説明

正極活物質およびそれを用いた二次電池

【課題】高電位化が可能な酸化物系の正極活物質およびそれを用いた二次電池を提供する。
【解決手段】式:LiNi0.51.5(Mは4価のときに6配位を取り得る、Mnを除く元素である。)で示される酸化物からなる正極活物質、および前記酸化物を正極活物質として用いた二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の酸化物からなる正極活物質およびそれを用いた二次電池に関し、さらに詳しくは高電位材料であり得る酸化物系正極活物質およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高電圧および高エネルギー密度を有する電池としてリチウムイオン二次電池が実用化されている。リチウムイオン二次電池の用途が広い分野に拡大していることおよび高性能の要求から、電池の更なる性能向上のために種々の研究が行われている。
例えば、炭素材料やアルミニウム合金等が実用電池の負極材料として実用化されているが、高容量化および/又は高電位化に対しては十分ではない。
一方、正極材料についても高容量化および/又は高電位化の要求がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、一般式:Li(MMn2−x−y)O(式中、0.4<x、0<y、x+y<2、0<a<1.2である。Mは、Ni、Co、Fe、CrおよびCuよりなる群から選ばれ、少なくともNiを含む1種以上の金属元素を含む。Aは、Si、Tiから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む。但し、AがTiだけを含む場合には、Aの比率yの値は、0.1<yである。)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物を含む3種又は4種の金属系二次電池用正極活物質、及び前記正極活物質を用いた二次電池が記載されている。そして、具体例として固相法によりスピネル型リチウムマンガン複合酸化物を得た例が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、スピネル構造を有し、一般式:LiM0.5Ti1.5(MはFe、Co、Ni、MnおよびZnのうちいずれか1以上の元素)で表され、リチウムイオンを吸蔵・放出するリチウムチタン複合酸化物を含む、リチウム二次電池用負極活物質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−197194号公報
【特許文献2】特開2011− 86464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記の従来技術によれば、二次電池の高電位化が不十分である。
従って、本発明の目的は、二次電池の高電位化が可能な酸化物系の正極活物質を提供することである。
また、本発明の目的は、高電位化が可能な酸化物系の正極活物質を用いた二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、従来高い電位の二次電池を与える正極活物質と考えられてきたMnを含む酸化物は理論的には価数が4価で安定であるはずであるが、二次電池に用いると十分な高電位を与え得ない正極材料であることを見出しさらに検討を行った結果、本発明を完成した。
本発明は、式:LiNi0.51.5(Mは4価のときに6配位を取り得る、Mnを除く元素である。)で示される酸化物からなる正極活物質に関する。
また、本発明は、式:LiNi0.51.5(Mは4価のときに6配位を取り得る、Mnを除く元素である。)で示される酸化物を正極活物質として用いた二次電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次電池の高電位化が可能な酸化物系の正極活物質を得ることができる。
また、本発明によれば、高電位化が可能な酸化物系の正極活物質を用いた二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施態様における正極活物質の結晶構造を示す模式図である。
【図2】図2は、従来公知の正極活物質の結晶構造の計算モデルである。
【図3】図3は、本発明の実施態様における正極活物質の結晶構造の計算モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前記Mが、周期律表の4、5、6、7、8、9、10、14又は16族の元素(但し、Mn、Ni、C、O、Sを除く。)である前記正極活物質。
2)前記Mが、Ti、Zr、Hf、Ge、SnおよびPbからなる群から選択される前記正極活物質。
3)前記Mが、Tiである前記正極活物質。
4)前記酸化物が、スピネル型構造を有する前記正極活物質。
【0011】
本発明においては、式:LiNi0.51.5[Mは4価のときに6配位(八面体)を取り得る、Mnを除く元素である。]で示される酸化物からなる正極活物質であることが必要であり、これによって高電位化が可能な二次電池を与える酸化物系の正極活物質を得ることができる。
また、本発明においては前記酸化物を正極活物質として用いた二次電池であることが必要であり、これによって高電位化が可能な酸化物系の正極活物質を用いた二次電池を得ることができる。
【0012】
本発明の実施態様の式:LiNi0.5Ti1.5で示される酸化物を正極活物質として用いた二次電池によれば、式:LiNi0.5Mn1.5で示される酸化物を正極活物質に用いた二次電池に比べて高い電位が達成され得る。これは、LiNi0.5Mn1.5で示される酸化物は、理論的には充放電に伴うMnの価数変化はなく4価の状態を維持し溶出はあり得ないと考えられていたものの、実際に正極活物質として二次電池に適用すると3価もしくは2価の状態で電解液に溶出し、特に正極活物質が電解質と接する表面付近では酸素欠損が多く存在するためMnが溶出していると考えられるのに対して、本発明の実施態様の酸化物を正極活物質に用いた二次電池によれば金属元素の溶出が防止されることによると考えられる。
【0013】
以下、図面を参照して本発明を詳述する。
本発明の実施態様の式:LiNi0.5Ti1.5で示される酸化物からなる正極活物質は、図1に示すように、結晶構造がスピネル型であると考えられる。
前記式:LiNi0.5Ti1.5で示される酸化物からなる正極活物質について、後述の実施例の欄に詳述する方法によって理論計算を行うと、図2に示すように、従来公知のLiNi0.5Mn1.5と同様にフェルミ準位(固体内電子のエネルギー分布が急激に変化するエネルギー準位をいう。)付近はNiとOとの軌道から構成され、Tiの寄与が小さいことが分る。
【0014】
一方、従来公知のLiNi0.5Mn1.5で示される酸化物からなる正極活物質は、高電位材料として報告されていて、この材料の高電位を示す根拠を後述の実施例の欄に詳述する計算手法により理論計算を行ったところ、再安定な結晶構造が空間群P432に分類されることが分る。
さらに、特徴的な結晶構造として、図3に示すように、フェルミ準位付近がNiとOとの軌道のみから構成されており、Mnの寄与が少ないことが分る。
このことから、Mnサイトは電子状態を計算してNi軌道と混成軌道を形成していないものに置き換えられると考えられる。
【0015】
本発明の正極活物質は、式:LiNi0.51.5[Mは4価のときに6配位を取り得る、Mnを除く元素、例えば周期律表の4、5、6、7、8、9、10、14又は16族の元素(但し、Mn、Ni、C、O、Sを除く。)で示される酸化物からなり、好適にはTi、Zr、Hf(以上4族)、Ge、SnおよびPb(以上14族)からなる群から選択される。]である。
前記のTi、Zr、Hf(以上4族)、Ge、SnおよびPb(以上14族)は、4価の状態を維持することが期待されるため構造の安定が高いと考えられ、前記の5〜10族および16族の元素に比べて特に好適である。この構造の安定性は充放電のみに限られず合成した時点の酸素欠損なども影響し得ると考えられる。
このように、本発明における正極活物質はMnを含んでいないため、構成する金属元素の溶出が防止でき高電位化が可能になると考えられる。
【0016】
本発明の実施態様のLiNi0.5Ti1.5で示される酸化物からなるリチウムイオン二次電池の正極活物質は、従来公知のLiNi0.5Mn1.5で示される酸化物からなる正極活物質についての電位(後述の実施例の欄に詳述する計算手法により、Liを抜いた状態と抜いていない状態のエネルギー差から電池反応電位を計算して求められる)がLi/Li+電位に対して4.70Vで、実験の報告では4.7〜4.8Vであるのに対して、Li/Li+電位に対して4.9Vであり、LiNi0.5Mn1.5よりも0.1〜0.2V大きいことが分かる。つまり、本発明の実施態様のLiNi0.5Ti1.5で示される酸化物からなる正極活物質は、Li/Li+電位に対して4.9Vであり、スピネル型の結晶構造を有しリチウムイオン二次電池の正極活物質として安定して高電位材料であり得ることが理解される。
【0017】
本発明における前記酸化物からなる正極活物質は、例えば
溶媒に、Liを含む化合物、Niを含む化合物およびM(Mは前記と同じである。)を含む化合物を、各化合物の前記元素の比率が原子比でLi:Ni:M=1:0.5:1.5となる割合で溶解、混合して混合液を得る工程、および
得られた混合液を乾燥し、空気中、不純物が生成し得る温度未満の温度で焼成して式:LiNi0.51.5で示される酸化物である正極活物質を生成させる工程
を含む製造方法によって得ることができる。
【0018】
前記Liを含む化合物としては、炭酸リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、過酸化リチウム酢酸リチウム、クエン酸リチウム、クエン酸リチウムなどが挙げられる。
また、Niを含む化合物としては、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、シュウ酸ニッケルなどが挙げられる。
【0019】
また、前記のM(Mは前記と同じである。)を含む化合物としては、4族元素のTi、Zr、Hf、5族元素のV、Nb、Ta、6族元素のCr、Mo、W、7族元素のMn、Tc、Re、8族元素のFe、Ru、Os、9族元素のCo、Rh、Ir、10族元素のPd、Pt、14族元素のSi、Ge、Sn、Pb、16族元素のSe、Te、Poなどの元素を含む化合物、例えば前記いずれかの元素のハロゲン化物、アルキル化合物、オキシ炭酸塩あるいはアルコキシドなどが挙げられる。
【0020】
前記Mを含む化合物として、好適にはTi、Zr、Hf、Ge、SnおよびPbからなる群から選択される元素の化合物、例えばチタンイソプロポキシドチタンプロオポキシド、チタンエトキシドなどのチタン化合物、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、ジルコニウムアルコキシドなどのジルコニウム化合物、ジカルボン酸スズ、ギ酸スズ、酢酸スズ、シュウ酸スズ、テトラメチルスズ、テトラエチルスズ、四塩化スズ、二塩化スズ、2メチルスズジクロライド、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジアセテートなどのスズ化合物、ハフニウム ジ−n−ブトキシド ビス(2,4−ペンタンジオネート、ハフニウム−2,4−ペンタンジオネート、ハフニウムエトキシド、ハフニウム−n−ブトキシド、ハフニウム−tert−ブトキシド[Hf(CO)]、ハフニウム(VI)イソプロポキシドモノイソプロピレートなどのハフニウム化合物、テトラメチルゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、テトラメチル鉛などの鉛化合物が好適に挙げられる。
【0021】
前記の製造方法において、溶媒に、原子比でLi:Ni:M=1:0.5:1.5となる割合でLiを含む化合物、Niを含む化合物および前記Mを含む化合物を溶解し、混合して混合液を得る。前記の混合は任意の方法、例えば攪拌により行われ得る。
前記の溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオールなどのグリコール化合物の中から選ばれるグリコール化合物が挙げられる。
また、前記の溶媒の一部として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノールなどのアルコールが加えられても良い。
また、前記の工程において、配位安定化のために好適にはキレート化剤、例えば有機酸、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、好適にはクエン酸を加え得る。
【0022】
前記の製造方法においては、前記工程で得られた混合液を加熱等により乾燥し、空気中、不純物が生成し得る温度未満の温度で焼成して式:LiNi0.51.5(Mは前記と同じ)で示される酸化物からなる正極活物質を生成させる。
前記の乾燥は、通常300℃未満の温度、例えば100〜300℃未満の温度、好適には100〜200℃の範囲の温度、例えば160℃で1〜10時間程度で行われ得る。
前記の乾燥によって、正極活物質前駆体[Li−M−Ni−O(Mは前記と同じ)、例えば、Li−Ti−Ni−Oと表示される。]が濃縮物として得られる。
【0023】
前記の焼成は、空気中、一般には該前駆体の分解温度以上で不純物が生成し得る温度未満の加熱温度、好適には300℃以上で800℃未満の範囲内の温度、特に420℃以上で800℃未満の範囲内の温度で行われ得る。また、前記の焼成は、1時間以上24時間以内、好適には1時間以上5時間以内行われ得る。
前記の焼成温度が800℃以上では目的物以外の不純物が生成する傾向にあり、420℃未満では長時間の焼成が必要となる。
【0024】
前記の方法によって、式:LiNi0.51.5(Mは前記と同じである。)で示されるXRD測定して不純物に基くピークが観察されない酸化物からなる二次電池の正極活物質を得ることができる。
【0025】
前記二次電池の正極活物質は、不純物混在量が少なくて安定した高電位材料であり得る酸化物系正極活物質であり、他の電池材料と組み合わせることによって金剛液中でリチウムイオン二次電池を与え得る。
前記リチウムイオン二次電池は、通常、主要な構成材としての前記正極活物質を含む正極、電解質(場合によりセパレータに含まれる)および負極から構成される。
【0026】
前記正極は、正極集電体とその少なくとも一面に設けられた本発明に係る酸化物系正極活物質を含む正極活物質層とを有し得る。
前記正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケル又はステンレスなどの金属材料によって構成され得る。
【0027】
前記正極活物質層には、正極活物質として本発明に係る正極活物質単独又は本発明に係る正極活物質とともに該活物質とは異なる物質であって、LiO、LiおよびLiNiOから成る群から選択される少なくとも1種又は2種以上のLiドープ剤が含まれ得る。
また、正極活物質層には、通常、バインダー、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェンスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの高分子材料や、導電剤、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等を単独で又は2種以上を組み合わせた炭素材料が含まれ得る。
【0028】
また、前記セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン製の多孔質膜、セラミック製の多孔質膜が挙げられる。例えば、多層構造、例えばPE/PP/PEの3層構造のポリオレフィン製の多孔質膜が好適に使用される場合がある。
【0029】
前記電解質としては電解液、ゲル状の電解質又は固体電解質が挙げられる。
電解液は溶剤と電解質塩とを含んでいて、溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが好適に挙げられる。その中でも、エチレンカーボネートあるいはプロピレンカーボネートなどの高粘度溶剤とジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの低粘度溶剤の少なくとも1種又は2種以上とを混合した混合溶剤が好適である。この溶剤にはビニレンカーボネートやビニルエチレンカーボネートなどの不飽和結合を有する環状カーボネートや、ビス(フルオロメチル)カーボネートなどのハロゲンを有する環状カーボネートを含有させてもよい。
【0030】
前記電解液には、一般的に電解質塩が支持塩として含有されている。この電解質塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C25 SO22 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO22 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO23 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)など、好適には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )が挙げられる。
【0031】
前記ゲル状の電解質は、例えば正極および負極を作製し、これらに溶剤と電解質塩とを含む電解液を塗布した後に溶剤を揮発させて形成し得る。
また、前記固体電解質としては、例えばリチウム二次電池の固体電解質材料として用いられ得る材料の粉末であれば限定されず、例えばLiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B、LiO−B−ZnOなどの固体酸化物系非晶質電解質粉末、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、liI−liS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiPS、LiS−Pなどの固体硫化物系非晶質電解質粉末が挙げられる。
【0032】
また、前記固体電解質として、LiI、LiI−Al、LiN、LiN−LiI−LiOH、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、Li1+x+yTi2−xSi3−y12(A=Al又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)、[(B1/2Li1/21−z]TiO(B=La、Pr、Nd、Sm、C=Sr又はBa、0≦x≦0.5)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(w<1)、Li3.6Si0.60.4などの結晶質酸化物粉末や酸窒化物粉末など、好適には固体硫化物電解質粉末が挙げられる。
【0033】
前記の酸化物からなる正極活物質を用いて正極を得る方法としてはそれ自体公知の方法、例えば蒸着又はスパッタもしくはCVDにより正極集電体、例えば金属箔上に前記酸化物からなる正極活物質層を形成する方法が挙げられる。
または、前記正極活物質を用いて正極を得る方法として、前記正極活物質を含むペーストを正極集電体上に塗布した後、乾燥させて正極集電体上に正極活物質層を形成する塗布法が挙げられる。前記正極活物質を含むペースト又はこのペーストにさらに溶剤を加えて正極集電体上に塗布した後、乾燥し、プレスすることによって得ることができる。
【0034】
前記負極は、負極集電体とその少なくとも一面に設けられた負極活物質を含む負極活物質層とを有し得る。
前記負極集電体としては、銅、または銅を主成分とする合金が挙げられる。負極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。車両搭載用高出力電源として用いられるリチウムイオン二次電池の負極の集電体としては、厚さが5〜100μm程度の銅箔が好適に用いられる。
【0035】
また、前記負極活物質層には、電荷担体となるリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質が含まれ得る。
前記負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上が挙げられる。例えば、カーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に挙げられる。中でも特に、黒鉛粒子を好適に挙げられる。黒鉛粒子(例えばグラファイト)は、電荷担体としてのリチウムイオンを好適に吸蔵することができるため導電性に優れる。また、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからよりハイレートのパルス充放電に適した負極活物質となり得る。
【0036】
また、前記負極活物質層は、典型的には、その構成成分として、上記負極活物質の他に、バインダー、溶剤等の任意成分を必要に応じて含有し得る。前記バインダーとしては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用されるバインダーと同様のものであり得て、前記の正極の構成要素におけるバインダーとして機能し得る各種のポリマー材料を好適に挙げられる。
前記導電剤としては、炭素材料、リチウムと合金化し難い金属、導電性高分子材料等が挙げられ、炭素材料が好適である。前記炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
また、前記の溶剤としては、アルコール、グリコール、セロソルブ、アミノアルコール、アミン、ケトン、カルボン酸アミド、リン酸アミド、スルホキシド、カルボン酸エステル、リン酸エステル、エーテル、ニトリル等が挙げられる。具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール、1−ブタノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−アミノエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリルが挙げられる。
【0038】
前記の負極を得る方法として、前記負極活物質を含むペースト又はこのペーストにさらに溶剤を加えて負極集電体上に塗布した後、乾燥し、プレスして、集電体上に負極材料層を形成する塗布法が挙げられる。
【0039】
前記の方法によって、本発明における前記酸化物からなる正極活物質を用いて得られた正極、他の構成材、例えば負極、セパレータおよび電解質を用いてリチウムイオン二次電池が得られる。
前記リチウムイオン二次電池としては任意の形状を有するものが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において、酸化物からなる正極活物質のXRDは以下の装置を用いて測定を行った。なお、以下の測定は例示であって、当業者が同等と考える測定法も同様に用い得る。
XRD測定装置:Rigaku RINT2000
【0041】
実施例1
反応容器中、原料であるTiOCH(CHをエチレングリコールおよびクエン酸に溶解させ、さらに他の原料であるCHCOOLiおよびCHCOONiを、金属元素の比率が原子比でLi:Ni:Ti=1:0.5:1.5となる割合で加え、混合攪拌した後、160℃で濃縮して前駆体濃縮物を得た。
前駆体濃縮物の加熱処理を、空気中、425℃、10時間で行って酸化物系正極活物質を得た(形状:一次粒子径が約10nm)。
【0042】
得られた正極活物質についてXRD測定を行った。
その結果、空気中、425℃で加熱処理することにより不純物のない(XRD測定結果を示すグラフにおいて、11個のLiNi0.5Ti1.5に基くピーク以外の不純物に基くピークが確認されない)スピネル構造型のLiNi0.5Ti1.5を得ることができた。
得られた正極活物質の結晶性は加熱温度が425℃では、加熱時間が3時間のものよりも10時間のものの方が高い。
また、前駆体濃縮物の加熱を、空気中、425℃で10時間、次いで800℃で3時間行うと、目的物であるLiNi0.5Ti1.5に基くピーク以外のピーク(例えば、2θ=23.04°、2θ=33.07°、2θ=49.43°)が確認され、不純物が生成したことがわかる。
【0043】
比較例1
下記の計算手法を用いて、高電位材料LiNi0.5Mn1.5の検証を行った。
参考文献:L. Wang, T. Maxisch and G. Ceder, Phys. Rev. B 73(2006) 197107
密度汎関数理論(DFT)に基く平面波基底第一原理計算 VSP code
Projector Augmented Wave methods(PAW法)
交換相関ポテンシャル GGA
スピン有り
平面波の打ち切りエネルギー 500eV
k点サンプリング 3x3x3(conventional cell)
GGA+Uによる電子相関効果の考慮
(Ni 3d U=6eV)
【0044】
公知の固相法による正極活物質であるLiNi0.5Mn1.5は、高電位材料として報告されている。この材料が高電位を示す根拠について計算を用いて検証した。計算モデルを図3に示す。
その結果、再安定な結晶構造は、空間群P432に分類されることが分った。また、このことを支持する報告もされている。
さらに、この材料の電位は、Liを抜いた状態と抜いていない状態とのエネルギー差から電池反応電位を計算して、Li/Li電位に対して4.70Vであった。実験では4.7〜4.8Vが報告されていることから、本計算手法を用いた電位算出の精度が高いことが分かる。
充電前と放電前の電子状態の変化を評価したところ、Ni原子上では大きく変化していたが、Mn原子上では変化がなかった。このことから、Liの挿入脱離反応にはNiのみがかかわっていることがわかった。
さらに、特徴的な構造として、フェルミ準位付近がNiとOの軌道のみから構成されており、Mnの寄与が少ないことがわかった。
以上から、Mnサイトは電子状態を計算してNi軌道と混成軌道を形成していないものに置き換えられることが考えられる。
【0045】
実施例2
LiNi0.5Mn1.5のMnサイトをTiに置き換えて計算を行った。計算モデルを図2に示す。
その結果、LiNi0.5Mn1.5と同様にフェルミ準位付近がNiとOの軌道のみから構成され、Tiの寄与が小さいことがわかった。
さらに、この材料の電位は、電池反応を計算してLi/Li電位に対して4.9Vで、LiNi0.5Mn1.5よりも0.1〜0.2V大きいことがわかった。
【0046】
実施例3
硝酸リチウムと塩基性炭酸ニッケル、酸化チタンを乳鉢で混合[Li:Ni:Ti=1:0.5:1.5(原子比)]した後、酸素雰囲気中、750℃で16時間、焼成を行った。
得られた材料のXRD評価を行ったところ、スピネル構造LiNi0.5Ti1.5が確認できたが、多くの不純物が存在していた。
次に、充放電反応を確認したところ、OCV(Open Circuit Voltage)測定で4.9Vの電位を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、高電位化が可能な酸化物系の正極活物質およびそれを用いた二次電池を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:LiNi0.51.5(Mは4価のときに6配位を取り得る、Mnを除く元素である。)で示される酸化物からなる正極活物質。
【請求項2】
前記Mが、周期律表の4、5、6、7、8、9、10、14又は16族の元素(但し、Mn、Ni、C、O、Sを除く。)である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記Mが、Ti、Zr、Hf、Ge、SnおよびPbからなる群から選択される請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記Mが、Tiである請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記酸化物が、スピネル型構造を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
式:LiNi0.51.5(Mは4価のときに6配位を取り得る、Mnを除く元素である。)で示される酸化物を正極活物質として用いた二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−93170(P2013−93170A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233898(P2011−233898)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000173522)一般財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】