説明

正極活物質およびその製造方法

【課題】 低コストに製造することができ、十分な放充電容量を有する正極活物質の製造技術を提供する。
【解決手段】正極活物質の製造方法は、リチウムおよびフッ素を構成元素として含み非水電解質二次電池の正極となる活物質を製造する方法であって、ナトリウムおよびフッ素を構成元素として含み前記正極活物質の前駆体となる固体を、リチウム元素を含有する電解質を含む有機溶媒中に浸漬して前記正極活物質を得る工程を含み、前記リチウム元素を含有する電解質および前記有機溶媒が非水電解質リチウムイオン二次電池の電解液として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の技術分野に属し、特に、リチウム元素を含む正極活物質を低コストで効率よく製造する新規な製造方法およびその正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質を用いるリチウムイオン二次電池には、主として、正極にリチウム元素を含む正極活物質が使用され、高電圧で高エネルギー密度を達成できる電池として盛んに研究開発が行われている。
【0003】
しかしながら、リチウム元素を含む正極活物質(リチウム塩)は、一般に、ナトリウム元素を含む正極活物質(ナトリウム塩)よりも合成が難しいという問題がある。例えば、正極活物質として、NaFeF3(理論容量197mAh/g)は合成されているものの、LiFeF3(理論容量224mAh/g)はこれまでのところ直接合成されていない。これは、ナトリウム元素の原子サイズがリチウム元素より大きいことが主な原因と考えられる。
【0004】
さらに、近年ではハイブリッド自動車や電気自動車用搭載電源等への応用が検討されており、より高容量で経済的な大型リチウムイオン二次電池の開発が求められている。大型リチウムイオン二次電池の正極として、LiFePO4に代表されるレアメタルフリーのオリビン型結晶構造を有する正極が注目されているが、ポリアニオンが持つ大きな分子量のためにその理論容量は170mAh/g程度に止まっている。1分子中に2Liを含有する正極活物質が製造できれば、この容量上の制約が解消され、理論容量を増大できると考えられる。
【0005】
1分子中に2Liを含有する正極活物質として、例えば、理論容量が300mAh/gのフッ素化ポリアニオンLi2FePO4Fが挙げられるが、その合成は難しく、これまでのところ十分に合成されていない。例えば、Na2FePO4Fのナトリウム元素をリチウム元素に一部置換してLi2FePO4Fを製造することが試みられているが、実質的なリチウムの含有率は90%程度にとどまっている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. L. Ellis, W. R. M. Makahnouk, Y. Makimura, K. Toghill & L. F. Nazar, Nature Materials 6, 749 - 753 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の技術では、リチウム元素を含有する正極活物質の合成が、ナトリウム元素を含有する正極活物質に比べて困難であるという課題がある。さらに、従来の技術では、正極活物質として可及的に多くのリチウム元素を含有する(例えば、Li2FePO4Fのように1分子中に2Liを含有する)リチウム塩を得る手段は確立されておらず、正極活物質の理論容量を増大させるまでには至っていないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、合成が容易なナトリウム塩を用いることで、従来は合成が困難であったリチウム元素を含有する正極活物質を簡便に製造し、特に正極活物質の選定によりその理論容量を増大させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、イオン交換を利用して、合成が容易なナトリウム塩から、非水電解液を用いる二次電池に好適なリチウム元素を含有する正極活物質を製造する方法を新たに見出した。さらに、この正極活物質を用いて、負極活物質を選択して組み合わせることにより、稼動安定性の高い非水電解質二次電池を構築できることを見出した。
【0010】
かくして、本発明に従えば、リチウムおよびフッ素を構成元素として含み非水電解質二次電池の正極となる活物質を製造する方法であって、ナトリウムおよびフッ素を構成元素として含み前記正極活物質の前駆体となる固体を、リチウム元素を含有する電解質を含む有機溶媒中に浸漬して前記正極活物質を得る工程を含み、前記リチウム元素を含有する電解質および前記有機溶媒が非水電解質リチウムイオン二次電池の電解液として用いられているものであることを特徴とする正極活物質の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明に従えば、上記の方法により製造された非水電解質二次電池用正極活物質も提供される。さらに、本発明に従えば、上記の正極活物質を用いる非水電解質二次電池も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るペレット電極および塗布電極の概略図を示す。
【図2】本発明により製造された正極活物質Li2FePO4FのXRDパターン結果、原子吸光および充放電試験結果を示す。
【図3】本発明により製造された正極活物質LiFeF3のXRDパターン結果、原子吸光結果および交換処理時間とイオン交換反応の関係図を示す。
【図4】本発明により製造された正極活物質LiFeF3の充放電試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に従えば、ナトリウムおよびフッ素を構成元素として含み(非水電解質二次電池用のものでリチウムおよびフッ素を構成元素として含む)正極活物質の前駆体となる固体(前駆体固体)を、リチウム元素を含有する電解質を含む(非水電解質二次電池の電解液として用いられる)有機溶媒中に浸漬して前記正極活物質を製造することができる。すなわち、原料となる前駆体固体を、リチウム元素を含有する電解質を含む有機溶媒中に浸漬することにより、前駆体固体に含まれるナトリウム元素を可及的にリチウム元素にイオン交換し、目的となるリチウム元素およびフッ素元素を含む結晶質または非晶質の正極活物質を得る。
【0014】
イオン交換の効率を高めるために、一般に、窒素ガスやアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下で数日間攪拌することが好ましい。攪拌する期間は、5〜15日間程度が好ましい。攪拌時の温度としては、常温〜100℃が好ましいが、反応性を高める観点から、常温よりも高温であることがより好ましく、例えば80℃とすることができる。不活性ガスは、取り扱いの容易さからアルゴンガスを用いることが好ましい。
【0015】
このように、本発明の特徴は、通常の非水電解質リチウムイオン二次電池用電解液をそのまま用いて、比較的低温でイオン交換を実施するという非常に簡便な方法を用いて、目的となるリチウム元素およびフッ素元素を含む正極活物質を得ることにある。さらに、1分子中にナトリウム元素とリチウム元素の総原子数が2以上含まれる前駆体固体の場合には、前駆体固体に含まれるナトリウム元素が可及的にリチウム元素にイオン交換されることにより、1分子中にリチウム元素を1元素以上(1Li)含有する正極活物質の製造が可能となり、正極活物質の理論容量を増大させることができる。
【0016】
また、前駆体固体は、所謂ナトリウム塩であり、その原子サイズはリチウム塩より大きいことから、一般にリチウム塩(すなわち本発明に従い製造される正極活物質)よりも簡
便に合成できるケースが多い。このようなことからも、本発明が有意に適用できる対象は以下に例示するように広範に及び、比較的合成が容易なナトリウム塩(前駆体固体)を用いて、これまで合成が困難であったリチウム元素を含有する多種の正極活物質を簡素に製造することができる。
【0017】
前駆体固体と正極活物質
前駆体固体としては、ナトリウム元素およびフッ素元素を含む固体であれば限定されず、例えば、Na2FePO4F、LiNaFePO4F、NaFeF3、NaMnF3、Na2CoPO4F、Na2NiPO4F、Na2TiF6、Na3FeF6、NaVPO4FおよびLiNaMnPO4Fを挙げることができる。本発明に従えば、これらの前駆体固体のナトリウム元素をリチウム元素にイオン交換し、正極活物質として、各々、Li2FePO4F、Li2FePO4F、LiFeF3、LiMnF3、Li2CoPO4F、Li2NiPO4F、Li2TiF6、Li3FeF6、LiVPO4FおよびLi2MnPO4Fを得ることができる。
【0018】
このうち車載用等の大型電池の用途として好適なものは、マンガン元素または鉄元素を含有するものであり、例えば、前駆体固体Na2FePO4F、LiNaFePO4F、NaFeF3、NaMnF3が好ましく、正極活物質として、各々Li2FePO4F、Li2FePO4F、LiFeF3、LiMnF3を得ることができる。さらに、正極活物質の理論容量を増大させる観点から、1分子中にナトリウム元素とリチウム元素の総原子数が2原子である前駆体固体Na2FePO4FまたはLiNaFePO4Fが好ましく、正極活物質としてLi2FePO4Fを得ることができる。
【0019】
有機溶媒
非水溶媒系電解質リチウムイオン二次電池の電解液として用いられている有機溶媒(非水溶媒)がそのまま使用され、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)等の炭酸エステル系溶媒を用いることができる。特に好ましいものとして、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒を使用することができる。リチウム塩を溶解する有機溶媒であっても、リチウムイオン二次電池の電解液として使用されていないもの(例えば、アセトニトリル)は、適さない。例えば、アセトニトリルのようにシアノ基を持ったニトリル系では燃焼時にシアンガスが発生するため、毒性の観点から電解液として適さない。
【0020】
リチウム元素を含有する電解質
リチウム元素を含有する電解質としては、上記の有機溶媒中でリチウムイオンが電極間を移動できリチウムイオン二次電池に用いられている電解質であれば限定されず、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiB(C654、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiN(SO3CF32を挙げることができる。構築される二次電池にその電解質がそのまま使用されることで、洗浄加熱等の余分な溶媒乾燥除去作業工程を省くことができることから好ましく、そのような電解質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiN(SO3CF32を挙げることができる。特に好ましいのは、酸化分解が発生し難く、非水電解液中の伝導性が高く、実際のリチウムイオン二次電池にも広く使われている六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)である。
【0021】
また、LiBrやLiClは、リチウム塩であるが、上記電解質の溶質としては適さない。その理由としては、BrやClは、アニオン半径が小さすぎることから、Liとの静電
引力のためにイオン解離が抑制され、電解液溶媒に多くの溶質を溶かしきれないためである。
【0022】
本発明に従えば、一例として、原料の前駆体固体がLiNaFePO4、NaFeF3、NaMnF3の場合には、以下のイオン交換反応により、各々、非水電解質二次電池用の正極活物質Li2FePO4F、LiFeF3、LiMnF3が生成されるものと考えられる。なお、Li2FePO4Fは、以下の前駆体固体LiNaFePO4Fから生成することもできるが、同様にして、前駆体固体Na2FePO4Fから生成することも可能である。
【0023】
〔化1〕
LiNaFePO4F+Li+ → Li2FePO4F+Na+
〔化2〕
NaFeF3+Li+ → LiFeF3+Na+
〔化3〕
NaMnF3+Li+ → LiMnF3+Na+
非水電解質二次電池の正極として、上記の正極活物質をそのまま用いてもよいが、電極のレート特性を向上させるために、公知の導電材との複合体を形成させてもよい。
【0024】
すなわち、本発明に従えば、レート特性を向上させる観点から、上記のイオン交換によって得られた正極活物質を、不活性ガス雰囲気下で炭素微粒子と共に粉砕・混合することにより、カーボンコートすることができる。該炭素微粒子としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を使用することができるが、電極として使用する際の導電性の高さからアセチレンブラックが好適である。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス等を用いることができ、例えば、アルゴンガスを用いることができる。
【0025】
カーボンコートの際の粉砕・混合に適用される具体的手段は、特に限定されるものではなく、固形物質の粉砕・混合の目的で従来から用いられている各種の手段が適用可能であるが、好ましいのは、ボールミルであり、そのうち特に、原料を充分に粉砕・混合することができる点から遊星型ボールミル(planetary ball milling)を用いることが好ましい。
【0026】
本発明に従えば、以上のようにして得られた正極活物質を含む二次電池正極、および該正極に負極を組み合わせた二次電池が提供される。
【0027】
本発明に従う正極を作製する際には、上記の正極活物質を用いるほかは公知の電極の作製方法に従えばよい。例えば、上記活物質の粉末を必要に応じてポリエチレン等の公知の結着材、さらに必要に応じてアセチレンブラック等の公知の導電材と混合した後、得られた混合粉末をステンレス鋼製等の支持体上に圧着成形したり、金属製容器に充填したりすることができる。このような正極の例として、ペレット電極がある。ペレット電極としては、例えば、図1(a)に示すように、ペレット電極10aと、スペーサー11aと、コインセル容器(下蓋)12と、チタン製のチタンメッシュ13とから構成することができる。ペレット電極10aは、例えば、10mmの厚さとすることができる。スペーサー11aは、チタンメッシュ13を載置し、このチタンメッシュ13上にペレット電極10aを載置する。
【0028】
また、例えば、上記混合粉末をトルエン等の有機溶剤と混合して得られたスラリーをアルミニウム、ニッケル、ステンレス、銅等の金属基板上に塗布する等の方法によっても本発明の正極を作製することができる。このような正極の例として、塗布電極がある。塗布電極としては、例えば、図1(b)に示すように、塗布電極10bと、スペーサー11b
と、コインセル容器(下蓋)12とから構成することができる。塗布電極10bは、例えば、10mmの電極径とすることができる。スペーサー11bは、上面中央部に塗布電極10bがスポット溶接される。
【0029】
以上の正極と組み合わせて用いられる負極(負極活物質)としては、ナトリウムまたはリチウム、それらのアルカリ金属の化合物または合金なども用いることができ、炭素質材料を使用することもできる。本発明に従い負極に用いられる炭素質材料としては、グラファイト(黒鉛系)系炭素体が好ましく、その他に、各種高分子を焼成して得られるハードカーボンなども使用されるが、これらに限定されるものではない。さらに、これらの炭素質材料は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
負極の作製は公知の方法に従えばよく、例えば、正極に関連して上述した方法と同様にして作製することができる。すなわち、例えば、負極活物質の粉末を必要に応じて、既述の公知の結着材、さらに必要に応じて、既述の公知の導電材と混合した後、この混合粉末をシート状に成形し、これをステンレス、銅等の導電体網(集電体)に圧着すればよい。また、例えば、上記混合粉末を既述の公知の有機溶剤と混合して得られたスラリーを銅等の金属基板上に塗布することにより作製することもできる。
その他の構成要素としては、公知の非水電解質二次電池に使用されるものを構成要素として使用できる。例えば、以下のものが例示できる。
【0031】
電解液は通常、電解質及び溶媒を含む。電解液の溶媒としては、非水系であれば特に制限されず、例えば、カーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等を使用することができる。これらの例としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルホルメート、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、エチルメチルカーボネート、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2−ジクロロエタン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で用いることができ、例えば、ジメチルカーボネートおよびエチレンカーボネートを使用することができる。
【0032】
電解液に含まれる電解質としては、上記の溶媒に、負極活物質中のアルカリ金属イオンが、上記の正極活物質及び負極活物質と電気化学反応するための移動を行うことができる電解質、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiB(C654、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiN(SO3CF32、NaClO4、NaPF6、NaBF4、NaCF3SO3、NaAsF6、NaB(C654、NaCl、NaBr、CH3SO3Na、CF3SO3Na、NaN(SO2CF32、NaN(SO2252、NaC(SO2CF33、NaN(SO3CF32等を使用することができる。製造コストを抑える観点から、電池を製造する際の電解質と同一のものを使用することが好ましく、特に、電池の電解質として広く使用されている六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を使用することが好ましい。
【0033】
本発明に係る非水電解質二次電池は、セパレータ、電池ケース他、構造材料等の要素についても従来公知の各種材料を使用することができ、特に制限はない。本発明に係る非水電解質二次電池は、上記の電池要素を用いて公知の方法に従って組み立てればよい。この
場合、電池形状についても特に制限されることはなく、例えば円筒状、角型、コイン型等種々の形状、サイズを適宜採用することができる。
【0034】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
(実施例1)
Li2FePO4Fの製造
まず、出発原料として、フッ素源のフッ化ナトリウム(NaF、ナカライテスク製 99.1%)と別途固相合成したLiFePO4を用い、乳鉢で10分間混合粉砕し、得られた粉末を単ロール溶融急冷装置でアルゴン雰囲気下、1300℃で加熱溶融後急冷することにより非晶質体を得た。500℃で3時間、アルゴン雰囲気下でアニール処理することによって、前駆体固体であるLiNaFePO4F結晶試料を得た。
【0035】
リチウム源として1mol/dm3 LiPF6/EC:DMC(体積比1:1)(富山薬品工業株式会社製)を使用し、アルゴン雰囲気下のグローブボックス(株式会社高杉製作所製)中にて、LiNaFePO4F:(LiPF6/EC:DMC)=1:40のモル比で秤量し、80oCで5日間撹拌してLi2FePO4Fを合成した。加熱および攪拌にはホットスターラー(アズワン製、DP-1M)を用いた。遠心分離機を用いて10分間の遠心分離を3回行った。得られた沈殿物を一晩80℃で乾燥して合成物を得た。
【0036】
(コインセルの作製)
LiFeF3結晶試料とアセチレンブラック(AB;Acetylene Black)をそれぞれ70:25の重量比でコンポジット化し、このLiFeF3/C複合体と結着剤(PTFE)をそれぞれ95:5の重量比で混合しペレットに成型して正極とした。これらをアルゴン雰囲気下のドライボックス中で、負極にリチウム金属、電解液に1mol/dm3 LiPF6 EC+DMC(体積比1:1)を用いコインセルを作製した。
【0037】
(XRD測定)
出発物質であるLiNaFePO4Fと得られた試料のXRDパターン結果を図2(a)に示す。イオン交換前後の粉末5mgを塩酸に溶かして水で希釈し、試料溶液とした。AB/LiFeF3複合体を洗浄後、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でXRD測定を行った。XRD測定は、XRD回折装置(リガク製、RINT-TTRIII)を用い、走査範囲を20°-50°、スキャンスピードを0.06°/分、X線50kV/300mA、走査モード2θ/θ、サンプリング幅0.01°の条件で行った。
【0038】
XRD測定結果から、斜方晶構造(空間群Pnma)を有するLi2NiPO4FのXRDパターンと良い一致を示した。さらに、得られた試料に対して、偏光ゼーマン原子吸光光度計[Z-5310、日立ハイテクノロジーズ(株)製]を用いて、Li、Na、およびFeについて原子吸光測定を行った結果を図2(b)に示す。同図(b)から、イオン交換によりすべてのナトリウム元素がリチウム元素にイオン交換されたことがわかった。以上の結果から、1mol/dm3 LiPF6/EC:DMC(体積比1:1)を用いたイオン交換法により斜方晶構造のLi2FePO4Fが合成されたことが分かった。
【0039】
(充放電試験)
作製したコインセルで、負極にナトリウム金属、電解液に1mol/dm3過塩素酸ナトリウム/エチレンカーボネート+ジメチルカーボネート[LiPF6/EC+DMC (体積比1:1)]を用いて充放電試験をCCVモードで行った。電流密度は0.068mA/cm2、電圧範囲は2.0-4.5Vで行った。1サイクル及び2サイクル目の充放電曲線を図2(c)に示す。得られた充放電曲線から、初期放電容量は160mAh/gであり、1電子以上の反応で過電圧も小さいことが示された。
【0040】
(実施例2)
LiFeF3の製造
液相法(溶媒比OA/OAm=10/10)で合成したNaFeF30.33 mmol(45.3mg)と、1M LiPF6/EC+DMC(体積比1:1) 40 mmol(40mL)をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内(美和製作所製)で密閉し、300 rpm、80℃で15日間撹拌した。加熱および攪拌にはホットスターラー(アズワン製、DP-1M)を用いた。遠心分離機を用いて10 分間の遠心分離を3 回行った。得られた沈殿物を一晩80℃で乾燥して合成物を得た。得られた沈殿物を一晩80℃で乾燥して合成物を得た。
【0041】
(XRD測定)
上述の実施例1と同じ方法でコインセルを作製し、XRD測定を行った。XRD測定の結果を図3(a)に示す。回折ピークから、電解液に浸漬していた電極が高角度側にシフトしていることから、NaFeF3 粉末を電解液に浸しておくのみのイオン交換によって構造が変化したことが分かった。イオン交換して得られた粉末の原子吸光結果を同図(b)に示す。また交換処理時間とイオン交換反応の関係図を同図(c)に示す。5日間の撹拌で、約79 %のNaとLiのイオン交換が確認された。10日間の撹拌で約95 %のイオン交換が確認された。15 日間の撹拌では約96 %のイオン交換が確認された。以上の結果から、1 mol/dm3 LiPF6/EC:DMC(体積比1:1)を用いたイオン交換法によりLiFeF3が合成されたことが分かった。
【0042】
(充放電試験)
作製したコインセルで、負極にナトリウム金属、電解液に1 mol/dm3 過塩素酸ナトリウム/エチレンカーボネート+ジメチルカーボネート[ LiPF6 /EC+DMC(体積比1:1)]を用いて、25 ℃の恒温槽内で充放電試験をCCVモードで行った。測定条件は、充放電電流値を定電流1/10 C (22.4 mA/g)、1 C (224 mA/g)レート、電圧範囲を2.0-4.5 V、休止時間を1時間で行った。測定結果を図4に示す。この結果から、本発明に従い製造されたAB/LiFeF3 複合体は、初回放電容量が196mAh/gを示し、初回充電容量も放電とほぼ同じ199 mAh/gを示したことから、充放電特性に優れた正極材料がイオン交換により得られたことが示された。また、すべての測定条件でイオン交換前より放電容量が向上した。これは正極活物質内に含まれているナトリウム元素がイオン交換により減少したことで、ナトリウム元素によるイオン挿入脱離反応の妨害等が抑制されたためだと推察される。
【0043】
(実施例3)
LiMnF3の製造
上記実施例2のNaFeF3をNaMnF3に置き換えて、実施例2と同じ手順によって、メカノケミカル法で合成したNaMnF3 からLiMnF3を合成した。上述の実施例1と同じ方法で、コインセルを作製した。得られた試料に対して、偏光ゼーマン原子吸光光度計(Z-5310、日立ハイテクノロジーズ(株)製)を用いて、Li、Na、およびFeについて原子吸光測定を行い、イオン交換により約75%のナトリウム元素とリチウム元素がイオン交換できたことがわかった。以上の結果から、1 mol/dm3 LiPF6/EC:DMC(体積比1:1)を用いたイオン交換法によりLiMnF3が合成されたことが分かった。
【符号の説明】
【0044】
10a ペレット電極
10b 塗布電極
11a スペーサー
11b スペーサー
12 コインセル容器(下蓋)
13 チタンメッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムおよびフッ素を構成元素として含み非水電解質二次電池の正極となる活物質を製造する方法であって、ナトリウムおよびフッ素を構成元素として含み前記正極活物質の前駆体となる固体を、リチウム元素を含有する電解質を含む有機溶媒中に浸漬して前記正極活物質を得る工程を含み、前記リチウム元素を含有する電解質および前記有機溶媒が非水電解質リチウムイオン二次電池の電解液として用いられているものであることを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項2】
電解質がフッ素元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
電解質がLiPF6であり、有機溶媒がエチレンカーボナイト及びジメチルカーボナイトから成ることを特徴とする請求項2に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前駆体固体がNa2FePO4FまたはLiNaFePO4Fであり、得られる正極活物質がLi2NaFePO4Fであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前駆体固体がNaFeF3であり、得られる正極活物質がLiFeF3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前駆体固体がNaMnF3であり、得られる正極活物質がLiMnF3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの方法により製造された非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項7の正極活物質を用いる非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204307(P2012−204307A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70785(P2011−70785)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】