮影図(図14)、電子線回折図(図15(b))を得た。
【0161】
図13、図14より、実施例1〜3とは異なり、副結晶相を確認することはできなかった。図14では、EDX分析において元素が存在しない箇所に特定の元素が検出されているため、EDX分析で得られたZnおよびSnの元素マップはノイズによるものであることが確認できる。また、図15(b)は、図15(a)のSAED1で示される箇所の電子線回折図であり、主結晶相のみの電子線回折図を確認することができた。
【0162】
〔比較例2〕
比較例1で作製した出発物質と実施例1で作製したスピネル型化合物とがモル比で95:5になるように秤量した後、自動乳鉢で5時間混合することで合成正極活物質を得た。さらに、実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示す。
【0163】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。さらに、実施例1と同様の方法で撮影し、HAADF−STEM像の写真図(図16(a))、電子線回折図(図16(b))を得た。
【0164】
図16(a)より、副結晶相が主結晶相の内部に形成されている実施例1〜3とは異なり、副結晶相が主結晶相の粒界に存在することが分かる。
【0165】
また、図16(b)の1〜8より、主結晶相とは異なる酸化物ZnSnOの111面と、主結晶相の100面とが接していることが確認できる。
【0166】
【表1】

【0167】
【表2】

【0168】
表1および表2から分かるように、実施例1〜3の2極式セルに関して、良好な放電容量維持率を得る事ができた。一方、比較例1、2では、表1、表2の放電容量維持率が低い値となっており、この点で実施例1〜3に劣る結果となっている。また、実施例1〜3では、初期放電容量が76mAh/g以上であり、放電容量維持率との両立が実現できたことがわかる。
【0169】
なお、比較例1の正極活物質は、製造過程においてスピネル型化合物を混合しなかったため、副結晶相を有しない。また、比較例2の正極活物質は、製造過程においてスピネル型化合物が混合されたものであるが、副結晶相が主結晶相の内部に形成されていない。このような正極活物質では、25℃および60℃における放電容量維持率が低い結果となった。
【0170】
以上のように、本発明に係る二次電池の正極は、正極材料として上記正極活物質を含んでいる。上記正極活物質は、主結晶相の内部において副結晶相が形成されており、さらに上記副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、上記副結晶相の結晶方位とが同一であるものである。上記正極活物質を使用することにより、二次電池の高温におけるサイクル特性が改善されることがわかった。また、正極活物質において、副結晶相の存在によって正極活物質の粒子群の割れなどによる放電容量の低下を低減させることができる。したがって、本発明によれば、非常に高性能な二次電池を提供することができる。
【0171】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の正極活物質は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする電動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる非水電解液二次電池に適用可能である。
【符号の説明】
【0173】
1 正極活物質
2 主結晶相
2’ 主結晶相部分
3 副結晶相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含有すると共にスピネル型構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物から構成される主結晶相を含み、非水系二次電池において用いられる正極活物質において、
上記リチウム含有遷移金属酸化物と同一の酸素配列を有し、異なる元素組成から構成される副結晶相が上記主結晶相の内部に形成されており、
上記副結晶相の周囲における主結晶相部分の結晶方位と、上記副結晶相の結晶方位とが同一であることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
上記副結晶相の結晶構造が正方晶または斜方晶であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
上記副結晶相がスピネル型構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
上記副結晶相が、回折法によって検出可能な結晶性を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
上記主結晶相の少なくとも一部の元素と、上記副結晶相の少なくとも一部の元素からなる中間相が上記主結晶相と上記副結晶相との界面に存在することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
上記主結晶相および副結晶相を含む全体の組成を以下の一般式Aで示す時、0.01≦x≦0.10であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の正極活物質。
一般式A:Li1−xM12−2x2xM32x4−y
(但し、M1はマンガンあるいはマンガンと遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素を示し、M2およびM3は典型金属元素あるいは遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素を示し、M1、M2およびM3は互いに異なる。また、yはxと電気的中性を満足する値である。)
【請求項7】
上記リチウム含有遷移金属酸化物は、遷移金属としてマンガンのみを含有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項8】
上記副結晶相が、典型元素およびマンガンを含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項9】
上記副結晶相が、亜鉛およびマンガンを含むことを特徴とする請求項8に記載の正極活物質。
【請求項10】
上記副結晶相の亜鉛およびマンガンの組成比Mn/Znが、2≦Mn/Zn<4であることを特徴とする請求項9に記載の正極活物質。
【請求項11】
上記副結晶相の厚さが、1nm以上、100nm以下であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項12】
上記リチウム含有遷移金属酸化物の格子定数が、8.22Å以上、8.25Å以下であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項13】
上記副結晶相と上記主結晶相部分とが、主結晶相部分の011面と副結晶相の001面とが接して形成されていることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の正極活物質。
【請求項14】
正極、負極および非水系のイオン伝導体を備える非水系二次電池において、
上記負極は、リチウムを含有する物質若しくはリチウムを挿入または脱離可能な負極活物質を含んでおり、
上記正極は、請求項1〜13の何れか1項に記載の正極活物質を含むことを特徴とする非水系二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−89441(P2012−89441A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237458(P2010−237458)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】